(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20221208BHJP
E04C 3/20 20060101ALI20221208BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N3/00 M
E04C3/20
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2018165243
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳史
(72)【発明者】
【氏名】飯干 福馬
(72)【発明者】
【氏名】浦田 健治
(72)【発明者】
【氏名】村田 義行
(72)【発明者】
【氏名】小西 淳二
(72)【発明者】
【氏名】吉村 満
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人建築研究所,2015年版 建築物の構造関係技術基準解説書,日本,全国官報販売協同組合,2015年10月15日,659-660
【文献】日本建築学会,鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説,日本,日本建築学会,2010年02月20日,53
【文献】日本建築学会,鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針(案)・同解説,日本,日本建築学会,1997年07月10日,175-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
E04C 3/20
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設した鉄筋コンクリート部材の耐力を評価する方法であって、
前記主筋は、外周に配置された1段目主筋と、前記1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋とを有し、前記2段目主筋の途中がカットオフされ、
前記せん断補強筋の強度が490N/mm
2を超えるものであり、
コンクリート設計基準強度をF
c
、コンクリート部材の幅寸法をb、主筋の本数をN、鉄筋径をd
b
、せん断補強筋比をp
w
としたときに、前記主筋の前記コンクリートに対する付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τ
buの値とする、
【数1】
ことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法。
【請求項2】
複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設した鉄筋コンクリート部材の耐力を評価する方法であって、
前記主筋は、外周に配置された1段目主筋と、前記1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋とを有し、前記2段目主筋の途中がカットオフされ、
コンクリート設計基準強度をF
c
、コンクリート部材の幅寸法をb、主筋の本数をN、鉄筋径をd
b
、せん断補強筋比をp
w
としたときに、付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値のうち小さい値とし、
前記付着抜け出し強度τ
α
は、(6)の式のτ
α1
から求められる
【数2A】
【数3】
ことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法。
【請求項3】
複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設した鉄筋コンクリート部材の耐力を評価する方法であって、
前記主筋は、外周に配置された1段目主筋と、前記1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋とを有し、前記2段目主筋の途中がカットオフされ、
コンクリート設計基準強度をF
c
、コンクリート部材の幅寸法をb、主筋の本数をN、鉄筋径をd
b
、せん断補強筋比をp
w
としたときに、付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τ
bu
の値と付着抜け出し強度τ
α
の値のうち小さい値とし、
前記付着抜け出し強度τ
αは、(7)の式のτ
α2から求められる
【数2B】
【数4】
ことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梁や柱などの構造体を構成する鉄筋コンクリート部材には、複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設したものがある。
主筋として、その外周に配置された1段目主筋と、1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋を有するものがある。主筋のうち、2段目主筋には、途中がカットオフ(切断)されたものがある。
鉄筋コンクリート構造計算規準によれば、せん断補強筋の強度の最大は、490N/mm2に設定されている(非特許文献1)。
【0003】
地震等の外力が作用して、鉄筋に引張力と圧縮力とが作用することがある。この際、鉄筋がコンクリートに対して押し広げる力が作用するので、コンクリートと鉄筋との付着強度が十分でないと、鉄筋に沿ったひび割れ(付着割裂破壊)が生じる。
このような破壊が生じると、本来想定している耐力が十分に発揮できないので、このような破壊を防止するため、鉄筋コンクリート部材の耐力が評価されている。
鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法として、従来では、下記の(A)から(E)の式で示される付着割裂強度τbuの計算式を用いることが知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
従来例では、(A)から(E)の式から付着割裂強度τbuの計算式を求めることにより、付着強度に対して安全性を確認する設計がなされている。
(B)の式に示される通り、1段目主筋の低減係数αが1.0であるのに対して、2段目主筋の低減係数αが0.6とされている。
【0004】
【0005】
(A)の式において、Fcはコンクリート設計基準強度、(C)の式において、bはコンクリート部材(梁)の幅寸法、Nは鉄筋(主筋)の本数、dbは鉄筋径、(D)の式において、pwはせん断補強筋比である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説(2010):日本建築学会
【文献】鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説:日本建築学会
【文献】建築物の構造関係技術基準解説書(2015年版):国土交通省国土技術政策総合研究所,建築研究所 監修;国土交通省住宅局建築指導課日本行政会議,日本建築構造技術者協会編集協力編;日本建築防災協会,建築行政情報センター編集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件出願人は、(A)から(E)の式で示される付着割裂強度τ
buの計算式、特に、2段目主筋における付着割裂強度τ
buが適正か否かを検証した。この検証のために、複数の試験体を用い、(A)~(E)の式に基づいて、2段目主筋における付着割裂強度τ
buを求め、さらに同じ条件下の付着応力度実験値τ
expを実験で求めた。
つまり、コンクリート設計基準強度F
cが23.1N/mm
2~52.2N/mm
2、付着割裂線長さ比b
siが2.50~6.95、せん断補強筋比p
wが0.21%~0.80%にある試験体S1~S24について、付着割裂強度τ
buを算出するとともに、付着応力度実験値τ
expを求めた。その結果を
図15で示す。
【0008】
図15で示される通り、2段目主筋の低減係数αが0.6の場合では、全ての試験体S1~S24において、付着応力度実験値τ
expが、付着割裂強度τ
buの値と付着応力度実験値τ
expとが同じ値を示す線分Lより、上に位置するので、付着割裂強度計算式τ
buの値に対して付着応力度実験値τ
expが全体として大きいことがわかる。つまり、2段目主筋の低減係数αが0.6という従来例では、付着割裂強度τ
buは、実験値が過小に評価される傾向にあり、必要以上に安全側に評価されていることがわかる。これにより、例えば、前述の構成のコンクリート部材では、2段目主筋がカットオフされたものであるが、付着割裂強度τ
buの値が所定の値より低いと、カットオフされた部分を高価な継手で接続するという設計をしなければならない等の不都合が生じる。
【0009】
このように、従来例では、付着割裂強度τ
buを求めるための条件、特に、2段目主筋の低減係数αの値が小さいので、この低減係数αの値を大きくすることが考えられるが、低減係数αを単に大きくすると、危険側に評価するデータが出現することになる。
つまり、2段目主筋の低減係数αを1.0とすると、
図16に示される通り、試験体S1~S24のうち、一部の試験体S15,S16,S18,S19,S21,S23が線分Lより下方に位置し、一部の試験体S15,S16,S19,S18,S21,S23の付着応力度実験値τ
expが付着割裂強度τ
buより小さくなって、危険側に評価されることになり、不都合が生じる。
そのため、単に、m2段目主筋の低減係数αの値を大きくしても、不都合が生じない合理的な評価法が望まれている。
【0010】
本発明の目的は、2段目主筋がカットオフされた鉄筋コンクリート部材の耐力評価を適正に行える鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法は、複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設した鉄筋コンクリート部材の耐力を評価する方法であって、前記主筋は、外周に配置された1段目主筋と、前記1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋とを有し、前記2段目主筋の途中がカットオフされ、前記せん断補強筋の強度が490N/mm
2を超えるものであり、前記主筋の前記コンクリートに対する付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τ
buの値とする、
【数2】
(1)の式において、F
cはコンクリート設計基準強度、(3)の式において、bはコンクリート部材の幅寸法、Nは主筋の本数、d
bは鉄筋径、(4)の式において、p
wはせん断補強筋比
ことを特徴とする。
【0012】
本発明では、鉄筋コンクリート部材の耐力を評価するために、付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τbuとする。(2)の式で示される通り、2段目主筋に対する低減係数αを従来の0.6に比べて大きくしているので、付着割裂強度τbuの値が付着応力度実験値τexpに比べて必要以上に大きくなり過ぎることがない。
一方で、付着割裂強度τbuが小さくなることがあっても、せん断補強筋の強度を従来の値に比べて大きい値、つまり、490N/mm2を超える値としているので鉄筋全体の強度の低下を小さくできる。
従って、2段目主筋の低減係数αを大きくしても、不都合が生じない合理的な評価を行うことができる。
【0013】
本発明の鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法は、複数の主筋にせん断補強筋が設けられた鉄筋に、コンクリートを打設した鉄筋コンクリート部材の耐力を評価する方法であって、前記主筋は、外周に配置された1段目主筋と、前記1段目主筋より中心側に配置された2段目主筋とを有し、前記2段目主筋の途中がカットオフされ、付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値のうち小さい値とし、前記付着強度は、予め実験により求められた付着応力度実験値τ
expと同じあるいは大きい、
【数3】
(1)の式において、F
cはコンクリート設計基準強度、(3)の式において、bはコンクリート部材の幅寸法、Nは主筋の本数、d
bは鉄筋径、(4)の式において、p
wはせん断補強筋比
ことを特徴とする。
【0014】
本発明では、鉄筋コンクリート部材の耐力を評価するために、まず、試験体を複数用意し、これらの試験体の付着応力度実験値τexpを実験により求めておく。そして、試験体について、(1)から(5)の式から付着割裂強度τbuを求める。(2)の式で示される通り、2段目主筋に対する低減係数αを従来の0.6に比べて大きくしているので、付着割裂強度τbuの値が付着応力度実験値τexpに比べて大きくなり過ぎることがない。
一方で、付着割裂破壊をせず、主筋の抜け出し破壊が先行することがある。本発明では、付着割裂強度τbuの値と、付着抜け出し強度ταの値とを前述の試験体毎に算出しておき、これらの値を比較し、この比較した値のうち小さい値を付着強度とする。付着割裂強度τbuの値と、付着抜け出し強度ταの値とのうち小さな値を付着強度とすれば、試験体によっては、付着強度が付着応力度実験値τexpより小さくなることになるが、付着強度が、予め求められた付着応力度実験値τexpと同じあるいはそれより大きいものとの基準を付加することで、付着強度が安全側において、付着応力度実験値τexpに近い値にできる。
従って、本発明では、付着割裂破壊をせず、主筋の抜け出し破壊が先行することがある場合を考慮して、付着割裂強度τbuの他に、付着抜け出し強度ταを鉄筋コンクリート部材の耐力の評価基準とするので、合理的な評価を行うことができる。
【0015】
本発明では、前記付着抜け出し強度τ
αは、(6)の式のτ
α1から求められる
【数4】
構成としてもよい。
なお、(6)の式は、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが乗じる関係にあり、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが関連しあっている場合を前提とした条件式である。
この構成では、複数の試験体を用いて付着応力度実験値τ
expを予め求め、これらの試験体の付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とを算出し、これらの値のうち小さい値を付着強度とする。付着強度が、付着応力度実験値τ
expと同じあるいはそれより大きくなるように、定数A
1,B
1,C
1の範囲をシミュレーションにより求める。その結果は、A
1が0以上5.3以下、B
1が0以上19以下、C
1が0以上0.135以下である。
そして、実際のコンクリート部材の耐力を評価するために、このコンクリート部材と条件が同じあるいは近い試験体を選択し、さらに、二段目主筋に対する低減係数αの値、定数A
1,B
1,C
1の値を選択し、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とを前述の計算式で求め、これらのうち小さい値を付着強度とする。
そのため、付着抜け出し強度τ
α1が付着応力度実験値τ
expと同じ値あるいはそれより小さな値となるように、シミュレーションによって予め設定された定数A1,B1,C1に基づいて、付着強度を求めるから、耐力評価をより適正に行うことができる。
【0016】
本発明では、前記付着抜け出し強度τ
αは、(7)の式のτ
α2から求められる
【数5】
構成としてもよい。
(7)の式は、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが和となる関係にあり、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとの関連が小さい場合を前提とした条件式である。
この構成では、(6)の式の場合と同様に、定数A
2,B
2,C
2の範囲をシミュレーションにより求める。その結果は、A
2が0以上5.3以下、B
2が0以上0.135以下、C
2が0以上850以下である。
そして、実際のコンクリート部材の耐力を評価するために、このコンクリート部材と条件が同じあるいは近い試験体を選択し、さらに、二段目主筋に対する低減係数αの値、定数A
2,B
2,C
2の値を選択し、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とを前述の計算式で求め、これらのうち小さい値を付着強度とする。
そのため、付着抜け出し強度τ
α1が付着応力度実験値τ
expと同じ値あるいはそれより小さな値となるように、シミュレーションによって予め設定されたA
2、B
2、C
2に基づいて、付着強度を求めるから、耐力評価をより適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】鉄筋コンクリート部材の鉄筋構造の全体を示す正面図。
【
図3】主筋において変形角と荷重との関係を示すグラフであり、(A)は主筋全体のグラフ、(B)は1段目主筋のみのグラフ、(C)は2段目主筋のみのグラフ。
【
図4】2段目主筋の低減係数αが0.85の場合の付着強度計算式(付着割裂強度τ
bu)と付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図5】2段目主筋の低減係数αが0.85であり、A
1=2、B
1=7.5、C
1=0.045とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図6】2段目主筋の低減係数αが0.85であり、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図7】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
1=0、B
1=0、C
1=0.135とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図8】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
1=5.3、B
1=0、C
1=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図9】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
1=1.5、B
1=19、C
1=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図10】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
2=1、B
2=0、C
2=850とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図11】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
2=0、B
2=0.135、C
2=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図12】2段目主筋の低減係数αが0.75であり、A
2=5.3、B
2=0、C
2=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図13】2段目主筋の低減係数αが1.0であり、A
1=2、B
1=7.5、C
1=0.045とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図14】2段目主筋の低減係数αが1.0であり、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図15】従来例(2段目主筋の低減係数αを0.6とした場合)における付着強度計算式(付着割裂強度τ
bu)と付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【
図16】2段目主筋の低減係数αを1.0とした場合における付着強度計算式(付着割裂強度τ
bu)と付着応力度実験値τ
expとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1及び
図2には、本実施形態の耐力評価方法が適用される鉄筋コンクリート部材が示されている。
図1は、鉄筋コンクリート部材の鉄筋構造の全体を示すものであり、
図2は、
図1のII-II線に沿う矢視断面図である。なお、
図2において、断面を示すハッチングは省略されている。
図1及び
図2において、鉄筋コンクリート部材1は、本実施形態では、梁を構成するものであり、鉄筋2と、鉄筋2に打設された断面矩形状のコンクリート3とを有する。
鉄筋2は、複数の梁用の主筋4にせん断補強筋5が設けられた構造である。主筋4は、外周側に配置された1段目主筋61と、1段目主筋61より中心側に配置された2段目主筋62とを有する。
【0019】
1段目主筋61は、梁の上下において、長手方向に沿って配置されている。上下に配置された1段目主筋61は、それぞれ複数本、
図2では4本が配置されている。
2段目主筋62は、梁の上下において、1段目主筋61と平行に配置されている。上下に配置された2段目主筋62は、それぞれ複数本、
図2では4本配置されている。
2段目主筋62は、梁の中間部分がカットオフ(切断)されたものであり、梁の端部側に所定間隔おいて配置された一対の鉄筋部62Aを有する。
一対の鉄筋部62Aは一直線上に配置されている。
一直線上に配置される一対の鉄筋部62Aのうち互いに対向する端部間長さは、カットオフ長さL
D2である。
せん断補強筋5の強度は、従来と同様に490N/mm
2である。
【0020】
以上の構成の主筋61,62では、
図3(A)から
図3(C)のグラフで示される通り、付着割裂破壊をせずに、2段目主筋62の抜け出し破壊が先行することがある。
図3(A)は、1段目主筋61と2段目主筋62とを合わせた主筋全体の変形角と荷重との関係を示すグラフであり、
図3(B)は、1段目主筋のみの変形角とひずみの関係を示すグラフであり、
図3(C)は、2段目主筋のみの変形角とひずみの関係を示すグラフである。
図3(B)と
図3(C)とを対比すると、2段目主筋62は、変形角1.5%以降のサイクルで耐力が上昇しているにもかかわらず、ひずみが1段目主筋61に比べて減少しているので、2段目主筋62が抜け出していることがわかる。
【0021】
次に、本実施形態にかかる鉄筋コンクリート部材の耐力評価方法を説明する。
[付着応力度実験値τexpの算出]
まず、本実施形態では、複数の試験体S1~S24を用意し、これらの試験体S1~S24について、付着応力度実験値τexpを算出する。付着応力度実験値τexpの算出は公知の方法で行う。
[付着割裂強度τbuと付着抜け出し強度ταの算出]
付着割裂強度τbuの値と、付着抜け出し強度ταの値とを計算で求める。
ここで、付着割裂強度τbuは(1)から(5)の式から求める。
【0022】
【0023】
(1)の式において、Fcはコンクリート設計基準強度、(3)の式において、bはコンクリート部材の幅寸法、Nは主筋の本数、dbは鉄筋径、(4)の式において、pwはせん断補強筋比である。
【0024】
まず、(2)の式において、2段目主筋に対する低減係数αを従来例の0.6より大きい値、例えば、0.85とし、付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu)を算出する。
2段目主筋に対する低減係数αを0.85とした場合の付着割裂強度τ
bu、付着応力度実験値τ
exp、付着応力度実験値τ
expの付着割裂強度τ
buに対する比(実験値/計算値)を表1に示す。
図4には、2段目主筋に対する低減係数αを0.85とした場合の付着割裂強度τ
buと付着応力度実験値τ
expとの関係を示す。
なお、表1で示される試験体S1~S24は、
図15及び
図16で説明した試験体S1~S24である。
表1では、2段目主筋に対する低減係数αが0.6の場合(
図15参照)と、0.85の場合と、1.0の場合(
図16参照)とのそれぞれにおいて、付着割裂強度τ
bu、付着応力度実験値τ
exp、付着応力度実験値τ
expの付着割裂強度τ
buに対する比(実験値/計算値)が表示されている。
【0025】
【0026】
表1に示される通り、2段目主筋に対する低減係数αを0.85とした場合では、試験体S1~S24のうち試験体S19のみの実験値/計算値の値が1.00未満である。付着割裂強度τ
buと付着応力度実験値τ
expとの関係は
図4にも示されている。
図4では、試験体S19が付着割裂強度計算式τ
buの値と付着応力度実験値τ
expとが同じ値を示す線分Lより下方に位置している。
付着抜け出し強度τ
αは、(6)の式のτ
α1と(7)の式のτ
α2とのいずれから求められるものであり、これらは技術者が適宜選択する。
(6)の式は、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが乗じる関係にあり、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが関連しあっている場合を前提としている。
(7)の式は、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが和となる関係にあり、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとの関連が小さい場合を前提としている。
【0027】
【0028】
【0029】
まず、(6)の式に基づいて、定数A
1,B
1,C
1の範囲を求める方法を説明する。
試験体S1~S24において、定数A
1,B
1,C
1に適宜の数値を入力して付着抜け出し強度τ
α1を算出する。
例えば、A
1=2、B
1=7.5、C
1=0.045とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。算出結果が
図5に示されている。付着抜け出し強度τ
αの算出のために用いられるせん断補強筋比p
wは、表1に示される値を入力する。表1には、コンクリート強度σ
Bが示されているが、このコンクリート強度σ
Bは、実験時のコンクリート強度である。付着割裂強度τ
buと付着抜け出し強度τ
αの算出のために用いられるコンクリート設計基準強度Fcは、建物の設計条件に合わせて、設計者が適宜設定する。なお、実際のコンクリート強度σ
Bは、コンクリート設計基準強度Fcより大きくなるように設定されているため、設計値はより安全側の評価となる。
【0030】
図5には、A
1=2、B
1=7.5、C
1=0.045とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図5では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1からS24のうち、試験体S13,S15,S16,S18,S19,S21,S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S17,S20,S22,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。つまり、
図5では、線分Lの上に全ての試験体S1~S24がある。
定数A
1,B
1,C
1の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A
1,B
1,C
1の範囲を特定する。
【0031】
(7)の式に基づいて、定数A
2、B
2、C
2の範囲を求める方法を説明する。
試験体S1~S24において、定数のA
2、B
2、C
2に適宜の数値を入力して付着抜け出し強度τ
α2を算出する。
例えば、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。算出結果が
図6に示されている。
図6は、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
【0032】
図6では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S18,S19,S21,S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14~S17,S20,S22,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として付着割裂強度τ
buを決定する。
決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
定数A
2,B
2,C
2の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A
2,B
2,C
2の範囲を特定する。
【0033】
次に、2段目主筋に対する低減係数αを0.75とした場合について説明する。定数A
1,B
1,C
1,A
2,B
2,C
2の範囲を求める方法は、低減係数αを0.85とした場合と同様である。
まず、(6)の式の定数A
1,B
1,C
1に所定の値を入力して付着抜け出し強度τ
αを算出し、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較し、この比較した値のうち小さい値を付着強度とする。算出結果が
図7に示されている。
【0034】
図7には、A
1=0、B
1=0、C
1=0.135とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図7では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S16,S18,S19が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S17,S20~S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
【0035】
(6)の式において、A
1=5.3、B
1=0、C
1=0とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度ταを算出する。
図8には、A
1=5.3、B
1=0、C
1=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図8では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S18,S19,S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S17,S20~S22,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
【0036】
(6)の式において、A
1=1.5、B
1=19、C
1=0とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。
図9には、A
1=1.5、B
1=19、C
1=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図9では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S12,S14,S15,S18,S19,S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S11,S13,S16,S17,S20~S22,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
さらに、定数A
1,B
1,C
1の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A
1,B
1,C
1の範囲を特定する。
【0037】
(7)の式において、A
2=1、B
2=0、C
2=850とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。
図10には、試験体S1~S24において、A
2=1、B
2=0、C
2=850とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図10では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S17~S19,S21~S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S16,S20,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
以上において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
【0038】
(7)の式において、A
2=0、B
2=0.135、C
2=0とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。
図11には、試験体S1~S24において、A
2=0、B
2=0.135、C
2=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図11では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S16,S18,S19が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S17,S20~S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
以上において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
【0039】
(7)の式において、A
2=5.3、B
2=0、C
2=0とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。
図12には、A
2=5.3、B
2=0、C
2=0とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図12では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S18,S19,S23が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S17,S20~S22,S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
【0040】
以上において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τexpと同じかあるいは大きい。
さらに、定数A2,B2,C2の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τbuの値と付着抜け出し強度ταの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τexpと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A2,B2,C2の範囲を特定する。
【0041】
次に、2段目主筋に対する低減係数αを1.0とした場合について説明する。付着強度を求める方法は、低減係数αが0.85や0.75とした場合と同様である。
まず、(6)の式の定数A1、B1、C1に所定の値を入力して付着抜け出し強度ταを算出し、付着割裂強度τbuの値と、付着抜け出し強度ταの値とを比較し、この比較した値のうち小さい値を付着強度とする。
【0042】
図13には、試験体S1~S24において、A
1=2、B
1=7.5、C
1=0.045とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図13では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S16,S18,S19が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S17,S20~S24が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
以上において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
さらに、定数A
1,B
1,C
1の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A
1,B
1,C
1の範囲を特定する。
【0043】
(7)の式において、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の試験体S1~S24の付着抜け出し強度τ
αを算出する。
図14には、試験体S1~S24において、A
2=2、B
2=0.05、C
2=300とした場合の付着強度計算値(付着割裂強度τ
bu又は付着抜け出し強度τ
α)と、付着応力度実験値τ
expとの関係が示されている。
図14では、付着割裂強度τ
buの値と、付着抜け出し強度τ
αの値とを比較して小さい値が示されている。試験体S1~S24のうち、試験体S13,S15,S16,S18~S21,S23,S24が付着割裂強度τ
buの値より付着抜け出し強度τ
αが小さいので、付着強度として付着抜け出し強度τ
αを決定し、残りの試験体S1~S12,S14,S17,S22が付着抜け出し強度τ
αより付着割裂強度τ
buの値が小さいので、付着強度として、付着割裂強度τ
buを決定する。
試験体S1~S24において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
以上において、決定された付着強度は、試験体S1~S24の全てにおいて、付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きい。
さらに、定数A
2,B
2,C
2の値を変更し、試験体S1~S24の全てにおいて、付着割裂強度τ
buの値と付着抜け出し強度τ
αの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τ
expと同じかあるいは大きいかをシミュレーションし、定数A
2,B
2,C
2の範囲を特定する。
【0044】
以上の工程を、2段目主筋に対する低減係数αを、0.6<α≦1.0の範囲において、適宜な数値に設定し、それぞれ算出した試験体S1~S24の付着割裂強度τbuの値と、付着抜け出し強度ταの値とを比較し、小さい値が付着応力度実験値τexpと同じあるいはそれより大きな値となるように、定数A1,B1,C1,A2,B2,C2の値を変えてシミュレーションをする。
その結果、0.6<α≦1.0の範囲において、(6)の式では、A1が0以上5.3以下、B1が0以上19以下、C1が0以上0.135以下にある場合、試験体S1~S24の付着割裂強度τbuの値と付着抜け出し強度ταの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τexpと同じあるいはそれより大きな値となる。
(7)の式では、A2が0以上5.3以下、B2が0以上0.315以下、C2が0以上850以下にある場合、試験体S1~S24の付着割裂強度τbuの値と付着抜け出し強度ταの値とのうち小さい値が付着応力度実験値τexpと同じあるいはそれより大きな値となる。
【0045】
実際のコンクリート部材の耐力評価をするために、試験体S1~S24のデータ(コンクリート設計基準強度Fc、せん断補強筋Pw、等を含む)と、(1)の式、(6)の式、(7)の式とをパーソナルコンピュータに予め記憶しておく。
実際に評価するコンクリート部材を試験体S1~S24の中から同じものあるいは近いものを選択する。
さらに、2段目主筋に対する低減係数αを0.6<α≦1.0の範囲から設定する。
付着抜け出し強度ταを、(6)の式で求めるか、(7)の式で求めるかを選択する。
(6)の式で求める場合、定数A1を0以上5.3以下の範囲から適宜な数値に設定し、定数B1を0以上19以下の範囲から適宜な数値に設定し、定数C1を0以上0.135以下の範囲から適宜な数値に設定する。
(7)の式で求める場合、定数A2を0以上5.3以下の範囲から適宜な数値に設定し、定数B2を0以上0.315以下の範囲から適宜な数値に設定し、定数C2を0以上850以下の範囲から適宜な数値に設定する。
そして、(1)の式の計算を実施し、(6)の式又は(7)の式の計算を実施する。
これにより、コンクリート部材の付着強度が求まることになる。
【0046】
例えば、試験体S1~S24のうち耐力評価するコンクリート部材が試験体S19と同じであり、かつ、2段目主筋に対する低減係数αを0.85とし、A1=2、B1=7.5、C1=0.045の条件で、(6)の式から付着抜け出し強度ταを算出する場合において、まず、パーソナルコンピュータに、S19の条件を入力する。
(1)の式から、付着割裂強度τbuを算出する。その結果は、付着割裂強度τbu=6.26N/mm2である。
(6)の式から、付着抜け出し強度ταを算出する。
付着抜け出し強度τα=A1+Fc(B1×Pw+C1)=2+39.8(7.5×0.0051+0.045)≒5.31となる。
そのため、付着抜け出し強度ταが付着割裂強度τbuより小さいので、付着抜け出し強度ταを付着強度として、耐力評価をする。
【0047】
[実施形態の効果]
(1)付着割裂強度τbuを求めるにあたり、2段目主筋に対する低減係数αを、0.6<α≦1.0としたので、低減係数αが従来の値に比べて大きいことから、付着割裂強度τbuの値が付着応力度実験値τexpに比べて大きくなり過ぎることがない。付着強度が、予め求められた付着応力度実験値τexpと同じあるいはそれより大きいものとの基準を付加することで、付着強度が安全側において、付着応力度実験値τexpに近い値にできる。そのため、付着割裂破壊をせず、主筋の抜け出し破壊が先行することがある場合を考慮して、付着割裂強度τbuの他に、付着抜け出し強度ταを鉄筋コンクリート部材の耐力の評価基準とするので、合理的な評価を行うことができる。
【0048】
(2)付着抜け出し強度ταを、(6)の式から求め、付着抜け出し強度ταが付着応力度実験値τexpと同じ値あるいはそれより小さな値となるように、シミュレーションによって予め設定されたA1、B1、C1に基づいて、付着強度を求めるから、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとが関連しあっている場合を前提とした設計条件において、耐力評価をより適正に行うことができる。
【0049】
(3)付着抜け出し強度ταを、(7)の式から求め、付着抜け出し強度ταが付着応力度実験値τexpと同じ値あるいはそれより小さな値となるように、シミュレーションによって予め設定されたA2、B2、C2に基づいて、付着強度を求めるから、コンクリート設計基準強度Fcとせん断補強筋比pwとの関連が小さい場合を前提とした設計条件において、耐力評価をより適正に行うことができる。
【0050】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を
図1及び
図2に基づいて説明する。
第2実施形態は、せん断補強筋5の強度と、付着強度の求め方とが第1実施形態と異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図1及び
図2に示される通り、第2実施形態のコンクリート部材の構成はせん断補強筋5を除いて第1実施形態と同じである。第2実施形態において、せん断補強筋5の強度は従来の値に比べて大きな490N/mm
2を超える値、例えば、685N/mm
2、785N/mm
2、1275N/mm
2である。
また、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、主筋のコンクリートに対する付着強度を、(1)から(5)の式から求めるものであるが、第1実施形態とは異なり、(6)の式や(7)の式に基づく付着抜け出し強度τ
αを参照しない。
【0051】
第2実施形態では、次の効果を奏することができる。
(4)付着強度を、(1)から(5)の式から求められる付着割裂強度τbuとし、(2)の式で示される通り、2段目主筋に対する低減係数αを従来の0.6に比べて大きくしているので、付着割裂強度τbuの値が付着応力度実験値τexpに比べて必要以上に大きくなり過ぎることがない。一方で、付着割裂強度τbuが小さくなることがあっても、せん断補強筋の強度を従来の値に比べて大きい値、つまり、490N/mm2を超える値としているので鉄筋全体の強度の低下を小さくできる。そのため、2段目主筋の低減係数αを大きくしても、不都合が生じない合理的な評価を行うことができる。
【0052】
[変形例]
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、1段目主筋61の本数を4本としたが、これらの本数は限定されるものではない。
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同等に、(6)の式又は(7)の式に基づいて、付着抜け出し強度ταを算出し、付着抜け出し強度ταと付着割裂強度τbuとのうち小さい値を付着強度としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…鉄筋コンクリート部材、2…鉄筋、3…コンクリート、4…主筋、5…せん断補強筋、61…1段目主筋、62…2段目主筋