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特許7190405ノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
A23L2/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019143377
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021023191
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】澤田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】滝井 慎也
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-088212(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057084(WO,A1)
【文献】特開2017-000038(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182512(WO,A1)
【文献】特開2013-169158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
C12C 1/00-13/10
C12G 3/00-3/08
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-イソロイシンの含有量が0.01~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項2】
D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-ロイシンの含有量が0.02~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-バリンの含有量が0.02~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項4】
D-イソロイシン及びD-ロイシンの合計含有量が、0.03~0.60mg/Lである、請求項1~3いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項5】
D-ロイシン及びD-バリンの合計含有量が、0.04~0.60mg/Lである、請求項1~4いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項6】
D-イソロイシン及びD-バリンの合計含有量が、0.03~0.60mg/Lである、請求項1~5いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項7】
D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量が、0.05~0.90mg/Lである、請求項1~6いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料。
【請求項8】
請求項1~7いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法であって、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程中に、モルトエキスをLb.fermentumで発酵させた乳酸発酵エキスを添加する、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつノンアルコールビールテイスト飲料の開発が望まれている。例えば、特許文献1には、バリン、ロイシンおよびイソロイシンが雑味に関与するアミノ酸であるとして、これらの割合を所定範囲に調整することなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-212960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、雑味の原因と考えられていたバリン、ロイシン、イソロイシンに関し、これらアミノ酸のD体の含有量を所定範囲内とすることで、キレに優れる飲料が得られることを新たに見出した。
【0005】
本発明は、キレに優れるノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記[1]~[4]に関する。
[1]D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-イソロイシンの含有量が0.01~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
[2]D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-ロイシンの含有量が0.02~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
[3]D-アラニンの含有量が2.5mg/L以下であり、D-バリンの含有量が0.02~0.30mg/Lである、ノンアルコールビールテイスト飲料。
[4][1]~[3]いずれかに記載のノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法であって、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程中に、モルトエキスをLb.fermentumで発酵させた乳酸発酵エキスを添加する、ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、キレに優れるノンアルコールビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一般的に、ビールテイスト飲料ではキレが高いとお客様嗜好度が向上する。本発明者らは、D-イソロイシン、D-ロイシン、D-バリンなどの特定のD-アミノ酸がビールテイスト飲料のキレに寄与することを新たに見出した。また、D-アラニンの含有量が多くなると、キレが悪くなる傾向にあることについても新たに見出した。そして、ノンアルコールビールテイスト飲料における特定のD-アミノ酸を特定の範囲内の量とし、D-アラニンの含有量を特定量以下とすることで、キレに優れるビールテイスト飲料が得られることを新たに見出した。本明細書における「キレ」とは、甘味や甘い香りが少なく後に残らず、のどの奥に軽さを感じる爽快感、刺激感があることを指す。
【0009】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、特定のD-アミノ酸を含有する。ここで、本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。本発明はこのうち、「ノンアルコールビールテイスト飲料」に関する。本明細書において「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール度数が1%未満のビールテイスト飲料であり、好ましくは0.005%未満であり、より好ましくはアルコールを実質的に含まない。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、特に断りがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味を有するいずれのノンアルコールの炭酸飲料をも包含する。ここで、アルコールを実質的に含まない態様の飲料は、検出できない程度の極微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。アルコール度数が四捨五入により0%となる飲料、0.0%となる飲料、中でも、アルコール度数が四捨五入により0.00%となる飲料は、ノンアルコールビールテイスト飲料に包含される。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の種類としては、例えば、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料などが含まれる。なお、ここでの「アルコール度数(アルコール含有量)」はエタノールの含有量を意味し、脂肪族アルコールは含まれない。本明細書において、アルコール度数は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0010】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-アラニンの含有量は、キレを良好にする観点から、2.5mg/L以下であり、好ましくは2mg/L以下であり、より好ましくは1mg/L以下であり、また、下限値は特に限定されるものではないが、0.01mg/L以上とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0011】
(態様1)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の態様の一つとして、D-イソロイシンを特定量含む態様が挙げられる。
【0012】
本態様のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-イソロイシンの含有量は、キレを良好にする観点から、0.01mg/L以上であり、好ましくは0.02mg/L以上であり、より好ましくは0.03mg/L以上であり、また、同様の観点から、0.3mg/L以下であり、好ましくは0.1mg/L以下であり、より好ましくは0.06mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0013】
(態様2)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の態様の一つとして、D-ロイシンを特定量含む態様が挙げられる。
【0014】
本態様のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-ロイシンの含有量は、キレを良好にする観点から、0.02mg/L以上であり、好ましくは0.03mg/L以上であり、より好ましくは0.05mg/L以上であり、また、同様の観点から、0.3mg/L以下であり、好ましくは0.15mg/L以下であり、より好ましくは0.1mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0015】
(態様3)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の態様の一つとして、D-バリンを特定量含む態様が挙げられる。
【0016】
本態様のノンアルコールビールテイスト飲料中のD-バリンの含有量は、キレを良好にする観点から、0.02mg/L以上であり、好ましくは0.03mg/L以上であり、より好ましくは0.05mg/L以上であり、また、同様の観点から、0.3mg/L以下であり、好ましくは0.15mg/L以下であり、より好ましくは0.1mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0017】
上記の各態様は、複数の態様を任意に組み合わせることができる。例えば、以下のように複数成分を組み合わせてもよい。
【0018】
ノンアルコールビールテイスト飲料中のD-イソロイシン及びD-ロイシンの合計含有量は、キレを良好にする観点から、好ましくは0.03mg/L以上であり、より好ましくは0.05mg/L以上であり、さらに好ましくは0.08mg/L以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.60mg/L以下であり、より好ましくは0.25mg/L以下であり、更に好ましくは0.16mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0019】
ノンアルコールビールテイスト飲料中のD-ロイシン及びD-バリンの合計含有量は、キレを良好にする観点から、好ましくは0.04mg/L以上であり、より好ましくは0.06mg/L以上であり、さらに好ましくは0.10mg/L以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.60mg/L以下であり、より好ましくは0.30mg/L以下であり、更に好ましくは0.20mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0020】
ノンアルコールビールテイスト飲料中のD-イソロイシン及びD-バリンの合計含有量は、キレを良好にする観点から、好ましくは0.03mg/L以上であり、より好ましくは0.05mg/L以上であり、さらに好ましくは0.08mg/L以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.60mg/L以下であり、より好ましくは0.25mg/L以下であり、更に好ましくは0.16mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0021】
ノンアルコールビールテイスト飲料中のD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの合計含有量は、キレを良好にする観点から、好ましくは0.05mg/L以上であり、より好ましくは0.08mg/L以上であり、さらに好ましくは0.14mg/L以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.90mg/L以下であり、より好ましくは0.40mg/L以下であり、更に好ましくは0.25mg/L以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0022】
本明細書において、ノンアルコールビールテイスト飲料中のアミノ酸の定量は、5倍希釈実試料にIS溶液とアセトニトリルを加えて混和した後、遠心分離した上清を回収し(除タンパク処理)、除タンパク処理した試料について、アミノ酸誘導体化試薬(R)-BiACを用いて塩基性条件下で誘導体化反応を行った後、0.1%ぎ酸を加えたものをLC-MS/MS解析(島津LCMS8060)に供する。
【0023】
(カロリー)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料については、近年の低カロリー嗜好に合わせて、低カロリーであることが望ましい。従って、本発明にかかるノンアルコールビールテイスト飲料のカロリー数は、好ましくは5kcal/100mL未満、より好ましくは4kcal/100mL未満、更に好ましくは3kcal/100mL未満である。
【0024】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれるカロリー数は、基本的に健康増進法に関連して公表されている「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に従って算出する。すなわち、原則として、定量した各種栄養成分の量に、それぞれの成分のエネルギー換算係数(タンパク質:4kcal/g、脂質:9kcal/g、糖質:4kcal/g、食物繊維:2kcal/g、アルコール:7kcal/g、有機酸:3kcal/g)を乗じたものの総和として算出することができる。詳細は、「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」を参照されたい。
【0025】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる各栄養成分量の具体的な測定手法は、健康増進法「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に記載の各種分析法に従えばよい。または、財団法人 日本食品分析センターに依頼すれば、このような熱量及び/又は各栄養成分量を知ることができる。
【0026】
(糖質)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に含まれる糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。具体的には、タンパク質の量は窒素定量換算法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法またはレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法または硫酸添加灰化法で測定し、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧過熱乾燥法、常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法で測定する。
【0027】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であることが望ましい。従って、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料の糖質の含有量は、好ましくは0.5g/100mL未満、より好ましくは0.4g/100mL以下、更に好ましくは0.3g/100mL以下である。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。
【0028】
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、特定のD-アミノ酸(D-イソロイシン、D-ロイシン、及び/又はD-バリン)を添加する以外は、いずれも一般的なノンアルコールビールテイスト飲料と同様にして製造できる。以下に、一般的なノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程を示す。一般的なノンアルコールビールテイスト飲料は麦芽を原料として使用するものとしないものとがあり、以下のように製造することができる。
【0029】
麦芽を原料として使用して製造されるノンアルコールビールテイスト飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。煮沸後、得られた麦汁を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程において特定のD-アミノ酸の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0030】
麦芽を原料として使用しないノンアルコールビールテイスト飲料を製造する場合には、まず、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。煮沸後の液糖溶液に対して、炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程において特定のD-アミノ酸の添加は、充填までのどの工程で行ってもよいが、微生物保証の観点から、煮沸工程において混合することが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法における特定のD-アミノ酸の添加態様としては、特定のD-アミノ酸を含有する製剤や飲食品用組成物などを添加する態様が挙げられる。より具体的には、D-アミノ酸を含有する飲食品用組成物として、乳酸発酵エキスを用いることが好的に例示される。乳酸発酵エキスとしては、モルトエキス、米エキス、大麦エキス、コーンスターチなどを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスが挙げられ、発酵性や風味の観点から、モルトエキスを乳酸発酵させた乳酸発酵エキスの態様が好ましい。本態様において、モルトエキスは麦芽に対して粉砕、糖化、ろ過、煮沸、ろ過という一連の工程を経ることにより調製することができ、モルトエース20(オリエンタル酵母工業(株)製)などの市販品を用いることもできる。乳酸発酵エキスの調製に用いられる乳酸菌としては、Lb.fermentum、Lb.reuteriなどが挙げられ、D-アスパラギン酸とD-グルタミン酸の産生能の観点から、Lb.fermentumを用いる態様が好ましい。培養条件としては一般的な乳酸菌培養の条件を当てはめることが好ましい。培養温度は、乳酸菌が生育しうる範囲、即ち、30~45℃で行われる。培養の際はpH3.0~8.0、好ましくはpH3.5~7.0で行う。培養時間は、使用する培地の種類および基質により異なるが、通常、10~24時間程度であり、好ましくは一晩以上培養する。培養後、得られた培養液は、殺菌工程の有無にかかわらず、当該分野において通常使用される周知の手段、例えば膜濾過、遠心分離などの操作により不溶性固形分を除去することにより乳酸発酵エキスが得られる。このような乳酸発酵エキスは、D-アラニンの含有量に対して、D-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンの含有量が多いことから、ノンアルコールビールテイスト飲料にD-イソロイシン、D-ロイシン、及びD-バリンを効率的に付与することができる。
【0032】
本発明の製造方法では、ノンアルコールビールテイスト飲料に、酒感を付与する観点から、脂肪族アルコールを添加してもよい。脂肪族アルコールとしては、公知のものであれば特に制限されないが、炭素数4~5の脂肪族アルコールが好ましい。本発明において、好ましい脂肪族アルコールとしては、炭素数4のものとして、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が、炭素数5のものとして、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。炭素数4~5の脂肪族アルコールの含有量は好ましくは0.0002~0.0007質量%であり、より好ましくは0.0003~0.0006質量%である。本明細書において、脂肪族アルコールの含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定することができる。
【0033】
(酸味料)
本発明の製造方法において使用される酸味料としては、クエン酸、乳酸、リン酸、及びリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上の酸を用いることが好ましい。また、本発明の製造方法においては、前記酸以外の酸として、コハク酸、酒石酸、フマル酸および氷酢酸等も用いることができる。これらは食品に添加することが認められているものであれば制限なく用いることができる。本発明の製造方法においては、まろやかな酸味を適切に付与する観点から乳酸と、やや刺激感のある酸味を適切に付与する観点からリン酸との組み合わせを用いることが好ましい。
【0034】
酸味料の含有量は、本発明のノンアルコールビールテイスト飲料中、クエン酸換算で、ビールテイスト感の付与の観点から、200ppm以上が好ましく、550ppm以上がより好ましく、700ppm以上がさらに好ましく、また、酸味の観点から、15000ppm以下が好ましく、5500ppm以下がより好ましく、2000ppm以下がさらに好ましい。従って、本発明において、酸味料の含有量は、クエン酸換算で、200ppm~15000ppm、好ましくは550ppm~5500ppm、より好ましくは700ppm~1500ppmなどの好適範囲が挙げられる。なお、本明細書において、クエン酸換算量とは、クエン酸の酸味度を基準として各酸味料の酸味度から換算される量のことであり、例えば、乳酸100ppmに相当するクエン酸換算量は120ppm、リン酸100ppmに相当するクエン酸換算量は200ppm、リンゴ酸100ppmに相当するクエン酸換算量は125ppmとして換算する。本明細書において、酸味料の含有量については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析して算出されたものを指す。
【0035】
(ホップ)
本発明の製造方法では、原料の一部にホップを用いることができる。香味がビールに類似する傾向にあることから、原料の一部にホップを用いることが望ましい。ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料に使用されるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001~1質量%程度である。
【0036】
(その他の原料)
本発明の製造方法では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、苦味料、香料、酵母エキス、カラメル色素などの着色料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、乳清などの動物タンパク質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。
【0037】
かくして本発明のノンアルコールビールテイスト飲料が得られる。本発明のノンアルコールビールテイスト飲料のpHは、飲料の風味を良好にする観点から、好ましくは3.0~5.0であり、より好ましくは3.5~4.5であり、さらに好ましくは3.5~4.0である。
【0038】
(容器詰飲料)
本発明のノンアルコールビールテイスト飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0040】
<ノンアルコールビールテイスト飲料の調製>
実施例1~63、比較例1~62
市販のノンアルコールビールテイスト飲料に、D-アラニン(ナカライテスク社製)、D-イソロイシン(ナカライテスク社製)、D-ロイシン(ナカライテスク社製)、D-バリン(ナカライテスク社製)を表1~7に記載した含有量となるように添加して、ノンアルコールビールテイスト飲料を得た。D-アミノ酸を添加する前の飲料は参考例1とした。
【0041】
調製例1 乳酸発酵エキスの調製
モルトエキスを特定の乳酸菌で発酵させることにより、乳酸発酵エキスを得た。具体的には、モルトエキス(オリエンタル酵母工業(株)社製、「モルトエース20」)2.5g、L-アスパラギン酸0.1g、L-グルタミン酸0.1g、水96.3gを混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後、乳酸菌培養温度まで冷却した、冷却した原料混合物に、市販の乳酸菌Lb.fermentumの懸濁液1×10(cfu/g)1gを接種し、一般的な乳酸菌培養条件にてインキュベートし、乳酸発酵を行った。乳酸発酵後の混合液を遠心分離に供して不溶固形分を除去し、乳酸発酵エキスを得た。得られた飲食品用組成物の詳細を表8に示す。得られた乳酸発酵エキス中のアミノ酸の定量は、5倍希釈実試料にIS溶液とアセトニトリルを加えて混和した後、遠心分離した上清を回収し(除タンパク処理)、除タンパク処理した試料について、アミノ酸誘導体化試薬(R)-BiACを用いて塩基性条件下で誘導体化反応を行った後、0.1%ぎ酸を加えたものをLC-MS/MS解析(島津LCMS8060)に供した。
【0042】
実施例71
市販のノンアルコールビールテイスト飲料100質量部に対し、調製例1で得られた乳酸発酵エキスを0.3質量部添加して、ノンアルコールビールテイスト飲料を得た。乳酸発酵エキスを添加する前の飲料は参考例1とした。
【0043】
得られたノンアルコールビールテイスト飲料について、専門パネリスト6名により、参考例1のスコアを「1点」として、以下の基準で相対的なスコア化を実施した。スコア化は0.25刻みで実施し、専門パネリスト6名のスコアの平均点を算出した。この平均点に基づき、キレの増強効果の程度を以下の基準により「×」~「◎」の記号で示した。判定が「△」以上であれば、キレが増強されていると認められる。結果を表1~8に示す。
(キレのスコア)
1:全く感じない
2:やや感じる
3:明確に感じる
4:非常に強く感じる
(キレの評価基準)
×:キレのスコアが1.0以上、1.5未満
△:キレのスコアが1.5以上、2.5未満
○:キレのスコアが2.5以上、3.5未満
◎:キレのスコアが3.5以上
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
表1~8から分かるように、D-イソロイシン、D-ロイシン、又はD-バリンを特定の範囲内とした各実施例のノンアルコールビールテイスト飲料は、いずれもキレに優れるものであった。また、表7から分かるように、D-アラニンの含有量が3.00mg/L以上となると、キレが悪いものとなってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、キレに優れる新たなテイストのビールテイスト飲料を提供できる。