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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】車両用の熱交換システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/30 20060101AFI20221208BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20221208BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20221208BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20221208BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20221208BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221208BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/54 ZHV
B60W20/00 900
B60L3/00 J
B60L50/16
H02M7/48 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018248395
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020104826
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】マーレジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢司
(72)【発明者】
【氏名】有山 雅広
(72)【発明者】
【氏名】磯田 勝弘
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/054831(WO,A1)
【文献】特開2012-162132(JP,A)
【文献】特開2011-098628(JP,A)
【文献】特開2015-154521(JP,A)
【文献】特開2011-093424(JP,A)
【文献】特開2014-000906(JP,A)
【文献】特開2017-114477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/30
B60K 6/54
B60W 20/00
B60L 3/00
B60L 50/16
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の冷却に用いられる第1媒体と、インバータの冷却に用いられる第2媒体と、の間の熱交換を行う第1熱交換器と、
前記第1媒体と、トランスミッションの潤滑および/またはモータの冷却に用いられる第3媒体と、の間の熱交換を行う第2熱交換器と、
前記第2媒体と、前記第3媒体と、の間の熱交換を行う第3熱交換器と、
前記第3熱交換器を通過した第2媒体を、インバータ用ラジエータを介して前記インバータに供給する第1経路と、前記第1熱交換器を介して前記インバータに供給する第2経路と、の間の選択的な切り替えを可能とする切替バルブと、
前記第1媒体が所定の低温状態である場合に、前記第2経路を選択するように前記切替バルブを制御する制御ユニットと、
を備えることを特徴とする車両用の熱交換システム。
【請求項2】
前記内燃機関が停止して前記第1媒体が所定の低温状態である場合に、前記第2経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用の熱交換システム。
【請求項3】
前記内燃機関が停止していて前記第2媒体の温度が所定の高温状態である場合には、前記第1経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用の熱交換システム。
【請求項4】
前記内燃機関が稼働していて前記第1媒体が所定の低温状態にない場合に、前記第1経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用の熱交換システム。
【請求項5】
前記第1媒体が、前記第2熱交換器を通過した後に前記第1熱交換器を通過するように構成され、
前記内燃機関を冷却した後の前記第1媒体を、燃機関用ラジエータを介して前記第2熱交換器に供給する第3経路と、前記第2熱交換器に直接供給する第4経路と、の間の選択的な切り替えを可能とする第1媒体用切替バルブを備え、
前記第1媒体が所定の低温状態のときに前記第4経路が選択され、
前記第1媒体が所定の低温状態にないときに前記第3経路が選択されるように、
前記制御ユニットが前記第1媒体用切替バルブを制御することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の車両用の熱交換システム。
【請求項6】
前記第3媒体が、前記第2熱交換器を通過した後に前記第3熱交換器を通過することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の車両用の熱交換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両等の内燃機関、インバータ、モータ等の熱交換を行う車両用の熱交換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費改善の為、ハイブリッド車両(HEV)の採用が拡大している。HEVは、内燃機関とモータの双方を駆動源として走行するが、これらの排熱の有効利用が更なる燃費改善のために課題となっている。そして、その課題を解決する手段が、種々公開されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1で示されている車両用の熱交換システムでは、エンジンを冷却するエンジン冷却水回路と、直流電流を交流に変換して走行用モータに供給する走行用インバータ及び走行用モータを冷却するHV冷却回路とを備える車両用の熱交換システムにおいて、走行用インバータ及び走行用モータからの排熱を、エンジン冷却水とHV冷却水の熱交換を行ってエンジン冷却水を暖めることで、エンジンの暖気に利用している。
【0004】
しかしながら、近年の車両用の熱交換システムでは、他にも排熱の種類が増えており、今までのシステムでは排熱利用が十分でない。例えば、モータの出力増加及び小型化に伴うモータからの発熱量の増加に対応して、トランスミッションケース(ギアケース)内において減速機(オートマチックトランスミッション)の潤滑用のATF(オートマチックトランスミッションフルード=Automatic Transmission Fluid)を発電用モータや走行用モータにかけてこれらモータを油冷する構成のハイブリッド車両が増えている(例えば、特許文献2参照。)が、当該構成におけるこれらモータからの排熱は、有効利用されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-98628号公報
【文献】特開2012-47309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題を解決することを課題とする。即ち、本発明は、トランスミッションや発電用モータあるいは走行用モータ等のモータからの排熱を有効利用し得る車両用の熱交換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
内燃機関の冷却に用いられる第1媒体と、インバータの冷却に用いられる第2媒体と、の間の熱交換を行う第1熱交換器と、
前記第1媒体と、トランスミッションの潤滑および/またはモータの冷却に用いられる第3媒体と、の間の熱交換を行う第2熱交換器と、
前記第2媒体と、前記第3媒体と、の間の熱交換を行う第3熱交換器と、
前記第3熱交換器を通過した第2媒体を、インバータ用ラジエータを介して前記インバータに供給する第1経路と、前記第1熱交換器を介して前記インバータに供給する第2経路と、の間の選択的な切り替えを可能とする切替バルブと、
前記第1媒体が所定の低温状態である場合に、前記第2経路を選択するように前記切替バルブを制御する制御ユニットと、
を備えることを特徴とする車両用の熱交換システムが提供される。
【0008】
以上の本発明の一態様によれば、例えば、始動から内燃機関が駆動する前のEV走行モード等、第1媒体の温度が低い時に、当該第1媒体と第3媒体との間の熱交換を第2熱交換器で行うとともに、前記第1媒体と第2媒体との間の熱交換を第1熱交換器で行うように制御することで、内燃機関の暖気を促進することができる。これにより、トランスミッションやモータからの排熱を有効利用することができる。
【0009】
前記内燃機関が停止して前記第1媒体が所定の低温状態である場合に、前記第2経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することができる。この態様によれば、前記内燃機関が停止しているときに、第1媒体と第3媒体との間の熱交換を第2熱交換器で行うとともに、前記第1媒体と第1媒体との間の熱交換を第1熱交換器で行うように制御することで、内燃機関の暖気を促進することができ、トランスミッションやモータからの排熱を有効利用することができる。
【0010】
ただし、前記内燃機関が停止していて前記第2媒体の温度が所定の高温状態である場合には、前記第1経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することが好ましい。
また、前記内燃機関が稼働していて前記第1媒体が所定の低温状態にない場合に、前記第1経路が選択されるように、前記制御ユニットが前記切替バルブを制御することが好ましい。
【0011】
これらの態様によれば、第1媒体と第3媒体との間の熱交換を第2熱交換器で行うとともに、インバータ用ラジエータにより冷却され、その後インバータを冷却した第2媒体と第3媒体との間の熱交換を第3熱交換器で行うことで、第3媒体の冷却が行われる。そのため、第3媒体の熱交換を第2熱交換器及び第3熱交換器で分担して行うことができ、インバータ用ラジエータの負荷を小さくすることができる。したがって、第2媒体のみでインバータと第3媒体の両方を冷却する場合に比べて、インバータ用ラジエータの小型化を実現することができる。
【0012】
さらに、前記第1媒体が、前記第2熱交換器を通過した後に前記第1熱交換器を通過するように構成され、
前記内燃機関を冷却した後の前記第1媒体を、前記内燃機関用ラジエータを介して前記第2熱交換器に供給する第3経路と、前記第2熱交換器に直接供給する第4経路と、の間の選択的な切り替えを可能とする第1媒体用切替バルブを備え、
前記第1媒体が所定の低温状態のときに前記第4経路が選択され、
前記第1媒体が所定の低温状態にないときに前記第3経路が選択されるように、
前記制御ユニットが前記第1媒体用切替バルブを制御することが好ましい。
この態様によれば、内燃機関が停止しているときには、第1媒体が、内燃機関用ラジエータを介さずに、第3媒体と、場合によってはさらに第2媒体との間で熱交換されることで、効率的に内燃機関の暖気を行うことができ、内燃機関が稼働していて前記第1媒体が所定の低温状態にないときには、第1媒体が、内燃機関用ラジエータに供給されることで、効率的に冷却される。
【0013】
また、前記第3媒体としては、前記第2熱交換器を通過した後に前記第3熱交換器を通過することが好ましい。第3媒体が、第2熱交換器を経由した後に第3熱交換器を通過するようにすることで、第3熱交換器に供給される第3媒体の温度を予めある程度下げておくことができ、これにより、第2媒体の温度上昇を抑制することができるため、インバータ用ラジエータの小型化を実現することができる。
【0014】
なお、前記第3媒体は、トランスミッションの潤滑およびモータの冷却に用いる油であり、自動変速機用フルードであることが好ましい。車両の自動変速機には、油性のATF(オートマチックトランスミッションフルード=Automatic Transmission Fluid)あるいはCVTF(コンティニュアスリーバリアブルトランスミッションフルード=Continuously Variable Transmission Fluid)が用いられている。そのため、一般に水性のクーラントが用いられる第1媒体や第2媒体とは別の第3媒体として、ATFやCVTF等の自動変速機用フルードを兼用で利用することで、新たな液体を用いることなく、電気絶縁性に優れた油性の媒体を電気系統のクーラントとして適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用の熱交換システムによれば、トランスミッションやモータからの排熱を有効利用し得る車両用の熱交換システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の例示である実施形態にかかる車両用の熱交換システムの全体構成を模式的に示すブロック図である。
図2図1に示す実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、EV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
図3図1に示す実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、インバータ用冷却水の温度が上昇した際におけるEV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
図4図1に示す実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、HV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
図5図1に示す実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、エンジンの始動からの経過時間と、各回路を循環する媒体とエンジンの温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の車両用の熱交換システムについて、好ましい実施形態を挙げて説明する。
図1は、本発明の例示である実施形態にかかる車両用の熱交換システムの全体構成を模式的に示すブロック図である。図1における各矢印の線は、熱交換用の各媒体の循環回路における媒体の流れを示すものである。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムは、内燃機関であるエンジン11の冷却を行うエンジン冷却回路(第1媒体冷却回路)10と、インバータ21の冷却を行うためのインバータ冷却回路(第2媒体冷却回路)20と、減速機(オートマチックトランスミッション)31や走行用モータ(モータ)34及び発電用モータ(モータ)35を内蔵する駆動ユニット39内のATF(自動変速機用フルード)を冷却するためのATF冷却回路(第3媒体冷却回路)30の3つの冷却(循環)回路を備えている。
【0019】
また、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムには、それぞれの冷却回路を流れる媒体(冷却水、ATF)の熱を相互に熱交換するための第1熱交換器1、第2熱交換器2及び第3熱交換器3の3つの熱交換器が、それぞれいずれか2つの回路に跨った状態で備えられている。
【0020】
エンジン冷却回路10は、エンジン11の他、当該エンジン冷却回路10にエンジン冷却水(第1媒体)を圧送して循環させるためのエンジン用電動ポンプ12と、エンジン11に供給されるエンジン冷却水の水温を計測する水温計T14と、カーエアコンの暖房運転時の温風を生成するためのヒーターコア17と、スロットルバルブを備えたスロットルボディ18と、循環するエンジン冷却水を放熱により冷却するためのエンジン用ラジエータ(内燃機関用ラジエータ)13と、を備えている。当該エンジン冷却回路10では、図1中の点線の矢印に示す流れに沿ってエンジン冷却水が循環している。
【0021】
エンジン用電動ポンプ12より圧送されたエンジン冷却水はまず、第2熱交換器2、次いで第1熱交換器1を経由して、エンジン11の内部に形成されたウォータージャケットに送られる。ここで、エンジン11のクーラントとして利用される。エンジン冷却回路10におけるエンジン11の下流において、水路は3つに分岐され、ヒーターコア17、スロットルボディ18、及び、エンジン用ラジエータ13へのエンジン冷却水の供給を入切切り替える水路切替バルブ(第1媒体用水路切替バルブ)16に、それぞれ接続されている。
【0022】
水路切替バルブ16は、電磁式の方向切替弁であり、エンジン11を経由した後のエンジン冷却水が、エンジン用ラジエータ13を経由した後に第2熱交換器2に向かう第3経路Cと、第2熱交換器2に直接向かう第4経路Dと、を選択的に切り替えることができるようになっている。エンジン冷却回路10に設けられるエンジン用ラジエータ13は、インバータ冷却回路20に設けられるインバータ用ラジエータ23よりも、大型で冷却能力の高いものが採用されている。本実施形態では、第2熱交換器2の手前にエンジン用電動ポンプ12が配されているため、いずれにしてもエンジン用電動ポンプ12を介した上で第2熱交換器2に向かっている。
【0023】
なお、本発明において、冷却回路(エンジン冷却回路10のみならず、3つ全ての冷却回路)内に液流を生じさせるポンプは、経路中のどこに配されていても構わない。本実施形態において、ポンプが配されている位置は、好適な例示の1つであり、本発明においては特に制限されない。また、本実施形態におけるエンジン冷却回路10のように、エンジン(内燃機関)11と第2熱交換器2との間にエンジン用電動ポンプ12が介在していたとしても、エンジン11と第2熱交換器2とは直接結合されているとみなし、「内燃機関(エンジン11)を冷却した後の第1媒体(エンジン冷却水)を、第2熱交換器(2)に直接供給する」状態であるものと解する。
【0024】
水路切替バルブ16により選択的に経路Cまたは経路Dを通ったエンジン冷却水は、ヒーターコア17やスロットルボディ18を経由したエンジン冷却水と合流した上で、エンジン用電動ポンプ12に戻るようになっており、エンジン冷却回路10が閉回路として形成されている。
【0025】
インバータ冷却回路20は、インバータ21の他、当該インバータ冷却回路20にインバータ冷却水(第2媒体)を圧送して循環させるためのインバータ用電動ポンプ22と、循環するインバータ冷却水の水温を計測する水温計T24と、インバータ冷却水を放熱により冷却するためのインバータ用ラジエータ23と、を備えている。当該インバータ冷却回路20では、図1中の実線の矢印に示す流れに沿ってインバータ冷却水が循環している。即ち、インバータ冷却水は、インバータ用ラジエータ23→インバータ21→第3熱交換器3→インバータ用電動ポンプ22→水路切替バルブ(切替バルブ)26の順に通過する。
【0026】
水路切替バルブ26は、電磁式の方向切替弁であり、第3熱交換器3を経由した後のインバータ冷却水を、インバータ用ラジエータ23を介してインバータ21に供給する第1経路Aと、第1熱交換器1を介してインバータ21に供給する第2経路Bと、の間の選択的な切り替えを可能とする。それぞれの経路を通ったインバータ冷却水は、インバータ21に流入する手前で1つになるようになっており、インバータ冷却回路20が閉回路として形成されている。
【0027】
ATF冷却回路30は、駆動ユニット39内のATF(第3媒体)を、ATF用ポンプ32によって第2熱交換器2及び第3熱交換器3に圧送し、循環させて冷却させる回路である。駆動ユニット39内には、ATF用ポンプ32、減速機31、走行用モータ34、発電用モータ35等が内蔵されている。
【0028】
駆動ユニット39内では、減速機(トランスミッション)31のいずれかのギアの回転によってかき上げられて減速機31に供給され、減速機31の各ギアの潤滑油として機能する。また、ATF用ポンプ32によって汲み上げられたATFは、ATF冷却回路30に圧送されるほか、走行用モータ34や発電用モータ35に流し掛けられるようになっている。減速機31に供給されたATFは、ATF本来の機能に用いられる。一方、走行用モータ34や発電用モータ35に流し掛けられたATFは、これらのモータを冷却する機能を果たす。
【0029】
ATF冷却回路30では、図1中の一点鎖線の矢印に示す流れに沿ってATFが循環している。即ち、ATF用ポンプ32によって、駆動ユニット39外に汲み出されたATFは、第2熱交換器2を経由した後に第3熱交換器3を経由し、その後駆動ユニット39に戻されるようになっており、ATF冷却回路30が閉回路として形成されている。
【0030】
第1熱交換器1、第2熱交換器2及び第3熱交換器3の3つの熱交換器は、液体-液体間の熱交換を行う熱交換器である。詳しくは、2つの液体の流路同士を熱伝導性の高い素材(例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属)からなる仕切りで隔てて、当該仕切りの間で高温の液体から低温の液体へ熱を伝達させて熱交換する装置である。2つの流路間は、液体が混じり合うことが無いように密閉されており、一方の流路と他方の流路とで異なる液体を通過させ、これら2つの液体の熱交換が為されるようになっている。2つの流路間の仕切りの面積をより広く、また、仕切りの熱伝導性をより高く(薄膜化を含む)することで、熱交換効率を向上させることができる。
【0031】
これら熱交換器としては、特に制限はなく、液体-液体間の熱交換を行う熱交換器として、従来公知の物を用いることができる。また、第1熱交換器1及び第2熱交換器2、あるいは、第2熱交換器2及び第3熱交換器3は、合わせて3つの媒体間で熱交換が行われることから、例えば、特開2018-35953号公報等に記載の三相型の熱交換器を用いることもできる。三相型の熱交換器を用いた場合、見かけ上の装置構成としては1つの装置となるが、2つの熱交換器の機能を併せ持つ装置なので、本発明の解釈においては、2つの熱交換器として扱うものとする。
【0032】
本実施形態の車両用の熱交換システムは、ECU(電子制御ユニット、制御ユニット)40により制御される。ECU40は、本熱交換システムの制御に係る各種演算処理を実行する中央演算処理装置(CPU)と、制御用のプログラム及びデータを記憶する読込専用メモリ(ROM)と、CPUの演算結果や外部からの入力情報を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)と、外部とのデータの入出力を媒介する入出力ポート(I/O)と、を備えるコンピューターユニットとして構成されている。
【0033】
ECU40は、水温計T14で計測されたエンジン冷却水温、及び、水温計T24で計測されたインバータ冷却水温の検出結果が入力ポートから入力される。また、ECU40は、それらの検出結果、及び、自らが別途判断したエンジン11の稼働乃至停止の状況に応じて、出力ポートから水路切替バルブ16及び水路切替バルブ26に制御信号が出力され、これらを制御することで、本実施形態の車両用の熱交換システムの運転を管理している。
【0034】
なお、ECU40は、上記の他、駆動ユニット39内におけるATFの温度、外気温、車両の走行速度等の検出結果が入力され、これらの条件を加味して、水路切替バルブ16及び水路切替バルブ26は勿論のこと、エンジン用電動ポンプ12、インバータ用電動ポンプ22、ATF用ポンプ32等の各種装置乃至部品をより精密に制御するようにしてもよい。
【0035】
次に、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムの運転の様子を、車両の走行モードごとに説明する。以下は、エンジン11が停止し、走行用モータ34のみで走行するEV走行モード、及び、エンジン11が稼働して発電用モータ35を駆動し、その電力により走行用モータ34を稼働させ、走行用モータ34のみで走行する、または、同様に稼働された走行用モータ34とエンジン11の両出力で走行する、HV走行モードを有するシリーズ・パラレルハイブリッド方式にて実施した例である。
【0036】
併せて、各回路を循環する媒体の温度変化について、図5のグラフを用いて説明する。なお、図5は、横軸を始動(時間0)からの経過時間、縦軸を各媒体及びエンジン11の温度として、推定される値をプロットしたグラフである。見易くするために、エンジン冷却水(第1媒体)、インバータ冷却水(第2媒体)、ATF(第3媒体)及びエンジン11の各グラフを縦方向にばらしているが、始動(時間0)時には、これら4つが略同じ温度となっている。
エンジン冷却水は水温計(T)14の、インバータ冷却水は水温計(T)24の、それぞれ計測結果である。
【0037】
なお、それぞれのグラフにおける実線が、本実施形態における各温度変化をプロットしたものであり、破線は、第1熱交換器1及び第2熱交換器2を設けなかった場合(当該熱交換器の部分で、各回路の配管を直結した状態。第3熱交換器3は設けられている。)の各温度変化を参考としてプロットしたものである。
【0038】
(1)EV走行モード1
図2は、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、始動時におけるEV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
EV走行モードでは、ECU40はエンジン11が停止するように制御する。特に、始動時にはエンジン11及びエンジン冷却水は冷え切った状態であり、暖気が行われる。
【0039】
詳しくは、始動時のEV走行モードにおいて、ECU40は、エンジン11が停止している状態を確認するとともに、水温計14の値からエンジン冷却水温が所定の低温状態である場合、水路切替バルブ16については第4経路Dを、水路切替バルブ26については第2経路Bを、それぞれ選択するようにシステムを制御する。これをEV走行モード1とする。
【0040】
まず、EV走行モード1では、始動とともに走行用モータ34及びインバータ21が稼働し、これらを冷却するATF及びインバータ冷却水が、温度上昇する。また、車両の駆動により減速機31が回転し、その潤滑の目的で用いられるATFは、この減速機31の摩擦熱によっても暖められる。このとき、インバータ冷却回路20においては、インバータ冷却水が、インバータ21を冷却することで加熱され、さらに第3熱交換器3でATFと熱交換され、より高温のATFから熱を受け取って加熱される。そして、インバータ冷却水は、水路切替バルブ26により選択された経路Bを通って、第1熱交換器1でエンジン冷却水と熱交換された後、インバータ21に再び供給される。その結果、図5(EV走行モード1)に示されるように、インバータ冷却水が比較的急激に温度上昇して行く。
【0041】
また、ATF冷却回路30においては、走行用モータ34等で加熱されたATFが、駆動ユニット39から圧送され、第2熱交換器2でエンジン冷却水と熱交換され、さらに第3熱交換器3でインバータ冷却水と熱交換され、これら2つの熱交換で冷却されて、駆動ユニット39に再び戻る。しかし、走行用モータ34による加熱が優位であり、図5(EV走行モード1)に示されるように、ATFが比較的急激に温度上昇して行く。
【0042】
一方、エンジン冷却回路10において、エンジン冷却水は、第2熱交換器2でATFと熱交換され、さらに第1熱交換器1でインバータ冷却水と熱交換され、暖められた状態でエンジン11の暖気に供される。そして、エンジン11を冷却したエンジン冷却水は、水路切替バルブ16により選択された経路Dを通るため、エンジン用ラジエータ13で冷却されることなく、第2熱交換器2に再び供給される。よって、図5(EV走行モード1)に示されるように、エンジン冷却水及びエンジン11は、徐々に温度上昇する。
【0043】
以上のように、始動から間もない、エンジン11が停止して走行用モータ34のみで走行している状態では、エンジン11の冷却に用いられるエンジン冷却水の温度が低いため、ECU40によって、水路切替バルブ26が第2経路Bを選択するように制御される。これにより、エンジン冷却水と、走行用モータ34等の冷却に用いられるATFと、の間の熱交換を第2熱交換器2で行うとともに、エンジン冷却水と、インバータ21を冷却することで温められたインバータ冷却水と、の間の熱交換を第1熱交換器1で行うように制御される。よって、エンジン11の暖気を促進することができる。このようにして、走行用モータ34からの排熱等によるATFの熱を有効利用することができる。
【0044】
(2)EV走行モード2(HV走行モード前)
図3は、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、インバータ冷却水の温度が上昇した際におけるEV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
EV走行モードで、ECU40は、エンジン11が停止している状態を確認していたとしても、水温計(T)24の計測結果を受け取り、インバータ冷却水の温度が所定の高温状態の場合に、図3に示すように、水路切替バルブ16についてはそのまま第4経路Dを、水路切替バルブ26については第1経路Aを、それぞれ選択するようにシステムを制御する。これをEV走行モード2とする。
【0045】
このとき、インバータ冷却回路20においては、EV走行モード1の場合と同様、インバータ冷却水が、インバータ21を冷却することで加温され、さらに第3熱交換器3でATFと熱交換され、より高温のATFから熱を受け取って加熱されている。そして、所定の高温状態となったインバータ冷却水は、第1経路Aを通ってインバータ用ラジエータ23で冷却された上で、インバータ21の冷却に供される。その結果、図5(EV走行モード2)に示されるように、インバータ冷却水が比較的急激に温度低下し、ある程度下がったところでサチュレートする。
【0046】
また、ATF冷却回路30においては、走行用モータ34等で加熱されたATFが、駆動ユニット39から圧送され、第2熱交換器2でエンジン冷却水と熱交換され、さらに第3熱交換器3でインバータ冷却水と熱交換され、これら2つの熱交換で冷却されて、駆動ユニット39に再び戻る。このとき、インバータ冷却水はインバータ用ラジエータ23で強力に冷却されていることから、走行用モータ34による加熱と2つの熱交換器による冷却とが均衡し(やや前者が優位であり)、図5(HV走行モードの左のEV走行モード2)に示されるように、ATFの温度上昇が頭打ちとなり、ごく僅かな温度上昇となる。
【0047】
一方、エンジン冷却回路10において、エンジン冷却水は、第2熱交換器2でATFと熱交換され暖められた状態で、第1熱交換器1は素通りし、エンジン11の暖気に供される。第1熱交換器1でのインバータ冷却水との熱交換は為されないが、第2熱交換器2でのATFとの熱交換の方が、影響が大きいため、エンジン冷却水の温度上昇の鈍化はそれほど大きくならない。即ち、図5(EV走行モード2)に示されるように、エンジン冷却水及びエンジン11は、EV走行モード1の時よりも僅かに鈍化するものの徐々に温度上昇する。
【0048】
EV走行モード2への移行を決定づける、インバータ冷却水の温度が所定の高温状態であるとのECU40による判断は、例えば、所定の閾値となる温度を予め設定しておき、当該設定温度を超えた場合に「高温状態」と判断し、越えなければ「高温状態ではない」と判断することにしてもよいが、これに限定されない。
【0049】
例えば、上記のように設定温度を決めておき、それを超えた場合に「高温状態」と判断し、温度が下がって「高温状態ではない」と判断する温度を、定めた設定温度よりも低温に別途定める(ヒステリシス状態にする)等、閾値となる温度が1つに定まっていない態様であってもよい。また、インバータ冷却水の温度以外の様々な情報、例えば、エンジン冷却水の水温、ATFの温度、外気温、車両の走行速度等の情報をECU40が受け取り、これらを勘案して総合的に、あるいは、所定の関数計算により、「高温状態」乃至「高温状態ではない」の判断を行うこととしても構わない。
【0050】
なお、本発明において「第2媒体の温度」と云うときは、本実施形態に当て嵌めると、水路切替バルブ26によって第1熱交換器とインバータ用ラジエータとに経路が分岐した後、インバータ21に流入する手前で合流したインバータ冷却水の温度のことを意味する。
【0051】
以上のように、エンジン冷却水とATFとの間の熱交換を第2熱交換器2で行うとともに、インバータ用ラジエータ23により冷却され、その後インバータ21を冷却したインバータ冷却水とATFとの間の熱交換を第3熱交換器3で行うことで、走行用モータ34等で加熱されたATFの冷却が行われる。このようにして、ATFの熱交換を第2熱交換器2及び第3熱交換器3で分担して行うことができ、インバータ用ラジエータ23の負荷を小さくすることができる。したがって、インバータ冷却水のみでインバータ21とATFの両方を冷却する場合に比べて、インバータ用ラジエータ23の小型化を実現することができる。
【0052】
また、ATFが、第2熱交換器2を経由した後に第3熱交換器3を通過するように構成されているため、第3熱交換器3に供給されるATFの温度を予めある程度下げておくことができ、これにより、インバータ冷却水の温度上昇を抑制することができ、インバータ用ラジエータ23の小型化を実現することができる。
【0053】
(3)HV走行モード
図4は、本実施形態にかかる車両用の熱交換システムにおいて、HV走行モードでの運転の様子を示すブロック図である。
ハイブリッド車は、一般に、EV走行モードである程度走行した後、走行速度が所定以上であったり、バッテリ残量が不十分であったりする等の条件を満たすと、HV走行モードに切り替わる。
【0054】
ECU40の指令によって、HV走行モードに切り替わると、エンジン11が稼働する。ECU40は、エンジン11が稼働している状態を確認するととともに、水温計14の温度が所定の低温状態にない場合、図4に示すように、水路切替バルブ16については第3経路Cを、水路切替バルブ26については第1経路Aを、それぞれ選択するようにシステムを制御する。なお、HV走行モードにおいては、発電用モータ35についても稼働を開始する。
【0055】
このとき、インバータ冷却回路20においては、EV走行モード1及び2の場合と同様、インバータ冷却水がインバータ21を冷却することで加温され、さらに第3熱交換器3でATFと熱交換され、より高温のATFから熱を受け取って加熱されている。ATFは、駆動ユニット39内で、走行用モータ34のみならず、稼働を開始した発電用モータ35をも冷却する機能を有する。そして、所定の高温状態となったインバータ冷却水は、第1経路Aを通ってインバータ用ラジエータ23で冷却された上で、インバータ21の冷却に供される。その結果、インバータ冷却水は、インバータ21及び第3熱交換器3による加熱と、インバータ用ラジエータ23による冷却とが均衡し、図5(HV走行モード)に示されるように、温度が一定のまま維持される。
【0056】
また、ATF冷却回路30においては、走行用モータ34、減速機31及び発電用モータ35で加熱されたATFが、駆動ユニット39から圧送され、第2熱交換器2でエンジン冷却水と熱交換され、さらに第3熱交換器3でインバータ冷却水と熱交換され、これら2つの熱交換で冷却されて、駆動ユニット39に再び戻る。後述する通り、エンジン用ラジエータ13で強力に冷却されたエンジン冷却水による第2熱交換器2での冷却に加え、インバータ用ラジエータ23で強力に冷却されたインバータ冷却水による第3熱交換器2での冷却が行われるので、走行用モータ34、減速機31及び発電用モータ35による加熱と2つの熱交換器による冷却とが均衡し、図5(HV走行モード)に示されるように、ATFは、温度が一定のまま維持される。
【0057】
一方、エンジン11は、稼働を開始することにより自ら高熱を発して、図5(HV走行モード)に示されるように、急激に温度上昇する。これに対抗して、エンジン用ラジエータ13によるエンジン冷却水が強力に冷却される。
エンジン冷却回路10において、エンジン冷却水は、エンジン用ラジエータ13により強力に冷却された後、第2熱交換器2でATFと熱交換されて暖められた状態で、第1熱交換器1は素通りし、エンジン11に供される。
【0058】
高熱を発するエンジン11を冷却することによる加熱に加えて第2熱交換器2でのATFとの熱交換よる加熱が為されても、エンジン用ラジエータ13による強力な冷却が行われるため、これによる冷却と全二者による加熱とが均衡する。その結果、図5(HV走行モード)に示されるように、エンジン冷却水は、温度が一定のまま維持される。また、エンジン11は、エンジン冷却水による冷却で温度上昇が頭打ちとなり、途中から温度が一定のまま維持される。
【0059】
以上のように、エンジン冷却水とATFとの間の熱交換を第2熱交換器2で行うとともに、インバータ用ラジエータ23により冷却され、その後インバータ21を冷却したインバータ冷却水とATFとの間の熱交換を第3熱交換器3で行うことで、走行用モータ34及び発電用モータ35等で加熱されたATFの冷却が行われる。このようにして、ATFの熱交換を第2熱交換器2及び第3熱交換器3で分担して行うことができ、インバータ用ラジエータ23の負荷を小さくすることができる。したがって、インバータ冷却水のみでインバータ21とATFの両方を冷却する場合に比べて、インバータ用ラジエータ23の小型化を実現することができる。
【0060】
また、エンジン11が停止しているとき、エンジン冷却水が、エンジン用ラジエータ13を介さずに、EV走行モード2ではATFと、EV走行モード1ではATF及びインバータ冷却水と、の間で熱交換を行うことで、効率的にエンジン11の暖気を行うことができる一方、HV走行モードとなって、エンジン11が稼働していて、エンジン冷却水が所定の低温状態にない時は、エンジン用ラジエータ13に供給されることで、効率的に冷却される。
【0061】
(4)EV走行モード2(HV走行モード後)
ハイブリッド車は、一般に、HV走行モードにおいて減速し、バッテリの残量が十分な時には、ECUの判断によって、EV走行モードに切り替わる。本実施形態においても同様である。
ECU40の指令によって、HV走行モードからEV走行モードに切り替わると、エンジン11が停止する。ECU40は、エンジン11が停止している状態を確認するとともに、エンジン冷却水温が所定の低温状態であるか否かを判定する。
【0062】
このとき、インバータ冷却水の温度は十分に高温となっているため、ECU40は、インバータ冷却水を所定の高温状態であると判断する。したがって、この場合には、「(2)EV走行モード2」と同様、ECU40は、図3に示すように、水路切替バルブ16については第4経路Dを、水路切替バルブ26については第1経路Aを、それぞれ選択するようにシステムを制御する。
【0063】
インバータ冷却回路20においては、HV走行モードの場合と同様、インバータ冷却水がインバータ21を冷却することで加温され、さらに第3熱交換器3でATFと熱交換され、より高温のATFから熱を受け取って加熱されている。そして、所定の高温状態となったインバータ冷却水は、第1経路Aを通ってインバータ用ラジエータ23で冷却された上で、インバータ21の冷却に供される。その結果、インバータ冷却水は、「(2)EV走行モード2」においてサチュレートした状態と同様の熱収支となり、図5(HV走行モード1の右のEV走行モード2)に示されるように、温度が一定のまま維持される。
【0064】
また、ATF冷却回路30においては、走行用モータ34等で加熱されたATFが、駆動ユニット39から圧送され、第2熱交換器2でエンジン冷却水と熱交換され、さらに第3熱交換器3でインバータ冷却水と熱交換され、これら2つの熱交換で冷却されて、駆動ユニット39に再び戻る。このとき、インバータ冷却水はインバータ用ラジエータ23で強力に冷却されていることから、走行用モータ34による加熱と2つの熱交換器による冷却とが均衡し、図5(HV走行モードの右のEV走行モード2)に示されるように、ATFは、温度が一定のまま維持される。
【0065】
一方、エンジン11の稼働が停止することで、エンジン11から新たな排熱は生じない。
エンジン冷却回路10において、エンジン冷却水は、エンジン用ラジエータ13を経由せずに、第2熱交換器2でATFと熱交換され、第1熱交換器1は素通りし、エンジン11に供される。このとき、エンジン冷却水がATFと熱交換され加温されるため、図5(HV走行モードの右のEV走行モード2)に示されるように、温度は徐々に低下して行く。これに連れて、エンジン11についても、温度が徐々に低下して行く。
【0066】
エンジン冷却水における「所定の低温状態」とは、例えば、エンジンを稼働させるのに燃費効率や走行安定性等の観点で好適あるいは許容とされる温度にエンジン冷却水が達していない状態であることであってもよいし、エンジン冷却水がインバータ用冷却水よりも低い温度となっている状態であることであってもよい。さらには、これらのうちのいずれか一方もしくは両方の状態であることであってもよいし、これら両方の条件を満たす状態であることであってもよい。また、これらとは異なる温度の指標を「所定の低温状態」と判断するようにしても構わない。
【0067】
なお、本発明において「第1媒体が所定の低温状態」と云うときの第1媒体の温度は、本実施形態に当て嵌めると、水温計14によって計測された温度、即ち、エンジン11に供給される際の温度のことを意味する。ただし、必ずしもエンジン11の直前で測定した温度を基準にしなければならないわけではなく、本実施形態で云えば、エンジン用電動ポンプ12の手前(好ましくは、第2熱交換器2の通過後)からエンジン11までの間のいずれかの箇所で測定した温度を基準にすればよい。
【0068】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の車両用の熱交換システムは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、第3媒体が、ATF(オートマチックトランスミッションフルード)である例を挙げたが、本発明はこれに限定されず、走行用モータや発電用モータ等のモータの冷却に用いられる冷却用の媒体であれば、本発明を適用することができる。車両においては、例えば、無段変速機に用いられるCVTF(コンティニュアスリーバリアブルトランスミッションフルード)やその他の熱媒体を利用することができるほか、走行用モータ及び発電用モータの冷却専用の媒体であっても構わない。これらの中で、ATFやCVTF等の自動変速機用フルードは、油性であるため絶縁性に優れている他、液量が比較的豊富であり、減速機と走行用モータや発電用モータがレイアウト上近くに配置されることから、本発明における第3媒体として適用することが特に好ましい。
【0069】
また、各回路における第1熱交換器、第2熱交換器及び第3熱交換器の配置位置は、上記実施形態の位置に限定されるものではない。例えば、エンジン冷却回路10における第1熱交換器1と第2熱交換器2の位置は、両者が逆の位置関係でもよいし、エンジン用電動ポンプ12の前に配しても構わないし、それ以外の箇所でも構わない。ただし、EV走行モードにおいて暖気を効率的に行うためには、エンジン11の直前に第1熱交換器1及び第2熱交換器2が配置されることが望ましい。
【0070】
さらに、例えば、ATF冷却回路30における第2熱交換器2と第3熱交換器3とが逆の位置関係(即ち、ATFの循環方向が逆方向)であっても構わない。勿論、既述の通り、ATFが、第2熱交換器2を経由した後に第3熱交換器3を通過するように構成されている上記実施形態の構成が、特に好ましい。
【0071】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の車両用の熱交換システムを適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の車両用の熱交換システムの構成を備えている限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1:第1熱交換器
2:第2熱交換器
3:第3熱交換器
10:エンジン冷却回路(第1媒体冷却回路)
11:エンジン(内燃機関)
12:エンジン用電動ポンプ
13:エンジン用ラジエータ(内燃機関用ラジエータ)
14:水温計(T
16:水路切替バルブ(第1媒体用切替バルブ)
17:ヒーターコア
18:スロットルボディ
20:インバータ冷却回路(第2媒体冷却回路)
21:インバータ
22:インバータ用電動ポンプ
23:インバータ用ラジエータ
24:水温計(T
26:水路切替バルブ(切替バルブ)
30:ATF冷却回路(第3媒体冷却回路)
31:減速機(トランスミッション)
32:ATF用ポンプ
34:走行用モータ(モータ)
35:発電用モータ(モータ)
39:駆動ユニット
40:ECU(制御ユニット)
A:第1経路
B:第2経路
C:第3経路
D:第4経路
図1
図2
図3
図4
図5