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特許7190087FRP補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】FRP補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20221208BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20221208BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/16
B29C70/46
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022511170
(86)(22)【出願日】2021-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2021014684
(87)【国際公開番号】W WO2021201298
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020073119
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517362381
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・オー・エヌ・七二
(72)【発明者】
【氏名】青山 正義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勝
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-179408(JP,U)
【文献】実開昭60-131710(JP,U)
【文献】特開2012-035442(JP,A)
【文献】特開2009-292054(JP,A)
【文献】特開2013-208861(JP,A)
【文献】特開2002-361666(JP,A)
【文献】特開2020-157769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 - 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項8】
ガラスファイバー、カーボンファイバーまたはアラミド繊維からなる繊維層複数枚と樹脂とを金型に投入する工程と、前記複数枚の繊維層及び樹脂を300℃以下かつ60分以内でプレス加工する工程と、前記プレス加工する工程の後、負荷圧力を除去して冷却したうえで脱型する工程と、を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のFRP補強用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチック(FRP)補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは、金属材料に比べて軽量かつ強度が高い材料即ち比強度の高い材料である。ガラス繊維強化材料や炭素繊維材料、用途によってはアラミド繊維も使われる。FRPの製法として細かく切断したガラス繊維を均一にまぶす方法やガラス繊維や炭素繊維に樹脂を浸透させる方法等がある。繊維強化プラスチックのマトリックスには、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂が使われることが多い。
【0003】
FRPの製造方法としては、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、SMC(Sheet Molding Compound)プレス法、インジェクションを利用した樹脂高圧注入技術によるRTM(Resin Transfer Molding)法、オートクレーブ法等があり、高品質製品が製作できる段階にある。
【0004】
最近では、社会インフラ設備の変遷があり、風力発電など採用する発電方式の変化による設備大型化や電車、自動車、飛行機の輸送設備の燃費向上のための大型薄肉軽量化等のニーズが高まっている。大型化に対処可能なFRPは厚さを高め高強度化することが考えられるがより軽量化も望まれている。そこで、可能な限りFRP厚さの増大を抑えつつFRP本体並びに接続部の強度向上を図ることが望まれる。
【0005】
FRPを構成するファイバーの強度は高いが、樹脂は強度が低く割れが発生し易い。特に、ボルト締め穴周辺、あるいはその他の目的であけられた穴周辺に過大な応力が加わる虞がある。また穴がない場合でも曲げ半径が小さい場合等、構造上応力の集中が避けられないケースもあり、最悪の場合割れが発生する虞がある。
【0006】
1974年以降に日本で公開された特許文献を調べると、ボルト穴周辺の強度向上のためにFRP構造体本体の繊維構造を変えることにより強化する技術(特許文献1、特許文献2)は存在する。また、FRPに関する記載はないが、樹脂製部品のボルト穴に樹脂の補強シートを張り付ける技術(特許文献3)も存在する。しかしながら、ボルト穴あるいは割れの可能性がある部分にFRPと同程度の数mm以上の厚さの発明部材を貼り付けて割れの進行を抑制する技術は見られない。
【0007】
また、非特許文献1にはFRP同士の貼り付け接続法やFRPと金属のボルト接続技術が紹介されている。ボルト周辺の応力解析は一部行われており、非特許文献2には、ボルト穴周りで圧縮応力が大きくなることも報告されている。
このような状況において、応力低減の技術や割れの進行を抑制する技術が必要である。
[先行技術文献]
【0008】
[特許文献]
[特許文献1]
特開2002-307585号公報
[特許文献2]
特開2003-225914号公報
[特許文献3]
特開2017-19311号公報
[非特許文献]
【0009】
[非特許文献1]
FRP成形技能テキスト(新版)財団法人強化プラスチック協会 平成9年(1997)年10月31日発行
[非特許文献2]
FRP部材の接合および鋼とFRPの接着接合に関する先端技術 平成25年(2013)年11月12日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
FRP成形体の軽量・薄肉化の要望が高まる中、ボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等における割れ発生と割れの進展を抑制する技術が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、FRP成形体のボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分における割れ発生と割れの進展を抑制することができるFRP補強用部材及びその製造方法並びにFRP接続構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のFRP成形体に貼り付けて使用するFRP補強用部材は、積層された複数枚の繊維層が樹脂により一体化されており、前記複数枚の繊維層は、繊維の軌跡が内側から外側に向かって広がる渦を描くように前記繊維を渦巻状に成形した渦巻状繊維層及び繊維を格子状に編んだ布状繊維層を有するFRP補強用部材である(請求項1)。
なお、前記布状繊維層の少なくとも2層が前記渦巻状繊維層を挟むように積層されていることが好ましい(請求項2)。
また、前記布状繊維層は、その積層方向から見た時に、所定の上側の布状繊維層の繊維が延びる方向と所定の下側の布状繊維層の繊維が延びる方向とが45度の角度をもって交差するように積層されていることが好ましい(請求項
また、前記繊維層を構成する繊維が、ガラスファイバー、カーボンファイバーまたはアラミド繊維からなることが好ましい(請求項
【0013】
本発明のFRP成形体同士又はFRP成形体とFRPとは異なる素材からなる部材とがボルト又はリベットにより接続されたFRP接続構造体において、前記FRP成形体のボルト穴又はリベット穴の周辺を覆うように請求項1乃至請求項のいずれかに記載のFRP補強用部材が前記FRP成形体に貼り付けられているFRP接続構造体である(請求項)。
なお、前記FRPとは異なる素材からなる部材が、鉄系材料、フェライト系ステンレス材料、オーステナイト系ステンレス材料、アルミニウム合金系材料、マグネシウム合金系材料のいずれかの金属材料からなる部材であることが好ましい(請求項)。
本発明のFRP成形体は、表面に凹部又は穴が形成されたFRP成形体であって、前記凹部又は穴の開口部を覆うように請求項1乃至請求項のいずれかに記載のFRP補強用部材が装着されているFRP成形体である(請求項)。
【0014】
本発明のFRP補強用部材の製造方法は、ガラスファイバー、カーボンファイバーまたはアラミド繊維からなる繊維層複数枚と樹脂とを金型に投入する工程と、前記複数枚の繊維層及び樹脂を300℃以下かつ60分以内でプレス加工する工程と、前記プレス加工する工程の後、負荷圧力を除去して冷却したうえで脱型する工程と、を有する請求項1乃至4のいずれかに記載のFRP補強用部材の製造方法である(請求項)。
【発明の効果】
【0015】
本発明のFRP補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体によれば、ボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分における割れ発生と割れの進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1はボルト用穴のあるFRP成形体の割れモデル図である。
図2は本発明のFRP補強用部材(以下ワッペンという)の構成要素例及び複合化したワッペン構成例である。
図3はワッペン12を用いてFRP成形体を金属製構造材19にボルト締めにより接続したデザイン例である。
図4はワッペン12を用いてFRP成形体を金属製構造材19にボルト締めにより接続し、ボルトの上部がFRP成形体表面の凹部内に収まっているデザイン例である。
図5は2枚のワッペン12を用いて2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続したデザイン例である。
図6は扁平なFRP成形体と窪みのあるFRP成形体とをワッペン4、5及び12を用いてボルト締めにより接続したデザイン例である。
図7は扁平なFRP成形体と窪みのあるFRP成形体とをワッペン5及び12を用いてボルト締めにより接続したデザイン例であり、(a)は窪みを樹脂で埋めた構成例、(b)は窪みの開口部をワッペン11で覆った構成例である。FRP成形体の表面は平滑に設計されている。
図8は凸形状のFRP成形体の開口部にワッペン12を貼り付けたデザイン例である。
図9はFRP成形体に形成された部分的な凹みにワッペン13を貼り付けたデザイン例である。
図10はFRP成形体の表面に発生した部分的な割れの上にワッペン11(穴なし)を張り付けたデザイン例である。
図11はワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤状のワッペンを2層に重ねた形状の一体型異形状ワッペン120を用いて2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続したデザイン例である。
図12は上記一体型異形状ワッペン120を用いて2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続し、ボルトの上部がFRP成形体表面の凹部内に収まっているデザイン例である。
図13は上記一体型異形状ワッペン120をボルト側及びナット側の双方に配置して2枚のFRP成形体をボルト締めにより接続したデザイン例である。
図14は金属製構造材19に接続するボルト締め構造のデザイン例であり、ワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤状のワッペンを3層に重ねた形状の一体型異形状ワッペン130を用いている。
図15はワッペンの製造工程を説明する説明図であり、(a)はプレス成形工程、(b)はワッペン取り出し工程を示す。
図16は本発明の実施例のワッペンW1-W3の内部構成と外観である。
図17は本発明の実施例のワッペンW4-W5の内部構成と外観である。
図18は本発明の実施例のワッペンW6-W7の内部構成と外観である。
図19は穴付きFRP板の一例を示す上面図である。
図20は人工割れ入り穴付きFRP板の一例を示し、(a)は上面図、(b)は割れ部拡大図、(c)はA1-C1-B1断面における人工割れ部の深さを示す説明図である。
図21は割れ進展加速試験のために人工割れ入り穴付きFRP板にワッペンを貼り付けた試験片の構成図である。
図22はボルト締めによる割れ進展加速試験設備の構造を示す構成図である。
図23は本発明の実施例のワッペンの割れ進展防止効果の検証結果である。
図24は割れ進展加速試験により発生した放射状割れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
FRP成形体は、FRP成形体同士又は他の材料と接続して使うことが多い。また形状も用途により、複雑なものも多い。例えば、ボルトナット又はリベットによる加締め部等その複雑な構造により応力がかかって使用されているものがある。
【0018】
図1はボルト用穴のあるFRP成形体表面の割れモデル図である。表面割れはFRP成形体1の穴3からその半径方向へ放射状に進展する放射状の割れであることが予想される。割れ伝播防止には割れの抵抗になるように亀裂に直角に繊維の配置が考えられる。
【0019】
図2は放射状割れの進展を防止するため繊維の構成を変えて樹脂を含侵させた代表的なワッペンの設計例を示したものである。繊維の材質はガラスまたはカーボン繊維またはアラミド繊維である。その設計したパターンは次の通りである。
4 ワッペン4(渦巻き、穴無し)
5 ワッペン5(渦巻き、穴有)
7 ワッペン7(繊維布、穴無し)
8 ワッペン8(繊維布、穴有)
9 ワッペン9(繊維布、繊維布45度、穴無し)
10 ワッペン10(繊維布、繊維布45度、穴有)
11 ワッペン11(繊維布、渦巻き、繊維布45度、穴無し)
12 ワッペン12(繊維布、渦巻き、繊維布45度、穴有)
13 ワッペン13(ワッペン11の半分割り材)
ここで上記ワッペン9~12の「繊維布45度」とは、「繊維布」に対してワッペンの中心を軸として45度回転させた繊維布をいう。即ち「繊維布45度」の「45度」は、ワッペンを繊維層の積層方向から見た時に、「繊維布45度」の繊維が延びる方向が「繊維布」の繊維が延びる方向と45度の角度をもって交差していることを意味する。
【0020】
ワッペンは、ワッペン1枚あるいは複数枚積層してFRP成形体1に接着材などで接続して使うことができる。また、後に説明するが、ワッペンの性能を進化させたワッペンの強度性能をさらに高めたせん断強度に優れた円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体型異形状ワッペンも使うことができる。
【0021】
また、後述する割れ進展加速試験では、ワッペン内部のファイバーを観察できるようにするため、透明樹脂を用いて試作したが、白色又は黒色、他多様に着色してもよい。
また、本発明のワッペンを使用する際には、特にボルト締めに関して、必要に応じてワッシャーの利用または不利用を選択することができる。
本発明ワッペンの製造に関しては、3次元プリンタ成形など他の製造技術を用いることも可能である。
【0022】
図3はワッペン12が使用される構造になっている。渦巻き状ガラス繊維を縦と横に繊維を編んだ繊維布と繊維布を穴の中心周りに45度回転させた繊維布で挟んで、樹脂を含侵させた複合型の3層構造穴あきワッペンである。ボルト締めは、金属製構造材19に設置したナット17と合わせて行う。FRP成形体1の上にボルトが出るこの構造例である。金属製構造材19は、鉄系材料、フェライト系ステンレス材料、オーステナイト系ステンレス材料、アルミニウム合金系材料、マグネシウム合金系材料が採用可能である。金属製構造材19の腐食防止のために、設計したように樹脂14でシールしてもよい。
ここで渦巻き状ガラス繊維及びガラス繊維布について説明する。渦巻き状ガラス繊維とは、ストランドを引き揃えた撚りのないガラスロービングからなる繊維をボルト穴又はリベット穴の直径よりも大きい半径で渦巻状に巻き付けて成形したもの、即ち図2等に示す通り繊維の軌跡が内側から外側に向かって広がる渦を描くように繊維を渦巻状に成形したものをいう。
またガラス繊維布とは、ストランドに捻りをかけた単糸を複数本引き揃えたヤーンの平織りものをいう。両者ともプラスチック等の複合材料の強化材として使われる。
後に述べる実施例に用いたガラスロービング材としては、JIS3410に規定された番手ER310を用い、ガラス繊維布としては、JIS3416に規定された番手200を用いた。
【0023】
図4はワッペン12を用いたFRP成形体1の上にボルトの出ない構造例である。ボルト締めは、金属製構造材19に設置したナット17と合わせて行う。FRP成形体表面を平滑にすることで、液相または気相の乱流を抑制しようとするものである。以下の設計において表面平滑技術は傷など防止の観点からも使い易い。
【0024】
図5は2枚のFRP成形体1を接合するために、接合部の表面裏面に2枚のワッペン12を用いた設計例である。ボルト締めは、ボルト15とナット17で結合している。
【0025】
図6は二種類の形状の異なるFRP成形体1を結合する場合の設計例である。ワッペン4とワッペン5、ワッペン12を用いた設計例である。ボルト15とナット17で結合する設計である。金属製ボルトの頭はFRP窪みの中に配置されている。
【0026】
図7は窪みのあるFRPを結合する場合の窪みの中に(a)樹脂または(b)ワッペンを挿入貼り付けた例である。
図7(a)は二種類の形状の異なるFRP成形体1を結合する場合の設計例であり、窪みに樹脂14を配置し、FRP成形体表面を平滑に設計した例である。ワッペン4、ワッペン5、ワッペン12が使用される構造になっている。ボルト15とナット17で結合している。
図7(b)は二種類の形状の異なるFRP成形体1を結合する場合の設計例であり、窪みにワッペン11、ワッペン5、ワッペン12を配置し、FRP成形体表面を平滑に設計した例である。ワッペン11、ワッペン5、ワッペン12が使用される構造になっている。ボルト15とナット17で結合している。
【0027】
図8は設計上FRP成形1が凸状である場合に、ワッペン12を使用する設計例である。
【0028】
図9は,FRP成形1に部分的なへこみ構造のある場合へのワッペン適用例であり、ワッペン11の半割りであるワッペン13の設計例である。
【0029】
図10はワッペン11が適用される設計例である。FRP成形1に部分的な割れのある場合、放射状割れを抑制するために穴のないワッペン11を用いた設計例である。
【0030】
図11は2枚のFRP成形体を接続した例である。この場合、ワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体型第1異形状ワッペン120を用いた設計例である。FRP成形体1の本体に一体型異形ワッペンの一部が入り込んでいるのでせん断力に強い抵抗を示す構造である。
【0031】
図12は2枚のFRP成形体を接続した例である。この場合、ワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体型第1異形状ワッペン120を用いた設計例であり、ボルトが表面から出ない構造である。
【0032】
図13は2枚のFRP成形体を接続した例である。この場合、ワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤を2枚重ねた形状の円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体型第1異形状ワッペン120を用いた設計例である。この場合裏表にワッペンを配置した例であり、より補強された構造になっている。
【0033】
図14は金属製構造材19に接続するボルト締め構造のデザイン例である。この場合、ワッペンのせん断強度を高めるために穴あき円盤を3枚重ねた形状の一体型第2異形状ワッペン130を用いた設計例である。ここで用いる一体型異形状ワッペンは本特許記載製法で製造可能である。製作した一体型異形状ワッペンを用いて、FRP真空成形製造法(VPI製法)で、成形体内部にあらかじめ設置する製法で補強付きFRPの製造可能である。この使い方であるが、穴周辺が拘束された構造である為にFRPからなるワッペンでなくともポイプロピレン、ナイロン等軟質樹脂からなる円盤状のワッペンを3枚重ねた形状の一体型第2異形状ワッペンを用いてもよい。
なお、図11図14記載のワッペン構造の作り方として、FRP成形体にFRP補強部材を貼り付けた後にボルト穴が貫通されるように切削加工することで形状を整え、その後ボルト部を含むFRP補強部材を貼付けた接続構造体を作製してもよい。
【0034】
成形したワッペンをそれぞれ接着して複合化もできる。そのワッペンにそれぞれ接着剤をつけて複合一体化したワッペン複合体を作製使用してもよい。工業的利用を考えたとき、円盤状のワッペンを2枚重ねた形状の一体成形した異形状のワッペンが使い易く望ましい。
【0035】
これら部材の強力接着としては瞬間接着剤、エポキシ系またはアクリル系接着剤を用いることができる。ワッペンとワッペンの間の接着も瞬間接着剤、エポキシ系またはアクリル系接着剤が使うことができる。また、強力接着両面テープでもよい。
【0036】
[実施例]
社会おいて、FRP製品の工業的信頼性は重要である。ボルト締め部やリベット接合部又は極度に曲げ半径が小さい曲げ部等の応力負荷が高い部分や強度が低い部分に関して、割れ発生予防技術が望まれ、本発明のワッペンを開発した。このワッペンの形状は、後述する実施例では扁平でかつ円盤状(中央に穴有りまたは無し)な形状であるが、必要に応じて、正方形、長方形や五角形以上の多角形、異形状など柔軟に設計製造できる。ワッペンを作る方法は、数多く考えられるが、ここでは、作り易い方法を実施した。以下その実施した方法と作製したワッペンの例を説明する。以下の実施例は樹脂と繊維の重量比が7:3になるように設計したものである。
【0037】
図15は本発明のワッペンの製造方法において、ワッペンのプレス成形と取り出しの様子例を示したものである。図15(a)において、20は材料(樹脂とガラス繊維またはカーボン繊維からなる繊維布)23をプレス加工するための上金型、21は下金型、22は軸合わせ穴である。図15(b)において、12はプレス加工後に金型から取り出したワッペンである。
次にワッペンの製法を説明する。先ず、ポリプロピレンとガラス繊維またはカーボン繊維を用いて、それらを順に下金型21に投入する。その場合、設計した構造になるようにポリプロピレンとガラス繊維またはカーボン繊維からなる強化材を所定の組合せになるように配置し、230℃で応力1.7kgf/mm(荷重907kgf/530mm)にてプレスして15分保持後、負荷応力を除去し、その後、冷却し製造した約5mmの例えばワッペン12を脱型作製する。
【0038】
以下に本発明のワッペンをFRP成形体又はFRP接続構造体に適用した実施例を示す。
図16は発明品である厚さ5mmのワッペンの内部構成とその外観を示したものである。
ワッペンW1~ワッペンW3のすべてにわたり、実用可能な空孔等欠陥のないワッペンを製作することができた。
ワッペンW1は8枚のガラス繊維布(0°)(0°:繊維布回転角0°)とポリプロピレンから製造できる。積層する各ガラス繊維布は回転させていない。
ワッペンW2は8枚のガラス繊維布(0°)を45度ずつずらしたガラス繊維布(45°)(45°:繊維布回転角45°)から構成されており、これらガラス繊維布とポリプロピレンからなるワッペンを示したものである。
ワッペンW3はガラス繊維布(0°)、ガラスロービング材を用いた渦巻き状ガラス繊維、ガラス繊維布(0°)とポリプロピレンからなるワッペンを示したものである。
【0039】
図17は発明品である厚さ5mmのワッペンの内部構成とその外観を示したものである。
ワッペンW4~ワッペンW5のすべてにわたり、実用可能な空孔等欠陥のないワッペン製作できた。
ワッペンW4はガラス繊維布(0°)、ガラスロービング材を用いた渦巻き状ガラス繊維、ガラス繊維布(45°)とポリプロピレンからなるワッペンを示したものである。
ワッペンW5は13枚のカーボン繊維織布(0°)を45度ずつずらしたカーボン繊維織布(45°)(45°:繊維布回転角45°)から構成されており、これらカーボン繊維織布繊維布とポリプロピレンからなるワッペンを示したものである。
【0040】
図18は発明品である厚さ5mmのワッペンW4の内部構成と同じ構造にして、厚さの効果を調べるために2mmのW6と3mmのW7の発明品を製作してその外観写真を示したものである。ワッペンW6~ワッペンW7のすべてにわたり、実用可能な空孔等欠陥のないワッペン製作できた。
【0041】
図19図22は作製したワッペンに人工割れを入れた試料を用いて、大きな曲げ歪みの条件下で割れ発生加速試験を行った試験を説明する図を示したものである。この説明図では、性能を評価するために製作した試料形状と評価のために製作した試験機について説明している。
図19は3mm厚さの穴付きFRP板である。中央の穴の直径は17mmである。
【0042】
図20は人工割れ入り穴付きFRP板の様子である。穴加工時にミクロ割れが存在することを想定し、穴切り欠き部に人口割れ(長さ1.5mm)を施し、割れ加速試験とした。図20(a)は人工割れ入り穴付きFRP板の全体図である。図20(b)は図20(a)の人工割れ部分の拡大図であり、割れ部24を拡大したものである。図20(c)は図20(b)の拡大図においてA1-C1-B1断面で切断した時の人工割れの断面を示したものであり、人工割れ形状はほぼ三角形である。C1は人工割れの先端位置である。
【0043】
図21は穴付きのFRP板(図では人工割れ入り)にワッペンを貼り付けた試験片構成図である。全ての試験片において、ワッペンとFRP板の接着には市販の接着剤である商品名「grasp-neo」を使用した。
【0044】
図22はボルト締めによる割れ発生加速試験を行うための設備構造であり、ボルト締め評価試験の治具と締め付け状況を示したものである。
割れ発生加速試験は次のように行った。六角ボルトを徐々に締め込んでいき、トルクレンチで10N・mまで連続的に負荷を加える。この負荷はすべての試験で一定にした。回転速度:約4rpsである。
【0045】
図23は発明ワッペンの割れ防止効果の検証結果である。割れ防止ワッペンの割れ進行抑制効果の評価結果をまとめたものである。
先ず、ワッペンを貼り付けない状態で、人工割れのある穴付きFRP板を用いて試験をした。その結果、比較品として示したワッペン無しのFRP成形体1では図24に示すように、FRP穴の周辺の人工割れ24近傍から放射状割れ23が発生していることが分かる。
【0046】
次に5mm厚さの発明品であるワッペンW1~ワッペンW5を用いて、人工割れ有り、比較のための無しの場合の割れ加速実験をした。その結果、いずれの試料も外観上ワッペンに割れの進展の様子は認められなかった。よって割れの進展が抑制されていることが分かった。発明ワッペンの中で、経済性や取り扱い性からワッペンW4が使い易いと思われた。また、ワッペンは厚いほど強度が高く、薄いほど弱くなると考えられるので、ワッペンW4と同じ構造で、厚さが3mmと2mmのワッペンを貼付け割れ加速実験をした。その結果、厚さの薄い厳しい条件即ち、厚さが3mmと2mmのワッペンでも外観上ワッペンに割れの進展の様子は認められなかった。よって、これらの結果からワッペンで割れ防止効果が確かめられた。
[産業上の利用可能性]
本発明のFRP補強用部材及びその製造方法、FRP成形体並びにFRP接続構造体は、軽量小型飛行機、空調設備、産業・介護用ロボット、トラック、乗用車、電車部品、風力発電用設用等の部材、医療機器用筐体、大型ドローン、その他のFRP筐体やFRP部品に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 FRP成形体
2 放射状割れモデル
3 穴
4 ワッペン(渦巻き、穴無し)
5 ワッペン(渦巻き、穴有)
6 ガラスまたはカーボン繊維
7 ワッペン(繊維布、穴無し)
8 ワッペン(繊維布、穴有)
9 ワッペン(繊維布、繊維布45度、穴無し)
10ワッペン(繊維布、繊維布45度、穴有)
11ワッペン(繊維布、渦巻き、繊維布45度、穴無し)
12ワッペン(繊維布、渦巻き、繊維布45度、穴有)
13ワッペン(ワッペン12の半分割り材)
14樹脂
15ボルト
16ワッシャー
17ナット
18接着材
19金属製構造材
20上金型
21下金型
22軸合わせ穴
23樹脂とガラスまたはカーボン繊維織布
24人工割れ
25平板状試験治具
26円筒状試験治具
27放射状割れ
120第1異形状ワッペン
130第2異形状ワッペン
図1
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