(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】水道用器具
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20221208BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C25D7/00 M
C25D3/12 101
(21)【出願番号】P 2018152107
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 継志
(72)【発明者】
【氏名】西川 武
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145473(JP,A)
【文献】特開2015-212417(JP,A)
【文献】特開2010-185166(JP,A)
【文献】特開2006-316480(JP,A)
【文献】特許第6542437(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上に施されたニッケルめっき層を備えた水道用器具であって、
前記ニッケルめっき層は、硫黄成分を含まず、
前記ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して-0.01V以上であり、
前記ニッケルめっき層の表面のWa値が5.1
μm以下であ
り、
前記Wa値は、BYK社製のWaveScanを用いて測定される算術平均うねり(Wa値)と等しい水道用器具。
【請求項2】
前記ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して+0.04V以上である請求項1に記載の水道用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材上にニッケルめっきが施された水道用器具に関するニッケル浸出低減技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、キッチン水栓、洗面水栓、浴室水栓等に用いられる水道用器具には耐腐食性、加工性及び切削性等の観点から銅合金等が用いられている。このような水道用器具は、銅合金製の粗形品に対して切削加工、研磨加工を行い、得られた母材の外周面にニッケルめっきを施して製造される。なお、ニッケルめっき上に更にクロムめっきが施される場合もある。
【0003】
ニッケルめっきが施された水道用器具の開口部周辺では、
図3に示すように、ニッケルめっきが内部にも析出する(つきまわる)場合がある。なお、水道用器具にクロムめっきを施したとしても、クロムめっきは内部に析出しにくい。
図3に示す水道用器具100において、水に接すると母材101(耐食性を向上するために意図的にニッケルを添加しているものや、意図しない不純物としてニッケルが含まれていることが多い)からニッケルが浸出することに加え、ニッケルめっき層102のつきまわり部からもニッケルが浸出する。
【0004】
具体的には、
図4に示すように、ニッケルめっきが施された従来の水道用器具の開口部の断面の成分を分析すると、開口部の断面から内側に15mmを超える部分(水道用器具の内側の部分)では、母材101の主成分(銅)の検出比率が高く、ニッケルはほとんど検出されないが、開口部の断面から内側15mm未満の部分(水道用器具の開口部付近の部分)では、つきまわり部からのニッケルの検出比率が高くなることが確認できる。
【0005】
そこで、ニッケルめっきが施された水道用器具において、ニッケルめっき(特に、つきまわり部)からのニッケルの浸出を少なくする技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載された技術によれば、ニッケルめっきに硫黄成分を含む有機添加剤を加えることで水道用器具に光沢を与えつつ、抱水クロラールの添加により水道水へのニッケルの浸出を少なくしている。この技術は、硫黄成分含む有機添加剤を加えたニッケルめっきの処理液中に、抱水クロラールを添加することで、ニッケルめっきの電位が貴になり、ニッケルめっきからのニッケルの浸出が少なくなるというものである。
【0006】
ところで、水道水が維持しなければならない水質は、水道法に基づく厚生労働省令によって定められている。平成27年4月1日に施行された「水質基準に関する省令」では、水質基準項目と基準値(51項目)が定められている。また、同省令では、水道水が維持すべき水質の目標として、水質管理目標設定項目と目標値(26項目)が定められている。ここで、ニッケルは、水質管理目標設定項目の1つであり、その目標値は、0.02mg/Lとされている。
【0007】
同省令で定められた管理目標値は、今後飲料水が維持しなければならない水質基準となることが想定される。この場合、水道用器具からの飲料水に浸出するニッケルの量(浸出値)が例えば水質管理目標設定項目の値の10分の1以下となるように、対策が求められる。飲料水以外の水道水にも同様の対策が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1にあるような硫黄成分を含む有機添加剤が加えられたニッケルめっき(以下単に「光沢ニッケルめっき」ともいう)によりニッケルの浸出を少なくすることには限界がある。一方で、硫黄成分を含む有機添加剤が加えられていないニッケルめっき(以下単に「半光沢ニッケルめっき」ともいう)を用いると、ニッケルの浸出が抑えられるものの、十分な光沢を得ることが難しい。
【0010】
本発明は、光沢があり、ニッケルの浸出が少ない水道用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、母材上に施されたニッケルめっき層を備えた水道用器具であって、前記ニッケルめっき層は、硫黄成分を含まず、前記ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して-0.01V以上であり、前記ニッケルめっき層の表面のWa値が5.1以下である水道用器具に関する。
【0012】
また、前記ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して+0.04V以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光沢があり、ニッケルの浸出が少ない水道用器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る水道用器具の模式図である。
【
図2】本実施形態に係る水道用器具を分解した図である。
【
図3】本実施形態に係る水道用器具の開口部の断面付近の構造を説明するための模式図である。
【
図4】従来の水道用器具の開口部内側の表面における金属の検出比率を示すグラフである。
【
図5】代表的な実施例、比較例のEPMA分析結果を示した図である。
【
図6】
図5における硫黄のピーク付近を拡大した図である。
【
図7】各実施例、比較例のニッケルめっき層の外観と、表面のWa値(BYK社製WaveScan装置のWa値)との関係を示した図である。
【
図8】代表的なめっき層の浸出液中での電位-電流曲線とNi浸出値の測定結果を示した図である。
【
図9】代表的なめっき層の浸出液中での腐食電位とニッケル浸出値の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0016】
先ず、本実施形態に係る水道用器具を組み合わせて製造される水栓の一例について説明する。
図1は、本実施形態に係る水栓の模式図である。
図2は、本実施形態に係る水栓を分解した図である。
図1、
図2に示すように、本実施形態に係る水栓1は、吐水口30から水道水を吐出する一般的な水栓(例えば、キッチン水栓、洗面水栓、浴室水栓等)である。水栓1は、本体10と、脚20と、吐水口30と、ハンドル50と、を備える。
なお、本明細書において、水道用器具は、飲料用の水を供給するための蛇口、バルブなどの水栓金具だけでなく、継手、給水管などを包含する意味で用いられる。水道用器具はその位置及び機能により、例えば「末端給水用具」、「給水管」、「配管の途中に設置される給水用具」などに分けられるが、本明細書における水道用器具は、これらの全てを包含する意味で用いられる。構造的には、水道用器具は水を通す内通水路と、水と接しない外面を持つものである。本発明は水栓金具に好ましく提供できる。
【0017】
本体10は、各種の水道用器具と接続可能な水道用器具である。本体10は、脚20と接続可能なねじ部12と、吐水口30と接続可能なねじ部13と、スピンドル40を介してハンドル50と接続可能なねじ部14とを備える。
【0018】
脚20は、本体10と接続可能な水道用器具である。脚20の一端は、図示しない水道水の供給源と接続される。脚20の他端にはナット21が取り付けられる。脚20のナット21と、本体10のねじ部12とが螺合することにより、脚20と、本体10とが接続される。
【0019】
吐水口30は、本体10と接続可能な水道用器具である。吐水口30の一端にはナット31が、他端には先端キャップ32がそれぞれ取り付けられる。吐水口30のナット31と、本体10のねじ部13とが螺合することにより、吐水口30と、本体10とが接続される。
【0020】
ハンドル50は、吐水量を調節するための部品である。ハンドル50にはスピンドル40の一端が取り付けられる。スピンドル40の他端と、本体10のねじ部14とが螺合することにより、スピンドル40を介して、ハンドル50と、本体10とが接続される。
【0021】
本体10と、脚20と、ナット21と、吐水口30と、ナット31と、先端キャップ32と、スピンドル40とは、母材101の外周面上に施されたニッケルめっき層102を備える。本実施形態においては、本体10と、脚20と、ナット21と、吐水口30と、ナット31と、先端キャップ32とは、ニッケルめっき層102上に施されたクロムめっき層103を備える。また、本体10、脚20、吐水口30などの部材については、必要に応じて脱鉛処理が施されている。
【0022】
続いて、本実施形態に係る水道用器具について説明する。
図3は、本実施形態に係る水道用器具、具体的には水道用器具の本体10の開口部の断面の構造を説明するための模式図である。
図4は、従来の水道用器具の開口部内側の表面における金属の検出比率を示すグラフである。
【0023】
図3に示すように、本実施形態に係る水道用器具100は、母材101上に施されたニッケルめっき層102を備える。水道用器具100の開口部では、ニッケルめっきが通水部に回り込む(つきまわる)。このような水道用器具100において、F1方向に水が流れると、母材101からニッケルが浸出することに加え、ニッケルめっき層102のつきまわり部からもニッケルが浸出する。
【0024】
図4に示すように、従来から母材101からのニッケルの浸出量はニッケルめっき層102のつきまわり部からのニッケルの浸出量に比べて少ない。そのため、水道用器具100からのニッケルの浸出を少なくするには、ニッケルめっき層102のつきまわり部からのニッケルの浸出を少なくする必要がある。なお、ニッケルめっき層102上にクロムめっき層103を備えたとしても、クロムめっき層103は内側に回り込みにくいこと、クロムめっき層103にニッケルが含まれないことから、クロムめっき層103の有無はニッケルの浸出に影響が小さい。
【0025】
本実施形態において、母材101の素材は、例えば、銅合金である。ニッケルめっき層102は、母材101上に施された層である。母材101を、例えば以下に示す組成及び条件のめっき液を用いることで、母材101の表面上にニッケルめっき層102が施される。また、ニッケルめっき層102上にクロムめっき層103が施されてもよい。
【0026】
ニッケルめっき液の基本組成は、いわゆるワット浴であり、ニッケルイオン、塩化物イオン、硫酸イオン及びホウ酸を、例えば以下の組成50g/LのNiCl2・6H2O、290g/LのNiSO4・6H2O、40g/LのH3BO3である。また、pHは、約4.0で、温度は約55℃の条件でめっきが施される。
また、有機添加剤は、硫黄を含まないサリチル酸、ヘキシンジオール、ブチンジオール、プロパルギルアルコール、及び抱水クロラール等を用いることができる。
【0027】
上記のめっき液は、硫黄を含む有機添加剤(サッカリン等)を含まないので、本実施形態に係るニッケルめっき層102は、硫黄を含まない。これにより、ニッケルめっき層102からのニッケルの浸出が少なくなる。なお、本明細書において、「ニッケルめっき層は硫黄を含まない」とは、ニッケルめっき層のEMPAによる元素分析(例えば後述の方法)により硫黄が検出されないことをいう。
【0028】
更に、上記のめっき液を用いて作成したニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位が、飽和カロメル電極(SCE)に対して+0.04V以上になれば、水道用器具からの水道水に浸出するニッケルの量を水質管理目標設定項目の値の10分の1以下にすることができる。
【0029】
具体的には、めっき液中に0.8g/L以上(好ましくは0.9g/L以上)の抱水クロラールを添加することで、ニッケルめっき層102の電位が貴になり、ニッケルめっき層102からのニッケルの浸出が更に少なくなる。一方で、めっき液中の抱水クロラールが0.8g/L未満である場合には、単独でニッケルの浸出を少なくすることは難しい。
【0030】
また、上記のめっき液を用いると、ニッケルめっき層のBYK社製WaveScan装置のWa値が5.1以下になるので、水道用器具100(ニッケルめっき層102)の表面に光沢が備わる。具体的には、めっき液中に0.8~1.75g/Lの抱水クロラールを添加することで、100の表面に光沢が備わる。一方で、めっき液中の抱水クロラールが1.75g/Lを超える場合には、水道用器具100の表面にくもりが生じる。なお、本明細書においてWa値は、BYK社製のWaveScanを用いて測定される。
【0031】
このように、例えば、硫黄を含む有機添加剤を含まず、抱水クロラールを0.8~1.75g/L含むニッケルめっき処理液で母材101をめっきして製造した水道用器具100の製造方法により、光沢があり、ニッケルの浸出が少ない水道用器具100を得ることができる。
【0032】
本実施形態によれば、以下のような効果が奏される。
本実施形態に係る水道用器具は、母材101上に施されたニッケルめっき層102を備えた水道用器具100であって、ニッケルめっき層102は、硫黄を含まず、ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して-0.01V以上であり、ニッケルめっき層102の表面のWa値(BYK社製WaveScan装置のWa値)が5.1以下である。これにより、光沢があり、ニッケルの浸出が少ない水道用器具100を提供することができる。
【0033】
また、ニッケルめっき層の浸出液中での腐食電位は、飽和カロメル電極に対して+0.04V以上であることが好ましい。これにより、水道用器具からの水道水に浸出するニッケルの量を水質管理目標設定項目の値の10分の1以下にすることができる。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0035】
例えば、本発明の水道用器具は、ニッケルめっき層上にクロムめっき層が施されない水道用器具に適用しても同等の効果が奏される。また、各水道用器具本体に必要に応じて脱鉛処理が施されていてもよい。
【実施例】
【0036】
<実施例1~5、比較例1~10>
表1に示すめっき条件1~15で各実施例、比較例の水道用器具の本体を製造した。
【表1】
【0037】
<EPMA分析>
各実施例、比較例の水道用器具の本体に対して、EPMA分析を行った。めっき液にサッカリンが含まれる条件2、7、8、13、15の代表的な分析結果を
図5(a)に、めっき液にサッカリンが含まれない条件1、3、4、5、6、9、10、11、12、14の代表的な分析結果を
図5(b)に示した。また、
図6(a)には、
図5(a)の硫黄のピークを拡大した図を、
図6(b)には、
図5(b)の硫黄のピークを拡大した図をそれぞれ示した。
【0038】
図5、
図6に示したように、条件2、7、8、13、15は、硫黄成分が加えられたいわゆる光沢ニッケルめっきであり、条件1、3、4、5、6、9、10、11、12、14は、硫黄成分が加えられていないいわゆる半光沢ニッケルめっきである。半光沢ニッケルめっきは、硫黄を含まないため、光沢ニッケルめっきと比較して、ニッケルの浸出が少なくなる。
【0039】
<外観観察>
条件1~15の水道用器具の表面を目視で観察した。そして、条件8(光沢ニッケルめっき、比較例5)と同等以上の光沢である場合を「〇」とした。また、条件12、14(抱水クロラールを含まない半光沢ニッケルめっき)は光沢がなく、条件9、10、11は、くもりが見られたため「×」とした。「〇」と「×」の中間の光沢のものは、「△」とした。更にBYK社製WaveScanを用いて水道用器具の表面を測定し、水道用器具の外観と、Wa値との関係を
図7に示した。
【0040】
図7に示したように、水道用器具本体10の表面のWa値が小さくなるほど、水道用器具の表面の光沢が増すことが確認された。具体的には、水道用器具の表面は、Wa値が5.1以下であれば、製品の外観として問題が無い光沢となり、更に表面のWa値が3.6以下であれば、光沢ニッケルめっきにも劣らない優れた光沢となることが確認された。
【0041】
<Ni浸出値、腐食電位>
条件1、2、5、6、7、8、12のNiめっきを使って作製した水道用器具についてJIS S 3200-7水道用器具-浸出性能試験方法に記載された方法に準じて、以下のコンディショニング及び浸出等の操作を行った。
【0042】
(1)水道用器具を、水道水で1時間洗浄し、次に水で3回洗浄した。
(2)約23℃の浸出液を用い、水道用器具内部をこの浸出液で満たして密封し、2時間静置した後、この水を捨てる操作を4回繰り返した。
(3)水道用器具を浸出液で満たして密封し、16時間静置した後、この水を捨てた。
(4)上記(2)及び(3)の操作を3回繰り返した。
(5)上記(2)の操作を行った後に64時間静置した後、この水を捨てた。
(6)上記(2)、(3)、(4)及び(5)の操作をもう一回繰り返した。
(7)上記(2)、(3)、(4)の操作を3回繰り返し、その後に(2)の操作を行った。
(8)水道用器具を浸出液で満たして密封し、16時間静置した後、この水を全て採取し、検水とした。
(9)一般的な誘導プラズマ発光分光分析法を用いて検水中におけるNiの濃度を求めた。
(10)水1Lを採取したときのNi濃度に換算し浸出値を求めるため、検水のNi濃度及び試験に用いた水道用器具の内容量より、Ni浸出値の計算を行った。なお、浸出試験に用いる浸出液は、試験を行うために特別に調整したJIS S3200-7記載の水を用いた。
【0043】
以上の操作により条件1、2、5、6、7、8、12(実施例1、比較例1、実施例4、実施例5、比較例2、比較例3、比較例7)のめっき層のニッケル浸出値を得た。なお、水道用器具は、種類によって内容量が異なる為、所定の換算式を用いて浸出値を計算した。続いて以下の操作を行った。
【0044】
(11)水道用器具本体10の内部のNiめっきが析出した部位から試料を切り出し、これに被覆銅線を接着し、Niめっきだけが露出する様に接着剤で被覆し試料電極にした。
(12)この試料電極、白金電極(対極)及び参照極に飽和カロメル電極を用い、浸出液中での試料電極の電位-電流曲線をポテンショスタットを用いて測定した。ここで、電流が0.001mAとなる電位を腐食電位とした。
【0045】
以上の操作により条件1、2、5、6、7、8、12(実施例1、比較例1、実施例4、実施例5、比較例2、比較例3、比較例7)のめっき層の浸出液中での腐食電位を得た。
図8に、実施例1、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例7のめっき層の浸出液中での電位-電流曲線とNi浸出値の測定結果を示し、
図9に、実施例1、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3、比較例7のめっき層の浸出液中での腐食電位とニッケル浸出値の関係を示した。
【0046】
図8に示したように、ニッケルめっき層の腐食電位が高くなるほど、ニッケル浸出値が減少することが確認された。具体的には、腐食電位が-0.01V(vs.SCE)以上、好ましくは+0.02V(vs.SCE)以上であれば、抱水クロラールを含まない半光沢ニッケルめっきよりもニッケル浸出値が抑えられ、腐食電位が+0.04V(vs.SCE)以上であれば、水道用器具からの水道水に浸出するニッケルの量を水質管理目標設定項目の値の10分の1以下にすることができることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
100 水道用器具
101 母材
102 ニッケルめっき層