(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電気コネクターおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20221208BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01R11/01 501A
H01R11/01 501G
H01R43/00 H
(21)【出願番号】P 2019512522
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015032
(87)【国際公開番号】W WO2018190330
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2017078405
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 真司
(72)【発明者】
【氏名】土屋 昌俊
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190982(JP,A)
【文献】特開2012-204285(JP,A)
【文献】特開平03-285211(JP,A)
【文献】特開平10-022034(JP,A)
【文献】特開2014-071962(JP,A)
【文献】特許第2787032(JP,B2)
【文献】特開2007-188841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R11/00-11/32
H01R43/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一デバイスの接続端子と、第二デバイスの接続端子との間に配置され、これらを電気的に接続する電気コネクターであって、
第一面と第二面に開口する複数の貫通孔を有する合成ゴム製の弾性体と、前記貫通孔の各々に接合された1本以上のカーボンナノチューブ紡績糸と、を備え
、
前記弾性体の前記第一面および前記第二面のうち少なくとも一方において、前記弾性体の厚み方向に、前記弾性体および前記カーボンナノチューブ紡績糸が部分的に突出した突出部を有し、
前記弾性体の前記第一面および前記第二面のうち少なくとも一方において、前記突出部よりも厚みが薄い領域に樹脂製のシート状部材が積層されている、電気コネクター。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記弾性体の厚み方向に対して斜めに貫通する請求項1に記載の電気コネクター。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ紡績糸の少なくとも一部は、前記弾性体の前記第一面および前記第二面の少なくとも一方から突出している請求項1または2に記載の電気コネクター。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ紡績糸の表面にメッキ層が形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の電気コネクター。
【請求項5】
弾性体からなる第一の樹脂層の第一面上に、複数のカーボンナノチューブ紡績糸を、前記複数のカーボンナノチューブ紡績糸の長手方向の向きを揃えて任意の間隔で配置すること、
前記第一の樹脂層の第一面上に弾性体からなる第二の樹脂層を形成することにより、カーボンナノチューブ紡績糸含有シートを形成すること、
複数の前記カーボンナノチューブ紡績糸含有シートを、各カーボンナノチューブ紡績糸含有シート中の前記カーボンナノチューブ紡績糸の長手方向の向きを揃えて積層し、前記カーボンナノチューブ紡績糸含有シートの積層体を形成すること、
前記積層体を、前記カーボンナノチューブ紡績糸の長手方向に対して垂直方向または斜め方向に切断して、電気コネクターを得ること、
前記電気コネクターの第一面および第二面のうち少なくとも一方の面から、前記弾性体の一部および前記カーボンナノチューブ紡績糸の一部を厚み方向に除去することにより、前記電気コネクターの厚み方向に、前記弾性体および前記カーボンナノチューブ紡績糸が部分的に突出した突出部を形成すること、および、
前記突出部を形成した後に前記突出部以外の領域に樹脂製のシート状部材を積層することを含む電気コネクターの製造方法。
【請求項6】
前記電気コネクター中の前記カーボンナノチューブ紡績糸の少なくとも一部を、前記電気コネクターの第一面および第二面のうちの少なくとも一方から突出させることを含む、請求項
5に記載の電気コネクターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクターおよびその製造方法に関する。本願は、2017年4月11日に、日本に出願された特願2017-078405号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
表面実装型の半導体パッケージと回路基板の検査を行う場合、または表面実装型の半導体パッケージと回路基板を接続する場合には、圧接型のコネクターが用いられている。このようなコネクターとしては、例えば、複数の導電線(導電部材)の向きを揃えて互いに絶縁を保って配線された複数のシートが、導電線の向きを一定にして積層され、得られた積層物の複数枚が、導電線の向きを揃えて、一定の角度で階段状に配列積層一体化してブロック体とされ、得られたブロック体がスライス用基板面に接着され、その基板面に平行にかつ導電線を横切る平行な2面で切断されてなる圧接型コネクター(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている圧接型コネクターは、デバイスの接続端子と接続する際に、その接続端子に対して、圧接型コネクターの導電部材から過剰な力が加えられ、接続端子が損傷するという課題がある。
【0005】
本発明は、電気コネクターに接続するデバイスの接続端子に対して、電気コネクターの導電部材から過剰な力が加えられることがなく、安定した接続を可能とする電気コネクターおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 第一デバイスの接続端子と、第二デバイスの接続端子との間に配置され、これらを電気的に接続する電気コネクターであって、第一面と第二面に開口する複数の貫通孔を有する弾性体と、前記貫通孔の各々に接合された1本以上のカーボンナノチューブ紡績糸と、を備える電気コネクター。
[2] 前記貫通孔は、前記弾性体の厚み方向に対して斜めに貫通する[1]に記載の電気コネクター。
[3] 前記カーボンナノチューブ紡績糸の少なくとも一部は、前記弾性体の前記第一面および前記第二面の少なくとも一方から突出している[1]または[2]に記載の電気コネクター。
[4] 前記カーボンナノチューブ紡績糸の表面にメッキ層が形成されている[1]~[3]のいずれか1項に記載の電気コネクター。
[5] 前記弾性体の前記第一面および前記第二面のうち少なくとも一方において、前記弾性体の厚み方向に、前記弾性体および前記カーボンナノチューブ紡績糸が部分的に突出した突出部を有する[1]~[4]のいずれか1項に記載の電気コネクター。
[6] 前記弾性体の前記第一面および前記第二面のうち少なくとも一方において、前記突出部よりも厚みが薄い領域に樹脂製のシート状部材が積層されている[5]に記載の電気コネクター。
[7] 弾性体からなる第一の樹脂層の第一面上に、複数のカーボンナノチューブ紡績糸を、前記複数のカーボンナノチューブ紡績糸の長手方向の向きを揃えて任意の間隔で配置すること、前記第一の樹脂層の第一面上に弾性体からなる第二の樹脂層を形成することにより、カーボンナノチューブ紡績糸含有シートを形成すること、複数の前記カーボンナノチューブ紡績糸含有シートを、各カーボンナノチューブ紡績糸含有シート中の前記カーボンナノチューブ紡績糸の長手方向の向きを揃えて積層し、前記カーボンナノチューブ紡績糸含有シートの積層体を形成すること、前記積層体を、前記カーボンナノチューブ紡績糸の長手方向に対して垂直方向または斜め方向に切断して、電気コネクターを得ること、を含む電気コネクターの製造方法。
[8] 前記電気コネクター中の前記カーボンナノチューブ紡績糸の少なくとも一部を、前記電気コネクターの第一面および第二面のうちの少なくとも一方から突出させることを含む、[7]に記載の電気コネクターの製造方法。
[9] 前記電気コネクターの第一面および第二面のうち少なくとも一方の面から、前記弾性体の一部および前記カーボンナノチューブ紡績糸の一部を厚み方向に除去することにより、前記電気コネクターの厚み方向に、前記弾性体および前記カーボンナノチューブ紡績糸が部分的に突出した突出部を形成することを含む、[7]または[8]に記載の電気コネクターの製造方法。
[10] 前記突出部を形成した後に前記突出部以外の領域に樹脂製のシート状部材を積層することを含む[9]に記載の電気コネクターの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気コネクターに接続するデバイスの接続端子に対して、電気コネクターの導電部材から過剰な力が加えられることがなく、耐熱性に優れ、安定した接続を可能とする電気コネクターおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態の電気コネクターの概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)における領域αの拡大図、(c)は(a)のA-A線に沿う断面図である。
【
図2】第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す斜視図である。
【
図3】第2の実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。
【
図4】第3の実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。
【
図5】第3の実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す断面図である。
【
図6】第4の実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。
【
図7】第4の実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す断面図である。
【
図8】実施例1の電気コネクターにプローブを接続した際の結果である。
【
図9】実施例1の電気コネクターを押し込んだ銅箔の表面の電子顕微鏡像である。
【
図10】実施例2の電気コネクターにプローブを接続した際の結果である。
【
図11】実施例2の電気コネクターを押し込んだ銅箔の表面の電子顕微鏡像である。
【
図12】比較例1の電気コネクターにプローブを接続した際の結果である。
【
図13】比較例1の電気コネクターを押し込んだ銅箔の表面の電子顕微鏡像である。
【
図14】比較例2の電気コネクターにプローブを接続した際の結果である。
【
図15】比較例2の電気コネクターを押し込んだ銅箔の表面の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して具体的に説明するが、図の寸法は説明の便宜のために実際とは異なる。また、本明細書において、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。また、本明細書において「厚さ」は、デジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段を用いて測定対象の断面を観察し、5箇所の厚さを測定し、平均した値である。
以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
[電気コネクター]
図1に示すように、本実施形態の電気コネクター10は、弾性体20と、カーボンナノチューブ紡績糸(以下、「CNT紡績糸」と略す。)30と、を有する複合体40を備える。
電気コネクター10は、図示略の第一デバイスの接続端子と、図示略の第二デバイスの接続端子との間に配置され、これらを電気的に接続するためのものである。電気コネクター10において、CNT紡績糸30は、第一デバイスの接続端子と第二デバイスの接続端子の電気的接続を行う導電部材である。デバイスとしては、例えば、半導体パッケージや回路基板が挙げられる。
【0011】
弾性体20は、その厚み方向に貫通する多数の貫通孔21を有する。貫通孔21は弾性体20の第一面である一方の主面20aおよび第二面である他方の主面20bに開口している。各貫通孔21の内壁に1本以上のCNT紡績糸30が接合されている。
単一の貫通孔21に接合されるCNT紡績糸30の本数は、例えば、1~10本とすることができる。単一の貫通孔21における電気抵抗を低減する観点、柔軟性を得る観点から、前記本数は、1~3本が好ましく、1又は2本がより好ましく、1本がさらに好ましい。
【0012】
弾性体20におけるCNT紡績糸30を設ける位置、すなわち、弾性体20における貫通孔21の配置は、特に限定されず、貫通孔21に接合されたCNT紡績糸30によって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置等に応じて適宜調整される。電気コネクター10が均一に変形する(撓む)ようにするためには、弾性体20において、CNT紡績糸30および貫通孔21が等間隔に設けられていることが好ましい。
【0013】
弾性体20におけるCNT紡績糸30の数、すなわち、弾性体20における貫通孔21の数は、特に限定されず、貫通孔21に接合されたCNT紡績糸30によって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置や、必要とされる接続端子に対するCNT紡績糸30の押圧力等に応じて適宜調整される。
【0014】
貫通孔21は、弾性体20を、その厚み方向に対して垂直または斜めに貫通する。
貫通孔21が、弾性体20を、その厚み方向に対して斜めに貫通する場合、貫通孔21の弾性体20の厚み方向に対する角度は、10°~85°であることが好ましい。一方の主面20aと各貫通孔21とがなす角は15°~80°が好ましく、他方の主面20bと各貫通孔21とがなす角は15°~80°が好ましい。貫通孔21の弾性体20の厚み方向に対する角度および上記の各なす角は、貫通孔21に接合されたCNT紡績糸30によって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置等に応じて適宜調整される。
電気コネクター10が有する各貫通孔21の配向は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
各貫通孔21の前記厚み方向に対する角度、前記なす角は、弾性体20の厚み方向に沿う断面をデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0015】
貫通孔21の長手方向と垂直な断面の形状としては、例えば、円形、楕円形、多角形、その他の不定形等が挙げられる。
【0016】
貫通孔21の孔径は、貫通孔21の長手方向と垂直な断面の形状の輪郭を含む最小円の直径であり、貫通孔21に接合されるCNT紡績糸30の直径(外径)に応じて適宜調整される。貫通孔21の孔径は、例えば、1μm~100μmであることが好ましい。各貫通孔21の形状および孔径は互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。
各貫通孔21の形状、および孔径は、前記断面をデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0017】
弾性体20はシート状の部材であり、そのサイズとしては、例えば、平面視で縦×横=0.3cm×0.3cm~50cm×50cmが挙げられる。
弾性体20の厚みは、0.03mm~1.0mmであることが好ましい。電気コネクター10の厚みは、弾性体20の厚みに等しい。
弾性体20の厚さは、突出部を除く領域において、5箇所の厚さを測定して平均した値である。
【0018】
CNT紡績糸30は、弾性体20の貫通孔21に接合されている。貫通孔21は弾性体20が本来的に有する弾性力によってCNT紡績糸30を保持している。これにより、CNT紡績糸30は、弾性体20を、その厚み方向に対して垂直または斜めに貫通するように配置されている。貫通孔21の配向と、その貫通孔21に接合されたCNT紡績糸30の配向は一致している。
【0019】
CNT紡績糸30の両端部のうち少なくとも一方、すなわち少なくとも一部は、貫通孔21に接合された状態で、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bの少なくとも一方から突出していることが好ましい。CNT紡績糸30は、貫通孔21に接合された状態で、その一方の端部30aが弾性体20の一方の主面20aから突出し、その他方の端部30bが弾性体20の他方の主面20bから突出していることがより好ましい。CNT紡績糸30の端部が突出していない場合、CNT紡績糸30が貫通孔21に接合された状態で、その一方の端部30aの最表面(端面)又は先端が少なくとも弾性体20の一方の主面20aと同一面上に存在し、その他方の端部30bの最表面(端面)又は先端が少なくとも弾性体20の他方の主面20bと同一面上に存在していることが好ましい。
CNT紡績糸30の一方の端部30aおよび他方の端部30bの弾性体20からの突出量(突出長さ)は、特に限定されず、電気コネクター10によって電気的に接続する2つのデバイスの接続端子の形状、配置等に応じて適宜調整される。前記突出量として、例えば、0.01mm~0.1mm程度が挙げられる。前記突出量は、一方の主面20a又は他方の主面20bをデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0020】
隣接する2つの貫通孔21間の間隔、すなわち、隣接する2つのCNT紡績糸30の中心間距離(ピッチ)は、特に限定されず、電気コネクター10によって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置等に応じて適宜調整される。前記中心間距離(
図1(b)におけるP
1、P
2)は、4μm~200μmであることが好ましい。単一の貫通孔21に接合されるCNT紡績糸30が1本である場合、前記中心間距離は、隣接する2つの貫通孔21の中心間距離に相当する。前記中心間距離は、一方の主面20a又は他方の主面20bをデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0021】
弾性体20の材料としては、弾性体20を形成した場合に弾性を有するものであれば特に限定されず、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム等が挙げられる。これらの中でも、高弾性で耐熱性に優れる点から、シリコーンゴムが好ましい。
【0022】
CNT紡績糸30としては、2つのデバイスの接続端子同士を電気的に接続することができるものであれば特に限定されない。
CNT紡績糸30は、炭素原子が網目のように結びついて筒状になったカーボンナノチューブ(CNT)を撚ってなる糸状のものである。
CNT紡績糸30を構成するCNTは、単層カーンボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、多層カーンボンナノチューブ(MWNT)であってもよい。
【0023】
CNT紡績糸30の直径(外径)は、特に限定されないが、1μm~100μmであることが好ましい。
CNT紡績糸30の撚り数、すなわち、CNT紡績糸30を構成するCNTの本数は、特に限定されないが、5本~100万本であることが好ましい。
CNT紡績糸30を構成するCNTの直径(外径)は、特に限定されないが、0.4nm~300nmであることが好ましい。CNTの長さは、特に限定されないが、50μm~1mmであることが好ましい。
前記CNT紡績糸およびCNTの直径や長さは、電子基顕微鏡やデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0024】
単層カーンボンナノチューブは導電性が高いため、電気コネクター10を高周波電流用途のデバイス同士の接続に用いる場合、CNT紡績糸30は、単層カーンボンナノチューブから構成されることが好ましい。
CNT紡績糸30は、CNT紡績糸30を構成するCNT同士が長手方向に沿って予め配向されていることから、抵抗値が低い。
【0025】
カーンボンナノチューブの特徴としては、主に、下記の(1)~(6)が挙げられる。
(1)細く、軽く、強い。
(2)アルミニウムの約半分の軽さで、鋼鉄の100倍の引っ張り強さを有し、硬度がダイヤモンドの約2倍である。
(3)破断し難く、復元性に優れ、柔軟性に富んでいる。
(4)銅の約1000倍という高い電流密度耐性(高密度な電荷量に構造的に耐えられる性質)を有する。
(5)銅の約10倍の熱を伝えることが可能であり、空気中で750℃程度、真空中で2300℃程度の耐熱性を有する。
(6)耐薬品性に優れ、化学的に安定であり、ほとんどの薬品に反応せず非可溶であり、熱硫酸にも不溶である。
【0026】
本実施形態の電気コネクター10によれば、厚み方向に多数の貫通孔21を有する弾性体20と、貫通孔21に接合され、2つのデバイスの接続端子を電気的に接続するCNT紡績糸30と、を有する複合体40を備える。そのため、より小さな力で、弾性体20と、柔軟性に富むCNT紡績糸30とを有する複合体40が、弾性体20の厚み方向に変形する(撓む)。これにより、電気コネクター10に接続するデバイスの接続端子とCNT紡績糸30との接続時に、デバイスの接続端子に対してCNT紡績糸30から過剰な力が加えられることがなく、その接続端子が損傷することを防止できる。また、本実施形態の電気コネクター10によれば、CNT紡績糸30は耐熱性を有するため、高温の環境においても、CNT紡績糸30を介して、2つのデバイスの接続端子を安定に電気的に接続することができる。
【0027】
[電気コネクターの製造方法]
本実施形態の電気コネクターの製造方法は、弾性体からなる第一の樹脂層の第一面上に、複数のCNT紡績糸を、各CNT紡績糸の長手方向と第一の樹脂層の第一面が平行になるように、各CNT紡績糸の長手方向の向きを揃えて、任意の間隔で並列に配置した後、第一の樹脂層の第一面上に弾性体からなる第二の樹脂層を形成することにより、第二の樹脂層を第一の樹脂層と一体化するとともに、第一の樹脂層と第二の樹脂層の間にCNT紡績糸を固定し、CNT紡績糸含有シートを形成する工程(以下、「工程A」と言う。)と、複数のCNT紡績糸含有シートを、各CNT紡績糸中のCNT紡績糸の長手方向の向きを揃えて積層し、CNT紡績糸含有シートの積層体を形成する工程(以下、「工程B」と言う。)と、積層体を、CNT紡績糸の延在する方向(長手方向)に対して垂直方向または斜め方向に切断して、電気コネクターを得る工程(以下、「工程C」と言う。)と、含む。なお、工程Aは、後述する工程A-1と工程A-2とを含む。
【0028】
以下、
図2(a)~
図2(d)を参照して、本実施形態の電気コネクターの製造方法を説明する。
図2(a)~
図2(d)は、本実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す斜視図である。
図2において、
図1に示した本実施形態における電気コネクターと同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
図2(a)に示すように、基材500上に形成した第一の樹脂層600の第一面である一方の面600a上に、多数のCNT紡績糸30を、CNT紡績糸30の長手方向と第一の樹脂層600の一方の面600aが平行になるように、且つ、各CNT紡績糸30同士の長手方向の向きを揃えて、任意の間隔で並列に配置する(工程A-1)。
多数のCNT紡績糸30の長手方向は、基材500の長手方向と垂直な方向になるように配置されている。
【0030】
基材500としては、CNT紡績糸含有シートを形成した後、CNT紡績糸含有シートから容易に剥離できるものが用いられる。基材500の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料が挙げられる。
【0031】
第一の樹脂層600の材料としては、弾性体20の材料と同様のものが挙げられる。
基材500上に第一の樹脂層600を形成する方法としては、例えば、上記の材料からなるシート状またはフィルム状の部材を基材500上に貼着するか、あるいは、架橋により上記の材料となる液状またはペースト状の材料を基材500上に塗布し、加熱、加湿または光照射等により硬化して塗膜を形成する方法が挙げられる。基材500上にシート状またはフィルム状の部材を貼着する場合には、接着剤を用いてもよく、その部材の接着面を表面処理により活性化させて、基材500上に化学結合してもよい。
【0032】
第一の樹脂層600の厚みは、特に限定されないが、2μm~100μmであることが好ましい。
【0033】
次いで、
図2(b)に示すように、多数のCNT紡績糸30が配置された第一の樹脂層600の一方の面600a上に、第二の樹脂層700を形成する。これにより、第二の樹脂層700を第一の樹脂層600と一体化するとともに、第一の樹脂層600と第二の樹脂層700の間にCNT紡績糸30を固定することができる。第二の樹脂層700の形成により、CNT紡績糸含有シート800が得られる(工程A-2)。
【0034】
第二の樹脂層700の材料としては、第一の樹脂層600の材料と同様のものが挙げられる。
第一の樹脂層600上に第二の樹脂層700を形成する方法としては、基材500上に第一の樹脂層600を形成する方法と同様の方法が例示される。
【0035】
第二の樹脂層700の厚みは、特に限定されないが、2μm~100μmであることが好ましい。
【0036】
次いで、
図2(c)に示すように、CNT紡績糸含有シート800の複数枚を、各CNT紡績糸含有シート800中のCNT紡績糸30の長手方向の向きを互いに揃えて積層し、CNT紡績糸含有シート800の積層体900を形成する(工程B)。
工程Bにおいて、CNT紡績糸30の向きを揃えるだけでなく、CNT紡績糸30の配置も揃えて、CNT紡績糸含有シート800の複数枚を積層することが好ましい。
工程Bにおいて、CNT紡績糸30の配置を揃えるとは、積層体900を、その主面900aから見た場合に、複数枚のCNT紡績糸含有シート800のそれぞれに含まれるCNT紡績糸30同士が重なり合うようにすることである。
図2(c)では、全てのCNT紡績糸30が重なり合っている場合を例示したが、一部のCNT紡績糸30は重なっていなくてもよい。
【0037】
工程Bにおいて、CNT紡績糸含有シート800を、その厚み方向に積層する場合、最も下の層をなすCNT紡績糸含有シート800を除いて、CNT紡績糸含有シート800から基材500を剥離する。
【0038】
CNT紡績糸含有シート800を積層するには、接着剤を用いてもよく、CNT紡績糸含有シート800同士を、互いの接着面を表面処理により活性化させて、化学結合してもよい。
接着剤を用いる場合、第一の樹脂層600と材料が同じものを用いることが好ましい。
【0039】
次いで、
図2(d)に示すように、積層体900を、任意の厚みとなるように、CNT紡績糸30の長手方向(延在する方向)に対して垂直方向に切断し、
図1に示す電気コネクター10を得る(工程C)。
【0040】
工程Cにおいて、積層体900を切断する方法としては、例えば、レーザー加工、切削等の機械的加工等が用いられる。
【0041】
以上の工程A~工程Cの後、積層体900から基材500を剥離すると、
図1に示す電気コネクター10が得られる。
【0042】
本実施形態では、積層体900を、CNT紡績糸30の延在する方向に対して垂直方向に切断する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。工程Cにおいて、積層体を、CNT紡績糸の延在する方向に対して斜め方向に切断してもよい。
【0043】
本実施形態の電気コネクターの製造方法によれば、積層体900から切断する厚さを変更するだけで所望の厚さを有する電気コネクター10が容易に得られる。
【0044】
本実施形態の電気コネクターの製造方法は、積層体900を切断する工程Cの後に、CNT紡績糸30の少なくとも一部を、積層体900の一方の主面900bおよび他方の主面900cの少なくとも一方から突出させる工程を有していてもよい。
【0045】
前記突出させる工程において、CNT紡績糸30の少なくとも一方の端部を、積層体900の一方の主面900bおよび他方の主面900cの少なくとも一方から突出させる方法としては、例えば、レーザーエッチング、ケミカルエッチング、切削等の機械的加工により積層体900の一方の主面900bおよび他方の主面900cの少なくとも一方において、各主面の一部を削る方法が用いられる。これらの方法において、弾性体20はCNT紡績糸30よりも優先的に除去され、CNT紡績糸30の一方の端部が弾性体20の表面に突出した状態で残される。
【0046】
(第2の実施形態)
[電気コネクター]
図3は、本実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。なお、
図3において、
図1に示した第1の実施形態の電気コネクターと同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図3に示すように、本実施形態の電気コネクター100は、弾性体20と、CNT紡績糸30と、を有する複合体40を備える。
【0047】
本実施形態の電気コネクター100では、CNT紡績糸30の表面にメッキ層50が形成されている。
【0048】
メッキ層50の材料は、特に限定されず、例えば、金、ニッケル、錫、銅等が挙げられる。メッキ層50の層数は1層でもよいし、2又は3層でもよい。メッキ層50が被覆するCNT紡績糸30の面積は、CNT紡績30の全表面の5~100%が好ましい。
【0049】
本実施形態の電気コネクター100によれば、CNT紡績糸30の表面にメッキ層50が形成されているため、CNT紡績糸30の表面における抵抗を低くすることができる。また、電気コネクター100を高周波電流用途のデバイス同士の接続に用いる場合、CNT紡績糸30の表面に形成されたメッキ層50に高周波電流が流れやすくなる。
【0050】
本実施形態においても、CNT紡績糸30の少なくとも一部は、貫通孔21に接合された状態で、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bの少なくとも一方から突出していることが好ましく、両方の主面から突出していることがより好ましい。
【0051】
[電気コネクターの製造方法]
本実施形態の電気コネクターの製造方法は、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の工程Aにおいて、予め表面にメッキ層50が形成されたCNT紡績糸30を用いること以外は、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法と同様である。
【0052】
CNT紡績糸30の表面にメッキ層50を形成する方法としては、例えば、電解メッキ、無電解メッキ等が用いられる。メッキ層が形成された市販のCNT紡績糸を用いてもよい。
【0053】
本実施形態の電気コネクターの製造方法によれば、予め表面にメッキ層50が形成されたCNT紡績糸30を用いるため、高周波電流用途のデバイス同士の接続に好適な電気コネクター100が得られる。
【0054】
(第3の実施形態)
[電気コネクター]
図4は、本実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。なお、
図4において、
図1に示した第1の実施形態の電気コネクターと同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態の電気コネクター200は、弾性体20と、CNT紡績糸30と、を有する複合体40を備える。
【0055】
本実施形態の電気コネクター200では、複合体40が、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向(
図4では紙面の上方)に、弾性体20およびCNT紡績糸30が部分的に突出した突出部61を有する。これにより、本実施形態の電気コネクター200は、弾性体20の一方の主面20a側において、突出部61と、突出部61よりも厚みが薄い領域(以下、「薄層部」と言う。)62と、によって形成される凹凸面を有する。
【0056】
突出部61の配置や数は、特に限定されず、電気コネクター200に接続されるデバイスの接続端子の形状等に応じて適宜調整される。より詳細には、デバイスにおける接続端子が設けられている面が凹凸をなし、接続端子が陥没している場合に、その接続端子に対応するように、突出部61の配置や数が適宜調整される。一例として、平面視で弾性体20の突出部61を含む一方の主面20aまたは他方の主面20bおよび各貫通孔21の断面の合計からなる、電気コネクター200の主面の総面積に対する、突出部61の合計の面積は、5~95%とすることができる。
前記面積は、電気コネクター200の一方の主面をデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
電気コネクター200を厚み方向に切断したときの突出部61の断面形状としては、例えば、矩形、台形、平行四辺形およびこれらの多角形の角を落とした形状が挙げられる。
突出部61の高さは、例えば、2~60μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。この範囲であると、電子デバイスの陥没電極に対する接続の安定性を高めることができる。電気コネクター200に設けられた複数の突出部61の高さは、互いに同じでもよいし、異なってもよい。突出部61の高さは、電気コネクター200を厚み方向に切断した断面をデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0057】
本実施形態の電気コネクター200によれば、複合体40が、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を有する。このため、電気コネクター200に接続するデバイスの接続端子が陥没していても、その陥没に対して突出部61を当てることによりCNT紡績糸30とデバイスの接続端子との電気的な接続状態を安定に保つことができる。
【0058】
本実施形態では、複合体40が、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を有する場合を例示したが、両方の主面側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を有していてもよい。各主面に設けられた突出部61の高さは、互いに同じでもよいし、異なってもよい。
【0059】
本実施形態においても、CNT紡績糸30の少なくとも一部は、貫通孔21に接合された状態で、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bの少なくとも一方から突出していることが好ましく、両方の主面から突出していることがより好ましい。
【0060】
本実施形態においても、CNT紡績糸30の表面にメッキ層が形成されていてもよい。
【0061】
[電気コネクターの製造方法]
本実施形態の電気コネクターの製造方法は、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の工程A~工程Cと、工程Cで得た電気コネクターの第一面および第二面のうち少なくとも一方の面から、弾性体およびCNT紡績糸からなる複合体の一部を厚み方向に除去することにより、前記電気コネクターの厚み方向に、前記弾性体および前記CNT紡績糸が部分的に突出した突出部を形成する工程(以下、「工程D」と言う。)と、を有する。
ここで、シート状の電気コネクターの第一面と第二面は、互いに対向する主面である。
【0062】
以下、
図5(a)、
図5(b)を参照して、本実施形態の電気コネクターの製造方法を説明する。
図5(a)、
図5(b)は、本実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す断面図である。
図5において、
図2に示した第1の実施形態の電気コネクターの製造方法と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0063】
本実施形態の電気コネクターの製造方法では、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の工程A~工程Cにより、
図5(a)に示すように、任意の厚みに切断された積層体900(
図1に示す電気コネクター10を構成する複合体40に相当)を得る。
【0064】
次いで、
図5(b)に示すように、積層体900の一方の主面900a側(弾性体20の一方の主面20a側)から、弾性体20およびCNT紡績糸30からなる積層体900(複合体40)の一部を厚み方向に除去し、積層体900(複合体40)に、弾性体20の厚み方向に、弾性体20およびCNT紡績糸30が部分的に突出する突出部61を形成する(工程D)。
【0065】
工程Dにおいて、積層体900(複合体40)を除去する方法としては、例えば、レーザーエッチング、切削等の機械的加工等が用いられる。
【0066】
以上の工程A~工程Dにより、
図4に示す電気コネクター200が得られる。
【0067】
本実施形態の電気コネクターの製造方法によれば、電気コネクター200に接続するデバイスの接続端子が陥没していても、CNT紡績糸30とデバイスの接続端子との電気的な接続状態を安定に保つことが可能な電気コネクター200を作製することができる。
【0068】
本実施形態では、工程Dにおいて、複合体40に、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を形成する場合を例示したが、両方の主面側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を形成してもよい。
【0069】
本実施形態の電気コネクターの製造方法では、工程Dの後に、CNT紡績糸30の一方の端部30aおよび他方の端部30bを、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bから突出させる工程を有していてもよい。
【0070】
(第4の実施形態)
[電気コネクター]
図6は、本実施形態の電気コネクターの概略構成を示す断面図である。
図6において、
図1に示した第1の実施形態および
図4に示した第3の実施形態の電気コネクターと同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態の電気コネクター300は、弾性体20と、CNT紡績糸30と、を有する複合体40を備える。
【0071】
本実施形態の電気コネクター300では、複合体40が、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向(
図6では紙面の上方)に突出する突出部61と、突出部61よりも厚みが薄い薄層部62とを有し、薄層部62に樹脂製のシート状部材70が積層されている。
一例として、平面視で弾性体20の露出する一方の主面20aまたは他方の主面20b、各シート状部材70の面積および各貫通孔21の断面の合計からなる、電気コネクター300の主面の総面積に対する、シート状部材70の合計の面積は、10~90%とすることができる。
前記面積は、電気コネクター300の一方の主面または他方の主面をデジタルマイクロスコープ等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて計測される。
【0072】
薄層部62においては、CNT紡績糸30の一方の端部30aの最表面(端面)が少なくともシート状部材70の表面(上面)70aと同一面上に存在しており、シート状部材70の表面(上面)70aから突出していることが好ましい。
【0073】
シート状部材70の厚みは、特に限定されず、複合体40に要求される弾性に応じて適宜調整される。シート状部材70の厚みは、0.01mm~0.5mmであることが好ましい。
【0074】
シート状部材70の材料としては、シート状部材70とした場合に耐熱性および寸法安定性を有するものであることが好ましく、例えば、ポリイミド(PI)、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性および寸法安定性に優れる点から、PI、PPS、PEEK、LCPが好ましい。
シート状部材70は、これらの樹脂からなる不織布であってもよい。不織布であると、放熱性が高まるので好ましい。
【0075】
本実施形態の電気コネクター300によれば、薄層部62に樹脂製のシート状部材70が積層されているため、複合体40とシート状部材70からなる積層体が、複合体40のみの場合よりも、耐熱性や寸法安定性に優れ、CNT紡績糸30と電気コネクター200に接続するデバイスの接続端子との電気的な接続状態を安定に保つことができる。
【0076】
本実施形態では、複合体40が、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61と、薄層部62とを有し、薄層部62に樹脂製のシート状部材70が積層されている場合を例示したが、両方の主面側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61と、薄層部62とを有し、両側の薄層部62に樹脂製のシート状部材70が積層されていてもよい。また、突出部61上にも樹脂製のシート状部材70が積層されていてもよい。
【0077】
本実施形態においても、CNT紡績糸30の少なくとも一部は、貫通孔21に接合された状態で、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bの少なくとも一方から突出していることが好ましく、両方の主面から突出していることがより好ましい。また、各主面に備えられたシート状部材70からCNT紡績糸30の少なくとも一方の端部が突出していることが好ましい。
【0078】
本実施形態においても、CNT紡績糸30の表面にメッキ層が形成されていてもよい。
【0079】
[電気コネクターの製造方法]
本実施形態の電気コネクターの製造方法は、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の工程A~工程Cと、上述の突出部を形成する工程(工程D)と、突出部を形成する工程Dの後に、弾性体の一方の主面側において、複合体の一部を除去した領域、すなわち突出部以外の領域(薄層部)に樹脂製のシート状部材を積層する(以下、「工程E」と言う。)と、を有する。
【0080】
以下、
図7(a)~
図7(c)を参照して、本実施形態の電気コネクターの製造方法を説明する。
図7(a)~
図7(c)は、本実施形態の電気コネクターの製造方法の概略を示す断面図である。
図7において、
図2に示した第1の実施形態の電気コネクターの製造方法および
図5に示した第3の実施形態の電気コネクターの製造方法と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0081】
本実施形態の電気コネクターの製造方法では、上述の第1の実施形態の電気コネクターの製造方法の工程A~工程Cにより、
図7(a)に示すように、任意の厚みに切断された積層体900(
図1に示す電気コネクター10を構成する複合体40に相当)を得る。
【0082】
次いで、
図7(b)に示すように、積層体900の一方の主面900b側(弾性体20の一方の主面20a側)から、弾性体20およびCNT紡績糸30からなる積層体900(複合体40)の一部を厚み方向に除去し、積層体900(複合体40)に、弾性体20の厚み方向に、弾性体20およびCNT紡績糸30が部分的に突出する突出部61を形成する(工程D)。
【0083】
次いで、
図7(c)に示すように、弾性体20の一方の主面20a側において、積層体900(複合体40)の一部を除去した領域、すなわち、突出部61よりも厚みが薄い薄層部62に樹脂製のシート状部材70を積層する(工程E)。
【0084】
工程Eにおいて、シート状部材70を積層する方法としては、例えば、接着剤を介してシート状部材70を貼合する方法、エキシマの照射による表面処理によりシート状部材70を貼合する方法等が用いられる。
工程Eにおいて、シート状部材70を貼合する際の位置決め方法としては、例えば、積層体900におけるCNT紡績糸30が配置されていない部分やシート状部材70の端部近傍に位置決めの印(マーキング)を示して、画像認識により位置決めする方法や、積層体900に位置決め用の凸部や凹部を設けて嵌合する方法等が挙げられる。
【0085】
以上の工程A~工程Eにより、
図6に示す電気コネクター300が得られる。
【0086】
本実施形態の電気コネクターの製造方法によれば、弾性体20とは異なる放熱性に優れた材料からなるシート状部材70を選択して、弾性体20の薄層部62に貼付することができる。
【0087】
本実施形態では、工程Dにおいて、複合体40に、弾性体20の一方の主面20a側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を形成する場合を例示したが、両方の主面側において、弾性体20の厚み方向に突出する突出部61を形成してもよい。
【0088】
本実施形態では、工程Eにて、弾性体20の一方の主面20a側において、薄層部62に樹脂製のシート状部材70を積層する場合を例示したが、両方の主面側において、薄層部62に樹脂製のシート状部材70を積層してもよい。
【0089】
本実施形態の電気コネクターの製造方法では、工程Dまたは工程Eの後に、CNT紡績糸30の一方の端部30aおよび他方の端部30bのうち少なくとも一方を、弾性体20の一方の主面20aおよび他方の主面20bのうち少なくとも一方から突出させる工程を有していてもよい。また、CNT紡績糸30の両方の端部のうち少なくとも一方を、各主面のシート状部材70から突出させる工程を有していてもよい。シート状部材70からCNT紡績糸30の端部を突出させる方法は、前記主面からCNT紡績糸30の端部を突出させる方法と同様でよい。
【実施例】
【0090】
[実施例1]
PETシート上に、カレンダー成形によりシリコーンゴム製の厚さ0.04mmの第一の樹脂層と第二の樹脂層を形成した。第一の樹脂層上に、10本のCNT紡績糸(直径40μm、引張強度300N/mm
2、電気抵抗率1.7×10
-3Ω・cm)を、互いの長手方向の向きを揃えて、0.1mmの間隔で並列に配置した。この配置が崩れないように、配置されたCNT紡績糸へシリコーンゴムが接触するように第一の樹脂層の上に第二の樹脂層を貼り合せ、厚さ0.08mmのCNT紡績糸含有シートを得た。ここで用いたシリコーンゴムのゴム硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠してデュロメーターのタイプAで測定されたとき、30である。
9枚のCNT紡績糸含有シートを準備して、最下層のPETシート以外のPETシートを除去し、CNT紡績糸が積層方向に重なるように長手方向の向きを揃えて9枚のCNT紡績糸含有シートを積層した積層体を得た。この際、積層体におけるCNT紡績糸含有シート同士は、シリコーンゴム製の接着剤層(厚さ0.02mm)を介して接着した。
上記積層体に含まれる各CNT紡績糸の長手方向に対して垂直に刃を入れて、
図1に示すような、厚さ0.5mmの電気コネクターを得た。
作製した電気コネクターの
図1で示すピッチP1は0.1mmであり、ピッチP2は0.1mmであった。
【0091】
[実施例2]
(a)表面に銅のメッキ層を有するCNT紡績糸(直径15μm±2μm、引張強度620N/mm
2、電気抵抗率1.1×10
-5Ω・cm)を用いたこと、(b)ピッチP1が0.2mmであり、ピッチP2が0.1mmであること、および(c)電気コネクターの厚さが0.3mmであること以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような電気コネクターを得た。
【0092】
[比較例1]
(a)表面から順に金のメッキ層とニッケルのメッキ層とを有する真鍮製導線(直径40μm、引張強度790N/mm
2、電気抵抗率7.0×10
-6Ω・cm)を用いたこと、および(b)前記ゴム硬度が50であるシリコーンゴムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、
図1に示すような電気コネクターを得た。
【0093】
[比較例2]
(a)前記ゴム硬度が30であるシリコーンゴムを用いたこと、および(b)前記積層体から電気コネクターを切り出す際に、真鍮製導線の長手方向と直交する方向に対して27°の角度で刃を入れることにより、主面の垂線に対する真鍮製導線のなす角が27°である電気コネクターを得たこと以外は、比較例1と同様にして、
図1に示すような電気コネクターを得た。
【0094】
<評価方法1>
ガラス基板の表面に、厚さ35μmの銅層と厚さ25μmの導電性粘着剤とからなる銅箔テープを貼付し、銅層の上に実施例と比較例の電気コネクターの第一面が接触するように置いた。第一面の反対側の第二面に露出するCNT紡績糸の先端に対して、円筒状の導電性端子の直径1mmの先端部を押し込んだ後、銅層の表面を観察した。
<評価方法2>
実施例と比較例の電気コネクターを、直径1.0mmの金メッキされたプローブと金メッキされた接続端子を有する基板との間に配置して、試験装置を形成した。
また、プローブと基板の間の抵抗値を測定するために、プローブと基板に抵抗測定器(商品名:RM3545-01、日置電機社製)を接続した。
この状態で、電気コネクターを、その厚さ方向に移動速度0.05mm/分の条件で圧縮しながら、プローブと基板の間の抵抗値を測定し、電気コネクターの変位量(電気コネクターが厚さ方向に圧縮された量)と、プローブと基板の間の抵抗値との関係を調べた。
また、電気コネクターを圧縮する際に、自動荷重試験機(商品名:MAX-1KN-S-1、日本計測システム社製)により、電気コネクターに加えられる荷重を測定し、電気コネクターの変位量と、荷重との関係を調べた。
この接続状態において、押し込みによる第二面の沈み込みの変位量に必要な荷重と、上記導通における電気抵抗値を測定した。
【0095】
<結果1>
実施例1の結果について、
図8のグラフに示すように、変位量0.04mm~0.3mmの区間において、電気抵抗値が安定しており、接続が安定していた。また、試験後に電気コネクターを取り外して銅層の表面を電子顕微鏡で観察したところ、CNT紡績糸が突き刺さった傷跡は無かった(
図9)。押し込み時の荷重は最大で2.5Nであったことから、電気コネクターのCNT紡績糸から過剰な力が銅層に加わることは無かったことが確認された。
【0096】
<結果2>
実施例2の結果について、
図10のグラフに示すように、変位量0.03mm~0.09mmの区間において、電気抵抗値が横ばいに推移しており、接続は大体安定していた。また、試験後に電気コネクターを取り外して銅層の表面を電子顕微鏡で観察したところ、CNT紡績糸が突き刺さった傷跡は無かった(
図11)。押し込み時の荷重は最大で0.85Nであったことから、電気コネクターのCNT紡績糸から過剰な力が銅層に加わることは無かったことが確認された。
【0097】
<結果3>
比較例1の結果について、
図12のグラフに示すように、変位量0.02mm~0.3mmの区間において、電気抵抗値が安定しており、接続が安定していた。しかし、試験後に電気コネクターを取り外して銅層の表面を電子顕微鏡で観察したところ、金属導電線が突き刺さった深い傷跡が、縦10個×横9個の配列で形成されていることがはっきりと確認された(
図13)。押し込み時の荷重は最大で14.5Nであったことから、電気コネクターの金属導電線から過剰な力が銅層に加わり、不可逆的な傷を付けたことが確認された。
【0098】
<結果4>
比較例2の結果について、
図14のグラフに示すように、変位量0.04mm~0.3mmの区間において、電気抵抗値が安定しており、接続が安定していた。しかし、試験後に電気コネクターを取り外して銅層の表面を電子顕微鏡で観察したところ、金属導電線が突き刺さった比較的浅い傷跡が、縦10個×横9個の配列で形成されていることがはっきりと確認された(
図15)。押し込み時の荷重は最大で5Nであったことから、電気コネクターの金属導電線から過剰な力が銅層に加わり、不可逆的な傷を付けたことが確認された。
【0099】
以上の結果から、実施例1~2の電気コネクターは、電気的接続の際に充分に押し込むことが可能であり、接続する電子デバイスの電極に傷を付ける恐れがないことが明らかである。2.5Nの荷重をかけた実施例1において電極に傷が付かなかったことは特筆すべきことである。CNT紡績糸が電極を傷つけ難いことが明らかである。
一方、比較例1の電気コネクターでは、押し込みの初期段階(変位量0.1mm未満)で高い荷重が加わることにより電極に傷が付いてしまい、電極の傷付きを避けることが困難である。比較例2の電気コネクターでは、押し込みの変位量に比例して荷重が高くなり、5Nを超えてさらに大きな負荷が加わる可能性が示されている。電気コネクターに対する電極の押し込みの程度を手操作により0.1mm単位で調整することは困難であり、電極を傷つける恐れが多分にある。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の電気コネクターは、電子デバイス同士を接続する際にデバイスの接続端子を傷付けることなく、安定に接続することができる。
【符号の説明】
【0101】
10,100,200,300 電気コネクター
20 弾性体
21 貫通孔
30 カーボンナノチューブ紡績(CNT紡績糸)
40 複合体
50 メッキ層
61 突出部
62 薄層部
500 基材
600 第一の樹脂層
700 第二の樹脂層
800 CNT紡績糸含有シート
900 積層体