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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】熱収縮性ガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20221208BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20221208BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/28 102
B65D65/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020006072
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112852
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-10-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313016820
【氏名又は名称】興人フィルム&ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 嵩平
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良和
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和宏
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-202876(JP,A)
【文献】特開2003-159761(JP,A)
【文献】特開2002-113823(JP,A)
【文献】特開2019-038188(JP,A)
【文献】特開平11-320741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B32B 27/28
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール層(A)、接着層(B)、ガスバリア層(C)、接着層(B)及びヒートシール層(A)を少なくともこの順に含む加熱積層延伸フィルムであって、
前記ヒートシール層(A)はエチレン系樹脂を主成分とする層であり、
前記接着層(B)はオレフィン系接着性樹脂を主成分とする層であり、
前記ガスバリア層(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を主成分とする層であり、
以下の条件(1)乃至条件(3)を満たすことを特徴とする、熱収縮性ガスバリアフィルム。
(1)幅方向(TD)における30%モジュラス値が5.0N/cm以下であること。
(2)長手方向(MD)及び幅方向(TD)における120℃の熱収縮率がそれぞれ40%以上であり、且つ長手方向(MD)における120℃の熱収縮率と幅方向(TD)における120℃の熱収縮率との比(MD/TD)が1.10以上であること。
(3)酸素透過度が23℃、65%RHにおいて20cc/m・day・atm以下であること。
【請求項2】
前記(MD/TD)が1.15以上であることを特徴とする、請求項1に記載の熱収縮性ガスバリアフィルム。
【請求項3】
ガス置換オーバーラップ包装に使用されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の熱収縮性ガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱収縮性ガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減への配慮から、食品業界では食品の廃棄ロスを削減する意識が高まっており、食品の消費期限延長を目的とした動きが活発化している。前記食品の消費期限を延長する手段の一つとして、ガスバリア性を有する包材に窒素ガス等の不活性ガスを充填して、食品を包装するガス置換包装が以前から知られている。
【0003】
上記ガス置換包装の形態としては、ガスバリア性を有するプラスチック製の容器(トレー等)に食品を入れて、容器内をガス置換した後、ガスバリア性を有する蓋材で容器をトップシールする方式や、ガス置換をしながら、ピロー包装機にてガスバリア性を有する熱収縮性フィルムで食品をオーバーラップする方式が一般的に知られている。前者は、ガス置換率が高いが、食品を包む包材すべてにガスバリア性が求められる為、包材コストの面で課題が残る。後者は、ノンバリアの容器(汎用トレー等)を使用することが可能であり且つ、高速連続包装が可能である為、スーパーやコンビニエンスストア等の食品製造業者は熱収縮性ガスバリアフィルムと専用のガス置換包装機とを用いた包装形態を好適に採用している。
【0004】
ところで、上記のオーバーラップする方式に用いられる熱収縮性ガスバリアフィルムとしては、ガスバリア性の高い樹脂層とオレフィン系樹脂層とを積層したフィルムが知られており、そのようなフィルムとしては、例えば、両外層が特定のエチレン-α-オレフィン共重合体[A]100重量部に対し、特定のエチレン-α-オレフィン共重合体[B]を10~50重量部混合させた樹脂組成物からなり、芯層がエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物からなり、両外層と芯層の間の中間層がポリオレフィン系接着性樹脂からなることを特徴とする熱収縮包装用多層フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された熱収縮包装用多層フィルムにおいて、芯層として用いるエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は分子間の相互作用が強いので、フィルムの熱収縮応力が大きくなりやすく、故に包装時に容器(トレー等)が変形する懸念があった。
【0006】
そこで、上記問題を解決すべく、特定温度における熱収縮率や特定温度における熱収縮応力で特定された熱収縮性積層フィルム、具体的には、
[1]融点130℃以上の熱可塑性樹脂を少なくとも含む基材層(A)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体ケン化物を少なくとも含むガスバリア層(B)と、ポリエチレン系樹脂を少なくとも含むヒートシール層(C)との少なくとも3層を備え、さらに以下の条件1)~3)を満たすことを特徴とする熱収縮性積層フィルム。
1)前記エチレン-ビニルアルコール共重合体ケン化物の融点が160℃以下、且つエチレン含量が40mol%以下。
2)80℃における幅方向の熱収縮率が5%以上
3)酸素透過率が23℃65%RHにおいて60cc/m・day・atm以下(特許文献2)、
[2]0.5N/15mm以下の層間強度を有する界面を介して積層された層(A)と層(B)とを備え、前記層(A)がポリプロピレン系樹脂を含有する基材層を少なくとも備え、前記層(B)がポリエチレン系樹脂を含有するシール層を少なくとも備え、さらに以下の条件(1)、(2)を満たすことを特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(1)前記界面で剥離した際の、長さ方向(MD)または巾方向(TD)いずれか一方の前記層(A)の熱収縮率と前記層(B)の熱収縮率との差が、100℃において10%以下。
(2)エチレン-ビニルアルコール共重合体ケン化物を含有するガスバリア層を有し、酸素バリアが23℃65%RHにおいて60cc/m・day・atm以下(特許文献3)、並びに
[3]一方の表面層がポリプロピレン系共重合体樹脂、他方の表面層がエチレン-α-オレフィン系共重合体樹脂からなり、ガスバリア性中間層としてエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、その両側には接着性樹脂層が配置された少なくとも5層からなり、以下の(1)~(6)を特徴とする熱収縮性積層フィルム。
(1)140℃におけるフィルムの熱収縮率が40~80%であること。
(2)140℃におけるフィルムの最大熱収縮応力が0.5~3.0MPaであること。(3)一方の表面層を構成するポリプロピレン系共重合体樹脂は、JIS-K7121に準拠して示差走査式熱量計(DSC)で測定した最大融解ピーク温度(Tm)が130~155℃であること。
(4)他方の表面層を構成するエチレン-α-オレフィン系共重合体樹脂は、JIS-K7121に準拠して示差走査式熱量計(DSC)で測定した最大融解ピーク温度(Tm)が85~125℃であること。
(5)ガスバリア層と、ポリプロピレン系共重合樹脂からなる一方の表面層との間に、接着性樹脂層として、変性ポリプロピレン系接着性樹脂層が配置されていること。
(6)ガスバリア層と、エチレン-α-オレフィン系共重合体樹脂からなる他方の表面層との間に、接着性樹脂層として、変性ポリエチレン系接着性樹脂層が配置されていること(特許文献4)
が提案されている。
【0007】
また、[4]エチレンα-オレフィン系共重合体などからなる表層(A)を、ポリアミドなどからなるガスバリアー性樹脂層(B)の両面に有する少なくとも4層からなる多層フィルムにおいて、少なくとも片側の上記表層(A)とガスバリアー性樹脂層(B)の間に、ポリブテン-1系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、および変性ポリオレフィン系樹脂接着性樹脂の混合樹脂からなる混合樹脂層(C)が配置され、
80℃における熱収縮率がタテとヨコの少なくとも1方向において15%以上であり、かつ80℃におけるタテとヨコの平均熱収縮率の値と100℃における同平均熱収縮率の値との差が20%以下であること、また80℃におけるタテとヨコの平均熱収縮応力が70g/mm以上で、かつ同温度での熱収縮力が110g/15mm幅以下であることを特徴とする熱収縮性多層フィルム(特許文献5)、及び
[5]表層が、エチレン・α-オレフィン共重合体と分岐状低密度ポリエチレンとの混合樹脂組成からなり、内層のうち、少なくとも一つの層(a)は、特定のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を50%以上含有する層であり、前記内層の片側、もしくは両側に接着層が配置された少なくとも4層以上であり、表層と内層の間には、接着層が配置され、かつ下記の物性を有することを特徴とする熱収縮性ガスバリアフィルム。
(1)ゲル分率が5~40wt%
(2)140℃における熱収縮率が縦方向、横方向それぞれ55%以上
(3)100℃における熱収縮応力が縦方向、横方向それぞれ230g/mm未満
(4)面積で30%収縮させた後のフィルムのヘイズが4.5%未満(特許文献6)
が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-024530号公報
【文献】特開2016-179648号公報
【文献】特開2015-221507号公報
【文献】特開2007-152570号公報
【文献】特開平7-266513号公報
【文献】特開2004-202876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2乃至特許文献6で提案されたフィルムは、ガス置換後又はガス置換をしながらオーバーラップ熱収縮包装する包装機(以下、「ガス置換オーバーラップ包装機」とも称する。)の製袋工程において、製袋時のフィルムが元に戻ろうとする幅方向(TD)の応力が大きいと、容器(トレー等)が変形する懸念があったが、これら特許文献には、ガス置換オーバーラップ包装機の製袋工程において、幅方向(TD)をストレッチしながらタイトに製袋する際に発生するフィルムの応力に関して何ら言及されていない。
また、特許文献2乃至特許文献6で提案されたフィルムは、ガス置換オーバーラップ包装機の製袋工程において、幅方向(TD)はストレッチしながらタイトに製袋されるのに対し、長手方向(MD)は連続的にシール&カットが出来るように前後に若干の余裕率を持たせた状態で熱収縮させる為、長手方向(MD)における熱収縮率と幅方向(TD)における熱収縮率との比が等倍に近い比では長手方向(MD)が収縮不足して、食品等を包装した包装物の天面にシワが残ったり、該包装物の四隅の角立ちが大きくなったり見栄えが悪くなる懸念があった。
【0010】
そこで本発明は、酸素雰囲気下、日持ちしにくい生鮮食品や加工食品等を、とりわけガス置換オーバーラップ包装機にて包装した場合に、ガスバリア性や収縮仕上がり性などの公知の要求特性を維持しながら、変形しやすい薄肉な容器(トレー等)でも美観性を損なわない程度に、包装後の容器(トレー等)の変形を抑制することができる熱収縮性ガスバリアフィルムの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のモジュラス値、長手方向(MD)及び幅方向(TD)における特定の熱収縮率、並びに特定の熱収縮率の比(MD/TD)を満たす熱収縮性ガスバリアフィルムがガス置換オーバーラップ包装機の製袋工程において、容器(トレー等)の幅方向(TD)への変形が少なく、また、収縮仕上がり性等に優れることを見出し、本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち本発明は、下記の通りである。
[1]ヒートシール層(A)、接着層(B)、ガスバリア層(C)、接着層(B)及びヒートシール層(A)を少なくともこの順に含む加熱積層延伸フィルムであって、
前記ヒートシール層(A)はエチレン系樹脂を主成分とする層であり、
前記接着層(B)はオレフィン系接着性樹脂を主成分とする層であり、
前記ガスバリア層(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を主成分とする層であり、
以下の条件(1)乃至条件(3)を満たすことを特徴とする、熱収縮性ガスバリアフィルム。
(1)幅方向(TD)における30%モジュラス値が5.0N/cm以下であること。
(2)長手方向(MD)及び幅方向(TD)における120℃の熱収縮率がそれぞれ40%以上であり、且つ長手方向(MD)における120℃の熱収縮率と幅方向(TD)における120℃の熱収縮率との比(MD/TD)が1.10以上であること。
(3)酸素透過度が23℃、65%RHにおいて20cc/m・day・atm以下であること。
[2]前記(MD/TD)が1.15以上であることを特徴とする、[1]に記載の熱収
縮性ガスバリアフィルム。
[3]ガス置換オーバーラップ包装に使用されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱収縮性ガスバリアフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは、優れた収縮仕上がり性を有し、また、容器の変形を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々変形して実施できる。
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは、ヒートシール層(A)、接着層(B)、ガスバリア層(C)、接着層(B)及びヒートシール層(A)を少なくともこの順に含むもの、すなわち、ヒートシール層(A)、接着層(B)、ガスバリア層(C)、接着層(B)及びヒートシール層(A)を少なくともこの順に加熱積層延伸してなるものであり、少なくとも5層を備えるものである。
【0015】
<ヒートシール層(A)>
本発明において、ヒートシール層(A)は熱収縮性ガスバリアフィルムにヒートシール性の作用効果を発現させる層であり、好ましくは最外層に配置される。
本発明において、ヒートシール層(A)はエチレン系樹脂を主成分とする層であり、該エチレン系樹脂は収縮仕上がり性や自動包装機における溶断シール性等に優れた特徴を付与する作用を成す。
エチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、及び/又は、エチレンと少量の他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。
なお、本発明において、エチレン系樹脂は1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0016】
エチレンの単独重合体としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられる。
【0017】
エチレンと少量の他のモノマーとの共重合体において、該他のモノマーとしては特に限定されず、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1及び4-メチル-ペンテン-1等の炭素原子数3乃至8のα-オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸並びに(メタ)アクリル酸の金属イオン中和物等が挙げられる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸との総称であり、そのいずれか一方又は両方を指す。
【0018】
本発明において、ヒートシール層(A)はエチレン系樹脂を主成分として構成されており、該エチレン系樹脂の含有量は、ヒートシール層(A)を構成する成分100質量%中、例えば、70質量%であり、好ましくは80質量%であり、より90質量%であり、さらに好ましくは95質量%であり、より一層好ましくは97質量%である。
【0019】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムを用いて食品等を包装する場合、フィルムの表面が疎水性であるので、食品等によっては食品中の水分蒸発等により、フィルム表面に付着した水分が水滴となって曇りが生じ、被包装物の識別性を低下させる可能性がある。斯かる場合、本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは防曇剤(グリセリン脂肪酸エステル等)
を使用することにより、フィルム表面に防曇剤を存在させて、フィルム表面を親水化することで、水滴では無く水膜にすることができるので、曇りの発生を抑え、被包装物を包装する多層フィルムとして適切な外観を得ることができる。
上記の防曇剤の含有量は、ヒートシール層(A)を構成する成分100質量%中、例えば0質量%乃至4質量%である。
【0020】
なお、本発明において、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、前記ヒートシール層(A)に熱可塑性樹脂、滑剤、界面活性剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、及び酸化防止剤等の添加剤をそれぞれの有効な性能を発揮させる目的で適宜使用することができる。
【0021】
<接着層(B)>
本発明において、接着層(B)は熱収縮性ガスバリアフィルムにおける層間の接着強度を高める作用効果を発現させる層であり、好ましくはヒートシール層(A)とガスバリア層(C)との間に配置される。
本発明において、接着層(B)はオレフィン系接着性樹脂を主成分とする層である。オレフィン系接着性樹脂は、官能基がグラフト反応によってオレフィン樹脂の主鎖に導入されているので、オレフィン樹脂から構成される層、ガスバリア層及び金属膜等と熱反応によって接着する性質を有する。よって、接着層(B)はヒートシール層(A)とガスバリア層(C)との間に配置することで、本来層間で接着しにくいヒートシール層(A)とガスバリア層(C)とを接着できる。また、オレフィン系接着性樹脂を主成分とする接着層(B)は、オレフィン系樹脂同様の優れた成型加工性を有していることから延伸支持層としての効果も発揮することができる。
【0022】
オレフィン系接着性樹脂としては、耐熱性に優れる観点から、変性プロピレン系接着性樹脂が好ましく、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、プロピレンとエチレンとα-オレフィンとの3元共重合体等のプロピレン系樹脂に、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物をグラフト共重合した変性重合体が好適である。
なお、本発明において、オレフィン系接着性樹脂は1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0023】
本発明において、接着層(B)はオレフィン系接着性樹脂を主成分として構成されており、ヒートシール層(A)とガスバリア層(C)との層間接着性及び延伸安定性の両立の観点から、該オレフィン系接着性樹脂の含有量は、接着層(B)を構成する成分100質量%中、例えば、50質量%であり、好ましくは80質量%であり、より好ましくは90質量%であり、さらに好ましくは95質量%であり、より一層好ましくは100質量%である。
オレフィン系接着性樹脂の含有量が50質量%未満である場合、ヒートシール層(A)とガスバリア層(C)との層間接着力が低下して、未延伸フィルムの延伸中にヒートシール層(A)、接着層(B)及びガスバリア層(C)の層間での延伸加工時の延伸追随性が低下する虞があり、これにより、層間剥離を起こして、目的のフィルムが得られない可能性がある。接着層(B)が未延伸フィルムの延伸時に層間剥離を起こさない範囲で、接着層(B)の延伸安定性を更に良化させるために、接着層(B)に延伸性に優れたオレフィン系樹脂を、接着層(B)を構成する成分100質量%中、0質量%乃至50質量%含有させても良い。
【0024】
<ガスバリア層(C)>
本発明において、ガスバリア層(C)は熱収縮性ガスバリアフィルムにガスバリア性の作用効果を発現させる層であり、好ましくは2つの接着層(B)の間に配置される。
本発明において、ガスバリア層(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を主成分とする層である。該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は、ヒドロキシ基を豊富に有していることから、ヒドロキシ基同士が水素結合することで分子間の隙間が著しく狭まるため、ガスバリア層(C)を含む本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムはガス透過を阻害する、即ち優れたガスバリア性を有する。
一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は水分を含有すると、分子間の水素結合が弱まりガスバリア性が低下すること、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物単体での延伸安定性にとぼしいことから、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂で構成される層でエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の層を挟み込んだ多層構造体とすることが公知である。
【0025】
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は、エチレンとビニルアルコールとの組成比率に基づいて、フィルムのガスバリア性や延伸性が変化し、エチレン含有量が高い程延伸性は良好になるが、ガスバリア性が低下していく傾向になる。
エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物としては、ガスバリア性や延伸加工適性の面から、エチレン含有量が25モル%乃至48モル%でケン化度が95%以上のものが好ましい。
また、エチレン含有量以外でもエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の結晶性と融点を制御することで、成形加工性を大幅に向上させた変性エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物のグレードも存在する。
【0026】
本発明において、ガスバリア層(C)はエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を主成分として構成されており、該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の含有量は、ガスバリア層(C)を構成する成分100質量%中、例えば、50質量%であり、好ましくは80質量%であり、より好ましくは90質量%であり、さらに好ましくは95質量%であり、より一層好ましくは100質量%である。
【0027】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムの層構成は、少なくとも5層以上の層構成であり、例えばヒートシール層(A)/接着層(B)/ガスバリア層(C)/接着層(B)/ヒートシール層(A)からなる5層構成が挙げられる。ヒートシール層(A)、接着層(B)及びガスバリア層(C)以外の層については本発明の目的に支障をきたさない範囲であれば、特に制限はない。
【0028】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムの各層の厚み構成比については、本発明の目的を達し得る範囲であれば、特に限定されない。フィルムの全体厚みも特に限定されないが、熱収縮性包装材料用途としては10μm乃至35μmであることが好ましい。
【0029】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムの物性については、(1)幅方向(TD)における30%モジュラス値が5.0N/cm以下であること、(2)長手方向(MD)及び幅方向(TD)における120℃の熱収縮率がそれぞれ40%以上であり、且つ長手方向(MD)における120℃の熱収縮率と幅方向(TD)における120℃の熱収縮率との比(MD/TD)が1.10以上であること、並びに(3)酸素透過度が23℃、65%RHにおいて20cc/m・day・atm以下であることを満たす必要がある。
【0030】
幅方向(TD)における30%モジュラス値は5.0N/cm以下であり、4.7N/cm以下であることが好ましい。TDにおける30%モジュラス値が5.0N/cmを超える場合は、ガス置換オーバーラップ包装機の製袋工程において、TDをストレッチしながらタイトに製袋する際に、フィルムがTDに元に戻ろうとする力が大きくなり、容器(トレー等)が変形する懸念がある。
一方、TDにおける30%モジュラス値は1.0N/cm以上であることが好ましい。
1.0N/cm未満では、ガス置換オーバーラップ包装機の製袋工程において、フィルムがTDに伸びやすく、製袋品のTDの余裕率が安定しにくいので、余裕率が大きくなると熱収縮包装後のフィルムに大きな角部や全体的なシワが目立ち、外観を損ねる懸念がある。
【0031】
MD及びTDにおける120℃の熱収縮率がそれぞれ40%未満である場合は、フィルムの熱収縮性が不十分となる虞があり、ゆえに熱収縮包装後のフィルムに大きな角部や全体的なシワが目立ち、外観を損ねる可能性がある。
また、長手方向(MD)における120℃の熱収縮率と幅方向(TD)における120℃の熱収縮率との比(MD/TD)は1.10以上であり、1.15以上であることが好ましく、1.20以上であることがより好ましい。ガス置換オーバーラップ包装機による包装袋の余裕部について、幅方向(TD)はタイトであるのに対し、長手方向(MD)は大きいので、上記の熱収縮比(MD/TD)が1.10未満である場合には、フィルムのMDの熱収縮性が不十分となる虞があり、ゆえに著しく角が残り外観を損ねる懸念がある。
【0032】
また、23℃、65%RHにおける酸素透過度は食品の鮮度保持の観点から、20cc/m・day・atm以下であり、15cc/m・day・atm以下であることが好ましい。20cc/m・day・atmを超える場合には、内容物である食品の鮮度保持効果が小さくなる懸念がある。
【0033】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムを用いた食品の包装形態については、鮮度保持が難しい精肉、加工肉、魚介類等を発泡トレーや成形トレー等の容器に入れた被包装物を、ガス置換オーバーラップ包装機にてオーバーラップして熱収縮包装する形態が、食品の鮮度保持の低下を抑制することができるので、食品の廃棄ロス抑制の観点で好ましい。
【0034】
例えば、本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは、(株)フジキカイ製のFW3451GBなどの包装機に使用することにより、精肉トレー等の容器をガス置換しながらオーバーラップして熱収縮包装することができる。これにより、従来、店頭のバックヤードで、手作業でオーバーラップ包装していた代わりに、本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムを用いて、パックセンター等でまとめて自動包装してから、各店頭に配送することが出来るので、人手不足の解消に寄与する効果も奏する。
【0035】
[熱収縮性ガスバリアフィルムの製造方法]
次に、本発明のフィルムの製造方法を例示する。上記の各層を構成する成分を用いて製造した多層フィルムを公知の縦横同時2軸延伸方法で延伸する。延伸倍率は縦横ともに3倍乃至5倍であることが好ましい。3倍未満では、得られるフィルムの熱収縮率が低く、満足な収縮仕上がり性が得られない可能性がある為、好ましくなく、5倍を超えるとフィルムの引裂強度が低下する可能性がある。
【0036】
以下、5層積層環状製膜延伸の場合を例に挙げ、具体的に説明する。
まず、エチレン系樹脂及び防曇剤を含有する樹脂組成物から形成されたヒートシール層が両表層に、オレフィン系接着性樹脂を主成分とする接着層が両中間層に、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を主成分とするガスバリア層が芯層となるように、3台或いは5台の押出機により溶融混練し、押出機先端に接合された5層構成の環状ダイより環状に共押出し、延伸することなく一旦急冷固化してチューブ状未延伸多層フィルムを作製する。次いで、得られたチューブ状未延伸多層フィルムを、チューブラー延伸装置に供給し、高度の配向可能な温度範囲に再加熱し、チューブ内部にガス圧を適用して膨張延伸により、縦横ともに延伸倍率3倍乃至5倍で同時二軸配向を起こさせる。延伸装置から取り出した多層フィルムは、所望により熱処理やアニーリングすることが出来、これにより常温で
のフィルムの残留応力を低減して、保存中の自然収縮を抑制することができる。
また、熱処理においては熱処理入口から出口にかけての速度比の積(以下、トータルドローとする)を設定することにより、本発明における特定のモジュラス値及び120℃における長手方向(MD)の熱収縮率と120℃における幅方向(TD)の熱収縮率との特定の比(MD/TD)を満たすフィルムをより容易に得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
なお、実施例及び比較例おける測定及び評価の方法は、以下に示す通りに行った。
1.フィルム厚み:JIS Z 1709に準じて測定した。
2.厚み比:フィルムの断面を顕微鏡で観察することにより測定した。
3.30%モジュラス値:JIS K 7127に準じて、測定のつかみ間隔を50mmとして、フィルムのMD及びTDについて測定し、伸度30%の時の値を算出した。
4.熱収縮率:ASTM-D2732に準じて120℃で測定した。その際、MDとTDの測定値の比(MD/TD)を算出した。
5.酸素透過度:JIS K 7126(等圧法)に準じて23℃、65%RH条件で測定した。
6.包装評価:(株)フジキカイ製の自動包装機(型式:FW3451GB)にて、ダミー内容物を入れたノンバリアトレーを適切な製袋余裕率条件でガス充填しながらオーバーラップ包装し、123℃に設定した収縮トンネル内を2~3秒滞留させ、トンネル通過後の包装サンプル10個から、トレー容器変形評価、収縮仕上がり評価を実施した。
<トレー容器変形評価>
○:包装サンプル10個すべてについて、包装サンプルのトレー横部の変形が殆ど無い。×:包装サンプル10個すべてについて、包装サンプルのトレー横部の変形が目立ち、外観を損ねる。
<収縮仕上がり性評価>
○:包装サンプル10個すべてについて、収縮フィルムと被包装物とのタイト感は十分あり、また包装サンプルの四隅の角立ちが殆ど無い。
×:包装サンプル10個すべてについて、収縮フィルムと被包装物とのタイト感が不十分、または、包装サンプルの四隅の角立ちが大きく、外観を損ねる。
【0039】
実施例1
表1に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)97質量部、グリセリン脂肪酸エステル成分の防曇剤(D1)3質量部からなる樹脂組成物を両ヒートシール層とし、密度0.896g/cm、MI7.7g/10分の変性ポリプロピレン(B1)100質量部からなる樹脂組成物を両接着層とし、密度1.160g/cm、MI4.0g/10分、エチレン含有量38mol%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(C1)100質量部からなる樹脂組成物をガスバリア層とし、3台の押出機で溶融混練した後、厚み比が3/2/1/2/3になるように各押出機の押出量を設定し、5層環状ダイスにより下向きに共押出した。形成された5層構成チューブを、内側は冷却水が循環している円筒状冷却マンドレルの外表面を摺動させながら、外側は水槽を通すことにより冷却して引き取り、未延伸フィルムを得た。このチューブ状未延伸フィルムをチューブラー二軸延伸装置に導き、チューブ状未延伸フィルムの内部にエアーを供給し、加圧と同時に、該チューブ状未延伸フィルムを構成する全ての樹脂の融点以下の温度で加熱しながら、縦横それぞれ4倍に延伸した後、熱処理部で1.02倍のトータルドローを取りながら熱処理することで、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のい
ずれもが良好であった。
【0040】
実施例2
表1に示すように、厚み比を2/2/1/2/2とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のいずれもが良好であった。
【0041】
実施例3
表1に示すように、延伸倍率(MD×TD)を5×4倍に、熱処理部でのトータルドローを1.10とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のいずれもが良好であった。
【0042】
実施例4
表1に示すように、厚み比を1/4/1/4/1に、熱処理部でのトータルドローを1.00とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のいずれもが良好であった。
【0043】
実施例5
表1に示すように、厚み比を1/2/1/2/1に、延伸倍率(MD×TD)を4×3倍とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のいずれもが良好であった。
【0044】
比較例1
表2に示すように、厚み比を2/2/1/2/2に、熱処理部でのトータルドローを1.00とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性及びトレー容器変形評価については良好なものの、収縮仕上がり性評価が不十分な結果であった。
【0045】
比較例2
表2に示すように、延伸倍率(MD×TD)を4×3倍に、厚み比を1/2/1/2/1に、熱処理部でのトータルドローを0.98とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性については良好なものの、トレー容器変形評価及び収縮仕上がり性評価のいずれもが不十分な結果であった。
【0046】
比較例3
表2に示すように、厚み比を1/4/1/4/1に、熱処理部でのトータルドローを1.03とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性及び収縮仕上がり性評価については良好なものであったが、トレー容器変形評価が不十分な結果であった。
【0047】
比較例4
表2に示すように、熱処理部でのトータルドローを1.04とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み15μmの熱収縮性ガスバリアフィルムを得た。
得られたフィルムは、酸素バリア性及び収縮仕上がり性評価については良好なものであったが、トレー容器変形評価が不十分な結果であった。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは、食品を入れたトレー等の容器をガス置換包装機にてオーバーラップ熱収縮包装する形態において、食品等の鮮度保持期間を延長することが可能である。また、本発明の熱収縮性ガスバリアフィルムは、ガス置換包装機において収縮仕上がり性に優れ、容器(トレー等)の変形を抑制でき、包装物の美観性を損ないにくい熱収縮性包装材料として好適に用いることが出来る。