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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】流量制御装置の自己診断方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019557166
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2018042797
(87)【国際公開番号】W WO2019107216
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017230558
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】土肥 亮介
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】川田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-157719(JP,A)
【文献】特許第4308356(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられた圧力制御バルブと、
前記圧力制御バルブの下流側に設けられた流量制御バルブと、
前記圧力制御バルブの下流側に設けられた絞り部と、
前記圧力制御バルブの下流側かつ前記絞り部の上流側に設けられた圧力センサとを備え、
前記流量制御バルブが、弁座に離着座する弁体と、前記弁座に離着座するために前記弁体を移動させる圧電素子とを有する流量制御装置の自己診断方法であって、
前記圧力制御バルブは開状態で、前記流量制御バルブの開度は前記絞り部の開度以上の開度で、前記圧力制御バルブの上流側から前記流量制御バルブおよび前記絞り部を介して流体が下流側に流れる状態から、前記圧力制御バルブを前記開状態から閉状態に変化させ、前記閉状態とした後の流体圧力の圧力降下特性を前記圧力センサを用いて測定する工程(a)と、
前記圧力制御バルブは開状態で、前記流量制御バルブの開度は前記絞り部未満の開度で、前記圧力制御バルブの上流側から前記流量制御バルブおよび前記絞り部を介して流体が下流側に流れる状態から、前記圧力制御バルブを前記開状態から閉状態に変化させ、前記閉状態とした後の流体圧力の圧力降下特性を前記圧力センサを用いて測定する工程(b)と、
前記工程(a)で測定した前記圧力降下特性と予め記憶していた基準となる圧力降下特性とを比較して異常の有無を判断する工程(c)と、
前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性と予め記憶していた基準となる圧力降下特性とを比較して異常の有無を判断する工程(d)と、
前記工程(c)と前記工程(d)とで行った判断のうち、前記工程(d)のみで異常があると判断した場合に前記流量制御バルブの弁座と弁体の距離に異常があると判断する工程(e)と
を包含する、流量制御装置の自己診断方法。
【請求項2】
前記工程(b)よりも先に前記工程(a)を行うか、または、前記工程(a)よりも先に前記工程(b)を行うかのいずれかである、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項3】
前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に前記工程(c)を行い、前記工程(b)および前記工程(c)の後に前記工程(d)を行う、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項4】
前記流量制御装置が、前記工程(a)および前記工程(b)で測定したデータを記憶しておくための測定記憶部をさらに備える、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項5】
前記流量制御装置が、前記工程(c)および前記工程(d)で判断した結果を記憶しておくための判断記憶部をさらに備える、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項6】
前記圧電素子に歪センサを設置し、前記歪センサの出力に基づき前記弁座と前記弁体と距離を求める、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項7】
前記工程(e)において前記流量制御バルブの弁座と弁体の距離に異常があると判断した場合、前記歪センサの出力に異常があると判断する、請求項6に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項8】
前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性が、前記予め記憶していた基準となる圧力降下特性よりも大きい時に、歪センサの出力スパンが減少したと判断する、請求項6に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項9】
前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性が、前記予め記憶していた基準となる圧力降下特性よりも小さい時に、歪センサの出力スパンが拡大したと判断する、請求項6に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項10】
前記工程(a)および前記工程(b)において、前記圧力制御バルブが開状態で前記流体が下流側に流れる状態のとき、前記圧力制御バルブが最大設定開度に開いた状態である、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【請求項11】
前記工程(a)および前記工程(b)において、前記圧力制御バルブが開状態で前記流体が下流側に流れる状態のとき、前記圧力制御バルブが中間開状態である、請求項1に記載の流量制御装置の自己診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置の自己診断方法に関し、特に、半導体製造装置や化学プラント等において好適に利用される流量制御装置の自己診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガス等の流体の流れを制御するために、種々のタイプの流量計や流量制御装置が利用されている。このなかで圧力式流量制御装置は、制御バルブと絞り部(例えばオリフィスプレート)とを組み合せた比較的簡単な機構によって各種流体の流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。
【0003】
圧力式流量制御装置の制御バルブとしては、金属ダイヤフラム弁体を、圧電素子駆動装置(以下、ピエゾアクチュエータと呼ぶことがある)によって開閉させる圧電素子駆動式バルブが利用されている。従来の圧電素子駆動式バルブは、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
圧電素子駆動式バルブでは、ピエゾアクチュエータに印加する駆動電圧の大きさによってピエゾアクチュエータの伸長度合が変化し、これに伴って金属ダイヤフラム弁体を弁座に押し付ける押圧力が変化する。金属ダイヤフラム弁体が弁座に対して十分な押圧力で押しつけられているときは閉弁状態となり、押圧力が弱まると金属ダイヤフラム弁体が弁座から離れて開弁する。圧電素子駆動式バルブは、比較的高速な作動が可能なうえ、動作特性上のヒステリシスが比較的小さいという利点を有している。
【0005】
ところで、従来の半導体プロセス制御において圧力式流量制御装置を用いる場合、圧電素子駆動式バルブは、設定流量に対する偏差を解消するように制御され、アナログ的に僅かな変位量で比較的緩やかに開閉動作が行われることが多かった。しかし近年、流量制御装置は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)などへの適用が求められており、このような用途では、高速な(周期が非常に短い)パルス状の制御信号によって制御バルブを開閉して流量の制御を高速に行うことが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-192269号公報
【文献】特許第4933936号
【文献】国際公開第2017/170174号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような用途においては、圧電素子駆動式バルブの開閉速度、変位量および開閉頻度が従来に比べて格段に増加する。そして、これらのことが流量制御装置の流量制御特性の低下を促進させ、従来よりも早期に動作不良や流量制御の精度低下が生じやすくなる場合があった。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、パルス流量制御などにも好適に対応できる流量制御装置の自己診断方法を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による流量制御装置の自己診断方法は、流路に設けられた圧力制御バルブと、前記圧力制御バルブの下流側に設けられた流量制御バルブと、前記圧力制御バルブの下流側に設けられた絞り部と、前記圧力制御バルブの下流側かつ前記絞り部の上流側に設けられた圧力センサとを備え、前記流量制御バルブが、弁座に離着座する弁体と、前記弁座に離着座するために前記弁体を移動させる圧電素子とを有する流量制御装置の自己診断方法であって、前記圧力制御バルブは開状態で、前記流量制御バルブの開度は前記絞り部の開度以上の開度で、前記圧力制御バルブの上流側から前記流量制御バルブおよび前記絞り部を介して流体が下流側に流れる状態から、前記圧力制御バルブを前記開状態から閉状態に変化させ、前記閉状態とした後の流体圧力の圧力降下特性を前記圧力センサを用いて測定する工程(a)と、前記圧力制御バルブは開状態で、前記流量制御バルブの開度は前記絞り部未満の開度で、前記圧力制御バルブの上流側から前記流量制御バルブおよび前記絞り部を介して流体が下流側に流れる状態から、前記圧力制御バルブを前記開状態から閉状態に変化させ、前記閉状態とした後の流体圧力の圧力降下特性を前記圧力センサを用いて測定する工程(b)と、前記工程(a)で測定した前記圧力降下特性と予め記憶していた基準となる圧力降下特性とを比較して異常の有無を判断する工程(c)と、前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性と予め記憶していた基準となる圧力降下特性とを比較して異常の有無を判断する工程(d)と、前記工程(c)と前記工程(d)とで行った判断のうち、前記工程(d)のみで異常があると判断した場合に前記流量制御バルブの弁座と弁体の距離に異常があると判断する工程(e)とを包含する。
【0010】
ある実施形態において、前記工程(b)よりも先に前記工程(a)を行うか、または、前記工程(a)よりも先に前記工程(b)を行うかのいずれかである。
【0011】
ある実施形態において、前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に前記工程(c)を行い、前記工程(b)および前記工程(c)の後に前記工程(d)を行う。
【0012】
ある実施形態において、前記流量制御装置が、前記工程(a)および前記工程(b)で測定したデータを記憶しておくための測定記憶部をさらに備える。
【0013】
ある実施形態において、前記流量制御装置が、前記工程(c)および前記工程(d)で判断した結果を記憶しておくための判断記憶部をさらに備える。
【0014】
ある実施形態において、前記圧電素子に歪センサを設置し、前記歪センサの出力に基づき前記弁座と前記弁体と距離を求める。
【0015】
ある実施形態において、前記工程(e)において前記流量制御バルブの弁座と弁体の距離に異常があると判断した場合、前記歪センサの出力に異常があると判断する。
【0016】
ある実施形態において、前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性が、前記予め記憶していた基準となる圧力降下特性よりも大きい時に、歪センサの出力スパンが減少したと判断する。
【0017】
ある実施形態において、前記工程(b)で測定した前記圧力降下特性が、前記予め記憶していた基準となる圧力降下特性よりも小さい時に、歪センサの出力スパンが拡大したと判断する。
【0018】
ある実施形態において、前記工程(a)および前記工程(b)において、前記圧力制御バルブが開状態で前記流体が下流側に流れる状態のとき、前記圧力制御バルブが最大設定開度に開いた状態である。
【0019】
ある実施形態において、前記工程(a)および前記工程(b)において、前記圧力制御バルブが開状態で前記流体が下流側に流れる状態のとき、前記圧力制御バルブが中間開状態である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態によれば、長期間の使用による精度低下に対応することができる流量制御装置の自己診断方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明者の行った歪センサ出力のスパン変化についての試験結果を示すグラフである。
図2】本発明の実施形態による流量制御装置の構成を示す模式的な図である。
図3】本発明の実施形態で用いられる流量制御バルブおよび第2圧力センサを示す断面図である。
図4】本発明の実施形態で用いられるピエゾアクチュエータを示す図であり、(a)は筒体および内部に収容されるピエゾスタックを示し、(b)はコネクタ部を示す。
図5】本発明の実施形態で用いられる歪センサの出力を得るための例示的なブリッジ回路を示す図である。
図6】本発明の実施形態による流量制御装置の自己診断方法を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による流量制御装置の自己診断方法を説明するための図であり、(a)は圧力制御バルブの開閉動作を示し、(b)は測定した圧力降下特性と基準圧力降下特性とが一致する場合を示し、(c)は測定した圧力降下特性と基準圧力降下特性とが異なる場合を示す。
図8】基準圧力降下特性に対して、測定した圧力降下特性が上側にずれる場合と下側にずれる場合とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願出願人は、国際公開第2018/123852号において、圧力式流量制御装置の制御バルブとして用いられる、歪センサ(歪ゲージとも言う)を用いてピエゾアクチュエータの伸長量を測定するように構成した圧電素子駆動式バルブを開示している。圧電素子に貼り付けた歪センサを用いてピエゾアクチュエータの伸長量すなわち弁開度をより直接的に測定するようにすれば、ピエゾアクチュエータの駆動電圧を参照する場合に比べて、より正確に弁開度を知ることができる。
【0023】
しかしながら、圧電素子に歪センサを固定した構成を有する圧電素子駆動式バルブでは、その開閉回数を増加させた後には、同じ最大駆動電圧を印加したときにも歪センサの最大出力が低下する場合があることが本願発明者の試験によって確認された。
【0024】
なお、本明細書では、圧電素子駆動式バルブに対して電圧を印加しないとき、すなわち、圧電素子の伸長が生じていないときの歪センサの出力と、圧電素子駆動式バルブに対して最大駆動電圧を印加したときの歪センサの出力との差を、歪センサ出力のスパンと称することがある。また、歪センサの出力とは、歪センサの歪量に応じて変化する歪センサの抵抗値に対応する種々の出力を意味しており、例えば、歪センサの抵抗値自体であってもよいし、歪センサを組み込んだホイートストンブリッジ回路が出力する電圧信号(以下、ブリッジ出力信号(図5参照)と呼ぶ場合がある)などであってもよい。
【0025】
このようにして歪センサ出力のスパンが初期から変動してしまうと、歪センサの出力に基づいて流量制御を行うように構成された圧力式流量制御装置においては、開閉回数の増加につれて流量制御の精度が低下してしまうことになる。そして、高速、高頻度に弁の開閉を繰り返す近年の用途においては、このような流量制御の精度低下が比較的早い段階で生じ得る。
【0026】
図1は、弁の開閉回数に対する歪センサ出力のスパンの変化を測定した試験結果の2例A1、A2を示す。図1からわかるように、圧電素子駆動式バルブの開閉回数が増加し、歪センサに与えられる周期的な応力変動の回数が増加すると、歪センサ出力のスパンが低下する。また、2例A1、A2で多少異なるスパン変化が示されている。これは、機器ごとに歪センサの特性が変化して、バルブ開閉度、すなわち、ピエゾアクチュエータの伸長度と、歪センサ出力との関係が変化してしまったことが要因であると考えられる。なお、図1において、横軸は対数表示した開閉回数(単位:1万回)を示し、縦軸は、5000回の開閉動作を行った後の最大ピエゾ駆動電圧印加時におけるブリッジ出力信号を100%としたときの、最大ピエゾ駆動電圧印加時における相対的なブリッジ出力信号の大きさを示す。
【0027】
そこで、本願発明者は、圧力式流量制御装置に備えられた圧電素子駆動式バルブにおいて歪センサの特性の変化、特に、歪センサ出力のスパンの変化を検知する方法について鋭意検討を行った。そして、圧力式流量制御装置において圧力降下特性の測定を行う自己診断方法によって歪センサのスパンの変化を検出することができ、その結果に基づいて歪センサの出力を補正することによって、機器によらず長期間にわたって良好な精度での流量制御を行うことができることを見出した。
【0028】
以下、本発明の実施形態を説明する。図2は、本発明の実施形態による自己診断方法を行うための流量制御装置100の構成を示す。流量制御装置100は、ガスG0の流入側の流路1に設けられた圧力制御バルブ6と、圧力制御バルブ6の下流側に設けられた流量制御バルブ8と、圧力制御バルブ6の下流側かつ流量制御バルブ8の上流側の圧力P1を検出する第1(または上流)圧力センサ3と、圧力制御バルブ6の下流側かつ流量制御バルブ8の上流側に配置された絞り部2とを備えている。
【0029】
本実施形態では、絞り部2は、流量制御バルブ8の上流側に配置されたオリフィスプレートによって構成されている。オリフィスプレートは、オリフィスの面積が固定されているので、開度が固定された絞り部として機能する。本明細書において、「絞り部」とは、流路の断面積を、前後の流路断面積より小さく制限した部分であり、例えば、オリフィスプレートや臨界ノズル、音速ノズルなどを用いて構成されるが、他のものを用いて構成することもできる。また、本明細書において、絞り部には、バルブの弁座と弁体との距離を開度とし、この開度を仮想の可変オリフィスに見立てたバルブ構造も含まれる。このようなバルブ構造は、開度が可変の絞り部として機能し得る。
【0030】
本実施形態の流量制御装置100はまた、流量制御バルブ8の下流側の圧力P2を測定する第2(または下流)圧力センサ4と、圧力制御バルブ6の上流側の圧力P0を検出する流入圧力センサ5とを備えている。ただし、流量制御装置100は、他の態様において、第2圧力センサ4や流入圧力センサ5を備えていなくてもよい。
【0031】
第1圧力センサ3は、圧力制御バルブ6と絞り部2または流量制御バルブ8との間の流体圧力である上流圧力P1を測定することができ、第2圧力センサ4は、絞り部2または流量制御バルブ8の下流圧力P2を測定することができる。また、流入圧力センサ5は、接続されたガス供給装置(例えば原料気化器やガス供給源等)から流量制御装置100に供給される材料ガス、エッチングガスまたはキャリアガスなどの流入圧力P0を測定することができる。流入圧力P0は、ガス供給装置からのガス供給量やガス供給圧を制御するために利用され得る。
【0032】
流量制御バルブ8の下流側は、下流弁(図示せず)を介して半導体製造装置のプロセスチャンバに接続されている。プロセスチャンバには真空ポンプが接続されており、典型的には、プロセスチャンバの内部が真空引きされた状態で、流量制御装置100から流量制御されたガスG1がプロセスチャンバに供給される。下流弁としては、例えば、圧縮空気により開閉動作が制御される公知の空気駆動弁(Air Operated Valve)や電磁弁等を用いることができる。
【0033】
圧力制御バルブ6は、例えば、金属製ダイヤフラム弁体をピエゾアクチュエータで駆動するように構成された公知の圧電素子駆動式バルブであってよい。後述するように、圧力制御バルブ6は、第1圧力センサ3からの出力に基づいてその開度が制御され、例えば、第1圧力センサ3が出力する上流圧力P1が、入力された設定値に維持されるようにフィードバック制御される。
【0034】
また、本実施形態において、流量制御バルブ8は、弁座に当接および離間(以下、離着座と呼ぶことがある)するように配置された弁体と、弁体を離着座させるために移動させる圧電素子と、圧電素子の伸長量を検出する歪センサ20とを備えた圧電素子駆動式のバルブである。後述するように、流量制御バルブ8は、歪センサ20から出力される信号に基づいて圧電素子の駆動がフィードバック制御され得るように構成されている。
【0035】
図3は、図2に示した流量制御バルブ8と、その下流側に設けられた第2圧力センサ4との構成例を示している。流量制御バルブ8および第2圧力センサ4は、本体ブロック11に取り付けられている。なお、本体ブロック11の入口側は、図2に示した圧力制御バルブ6および第1圧力センサ3が取り付けられた別の本体ブロック(図示せず)に接続されている。また、図2に示した絞り部2は、本体ブロック11と別の本体ブロックとの接続部において、例えば、ガスケットを介してオリフィスプレートとして固定されている。オリフィスの口径は、例えば100μm~500μmに設定される。
【0036】
図3に示す流量制御バルブ8は、ノーマルオープン型のバルブであり、ピエゾアクチュエータ10の伸長によって弁体が弁座の方向に移動するように構成されており、1本もしくは複数の圧電素子10b(図4参照)を含むピエゾアクチュエータ10と、ピエゾアクチュエータ10の下方に配置された金属ダイヤフラム弁体13と、ピエゾアクチュエータ10の外側に設けられた案内筒体14とを備えている。
【0037】
ピエゾアクチュエータ10の下端10tは、支持体16によって支持されており、支持体16の下方にはダイヤフラム弁体13と当接する弁体押さえ18が設けられている。金属ダイヤフラム弁体13は、自己弾性復帰型であり、例えばニッケルクロム合金鋼等の薄板により形成されている。
【0038】
上記構成において、ピエゾアクチュエータ10に駆動電圧が印加されていない状態では、金属ダイヤフラム弁体13(中央部)は自己弾性力により弁座12に対して離間している。また、本実施形態では、支持体16の周囲に配置された弾性部材(ここでは皿バネ)15が支持体16およびピエゾアクチュエータ10を支持しており、電圧無印加時に金属ダイヤフラム弁体13が弁座12から離間しやすくなっている。一方、ピエゾアクチュエータ10に駆動電圧を印加すると、バルブ本体11に対して固定された案内筒体14の内側で、ピエゾアクチュエータ10が下方に向かって伸長する。そして、ピエゾアクチュエータ10の下端10tが弾性部材15の付勢力に抗して支持体16を押し下げ、これに連動して弁体押さえ18が金属ダイヤフラム弁体13を弁座12の方向に移動する。
【0039】
このようなノーマルオープン型のバルブでは、ピエゾアクチュエータ10に最大駆動電圧を印加しているときに閉弁状態となり、駆動電圧を減少させることによって開度を任意に調節することができる。ノーマルオープン型のバルブは、応答性が良好であるという利点を有している。ノーマルオープン型の圧電素子駆動式バルブは、例えば、特許文献2に示されている。
【0040】
次に、流体制御バルブ8を構成するピエゾアクチュエータ10の詳細構成を説明する。図4(a)は、外側の筒体10aと、この筒体10a内に一列に並べられた状態で収容される複数の圧電素子10b(以下、ピエゾスタック10bと呼ぶ場合がある)とを分解して示し、図4(b)は、図4(a)に示すコネクタ部10cを正面方向から見た状態を示す。図4(a)では、ピエゾアクチュエータ10を、図3とは上下逆向きに示している。
【0041】
図4(a)に示すように、ピエゾアクチュエータ10において、複数の圧電素子10bのうちの1つには、接着剤等によって歪センサ20が直接的に取り付けられている。歪センサ20は、圧電素子の側面に配置されており、本実施形態においては、圧電素子の積層方向、すなわち、ピエゾスタックの主伸長方向であるz方向の歪を検出する第1歪ゲージ20zと、主伸長方向と直交するx方向の歪を検出する第2歪ゲージ20xとによって構成されている。第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xとしては、例えば、株式会社共和電業社製のKFR-02NやKFGS-1、KFGS-3等を用いることが出来る。なお、ピエゾアクチュエータ10は、他の態様において、筒体に収容された単一の圧電素子およびこの側面に取り付けられた歪センサによって構成されていてもよい。
【0042】
本実施形態において、第1歪ゲージ20zは全体が圧電素子と接するように圧電素子の側面に貼り付けられており、第2歪ゲージ20xは第1歪ゲージ20zの中央部をまたいで交差するように圧電素子に貼り付けられている。第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xは、圧電素子の伸長量を、第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xの電気抵抗の変化として検出することができる。
【0043】
また、図4(b)に示すように、コネクタ部10cには、ピエゾスタック10bに駆動電圧を印加するための一対の駆動電圧端子22a、22bと、第1歪ゲージ20zの一方の端子に接続された第1歪センサ出力端子24aと、第1歪ゲージ20zの他方の端子および第2歪ゲージ20xの一方の端子に共通に接続された歪センサ共通出力端子24cと、第2歪ゲージ20xの他方の端子に接続された第2歪センサ出力端子24bとが設けられている。
【0044】
ピエゾスタック10bを構成する複数の圧電素子は、公知の回路構成によって駆動電圧端子22a、22bに電気的に接続されており、駆動電圧端子22a、22bに電圧を印加することによって、圧電素子の全てをスタック方向に伸長させることができる。ピエゾアクチュエータ10としては、例えばNTKセラテック社等から販売されているものを利用することができる。
【0045】
第1および第2歪センサ出力端子24a、24bおよび歪センサ共通出力端子24cは、外部基板に設けられた回路に接続されており、第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xを含むブリッジ回路が形成されている。このブリッジ回路において、第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xの抵抗値の変化を検出することができる。
【0046】
図5は、第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xの抵抗値変化を検出するための例示的な等価回路を示す。図5に示す等価回路において、分岐点A-D間および分岐点C-D間に設けられた抵抗R1、R2は、外部基板上に設けられた既知抵抗値の固定抵抗に対応し、分岐点A-B間に設けられた抵抗R3は、第1歪ゲージ20zに対応し、分岐点B-C間に設けられた抵抗R4は、第2歪ゲージ20xに対応する。本実施形態では、第1歪ゲージ20zおよび第2歪ゲージ20xの抵抗値と、2つの固定抵抗R1、R2の抵抗値とは同じに設定されており、例えば、いずれも120オームもしくは350オームに設定されている。
【0047】
また、図5において、分岐点Aは、第1歪センサ出力端子24aに対応し、分岐点Bは、歪センサ共通出力端子24cに対応し、分岐点Cは、第2歪センサ出力端子24bに対応する。この等価回路において、分岐点A-C間に所定のブリッジ印加電圧が印加された状態で、第1歪ゲージ20zまたは第2歪ゲージ20xの抵抗値の変化は、ブリッジ出力信号(分岐点B-D間の電位差)の変化として検出される。なお、上記のように各抵抗R1~R4の大きさが同じである場合、第1および第2歪ゲージ20z、20xに応力が生じていない初期状態において、ブリッジ出力信号は典型的にはゼロを示す。
【0048】
ピエゾスタック10bに駆動電圧が印加されたとき、歪センサ20が取り付けられた圧電素子はz方向に伸長するとともに、これと直交するx方向においては収縮する。この場合、第1歪ゲージ20zの抵抗値は、圧電素子の伸長量に対応して増加し、第2歪ゲージ20xの抵抗値は、圧電素子の収縮量に対応して減少する。
【0049】
そして、図5に示す回路では、ピエゾスタック10bに駆動電圧が印加されてこれが伸長したとき、第1歪ゲージ20zにおける歪み量が増大してブリッジ出力信号が増加するとともに、第2歪ゲージ20xにおける歪み量が減少することによってもブリッジ出力信号が増加する。このため、ピエゾスタック変位時には、第1歪ゲージ20zの歪み量の増加分と、第2歪ゲージ20xの歪み量の減少分との合計に対応するブリッジ出力信号の変動が生じることになる。これにより、ブリッジ出力信号を増幅させることができる。
【0050】
また、上記のように第1歪ゲージ20zと、これに直交する第2歪ゲージ20xとを用いてブリッジ回路を構成することによって、温度変化による歪センサ20の抵抗値変化を補正することが可能である。これは、例えば温度が上昇することによって圧電素子が膨張したとき、その膨張が、第1歪ゲージ20zに対してはブリッジ出力信号を増加させる要素として働くのに対して、第2歪ゲージ20xに対してはブリッジ出力信号を減少させる要素として働き、温度による増加要素と減少要素とが相殺されたブリッジ出力信号が得られるからである。このため、温度の変化に起因して圧電素子自体の膨張および収縮が生じているときであっても、ブリッジ出力信号への影響は低減され、温度補償を実現することが可能になる。
【0051】
以下、再び図2を参照して、流量制御装置100における流量制御動作を説明する。
【0052】
流量制御装置100は、第1圧力センサ3の出力に基づいて圧力制御バルブ6の開閉動作を制御する第1制御回路7を備えている。第1制御回路7は、外部から受け取った設定上流圧力と第1圧力センサ3の出力P1との差がゼロになるように圧力制御バルブ6をフィードバック制御するように構成されている。これにより、圧力制御バルブ6の下流側かつ流量制御バルブ8の上流側の圧力P1を設定値に維持することが可能である。
【0053】
また、流量制御装置100は、流量制御バルブ8に設けられた歪センサ20からの出力をピエゾバルブ変位として受け取り、この出力に基づいて流量制御バルブ8を構成する圧電素子の駆動を制御する第2制御回路17を有している。なお、図2には、第1制御回路7と第2制御回路17とが別個に設けられた態様が示されているが、これらは一体的に設けられていてもよい。
【0054】
第1制御回路7および第2制御回路17は、流量制御装置100に内蔵されたものであってもよいし、流量制御装置100の外部に設けられたものであってもよい。第1制御回路7および第2制御回路17は、典型的には、CPU、ROMやRAMなどのメモリ(記憶装置)M、A/Dコンバータ等を内蔵しており、後述する流量制御動作や自己診断方法を実行するように構成されたコンピュータプログラムを含んでいてよい。第1制御回路7および第2制御回路17は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。
【0055】
流量制御装置100は、第1制御回路7および第2制御回路17によって、第1圧力センサ3が出力する上流圧力P1が設定値と一致するように圧力制御バルブ6を制御しながら、流量制御バルブ8の圧電素子の駆動を制御することにより、流量制御バルブ8の下流側に流れる流体の流量を制御できるように構成されている。流量制御装置100は、臨界膨張条件P1/P2≧約2(P1:絞り部上流側のガス圧力(上流圧力)、P2:絞り部下流側のガス圧力(下流圧力))を満たすとき、絞り部2および流量制御バルブ8を通過するガスの流量が、下流圧力P2によらず上流圧力P1によって決まるという原理を利用して流量制御を行うことができる。
【0056】
臨界膨張条件を満たすとき、流量制御バルブ8の下流側の流量Qは、Q=K1・Av・P1(K1は流体の種類と流体温度に依存する定数)によって与えられる。流量Qは、上流圧力P1および流量制御バルブ8の弁開度Avに概ね比例するものと考えられる。また、第2圧力センサ4を備える場合、上流圧力P1と下流圧力P2との差が小さく、上記の臨界膨張条件を満足しない場合であっても流量を算出することができ、各圧力センサによって測定された上流圧力P1および下流側圧力P2に基づいて、所定の計算式Q=K2・Av・P2 m(P1-P2n(ここでK2は流体の種類と流体温度に依存する定数、m、nは実際の流量を元に導出される指数)から流量Qを算出することができる。
【0057】
流量制御装置100は、圧力制御バルブ6を用いて上流圧力P1を所望の流量レンジに対応する一定値に制御しながら、流量制御バルブ8の弁開度を歪センサ20の出力(ピエゾ変位量)に基づいて制御することにより、広い範囲にわたって流量を好適に制御することができる。特に、歪センサ20の出力に基づいて流量制御バルブ8をフィードバック制御する場合、従来のように上流圧力P1に基づいて制御バルブをフィードバック制御する場合に比べて、流量制御の応答性を向上させ得る。以上の説明からわかるように、本実施形態では、流量制御バルブ8は、バルブの弁座と弁体との距離を開度としてこの開度を変更する機能を有しており、可変オリフィス(開度が可変である絞り部)として用いられ得る。
【0058】
また、本実施形態の流量制御装置100では、開度が固定された絞り部2の最大設定流量が、開度が可変である流量制御バルブ8の最大設定流量よりも大きく設定されている。ここで、開度が固定である絞り部2の最大設定流量とは、流量制御装置100において臨界膨張条件下で絞り部2の上流側の圧力を最大設定圧力としたときに絞り部2を流れるガスの流量であり、開度が可変である流量制御バルブ8の最大設定流量とは、同条件で流量制御バルブ8を最大設定開度で開いた時に流れるガスの流量を意味する。この場合、典型的には、絞り部2の開口面積(すなわち流路断面積)が、流量制御バルブ8の最大設定開度での流路断面積よりも大きいものとなる。開度が固定された絞り部2は、例えば、最大設定流量2000sccm(オリフィス径:約300μm)のオリフィスプレートによって構成され、流量制御バルブ8の制御流量は2000sccm以下に設定される。
【0059】
以上のように構成することにより、開度が固定された絞り部2を流量制御の主要素として用いて圧力制御バルブ6によって上流圧力P1を制御することで、従来の圧力式流量制御装置と同様に流量制御を行うことが可能なうえに、圧力制御バルブ6を用いて上流圧力P1を一定に保ちながら流量制御バルブ8の開度調整を行うことによりガス流量を制御することも可能である。したがって、種々の態様でのガス流量制御が可能であり、パルス流量制御にも対応することができる。
【0060】
開度が固定された絞り部2を流量制御の主要素として用いる流量制御は、比較的長い期間にわたり流量制御を設定値に維持する連続的な流れの制御に好適である。一方、開度が固定された絞り部2の最大設定流量未満の流量で流量制御バルブ8の開度調整により流量が決まるような流量制御、すなわち、流量制御バルブ8を可変オリフィス(開度が可変である絞り部)として用いるような流量制御は、断続的な流れの制御に好適である。
【0061】
ここで、連続的な流れの制御とは、流体の流れが継続するときの流体の制御を広く意味しており、例えば100%流量で流体が流れている状態から50%流量で流体が流れている状態に変更される場合なども含み得る。また、開度が固定された絞り部2を用いて連続的な流れの制御を行うときには、流量制御バルブ8は全開(最大開度)とするか、あるいは、少なくとも開度が固定された絞り部2の開度よりも大きい開度に維持することが好適である。
【0062】
また、断続的な流れの制御には、パルス流量制御のような一定間隔での周期的な開閉制御に限らず、不定期に行うパルス的な開閉制御や、パルスの振幅が一定でなく変動するような開閉制御も場合も含まれ、また、パルス幅が変動するような開閉制御も含まれる。
【0063】
以下、流量制御装置100を用いて行う自己診断方法について説明する。
【0064】
図6は、本実施形態の自己診断方法のフローチャートを示す。ステップS1に示すように、上流圧力P1が100%流量に対応する圧力となるように圧力制御バルブ6を開状態(最大設定開度)に制御する。なお、圧力制御バルブ6を全開にするという場合、上流圧力P1が100%流量に対応する圧力になるときの設定上最大の開度(最大設定開度)に設定するときと、圧力制御バルブ6を最大限開いた状態に設定するときとが考えられるが、本実施形態では、圧力制御バルブ6は最大設定開度に設定される。このとき、下流圧力P2は、上流圧力P1よりも小さく設定され、例えば、プロセスチャンバに接続された真空ポンプを用いて100torr以下の真空圧に設定されている。ただし、自己診断のフローは、これに限られず、半導体製造工程の1プロセスが終了したときの任意の流量設定でガスが流れている状態(例えば、60%流量でガスが流れている状態)など、圧力制御バルブ6が中間開状態、すなわち、最大設定開度未満の開状態のときから開始してもよい。
【0065】
また、ステップS1において、下流側の流量制御バルブ8は典型的には最大開度すなわち全開に開いており、圧力制御バルブ6の上流側から、絞り部2および流量制御バルブ8を介してガスが下流側へ流れる。このとき、流量制御バルブ8は、絞り部2の最大設定流量(例えば2000sccm)以上の流量でガスを流すことが可能であり、すなわち、ステップS1における流量制御バルブ8の開度は、絞り部2の開度以上の開度に設定されている。このため、ガスは、絞り部2の開口面積および上流圧力P1に依存する最大設定流量で流れ、流量制御バルブ8による流れの制限を受けない。なお、流量制御バルブ8の開度は、絞り部2の開度以上の開度、すなわち、絞り部2の最大設定流量以上の流量でガスを流し得る開状態に設定されていればよく、必ずしも全開でなくてもよい。
【0066】
ここで、流量制御バルブ8の最大開度は、上記に説明した流量制御バルブ8の最大設定流量に対応する最大設定開度とは異なるものであり、最大設定開度よりも十分に大きい開度である。開度が可変な絞り部として流量制御バルブ8を流量制御の主要素に用いるときには、開度0(閉止)から最大設定開度までの間で開度調整が行われる一方で、流量制御に用いないときには、より大きい開度まで開くことが可能である。例えば、流量制御バルブ8として上記のノーマルオープン型のバルブを用いる場合、最大開度は、駆動電圧無印加時の開度であるのに対して、最大設定開度は、制御する流量範囲に応じて設定される最小駆動電圧の印加時における開度となる。
【0067】
次に、ステップS2において、圧力制御バルブ6を開状態にし、流量制御バルブ8の開度を絞り部2の開度以上の開度にしてガスが安定して流れている状態から、圧力制御バルブ6を開状態から閉状態に変化させる。この動作は、例えば設定流量をゼロに設定する信号を圧力制御バルブ6に入力することによって行うことができる。一方で、下流圧力P2は低圧に維持される。このため、圧力制御バルブ6を閉じた後は、圧力制御バルブ6と絞り部2との間の残留ガスが絞り部2を介して下流側へ流出する。図7(a)には、時刻t1に圧力制御バルブ6を開状態から閉状態にする様子が示されている。
【0068】
そして、図6のステップS3に示すように、ステップS2で圧力制御バルブ6を閉状態とした後の上流圧力P1の降下特性を、第1圧力センサ3を用いて測定する。これにより、絞り部2の状態に対応する圧力降下特性、すなわち、時間に対する圧力の降下の特性を示すデータが得られる。ステップS3で測定された圧力降下特性または測定データは、例えば、第1制御回路7の記憶装置に設けられた測定記憶部に記録されてもよいし、流量制御装置100に接続された外部装置に設けられた測定記憶部に記録されてもよい。
【0069】
上記の圧力降下特性は、例えば、所定のサンプリングレートで測定した複数の上流圧力データであってよい。また、圧力降下特性は、圧力が降下するときの時間ごとの圧力値だけでなく、それぞれの時間における圧力の降下時の傾き(微分値)などであってもよい。また、後述するように、圧力降下特性は、測定された圧力の時間変化によって決まる特性式に含まれる種々の係数などであってもよい。
【0070】
次にステップS4に示すように、ステップS3で得られた圧力降下特性と、基準圧力降下特性とを比較する。ここで、基準圧力降下特性は、一般に、工場出荷前に予め計測された初期の圧力降下特性であり、例えば、第1制御回路7の記憶装置に予め格納されているものである。ただし、基準圧力降下特性は、前回測定の圧力降下特性などであってもよい。なお、図7(b)には、基準圧力降下特性b0と、バルブ閉鎖時刻t1後に測定した圧力降下特性b1とが一致しており、これらに差がない場合が示されている。
【0071】
以上のように図6に示すステップS4において、圧力降下特性と基準圧力降下特性との比較を行うが、ステップS5に示すように、これらの差(比較結果)の絶対値が小さい、例えば所定の閾値未満のときには、絞り部2などの状態が初期状態から変化していない正常状態であると判定できる(ステップS6)。また、これらの差の絶対値が閾値以上の場合には、絞り部2などに拡大・詰まり等の異常が発生していると判定することができる(ステップS7)。このようにして異常の有無を判断した結果(以下、第1の診断結果と呼ぶことがある)は、圧力制御バルブ6の異常、絞り部2の異常、更には、絞り部2以降の下流側の全体の異常を検知するために用いられ得る。異常の有無を示す第1の診断結果は、例えば、第1制御回路7の記憶装置に設けられた判断記憶部に記録されてもよいし、流量制御装置100に接続された外部装置に設けられた判断記憶部に記録されてもよい。
【0072】
ステップS4における圧力降下特性と基準圧力降下特性との比較は、種々の態様で行われ得る。例えば、各サンプル点における測定圧力と基準圧力との差の総和を比較結果として用いて、この比較結果の大きさに基づいて絞り部2の異常の有無を判断するものであってもよい。
【0073】
また、圧力降下特性を測定するときの初期上流圧力をPiとし、圧力降下時の上流圧力の時間に対する関数(圧力降下データと呼ぶことがある)をP(t)とすると、ln(P(t)/Pi)=SC(RT)1/2/V・tで表すことができ、Sは絞り部の開口断面積、Cはガスの定数、Rはガス定数、Tはガス温度、Vは圧力制御バルブ6と絞り部2との間の流路容積、tは時間である。ここで、C、R、T、Vを時間によらない定数であると仮定すると、ln(P(t)/Pi)=-αt(αは定数)と表すことができるので、ln(P(t)/Pi)は、時間tに対する一次関数として規定することができることが分かっている。
【0074】
このため、測定したP(t)から、ln(P(t)/Pi)の傾きαを最小二乗法などによって求めるとともに、基準圧力降下データとして予めメモリに格納しておいた基準傾きα0と比較し、その傾きの差を比較結果として用いることもできる。なお、圧力降下特性を用いて自己診断を行う流量制御装置が、本願出願人による国際公開第2017/170174号(特許文献3)に記載されており、本発明の実施形態において、国際公開第2017/170174号に記載の種々の自己診断プロセスを利用し得る。
【0075】
以上のようにして第1の診断結果を求めるとともに、本実施形態の自己診断方法では、流量制御バルブ8を絞り部未満の開度に設定して圧力降下特性を測定し、測定した圧力降下特性を基準圧力降下特性と比較して異常の有無を判断する工程も併せて実行される。
【0076】
この工程では、図6のステップS8に示すように、上流圧力P1が100%流量に対応する圧力となるように圧力制御バルブ6を制御するとともに、流量制御バルブ8を絞り部未満の所定開度の開状態にしてガスが下流側に安定して流れる状態から、ステップS9に示すように、圧力制御バルブ6を開状態から閉状態に変化させる。そして、ステップS10に示すように、圧力制御バルブ6を閉状態とした後の上流圧力P1の降下特性を、第1圧力センサ3を用いて測定する。これにより、流量制御バルブ8の状態に対応する圧力降下特性が得られる。
【0077】
上記のステップS8~ステップS10の圧力降下特性測定工程は、流量制御バルブ8を絞り部未満の開度に設定して行うこと以外は、ステップS1~ステップS3の圧力降下特性の測定工程と同様であってよい。ステップS8~ステップS10においても、圧力制御バルブ6を中間開状態にして圧力降下特性の測定を開始することもできる。また、圧力降下特性は、圧力降下の特性を示すものである限り、時間ごとに測定された圧力値に限られず、種々の態様で得られるものであってよい。また、ステップS8~ステップS10の圧力降下特性測定工程は、ステップS1~ステップS3の圧力降下特性の測定工程の後に行ってもよいし先に行ってもよい。
【0078】
次にステップS11に示すように、ステップS10で得られた圧力降下特性と、基準圧力降下特性とを比較する。ここで用いられる基準圧力降下特性は、上記のステップS10での測定と同じ条件、すなわち、流量制御バルブ8を絞り部未満の所定開度の開状態にしてガスを流して得られたものであり、ステップS4で用いられた基準圧力降下特性とは典型的には異なるものである。本ステップS11で用いる基準圧力降下特性もまた、工場出荷前に予め計測された初期の圧力降下特性であり、例えば、第1制御回路7に設けられた記憶装置に予め格納されている。なお、図7(c)には、基準圧力降下特性c0に対して、バルブ閉鎖時刻t1後に測定した圧力降下特性c1が下方にずれており、これらの差がマイナス側に生じている場合が示されている。
【0079】
以上のように図6に示すステップS11において、圧力降下特性と基準圧力降下特性との比較を行うが、ステップS12に示すように、これらの差(比較結果)の絶対値が小さい、例えば所定の閾値未満のときには、流量制御バルブ8の状態が初期状態から変化していない正常状態である可能性が高いと判定できる(ステップS13)。また、これらの差の絶対値が閾値を超えている場合には、流量制御バルブ8に異常が発生している可能性が高いと判定することができる(ステップS14)。このようにして得られる第2の診断結果は、例えば、第1制御回路7の記憶装置に設けられた判断記憶部に記録されてもよいし、流量制御装置100に接続された外部装置に設けられた判断記憶部に記録されてもよい。
【0080】
ただし、上記のステップS11~S14で求める異常の診断結果(第2の診断結果)には、絞り部2の異常や圧力制御バルブ6の異常などが生じていた場合に、これらが影響している可能性がある。そこで、本実施形態では、ステップS15に示すように、第1の診断結果および第2の診断結果に基づいて、流量制御バルブ8の異常の有無の診断を行うようにしている。より具体的には、第1の診断結果において異常がないと判断され、かつ、第2の診断結果において異常があると判断されたとき(すなわち、第2の診断結果においてのみ異常があると判断されたとき)には、ステップS16に示すように流量制御バルブ8、特に、流量制御バルブ8の弁座と弁体の距離に異常があると判断するようにしている。
【0081】
また、本実施形態では、流量制御バルブ8の弁座と弁体の距離に異常があると判断した場合には、特に、流量制御バルブ8に設けられた歪センサの出力に異常があると判断している。より具体的には、ステップS15において、第2の診断結果においてのみ異常があると判断されたときには、歪センサの出力のスパンが変動して、歪センサの出力特性が初期状態から変動して、歪センサの出力が弁開度を正確にあらわさなくなったものと判断している。
【0082】
そして、ステップS16において歪センサの出力特性の変化が検出されたときには、ステップS11で得られた比較結果に基づいて歪センサ出力のスパンを補正する。例えば、流量制御バルブ8がノーマルオープン型のバルブである場合、図8に示すように、測定した圧力降下特性d1が基準圧力降下特性d0から上側にずれる比較結果(すなわち、圧力降下特性d1が基準圧力降下特性d0よりも大きい比較結果)が得られたときは、歪センサのスパンが減少したために、ピエゾ変位制御での変位量が以前よりも大きくなっており、歪センサの出力以上に弁が閉まった状態に変動したと考えることが出来る。一方、測定した圧力降下特性d2が基準圧力降下特性d0から下側にずれる比較結果(すなわち、圧力降下特性d1が基準圧力降下特性d0よりも小さい比較結果)が得られたときは、歪センサのスパンが増加したために、ピエゾ変位制御での変位量は以前よりも減少しており、歪センサの出力以上に弁が開いた状態に変動したと考えることが出来る。なお、流量制御バルブ8がノーマルクローズ型である場合、比較結果のずれ方向と、バルブの開閉のずれ方向とは上記とは逆になる。
【0083】
そこで、上記の比較結果に基づいて、例えば歪センサ20の出力の増幅率を決定し、増幅された歪センサ20の出力に基づいて流量制御バルブ8の弁開度を求めるようにすれば、弁開度と歪センサ20の出力との関係性をただして良好な精度での流量制御を継続して行うことが可能になる。
【0084】
以上、本発明の実施形態の自己診断方法を説明したが、上述したステップS1~S3の圧力降下特性測定工程と、ステップS8~S10の圧力降下特性測定工程とは、いずれが先に行われてもよい。また、ステップS4~S7の比較診断工程は、ステップS1~S3の圧力降下特性の測定工程の後に続けて行ってもよいし、ステップS8~S10の圧力降下特性の測定工程の後に行ってもよい。また、ステップS4~S7の比較診断工程は、ステップS11~S14の比較診断工程の前に行われてもよいし、後に行われてもよい。もちろん、ステップS4~S7の比較診断工程とステップS11~S14の比較診断工程とを同時並列的に行ってもよい。また、ステップS4の比較工程のみをステップS11~S14の比較診断工程の前に行うとともに、ステップS5~S7の診断工程をステップS11~S14の比較診断工程の後に行うようにしてもよい。これらの処理は、可能な限り任意の順序または同時並列的に行い得ることは言うまでもない。
【0085】
また、ステップS1~S3の圧力降下特性測定工程と、ステップS5~S7の圧力降下特性測定工程とにおいて、圧力制御バルブ6を閉にすることと、流量制御バルブ8を開にすること(ステップS1~S3では全開にすることであり、ステップS5~S7では絞り部2未満の開度にすることである)とは、いずれが先に行われてもよいし、同時に行われてもよい。また、流量制御バルブ8の下流側に下流バルブが設けられている場合、圧力降下特性の測定を下流バルブを閉じて行うとともに、対応する基準圧力特性との比較により、異常の検出を行うことも可能である。
【0086】
また、上記の実施形態における、圧力降下特性の測定結果の保存や、圧力降下特性と基準圧力降下特性との比較、あるいは、異常の有無の判断は、一部または全てを、流量制御装置100の外側(外部のコンピュータ等)で行うようにしてもよい。
【0087】
また、以上に説明した本実施形態では圧力制御バルブ6を閉じることによって生じる上流圧力P1の降下を測定しているが、これに限られず、圧力制御バルブ6の上流側に設けられた開閉弁(図示せず)を閉じることによって圧力降下を生じさせてもよい。本明細書では、絞り部2の上流側に設けられた任意の流路遮断機構を上流弁(圧力制御バルブ6を含む)と称することがある。
【0088】
また、本発明の実施形態による流量制御装置において、流量制御バルブは、ノーマルクローズ型の圧電素子駆動式バルブであってもよく、この場合にも、歪センサ出力に応じて流量制御バルブの圧電素子の駆動を制御することによって、良好な応答性で流量制御を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の実施形態による流量制御装置は、半導体製造プロセスにおいて流量制御の高速応答性が求められる場合にあっても好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0090】
1 流路
2 絞り部
3 第1圧力センサ
4 第2圧力センサ
5 流入圧力センサ
6 圧力制御バルブ
7 第1制御回路
8 流量制御バルブ
10 ピエゾアクチュエータ
10b ピエゾスタック(圧電素子)
11 バルブ本体
12 弁座
13 金属ダイヤフラム弁体
14 案内筒体
15 弾性部材
16 支持体
17 第2制御回路
18 弁体押さえ
20 歪センサ
20z 第1歪ゲージ
20x 第2歪ゲージ
100 流量制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8