(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】脈波測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
A61B5/02 310C
(21)【出願番号】P 2018191168
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】318012780
【氏名又は名称】FCNT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 学
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036411(JP,A)
【文献】特開2008-054890(JP,A)
【文献】特開2015-066160(JP,A)
【文献】国際公開第2017/162686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する部材で形成され、指が押し当てられる透光板と、
前記指に対して前記透光板越しに赤外光を照射して脈波を測定する測定部と、
波長490nm以上570nm以下の範囲にピーク波長を有
し、前記指内部の毛細血管に到達する一方で、前記毛細血管の奥に位置する動脈には届かない緑光
を出射するように緑光発光部を制御し、前記緑光を前記透光板越しに前記指に照射する照射部と、
照射した前記緑光の前記指からの反射光を受光し、前記反射光の強度を検出する検出部と、
前記透光板に前記指を押し当てる力が前記脈波の測定に好適な所定範囲内であることを前記反射光の強度が示す場合に、前記測定部に前記脈波の測定を実行させる実行部と、を備える、
脈波測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記緑光が照射されてから前記赤外光が照射されるまでの間の少なくとも一部の期間において、前記反射光の強度を検出可能な状態に遷移する、
請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項3】
前記実行部は、前記反射光の強度が前記所定範囲外であることを示す場合に、前記測定部による前記赤外光の照射を抑制する、
請求項1または2に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記実行部は、前記反射光の強度が前記所定範囲外であることを示す場合に、前記透光板に前記指を押し当てる力が前記所定範囲外であることをユーザに通知する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の脈波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
押し当てられた指に対して赤外光を照射し、指からの反射光に基づいて脈波を測定する脈波検出装置が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
指が適切な力で押し当てられていない場合には脈波の検出精度が低下するため、脈波検出装置は、指先が適切な力で押し当てられているか否かを脈波の測定前に判定する。このような判定は、押し当てられた指に白色光を照射して撮影した指先の画像の色を基に行われた。
【0005】
本件発明者は、鋭意研究した結果、このような技術では以下のような課題があることを見出した。まず、照射された白色光は指内部の動脈にまで達するため、撮影された画像では赤色が強くでる傾向にあることが判明した。その結果として、指が強く押し当てられたために赤い画像が得られた場合と、指が適切な力で押し当てられているにも関わらず白色光が動脈まで達した結果として赤い画像が得られた場合とを脈波検出装置が識別することは困難となる。また、皮膚の色が濃い人は皮膚の色の薄い人よりも指先の色味の変化が乏しくなるため、指を押し当てる力が適切であるか否かを脈波検出装置が判定することは困難となる。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、適切な力で指が押し当てられていることをより高い精度で判定可能な脈波測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のような脈波測定装置によって例示される。本脈波測定装置は、光を透過する部材で形成され、指が押し当てられる透光板と、前記指に対して前記透光板越しに赤外光を照射して脈波を測定する測定部と、波長490nm以上570nm以下の範囲にピーク波長を有する緑光を前記透光板越しに前記指に照射する照射部と、照射した前記緑光の前記指からの反射光を受光し、前記反射光の強度を検出する検出部と、前記透光板に前記指を押し当てる力が前記脈波の測定に好適な所定範囲内であることを前記反射光の強度が示す場合に、前記測定部に前記脈波の測定を実行させる実行部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本脈波測定装置は、適切な力で指が押し当てられていることをより高い精度で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る脈波測定装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、指に照射する光の波長と、照射した光が到達する指内部の深さとの関係を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における、透光板に指を押し当てる力の強さと、受光部が受光する緑光の反射光の強度と、測定される脈波との対応の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る脈波測定装置のタイミングチャートの一例である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る脈波測定装置の処理フローの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例に係る脈波測定装置の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、比較例における、透光板に指を押し当てる力の強さと、カメラセンサが撮影した指の色における赤色の強さと、測定される脈波との対応の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について説明する。以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。本実施形態に係る脈波測定装置は、例えば、以下の構成を有する。
【0011】
(脈波測定装置の構成)
光を透過する部材で形成され、指が押し当てられる透光板と、
前記指に対して前記透光板越しに赤外光を照射して脈波を測定する測定部と、
波長490nm以上570nm以下の範囲にピーク波長を有する緑光を前記透光板越しに前記指に照射する照射部と、
照射した前記緑光の前記指からの反射光を受光し、前記反射光の強度を検出する検出部と、
前記透光板に前記指を押し当てる力が前記脈波の測定に好適な所定範囲内であることを前記反射光の強度が示す場合に、前記測定部に前記脈波の測定を実行させる実行部と、を備える、
脈波測定装置。
【0012】
本脈波測定装置は、透光板に押し当てられた指に光を照射して脈波を測定する。本脈波測定装置は、照射部が照射した緑光の反射光の強度を基に、指を押し当てる力が脈波の測定に好適であるか否かを判定する。照射部が照射する緑光は、波長490nm以上570nm以下の範囲にピーク波長を有する。このような波長帯域にピーク波長を有する緑光が指に照射されると、照射された緑光が指内部の毛細血管にまで到達する一方で、毛細血管の奥に位置する動脈や静脈にはあまり到達しない。そのため、指に照射された緑光のうち、血液に吸収される緑光の量、換言すれば、指で反射して検出部で検出される反射光の強度は、毛細血管内を流れる血流量に応じて変化する。
【0013】
透光板に指を押し当てる力が強い場合には毛細血管が潰れて毛細血管内を流れる血流量が減少し、透光板に指を押し当てる力が弱い場合には毛細血管が潰れないため、指を押し当てる力が強い場合に比べ、毛細血管内を流れる血流量が増加する。この血流量の変化は、指を押し当てる力に応じて略線形に変化する。そのため、このような実施形態によれば、透光板に指を押し当てる力による毛細血管内の血流量の変化を反射光の強度として検出することで、適切な力で指が押し当てられていることをより高い精度で判定可能となる。
【0014】
本実施形態は、次の特徴を有してもよい。前記検出部は、前記緑光が照射されてから前記赤外光が照射されるまでの間の少なくとも一部の期間において、前記反射光の強度を検出可能な状態に遷移する特徴を有してもよい。このような特徴を有することで、検出部を作動させたままにしておく場合よりも脈波測定装置の消費電力を抑制できる。
【0015】
開示の技術は次の特徴を有してもよい。前記実行部は、前記反射光の強度が前記所定範囲外であることを示す場合に、前記測定部による前記赤外光の照射を抑制する。このような特徴を有することで、脈波の測定に適していない状況で脈波の測定が行われることが抑制される。
【0016】
本実施形態は、次の特徴を有してもよい。前記実行部は、前記反射光の強度が前記所定範囲外であることを示す場合に、前記透光板に前記指を押し当てる力が前記所定範囲外であることをユーザに通知する。このような特徴を有することで、ユーザに指を押し当てる力の修正を促すことができる。
【0017】
以下、図面を参照して、本実施形態についてさらに説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る脈波測定装置の一例を示す図である。第1実施形態に係る脈波測定装置1は、押し当てられた指先に光を照射して脈波を測定する装置である。脈波測定装置1は、Central Processing Unit(CPU)11、記憶部12、測定部13、表
示部14、操作部15および電源部16を備える。
図1では、脈波の測定対象となる指Fも例示されている。
【0019】
測定部13は、発光部131、受光部132、制御部133、変換部134および透光板135を含む。透光板135は、脈波の測定対象となる指Fの腹(指先において爪と反対側の面)が押し当てられる部材であり、光を透過する部材で形成される。透光板135は、「透光板」の一例である。
【0020】
制御部133は、CPU11からの指示により、緑光または赤外光のいずれかの光を発光部131に出射させる。発光部131は、赤外光を出射する赤外光発光部1311および赤外光より短い波長の緑光を出射する緑光発光部1312を含む。発光部131は、制御部133からの指示により、緑光または赤外光を出射する。発光部131から出射された光は透光板135に押し当てられた指に照射される。指に照射された光の一部は指内部の血管内を流れる血液に吸収される。指に照射された光のうち、吸収されなかった一部は反射し、その反射光は受光部132によって受光される。
【0021】
緑光発光部1312は、例えば、490nmから570nmの範囲にピーク波長を有する緑光を発光する。緑光発光部1312の発光によって出射された緑光は、透光板135を介して透光板135に押し当てられた指Fに照射される。緑光発光部1312は、例えば、緑光を出射するLight Emitting Diode(LED)である。赤外光発光部1311は、赤外光で発光する。赤外光発光部1311の発光によって出射された赤外光は、透光板135を介して透光板135に押し当てられた指Fに照射される。赤外光発光部1311は、例えば、赤外光を出射するLEDである。発光部131は、「照射部」の一例である。
【0022】
受光部132は、発光部131から出射された緑光または赤外光が透光板135に押し当てられた指Fによって反射された反射光を受光する。受光部132は、受光した光を電流に変換し、変換した電流を変換部134に出力する。受光部132は、緑光の反射光を受光して電流を出力可能な第1状態と、赤外光の反射光を受光して電流を出力可能な第2状態とを時分割で切り替える。すなわち、受光部132は、第1状態である期間は、受光した緑光の反射光の強度に応じた電流を出力する一方、赤外光の反射光を受光しても電流を出力しない。また、受光部132は、第2状態である期間は、受光した赤外光の反射光の強度に応じた電流を出力する一方、緑光の反射光を受光しても電流を出力しない。受光部132は、例えば、PhotoDiodeまたはPhotoDetectorを有する。
【0023】
変換部134は、電流・電圧変換部1341、増幅部1342およびAnalog/Digital(A/D)変換部1343を含む。変換部134は、受光部132から入力される電流をデジタル信号に変換してCPU11に出力する。
【0024】
電流・電圧変換部1341は、受光部132から入力される電流を電圧に変換する。電流・電圧変換部1341は、変換した電圧を増幅部1342に出力する。増幅部1342は、電流・電圧変換部1341から入力された電圧を増幅する。増幅部1342は、増幅した電圧をA/D変換部1343に出力する。A/D変換部1343は、増幅部1342から入力される電圧をデジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、増幅部1342から入力された電圧の強度を示す信号である。換言すれば、変換されたデジタル信号は、受光部132が受光した反射光の強度を示すということができる。A/D変換部1343は、変換したデジタル信号をCPU11に出力する。受光部132および変換部134は、「測定部」の一例である。
【0025】
CPU11は、記憶部12に記憶されたプログラムにしたがって、脈波測定装置1の各種制御を行う。CPU11は、マイクロプロセッサユニット(MPU)、プロセッサとも呼ばれる。CPU11は、単一のプロセッサに限定される訳ではなく、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、単一のソケットで接続される単一のCPU11がマルチコア構成を有していても良い。CPU11は、例えば、操作部15を介して受け付けた被測定者からの指示にしたがって、測定部13および表示部14を制御する。
【0026】
CPU11は、例えば、制御部133を制御して発光部131の緑光発光部1312に緑光を出射させる。CPU11は、A/D変換部1343から受信したデジタル信号に基づいて、緑光の反射光の強度を測定する。CPU11は、透光板135に押し当てられた指Fからの緑光の反射光の強度に基づいて、透光板135に指Fを押し当てる力が適正であるか否かを判定する。CPU11は、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であると判定すると、制御部133を制御して発光部131の赤外光発光部1311に赤外光を出射させる。CPU11は、透光板135に押し当てられた指Fからの赤外光の反射光の強度に基づいて、脈波を測定する。CPU11は、「測定部」および「実行部」の一例である。
【0027】
記憶部12は、CPU11から直接アクセスされる記憶部として例示される。記憶部12には、例えば、透光板135に指を押し当てる力の、脈波の測定に好適な範囲が記憶される。また、記憶部12には、A/D変換部1343からCPU11に入力されるデジタル信号と脈の強度との対応関係が記憶される。
【0028】
記憶部12は、Random Access Memory(RAM)およびRead Only Memory(ROM)を含む。記憶部12は、Erasable Programmable ROM(EPROM)、ソリッドステートド
ライブ(Solid State Drive、SSD)、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、HDD)等の外部記憶装置を含んでもよい。
【0029】
表示部14は、CPU11からの指示により、各種情報を表示する。表示部14は、例えば、透光板135に指を押し当てる力が適正であるか否かを示す情報および測定した脈波を示す情報を表示する。表示部14は、例えば、Cathode Ray Tube(CRT)ディスプレイ、Liquid Crystal Display(LCD)、Plasma Display Panel(PDP)、Electroluminescence(EL)パネルまたは有機ELパネルである。
【0030】
操作部15は、脈波測定装置1のユーザからの操作を受け付ける。脈波測定装置1は、操作部15を介して入力されるユーザの指示にしたがって、脈波の測定を開始する。操作部15は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネルあるいは音声入
力装置である。
【0031】
電源部16は、脈波測定装置1に電力を供給する。電源部16は、一次電池であっても二次電池であってもよい。また、脈波測定装置1は、家庭用の電源コンセントから電力を供給されてもよい。
【0032】
(光の波長と指内部への到達距離)
図2は、透光板に押し当てた指に照射する光の波長と、照射した光が到達する指内部の深さとの関係を模式的に示す図である。
図2の縦軸は、照射した光が到達する指F内部の深さ(単位:μm)、横軸は光の波長(単位:nm)である。
図2に模式的に示すように、指F内部の血管は、動脈Bおよび動脈Bから皮膚表面に向けて延びる毛細血管Mを含む。なお、
図2では動脈および静脈を代表して動脈Bを図示し、静脈の図示は省略している。
図2(A)は透光板135に指Fを押し当てる力が脈波の測定に好適な場合を例示し、
図2(B)は透光板135に指Fを押し当てる力が脈波の測定には強すぎる場合を例示する。
【0033】
図2を参照すると理解できるように、波長が長い光ほど指Fの深部にまで到達する。ここで、波長490nmから570nm程度の緑光は、指Fの表面から230μm程度の深さまで到達することがわかる。指Fの表面から230μm程度の深さは、指Fの内部において毛細血管Mに到達するとともに、毛細血管Mの奥に位置する動脈Bにはあまり到達しない深さである。そのため、指Fに緑光を照射したときに受光部132が受光する反射光の強度は、毛細血管M内を流れる血流量に応じて変化する。
【0034】
図2(A)と
図2(B)とを比較すると理解できるように、透光板135に指Fを強く押し当てると、指Fの内部の毛細血管Mが押し潰されて細くなり、毛細血管Mに流入する血流量が減少する。また、透光板135に指を押し付ける力が弱くなるほど、毛細血管Mほとんど潰れなくなるため、毛細血管Mに流入する血流量が増加する。上述の通り、指に緑光を照射したときに受光部132が受光する反射光の強度は、毛細血管M内を流れる血流量に応じて変化する。そのため、透光板135に指Fが強く押し付けられたときには毛細血管M内の血液に吸収される緑光の量が減少し、受光部132が受光する反射光の強度が高くなる。また、透光板135に指Fが弱く押し付けられたときには毛細血管M内の血液に吸収される緑光の量が増加し、受光部132が受光する反射光の強度が低くなる。すなわち、受光部132が受光する緑光の反射光の強度は、透光板135に指Fを押し当てる力の強さに応じて変化する。
【0035】
図3は、第1実施形態における、透光板に指を押し当てる力の強さと、受光部が受光する緑光の反射光の強度と、測定される脈波との対応の一例を示す図である。
図3では、上段のグラフが反射光の強度を例示し、下段のグラフが測定される脈波の波形を例示する。上段のグラフでは、縦軸が反射光の強度であり、横軸が時間である。また、下段のグラフでは、縦軸が脈の強さであり、横軸が時間である。
図3では、透光板に指Fを押し当てる力が「弱い」場合、「適切」な場合および「強い」場合の3通りが例示される。
【0036】
図3の上段のグラフを参照すると理解できるように、反射光の強度は、指Fを押し当てる力の強さに応じて略線形に変化する。換言すれば、反射光の強度は、指Fを押し当てる力の強さに略比例して変化するということもできる。すなわち、指Fを押し当てる力が強くなるほど反射光の強度は高くなり、指Fを押し当てる力が弱くなるほど反射光の強度は低くなる。
【0037】
また、
図3を参照すると理解できるように、脈波測定装置1は、透光板135に指Fを押し当てる力が適切である場合には、ノイズの少ない脈波を測定することができる。しか
しながら、透光板135に指Fを押し当てる力が弱い場合には測定される脈波にノイズ成分が多くなる(波形がきれいにでなくなる)。また、透光板135に指Fを押し当てる力が強い場合には脈波の波形が出なくなる。そこで、本実施形態では、受光部132が受光する緑光の反射光の強度に基づいて透光板135に指Fを押し当てる力が適切であるか否かを判定し、適切であると判定されたときに脈波の測定が行われる。なお、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であると判定する反射光の強度の範囲は実験等によって決定され、決定された範囲は記憶部12に記憶されればよい。
【0038】
(タイミングチャート)
図4は、第1実施形態に係る脈波測定装置のタイミングチャートの一例である。
図4のタイミングチャートでは、上側2段のチャートが赤外光発光部1311および緑光発光部1312が発光するタイミングを例示する。また、最下段のチャートは、受光部132が第1状態である期間と第2状態である期間とを例示する。
【0039】
図4の上側2段のチャートにおいて、「ON」は発光部131が発光している期間を示し、「OFF」は発光部131が発光していない(消灯している)期間を示す。すなわち、
図4において、緑光が「ON」となっている期間は緑光発光部1312が発光している期間を示し、緑光が「OFF」となっている期間は緑光発光部1312が発光していない期間を示す。また、
図4において、赤外光が「ON」となっている期間は赤外光発光部1311が発光している期間を示し、赤外光が「OFF」となっている期間は赤外光発光部1311が発光していない期間を示す。
【0040】
図4の最下段のチャートにおいて、第1状態で示される矩形(
図4において、斜め線で示される矩形)は、受光部102が緑光を受光して電流を生成可能な状態を例示する。また、第2状態で示される矩形(
図4において、縦線で示される矩形)は、受光部102が赤外光を受光して電流を生成可能な状態を例示する。
【0041】
図4を参照すると理解できるように、受光部102は、発光部131が緑光を発光した後に第1状態となり、発光部131が赤外光を発光する前に第1状態を終了する。また、受光部102は、発光部131が赤外光を発光した後に第2状態となり、発光部131が緑光を発光する前に第2状態を終了する。また、受光部102は、第1状態と第2状態との間においてはオフ状態となる。オフ状態は、受光部102が光を受光しても電流を生成しない状態であり、例えば、電源部16が受光部102への電力の供給を停止している状態である。
【0042】
(処理フロー)
図5は、第1実施形態に係る脈波測定装置の処理フローの一例を示す図である。
図5に例示される処理フローは、例えば、ユーザが透光板135に指Fを押し当てた状態で、操作部15を介して脈波の測定開始を指示したときに開始される。以下、
図5を参照して、第1実施形態に係る脈波測定装置の処理フローの一例について説明する。
【0043】
T1からT5の処理では、透光板135に指を押し当てる力が脈波の測定に適した強さであるか否かが判定される。T1では、CPU11は、制御部133に対して緑光の発光を指示する。制御部133は、発光部131の緑光発光部1312が発光するように、発光部131を制御する。緑光発光部1312は発光することで、緑光を出射する。
【0044】
T2では、T1で出射された緑光が透光板135を介して指Fに照射される。指Fに照射された緑光は、一部は指F内部の毛細血管内を流れる血液に吸収される。吸収されなかった緑光の一部は、指Fで反射して、受光部132に入射する。受光部132は、上述のとおり、第1状態と第2状態とを時分割で切り替える。T1で緑光が出射された後のT2
のタイミングでは、受光部132は第1状態となっており、緑光の反射光の受光強度に応じた電流を出力する。
【0045】
受光部132が出力した電流は、電流・電圧変換部1341によって電圧に変換される。電流・電圧変換部1341によって変換された電圧は増幅部1342によって増幅されてA/D変換部1343に入力される。A/D変換部1343は、増幅部1342から入力される電圧を緑光の反射光の受光強度を示すデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号をCPU11に入力する。CPU11は、A/D変換部1343からのデジタル信号を取得することで、受光部132が受光した緑光の反射光の受光強度を取得する。CPU11は、取得した緑光の反射光の受光強度が脈波の測定に好適な力で指Fが押し当てられていることを示す所定範囲内であるか否かを判定する。緑光の反射光の受光強度が所定範囲内である場合(T3でYES)、処理はT5に進められる。緑光の反射光の受光強度が所定範囲外である場合(T3でNO)、処理はT4に進められる。
【0046】
T4では、CPU11は、透光板135に指を押し当てる力が適切ではない旨のメッセージを表示部14に出力させる。CPU11は、例えば、T3において、指を押し当てる力が強すぎると判定した場合には、指を押し当てる力が強すぎる旨、表示部14に出力させる。また、CPU11は、例えば、T3において、指を押し当てる力が弱すぎると判定した場合には、指を押し当てる力が弱すぎる旨、表示部14に出力させる。
【0047】
T5からT7の処理では、脈波の測定が実行される。T5では、CPU11は、制御部133に対して赤外光の発光を指示する。制御部133は、発光部131の赤外光発光部1311が発光するように、発光部131を制御する。赤外光発光部1311は発光することで、赤外光を出射する。
【0048】
T6では、T5で出射された赤外光が透光板135を介して指Fに照射される。指Fに照射された赤外光は、一部は指内部の毛細血管内を流れる血液や動脈内を流れる血液に吸収される。吸収されなかった赤外光の一部は、指Fで反射して、受光部132に入射する。T5で赤外光が出射された後のT6のタイミングでは、受光部132は第2状態となっており、赤外光の反射光の受光強度に応じた電流を出力する。
【0049】
受光部132が出力した電流は、電流・電圧変換部1341、増幅部1342、A/D変換部1343を介して、赤外光の反射光の受光強度を示すデジタル信号としてCPU11に入力される。CPU11は、A/D変換部1343からのデジタル信号を取得することで、受光部132が受光した赤外光の反射光の受光強度を取得する。CPU11は、例えば、記憶部12に記憶されたデジタル信号と脈の強度との対応関係を基に脈波を測定し、測定した脈波を示すデータを記憶部12に格納する。
【0050】
所定の測定期間分の脈波のデータを取得した場合(T7でYES)、処理は終了される。所定の測定期間分の脈波のデータを取得していない場合(T7でNO)、処理はT1に戻される。第1実施形態では、0.5秒間隔でT1からT7の処理が繰り返されることで、透光板135に指Fを押し当てる力が脈波の測定に好適な範囲内であるときに脈波の測定を行い、透光板135に指Fを押し当てる力が脈波の測定に好適な範囲から外れたときには脈波の測定を行わない。このような処理により、第1実施形態に係る脈波測定装置1は、より正確な脈波の測定を行うことが可能となる。
【0051】
<比較例>
本実施形態の効果を検討するため、比較例について説明する。
図6は、比較例に係る脈波測定装置の一例を示す図である。比較例に係る脈波測定装置1aは、第1実施形態に係る脈波測定装置1とは異なり、透光板に指を押し当てる力が適切であるか否かの判定に白
色光を採用する。
図6では、
図1と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
比較例に係る脈波測定装置1aは、測定部13aを有する点で、第1実施形態に係る脈波測定装置1とは異なる。測定部13aは、発光部131a、カメラセンサ132aおよび制御部133を有する。
【0053】
発光部131aは、緑光を出射する緑光発光部1312に代えて、白色光を透光板135へ向けて出射する白色光発光部1312aを含む点で、第1実施形態に係る発光部131とは異なる。発光部131aは、制御部133からの指示により発光することで、白色光または赤外光が透光板135に向けて出射される。透光板135に押し当てられた指Fは、発光部131aから出射された光によって照らされる。
【0054】
カメラセンサ132aは、例えば、Charge Coupled Device(CCD)センサまたはComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)センサを有するデジタルカメラである。カメラセンサ132aは、発光部131aからの光によって照らされた状態で透光板135に押し当てられた指Fを撮影し、画像データを生成する。
【0055】
CPU11aは、例えば、制御部133を制御して発光部131aの白色光発光部1312aに白色光を出射させる。CPU11aは、白色光に照らされた指の画像データをカメラセンサ132aから取得する。CPU11aは、取得した画像データにおける指の色を基に、透光板135に指を押し当てる力が適切であるか否かを判定する。
【0056】
CPU11aは、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であると判定すると、制御部133を制御して発光部131の赤外光発光部1311に赤外光を出射させる。CPU11は、透光板135に押し当てられた指Fからの赤外光の反射光の強度に基づいて、脈波を測定する。
【0057】
比較例では、上述の通り、透光板135に指Fを押し当てる力が適切か否かの判定に白色光が採用される。白色光は、波長が400nmから700nm程度の広い波長帯域の光を含む。
図2を参照すると理解できるように、波長が700nm付近の光が指Fに照射されると、照射された光は指Fの内部の動脈Bにまで達する。そのため、白色光を照射した状態でカメラセンサ132aが指Fを撮影すると、撮影された画像データにおける指Fの色では赤が強く出る傾向となる。
【0058】
図7は、比較例における、透光板に指を押し当てる力の強さと、カメラセンサが撮影した指の色における赤色の強さと、測定される脈波との対応の一例を示す図である。
図7では、上段のグラフがカメラセンサによって撮影された指Fの色における赤色の強さを例示し、下段のグラフが測定される脈波の波形を例示する。上段のグラフでは、縦軸が赤色の強さであり、横軸が時間である。また、下段のグラフでは、縦軸が脈の強さであり、横軸が時間である。
図7では、透光板に指Fを押し当てる力が「弱い」場合、「適切」な場合および「強い」場合の3通りが例示される。
【0059】
図7を参照すると理解できるように、透光板135に指Fを適切な力で押し当てた場合と、透光板135に指Fを強く押し当てた場合とでは、赤色の強さに大きな差が生じない。そのため、脈波測定装置1aは、透光板135に指Fを押し付ける力が強すぎて指の色が赤くなる場合と、透光板135に指Fを押し付ける力が適切であっても指内部の動脈Bが照らされたことで指の色が赤くなる場合とを判別することが困難である。
【0060】
また、ユーザの肌の色が濃い(肌が黒いユーザや日焼け等で肌が黒くなったユーザ等)
場合、透光板135に指Fを押し当てる力が変化しても指Fの色の変化が少ない。そのため、脈波測定装置1aは、ユーザの肌の色が濃い場合、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であるか否かを判定することが困難となる。
【0061】
一方、第1実施形態に係る脈波測定装置1では、透光板135に指Fが押し当てられる力が適正であるか否かの判定に、指Fに照射した緑光の反射光強度を採用する。上述の通り、指Fに照射された緑光は、指Fの内部の毛細血管Mには到達するものの、毛細血管Mの奥に位置する動脈Bにはあまり到達しない。そのため、反射光強度に対する影響は動脈B内を流れる血液よりも毛細血管M内を流れる血液の方が高くなる。上述のとおり、毛細血管M内の血流量は、透光板135に押し当てる指Fの力に応じて変化する。そのため、第1実施形態に係る脈波測定装置1は、指Fに照射した緑光の反射光強度を基に判定することで、比較例に係る脈波測定装置1aよりも高い精度で、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であるか否かを判定できる。
【0062】
また、脈波測定装置1は、透光板135に指Fを押し当てる力が適切であるか否かの判定を、指Fの色ではなく、反射光強度で行う。そのため、第1実施形態に係る脈波測定装置1は、指Fの皮膚の色が濃い場合でも、比較例よりも高い精度で判定することができる。
【0063】
以上で開示した実施形態は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0064】
<<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させる情報処理プログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0065】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、Compact Disc Read Only Memory(CD-ROM)、Compact Disc - Recordable(CD-R)、Compact Disc - ReWriterable(CD-RW)、Digital Versatile Disc(DVD)、ブ
ルーレイディスク(BD)、Digital Audio Tape(DAT)、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【符号の説明】
【0066】
1、1a・・・測定装置
11、11a・・・CPU
12・・・記憶部
13、13a・・・測定部
131、131a・・・発光部
1311・・・赤外光発光部
1312・・・緑光発光部
1312a・・・白色光発光部
132・・・受光部
132a・・・カメラセンサ
133・・・制御部
134・・・変換部
1341・・・電流・電圧変換部
1342・・・増幅部
1343・・・A/D変換部
135・・・透光板
14・・・表示部
15・・・操作部
16・・・電源部