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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】制震ダンパー
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20221208BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20221208BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20221208BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20221208BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20221208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221208BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20221208BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/08 A
F16F15/04 D
F16F15/04 A
F16F7/00 F
F16F7/08
C08K3/013
C08K9/00
C09K3/00 P
C08L53/02
E04H9/02 351
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018182018
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050774
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】安井 薫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 智宏
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】村谷 圭市
(72)【発明者】
【氏名】竹山 可大
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070595(JP,A)
【文献】特開平11-012430(JP,A)
【文献】特開2010-126597(JP,A)
【文献】特開2007-231293(JP,A)
【文献】特開2008-121799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0103297(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 6/16
F16F 15/00 - 15/36
F16F 7/00 - 7/14
C08L 53/00 - 53/02
C08K 3/00 - 3/40
C08K 9/00 - 9/10
C09K 3/00 - 3/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)および(B)成分をポリマーとし、かつスチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体を主たるポリマーとするゴム組成物からなる粘弾性体を構成部材とする制振ダンパーであって、上記ゴム組成物における(A)成分と(B)成分の混合割合が、重量比で、(A):(B)=95:5~50:50の範囲であり、剪断歪み率200%,周波数0.33Hz,温度20℃の条件下における上記粘弾性体の剪断弾性率が0.05N/mm2以上であることを特徴とする制振ダンパー。
(A)分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有するスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)。
(B)分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)およびスチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)の少なくとも一方。
【請求項2】
上記ゴム組成物における(A)成分と(B)成分の混合割合が、重量比で、(A):(B)=9100:0の範囲である、請求項1記載の制振ダンパー。
【請求項3】
上記(A)成分のジブロック成分量が70重量%以上であり、上記(B)成分のジブロック成分量が10重量%以上70重量%未満である、請求項1または2記載の制振ダンパー。
【請求項4】
上記ゴム組成物におけるスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体とスチレン-イソプレン-スチレン共重合体の混合割合が、重量比で、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体:スチレン-イソプレン-スチレン共重合体=95:5~50:50の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の制振ダンパー。
【請求項5】
更に、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも一つのフィラーを、上記ゴム組成物に含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の制振ダンパー。
【請求項6】
更に、表面処理シリカを上記ゴム組成物に含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の制振ダンパー。
【請求項7】
上記表面処理シリカが、疎水化処理されたシリカである、請求項6記載の制振ダンパー。
【請求項8】
上記ゴム組成物からなる粘弾性体とともに、摩擦材を構成部材とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の制振ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震ダンパーに関するものであり、詳しくは、土木・建築分野における制震や免震等の用途に好適な制震ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野における制震装置や免震装置、とりわけ、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーにおいては、地震等による振動エネルギーを吸収するために、上記制震ダンパーの機械構造的要素により制震性能を発現する他、上記制震ダンパーに使用される粘弾性体(ゴム材)により高減衰化を達成することが求められている。
また、上記粘弾性体に対しては、台風や大地震後に発生する中小地震による長周期の断続的な繰り返し振動(特に高層ビルにおいて観測される低~中歪みの長周期振動)や、直下型地震のように短周期の振動に対する減衰特性を、安定して維持することへの要求も高くなってきている。
このような要求を満たすことを目標とし、従来、上記粘弾性体のポリマーには、主として、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)が用いられている(例えば特許文献1および2参照)。
【0003】
一般的に、粘弾性体(ゴム材)は、ガラス転移点付近で減衰(tanδ)が最も高くなるが、その前後の温度領域では極端に減衰が低下するため、使用場所に制限を受けやすい。例えば、常温付近にガラス転移点がある材料を使用すると、常温付近のピーク温度付近では、高tanδを発揮するが、高温時には減衰特性が小さくなる。このため、各メーカーにて、高減衰の温度領域が広い(つまり、低温度依存性の)粘弾性体の使用が進められている(例えば特許文献3および4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-227521号公報
【文献】特開2015-183110号公報
【文献】特開2004-35648号公報
【文献】国際公開第09/001807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば上記特許文献4にあるように、上記粘弾性体のガラス転移点が、使用温度範囲(0~40℃)から離れたものであると、温度による物性変化が小さくなり、先に述べたような低温度依存性を実現することが可能となる。
しかしながら、それと同時に、上記のようなガラス転移点を示す粘弾性体は、ポリマーの分子運動がしにくい状態となるため、減衰特性が低くなる。
ここで、例えば分子量の小さなポリマーを使用すると、分子運動がしやすい状態となるため、減衰特性は高くなる。しかしながら、分子量の小さなポリマーを使用すると、ポリマー同士の絡み合いが小さくなるため、粘弾性体の変形後の回復性が悪化するといった問題も生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低~中歪みの長周期振動や、短周期振動に対し、高い減衰特性を示すとともに、上記減衰特性の温度依存性が低く、さらに変形後の回復性に優れる制震ダンパーの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の[1]~[7]を、その要旨とする。
[1]下記の(A)および(B)成分をポリマーとし、かつスチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)を主たるポリマーとするゴム組成物からなる粘弾性体を構成部材とする制振ダンパーであって、剪断歪み率200%,周波数0.33Hz,温度20℃の条件下における上記粘弾性体の剪断弾性率が0.05N/mm2以上である制振ダンパー。
(A)分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有するスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)。
(B)分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)およびスチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)の少なくとも一方。
[2]上記ゴム組成物における(A)成分と(B)成分の混合割合が、重量比で、(A):(B)=95:5~50:50の範囲である、[1]に記載の制振ダンパー。
[3]上記(A)成分のジブロック成分量が70重量%以上であり、上記(B)成分のジブロック成分量が10重量%以上70重量%未満である、[1]または[2]に記載の制振ダンパー。
[4]上記ゴム組成物におけるスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体とスチレン-イソプレン-スチレン共重合体の混合割合が、重量比で、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体:スチレン-イソプレン-スチレン共重合体=95:5~50:50の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の制振ダンパー。
[5]更に、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブからなる群から選ばれた少なくとも一つのフィラーを、上記ゴム組成物に含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の制振ダンパー。
[6]更に、表面処理シリカを上記ゴム組成物に含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の制振ダンパー。
[7]上記表面処理シリカが、疎水化処理されたシリカである、[6]に記載の制振ダンパー。
[8]上記ゴム組成物からなる粘弾性体とともに、摩擦材を構成部材とする、[1]~[7]のいずれかに記載の制振ダンパー。
【0008】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、制震ダンパーの構成部材として、SBSを主たるポリマーとする粘弾性体を用いると、その減衰特性の温度依存性が低くなり、さらには、低~中歪みの長周期振動や、短周期振動に対し、減衰特性を安定して維持することができるとの知見を得た。そして、上記のように粘弾性体の主たるポリマーをスチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のSBSとしつつ、高分子量の(分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する)SBSやSISと、低分子量の(分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有する)SBSとを併用し、さらに、剪断歪み率200%,周波数0.33Hz,温度20℃の条件下における上記粘弾性体の剪断弾性率が0.05N/mm2以上となるようにすると、上記のような減衰特性において、より高い減衰特性を示し、さらに、上記のように減衰特性の温度依存性を低く抑えることができるとともに、制震ダンパーの粘弾性体に要求されるような変形後の回復性にも優れるようになることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の制震ダンパーは、高分子量の(分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する)SBSやSISと、低分子量の(分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有する)SBSとを併用したものをポリマーとし、かつジブロック成分量が65重量%以上のSBSを主たるポリマーとする、剪断弾性率が0.05N/mm2以上の粘弾性体を、その構成部材とするものである。そのため、低~中歪みの長周期振動や、短周期振動に対し、高い減衰特性を示すとともに、上記減衰特性の温度依存性が低く、さらに変形後の回復性に優れている。そのため、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーとして、優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】制震ダンパーの一例を示す正面図である。
図2】上記制震ダンパーの断面図の一例であり、(I)は図1のA-A'断面図、(II)は図1のB-B'断面図である。
図3】上記制震ダンパーの断面図の他の例であり、(I)は図1のA-A'断面図、(II)は図1のB-B'断面図である。
図4】上記制震ダンパーの設置状態を示す模式図である。
図5】動的剪断特性の評価方法を説明するための模式図である。
図6】荷重-歪みループ曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0012】
本発明の制震ダンパーは、下記の(A)および(B)成分をポリマーとし、かつスチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)を主たるポリマーとするゴム組成物からなる粘弾性体を構成部材とする制振ダンパーであって、剪断歪み率200%,周波数0.33Hz,温度20℃の条件下における上記粘弾性体の剪断弾性率が0.05N/mm2以上である。
(A)分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有するスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)。
(B)分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)およびスチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)の少なくとも一方。
【0013】
ここで、上記ゴム組成物の「主たるポリマー」とは、上記ゴム組成物のポリマー全量(後記の液状ポリマーを除く)の50重量%以上のことを示す。そして、本発明では、上記の「主たるポリマー」がスチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のSBSであり、上記ゴム組成物のポリマーの全てがSBSであることも含む趣旨である。
【0014】
上記のように、上記ゴム組成物のポリマーには、(A)および(B)成分が併用されたものが用いられる。
上記(A)成分には、分子量分布において、分子量6万以上9万未満の領域にメインピークのピークトップを有するSBSが用いられる。そして、減衰性向上の観点から、上記(A)成分には、分子量6.5万~8.5万の領域にメインピークのピークトップを有するSBSが好ましく、より好ましくは分子量7万~8万の領域にメインピークのピークトップを有するSBSである。
また、上記(A)成分には、減衰性向上の観点から、分子量分布において、分子量9万以上30万以下の領域にサブピークのピークトップを有するSBSが好ましく、より好ましくは分子量13万以上20万以下の領域にサブピークのピークトップを有するSBSが用いられる。
また、上記(B)成分には、分子量分布において、分子量9万以上33万以下の領域にメインピークのピークトップを有する、SBSおよびSISの少なくとも一方が用いられる。すなわち、上記のような分子量分布を示す、SBS単独、SIS単独、SBSとSISが併用されたもの、のいずれかが用いられる。そして、回復性向上の観点から、上記(B)成分には、分子量9.5万~25万の領域にメインピークのピークトップを有するものが好ましく、より好ましくは分子量10万~20万未満の領域にメインピークのピークトップを有するものである。
また、上記(B)成分には、回復性向上の観点から、分子量分布において、分子量20万以上45万以下の領域にサブピークのピークトップを有するものが好ましく、より好ましくは分子量25万以上40万以下の領域にサブピークのピークトップを有するものが用いられる。
なお、上記(A)および(B)成分の分子量分布は、標準ポリスチレン分子量換算により、高速液体クロマトグラフ(Waters社製、「ACQUITY APCシステム」)に、カラム:ACQUITY APC XT 450を1本、ACQUITY APC XT 200を1本、ACQUITY APC XT 45を2本の計4本を直列にして用いることにより測定される。そして、「メインピーク」とは、分子量分布において最も検出強度の高いピークのことを言い、「サブピーク」とは、メインピークの次に検出強度の高いピークのことを言う。
【0015】
上記ゴム組成物における(A)成分と(B)成分の混合割合は、重量比で、(A):(B)=95:5~50:50の範囲であることが好ましく、より好ましくは、(A):(B)=90:10~60:40の範囲、さらに好ましくは、(A):(B)=85:15~80:20の範囲である。このような混合割合とすることにより、所望の剪断弾性率が得やすくなり、高減衰特性、低温度依存性、変形後の回復性を得るうえで、より優れるようになる。
【0016】
また、上記(A)成分のジブロック成分量(スチレン-ブタジエンジブロック成分量)が70重量%以上であり、上記(B)成分のジブロック成分量((B)成分がSBSの場合はスチレン-ブタジエンジブロック成分量、(B)成分がSISの場合はスチレン-イソプレンジブロック成分量)が10重量%以上70重量%未満であることが好ましい。より好ましくは、上記(A)成分のジブロック成分量が72~95重量%であり、上記(B)成分のジブロック成分量が15~65重量%である。さらに好ましくは、上記(A)成分のジブロック成分量が75~90重量%であり、上記(B)成分のジブロック成分量が15~60重量%である。このようなジブロック成分量とすることにより、所望の剪断弾性率が得やすくなり、高減衰特性、低温度依存性、変形後の回復性を得るうえで、より優れるようになる。
なお、上記ジブロック成分量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された値である。
【0017】
また、上記(A)および(B)成分のスチレン量は、10~50重量%であることが好ましく、より好ましくは、スチレン量が15~40重量%の範囲である。このようなスチレン量であると、剪断弾性率の点でより優れるようになる。
なお、上記スチレン量は、核磁気共鳴装置(NMR)によって測定された値である。
【0018】
また、上記ゴム組成物におけるSBSとSISの混合割合は、重量比で、SBS:SIS=95:5~50:50の範囲であることが好ましく、より好ましくは、SBS:SIS=90:10~60:40の範囲、さらに好ましくは、SBS:SIS=85:15~80:20の範囲である。このような混合割合とすることにより、所望の剪断弾性率が得やすくなり、高減衰特性、低温度依存性、変形後の回復性を得るうえで、より優れるようになる。
【0019】
なお、上記ゴム組成物には、上記(A)および(B)成分に加えて、フィラー、液状ポリマー、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤等を、必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0020】
上記フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブ等があげられ、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
なかでも、表面処理シリカを含有することが、高減衰特性の観点から好ましい。
【0021】
ここで、上記の「表面処理シリカ」は、疎水化処理されたシリカであることが好ましく、例えば、湿式シリカ、乾式シリカといったシリカの表面に対し、シリコーンオイル、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン、ジメチルジクロロシラン等のジメチルシラン、トリメチルシラン、モノメチルトリクロロシラン、脂肪酸(ステアリン酸)等の疎水化処理剤により処理したものがあげられる。
特に、上記疎水化処理されたシリカのなかでも、トリメチルシラン(トリメチルシリル化剤)により表面処理されたシリカが、高減衰特性の観点から好ましい。
【0022】
なお、上記のような疎水化処理は、前記ゴム組成物に適宜配合される炭酸カルシウムに対しても行うことができる。
また、上記炭酸カルシウムとしては、ロジン酸処理炭酸カルシウム、リグニン処理炭酸カルシウム、脂肪酸第四級アンモニウム塩処理炭酸カルシウム等を用いることが、剛性の温度依存性を良好に保ちつつ、減衰特性がさらに向上する観点から、より好ましい。
【0023】
前記ゴム組成物におけるフィラーの含有割合は、前記ゴム組成物における(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、10~150重量部であることが好ましく、より好ましくは50~100重量部の範囲である。このような含有割合でフィラーを含有すると、剛性の温度依存性を良好に保ちつつ、減衰特性がさらに向上するようになる。
【0024】
また、前記ゴム組成物に適宜配合される液状ポリマーとしては、例えば、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレン-イソプレンゴム(液状SI)、液状スチレン-エチレン・プロピレンゴム(液状SEP)、液状イソプレン-ブタジエンゴム(液状IR-BR)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
このような液状ポリマーを併用すると、剛性の温度依存性を低温側へシフトさせることができ、常温領域(通常、0~30℃)での剛性の温度依存性が小さくなるとともに、常温領域での減衰定数(he)が大きくなり、減衰特性が向上するという効果が得られるため、好ましい。なかでも、液状スチレン-イソプレンゴム(液状SI)を選択すると、更なる減衰特性の向上効果を得ることができる。
【0025】
上記液状ポリマーは、ガラス転移点(Tg)が-55℃以下のものが好ましく、特に好ましくはガラス転移点(Tg)が-60℃以下のものである。すなわち、上記液状ポリマーのガラス転移点(Tg)が、-55℃よりも高いと、前記(A)および(B)成分のTgを充分に下げられず、温度依存性が悪くなる傾向がみられるからである。なお、上記ガラス転移点(Tg)は、DSC測定法(示差走査熱量測定法)に準拠して求めた値である。
【0026】
また、上記液状ポリマーは、静粘度が70~1000Pa・s/38℃の範囲のものが好ましく、特に好ましくは280~950Pa・s/38℃の範囲である。すなわち、上記液状ポリマーの静粘度が小さすぎると、コンパウンドの剛性が低下する傾向がみられ、逆に静粘度が高すぎると、分子量が高くなり、エントロピー弾性により、減衰特性が低下する傾向がみられるからである。なお、上記静粘度は、JIS K 7117に準拠し、B型粘度計を用いて、温度38℃で測定した値である。
【0027】
また、上記液状ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、減衰性の観点から、好ましくは1万~6万の範囲であり、より好ましくは2万~5万の範囲である。
なお、上記液状ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフ(Waters社製、「ACQUITY APCシステム」)に、カラム:ACQUITY APC XT 450を1本、ACQUITY APC XT 200を1本、ACQUITY APC XT 45を2本の計4本を直列にして用いることにより測定される。
【0028】
前記ゴム組成物における液状ポリマーの含有割合は、前記ゴム組成物における(A)および(B)成分の合計量100重量部に対し、5~50重量部であることが好ましく、より好ましくは10~40重量部の範囲である。このような含有割合で液状ポリマーを含有すると、減衰特性がさらに向上するようになる。
【0029】
前記ゴム組成物に適宜配合される粘着付与剤は、減衰特性や接着性の向上を目的として用いられるものであり、例えば、水添脂環族系炭化水素樹脂、クマロン樹脂、ロジン、ロジンエステル、ケトン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が好適に用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
前記ゴム組成物に適宜配合される老化防止剤としては、例えば、芳香族第二級アミン系老化防止剤、特殊ワックス系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0031】
前記ゴム組成物は、例えば、前記(A)および(B)成分、さらに必要に応じてその他の成分等を、ニーダー,プラネタリーミキサー,混合ロール,2軸スクリュー式撹拌機等を用いて混練することにより得ることができる。そして、このゴム組成物を、溶融温度以上に加熱して溶融させ、これを型枠内に流し込み、放冷して所定形状に成形することにより、本発明の制震ダンパーの構成部材である粘弾性体を製造することができる。
【0032】
上記粘弾性体は、未加硫のものであり、その剪断弾性率は、先に述べたように、剪断歪み率200%,周波数0.33Hz,温度20℃の条件下において、0.05N/mm2以上である。本発明において、上記粘弾性体の剪断弾性率は、好ましくは0.1~0.5N/mm2の範囲であり、より好ましくは、0.15~0.4N/mm2の範囲である。前記(A)および(B)成分をポリマーとし、ジブロック成分量の高いSBSを主たるポリマーとし、かつ上記のような剪断弾性率を示すことにより、高減衰特性、低温度依存性、変形後の回復性を得るうえで、より優れるようになる。
【0033】
なお、上記粘弾性体の剪断弾性率は、例えば図5に示すようなサンプルを用いて、つぎのようにして行われる。すなわち、ブラスト処理を施した二枚の金具22の所定箇所(試料21の接着箇所)に、ゴム用2液接着剤を塗布した後、上記金具22間に、上記粘弾性体形成用のゴム組成物を挟み、乾燥を行う。これを所定時間(例えば、100℃で10分間)熱プレス成型して、試料21を作製する。そして、このサンプルを、矢印方向に加振させて、図6に示す荷重-歪みループ曲線に基づいて、動的剪断特性の評価を行う。すなわち、上記サンプルに対し、加振機と、入力信号発振機と、出力信号処理機を用いて、先に述べた条件(剪断歪み率:200%(試料厚みに対して200%)、周波数(f):0.33Hz、測定温度:20℃)で加振を付与し、その加振の時間に対する剪断歪み値(δ)と荷重値(Qd)の解析から、下記の式(α)に従い等価剛性(Ke)を求めるとともに、下記の式(β)に従い剪断弾性率(Ge)を求める。なお、下記の式において、Sは試料の面積、Dは試料の厚みを示す。
等価剛性:Ke(N/mm)=Qd/δ …(α)
剪断弾性率:Ge(N/mm2)=Ke÷S/D …(β)
【0034】
ここで、図1に、本発明の制震ダンパーの一例を示す。図において、1は制振ダンパー、2は粘弾性体、3は摩擦材、4と5は金属板を示す。そして、二枚の金属板4,5の間に挟まれた状態で、図示のように粘弾性体2と摩擦材3とが接着されている。
図2は、上記制震ダンパーの断面図の一例であり、(I)は図1のA-A'断面図、(II)は図1のB-B'断面図である。図2では、上記制震ダンパーにおける粘弾性体2と摩擦材3とが単層構造のものが示されている。
図3は、上記制震ダンパーの断面図の他の例であり、(I)は図1のA-A'断面図、(II)は図1のB-B'断面図である。図3では、上記制震ダンパーにおける粘弾性体2と摩擦材3とが二層構造のものが示されている。
【0035】
上記のように、粘弾性体2(前記ゴム組成物からなる粘弾性体)とともに、摩擦材3を制振ダンパー1の構成部材とすると、微小な変形から大変形まで、エネルギー吸収に優れるダンパーとなる。なお、上記摩擦材3は、例えば、各種の繊維と有機・無機充填材からなる複合材料、焼結金属系摩擦材、金属系摩擦材等があげられる。
【0036】
つぎに、図4に、上記制振ダンパー1の設置例(一例)を示す。図において、1は制振ダンパー、2は粘弾性体、3は摩擦材、4と5は金属板、6はボルト、7と8はパネル、9は柱、10は梁、11は土台を示す。図示のように、制振ダンパー1の金属板4,5は、それぞれ、ボルト6によって、パネル7,8に取り付けられている。そして、柱9を介して接続された梁10と土台11との間の制震のために、上記金属板4,5の間に挟まれた粘弾性体2と摩擦材3とが機能している。
【0037】
本発明の制振ダンパーは、特に上記のような形状のものに限定されるものではなく、土木用,建築用の制震ダンパー、家電用や電子機器用の制振ダンパー等として、優れた機能を発揮することができる。
とりわけ、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーとして、より優れた機能を発揮することができる。
【実施例
【0038】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0039】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、下記に示す材料に示された各数値は、前記測定方法に基づき測定された値である。
【0040】
〔SBS(i)〕<低分子量SBS>
クレイトンポリマー社製、D1118(分子量分布における第1ピーク(メインピークのピークトップ):7.9万,第2ピーク(サブピークのピークトップ):16万、スチレン-ブタジエンジブロック成分量:78重量%、スチレン量:33重量%)
【0041】
〔SBS(ii)〕<高分子量SBS>
JSR社製、TR2601(分子量分布における第1ピーク(メインピークのピークトップ):10万,第2ピーク(サブピークのピークトップ):35万、スチレン-ブタジエンジブロック成分量:15重量%、スチレン量:30重量%)
【0042】
〔SIS(i)〕<低分子量SIS>
JSR社製、TR2000(重量平均分子量(Mw):9万、スチレン-イソプレンジブロック成分量:0重量%、スチレン量:40重量%)
【0043】
〔SIS(ii)〕<高分子量SIS>
日本ゼオン社製、クインタック3520(分子量分布における第1ピーク(メインピークのピークトップ):13万,第2ピーク(サブピークのピークトップ):33万、スチレン-イソプレンジブロック成分量:78重量%、スチレン量:15重量%)
【0044】
〔炭酸カルシウム〕
脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、白艶華CC)
【0045】
〔シリカ〕
トリメチルシリル化剤で表面処理されたシリカ(日本アエロジル社製、アエロジルRX200)
【0046】
〔カーボンブラック〕
東海カーボン社製、シーストS
【0047】
〔液状ポリマー〕
クラレ社製、LIR-310(ガラス転移点(Tg):-63℃、静粘度:1400Pa・s/38℃、重量平均分子量(Mw):3万2000)
【0048】
〔実施例1~6、比較例1~5〕
後記の表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、これらをニーダーで混練して、目的とするゴム組成物を調製した。
【0049】
このようにして得られた実施例および比較例のゴム組成物を用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表2に併せて示した。
【0050】
[剪断弾性率(Ge)、減衰定数(he)]
図5に示すようなサンプルを用いて、ゴム組成物の動的剪断特性の評価を行った。すなわち、ブラスト処理を施した二枚の金具22(大きさ140mm×80mm、厚み9mm)の所定箇所(試料21の接着箇所)に、ゴム用2液接着剤を塗布した後、上記金具22間に、実施例または比較例のゴム組成物を挟み、乾燥を行った。これを100℃で10分間熱プレス成型して、試料(大きさ70mm×80mm、厚み5mm)21を作製した。そして、このサンプルを、矢印方向に加振させて、図6に示す荷重-歪みループ曲線に基づいて、動的剪断特性の評価を行った。すなわち、上記サンプルに対し、加振機(鷲宮製作所社製、DYNAMIC SERVO)と、入力信号発振機(横河電気社製、シンセサイズドファンクションゼネレータFC320)と、出力信号処理機(小野測器社製、ポータブルFFTアナライザーCF-3200)を用いて、大地震時の2波目を想定した加振(剪断歪み率:200%(試料厚みに対して200%)、周波数(f):0.33Hz、測定温度:20℃)を付与し、その加振の時間に対する剪断歪み値(δ)と荷重値(Qd)の解析から、下記の式(1)~(4)に従い、等価剛性(Ke)、等価減衰係数(Ce)を求めるとともに、その値から、剪断弾性率(Ge)、減衰定数(he)を求めた。なお、下記の式において、ω=2πf、W=Keδ2/2、ΔWは荷重-歪みループ面積、
Sは試料の面積、Dは試料の厚みを示す。
等価剛性:Ke(N/mm)=Qd/δ …(1)
等価減衰係数:Ce(kN・s/m)=ΔW/πωδ2 …(2)
減衰定数:he=ΔW/4πW …(3)
剪断弾性率:Ge(N/mm2)=Ke÷S/D …(4)
【0051】
[温度依存性]
上記のようにして作製したサンプル(図5参照)に対し、上記測定方法に準じ、測定温度が0℃のときの剪断弾性率「Ge(0℃)」と、測定温度が40℃のときの剪断弾性率「Ge(40℃)」の値を測定し、「(Ge(0℃)/Ge(40℃))×100」の値を計算して、温度依存性(%)の評価を行った。
【0052】
[回復性]
上記のようにして作製したサンプル(図5参照)に対し、測定温度20℃の温度下で、下記の表1に示す周波数および歪みの条件の振動を、番号「1」~「14」の順に、15分ごと連続して加えた。そして、上記測定方法に準じ、番号「4」のときの剪断弾性率「Ge「4」」と、番号「14」のときの剪断弾性率「Ge「14」」とを測定し、「Ge「14」/Ge「4」」の値を計算して、回復性の評価を行った。
【0053】
【表1】
【0054】
[総合評価]
上記測定結果より、減衰定数(he)の値が0.45よりも大きく、かつ温度依存性評価における「Ge(0℃)/Ge(40℃)」の値が1.5以下、かつ回復性評価における「(Ge(0℃)/Ge(40℃))×100」の値が80%以上のものを、「○」と評価した。また、減衰定数(he)の値が0.4~0.45で、かつ、回復性、温度依存性は上記の領域に入るものを「△」と評価した。そして、上記「○」および「△」のいずれにも該当しなかったものを「×」と評価した。
【0055】
【表2】
【0056】
上記表2から、実施例の試料は、スチレン-ブタジエンジブロック成分量が65重量%以上のSBSを主たるポリマーとする本発明に規定の二種類のブロック共重合体((A)および(B)成分)を併用し、かつ、剪断弾性率が0.05N/mm2以上であることから、低温度依存性、高減衰特性、高回復性のいずれも満たすことができ、総合評価において良好な結果が得られた。
【0057】
これに対し、比較例1~4の試料は、本発明に規定の二種類のブロック共重合体((A)および(B)成分)の併用がなされておらず、総合評価において良好な結果が得られなかった。
すなわち、比較例1の試料は、SBSを主たるポリマーとしているものの、低分子量SBSしか用いられておらず、回復性に劣る結果となった。比較例2の試料は、SBSを主たるポリマーとしているものの、高分子量SBSしか用いられておらず、減衰特性に劣る結果となった。また、比較例3の試料は、ブロック共重合体として低分子量SISしか用いられておらず、回復性と温度依存性に劣る結果となった。また、比較例4の試料は、ブロック共重合体として高分子量SISしか用いられておらず、温度依存性に劣る結果となった。
一方、比較例5の試料は、二種類のブロック共重合体の併用がなされているが、低分子量SISと高分子量SBSの組合せであるため、回復性と温度依存性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の制振ダンパーは、土木用,建築用の制震ダンパー、家電用や電子機器用の制振ダンパー等として、優れた機能を発揮することができる。とりわけ、橋梁やビルといった大型建造物に使用される制震ダンパーとして、より優れた機能を発揮することができる。
また、本発明の制振ダンパーの構成部材である粘弾性体を備えた、建築用の制震壁等の制震装置や免震装置、家電用や電子機器用の制振材や衝撃吸収材、自動車用の制振材や衝撃吸収材等も、本発明の制振ダンパーとして利用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 制振ダンパー
2 粘弾性体
3 摩擦材
4,5 金属板
6 ボルト
7,8 パネル
9 柱
10 梁
11 土台
図1
図2
図3
図4
図5
図6