IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図1
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図2
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図3
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図4
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図5
  • 特許-簡易動的コーン貫入試験装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】簡易動的コーン貫入試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20221208BHJP
   E02D 1/02 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
G01N3/40 B
E02D1/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019107343
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020201094
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】高柳 剛
(72)【発明者】
【氏名】児島 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 将真
(72)【発明者】
【氏名】進藤 義勝
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-331142(JP,A)
【文献】特開2017-015445(JP,A)
【文献】特開平10-078333(JP,A)
【文献】特開平06-317510(JP,A)
【文献】登録実用新案第3027598(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/40
E02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に先端コーンが取り付けられると共に、軸方向に延びる貫入ロッドと、
径方向に拡径するアンビルを介して前記貫入ロッドの延設方向に延びるガイドロッドと、
前記ガイドロッドに沿って前記アンビルに対して近接又は離間するように人力で規則的な往復運動を生じさせることで往復移動可能なハンマ部と、
前記ハンマ部に対して所定の運動速度を付与するように前記ハンマ部の往復距離と往復時間を規定し、前記ハンマ部の往復運動による打撃のタイミングが一定となるように制御する運動速度制御手段とを備えることを特徴とする簡易動的コーン貫入試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の簡易動的コーン貫入試験装置において、
前記ガイドロッドは、前記アンビルが取り付けられた側の反対端に前記ハンマ部が当接可能な緩衝材を備えた終端部材が取り付けられることを特徴とする簡易動的コーン貫入試験装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の簡易動的コーン貫入試験装置において、
前記運動速度制御手段は、前記ハンマ部の往復運動による打撃を一定のタイミングとするように所定の間隔で音を発する発音部を備えることを特徴とする簡易動的コーン貫入試験装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の簡易動的コーン貫入試験装置において、
前記運動速度制御手段は、前記ガイドロッドの長手方向に沿って配置された2以上の発光部を備え、前記発光部は前記ハンマ部の往復運動による打撃を一定のタイミングとするように所定の間隔で発光することを特徴とする簡易動的コーン貫入試験装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の簡易動的コーン貫入試験装置において、
前記ハンマ部の速度履歴の時刻歴データを得るデータ収録装置を備えることを特徴とする簡易動的コーン貫入試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地質調査に伴う簡易動的コーン貫入試験に用いられる簡易動的コーン貫入試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道をはじめとした土木構造物の維持管理の分野においては、鉄道などの沿線斜面の土構造物も維持管理の対象となる。このような鉄道沿線の斜面は、降雨などの外的要因や、斜面の地盤自体の劣化・風化によって崩壊が生じ、崩土が線路内に流入することで鉄道の運行・安全が妨げられることがある。このような斜面において、一定の自立性がある地質条件の場合には、斜面勾配が急であることが多く、また斜面の表面にコンクリートを吹き付けるなどして、斜面の侵食や風化の進行の防止を図ることがある。このような斜面を吹付斜面と呼ぶ。吹付斜面については施工から数十年が経過しているケースでは、背面地盤の劣化の進行などに伴って斜面崩壊が発生する場合があり、維持管理上の問題となっている。
【0003】
このような吹付斜面の崩壊の危険性を予知するためには、目視ができない吹付斜面の背面の地盤の状態を把握することが重要である。具体的には、背面地盤の強度に関する情報を把握することが重要である。ただし、検査対象となる吹付斜面の数は多いため、簡易かつ低コストで、背面地盤の情報を得ることが重要となる。
【0004】
このような地盤の強度を把握する試験方法の一種として、鉄道をはじめとした土木分野においては、サウンディング試験の一種として貫入試験が広く普及している。貫入試験においては、基本的に一定の打撃エネルギで規定寸法のロッドを地盤に貫入させ、貫入量と打撃回数の関係から地盤の強度および強度の分布(深さ)に関する情報を得るものである。同種の試験については、「標準貫入試験(JIS A 1219)」などが広く知られており、自然斜面などの急傾斜地で簡易に実施する場合には「簡易動的コーン貫入試験(JGS 1433)」が用いられることがある。これらの試験に共通する点として、ロッドに打撃エネルギを伝えるために、所定の質量のハンマを所定の高さから自由落下させることで、一定の打撃エネルギを与え、ロッドを鉛直方向に貫入させている。
【0005】
このような簡易動的コーン貫入試験を行う簡易動的コーン貫入試験装置については、種々の形態が知られているが、例えば、特許文献1に記載された簡易動的コーン貫入試験装置が知られている。
【0006】
特許文献1に記載された簡易動的コーン貫入試験装置によれば、ハンマを人力で引き上げることなく、制御化したモータ駆動によって自動化したことから、正確な引き上げ上昇高さの制御と大幅な労力負担の軽減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-28469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、吹付斜面の背面の地盤の探査においては、表面のコンクリート吹付工に小径の孔を開けた上で簡易動的コーン貫入試験を実施するなどして適用することが考えられるが、吹付斜面は人間が直立できないほど急勾配(45°以上)であることがほとんどであるため、斜面上で作業員が自立して鉛直方向にロッドを貫入させることが困難となる。このため、作業員は主にロープに吊り下がりながら作業を行うことが前提となる。また、斜面に作業ステージを設けずにコンクリート吹付工に孔を開ける場合、削孔のための反力を得る必要があり、通常は削孔機械を斜面上に固定して削孔する。この場合、図6(b)に示すように、機械は斜面に沿って固定されるため、斜面に対して直角方向に孔を開けることになる。このため、図6(a)に示すように、急勾配な吹付斜面で鉛直方向にロッドを貫入させようとする場合には、ロッドがコンクリート吹付工の削孔部の壁面に干渉しないように、ロッドの径に対して過大な径の孔を開ける必要があり、削孔作業に労力がかかる。
【0009】
上記の課題を解決するためには、斜面に対して直角方向、あるいは水平方向にロッドを斜面に貫入させるなどの対応が必要になるが、その場合、ハンマの自由落下のエネルギを打撃エネルギとして利用することが困難となる。このような新たな課題を解決するためには、ハンマの自由落下のエネルギではなく、ハンマの運動エネルギを規定する試験方法によって、鉛直方向以外の地盤の貫入強度を把握できるものを考える必要がある。
【0010】
従来の簡易動的コーン貫入試験では、貫入方向が鉛直方向に限定されており、急勾配斜面で斜面直角方向あるいは水平方向など任意の方向に地盤強度を探査することができなかった。このため、急勾配斜面において従来の試験方法を適用することが困難な場合があった。
【0011】
このような課題を解決する方法として、ロッド部に専用センサが取り付けられ、一打撃毎に打撃エネルギとロッドの貫入量を計測する装置を応用することが考えられる。このような専用センサを備えた試験装置であれば、任意の方向に貫入されるロッドの打撃エネルギを計測することができるが、ロッドに伝達された打撃エネルギを計測するためには、打撃時のロッドの挙動を計測できる高性能な専用センサおよび専用データ収録装置が必要となる。特にこのような装置ではハンマの質量は規定されているものの、打撃方法までは規定されておらず、一回の打撃エネルギは作業員毎および一打撃毎に大きな違いを生じるものと想定されるため、打撃エネルギを計測するセンサには小さな打撃力から大きな打撃力まで高精度に計測する性能が求められる。
【0012】
また斜面上で作業員がロープに吊り下がりながら急斜面上で作業を行う場合には、貫入量を計測するセンサを固定させることも必要となる。さらに収録装置の操作を作業員が行うことは可能であるが、ロープに吊り下がりながらハンマと収録装置を頻繁に持ち替えることは作業の煩雑化を招く懸念がある。このような作業の煩雑化を防ぐためには収録装置を平地まで配線して補助員が収録装置を操作する対応が考えられるが、その場合には検査に必要な人員が増えることとなる。
【0013】
さらに、特許文献1に記載された簡易動的コーン貫入試験装置は、打撃装置を上昇させる上昇装置や上昇装置を駆動制御する駆動装置並びに制御装置を備えているので、試験装置自体が複雑であるという問題もあった。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、斜面に対して任意の角度に規定の打撃エネルギでロッドを貫入し、高度な専用の計測機器を用いることなく、貫入量と打撃エネルギの関係を把握することができる簡易動的コーン貫入試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置は、先端に先端コーンが取り付けられると共に、軸方向に延びる貫入ロッドと、径方向に拡径するアンビルを介して前記貫入ロッドの延設方向に延びるガイドロッドと、前記ガイドロッドに沿って前記アンビルに対して近接又は離間するように人力で規則的な往復運動を生じさせることで往復移動可能なハンマ部と、前記ハンマ部に対して所定の運動速度を付与するように前記ハンマ部の往復距離と往復時間を規定し、前記ハンマ部の往復運動による打撃のタイミングが一定となるように制御する運動速度制御手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置において、前記ガイドロッドは、前記アンビルが取り付けられた側の反対端に前記ハンマ部が当接可能な緩衝材を備えた終端部材が取り付けられると好適である。
【0017】
また、本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置において、前記運動速度制御手段は、前記ハンマ部の往復運動による打撃を一定のタイミングとするように所定の間隔で音を発する発音部を備えると好適である。
【0018】
また、本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置において、前記運動速度制御手段は、前記ガイドロッドの長手方向に沿って配置された2以上の発光部を備え、前記発光部は前記ハンマ部の往復運動による打撃を一定のタイミングとするように所定の間隔で発光すると好適である。
【0019】
また、本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置において、前記ハンマ部の速度履歴の時刻歴データを得るデータ収録装置を備えると好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る簡易動的コーン貫入試験装置は、ガイドロッドに沿ってアンビルに対して近接又は離間するように往復移動可能なハンマ部を備え、該ハンマ部に対して所定の運動速度を付与するように制御する運動速度制御手段を備えているので、ハンマ部を自由落下させて打撃エネルギを得る従来の方法と異なり、試験装置の設置姿勢が鉛直方向に限られず、斜面に対して直角方向や水平方向といった任意の方向からロッドを斜面に貫入することができ、簡易動的コーン貫入試験を高度な専用の計測装置を用いることなく簡便に簡易動的コーン貫入試験を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の構成図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の使用状態を示す概略図。
図3】本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置のハンマ速度及び加速度と時刻歴データを示すグラフ。
図4】本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の変形例を示す概略図。
図5】本発明の第2の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の構成図。
図6】従来の簡易動的コーン貫入試験装置を説明する図であって、(a)は簡易動的コーン貫入試験を行っている状態を示す図であり、(b)はコンクリート吹付工に削孔機械を用いて削孔している状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の構成図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の使用状態を示す概略図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置のハンマ速度及び加速度と時刻歴データを示すグラフであり、図4は、本発明の第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の変形例を示す概略図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、先端に先端コーン11が取り付けられると共に、軸方向に延びる貫入ロッド12と、径方向に拡径するアンビル13を介して貫入ロッド12の延設方向に延びるガイドロッド14と、ガイドロッド14に沿ってアンビル13に対して近接又は離間するように往復移動可能なハンマ部15と、ハンマ部15に対して所定の運動速度を付与するように制御する運動速度制御手段20とを備えている。
【0026】
先端コーン11は、所定の先端角を有する略円錐状の部材であり、地盤に容易に貫入することができるように鋼製で構成されると好適である。また、先端コーン11は、貫入ロッド12に対して着脱自在に構成されると好適であり、この場合、貫入ロッド12に螺合等により着脱自在に構成されると好適である。
【0027】
貫入ロッド12は、所定の長さを有する鋼製の棒状部材であり、貫入量の大小に伴ってその長さを任意に変更することができるように連続的に複数の貫入ロッド12を継ぎ足し可能な連続部を有すると好適である。
【0028】
ガイドロッド14は所定の質量を有するハンマ部15を貫通しており、ハンマ部15を延設方向に沿って往復移動可能に保持している。また、ガイドロッド14の両端には、アンビル13及び終端部材16が所定の間隔Lを有して配置されている。終端部材16のハンマ部15と対向する面には、ゴム等の弾性体または、スポンジ等の塑性材料から成る緩衝材17が取り付けられている。この緩衝材17は、ハンマ部15の打撃エネルギを吸収することができる材料であれば種々の材料を適用することができる。
【0029】
ハンマ部15には、運動速度制御手段としての携帯端末20が取り付けられており、当該携帯端末20は、所定の間隔Tで音を発する発音部21と、アンビル13にハンマ部15が当接した回数やハンマ部15の往復運動における加速度履歴に関する情報を取得するための加速度センサや情報記録媒体を有するデータ収録装置を備えている。なお、携帯端末20は、一般に普及している携帯機器用オペレーションソフト(モバイルオペレーティングシステム)を備えたスマートフォン等が好適に用いられる。この場合、ハンマ部15がアンビル13に打撃する際の衝撃が直接伝わらないようにラバー材などを介してハンマ部15に取り付けるなどの防振処理を施すと好適である。
【0030】
このように構成された本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、図2に示すように発音部21から発せられる音に合わせてハンマ部15をガイドロッド14に沿ってアンビル13と終端部材16の間を往復移動させることで、ハンマ部15の往復運動の速度を制御することができ、ハンマ部15が貫入ロッド12に与える打撃エネルギを制御することができる。具体的には、ハンマ部15の往復距離となるアンビル13と終端部材16との間の距離Lとハンマ部15の往復時間となる発音部21の発音の間隔Tを規定し、一定の時間でハンマ部15を往復させる振り子運動を生じさせることで、一定のハンマ部15の運動エネルギを繰り返し貫入ロッド12に作用させる。これにより、鉛直方向以外の任意の方向に、一定の打撃エネルギを貫入ロッド12に作用させることができる。
【0031】
図2に示すように、作業員を本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10の終端部材16とアンビル13の中間に配置し、人力によってハンマ部15をアンビル13に向けて走行させる往復運動を生じさせる場合、携帯端末20が記録する加速度履歴は一般に波形状を呈する。ハンマ部15がアンビル13に向けて移動するほど、ハンマ部15の位置が作業員から離れるため、ハンマ部15に作業員が作用させる加速度は低減し、さらにハンマ部15がアンビル13に打撃することで、加速度の正負は反転する。打撃後は、ハンマ部15を終端側に帰還させる。なお、ハンマ部15を終端で止める挙動によって、ハンマ部15の加速度の正負は再度反転する。また、終端部材16には緩衝材17が取り付けられているので、ハンマ部15が終端部材16に打撃した際の衝撃による貫入ロッド12の抜けを防止している。
【0032】
ここで、ハンマ部15が終端部材16からアンビル13に向けて走行する際に、その加速度履歴が正弦波(ただし0<θ≦π)に従うとモデル化した場合において、往復距離Lと往復時間Tを規定することで、どのように打撃直前のハンマ部15の運動が規定されるかを示す。
【0033】
ハンマ部15のアンビル13への打撃直前の速度vは以下の数式1によって求められる。
【数1】
【0034】
また、ハンマ部15の加速度は以下の数式2によって求められる。
【数2】
【0035】
なお、上記数式1及び2は、終端部材16と当接しているハンマ部15がアンビル13に打撃するまでの運動を表したものであって、終端部材16からアンビル13に打撃するまでの時間tはt=T/2とし、打撃直前のハンマ部15の加速度はゼロと仮定し、ハンマ部15の初期速度及び初期位置はゼロと仮定した。
【0036】
このように、往復距離Lと往復時間Tを規定し、発音部21の発音のタイミングに合わせてハンマ部15を往復移動させることで、ハンマ部15の打撃エネルギを一定に定めることができる。
【0037】
次に、人力でこのハンマ部15の往復運動をどのように制御するか説明する。上述した運動方程式は、ガイドロッド14の終端部材16からアンビル13に向けて、理想条件でハンマ部15を走行させた場合に得られる運動を規定するものである。ここで、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10を用いた貫入試験におけるハンマ部15の往復運動による打撃を一定のタイミング(往復時間)で試みる場合、ハンマ部15は疑似的な振り子運動に基づく挙動を示すため一定の収束性が期待される。具体的には、作業員の肩を支点、腕を棒、ハンマ部15を質点とする単振り子運動となる。
【0038】
なお、往復運動の往復時間(タイミング)の制御については、上述したように発音部21が規定の往復時間毎に音を発するので、打撃と音が発する時間を合わせることで制御している。
【0039】
このように、発音部21が規定の往復時間毎に音を発し、打撃と音が発する時間を合わせることで、打撃の加速度履歴が抑制される。なお、往復距離Lが長すぎると振り子運動が実現し難くなるため、成人男性の肘から手まで長さに相当する距離(概ね25~30cm)が往復距離Lとして好適に設定される。また往復時間Tも、設定時間が長すぎるとガイドロッド14の終端部材16でハンマ部15の運動が停止する時間が長くなるため、振り子運動が実現し難くなる。作業員が成人男性の場合には、往復距離を25cmに設定した場合に往復時間は0.75~1.0秒に設定されると試験結果のバラツキが抑制されて好適である。なお、作業員の体格等によって往復距離Lや往復時間Tを適宜変更しても構わない。
【0040】
次に、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10を用いた試験方法の高精度化を目的とした改良手法について説明する。本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、ハンマ部15などの試験機の運動を計測するセンサを必要としないため、試験結果の一定程度のバラツキを許容しなければならないものの、非常に簡便な試験方法とすることができる。当該試験は精度よりも簡便性の方が優先される性格が強いために、このような簡便な試験の需要は高いものと考える。
【0041】
一方で、携帯端末20に備わる簡易なセンサやデータ収録装置を用いることで、試験精度や試験の利便性を更に向上させることができる。具体的には、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、試験の補正データ収録には、携帯端末20を用いているので、携帯端末20の加速度センサを利用してハンマ部15の運動に関するデータを収録する。具体的には、携帯端末20は、ハンマ部15の往復運動における加速度履歴を収録する。
【0042】
なお、携帯端末20は打撃時の衝撃が直接伝わらないように、ラバー等を介して防振処理を行った上でハンマ部15に固定されているので、携帯端末20の加速度センサは、ハンマ部15の打撃時の衝撃を直接計測するものではなく、ハンマ部15がアンビル13に打撃する直前の速度に関する情報を得るもので、打撃時の衝撃に関するデータは必要ない。本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、ハンマ部15の往復距離Lおよび往復時間Tが規定されており、またガイドロッド14に沿ってハンマ部15を往復させる観点から打撃のベクトルが固定されるため、ハンマ部15の打撃直前の運動を比較的容易に推定することができる。
【0043】
このように構成された本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、図3に示すように、携帯端末20のデータ収録装置が収録した加速度波形に関するデータを分析することによって、ハンマ部15の速度履歴の時刻歴データを得ることができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、ハンマ部15の速度履歴に関する情報が得られるため、各打撃におけるハンマ部15の最大速度から各打撃の打撃エネルギを求めることができる。この時、貫入ロッド12が所定の貫入量に到達するまでにハンマ部15の打撃を継続した場合、このようなデータ収録によって、打撃回数を計測することも可能であり、また打撃エネルギと打撃回数より、所定の貫入量に到達するまでに要した打撃エネルギの積算値も得る事ができる。これにより、より簡便な装置と方法によって、ハンマ部15を自由落下させて打撃エネルギを得る従来の方法と異なり、試験装置の設置姿勢が鉛直方向に限られず、斜面に対して直角方向や水平方向といった任意の方向から貫入ロッド12を斜面に貫入することができ、簡易動的コーン貫入試験を高度な専用の計測装置を用いることなく簡便に簡易動的コーン貫入試験を行うことが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態における簡易動的コーン貫入試験装置10は、往復時間Tを規定する方法として発音部21から発せられる音によってハンマ部15の運動速度を制御する場合について説明を行ったが、運動速度制御手段は音に限られず、例えば、携帯端末20の画面にハンマ部15の理想的な打撃の軌跡を表示させ、作業員が当該軌跡にあわせてハンマ部15を往復移動させて打撃を行うように構成しても構わない。また、運動速度制御手段は、ガイドロッド14の長手方向に沿って配置された複数の発光部をリレーなどによって所定の間隔及び軌跡で発光させ、当該軌跡に沿ってハンマ部15を往復移動させて打撃を行っても構わない。
【0046】
さらに、図4に示すように、貫入ロッド12の先端に針18を設置することで通常の先端コーン11では貫入不能であった固い斜面の貫入強度を計測することができる。このような構成によれば、深い位置の地盤の固さを針貫入によって把握することが可能となる。
【0047】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10は、貫入方向が鉛直方向に限定されず、斜面に対して任意の方向から貫入することができるとともに、作業員が所定の間隔でハンマ部15を往復動させることができるように、音や光を用いて打撃エネルギを一定に保つ運動速度制御手段について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aは、第1の実施形態とは異なる形態を有する運動速度制御手段の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0048】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置の構成図である。
【0049】
図5に示すように、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aは、運動速度制御手段として、ガイドロッド14の終端側にハンマ部15を所定の速度で射出する射出装置30を備えている。
【0050】
射出装置30は、ガイドロッド14を保持すると共に作業員が簡易動的コーン貫入試験装置10aを把持することができる把持部35を備えた射出装置本体34と、射出装置本体34からガイドロッド14の延設方向と交差する方向に延びる一対の板バネ33と、板バネ33の両端部を連絡する弦32と、弦32に取り付けられた射出部31とを備えている。
【0051】
射出部31は、弦32を介して板バネ33の弾性力によってガイドロッド14の延設方向に射出され、当該射出部31の射出によってハンマ部15をガイドロッド14に沿って一定の運動エネルギで射出することで、アンビル13に対してハンマ部15の打撃を与えることができる。
【0052】
なお、射出部31の射出前には弦32が射出装置本体34に形成された係止部と係合して板バネ33が引き絞られた状態となっており、把持部35の近傍に備え付けられた引き金を操作することで、当該係止部と弦32との係合を解除して板バネ33の弾性力によって射出部31が射出される。
【0053】
ここで、ハンマ部15の射出については、以下の関係式が成り立つ。
【0054】
1/2・M・(α・v)・Ne・e1・e2=S・Rd
ここで、Mはハンマ質量、vは打撃速度、e1,e2はエネルギ損失係数、αは傾斜補正係数、Neは打撃回数、Sは規定貫入量、Rdは平均抵抗力とする。
【0055】
なお打撃方向が水平以外の場合は、射出されたハンマ部15の速度は重力加速度の影響を受けるため、ハンマ部15がアンビル13に衝突する直前のハンマ部15の打撃速度vについては、貫入方向に応じて速度の補正が必要になる。これは事前の調査研究により、貫入方向に応じた傾斜補正係数αを把握する必要がある。また、一定のハンマ部15の打撃速度が得られるように、傾斜角度に応じてハンマ部15の射出速度を調整しても構わない。
【0056】
なお、従来の簡易動的コーン貫入試験では、自由落下したハンマ部がアンビルに衝突した際、ハンマ部が僅かに反発する挙動が確認される場合があるが、反発したハンマ部は重力の作用によって、再度アンビルに向けて落下するので再貫入が発生し、ハンマ部の位置エネルギの全て(熱・音・振動によるエネルギ損失は除く)は貫入ロッドの地盤貫入の仕事に消費されることになる。一方で、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aのように、鉛直方向以外に規定速度でハンマ部15を運動させて打撃する場合には、反発したハンマ部15の運動エネルギは貫入ロッド12の再貫入に利用されることはない。このような、ハンマ部15の反発によって生じるエネルギ損失はエネルギ損失係数e2として考慮されることになる。e2については、地盤条件および打撃装置条件ごとに変わるため、事前の調査研究により現地条件に応じた代表的な値を定める必要がある。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aは、ハンマ部15の打撃速度を制御することで、打撃回数Nd=(α・v)・e2/(2・g・h)・Neとして換算される打撃回数Neの値を得る事ができる。貫入ロッド12の貫入量と打撃回数の関係から地盤の固さを把握することができる。
【0058】
このように、本実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aは、より簡便な装置と方法によって、ハンマ部15を自由落下させて打撃エネルギを得る従来の方法と異なり、試験装置の設置姿勢が鉛直方向に限られず、斜面に対して直角方向や水平方向といった任意の方向から貫入ロッド12を斜面に貫入することができ、簡易動的コーン貫入試験を高度な専用の計測装置を用いることなく簡便に簡易動的コーン貫入試験を行うことが可能となる。
【0059】
なお、上述した第1及び第2の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10,10aは、鉛直方向以外の任意の方向に地盤の貫入強度を計測することができるので、急傾斜地等においても簡便に貫入強度を計測することができる。また、専用のセンサやデータ収録装置を用いて、ハンマ部の打撃エネルギを逐次計測する方法に対して、非常に簡便な手法で貫入試験を行うことができるため、非常に低コストで試験を実施することができる。また、比較的に高精度な試験結果を必要とする場合には、携帯端末など一般に安価で普及している電子機器を利用して、ハンマ部の往復運動に関するデータを収録することで、試験結果を安価かつ容易に補正することができる。
【0060】
また、吹付斜面に水抜き孔などの既設孔が予め設置されている場合には、コンクリート吹付工に孔を開けずに背面地盤の貫入強度を計測することができるため、更なる作業効率の向上に寄与する。
【0061】
また、上述した第2の実施形態に係る簡易動的コーン貫入試験装置10aは、板バネ33を用いて射出部31を射出させる構造を適用した場合について説明をおこなったが、射出部31の射出方法はこれに限られず、例えば板バネ33の代わりにコイルバネ等の他の弾性体を用いても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0062】
10,10a 簡易動的コーン貫入試験装置, 11 先端コーン, 12 貫入ロッド, 13 アンビル, 14 ガイドロッド, 15 ハンマ部, 16 終端部材, 17 緩衝材, 20 携帯端末, 21 発音部, 30 射出装置, 31 射出部, 32 弦, 33 板バネ, 34 射出装置本体, 35 把持部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6