(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】アルキニル金(III)錯体及び発光素子
(51)【国際特許分類】
C07F 1/12 20060101AFI20221208BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20221208BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221208BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C07F1/12 CSP
C09K11/06 660
H05B33/14 B
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2021534606
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 CN2019126665
(87)【国際公開番号】W WO2020125718
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】201811569709.8
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518032281
【氏名又は名称】四川知本快車創新科技研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】SICHUAN KNOWLEDGE EXPRESS INSTITUTE FOR INNOVATIVE TECHNOLOGIES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.3, Tengfei Road Shigao Renshou, Tianfuxinqu Meishan, Sichuan China
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】支 志明
(72)【発明者】
【氏名】杜 偉邦
(72)【発明者】
【氏名】唐 素明
(72)【発明者】
【氏名】周 冬伶
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105646551(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0278453(US,A1)
【文献】AU,V.K. et al,High-Efficiency Green Organic Light-Emitting Devices Utilizing Phosphorescent Bis-cyclometalated Alkynylgold(III) Complexes,Journal of the American Chemical Society,2010年,Vol.132, No.40,p.14273-14278
【文献】TANG,M. et al,Highly Emissive Fused Heterocyclic Alkynylgold(III) Complexes for Multiple Color Emission Spanning from Green to Red for Solution-Processable Organic Light-Emitting Devices,Angewandte Chemie, International Edition,2018年,Vol.57, No.19,p.5463-5466
【文献】TANG,M. et al,Saturated Red-Light-Emitting Gold(III) Triphenylamine Dendrimers for Solution-Processable Organic Light-Emitting Devices,Chemistry - A European Journal,2014年,Vol.20, No.46,p.15233-15241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
H01L
H05B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iで表される化学構造を有するアルキニル金(III)錯体。
【化1】
式I中、R
1~R
2はそれぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、置換
又は非置換アリール基又は置換又は非置換ヘテロアリール基であり、R
1とR
2は、更に隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素5員環の構造を形成し得、
R
3~R
6、R
7~R
10及びR
14~R
17は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリールオキシ基、置換又は非置換アルキルスルホニル基、置換又は非置換アリールスルホニル基、置換又は非置換アミノ基、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換アリール基、又は置換又は非置換ヘテロアリール基であり、R
7~R
10及びR
14~R
17における2つの隣接する
基は、親環に接続する2つ又は4つの炭素原子と5~8員環を部分的または完全に形成し得、
R
7~R
17における少なくとも2つの
基は電子求引性置換基であり、前記電子求引性置換基は、それぞれ独立してF原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基又はスルホン酸基、又はF、Cl、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基のうちの少なくとも1つで置換されたアリール基、ヘテロアリール基、1-不飽和アルキル基、1-オキソアルキル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基であり、
R
11~R
13は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、炭素数1~10の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基、炭素数0~12の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~12の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、又は炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロアリール基である。
【請求項2】
R
1とR
2は、それぞれ独立して水素原子、重水素原子、炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基、炭素数4~20の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数4~20の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリール基又は炭素数4~20の置換又は非置換ヘテロアリール基であり、又はR
1とR
2は、隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素6員環の構造を形成し得
、
R
1とR
2
が隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素6員環の構造を形成
することは、R
1とR
2の芳香環が直接結合して隣接窒素原子と6-5-6の縮合環構造を形成するか、芳香環の置換基で結合して隣接窒素原子と6-6-6縮合環構造を形成することを指す、請求項1に記載のアルキニル金(III)錯体。
【請求項3】
R
1
とR
2
は、それぞれ炭素数6~20の置換又は非置換アリール基であるか、又はR
1
とR
2
は、隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素6員環の構造を形成する、請求項2に記載のアルキニル金(III)錯体。
【請求項4】
R
3~R
6及びR
7~R
17は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、炭素数1~20の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~20の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリールスルホニル基、炭素数0~20の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~20の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~20の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリール基、又は炭素数3~20の置換又は非置換ヘテロアリール基である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のアルキニル金(III)錯体。
【請求項5】
R
7~R
10およびR
14~R
17中に随意に選択された少なくとも2つの
基はそれぞれ独立して、F原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、炭素数4~12の置換又は非置換ヘテロアリール基、炭素数2~10の置換又は非置換1-不飽和アルキル基、炭素数1~10の置換又は非置換1-オキソアルキル基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基、又は炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基であり、ここで、前記炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、前記炭素数2~10の置換又は非置換1-不飽和アルキル基、前記炭素数1~10の置換又は非置換1-オキソアルキル基、前記炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基又は前記炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基において、前記置換はF原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基のうちの少なくとも1つによって置換されることを指す、請求項1~
4のいずれか一項に記載のアルキニル金(III)錯体。
【請求項6】
R
3~R
6は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、Br原子、I原子、トリメチルシリル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、炭素数1~10の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数0~10の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~12の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、又は炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロアリール基である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のアルキニル金(III)錯体。
【請求項7】
下記の化学結構式の一つを有する、請求項1に記載のアルキニル金(III)錯体。
【化2】
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のアルキニル金(III)錯体を発光材料又はドーパントとする発光素子。
【請求項9】
前記発光素子は、陽極と陰極とを含み、前記陽極と陰極との間は、正孔注入層と正孔輸送層と発光層と電子輸送層と電子注入層と順次含み、ここでアルキニル金(III)錯体は発光層に位置する、請求項
8に記載の発光素子。
【請求項10】
1つ又は複数の
前記発光層を含み、前記発光層が複数である場合、各発光層に含まれた発光材料又はドーパントは、同じか又は異なり、その中、少なくとも1つの前記発光層は前記アルキニル金(III)錯体を含み、及び/または、
前記発光素子の発光層フィルムは、真空蒸着法又は溶液法で製造され、及び/または、
前記アルキニル金(III)錯体のドーピング濃度は、4~40wt%である、請求項
8又は請求項
9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記発光素子は、光結合出力なしで、
50cd/A以上の最大電流効率を有し、及び/または、
50 lm/W以上の最大工率効率を有し、及び/または、
20%以上の最大外部量子効率を有し、及び/または、
1000cd/m
2の場合、10%以上の最大外部量子効率を有し、及び/または、
効率のロールオフは、1000cd/m
2の場合、20%、例えば8%未満である、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互援用)
本願は、2018年12月21日に中国に出願された特願CN201811569709.8号に基づく優先権を主張し、その内容をここに援用する。
本発明は、配位化学及び発光材料の技術分野に属し、特に金(III)錯体及び発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光二極管(OLED)は新世代の表示及び照明技術として、その性能の鍵は使用される発光材料にある。現在、発光材料の研究は主にPt(II)、Ir(III)またはRu(II)錯体の分野に集中しており、いくつかの錯体を発光材料として商品化し、電子製品の表示パネルに応用している。人々がより多くの分野へ表示装置又は照明技術の要求を拡大し、高性能及び低コストを追い求めるにつれて、より幅広い金属錯体、特により安価な金属錯体に基づく発光材料の開発は非常に重要になる。
【0003】
発光材料は、主に燐光と蛍光に基づいて発光する。金属錯体で基底状態S0から励起されて一重項励起状態(S1状態)に遷移する電子の一部は、放射線によって基底状態に戻って蛍光を発する。通常の状況で理論的な量子効率は、わずか約25%であり、残りの部分(約75%)は系間交差によって三重項励起状態(T1状態)に達し、次に中央の重金属原子の作用で系間交差を加速するに従って、常温で放射によりT1状態からS0基底状態に戻って燐光を放出することができる。T1からS0へのスピン禁制遷移により、T1状態の放射減衰率は比較的低いため、発光寿命は長くなる。この過程でT1状態の電子の一部は逆系間交差(RISC)を介してS1状態に戻るか、内部衝突などの自己消光によって消耗する可能性があるため、発光寿命を長くすればするほど、逆系間交差及び自己消光が多くなり、量子効率が低くなる。更に、素子の対応する外部量子効率(EQE)も、光度が増加するにつれて、いろいろな程度の低減を示す。つまり、効率のロールオフが発生する。効率のロールオフが高すぎると、発光材料の商業的応用が不利になる。たとえば、表示器に適した輝度は100~1000cd/m2であるが、照明に適した輝度は1000~5000cd/m2である。これから見ると、フォトルミネッセンス量子効率と発光寿命は、発光材料の性能を評価するための重要な指標であることがわかる。
【0004】
熱活性化遅延蛍光(TADF,Thermally Activated Delayed Fluorescence)材料は、最近2年間でOLEDへの応用中に飛躍的な進歩を遂げた。この種の材料を熱活性化する場合、T1状態の励起子の約75%は、RISCチャネルを介してS1状態に達し、長寿命の蛍光を発するため、発光材料で励起されてS1状態に遷移する電子と、逆系間交差(RISC)を介してS1状態に戻った電子とは、放射によりS0状態に戻って蛍光を発することができる。理論的な量子効率は100%に達し、通常の蛍光を遅延蛍光に重ね合わせることにより、金属錯体の発光効率が大幅に向上する。ただし、T1状態のエネルギー準位はS1状態のエネルギー準位よりも低いことが多いため、T1状態から逆系間交差が発生する比率は低いことがよくあるが、S1状態とT1状態とのエネルギーギャップ(ΔEST)が小さく足りる場合(<800cm-1)、且つT1状態において放射減衰率が低い場合、室温でのRISCの比率を大幅に高めることができる[Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 915]。
【0005】
既存の文献では、金(III)錯体を使った発光材料が報告されて以来、より多くの注目を集めており、その中でアルキニル金(III)の多座配位錯体がより良い結果を得た。溶液法によって調製された関連アルキニル金(III)錯体によって得られた最大外部量子効率EQE値は15.3%であり、真空蒸着法によって調製されたアルキニル金(III)錯体を含む素子によって低い光度において得られた最も良いEQEは20.3%であるが、効率のロールオフによって制限される。つまり、明るさが増すにつれて、EQEは急激に低下する。光度が1000カンデラ/平方メートル(cd/A)である場合、EQEの低下(効率のロールオフ)は最大90%である。低い量子効率や厳しい自己消光を有するので高ドーピング濃度を採用し難いため、商業応用に至るのにはまだいろいろな試みを必要とする。研究により、それは三重項配位子の内又は配位子と配位子との間の電荷移動に基づく、C^N^C配位子のπ-π積み重ねによって生成されたエキシマーの蛍光発光を有することが示された。さらなる研究により、T1状態からS0状態までの放射減衰のスピン禁制のため、この種のアルキニル金(III)錯体の三重項励起状態T1がより低い放射減衰率(約102~103s-1)を有することが示された。このことは、高い量子効率を得るのに役に立たず、既存のアルキニル金(III)錯体はOLEDを製品化するための高輝度表示用の発光材料の要件を満たし難くなる。発光物体の遅い発光メカニズムは、OLEDの発光物体としての応用し難さの原因となる主な欠点であり、OLEDの発光物体としての応用が制限される。したがって、金(III)錯体を安価な代替品とする新型OLED発光材料を開発するには長い道のりがある。
【0006】
また、典型的なOLED発光素子の構造は、正極と負極との間に複数の有機半導体層を配置したサンドイッチ状の間層構造であり、正孔注入層と正孔輸送層と発光層と電子輸送層と電子注入層とを主に含む。その中で、OLED発光素子の充填組成やプロセスパラメータは、発光性能に重要な影響を与えることが多いため、様々な種類の発光材料に対して発光材料の発光特性を十分に表示強化することが可能な発光素子を探索し開発することは非常に意義がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の欠点を目指し、一般式Iによって表された構造を有する新型のアルキニル金(III)錯体を開発することである。当該錯体は、室温で熱活性化遅延蛍光TADFの特性を示し、有機電界発光二極管(OLED)に発光材料またはドーパントとして応用することができる。より高い外部量子効率とより短い発光寿命を達成すると共に、光度1000cd/A以内に明らかな効率のロールオフはなく、大きな商業的見通しがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(定義)
本発明により開示された用語、略語又は他の省略形は、以下に定義されている。定義されていない用語、略語又は省略形は、本願出願時に当業者に使用された通常の意味を有すると理解される。
【0009】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を指す。
【0010】
「アミノ」は、任意に置換され得る一級、二級、または三級アミンを指し、特に複素環員である第二級又は第三級アミン窒素原子を含み、また、特に、例えば、アシル部分で置換を行った二級又は三級アミノ基を含む。アミノ基のいくつかの非限定的な例は-NR’R”を含み、ここで、R’及びR”はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アシル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基又はヘテロシリル基である。
【0011】
「アルキル」は、炭素及び水素を含み、分岐鎖又は直鎖であり得る完全飽和した非環式の1価基を指す。それは、炭素数1~20、例えば、炭素数1~15、炭素数1~10、炭素数1~8又は炭素数1~6を有し得る。アルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ヘプチル、n-ヘキシル、n-オクチル及びn-デシルを含むが、これらに限定されない。
【0012】
「アルコキシ」は、ヒドロキシル基中の水素をアルキル基で置き換えることにより得られたラジカル-ORを指し、ここで、Rは上記で定義されたアルキル基である。例示的なアルコキシ基は、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ及びイソプロポキシを含むが、これらに限定されない。
【0013】
「シクロアルキル」は、単環式アルキル基、縮合または非縮合多環式アルキル基を指す。それは、炭素数4~20、例えば、炭素数5~20、炭素数5~12、炭素数5~8又は炭素数3~6を有し得、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルを含むが、これらに限定されない。
【0014】
「ヘテロシクロアルキル」は、1つまたは複数のヘテロ原子(O、N、S、P、Siなど)を含む単環式アルキル基、縮合または非縮合多環式アルキル基を指す。それは、炭素数3~20を有し得、例えば、炭素数3~20及びヘテロ原子数1~4、炭素数4~12及びヘテロ原子数1~4、炭素数4~8及びヘテロ原子数1~3、炭素数2~6及びヘテロ原子数1~2又は炭素数3~6及びヘテロ原子数1を有する。その例は、ピロリジニル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチアゾリル、テトラヒドロキサゾリル、ピペリジニル、ピペラジニル、チアジニルまたは1~3オキサシクロヘキサンを含むが、これらに限定されない。
【0015】
「芳香族」または「芳香族基」は、アリール又はヘテロアリールを指す。
【0016】
「アリール」は、任意選択で置換された炭素環式芳香族基を指す。それは、単環式又は縮合又は非縮合多環式アリール基であり得、炭素数6~20、例えば、炭素数6~16、炭素数6~12又は炭素数6~10を有する。アリール基のいくつかの非限定的な例は、フェニル、ビフェニル、ナフチル、置換フェニル、置換ビフェニル又は置換ナフチルを含む。他の実施形態では、アリール基はフェニルまたは置換フェニルである。
【0017】
「アリールオキシ」は、ヒドロキシル基中の水素をアリール基で置き換えることにより得られたラジカル-OArを指し、ここで、Arは、上記で定義されたアリール基である。例示的なアリールオキシ基は、フェノキシ、ビフェノキシ、ナフトキシ及び置換フェノキシを含むが、これらに限定されない。
【0018】
「ヘテロアリール」は、複数のヘテロ原子(O、N、S、P、Siなど)を含む単環式アリール基、縮合または非縮合多環式アリール基を指す。それは、炭素数3~20を有し得、例えば、炭素数3~20及びヘテロ原子数1~4、炭素数3~12及びヘテロ原子数1~4、炭素数3~8及びヘテロ原子数1~3、炭素数2~5及びヘテロ原子数1~2又は炭素数4~5及びヘテロ原子数1を有する。ヘテロアリール基のいくつかの非限定的な例は、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、イソキサゾリル、ピロリル、ピラゾリル、チエニル、フリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジン基、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、キノキサリニル、ビピリジル、アクリジニル、キナゾロン、ベンズイミダゾリル、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル又はベンズイソキサゾリルを含む。
【0019】
ここで、「ヘテロアルキル」、「ヘテロシクロアルキル」及び「ヘテロアリール」は、ヘテロ原子数1以上、好ましくはヘテロ原子数1~6、より好ましくはヘテロ原子数1~3を有し、酸素、窒素又は硫黄原子から選択された1つ以上を含むが、これらに限定されない。前記ヘテロ原子が複数である場合、前記複数のヘテロ原子は同じ又は異なる。
【0020】
化合物又は化学部分を説明するために本発明に用いられる「置換」は、その化合物又は化学部分の少なくとも1つの水素原子が第2の化学部分に置き換えられることを指す。置換基の非限定的な例は、本明細書に開示される例示的な化合物及び実施形態において見られるものだけでなく、「アルキル」又は「アルコキシ」が置換された場合、不飽和炭素-炭素結合又は下記の1つ以上で置換を行った置換基を含む:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヒドロキシル、酸素、アミノ、一級アミノ、二級アミノ、イミノ、ニトロ、ニトロソ、シアノ、置換又は非置換置換C1~C8アルコキシ、置換又は非置換C3~C8シクロアルキル、置換又は非置換C2~C7ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換C6~C10アリール、置換又は非置換C4~C9ヘテロアリール。ここで、置換基が酸素である場合、それは酸素と当該酸素に結合した炭素によって形成されたカルボニル基を指し、例えば、ケトンカルボニル基、アルデヒド基、エステル基、アルキルアシル基、アリールアシル基、アミド基などである。前記「アリール」、「アリールオキシ」又は「ヘテロアリール」が置換される場合、下記の1つ以上で置換を行った置換基を含む:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヒドロキシル、アミノ、一級アミノ、二級アミノ、イミノ、ニトロ、ニトロソ、シアノ、置換又は非置換C1~C8アルキル、置換又は非置換C1~C8アルコキシ、置換又は非置換C3~C8シクロアルキル、置換又は非置換のC2~C7ヘテロシクロアルキル、置換又は非置換のC4~C9ヘテロアリール。本発明では、好ましくは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つの置換基で置換を行い、または、トリフルオロメチル、パーフルオロフェニルなどのようなペルハロゲンで置換を行う。
【0021】
さらに、置換基は、炭素原子が窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子、硫黄原子又はハロゲン原子などのヘテロ原子によって置き換えられている部分を含み得る。これらの置換基は、ハロゲン、複素環、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、ヒドロキシル、保護ヒドロキシル、ケト、アシル、アシルオキシ、ニトロ、アミノ、アミド、シアノス、メルカプタン、ケタール、アセタール、エステル及びエーテルを含み得る。
【0022】
電子求引性置換基のいくつかの非限定的な例は、F、Cl、トリフルオロメチル、ニトロ、ニトロソ、シアノ、イソシアノ、カルボキシル、スルホン酸基、パーフルオロフェニル、2,4,6-トリフルオロフェニル、3,4,5-トリフルオロフェニル、2,4,6-トリトリフルオロメチルフェニル、2,4,6-トリニトロフェニル、トリフルオロメチルエチニル、パーフルオロビニル、トリフルオロメタンスルホニル、p-トリフルオロメチルベンゼンスルホニルを含む。
【0023】
本発明の目的を達成するために、本発明では一方では下記一般式Iで表される化学構造を有するアルキニル金(III)錯体が提供される。
【化1】
【0024】
式I中、R1~R2はそれぞれ独立して、水素原子、重水素原子、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、置換または非置換アリール基又は置換又は非置換ヘテロアリール基であり、R1とR2は、更に隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素6員環の構造を形成し得る。R1とR2が更に隣接窒素原子と窒素含有複素5員環又は窒素含有複素6員環の構造を形成し得ることは、R1とR2の芳香環が直接結合して隣接窒素原子と6-5-6の縮合環構造を形成するか、芳香環の置換基(例えば、O、S、C、N、Pおよび他の原子で結合する)で結合して隣接窒素原子と6-6-6縮合環構造を形成することを指す。
【0025】
R3~R6及びR7~R17は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、置換又は非置換アルコキシ基、置換又は非置換アリールオキシ基、置換又は非置換アルキルスルホニル基、置換又は非置換アリールスルホニル基、置換又は非置換アミノ基、置換又は非置換アルキル基、置換又は非置換シクロアルキル基、置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、置換又は非置換アリール基、又は置換又は非置換ヘテロアリール基であり、R7~R17における2つの隣接するグループは、親環に接続する2つ又は4つの炭素原子と5~8員環を部分的または完全に形成し得、
【0026】
R7~R17における少なくとも2つのグループは電子求引性置換基であり、前記電子求引性置換基は、それぞれ独立してF原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基又はスルホン酸基、又はF、Cl、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基のうちの少なくとも1つで置換されたアリール基、ヘテロアリール基、1-不飽和アルキル基、1-オキソアルキル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基である。
【0027】
一実施形態では、R1とR2は、それぞれ独立して水素原子、重水素原子、炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基、炭素数4~20の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数4~20の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリール基又は炭素数4~20の置換又は非置換ヘテロアリール基である。
【0028】
一実施形態では、R1とR2はそれぞれ炭素数6~20の置換又は非置換アリール基である。一実施形態では、R1とR2はそれぞれ炭素数6~16の置換又は非置換アリール基である。一実施形態では、R1とR2はそれぞれ炭素数6~12の置換又は非置換アリール基である。一実施形態では、R1とR2はそれぞれ炭素数6~10の置換又は非置換アリール基である。一実施形態では、R1とR2はそれぞれ置換又は非置換フェニル基である。
【0029】
一実施形態では、R3~R17は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子(F原子、Cl原子、Br原子およびI原子)、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、炭素数1~20の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~20の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数1~20の置換又は非置換アルキルスルホニル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリールスルホニル基、炭素数0~20の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~20の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~20の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~20の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~20の置換又は非置換アリール基、又は炭素数3~20の置換又は非置換ヘテロアリール基である。
【0030】
一実施形態では、R7~R10およびR14~R17中に随意に選択された少なくとも2つのグループはそれぞれ独立して、F原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、炭素数4~12の置換又は非置換ヘテロアリール基、炭素数2~10の置換又は非置換1-不飽和アルキル基、炭素数1~10の置換又は非置換1-オキソアルキル基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基、又は炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基であり、ここで、前記炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、前記炭素数2~10の置換又は非置換1-不飽和アルキル基、前記炭素数1~10の置換又は非置換1-オキソアルキル基、前記炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基又は前記炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基において、前記置換はF原子、Cl原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基のうちの少なくとも1つによって置換されることを指す。
【0031】
一実施形態では、R11~R13は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、炭素数1~10の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキルスルホニル基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールスルホニル基、炭素数0~12の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~12の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、又は炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロアリール基である。
【0032】
一実施形態では、R3~R6は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、Br原子、I原子、トリメチルシリル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、炭素数1~10の置換又は非置換アルコキシ基、炭素数6~12の置換又は非置換アリールオキシ基、炭素数0~10の置換又は非置換アミノ基、炭素数1~10の置換又は非置換アルキル基、炭素数5~12の置換又は非置換シクロアルキル基、炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロシクロアルキル基、炭素数6~12の置換又は非置換アリール基、又は炭素数3~12の置換又は非置換ヘテロアリール基である。
【0033】
一実施形態では、R8、R10、R14及びR16は電子求引性置換基であり、前記電子求引性置換基は上記の通りであり、R7、R9、R11~R13、R15及びR17は水素原子である。R1とR2は独立してフェニル基であるか、第2位置に直接又は間接的に接続されたフェニル基である。R8とR10は同じであり、R14とR16は同じである。
【0034】
一実施形態では、R8、R10、R14及びR16は、それぞれ独立してフッ素原子などのハロゲン原子である。
【0035】
一実施形態では、R7、R9、R11~R13、R15及びR17は、それぞれ独立して水素原子である。
【0036】
一実施形態では、R12は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子である。
【0037】
一実施形態では、R3~R6は、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基(例えば、炭素数1~10の置換又は非置換アルキル基、炭素数1~6の置換又は非置換アルキル基)である。
【0038】
別の実施形態では、R3~R17基によって提供される炭素原子の総数は、0~40、好ましくは0~20である。
【0039】
別の実施形態では、R3~R17基によって提供される炭素原子の総数は、0~30、好ましくは0~15である。
【0040】
別の実施形態では、R1とR2基によって提供される炭素原子の総数は、0~60、好ましくは12~30である。
【0041】
式Iを有するアルキニル金(III)錯体のいくつかの具体的な非限定的な実例は下記の通りである:
【化2】
【0042】
本発明により提供されたアルキニル金(III)錯体は、フォトルミネセンス及び電界発光の特性を有し、昇華や真空蒸着や回転塗布やインクジェット印刷又は他の既知の製造方法などで薄膜を形成することができる。また、アルキニル金(III)錯体又はそれによって形成された薄膜は、発光素子の製造の際に発光層として応用することができる。具体的には、前記アルキニル金(III)錯体は、ドーピングという形で発光層に存在し、ドーピング濃度が異なると、提供された最大光度が異なる。本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、依然として、1000cd/m2などの大きな光度で高い量子効率を維持することができ、効率のロールオフは明らかではない。
【0043】
本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、室温で熱活性化遅延蛍光TADFを示す。
【0044】
本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、室温で熱活性化遅延蛍光(TADF)を主に示す。好ましくは、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体に室温で示された熱活性化遅延蛍光(TADF)は全蛍光量子効率の25%~75%を占める。
【0045】
本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、立体的に分離されるか又は歪められた受容体及び供与体を有する(すなわち、2価陰イオンの電気吸引によって置換された三座C^N^C配位子)ため、一重項励起状態と三重項励起状態との間のエネルギー差は、アルキニル金(III)錯体内で非常に小さくなって逆系間交差の発生を促進し、室温でTADFを示して高い量子効率を得る。この種の錯体を発光ドーパント(emissive dopant)としてOLEDの製造に応用すると、OLED素子の発光性能(効率)を大幅に向上させることができる。素子の外部量子効率EQEは、1000cd/m2の光度で発光する場合でも、比較的高いレベル(>10%)を維持するが、効率の減衰は8%に至って低くなる。これは当該化合物がOLED材料としてよく利用できることを示している。
【0046】
本発明の目的を達成するために、本発明は、前記アルキニル金(III)錯体を発光材料又はドーパントとする発光素子を提供する。
【0047】
一実施形態では、当該発光素子は、有機電界発光二極管(OLED)である。一般的に言えば、OLEDは、陽極と陰極からなり、両極の間に正孔注入層と正孔輸送層と発光層と電子輸送層と電子注入層とを順次含む。
【0048】
一実施形態では、当該OLEDは、発光材料又はドーパント材料として、前記アルキニル金(III)錯体を含む発光層を採用する。
【0049】
一実施形態では、当該OLEDは、1つ又は複数の発光層を含む。前記発光層が複数である場合、各発光層に含まれた発光材料又はドーパントは、同じまたは異なり、その中で、少なくとも1つの発光層には、前記アルキニル金(III)錯体の発光材料又はドーパントを含む。
【0050】
一実施形態では、昇華や真空蒸着や回転塗布やインクジェット印刷又は他の既知の製造方法のいずれかで前記発光層を製造する。
【0051】
一実施形態では、前記アルキニル金(III)錯体のドーピング濃度は、質量百分率で4~40%に値し、4%、8%、12%、16%、18%、24%、27%、37%を含むが、これらに限定されない。
【0052】
一実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、光結合出力なしで50cd/A以上の最大電流効率を示す。別の実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、40cd/A以上の、または40cd/A、50cd/A、60cd/A、70cd/Aのそれぞれ以上を含むが、限定されない電流効率を示す。
【0053】
一実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、光結合出力なしで50 lm/W以上の最大工率効率を示す。別の実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、40 lm/W以上の、または40 lm/W、50 lm/W、60 lm/W、70 lm/Wのそれぞれ以上を含むが、限定されない最大工率効率を示す。
【0054】
一実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、光結合出力なしで20%以上の最大外部量子効率を示す。別の実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、17%以上の、または17%、18%、19%、20%、21%のそれぞれ以上を含むが、限定されない最大外部量子効率を示す。別の実施形態では、最大外部量子効率の範囲は、15%~25%である。
【0055】
一実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、光結合出力なしで1000cd/m2の場合、20%以上の最大外部量子効率を示す。別の実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、10%以上の、または10%、12%、14%、16%、18%、20%のそれぞれ以上を含むが、限定されない最大外部量子効率を示す。
【0056】
一実施形態では、発光素子の効率のロールオフは、1000cd/m2の場合、8%未満である。別の実施形態では、発光素子の効率のロールオフは、1000cd/m2の場合、20%未満の、又は17%、15%、13%、10%、7%、5%、3%のそれぞれ未満を含むがこれらに限定されない任意の百分率である。
【0057】
実施形態では、一般式Iのアルキニル金(III)錯体で製造された素子は、(0.38±0.08、0.55±0.03)のCIE色座標を示す。
【0058】
本発明の有益な効果は、下記の通りである。
【0059】
本発明により提供されたアルキニル金(III)錯体は、短い発光寿命や高い外部量子効率や低い効率のロールオフなどの優れた発光特性を有し、現在の金(III)錯体、特にアルキニル金(III)錯体に対する研究中で得られた最良の結果であるだけでなく、市販されているPt(II)やIr(III)などの金属錯体を含む発光材料の性能に接近又は相当するため、新型のOLED発光材料となることが期待されている。
【0060】
本発明により提供されたアルキニル金(III)錯体の発光は、TADFを含み、又は主にTADF発光に基づき、室温におけるTADFを有する最初に発見されたアルキニル金(III)錯体である。放射減衰率は、OLED発光材料に用いられた既知のアルキニル金(III)錯体全体中で最も高くなるため、燐光又は通常の蛍光発光によって引き起こされた発光性能の欠陥を大幅に克服し、高い量子効率ができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図2】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体101の発光スペクトル図である。
【
図3】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体101のUV吸収図である。
【
図4】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体102の発光スペクトル図である。
【
図5】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体102のUV吸収図である。
【
図6】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体103の発光スペクトル図である。
【
図7】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体103のUV吸収図である。
【
図8】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体104の発光スペクトル図である。
【
図9】脱気トルエン中且つ2×10
-5mol/Lの濃度で本発明によって提供された金(III)錯体104のUV吸収図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明を明確かつ理解しやすくするために、先ず本発明の実施形態に関連した英語の略語と日本語との対照は、次のとおりである。
TCPA: 4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン
TAPC: 4,4’-シクロヘキシルビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)アニリン
TPBi: 1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン
TmPyPb: 3,3’-[5’-[3-(3-ピリジル)フェニル][1,1’:3’,1”-テルフェニル]-3,3”ジイル]2ピリジン
HAT-CN: 2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン
LiF: フッ化リチウム
ITO: インジウムスズ酸化物
Al: アルミニウム
【0063】
以下は、本発明の実施形態を示す実例である。これらの例は、制限的なものとして解釈されるべきではない。特に明記しない限り、すべての百分率は重量によるものとし、すべての溶媒混合比は体積によるものとする。
【0064】
(実施例1)
本発明を理解しやすくするために、次のとおりで特定の錯体101~104を例として本発明のアルキニル金(III)錯体の調製方法を説明する。その反応式は次のとおりである。
【0065】
【0066】
既存の文献に報告された方法を参照することにより錯体101~104を合成した。反応試薬が異なった以外に他の反応条件は基本的に同じまたは類似であった。当業者は、既存の文献に報告された方法に従って同じまたは類似の条件下で異なる基質構造を有するC^N^C-Au-Cl錯体及びアルキン試薬を変更することができる。本発明に関連した異なるアルキニル金(III)錯体の構造を合成取得した。
【0067】
錯体101~104の産物構造の特性データは次のとおりである。
【0068】
(錯体101)
1H NMR(500MHz, CD2Cl2): δ 7.89 (t, J=8.5Hz, 1H), 7.79(d, J=8.0Hz, 2H), 7.45(d, J=6.0Hz, 2H), 7.39(d, J=8.5Hz, 2H), 7.29(t, J=7.5Hz, 4H), 7.12(d, J=7.5Hz, 4H), 7.06(t, J=7.5Hz, 2H), 7.01(d, J=8.5Hz, 2H), 6.74-6.68(m, 2H).
19F NMR(500MHz, CD2Cl2):δ -104.19, -108.08.
【0069】
(錯体102)
1H NMR(500MHz, CDCl3): δ 7.95(t, J=8.0Hz,1H), 7.86(d, J=8.0, 2H), 7.82(d, J=8.0Hz, 2H), 7.63(dd, J=6.5, 2.5Hz, 2H), 7.47(dd, J=8.0, 1.5Hz, 2H), 7.33(d, J=8.5Hz, 2H), 7.01(td, J=7.5, 1.5Hz, 2H), 6.94(td, J=8.0, 1.5Hz, 2H), 6.72-6.67(m, 2H), 6.37(dd, J=8.0, 1.0Hz, 2H), 1.70(s, 6H).
19F NMR(500MHz, CDCl3): δ -102.72, -107.72.
【0070】
(錯体103)
1H NMR(500MHz, CD2Cl2): δ 8.00(t, J=8.0Hz, 1H), 7.90(d, J=8.0Hz, 2H), 7.79(d, J=8.0Hz, 2H), 7.64(d, J=6.0Hz, 2H), 7.33(d, J=8.5Hz, 2H), 6.76(t, J=10.5Hz, 2H), 6.69-6.61(m, 6H), 6.01(d, J=7.0Hz, 2H).
19F NMR(500MHz, CD2Cl2): δ -103.88, ―107.96.
【0071】
(錯体104)
1H NMR(500MHz, CD2Cl2): δ 7.97(t, J=8.0Hz, 1H), 7.89(d, J=8.5Hz, 2H), 7.68(dd, J=6.5, 2.0Hz, 2H), 7.27(t, J=7.5Hz, 4H), 7.09(d, J=8.0Hz, 4H), 7.03(t, J=7.5Hz, 2H), 6.81(s, 2H), 6.75-6.70(m, 2H), 2.49(s, 6H).
19F NMR(500MHz, CD2Cl2): δ -104.18, ―108.11.
【0072】
(実施例2)
錯体101~104の光物理的特性を室温で測定し、結果を下記の表1に示す。
【0073】
【0074】
分析:
上記の表1によってわかることが次のとおりである。
1)金属錯体101~104は、294~338nmの吸収波長範囲に強い吸収ピークを有し、消光係数εは(15~35)×103mol-1dm3cm-1の間にあるが、波長が359~399nmである箇所に中程度の強度の吸収ピークがある。その吸収ピークはC^N^C配位子の特徴的な吸収ピークである。消光係数εは(5~9)×103mol-1dm3cm-1の間にあり、配位子の特徴的な吸収ピークの後ろに412~435nm (ε=(1~63mol-1dm3cm-1)の間に弱い且つ広い吸収ピークがある。
【0075】
2)上記の錯体はトルエンに溶解するか、ポリメチルメタクリレートPMMAのフィルムにドープするかにかかわらず、強い蛍光発光を測定できる。また、測定された発光波長は基本的に黄色光の波長帯にある。フォトルミネセンスの量子効率は主に50~90%にあり、最大88%に至り、発光寿命は2μs未満であり、放射減衰率krは4.69~10.35×105s-1である。
【0076】
実験条件を調査して繰り返すことにより、錯体101~104によって様々な構造及び組成パラメータを有する発光素子はそれぞれ設計製造された。それに対する説明は次のとおりである。
【0077】
(実施例3-OLED1)
まず、錯体101をドーパントとして様々なドーピング濃度を設定し、発光素子の発光層に適用し、設計によりOLED1の構造を得る。陽極から陰極までの構造は次のとおりである:
ITO/HAT-CN(5nm)/TAPC(50nm)/TCTA:錯体101(10nm)/TmPyPb(40nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)
【0078】
次に、既定構造と組成パラメータに従って、発光素子を製造する。製造工程は大体次のとおりである。
【0079】
a)ITOによって塗布された透明なガラス基板を洗剤で超音波洗浄し、脱イオン水で濯いた後、予備使用に乾燥させる。
b)乾燥した基板を真空室に移し、熱蒸着によって順次沈殿することにより、既定厚さの各機能層を順次取得する:厚さ5nmの正孔注入層HAT-CN、厚さ50nmの正孔輸送層。
c)錯体101をドーパントとして様々な濃度比に応じてTCTAに溶解し、沈殿取得した正孔輸送層に基づいて溶液法で回転塗布を行って薄膜を形成し、発光層を得る。
d)次に、厚さ40nmのTmPyPb電子輸送層や厚さ1.2nmのLiF緩衝層や厚さ100nmのAl陰極を蒸着により有機膜上に順次堆積させる。
最後に、製造取得された発光素子OLED1の性能を測定する。
【0080】
測定条件は次のとおりである。ELスペクトルや光度や電流効率や工率効率や国際色標準(CIE coordination)をC9920-12浜松光学-絶対外部量子効率試験システム(C9920-12 Hamamatsu photonics absolute external quantum efficiency measurement system)で測定し、電圧-電流特性をKeithley 2400源測定ユニットで測定する。すべての発光素子を室温で大気中にカプセル化せずに特性評価する。
【0081】
測定された発光性能は、最大光度Lや電流効率CEや工率効率PEや外部量子効率EQEや国際色標準CIEを含む。結果を下記の表2に示す。
【0082】
【0083】
(実施例4-OLED2)
まず、錯体102をドーパントとして発光素子の発光層に適用し、設計によりOLED2の構造を得る。陽極から陰極までの構造は次のとおりである:
ITO/HAT-CN(5nm)/TAPC(40nm)/TCTA(10nm)/TCTA:TPBi:錯体102(10nm)/TPBi(10nm)/TmPyPb(40nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)
【0084】
次に、OLED2の前記既定構造及び組成パラメータと陽極から陰極までの組成順序に従って、発光素子を製造する。製造工程は、基本的に実施例3中のOLED1の製造工程と同じであり、実施例3と違うところは、特定の組成及び対応パラメータの変更である。
【0085】
最後に、実施例3と同じ条件及び方法に従って発光素子OLED2の性能を測定する。結果を下記の表3に示す。
【0086】
【0087】
(実施例5-OLED3)
まず、錯体103をドーパントとして発光素子の発光層に適用し、設計によりOLED3の構造を得る。陽極から陰極までの構造は次のとおりである:
ITO/HAT-CN(5nm)/TAPC(50nm)/TCTA:錯体103(10nm)/TmPyPb(50nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)
【0088】
次に、OLED3の前記既定構造及び組成パラメータと陽極から陰極までの組成順序に従って、発光素子を製造する。製造工程は、基本的に実施例3中のOLED1の製造工程と同じであり、実施例3と違うところは、特定の組成及び対応パラメータの変更である。
【0089】
最後に、実施例3と同じ条件及び方法に従って発光素子OLED3の性能を測定する。結果を下記の表4に示す。
【0090】
【0091】
(実施例6-OLED4)
まず、錯体104をドーパントとして発光素子の発光層に適用し、設計によりOLED4の構造を得る。陽極から陰極までの構造は次のとおりである:
ITO/HAT-CN(5nm)/TAPC(40nm)/TCTA(10nm)/TCTA:TPBi:錯体104(10nm)/TPBi(10nm)/TmPyPb(40nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)
【0092】
次に、OLED4の前記既定構造及び組成パラメータと陽極から陰極までの組成順序に従って、発光素子を製造する。製造工程は、基本的に実施例3中のOLED1の製造工程と同じであり、実施例3と違うところは、特定の組成及び対応パラメータの変更である。
【0093】
最後に、実施例3と同じ条件及び方法に従って発光素子OLED4の性能を測定する。結果を下記の表5に示す。
【0094】
【0095】
実施例3~6から見ると、錯体101~104で製造されたOLED全体は優れた発光性能を示す。例えば、発光素子は一般に20%以上の外部量子効率を得ることができる。また、1000cd/m2でも、外部量子効率を20%以上又は20%近くに維持できることにより、金錯体の1000cd/m2における効果が非常に低いという現状を変えたことになり、今でも関連結果についての文献が報告されてはない。
【0096】
実施例3~6で測定した結果と既存の文献(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 17861-17868; Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 5463-5466; J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10539-10550; J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14273-14278)で報告された結果を比較すると、錯体101~104の外部量子効率は17.3~23.4%であり、13.5の最高結果よりもはるかに高くなり、低い効率のロールオフや短い発光寿命を有する。
【0097】
以下では、従来技術と本発明によって提供された錯体の発光パラメータの比較を纏めた。
【0098】
【0099】
言及に値するのは、測定した後、上記の錯体全体によって製造された発光素子の効率のロールオフが1000cd/m2の範囲で20%を下回って効率のロールオフが明らかではないことにより、その商用応用に非常に役立つことである。
【0100】
(実施例7)
本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体の発光性能は、既存の文献で報告されたものよりもはるかに優れており、その放射線減衰率は4.69~10.35×105s-1である。これは、この種の錯体の発光が本実施例で燐光発光の原理に基づかない可能性を示す。また、上記の実施例中の錯体を用いて様々な温度での発光寿命を測定すると、温度が下がるに従って発光寿命が急激に長くなる現象が発生する。当業者の既存の理解によれば、この現象は、温度が室温から低下した後の発光メカニズムの変化の可能性が高いことを暫定的に明らかにしている。低温での発光メカニズムの放射減衰率が低下することにより、この現象はTADFの典型的な発光材料の特性と一致している。
【0101】
さらに、本実施例中の錯体の既知のパラメータと発光性能データを既存の理論式(1)に代入して、錯体がTADFを有する典型的な錯体と一致しているかどうかを検証する。その中で、式(1)は、熱活性化遅延蛍光を説明するのに用い、且つ発光寿命と温度に関連する式であり、計算した後、R2=0.972となる。これは、2つの発光メカニズムの適合度が極めて高まることを示している。錯体101~104の計算取得された一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差はそれぞれ632、176、207及び295cm-1であり、エネルギー差は従来の蛍光発光又は燐光発光の場合よりもはるかに低くなる。これは、室温で観察された強いフォトルミネセンスが主にTADFの原理に基づく蛍光であることを示している。
【0102】
【0103】
本発明の実施形態によって提供された金(III)錯体の構造的特徴は、受容体(2価陰イオンのフッ素置換三座C^N^C配位子)及び供与体(アミノ置換アリールアセチレン配位子-C≡C-TPA)を含む、空間的に分離された一対の配位子を有することである。メカニズムから錯体の発光原理をより深く理解するために、本実施例は、モデルを分析確立することにより、密度汎関数理論を採用して錯体101を例として理論計算を行う。錯体中の受容体及び供与体がそれぞれ電子遷移の一重項HOMO軌道と三重項LUMO軌道を提供し、配位子の空間的分離により、C^N^C配位子と-C≡C-TPA配位子においてアルキンと接続したベンゼン環の間に異なる二面角dを形成することがわかる。これにより、HOMO軌道とLUMO軌道とは分離し、異なる二面角dの大きさはS1状態軌道とT1状態軌道の間のエネルギー差を様々な程度に減少させるに従って、配位子-配位子の電荷移動(LLCT, ligand to ligand charge transfer)が容易に発生する。また、異なる二面角の間にエネルギー差が小さいため、アルキンと接続したベンゼン環の自由回転が室温で発生する可能性がある。
【0104】
下記の表6は、S1とT1の計算取得された放射減衰率定数を示している。T1状態での燐光の放射減衰率定数は、d=5.4°の場合、kr=4.04×102s-1であり、d=101°の場合、kr=2.14×103s-1である。これは、実施例2で得られた105~106s-1の放射減衰率定数からはほど遠いため、理論通りに説明することはできない。したがって、実験的に観測された光は燐光だけに帰することはできない。TADFメカニズムを考えると、krはd=5.4°の場合の6.47×102s-1及びd=101°の場合の1.22×106s-1に変化する。実験で測定されたkr値が放射遷移チャネル全体におけるkr値の合計であることを考えると、TADFを含むことは最も発生可能性の高いメカニズムである。
【0105】
このことから、我々の提供した新型のアルキニル金(III)錯体は、TADFに基づく発光を含み、TADF発光でさえも主に発光すると推測できる。結果として、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、より高い放射減衰率やより低い発光寿命やより低い効率のロールオフを有する。
【0106】
既存の文献(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 17861-17868; Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 5463-5466)では、アルキニル金(III)錯体で製造されたMCPフィルムの示した燐光発光の光量子効率が83%に達したと報告されている。この種の化合物は、固体膜内のC^M^C配位子のπ-πスタッキングによりエキシマーを生成して発光する。既存の文献に報告されたアルキニル金(III)錯体が燐光発光に基づく原理と比較して、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体に基づく発光原理は異なるため、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体の発光特性は、既に報告されたアルキニル金(III)錯体よりもはるかに優れている。また、すべての既知の金(III)錯体と比較して、得られた結果は最良であるため、本発明は新規であり、重要な意義と進歩性を有する。
【0107】
要約すると、本発明の実施例によれば、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は、下記の利点を有する:
1.三価中心金属Cu(III)にアミノ置換アリールアセチレン配位子-C≡C-TPAと2つ以上の電子求引基置換の2価陰イオン三座C^N^C配位子を導入することにより、優れた発光性能が得られる。そのフォトルミネッセンス量子効率は最大88%に達する可能性があり、高い放射減衰率定数(105~106s-1)と短い発光寿命(<2μs)を有し、且つ従来技術の大多数の金(III)錯体と比較して、その発光寿命(50μs~500μs)を約10~100倍短縮するため、より高い量子効率を得、より広い範囲のドーピング濃度で発光材料としてOLEDの製造に応用するのに役に立つ。
【0108】
2.本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体で製造されたOLEDは、優れた発光性能を有する。測定された最高の外部量子効率EQEは23.37%に達し、一般に20%以上または20%近くであり、更に現存のアルキニル金(III)錯体で既に得られた結果を50%上回り、Pt(II)やIr(III)などの金属錯体を含む市場での商品化発光材料の外部量子効率に相当する。また、光度が実際の要件とする1000cd/m2に達すると、効率のロールオフは8%に低下し、EQEは依然として21.8%に達し、光度が10000cd/m2に達しても、効率のロールオフは明らかではないため、この種のアルキニル金(III)錯体は、新型のOLED発光材料となる優れた性能を備えている。
【0109】
3.アルキニル金(III)錯体の発光特性とメカニズムを研究し、既存の理論計算結果と併せることにより、従来技術によって報告されたアルキニル金(III)錯体の燐光発光に基づく原理との差異は、本発明によってTADFを含み、又は主にTADFの原理に基づくアルキニル金(III)錯体の発光が開示されることである。放射減衰率は4.7~10.4×105s-1と推定され、アルキニル金(III)化合物全体の中で最も高くなる。この化合物は、初例が発見された室温TADFのアルキニル金(III)錯体である。TADFは、燐光発光のスピン禁制特性により、燐光発光に比べてより効率的な放射減衰方途であるため、燐光または通常の蛍光発光に基づく発光性能の欠如を大幅に克服し、室温で高いEQEを得るのに役に立つ。
【0110】
4.さらに、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体で使用された金属は、Pt(II)、Ir(III)及びRu(II)よりも安価であり、発光材料のコストを削減するのに有益であるため、発光素子、特にOLEDの商業開発で大きな応用の見通しを有する。
【0111】
5.また、構造は、従来技術の金(III)錯体と比較してより簡単であり、製造が容易である。溶液法で製造された発光素子は、真空蒸着法と同等又は基本的に同等の発光性能を実現しにくくなるが、本発明によって提供されたアルキニル金(III)錯体は溶液法で製造されたOLEDに適用することができ、真空蒸着法で製造された発光素子の性能と基本的に同じであり、OLEDの製造プロセスを簡素化し、コストを節約するのに有益である。