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特許7190357導電性高分子複合体の製造方法、導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】導電性高分子複合体の製造方法、導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20221208BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20221208BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20221208BHJP
   C08J 3/02 20060101ALI20221208BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221208BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20221208BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20221208BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L101/12
C08K5/1515
C08L63/00 A
C08L25/18
C08L83/04
C08J3/02 D CET
C08J5/18 CEZ
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019001970
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020111647
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-323276(JP,A)
【文献】特開2018-203862(JP,A)
【文献】特開2018-006076(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125827(WO,A1)
【文献】特開2011-195765(JP,A)
【文献】特開2015-032071(JP,A)
【文献】特開2018-002777(JP,A)
【文献】特開2017-057335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00- 1/24
H01B 13/00
H01B 13/004-13/016
H01B 13/34
C08G 2/00- 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水中に分散された分散液に、メタノールと、メタノールを除く有機溶剤と、エポキシ化合物とを添加して、導電性高分子複合体を含む析出物を生成させ、前記析出物を回収することを有し、
前記有機溶剤が、イソプロパノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びメチルエチルケトンから選ばれる一種又は二種以上の混合液である、導電性高分子複合体の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶剤がイソプロパノールである、請求項に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
【請求項3】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項又はに記載の導電性高分子複合体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項のいずれか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項の何れか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法によっ前記析出物を得ることと、前記析出物に有機溶剤を添加することを有する、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項6】
バインダ成分をさらに添加する、請求項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項7】
前記バインダ成分がシリコーン化合物である、請求項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン化合物が付加硬化型シリコーン化合物である、請求項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法によって導電性高分子含有液を得ることと、フィルム基材の少なくとも一方の面に、前記導電性高分子含有液を塗工することと、塗工により形成した塗膜を乾燥することとを有する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子水系分散液、導電性高分子複合体の製造方法、導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性複合体を含む導電性高分子水分散液を使用することがある。通常、導電層が塗布されるフィルム基材は疎水性である。そのため、水系塗料である前記導電性高分子水分散液は、フィルム基材との密着性が低い傾向にあった。また、導電性高分子水分散液は乾燥時間が長くなるため、導電層形成の生産性が低くなる傾向にあった。
【0003】
そこで、導電性高分子水分散液の分散媒である水を有機溶剤に置換した分散液を用いることがある。例えば、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液に、オキシラン基及びオキセタン基の少なくとも一方を有する環状エーテル化合物を添加して、導電性高分子有機溶剤分散液を得ることが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の方法では、π共役系導電性高分子にドープしていないアニオン基に、環状エーテル化合物のオキシラン基又はオキセタン基を反応させて疎水化することにより、導電性複合体の有機溶剤に対する分散性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/125827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ポリアニオンのアニオン基とオキシラン基及びオキセタン基との反応性が悪く、目的の生成物(導電性高分子複合体)の収率が低い。また、ポリアニオンに未反応のアニオン基が残ってしまう傾向がある。未反応のアニオン基が残ると導電性高分子複合体の有機溶剤に対する分散性が低下してしまうため、得られる導電層の導電性が悪くなる傾向がある。
【0006】
本発明は、導電性複合体とエポキシ化合物との反応生成物である導電性高分子複合体の収率を向上させることができる導電性高分子複合体の製造方法を提供する。
また、上記導電性高分子複合体の製造方法に用いることができる導電性高分子水系分散液を提供する。
また、導電性に優れた導電層を形成できる導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水と、メタノールと、メタノールを除く有機溶剤と、エポキシ化合物と、を含む、導電性高分子水系分散液。
[2] 前記有機溶剤が、アルコール及びケトンから選ばれる一種又は二種以上の混合液である、[1]に記載の導電性高分子水系分散液。
[3] 前記有機溶剤が、イソプロパノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びメチルエチルケトンから選ばれる一種又は二種以上の混合液である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子水系分散液。
[4] 前記有機溶剤がイソプロパノールである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性高分子水系分散液。
[5] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性高分子水系分散液。
[6] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性高分子水系分散液。
[7] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水中に分散された分散液に、メタノールと、メタノールを除く有機溶剤と、エポキシ化合物とを添加して、導電性高分子複合体を含む析出物を生成させ、前記析出物を回収することを有する、導電性高分子複合体の製造方法。
[8] 前記有機溶剤が、アルコール及びケトンから選ばれる一種又は二種以上の混合液である、[7]に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
[9] 前記有機溶剤が、イソプロパノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、及びメチルエチルケトンから選ばれる一種又は二種以上の混合液である、[7]又は[8]に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
[10] 前記有機溶剤がイソプロパノールである、[7]~[9]のいずれか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
[11] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[7]~[10]のいずれか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
[12] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[7]~[11]のいずれか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法。
[13] [7]~[12]の何れか一項に記載の導電性高分子複合体の製造方法によって得られた前記析出物に、有機溶剤を添加することを有する、導電性高分子含有液の製造方法。
[14] バインダ成分をさらに添加する、[13]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[15] 前記バインダ成分がシリコーン化合物である、[14]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[16] 前記シリコーン化合物が付加硬化型シリコーン化合物である、[15]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[17] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[13]~[16]のいずれか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法で得た導電性高分子含有液を塗工することと、塗工により形成した塗膜を乾燥することとを有する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子複合体の製造方法によれば、導電性複合体とエポキシ化合物との反応生成物である導電性高分子複合体を高い収率で得ることができる。
本発明の導電性高分子水系分散液を用いることにより、上記導電性高分子複合体を高い収率で得ることができる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、優れた導電性を有する導電層を形成できる導電性高分子含有液を容易に製造することができる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、優れた導電性を有する導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<導電性高分子水系分散液>
本発明の第一態様の導電性高分子水系分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、メタノールと、メタノールを除く有機溶剤と、エポキシ化合物と、を含む。
【0010】
[導電性複合体]
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0011】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。ポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能し、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0014】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基にエポキシ化合物を反応させて疎水性を付与することが容易になる。
【0015】
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
ポリアニオン中の全てのアニオン基中、余剰のアニオン基は、ポリアニオン中の全てのアニオン基に対し、30~90モル%であることが好ましく、45~75モル%であることがより好ましい。
【0016】
導電性高分子水系分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有割合は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
(水)
本発明の導電性高分子水系分散液は水を含む。
水の含有割合は、導電性高分子水系分散液の総質量に対し、10質量%以上50質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましい。水の含有割合が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0018】
(エポキシ化合物)
本発明の導電性高分子水系分散液は、エポキシ化合物(エポキシ基含有化合物)を含む。
エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。エポキシ化合物と反応した導電性複合体の凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
エポキシ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0020】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0021】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジルネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート等が挙げられる。
【0022】
エポキシ化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2,000以下であることが好ましい。また、低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ化合物は、炭素数が7以上100以下のものが好ましく、10以上70以下のものがより好ましく、12以上40以下のものがさらに好ましい。
【0023】
エポキシ化合物の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上5000質量部以下であることが好ましく、2000質量部以上3000質量部以下であることがより好ましい。
【0024】
(有機溶剤)
本発明の導電性高分子水系分散液は、メタノールを含み、かつ、メタノールを除く有機溶剤を含む。なお、エポキシ化合物も有機溶剤から除外される。
前記有機溶剤は、温度20℃において、液状の有機化合物であり、メタノールに対する相溶性(混和性)が良いものが好ましい。このような有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。
アルコール系溶剤は、水酸基を1つ以上有する有機化合物であり、1価アルコールでもよいし、2価アルコールでもよいし、3価アルコールでもよい。アルコール系溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
なかでも、目的の導電性高分子複合体(疎水化された導電性複合体)の収率をより向上させる観点から、アルコール系溶剤が好ましく、イソプロパノールがより好ましい。
有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
メタノールの含有割合は、導電性高分子水系分散液の総質量に対し、30質量%以上85質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましく、60質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
メタノールの含有割合が上記範囲内であると、目的の疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の収率をより向上させることができる。
【0026】
有機溶剤(但し、メタノールを除く)の含有割合は、導電性高分子水系分散液の総質量に対し、1質量%以上40質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
上記の特定の有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、目的の疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の収率をより向上させることができる。
【0027】
メタノールと、上記の特定の有機溶剤との含有比率は、メタノール100質量部に対して、前記有機溶剤の含有量が、1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上50質量部以下がより好ましく、9質量部以上25質量部以下がさらに好ましい。
上記の特定の有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、目的の疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の収率をより向上させることができる。
【0028】
導電性高分子水系分散液に含まれる、水、メタノール及び前記特定の有機溶剤の合計の含有量は、導電性高分子水系分散液の総質量に対して、90質量%以上99.9質量%以下が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。
導電性高分子水系分散液における、水、メタノール及び前記特定の有機溶剤以外の残部は、導電性複合体であることが好ましい。
【0029】
<導電性高分子複合体の製造方法>
本発明の第二態様の導電性高分子複合体(疎水化された導電性複合体)の製造方法は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が水中に分散された分散液に、メタノールと、上述の特定の有機溶剤と、エポキシ化合物とを添加して、導電性高分子複合体を含む析出物を生成させた後、この析出物を回収する析出回収工程を有する。また、析出回収工程の後にさらに洗浄工程を有してもよい。
【0030】
[析出回収工程]
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が水中に分散された分散液Wに、メタノールと、上述の特定の有機溶剤と、エポキシ化合物とを添加することにより、本発明の第一態様の導電性高分子水系分散液が得られる。
ここで分散液Wに各材料を添加する順序は特に制限されないが、エポキシ化合物の水に対する溶解性が低い場合には、まず先行してメタノールを添加することが好ましい。また、メタノール又は前記有機溶剤に予めエポキシ化合物を溶解したうえで、このエポキシ化合物の溶液を分散液Wに添加してもよい。
各材料を添加して得られた導電性高分子水系分散液中において、エポキシ化合物のエポキシ基が、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。
これにより、導電性複合体に下記の置換基(A)が形成されて、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)が生成する。導電性高分子複合体は、水を含む反応液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
前記析出物を反応液から回収する方法として、例えば、濾過、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
【0031】
導電性高分子複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0032】
【化1】
[式(A1)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0033】
【化2】
[式(A2)中、複数のR、複数のR、複数のR、及び複数のRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、mは2以上の数である。]
【0034】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SOH」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0035】
式(A1)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して環を形成していてもよい。例えば、RとRとが前記炭化水素基であり、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
なかでも、式(A1)において、Rが水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、Rが水素原子であることが好ましい。あるいは、式(A2)において、Rが水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、Rが水素原子であることが好ましい。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0036】
エポキシ化合物を添加した導電性高分子水系分散液における反応を促進するために、導電性高分子水系分散液を加熱してもよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
エポキシ化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上5000質量部以下であることが好ましく、2000質量部以上3000質量部以下であることがより好ましい。上記範囲の下限値以上にすれば、導電性高分子複合体の疎水性が充分に高くなり、上記範囲の上限値以下にすれば、未反応のエポキシ化合物による導電性低下を防止できる。
【0037】
水を分散媒とする導電性複合体の分散液Wは、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。分散液Wは市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0038】
析出回収工程によって得られる析出物の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましい。実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含むものが好ましい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で析出物を洗い流す方法、析出物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0039】
[洗浄工程]
析出回収工程の後の洗浄工程は、洗浄用有機溶剤で前記析出物を洗浄する工程である。
この洗浄工程によって、析出物に残留する水、未反応のエポキシ化合物、及び、上述の特定の有機溶剤を除去することができる。
洗浄用有機溶剤は、析出物を溶解せずに洗浄可能なものが好適に使用される。洗浄用有機溶剤としては、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して析出物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出物を攪拌して析出物を洗浄してもよい。
【0040】
(作用効果)
本発明の導電性高分子複合体の製造方法によれば、ポリアニオンが置換基(A)を有する導電性高分子複合体を高い収率で製造することができる。このメカニズムは未解明であるが、メタノールと異なる極性の有機溶剤を含むことで反応が促進されるということが推測される。
【0041】
<導電性高分子含有液の製造方法>
[有機溶剤添加工程]
本発明の第三態様の導電性高分子含有液の製造方法は、本発明の第二態様で得られた導電性高分子複合体の析出物に有機溶剤を添加する有機溶剤添加工程を有する。
本工程により得られる導電性高分子含有液は、本発明の第二態様の製造方法で得られた導電性高分子複合体と、有機溶剤とを含有する。
導電性高分子含有液において、導電性高分子複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0042】
(有機溶剤)
有機溶剤の種類は特に制限されず、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0043】
上記有機溶剤のなかでも、プラスチックフィルム基材に対する導電性高分子含有液の濡れ性が高くなり、また、低極性のバインダ成分を容易に可溶化できる点では、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤が好ましい。炭化水素系溶剤のなかでは、汎用的であることから、トルエンが好ましい。また、バインダ成分としてシリコーン化合物を用いた場合には、シリコーン化合物の溶解性に優れることから、メチルエチルケトン及びトルエンの少なくとも一方が好ましい。
導電性高分子複合体の分散性がより高くなることから、メチルエチルケトンを含有することが好ましい。
【0044】
有機溶剤としては、上述した有機溶剤を使用できるが、なかでもメチルエチルケトン、ヘプタン、トルエンを使用することが好ましい。有機溶剤としてメチルエチルケトン、ヘプタン、トルエンを使用すると、導電性高分子含有液において析出物の分散性を高めることができる。
【0045】
有機溶剤の含有割合は、導電性高分子含有液の総質量に対し、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上90質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、導電性高分子複合体の分散性を高めることができる。
【0046】
析出物に有機溶剤を添加して得られた導電性高分子含有液には、攪拌による分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0047】
[バインダ成分添加工程]
導電性高分子含有液にバインダ成分をさらに添加してもよい。本工程においてバインダ成分とともに有機溶剤を添加してもよい。
導電性高分子含有液にバインダ成分を添加した後には攪拌してバインダ成分の分散性を高めることが好ましい。
バインダ成分が付加硬化型シリコーンである場合には、バインダ成分の添加と同時又は添加後に白金系硬化触媒を添加することが好ましい。
【0048】
(バインダ成分)
導電性高分子含有液は、分散媒として有機溶剤を含むので、バインダ成分として、低極性であるシリコーン化合物を好適に使用することができる。
シリコーン化合物としては、硬化型シリコーンが挙げられる。バインダ成分が硬化型シリコーンである場合、硬化型シリコーンを硬化させることにより、導電層に離型性を発現させることができる。
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような付加硬化型シリコーンは、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KS-3703T、KS-847T、KM-3951、X-52-151、X-52-6068、X-52-6069(信越化学工業社製)等が挙げられる。
導電性高分子含有液に添加される付加硬化型シリコーンは予め有機溶剤に溶解又は分散していることが好ましい。
【0049】
バインダ成分としては、シリコーン化合物以外の、熱可塑性樹脂(例えばポリエステル等)、熱硬化性化合物(例えば多官能エポキシ化合物等)、活性エネルギー線硬化性化合物(例えばアクリル化合物等)を使用してもよい。熱硬化性化合物を使用する場合には、熱重合開始剤をさらに含有することが好ましく、活性エネルギー線硬化性化合物を使用する場合には、光重合開始剤をさらに含有することが好ましい。
【0050】
バインダ成分の含有割合は、導電性高分子複合体100質量部に対して1000質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、3000質量部以上50000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、得られる導電層の強度及び硬度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0051】
[高導電化剤、添加剤の添加]
高導電化剤、添加剤等を導電性高分子含有液に含有させる場合には、有機溶剤添加工程、及びバインダ成分添加工程のいずれか1つ以上の工程において、高導電化剤、添加剤等を添加すればよい。
【0052】
(高導電化剤)
導電性高分子含有液は、形成する導電層の導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、バインダ成分は、高導電化剤に分類されない。ただし、エポキシ化合物は、ここで説明する高導電化剤に該当していてもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上の水酸基を有する化合物、1個以上の水酸基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子含有液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性高分子複合体の100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0053】
(その他の添加剤)
導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前記π共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、バインダ成分及び高導電化剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子含有液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性高分子複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0054】
(作用効果)
本発明により得られる導電性高分子含有液は、有機溶剤中で導電性高分子複合体が均一に分散しているので、導電性高分子含有液から形成される導電層中においても導電性高分子複合体を均一に分散させることができる。この結果、導電層の導電性が優れる。さらに、導電性高分子複合体の分散性が良好であることから、導電性高分子含有液の保存安定性も向上している。
【0055】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明の第四態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、本発明の第三態様で得た導電性高分子含有液を塗工する塗工工程と、塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜を乾燥させる乾燥工程とを有する方法である。塗膜を乾燥させると、導電層が形成される。
【0056】
(導電性フィルム)
本発明の第四態様の製造方法で得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、導電性高分子複合体を含有する。この導電性高分子複合体のポリアニオンの一部のアニオン基の水素原子は、前記置換基(A)に置換されている。
塗工する導電性高分子含有液がバインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分又はバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0057】
本発明の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0058】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材(例えば、導電層やフィルム基材)の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0059】
[塗工工程]
前記塗工工程において導電性高分子含有液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
前記導電性高分子含有液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0060】
[乾燥工程]
前記乾燥工程において乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
導電性高分子含有液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm以上が好ましい。照度が100mW/cm未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【実施例
【0061】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0062】
(製造例2)導電性複合体の水系分散液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)が水系分散媒に分散された導電性複合体の水系分散液を得た。
【0063】
(製造例3)
KS-3703T 2.25gとトルエン38.25gとメチルエチルケトン90.0gとCAT-PL-50T 0.45gを混合してシリコーン溶液を得た。
【0064】
(実施例1)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール250gとイソプロパノール50gとエポキシ化合物(エポライトM-1230、共栄社化学株式会社製、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)の25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物のエポキシ基が開環反応して結合し、余剰のスルホン酸基が消失した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSとエポキシ化合物との反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)が析出した。この析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.21gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、得られた導電性高分子含有液の重量を測定し、#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラー T60)に塗布し100℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
さらに、導電性高分子含有液0.6gと製造例3のシリコーン溶液17.4gを混合した溶液を#14のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布して150℃で1分間乾燥して帯電防止剥離フィルムを得た。
得られたフィルムの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール275gとイソプロパノール25gとエポライトM-1230の25gを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとエポライトM-1230との反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.21gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール250gとメチルエチルケトン50gとエポライトM-1230の25gを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとエポライトM-1230との反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.21gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール250gとプロピレングリコールモノメチルエーテル50gとエポライトM-1230の25gを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとエポライトM-1230との反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.155gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール250gとイソプロパノール50gとブチレンオキシド25gを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとブチレンオキシドとの反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.1gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール300gとエポライトM-1230の25gを加え、50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとエポライトM-1230との反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体1.0285gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
PEDOT-PSS水溶液100gにメタノール300gとブチレンオキシド25gを加え50℃で4時間加熱攪拌した。次に、PEDOT-PSSとブチレンオキシドとの反応物である、疎水化された導電性複合体(導電性高分子複合体)の析出物をろ取し、メタノール100gで洗浄して導電性高分子複合体0.935gを得た。得られた導電性高分子複合体をメチルエチルケトンに0.55%になるように分散し、導電性高分子複合体を含む導電性高分子含有液を得た。
次に、実施例1と同様にして、導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムを得て、それらの表面抵抗値と剥離力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0071】
<評価>
[表面抵抗値の測定]
各例の導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリティック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。測定結果を表1に示す。
なお、表中の「Ω/sq.」はオームパースクエアの意味である。また、「1.0E+10」は、「1.0×1010」を意味する。
【0072】
[剥離力の測定]
各例の帯電防止剥離フィルムの導電層について、下記の方法により剥離力を測定して離型性を評価した。
帯電防止剥離フィルムの導電層の表面に幅25mmポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製、No.31B)を載せ、その粘着テープの上に1976Paの荷重を載せて25℃で20時間加圧処理した。次に、JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、上記導電層に貼った上記粘着テープを180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N)を測定した。測定結果を表1に示す。剥離力が小さいほど、導電層の離型性(非粘着性)が高いことを意味する。
【0073】
【表1】
【0074】
各実施例の導電性高分子含有液において、導電性高分子複合体は均一に分散していた。また、各実施例の導電性フィルムは、高い導電性を有していた。また、各実施例の帯電防止剥離フィルムは、高い導電性を有するとともに、高い離型性を有していた。
比較例1~2の導電性高分子複合体の収率は低く、比較例2の導電性フィルム及び帯電防止剥離フィルムは、導電性において劣っていた。
以上の結果から、本発明によれば、目的の導電性高分子複合体の収率を向上させられることが明らかである。また、本発明によって得られた導電性高分子含有液は、優れた導電性を有する導電性フィルム及び帯電防止フィルムを容易に形成できることも明らかである。