(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】手動燃料調整装置を含む気化器
(51)【国際特許分類】
F02M 17/08 20060101AFI20221208BHJP
F02M 19/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F02M17/08 B
F02M19/04 A
(21)【出願番号】P 2018152124
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】龍崎 育民
(72)【発明者】
【氏名】野中 匠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 保
(72)【発明者】
【氏名】工藤 友善
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-256209(JP,A)
【文献】実開昭57-109255(JP,U)
【文献】特開2001-280196(JP,A)
【文献】特開平08-284761(JP,A)
【文献】実開昭60-100555(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0130677(US,A1)
【文献】特開平02-061358(JP,A)
【文献】米国特許第10082107(US,B2)
【文献】米国特許第04899699(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0268458(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0298551(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M1/00-5/16,9/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアクリーナでろ過した空気を受け取って混合気を生成し、生成した混合気をエンジン本体に供給することのできる気化器において、
前記混合気を生成するための混合気生成通路と、
該混合気生成通路に燃料を供給する燃料吐出部と、
燃料源からの燃料を前記燃料吐出部に供給する燃料供給通路と、
手動で操作するニードル弁体とを含み、
前記ニードル弁体を操作することにより前記燃料供給通路を通る燃料の量を調整することができる燃料調整装置を有し、
前記ニードル弁体は、
該ニードル弁体の先端領域において、軸線方向に延び且つ前方に向けて開放したニードル中空部と、
前記ニードル弁体の前記先端領域に形成され、該ニードル弁体の先端面から軸線方向に延び且つ前記
ニードル中空部に連通するスリットとを有し、
前記気化器のボディは、
該気化器
のボディに形成され、前記ニードル弁体を軸線に沿って前後に変位可能に受け入れるボディ孔と、
該ボディ孔に形成され且つ前記スリットとの間にオリフィスを形成する固定弁座を構成する段部円周縁とを有し、
前記ニードル弁体を操作することにより前記オリフィスの大きさを調整することができ、
該オリフィスの大きさを調整することにより、前記燃料源から、前記オリフィスを通り、次いで前記ニードル中空部を通過して前記燃料吐出部に供給される燃料の量を調整することができることを特徴とする気化器。
【請求項2】
前記ニードル弁体が金属製である、請求項1に記載の気化器。
【請求項3】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品である、請求項1に記載の気化器。
【請求項4】
前記ニードル弁体は、該ニードル弁体の先端部に、前記ボディ孔の内径よりも大きな外径の第1の凸条を有し、
該第1の凸条は、前記スリットを除く部分に周方向に連続して延びている、請求項1に記載の気化器。
【請求項5】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第1の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項4に記載の気化器。
【請求項6】
前記ニードル弁体は、前記ボディ孔の内径よりも大きな外径の第2の凸条を更に有し、
該第2の凸条は、前記スリットの開口周縁において連続して延びている、請求項4に記載の気化器。
【請求項7】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第2の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項6に記載の気化器。
【請求項8】
前記ニードル弁体は、前記ボディ孔の内径よりも大きな外径の複数の第3の凸条を更に有し、
各第3の凸条は、前記ニードル弁体の先端領域において軸線方向に延びており、
前記複数の第3の凸条は、前記ニードル弁体の周方向に離間している、請求項4又は6に記載の気化器。
【請求項9】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第3の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項8に記載の気化器。
【請求項10】
エアクリーナでろ過した空気を受け取って混合気を生成し、生成した混合気をエンジン本体に供給することのできる気化器であって、
前記混合気を生成するための混合気生成通路と、
該混合気生成通路に燃料を供給する燃料吐出部と、
燃料源からの燃料を前記燃料吐出部に供給する燃料供給通路と、
手動で操作するニードル弁体とを含む燃料調整装置を有し、
前記ニードル弁体を操作することにより前記燃料供給通路を通る燃料の量を調整することができ、
前記ニードル弁体は、
該ニードル弁体の先端領域に形成され且つ軸線方向に延びる長溝を有し、
前記気化器
のボディは、
前記ニードル弁体を軸線に沿って前後に変位可能に受け入れるボディ孔と、
該ボディ孔に形成され且つ前記長溝との間にオリフィスを形成する固定弁座を構成する段部円周縁とを有し、
前記ニードル弁体は、
該ニードル弁体の先端部に、前記長溝を除く部分に周方向に連続して延びる第1の凸条を有し、
該第1の凸条の外径が、前記ボディ孔の内径よりも大きく、
前記ニードル弁体を前記ボディ孔の中に設置したときに、前記第1の凸条が前記ボディ孔と密着して、前記ニードル弁体の先端部と前記ボディ孔との間をシールすることを特徴とする気化器。
【請求項11】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第1の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項10に記載の気化器。
【請求項12】
前記ニードル弁体は、前記ボディ孔の内径よりも大きな外径の第2の凸条を更に有し、
該第2の凸条は、前記長溝の開口周縁において連続して延びている、請求項10に記載の気化器。
【請求項13】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第2の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項12に記載の気化器。
【請求項14】
前記ニードル弁体は、前記ボディ孔の内径よりも大きな外径の複数の第3の凸条を更に有し、
各第3の凸条は、前記ニードル弁体の先端領域において軸線方向に延びており、
前記複数の第3の凸条は、前記ニードル弁体の周方向に離間している、請求項10又は12に記載の気化器。
【請求項15】
前記ニードル弁体が合成樹脂の成型品であり、
前記第3の凸条が、前記ニードル弁体と一体成形されている、請求項14に記載の気化器。
【請求項16】
前記ニードル弁体の長手方向中間部分に位置し、且つ前記ボディ孔の内面に圧接する中間シール凸条を更に有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン本体に供給する混合気を生成する気化器に関し、より詳しくは、混合気の空燃比を調整するための手動の燃料調整装置を含む気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン駆動式作業機には、気化器を備えたエンジンシステムが搭載されている。特許文献1は、気化器付きエンジンシステムによって駆動されるポータブル発電機を開示している。特許文献2は、気化器付きエンジンシステムによって駆動されるチェーンソー、ブロワー、刈払機を開示している。
【0003】
気化器は、特許文献3、4に開示されているように、手動のニードル弁体を含む燃料調整装置を備えている。気化器は、エンジン出力制御弁の種類によって区分することができる。一つはロータリ弁を用いたロータリ式気化器(特許文献3)であり、他の一つは、バタフライ弁を用いたバタフライ式気化器である。手動の燃料調整装置は、気化器の混合気生成通路に燃料を吐出する燃料吐出部に燃料を供給する燃料供給通路に設けられる。
【0004】
メーカーがエンジン駆動式作業機を出荷する際に、個体差によるバラツキを解消するために、作業者が燃料調整装置を操作する。また、現地では、必要に応じて、環境に適合させるために燃料調整装置を操作して燃料供給通路を通る燃料の量を適正化する場合もある。
【0005】
特許文献5は、ロータリ式気化器及びバタフライ式気化器において、主燃料供給通路と合流する副燃料供給通路を用意し、この副燃料供給通路に手動の燃料調整装置を配置することを提案している。
【0006】
ニードル弁体を含む手動の燃料調整装置は、燃料の供給量を調整する方法によって2つの種類に分類できる。第1は、ニードル弁体の円形外周面の全てで「全周オリフィス」を形成するタイプの燃料調整装置である(特許文献7)。第2は、ニードル弁体の外周面の一部で「部分オリフィス」を形成するタイプの燃料調整装置である(特許文献3、6、8)。
【0007】
気化器は、混合気を生成する混合気生成通路を有している。この混合気生成通路にはエアクリーナでろ過した空気が供給され、そして、混合気生成通路で生成した混合気はエンジン本体に供給される。バタフライ式気化器は、一般的に、低負荷時に燃料を混合気生成通路に供給するスロー系燃料吐出部と、高負荷時に燃料を混合気生成通路に供給するメイン系燃料吐出部とを有する。特許文献7は、スロー系とメイン系の双方の燃料供給通路に燃料調整装置を配置した具体例を開示している。
【0008】
この明細書に添付した
図21、
図22は、特許文献7に開示の「全周オリフィス」タイプの手動の燃料調整装置2の概要を説明するための図である。参照符号4はニードル弁体を示す。ニードル弁体4の先端部4aは断面円形であり且つ先細りの形状を有している。気化器ボディ6は、ニードル弁体4の軸線Ax方向に延びるボディ孔10を有する。ボディ孔10は、燃料源12から燃料吐出部14に通じる燃料供給通路の一部を構成している。
【0009】
ボディ孔10は、相対的に大径の上流側部分10aと小径の下流側部分10bとを有し、上流側部分10aは燃料源12に通じている。下流側部分10bは燃料吐出部14に通じている。上流側部分10aと下流側部分10bとの間のボディ段部16は、その円周縁16aの全周が「固定弁座」を構成する。ボディ孔10の中に挿入されたニードル弁体4の先細りの先端部4aの外周面が「可動弁体」を構成している。
【0010】
作業者がニードル弁体4を操作してニードル弁体4を後退させると、ボディ段部16の円周縁16aからニードル先端部4aの外周面が離れる。そして、ニードル先端部4aとボディ段部16との間に、全周に亘って連続する環状オリフィス18が形成される(
図22)。この環状オリフィス18を「全周オリフィス」と呼ぶと、可動弁体としての全周オリフィス18を通じて、燃料源12から燃料吐出部14に燃料を供給することが可能になる。
【0011】
この明細書に添付した
図23~
図25は、特許文献3、8に開示の「部分オリフィス」タイプの手動の燃料調整装置30の概要を説明するための図である。従来の「部分オリフィス」タイプは、
図23に図示のニードル弁体32を有している。ニードル弁体32の先端部分32aは中実の円柱形状である。そして、その周面の一部を軸線Ax方向に切り欠いたニードル燃料通路34を有している。ニードル燃料通路34は断面がV字状であり、先端に向かうに従ってその深さDp及びその開口幅Wgが大きくなる形状を有している。
【0012】
「部分オリフィス」タイプでは、ボディ段部16の円周縁16a(以下、「段部円周縁」という)は、その全周の一部が「固定弁座」を構成する。ニードル弁体32を操作して前進又は後退させると、断面V字状のニードル燃料通路34と段部円周縁16aで規定されるオリフィス36(
図25)の通路有効断面積を変化させることができる。このオリフィス36は、段部円周縁16aの周方向の一部で規定されることから、これを「部分オリフィス」と呼ぶ。
【0013】
「全周オリフィス」タイプと「部分オリフィス」タイプのそれぞれのオリフィス18、36が同じ通路有効断面積に設定されたと仮定したときに、「全周オリフィス」タイプの全周オリフィス18は、段部円周縁16aの全周に亘って延びている。これに対して「部分オリフィス」タイプの部分オリフィス36は、段部円周縁16aの一部で規定される。このことから、全周オリフィス18の深さDall(
図22)と部分オリフィス36の深さDp(
図25)とを対比すると、部分オリフィス36の深さDpの方が大きい(Dall<Dp)。
【0014】
「部分オリフィス」タイプを開示する特許文献8は「全周オリフィス」タイプの問題点を指摘している。燃料は、フィルタを通過した微粒子を含んでいる可能性がある。燃料中に混在するゴミやその他の微小な異物は全周オリフィス18を目詰まりさせてしまう可能性がある。これが「全周オリフィス」タイプの問題点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】US2017/0268458A1
【文献】US2016/0298551A1
【文献】JP特開平2-61358号公報
【文献】US2004/0007788A1
【文献】US2014/0299099A1
【文献】US2018/0023514A1
【文献】U.S. Patent 5,948,325
【文献】U.S. Patent 4,360,481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
周知のように、地球温暖化、環境汚染が世界的に叫ばれる中で、ポータブル発電機やチェーンソーなどの手持ちエンジン駆動式作業機においても厳しい排気ガス対策が求められている。
【0017】
昨今の気化器は、その本体がダイカスト法によって製造されている。ダイカスト法は金型を用いて溶融金属を鋳造する精密鋳造法である。精密鋳造されたダイカスト品であっても、一定の許容誤差を含む。気化器ボディの材料は一般的にアルミニウム合金である。他方、ニードル弁体は、黄銅、いわゆる真鍮や鉄によって製造され、アルコール燃料対策としてメッキによる表面処理が施されている。このニードル弁体も一定の許容誤差を含む。
【0018】
特許文献3、8に開示の「部分オリフィス」タイプの燃料調整装置30において、ニードル弁体32(
図23)の先端部分32aは中実の円柱形状を有している。ニードル弁体32を受け入れるボディ孔10の下流側部分10bは、ニードル先端部分32aの外周面と相補的な内周面で規定される断面円形孔で構成されている(
図25)。ニードル弁体32とボディ孔10の下流側部分10bとの間には僅かなクリアランスが存在する。このクリアランスの大きさは、気化器の個体差、ニードル弁体の個体差によって様々である。また、ニードル弁体32のボディ孔10に対する位置、つまり前進位置あるいは後退位置によって、ニードル弁体とボディ孔のクリアランスも様々に変化する。
【0019】
「部分オリフィス」タイプの燃料調整装置30は、燃料中に混在するゴミや、その他の微小な異物がオリフィスを目詰まりさせるという問題を発生する可能性が低いという利点があるものの、ニードル弁体32とボディ孔10との間のクリアランスに燃料が侵入し、このクリアランス中を通過する燃料量がニードル弁体32の位置によって変化するという現象が現れる。そして、この現象によって燃料通路に流入する燃料は、正規に燃料通路を通る燃料に対して、予測不能な付加的な外乱要因となり、ニードル弁体32の位置、すなわち部分オリフィスの開口面積によって燃料量をリニアに調整できないという問題を引き起こす。
【0020】
さらに、この外乱要因となるクリアランスを通過する燃料量は安定的でないため、ニードル弁体32による燃料調整の再現性を悪化させる要因ともなる。
【0021】
本発明の目的は、ニードル弁体と、これを受け入れるボディ孔との間のシール性を確保することのできる、混合気の空燃比を調整するための手動の燃料調整装置含む気化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、第1の観点によれば、「部分オリフィス」タイプの燃料調整装置を備えた気化器において、ニードル弁体の先端領域を中空構造にして、この中空部分でニードル弁体の内部に軸線Ax方向に延びるニードル燃料通路を形成すると共に、ニードル弁体の先端領域の周面に軸線Ax方向に延びる一本のスリットを設けた点に特徴がある。ニードル燃料通路及びスリットは共にニードル弁体の先端面で開放している。また、スリットはニードル燃料通路に開放している。
【0023】
第1の観点の発明によれば、スリット付きの中空構造によって、ニードル弁体の先端領域に、径方向に拡大・縮小する自由度を提供することができる。この自由度を使って、ニードル弁体と、該ニードル弁体を受け入れるボディ孔との間のシール性を高めることができる。
【0024】
本発明に含まれるニードル弁体のこの特性により、ニードル弁体の先端部分の直径をボディ孔の直径よりも大きく設計しても先端部の弾性変形により、ニードル弁体をボディ孔に組み込む際に、容易にニードル弁体をボディ孔に挿入することができる。
【0025】
これに対して、本発明によれば、ニードル弁体の先端部分の長さ寸法を大きく設計できるため、ニードル弁体とボディ孔とのクリアランスを狭めることができるとともに、ニードル弁体とボディ孔との間のシール面積を大きくし、これによりシール性を高めることもできる。また、このことは、ニードル弁体の調整時にニードル弁体の先端部分が軸ブレするのを防止できる利点を含む。
【0026】
本発明は、第2の観点によれば、「部分オリフィス」タイプの手動の燃料調整装置において、ニードル弁体の先端部に、その周方向に延びる凸条を設けたことを特徴とする。この凸条は、ニードル弁体と、該ニードル弁体を受け入れるボディ孔との間をシールする機能を有し、またニードル弁体の軸ブレを防止する機能を有する。
【0027】
第2の観点の発明は、特許文献3、8に開示の「部分オリフィス」タイプの燃料調整装置を備えた気化器において、ニードル弁体、つまり、中実且つ周面に断面V字状のニードル燃料通路を形成した
図23に図示のニードル弁体32にも適用可能である。また、第2の観点の発明は、上述した第1の観点の発明に含まれるニードル弁体つまりスリット付きの中空構造のニードル弁体にも適用可能である。
【0028】
本発明に含まれるニードル弁体は、従来と同様に金属製であってもよいが、好ましくは合成樹脂から製造するのが好ましい。ニードル弁体の材料として合成樹脂を採用したときには、鉄や黄銅製のニードル弁体よりも製造コストを下げることができる。ちなみに、従来の鉄や黄銅製のニードル弁体は、アルコール燃料対策としてメッキによる表面処理が行われていたが、本発明に含まれるニードル弁体を耐薬品性に優れた樹脂材料で作ることで、このメッキ処理が不要となる。
【0029】
以下に、図面を参照して本発明の好ましい実施例を詳しく説明する。この詳細な説明から本発明の作用効果及び他の目的が明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に従う気化器を適用したエンジンシステムの概要を説明するための図である。
【
図2】本発明が適用可能なバタフライ式気化器の概要を説明するための図である。
【
図3】本発明が適用可能なロータリ式気化器の概要を説明するための図である。
【
図4】本発明に従う手動の燃料調整装置の概要を説明するための図であり、これに含まれるニードル弁体は第1の具体例である。
【
図5】第1の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図6】第1の具体例のニードル弁体の正面図である。
【
図7】
図5のVIIで示す第1の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図8】第2の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図9】第2の具体例のニードル弁体の正面図である。
【
図10】
図8のXで示す第2の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図11】第3の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図12】
図11のXIIで示す第3の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図13】第4の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図14】
図13のXIVで示す第4の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図15】第5の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図16】
図15のXVIで示す第5の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図17】第6の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図18】
図17のXVIIIで示す第6の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図19】第7の具体例のニードル弁体の斜視図である。
【
図20】
図19のXXで示す第7の具体例のニードル弁体の先端部分を拡大した図である。
【
図21】全周オリフィスタイプの手動の燃料調整装置の概要を説明するための図である。
【
図22】
図21のXXII-XXII線に沿って断面した図である。
【
図23】部分オリフィスタイプの手動の燃料調整装置に含まれる従来のニードル弁体の概要を説明するための図である。
【
図24】
図23に図示のニードル弁体を含む燃料調整装置の概要を説明するための図である。
【
図25】部分オリフィスタイプで形成されるオリフィスを説明するための図であり、
図24のXXV-XXV線に沿って断面した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0031】
図1は、本発明に従う気化器を適用したエンジンシステム100の概要を説明するための図である。
図1において、エンジンシステム100は内燃エンジン本体102を含み、この内燃エンジン本体102は空冷式単気筒2サイクルエンジンで構成されており、典型的には刈払機やチェーンソー、ポータブル発電機の動力源として用いられる。もちろん、エンジンシステム100に含まれる内燃エンジン本体102は2サイクルエンジンに代えて4サイクルエンジンで構成してもよい。
【0032】
内燃エンジン本体102は、シリンダ104の中で往復動するピストン106を有する。シリンダ104は吸気ポート108と排気ポート110とを有し、これらポート108、110は、往復動するピストン106によって開閉される。吸気ポート108は吸気系112に接続され、他方、排気ポート110は排気系114に接続されている。
【0033】
吸気系112は、エアクリーナ116でろ過したエアを受け入れて混合気を生成する気化器CAを含む。図示の気化器CAは、エンジン出力制御弁としてバタフライ弁を採用したバタフライ式気化器である。特にバタフライ式気化器を説明するときには、参照符号「CA」に「(Bu)」を付記する。バタフライ式気化器CA(Bu)には、燃料タンク118に設置した燃料フィルタ118aでろ過した燃料が供給される。バタフライ式気化器CA(Bu)はダイアフラム式の定圧燃料供給チャンバー120を含み、この定圧燃料供給チャンバー120が実質的な燃料源を構成する。
【0034】
吸気ポート108が開くと、バタフライ式気化器CA(Bu)で生成した混合気がクランク室122に供給される。クランク室122の混合気は、下降するピストン106によって予圧縮され、そして掃気行程で燃焼室124に導入される。燃焼室124に充填された混合気は点火プラグ126によって着火される。
【0035】
図2は、バタフライ式気化器CA(Bu)の概要を説明するための断面図である。気化器CA(Bu)は、混合気を生成するための混合気生成通路130を有し、混合気生成通路130の入口130aはエアクリーナ116でろ過されたエアを受け入れる。参照符号132はベンチュリ―部を示し、参照符号134はバタフライ式スロットル弁を示す。ベンチュリ―部132にはメイン燃料吐出部136が配置され、また、スロットル弁134の近傍にスロー系燃料吐出部138が配置されている。
【0036】
メイン燃料吐出部136はメイン燃料供給通路140を介して定圧燃料供給チャンバー120と接続されている。スロー系燃料吐出部138はスロー系燃料供給通路142を介して定圧燃料供給チャンバー120と接続されている。なお、定圧燃料供給チャンバー120は、ダイアフラム144を介して大気チャンバー146から区画されており、大気チャンバー146は大気開放ポート146aを通じて常時大気に連通している。
【0037】
本発明は、
図3に図示のロータリ式気化器にも適用可能である。ロータリ式気化器を特定するときには、参照符号「CA」に「(Ro)」を付記する。ロータリ式気化器CA(Ro)の説明において、上記バタフライ式気化器CA(Bu)と同じ要素には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
ロータリ式気化器CA(Ro)は軸回転可能な筒状スロットル弁150を有する。筒状スロットル弁150は、回転軸線と直交する方向に延びる貫通孔150aを有し、この貫通孔150aで気化器内混合気生成通路130が構成されている。
【0039】
ロータリ式気化器CA(Ro)は、筒状スロットル弁150の回転軸線上に配置した燃料吐出ノズル152を有する。燃料吐出ノズル152には、吐出する燃料の量を調整するための制御棒154が挿入されている。燃料吐出ノズル152は、燃料供給通路156を通じて定圧燃料供給チャンバー120に連通している。
【0040】
図2を参照して説明したバタフライ式気化器CA(Bu)に含まれるメイン燃料供給通路140及び/又はスロー系燃料供給通路142に、本発明に従う燃料調整装置Fcを適用できる。また、
図3を参照して説明したロータリ式気化器CA(Ro)の燃料供給通路156に本発明に従う手動の燃料調整装置Fcを適用できる。更に、特許文献5を引用して前述した副燃料供給通路に、本発明に従う燃料調整装置Fcを適用できる。
【0041】
以下の説明において、燃料調整装置Fcを設置可能なメイン燃料供給通路140、スロー系燃料供給通路142、燃料供給通路156、特許文献5に開示の副燃料供給通路を「燃料供給通路」という言葉で総称し、また、これに参照符号200を付して燃料調整装置Fcを説明する。また、メイン燃料吐出部136、スロー系燃料吐出部138、燃料吐出ノズル152を「燃料吐出部」という言葉で総称し、これに参照符号「Fout」を付記する。
【0042】
図4は、本発明に従う手動の燃料調整装置Fcの概要を説明するための図である。燃料調整装置Fcは、気化器ボディBに形成されたボディ孔202を有し、このボディ孔202は燃料供給通路200の一部を構成する。
【0043】
ボディ孔202は、その軸線方向に順に、燃料吐出部Fout側の小径空間204、該小径空間204よりも大径の第1中間空間206、該第1中間空間206よりも大径の第2中間空間208、該第2中間空間208よりも大径の後端空間210を有している。後端空間210は外部に隣接しており、この後端空間210にネジ山が形成されている。ボディ孔202の第1中間空間206にボディIN-ポート212が開口している。このボディIN-ポート212を通じて燃料源から第1中間空間206に燃料が供給される。
【0044】
ボディ孔202にはニードル弁体Nvが挿入される。図示のニードル弁体Nvは第1の具体例である。第1の具体例のニードル弁体には、後に説明する他の具体例のニードル弁体と識別するために、参照符号「220」が付記されている。第1の具体例のニードル弁体220は、その先端から順に、相対的に小径の且つ円筒状の先端部分222、該先端部分222よりも大径の且つ円筒状の第1中間部分224、該第1中間部分224よりも大径の且つ略円筒状の第2中間部分226、該第2中間部分226よりも大径のネジ部分228を有し、このネジ部分228が上記ボディ孔202の後端空間210で螺着されている。ネジ部分228の外端面には、図示を省略した工具を受け入れる操作部が形成されている。作業者は工具を使ってニードル弁体220を軸回転させることができる。
【0045】
図5、
図6は第1の具体例のニードル弁体220の全体図である。
図7は第1の具体例のニードル弁体220の先端部分の拡大図である。比較的小径の先端部分222は、先端面222aから途中部分までの先端領域Te(
図6、
図7)が中空構造である。すなわち、先端領域Teは、先端面222aに開放した中空部230(以下、「ニードル中空部230」をいう。)を有している(特に
図4を参照のこと)。ニードル中空部230は軸線Ax方向に延びており、実質的に「ニードル燃料通路」を構成している。
【0046】
さらに、先端領域Teの周面には、先端面222aから軸線Ax方向に延びるスリット232が形成されている(
図7)。スリット232は、正面視したときに、細長い略長方形の形状を有している(
図6)。このスリット232は、ニードル先端面222aで前方に開放し且つ中空部230に通じている。
【0047】
ニードル中空部230は軸線Axを中心とした円形断面の形状が好ましいが、略矩形断面、略半円形状の断面など任意の断面形状を有していてもよい。また、ニードル中空部230は、軸線Ax方向に同じ断面形状を有していてもよいし、ニードル中空部230の先端開口230aに向かうに従って徐々に断面積を拡大した形状を有していてもよい。
【0048】
図4を参照して、ボディ孔202の各部とニードル弁体220の各部との対応関係は次の通りである。
(1)気化器ボディBの小径空間204は、ニードル弁体220の先端部分222を受け入れている。
(2)気化器ボディBの第1中間空間206は、ニードル弁体220の第1中間部分224を受け入れている。第1中間空間206は、第1中間部分224との間に環状燃料空間Fsを形成している。燃料源から供給される燃料はボディIN-ポート212を通じて環状燃料空間Fsに入る。
(3)気化器ボディBにおいて、小径空間204と第1中間空間206との間に形成された段部240の円周縁(以下、「段部円周縁」という。)240a(
図4)は「固定弁座」を構成している。
【0049】
(4)気化器ボディBの第2中間空間208は、ニードル弁体220の第2中間部分226を受け入れている。第2中間空間208の内径は、ニードル弁体220の第2中間部分226の外径よりも若干大きな寸法に設定されている。ニードル弁体220の第2中間部分226の前端部には、軸線Ax方向に離間して2つの中間シール凸条242、244が形成され(
図5、
図6)、各中間シール凸条242、244は円周方向に連続して延びている。ニードル弁体220が合成樹脂(例えば液晶ポリマ)製の場合には、気化器ボディBの第2中間空間208の内径よりも若干大きな外形を備えた中間シール凸条242、244を一体成型によって形作るのが好ましい。もちろん、中間シール凸条242、244を環状シール部材で構成してもよい。
【0050】
2つの中間シール凸条242、244のうち、ニードル弁体220の第2中間部分226の前端に位置する第1中間シール凸条242は、前述した環状燃料空間Fsを実質的に規定している。これにより、ニードル弁体220の周辺に存在する空気が環状燃料空間Fsに侵入するのを阻止することができる。また、ニードル弁体220の長手方向中間部分に2つの中間シール凸条242、244のうち少なくとも一つの凸条を配置することで、ニードル弁体220の軸ブレを防止できる。
【0051】
ニードル弁体220を従来と同様に黄銅や鉄で作る場合、先端から少なくとも第1中間シール凸条242の部位までメッキ処理を行えばよい。あるいは、ニードル弁体220の先端から少なくとも第1中間シール凸条242の部位までを樹脂で作る設計を行ってもよい。
【0052】
(5)ニードル弁体220が樹脂製の場合、一体成型した2つの中間シール凸条242、244の間に環状シール部材を配置してもよい。
【0053】
(6)ニードル弁体220が樹脂製の場合、ニードル弁体220の後端から第2中間空間208に亘って軸線Ax上を延びる後部中空部246(
図4)を設けてもよい。この後部中空部246はニードル弁体220を形成するときに中子を使って一体成型することができ、この後部中空部246によって、気化器ボディBの第2中間空間208を断面環状形状に形作ることができる。これによりニードル弁体220の後部を中実構造にした場合と比較して、気化器ボディBの第2中間空間208の外周面の成形精度を高め、材料量を抑え、コストダウンにもなる。後部中空部246は、図示のように、気化器ボディBの第1中間空間206まで延びていてもよい。
【0054】
図4を参照して、先述したように段部円周縁240aは「固定弁座」を構成している。ニードル弁体220を操作して前進又は後退させると、スリット232の上流端232aと段部円周縁240aで規定される部分オリフィス250の通路有効断面積を変化させることができる。ボディIN-ポート212を通じて環状燃料空間Fsに入った燃料は、部分オリフィス250を通り、次いで、ニードル中空部230で構成されるニードル燃料通路を通り、そしてニードル弁体220の先端開口230aを通って燃料吐出部Foutに供給される。したがって、ニードル弁体220を操作することにより、燃料吐出部Foutに供給する燃料の量を調整して混合気の空燃比を調整することができる。
【0055】
図4を参照して、スリット232の上流端232aは断面したときに前下がりに傾斜した面で構成するのがよい。また、スリット232の上流端232aは、正面視したときに、軸線Axに直交する直線で構成してよいが、ニードル弁体220の後端に向けて凸に湾曲した形状であってもよい(
図6)。
【0056】
図4に図示のように、スリット232の上流端232aを断面したときに、上流端232aを前下がりに傾斜した面で構成した場合、ニードル弁体220の先端部分222の外周面において軸線Axと平行なラインに対する傾斜角度θ(
図4)を30°よりも小さな角度、好ましくは15°~60°に設定するのがよい。これにより、環状燃料空間Fsからニードル中空部230に入る燃料の量が急激に変化するのを抑制することができる。また、
図7に図示のように、スリット232を正面視したときに、スリット232の上流端232aを上流側に向けて凸の湾曲した形状に形作ることによっても、ニードル弁体220の操作に伴って部分オリフィス250を通過する燃料の量が急激に変化するのを抑制することができる。つまり、ニードル弁体220の操作に対して部分オリフィス250を通過する燃料の変化量が過敏に反応するのを緩和することができる。
【0057】
図4を参照して、ニードル弁体220において、円形断面の外形形状を有する先端部分222の直径は、この先端部分222を受け入れる気化器ボディBの小径空間204の内径と実質的に同じであり、先端部分222は小径空間204に密に嵌合される。また、この先端部分222の長さ寸法は従来に比べて長くすることができる。
【0058】
ニードル弁体220の先端領域Te(
図6、
図7)は前述したようにスリット付きの中空構造である。この構造は、先端領域Teに弾性変形の自由度を高めることができる。この弾性変形により、先端領域Teは気化器ボディBの小径空間204に密着した状態を維持できる。したがって、ニードル弁体220の先端領域Teにおいて高いシール性を維持できる。また、これによりニードル弁体220の先端部分222の軸ブレを防止できる。
【0059】
図8以降の図面は、ニードル弁体Nvに関する他の具体例を説明するための図である。これら他の具体例の説明において上述した第1の具体例であるニードル弁体220と同じ要素には同じ参照符号を付すことによりその説明を省略する。
【0060】
図8~
図10は、第2の具体例のニードル弁体320を示す。第2のニードル弁体320は、スリット付き中空構造である点で第1の具体例であるニードル弁体220と共通する。前述した第1のニードル弁体220に含まれるスリット232は正面視略長方形であるのに対して第2のニードル弁体320に含まれるスリット322は、正面視略二等辺三角形の形状(
図9)である点で異なっている。すなわち、スリット322は、その上流端232aを頂点とし、下流側に向けて徐々に開口面積を拡大した形状を有している。
【0061】
この第2のニードル弁体320によれば、スリット322の上流端232aの部分で燃料調整を行うときに、当該部分の幅が小さいことから微妙な調整が可能であるという利点がある。
【0062】
第2のニードル弁体320は、第1のニードル弁体220と同様に、ニードル中空部230を有し、ニードル中空部230は、正面視略三角形のスリット322に対応して先端に向かって広がる円錐状の形状を有していてよいし、円柱状の形状を有していてもよい。また、第2のニードル弁体320に含まれるニードル中空部230は略矩形断面、略半円形状の断面など任意の断面形状を有していてもよい。
【0063】
図11、
図12は、第3の具体例のニードル弁体330を示す。図示の第3のニードル弁体330は、第1の具体例であるニードル弁体220(
図5)の変形例でもある。ニードル弁体330は、その先端部且つ先端面222aの近傍に、一部を欠落した略環状の第1の凸条332を有している。第1の凸条332はニードル先端部分222から径方向外方に突出している。この第1の凸条332は、前述した第2のニードル弁体320(
図8)に対しても適用可能である。
【0064】
第1の凸条332は、スリット232の部分を除いて周方向に連続して延びている。略環状の第1の凸条332は、径方向の圧縮力が加わったときに弾性変形可能な材料で構成される。典型的には、第3のニードル弁体330は液晶ポリマー(LCP)などの耐薬品性に優れた合成樹脂の成型品であり、第1の凸条332は一体成型により形成される。変形例として、第1の凸条332を弾性シール材で構成すると共に、この弾性シール材の内周部分を受け入れる円周溝を第3のニードル弁体330の先端部に形成してもよい。
【0065】
第1の凸条332の外径は、気化器ボディBの小径空間204の内径よりも若干大きな寸法に設定されている。すなわち、第3のニードル弁体330を、ボディ小径空間204に設置したときに、略環状の第1の凸条332が径方向に圧縮変形し、これにより小径空間204を規定する内周面に第1の凸条332が密着するように第1の凸条332の外径が設定されている。
【0066】
周方向に延びる略環状の第1の凸条332によって、ニードル弁体330とボディ孔202との間のクリアランスの中に存在する燃料を、スリット232を通じて、正規の燃料通路を通って流出させることができる。
【0067】
ニードル弁体330はエンジン振動が常時作用する環境に置かれる。第1の凸条332の弾性によってニードル弁体330の先端部分222の軸ブレを防止することができる。
【0068】
図13、
図14は、第4の具体例のニードル弁体340を示す。図示の第4のニードル弁体340は、第3のニードル弁体330(
図11)の変形例でもある。ニードル弁体340は、上記周方向に延びる第1の凸条332に加えて、スリット232の開口周縁に沿って延びる第2の凸条342を備え、第2の凸条342は、第1の凸条332に連続している。スリット232の開口周縁に位置する第2の凸条342は、上記第1の略環状の凸条332と同様に、前述した第2のニードル弁体320(
図8)つまり正面視略三角形のスリット322を備えたニードル弁体320に対しても適用可能である。
【0069】
第2の凸条342はニードル先端部分222から径方向外方に突出している。第2の凸条342は、径方向の圧縮力が加わったときに弾性変形可能な材料で構成される。典型的には、第4のニードル弁体340は合成樹脂の成型品であり、第1の凸条332と共に第2の凸条342は一体成型により形成される。変形例として、第2の凸条342を弾性シール材で構成すると共に、この弾性シール材の内周部分を受け入れる溝を第4のニードル弁体340のスリット232の開口周縁に形成してもよい。この変形例は、第4のニードル弁体340が合成樹脂製である場合に限らず金属製であっても適用可能である。
【0070】
第4のニードル弁体340をボディ孔202(
図4)に設置したときに、第2の凸条342が圧縮変形し、これによりスリット開口周縁の第2の凸条342が、気化器ボディBの小径空間204の内周面に密着するように第2の凸条342の外径が設定されている。典型的には、第2の凸条342の外径を第1の凸条332の外径と同じに設定するのがよい。
【0071】
周方向に延びる第1の凸条332及びスリット232の開口周縁に第2の凸条342を配置することによって、ニードル弁体340とボディ孔202との間のシール性を確保することができる。これにより、ニードル弁体340とボディ孔202の間のクリアランスの変動に左右されることなく燃料供給量を制御することができる。したがって、燃料供給量の精度を高めることができる。また、第2の凸条342の弾性によって、ニードル弁体340の先端部分222の軸ブレを防止することができる。
【0072】
図15、
図16は、第5の具体例のニードル弁体350を示す。図示の第5のニードル弁体350は、第4のニードル弁体340(
図13)の変形例でもある。ニードル弁体350は、その先端部分222に、軸線Ax方向に延びる複数の第3の凸条352を有している。複数の第3の凸条352は周方向に離間しており、好ましくは等間隔に複数の第3の凸条352を配置するのがよい。軸線Ax方向に延びる複数の第3の凸条352によってニードル弁体350の先端部分222の軸ブレを防止できる。
【0073】
図示のニードル弁体350において、軸ブレ防止の第3の凸条352の前端が周方向に延びる第1の凸条332に合流しているが、第3の凸条352の前端は第1の凸条332から離れていてもよい。
【0074】
典型的には、第5のニードル弁体350は合成樹脂の成型品であり、第3の凸条352は一体成型により形成される。変形例として、各第3の凸条352を弾性部材で構成すると共に、この弾性部材の内周部分を受け入れる軸線Ax方向に延びる溝をニードル先端部分222に形成してもよい。この変形例は、第5のニードル弁体350が合成樹脂製である場合に限らず金属製であっても適用可能である。
【0075】
図17、
図18は、第6の具体例のニードル弁体360を示す。図示の第6のニードル弁体360は、中実の円柱形状を有している点で特許文献3、8に開示のニードル弁体と共通している。第6のニードル弁体360は、「ニードル燃料通路」を形成するために、先端領域Teの周面に軸線Ax方向に延びる長溝362を有し、長溝362は、ニードル弁体360の先端面360aに開放している。前方に向けて開放した長溝362は、正面視略長方形の形状を有している。
【0076】
図示の正面視略長方形の長溝362は扁平な断面矩形の形状を有し、長溝底面362aが平坦であるが、例えば下方に向けて凸に湾曲した断面形状を有していてもよい。また、図示の正面視略長方形の長溝362は、その深さDgrが軸線Ax方向に同じであるが、先端に向かうに従って徐々に深さDgr(
図18)が大きくなる形状を有していてもよい。すなわち、長溝362の底面362aは前方に向けて傾斜した面で構成してもよい。
【0077】
また、図示の長溝362は、その幅Wgr(
図18)が軸線Ax方向において実質的に同じであるが、先端(下流側)に向かうに従って徐々に幅Wgrが拡大する形状を有していてもよい。換言すれば、長溝362は、正面視したときに、上流側に向けて先細りの形状を有していてもよい。
【0078】
第6のニードル弁体360は例えば液晶ポリマー(LCP)などの合成樹脂からなる成形品である。第6のニードル弁体360は、上述した周方向に延びる第1の凸条332を有し、この第1の凸条332は一体成型により形成される。
【0079】
第6のニードル弁体360は、また、好ましくは、長溝362の開口周縁に沿って延びる第2の凸条342を有している。この第2の凸条342も樹脂一体成型により形成される。
【0080】
図示のように、第6のニードル弁体360は、また、第2の凸条342と共に、第3の凸条352を有していてもよい。この第3の凸条352も樹脂一体成型により形成される。
【0081】
図19、
図20は、第7の具体例のニードル弁体370を示し、上記第6のニードル弁体360の変形例である。図示の第7のニードル弁体370は、中実の円柱形状を有している点で、上記の第6のニードル弁体360と共通している。第6のニードル弁体360は、正面視したときに、略長方形の形状の長溝362を有していたが、第7のニードル弁体370は正面視したときに、略二等辺三角形の長溝372を有している。
【0082】
正面視略二等辺三角形の長溝372を断面したときに、その底面372aはV字状の形状(
図20)を有しているが、平らな面で構成してもよい。
【符号の説明】
【0083】
100 本発明に従う気化器を適用したエンジンシステム
102 内燃エンジン本体
CA 気化器
Fc 本発明に従う燃料調整装置
B 気化器ボディ
200 燃料供給通路
Fout 燃料吐出部
202 ボディ孔
Nv ニードル弁体
220 第1の具体例のニードル弁体
Te ニードル弁体の先端領域
230 ニードル中空部
Ax 軸線
232 スリット
240 気化器ボディの段部
240a 段部円周縁
250 部分オリフィス
320 第2の具体例のニードル弁体
322 第2のニードル弁体のスリット
330 第3の具体例のニードル弁体
332 周方向に延びる第1の凸条
340 第4の具体例のニードル弁体
342 スリット開口周縁の第2の凸条
350 第5の具体例のニードル弁体
352 軸ブレ防止の第3の凸条
360 第6の具体例のニードル弁体
360a 第6ニードル弁体の先端面
362 長溝
370 第7の具体例のニードル弁体