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特許7190333モータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/28 20160101AFI20221208BHJP
   H02P 23/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H02P23/28
H02P23/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018209665
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020078161
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】片山 圭一
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135919(JP,A)
【文献】特開2003-348873(JP,A)
【文献】特開2016-213991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータ駆動制御装置であって、
前記モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、
前記制御部は、前記電圧の位相を調整する位相調整部を有し、
前記目標回転速度に向けて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる前記電圧の位相は、前記目標回転速度で前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相よりも遅れており、
前記位相調整部は、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持している期間において、前記モータのコイルの誘起電圧が小さくなる前記電圧の進角制御を行う、モータ駆動制御装置。
【請求項2】
目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、前記モータが前記目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、
前記制御部は、前記電圧の位相を調整する位相調整部を有し、
前記位相調整部は、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる場合よりも前記電圧の位相を遅らせる調整を行い、
前記位相調整部は、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持している期間において、前記モータのコイルの誘起電圧が小さくなる前記電圧の進角制御を行う、モータ駆動制御装置。
【請求項3】
モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータ駆動制御装置であって、
前記モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、
前記制御部は、前記電圧の位相を調整する位相調整部を有し、
前記目標回転速度に向けて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる前記電圧の位相は、前記目標回転速度で前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相よりも遅れており、
前記位相調整部は、前記モータのコイルに流れる巻線電流の大きさを小さくする前記電圧の位相を設定して、当該電圧の位相を遅らせる、モータ駆動制御装置。
【請求項4】
目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、前記モータが前記目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、
前記制御部は、前記電圧の位相を調整する位相調整部を有し、
前記位相調整部は、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる場合よりも前記電圧の位相を遅らせる調整を行い、
前記位相調整部は、前記モータのコイルに流れる巻線電流の大きさを小さくする前記電圧の位相を設定して、当該電圧の位相を遅らせる、モータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記位相調整部は、前記目標回転速度と前記モータの回転速度との比較結果に基づいて、前記電圧の位相を遅らせる又は遅らせないかの調整を行う、請求項1から4のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記目標回転速度の変更後に、当該変更された目標回転速度に応じた信号を出力し、
前記位相調整部は、前記変更された目標回転速度に応じて前記電圧の位相を遅らせる、請求項1からのいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記位相調整部は、前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持している期間において、前記モータのコイルの誘起電圧が小さくなる前記電圧の進角制御を行う、請求項3または4に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
前記位相調整部は、前記電圧の位相を所定の設定値にして、前記電圧の位相を遅らせる、請求項1からのいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項9】
モータと、
前記モータを駆動する、請求項1からのいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータのロータと共に回転する羽根車とを備える、電子機器。
【請求項10】
モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータの制御方法であって、
前記モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する、信号の出力ステップと、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相を調整する第1の位相の調整ステップと、
前記目標回転速度に向けて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる前記電圧の位相を、前記目標回転速度で前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相に対して遅らせる、第2の電圧の位相の調整ステップとを有し、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持している期間において、前記モータのコイルの誘起電圧が小さくなる前記電圧の進角制御を行う、モータの制御方法。
【請求項11】
目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、前記モータが前記目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備えるモータ駆動制御装置を用いたモータの制御方法であって、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる場合に前記電圧の進角制御を行う第1の進角制御ステップと、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、前記第1の進角制御ステップにより進角制御が行われているときよりも前記電圧の位相が遅れるように進角制御を行う第2の進角制御ステップとを有し、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持している期間において、前記モータのコイルの誘起電圧が小さくなる前記電圧の進角制御を行う、モータの制御方法。
【請求項12】
モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータの制御方法であって、
前記モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する、信号の出力ステップと、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相を調整する第1の位相の調整ステップと、
前記目標回転速度に向けて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる前記電圧の位相を、前記目標回転速度で前記モータの回転速度を維持させる前記電圧の位相に対して遅らせる、第2の電圧の位相の調整ステップとを有し、
前記第2の電圧の位相の調整ステップにおいて、前記モータのコイルに流れる巻線電流の大きさを小さくする前記電圧の位相を設定して、当該電圧の位相を遅らせる、モータの制御方法。
【請求項13】
目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、前記モータが前記目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、
前記信号に応じて前記モータに電圧を印加するモータ駆動部とを備えるモータ駆動制御装置を用いたモータの制御方法であって、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を維持させる場合に前記電圧の進角制御を行う第1の進角制御ステップと、
前記目標回転速度に応じて前記モータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、前記第1の進角制御ステップにより進角制御が行われているときよりも前記電圧の位相が遅れるように進角制御を行う第2の進角制御ステップとを有し、
前記第2の電圧の位相の調整ステップにおいて、前記モータのコイルに流れる巻線電流の大きさを小さくする前記電圧の位相を設定して、当該電圧の位相を遅らせる、モータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法に関し、特に、進角制御機能を有するモータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、モータを効率良く駆動するための進角制御機能を有するモータ駆動制御装置が用いられている。このようなモータ駆動制御装置は、例えば、空気清浄機、加湿機、除湿機、エアコンなどの送風機能を有する電子機器などに用いられるモータを駆動する用途のほか、広く用いられている。モータ駆動制御装置は、目標回転速度にモータの回転速度(回転数)が一致するようにしてモータを駆動させる。このとき、モータの回転速度に応じた量だけ位相を進めてモータのコイルに駆動電圧を印加する進角制御を行うことで、モータを効率良く駆動する。
【0003】
なお、下記特許文献1には、モータ回転に同期した負荷脈動を有する負荷装置を駆動するモータについて、設定した目標回転速度に基づいてモータ回転速度を制御するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-27923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようなモータを有する電子機器において、モータの固有振動数と電子機器を構成する部材の固有振動数との関係で、特定の回転速度において共振が発生し、大きな振動が発生することがある。そのため、例えばモータの回転速度を第1の回転速度から第2の回転速度に変化させる場合において、共振が発生する回転速度をまたぐと、一時的に大きな振動が発生することがある。共振が発生する回転速度は、モータと電子機器を構成する部材との組み合わせ毎に異なる。
【0006】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、発生する振動を抑えることができるモータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、モータ駆動制御装置は、モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータ駆動制御装置であって、モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する制御部と、信号に応じてモータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、制御部は、電圧の位相を調整する位相調整部を有し、目標回転速度に向けてモータの回転速度を上昇又は下降させる電圧の位相は、目標回転速度でモータの回転速度を維持させる電圧の位相よりも遅れている。
【0008】
この発明の他の局面に従うと、モータ駆動制御装置は、目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、モータが目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、信号に応じてモータに電圧を印加するモータ駆動部とを備え、制御部は、電圧の位相を調整する位相調整部を有し、位相調整部は、目標回転速度に応じてモータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、目標回転速度に応じてモータの回転速度を維持させる場合よりも電圧の位相を遅らせる調整を行う。
【0009】
好ましくは、位相調整部は、目標回転速度とモータの回転速度との比較結果に基づいて、電圧の位相を遅らせる又は遅らせないかの調整を行う。
【0010】
好ましくは、制御部は、目標回転速度の変更後に、当該変更された目標回転速度に応じた信号を出力し、位相調整部は、変更された目標回転速度に応じて電圧の位相を遅らせる。
【0011】
好ましくは、位相調整部は、目標回転速度に応じてモータの回転速度を維持している期間において、モータのコイルの誘起電圧が小さくなる電圧の進角制御を行う。
【0012】
好ましくは、位相調整部は、電圧の位相を所定の設定値にして、電圧の位相を遅らせる。
【0013】
好ましくは、位相調整部は、モータのコイルに流れる巻線電流の大きさを小さくする電圧の位相を設定して、当該電圧の位相を遅らせる。
【0014】
この発明のさらに他の局面に従うと、電子機器は、モータと、モータを駆動する、上記に記載のモータ駆動制御装置と、モータのロータと共に回転する羽根車とを備える。
【0015】
この発明のさらに他の局面に従うと、モータの制御方法は、モータの目標回転速度に対してモータの回転速度を制御するモータの制御方法であって、モータの目標回転速度にモータの回転速度を制御する信号をモータに出力する、信号の出力ステップと、目標回転速度に応じてモータの回転速度を維持させる電圧の位相を調整する第1の位相の調整ステップと、目標回転速度に向けてモータの回転速度を上昇又は下降させる電圧の位相を、目標回転速度でモータの回転速度を維持させる電圧の位相に対して遅らせる、第2の電圧の位相の調整ステップとを有する。
【0016】
この発明のさらに他の局面に従うと、モータの制御方法は、目標回転速度とモータの回転速度とに応じて、モータが目標回転速度で回転するように信号を出力する制御部と、信号に応じてモータに電圧を印加するモータ駆動部とを備えるモータ駆動制御装置を用いたモータの制御方法であって、目標回転速度に応じてモータの回転速度を維持させる場合に電圧の進角制御を行う第1の進角制御ステップと、目標回転速度に応じてモータの回転速度を上昇又は下降させる場合に、第1の進角制御ステップにより進角制御が行われているときよりも電圧の位相が遅れるように進角制御を行う第2の進角制御ステップとを有する。
【0017】
これらの発明に従うと、発生する振動を抑えることができるモータ駆動制御装置、電子機器及びモータの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態の1つに係る電子機器を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置の回路構成を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置の回路構成を示す図である。
図4】制御回路部の構成を示すブロック図である。
図5】モータ駆動制御装置の動作の一例を説明する図である。
図6】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
図7】進角制御切替処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本実施の形態の第1の変形例に係るモータ駆動制御装置の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
図9】本実施の形態の第2の変形例に係るモータ駆動制御装置の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
図10】本実施の形態の第3の変形例に係るモータ駆動制御装置の制御回路部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動制御装置を用いた電子機器について説明する。なお、回転速度は回転数(rpm)を含む概念である。
【0020】
[実施の形態]
【0021】
図1は、本発明の実施の形態の1つに係る電子機器を示す斜視図である。
【0022】
図1に示されるように、電子機器10は、例えば、空気清浄機である。電子機器10には、室内の空気を吸引するための吸引口11と、吸引口11から吸引した空気を排気するための排気口12とが設けられている。すなわち、電子機器10は、空気を吸引口11から吸引し、排気口12から排気する。吸引口11は電子機器10の接地面近くに配置されており、排気口12は電子機器10の上部に配置されている。
【0023】
電子機器10の内部には、例えば、フィルタ13と、羽根車14と、モータ20と、モータ駆動制御装置1とが設けられている。
【0024】
モータ20は、モータ駆動制御装置1により駆動電力が供給されて駆動される。モータ20のロータは、羽根車14と共に回転する。
【0025】
羽根車14は、モータ20のロータの回転に伴い回転することで、電子機器10の外部の空気を吸引口11から吸引し、吸引した空気を排気口12から排気する。
【0026】
フィルタ13は、例えば、浄化フィルタ、加湿フィルタ、脱臭フィルタなどである。フィルタ13は、吸引口11から吸引された空気が羽根車14に到達するまでにフィルタ13を通過するように、空気の導風経路内に配置されている。吸引口11から吸引された空気は、電子機器10の内部でフィルタ13を通過することで清浄化された上で、排気口12から排出される。
【0027】
電子機器10は、上位装置50(図3に示す)と、操作パネル51(図3に示す)とを備えている。ユーザが操作パネル51を操作すると、それに応じて、上位装置50がモータ駆動制御装置1を制御する。これにより、電子機器10がユーザの操作に応じて動作する。ユーザは、操作パネル51を操作することで、清浄化する空気の風量を段階的に設定することができる(低速、中速、高速など)。また、空気の汚れ等の状況に応じて、風量を自動的に変化させるように設定することができる。
【0028】
本実施の形態においては、操作パネル51で風量の段階(低速(小回転数)、中速(中回転数)、高速(高回転数)など)を選択する操作が行われると、選択された段階に対応して目標回転速度(目標回転数)が設定される。すなわち、上位装置50は、設定された風量に応じた目標回転速度信号Scをモータ駆動制御装置1に出力する。モータ駆動制御装置1は、後述のように、入力された目標回転速度信号Scに応じた回転速度でモータ20を駆動させる。すなわち、上位装置50は、目標回転速度信号Scをモータ駆動制御装置1に出力することで、モータ駆動制御装置1を制御する。
【0029】
図2は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1の回路構成を示すブロック図である。
【0030】
図2に示すように、本実施の形態において、モータ20は、例えば3相のブラシレスモータである。モータ駆動制御装置1は、モータ20を例えば正弦波駆動方式により駆動させるように構成されている。モータ駆動制御装置1は、モータ20に正弦波の駆動信号を出力してモータ20のコイルLu,Lv,Lwに周期的に正弦波状(正弦波と正弦波とは異なる波形が合成された波)の駆動電流を流すことで、モータ20を回転させる。なお、モータ20の駆動方式は、これに限られるものではない。
【0031】
モータ駆動制御装置1は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有するモータ駆動部2と、制御回路部(制御部の一例)3と、FG信号生成部4とを有している。なお、図2に示されている構成要素は、モータ駆動制御装置1の全体の一部であり、モータ駆動制御装置1は、図2に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0032】
本実施の形態において、モータ駆動制御装置1は、FG信号生成部4を除き、その全部がパッケージ化された集積回路装置(IC)である。すなわち、モータ駆動制御装置1において、モータ駆動部2が制御回路部3とともに集積化されている。なお、モータ駆動制御装置1の一部が1つの集積回路装置としてパッケージ化されていてもよいし、他の装置と一緒にモータ駆動制御装置1の全部又は一部がパッケージ化されて1つの集積回路装置が構成されていてもよい。
【0033】
インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bとともに、モータ駆動部2を構成する。インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bから出力された出力信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlに基づいてモータ20が備えるコイルLu,Lv,Lwに通電する。インバータ回路2aは、例えば、電源Vccの両端に設けられた2つのスイッチ素子の直列回路の対が、コイルLu,Lv,Lwの各相(U相、V相、W相)に対してそれぞれ配置されて構成されている。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ20の各相の端子が接続されている。
【0034】
プリドライブ回路2bは、制御回路部3による制御に基づいて、インバータ回路2aを駆動するための、インバータ回路2aの各スイッチ素子に対応する6種類の出力信号を生成し、インバータ回路2aに出力する。プリドライブ回路2bは、制御回路部3から出力される駆動制御信号Sdに基づいて、出力信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを生成する。インバータ回路2aでは、それぞれの出力信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlに対応するスイッチ素子がオン、オフ動作を行う。これにより、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに駆動電圧が印加される。
【0035】
図3は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1の回路構成を示す図である。
【0036】
図3に示されるように、FG信号生成部4は、実回転速度信号Srを生成し、制御回路部3に出力する。実回転速度信号Srは、モータ20の実際の回転速度(ロータの回転数;以下、実回転速度ということがある。)に対応する信号である。本実施の形態において、実回転速度信号Srは、FG信号である。すなわち、FG信号生成部4は、例えば、モータ20のロータの近くに配置された基板上に形成されたコイルパターンであるFGパターン4aを有している。FG信号生成部4は、FGパターン4aの誘起電圧に従って、実回転速度信号Srを生成して出力する。なお、実回転速度信号Srは、このようにして生成される信号に限られない。例えば、実回転速度信号Srは、ホール素子やホールICの出力に基づいて生成されるFG信号であってもよいし、エンコーダ等を利用して生成されるモータ20の回転速度に対応する周波数等の特性を有する信号であってもよい。
【0037】
本実施の形態において、制御回路部3は、モータ20を駆動させるための駆動制御信号Sdをモータ駆動部2に出力してモータ駆動部2を制御することで、モータ20の動作を制御する。
【0038】
制御回路部3には、実回転速度信号Srと、目標回転速度信号Scと、巻線電流信号Siとが入力される。
【0039】
目標回転速度信号Scは、例えば、上位装置50のクロック端子から出力されたクロック信号である。目標回転速度信号Scは、モータ20の目標回転速度に対応する周波数の信号である。換言すると、目標回転速度信号Scは、モータ20を何Hz(rpm)で回転させるかを指示するための、モータ20の回転速度の目標値(目標回転速度)に対応する情報である。
【0040】
巻線電流信号Siは、例えば、モータ20の巻線電流の大きさを示す信号である。本実施の形態では、巻線電流信号Siは、モータ20のU相のコイルLuに流れる巻線電流の大きさに対応する電圧の信号であるが、これに限られず、他の相の巻線電流の大きさに対応するものであってもよいし、3相すべての巻線電流の大きさに対応するものであってもよい。
【0041】
制御回路部3は、実回転速度信号Srと、目標回転速度信号Scと、巻線電流信号Siとに基づいて、駆動制御信号Sdを生成し、モータ駆動部2のプリドライブ回路2bに出力する。制御回路部3は、目標回転速度信号Scにより示される目標回転速度と、実回転速度信号Srにより示されるモータ20の回転速度とに応じて、モータ20が目標回転速度で回転するように駆動制御信号Sdをモータ駆動部2に出力することで、モータ20の回転制御を行う。モータ駆動部2は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に正弦波駆動信号を出力し、モータ20を駆動させる。
【0042】
制御回路部3は、モータ20の実回転速度が目標回転速度信号Scに対応する目標回転速度に追従するように駆動制御信号Sdを出力する。すなわち、目標回転速度が一定である場合、電子機器10の周囲の環境の変動等に応じてモータ20の負荷が変動しても、実回転速度が目標回転速度となるように駆動制御信号Sdを出力し、モータ20に印加する駆動電圧の大きさを調整する。目標回転速度が変更された場合(例えば操作パネル51で「低速」から「中速」等に変更する操作が行われた場合)や、モータ20が一時的にロック状態に陥った後にロック状態から復帰した場合などにおいては、目標回転速度と実回転速度とが比較的大きく乖離することになるため、実回転速度が目標回転速度に到達するように駆動制御信号Sdを出力してモータ20に印加する駆動電圧の大きさを調整することで、モータ20を加速させたり減速させたりする。
【0043】
本実施の形態において、制御回路部3は、速度制御回路31と、正弦波駆動回路32と、巻線電流検出回路40とを含んでいる。
【0044】
巻線電流検出回路40は、入力された巻線電流信号Siに応じて巻線電流の大きさを示す巻線電流情報CLを出力する。
【0045】
速度制御回路31には、目標回転速度信号Scと実回転速度信号Srとが入力される。速度制御回路31は、目標回転速度信号Scと実回転速度信号Srとの比較結果に応じて、モータ20を目標回転速度に追従するようにトルク指令信号S1を生成する。トルク指令信号S1は、モータ20のトルクの大きさに対応する信号である。目標回転速度と実回転速度とにずれがある場合にはトルク指令信号S1の調整が行われる。すなわち、モータ20の回転速度は、フィードバック制御により調整される。
【0046】
正弦波駆動回路32には、巻線電流情報CLと、トルク指令信号S1とが入力される。正弦波駆動回路32は、トルク指令信号S1に基づいて駆動制御信号Sdを生成してモータ駆動部2に出力する。これにより、モータ20がトルク指令信号S1に対応するトルクで回転するように、モータ20の回転に応じたタイミングでモータ駆動部2からモータ20の各相のコイルLu,Lv,Lwに駆動電圧が印加される。なお、正弦波駆動回路32は、後述のように、巻線電流情報CLに応じて巻線電流が大きくなりすぎないようにモータ20へ電力の供給を制御する保護機能を有している。
【0047】
図4は、制御回路部3の構成を示すブロック図である。
【0048】
以下、制御回路部3の構成及び動作についてより具体的に説明する。
【0049】
本実施の形態において、制御回路部3は、モータ20に印加する駆動電圧の位相を調整する。すなわち、制御回路部3は、モータ20に印加する駆動電圧の進角制御を行う。進角制御は、制御回路部3の速度制御回路31の一部と正弦波駆動回路32の一部とで構成される位相調整部33により行われる。
【0050】
速度制御回路31は、進角決定回路34と、速度変更検出回路35とを有している。進角決定回路34と、速度変更検出回路35とは、位相調整部33に含まれる。
【0051】
正弦波駆動回路32は、正弦波生成回路32bと、第1進角制御部36と、第2進角制御部37と、セレクタ38と、ブレーキ回路39とを有している。第1進角制御部36と、第2進角制御部37と、セレクタ38とは、位相調整部33に含まれる。
【0052】
正弦波生成回路32bは、トルク指令信号S1に基づいて、モータ20の各相に対応する駆動制御信号Sdを生成して出力する。正弦波生成回路32bは、位相調整部33の処理結果に応じた位相でモータ20のコイルLu,Lv,Lwに駆動電圧が印加されるように、駆動制御信号Sdを生成する。
【0053】
ブレーキ回路39には、巻線電流情報CLが入力される。ブレーキ回路39は、巻線電流情報CLと所定の閾値とを比較し、巻線電流が大きくなりすぎる場合などに、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに印加される電流の大きさを制限する制御を行う。なお、ブレーキ回路39は、巻線電流が大きくなりすぎる場合にモータ20を停止させる制御を行うように構成されていてもよい。
【0054】
上述のように、位相調整部33は、速度制御回路31の進角決定回路34及び速度変更検出回路35と、正弦波駆動回路32の第1進角制御部36、第2進角制御部37、及びセレクタ38とを含んでいる。
【0055】
本実施の形態において、位相調整部33は、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を上昇又は下降させる場合(モータ20を加速又は減速させる場合)に、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を維持させる場合よりも駆動電圧の位相を遅らせる制御(進角を小さくする制御)を行う。換言すると、目標回転速度が変更されたり急激な負荷の変動があったりしてモータ20の回転速度と目標回転速度との乖離が比較的大きいときには、目標回転速度が一定であってモータ20の回転速度と目標回転速度との乖離が比較的小さいときよりも、駆動電圧の位相を遅らせる制御を行う。位相調整部33は、目標回転速度とモータ20の回転速度との比較結果に基づいて、そのような駆動電圧の位相を遅らせる制御を行うか否かを切り替える。すなわち、位相調整部33は、目標回転速度とモータ20の回転速度との比較結果に基づいて、駆動電圧の位相を遅らせる又は遅らせないかの調整を行う。目標回転速度に向けてモータ20の回転速度を上昇又は下降させる駆動電圧の位相は、目標回転速度でモータ20の回転速度を維持させる駆動電圧の位相よりも遅れている。
【0056】
より具体的には、位相調整部33は、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を維持させる場合には、モータ20のコイルLu,Lv,Lwの誘起電圧が小さくなるように進角制御を行う。すなわち、位相調整部33は、モータ20を低い消費電力で効率良く駆動できるように、効率重視の進角制御を行う。他方、位相調整部33は、目標回転速度が変更された場合において変更後の目標回転速度に追従するようにモータ20の回転速度を上昇又は下降させる場合に、駆動電圧の位相を遅らせる制御を行う。すなわち、位相調整部33は、モータ20のコイルLu,Lv,Lwの誘起電圧が比較的大きくなることによりコイルLu,Lv,Lwに流れる電流が比較的小さくなる状態で駆動する、巻線電流低減の進角制御を行う。制御回路部3は、目標回転速度の変更後に、当該変更された目標回転速度に応じた信号を出力し、位相調整部33は、変更された目標回転速度に応じて駆動電圧の位相を遅らせる。
【0057】
進角決定回路34には、実回転速度信号Srが入力される。進角決定回路34は、モータ20の回転速度に応じて、予め設定された進角値(駆動電圧を印加する位相をロータの位相から進める量)を決定する。進角決定回路34は、例えば、予め設定された、回転速度とそれに対応する進角値との組み合わせから、実回転速度に対応する進角値を選択することで、進角値を決定することができる。なお、進角決定回路34は、予め設定された算出ルールに従って、実回転速度に対応する進角値を算出するようにしてもよい。進角決定回路34は、決定した進角値に関する情報を、進角値信号S2として出力する。
【0058】
速度変更検出回路35には、目標回転速度信号Scが入力される。速度変更検出回路35は、目標回転速度信号Scに基づいて、目標回転速度が変更されたことを検知して、検知結果に応じて選択信号S3を出力する。本実施の形態において、選択信号S3は、目標回転速度が変更された場合に、所定の電圧となる信号であるが、これに限られるものではない。
【0059】
第1進角制御部36には、進角値信号S2が入力される。第1進角制御部36は、進角値信号S2に応じて、進角決定回路34で決定された進角値だけ位相を進めるように正弦波生成回路32bを制御するための第1進角制御信号S4を出力する。すなわち、第1進角制御部36は、効率重視の進角制御を行うための第1進角制御信号S4を出力する。換言すると、第1進角制御部36は、モータ20のコイルの誘起電圧が小さくなるように進角制御を行う。
【0060】
第2進角制御部37は、所定の進角値だけ位相を進めるように正弦波生成回路32bを制御するための第2進角制御信号S5を出力する。第2進角制御部37は、第1進角制御部36による効率重視の進角制御が行われる場合の進角値よりも少ない進角値で進角制御が行われるように、第2進角制御信号S5を出力する。すなわち、第2進角制御部37は、巻線電流低減の進角制御を行うための第2進角制御信号S5を出力する。換言すると、第2進角制御部37は、第1進角制御部36により進角制御が行われているときよりも駆動電圧の位相が遅れるように進角制御を行う。
【0061】
本実施の形態において、第2進角制御部37は、予めメモリ37bに記憶された情報に基づいて第2進角制御信号S5を出力する。例えば、第2進角制御部37は、予めメモリ37bに記憶されている進角値を適用して進角制御が行われるように、第2進角制御信号S5を出力する。すなわち、第2進角制御部37は、メモリ37bに記憶されている所定の設定値に基づいて駆動電圧の位相を設定する。駆動電圧の位相を遅らせる場合には、第2進角制御部37は、駆動電圧の位相を所定の設定値にして、駆動電圧の位相を遅らせる。
【0062】
セレクタ38には、第1進角制御信号S4と、第2進角制御信号S5と、選択信号S3とが入力される。セレクタ38は、選択信号S3に応じて、第1進角制御信号S4と、第2進角制御信号S5とのいずれか一方を正弦波生成回路32bに出力する。換言すると、セレクタ38は、第1進角制御部36による進角制御を行うか第2進角制御部37による進角制御を行うかを選択する。
【0063】
本実施の形態において、セレクタ38は、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を維持させる場合には第1進角制御部36による進角制御が行われるようにし、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を上昇又は下降させる場合に第2進角制御部37による進角制御が行われるようにする。換言すると、セレクタ38は、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を維持している期間において第1進角制御部36による進角制御が行われるようにし、目標回転速度に応じてモータ20の回転速度を上昇又は下降させるしている期間において第2進角制御部37による進角制御が行われるようにする。このようなセレクタ38の動作は、速度変更検出回路35から出力される選択信号S3に応じて行われる。
【0064】
図5は、モータ駆動制御装置1の動作の一例を説明する図である。
【0065】
図5においては、上段から、目標回転速度、モータ20の回転速度、進角、及び巻線電流のそれぞれの推移が模式的に示されている。
【0066】
時刻t11以前において、目標回転速度が200rpm(回転/分)であるとき、実回転速度が200rpmとなり、その状態で実回転速度を維持させる制御が行われる。このとき、第1進角制御部36による効率重視の進角制御が行われ、200rpmに対応する進角値として、例えば10度の進角値となるようにしてモータ20が駆動され、効率が改善される。
【0067】
時刻t11において、操作パネル51が操作されることにより、目標回転速度が200rpmから1000rpmに変更された場合を想定する。このとき、実回転速度は200rpmであるので、モータ20を加速させて実回転速度が1000rpmになるように制御が行われる。このとき、徐々にモータ20の実回転速度が大きくなるように、スロー加速制御が行われ、ある程度の時間が経過した時刻t12に実回転速度が1000rpmに到達する。なお、スロー加速制御が行われないようにしてもよい。
【0068】
本実施の形態において、このように時刻t11から時刻t12までモータ20が加速されるときには、選択信号S3に応じてセレクタ38が動作することにより、静音を重視した第2進角制御部37による進角制御が行われる。すなわち、時刻t11から時刻t12まで、一時的に効率重視の進角制御が行われているよりも小さい進角値(例えば2度など)が適用されて、駆動電圧の位相が時刻t11以前よりも遅くなる。このため、第2進角制御部37による進角制御が行われた場合における巻線電流の波形(実線)の振幅は効率重視の進角制御が行われている場合における巻線電流の波形(2点破線)の振幅より小さくなっており、巻線電流が低減されて、静音化がなされる。
【0069】
実回転速度が目標回転速度である1000rpmに到達した時刻t12以降は、目標回転速度のまま回転が維持されるように制御が行われる。実回転速度が速くなるので、巻線電流の大きさは時刻t11以前よりも大きくなる。このとき、第1進角制御部36による効率重視の進角制御が行われ、1000rpmに対応する進角値として、例えば25度の進角値となるようにしてモータ20が駆動され、効率が改善される。
【0070】
図6は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【0071】
以上のように構成されているので、モータ駆動制御装置1は、図6に示されるように進角制御に関する動作を行う。
【0072】
すなわち、ステップS11において、速度変更検出回路35は、目標回転速度信号Scが検知されたか否かを判断する。換言すると、モータ20の駆動が停止している場合において、速度変更検出回路35は、モータ20を起動させる起動命令を検知したか否かを判断する。目標回転速度信号Scが検知されていなければ、検知されるまで待機する。目標回転速度信号Scが検知された場合には、ステップS12に進む。
【0073】
ステップS12において、位相調整部33は、進角制御切替処理を行う。
【0074】
図7は、進角制御切替処理の一例を示すフローチャートである。
【0075】
図7に示されるように、ステップS31において、速度変更検出回路35は、目標回転速度信号Scと実回転速度信号Srとに基づいて、目標回転速度と実回転速度とを比較し、目標回転速度と実回転速度との差が所定値(例えば、目標回転速度の5パーセントの値)以上であるか否かを判断する。速度変更検出回路35は、判断結果に応じて選択信号S3を出力する。すなわち、目標回転速度と実回転速度との差が所定値以上である場合には、ステップS32に進み、そうでない場合には、進角制御切替処理を終了する。
【0076】
ステップS32において、位相調整部33は、巻線電流低減の進角制御での駆動が行われるように制御する。すなわち、速度変更検出回路35から出力される選択信号S3に応じて、セレクタ38は、第2進角制御部37から出力される第2進角制御信号S5を正弦波生成回路32bに出力する。これにより、巻線電流低減の進角制御が行われ、モータ20が目標回転速度で回転するように駆動される。
【0077】
ステップS33において、速度変更検出回路35は、目標回転速度信号Scと実回転速度信号Srとに基づいて、目標回転速度と実回転速度とを比較し、目標回転速度と実回転速度との差が所定値(例えば、目標回転速度の5パーセントの値)未満であるか否かを判断する。速度変更検出回路35は、判断結果に応じて選択信号S3を出力する。すなわち、目標回転速度と実回転速度との差が所定値未満ではない場合には、ステップS32に戻り、巻線電流低減の進角制御が継続して行われる。目標回転速度と実回転速度との差が所定値未満である場合には、進角制御切替処理を終了する。
【0078】
進角制御切替処理が行われると、図6に戻って、ステップS13において、効率重視の進角制御での駆動が行われる。すなわち、速度変更検出回路35から出力される選択信号S3に応じて、セレクタ38は、第1進角制御部36から出力される第1進角制御信号S4を正弦波生成回路32bに出力する。これにより、効率重視の進角制御が行われ、モータ20が目標回転速度で回転するように駆動される。
【0079】
ステップS14において、速度変更検出回路35は、目標回転速度の変更を検知したか否かを判断する。すなわち、入力される目標回転速度信号Scが変更されたとき、速度変更検出回路35は、目標回転速度の変更を検知したと判断し、ステップS15に進む。そうでない場合には、ステップS16に進む。
【0080】
ステップS15において、位相調整部33は、進角制御切替処理を行う。進角制御切替処理は上述の通りに行われ、ステップS15の処理が終了すると、ステップS13に戻る。すなわち、目標回転速度が変更されると、変更後の目標回転速度と実回転速度との差が所定値未満となるまでの間(換言するとモータ20の回転速度が上昇又は下降する間)、第2進角制御部37による進角制御が行われる状態に切り替えられ、変更後の目標回転速度と実回転速度との差が所定値未満になると、第1進角制御部36による進角制御が行われる状態に戻る。
【0081】
ステップS16において、速度変更検出回路35は、目標回転速度信号Scの入力が停止されたことを検知したか否かを判断する。目標回転速度信号Scの入力が停止されたことが検知されると、ステップS17に進む。そうでない場合には、ステップS13に戻る。
【0082】
ステップS17において、位相調整部33は、進角制御切替処理を行う。進角制御切替処理は上述の通りに行われ、ステップS17の処理が終了すると、ステップS18に進むすなわち、目標回転速度信号Scの入力が停止されると、目標回転速度すなわち0rpmと実回転速度との差が所定値未満となるまでの間(換言するとモータ20の回転速度が下降する間)、第2進角制御部37による進角制御が行われる状態に切り替えられる。
【0083】
ステップS18において、正弦波駆動回路32は、フリーラン停止動作を開始させる。すなわち、モータ20の各相に供給する電力をオフとして、モータ20を停止させる。ステップS18の動作が終了すると、一連の動作が終了する。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態によれば、目標回転速度が変更されてモータ20が加速したり減速したりしている間には、第1進角制御部36による進角制御から第2進角制御部37による進角制御が行われるため、巻線電流が比較的小さくなり、モータ20の回転に伴い発生する振動の大きさが小さくなる。そのため、モータ20が加速したり減速したりしている間において、モータ20の固有振動数と電子機器10を構成する部材の固有振動数との関係で共振が発生する回転速度をまたいで駆動されるような場合であっても、共振が発生する回転速度で発生する振動の大きさが比較的小さくなる。そのため、電子機器10で発生する振動を抑えることができる。ベクトル制御方式など複雑な制御方式を用いることなく、振動を低減させることができ、モータ駆動制御装置1や電子機器10の製造コストを低く抑えることができる。
【0085】
例えば、上述の図5に示される例において、共振が発生する回転速度が500rpmである場合には、回転速度が200rpmから1000rpmに上昇する間に、共振が発生する回転速度をまたいでモータ20が駆動される。しかしながら、第2進角制御部37による進角制御が行われている状態で共振が発生する回転速度をまたぐため、回転速度が500rpmになったときに発生する振動を比較的小さく押さえられる。したがって、電子機器10のユーザが振動を不快に感じにくくなる。
【0086】
以下、本実施の形態の変形例について説明する。以下の説明において、本実施の形態に係る構成と同様の構成には同一の符号を付しており、同様の構成や動作についての説明を省略することがある。
【0087】
[第1の変形例の説明]
【0088】
モータ20を停止させる場合には、単に第2進角制御部37による進角制御が適用されるようにしてもよい。
【0089】
図8は、本実施の形態の第1の変形例に係るモータ駆動制御装置1の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【0090】
図8において、ステップS111からステップS116の処理、及びステップS118の処理は、図6に示されるステップS11からステップS16の処理、及びステップS18の処理と同じである。
【0091】
本変形例においては、ステップS116で目標回転速度信号Scの入力が停止されたことが検知されると、ステップS117において、位相調整部33は、進角制御切替処理ではなく、単に巻線電流低減の進角制御での駆動を行うように制御する。すなわち、目標回転速度信号Scの入力が停止されたことが検知されると、速度変更検出回路35から出力される選択信号S3に応じて、セレクタ38は、第2進角制御部37から出力される第2進角制御信号S5を正弦波生成回路32bに出力する。その後、ステップS118の処理が行われる。
【0092】
第1の変形例においても、上述の実施の形態と同様の利点を得ることができる。
【0093】
[第2の変形例の説明]
【0094】
進角制御切替処理は、目標回転速度の変更時のみならず、モータ20の起動時に常に行われるようにしてもよい。
【0095】
図9は、本実施の形態の第2の変形例に係るモータ駆動制御装置1の進角制御に関する動作の一例を示すフローチャートである。
【0096】
図9において、ステップS211からステップS213の処理は、図6に示されるステップS11からステップS13の処理と同じである。また、ステップS215の処理及びステップS216の処理は、図6に示されるステップS17の処理及びステップS18の処理と同じである。
【0097】
第2の変形例において、ステップS213で効率重視の進角制御での駆動が行われているとき、図6に示されるステップS14の処理は行われない。すなわち、ステップS214において、ステップS16の処理と同様に、速度変更検出回路35が目標回転速度信号Scの入力が停止されたことを検知したか否かを判断する。目標回転速度信号Scの入力が停止されたことが検知されると、ステップS215に進むが、そうでない場合には、ステップS212に戻り、進角制御切替処理が行われる。
【0098】
すなわち、第2の変形例において、位相調整部33は、効率重視の進角制御での駆動が行われており(ステップS213)、目標回転速度信号Scの入力が停止されない場合において(ステップS214においてNO)、目標回転速度と実回転速度との差が所定値以上になれば(図7に示されるステップS31においてYES)、巻線電流低減の進角制御での駆動に切り替えられる(図7に示されるステップS32)。そして、目標回転速度と実回転速度との差が所定値未満になれば(図7に示されるステップS33においてYES)、巻線電流低減の進角制御での駆動から効率重視の進角制御での駆動に切り替えられる(ステップS213)。
【0099】
このような動作が行われるので、例えば、モータ20に急に大きな負荷が加わって実回転速度が低下して目標回転速度と実回転速度との差が所定値以上になった場合において、再び目標回転速度までモータ20の回転速度を上昇させる過程においても、巻線電流低減の進角制御での駆動が行われるようになる。したがって、このような場合においても、共振が発生する回転速度で発生する振動の大きさを比較的小さくすることができ、電子機器10で発生する振動を抑えることができる。
【0100】
[第3の変形例の説明]
【0101】
位相調整部33は、駆動電圧の位相を遅らせる制御を行う場合すなわち第2進角制御部37による駆動制御を行う場合に、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに流れる巻線電流の大きさに基づいて駆動電圧の位相を設定するようにしてもよい。すなわち、位相調整部33は、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに流れる巻線電流の大きさを小さくする駆動電圧の位相を設定して、当該駆動電圧の位相を遅らせてもよい。
【0102】
図10は、本実施の形態の第3の変形例に係るモータ駆動制御装置1の制御回路部3の構成を示すブロック図である。
【0103】
図10に示されている第3の変形例においては、上述の実施の形態における第2進角制御部37に代えて、それとは若干異なる動作を行って第2進角制御信号S5を生成する第2進角制御部237が設けられている。
【0104】
第2進角制御部237には、巻線電流検出回路40から出力された巻線電流情報CLが入力される。第2進角制御部237は、巻線電流情報CLに基づいて、巻線電流の大きさが所定の閾値よりも小さくなるように進角値を設定する。すなわち、巻線電流の大きさが所定の閾値よりも大きいとき、進角値を小さく設定することにより巻線電流が小さくなるようにする。これにより、位相調整部33が、第2進角制御部237による進角制御を行っている場合において、フィードバック制御により巻線電流の大きさが所定の閾値に一致する程度になるように駆動電圧の位相が調整される。このような構成により、第2進角制御部237による進角制御が行われている間に、確実に巻線電流を低減させて、電子機器10で発生する振動を抑えることができる。
【0105】
[その他]
【0106】
モータ駆動制御装置やそれを用いた電子機器は、上述の実施の形態やその変形例に示されるような回路構成に限定されない。本発明の目的に適合するように構成された、様々な回路構成が適用できる。上記の実施の形態や変形例の特徴点が部分的に組み合わされてモータが構成されていてもよい。上記の実施の形態や変形例において、いくつかの構成要素が設けられていなかったり、いくつかの構成要素が他の態様で構成されていてもよい。
【0107】
電子機器は、空気清浄機に限られない。電子機器は、羽根車をモータで回転させるような構成を有する種々のものであってもよい。例えば、電子機器は、扇風機やエアコンなどであってもよいし、冷却用途や換気用途のためのファンを備える機器等であってもよい。
【0108】
モータの駆動方式は、通常の正弦波駆動に限定されず、矩形波による駆動方式や、台形波による駆動方式や、正弦波に特殊な変調をかけた駆動方式などであってもよい。
【0109】
目標回転速度の変更が検知されたときに、進角制御切替処理において、目標回転速度と実回転速度とを比較する処理を行わなくてもよい。例えば、目標回転速度の変更が検知されたときに、すぐに巻線電流低減の進角制御による駆動が行われるようにしてもよい。また、巻線電流低減の進角制御による駆動が開始された後で、目標回転速度と実回転速度とを比較する処理を行わなくてもよい。例えば、巻線電流低減の進角制御による駆動が開始されてから所定時間後に効率重視の進角制御での駆動に切り替えられるようにしてもよい。
【0110】
目標回転速度信号として、設定された風量に応じたデューティ比のパルス幅変調信号が上位装置から出力され、モータ駆動制御装置がそれに応じてモータを駆動させるようにしてもよい。また、モータ駆動制御装置は、予め設定された目標回転速度でモータを駆動するように構成された、外部の上位装置等から目標回転速度信号が入力されないものであってもよい。
【0111】
ロータの位置を検出するために、ホール素子を用いたり、ホールICをモータのロータの位置検出器として用いるようにしてもよい。
【0112】
上述のフローチャートなどは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されてもよいし、処理を並列化してもよい。
【0113】
本実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータは、3相のブラシレスモータに限定されず、他の相数のブラシレスモータであってもよい。また、モータの種類も特に限定されない。
【0114】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウェアによって行われるようにしても、ハードウェア回路を用いて行われるようにしてもよい。モータ駆動制御装置の各構成要素は、少なくともその一部がハードウェアによる処理ではなく、ソフトウェアによる処理であってもよい。
【0115】
モータ駆動制御装置が、モータの構成要素としてモータ内に設けられていてもよい。この場合には、モータはモータ制御装置を備えることになる。
【0116】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0117】
1 モータ駆動制御装置
2 モータ駆動部
3 制御回路部(制御部の一例)
10 電子機器
14 羽根車
20 モータ
31 速度制御回路
32 正弦波駆動回路
33 位相調整部
36 第1進角制御部
37,237 第2進角制御部
37b メモリ
38 セレクタ
50 上位装置
CL 巻線電流情報
Lu,Lv,Lw コイル
Sc 目標回転速度信号
Sd 駆動制御信号
Sr 実回転速度信号
Si 巻線電流信号
S4 第1進角制御信号
S5 第2進角制御信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10