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特許7190274表皮材ステッチ構造および乗物用内装材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】表皮材ステッチ構造および乗物用内装材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B60R13/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018134099
(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公開番号】P2020011568
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】TBカワシマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508045804
【氏名又は名称】豊中工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 二朗
(72)【発明者】
【氏名】前岨 芳明
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 敬二
(72)【発明者】
【氏名】梅田 康仁
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-265747(JP,A)
【文献】特開2013-226971(JP,A)
【文献】特開2011-046311(JP,A)
【文献】特開平09-041253(JP,A)
【文献】特開2000-344021(JP,A)
【文献】米国特許第08071002(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用内装材において基材を覆う表皮材に対して施される加飾用ステッチのステッチ構造であって、
前記基材は、乗物室内側を向く本体部と、前記本体部の外縁の少なくとも一部から立設する立壁部と、を有し、
前記表皮材は、前記立壁部をその裏側まで巻き込んで前記基材を覆うものとされ、
前記加飾用ステッチは、前記表皮材における前記本体部を覆う部分から前記立壁部を覆う部分まで連続して延びるライン状をなし、前記本体部を覆う部分に施された本体部ステッチ部と、前記立壁部を覆う部分に施された立壁部ステッチ部と、を有し、
前記本体部ステッチ部は、前記本体部と前記立壁部との境界部分である角部の延びる方向に直交する方向である角部直交方向に対して傾斜して延設され、
前記立壁部ステッチ部は、前記角部直交方向に対してなす角度が、前記本体部ステッチ部の前記角部直交方向に対してなす角度より小さな角度で延設されたことを特徴とする表皮材ステッチ構造。
【請求項2】
前記立壁部の裏側まで巻き込んで覆う前の状態において前記加飾用ステッチが屈折して施された前記表皮材を、前記基材に貼り付けてなる請求項1に記載の表皮材ステッチ構造。
【請求項3】
前記立壁部ステッチ部のステッチピッチが、前記本体部ステッチ部のステッチピッチより小さくされた請求項1または請求項2に記載の表皮材ステッチ構造。
【請求項4】
乗物室内側を向く本体部と前記本体部の外縁の少なくとも一部から立設する立壁部とを有する基材に、加飾用ステッチが施された表皮材が覆われてなる乗物用内装材の製造方法であって、
前記表皮材における前記本体部を覆う部分から前記立壁部を覆う部分まで連続して延びて前記本体部と前記立壁部との境界部分である角部に相当する箇所で屈折したライン状をなし、前記本体部を覆う部分に施される本体部ステッチ部は、前記角部の延びる方向に直交する方向である角部直交方向に対して傾斜して延設し、前記立壁部を覆う部分に施される立壁部ステッチ部は、前記角部直交方向に対してなす角度が前記本体部ステッチ部の前記角部直交方向に対してなす角度より小さな角度で延設するように、前記加飾用ステッチを前記表皮材に施す加飾用ステッチ縫製工程と、
前記加飾用ステッチが施された前記表皮材を、前記基材の前記立壁部をその裏側まで巻き込んで前記基材を覆う状態で、前記基材に対して取り付ける表皮材取付工程と、
を含む乗物用内装材の製造方法。
【請求項5】
前記加飾用ステッチ縫製工程は、前記立壁部ステッチ部のステッチピッチを、前記本体部ステッチ部のステッチピッチより小さくする請求項4に記載の乗物用内装材の製造方法。
【請求項6】
前記加飾用ステッチ縫製工程は、前記立壁部ステッチ部におけるステッチ縫製時のテンションを、前記本体部ステッチ部におけるステッチ縫製時のテンションより高くする請求項4または請求項5に記載の乗物用内装材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用内装材において基材を覆う表皮材に対して施される加飾用ステッチの表皮材ステッチ構造に関し、また、基材に加飾用ステッチが施された表皮材を備えてなる乗物用内装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、乗物用内装材として、車両用のサイドドアのドアトリムが記載されており、そのドアトリムを構成する部材に、加飾用のステッチ(縫製加工による縫い目)が施されている。近年では、高級感を演出する目的で、下記特許文献1に記載されたドアトリムのように、乗物用内装材に対して加飾用ステッチが採用されることが多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8071002号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような加飾用ステッチは、乗物の乗員の目に触れやすい位置に設けられる場合が多く、見栄えが良いことが求められる。例えば、乗物室内側を向く本体部とその本体部の外縁から立設する立壁部とを有する形状の基材に対して、表皮材を、立壁部を巻き込むようにして貼り付ける場合がある。特に、立壁部を表皮材で覆う場合には、表皮材を引っ張って立壁部に巻き込んで貼り付ける場合が多い。加飾用ステッチが、本体部から立壁部にまで一直線で施されている場合、本体部と立壁部との境界部分である角部から立壁部を覆う部分において、加飾用ステッチに緩み・弛みが生じ、ステッチ糸が表皮材から浮いてしまう場合がある。特に、加飾用ステッチが、角部の延びる方向に対して傾斜して施されている場合に、そのような現象が生じやすい。
【0005】
本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、加飾用ステッチのステッチ糸の浮きを抑え、加飾用ステッチを有する乗物用内装材において見栄えが良い状態を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の表皮材ステッチ構造は、
乗物用内装材において基材を覆う表皮材に対して施される加飾用ステッチのステッチ構造であって、
前記基材は、乗物室内側を向く本体部と、前記本体部の外縁の少なくとも一部から立設する立壁部と、を有し、
前記表皮材は、前記立壁部をその裏側まで巻き込んで前記基材を覆うものとされ、
前記加飾用ステッチは、前記表皮材における前記本体部を覆う部分から前記立壁部を覆う部分まで連続して延びるライン状をなし、前記本体部を覆う部分に施された本体部ステッチ部と、前記立壁部を覆う部分に施された立壁部ステッチ部と、を有し、
前記本体部ステッチ部は、前記本体部と前記立壁部との境界部分である角部の延びる方向に直交する方向である角部直交方向に対して傾斜して延設され、
前記立壁部ステッチ部は、前記角部直交方向に対してなす角度が、前記本体部ステッチ部の前記角部直交方向に対してなす角度より小さな角度で延設されたことを特徴とする。
【0007】
表皮材が基材に対して立壁部を巻き込んで覆う場合、表皮材は引っ張られて立壁部の裏側まで巻き込まれる。つまり、表皮材が引っ張られることで、本体部と立壁部との境界付近から、表皮材の厚みが、本体部を覆う部分より小さくなる。そのため、本体部と立壁部との境界付近から立壁部を覆う部分において、加飾用ステッチのステッチ糸に緩みが生じやすいと考えられる。上記構成の表皮材ステッチ構造は、表皮材における基材の本体部を覆う部分におけるステッチ(本体部ステッチ部)の延設方向に対して、立壁部を覆う部分におけるステッチ(立壁部ステッチ部)の延設方向を屈折させた構造となっている。そして、立壁部ステッチ部の延設方向を、本体部と立壁部との境界(角部)の延びる方向に直交する方向、つまり、表皮材が引っ張られている方向に近づけている。つまり、この構成の表皮材ステッチ構造は、表皮材とともに、立壁部ステッチ部のステッチ糸も、角部直交方向に引っ張られることになり、ステッチ糸の緩み・弛みを抑え、ステッチ糸の浮きを抑えることができる。したがって、この構成の表皮材ステッチ構造によれば、基材に加飾用ステッチが施された表皮材が貼り付けられてなる乗物用内装材において、見栄えが良い状態を維持することができる。なお、この構成の表皮材ステッチ構造は、立壁部ステッチ部の延設方向が、角部直交方向、つまり、表皮材が引っ張られている方向に近いほど、ステッチ糸の緩み・弛みを効果的に抑えることができる。
【0008】
また、上記構成の表皮材ステッチ構造は、加飾用ステッチの屈折部分を基材の角部に合わせているため、ステッチが屈折していることによる違和感を乗員に与えず、見栄えを悪化させないようになっている。
【0009】
上記構成において、前記立壁部の裏側まで巻き込んで覆う前の状態において前記加飾用ステッチが屈折して施された前記表皮材を、前記基材に貼り付けてなる構成とすることができる。
【0010】
この構成の表皮材ステッチ構造によれば、本体部ステッチ部の延設方向に対して立壁部ステッチ部の延設方向を屈折させた構造を、容易に実現することができる。
【0011】
また、上記構成において、前記立壁部ステッチ部のステッチピッチが、前記本体部ステッチ部のステッチピッチより小さくされた構成とすることができる。
【0012】
この構成の表皮材ステッチ構造によれば、立壁部ステッチ部のピッチが小さくされているため、ステッチ糸の緩みを、より効果的に抑えることができる。また、この構成の表皮材ステッチ構造は、ステッチピッチの変更箇所を基材の角部に合わせているため、ステッチピッチが変わっていることによる違和感を乗員に与えず、見栄えを悪化させないようになっている。
【0013】
また、上記課題を解決するために本発明の乗物用内装材の製造方法は、
乗物室内側を向く本体部と前記本体部の外縁の少なくとも一部から立設する立壁部とを有する基材に、加飾用ステッチが施された表皮材が覆われてなる乗物用内装材の製造方法であって、
前記表皮材における前記本体部を覆う部分から前記立壁部を覆う部分まで連続して延びて前記本体部と前記立壁部との境界部分である角部に相当する箇所で屈折したライン状をなし、前記本体部を覆う部分に施される本体部ステッチ部は、前記角部の延びる方向に直交する方向である角部直交方向に対して傾斜して延設し、前記立壁部を覆う部分に施される立壁部ステッチ部は、前記角部直交方向に対してなす角度が前記本体部ステッチ部の前記角部直交方向に対してなす角度より小さな角度で延設するように、前記加飾用ステッチを前記表皮材に施す加飾用ステッチ縫製工程と、
前記加飾用ステッチが施された前記表皮材を、前記基材の前記立壁部をその裏側まで巻き込んで前記基材を覆う状態で、前記基材に対して取り付ける表皮材取付工程と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
この構成の乗物用内装材の製造方法は、前述の表皮材ステッチ構造を採用した乗物用内装材を、容易に製造することができる。つまり、この製造方法により製造された乗物用内装材は、表皮材とともに、立壁部ステッチ部のステッチ糸も、角部直交方向に引っ張られることになり、ステッチ糸の緩み・弛みを抑え、ステッチ糸の浮きを抑えることができる。したがって、この構成の製造方法によれば、基材に加飾用ステッチが施された表皮材が覆われてなる乗物用内装材において、見栄えが良い状態を維持することができる。
【0015】
上記構成において、前記加飾用ステッチ縫製工程は、前記立壁部ステッチ部のステッチピッチを、前記本体部ステッチ部のステッチピッチより小さくする構成とすることができる。
【0016】
この構成の製造方法によれば、先にも述べたように、立壁部ステッチ部のピッチが小さくされているため、ステッチ糸の緩みを、より効果的に抑えることができる。
【0017】
また、上記構成において、前記加飾用ステッチ縫製工程は、前記立壁部ステッチ部におけるステッチ縫製時のテンションを、前記本体部ステッチ部におけるステッチ縫製時のテンションより高くする構成とすることができる。
【0018】
加飾用ステッチは、通常、表皮材に食い込まないように、比較的小さなテンション(張力)で縫製される。この構成の製造方法は、表皮材を立壁部に貼り付ける際に表皮材の角部から立壁部を覆う部分の厚みが小さくなっても、その部分に対応するステッチのテンションが高められているため、その部分におけるステッチ糸の緩みを、より効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加飾用ステッチのステッチ糸の浮きを抑え、加飾用ステッチを有する乗物用内装材において見栄えが良い状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例の表皮材ステッチ構造が採用された乗物用内装材としてのドアトリムを車室内側からの視点において示す図である。
図2図1に示す第2オーナメントボードの正面図である。
図3図1に示す第2オーナメントボードの斜視図である。
図4】本発明の実施例の表皮材ステッチ構造を拡大して示す斜視図である。
図5】第2オーナメントボードの表皮材の展開図である。
図6】本発明の実施例の表皮材ステッチ構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0022】
<乗物用内装材の構成>
本発明の実施例の表皮材ステッチ構造は、乗物用内装材としてのドアトリム10に採用されている。まず、乗物用内装材であるドアトリム10を、図1を参照しつつ簡単に説明する。本ドアトリム10は、図示は省略するが、車両用のサイドドアの車室内側部分を構成するものであり、ドアインナパネルに対して車室内側から取り付けられるものである。本ドアトリム10は、概して矩形状をなすトリムボード20を主体として構成され、そのトリムボード20に加えて、トリムボード20上に設けられたインサイドハンドル21、アームレスト22、ドアグリップ23、ドアポケット24、スピーカーグリル25等の各種機能部品を含んで構成される。
【0023】
トリムボード20は、複数のボード部材が互いに組み付けられたものであり、主として、ロアボード30、ミドルボード32、第1オーナメントボード34、第2オーナメントボード36、アームレストボード38およびアッパボード40によって構成される。なお、第1オーナメントボード34および第2オーナメントボード36は、ミドルボード32の上方側に車両前後方向に並んで配されている。上記のインサイドハンドル21は、第1オーナメントボード34の上方側に設けられている。アームレスト22は、アームレストボード38がミドルボード32の上方側(トリムボード20のほぼ中央)に締結されることによって形成されている。ドアグリップ23は、第1オーナメントボード34の上方からアームレストボード38の前端に渡って延びるグリップカバー42が締結されることによって、アームレスト22の車両前方側に設けられている。ドアポケット24は、詳しい図示は省略するが、ロアボード30とそのロアボード30の車室外側に延び出したミドルボード32とによって形成されている。スピーカーグリル25は、ロアボード30の車両前方側に設けられている。また、第2オーナメントボード36とアッパボード40との間には、加飾プレート44が取り付けられている。
【0024】
上記の第1オーナメントボード34および第2オーナメントボード36は、基材に表皮材が貼り付けられて構成されたものである。そして、第2オーナメントボード36は、表皮材に加飾用ステッチが施されており、その加飾用ステッチに対して、本発明の表皮材ステッチ構造が採用されている。以下に、この第2オーナメントボード36について、詳しく説明することとする。
【0025】
第2オーナメントボード36は、図2および図3に示すように、基材50と、その基材50を覆う表皮材52とを有している。基材50は、車室内側の面を形成する本体部50aと、その本体部50aの車両後方側の外縁から立設して車両後方側の面を形成する立壁部50bと、本体部50aの上縁と下縁との各々から突出して設けられて他のボード部材に取り付けるための取付片50cと、を含んで構成される。また、本体部50aは、車両前後方向に長い形状のものであるが、車両後方側から上方に向かって突出し、図1に示すように、ドアトリム10の上端にまで延び出した形状のものとなっている。
【0026】
また、表皮材52は、シート状の部材であり、オレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂材料や本革等によって形成された表皮層54と、ウレタンフォーム等によって形成されたクッション層56からなり(図6参照)、やや嵩高で柔軟性を有する部材とされる。そして、この表皮材52に、飾り縫いが施されている。詳しく言えば、表皮材52には、3本のライン状のステッチ(加飾用ステッチ)60A,60B,60Cが施されている。
【0027】
これら3本のステッチ60A,60B,60Cは、図3に示すように、表皮材52における基材50の本体部50aを覆う部分から、立壁部50bにまで連続して延びている。そして、表皮材52における本体部50aを覆う部分に施された本体部ステッチ部62は、図2に示すように、車両後方側が上方に向かって延設されている。換言すれば、本体部ステッチ部62は、本体部50aと立壁部50bとの境界部分である角部50dの延びる方向に直交する方向である角部直交方向(図2に二点鎖線L,L,Lで示す)に対して傾斜して延設されている。なお、その本体部ステッチ部62の角部直交方向L,L,Lに対してなす角度を、本体部ステッチ角θ,θ,θと呼ぶこととする。
【0028】
そして、3本のステッチ60A,60B,60Cは、図3に示すように、角部50dの付近から屈折させられている。詳しく言えば、表皮材52における立壁部50bを覆う部分に施された立壁部ステッチ部64は、それの延設する方向が、角部50dの付近から角部直交方向L,L,Lに近い方向にされているのである。より詳しく言えば、立壁部ステッチ部64の角部直交方向L,L,Lに対してなす角度を立壁部ステッチ角δ,δ,δと呼べば、図4に示すように、その立壁部ステッチ角δ,δ,δが本体部ステッチ角θ,θ,θより小さな角度となるように、立壁部ステッチ部64は延設しているのである。
【0029】
また、本体部ステッチ部62のステッチピッチ(縫製時に針を刺す間隔)Pと、立壁部ステッチ部64のステッチピッチPと、を比較すると、立壁部ステッチ部64のステッチピッチPは、本体部ステッチ部62のステッチピッチPより小さくされている。
【0030】
<乗物用内装材(第2オーナメントボード)の製造方法>
次に、上述した第2オーナメントボード36の製造方法について説明する。まず、第2オーナメントボード36の基材50が成形される。基材50は、ポリプロピレン等の合成樹脂材料、あるいは、合成樹脂材料に繊維(ケナフ等の靭皮植物繊維など)を混合した材料等で、射出成形によって成形される。
【0031】
続いて、表皮材52が成形される。表皮材52は、図5に示すように、裁断された2枚の部材である第1表皮材52aと第2表皮材52bとが、ステッチ(本縫い)70において縫い合わされて成形される。だだし、縫い合わされる前に、第1表皮材52aには、前述した加飾用の3本のステッチ60A,60B,60Cが施される(加飾用ステッチ縫製工程)。それら3本のステッチ60A,60B,60Cは、図5に示すように、屈折して施される。詳しく言えば、表皮材52において、基材50の角部50dに相当する箇所で屈折したライン状に施される。さらに詳しく言えば、3本のステッチ60A,60B,60Cの本体部ステッチ部62は、角部直交方向L,L,Lに対して傾斜して延設され、立壁部ステッチ部64は、立壁部ステッチ角δ,δ,δが本体部ステッチ角θ,θ,θより小さな角度となるように延設される。つまり、立壁部ステッチ部64は、表皮材52の端末に直交する方向に近付けられるように延設されるのである。
【0032】
また、3本のステッチ60A,60B,60Cは、先にも述べたように、途中でステッチピッチが変更されており、立壁部ステッチ部64のステッチピッチP(本実施例においては4mm)が、本体部ステッチ部62のステッチピッチP(本実施例においては5mm)より小さくされている。さらに、3本のステッチ60A,60B,60Cは、ステッチ縫製時のテンション(張力)が、途中で変更されている。具体的には、本体部ステッチ部62における立壁部ステッチ部64の少し手前(本実施例においては20mm~30mm手前)から、立壁部ステッチ部64のテンションTが、本体部ステッチ部62における車両前方側の部分のテンションTより高められている。なお、本実施例においては、本体部ステッチ部62におけるテンションTは、3.4N~4.5Nとされ、立壁部ステッチ部64におけるテンションTは、本体部ステッチ部62におけるテンションTに対して0.5N程度高くなるように、3.9N~5.0Nとされている。
【0033】
次いで、上記のように加飾用のステッチ60A,60B,60Cが施された表皮材52が、基材50に取り付けられる(表皮材取付工程)。具体的には、表皮材52は、基材50に接着剤によって貼り付けられる。だたし、車両前方側の部分、および、車両後方側の部分は、基材50の裏側まで巻き込んで基材50を覆うように貼り付けられる。さらに言えば、基材50の車両後方側には立壁部50bが形成されているため、表皮材52は、その立壁部50bをその裏側まで巻き込んで貼り付けられるのである。そして、基材50の裏側まで巻き込むために、表皮材52は、外縁に直交する方向に引っ張られることになる。つまり、立壁部50bが形成された基材50の車両後方側の部分に表皮材52を貼り付ける際には、基材50の角部50dに直交する方向(角部直交方向)に表皮材52を引っ張って、立壁部50bを覆うとともに、立壁部50bの裏側まで延ばして貼り付けられるのである。特に、第2オーナメントボード36は、基材50の車両後方側の部分が上方側に突出した形状をしており、その部分を覆うために、表皮材52は、車両後方側、車両前方側、上方側へと引っ張って貼り付けられている。以上で、第2オーナメントボード36が完成する。
【0034】
<本発明の効果および他の態様>
上述したように、立壁部50bが形成された基材50の車両後方側の部分に表皮材52を貼り付ける際には、基材50の角部50dに直交する方向(角部直交方向)に表皮材52を引っ張って、立壁部50bを覆い、立壁部50bの裏側まで延ばして貼り付けられる。したがって、図6に示すように、基材50の本体部50aに貼り付けられた部分と、立壁部50bに貼り付けられた部分とでは、クッション層56の厚みが異なることになる。つまり、立壁部50bに貼り付けられた部分の方が、本体部50aに貼り付けられた部分より、クッション層56の厚みが薄くなってしまうのである。そのため、従来から、本体部50aから立壁部50bにまで延びた加飾ステッチにおいては、角部50dから立壁部50bを覆う部分でステッチ糸に緩みや弛みが生じ、ステッチ糸が浮いて見栄えが悪化してしまうような場合があった。特に、加飾ステッチが角部50dに対して傾斜して延設しており、立壁部50bにまで連続して一直線状に施されたステッチでは、そのような現象が生じやすかった。
【0035】
また、立壁部50bは、車両用ドアを閉めた状態においては、車体のピラーに重なって乗員の目につく箇所ではないが、乗降時において乗員の目に入りやすい箇所であるため、この立壁部50bについても見栄えが良い状態が維持されることが望ましい。
【0036】
本実施例の表皮材ステッチ構造は、ステッチ60A,60B,60Cが屈折し、立壁部ステッチ部64の延設方向が、角部直交方向に近付けられている。つまり、立壁部ステッチ部64の延設方向が、表皮材52が貼り付けられる際に引っ張られる方向に近付けられている。そのため、表皮材52とともに、ステッチ60A,60B,60Cのステッチ糸も引っ張られることになり、図6に示すように、立壁部ステッチ部64において、ステッチ糸の緩みや弛みが抑えられ、見栄えが悪くなることが防止されるようになっている。また、立壁部ステッチ部64は、本体部ステッチ部62に対して、ステッチピッチが小さくされるとともに、テンションが高くされていることで、立壁部ステッチ部64において、ステッチ糸の緩みや弛みがより一層抑えることができ、見栄えが良い状態を効果的に維持することができる。
【0037】
また、本実施例の表皮材ステッチ構造が採用された第2オーナメントボード36は、前述したように、基材50の車両後方側の部分が上方側に突出した形状をしており、その部分を覆うために、表皮材52は、車両後方側、車両前方側、上方側へと引っ張って貼り付けられている。そのため、その基材50の上方側に突出した部分においては、特に、表皮材52の厚みが薄くなっているため、その部分に延設するステッチ60Aが設けられた箇所は、特に、ステッチ糸の浮きが生じやすい箇所であるが、本実施例の表皮材ステッチ構造によって、ステッチ糸の浮きを効果的に抑えることができる。
【0038】
なお、立壁部ステッチ部64の延設方向は、緩みや弛みを抑えるという観点からすれば、角部直交方向に一致させることが望ましいが、屈折する角度が大きくなると、見栄えに影響を与えるため、それら緩みの抑制と見栄えとの両者を考慮して、立壁部ステッチ部64の延設方向を定めることが望ましい。
【0039】
本実施例の表皮材ステッチ構造および乗物用内装材の製造方法は、車両用サイドドアのドアトリムに採用されていたが、車両の他の内装材に採用することも可能である。さらに言えば、車両の内装材に限定されず、航空機や船舶等の他の乗物の内装材に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…ドアトリム〔乗物用内装材〕、20…トリムボード、36…第2オーナメントボード、50…基材、50a…本体部、50b…立壁部、50d…角部、52…表皮材、60A,60B,60C…ステッチ〔加飾用ステッチ〕、62…本体部ステッチ部、64…立壁部ステッチ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6