(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】脱塩方法
(51)【国際特許分類】
C25F 1/00 20060101AFI20221208BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20221208BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221208BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20221208BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C25F1/00 B
E01D22/00 Z
E04G23/02 A
C23F11/00 H
B05D7/14 P
(21)【出願番号】P 2018193377
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】井口 進
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-268576(JP,A)
【文献】特開2015-227578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F1/00-1/18
E01D22/00
E04G23/00-23/08
C23F11/00
B05D7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極函体を用いて、表面に突起部を含む鋼材の塩分を除去する方法であって、
前記電極函体は、開放面を具備する函体と、該函体の内面のうち該開放面に対向する底面に固定された面状の電極と、該函体内に液体を流入させる流入口と、
該函体内から液体を排出する排出口と、を有し、
前記開放面を前記鋼材側として
、該鋼材の側面から水平方向に突出する前記突起部を収容するように、且つ前記電極と該突起部との間に離隔が形成されるように、
前記流入口が上方で前記排出口が下方となるように、前記電極函体を設置する電極函体設置工程と、
前記流入口から前記電極函体内に電解質溶液を供給するとともに、該電極を陽極側、該鋼材を陰極側として通電する通電工程と、
前記函体内に湛水された電解質溶液を前記排出口から排出するとともに、該排出口を閉鎖したうえで電解質溶液を前記流入口から注入する電解質溶液入替工程と、を備え
前記鋼材に含まれる塩化物イオンを前記電極側に電気泳動させることで、該鋼材の脱塩を行う、
ことを特徴とする脱塩方法。
【請求項2】
電極函体を用いて、表面に突起部と平坦部を含む鋼材の塩分を除去する方法であって、
前記電極函体は、開放面を具備する函体と、該函体の内面の一部に固定された面状の電極と、該函体内に液体を流入させる流入口と、を有し、
前記鋼材の平坦部において、該鋼材の表面との間に離隔が形成されるように、面状の
前記電極を設置する電極設置工程と、
前記鋼材の
前記突起部において、前記開放面を該鋼材側として前記突起部を収容するように、且つ前記電極と該突起部との間に離隔が形成されるように、前記電極函体を設置する電極函体設置工程と、
前記電極函体と前記電極を覆うように、水密シートを前記鋼材表面に設置する水密シート設置工程と、
前記水密シートと前記鋼材表面との間の空気を吸引して負圧にする吸引工程と、
前記電極と前記鋼材表面との間に電解質溶液を供給し、前記流入口から前記電極函体内に電解質溶液を供給するとともに、該電極を陽極側、該鋼材を陰極側として通電する通電工程と、を備え
前記鋼材に含まれる塩化物イオンを前記電極側に電気泳動させることで、該鋼材の脱塩を行う、
ことを特徴とする脱塩方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鋼橋など鋼構造物の補修に関する技術であり、より具体的には、電気化学的補修工法によって塩化物イオンを除去する脱塩方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
このような背景のもと、国は道路法施行規則の一部を改正する省令を公布し、具体的な建設インフラの点検方法、主な変状の着目箇所、判定事例写真などを示した定期点検要領を策定している。この定期点検要領では、約70万橋に上るといわれる橋長2.0m以上の橋を対象としており、供用開始後2年以内に初回点検、以降5年に1回の頻度で定期点検を行うこととしている。
【0004】
ところで橋梁は、構造形式(桁橋や吊橋など)に着目して分類されたり、用途(道路橋や鉄道橋など)に着目して分類されたり、主桁の位置(上路橋や下路橋など)に着目して分類されることがある。また、主要部材(特に主桁)に着目して分類されることもあり、この場合、コンクリート製の主桁が用いられるコンクリート橋や、鋼製の主桁が用いられる鋼橋が代表例として挙げられる。このうち鋼橋は、鋼材を主要材料とすることから、維持管理においては部材の腐食が最も重要な要素のひとつとされる。
【0005】
鋼橋の維持管理としては、定期的な(あるいは臨時の)点検を行い、その結果に応じて塗替えを行うのが一般的である。従来、劣化が認められるとその橋梁全体に対して塗替えを行っていたが、平成21年に「鋼道路橋の部分塗替え塗装要領」が策定されて以降は劣化が確認された箇所のみを対象として塗替えを行うこともある。
【0006】
「鋼道路橋の部分塗替え塗装要領」では、塗装全体の防食機能の維持と腐食の進行防止を図るために部分塗替え塗装を行うこととしており、そのため事前に適正な素地調整を行うよう定めている。素地調整は、旧塗膜を除去して正常な塗面を形成するために行う作業であり、例えばブラスト工法による1種ケレンを行うことで旧塗装や腐食損傷部、汚れなどを除去していく。
【0007】
特許文献1でも塗替えによる鋼橋の補修技術を開示しており、劣化が著しい主桁端部は高耐候性の塗装を施し、その他一般部は低コストの塗装を施す塗装方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、海岸沿いに建設された鋼橋は海水からの飛来塩分が付着することがあり、また寒冷地に建設された鋼橋は路面散布された凍結防止剤からの塩分が付着することがある。このように塩分が付着した鋼橋に対して塗替え塗装を行う場合、上記したとおり素地調整を行うわけであるが、適正に1種ケレンを行ったとしても残存塩分量が基準値(例えば50mg/m2)を下回らない事例が報告されている。特にボルト部分では十分なケレンができないため、塩分が残存しやすい傾向にある。また、耐候性の鋼桁の損傷部に対して塗替え塗装を行う場合、1種ケレンを行っても耐候性鋼特有の表面孔食内部に塩分が残存してしまうため、十分に除去できないまま塩分が残存するか、あるいは十分に除去するために多大な時間と労力が強いられている。
【0010】
塩分は鋼材の腐食を進行させることから、鋼橋に付着した塩分は除去することが望ましい。しかしながら、従来の洗浄方法では塩分を十分に除去することができず、既述したとおり1種ケレンを行ったとしても基準値以上の塩分を残してしまうこともある。そのため、鋼材に付着した塩分を効果的に除去することができる技術が切望されていた。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち鋼材に付着した塩分を効果的に除去することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、鉄筋コンクリート構造物の補修方法として採用されることがある電気化学的補修工法を鋼材に対して適用する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の脱塩方法は、鋼材の塩分を除去する方法であって、電極設置工程と通電工程を備えた方法である。このうち電極設置工程では、鋼材の表面との間に離隔が形成されるように面状の電極を設置する。一方の通電工程では、電極と鋼材表面との間に電解質溶液を供給するとともに、電極を陽極側、鋼材を陰極側として通電する。鋼材に含まれる塩化物イオンを電極側に電気泳動させることによって鋼材の脱塩を行うわけである。
【0014】
本願発明の脱塩方法は、電極設置工程において、電極と鋼材表面の間にスペーサを配置する方法とすることもできる。この場合、スペーサを配置した効果で、電極シートと鋼材表面の間に離隔を形成することができる。
【0015】
本願発明の脱塩方法は、水密シート設置工程と吸引工程をさらに備えた方法とすることもできる。この水密シート設置工程では、電極を覆うように水密シートを鋼材表面に設置し、吸引工程では、水密シートと鋼材表面との間の空気を吸引して水密シートと鋼材表面との間を負圧にする。この場合、水密シートと鋼材表面との間が負圧とされた状態で、通電工程を行う。
【0016】
本願発明の脱塩方法は、電極函体設置工程を備え、電極函体を用いて表面に突起部を含む鋼材の塩分を除去する方法とすることもできる。この電極函体は、開放面を具備する函体と、函体の内面の一部に固定された面状の電極、函体内に液体を流入させる流入口を有するものである。電極函体設置工程では、開放面を鋼材側として突起部を収容するように、且つ電極と突起部との間に離隔が形成されるように電極函体を設置する。そしてこの場合の通電工程では、流入口から電極函体内に電解質溶液を供給するとともに、電極を陽極側、鋼材を陰極側として通電する。鋼材に含まれる塩化物イオンを電極側に電気泳動させることによって鋼材の脱塩を行うわけである。
【0017】
本願発明の脱塩方法は、水密シート設置工程と吸引工程を備え、電極函体を用いて表面に突起部と平坦部を含む鋼材の塩分を除去する方法とすることもできる。
水密シート設置工程では、電極函体と電極を覆うように水密シートを鋼材表面に設置し、吸引工程では、水密シートと鋼材表面との間の空気を吸引して水密シートと鋼材表面との間を負圧にする。なお、この場合の電極設置工程は鋼材の平坦部において行われ、電極函体設置工程は鋼材の突起部において行われる。また通電工程では、電極と鋼材表面との間に電解質溶液を供給し、流入口から電極函体内に電解質溶液を供給するとともに、電極を陽極側、鋼材を陰極側として通電する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の脱塩方法には、次のような効果がある。
(1)容易かつ効果的に塩分を除去することができることから、鋼橋の補修作業における大幅な省力化、コスト低減、品質向上を図ることができる。
(2)ケレンやブラスト作業を抑制することができ、この結果、騒音や振動を低減することができる。
(3)桁から突出するボルトも鋼材であり、脱塩方法における陰極として使用できることから、比較的入り組んだボルトか所であっても効果的に塩分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本願発明の脱塩方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図3】本願発明の脱塩方法を実施している状況を示す側面図。
【
図4】(a)は鋼線をメッシュ状に組み合わせた外部電極を示す正面図、(b)は鋼線をメッシュ状に組み合わせた外部電極を使用したときの通電範囲を示す断面図。
【
図5】ボルトが設置された鋼桁の側面を示す部分断面図。
【
図7】突起部に電極函体を設置した状態を示す側面図。
【
図8】平坦部に面状の外部電極を設置し、突起部に電極函体を設置した状態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の脱塩方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本願発明の脱塩方法を説明する断面図である。本願発明の脱塩方法は、電気化学的処理を利用して対象とする鋼材MTの塩分を除去する方法である。具体的には
図1に示すように、外部電極10を電源20の陽極(+極)に接続するとともに、鋼材MTの一部を電源20の陰極(-極)に接続し、さらに外部電極10と鋼材MTとの離隔30に電解質溶液SLを供給したうえで直流電流を通電し、この状態を所定期間継続することによって鋼材MTの塩分を除去していく方法である。鋼材MTに含まれる塩化物イオンCl
-を外部電極10側に電気泳動させることで、鋼材MTに含まれる塩化物イオンCl
-を取り除く(すなわち脱塩を行う)わけである。
【0022】
以下、
図2及び
図3を参照しながら本願発明の脱塩方法について詳しく説明する。
図2は本願発明の脱塩方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、
図3は本願発明の脱塩方法を実施している状況を示す側面図である。なお、便宜上ここでは鋼製の主桁(以下、単に「鋼桁GM」という。)を対象とした例で説明するが、本願発明の脱塩方法は鋼桁GMに限らずあらゆる鋼材MTに対して実施することができる。
【0023】
まず、鋼桁GMのうち対象とする範囲を定め、施工規模によっては工区分けや施工順などを計画する。そして、必要に応じてケレンや洗浄を行い、足場や使用機器の設置、施工手順の確認など必要な準備を整える(Step101)。
【0024】
続いて、用意した外部電極10を設置する(Step102)。この外部電極10は、肉厚寸法に比して表面寸法(縦×横)が極端に大きい形状(面状)とすることが望ましく、面状であれば、薄肉のシート状、やや厚みのある板状、あるいはメッシュ状など種々の形状とすることができる。また、1枚で対象範囲を覆うことができる外部電極10を使用し、すなわち1枚の外部電極10で脱塩方法を行うこともできるし、
図1にも示すように、対象範囲に対して複数の外部電極10を配置し、それぞれ接続線11で連結したうえで脱塩方法を行うこともできる。
【0025】
外部電極10は、陽極として機能するため、チタンやスチール、ステンレス、炭素繊維、導電性ゴムなど通電性を有する材質によって形成される。望ましくは、体積抵抗率が1.0×10-10~10(Ω・cm)の材料からなる外部電極10を採用するとよい。
【0026】
後述するように、外部電極10と鋼桁GMとの間には電解質溶液SLが供給される。したがって、
図1や
図3に示すように外部電極10は、鋼桁GMとの間に離隔30が形成されるように配置される。
図3では便宜上、離隔30をやや大きな幅寸法で示しているが、実際には外部電極10と鋼桁GMを非接触とすれば足り、例えば離隔30の幅寸法は0.001mm以上、100mm以下とすることができる。なお、
図4(a)に示すように鋼線WRをメッシュ状に組み合わせた外部電極10を使用する場合、
図4(b)に示すように通電範囲を90度として考えると、離隔30の幅寸法は鋼線WRの間隔Lの1/2以上とすることが望ましい。
【0027】
外部電極10と鋼桁GMとの間に所定の離隔30を形成するにあたっては、スペーサを利用するとよい。つまり、離隔30の計画幅寸法と同程度のスペーサを用意し、このスペーサを間に介在させたうえで外部電極10を配置するわけである。なおスペーサは、複数個所に点状に配置してもよいし、親水性の不織布など面状のものを配置してもよい。面状のスペーサとする場合、保水性の高い材料を採用すれば、スペーサの機能に加え、電解質溶液SLを湛水(含浸)する機能も備えることとなり好適である。なお、外部電極10とスペーサは別体として用意することもできるし、外部電極10の片面に不織布を貼付するなど外部電極10とスペーサが一体化されたものを利用することもできる。
【0028】
図1に示すように、床面など水平な鋼材の上面に外部電極10を配置するケースでは、他の材料を使用することなく外部電極10の下方(つまり離隔30)に電解質溶液SLを供給することもできるが、鋼桁GMの側面や下面を対象とする場合、外部電極10のみを配置しただけでは電解質溶液SLが漏出するおそれがある。そこで、鋼桁GMの側方や下方から外部電極10を配置するケースでは、
図3に示す水密シート40を利用するとよい。具体的には
図3に示すように、鋼桁GMの表面側(図では右側)の所定位置に外部電極10を配置し、さらに外部電極10の背面側(鋼桁GMの反対側であり、この図では右側)から覆うように水密シート40を布設(設置)するわけである(
図2のStep103)。したがって水密シート40は、電解質溶液SLが漏出しない程度の水密性を有するシート状のもの(例えばビニールシート)を採用するとよい。
【0029】
図3に示すように水密シート40を布設する場合、さらにアクアカーテン(登録商標)工法を併用することもできる。アクアカーテン(登録商標)工法は、コンクリートの給水養生工法として広く知られた工法であり、具体的には、脱型後のコンクリート表面を養生シートで覆い、養生シート内の空気を吸引することによって養生シート内を負圧とし、その状態でコンクリート表面と養生シートの間に養生水を流下させる給水養生工法である。当該工法を本願発明の脱塩方法に適用するには。
図3に示すように、ポンプなどの吸気手段PAを用いて水密シート40と鋼桁GM表面との間の空気を吸引することによって、水密シート40と鋼桁GM表面との間の空間を負圧にするとよい(
図2のStep104)。水密シート40と鋼桁GM表面の間を負圧にすることで、水密シート40が鋼桁GMに密着し、これに伴い外部電極10も堅固に固定されるうえ、電解質溶液SLの漏出をより抑制することができるわけである。
【0030】
ところで、鋼桁GMは、橋軸方向に添接されたり、あるいは横桁や横構と連結されたり、その他の施設が取り付けられるなど、
図5に示すようにボルトBTが設置されることも多い。すなわち鋼桁GMの表面(例えば側面)は、平坦部もあれば、ボルトBT設置部など突起部が形成されることもある。平坦部と突起部を一連の対象として、つまり平坦部と突起部に対して同一の外部電極10(図では破線で示す)を使用すると、その配置はボルトBTなどの突起物に依存し、平坦部では必要以上の離隔30が形成されることとなる。あるいは、鋼桁GMの損傷状況によっては、突起部のみを対象として塩分を除去すれば足りることもある。
【0031】
そこで、突起部を対象として本願発明の脱塩方法を実施する場合、
図6に示す電極函体50を利用するとよい。この図に示すように電極函体50は、主に面状の外部電極10と函体51によって構成される。この函体51は、中空の箱形であり、そのうちの一面(図では上面)が開放された面(以下、「開放面」という。)とされる。そして、函体51の内面のうちいずれかの面(図では底面)に外部電極10を固定し、さらに函体51を貫通する流入口52を取り付けることで、電極函体50は形成される。流入口52は、電解質溶液SLを函体51内に流入させるものであり、電解質溶液SLを函体51外に排出する排出口53を函体51に取り付けることもできる。
【0032】
図7は、突起部に電極函体50を設置した状態を示す側面図である。この図に示すように電極函体50は、函体51の開放面を突起部(鋼桁GM)側に向け、函体51内にボルトBT(突起部)を収容するように、鋼桁GMに固定される(
図2のStep105)。ただし、電極函体50を固定した状態で、函体51内の外部電極10とボルトBT頭部との間には所定の離隔30が形成される(接触しない程度に離す)必要があり、したがって電極函体50(特に函体51)は、このような離隔30が形成されるように設計され作成される。
【0033】
図7に示すように、突起部のみを対象として電極函体50を単独で設置することもできるし、あるいは
図8に示すように、平坦部と突起部の両方を対象として外部電極10と電極函体50を設置することもできる。具体的には、平坦部に面状の外部電極10を設置し、突起部に電極函体50を設置する。また外部電極10と電極函体50を設置する場合、外部電極10と電極函体50を覆うように水密シート40を布設することもできる(
図2のStep103)。さらに水密シート40を布設する場合、アクアカーテン(登録商標)工法を併用することとし、吸気手段PAで水密シート40内の空気を吸引することによって、水密シート40と鋼桁GM表面との間の空間、水密シート40と函体51表面との間の空間を負圧にすることもできる(
図2のStep104)。
【0034】
面状の外部電極10や電極函体50を設置すると、外部電極10と鋼桁GM表面(ボルトBT頭部)との間に形成された離隔30に電解質溶液SLを供給する(
図2のStep106)。この電解質溶液SLは当然ながら電解質を含む液体であり、炭酸カリウム水溶液など電解質を比較的多く含むものを電解質溶液SLとして使用することもできるし、水道水など電解質が比較的少ないものを電解質溶液SLとして使用することもできる。
【0035】
離隔30に電解質溶液SLを供給するにあたっては、離隔30に電解質溶液SLを直接注水して湛水することもできるし、離隔30に設置した保水性の高い材料(マットなど)に散水することもできる。また、
図3に示すように、継続的に電解質溶液SLを流下させることもできる。以下、
図3に基づいて、継続的に電解質溶液SLを流下させる手法について説明する。
【0036】
図3では、対象とする鋼桁GMの表面に外部電極10が配置され、さらに外部電極10を覆うように水密シート40が布設されており、外部電極10の上方には溶液供給管SPが設置されている。また、電解質溶液SLを貯留する水槽TWも別に設置されている。この水槽TWに設置された水中ポンプPWが電解質溶液SLをくみ上げ、溶液供給管SPに送水する。図の奥行方向に延びるように配置された溶液供給管SPには多数の小孔が設けられており、送水された電解質溶液SLはこれら小孔から放出され、離隔30内を流下していくわけである。なおこの図では、溶液供給管SPを水密シート40内に設置しているが、離隔30内に電解質溶液SLを流下させることができれば水密シート40の外側(例えば上方)に溶液供給管SPを設置することもできる。例えば、水密シート40の上部に複数の連通孔を設け、溶液供給管SPの小孔から放出された電解質溶液SLを連通孔から水密シート40内に導入することで、電解質溶液SLを離隔30内に流下させることができる。
【0037】
離隔30内を流下した電解質溶液SLは、そのまま排出し常に新たな電解質溶液SLを供給する方式(以下、「排出方式」という。)とすることもできるし、電解質溶液SLを循環させることで継続的に利用する方式(以下、「循環方式」という。)とすることもできる。特にアクアカーテン(登録商標)工法を併用する場合は、吸気手段PAを設置することからこの循環方式を採用しやすい。すなわち
図3に示すように、吸気手段PAが吸気管IPを通じて水密シート40内の空気を吸気すると、吸気した空気には電解質溶液SLも混在していることから、そのうち電解質溶液SLを選別して水槽TWに送り、再び水槽TWに貯留して継続利用していくわけである。
【0038】
一方、
図7に示すように電極函体50を単独設置するケースでは、流入口52から電解質溶液SLを注入して函体51内に湛水させるとよい。そして電解質溶液SLを入れ替えるときは、排出口53から函体51内の電解質溶液SLを排出し、排出口53を閉じたうえで流入口52から新たに電解質溶液SLを注入する。また、
図8に示すように面状の外部電極10と電極函体50を併設するケースでは、
図3に示すように、継続的に電解質溶液SLを流下させることもでき、この場合、既述した排出方式を採用することも、循環方式を採用することもできる。
【0039】
電解質溶液を供給する準備が整うと、外部電極10(電極函体50の外部電極10)を電源20の陽極(+極)に接続するとともに、鋼桁GMの一部を電源20の陰極(-極)に接続する(
図2のStep107)。そして、外部電極10と鋼桁GM表面(ボルトBT頭部)との離隔30に電解質溶液SLを供給した状態で、直流電流を通電する(Step108)。アクアカーテン(登録商標)工法を併用する場合は、離隔30に電解質溶液SLを供給するとともに、水密シート40と鋼桁GMとの間を負圧とした状態で、直流電流を通電する。このとき、鋼桁GMに対して0.001A/m
2以上、10A/m
2以下の範囲で通電するとよい。
【0040】
計画した期間(例えば数週間~数か月)、あるいは予定した残存塩分量(例えば基準値を下回る量)が確認されるまで通電を継続し、適切に鋼桁GMから塩分を除去する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明の脱塩方法は、鋼橋のほか鋼材を使用した様々な鋼構造物に有効に利用することができる、本願発明が、社会インフラストラクチャーのひとつである鋼橋の長寿命化に資することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0042】
10 外部電極
11 接続線
20 電源
30 離隔
40 水密シート
50 電極函体
51 (電極函体の)函体
52 (電極函体の)流入口
53 (電極函体の)排出口
SL 電解質溶液
MT 鋼材
GM 鋼桁
WR 鋼線
BT ボルト
PA 吸気手段
TW 水槽
PW 水中ポンプ
SP 溶液供給管
IP 吸気管