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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】金属の連続鋳造装置および連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/049 20060101AFI20221208BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20221208BHJP
   B22D 11/045 20060101ALI20221208BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20221208BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B22D11/049
B22D11/00 E
B22D11/045
B22D11/04 114
B22D11/124 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018197482
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020062678
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】北原 正典
(72)【発明者】
【氏名】山根 冴羽
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-196253(JP,A)
【文献】特開昭59-191553(JP,A)
【文献】実開平02-006153(JP,U)
【文献】特開2003-211255(JP,A)
【文献】特開2017-131961(JP,A)
【文献】特開2002-294383(JP,A)
【文献】特開2005-296989(JP,A)
【文献】米国特許第3572423(US,A)
【文献】米国特許第4709744(US,A)
【文献】米国特許第2424640(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/049
B22D 11/00
B22D 11/045
B22D 11/04
B22D 11/124
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型を連続的に通って凝固する丸棒状の鋳塊に対し、鋳塊の外周外側に設けられた噴出口から冷媒を噴出して鋳塊を冷却するようにした金属の連続鋳造装置であって、
鋳塊の軸心に沿って見た状態において、前記噴出口と鋳塊の軸心とを結ぶ軸線を投射基準軸とし、前記噴出口から噴出される冷媒の噴出方向が鋳塊の軸心に交わり合わないように、冷媒の噴出方向が前記投射基準軸に対し一方向に傾斜した状態に配置され
前記噴出口は、鋳塊の外周に沿って所定の間隔おきに複数配置され、
前記投射基準軸に対する冷媒の噴出方向が傾斜する角度を噴出角度とし、
各噴出口から噴出される冷媒の各噴出角度は、少なくとも2種以上の異なる噴出角度が含まれていることを特徴とする金属の連続鋳造装置。
【請求項2】
金属がアルミニウムである請求項に記載の金属の連続鋳造装置。
【請求項3】
冷媒が冷却水である請求項1または2に記載の金属の連続鋳造装置。
【請求項4】
鋳造方向が垂直方向の下向きに配置されている竪型連続鋳造装置によって構成されている請求項1~のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【請求項5】
鋳造方向が水平方向に配置されている水平型連続鋳造装置によって構成されている請求項1~のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【請求項6】
鋳型を連続的に通って凝固する丸棒状の鋳塊に対し、鋳塊の外周外側に設けられた噴出口から冷媒を噴出して鋳塊を冷却するようにした金属の連続鋳造方法であって、
鋳塊の軸心に沿って見た状態において、前記噴出口と鋳塊の軸心とを結ぶ軸線を投射基準軸とし、冷媒の噴出方向を前記投射基準軸に対し一方向に傾斜させることにより、前記噴出口から噴出される冷媒の噴出方向が鋳塊の軸心に交わり合わないようにし
前記噴出口は、鋳塊の外周に沿って所定の間隔おきに複数配置され、
前記投射基準軸に対する冷媒の噴出方向が傾斜する角度を噴出角度とし、
各噴出口から噴出される冷媒の各噴出角度は、少なくとも2種以上の異なる噴出角度が含まれていることを特徴とする金属の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばアルミニウム等の金属の連続鋳造材を製造するための金属の連続鋳造装置および連続鋳造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、特に明示した場合を除き、「アルミニウム(Al)」という用語は、アルミニウム合金(Al合金)を含む意味で用いられ、「連続鋳造」という用語は、半連続鋳造を含む意味で用いられている。
【背景技術】
【0003】
各種のアルミニウム製品の基となるアルミニウム材料は、ダイカストによって製造されるのが最も一般的である。一方、バラツキが少なく高品質、高強度が要求される製品に対しては、鍛造品(鍛造材)が多く用いられている。
【0004】
鍛造加工に用いられる鍛造素材は多くの場合、連続鋳造によって得られる連続鋳造材を基に製作されている。
【0005】
例えば下記特許文献1に示すように、鋳造方向が垂直下向きの竪型連続鋳造装置においては、溶湯が鋳型を通って表面が凝固した鋳塊に対し、鋳型直下で鋳塊の全周から冷却媒体(冷媒)としての冷却水が射出されることにより、鋳塊全域が急速に冷却されるようにしている。アルミニウムの連続鋳造において鋳塊の冷却は、非常に重要な工程であり例えば、十分な冷却能力がある場合、鋳塊内部まで急冷凝固されるため、鋳塊組織を良好な状態に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-211255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示す従来の連続鋳造装置において、鋳塊を冷却するための冷却水を噴出する方法は、鋳型直下に、鋳塊の外周に対応して設けられたスリット状または孔状の噴出口から冷却水を鋳塊の外周面に向けて射出するのが一般的である。
【0008】
しかしながら、上記従来の連続鋳造装置の冷却水噴出方法においては、鋳型や給水配管の劣化等によって噴出口の一部が閉塞する場合がある。そうすると、冷却水が鋳塊の全周から均等に噴出されず冷却にムラが生じて、冷却水が当たらない部分が生じて、その部分の周辺が高温となり冷却不足の部分(冷却不足部)が発生する。また射出された冷却水が鋳塊表面を流れ落ちて、当該冷却不足部に供給されたとしても、その部分は高温であるため、沸騰膜現象が発生して熱伝達率が低下して十分に冷却することはできず、高温状態が維持される。このように冷却不足部は高温状態が連続的に維持されて、材料偏析や応力集中の原因となり、鋳塊割れ等により品質の低下を来すおそれがあるという課題があった。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、十分な冷却性能を備えて、高い品質の連続鋳造材を製造することができる金属の連続鋳造装置および連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0011】
[1]鋳型を連続的に通って凝固する鋳塊に対し、その外周外側に設けられた噴出口から冷媒を噴出して鋳塊を冷却するようにした金属の連続鋳造装置であって、
鋳塊の軸心に沿って見た状態において、前記噴出口と鋳塊の軸心とを結ぶ軸線を投射基準軸としたとき、前記噴出口から噴出される冷媒の噴出方向が鋳塊の軸心に交わり合わないように、冷媒の噴出方向が前記投射基準軸に対し一方向に傾斜した状態に配置されていることを特徴とする金属の連続鋳造装置。
【0012】
[2]前記噴出口は、鋳塊の外周に沿って所定の間隔おきに複数配置され、
前記投射基準軸に対して冷媒の噴出方向が傾斜する角度を噴出角度としたとき、
各噴出口から噴出される冷媒の各噴出角度が全て同一に設定されている前項1に記載の金属の連続鋳造装置。
【0013】
[3]前記噴出口は、鋳塊の外周に沿って所定の間隔おきに複数配置され、
前記投射基準軸に対する冷媒の噴出方向が傾斜する角度を噴出角度としたとき、
各噴出口から噴出される冷媒の各噴出角度は、少なくとも2種以上の異なる噴出角度が含まれている前項1に記載の金属の連続鋳造装置。
【0014】
[4]金属がアルミニウムである前項1~3のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【0015】
[5]冷媒が冷却水である前項1~4のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【0016】
[6]鋳造方向が垂直方向の下向きに配置されている竪型連続鋳造装置によって構成されている前項1~5のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【0017】
[7]鋳造方向が水平方向に配置されている水平型連続鋳造装置によって構成されている前項1~5のいずれか1項に記載の金属の連続鋳造装置。
【0018】
[8]鋳型を連続的に通って凝固する鋳塊に対し、その外周外側に設けられた噴出口から冷媒を噴出して鋳塊を冷却するようにした金属の連続鋳造方法であって、
鋳塊の軸心に沿って見た状態において、前記噴出口と鋳塊の軸心とを結ぶ軸線を投射基準軸としたとき、冷媒の噴出方向を前記投射基準軸に対し一方向に傾斜させることにより、前記噴出口から噴出される冷媒の噴出方向が鋳塊の軸心に交わり合わないようにしたことを特徴とする金属の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0019】
発明[1]の金属の連続鋳造装置によれば、噴出口から噴出される冷媒の噴出方向が一方向に傾斜して鋳塊の軸心に交わり合わないようにしているため、冷媒が鋳塊の外周面に対し直角ではなく、斜めに噴射される。このため鋳塊の外周面に吹き付けられた冷媒は、鋳塊との間における付着性が向上して、冷媒が鋳塊の全周にわたって途切れることなく螺旋状に巻き付くように流れ落ちていき、鋳塊Wの全周全域が偏りなく均等に冷却される。従って鋳塊がムラなく冷却されて部分的な冷却不足が発生することがなく、十分な冷却性能が得られる。その結果、鋳塊に部分的な高温異常が生じるのを確実に防止することができ、部分的な高温異常による鋳塊割れ等の不具合を防止できて、品質不良の発生を低減できるとともに、高品質の連続鋳造材を製造することができる。
【0020】
発明[2]~[7]の金属の連続鋳造装置によれば、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【0021】
発明[8]の金属の連続鋳造方法によれば、上記装置発明と同様に、冷媒が鋳塊の外周面に対し直角ではなく、斜めに吹き付けられるため、鋳塊の全周全域が偏りなく均等に冷却されて、十分な冷却性能を得ることができて、品質不良の発生を低減できるとともに、高品質の連続鋳造材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1はこの発明の第1実施形態である連続鋳造装置が適用されたホットトップ鋳造装置を概略的に示す側面断面図である。
図2図2は第1実施形態の連続鋳造装置における冷却方法を説明するための下面図である。
図3図3はこの発明の第2実施形態である連続鋳造装置における冷却方法を説明するための下面図である。
図4図4は参考例である従来の連続鋳造装置における冷却装置を説明するための下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態である連続鋳造装置が適用された竪型連続鋳造装置であるホットトップ鋳造装置を概略的に示す側面断面図である。
【0024】
同図に示すようにこの鋳造装置は、アルミニウムの溶湯W1を凝固して鋳塊W2を鋳造する鋳型(モールド)2と、鋳型2の上側に設けられ、かつ鋳型2に溶湯W1を注入する溶湯受槽3とを備えている。
【0025】
鋳型2はその内部に供給された一次冷却水としての冷却水Mにより冷却されている。また鋳型2の下端部には、後に詳述するように鋳型2内の冷却水Mを二次冷却水として噴出する噴出口1が周方向に所定の間隔おきに複数設けられている。
【0026】
この鋳造装置では、溶湯受槽3内に供給された金属としてのアルミニウムの溶湯W1が、冷却された鋳型2の内側に注入される。注入された溶湯W1は、鋳型2との接触によって一次的に冷却されて半凝固状態の鋳塊W2となる。この半凝固状態の鋳塊W2はその外周部に凝固膜が形成された状態となっている。そしてこの状態の鋳塊W2が鋳型2の内側を下方向に向けて連続的に通過していき、鋳型2を通過した直後の鋳塊W2に対し鋳型2の噴出口1から冷却水Mが噴出されて冷却水Mが鋳塊W2の外周面に直接接触して鋳塊W2が冷却される。このように鋳塊W2が下方に引き抜かれつつ、二次冷却されて大部分が凝固して丸棒状の連続鋳造材(ビレット)が製造されるようになっている。
【0027】
次に本実施形態の鋳造装置において鋳塊W2の冷却方法について詳細に説明する。図2は本実施形態の鋳造装置の冷却方法を説明するための概略下面図であって、図1のII-II線断面に相当する断面図である。なお図2は本実施形態の鋳造装置を鋳塊W2の軸心に沿って下側から見た状態の図に相当する。
【0028】
図1および図2に示すように、鋳型2の下部内周面に設けられる噴出口1は、周方向に沿って所定の間隔おきに複数形成されている。各噴出口1は、そこから噴出される冷却水Mの噴出方向Dが鋳塊W2の軸心(中心軸)Xに交わり合わないように軸心Xから一方向に傾斜するように形成されている。具体的には図2に示すように、鋳造装置を鋳塊W2の軸心Xに沿って下側から見た状態(図2の状態)において、噴出口1の中心と鋳塊W2の軸心Xとを結ぶ仮想の軸線を投射基準軸Bとしたとき、各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dは、投射基準軸Bに対し一方向に傾斜するように配置されている。
【0029】
また本第1実施形態の鋳造装置においては、投射基準軸Bに対して冷却水Mの噴出方向Dが傾斜する角度を、噴出角度θとしたとき、各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出角度θが、全て同じ角度に設定されている。
【0030】
なお本実施形態においては、図2の紙面に向かって、各噴出方向Dが噴出口1を起点にして、先端側(噴出方向側)が投射基準軸Bに対し計方向に傾斜しており、この計方向を一方向としているが、それだけに限られず、本発明においては、その反対方向(時計方向)を一方向にしても良い。すなわち、図2の紙面に向かって、各噴出方向Dが噴出口1を起点にして、先端側が投射基準軸Bに対し時計方向に傾斜させるようにしても良い。
【0031】
以上のように本第1実施形態の鋳造装置においては、下面視の状態で、鋳型2の噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dが一方向に傾斜して鋳塊W2(鋳型2)の軸心Xに交わり合わないようにしているため、冷却水Mが鋳塊W2の外周面に対し直角ではなく、鋳塊W2の外周面に対し斜めに吹き付けられる。このため各噴出口1から噴出される冷却水Mは、鋳塊W2の外周面に沿って螺旋状に巻き付きように流れ落ちていく。すなわち冷却水Mが鋳塊W2の外周面に対し斜めに投射されることによって、冷却水Mおよび鋳塊W2間における濡れ性(付着性)が向上すると同時に、冷却水Mの鋳塊W2に対する表面張力およびコアンダ効果が増大し、冷却水Mは鋳塊W2の全周にわたって途切れることなく螺旋状に巻き付くように流れ落ちていき、二次冷却水Mによって鋳塊W2はその全周全域が偏りなく均等に冷却される。従って鋳塊W2は全域がムラなく冷却されて部分的な冷却不足が発生することがなく、十分な冷却性能を得ることができる。その上さらに冷却水Mが鋳塊W2の外周面を螺旋状に流れ落ちることにより、冷却水Mの鋳塊W2に対する接触長さ(流下経路)が長くなり、その分、冷却水Mと鋳塊W2との接触時間も長くなり、冷却性能をより一層向上させることができる。その結果、鋳塊W2に部分的な高温異常が生じるのを確実に防止することができ、材料偏析や応力集中の原因となる部分的な高温異常を除去できて、鋳塊割れ等の不具合を防止できて、品質不良の発生を著しく低減できるとともに、高品質の鋳塊W2としての連続鋳造材を製造することができる。
【0032】
ここで本実施形態の鋳造装置において仮に何らかの原因、例えば鋳型や給水配管の劣化等によって、噴出口1の一部が閉塞する場合があるが、そのような場合であっても、鋳塊W2の全周全域をムラなく冷却することができる。すなわち冷却水Mを鋳塊W2の外周面に対し斜めに投射しているため、従来のように鋳塊W2の外周面に対し直角に投射する場合と比べて、鋳塊外周面に対し、各噴出口1から噴出される冷却水Mの鋳塊W2への投射範囲が広くなる。このため一部の噴出口1から冷却水Mが噴出されなくとも、鋳塊W2の全周に途切れることなく冷却水M2を投射できるとともに、既述した通り、投射された冷却水Mが鋳塊W2の外周面を螺旋状に巻き付くように流下していくため、鋳塊W2の全周全域をムラなく冷却することができる。このように噴出口1の一部が閉塞されていようとも、その閉塞部を補完するように冷却水Mが投射され、鋳塊W2の全周全域をムラなく冷却できて、十分な冷却性能を確保でき、品質不良の発生を確実に低減できるとともに、高品質の連続鋳造材を確実に製造することができる。
【0033】
以上のように本第1実施形態のホットトップ鋳造装置によれば、鋳型2の噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dを傾斜させているため、鋳塊W2の全周全域をムラなく冷却できて、十分な冷却性能を得ることができて、高品質の連続鋳造材を製造することができる。
【0034】
なお本実施形態においては、既述した通り冷却水Mを鋳塊W2の外周面に巻き付くように流下させて、全周をムラなく冷却するためには、冷却水Mの噴出角度θを3°~45°に設定するのが良く、より好ましくは5°~20°に設定するのが良い。
【0035】
<第2実施形態>
図3はこの発明の第2実施形態であるホットトップ鋳造装置における冷却方法を説明するための概略下面図であって、図1のII-II線断面図に相当する断面図である。
【0036】
同図に示すようにこの鋳造装置では鋳塊W2の軸心Xに沿って下側から見た状態において、鋳型2の下部内周面に設けられる複数の噴出口1の各噴出方向Dから噴出される冷却水Mの噴出角度θは、全て一方向にそれぞれ傾斜しているものの、各噴出角度θはそれぞれ異なっている。本実施形態において、冷却水Mの各傾斜角度θは、特に規則性がほぼランダムに設定されている。
【0037】
この第2実施形態の鋳造装置において他の構成は、上記第1実施形態の鋳造装置と実質的に同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明は省略する。
【0038】
この第2実施形態の鋳造装置においては、上記第1実施形態と同様、冷却水Mの噴出方向Dを傾斜させているため、冷却水Mが鋳塊W2の外周面に対し斜めに投射されて、鋳塊W2の外周面に沿って螺旋状に巻き付くようにしながら流れ落ちていく。このため上記第1実施形態と同様、鋳塊W2の全周全域をムラなく冷却できて、十分な冷却性能を得ることができるとともに、高品質の連続鋳造材を製造することができる。
【0039】
その上さらに、各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出角度θをそれぞれ異ならせているため、鋳塊W2の外周面に巻き付きながら流れ落ちる冷却水Mの付着量が周方向の位置によって適度に変動するようになる。このため鋳塊W2の外周面に対し冷却水Mがより一層まとわりつき易くなり、冷却水Mと鋳塊W2との接触時間を一段と長くでき、冷却性能をより一層向上させることができ、高品質の連続鋳造材をより一層確実に製造することができる。
【0040】
なお上記実施形態においては、噴出口1からの冷却水Mの噴出方向Dを投射基準軸Bに対し全て傾斜させるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dうち、一部の冷却水Mを投射基準軸Bに対し一致させるようにしても良い。要は本発明において各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dうち、少なくとも1つの冷却水Mの噴出方向Dを投射基準軸Bに対し傾斜させるようにすれば良い。
【0041】
また上記第2実施形態のように、各冷却水Mの噴出方向Dを異ならせるような場合には、各冷却水Mの噴出角度θを全て異ならせる必要はなく、一部の噴出角度θのみを異なられて、残りの噴出角度θを同一に設定するようにしても良い。要は本発明において全ての噴出角度θの中に、少なくとも2つ以上の異なる噴出角度θが含まれてさえいれば良い。
【0042】
また上記実施形態においては、本発明を、鋳造方向が垂直下向きに設定された竪型連続鋳造装置としてのホットトップ鋳造装置に適用した場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明は、鋳造方向が水平方向に設定された水平型(横型)連続鋳造装置に適用するようにしても良い。この場合、鋳塊の軸心に沿って見た状態とは、鋳塊の軸心に対し直交する断面視の状態に相当するものである。
【0043】
また上記実施形態においては、冷媒として冷却水等を用いる場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては水以外の液相冷媒を用いるようにしても良い。さらに本発明においては、液相冷媒に限られず、表面張力が液相冷媒に比べて低い気体等によって構成される気相冷媒や、液相冷媒に比べて鋳塊との間の相互作用が少ない紛体等の固相冷媒を用いることとも可能である。
【0044】
また本発明においては、必要に応じて冷媒に適当な添加剤を混入したり、冷媒として複数種の冷媒を混合した混合冷媒を用いるようにしても良い。
【0045】
<実施例>
【0046】
【表1】
【0047】
上記図1および図2に示す第1実施形態の鋳造装置に示すように、噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出角度θが全て15°に設定された鋳型2を備えた実施例のホットトップ鋳造装置を準備した。
【0048】
またSi:11質量%、Cu:2.5質量%、Mg:0.4質量%、残部が純アルミニウムおよび不回避的な添加元素に調整されたアルミニウム溶湯W1を、上記実施例の鋳造装置の鋳型2に供給し、その溶湯W1を鋳型2によって凝固して半凝固状態のアルミニウム鋳塊W2を連続的に形成しつつ、その鋳塊W2に対し噴出口1から噴出した冷却水Mを噴出して冷却し、直径φ107mm、長さ5500mmの丸棒状ビレット(連続鋳造材)を鋳造した。
【0049】
なおこの鋳造加工における鋳造速度は190mm/min、鋳造温度は710℃、冷却水Mの水温は15℃、1本の鋳塊当たりの水量は45L/minである。
【0050】
上記の鋳造条件で240本のビレット(連続鋳造材)を鋳造し、良品率を測定した。すなわち鋳造されたビレットにおいて部分的な冷却不足により部分的に凝固相が薄くなると、その薄い部分の凝固膜が破損し、内部の溶湯が漏出する場合がある。その漏出現象は、一般に湯漏れと呼ばれ、鋳塊(鋳造材)における湯漏れ部周辺は組織異常や凝固形状が異なるため、不良品となる可能性が高い。そこで、本実施例および以下の比較例では、湯漏れのない鋳造材を良品とし、湯漏れのある鋳造材を不良品として、鋳造材の総数のうち良品の比率(%)を良品率として計測した。その結果を表1に示す。
【0051】
なお、湯漏れの程度が大きい場合は、鋳塊全体が溶解し、鋳造不可能となるおそれがある。
【0052】
<比較例>
図4に示すように各噴出口1から噴出される冷却水Mの噴出方向Dが投射基準軸Bに一致する(噴出角度θ=0°である)ホットトップ鋳造装置を準備した。なお図4図1のII-II線断面図に相当する断面図である。
【0053】
そして上記実施例と同様の鋳造条件で45本の同様のビレット(鋳造材)を製造し、同様に良品率を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
<評価>
表1から明らかなように、本発明に関連した実施例の鋳造装置によって製造された鋳造材は、湯漏れが一切認められず、良品率が100%となった。従って実施例の鋳造装置は、十分な冷却性能を備え、高品質な鋳造製品を製造できることが判る。
【0055】
これに対し本発明の要旨を逸脱する比較例の鋳造装置によって製造された鋳造材においては、製造した45本の鋳造材うち、2本に湯漏れが認められ、良品率が95.6%であった。従って比較例の鋳造装置は、実施例の鋳造装置に比べて冷却性能が少し劣り、高品質を維持するのがやや困難であると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明の金属の連続鋳造装置は、例えばアルミニウム等の金属の押出材、圧延材、鍛造材用等の材料として用いられる連続鋳造材を製造する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
1:噴出口
2:鋳型
B:投射基準軸
D:噴出方向
M:冷却水(冷媒)
W2:鋳塊
X:軸心
θ:噴出角度
図1
図2
図3
図4