(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】エレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法
(51)【国際特許分類】
B66B 11/08 20060101AFI20221208BHJP
B23C 3/30 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B66B11/08 A
B23C3/30
(21)【出願番号】P 2021203645
(22)【出願日】2021-12-15
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 将志
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-273551(JP,A)
【文献】中国実用新案第210548244(CN,U)
【文献】実開昭49-132682(JP,U)
【文献】特開2013-043719(JP,A)
【文献】特開2005-255273(JP,A)
【文献】特開平7-204920(JP,A)
【文献】特開2003-328961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 11/08
B23C 3/30
B23B 35/00
B23P 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ回転体の中心軸線に沿って形成された内周面にキー溝を加工するエレベータ回転体のキー溝加工方法であって、
前記内周面を、前記中心軸線に平行な回転軸線を中心に回転する第1ドリルを前記中心軸線に平行に送りながら切削して第1ドリル溝を形成する第1ドリル加工工程と、
前記中心軸線に垂直な回転軸線を中心に回転するエンドミルを前記中心軸線に平行に送りながら前記第1ドリル溝を切削して前記キー溝を形成するエンドミル加工工程と、を備えた、エレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項2】
前記中心軸線に沿って見たときに、前記キー溝と前記内周面との2つの交点を点Aおよび点Bとし、前記キー溝の底面の中心点を点Cとしたとき、前記第1ドリルの直径は、前記点A、前記点Bおよび前記点Cを通る円の直径以下である、請求項1に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項3】
前記第1ドリル溝を、前記中心軸線に平行な回転軸線を中心に回転する第2ドリルを前記中心軸線に平行に送りながら切削して第2ドリル溝を形成する第2ドリル加工工程を更に備え、
前記第2ドリルの直径は、前記第1ドリルの直径よりも小さく、
前記エンドミル加工工程において、前記エンドミルは、前記第1ドリル溝および前記第2ドリル溝を切削して前記キー溝を形成する、請求項1または2に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項4】
前記中心軸線に沿って見たときに、前記第2ドリル溝は、前記第1ドリル溝の両側に形成される、請求項3に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項5】
前記第2ドリルの直径は、前記キー溝の深さ以下である、請求項3または4に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項6】
前記第1ドリル加工工程および前記エンドミル加工工程は、前記エレベータ回転体の前記内周面の加工と共通の加工機で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項7】
前記エレベータ回転体は、エレベータの巻上機に連結され、メインロープが巻き掛けられる綱車である、請求項1~6のいずれか一項に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法。
【請求項8】
エレベータ回転体の外周面、内周面および端面を形成する外形加工工程と、
請求項1~7のいずれか一項に記載のエレベータ回転体のキー溝加工方法により、前記内周面にキー溝を形成するキー溝加工工程と、を備えた、エレベータ回転体の加工方法。
【請求項9】
前記キー溝加工工程は、前記外形加工工程と共通の加工機で行われる、請求項8に記載のエレベータ回転体の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施の形態は、エレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータには、シャフトとキー結合した種々の回転体が用いられている。エレベータ回転体は、シャフトが挿入される貫通孔25を含んでおり、貫通孔25を画定する内周面にキー溝が形成されている。キー溝にキーが嵌合され、このキーがシャフトに形成されたキー溝にも嵌合している。このことにより、エレベータ回転体とシャフトをキー結合して一体に回転することができる。
【0003】
エレベータ回転体の例としては、巻上機に連結された綱車が挙げられる。綱車は、モータによって構成される巻上機のシャフトにキー結合されている。このことにより、巻上機のシャフトの回転が綱車に伝わり、綱車はシャフトと同期して回転する。このようにして、綱車に巻き掛けられたメインロープが巻き上げられて、カゴと吊り合い錘が昇降する。
【0004】
このようなエレベータ回転体の加工を行う場合、まず、エレベータ回転体の外周面、内周面および端面が、旋削機能を有する加工機(以下、便宜上旋盤と記す)で加工される。旋削加工が完了した後、エレベータ回転体は、ロボットアームなどの運搬機を用いてキー溝加工機に運搬されてセットされる。その後、キー溝加工機において内周面にキー溝が加工される。これにより、エレベータ回転体の加工が完了する。
【0005】
このように、エレベータ回転体は、別々の加工機で加工される。エレベータ回転体は、旋盤で加工が完了した後、旋盤からキー溝加工機へ運搬される。このため、エレベータ回転体の加工効率の向上が困難になっている。また、エレベータ回転体の運搬に、作業者による作業が発生し、エレベータ回転体の加工コストが増大するという問題もある。エレベータ回転体を運搬する運搬機などの設備が必要になるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-273551号公報
【文献】特開2016-13925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施の形態は、キー溝を含むエレベータ回転体の加工効率を向上させることができるエレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法を提供する。
【0008】
実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法は、エレベータ回転体の中心軸線に沿って形成された内周面にキー溝を加工する方法である。キー溝加工方法は、第1ドリル加工工程と、エンドミル加工工程と、を備えている。第1ドリル加工工程は、内周面を、中心軸線に平行な回転軸線を中心に回転する第1ドリルを中心軸線に平行に送りながら切削して第1ドリル溝を形成する工程である。エンドミル加工工程は、中心軸線に垂直な回転軸線を中心に回転するエンドミルを中心軸線に平行に送りながら第1ドリル溝を切削してキー溝を形成する工程である。
【0009】
実施の形態によるエレベータ回転体の加工方法は、エレベータ回転体の外周面、内周面および端面を形成する外形加工工程と、上述したエレベータ回転体のキー溝加工方法により、内周面にキー溝を形成するキー溝加工工程と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、本実施の形態によるエレベータ装置の概略構成を示す上面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の正面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1(a)の巻上機および綱車の分解斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA矢視図である。
【
図3】
図3は、一般的なキー溝加工方法を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態による外径加工工程後であってキー溝加工工程前の綱車を示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、本実施の形態によるキー溝加工方法における加工形状の推移を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態による第1ドリル加工工程を説明するための斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6の第1ドリル加工工程における第1ドリルの中心と直径を説明するための部分拡大図である。
【
図8】
図8は、本実施の形態による第2ドリル加工工程における第2ドリルの一方の中心と直径を説明するための部分拡大図である。
【
図9】
図9は、本実施の形態による第2ドリル加工工程における第2ドリルの他方の中心と直径を説明するための部分拡大図である。
【
図10】
図10は、本実施の形態によるエンドミル加工工程を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工機およびエレベータ回転体の加工方法について説明する。
【0012】
まず、
図1および
図2を用いて、エレベータ装置について説明する。
【0013】
図1(a)および
図1(b)に示すように、エレベータ装置1は、昇降路2内に配置されたカゴ3及び吊り合い錘4を備えている。カゴ3と吊り合い錘4は、メインロープ5を介して接続されている。メインロープ5は、巻上機6に連結された綱車20に巻き掛けられている。昇降路2には、カゴ3の昇降を案内するレール7と、吊り合い錘4の昇降を案内するレール8とが設けられている。このような構成により、巻上機6が駆動されると、綱車20がメインロープ5を巻き上げて、カゴ3及び吊り合い錘4が昇降する。
【0014】
巻上機6は、昇降路2の上方に設けられた機械室9内に設置されている。機械室9には、制御装置(図示せず)が設置されている。制御装置は、巻上機6を含むエレベータ装置1の全体を制御する装置である。例えば、制御装置は、乗場呼び、およびカゴ呼びに応じて巻上機6を運転制御し、カゴ3を呼び登録された階床の乗場10へ着床させる。すると、カゴ3のカゴドア11が開くとともに乗場10に設けられた乗場ドア12が開き、利用者が乗降する。利用者の乗降が終了すると、カゴドア11および乗場ドア12が閉じられ、カゴ3は、次の階床に向かって昇降する。
【0015】
なお、エレベータ装置1は、
図1(a)および(b)に示す形態に限られることはない。例えば、いわゆる機械室レスのエレベータ装置であってもよい。すなわち、機械室9を設けることなく、巻上機6や制御装置を昇降路2の上部に設けるようにしてもよい。
【0016】
図2(a)に示すように、綱車20は、巻上機6のシャフト6aにキー結合されている。綱車20は、トラクションシーブ等と称される場合もある。
【0017】
綱車20は、中心軸線21と、外周面22と、内周面23と、一対の端面24と、キー溝26と、を含んでいる。外周面22は、中心軸線21を中心として円筒状に形成されている。外周面22には、メインロープ5が係合する図示しない溝が形成されている。溝は、周方向に延びている。このような溝は、外周面22に複数形成されていてもよい。内周面23は、中心軸線21を中心として円筒状に形成されている。内周面23は、シャフト6aが挿入される貫通孔25を画定している。キー溝26は、内周面23に凹状に形成されており、中心軸線21に平行に延びている。キー溝26は、内周面23から外周側に凹むように形成されている。キー溝26は、矩形横断面を有しており、一対の側面27(
図5(c)参照)と、底面28と、を含んでいる。側面27と底面28は垂直になっている。底面28とは、
図2(b)に示す綱車20の姿勢では、キー溝26の上面に相当する。
【0018】
巻上機6のシャフト6aの外周面には、凹状のキー溝6bが形成されている。シャフト6aのキー溝6bと、綱車20のキー溝26にキー13が嵌合されることにより、綱車20とシャフト6aがキー結合されて一体に回転することができる。
【0019】
一般的に、綱車20のキー溝26は、キー溝加工機で加工される。キー溝加工機は、ブローチ加工またはスロッター加工を行う加工機である。例えば、
図3に示すように、ブローチ30を綱車20の中心軸線21に平行に動かす。このことにより、ブローチ30の各刃で材料が少しずつ削られ、矩形横断面を有するキー溝26が形成される。このようなキー溝加工機は、旋削加工などを行う加工機とは別体に構成されている。このため、綱車20の外周面22、内周面23および端面24を形成した後、綱車20をキー溝加工機に運搬してセットしている。このため、綱車20の加工効率の向上が困難になっていた。
【0020】
本実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法について説明する。本実施の形態においては、本実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法は、上述したキー溝加工機を用いることなく、キー溝を形成するための方法である。
【0021】
エレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法は、シャフトとキー結合するエレベータ回転体に適用される。以下では、エレベータ回転体の例としての上述した綱車20に、本実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法およびエレベータ回転体の加工方法を適用する場合について説明する。
【0022】
エレベータ回転体の加工方法は、外形加工工程と、キー溝加工工程と、を含んでいる。
【0023】
(外形加工工程)
外形加工工程において、
図4に示すように、綱車20の外周面22、内周面23および端面24が加工によって形成される。キー溝加工を行う前であるため、
図4に示す綱車20には、キー溝26は形成されていない。外形加工工程は、旋削機能を有する複合加工機で行われてもよい。複合加工機とは、旋盤と同様な旋削加工と、マシニングセンターが有するミーリング加工(フライス削り)の両方の加工を行うことができる加工機である。
【0024】
(キー溝加工工程)
外形加工工程の後、キー溝加工工程が行われる。このことにより、外形加工工程において形成された内周面23にキー溝26(
図2(a)参照)が形成される。キー溝加工工程は、外形加工工程と共通の加工機で行われてもよい。より具体的には、後述する第1ドリル加工工程、第2ドリル加工工程およびエンドミル加工工程は、外形加工工程と共通の加工機で行われてもよい。外形加工工程が、上述した複合加工機で行われる場合には、この複合加工機で、キー溝加工工程を行ってもよい。
【0025】
キー溝加工工程は、本実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法(以下単に、キー溝加工方法と記す)により行われる。キー溝加工方法は、エレベータ回転体の一例である綱車20の中心軸線21に沿って形成された内周面23にキー溝26を加工する方法である。キー溝加工方法は、第1ドリル加工工程と、第2ドリル加工工程と、エンドミル加工工程と、を含んでおり、
図5に示すように、綱車20の内周面23の加工が行われる。
【0026】
(第1ドリル加工工程)
まず、第1ドリル加工工程が行われる。
図4に示す綱車20の内周面23がドリル加工されて、
図5(a)に示す第1ドリル溝51が形成される。
【0027】
第1ドリル加工工程において、
図6に示すように、綱車20の内周面23を、第1ドリル41で切削して第1ドリル溝51が形成される。第1ドリル41は、中心軸線21に平行な回転軸線を中心にして回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。
図6に示す例では、第1ドリル41は下方に送られる。第1ドリル41の先端は先細状に形成されているため、中心軸線21に平行に前進しながら第1ドリル溝51を形成することができる。第1ドリル溝51は、円の一部が切り欠かれた横断面を有しており、中心軸線21に沿って見たときに円弧の一部をなす面で画定されている。このような第1ドリル溝51を加工することを、半割加工とも称する。第1ドリル溝51の横断面は、半円状または三日月状であってもよいが、円形の一部が切り欠かれた形状であれば任意の形状を有していてもよい。
【0028】
図7を用いて、第1ドリル41の中心O
D1と直径との関係を説明する。
図7は、中心軸線21に沿って見たときの綱車20の貫通孔25を示す図である。これから形成するキー溝26と内周面23との2つの交点を点Aおよび点Bで示し、キー溝26の底面28の幅方向における中心点を点Cで示している。キー溝26の側面27と底面28との2つの交点を、点Dおよび点Eで示している。点Oは綱車20の中心であり、中心軸線21に一致している。点O、点A、点D、点E、点Bおよび点Oをこの順番で結ぶ線分で囲まれたドリル配置領域Rに、第1ドリル41の中心O
D1が配置されるようにしてもよい。第1ドリル加工工程においては、第1ドリル41の中心O
D1は、点Oと点Cとを結ぶ線分上に配置されてもよい。この場合、第1ドリル41の直径は、第1ドリル41の中心O
D1から点Cまでの距離の2倍の値としてもよい。
【0029】
例えば、第1ドリル41の直径は、点A、点Bおよび点Cを通る円の直径以下であってもよい。この場合の第1ドリル41の直径は、円の方程式から求めてもよい。より具体的には、
図7に示すように、キー溝26の底面28に平行にX軸を定義し、キー溝26の側面27に平行にY軸を定義し、点Aの座標をX
A、Y
A、点Bの座標をX
B、Y
B、点Cの座標をX
C、Y
Cとすると、以下のように3つの円の方程式が成り立つ。第1ドリル41の中心座標はX
D、Y
Dであり、第1ドリル41の半径はrである。
【数1】
【数2】
【数3】
【0030】
上記3つの方程式を解くことにより、第1ドリル41の中心OD1と半径を求めることができる。半径から第1ドリル41の直径が求められる。加工に用いる第1ドリル41の直径は、市販されている種々のドリルの直径から選定されてもよい。例えば、上記方程式から求められた直径以下の直径を有する市販のドリルが選定されてもよい。この際、後述するエンドミル加工工程におけるエンドミル43の仕上げ加工の加工代が残るように、方程式から求められた直径よりも小さい直径を有する市販のドリルが選定されてもよい。
【0031】
図7に示す位置に第1ドリル41を配置して加工を行うと、
図5(a)に示すように、綱車20に1つの第1ドリル溝51が形成される。中心軸線21に沿って見たときに、第1ドリル溝51は、キー溝26の幅方向中心に形成される。幅方向とは、キー溝26の横断面における底面28に沿う方向であってもよい。
図5は、中心軸線21に沿って見たときの図である。
【0032】
(第2ドリル加工工程)
第1ドリル加工工程の後、第2ドリル加工工程が行われる。
図5(a)に示す第1ドリル溝51が更にドリル加工されて、
図5(b)に示す第2ドリル溝52が形成される。
【0033】
第2ドリル加工工程において、第1ドリル溝51を、第2ドリル42で切削して第2ドリル溝52が形成される。第2ドリル42は、第1ドリル41と同様に、中心軸線21に平行な回転軸線を中心にして回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。第2ドリル42の先端は先細状に形成されているため、中心軸線21に平行に前進しながら第2ドリル溝52を形成することができる。第2ドリル溝52は、円の一部が切り欠かれた横断面を有しており、中心軸線21に沿って見たときに円弧の一部をなす面で画定されている。第2ドリル溝52は、キー溝26の横断面のうち第1ドリル溝51で切削されていない部分を切削することにより形成される。
【0034】
第2ドリル42の直径は、第1ドリル41の直径よりも小さくてもよい。例えば、第2ドリル42の直径は、キー溝26の深さd以下であってもよい。キー溝26の深さdは、
図8を参照した場合、点Aまたは点Bから底面28までの距離であってもよい。第2ドリル42の中心O
D2は、上述したドリル配置領域R内において、点Oと点Cとを結ぶ線分からずれた位置にあってもよい。このことにより、キー溝26の横断面のうち第1ドリル溝51で削れずに残った部分を効果的に削ることができる。
【0035】
第2ドリル溝52は複数形成されてもよい。例えば、
図8に示す位置ように、第2ドリル42の中心O
D2を、点Oと点Cとを結ぶ線分の一側に配置して加工を行ってもよい。そして、
図9に示すように、第2ドリル42の中心O
D2を、点Oと点Cとを結ぶ線分の他側に配置して更に加工を行ってもよい。このことにより、綱車20に2つの第2ドリル溝52が形成される。この場合、
図5(b)に示すように、中心軸線21に沿って見たときに、第2ドリル溝52は、キー溝26の幅方向において第1ドリル溝51の両側に形成される。
【0036】
(エンドミル加工工程)
第2ドリル加工工程の後、エンドミル加工工程が行われる。
図5(b)に示す第1ドリル溝51および第2ドリル溝52がエンドミル加工されて、
図5(c)に示すキー溝26が形成される。
【0037】
エンドミル加工工程において、
図10および
図11に示すように、第1ドリル溝51および第2ドリル溝52をエンドミル43で切削して、キー溝26が形成される。エンドミル43は、中心軸線21に垂直な回転軸線を中心に回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。
図10および
図11に示す例では、エンドミル43は上下方向に送られる。このことにより、中心軸線21に平行なキー溝26を形成することができる。上述したように、キー溝26は、矩形横断面を有している。
図11に示すように、エンドミル43は、概略的には円筒状に形成されており、先端面43aは回転軸線に垂直になっている。先端面43aおよび円筒状の外周面43bに刃がそれぞれ形成されており、エンドミル43は、先端面43aおよび外周面43bで材料を削ることができる。このことにより、矩形横断面を有するキー溝26を形成することができる。
【0038】
図10および
図11に示すように、エンドミル43は、アングルヘッド44を介して複合加工機の主軸45に連結されている。アングルヘッド44内には、加工機の回転をエンドミル43に伝達するための伝達機構(図示せず)が内蔵されている。伝達機構は、歯車等で構成されている。アングルヘッド44は、エンドミル43が取り付けられた状態で、綱車20の貫通孔25に挿入可能になっている。
【0039】
エンドミル43の直径は、キー溝26の幅以下であってもよい。エンドミル43の直径は、アングルヘッド44とともに貫通孔25に挿入可能な範囲から選定されてもよい。
【0040】
エンドミル加工工程は、比較的粗く削る第1エンドミル加工工程と、仕上げ加工を行う第2エンドミル加工工程と、を含んでいてもよい。第2エンドミル加工工程は、キー溝26の側面27の全体および底面28の全体に行われる。このため、上述した第1ドリル加工工程、第2ドリル加工工程および第1エンドミル加工工程は、仕上げ加工のための加工代を残すように行われてもよい。
【0041】
このようにしてエンドミル43で加工を行うことにより、
図5(c)に示すように、第1ドリル溝51および第2ドリル溝52が切削されて、キー溝26が形成される。この結果、本実施の形態による綱車20が得られる。
【0042】
ところで、エレベータの巻上機6は、水没を回避するために、
図1に示すように、昇降路2の上部に設置される場合がある。エレベータ装置1が設置される建物の制約により、昇降路2の上部のスペースが制限される傾向にある。このことにより、巻上機6および綱車20の小型化が図られている。この場合、綱車20の貫通孔25の直径が小さくなり、内周面23にキー溝26を形成するための工具の小型化が要求される。一方、小型化された綱車20の機械的強度を確保するために、綱車20が硬質材料で構成される場合がある。このため、硬質材料であってもキー溝26を形成可能な工具が要求される。
【0043】
これに対して本実施の形態においては、上述したように、綱車20の内周面23に第1ドリル41で第1ドリル溝51が形成される。第1ドリル41は、綱車20の中心軸線21に平行な回転軸線を中心に回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。このことにより、綱車20に、中心軸線21に平行な第1ドリル溝51を容易に形成することができる。綱車20が硬質材料で構成されている場合であっても、第1ドリル溝51を容易に形成することができる。そして、第1ドリル溝51を形成することにより、エンドミル43による削り代を削減することができる。このことにより、切削時のエンドミル43への負担を軽減し、エンドミル43の折損を防止したり、エンドミル43の寿命を長くしたりすることができる。エンドミル43による加工時間を短縮することもできる。
【0044】
第1ドリル溝51を形成した後に、第2ドリル溝52が形成される。第2ドリル42は、第1ドリル41と同様に、綱車20の中心軸線21に平行な回転軸線を中心に回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。このことにより、綱車20に、中心軸線21に平行な第2ドリル溝52を容易に形成することができる。綱車20が硬質材料で構成されている場合であっても、第2ドリル溝52を容易に形成することができる。そして、第2ドリル溝52を形成することにより、エンドミル43による削り代をより一層削減することができる。このことにより、切削時のエンドミル43への負担をより一層軽減することができる。
【0045】
第2ドリル溝52を形成した後に、キー溝26が形成される。エンドミル43は、中心軸線21に垂直な回転軸線を中心に回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。このことにより、綱車20に、中心軸線21に平行なキー溝26を容易に形成することができる。予め第1ドリル溝51および第2ドリル溝52が形成されているため、切削時のエンドミル43の負担を軽減することができる。綱車20が硬質材料で構成されている場合であっても、キー溝26を容易に形成することができる。エンドミル43への負担軽減により、エンドミル43の直径を小さくすることができる。このため、貫通孔25の直径が小さい場合であっても、エンドミル43をアングルヘッド44とともに貫通孔25に挿入することができる。
【0046】
このように本実施の形態によれば、綱車20の内周面23に、第1ドリル41を用いた加工によって中心軸線21に平行な第1ドリル溝51が形成され、その後、第1ドリル溝51がエンドミル43で切削されて、キー溝26が形成される。エンドミル43は、中心軸線21に垂直な回転軸線を中心に回転しながら、中心軸線21に平行に送られる。このことにより、第1ドリル溝51に沿うようにキー溝26を形成することができ、切削時にエンドミル43への負担を軽減することができる。このため、エンドミル加工によってキー溝26を容易に形成することができる。この結果、キー溝26を含む綱車20の加工を、旋削加工とミーリング加工の両方の加工を行うことができる加工機で行うことができる。キー溝26を含む綱車20の加工効率を向上させることができる。なお、本実施の形態によれば、
図3に示すようなキー溝加工機を不要にすることができる。このことにより、綱車20の加工のために要する作業者の作業を軽減し、加工コストを低減することができる。また、キー溝加工機に綱車20を運搬するための運搬機などの設備も不要にできる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、中心軸線21に沿って見たときに、キー溝26と内周面23との2つの交点を点Aおよび点Bとし、キー溝26の底面28の中心点を点Cとしたとき、第1ドリル41の直径は、点A、点Bおよび点Cを通る円の直径以下になっている。このことにより、キー溝26の横断面のうちより多くの部分を、第1ドリル41で切削することができる。このため、エンドミル43への負担をより一層軽減することができる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、第1ドリル溝51が形成された後、第1ドリル41の直径よりも小さい直径を有する第2ドリル溝52で中心軸線21に平行な第2ドリル溝52が形成される。その後、第1ドリル溝51および第2ドリル溝52がエンドミル43で切削されて、キー溝26が形成される。このことにより、第1ドリル溝51および第2ドリル溝52に沿うようにキー溝26を形成することができ、キー溝26の横断面のうちより多くの部分を、第1ドリル41および第2ドリル42で切削することができる。このため、切削時にエンドミル43への負担をより一層軽減することができ、エンドミル加工によってキー溝26をより一層容易に形成することができる。この結果、キー溝26を含む綱車20の加工効率をより一層向上させることができる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、中心軸線21に沿って見たときに、第2ドリル溝52は、第1ドリル溝51の両側に形成されている。このことにより、キー溝26の横断面のうちより多くの部分を、第1ドリル41および第2ドリル42で切削することができる。このため、エンドミル43への負担をより一層軽減することができる。
【0050】
また、本実施の形態によれば、第2ドリル42の直径は、キー溝26の深さ以下になっている。このことにより、第2ドリル42の直径を小さくすることができる。このため、キー溝26の横断面のうち、第1ドリル41では切削できなかった部分を、第2ドリル42で切削することができる。このため、エンドミル43への負担をより一層軽減することができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、第1ドリル加工工程およびエンドミル加工工程を、綱車20の外周面22、内周面23および端面24の加工と共通の加工機で行われる。このことにより、キー溝26を含む綱車20の加工を、旋削加工とミーリング加工の両方の加工を行うことができる加工機で行うことができる。このため、キー溝26を含む綱車20の加工効率を向上させることができるとともに、キー溝加工機を用いた加工を不要にすることができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、巻上機6に連結され、メインロープ5が巻き掛けられる綱車20のキー溝26が加工される。このことにより、小型化されるとともに硬質材料で構成された綱車20であっても、キー溝26を容易に形成することができる。
【0053】
なお、上述した本実施の形態においては、中心軸線21に沿って見たときに、第2ドリル溝52が、第1ドリル溝51の両側に形成される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、エンドミル43への負担を軽減することができれば、第2ドリル溝52は、第1ドリル溝51の一方の側に形成されていれば、他方の側に形成されていなくてもよい。
【0054】
また、上述した本実施の形態においては、第1ドリル加工工程において、1つの第1ドリル溝51が形成される例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、内周面23に複数の第1ドリル溝51が形成されてもよい。この場合、第1ドリル溝51は、キー溝26の幅方向に異なる位置に形成されてもよい。
【0055】
また、上述した本実施の形態においては、第1ドリル加工工程の後に第2ドリル加工工程を行う例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、エンドミル43への負担を軽減することができれば、第2ドリル加工工程は省略されてもよい。
【0056】
また、上述した本実施の形態においては、エレベータ回転体の例として、巻上機6に連結された綱車20を製造する例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、綱車20以外のシーブ等の回転体に、本実施の形態を適用することができる。
【0057】
以上述べた実施の形態によれば、キー溝を含むエレベータ回転体の加工効率を向上させることができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
20:綱車、21:中心軸線、22:外周面、23:内周面、24:端面、26:キー溝、28:底面、41:第1ドリル、42:第2ドリル、43:エンドミル、51:第1ドリル溝、52:第2ドリル溝
【要約】
【課題】キー溝を含むエレベータ回転体の加工効率を向上させることができるエレベータ回転体のキー溝加工方法を提供する。
【解決手段】実施の形態によるエレベータ回転体のキー溝加工方法は、第1ドリル加工工程と、エンドミル加工工程と、を備えている。第1ドリル加工工程は、内周面を、中心軸線に平行な回転軸線を中心に回転する第1ドリルを中心軸線に平行に送りながら切削して第1ドリル溝を形成する工程である。エンドミル加工工程は、中心軸線に垂直な回転軸線を中心に回転するエンドミルを中心軸線に平行に送りながら第1ドリル溝を切削してキー溝を形成する工程である。
【選択図】
図5