(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】欠陥検知方法および欠陥検知装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20221208BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B23K20/12 320
B23K20/12 344
G01N25/72 K
(21)【出願番号】P 2018232997
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017238018
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】榎本 正敏
(72)【発明者】
【氏名】河合 真二
(72)【発明者】
【氏名】鹽津 陵雅
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035702(JP,A)
【文献】米国特許第08544714(US,B1)
【文献】特開2010-188390(JP,A)
【文献】特開2005-074451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦攪拌接合中に接合部をリアルタイムにモニタリングすることによって接合部の欠陥を検知する欠陥検知方法であって、
摩擦攪拌接合に用いる回転ツール内に配設した温度測定装置により接合中の温度変化を検出・モニタリングし、検出された温度が定常化したと判断される接合中において所定以上の温度低下が検出されたときに、その接合位置に欠陥が発生していると判定する、欠陥検知方法。
【請求項2】
前記所定温度は、予め設定された非許容欠陥体積量によって低下する温度を限界低下温度として設定される、請求項1に記載の欠陥検知方法。
【請求項3】
前記回転ツールは、回転軸を中心に回転自在な円筒形状のショルダ部と、該ショルダ部の下端に結合して前記回転軸と同軸に回転し下方に突出して被接合部材と接触するプローブとを有して構成され、少なくとも、前記ショルダ部の上端から前記プローブの下端近傍まで延びる中空の下端チャンネルと、前記下端チャンネルから径方向に離間し深さ位置が異なる1つ以上の中空のチャンネルと、を備え、
前記温度
測定装置は、それぞれのチャンネルの下端近傍には配設された温度測定素子を有し、摩擦攪拌接合中にそれぞれの温度測定素子から温度測定手段を用いて生成された温度測定結果を外部に無線送信し、温度分布をモニタリングすることで被接合部材の欠陥の発生時期、発生位置、及び長さを決定する、請求項1又は2に記載の欠陥検知方法。
【請求項4】
摩擦攪拌接合中に接合部をリアルタイムにモニタリングすることによって接合部の欠陥を検知する欠陥検知方法であって、
摩擦攪拌接合中に回転ツールに負荷される垂直荷重を検出・モニタリングし、検出された垂直荷重が定常化したと判断される接合中において急激な荷重低下が検出されたときに、その接合位置に欠陥が発生していると判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の欠陥検知方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の欠陥検知方法により欠陥の発生開始又は発生の予兆が検知されたときには、接合中の回転ツールの回転速度、及び/又は垂直荷重、及び/又は回転ツールの送り速度を低下させる、欠陥検知方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の欠陥検知方法により欠陥が発生していると判定されたときの少なくとも接合材料、回転ツールの回転速度、垂直荷重、回転ツールの送り速度の集積データに基づいて各接合材料における回転ツールの回転速度、垂直荷重、回転ツールの送り速度に対する欠陥発生の有無テーブルを予め作成し、該有無テーブルに基づいて欠陥発生を事前に検知する欠陥検知方法。
【請求項7】
請求項1に記載の欠陥検知方法において使用する欠陥検知装置であって、
回転軸を中心に回転自在な円筒形状のショルダ部と、該ショルダ部の下端に結合して前記回転軸と同軸に回転し下方に突出して被接合部材と接触するプローブとを有する回転ツールと、
前記回転ツールの上方に連結し、該回転ツールと協動して同軸回転するツールホルダと、
前記ツールホルダの上方に連結し、前記回転ツール及び前記ツールホルダを回転軸周りに回転させ、軸線方向に移動させ、前記被接合部材を押圧する機構を有する装置本体部と、を備え、
前記回転ツールは、少なくとも
前記ショルダ部の上端から前記プローブの下端近傍まで延びる中空の下端チャンネルと、
前記下端チャンネルから径方向に離間し深さ位置が異なる1つ以上の中空のチャンネルと、を有し、
それぞれのチャンネルの下端近傍には温度測定素子が配設され、摩擦攪拌接合中にそれぞれの温度測定素子から温度測定手段を用いて生成された温度測定結果を外部送信する送信手段と、を備える、欠陥検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合において接合中の温度変化、荷重変化をリアルタイムに検知することで、接合中における接合部の欠陥の精緻な検知をし得る欠陥検知方法及び欠陥検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合は、摩擦熱によって被接合部材の変形抵抗を低下させたうえで攪拌(塑性流動)し、接合を達成する接合手法であり、接合部を溶融させる通常の溶融溶接とは異なり、固相での接合のため、接合部の組織が微細化し優れた機械的性質を有することで知られている。現在、摩擦攪拌接合は、工業界において既に実用化されており、今後の多種の分野での実用化が期待されている。特に接合が困難とされる板厚の厚い被接合部材の接合や、金属材料が異なる被接合部材同士の異材接合を容易に達成する手法としてこの摩擦攪拌接合が期待されている。
【0003】
摩擦攪拌接合の接合条件は、概ね、回転ツールの荷重と、回転ツールの回転速度と、回転ツールの移動速度と、回転ツールの前進角と、で構成され、当該各パラメータを調整することで目的の接合を達成する。摩擦攪拌接合の接合条件を検討する際、最も重要となるのが被接合部材に与える入熱であり、攪拌によって接合部の塑性流動を可能とするためには、被接合部材の変形抵抗を低下させる熱量を与える必要がある。一方、過剰な入熱は必要以上に被接合部材を軟化させてしまい、接合部を抉ることによる不要なバリの発生や、冷却速度が遅くなることにより接合部の機械的特性が低下してしまう。
【0004】
また、板厚の厚い被接合部材の接合や、金属材料が異なる被接合部材同士の異材接合の達成が困難な原因も接合時の入熱に起因することが解っている。特に、板厚の厚い被接合部材を接合するためには、板厚全域で均一な塑性流動を発生させる必要があり、回転ツールを押し当てた接合面から背面まで均一な入熱を要する。また、金属材料が異なる被接合部材同士の異材接合を達成するためには、接合させる2種の被接合部材を塑性流動によって可能な限り均一に混ぜ合わせる必要があり、接合時における入熱のコントロールで2種の被接合部材それぞれが有する変形抵抗をほぼ同等に低下させなければならない。
【0005】
しかしながら、従来、とりわけ板厚の厚い被接合部材を接合するためには、接合実験の繰り返しによる事後的なトライアンドエラーで接合条件を求めており、摩擦攪拌接合の接合条件を構成する各パラメータを調整するには膨大な時間及び被接合部材の無駄を要している。また、金属材料の異なる被接合部材の異材接合においては、事後的なトライアンドエラーでは変形抵抗の低下に必要な入熱量が大きく異なる被接合部材同士の接合は極めて困難なものとなっている現状がある。
【0006】
その他、入熱以外にも回転ツールに負荷される垂直荷重による影響も大きいことがわかっている。
【0007】
このような現状に対して、出願人は接合時における被接合部材への入熱量を精緻に評価するため、摩擦攪拌接合に用いる回転ツールにおける複数部位の温度を接合時にリアルタイムに把握し、被接合部材における接合部近傍の温度を計測可能とする具体的な温度測定装置の提供している(特許文献3参照)。これにより上述する摩擦攪拌接合の実用化への妨げとなる問題を回避し、種々の分野での摩擦攪拌接合の活用を拡大させ得る社会状況を提供し、さらに個々具体的な問題に対してリアルタイム計測により解消できる点を鋭意検討・分析してきた。
【0008】
このような検討・分析過程において摩擦攪拌接合中に被接合部材に発生している欠陥に注目した。被接合部材に生じている欠陥部分は、摩擦攪拌接合における被接合部材の加工条件が変化する部分であり、接合後の静的強度の減少や疲労寿命の低下といった構造物にとって看過できない影響を与える。その一方、これらの欠陥は目視では検出できないため、従来、接合後、X線透過試験や超音波探傷試験といった非破壊検査方法を適用して、その有無を確認しているが、これらの方法では経費と時間がかかり、摩擦攪拌接合中のインプロセス検査方法が強く望まれていた。この要望に対して、出願人が提供した上記リアルタイム計測装置では接合中の接合箇所近傍の温度分布を計測することができるため、理論的仮想の下、実際に計測してみると欠陥(キャビティ)の位置において特徴的な現象が生じるという知見を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-288419号公報
【文献】特開2011-115842号公報
【文献】国際公開WO 2016/111336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決すべく上記知見をもとに創作されたものであり、摩擦攪拌接合において接合中の温度変化、荷重変化をリアルタイムに検知することで、接合中に接合部の欠陥の精緻な検知をすることや、摩擦攪拌装置の動作を制御して接合中に欠陥を防止し得る、欠陥検知方法及び欠陥検知装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の欠陥検知方法は、
摩擦攪拌接合中に接合部をリアルタイムにモニタリングすることによって接合部の欠陥を検知する欠陥検知方法であって、
摩擦攪拌接合に用いる回転ツール内に配設した温度測定装置により接合中の温度変化を検出・モニタリングし、検出された温度が定常化したと判断される接合中において所定以上の温度低下が検出されたときに、その接合位置に欠陥が発生していると判定する。
【0012】
出願人は、上述した温度計測装置(特許文献3)で摩擦攪拌接合中の被接合部材の温度を計測(無線方式)し検証したところ、欠陥がない場合には回転ツールの同一位置での温度変化がほとんどみられず一定温度で接合していくが、欠陥が存在する部分では明らかな温度低下がみられるという知見を得た。本発明では、この知見に基づいて摩擦攪拌接合で発生する欠陥を接合中にリアルタイムに検知し得る欠陥検知方法として活用したものである。本発明によれば、目視や従来の超音波探傷等の検知方法では発見できなかった欠陥を検知することができる。さらに従来、別途事前又は事後的に検知していた欠陥を接合中に検知できるため、回転ツールの回転速度を低下させる等動作制御して欠陥を除去することも可能となる。
【0013】
また、接合中の欠陥による温度低下として設定される前記「所定温度」は、非許容欠陥体積量(被接合部材として看過できない欠陥部分の体積量)によって低下する温度を限界低下温度として予め設定する。例えば、回転ツールのプローブの体積量を非許容欠陥体積量として限界低下温度を設定する。
【0014】
また本欠陥検知方法において、前記回転ツールは、回転軸を中心に回転自在な円筒形状のショルダ部と、該ショルダ部の下端に結合して前記回転軸と同軸に回転し下方に突出して被接合部材と接触するプローブとを有して構成され、少なくとも、前記ショルダ部の上端から前記プローブの下端近傍まで延びる中空の下端チャンネルと、前記下端チャンネルから径方向に離間し深さ位置が異なる1つ以上の中空のチャンネルと、を備え、
前記温度計測装置は、それぞれのチャンネルの下端近傍には配設された温度測定素子を有し、摩擦攪拌接合中にそれぞれの温度測定素子から温度測定手段を用いて生成された温度測定結果を外部に無線送信し、温度分布をモニタリングすることで被接合部材の欠陥の発生位置、及び長さを決定しても良い。
【0015】
本欠陥検知方法では、回転ツール内の深さ方向、径方向が異なる複数の位置での温度測定をリアルタイムで行い、摩擦攪拌接合中に回転ツール(特にプローブ)に生じる温度分布を測定することにより、接合部に元々生じている欠陥(キャビティ)の発生位置、その長さを決定することができる。
【0016】
摩擦攪拌接合は、回転ツールと被接合部材との間で生じる摩擦発熱及び被接合材の塑性流動によって生じる内部発熱によって、被接合部材が加熱され、その変形抵抗が低下し、回転ツールの遠心力によって接合部の材料に回転運動を生じることによって接合を達成している。従って、接合系におけるエネルギー保存法則を理解することが重要になる。
接合は、回転ツールと被接合部材との間に働く降伏剪断力に依存し、さらに回転ツールの回転速度にも依存する。
接合中に体積欠陥(キャビティ)が生じた場合には、発生した場所では摩擦発熱が生じないため、プローブの温度が欠陥のない場合に比べて低下すると考えられる。この温度低下は欠陥の長さが続く間生じるのでその時間をtとするとvt(接合速度x低下持続時間)によって接合中に瞬時に検出できる。
【0017】
また、その発生位置はどの温度計測素子(代表的には熱電対)の位置の温度が、どの時間から低下し出したかによって、被接合部材の板厚方向と接合方向の位置とが決定される。
【0018】
また本発明は、摩擦攪拌接合中に接合部をリアルタイムにモニタリングすることによって接合部の欠陥を検知する欠陥検知方法であって、
摩擦攪拌接合中に回転ツールに負荷される垂直荷重を検出・モニタリングし、検出された垂直荷重が定常化したと判断される接合中において急激な荷重低下が検出されたときに、その接合位置に欠陥が発生していると判定する、ことができる。
【0019】
出願人は上記摩擦攪拌接合中の回転ツールに負荷される垂直荷重についても無線方式でリアルタイムに検証したところ温度モニタリングと同様に欠陥がある場合には明らかな変化がみられることを知得し、これを欠陥検知方法として活用している。
【0020】
また、上記本欠陥検知方法により欠陥の発生開始又は発生の予兆が検知されたときには、接合中の回転ツールの回転速度、及び/又は垂直荷重、及び/又は回転ツールの送り速度を低下させる、こともできる。
【0021】
本欠陥検知方法によれば、接合中の欠陥の発生を瞬時に検知できるため欠陥発生開始時に回転ツールの回転速度の低下等をさせる回転ツールの動作制御を行うことで単なる欠陥検知のみならず回転ツールの動作を制御して欠陥を除去する機能をも有することとなる。
【0022】
さらに、上記本欠陥検知方法により欠陥が発生していると判定されたときの少なくとも接合材料、回転ツールの回転速度、垂直荷重、回転ツールの送り速度の集積データに基づいて各接合材料における回転ツールの回転速度、垂直荷重、回転ツールの送り速度に対する欠陥発生の有無テーブルを予め作成し、該有無テーブルに基づいて欠陥発生を事前に検知してもよい。
【0023】
この方法によれば既に取得している欠陥発生事例のデータを集積し、この集積データを各被接合部材、回転ツールの動作状況に対応する欠陥発生の有無のテーブル等にしておく。そして、実際に摩擦攪拌接合を行うときに当該デーブル等の集積データに基づいて欠陥発生させない動作状況で回転ツールを制御することができる。
【0024】
上記本欠陥検知方法は欠陥検知装置としても活用でき、具体例として、
回転軸を中心に回転自在な円筒形状のショルダ部と、該ショルダ部の下端に結合して前記回転軸と同軸に回転し下方に突出して被接合部材と接触するプローブとを有する回転ツールと、
前記回転ツールの上方に連結し、該回転ツールと協動して同軸回転するツールホルダと、
前記ツールホルダの上方に連結し、前記回転ツール及び前記ツールホルダを回転軸周りに回転させ、軸線方向に移動させ、前記被接合部材を押圧する機構を有する装置本体部と、を備え、
前記回転ツールは、少なくとも
前記ショルダ部の上端から前記プローブの下端近傍まで延びる中空の下端チャンネルと、
前記下端チャンネルから径方向に離間し深さ位置が異なる1つ以上の中空のチャンネルと、を有し、
それぞれのチャンネルの下端近傍には温度測定素子が配設され、摩擦攪拌接合中にそれぞれの温度測定素子から温度測定手段を用いて生成された温度測定結果を外部送信する送信手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明の欠陥検知方法及び欠陥検知装置によれば、摩擦攪拌接合において接合中の温度変化、荷重変化をリアルタイムに検知することで、接合部の欠陥を検知することができる。とりわけ、欠陥を目視又は従来式の超音波探傷等の検知方法では確認できないような欠陥も精緻に検知できる。また、本発明によれば、接合中に欠陥検知した後に欠陥を除去するように動作制御することもできる。その結果、材料の無駄を防止したり、工数を減らすこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の欠陥検知方法の検証用に人工的に欠陥を作製した被接合部材について示している。
【
図2】本発明の欠陥検知方法及び欠陥検知装置で用いる回転ツールの内部温度の測定位置を示す図である。
【
図3】表1の条件で
図2の回転ツールを用いてFSW接合した温度変化の結果を示している。
【
図4】表1の条件で
図2の回転ツールを用いてFSW接合した荷重変化の結果を示している。
【
図5】回転ツールの回転数および送り速度を変化させたときに人工欠陥部が材料表面に露出する場合と露出しない場合とを示す写真図である。
【
図6】摩擦攪拌接合後に被接合部材の人工欠陥部に欠陥が残存した表2の6条件(No, 4 - 8, 10)について、各条件ごとの変化量を示したものである。
【
図7】人工欠陥部のサイズが同じで摩擦攪拌接合の接合条件が異なる表2の3条件(No, 4 - 6)について、接合速度と変化率との関係を示したものである。
【
図8】欠陥が材料表面に露出しなかった条件(S900, F300)について欠陥のサイズを変化させて接合を行った場合の欠陥のサイズと変化率との関係を示したものである。
【
図9】欠陥が材料表面に露出しなかった条件(S900, F300)について欠陥のサイズを変化させて接合を行った場合の欠陥のサイズと変化率との関係を示したものである。
【
図10】欠陥部がない被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果を示すものである。
【
図11】欠陥部を有する被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果うち欠陥部がない部分を示すものである。
【
図12】欠陥部を有する被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果うち欠陥部がない部分を示すものである。
【
図13】本発明の欠陥検知装置の具体的な制御フローチャート例である。
【
図14】本発明の欠陥検知装置の具体的な他の制御フローチャート例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の欠陥検知方法及欠陥検知装置を利用した摩擦攪拌接合における欠陥検知の検証例について説明する。
図1は本欠陥検知方法の検証用に人工的に欠陥を作製した被接合部材1について示している。
図1の左図には被接合部材の斜視図であり、右図は左図の欠陥部分2(領域A)の拡大図である。
図1の欠陥部分2は、板厚方向の中央位置に対してφ1エンドミルの溝加工による人工欠陥であり、人工欠陥である欠陥部分2を作製した面(250*5tの面)を突合せた被接合部材1と人工欠陥を作製していない図示しない被接合部材(A6061(250*130*5t))とをそれぞれ回転ツール(株式会社山本金属製作所製(SKD61,P908-02-0011-02))で摩擦攪拌接合(以下、「FSW」とも称する。)する際の、それぞれの被接合部材における接合中の回転ツール内部温度および荷重データを取得する。そして、人工欠陥の有無によって各種データに差異が現れるかを検証した。
【0028】
接合条件および人工欠陥部2の有無および寸法を表1に示す。また,回転ツール内部温度の測定位置を
図2に示している。なお、
図2において左図は平面視、右図は縦断面図を示している。まず、
図2に示すように本欠陥検知方法に使用する摩擦攪拌接合装置先端の回転ツールについて説明する。回転ツール4は、回転しながら降下し被接合部材1に接触し設定された垂直荷重で押圧し、接合方向(L方向)に移動する(送られる)ことで摩擦攪拌接合を行う工具であり、被接合部材1の回転軸O-Oを中心に回転自在な円筒形状のショルダ部4cと、ショルダ部4cの下端4bから下方に突出して被接合部材1と接触するプローブ4dとを有する。
【表1】
【0029】
回転ツール4には、回転軸方向にショルダ部4cの上端4aから下方に穴あけ加工することによって3つの半貫通孔26、30、32が設けられている。詳細には、回転軸O-Oと略同軸上にはショルダ部4cの上端4aからプローブ4dの下端近傍まで延びる中空の中心チャンネル26が設けられており、ショルダ部4cの外縁近傍、すなわち回転軸O-Oから径方向の加工・強度限度の位置に、ショルダ部4cの上端から下端近傍まで延びる外縁チャンネル30とが形成されている。また、プローブ4dの上端近傍、すなわちショルダ部4cの下端とプローブ4dの上端との境界周辺(近傍)の位置に、ショルダ部4cの上端4aから前記境界周辺(近傍)まで延びる補助チャンネル32とが形成されている。
【0030】
また、各チャンネル26,30,32には温度測定部(図示せず)が設けられ、下方に熱電対、サーミスタ、及び、白金測温抵抗体等の温度測定素子(ここでは熱電対)が設けられ、これに電気配線(図示せず)が接続されて形成される。熱電対は、中心チャンネル26、外縁チャンネル30、補助チャンネル32の下端近傍に配設される。熱電対はその上方の電気配線により回転ツール4を把持して同軸回転するツールツールホルダに装着された電子基板に接続されている(図示せず)。そして、熱電対からの温度測定結果を、電気配線を介してツールホルダ内の電子基板の温度受信部へ送信され、電子基板の送信部からFSW接合中にリアルタイムに外部ユニットに無線送信される図示せず)。外部ユニットに送信された温度測定データは外部演算・表示装置(PC等)でモニタリング可能に表示される。
【0031】
実際に表1の条件で回転ツール4でFSW接合した結果が
図3~
図4に示されている。
図3に示すように、被接合部材1に人工欠陥部2を作製し,接合後も残存した条件ではメタルフロー不足が原因と思われる温度低下が確認できた。
図4に示すように,荷重(垂直荷重、水平荷重)に関しても同様の傾向となった。
図4に示すように,欠陥は主に人工欠陥部2の両端面および材料の突合せ部近傍の3か所に残存していた。また、
図5に示すように、回転数および送り速度を変化させることで人工欠陥部2が材料表面に露出したものとしていないものとがあった。欠陥が露出しているのは突合せ位置よりわずかに前進側だった。欠陥が露出していない場合、外観では欠陥の有無の判別が困難であることからリアルタイムモニタリングの有用性が示せるものと考えられる。
【0032】
本実験にて実施した表1の10条件(no.1~no.10)について、各チャンネル28,30,32の温度(Temp.1, Temp.2, Temp.3)および荷重データの人工欠陥部2に到達前での定常あるいは最高の値、欠陥部の値、さらにそれらの変化率についてまとめたものを表2および表3に示している。変化率は以下の式で求めた。
【表2】
【0033】
【0034】
表2、表3から人工欠陥部2が残存し,且つ欠陥が表面に露出しなかった3条件(No, 6, 8, 9)の水平荷重では,欠陥部到達前の値よりも欠陥部の値の方が大きくなっていることがわかる。また、人工欠陥部2を作製し,且つ接合後も欠陥が残存した6条件(No, 4 - 8, 10)について、各条件ごとの変化量を
図6に示されている。これを見るといずれの条件においても温度データよりも荷重データの方が感度が高いことがわかる。
以上の結果より、適切な条件で接合できているか、また欠陥の有無を確認するためには温度に加えて荷重、特に垂直荷重のモニタリングが重要であると考えられる。
【0035】
また,人工欠陥部2のサイズが同じで接合条件が異なる3条件(No, 4 - 6)について、接合速度と変化率との関係を
図7に示す。これを見ると温度に関しては接合速度が高くなるにつれて変化率は低下する傾向だった。これは、接合速度が高いと欠陥部に滞在する時間が短くなり温度低下が小さくなるためと考えられる。さらに、欠陥が材料表面に露出しなかった条件(S900, F300)について、欠陥のサイズを変化させて接合を行った。欠陥のサイズと変化率との関係を
図8および
図9に示す。これを見ると欠陥のサイズが大きくなると温度および荷重の変化率も概ね上昇することがわかる。
【0036】
S900、F300で接合した材料について、接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した。無欠陥品および欠陥品の代表例を
図10,
図11および
図12に示す。
図10は、欠陥部がない被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果を示すものであり、
図12は欠陥部を有する被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果うち欠陥部がない部分を示すものであり、
図12は欠陥部を有する被接合部材の接合線中央部近傍の板厚方向に対して板の裏面より超音波探傷を実施した結果うち欠陥部がない部分を示すものである。
【0037】
また、
図10~
図12の各図の上部はそれぞれCスキャン画像、下部は任意の位置でのAスコープ(横軸:距離、縦軸:強度)である。無欠陥品ではCスキャン画像に特異な点はなく、Aスコープも板の表裏面で大きな反応を示しているのみであるが、欠陥品においては欠陥がある部分では板厚方向の中央部近傍で大きな反応を示していることから,その部分に欠陥が残存しており,人工欠陥2の製作位置と合致していることがわかる。
【0038】
次に、本発明の欠陥検知方法を利用する欠陥検知装置において温度低下により欠陥を検知する具体的な制御フローを例示する。
図13には本欠陥検知装置において摩擦攪拌接合時に欠陥発生を検知し、警告を行う制御例が示されている。また、
図14は本欠陥検知装置において摩擦攪拌接合時に欠陥発生を検知した場合に欠陥を除去(修復)するように動作制御する例を示している。なお、垂直荷重の低下による欠陥検知についてはここでは省略する。
【0039】
図13の例では、まず摩擦攪拌接合装置における回転ツール4の回転速度、垂直荷重、水平荷重、移動速度、前進角の動作設定を行う(STEP1)。このとき過去の集積データから被接合部材1に対応する最適な回転速度等の動作を選択することが好ましい。回転ツール4の動作が設定されると、接合中に熱電対から計測される温度の閾値を設定する(STEP2)。上述したように本欠陥検知装置では、温度が一定状態に至った後の接合中の急激な温度低下を欠陥発生として検知するものであり、欠陥部と判断できる温度低下を閾値として設定しておく。この閾値は、非許容欠陥体積量(被接合部材として看過できない欠陥部分の体積量)によって低下する限界低下温度として予め設定されたものでもよく、前述した過去の集積データ(テーブル(図示せず))から被接合部材1に応じて決定されてもよい。そして、FSW接合が開始され、回転ツール2が動作する(STEP3)。
【0040】
FSW接合が開始されると、まず温度が上昇し一定になると回転ツール2が移動し被接合部材2が順次接合されていく。欠陥は接合が開始されてから検知すべきであり、接合前の温度上昇までの初動期間での欠陥検知を回避するために温度が一定になり定常化するまで欠陥検知をしないように制御する(STEP4)。温度が定常化した状態(接合進行する状態)になった後、回転ツール4の温度が前述の閾値より小さくなった場合には、欠陥が発生したと検知する(STEP5)。なお、ここで言う閾値として設定する温度は、少なくとも中央チャンネル26に配設された熱電対の温度であり、被接合部材1の深さ方向の熱流動性を考慮して他のチャンネル30、32の温度のいずれかが閾値より小さくなると欠陥が発生するものとして設定することも可能である。
【0041】
計測温度が閾値より小さくなると欠陥発生状態を警告する(STEP6)。この警告は温度表示の外部モニターに表示しても良いし、別途のアラートを発信してもよい。そして、次に計測温度が閾値を超えると(STEP7)、欠陥発生終了したとして警告を終了する(STEP8)。
【0042】
図14の例では、前述した通り欠陥発生の検知(又は予兆の検知)した場合の動作制御の一例が示されている。まず欠陥が検知されると摩擦攪拌接合装置における回転ツール4の回転速度、垂直荷重、水平荷重、移動速度等の動作設定を行い(STEP11)、接合中に熱電対から計測される温度の閾値を設定し(STEP12)、FSW接合が開始、回転ツール2を動作する(STEP13)。
【0043】
FSW接合が開始され、温度が上昇し一定になり定常化するまで欠陥検知をしないように制御する(STEP14)。温度が定常化した状態(接合進行する状態)になった後、回転ツール4の温度が前述の閾値より小さくなった場合には、欠陥が発生していると検知する(STEP15)。計測温度が閾値より小さくなるとSTEP11で設定した最適動作設定を再設定し、例えば回転速度や移動速度の減少させたりする制御を行う(STEP19)。この動作再設定(STEP19)は、好ましくは閾値からの低下温度や被接合部材1に対して過去に集積したデータに基づいて回転ツール4の回転速度や移動速度等を変更する。好ましくは欠陥発生の予兆が検知された段階で早めに回転ツール4の動作を再設定し、接合後に欠陥開始直後から欠陥が修復されているようにするためである。そして、計測温度が閾値以上になると欠陥が除去されたとして、その被接合部材1、動作状況(回転速度、移動速度、荷重等)の情報を記録し(STEP20)、その後の制御に活用し得るよう再び集積データを更新して(図示せず)、計測温度が定常化した後に次の欠陥検知を行う。
【0044】
以上、本発明の欠陥検知方法を用いた実施例及び欠陥検知装置の例について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の欠陥検知方法及び欠陥検知装置は、摩擦攪拌接合において接合中の温度変化、重変化をリアルタイムに検知することで、接合中における接合部の欠陥の精緻な検知をすることや、接合中に検知した欠陥について摩擦攪拌装置を制御して欠陥を除去することができ、これまで摩擦攪拌接合の活用促進をし得るものある。
【符号の説明】
【0046】
1 被接合部材
2 人工欠陥部
4 回転ツール
4a 上端
4b 下端
4c ショルダ部
4d プローブ
26 中央チャンネル
30 外縁チャンネル
32 補助チャンネル