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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】米の産地判別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221208BHJP
   G01N 33/10 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N33/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018164704
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020038093
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(72)【発明者】
【氏名】久米 寿子
(72)【発明者】
【氏名】出澤 侑也
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106525787(CN,A)
【文献】特開2000-298123(JP,A)
【文献】特開2018-100834(JP,A)
【文献】特開2014-041165(JP,A)
【文献】特開2010-185719(JP,A)
【文献】特開2003-139706(JP,A)
【文献】特開2010-266380(JP,A)
【文献】特開2017-036991(JP,A)
【文献】特開2006-177916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0202938(US,A1)
【文献】高津 地志 ほか,励起蛍光マトリクスを用いた玄米の非破壊品質評価の検討,近畿大学次世代基盤技術研究報告書,2017年,Vol.8,61-68
【文献】前原 峰雄 ほか,励起・蛍光マトリクスを用いた米の簡易産地判別法の検討,日本分析化学会第66年会 講演要旨集,2017年09月09日,B3008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光分光光度計により米の励起蛍光マトリクスを得る工程と、得られた励起蛍光マトリクスを解析処理する工程とを備え、
前記解析処理する工程にて解析処理したデータに基づいて米の産地判別を行う米の産地判別方法において、
前記励起蛍光マトリクスを得る工程の前段には、
米を粉砕して粉砕米を得る工程と、
前記粉砕米を静置する水分均質化工程と、
を備えた前処理工程を設け、
前記水分均質工程は、加湿することで前記粉砕米の水分値を調整し、その水分値のばらつきを0.24パーセント以下に抑えることを特徴とする米の産地判別方法。
【請求項2】
前記米は、精白米であることを特徴とする請求項1に記載の米の産地判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起蛍光マトリクスを用いた米の産地判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」において、すべての生鮮食品に原産地表示が義務付けられている。また、食品の産地は消費者の大きな関心ごとであり、特に日本人の主食である米において、産地は品種と同様、価格に影響を与える重要な因子である。さらに、米の産地は今後、米の輸出入によってますます関心が高まるものと思われる。
【0003】
ところで、従来、食品の産地判別方法として、励起蛍光マトリクス(Excitation-Emission Matrix:EEM)を用いた産地判別方法が知られており、例えば特許文献1には、スパイス、特に黒こしょうの産地判別の記載がある。励起蛍光マトリクスは、照射する励起波長、及び観測する蛍光波長を所定の範囲内で段階的に変化させながら、試料の蛍光強度を測定することにより得られる、励起波長、蛍光波長、及び、蛍光強度の3次元データよりなる。1種類の励起光を試料に照射して、得られる蛍光スペクトルを解析する通常の蛍光分光法と比べて情報量が多く、わずかな成分の差異をも検出できることから、当該3次元データは各物質について特有のパターンを示す。
【0004】
しかしながら、特許文献1には、日本人の主食である米の産地判別についての記載は全くない。そこで、本発明者らは、特許文献1記載の励起蛍光マトリクスを用いた方法で米の産地判別を試みてみたところ、精度のよい励起蛍光マトリクスを得ることができず、米の産地判別を行うことができなった(図5(a)参照)。
そこで、米の産地判別をする際は、煩雑な処理が不要な励起蛍光マトリクスによる方法ではなく、仕方なく、DNA判定や微量元素分析などによる煩雑な処理を要する測定に頼らなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-036991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点にかんがみ、煩雑な処理が不要な米の産地判別方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の米の産地判別方法は、蛍光分光光度計により米の励起蛍光マトリクスを得る工程と、得られた励起蛍光マトリクスを解析処理する工程とを備え、前記解析処理する工程にて解析処理したデータに基づいて米の産地判別を行う米の産地判別方法において、前記励起蛍光マトリクスを得る工程の前段には、米を粉砕して粉砕米を得る工程と、前記粉砕米を静置する水分均質化工程と、を備えた前処理工程を設け、前記水分均質工程は、加湿することで前記粉砕米の水分値を調整し、その水分値のばらつきを0.24パーセント以下に抑えるという技術的手段を講じた。
【0009】
請求項記載の発明によれば、前記米は、精白米であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の米の産地判別方法によれば、蛍光分光光度計により米の励起蛍光マトリクスを得る工程と、得られた励起蛍光マトリクスを解析処理する工程とを備え、前記解析処理する工程にて解析処理したデータに基づいて米の産地判別を行う米の産地判別方法において、前記励起蛍光マトリクスを得る工程の前段には、米を粉砕して粉砕米を得る工程と、前記粉砕米を静置する水分均質化工程とを備えた前処理工程を備えたので、前記米の水分を均一化することができ、精度の良い励起蛍光マトリクスを得ることができる。このため、煩雑な前処理が不要で、簡単な操作で米の産地判別することができる。
【0011】
また、水分均質化工程を設け、粉砕米の水分値のばらつきを0.24パーセント以下としたので、米の水分値のばらつきに起因する励起蛍光マトリクスのばらつきを減少させることができる。このため、より精度の高い産地判別方法を提供できる。
【0012】
また、測定試料には、籾や玄米よりも蛍光物質が多く、測定の際、蛍光シグナルが強く表れる精白米としたので、産地ごとの励起蛍光マトリクスの特徴が顕著に表れる。このため、産地をより容易に判別することができるようになる。
さらに、精白米であれば、産地判別をより消費者に近い現場(精米工場など)で使用することができる。このため、産地情報を消費者によりタイムリーに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】蛍光分光光度計の概略斜視図である。
図2】蛍光分光光度計の光学部概略図である。
図3】前処理装置である。
図4】励起蛍光マトリクスの一例である。
図5】産地判別結果図である。
図6】水分均質化工程前後における米の水分の値である(平均値や標準偏差など)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、蛍光分光光度計の概略斜視図であり、図2は、蛍光分光光度計の光学部概略図であり、図3は、前処理装置であり、図4は、励起蛍光マトリクスの一例であり、図5は、産地判別結果図であり、図6は、水分均質化工程前後における米の水分の値である(平均値や標準偏差など)。
【0015】
図1は、本発明で使用する蛍光分光光度計1である。図1(a)は、測定部カバー3を閉じたもの、図1(b)は、被測定物(図示せず)を測定部4に配置できるように、測定部カバー3を開いたものである。
蛍光分光光度計1は、ケーブル(図示せず)によってコンピュータ(図1では図示せず)に接続され、該コンピュータを通じて、蛍光分光光度計1の設定変更、測定命令、結果表示などが行われる。
なお、本発明における蛍光分光光度計1は、一般的なものを使用すればよい。
【0016】
図2は、蛍光分光光度計の光学部概略図である。
光源5から照射された励起光は励起側分光器6にて目的の波長のみを通過後、ハーフミラー7にて、試料ボックス8とリファレンス用に分光される。試料ボックス8側へ照射される励起光は試料ボックス8内の試料により励起され、この励起光の蛍光発光を蛍光側分光器9で分光後、蛍光検出器10bにて蛍光強度を測定する。その測定結果は、コンピュータ11に出力される。一方、ハーフミラー7にてリファレンス側へと分岐された励起光は、そのまま蛍光検出器10aにて測定され、コンピュータ11に出力されリファレンスとして使用される。
なお、矢印は励起光又は蛍光の流れを示している。リファレンスは必ずしも必要ではなく、ハーフミラー7を用いていない蛍光分光光度計であってもよい。また、試料ボックス8は、積分球(図示せず)を使用してもよい。
【0017】
図3は、本発明における前処理の様子を示したものである。
本発明の要部は、試料の水分のばらつきを抑えることである。そこで、粉砕した試料Sをシャーレ13に入れて、温度及び湿度を一定に維持することができる恒温槽12内に試料Sを挿入し、一定時間、例えば48時間以上、静置(水分均質化)する。
例えば、試料を乾燥させて水分のばらつきを抑えたい場合、恒温槽12として、デシケータを使用すればよい。
逆に、試料を加湿させて水分のばらつきを抑えたい場合、恒温槽12として、加湿器を使用すればよい。
どちらの場合も、恒温槽12の温度及び湿度は適宜調整すればよい。
なお、加湿器を使ったとしても、粉砕により米中の水分が蒸発するため、静置前の米の水分値よりも高くなるとは限らない。
【0018】
図4は、蛍光分光光度計で、試料(粉砕した米)を測定した際に得られる3次元蛍光スペクトル図である。縦軸に励起波長(nm)、横軸に蛍光波長(nm)をとり、等高線表示は蛍光強度を示している。
例えば、本3次元蛍光スペクトルでは、励起波長370nm、蛍光波長465nmにて大きなピークを示している。図4に示すように、蛍光分光光度計を用いると、励起蛍光マトリクスデータ、つまり3次元の莫大なデータを得ることができる。そして、これら莫大なデータを解析することで、より精度の高い判別方法を提供することが可能となる。
【0019】
本発明の米の産地判別方法の実施例を説明する。
まず、既知の産地の米を用いて、産地別に米がどのような蛍光分布特性(励起蛍光マトリクス)を示すかを求めた。
(1)試料
国内産、中国産、タイ国産、米国産の白米(歩留まり約90パーセント)を用意し、各国ごとに4乃至6種類(品種)の試料を用意した。
(2)前処理
各試料30gを1分間ミルで粉砕後、5gずつシャーレ13に入れ、前記シャーレ13に入れた試料Sを恒温槽12に入れて静置(水分均質化)した。なお、恒温槽12内には複数の試料Sを同時に入れてもよく、例えば、同じ試料を予備として保管してもよい。
本実施例では48時間以上静置することで水分値のばらつきが小さくなることを確認した。一方で、もともとの試料の水分値のばらつきが小さい場合であれば、これより短い時間、例えば一晩静置することでもよい。
また、ばらつきが小さくなったか否かを判断するため、継時的に米の水分値を測定するという作業は不要である。例えば、48時間以上静置すれば、ばらつきが十分小さくなるという知見をもとに、判断すればよい。
(3)試料の測定
市販の蛍光分光光度計を用いて前記各試料の3次元蛍光スペクトルを得た。主な設定項目は、セルは合成石英セルを使用し、励起波長及び蛍光波長の範囲はともに200乃至600nmとした。ただし、波長幅は励起側が10nmなのに対し、蛍光側は5nmとした。測定時間は、1試料あたり約2分で測定でき、測定モードは3次元とした。
なお、上記設定は、あくまで一例であり、使用する蛍光分光光度計のメーカや機種によって適宜変更することは可能である。
(4)解析及び検量線の作成
得られた3次元蛍光スペクトルを、各国ごとの試料間の特性が最も顕著に表れるように多変量分析により解析を行った。
より具体的には、SAS institute社製のデータ分析ソフトウェアJMP12(登録商標)を用い、ステップワイズ変数選択(F値>3)により、F値の大きいものから順に変数として取り込み解析を行った。
(5)検量線(判別式)の作成
上記解析によって、最も産地を区別できる検量線を作成した。
本発明では、試料を乾燥させて水分のばらつきを抑えた場合の検量線と、試料を加湿させて水分のばらつきを抑えた場合の検量線の2種類を作成した。
なお、水分値ごとにさらに細かく検量線を作成してもよい。たとえば水分値を1パーセント刻みで検量線を作成し、産地未知の米の産地判別時に、該米の水分値に最も近い検量線を使って、産地判別をすることもできる。
(6)検量線の品質確認
上記検量線の品質を確認した。
図5は、産地判別結果図である。分かりやすいように2次元散布図により各国産の試料の分布状態を表している。
図5(a)は、従来の方法であり、水分値のばらつきを調整しなかったため、米国産以外は、産地ごとの判別ができていない。一方、図5(b)及び図5(c)は、本発明の方法であり、水分のばらつきを調整したため、産地ごとの判別の精度が高まっていることが示されている。なお、図5(b)は乾燥により水分値を調整したものであり、図5(c)は加湿により水分値を調整したものである。加湿によって水分値を調整した方が、水分値のばらつきがより少なかったため、産地判別をより明確にすることができたものと思われる。
【0020】
図6は、水分均質化工程により米の水分値がどのように変化したかを示す表である。表中、『静置後1』はデシケータにより乾燥させた場合、『静置後2』は加湿器により加湿した場合の値である。
デシケータによる乾燥、又は加湿器による加湿により、静置後の米の水分値が変わるのは当然であるが、水分のばらつき(標準偏差)が小さくなっていることが分かる。なお、図6の静置後の水分値は例示であり、ばらつきが一定の値以下になればよい。特に、本試験のように、0.37パーセント以下となれば、産地を十分に判別することが可能となる。
(7)検量線の追加データ
必要に応じて、本発明では使用していない産地の国(例えば韓国)の米を追加してもよい。この場合、必要に応じて、検量線の再検討を行う。
【0021】
本発明では、水分値を均一化することが要部であるが、その際、何パーセントの水分値にするというよりも、試料間の水分のばらつきを小さくすることに重きを置いている。そのため、米の水分の平均値は特に重要ではない。しかし、試料を乾燥又は加湿しすぎると、時間及びエネルギーの無駄となったり、試料の痛みの原因や操作性の劣化となったりするので、適度な水分値にすることが望ましい。
【0022】
水分均質化工程後の米の平均水分値は、水分均質化工程前と同じでも、高くても、低くてもよい。つまり、ばらつきが一定の範囲内に収まるのであればよい。
本試験では、国単位で産地判別を行ったが、例えば、日本国内の東日本産、西日本産のように、一つの国を細分化することも可能である。
【0023】
本発明は、上記実施の形態に限らず発明の範囲を逸脱しない限りにおいてその構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の産地判別方法は、煩雑な処理が不要な米の産地判別方法を提供することができるので、非常に有用なものである。
【符号の説明】
【0025】
1 蛍光分光光度計
2 本体
3 測定部カバー
4 測定部
5 光源
6 励起側分光器
7 ハーフミラー
8 試料ボックス
9 蛍光側分光器
10 蛍光検出器
11 コンピュータ
12 恒温槽(デシケータ/加湿器)
13 シャーレ
S 試料(米、米粉、玄米、白米)

図1
図2
図3
図4
図5
図6