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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】骨のリモデリング促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/482 20060101AFI20221208BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20221208BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221208BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A61K36/482
A61K31/7034
A61P19/10
A61P19/08
A61K31/353
A23L33/105
A61K31/366
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019543698
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034808
(87)【国際公開番号】W WO2019059275
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2017181670
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509332084
【氏名又は名称】学校法人北陸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏一
(72)【発明者】
【氏名】川田 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】北出 翔子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 麻子
(72)【発明者】
【氏名】大本 まさのり
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072598(JP,A)
【文献】特開2003-026572(JP,A)
【文献】特開2002-234844(JP,A)
【文献】特表2011-513390(JP,A)
【文献】HABAUZIT,V. et al.,Differential effects of two citrus flavanones on bone quality in senescent male rats in relation to,Bone,2011年,Vol.49,No.5,pp.1108-1116.
【文献】WANG,X.L. et al.,Effects of Eleven Flavonoids from the Osteoprotective Fraction of Drynaria fortunei(KUNZE)J.SM. on O,Chem.Pharm.Bull.,2008年,Vol.56,No.1,pp.46-51.
【文献】Pharmazie,2017年03月,Vol.72, pp.161-166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を含有する、骨のリモデリング促進剤であって、フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上が、カワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Siebold) H.Ohashi)のメタノールおよび酢酸エチルによる抽出物として含有される、骨のリモデリング促進剤
【請求項2】
’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を含有す、骨のリモデリング促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の骨のリモデリング促進剤を含有する、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善用医薬品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の骨のリモデリング促進剤を含有する、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有用な骨のリモデリング促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨代謝性疾患であると定義される。
骨強度は、骨量と骨質に依存して変化する。骨は、成長期が終了しても、破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成とを行うリモデリングを繰り返し、1年間に20%~30%の骨が新しい骨に入れ替わっている。このリモデリングのバランスが崩れて、骨吸収が骨形成を上回ると、骨量の低下が生じる。
また、骨質は、骨の微細構造の変化(マイクロダメージ)、微小骨折の蓄積、コラーゲン等の骨を形成する成分の劣化等により低下する。
かかる骨量の低下や骨質の低下は、加齢;女性ホルモン(エストロゲン)の分泌の低下等によるホルモンのアンバランス;カルシウム、タンパク質、ビタミンD、ビタミンK等の不足、栄養吸収の低下等による栄養のアンバランス;運動不足;喫煙;飲酒;内分泌系疾患、糖尿病、関節リウマチ等の疾患;ステロイド薬等の薬物等により引き起こされ得ることが知られている。
【0003】
骨粗鬆症患者では、転倒等の軽い衝撃でも骨折の危険性が高まり、特に高齢者の場合、骨折により介護が必要となることが多い。従って、骨粗鬆症を治療、改善し、また予防することは重要である。
骨粗鬆症の治療法としては、骨の主成分であるカルシウムやタンパク質、骨のリモデリングに必要なビタミンD、ビタミンK等を積極的に摂取し、かつバランスの取れた食事を心がける食事療法、ウォーキングやエアロビクス等、中程度の強度のある運動や、背筋を鍛える運動を継続して行う運動療法、アレンドロン酸ナトリウム水和物、リセドロン酸ナトリウム水和物、イバンドロン酸ナトリウム水和物、ゾレドロン酸水和物等のビスホスホネート製剤、塩酸ラロキシフェン等の選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)製剤、デノスマブ等の抗RANKL(Receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)モノクローナル抗体製剤等、骨の吸収を防ぎ、骨量を増加させる薬物、テリパラチド等の副甲状腺ホルモン製剤等、骨の形成を促進し、骨量を増加させる薬物、アルファカルシドール、カルシトリオール、エルデカルシトール等の活性型ビタミンD製剤、メナテトレノン等のビタミンK製剤等、骨の代謝を助ける薬物等を用いた薬物療法が行われている。
【0004】
また、骨密度の増加、骨形成促進、骨代謝異常の予防または改善効果等を有し、食品としても摂取可能な成分として、たとえば、ホエイタンパク質加水分解物(特許文献1)、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、アスコルビン酸-2-グルコシド等のアスコルビン酸誘導体(特許文献2)、メナキノン-7(特許文献3)、アラメ抽出物(特許文献4)、サメ鼻軟骨プロテオグリカン(特許文献5)等、多くの提案がなされている。
さらに、古くから民間伝承薬として利用されてきたカワラケツメイのエタノール、水およびそれらの混合物から選ばれた溶媒による抽出物が、骨吸収抑制効果を有することが報告されている(特許文献6)。
【0005】
しかしながら、たとえば骨粗鬆症治療薬として用いられているビスホスホネート製剤は、骨吸収のみならず骨形成をも抑制することが知られており、副甲状腺ホルモン製剤等のホルモン製剤には、骨の形成促進、骨量増加作用の他に、ホルモン様作用の発現等が懸念される。
また、骨粗鬆症の予防または治療薬としては、骨吸収の抑制を主な作用とするのみでなく、積極的に骨形成を促進することができ、さらに安全性が高く、長期間連続して摂取させ得るものまたは投与し得るものが求められるが、骨形成促進作用の報告されている成分については、十分な安全性と有効性が確認されているものが少ないのが実情である。
従って、骨吸収を抑制するのみでなく、骨形成を促進することができ、かつ安全性の高い骨粗鬆症の予防または改善剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-184961号公報
【文献】特開2014-001201号公報
【文献】特開2015-181366号公報
【文献】特開2014-152129号公報
【文献】特開2015-182960号公報
【文献】特開2001-072598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、骨形成を良好に促進することができ、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有効で、かつ安全性が高く、長期間の連続摂取または投与に適する予防または改善剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、フラバノンおよびその配糖体が骨のリモデリングを良好に促進する作用を有し、かつ安全性が高く、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を含有する、骨のリモデリング促進剤。
[2]フラバノンおよびその配糖体が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のフラバノンおよびその配糖体である、[1]に記載の骨のリモデリング促進剤。
[3]フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のメタノールおよび酢酸エチルによる抽出物として含有される、[1]に記載の骨のリモデリング促進剤。
[4]フラバノンおよびその配糖体が、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンおよびその配糖体である、[1]~[3]のいずれかに記載の骨のリモデリング促進剤。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の骨のリモデリング促進剤を含有する、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善用医薬品。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の骨のリモデリング促進剤を含有する、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善用食品組成物。
[7][1]~[4]のいずれかに記載の骨のリモデリング促進剤、ならびに、当該促進剤を骨のリモデリングの促進、あるいは骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に使用することができること、または使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業的パッケージ。
[8]骨のリモデリングを促進するために有効な量のフラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を、骨のリモデリングを促進する必要のある対象動物に摂取させること、または投与することを含む、骨のリモデリングの促進方法。
[9]フラバノンおよびその配糖体が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のフラバノンおよびその配糖体である、[8]に記載の促進方法。
[10]フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のメタノールおよび酢酸エチルによる抽出物として含有される、[8]に記載の促進方法。
[11]フラバノンおよびその配糖体が、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンおよびその配糖体である、[8]~[10]のいずれかに記載の促進方法。
[12]骨粗鬆症または骨強度の低下を予防または改善するために有効な量のフラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を、骨粗鬆症または骨強度の低下を予防または改善する必要のある対象動物に摂取させること、または投与することを含む、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善方法。
[13]フラバノンおよびその配糖体が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のフラバノンおよびその配糖体である、[12]に記載の予防または改善方法。
[14]フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上が、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物のメタノールおよび酢酸エチルによる抽出物として含有される、[12]に記載の予防または改善方法。
[15]フラバノンおよびその配糖体が、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンおよびその配糖体である、[12]~[14]のいずれかに記載の予防または改善方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、骨芽細胞および破骨細胞の双方の分化を良好に促進し、骨吸収と骨形成をバランスよく促進することにより骨のリモデリングを促進し得る、骨のリモデリング促進剤を提供することができる。
本発明の骨のリモデリング促進剤は、骨代謝を促進し、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1の検討結果を示す図である。図中、ALP陽性骨芽細胞結節数(コントロールに対する比)は、平均値±標準偏差(n=3)にて示す。また、図中の「*」は、コントロールに対しp<0.05で有意であることを示し、「**」は、コントロールに対しp<0.01で有意であることを示す。
図2図2は、試験例2の検討結果を示す図である。図中、TRAP陽性破骨細胞数(/ウェル)は、平均値±標準偏差(n=3)にて示す。また、図中の「*」は、コントロールに対しp<0.05で有意であることを示し、「**」は、コントロールに対しp<0.01で有意であることを示す。
図3図3は、試験例3において、各群のマウスの脊椎の非脱灰薄切標本のVon Kossa染色画像を示す図である。図中のバーは、スケール(200μm)を示す。
図4図4は、試験例3において、各群のマウスの椎体の海綿骨量の測定結果を示す図である。海綿骨量の測定結果は、平均値±標準偏差(n=6)にて示す。また、図中の「**」は、偽手術群に対しp<0.01で有意であることを示し、「#」は、コントロール群に対しp<0.05で有意であることを示し、「##」は、コントロール群に対しp<0.01で有意であることを示す。
図5図5は、試験例3において、各群のマウスの椎体の骨梁数の測定結果を示す図である。骨梁数の測定結果は、平均値±標準偏差(n=6)にて示す。また、図中の「**」は、偽手術群に対しp<0.01で有意であることを示し、「##」は、コントロール群に対しp<0.01で有意であることを示す。
図6図6は、試験例3において、各群のマウスの椎体の骨梁幅の測定結果を示す図である。骨梁幅の測定結果は、平均値±標準偏差(n=6)にて示す。また、図中の「**」は、偽手術群に対しp<0.01で有意であることを示す。
図7図7は、試験例3において、各群のマウスの椎体の海綿骨表面におけるALP陽性骨芽細胞面(偽手術群に対する比)の測定結果を示す図である。ALP陽性骨芽細胞面の測定結果は、平均値±標準偏差(n=6)にて示す。また、図中の「#」は、コントロール群に対しp<0.05で有意であることを示し、「##」は、コントロール群に対しp<0.01で有意であることを示す。
図8図8は、試験例3において、各群のマウスの椎体の海綿骨表面におけるTRAP陽性破骨細胞面(偽手術群に対する比)の測定結果を示す図である。TRAP陽性破骨細胞面の測定結果は、平均値±標準偏差(n=6)にて示す。また、図中の「**」は、偽手術群に対しp<0.01で有意であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、骨のリモデリング促進剤(以下、本明細書において「本発明の剤」とも称する)を提供する。
本発明の剤は、フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上を含有する。
【0013】
本発明の「骨のリモデリング促進剤」とは、骨のリモデリングを促進する作用を有し、骨粗鬆症の予防または改善用の医薬品等に含有され得る成分または組成物をいう。
【0014】
本発明の剤に含有されるフラバノンは、下記の式(1)で示されるフラバノン骨格を有する化合物であり、その配糖体は、通常、7位においてグリコシル化された化合物である。
【0015】
【化1】
【0016】
本発明においては、フラバノンおよびその配糖体は、公知のエナンチオ選択性化学的合成法、生化学的合成法等により、所望の化合物を合成して用いてもよく、また、これらを含む植物等から抽出し、単離、精製して用いてもよい。フラバノンおよびその配糖体として、植物等から得られた抽出物、または粗精製物の状態で用いることもできる。
フラバノンおよびその配糖体を含む植物としては、カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する植物が好ましい植物として例示され、カワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Siebold) H.Ohashi)がより好ましい。
カワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Siebold) H.Ohashi)は、マメ科(Leguminosae)ジャケツイバラ亜科(Caesalpinioideae)カワラケツメイ属(Chamaecrista)に属する一年草であり、古くから弘法茶、浜茶として、また利尿の民間薬として利用されている。
【0017】
本発明の剤には、カワラケツメイ等、カワラケツメイ属に属する植物の植物体から、抽出溶媒により抽出して得られるフラバノンおよびその配糖体が好ましく用いられる。
【0018】
カワラケツメイ属に属する植物の植物体は水洗し、そのまま、または細切、乾燥、粉砕等を行うことにより、スラリー状、細粒状、顆粒状または粉末状として抽出に供する。
抽出には、カワラケツメイ属に属する植物の花、葉、茎、果実、根等の各部位を用いることができるが、果実を除く地上部を用いることが好ましい。
抽出溶媒としては、水や、低級アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、多価アルコール(たとえば、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン等)、低分子カルボン酸のエステル(酢酸エチル等)、ケトン(アセトン等)等の極性を有する有機溶媒を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の目的には、メタノール、エタノール等の低級アルコール、酢酸エチル等の低分子カルボン酸のエステルを用いることが好ましく、メタノールおよび酢酸エチルを用いることがより好ましい。
抽出溶媒は、カワラケツメイ属に属する植物の植物体100g(乾燥重量)に対し、通常100mL~1000mL、好ましくは400mL~1000mLを用いる。
【0019】
抽出は、上記抽出溶媒にカワラケツメイ属に属する植物の植物体を浸漬し、そのまま静置し、もしくは撹拌して行うことができる。また、ビーズ式破砕装置等により、カワラケツメイ属に属する植物の植物体を抽出溶媒中で破砕し、または該植物体を抽出溶媒中でホモジネートして行ってもよい。
抽出温度および抽出時間は、カワラケツメイ属に属する植物の植物体の前処理の方法、抽出溶媒の種類、抽出方法等に応じて、適宜決定することができる。たとえば、低級アルコールを含む抽出溶媒に浸漬して抽出する場合、抽出は通常70℃~80℃で1時間~4時間行い、70℃~80℃で2時間~4時間行うことが好ましい。
抽出後、常法に従い、たとえばろ過、遠心分離等により、抽出液を回収する。
【0020】
本発明の剤において、カワラケツメイ属に属する植物から抽出されたフラバノンおよびその配糖体は、カワラケツメイ属に属する植物の抽出物中に含有された状態で用いることもできるが、常法に従って粗精製または精製し、これらを主成分として含有する画分として、あるいはフラバノンまたはその配糖体としてそれぞれ単離された状態で用いることもできる。
【0021】
カワラケツメイ属に属する植物の抽出物からの、フラバノンまたはその配糖体の粗精製または精製は、抽出物の濃縮、シリカゲルクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィー、逆相シリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等による分離等を組み合わせて行うことができる。
【0022】
好ましいフラバノンとしては、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノン(ブチン)が挙げられ、好ましいフラバノン配糖体としては、前記フラバノンの配糖体が挙げられ、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノン 7-O-β-D-グルコピラノシドが、特に好ましいフラバノン配糖体として挙げられる。
【0023】
本発明の剤には、化学的合成法や生化学的合成法により合成したフラバノンおよびその配糖体、カワラケツメイ属に属する植物をはじめ各種植物から抽出して得られたフラバノンおよびその配糖体等、各種のフラバノンおよびその配糖体からなる群より、1種または2種以上を選択して含有させることができる。
【0024】
本発明の剤は、フラバノンおよびその配糖体からなる群より選択される1種または2種以上(以下、本明細書において「フラバノン類」と称することがある)に、必要に応じて、製剤の分野で用いられる一般的な添加剤を加えて、製剤の分野で周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条に記載された方法等により調製することができ、溶液状、懸濁液状、乳液状等の液状;ゲル状、ペースト状、クリーム状等の半固形状;粉末状、顆粒状、タブレット状、カプセル状等の固形状等の形態とすることができる。
【0025】
上記添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、基剤、溶剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0026】
賦形剤としては、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、デンプン(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン等)、糖類(ブドウ糖、乳糖、白糖等)、糖アルコール(ソルビトール、マルチトール、マンニトール等)等が挙げられる。
【0027】
結合剤としては、ゼラチン、カゼインナトリウム、デンプンおよび加工デンプン(トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン等)、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
【0028】
崩壊剤としては、ポビドン、クロスポビドン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、メチルセルロース等)等が挙げられる。
【0029】
滑沢剤としては、タルク、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0030】
被覆剤としては、メタクリル酸共重合体(メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体等)、メタクリレート共重合体(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体等)等が挙げられる。
【0031】
基剤としては、炭化水素(流動パラフィン等)、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、マクロゴール1500等)等が挙げられる。
【0032】
溶剤としては、精製水、一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
【0033】
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム、N-アシルグルタミン酸塩等)、精製大豆レシチン等が挙げられる。
【0034】
分散剤としては、アラビアゴム、アルギン酸プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)、陰イオン性界面活性剤(アルキル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0035】
懸濁化剤としては、アルギン酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)等が挙げられる。
【0036】
安定化剤としては、アジピン酸、エチレンジアミン四酢酸塩(エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等)、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0037】
粘稠剤としては、水溶性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等)、多糖類(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガント等)等が挙げられる。
【0038】
pH調整剤としては、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸、没食子酸プロピル等が挙げられる。
【0040】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)等が挙げられる。
また、保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビトール、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル等)、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0041】
矯味剤としては、アスコルビン酸、エリスリトール、5’-グアニル酸二ナトリウム、クエン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、酒石酸、DL-リンゴ酸等が挙げられる。
また、甘味剤としては、アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等が挙げられる。
【0042】
香料としては、オレンジエッセンス、l-メントール、d-ボルネオール、バニリン、リナロール等が挙げられる。
【0043】
着色剤としては、タール色素(食用赤色2号、食用青色1号、食用黄色4号等)、無機顔料(ベンガラ、黄色三二酸化鉄、酸化チタン等)、天然色素(アナトー色素、ウコン色素、カロテノイド等)等が挙げられる。
【0044】
上記した添加剤は、必要に応じて、1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
本発明の剤は、骨芽細胞および破骨細胞の双方の分化を良好に促進し、骨吸収と骨形成をバランスよく促進することにより骨のリモデリングを促進し、骨代謝を促進することができる。
その結果、本発明の剤は、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防又は改善に有効であり、骨粗鬆症患者、またはホルモンバランスや栄養状態の悪化等により骨強度の低下が見られ、骨粗鬆症を発症するリスクを有する者に好適に適用される。
さらに、本発明の剤に含有されるフラバノン類は、主として、古くから健康茶として飲用されてきたカワラケツメイ等の植物から得られる成分であり、安全性が高い。
従って、本発明の剤は、長期間にわたり連続して摂取させまたは投与することができる。
【0046】
本発明の剤におけるフラバノン類の含有量は、その種類や骨のリモデリング促進作用の強さ等により適宜決定されるが、本発明の剤の全量に対し、好ましくは0.01重量%~100重量%であり、より好ましくは0.05重量%~100重量%である。
【0047】
また、本発明の剤の1日あたりの摂取量または投与量は、適用される対象(以下、本明細書において「適用対象」ともいう)の性別、年齢、適用対象に観察される骨強度の低下の状況および程度、ならびに本発明の剤の形態、投与方法等により適宜決定されるが、適用対象がヒト成人である場合、フラバノン類の量として、好ましくは3mg~150mgであり、より好ましくは10mg~100mgであり、さらに好ましくは10mg~50mgであり、より一層好ましくは15mg~50mgである。
上記の量は、1回で摂取させまたは投与してもよく、1日数回(たとえば2~3回)に分けて摂取させまたは投与してもよい。
また、本発明の剤の摂取または投与期間も、適用対象の骨強度の低下の状況および程度等に応じて適宜設定される。骨粗鬆症が、加齢やホルモンのアンバランス等により引き起こされる骨代謝性疾患であることを考慮すると、骨粗鬆症を予防または改善するためには、本発明の剤は、長期間にわたり継続して摂取させまたは投与することが好ましい。
【0048】
本発明の剤は、単位包装形態とすることができる。本明細書において「単位包装形態」とは、特定量(たとえば、1回あたりの摂取量または投与量等)を1単位とし、該1単位又は2単位以上が一つの容器に充填され、または包装体に包装される等して収容された形態をいい、たとえば、1回あたりの摂取量または投与量を1単位とする単位包装形態は、「1回あたりの摂取量または投与量単位の包装形態」と称する。単位包装形態に用いられる容器または包装体は、本発明の剤の形態等に応じて適宜選択し得るが、たとえば、紙製の容器または袋体、プラスチック製の容器または袋体、パウチ、アルミ缶、スチール缶、ガラス瓶、ペットボトル、PTP(press through pack)包装シート等が挙げられる。
【0049】
本発明の剤の適用対象としては、哺乳動物(たとえば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)や、鳥類(たとえば、アヒル、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥等)等が挙げられる。
本発明の剤をヒト以外の適用対象動物(以下、単に「対象動物」ともいう)に適用する場合、本発明の剤の摂取量または投与量は、対象動物の種類、性別、体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
本発明の剤は、そのまま、またはさらに上記した薬学的に許容される添加剤を加えて、医薬品(以下、本明細書において「本発明の医薬品」とも称する)として提供することができる。
本発明の医薬品は、錠剤、被覆錠剤、チュアブル錠、丸剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、エリキシル剤、リモナーゼ剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、経口ゼリー剤等の経口製剤、溶液状、懸濁液状、乳液状等の注射剤、用時溶解または懸濁して用いる固形状の注射剤、輸液剤、持続性注射剤等の注射用製剤等の剤形とすることができる。
上記の通り、本発明の剤に含有されるフラバノン類は、主として、古くから健康茶として飲用されるカワラケツメイ等、飲用または食用に適する植物から得られ、経口摂取に適することから、本発明の医薬品は、経口製剤として好適に提供され得る。
【0051】
本発明の医薬品には、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに、アルファカルシドール、カルシトリオール等の活性型ビタミンD製剤、メナテトレノン等のビタミンK製剤等の骨粗鬆症治療薬を含有させることもできる。
【0052】
本発明の医薬品は、骨粗鬆症患者または、ホルモンバランスや栄養状態の悪化等により骨強度の低下が見られ、骨粗鬆症を発症するリスクの高い者に対し、好適に投与され得る。
本発明の医薬品は、上記適用対象に対し、1日あたりに、フラバノン類の量として、上記した1日あたりの摂取量または投与量となるように、投与される。
【0053】
さらに、本発明の剤は、各種食品に添加して摂取させることができる。本発明の剤が添加される食品は特に制限されず、一般的に食事やデザートに供される形態の食品であれば如何なるものでもよい。
たとえば、本発明の剤を茶類、清涼飲料水等の飲料に添加し、所望により適当な風味を加えて、機能性飲料とすることができる。
より具体的には、本発明の剤は、たとえば、茶系飲料、果実飲料等の清涼飲料水;緑茶、紅茶、中国茶等の茶類;牛乳、ヨーグルト等の乳製品;ゼリー、ビスケット、キャンディ、キャラメル等の菓子等に添加することができる。
【0054】
本発明の剤は、1日あたりに摂取される量の上記各種食品に対し、フラバノン類の量が、上記した1日あたりの摂取量となるように添加されることが好ましい。
【0055】
また、本発明の剤は、そのまま、または必要に応じて一般的な食品添加物を加えて、通常の食品製造技術により、食品組成物(以下、本明細書において「本発明の食品組成物」とも称する)として提供することができる。
本発明の食品組成物は、液状、懸濁液状、乳状、ゲル状、クリーム状、粉末状、顆粒状、シート状、カプセル状、タブレット状等、種々の形態とすることができる。
さらに、本発明の食品組成物は、本発明の剤を各種食品原材料に加え、必要に応じて一般的な食品添加物を加えて、清涼飲料水(果汁飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、茶系飲料等)、茶(緑茶、白茶、黄茶、青茶、紅茶、黒茶、花茶等)、乳製品(乳酸菌飲料、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等)、食肉加工品(ハム、ソーセージ、ハンバーグ等)、魚肉練り製品(蒲鉾、竹輪等)、卵加工品(だし巻き、卵豆腐、茶碗蒸し等)、大豆加工品(味噌、豆腐、納豆等)、小麦加工品(パン、うどん、パスタ等)、魚介乾物(鰹節、煮干、ちりめんじゃこ等)、菓子(クッキー、ビスケット、ゼリー、チューイングガム、キャンディ、キャラメル、アイスクリーム等)、スープ(味噌汁、コンソメスープ、コーンスープ、ポタージュ等)、調味料(ドレッシング、ウスターソース、マヨネーズ等)等、種々の形態の食品とすることができ、瓶詰め、缶詰、レトルトパウチ等の包装形態を採用することもできる。
【0056】
上記食品添加物としては、製造用剤(かんすい、結着剤等)、増粘安定剤(キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ゲル化剤(ゼラチン、寒天、カラギーナン等)、ガムベース(酢酸ビニル樹脂、ジェルトン、チクル等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等)、保存料(安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ε-ポリリシン等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン等)、光沢剤(セラック、パラフィンワックス、ミツロウ等)、防かび剤(チアベンタゾール、フルジオキソニル等)、膨張剤(炭酸水素ナトリウム、グルコノδ-ラクトン、ミョウバン等)、甘味料(アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物等)、苦味料(カフェイン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物等)、酸味料(クエン酸、酒石酸、乳酸等)、調味料(L-グルタミン酸ナトリウム、5’-イノシン酸二ナトリウム等)、着色料(アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素等)、香料(アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド等の合成香料、オレンジ、ラベンダー等の天然香料)等が挙げられる。
本発明において、上記食品添加物は、1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
さらに本発明の食品組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、カルシウム、タンパク質、ビタミンD、ビタミンK等、骨強度の維持、上昇に必要な栄養素や、これら栄養素を含む食品素材を含有させることができる。
【0058】
本発明の食品組成物は、骨粗鬆症患者や、更年期の女性等、ホルモンバランスの乱れがちな者、過度のダイエット等により低栄養状態となった者等、骨粗鬆症を発症するリスクまたは骨強度が低下するリスクの高い者に好適に摂取させ得る。また、中高齢者や妊産婦等に対し、骨粗鬆症や骨強度の低下の予防を目的として、幅広く摂取させることができる。
【0059】
従って、本発明の食品組成物は、骨粗鬆症や骨強度の低下の予防または改善用の特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品、病者用食品、妊産婦用食品等の特別用途食品、健康補助食品、ダイエタリーサプリメント等としても提供され得る。
【0060】
本発明の食品組成物は、上記適用対象に対し、1日あたりに、フラバノン類の量として、上記した1日あたりの摂取量となるように摂取させることが好ましい。
【0061】
本発明はまた、上記した本発明の剤、ならびに、本発明の剤を骨のリモデリングの促進、あるいは骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に使用することができること、または使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業的パッケージを提供することができる。
【0062】
さらに本発明は、骨のリモデリングを促進する必要のある対象動物における骨のリモデリングの促進方法(以下、本明細書において「本発明の促進方法」ともいう)を提供する。
【0063】
本発明の促進方法は、骨のリモデリングを促進する必要のある対象動物に、当該対象動物の骨のリモデリングを促進するために有効な量のフラバノン類を摂取させること、または投与することを含む。
【0064】
さらにまた、本発明は、骨粗鬆症または骨強度の低下を予防または改善する必要のある対象動物における骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善方法(以下、本明細書において「本発明の予防または改善方法」ともいう)を提供する。
【0065】
本発明の予防または改善方法は、骨粗鬆症または骨強度の低下を予防または改善する必要のある対象動物に、当該対象動物の骨粗鬆症または骨強度の低下を予防または改善するために有効な量のフラバノン類を摂取させること、または投与することを含む。
【0066】
上記した本発明の促進方法および本発明の予防または改善方法における対象動物としては、哺乳動物(たとえば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)や、鳥類(たとえば、アヒル、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥等)等が挙げられる。
【0067】
本発明の促進方法および本発明の予防または改善方法は、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有効である。
【0068】
ヒトの場合、本発明の促進方法および本発明の予防または改善方法は、骨粗鬆症の患者、または、ホルモンバランスや栄養状態の悪化等により骨強度の低下が見られ、骨粗鬆症を発症するリスクの高い者に好適に適用される。
【0069】
本発明の促進方法および本発明の予防または改善方法におけるフラバノン類の有効量は、対象動物の種類、年齢、性別、骨強度の低下の状況および程度等に応じて適宜決定されるが、本発明の剤において、ヒトおよびヒト以外の対象動物について上記した摂取量または投与量と同様の量を、上記した回数および期間にて摂取させまたは投与することができる。
【0070】
さらに、本発明の促進方法および本発明の予防または改善方法におけるフラバノン類の摂取または投与方法としては、経口投与、注射、輸液による投与等が挙げられるが、医療機関にて医師の指導監督下に行う必要がなく、簡便に摂取させることができることから、経口投与が好ましい。
【実施例
【0071】
以下に試験例等により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0072】
[製造例1]カワラケツメイからのフラバノン配糖体の調製
カワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Siebold) H.Ohashi)の地上部を水洗し、果実を除去して適当な長さに切り、50℃で乾燥した。このカワラケツメイの乾燥物(1.33kg)をメタノール7L中で80℃で1時間加熱し、次いでメタノール6L中で80℃で1時間加熱した。得られたメタノール抽出物(253g)を、水-酢酸エチルで3回抽出し、酢酸エチル層を回収して、酢酸エチル抽出物(89.5g)を得た。
酢酸エチル抽出物(89.5g)を、コスモシール 140C18-OPNカラム(ナカライテスク株式会社製)にて、メタノール・水混液により、メタノール濃度を40(v/v)%、50(v/v)%、60(v/v)%、70(v/v)%、80(v/v)%、90(v/v)%、100(v/v)%と段階的に変化させて溶出し、分離した。第4番目~22番目のフラクション(計28.2g)を回収し、次いでトヨパール HW-40カラム(東ソー株式会社製)にて、メタノール・水混液により、メタノール濃度を25(v/v)%、30(v/v)%、35(v/v)%、40(v/v)%と段階的に変化させて溶出し、分離した。第30番目~40番目のフラクション(610mg)を回収し、ワコーゲル C-200カラム(和光純薬工業株式会社製)にて、クロロホルム-メタノール-水により溶出して分離し、第82番目~88番目のフラクション(160mg)および第89番目~92番目のフラクション(160mg)を回収した。
回収した上記フラクションを下記条件下にHPLCにより分離し、保持時間が15分および27分のピークを得た。
<HPLC分析条件>
カラム:コスモシール 5C18AR-II(ナカライテスク株式会社製)(20mm×250mm)
移動相:メタノール・水混液(40:60(体積比))
流速:6mL/min
検出:紫外線(210nm)
【0073】
HPLC分析で得られた2個のピークの化合物を回収し、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。NMRの測定は、化合物を重水素化ジメチルスルホキシド(d6-DMSO)に溶解し、500MHz核磁気共鳴分光装置「JNM-ECP500」(日本電子株式会社製)を用いて行った。
その結果、保持時間=15分のピークの化合物は、新規な化合物(F1)であった。また、保持時間=27分のピークの化合物は、式(2)で示されるフラバノン配糖体、3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノン 7-O-β-D-グルコピラノシドと同定された。
【0074】
【化2】
【0075】
[試験例1]骨芽細胞の分化に及ぼすカワラケツメイ由来のフラバノン類の影響の検討
上記製造例で得られたカワラケツメイ由来のフラバノン配糖体(F2)と、そのアグリコン(下記式(3)で示される3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノン)(F2a)について、骨芽細胞の分化に及ぼす影響を検討した。
【0076】
【化3】
【0077】
マウス骨髄細胞を、イーグル最小必須培地α改変型(α-MEM)(MPバイオメディカルズ社(MP Biomedicals INC.)製)0.5mLを入れたマイクロプレートの各ウェルに、2.5×10cells/ウェルとなるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度=5(v/v)%にて培養した。培養1日目にF2およびF2aのそれぞれを、1μM、2.5μM、5μMおよび10μMの各濃度となるように添加し、培養を継続した。培養1日目および4日目に、それぞれ以下の最終濃度となるように分化誘導試薬(0.2mMアスコルビン酸、2.5mMβ-グリセロリン酸、10nMデキサメサゾン)を添加した。培養6日後に細胞をアルカリホスファターゼ(ALP)染色し、顕微鏡観察(倒立型培養顕微鏡「CK40」、オリンパス株式会社製、倍率=40倍)して、ALPで染色された骨芽細胞結節、すなわち分化した骨芽細胞により形成された細胞結節を検出した。なお、F2およびF2aのいずれも添加しない場合をコントロールとした。
顕微鏡による観察結果より、F2およびF2aのそれぞれを添加して培養した場合のALPで染色された骨芽細胞結節(ALP陽性骨芽細胞結節)数を、コントロールの該細胞結節数に対する比にて、図1に示した。前記比については、F2およびF2aのそれぞれを添加した群とコントロールとの間で対応のないt検定を実施した。
【0078】
図1に示されるように、F2およびF2aのそれぞれを添加して培養した場合、2.5μM以上の終濃度で濃度依存的な骨芽細胞の分化促進作用が認められ、5μMおよび10μMの各終濃度で、コントロールに対し有意差が認められた(p<0.05またはp<0.01)。
【0079】
また、F2aを5μMの終濃度で添加して培養した場合において、培養4日目に、骨芽細胞の分化マーカーとなる転写因子(Runx2およびOsterix(Osx))ならびにタンパク質(I型コラーゲン、アルカリホスファターゼ、オステオカルシン)の各遺伝子の発現量をそれぞれRT-PCR法により定量し、β-アクチンに対する比により、表1に示した。各遺伝子発現量については、コントロールとの間で対応のないt検定を実施した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1において、F2aを添加した群で、Osx、アルカリホスファターゼおよびオステオカルシンの遺伝子の発現が、コントロールに比べて有意に増加したことが認められた。
すなわち、F2aを5μMの終濃度で添加して4日間培養した場合に、コントロールに比べて、骨芽細胞の分化マーカーとなる転写因子およびタンパク質の遺伝子の発現が促進されることが示され、カワラケツメイ由来のフラバノン配糖体のアグリコンである3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンにより、骨芽細胞の分化が促進されることが確認された。
【0082】
[試験例2]破骨細胞の分化に及ぼすカワラケツメイ由来のフラバノン類の影響の検討
上記製造例で得られたカワラケツメイ由来のフラバノン配糖体(F2)およびそのアグリコン(F2a)について、破骨細胞の分化に及ぼす影響を検討した。
マウス骨髄細胞を、α-MEM(MPバイオメディカルズ社(MP Biomedicals INC.)製)0.5mLを入れたマイクロプレートの各ウェルに、3.5×10cells/ウェルとなるように播種し、37℃、二酸化炭素濃度=5(v/v)%にて培養した。培養1日目にF2およびF2aのそれぞれを、1μM、2.5μM、5μMおよび10μMの各濃度となるように添加し、培養を継続した。培養1日目および4日目に、最終濃度が10nMとなるように分化誘導試薬(カルシトリオール)を添加した。培養6日後に細胞を酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)染色し、顕微鏡観察(倒立型培養顕微鏡「CK40」、オリンパス株式会社製、倍率=40倍)して、TRAPで染色された細胞、すなわち分化した破骨細胞を検出した。なお、F2およびF2aのいずれも添加しない場合をコントロールとした。
観察結果は、1ウェルあたりのTRAPで染色された破骨細胞数(TRAP陽性破骨細胞数)にて、図2に示した。前記細胞数については、F2およびF2aのそれぞれを添加した群とコントロールとの間で、対応のないt検定を実施した。
【0083】
図2に示されるように、F2は、終濃度が2.5μM以上、F2aは終濃度が5μM以上となるように添加した場合に、濃度依存的な破骨細胞の分化促進作用を示し、F2を5μMおよび10μMの各終濃度で添加した群とコントロールとの間でp<0.05、F2aを10μMの終濃度で添加した群とコントロールとの間でp<0.01にて有意差が認められた。
【0084】
[試験例3]卵巣切除マウスの椎体の骨量に及ぼすカワラケツメイ由来のフラバノンの影響の検討
閉経後骨粗鬆症のモデル動物として卵巣切除マウスを用いて、上記製造例で得られたカワラケツメイ由来のフラバノン配糖体のアグリコンである3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノン(F2a)が椎体の骨量に及ぼす影響を検討した。
ddYマウス(雌性、7週齢)の卵巣を切除したマウス(OVXマウス)を4群(n=6/群)に分け、4週間飼育した。次いで、コントロール群には精製水0.1mLを1日に1回、4週間経口投与し、F2aを投与する3群には、3mg/kg体重、10mg/kg体重および30mg/kg体重のF2aを、それぞれ1日1回、4週間経口投与した。一方、偽手術群(n=6)として、偽手術を行った後4週間飼育し、次いで精製水0.1mLを1日1回、4週間経口投与した。
次に、各群のマウスから脊椎を摘出し、凍結標本を作成し、非脱灰薄切標本を得た後、Von Kossa染色により石灰化部を染色して、海綿骨の形態を顕微鏡(倒立型培養顕微鏡「CK40」、オリンパス株式会社製、倍率=40倍)により観察した。各群の標本における海綿骨の染色画像を図3に示した。
また、上記顕微鏡下の観察画像から、各群の海綿骨量、骨梁数および骨梁幅を求め、図4~6に示した。海綿骨量、骨梁数および骨梁幅については、それぞれコントロール群と偽手術群、および各量のF2a投与群とコントロール群との間で、対応のないt検定を実施した。
【0085】
さらに、非脱灰薄切標本をALP染色し、ALPで染色された骨芽細胞を顕微鏡(倒立型培養顕微鏡「CK40」、オリンパス株式会社製、倍率=200倍)により観察した。また、非脱灰薄切標本をTRAP染色し、TRAPで染色された破骨細胞を顕微鏡(倒立型培養顕微鏡「CK40」、オリンパス株式会社製、倍率=200倍)により観察した。これらの顕微鏡下における観察画像から、各群について、骨表面におけるALP陽性骨芽細胞の占める面積の割合(ALP陽性骨芽細胞面)(%)および、骨表面におけるTRAP陽性破骨細胞の占める面積の割合(TRAP陽性破骨細胞面)(%)を求め、それぞれ偽手術群に対する比にて、図7および図8に示した。
ALP陽性骨芽細胞面およびTRAP陽性破骨細胞面の測定結果については、いずれもコントロール群と偽手術群、および各量のF2a投与群とコントロール群との間で、それぞれ対応のないt検定を実施した。
【0086】
図3において、OVXマウスでは偽手術マウスに比べて、椎体の海綿骨量の明らかな減少が認められた。
これに対し、各量のF2aの経口投与により、椎体の海綿骨量が増加したことが認められた。
【0087】
図4~6に示されるように、卵巣の切除により、海綿骨量、骨梁数および骨梁幅の全てが、偽手術群に比べて有意(p<0.01)に減少したことが認められた。
OVXマウスにF2aを経口投与することにより、海綿骨量および骨梁数の有意な増加が認められ(p<0.05またはp<0.01)、10mg/kg体重の経口投与で、最も増加が認められた。また、骨梁幅についても、有意差は認められなかったが、F2aの経口投与により、増加する傾向が見られた。
【0088】
図7および図8に示されるように、卵巣の切除により、ALP陽性骨芽細胞面に変化は認められなかったが、TRAP陽性破骨細胞面は偽手術群に比べて有意(p<0.01)に減少した。
OVXマウスにF2aを経口投与した群では、10mg/kg体重以上のF2a経口投与群において、ALP陽性骨芽細胞面の有意な増加が認められた(p<0.05またはp<0.01)。TRAP陽性破骨細胞面については、コントロール群と比較して有意な差を認めなかったが、F2aの経口投与群において、増加する傾向が見られた。
【0089】
図3~8に示される結果から、カワラケツメイ由来のフラバノン配糖体のアグリコンである3’,4’,7-トリヒドロキシフラバノンの経口投与により、骨粗鬆症が改善される可能性が示唆された。
【0090】
上記試験例1~3の結果から、カワラケツメイ由来のフラバノン配糖体、またはそのアグリコンが、骨芽細胞および破骨細胞の双方の分化を促進することにより、骨のリモデリングを促進し、骨粗鬆症を改善し得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上詳述したように、本発明により、骨芽細胞および破骨細胞の双方の分化を良好に促進し、骨吸収と骨形成をバランスよく促進して骨のリモデリングを促進する骨のリモデリング促進剤を提供することができる。
本発明の骨のリモデリング促進剤は、骨代謝を促進し、骨粗鬆症または骨強度の低下の予防または改善に有用である。
【0092】
本願は、日本国で出願された特願2017-181670を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8