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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】液体容器の製造方法および液体容器
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20221208BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20221208BHJP
   B23K 15/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G21K5/08 N
G21K5/02 N
B23K15/00 505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019020276
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020128879
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 優志
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特許第6351897(JP,B1)
【文献】特開2018-072211(JP,A)
【文献】特開昭56-019989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00- 3/00
5/00- 7/00
H05H 3/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギーの荷電粒子線が照射される液体金属を収容する液体容器の製造方法であって、
前記液体容器は、先端外壁と前記先端外壁の内側に位置する先端内壁からなる二重壁により前記荷電粒子線が照射される先端部が形成され、前記二重壁の間に前記液体金属を流通する狭隘流路をなし、前記先端内壁と前記先端外壁とが前記狭隘流路の開口部を前記先端部の後端側に形成するように前記先端外壁の内側の一部と前記先端内壁の後端の一部とが溶接により接合されており、
前記先端内壁の前記後端の一部に同一平面上で第一平面を形成する工程と、
前記先端外壁の前記内側の一部に前記第一平面に突き合わされる第二平面を同一平面上で前記先端外壁の前記内側の面から段差を介して形成する工程と、
前記第一平面と前記第二平面とを突き合わせた部分を溶接によって接合する工程と、
を含む液体容器の製造方法。
【請求項2】
前記段差は、前記先端外壁の前記内側の面から突出する突起により設けられる、請求項1に記載の液体容器の製造方法。
【請求項3】
前記第一平面および前記第二平面の互いに突き合わせる部分に開先を形成する工程を含む、請求項1または2に記載の液体容器の製造方法。
【請求項4】
前記第一平面および前記第二平面を互いに突き合わせた状態で嵌合部を嵌め合わせる、請求項1~3のいずれか1つに記載の液体容器の製造方法。
【請求項5】
前記先端内壁と前記先端外壁との溶接部は、前記第一平面と前記第二平面とを突き合わせた部分のみである、請求項1~4のいずれか1つに記載の液体容器の製造方法。
【請求項6】
前記先端内壁と前記先端外壁との接合は、電子ビーム溶接によって施工する、請求項1~5のいずれか1つに記載の液体容器の製造方法。
【請求項7】
高エネルギーの荷電粒子線が照射される液体金属を収容する液体容器であって、
前記荷電粒子線が照射される先端部は、先端内壁と先端外壁との間に前記液体金属が流通する狭隘流路をなし、
前記先端内壁と前記先端外壁とが前記狭隘流路の開口部を前記先端部の後端側に形成するように前記先端外壁の内側の一部と前記先端内壁の後端の一部とが接合された溶接部を有し、
前記先端内壁の前記後端の一部に同一平面上で第一平面が形成され、
前記先端外壁の前記内側の一部に前記第一平面に突き合わされる第二平面が同一平面上で前記先端外壁の前記内側の面から段差を介して形成されており、
前記溶接部は、前記第一平面と前記第二平面とが突き合わされた仮想面に沿って前記先端外壁の前記内側の面から離れて配置されている、液体容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体容器の製造方法および液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線照射装置は、大強度の荷電粒子線(陽子ビーム)を水銀などの液体金属に照射して核破砕反応を引き起こすことで中性子を発生させる。発生した中性子は、研究に最適な中性子ビームに整えられ、物質の構造や動きを研究するために利用される。核破砕反応には、大量の発熱が伴い、その熱量を除去するため液体金属は、荷電粒子線の照射される領域で流動し続けていることが望ましい。このように液体金属を流動させるため、ターゲット(ターゲット容器)と呼ばれる装置が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ターゲット容器は、液体金属を流動させる液体容器があり、その外側は、万が一液体金属が漏洩した場合も閉じ込められるように保護容器で覆われている。保護容器は、二重になっており、内側保護容器は、液体容器と内側保護容器との間で液体金属の漏洩を検知するヘリウムが流れ、外側保護容器は、内側保護容器と外側保護容器との間で陽子ビームによる発熱を除去するための冷却水が流れる。ターゲット容器は、危険性の高い水銀などの液体金属を扱うため、液体金属が外部に漏れないような気密性に優れた液体容器を必要とする。各容器は、陽子ビーム入射時に瞬間的に生じる圧力および熱応力に耐え得ることを必要とする。このように、ターゲット容器は、多重に形成され、かつ漏洩を防ぎ、内圧に耐え得る構造を要することから、金属同士を溶接により接合して構成されている。金属同士の溶接に際して様々な工夫が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4392098号公報
【文献】特開昭63-13688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターゲット容器の液体容器において、荷電粒子線(陽子ビーム)を照射される先端側は、液体金属の流速を上げることで陽子との核破砕反応を効率良く反応させるため、狭隘流路を有する構造となっている。即ち、液体容器は、先端側が先端内壁と先端外壁とで構成された二重構造となっている。狭隘流路は、例えば、2mm(0,-0.5)の精度が要求され、変形が少ない接合方法の適用が必要となる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、荷電粒子線を照射されるターゲット容器における液体容器の先端側において、耐久性を確保しつつ、狭隘流路をなす構造を高い精度で形成することのできる液体容器の製造方法および液体容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法は、高エネルギーの荷電粒子線が照射される液体金属を収容する液体容器の製造方法であって、前記液体容器は、先端外壁と前記先端外壁の内側に位置する先端内壁からなる二重壁により前記荷電粒子線が照射される先端部が形成され、前記二重壁の間に前記液体金属を流通する狭隘流路をなし、前記先端内壁と前記先端外壁とが前記狭隘流路の開口部を前記先端部の後端側に形成するように前記先端外壁の内側の一部と前記先端内壁の後端の一部とが溶接により接合されており、前記先端内壁の前記後端の一部に同一平面上で第一平面を形成する工程と、前記先端外壁の前記内側の一部に前記第一平面に突き合わされる第二平面を同一平面上で前記先端外壁の前記内側の面から段差を介して形成する工程と、前記第一平面と前記第二平面とを突き合わせた部分を溶接によって接合する工程と、を含む。
【0008】
また、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法では、前記段差は、前記先端外壁の前記内側の面から突出する突起により設けられることが好ましい。
【0009】
また、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法では、前記第一平面および前記第二平面の互いに突き合わせる部分に開先を形成する工程を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法では、前記第一平面および前記第二平面を互いに突き合わせた状態で嵌合部を嵌め合わせることが好ましい。
【0011】
また、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法では、前記先端内壁と前記先端外壁との溶接部は、前記第一平面と前記第二平面とを突き合わせた部分のみであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の一態様に係る液体容器の製造方法では、前記先端内壁と前記先端外壁との接合は、電子ビーム溶接によって施工することが好ましい。
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様に係る液体容器は、高エネルギーの荷電粒子線が照射される液体金属を収容する液体容器であって、前記荷電粒子線が照射される先端部は、先端内壁と先端外壁との間に前記液体金属が流通する狭隘流路をなし、前記狭隘流路の開口部を後端側に形成するように前記先端外壁の内側の一部と前記先端内壁の後端の一部とが接合された溶接部を有し、前記溶接部は、前記先端外壁の前記内側の面から離れる仮想面に沿って断面の中心が配置されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第一平面と第二平面とが同一平面上で突き合わされた二次元で配置され、かつ、二次元の平面が段差を介して先端外壁の内側の面から離れて形成される。このため、溶接に際して二次元の軌跡で施工でき、かつ先端外壁の内側の面から離れた位置で施工できる。この結果、溶接施工が容易となり、耐久性を確保しつつ、狭隘流路をなす構造を高い精度で形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る液体容器が適用される中性子線照射装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る液体容器が適用される中性子線照射装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る液体容器が適用されるターゲット容器の一例を示す斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る液体容器が適用されるターゲット容器の一例の断面図である。
図5図5は、図4のA-A断面図である。
図6図6は、図4のB-B断面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程を示す斜視図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程を示す断面図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程を示す断面図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程を示す部分拡大断面図である。
図11図11は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程の他の例を示す部分拡大断面図である。
図12図12は、本発明の実施形態に係る液体容器の製造工程の他の例を示す部分拡大断面図である。
図13図13は、液体容器の他の製造方法を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
以下の実施形態においては、中性子線照射装置100が、機器または構造物のような検査対象物に中性子線Nを照射して、その検査対象物の内部を非破壊で検査する検査装置に適用される場合で説明する。中性子線照射装置100は、放射線療法に使用することもできる。中性子線照射装置100は、被照射体Sに中性子線Nを照射する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る液体容器が適用される中性子線照射装置の一例を示す模式図である。図1に示すように、中性子線照射装置100は、荷電粒子を加速して荷電粒子線(例えば、陽子ビーム)Pを射出する加速装置102と、加速装置102から射出された荷電粒子線Pの照射状態を調整する調整装置103と、荷電粒子線Pの照射により中性子線Nを発生するターゲット105と、ターゲット105で発生した中性子線Nを減速する減速装置106と、減速装置106から射出された中性子線Nを平行化するコリメータ107と、を備えている。コリメータ107から射出された中性子線Nが被照射体Sに照射される。
【0019】
加速装置102は、円形加速器または直線加速器を含む。加速装置102は、荷電粒子(陽子、電子、または重粒子)を加速して、荷電粒子線(陽子線、電子線、または重粒子線)Pを生成して射出する。
【0020】
調整装置103は、複数の電磁石を含み、加速装置102から射出された荷電粒子線Pの照射状態を調整する。荷電粒子線Pの照射状態は、荷電粒子線Pの進行方向の調整および荷電粒子線Pの整形を含む。調整装置103は、荷電粒子線Pの発散を抑制し、荷電粒子線Pを集束させる。調整装置103は、加速装置102から射出された荷電粒子線Pを走査装置104に導く。
【0021】
本実施形態において、中性子線照射装置100は、荷電粒子線Pを走査する走査装置104を備える。走査装置104は、荷電粒子線Pを走査し、ターゲット105に対する荷電粒子線Pの照射位置を調整する。また、走査装置104は、ターゲット105に照射される荷電粒子線Pを整形する。なお、走査装置104は無くてもよい。
【0022】
加速装置102から射出され、調整装置103および走査装置104を通過した荷電粒子線Pは、ターゲット105に照射される。ターゲット105は、荷電粒子線Pの照射により、中性子線Nを発生する。ターゲット105を、中性子線発生部材、と称してもよい。ターゲット105は、例えばベリリウム(Be)、リチウム(Li)、またはそれらを含む化合物で形成された液体を含む。ターゲット105については後述する。
【0023】
減速装置106は、ターゲット105で発生した中性子線Nを減速する。減速装置106は、中性子線Nの進路において、ターゲット105と被照射体Sとの間に配置される。ターゲット105は、高エネルギーの高速中性子を発生する。減速装置106は、高速中性子のエネルギーを低減して、低速で低エネルギーの中性子(熱中性子または熱外中性子)を生成する。
【0024】
コリメータ107は、減速装置106から射出された中性子線Nを平行化する。コリメータ107により平行化され、そのコリメータ107から射出された中性子線Nが被照射体Sに照射される。
【0025】
次にターゲット105について説明する。図2は、本実施形態に係る液体容器が適用される中性子線照射装置の一例を示す模式図である。図2では、図1のターゲット105に関係する部分を詳細に示している。図2に示すようにターゲット105は、ターゲット容器2と、液体金属供給部3と、を備えている。
【0026】
ターゲット容器2は、気密・液密に形成された容器であって、その内部には液体金属L(本実施形態では水銀)が流通している。加速装置102で生成された荷電粒子線Pがターゲット容器2内の液体金属原子(水銀原子)に衝突することで核破砕反応を生じる。ターゲットとして液体金属Lを用いることで、液体金属L自体が冷却材としての役割を果たすため、より大強度の荷電粒子線Pを照射することが可能となり、より高い中性子発生効率を得られる。
【0027】
液体金属供給部3は、ターゲット容器2に接続され、ターゲット容器2に液体金属Lを供給する。液体金属供給部3は、液体金属Lを貯留するタンク4と、タンク4内の液体金属Lをターゲット容器2内に供給する供給流路5と、供給流路5を通じて液体金属Lをターゲット容器2内に圧送するポンプ6と、ターゲット容器2から排出された液体金属Lを回収する回収流路7と、を有する。
【0028】
ターゲット容器2の詳細な構成について説明する。図3は、本実施形態に係る液体容器が適用されるターゲット容器の一例を示す斜視図である。図4は、本実施形態に係る液体容器が適用されるターゲット容器の一例の断面図である。図5は、図4のA-A断面図である。図6は、図4のB-B断面図である。
【0029】
図2および図3に示すように、本実施形態に係るターゲット容器2は、平面視で略長方形状の外観を呈している。以降の説明において、ターゲット容器2の長辺が延びる方向を長軸方向と呼び、ターゲット容器2の短辺が延びる方向(長軸方向に平面視で直交する方向)を短軸方向と呼ぶ。さらに、ターゲット容器2の上下方向であって長軸方向および短軸方向に直交する高さ方向を厚さ方向と呼ぶ。さらに、ターゲット容器2の短軸方向および厚さ方向に沿って、長軸方向の周り方向を周方向(長軸方向に直行する断面(例えば、図5参照)における各容器の外周に沿う方向)と呼ぶ。また、ターゲット容器2の長軸方向において、荷電粒子線Pが照射される側を先端側と呼び、先端側の反対側となり液体金属Lが供給および排出される側を後端側と呼ぶ。即ち、ターゲット容器2は、照射される荷電粒子線Pに長軸方向の先端側を向けて配置されている。
【0030】
ターゲット容器2は、図3図6に示すように、三重構造の容器である。具体的に、ターゲット容器2は、液体金属Lが流通する液体容器21と、液体容器21を外側から覆う内側保護容器22と、内側保護容器22をさらに外側から覆う外側保護容器23と、を有する。ターゲット容器2は、ステンレス鋼などの固体金属により形成される。なお、図3においては、ターゲット容器2の各容器21,22,23の肉厚を省略して線にて示している。
【0031】
液体容器21は、液密性・気密性を有して形成され、内部の流通空間Vfに液体金属Lが流通する。液体容器21は、長軸方向における後端側に、上述した液体金属供給部3の供給流路5に繋がる供給口24と、回収流路7に繋がる回収口25と、が形成されている。供給口24および回収口25は、短軸方向の各端寄りに配置されて間隔を空けて設けられ、本実施形態では互いに同じく後端側に向かって開口して形成されている。
【0032】
液体容器21は、さらにビームダンプ26を有している。ビームダンプ26は、流通空間Vf内において後端側に設けられている。ビームダンプ26は中実の部材であり、先端側から液体容器21に入射した荷電粒子線Pが後端側へ漏洩することを抑制するものである。ビームダンプ26は、供給口24と回収口25との間で先端側に向かって延び、その先端側の端部から液体容器21の先端側の端部までの距離を、一例として1m程度空けて配置されている。このビームダンプ26は、液体容器21に対して一体に形成されることが望ましいが、別の部材として設けることも可能である。
【0033】
液体容器21は、さらに案内羽根27を有している。案内羽根27は、流通空間Vf内に液体金属Lの流れを案内するためのものである。案内羽根27は、供給口24および回収口25の短軸方向の内側でビームダンプ26を挟むように一対設けられている。一対の案内羽根27は、後端側から先端側の途中に至り長軸方向に延在し、厚さ方向で液体容器21の上下の内壁に当接して配置されていることで、ビームダンプ26を間において供給口24側と回収口25側とを仕切るように設けられている。また、一対の案内羽根27は、長軸方向で先端側に向かうに従って互いに漸次接近するように形成されている。
【0034】
内側保護容器22は、液体容器21を外側から覆っている。内側保護容器22は、万が一液体容器21から液体金属Lが漏洩した場合でも閉じ込めることができるように、液密性・気密性を有して形成されている。内側保護容器22は、その内面と液体容器21の外面との間に第一空間V1を有するように形成されている。第一空間V1は、不活性ガス(例えば、ヘリウム)が封入される。そして、ターゲット容器2の使用中に不活性ガスの圧力(分圧)を監視することで、不活性ガスの分圧に変化が生じた場合(例えば分圧が低下した場合)に液体容器21から液体金属Lの一部が漏洩していると判断することができる。
【0035】
外側保護容器23は、内側保護容器22を外側から覆っている。外側保護容器23は、液密性・気密性を有して形成されている。外側保護容器23は、その内面と内側保護容器22の外面との間に第二空間V2を有するように形成されている。第二空間V2は、内側保護容器22と外側保護容器23自体で生じる核発熱を冷却するための冷却水が流通する。
【0036】
上述したターゲット容器2において、液体容器21は、図4図6に示すように、荷電粒子線Pが照射される先端側に、液体金属Lを流通する狭隘流路Vgが形成されている。この狭隘流路Vgをなす部分は、液体容器21において後端側と別に形成されて溶接により接合される先端部28として形成されている。先端部28は、椀状に形成された先端内壁29と先端外壁30とで二重壁をなす二重構造であり、二重壁の間である先端内壁29の外面29aと先端外壁30の内面(内側の面)30aとの間に狭隘流路Vgをなす隙間が形成される。先端内壁29は、液体容器21の先端側には接合されず、後端29bの一部が先端外壁30の後端側における内側に接合されている。この先端内壁29が先端外壁30に接合される部分を接合部31という。先端外壁30は、先端内壁29を外側から覆い、かつ後端30bが液体容器21の先端側に接合される。狭隘流路Vgは、先端内壁29の後端29bが先端外壁30に接続されていない一部において流通空間Vf内に通じる開口部Vg1が形成されている。開口部Vg1は、本実施形態では、先端内壁29の後端29bが厚さ方向の両側において先端外壁30の内側に接続されていることで、短軸方向の両側において開口して形成されている。そのため、狭隘流路Vgは、短軸方向の一側から先端部28(液体容器21)の先端側を経て短軸方向の他側に到り、流通空間Vf内に通じている。従って、流通空間Vf内の液体金属Lは、狭隘流路Vgの一側の開口部Vg1から他側の開口部Vg1に流動し、流速が上がる。冷却特性上、本箇所の流速が上がることが望ましい。
【0037】
以下、液体容器21における先端部28の製造について説明する。図7は、本実施形態に係る液体容器の製造工程を示す斜視図である。図8は、本実施形態に係る液体容器の製造工程を示す断面図である。図9は、本実施形態に係る液体容器の製造工程を示す断面図である。図10は、本実施形態に係る液体容器の製造工程を示す部分拡大断面図である。図11は、本実施形態に係る液体容器の製造工程の他の例を示す部分拡大断面図である。図12は、本実施形態に係る液体容器の製造工程の他の例を示す部分拡大断面図である。図13は、液体容器の他の製造方法を示す部分拡大断面図である。
【0038】
先端部28は、図7図9に示すように、先端内壁29と先端外壁30とを接合部31で接合して形成される。
【0039】
先端内壁29は、先端外壁30との接合前において、削り出し加工により一塊にて一体に形成されている。図7に示すように、先端内壁29は、短軸方向に延びて厚さ方向に潰れ、先端側が閉塞し後端側が開放された腕状に形成されている。先端内壁29は、後端29bにおいて、厚さ方向の両側が一部切り欠かれて形成されている。この切り欠かれた部分は、先端外壁30と接合される接合部31となる。先端内壁29の接合部31は、厚さ方向の一方および他方において、短軸方向の両端部で、後端側から前端側に向かって長軸方向に切り欠かれ、先端側が短軸方向で連続している。長軸方向から短軸方向に変わる部分は円弧状に湾曲して形成されている。また、先端内壁29の各接合部31は、それぞれ第一平面31Aを有している。
【0040】
第一平面31Aは、図7図9に示すように、厚さ方向において相反する外側に向けて形成された平坦な面である。第一平面31Aは、先端内壁29の接合部31の形状に沿って形成されている。即ち、第一平面31Aは、先端内壁29の厚さ方向の一方および他方において、短軸方向の両端部で、後端側から前端側に向かって長軸方向に連なり、かつ先端側が短軸方向で連続し、長軸方向から短軸方向に変わる部分が円弧状に湾曲して形成されており、所定幅で連続する帯状に形成されている。また、第一平面31Aは、長軸方向から短軸方向に変わる湾曲部分を含み全てが同一平面上に形成されている。また、第一平面31Aは、狭隘流路Vgの内外の境に形成されている。
【0041】
先端外壁30は、先端内壁29との接合前において、削り出し加工により一塊にて一体に形成されている。図7に示すように、先端外壁30は、短軸方向に延びて厚さ方向に潰れ、先端側が閉塞し後端側が開放された腕状に形成されている。先端外壁30は、内側の一部において、先端内壁29と接合される接合部31を有している。先端外壁30の接合部31は、先端内壁29の接合部31と一致するように形成され、厚さ方向の一方および他方において、短軸方向の両端部で、後端側から前端側に向かって長軸方向に連なり、かつ先端側が短軸方向で連続している。軸方向から短軸方向に変わる部分は円弧状に湾曲して形成されている。また、先端外壁30の各接合部31は、それぞれ第二平面31Bを有している。
【0042】
第二平面31Bは、図7図9に示すように、厚さ方向において対向する内側に向けて形成された平坦な面である。第二平面31Bは、先端外壁30の接合部31の形状に沿って形成されている。即ち、第二平面31Bは、先端外壁30の厚さ方向の一方および他方において、短軸方向の両端部で、後端側から前端側に向かって長軸方向に連なり、かつ先端側が短軸方向で連続し、長軸方向から短軸方向に変わる部分が円弧状に湾曲して形成されており、所定幅で連続する帯状に形成されている。また、第二平面31Bは、長軸方向から短軸方向に変わる湾曲部分を含み全てが同一平面上に形成されている。
【0043】
また、第二平面31Bは、図7図9に示すように、先端外壁30の内側の面である内面30aに対して段差31Baを介して設けられ、内面30aから厚さ方向の内側に離れて形成されている。段差31Baは、狭隘流路Vgの外側となる後端側において先端外壁30の内面30aに形成され、第二平面31Bは、狭隘流路Vgの内外の境に形成されている。図7図9において、段差31Baは、先端外壁30の内面30aから突出する突起31Bbにより段差31Baが形成されており、第二平面31Bは、当該突起31Bbの突出端に形成されている。また、第二平面31Bは、先端外壁30の内面30aと平行に形成されていることが好ましい。
【0044】
第一平面31Aと第二平面31Bとは、互いに突き合わされる。そして、第一平面31Aと第二平面31Bとが突き合わされた状態で、相互が溶接により接合される。
【0045】
また、先端内壁29および先端外壁30は、削り出し加工の際、図10に示すように、互いの接合部31である第一平面31Aと第二平面31Bとが突き合わされて溶接される部分に開先31Cが形成される。開先31Cは、U形、V形、レ形、K形、J形など様々な形態でよいが、本実施形態では図10に示すU形が好ましい。開先31Cを形成することで、溶接の溶け込みが良好となり溶接の接合強度を確保できる。
【0046】
また、第一平面31Aと第二平面31Bとは、それぞれ湾曲部分を含み全てが同一平面上に形成されており、相互を突き合わせた状態で、相互が同一平面上に配置される。この同一平面を図10において仮想面Fで示している。即ち、第一平面31Aおよび第二平面31Bは、相互が同一平面(仮想面F)上に配置される。そして、溶接に際して、仮想面Fに沿って矢印Wの方向から二次元の軌跡により施工される。第二平面31Bが先端外壁30の内面30aと平行に形成されている場合、仮想面Fも先端外壁30の内面30aと平行に配置され、溶接に際して、仮想面Fに沿って先端外壁30の内面30aと平行な矢印Wの方向から二次元の軌跡により施工ができる。
【0047】
また、第二平面31Bが段差31Baを介して内面30aから厚さ方向の内側に離れて形成されている。従って、第一平面31Aおよび第二平面31Bが突き合わされた同一平面(仮想面F)は、段差31Baを介して内面30aから厚さ方向の内側に離れて形成されている。このため、溶接に際し、矢印Wの方向から仮想面Fに沿う二次元の軌跡は、内面30aから厚さ方向の内側に離れた位置となる。この結果、図10に示すように、溶接後の溶接部31Dの断面の中心が仮想面Fに沿って先端外壁30の内面30aから離れる位置で連続して配置される。この結果、溶接施工が容易であり、溶接の耐久性を確保しつつ、狭隘流路Vgをなす構造を高い精度で形成できる。
【0048】
なお、段差31Baは、図10に示すような突起31Bbにより設けることに限らない。段差31Baは、図11に示すように、先端外壁30の内側の面である内面30a自体に段が形成され、第二平面31Bを先端外壁30の内面30aと同じ面に形成するようにしてもよい。
【0049】
溶接は、Tig溶接や電子ビーム溶接により行うことができる。電子ビーム溶接は、Tig溶接と比較して入熱が少なく、溶接による変形が小さいため狭隘流路Vgの隙間管理が容易であることから、電子ビーム溶接による溶接が好適である。
【0050】
また、接合部31は、先端部28において後端側となる狭隘流路Vgの内外の境に形成されている。荷電粒子線Pの照射による液体金属Lとの核破砕反応による応力は、荷電粒子線Pが照射される先端側で高くなることから、溶接による接合部31は、先端部28において極力後端側に設けることが好ましい。
【0051】
本実施形態における液体容器21の製造方法は、図7図10に示すように、先端内壁29の後端29bの一部に同一平面上で第一平面31Aを形成する工程と、先端外壁30の内側の一部に第一平面31Aに突き合わされる第二平面31Bを同一平面上で先端外壁30の内面30aから段差31Baを介して形成する工程と、第一平面31Aと第二平面31Bとを突き合わせた部分を溶接によって接合する工程と、を含む。
【0052】
従って、第一平面31Aと第二平面31Bとが同一平面上で突き合わされた二次元で配置され、かつ、二次元の平面が段差31Baを介して先端外壁30の内面30aから離れて形成される。このため、溶接に際して二次元の軌跡で施工でき、かつ先端外壁30の内面30aから離れた位置で施工できる。この結果、溶接施工が容易となり、耐久性を確保しつつ、狭隘流路Vgをなす構造を高い精度で形成できる。即ち、荷電粒子線Pの入射時に瞬間的に生じる圧力および熱応力に耐え、狭隘流路Vgの隙間管理2mm(0,-0.5)を行うことができる。
【0053】
ここで、図13に示すように、先端部28を製造するにあたり、先端内壁29の後端29bを先端外壁30の内面30aに突き合わせて溶接する。この場合、溶接に際し、矢印W’で示すように溶接の方向が内面30aに対して斜め向きとなる。そして、上述したように接合部31は、長軸方向から短軸方向に変わる部分が円弧状に湾曲して形成されている。このため、電子ビーム溶接では、ビームを三次元的な軌跡とする必要があるため軌跡に沿ったプログラムによる溶接条件出しが難しく、溶接施工後に欠陥が生じる可能性がある。また、接合部31が曲がっていることから、Tig溶接では、入熱が大きく先端部28の変形が懸念され、かつ変形に伴い狭隘流路Vgの隙間管理が困難である。また、図13に示すように、溶接に際し、矢印W’で示すように溶接の方向が内面30aに対して斜め向きとなることから、溶接後の溶接部31Gにおいて先端外壁30側への溶け込みが不十分となる可能性がある。
【0054】
この点、本実施形態の液体容器の製造方法によれば、溶接に際して二次元の軌跡で施工でき、かつ先端外壁30の内面30aから離れた位置で施工できることから、溶接条件出しが容易であり、電子ビーム溶接による溶接施工が可能である。この結果、入熱による変形が小さく、狭隘流路Vgの隙間管理を行うことができる。しかも、溶接に際して二次元の軌跡で施工でき、かつ先端外壁30の内面30aから離れた位置で施工できることから、溶接後の溶接部31Dにおいて先端内壁29および先端外壁30への溶け込みが十分得られる。この結果、耐久性を確保できる。しかも、溶接に際して二次元の軌跡で施工でき、かつ先端外壁30の内面30aから離れた位置で施工できることから、溶接施工の健全性の確認を容易に行うことができる。
【0055】
また、本実施形態における液体容器21の製造方法では、段差31Baは、先端外壁30の内面30aから突出する突起31Bbにより設けられている。
【0056】
従って、溶接の溶け込みを先端外壁30の突起31Bbと先端内壁29の後端29bとの範囲に設けることができ、相互の溶接の接合強度を確保できる。
【0057】
また、本実施形態における液体容器21の製造方法では、第一平面31Aおよび第二平面31Bの互いに突き合わせる部分に開先31Cを形成する工程を含む。
【0058】
従って、開先31Cを形成することで、溶接の溶け込みが良好となり溶接の接合強度を確保できる。
【0059】
また、本実施形態における液体容器21の製造方法では、図11に示すように、第一平面31Aおよび第二平面31Bを互いに突き合わせた状態で嵌合部31Eを嵌め合わせる。
【0060】
嵌合部31Eは、第一平面31Aおよび第二平面31Bに形成された互いに嵌め合う凹凸で形成される。嵌合部31Eは、第一平面31Aおよび第二平面31Bに連続して形成されていても部分的に形成されていてもよい。
【0061】
従って、嵌合部31Eにより第一平面31Aと第二平面31Bとの突き合わせの位置を位置決めできる。この結果、溶接施工が容易となり、溶接の耐久性を確保しつつ、狭隘流路Vgをなす構造を高い精度で形成できる。
【0062】
また、本実施形態における液体容器21の製造方法では、先端内壁29と先端外壁30との溶接部は、第一平面31Aと第二平面31Bとを突き合わせた部分のみである。即ち、先端内壁29と先端外壁30とは、溶接部31D以外は、互いに削り出し加工により一塊で一体化されている。
【0063】
従って、狭隘流路Vgの途中にバウンダリとなる溶接部が存在しない。この結果、溶接施工の入熱による変形や、健全性の確認不足や、狭隘流路Vgの隙間管理不足を生じることがなく、荷電粒子線Pの入射時に瞬間的に生じる圧力および熱応力に耐える耐久性を向上できる。
【0064】
また、本実施形態における液体容器21の製造方法では、先端内壁29と先端外壁30との接合は、電子ビーム溶接によって施工する。
【0065】
従って、上述したように、入熱による変形が小さい電子ビーム溶接による溶接施工により、狭隘流路Vgの隙間管理を行うことができる。
【0066】
なお、本実施形態の液体容器21の製造方法において、先端内壁29と先端外壁30との接合にあたり、先に電子ビーム溶接により接合する第一接合工程と、第一接合工程の上からTig溶接により接合する第二接合工程と、を含んでもよい。
【0067】
従って、電子ビーム溶接により接合することで、裏波を確保することができ、かつスパッタを抑制することができる。そして、第一接合工程の上からTig溶接により接合することで、細かい仕上げを行うことができる。なお、上述したように、Tig溶接は入熱が比較的大きいが、先に第一溶接工程で電子ビーム溶接により接合することで、全てTig溶接により接合することと比較して入熱を抑えることができる。なお、溶接については、上記第一溶接工程および第二溶接工程に限定されるものではない。例えば、電子ビーム溶接のみ、またはTig溶接のみであってもよく、あるいはレーザビーム溶接を適用してもよい。
【0068】
また、本実施形態における液体容器21は、荷電粒子線Pが照射される先端部28が、先端内壁29と先端外壁30との間に液体金属Lが流通する狭隘流路Vgをなし、狭隘流路Vgの開口部Vg1を後端側に形成するように先端外壁30の内側の一部と先端内壁29の後端29bの一部とが接合された溶接部31Dを有し、溶接部31Dは、先端外壁30の内側の面である内面30aから離れる仮想面Fに沿って断面の中心が配置されている。
【0069】
従って、溶接部31Dが、先端外壁30の内側の面である内面30aから離れる仮想面Fに沿って断面の中心が配置されているため、先端内壁29および先端外壁30への溶け込みが十分得られ、耐久性を確保できる。
【符号の説明】
【0070】
2 ターゲット容器
3 液体金属供給部
4 タンク
5 供給流路
6 ポンプ
7 回収流路
21 液体容器
22 内側保護容器
23 外側保護容器
24 供給口
25 回収口
26 ビームダンプ
27 案内羽根
28 先端部
29 先端内壁
29a 外面
29b 後端
30 先端外壁
30a 内面
30b 後端
31 接合部
31A 第一平面
31B 第二平面
30Ba 段差
31Bb 突起
31C 開先
31D 溶接部
31E 嵌合部
31G 溶接部
100 中性子線照射装置
102 加速装置
103 調整装置
104 走査装置
105 ターゲット
106 減速装置
107 コリメータ
F 仮想面
L 液体金属
N 中性子線
P 荷電粒子線
S 被照射体
V1 第一空間
V2 第二空間
Vf 流通空間
Vg 狭隘流路
Vg1 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13