(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】軌条運搬機、及び軌条運搬方法
(51)【国際特許分類】
B61B 13/02 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B61B13/02 C
B61B13/02 F
(21)【出願番号】P 2019032570
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】592070937
【氏名又は名称】光永産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【氏名又は名称】西原 広徳
(72)【発明者】
【氏名】上西 庄二
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02552544(DE,A1)
【文献】実開昭56-055006(JP,U)
【文献】実開平03-036003(JP,U)
【文献】特開平02-258465(JP,A)
【文献】特開2000-273803(JP,A)
【文献】実開昭52-100609(JP,U)
【文献】実開昭60-045171(JP,U)
【文献】特開2018-002015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/02 ー 13/04
E01B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転出力する出力軸を有する駆動源と、
前記出力軸に直接又は間接的に接続されて回転する駆動輪とを備え、
勾配のある場所に設置された軌条の係合部に前記駆動輪が係合して移動する軌条運搬機であって、
前記駆動輪が、回転動作する円盤状をなす駆動輪本体と、この駆動輪本体の外周に等間隔に複数取り付けられた前記駆動輪本体とは別体をなし前記係合部に対し凹凸係合する凸部とを備え、
前記軌条の前記係合部は、前記軌条の底面に等間隔に設けられた係合孔の縁部であり、
前記駆動輪本体に固定された前記凸部が、基端から先端に亘って前記駆動輪本体の周方向の厚みを漸次薄くすることにより前記係合部への挿抜を円滑に促すべく設けられた円滑係合面を有し、前記係合部に対し前記駆動輪が何れの角度位相においても常に複数の前記凸部が凹凸係合するものであ
り、
前記凸部が、ホイール本体の外周面から筒状に突出するピンである
軌条運搬機。
【請求項2】
前記凸部が、円筒状に突出するストレート面を有し、
前記円滑係合面は、前記ストレート面からテーパ状にすぼむ形状をなす構成である
請求項1記載の軌条運搬機。
【請求項3】
前記円滑係合面は、基端と先端の間が外側へ凸となるアール面に形成され、
当該アール面の湾曲程度は、前記係合部に係合している前記凸部の係合点と、次の前記係合部に係合している次の前記凸部の係合点との距離が、何れの角度位相においても、隣接する2つの前記係合部の配置距離と一致若しくはほぼ一致する構成である
請求項
1記載の軌条運搬機。
【請求項4】
前記凸部が、何れの角度位相においても常に3つ以上前記係合部に対し係合するものである
請求項1、2または3記載の軌条運搬機。
【請求項5】
前記凸部が、前記駆動輪本体に対し12個以上取り付けられる
請求項1から4のいずれか1つに記載の軌条運搬機。
【請求項6】
前記駆動輪が、移動方向に沿って複数設けられる
請求項1から5のいずれか1つに記載の軌条運搬機。
【請求項7】
前記駆動輪が正面視略中央に設けられたものであり、この駆動輪の両側に、補助輪を更に有している
請求項1から6のいずれか1つに記載の軌条運搬機。
【請求項8】
前記補助輪が、横断面視円形状をなす補助レールに上方から接している
請求項7記載の軌条運搬機。
【請求項9】
前記凸部が、下方から前記係合部に対し凹凸係合する
請求項1から8のいずれか1つに記載の軌条運搬機。
【請求項10】
回転出力する出力軸を有する駆動源と、前記出力軸からの出力が入力される入力軸を有する減速機と、前記減速機に接続されて回転する駆動輪とを備え、勾配のある場所に設置された軌条の係合部に前記駆動輪が係合して移動する軌条運搬機を用いて運搬する軌条運搬方法であって、
前記軌条運搬機は、
前記駆動輪が、回転動作する円盤状をなす駆動輪本体と、この駆動輪本体の外周に等間隔に複数取り付けられた前記駆動輪本体とは別体をなし前記係合部に対し凹凸係合する凸部とを備え、
前記凸部が、基端から先端に亘って漸次径を小さくすることにより前記係合部への挿抜を円滑に促すべく設けられたアール面を有し、
前記凸部が、ホイール本体の外周面から筒状に突出するピンであり、前記係合部に対し前記駆動輪が何れの角度位相においても常に複数の前記凸部が凹凸係合しつつ運搬を行う
軌条運搬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、柑橘園や山林等に敷設した軌条に沿って人や物を運ぶような軌条運搬機、及び軌条運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柑橘園や山林等の傾斜地で軌条運搬機が使用されている。傾斜地には軌条運搬機が走行するための軌条が敷設され、その敷設された軌条の傾斜角は、登坂角45度~降坂角45度の範囲に及ぶことがある。
【0003】
そしてこれまでには、4ストロークエンジンを搭載した軌条運搬機を念頭に置き、エンジンの許容傾斜角を超えることに起因するエンジンの焼き付きが発生するという欠点を回避することで、より耐久性を高めるための提案がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的に説明すると、出願人は上記特許文献1に記載の技術等を提供することにより、単軌条運搬機の傾斜を検知するセンサ、エンジンの回動位置を検知するセンサ、エンジンを回動させる電気シリンダー、及びこれらを制御する制御基板等といった電気部品を用いることを必要としない構成を実現した。これにより、振動等によってエンジン傾斜装置等の部品の耐用年数が下がり、適宜交換するなどのメンテナンスを有効に回避し得る技術を確立した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、軌条運搬機自体の耐久性をより有効に高めるようにするためには、上記特許文献1に記載の技術のみならず、他にも解決すべき課題が存在することに出願人は着目した。具体的に説明すると、軌条運搬機には、軌条側に係り合う構成が必須である。斯かる構成を担う部分の耐久性を有効に向上させることが、軌条運搬機自体の耐久性をより有効に高めることに資することに出願人は着目した。
【0007】
本願発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、軌条の耐久性までもより有効に高めるようにできる軌条運搬機、及び軌条運搬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、回転出力する出力軸を有する駆動源と、前記出力軸に直接又は間接的に接続されて回転する駆動輪とを備え、勾配のある場所に設置された軌条の係合部に前記駆動輪が係合して移動する軌条運搬機であって、前記駆動輪が、回転動作する円盤状をなす駆動輪本体と、この駆動輪本体の外周に等間隔に複数取り付けられた前記駆動輪本体とは別体をなし前記係合部に対し凹凸係合する凸部とを備え、前記軌条の前記係合部は、前記軌条の底面に等間隔に設けられた係合孔の縁部であり、前記駆動輪本体に固定された前記凸部が、基端から先端に亘って漸次径を小さくすることにより前記係合部への挿抜を円滑に促すべく設けられたアール面を有し前記係合部に対し前記駆動輪が何れの角度位相においても常に複数の前記凸部が凹凸係合するものであり、前記凸部が、ホイール本体の外周面から筒状に突出するピンである軌条運搬機、およびこれを用いた軌条運搬方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願発明により、耐久性をより有効に高めるようにできる軌条運搬機、及び軌条運搬方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図10】本発明の一実施例を説明するための表及び図を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明の一実施形態を図面と共に説明する。本実施形態は、本発明に相当する軌条運搬機たる単軌条運搬機1と、この単軌条運搬機1の走行方向を決定する単軌条2を擁する軌条ユニット2Uとを有する軌条運搬システムについて説明する。
【0012】
図1は、水平姿勢の軌条運搬機たる単軌条運搬機1の一部断面正面図を、
図2は、水平姿勢の単軌条運搬機1の右側面図、
図3は、軌条ユニット2Uの外観図、
図4は、軌条ユニット2Uのみをあらわす正面図を示す。
図5は、
図2の要部たるA部を拡大して示す構成説明図である。
図6は、要部を構成する部品の説明図である。
図7~
図9は、要部に係る作用説明図である。
【0013】
<軌条ユニットの構成>
まず、本実施形態に係る単軌条運搬機1の構成説明に先立ち、当該単軌条運搬機1を下方より支持する軌条たる単軌条2を擁する軌条ユニット2Uの構成を説明する。
【0014】
軌条ユニット2Uは、
図1ないし
図4に示すように、単軌条運搬機1側に係り合う単軌条2を主体とするものである。軌条ユニット2Uは、単軌条2と、単軌条2を地上から支持するための支持機構20と、この支持機構20に支持されて、単軌条2の両側から単軌条運搬機1の荷重の略全てを受ける補助レール21とを有している。
【0015】
単軌条2は、
図3及び
図4に示すように、例えば鋼材の押し出しにより横断面視矩形状に成形するか、或いは長尺状の鋼板を横断面視矩形状に折り曲げることにより成形することによってなる角パイプ状をなす軌条本体2aと、この軌条本体2aの底面に等間隔に設けられた底面視真円形状をなす係合穴2bと、この係合穴2bの縁部において素材の断面を露出させてなる係合端面2cとを有している。
【0016】
係合穴2bは、本実施形態では底面視(平面視)真円形状をなすものとしているが勿論、楕円形状をなすように形成してもよい。また、当該係合穴2bは単軌条運搬機1の経時的な使用によって徐々に進行方向に沿って縦長な楕円形状に変形する傾向にある。
【0017】
補助レール21は、
図3及び
図4に示すように、断面視略真円形状である金属製丸パイプ状或いは中実な丸棒状、すなわち横断面視円形状をなすものである。この補助レール21は単軌条2から所定の間隔を隔てて対をなして配されている。また本実施形態では補助レール21は、単軌条2よりも所定寸法下方に配されている。これにより、軌条ユニット2Uは正面視概略山形形状をなす。
【0018】
加えてこの補助レール21は、横断面視円形状をなすことにより上面側が湾曲面となる。これにより、単軌条運搬機1が走行中に側方に多少のブレを生じたとしても、安定して単軌条運搬機1を支持し得る。また補助パイプが横断面視円形状をなすということは、大きな荷重が掛かったとしても断面視変形し難くなっている。
【0019】
支持機構20は、
図3及び
図4に示すように、地面に設置される接地板22と、この接地板22に固定される接地支柱23と、接地支柱23の上端に配される横架フレーム24と、横架フレーム24から立設されるメイン支柱25並びに補助支柱26と、これらメイン支柱25並びに補助支柱26の上端に取り付けられ、単軌条2及び補助レール21をそれぞれ所要の向きで支持し得るメインブラケット27並びに補助ブラケット28とを有している。
【0020】
接地板22は、地面に設置される平面視矩形状をなす金属板である。この接地板22は、平面視一定の面積を保ちながら接地支柱23を固定することで、接地支柱23のみならず軌条ユニット2U全体が荷重により不要に沈下してしまうという不具合を有効に回避している。
【0021】
接地支柱23は、中間位置において接地板22に強固に固定され当該接地板22下側を地中に埋め込むことで接地板22上側を安定して支持し得るようにした金属製の柱である。
【0022】
横架フレーム24は、接地支柱23の上端に単軌条22の延出方向に直交する方向に延びる金属製のフレームである。この横架フレーム24の上方には、当該横架フレーム24の正面視中央から上方へ延びるメイン支柱25と、両側近傍から上方へ立設される補助支柱26と、メイン支柱25上端に配され単軌条2を片持ち支持することにより単軌条2の下面を開放した状態とし得るメインブラケット27と、補助支柱26上端に配され補助レール21を下方より支持する補助ブラケット28とが配される。
【0023】
そして本実施形態では、このような軌条ユニット2U上方に単軌条運搬機1が走行可能に載置される。
【0024】
<単軌条運搬機の全体構成>
続いて、上述した軌条ユニット2U上を好適に走行し得る、本実施形態に係る軌条運搬機たる単軌条運搬機1の構成について説明する。
【0025】
単軌条運搬機1は、傾斜地に敷設された単軌条2を走行する運搬機であり、駆動輪3が下方から単軌条2側の係合部たる係合穴2bに一部が挿入されることにより凹凸係合する、換言すれば係合穴2bと係合しつつ回転することで、傾斜面でも滑り落ちることなく安定して、前進、後退、停止を実行できる。こうして、単軌条運搬機1は、通常、作業者を載せた乗用台車や荷物台車(図示せず)と連結され、それらを牽引する。
【0026】
単軌条運搬機1は、
図1及び
図2に示すように、強固な箱状をなすメインボディ10と、メインボディ10に対し正面視中央下側に配された駆動輪3と、この駆動輪3に対し正面視両側に配された補助輪4と、メインボディ10に組付けられ単軌条運搬機1を操作するユーザを搭乗させるための座席5とを具備している。
【0027】
メインボディ10は、外観は略直方体形状をなしている。このメインボディ10の内部には、駆動源たるエンジン10a、単軌条運搬機1の傾斜角度が地面の斜度の変化により変わってもエンジン10aをほぼ一定の角度を保ちながら支持する変化保持機構、エンジン10aの出力を適度な速度及びトルクに変換しつつ駆動輪3へ伝達する動力伝達機構11や、補助輪4を回転可能に軸支するための補助アーム12等を有している。
【0028】
エンジン10aは、例えば本実施形態では燃費や、排ガス汚染、騒音等の環境性の点から、4ストロークエンジンが用いられているが、勿論、バッテリの電力に駆動されるモータを駆動源として採用する構成を否定するものではない。
【0029】
座席5は、特に
図2に示すように、地面の傾斜に応じるべくメインボディ10に対し予め傾斜した姿勢で設けられている。本実施形態では具体的な構成は図示及び説明を行わないが、座席5がメインボディ10に対して傾斜する角度を適宜変更したり、調節可能としたりする機能を設ける態様を否定するものではない。
【0030】
動力伝達機構11は、
図1及び
図2に示すように、エンジン10aの動力を駆動輪3へと伝達するための減速機を主体とする。この減速機は、既存の種々の構成を適宜適用し得るが、その一例としては、エンジン10aの動力を入力するための入力軸がエンジン10aの出力軸に平行に設けられているような態様を挙げることができる。なお図示及び詳細な説明を省略するが、この動力伝達機構11は、エンジン10aに接続する入力軸から駆動輪3まで適宜のギア、プーリベルト機構によって接続するものであり、入力軸の回転により駆動輪3が適宜の速度並びにトルクを保ちながら回転させることができる。
【0031】
補助輪4は、
図1に示すように、駆動輪3の両側に正面視対をなして設けられ、メインボディ10側の補助アーム12の先端において位置づけられたローラ状をなすものである。この補助輪4の平面視の寸法は、側方に多少ズレようとしても、補助レール21に好適に支持され得るとともに、速やかにズレが戻るよう、補助レール21よりも幅広な、好適に例えば3倍以上に幅広な寸法に設定されている。
【0032】
そして本実施形態に係る単軌条運搬機1は、メインボディ10両側端より下方に突出した補助フレームが補助輪4を回転可能に支持し、この補助輪4が上方から補助レール21に接する。これにより、補助アーム12が単軌条運搬機1の略全ての荷重を受けるように構成されている。
【0033】
そして本実施形態に係る単軌条運搬機1は、回転出力する出力軸を有する駆動源と、出力軸に直接又は間接的に接続されて回転する駆動輪3とを備え、勾配のある場所に設置された軌条たる単軌条2の係合部である係合穴2bに駆動輪3が係合して移動する軌条運搬機であって、駆動輪3が、回転動作する円盤状をなす駆動輪本体たる駆動ホイール31と、この駆動ホイール31の外周に等間隔に複数取り付けられた駆動ホイール31とは別体をなし係合穴2bに対し凹凸係合する凸部たる係合ピン32とを備え、係合ピン32が、基端から先端に亘って駆動輪3の周方向の厚みを漸次薄くすることにより係合穴2bへの挿抜を円滑に促すべく設けられたアール面(円滑係合面)を有し、係合穴2bに対し回転する駆動輪3が何れの角度位相においても常に複数の係合ピン32が凹凸係合することを特徴とする。言い換えると、駆動輪3は、漸次径が小さくなっていることにより係合穴2bへの挿抜を円滑に促すべく設けられたアール面(円滑係合面)を有していることを特徴とする。
【0034】
以下、単軌条運搬機1の具体的な構成について、駆動輪3の構成を主に説明する。
【0035】
駆動輪3は、特に
図1に示すように、移動方向に沿って複数、本実施形態では二つ近接させた態様で正面視略中央に設けられる。この駆動輪3は、上述した動力伝達機構11に軸支されながら駆動力が伝達される駆動ホイール31すなわち本発明の駆動輪本体と、この駆動ホイール31に例えば交換可能に取り付けられる係合ピン32すなわち本発明の係合部とを有している。
【0036】
駆動ホイール31は、
図1及び
図2に示すように、動力伝達機構11に軸支される円板形状をなすホイール本体33と、ホイール本体33の外周に等間隔に設けられたピン固定穴34と、フランジ34とを有している。
【0037】
ホイール本体33は、例えば直径が290mmに設定された円盤状をなすもので、単軌条2に下方から接し得る接触面33aを有している。ピン固定穴34は、
図1及び
図2に示すように、係合ピン32が、駆動ホイール31に対し12個以上取り付けられるよう、本実施形態では20個を等角度間隔で取り付けられるよう穿たれた雌ネジ穴である。
【0038】
フランジ34は、
図1及び
図2に示すように、ホイール本体33の両側に一体的に径方向に突出させて設けられた板状をなすものである。このフランジ34は、駆動輪3が単軌条2から側方にずれてしまうことを防ぐために単軌条2を両側からガイドするものである。
【0039】
係合ピン32は、
図5及び
図6に示すように、ホイール本体33の外周面である接触面33aに羅着されているものである。この係合ピン32は、本発明に係る凸部に相当する。
【0040】
係合ピン32は、特に
図6に示すように、基端側においてピン固定穴34に対し螺合する雄ネジ部36と、雄ネジ部36から径方向に突出し先端側の面が上記接触面33aに略面一となるよう配される鍔部37と、鍔部37から単軌条2の係合穴2bに係合すべく突出するピン本体38とを有している。
【0041】
ピン本体38は、鍔部37からほぼ円筒状に突出するストレート面38aと、このストレート面38aから側面視カーブを描きながらテーパ状にすぼむ形状をなすアール面38bと、このアール面38bの先端に形成される先端平面38cとを有している。
【0042】
ここで、本実施形態に係る単軌条運搬機1は、
図5、
図7~
図9に示すように、係合穴2bに対し駆動輪3が何れの角度位相においても常に複数の係合ピン32が凹凸係合するものである。具体的には、凸部たる係合ピン32は、290mmの直径をなすホイール本体33の外周に対し等角度間隔にて20個取り付けられている。これにより、同図に示すように、係合ピン32たる係合ピン32が、何れの角度位相においても常に3つ以上係合部たる係合穴2bに対し係合するものである。
【0043】
さらに、
図8及び
図9を用いて具体的に説明すると、係合ピン32は、単軌条2側の係合部たる係合穴2bに対し、常に3つの係合ピン32たる係合ピン32が係り合っている。同図を参照しつつ詳述すると、駆動輪3の回転動作により進行方向前方側の係合ピン32は、まずアール面38bが係合穴2bの係合端面2cに近接しながら係合穴2b内部へ挿入される。そして当該アール面38bは係合穴2bの係合端面2cに摺接しながら徐々に係合ピン32が係合穴2bに対し深く挿入される。このとき、当該アール面38bから係合端面2cに対し、徐々に強くエンジン10aからの駆動力が伝達される。
【0044】
しかる後、同図上端の係合ピン32に示されるように、単軌条2の係合端面2cは係合ピン32のストレート面38aに当接する。そしてこのストレート面38aが係合端面2cを進行方向に沿って単軌条2の素材の厚み方向に直交する面方向に正確にエンジン10aからの駆動力を伝えるべく押圧する。このときの係合ピン32が、エンジン10aからの駆動力を最も大きく単軌条2へ伝達している。
【0045】
そして同図上端から進行方向後側の係合ピン32は、係合端面2cに対しストレート面38aからアール面38bへと摺動しながら引き続きエンジン10aからの駆動力を伝達し続け、その後係合部たる係合穴2bから離間する。
このように、これらの複数の係合ピン32は、係合穴2bに係合した係合ピン32が少なくとも係合穴2bから抜け出す前に次の係合ピン32が次の係合穴2bに係合する間隔に配置されている。そして、アール面は、基端と先端の間が外側へ凸となるアール面に形成され、当該アール面の湾曲程度は、前記係合穴2bに係合している前記係合ピン32の係合点と、次の前記係合穴2bに係合している次の前記係合ピン32の係合点との距離が、何れの角度位相においても、隣接する2つの前記係合穴2bの配置距離と一致若しくはほぼ一致する構成となっている。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る単軌条運搬機1は、駆動輪3に設けられたホイール本体33の径、ホイール本体33に取り付けられた係合ピン32たる係合ピン32の角度間隔、数量が適宜調整されている。その結果、駆動輪3が何れの角度位相にあっても、当該駆動輪3に設けられた係合ピン32が常に複数、具体的には3つ単軌条2側に凹凸係合により係り合った状態が維持されている。これにより、エンジン10aからの駆動力が複数の係合ピン32に特定の箇所に集中することなく分散されながら進行方向に沿って無駄なく単軌条2に伝達される。その結果、安定した単軌条運搬機1の走行と、単軌条2の良好な耐久性を両立せしめている。
【0047】
そして本実施形態では、凸部たる係合ピン32が、何れの角度位相においても常に3つ以上係合穴2bに対し係合するものであるので、更に走行時のトルクや荷重の集中を抑えられ、単軌条2及び駆動輪3の耐久性がより有効に高められている。詳述すると、急勾配の斜面を登る場合および下る場合に、単軌条運搬機1およびこれに連結された荷台と積載された資材の荷重は、複数の係合ピン32と係合穴2bの当接部位にかかる。仮に、この荷重が1つの係合ピン32と係合穴2bにかかると、軌条本体2aの係合穴2b部分がその荷重によって変形する可能性がある。これに対して、本実施形態では、常に複数の係合ピン32が係合穴2bに係合しているため、荷重が分散され、軌条本体2aや係合ピン32の変形を防止することができる。
【0048】
また本実施形態では凸部たる係合ピン32が、駆動ホイール31たる駆動ホイール31に対し12個以上、正確には20個取り付けられる構成を適用することで、単軌条2及び駆動輪3の耐久性がさらに有効に高められている。
【0049】
さらに本実施形態では、動輪が、移動方向すなわち進退方向に沿って複数である2つ設けられる構成を適用することで、更に駆動輪3の耐久性を高め得るのみならず、走行方向に沿う方向における傾きやがたつきを補助輪4等の他の構成とともに有効に抑えている。
【0050】
そして本実施形態では、駆動輪3を正面視略中央に設け、この駆動輪3の両側に、補助輪4を設けているので、走行方向に直交する方向の不要な傾きやがたつきをも有効に抑制し得る。
【0051】
更に補助輪4が、横断面視円形状をなす補助レール21に上方から接している構成を適用することで、進行方向に直交する方向の傾きに対応する際に補助レール21が単軌条運搬機1側の荷重を好適に受け得るものとなっている。
【0052】
特に本実施形態では、補助輪4が単軌条運搬機1側の荷重の略全てを受けるように構成することにより、駆動輪3から単軌条2への動力の伝達効率を有効に向上せしめている。
【0053】
加えて本実施形態では、駆動輪3が、下方から単軌条2の係合穴2bに挿入されることにより凹凸係合する構成を適用することにより、駆動輪3には単軌条運搬機1自体や荷物による荷重が直接加わることに起因する駆動力の伝達ロスことが抑えることで、駆動輪3並びに単軌条2の耐久性をより向上させることが実現されている。
【0054】
なお、本願発明は本実施形態に限られない。
例えば、単軌条に限らず、複数の軌条に沿って移動する軌条運搬機など、軌条に沿って移動する適宜の軌条運搬機とすることができる。
また、駆動輪と軌条の係合は、駆動輪の突起と軌条の孔に限らず、駆動輪の外周に等間隔に設けた軸心方向と平行な外周リブと軌条に設けられた波型の凹凸が係合する構造など、適宜の構造とすることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例について説明する。しかしながら当該実施例の記載は本発明を何ら限定するものではない。
【0056】
本実施例では、本発明の請求の範囲に含まれる、駆動輪径を大きくし、走行中常に3つの係合ピンが単軌条たるレールの係合穴に凹凸係合する実施例1、実施例2と、駆動輪径を実施例1,2よりも小さくし、走行中係合ピンが一つしか係合穴に凹凸係合しない本発明の範囲に含まれない比較例1とを用い、複数の比較試験を行った。
【0057】
まず、
図10(A)に表として、同図(B)、(C)には単軌条たるレールを図示し、試験1について説明する。
ここで、以下に記す各試験に関し、本来であれば行うべきである駆動輪やレール穴への注油を、一切行っていない。これは敢えて耐久性に乏しい状況を整えた状態でこれら各試験を行うことを意図とする。これら各試験において、各実施例並びに比較例との差を、短期間、換言すれば走行回数が少ない段階にて把握することが目的である。すなわち、これら各実施例や比較例について通常の如く駆動輪やレール穴への注油を行った場合は、何れの実施例、比較例においても長期に亘る安定した走行並びに耐久性を有したものとなることはいうまでもない。また、試験1にて用いる各駆動輪等はテスト用に作成したものであり、実際に使用する駆動輪等はこれにかぎられない。
【0058】
<試験1>
以下、本発明の実施例に対する試験結果について記す。
本試験1では、実施例1として駆動輪径を大きくし(16ピン)、レール穴の摩擦を確認し、上述の比較例である駆動輪径を小さく(実施例1,2の約0.565倍)した態様のものとの比較を係合穴の外径(大きい方の径)、内径(小さい方の径)の計測及び単軌条の係合穴の外観を調べることにより行った。
【0059】
<結果>
同図(A)、(C)に示すように、小さい駆動輪では、150回を超えたあたりから変形(内側に向かってのへこみ)が大きくなり、摩擦というよりも変形のため、295回でハタツキを起こした。
ここで、ハタツキとは、レール側の歪み等により、軌条運搬車の走行が正常にできなくなった現象をさすものである。
【0060】
一方、同図(A)、(B)に示すように、実施例1である駆動輪径を大きくした態様では、変形が無く、摩擦のみで300回を超えても走行可能状態であった。すなわち、今回の実施例1の如く従来用いられている比較例よりも駆動輪径が大きくなると、係合ピンが係合穴に入る際、常に複数の係合ピンが係合穴に入ることで滑る面積が減り、各係合穴の負荷が減ったためと思われる。
【0061】
<試験2>
続いて、上記試験1と同じ条件で、積載量を1000kgに増やし、係合穴の変形を確認し、前回の比較例である駆動輪径を小さくした比較例との比較を行った試験2についての説明を記す。
【0062】
<結果(1000kg積載、注油無)>
図11(A)に表として、同図(B)、(C)において単軌条たるレールを図示するように、実施例1(大きい駆動輪径)にて100回走行した場合も、レールの変形(へこみ)が見られたが、ハタツキは無かった。他方比較例では49回の走行でハタツキを起こした。これは、上記実施形態並びに
図7~
図9の如く、実施例1では上端にある1つの係合ピンの前後の係合ピン、すなわち計3つの係合ピンが噛み込んでいるため、耐久力が向上しているものと思われる。
【0063】
<試験3>
続いて、試験3について
図12及び
図13を用いて説明する。
当該試験3では、
図12(A)に模式的に示すように、実施例1に対し係合ピンの形状を変更した実施例2を用い、レールの摩耗を確認する。
【0064】
この実施例2は、
図12(A)に示すように、ピン根元にストレート面を設け、係合ピンのピン先である先端平面の径を大きくする形状とした。その目的とは、上記実施例1同様、常に複数の係合ピンが穴へと当たる構成としつつ、係合ピンの前後の係合ピンの係合穴に対する当たり(面積)を増やし、負荷が減るか否かを確認する。
【0065】
<結果>
この試験3では、
図12(B)、に示すように大きい駆動輪径で、積載量を500kg及び1000kgとし、上記同様の試験を行った。
【0066】
図12(C)、(D)に示すように、単軌条の外径と内径の差、すなわち摩擦の差が減っている。これは、ピンの形状によるところが大きい。勿論、1ピンの前後のピンも穴に当たっており、合計3ピンで負荷を受けているため実施例1同様、摩擦も小さいが、実施例2ではさらに減っていることを意味している。
【0067】
そして、
図12(E)では、上記試験2における試験後の実施例1に係る単軌条を図示し、同図(F)において当該試験3における試験後の実施例2に係る単軌条を図示することにより、実施例1と実施例2との比較を行った。このように、実施例2では、実施例1よりもさらに係合穴の変形が抑えられていることが分かる。
【0068】
<試験4>
この試験4では、1000kg積載で、下方から係合ピンが凹凸係合する下張レールに実施例2に係る係合ピンを付けた大きい駆動輪径の駆動輪を走行させることで、係合ピンの当たり具合と、単軌条たるレールの摩耗を確認した。
【0069】
<結果>
図13(A)に係合穴の径を、同図(B)、(C)に単軌条の外観を示す。このように、単軌条の変形は全くといって良いほど無かった。摩擦量も試験3に比べて極端といって良いほどに減っており、良好な結果が得られたと言える。係合ピンについても、異常な当たりによる変形や、極端に摩耗した箇所は確認されなかった。
【0070】
<結論>
実施例1及び実施例2のように駆動輪径を比較例よりも大きくすることによって、係合ピンが係合穴に入り込む際、滑りの面積が減るためにレールたる単軌条に対する負荷が減り、摩擦量も減っている。単軌条の変形(内側へのへこみ)も減っている。
【0071】
また、ピンの形状を変更した場合はさらに、前後のピンも進退方向に沿った負荷を受けてピンとレールとの摩擦量も減り、図示の通り良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明は、柑橘園等の山あいの栽培地での運搬産業、山林内での鉄塔、橋、道路等の建設時における資材や人の運搬産業など、道路のない場所に軌条を敷設して軌条運搬機により人や物を運搬する種々の産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…軌条運搬機(単軌条運搬機)
2…単軌条
2b…係合部(係合穴)
2U…軌条ユニット
3…駆動輪
32…凸部(係合ピン)
38a…ストレート面
38b…アール面