(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタおよびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B41J2/175 301
B41J2/175 121
B41J2/175 501
(21)【出願番号】P 2019028501
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】安形 和晃
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜太
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-028963(JP,A)
【文献】特開2006-021380(JP,A)
【文献】特開2012-121145(JP,A)
【文献】特開2017-222086(JP,A)
【文献】特開2014-111319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するインクタンクと、
インクを吐出するノズルを有するインクヘッドと、
前記インクヘッドに連通し、インクが一時的に貯留される貯留室を有するダンパーと、
少なくとも前記インクタンクと前記ダンパーとを連通するインク流路と、
前記インク流路に設けられ、前記インクタンクから前記ダンパーに向かってインクを送液する送液装置と、
前記インク流路の前記インクタンクと前記送液装置との間に設けられ、前記インク流路を開閉するバルブと、
前記ダンパーの前記貯留室内の圧力を検出する検出機構と、
前記インクヘッドから前記インクを出す動作が開始される前に、前記検出機構によって前記貯留室内の圧力を検出し、検出された前記圧力が所定の判定圧力以下であるか否かを判定するように構成された動作前判定部と、
前記検出機構によって検出された前記圧力が前記判定圧力以下であると判定されたときに、前記貯留室内の圧力が前記判定圧力よりも大きくなるまで前記送液装置を駆動するように構成された送液部と、
前記貯留室内の圧力が前記判定圧力よりも大きい状態で、前記インクヘッドを制御して前記インクを出す動作を行うと共に、前記送液装置を制御して第1送液量の前記インクを前記インクタンクから前記貯留室に送液するように構成されたインク消費部と、
前記インク消費部が前記第1送液量の前記インクを送液した後に、前記検出機構によって前記貯留室内の圧力を検出し、検出された前記圧力が所定の判定圧力以下である場合にインクエンプティと判定するように構成されたエンプティ判定部と、
を備える、インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記送液部は、前記第1送液量よりも多い第2送液量の前記インクを送液するように構成されている、
請求項1に記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記第2送液量は、前記第1送液量の2倍以上である、
請求項2に記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記送液部が前記送液装置を駆動させる前に、前記バルブを制御して前記インク流路を開放するように構成されたバルブ開放部、をさらに備える、
請求項1から3までの何れか1つに記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記バルブ開放部によって前記インク流路が開放された後、所定待機時間、前記送液装置を駆動せずに待機するように構成された待機部、をさらに備える、
請求項4に記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記貯留室は、一部に形成された開口を有し、
前記ダンパーは、
前記貯留室の前記開口を覆うダンパー膜と、
前記ダンパー膜に設けられた押圧体と、
前記ダンパー膜よりも前記貯留室とは反対側に設けられ、前記押圧体の移動に伴って位置が変更されるフィラーと、を備え、
前記検出機構は、前記フィラーが所定の範囲内に移動したか否かを検出し、前記所定の範囲内に前記フィラーが位置していないとき、前記貯留室内の圧力が前記判定圧力以下であることを検出するように構成されたフィラーセンサを有し、
前記動作前判定部は、前記フィラーセンサによって前記フィラーが前記所定の範囲内に位置しているか否かを判定し、
前記送液部は、前記フィラーが前記所定の範囲内に位置していると判定された場合に、前記送液装置を駆動するように構成されている、
請求項1から5までの何れか1つに記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項7】
印刷を指示する信号を受信する印刷信号受信部をさらに備え、
前記動作前判定部は、前記印刷信号受信部が前記信号を受信すると、前記検出機構によって前記貯留室内の圧力を検出するように構成されている、
請求項1から6までの何れか1つに記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記バルブは、前記送液装置よりも前記インクタンクの近くに設けられている、
請求項1から7までの何れか1つに記載されたインクジェットプリンタ。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか1つに記載されたインクジェットプリンタにおいて、コンピュータを、前記動作前判定部、前記送液部、前記インク消費部、および、前記エンプティ判定部として動作させるように構成されている、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタおよびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式によって記録媒体上に印刷を行うインクジェットプリンタが知られている。特許文献1には、インクを貯留するインクタンクと、インクを吐出するインクヘッドと、インクタンクとインクヘッドとを連通するインクチューブと、インクチューブの途中に設けられ、インクタンクからインクヘッドに向かってインクを送液する送液装置と、インクが一時的に貯留される貯留室を有し、インクヘッドにインクを供給するダンパーと、ダンパーの貯留室内の圧力を検出する検出機構と、インクヘッドと送液装置と検出機構とに接続された制御装置と、を備えるインクジェットプリンタが開示されている。
【0003】
上記インクジェットプリンタでは、印刷動作やクリーニング動作等によってインクヘッドからインクが吐出されると、ダンパーの貯留室内のインクが減少する。これに伴って、貯留室内の圧力が低下する。制御装置は、検出機構によって貯留室内の圧力が所定の判定圧力以下となったことが検出されると、送液装置を駆動してインクタンクからインクヘッドに向かって所定送液量のインクを送液する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、この検出機構の圧力検出結果をインクタンクのエンド検出(インクエンプティの判定)にも活用したいと考えた。すなわち、貯留室内のインクが減少して送液装置を駆動させると、通常は、インクタンクから貯留室内にインクが送液されるので、貯留室内の圧力が大きくなり、所定の判定圧力に到達するはずである。一方、インクタンクが空であると、送液装置を駆動させてもインクタンクから貯留室内にインクが送液されない。このため、貯留室内の圧力は所定の判定圧力以下のままである。したがって、送液装置を駆動した後の圧力検出結果に基づき、インクタンクのインクが空である(エンプティである)ことを判定することに思い至った。
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討を重ねるうち、検出機構の非作動時、例えば、プリンタの主電源がOFFの時や印刷停止時等にプリンタの状態に変化が生じると、インクエンプティの判定を誤るおそれがあることが新たに判明した。一例として、温度変化の影響等によってダンパーの貯留室内のインク体積が減少すると、貯留室内の圧力が所定の判定圧力を過度に下回った状態まで低下することがある。この状態から送液装置を駆動させると、貯留室内の圧力が所定の判定圧力に到達するまでには、所定送液量よりも多いインク量を送液する必要がある。このため、通常通りに所定送液量だけインクを送液すると、送液装置の駆動後も依然として貯留室内の圧力が所定の判定圧力以下のままとなり、誤ってインクエンプティと判定されることが想定される。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクエンプティの判定を安定して行うことができるインクジェットプリンタおよびコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットプリンタは、インクを貯留するインクタンクと、インクを吐出するノズルを有するインクヘッドと、前記インクヘッドに連通し、インクが一時的に貯留される貯留室を有するダンパーと、少なくとも前記インクタンクと前記ダンパーとを連通するインク流路と、前記インク流路に設けられ、前記インクタンクから前記ダンパーに向かってインクを送液する送液装置と、前記インク流路の前記インクタンクと前記送液装置との間に設けられ、前記インク流路を開閉するバルブと、前記ダンパーの前記貯留室内の圧力を検出する検出機構と、前記インクヘッドから前記インクを出す動作が開始される前に、前記検出機構によって前記貯留室内の圧力を検出し、検出された前記圧力が所定の判定圧力以下であるか否かを判定するように構成された動作前判定部と、前記検出機構によって検出された前記圧力が前記判定圧力以下であると判定されたときに、前記貯留室内の圧力が前記判定圧力よりも大きくなるまで前記送液装置を駆動するように構成された送液部と、前記貯留室内の圧力が前記判定圧力よりも大きい状態で、前記インクヘッドを制御して前記インクを出す動作を行うと共に、前記送液装置を制御して第1送液量の前記インクを前記インクタンクから前記貯留室に送液するように構成されたインク消費部と、前記インク消費部が前記第1送液量の前記インクを送液した後に、前記検出機構によって前記貯留室内の圧力を検出し、検出された前記圧力が所定の判定圧力以下である場合にインクエンプティと判定するように構成されたエンプティ判定部と、を備える。
【0009】
上記インクジェットプリンタでは、インクヘッドからインクを出す動作が開始される前に、検出機構によってダンパーの貯留室内の圧力が検出される。そして、貯留室内の圧力が所定の判定圧力以下であると判定された場合には、予め貯留室内の過度な負圧を緩和することができる。これにより、たとえ検出機構が作動していないときにプリンタの状態が変化したとしても、貯留室内の圧力が均質に整った状態で、インクヘッドからインクを出す動作を行うことができる。したがって、インクエンプティの誤検出が生じにくくなり、インクエンプティの判定精度を高めることができる。また、プリンタの主電源がOFFの時や印刷停止時等には、検出機構を非制御状態とすることができるため、制御装置の負荷を軽減することができる。さらに、ランニングコストを低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクタンクのインクエンプティの判定を安定して行うことができるインクジェットプリンタおよびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】キャリッジおよびインクヘッドの下面図である。
【
図3】インク供給システムとクリーニング機構の構成を示す模式図である。
【
図4】送液ポンプの内部構成を模式的に示す鉛直断面図である。
【
図5】貯留室の圧力が判定圧力以下であるときのダンパーの水平断面図である。
【
図6】貯留室の圧力が判定圧力より大きいときのダンパーの水平断面図である。
【
図8】前処理動作の一例の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るインクジェットプリンタおよびコンピュータプログラムについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0013】
なお、本明細書において「インクジェットプリンタ」とは、従来公知のインクジェット技術による印刷方法、例えば、二値偏向方式あるいは連続偏向方式等の連続方式や、サーマル方式、あるいは圧電素子方式等の各種のオンデマンド方式を利用したプリンタ全般をいう。また、「プリンタ」には、二次元の画像を印刷する、所謂2Dプリンタと、三次元の造形物を造形する、所謂3Dプリンタ(三次元造形装置)と、が包含される。
【0014】
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ(以下、プリンタという。)10の正面図である。プリンタ10は、2Dプリンタである。なお、以下の説明において、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、プリンタ10を正面から見たときの前、後、左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号X、Y、Zは、前後方向、左右方向、上下方向を表すものとする。左右方向Yは、後述するキャリッジ20およびインクヘッド32の移動方向(主走査方向)である。また、前後方向Xは、平面視において主走査方向Yと直交する方向である。ただし、これらの方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、プリンタ10の設置態様を何ら限定するものではない。
【0015】
プリンタ10は、大判サイズの記録媒体5に対して印刷を行う、業務用の大型プリンタである。記録媒体5は、本実施形態ではロール状の媒体であり、所謂、ロール紙である。ただし、記録媒体5の形態はロール状に限定されない。また、記録媒体5の材質は特に限定されない。例えば記録媒体5は、普通紙やインクジェット用印刷紙等の紙類以外に、例えば、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、PVC)やポリエステル等の樹脂製のシートやフィルム、アルミニウム、鉄、木材、ガラス等の各種の材料からなる板材、織布や不織布等の布帛、その他の媒体であってもよい。
【0016】
図1に示すように、プリンタ10は、プリンタ本体11と、脚部12と、操作パネル13と、プラテン14と、ガイドレール15と、キャリッジ20と、キャリッジ移動機構21と、インク供給システム30(
図1には図示せず、
図3参照)と、クリーニング機構50(
図3も参照)と、制御装置60(
図7も参照)と、を備えている。プリンタ本体11は、主走査方向Yに延びたケーシングを有している。脚部12は、プリンタ本体11よりも下方に設けられ、プリンタ本体11を支持している。操作パネル13は、プリンタ本体11の右端部に設けられている。操作パネル13は、ユーザが印刷に関する操作を行うためのものである。
【0017】
プラテン14は、プリンタ本体11に設けられ、主走査方向Yに延びている。プラテン14は、ガイドレール15よりも下方に配置されている。プラテン14には、記録媒体5が載置される。プラテン14は、印刷時に記録媒体5を支持するものである。ガイドレール15は、プラテン14よりも上方に配置されている。ガイドレール15は、プリンタ本体11に設けられ、主走査方向Yに延びている。ガイドレール15は、プラテン14と平行に配置されている。ガイドレール15には、キャリッジ20が摺動可能に係合している。キャリッジ20には、4つのインクヘッド32が設けられている。なお、インクヘッド32の個数は一例に過ぎず、特に限定されない。キャリッジ20は、印刷待機時に、ガイドレール15の右端部分に設定されたホームポジションHPに待機している。
【0018】
キャリッジ移動機構21は、キャリッジ20およびインクヘッド32を主走査方向Yに移動させる機構である。キャリッジ移動機構21は、本実施形態では、ガイドレール15の左右に配置されたプーリ22a、22bと、左右のプーリ22a、22bに巻き掛けられた無端状のベルト23と、右のプーリ22bに接続されたモータ24と、を備えている。キャリッジ20は、ベルト23に取り付けられている。モータ24は、制御装置60と電気的に接続されており、制御装置60によって制御される。モータ24が駆動すると右のプーリ22bが回転し、ベルト23が走行する。これにより、キャリッジ20およびインクヘッド32は、ガイドレール15に沿って主走査方向Yに移動する。ただし、ここで説明する機構は一例に過ぎず、キャリッジ移動機構21の構成は特に限定されない。
【0019】
図2は、キャリッジ20およびインクヘッド32を下方から見た図である。
図2に示すように、キャリッジ20には、4つのインクヘッド32が主走査方向Yに並んで配置されている。各インクヘッド32は、複数のノズル33が形成されたノズル面34を有している。ノズル面34は、インクヘッド32の下面の一部を形成している。ノズル面34は、プラテン14(
図1参照)と対向している。ノズル面34では、複数のノズル33が前後方向Xに一直線上に並んで、ノズル列33aが形成されている。なお、ノズル列33aの形態は特に限定されない。ノズル列33aは、例えば、千鳥状に配列された複数のノズル33によって形成されていてもよいし、2列以上に形成されていてもよい。各インクヘッド32は、制御装置60と電気的に接続されており、制御装置60によって制御される。
【0020】
図3は、インク供給システム30およびクリーニング機構50の構成を示す模式図である。インク供給システム30内は、閉鎖された空間である。インク供給システム30は、ここでは、インクタンク31と、上記したインクヘッド32と、ダンパー35と、インク流路36と、開閉バルブ38と、送液ポンプ39と、を備えている。本実施形態では、インクヘッド32とダンパー35とが、一体的に設けられている。インク供給システム30には、他の部材、例えば第2のバルブや循環流路等が、適宜追加されてもよい。インク供給システム30は、インクタンク31内のインクを、ダンパー35を介してインクヘッド32へ供給するシステムである。インク供給システム30は、本実施形態ではインクヘッド32ごとに設けられている。このため、プリンタ10は、4つのインク供給システム30を備えている。ただし、インク供給システム30の数は特に限定されない。また、本実施形態では、各インク供給システム30が同じ構成である。ただし、複数のインク供給システム30の構成は、一部または全部が同じでなくてもよい。
【0021】
インクタンク31は、インクが貯留されている容器である。インクタンク31は、例えば消耗品であり、中身のインクが無くなる(空になる)と、新しいものと交換される。インクタンク31は、例えばインクカートリッジである。なお、インクタンク31に貯留されているインクの種類は何ら限定されない。インクは、例えば、ソルベント系(溶剤系)顔料インクや、水性顔料インクであってもよいし、水性染料インクや、紫外線を受けて硬化する紫外線硬化型顔料インク等であってもよい。インクは、例えば、CMYK等の画像形成用のプロセスカラーインクであってもよく、画像の下地または裏地を形成する前処理用のプライマーインクであってもよい。インクは、画像の表面に光沢を付与するためのグロスインク(透明インク)やメタリックインクであってもよい。
【0022】
インクヘッド32は、ノズル面34がインクタンク31よりも下方になるように配置されている。このことにより、インクタンク31内のインクは、ノズル面34よりも上方に位置している。また、インクタンク31のノズル面34に対する水頭値は、常時、正の値になっている。インクヘッド32のノズル33からは、インクタンク31に貯留されているインクが吐出される。
【0023】
インク流路36は、インクタンク31に貯留されたインクをダンパー35に供給する流路である。特に限定されるものではないが、インク流路36は、例えば可撓性のチューブによって構成されている。インク流路36の一端(上流端)は、インクタンク31に接続されている。インク流路36の他端(下流端)は、ダンパー35に接続されている。本実施形態では、インク流路36の途中部分に、上流側から順に、開閉バルブ38と送液ポンプ39とが設けられている。インク流路36は、第1流路36aと、第2流路36bと、第3流路36cとを有している。第1流路36aは、ここでは第2流路36bよりも短い。
【0024】
第1流路36aは、インクタンク31から開閉バルブ38に向かってインクを流す流路である。第1流路36aの一端はインクタンク31に着脱可能に接続されている。第1流路36aの他端は開閉バルブ38に接続されている。第2流路36bは、第1流路36aよりもインクヘッド32に近い側に配置されている。第2流路36bは、開閉バルブ38から送液ポンプ39に向かってインクを流す流路である。第2流路36bの一端は、開閉バルブ38に接続されている。第2流路36bの他端は、送液ポンプ39に接続されている。第3流路36cは、第1流路36aおよび第2流路36bよりもインクヘッド32に近い側に配置されている。第3流路36cは、送液ポンプ39からダンパー35に向かってインクを流す流路である。第3流路36cの一端は送液ポンプ39に接続されている。第3流路36cの他端は、ダンパー35に接続されている。
【0025】
開閉バルブ38は、インク流路36の途中部分に設けられている。具体的には、第1流路36aと第2流路36bとの間に配置されている。開閉バルブ38は、送液ポンプ39よりもインクタンク31に近い部分に配置されている。開閉バルブ38は、インク流路36を開閉するバルブである。開閉バルブ38は、第1流路36aと第2流路36bとの間の部分を開閉する。なお、バルブ38が第1流路36aと第2流路36bとの間の部分を開閉するとは、バルブ38が当該部分を完全に開放または閉鎖する場合と、当該部分を部分的に開放または閉鎖する場合とを含む。特に限定されるものではないが、開閉バルブ38は、例えばチョークバルブである。開閉バルブ38は、制御装置60と電気的に接続されており、制御装置60によって制御される。開閉バルブ38は、典型的には、インクヘッド32からインクを出す(吐出、吸引、排出を包含する。)とき以外、閉鎖されている。制御装置60によって開閉バルブ38が開放されることで、第1流路36aと第2流路36bとが連通し、インクタンク31に貯留されたインクをダンパー35に供給することが可能となる。開閉バルブ38は、本発明のバルブの一例である。
【0026】
送液ポンプ39は、インク流路36の途中部分に設けられている。具体的には、第2流路36bと第3流路36cとの間に配置されている。送液ポンプ39は、開閉バルブ38よりもインクヘッド32に近い側に配置されている。送液ポンプ39は、インクタンク31内のインクを、ダンパー35を介してインクヘッド32に供給するためのものである。特に限定されるものではないが、送液ポンプ39は、例えば、チューブポンプである。ただし、送液ポンプ39は、ダイヤフラムポンプやシリンジポンプ等であってもよい。送液ポンプ39は、制御装置60と電気的に接続されており、制御装置60によって制御される。送液ポンプ39は、本発明の送液装置の一例である。
【0027】
図4は、送液ポンプ39の内部を模式的に示す鉛直断面図である。送液ポンプ39は、チューブポンプである。送液ポンプ39は、内部チューブ71と、一対のローラ72と、一対のローラ72を支持するアーム73と、アーム73に接続されたモータ74と、を備えている。内部チューブ71は、例えば可撓性のチューブによって構成されている。内部チューブ71の上流側端部71aは、第2流路36bに接続されている。内部チューブ71の下流側端部71bは、第3流路36cに接続されている。内部チューブ71は、略円弧状に曲げられている。一対のローラ72は、それぞれアーム73の両端に配置されている。アーム73は、回転軸73aを軸に回転可能に構成されている。制御装置60によってモータ74が駆動されると、一対のアーム73が回転する。すると、一対のローラ72が内部チューブ71を押し潰しながらアーム73の回転軸73aの周りを遊星回転する。これによって、一対のローラ72の進行方向、すなわち、インクタンク31からインクヘッド32に向かって、インクが供給される。
【0028】
本実施形態において、モータ74は、パルス発信器74aを備えている。パルス発信器74aは、モータ74の回転位置を検出している。パルス発信器74aは、アーム73が1/16回転(360度/16回転)するごとにパルスを発信する。モータ74およびパルス発信器74aは、制御装置60に接続されている。制御装置60は、アーム73の1/16回転を、送液ポンプ39の1回の駆動とカウントしている。制御装置60は、パルス発信器74aから送信されるパルスに基づいて、送液ポンプ39を1/16回転ずつ(22.5°ずつ)駆動させる。送液ポンプ39の1回の駆動(ここでは、1/16回転)あたりの送液量は、予め定められている。送液ポンプ39が1回駆動されると、内部チューブ71の「360度/16回転」分に充填されている分のインクが第3流路36cに押し出され、インクヘッド32に向かって送液される。
【0029】
図3に示すように、ダンパー35は、インクヘッド32の真上に設けられている。ダンパー35は、インクヘッド32に連通されている。ダンパー35は、インクの圧力変動を緩和して、インクヘッド32のノズル33からのインクの吐出動作を安定させるものである。ダンパー本体41の上部には、流入口45a(
図3には図示せず、
図5、
図6参照)が形成されている。流入口45aは、第3流路36cに接続されている。また、ダンパー本体41の下部には、流出口45bが形成されている。流出口45bは、インクヘッド32に接続されている。ただし、流入口45aおよび流出口45bの形成位置は一例であり、特に限定されない。ダンパー35は、インクヘッド32からインクを出す動作を実行するときに、流入口45aから貯留室42内に流入したインクが、流出口45bを通じてインクヘッド32へと送られるように構成されている。
【0030】
図5、
図6は、ダンパー35の水平断面図である。なお、
図5は、貯留室42の圧力が判定圧力以下である状態を示しており、
図6は、貯留室42の圧力が判定圧力より大きい状態を示している。ダンパー35は、ダンパー本体41と、貯留室42と、ダンパー膜43と、検出機構44と、弾性部材45と、を備えている。
図5に示すように、ダンパー本体41は中空である。ダンパー本体41の内部には、貯留室42が区画されている。貯留室42は、第3流路36cおよびインクヘッド32と連通している。貯留室42には、インクが一時的に貯留される。貯留室42は、一部に形成された開口を有している。
【0031】
ダンパー膜43は、貯留室42の開口部分を覆うようにダンパー本体41に設けられている。ここでは、ダンパー膜43とダンパー本体41によって囲まれた空間が貯留室42である。特に限定されるものではないが、ダンパー膜43は、例えば可撓性を有する樹脂製のフィルムによって構成されている。ダンパー膜43は、貯留室42内のインクの貯留量や、貯留室42内の圧力に基づいて、貯留室42の内側および外側に変形可能なように設けられている。ダンパー膜43は、貯留室42の内側および外側にそれぞれ撓むことができる程度の張力で、ダンパー本体41に取り付けられている。
【0032】
弾性部材45は、貯留室42内に配置されている。弾性部材45は、ダンパー膜43に対向する貯留室42の一面に取り付けられている。特に限定されるものではないが、弾性部材45は、例えばコイルバネである。弾性部材45は、圧縮された状態で貯留室42の内部に配置されている。弾性部材45は、ダンパー膜43に対して貯留室42の内側に向かう方向の弾性力を付与する。
【0033】
検出機構44は、貯留室42内の圧力を検出する機構である。検出機構44は、インク流路36(
図3参照)内の圧力を間接的に検出する機構である。検出機構44は、押圧体46と、フィラー47と、フィラーセンサ48と、を備えている。押圧体46は、ダンパー膜43に設けられている。押圧体46は、ダンパー膜43の貯留室42側の面に設けられている。ただし、ダンパー膜43に対する押圧体46の相対的な位置は特に限定されない。押圧体46は、例えばダンパー膜43の貯留室42とは反対側の面に設けられていてもよい。押圧体46は、弾性部材45に支持されている。押圧体46は、ダンパー膜43の撓みに伴って、貯留室42の内側および外側にスライド移動する。ただし、ここで説明する機構は一例に過ぎず、検出機構44の構成は特に限定されない。
【0034】
フィラー47は、ダンパー膜43または押圧体46と接触可能なように、ダンパー本体41に取り付けられている。本実施形態では、ダンパー本体41に支持バネ49が設けられおり、フィラー47は、支持バネ49を介して間接的にダンパー本体41に取り付けられている。特に限定されるものではないが、フィラー47は、ここでは略コの字状に形成されている。詳しくは、フィラー47は、押圧体46の右方において、前後方向Xに延びた接触部47aと、接触部47aの後端から左方に延びた支持部47bと、接触部47aの前端から左方に延びた被検出部47cと、を有している。接触部47aは、ダンパー膜43または押圧体46に接触する。支持部47bは、支持バネ49に支持されている。被検出部47cは、フィラーセンサ48によって検出される部位である。
【0035】
フィラーセンサ48は、フィラー47の被検出部47cの位置を検出することによって、貯留室42内の圧力を検出する。フィラーセンサ48は、貯留室42内の圧力を検出する。特に限定されるものではないが、フィラーセンサ48は、例えば非接触式のセンサである。フィラーセンサ48は、一対の検出部48aを有している。ただし、フィラーセンサ48は接触式のセンサであってもよい。
図5に示すように、一対の検出部48aの間にフィラー47の被検出部47cが位置しているとき、フィラーセンサ48は、貯留室42の圧力が所定の判定圧力以下であることを検出する。フィラーセンサ48は、検出機構の一例である。インクヘッド32からインクを出す動作を実行するときは、フィラーセンサ48の検出結果に基づいて送液ポンプ39の駆動が制御される。
【0036】
図6に示すように、貯留室42の圧力が大きくなるにしたがって、ダンパー膜43は貯留室42の外側に撓む。すると、押圧体46によってフィラー47が貯留室42の外側に押される。これにより、フィラー47は、接触部47aと支持部47bとの接続部47dを軸にして回動する。そして、貯留室42の圧力が所定の判定圧力より大きくなると、フィラー47の被検出部47cが、フィラーセンサ48の一対の検出部48aの間から外れた位置に移動する。フィラーセンサ48は、一対の検出部48aの間に被検出部47cが位置していないとき、貯留室42の圧力が所定の判定圧力よりも大きいことを検出する。
なお、一対の検出部48aの間の範囲は、本発明の所定の範囲内の一例である。
【0037】
以下の説明では、
図5に示すように、一対の検出部48aの間に被検出部47cが位置しているとき、すなわち、貯留室42の圧力が所定の判定圧力以下のとき、フィラー47が「ヒット状態である」という。一方、
図6に示すように、一対の検出部48aの間に被検出部47cが位置していないとき、すなわち、貯留室42の圧力が所定の判定圧力よりも大きいとき、フィラー47が「アンヒット状態である」という。
【0038】
図3に示すように、クリーニング機構50は、インクヘッド32をクリーニングするクリーニング動作を行うための機構である。クリーニング機構50は、キャップ51と、キャッピング機構52と、吸引ポンプ53と、を備えている。プリンタ10は、インクヘッド32の数と同数(すなわち、4つ)のキャップ51を備えている。キャップ51は、ホームポジションHPに配置されている。ホームポジションHPでは、キャップ51がインクヘッド32の真下に位置している。特に限定されるものではないが、キャップ51は、例えば上部が開口した有底の箱状の形状を有している。キャップ51は、インクヘッド32のノズル面34に着脱可能に装着される。キャップ51は、インクヘッド32に装着されたときに、インクヘッド32のノズル33の周囲を覆うように構成されている。これにより、非印刷時にインクヘッド32のノズル33に付着したインクが硬化して、ノズル33が詰まることを抑制することができる。
【0039】
キャッピング機構52は、キャップ51を支持し、インクヘッド32のノズル面34に対して、キャップ51を装着させたり、離間させたりするものである。キャッピング機構52は、キャップ51に接続されている。
図3の矢印Aのように、キャッピング機構52は、ホームポジションHPにおいて、インクヘッド32のノズル面34に向かって(上下方向Zに)キャップ51を昇降させる機構である。キャッピング機構52は、図示しないモータを備えている。モータが駆動することで、キャップ51が、ノズル面34に向かって移動したり、ノズル面34から離間したりする。ただし、ここで説明する機構は一例に過ぎず、キャッピング機構52の構成は特に限定されない。
【0040】
キャップ51は、チューブ等の廃液経路54を介して、廃液タンク55に接続されている。廃液経路54の途中部分には、吸引ポンプ53が設けられている。吸引ポンプ53は、キャップ51の底面に接続されている。吸引ポンプ53は、ノズル面34にキャップ51が装着されている状態において、インクヘッド32のノズル33からインクを吸引したり、キャップ51内に溜まったインク等を吸引したりするものである。特に限定されるものではないが、吸引ポンプ53は、例えば、真空ポンプである。吸引ポンプ53は、制御装置60と電気的に接続されており、制御装置60によって制御される。インクヘッド32にキャップ51が装着された状態で吸引ポンプ53が駆動されると、インクヘッド32のノズル33からインクやごみ等が吸い出され、キャップ51内に吐出される。キャップ51内に吐出されたインク等は、廃液経路54を介して廃液タンク55に回収される。
【0041】
制御装置60は、印刷に関する制御、および、クリーニングに関する制御を行う装置である。
図1に示すように、本実施形態において、制御装置60はプリンタ本体11の内部に配置されたプリンタ10専用のコンピュータである。制御装置60は、例えばマイクロコンピュータである。ただし、制御装置60は、プリンタ本体11の外部に配置され、有線または無線を介してプリンタ10と通信可能に接続された汎用のパーソナルコンピュータ等であっていてもよい。制御装置60のハードウェア構成は特に限定されない。制御装置60は、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から印刷データを受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。
【0042】
図7は、制御装置60の機能ブロック図である。
図7に示すように、制御装置60は、操作パネル13と、キャリッジ移動機構21のモータ24と、インクヘッド32と、インク供給システム30の開閉バルブ38と、送液ポンプ39のモータ74と、ダンパー35の検出機構44のフィラーセンサ48と、クリーニング機構50のキャッピング機構52および吸引ポンプ53と、にそれぞれ通信可能に接続されており、それらを制御可能に構成されている。
【0043】
制御装置60は、印刷信号受信部61と、印刷制御部62と、クリーニング制御部63と、記憶部64と、動作前判定部65と、負圧緩和部66と、エンプティ判定部67と、通知部68と、を備えている。なお、印刷制御部62およびクリーニング制御部63は、本発明のインク消費部の一例である。また、動作前判定部65および負圧緩和部66は、インク消費部がインクを消費する動作を開始する前に、所定の動作を行う制御部である。エンプティ判定部67および通知部68は、インク消費部がインクを消費する動作を行った後に、所定の動作を行う制御部である。制御装置60の各部は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。例えば上述した各部は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されるものであってもよいし、回路に組み込まれるものであってもよい。
【0044】
印刷信号受信部61は、図示しない外部機器から印刷を指示する信号(印刷指示信号)および印刷データを受信する。印刷制御部62は、受信した印刷データに基づいて、記録媒体5に対して印刷動作を行う制御部である。印刷制御部62は、モータ24を駆動してキャリッジ20を左右に移動させるとともに、インクヘッド32を駆動することによって、記録媒体5に向かってノズル33からインクを吐出させる。印刷制御部62は、インクヘッド32からインクを出す動作を行うインク消費部の一例である。
【0045】
印刷制御部62は、印刷動作によってダンパー35の検出機構44によって貯留室42の圧力が所定の判定圧力以下であること、言い換えれば、貯留室42内のインクが所定量以下まで減少したことが検出されると、送液ポンプ39を駆動させて、所定の第1送液量のインクをダンパー35に向けて送液する。ここでは、印刷制御部62は、送液ポンプ39を所定の第1動作回数、駆動させて、インクを送液する。印刷動作時の第1動作回数は、記憶部64に予め記憶されている。印刷動作時の第1動作回数は、例えばダンパー35の貯留室42の容積や、送液ポンプ39の種類、印刷動作時の単位時間あたりのインク消費量、等によって適宜設定される回数である。特に限定されるものではないが、例えば本実施形態のように1/16回転ずつ動作可能な送液ポンプ39の場合、印刷動作時の第1動作回数は、1/16回転~5/16回転(一例では、3/16回転)であってもよい。
【0046】
クリーニング制御部63は、インクヘッド32のノズル33から安定してインクを吐出するために、クリーニング動作を行う制御部である。クリーニング制御部63は、例えば印刷動作が終了してから所定時間が経過するごとに、定期的にクリーニング動作を行うように構成されていてもよい。この場合、上記所定時間は、予め記憶部64に記憶されていてもよい。クリーニング動作は、フラッシング動作や吸引動作等を包含する。フラッシング動作の場合、クリーニング制御部63は、キャッピング機構52のモータ(図示せず)を駆動してインクヘッド32のノズル面34にキャップ51を装着すると共に、ノズル33からキャップ51に向かってインクを吐出させる。吸引動作の場合、クリーニング制御部63は、キャッピング機構52のモータ(図示せず)を駆動してインクヘッド32のノズル面34にキャップ51を近接あるいは装着させると共に、吸引ポンプ53を駆動して、インクヘッド32のノズル33からインクを吸引する。クリーニング制御部63は、インクヘッド32からインクを出す動作を行うインク消費部の一例である。
【0047】
クリーニング制御部63は、吸引動作やフラッシング動作によってダンパー35の検出機構44によって貯留室42の圧力が所定の判定圧力以下であること、言い換えれば、貯留室42内のインクが所定量以下まで減少したことが検出されると、送液ポンプ39を駆動させて、所定の第1送液量のインクをダンパー35に向けて送液する。クリーニング動作時の第1送液量は、印刷動作時の第1送液量と同じであってもよいし異なっていてもよい。ここでは、クリーニング制御部63は、送液ポンプ39を所定の第1動作回数、駆動させて、インクを送液する。クリーニング動作時の第1動作回数は、記憶部64に予め記憶されている。クリーニング動作時の第1動作回数は、印刷動作時の第1動作回数と同じであってもよいし異なっていてもよい。クリーニング動作時の第1動作回数は、印刷動作時の第1動作回数よりも多くてもよい。クリーニング動作時の第1動作回数は、例えばダンパー35の貯留室42の容積や、送液ポンプ39の種類、インク吸引時の単位時間あたりのインク消費量、等によって適宜設定される回数である。特に限定されるものではないが、例えば本実施形態のように1/16回転ずつ動作可能な送液ポンプ39の場合、クリーニング動作時の第1動作回数は、1/16回転~5/16回転(一例では、4~5/16回転)であってもよい。
【0048】
動作前判定部65は、インクヘッド32からインクを出す動作の前に、ダンパー35の検出機構44によって貯留室42の検出圧力を検出し、検出圧力が所定の判定圧力以下であるか否かを判定する制御部である。動作前判定部65は、本実施形態では、フィラーセンサ48によって、フィラー47が所定の範囲内に位置しているか否かを判定する。言い換えると、動作前判定部65は、フィラー47がヒット状態かアンヒット状態かを判定する。
【0049】
負圧緩和部66は、動作前判定部65でフィラー47がヒット状態であると判定された場合に、予め定められた負圧緩和動作を行う制御部である。負圧緩和部66は、バルブ開放部66Aと、待機部66Bと、送液部66Cと、を備えている。なお、バルブ開放部66Aと待機部66Bとは必須ではなく、他の実施形態においては、バルブ開放部66Aおよび/または待機部66Bを省略することもできる。
【0050】
バルブ開放部66Aは、主に第2流路36bの負圧を緩和または解除する制御部である。バルブ開放部66Aは、開閉バルブ38を制御して、第1流路36aと第2流路36bとの間の部分を開放させる。待機部66Bは、第1流路36aと第2流路36bとの負圧状態を均す(均質化する)制御部である。待機部66Bは、開閉バルブ38が開放された状態で、所定待機時間の間、待機する。この間、待機部66Bは、送液ポンプ39を駆動せず、送液ポンプ39を停止させたまま維持する。所定待機時間は、記憶部64に予め記憶されている。所定待機時間は、例えば第2流路36bの容積等によって適宜設定される時間である。特に限定されるものではないが、所定待機時間は、例えば1~10秒(一例では4秒)である。
【0051】
送液部66Cは、フィラー47がアンヒット状態となるまで、ダンパー35の貯留室42内の圧力を高める制御部である。送液部66Cは、送液ポンプ39を駆動させて、所定の第2送液量のインクをダンパー35に向けて送液する。ここでは、送液部66Cは、所定の第2動作回数、送液ポンプ39を駆動させて、インクを送液する。第2動作回数は、記憶部64に予め記憶されている。第2動作回数は、例えばダンパー35の貯留室42の容積や、送液ポンプ39の種類、等によって適宜設定される回数である。第2動作回数は、典型的には第1動作回数と異なる値である。第2動作回数は、例えば印刷動作時および/またはクリーニング動作時の第1動作回数と同じかそれよりも大きい値である。第2動作回数は、第1動作回数の2倍以上、例えば2~3倍の値であってもよい。特に限定されるものではないが、例えば本実施形態のように1/16回転ずつ動作可能な送液ポンプ39の場合、第2動作回数は、5/16回転~10/16回転(一例では7/16回転)であってもよい。
【0052】
エンプティ判定部67は、印刷制御部62またはクリーニング制御部63が第1送液量のインクをダンパー35に向けて送液した後に、ダンパー35の検出機構44によって貯留室42の検出圧力を検出する。エンプティ判定部67は、送液部66Cが第2送液量のインクをダンパー35に向けて送液した後に、ダンパー35の検出機構44によって貯留室42の検出圧力を検出しうる。そして、検出圧力が所定の判定圧力以下である場合に、インクエンプティと判定する制御部である。エンプティ判定部67は、本実施形態では、フィラーセンサ48によって、フィラー47が所定の範囲内に位置しているか否かを判定する。エンプティ判定部67は、フィラー47が依然としてヒット状態である場合にインクエンプティと判定する。
【0053】
通知部68は、エンプティ判定部67でインクエンプティと判定された場合に、ユーザにインクエンプティを通知する動作を行う制御部である。なお、ユーザにインクエンプティを通知する具体的な手段は特に限定されない。通知部68は、例えば操作パネル13の表示画面(図示せず)に所定のメッセージを表示してもよい。通知部68は、例えばプリンタ本体11に設けられたブザー(図示せず)から音を発するように制御してもよいし、プリンタ本体11に設けられたLEDなどの光源(図示せず)を点灯させるように制御してもよい。
【0054】
次に、前処理動作について説明する。前処理動作は、インクタンク31内のインクを消費する動作が開始される前に実行される制御である。ここで、「インクタンク31内のインクを消費する動作」とは、例えば印刷動作やクリーニング動作等で、インクヘッド32からインクを出す動作である。印刷動作では、インクヘッド32のインクが記録媒体5に向かって吐出される。インクヘッド32のインクが消費されることで、インクタンク31内のインクがインクヘッド32に供給される。その結果、インクタンク31内のインクを消費する。クリーニング動作のうち、例えばフラッシング動作では、インクヘッド32のインクがキャップ51に排出される。また、例えば吸引動作では、インクヘッド32のインクが吸引ポンプ53に吸引される。そのため、インクヘッド32のインクが消費され、インクタンク31内のインクがインクヘッド32に供給される。これにより、インクタンク31内のインクが消費される。
【0055】
図8は、前処理動作の一例の手順を示すフローチャートである。前処理動作は、例えば、印刷信号受信部61が印刷指示信号を受信した後であって、印刷制御部62が印刷動作を実行する前に行われる。前処理動作は、例えば、クリーニング制御部63がクリーニング動作を実行する前に行われる。前処理動作は、本実施形態では、4つのインクヘッド32に対して同時に行われる。本実施形態の前処理動作は、判定動作と負圧緩和動作とをこの順に含んでいる。なお、任意の段階においてその他の動作を含むことは妨げられない。
【0056】
前処理動作では、まず判定動作が行われる。判定動作では、判定処理(ステップS1)が実行される。判定処理は、負圧緩和動作を行うか否かを判定する処理である。動作前判定部65は、判定処理を実行するように構成またはプログラムされている。ステップS1では、動作前判定部65が、ダンパー35の検出機構44によって貯留室42内の圧力を検出し、圧力が所定の判定圧力以下であるか否かを判定する。本実施形態では、動作前判定部65が、フィラーセンサ48によってフィラー47が所定の範囲内に位置しているか否かを判定する。言い換えると、動作前判定部65は、フィラー47がヒット状態か否かを判定する。
【0057】
そして、フィラー47がヒット状態ではない(アンヒット状態である)場合は、ステップS1がNoと判定され、前処理動作を終了する。すなわち、フィラー47がアンヒット状態である場合は、貯留室42内のインク体積(言い換えれば圧力状態)が維持されている状態である。このため、ステップS1がNoと判定された場合は、負圧緩和動作は実行しない。そして、インクを消費する動作(例えば印刷動作やクリーニング動作)に進む。一方、フィラー47がヒット状態である場合は、ステップS1がYesと判定され、ステップS2に進む。すなわち、ステップS1がYesと判定された場合は、以下の負圧緩和動作を実行する。
【0058】
前処理動作では、負圧緩和動作が行われる。負圧緩和動作では、負圧緩和処理(ステップS2~S4)が実行される。負圧緩和処理は、インク流路36内および貯留室42内の圧力状態を整えていく処理である。例えば上流側から順に、インク流路36内の負圧と、貯留室42内の負圧と、を解除または緩和していく処理である。負圧緩和部66は、負圧緩和処理を実行するように構成またはプログラムされている。ステップS2では、バルブ開放部66Aは、開閉バルブ38を制御して、開閉バルブ38を開放させる。このことで、第1流路36aと第2流路36bとが連通した状態となる。これにより、第1流路36aの圧力と第2流路36bの圧力とが均質化される。次に、ステップS3では、待機部66Bは、開閉バルブ38が開放された状態で、所定待機時間、待機する。これにより、開閉バルブ38の開放による圧力変動が収まり、第1流路36aの圧力と第2流路36bの圧力とがより均質化される。第2流路36bでは、過度な負圧が解除される。なお、ステップS2、S3は必須ではなく、他の実施形態において省略または簡略化することも可能である。
【0059】
次に、ステップS4では、送液部66Cは、開閉バルブ38が開放された状態で、送液ポンプ39を駆動させて、所定の第2送液量のインクをダンパー35に向けて送液する。第2送液量は、典型的には、印刷制御部62が送液する第1送液量よりも多いインク量である。ここでは、送液部66Cは、送液ポンプ39を所定の第2動作回数、駆動させて、ダンパー35に向けてインクを送液する。第2動作回数は、典型的には、印刷制御部62が駆動する第1動作回数よりも多い回数である。これにより、第3流路36cおよびダンパー35の貯留室42内では負圧が解除される。フィラー47は、ヒット状態からアンヒット状態となる。そして、前処理動作を終了する。以上のように、前処理動作によってインクタンク31からダンパー35までの間の過度な負圧を緩和して、インク流路36およびダンパー35の圧力状態をリセットすることができる。
【0060】
プリンタ10では、以上のようにして前処理動作を行った後、インクタンク31内のインクを消費する動作、例えば印刷動作やクリーニング動作が開始される。プリンタ10では、印刷動作やクリーニング動作の間、第1送液量のインクがダンパー35に向けて送液されるたびに、エンプティ判定部67が、貯留室42の検出圧力に基づいて、インクエンプティか否かを判定する。エンプティ判定部67でインクエンプティと判定された場合、通知部68は、ユーザにインクエンプティを通知する。
【0061】
以上、本実施形態のプリンタ10によれば、インクヘッド32からインクを出す動作が開始される前に、検出機構44によってダンパー35の貯留室42内の圧力が検出され、貯留室42内の圧力が所定の判定圧力以下であると判定された場合には、送液部66Cによって貯留室42内の過度な負圧が緩和される。これにより、たとえ検出機構44が作動していないときにプリンタ10の状態が変化したとしても、貯留室42内の圧力が均質に整った(言い換えれば、リセットされた)状態で、インクヘッド32からインクを出す動作を行うことができる。したがって、インクエンプティの誤検出が生じにくくなり、インクエンプティの判定精度を高めることができる。また、プリンタ10主電源がOFFの時や印刷停止時等には、検出機構44を非制御状態とすることができるため、制御装置60の負荷を軽減することができる。さらに、ランニングコストを低減することができる。
【0062】
本実施形態では、送液部66Cは、印刷動作やクリーニング動作のときに送液される第1送液量よりも多い(第2送液量の)インクを送液するように構成されている。第2送液量は、例えば第1送液量の2倍以上であってもよい。これにより、貯留室42内がより高い負圧状態にある場合にも、送液部66Cによって貯留室42内の高い負圧状態を好適に緩和することができる。
【0063】
ところで、誤ってインクエンプティと判定される可能性のある状況は、上記以外にも考えられる。例えば、プリンタ10の主電源がOFFの時や印刷停止時等にユーザがインクタンク31を取り外したり交換したりすると、インク流路36内に空気が入ってしまうことがある。あるいは、温度変化等の影響によってインク流路36内のインク体積が減少したり、インク流路36を構成する可撓性チューブが変形したりすることがある。この状態から送液ポンプ39を駆動すると、しばらくはインク流路36内の圧力が不均質になり、インクタンク31から貯留室42内にインクが送液されない、所謂、空送りの状態となることがある。このため、送液ポンプ39の駆動後も依然として貯留室42内の圧力が所定の判定圧力以下のままとなり、誤ってインクエンプティと判定されることが考えられる。
【0064】
本実施形態では、プリンタ10は、送液部66Cに加えて、送液部66Cが送液ポンプ39を駆動させる前に、開閉バルブ38を制御してインク流路36を開放するように構成されたバルブ開放部66Aをさらに備える。これにより、たとえ検出機構44が作動していないときにインク流路36内の状態が変化したとしても、インク流路36内の圧力が安定化された状態で、インクヘッド32からインクを出す動作を行うことができる。したがって、インクエンプティの誤検出が一層生じにくくなり、インクエンプティの判定精度をさらに高めることができる。
【0065】
本実施形態では、プリンタ10は、バルブ開放部66Aによってインク流路36が開放された後、所定待機時間、送液ポンプ39を駆動せずに待機するように構成された待機部66Bをさらに備える。これにより、たとえ検出機構44が作動していないときにインク流路36内の状態が変化したとしても、インク流路36内の圧力が均質化された状態で、インクヘッド32からインクを出す動作を行うことができる。したがって、インクエンプティの誤検出が一層生じにくくなり、インクエンプティの判定精度をさらに高めることができる。
【0066】
本実施形態では、貯留室42は、一部に形成された開口を有する。ダンパー35は、貯留室42の開口を覆うダンパー膜43と、ダンパー膜43に設けられた押圧体46と、ダンパー膜43よりも貯留室42とは反対側に設けられ、押圧体46の移動に伴って位置が変更されるフィラー47と、を備える。検出機構44は、フィラー47が所定の範囲内に移動したか否かを検出し、所定の範囲内にフィラー47が位置していないとき、貯留室42内の圧力が前記判定圧力以下であることを検出するように構成されたフィラーセンサ48を有する。動作前判定部65は、フィラーセンサ48によってフィラー47が所定の範囲内に位置しているか否かを判定し、送液部66Cは、フィラー47が所定の範囲内に位置していると判定された場合に、送液ポンプ39を駆動するように構成されている。ダンパー35のフィラーセンサ48は、印刷時にインクの供給のタイミングを制御するために用いられるものである。本実施形態では、ダンパー35のフィラーセンサ48を動作前判定にも使用することで、専用のセンサを設ける必要がない。そのため、部品点数を削減すことができると共に、製造コストを抑えることができる。
【0067】
本実施形態では、プリンタ10は、印刷を指示する信号を受信する印刷信号受信部61をさらに備える。動作前判定部65は、印刷信号受信部61が信号を受信すると、検出機構44によって貯留室42内の圧力を検出するように構成されている。
【0068】
本実施形態では、開閉バルブ38は、送液ポンプ39よりもインクタンク31の近くに設けられている。これにより、ユーザがインクタンク31を取り外したり交換したりしたときに、インク流路36内に空気が入ることが抑えられる。
【0069】
また、本実施形態には、コンピュータを、動作前判定部65、送液部66C、印刷制御部62および/またはクリーニング制御部63、ならびに、エンプティ判定部67として動作させるためのインクエンプティ判定用のコンピュータプログラムが含まれる。なお、このコンピュータプログラムは、例えば記憶装置に記録されていてもよい。言い換えれば、ここに開示される技術によって、上記コンピュータプログラムが記録された、コンピュータが読み取り可能な記憶装置が提供される。記憶装置としては、例えば、半導体記憶装置(例えば、ROM、不揮発性メモリーカード)、光記憶装置(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD)、磁気記憶装置(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク)等が例示される。また、上記コンピュータプログラムは、上記記憶装置あるいはインターネット等のネットワークを介して、クラウドサーバーに送信することができる。
【0070】
以上、本実施形態に係るプリンタ10について説明した。しかし、プリンタ10は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、上記した実施形態と以下の変形態様とを適宜組み合わせることもできる。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0071】
上記実施形態では、第1流路36aが第2流路36bよりも短く、開閉バルブ38が送液ポンプ39よりもインクタンク31に近い部分に配置されていた。しかし、これには限定されない。例えば第1流路36aを省略して、開閉バルブ38をインクタンク31に直接接続してもよい。あるいは、例えば第1流路36aは第2流路36bよりも長く、開閉バルブ38はインクタンク31よりも送液ポンプ39に近い部分に配置されていてもよい。この場合、バルブ開放部66Aを備えることの効果がより高いレベルで発揮されうる。
【0072】
上記実施形態では、インクヘッド32とダンパー35とが一体的に設けられ、インク流路36の下流端がダンパー35に直接接続されていた。しかし、これには限定されない。ダンパー35は、インクヘッド32から離間されて、インク流路36の途中部分に設けられていてもよい。インク流路36は、例えば、一端がダンパー35に接続され、他端がインクヘッド32に接続され、ダンパー35からインクヘッド32に向かってインクを流す第4流路を有していてもよい。ダンパー35は、第4流路を介して、インクヘッド32と連通するように設けられていてもよい。
【0073】
上記実施形態では、検出機構が、ダンパー35のフィラーセンサ48であった。しかし、これには限定されない。検出機構は、例えば圧力センサであってもよい。この場合、圧力センサによって貯留室42内の圧力を数値で取得することができる。
【0074】
上記実施形態では、送液ポンプ39が1/16回転ずつ動作可能に構成されており、送液ポンプ39の動作回数によって送液量を制御していた。しかし、これには限定されない。送液ポンプ39からの送液量は、例えば、ローラ72の公転角度や、送液ポンプ39の送液時間などで制御してもよい。
【0075】
上記実施形態では、通知部68は、エンプティ判定部67でインクエンプティと判定された場合に、インク切れ(インクエンプティ)である旨を通知するように構成されていた。しかし、これには限定されない。通知部68は、エンプティ判定部67でインクエンプティと判定された場合に、例えば印刷動作やクリーニング動作を実行あるいは継続できない旨のエラーを通知してもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 プリンタ(インクジェットプリンタ)
30 インク供給システム
32 インクヘッド
35 ダンパー
38 開閉バルブ(バルブ)
39 送液ポンプ(ポンプ)
42 貯留室
44 検出機構
60 制御装置
62 印刷制御部(インク消費部)
63 クリーニング制御部(インク消費部)
65 動作前判定部
66 負圧緩和部
67 エンプティ判定部