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特許7190353油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/02 20060101AFI20221208BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20221208BHJP
   C10M 101/04 20060101ALI20221208BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20221208BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221208BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M101/02
C10M101/04
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N40:08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018545688
(86)(22)【出願日】2016-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2016078469
(87)【国際公開番号】W WO2017089357
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】62/259,157
(32)【優先日】2015-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ガラパリ,スラバニ
(72)【発明者】
【氏名】ケンズラー,ジェニファー・リン・カレン
(72)【発明者】
【氏名】コールマン,アン・テイラー
【合議体】
【審判長】蔵野 雅昭
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-531753(JP,A)
【文献】特表2009-521572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法であって、前記方法は、前記油圧系に前記潤滑油を供給することを含み、
前記潤滑油は、前記潤滑油の質量に基づいて少なくとも90質量%の基油を含み、前記基油の量に基づいて少なくとも70質量%はGTL基油であり、前記基油はグループI、グループII、またはグループIIIから選択される非GTL基油を少なくとも10質量%含み、
前記GTL基油の100℃での粘度は、2~20cStであり、
前記潤滑油は、前記潤滑油の前記質量に基づいて10質量%未満の添加剤を含み、
前記潤滑油の40℃での粘度は、20~100cStであり、
STM D3427に従って計測される放気が前記GTL基油がグループI、グループII、またはグループIIIから選択される非GTL基油に置き換えられることにより70質量%未満のGTL基油を含み、粘度が等しく、同じ添加剤を含有する比較用潤滑油を使用して達成される放気と比較して向上される、前記方法。
【請求項2】
前記GTL基油の100℃での粘度が、3~10cStである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記潤滑油は、前記潤滑油の前記質量に基づいて5質量%未満の添加剤を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記潤滑油は、前記潤滑油の前記質量に基づいて少なくとも0.5質量%の添加剤を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油の40℃での粘度が、25~80cStである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、保護、動きを滑らかにし、動力の伝達を助けるために、油圧系に必要とされる。油圧系の設計における現在の趨勢は、より小型のリザーバ、短い油滞留時間、及び高い動力出力に向かっている。これらの変化は、空気混入の問題の増加に繋がっている。空気混入は、(典型的には1mm未満の直径を有する)気泡が潤滑油全体に分散している現象である。混入した空気は、遊離空気(系の一部内に閉じ込められたひとまとまりの空気)、溶存空気(潤滑油は、6~12質量パーセントの間の溶存空気を含有し得る)、及び泡(油の表面上に集まる、直径が1mmよりも一般的に大きい気泡)とは区別され得る。空気混入は、潤滑性の喪失、潤滑油の酸化の可能性、動作中の騒音、効率の低下、及びより高い油温度を含む多くの有害な結果をもたらし得る。
【0003】
潤滑油の空気混入性は、一般的にASTM D3427放気試験を使用して計測される。試験は、試験条件下及び指定の温度において、油に混入した空気が体積の0.2%まで低減するために必要とされる時間を計測する。
【0004】
本発明は、油圧系に使用される潤滑油の空気混入性を向上させることを目指している。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明は、油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法を提供し、該方法は、油圧系に潤滑油を供給することを含み、
潤滑油は、潤滑油の質量に基づいて少なくとも90質量%の基油を含み、基油の質量に基づいて少なくとも70質量%はGTL基油であり、
GTL基油の100℃での粘度は、2~20cStであり、
潤滑油は、潤滑油の質量に基づいて10質量%未満の添加剤を含み、
潤滑油の40℃での粘度は、20~100cStであり、
放気が、ASTM D3427に従って計測され、70質量%未満のGTL基油を含む潤滑油を使用して達成される放気と比較して向上される。
【0006】
本発明者らは、潤滑油中の基油が主にGTL基油であるとき、放気の向上が達成されることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、油圧系内の潤滑油の放気を向上させる方法を提供する。油圧系において、潤滑油は、機械の動きを滑らかにするためだけでなく、圧力を伝達するために使用される。空気混入は、油圧のふわふわとしたまたは不規則な動作の原因となり、気圧装置内で著しい問題になり得る。
【0008】
放気は、ASTM D3427(バージョン14a、2015年)に従って計測される。圧縮された空気を、50℃の温度まで熱された潤滑油中に吹き込む。気流を止めた後、油に混入した空気が体積の0.2%まで低減するために必要とされる時間を、放気時間として記録する。望ましい放気の数値は、一般的に3分未満、好ましくは60秒未満、最も好ましくは20秒未満である。
【0009】
放気は、70質量%未満のGTL基油を含む潤滑油を使用して達成される放気と比較して向上する。比較は、唯一の違いが存在するGTL基油の量である、実質的に同等の潤滑油の間で行われた。例えば、比較は、その粘度が等しく、同じ添加剤を含有する潤滑油の間で行われるべきである。比較用潤滑油において、非GTL基油の量はより多くなる。非GTL基油は、例えば、API基油分類のグループI、II、またはIIIからの基油である。70質量%未満のGTL基油を有する潤滑油(及びGTL基油がグループI、II、またはIIIの基油で置き換えられた場合)と比較して、少なくとも70質量%のGTL基油を組み込むことで、本発明者らは放気時間の向上を観察した。
【0010】
潤滑油は、油圧系に標準的な方法を用いて供給される。
【0011】
潤滑油は、潤滑油の質量に基づいて、少なくとも90質量%の基油を含む。少なくとも70質量%は、基油の質量に基づいて、GTL基油である。好ましくは、少なくとも75質量%はGTL基油である。GTL基油は、天然ガスを液体燃料に変えるフィッシャー・トロプシュ法により合成される。GTL基油は、原油から精製される鉱油基油と比較して非常に低い硫黄成分及び芳香族成分を有し、非常に高いパラフィン組成比を有する。基油の質量に基づいて、最大30質量%(好ましくは最大25質量%)は、API(American Petroleum Institute)基油分類のグループI、II、及びIIIから選択される従来の基油を含む別の種類の基油であってもよい。本発明の一実施形態において、基油は、グループI、グループII、またはグループIIIから選択される少なくとも10質量%の基油を含む。
【0012】
GTL基油の100℃での動粘度は、2~20cStであり、好ましくは3~15cStであり、さらに好ましくは3~10cStである。粘度は、ASTM D445を用いて好適に計測される。
【0013】
潤滑油は、潤滑油の質量に基づいて、10質量%未満の添加剤を含む。好ましくは、添加剤の量は5質量%未満である。好ましくは、添加剤の量は少なくとも0.5質量%である。添加剤は、抗酸化剤、耐摩耗添加剤、解乳化剤、乳化剤、サビ及び腐食抑止剤、粘度指数向上剤、ならびに/または摩擦調整剤を含み得る。添加剤は、例えば無灰添加剤パッケージまたは亜鉛系添加剤パッケージのような添加剤パッケージとして供給され得る。
【0014】
潤滑油の40℃での動粘度は、20~100cStであり、好ましくは25~80cStである。動粘度は、ASTM D445(ASTM D7042)を用いて好適に計測される。この範囲の粘度が、油圧系内での使用に好適な潤滑油を提供する。
【実施例
【0015】
本発明は、実施例という形により下記でさらに詳細に説明されるが、本発明はそれらの実施例によって決して限定されない。
【0016】
実施例1
11の異なる基油混合物を、以下の3つの基油の組み合わせを用いて調製した。
1)XHVI 8(100℃でおよそ8cStの動粘度を有するShellから入手可能なフィッシャー・トロプシュ派生油)
2)Yubase 8(100℃でおよそ8cStの動粘度を有するSK Lubricantsから入手可能なグループIIIの基油)
3)Chevron 220 R(100℃でおよそ8cStの動粘度を有するChevronから入手可能なグループIIの基油)
【0017】
基油混合物の放気時間を、50℃でASTM D3427の方法を用いて試験した。表1は、(混合物の総量に基づいた質量%で表示された)各混合物に存在する各基油の量及び50℃での放気時間を示す。表1の混合物は全てISO 46である。
【表1】
【0018】
結果は、75~100wt%のGTLを有する混合物(混合物1、2、9、10、及び11)が非常に速い放気を示した。70%未満のGTLを有する全ての他の混合物は、著しく遅い放気時間を有した。
【0019】
実施例2
放気時間は、一般的に添加剤の追加でより悪化すると考えられる。本発明に従って完全に配合された油圧油が放気における変化に耐えることを証明するために、XHVI 8(100℃でおよそ8cStの粘度を有するShellから入手可能なフィッシャー・トロプシュ派生油)及び以下のいずれかの異なる量を用いて混合物を調製した。
1)添加剤パッケージ1(無灰添加剤パッケージ)
2)添加剤パッケージ2(亜鉛系添加剤)
表2は、各添加剤パッケージにおける(混合物の総量に基づいた質量%で表示された)混合物のXHVI 8との構成及び対応する放気時間を示す。
【表2】
【0020】
結果は、添加剤パッケージの追加(無灰または亜鉛系のいずれも)が潤滑油の放気性に対して著しい影響を及ぼさないことを示す。