(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】被覆無機微粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20221208BHJP
C01B 13/14 20060101ALI20221208BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20221208BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20221208BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C01G25/02
C01B13/14 A
C01G23/047
C08K9/04
C08L101/00 ZNM
(21)【出願番号】P 2019531016
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2018026576
(87)【国際公開番号】W WO2019017305
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2017140311
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】田中 聖也
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 秀彦
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196215(JP,A)
【文献】特開2009-114008(JP,A)
【文献】特開2010-105892(JP,A)
【文献】特開2005-255450(JP,A)
【文献】特開2009-056387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C01G 23/047
C01B 13/14
C08L 101/00
C08K 9/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子の表面に下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物及びその塩の少なくとも1種を反応させて得られる、被覆層を有する被覆無機微粒子であって、
前記無機微粒子の平均粒子径が1nm以上100nm未満で、かつ比表面積が1m
2/g以上3,000m
2/g未満であり、
揮発性有機化合物の含有量が
89ppm以下であることを特徴とする、被覆無機微粒子。
【化1】
(式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)中、R
1はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基、又はケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基を、R
3及びR
4はそれぞれ独立して下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造を、R
5はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基を、R
6はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、水素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、X
2及びX
3はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、hは1~4の整数を、iはそれぞれ独立して1~3の整数を、jは2~10の整数を、kは1~4の整数を、lは1~3の整数を、mは1~3の整数を、nは2~10の整数を表す。但し、X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成していてもよい。
)
【化2】
(式(bc-1)~(bc-6)中、R
7はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
8はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
9はそれぞれ独立してヒドロキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基、又は水素原子を表す。)
【請求項2】
前記揮発性有機化合物の含有量が、1ppm以上
50ppm未満である、請求項1に記載の被覆無機微粒子。
【請求項3】
屈折率が1.5以上である、請求項1又は2に記載の被覆無機微粒子。
【請求項4】
前記無機微粒子が、屈折率1.5以上の金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3の何れか1項に記載の被覆無機微粒子。
【請求項5】
前記無機微粒子が、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)及び二酸化チタン(TiO
2)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4の何れか1項に記載の被覆無機微粒子。
【請求項6】
前記被覆層が、前記式(A-1)で表される化合物及び前記式(A-2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を反応させて形成される層である、請求項1~5の何れか1項に記載の被覆無機微粒子。
【請求項7】
前記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物が、前記無機微粒子100重量部に対して、3重量部以上100重量部以下添加されて反応させられる、請求項1~6の何れか1項に記載の被覆無機微粒子。
【請求項8】
前記被覆層の含有量が、1重量%以上45重量%以下である、請求項1~7の何れか1項に記載の被覆無機微粒子。
【請求項9】
(1)金属水酸化物及び/又は金属水酸化物の縮合物が溶解及び/又は分散する水溶液を準備する準備工程、(2)前記準備工程で準備した前記水溶液を温度
250℃以上、圧力20MPa以上、反応時間0.1分以上で水熱反応させて無機微粒子を生成する水熱反応工程、(3)前記水熱反応工程で生成した前記無機微粒子を単離する単離工程、(4)前記単離工程で単離した前記無機微粒子と下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物の少なくとも1種を水溶媒中で反応させる被覆工程
を含み、揮発性有機化合物の含有量が89ppm以下であることを特徴とする被覆無機微粒子の製造方法。
【化3】
(式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)中、R
1はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基、又はケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基を、R
3及びR
4はそれぞれ独立して下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造を、R
5はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基を、R
6はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、水素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、X
2及びX
3はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、hは1~4の整数を、iはそれぞれ独立して1~3の整数を、jは2~10の整数を、kは1~4の整数を、lは1~3の整数を、mは1~3の整数を、nは2~10の整数を表す。但し、X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成していてもよい。)
【化4】
(式(bc-1)~(bc-6)中、R
7はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
8はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
9はそれぞれ独立してヒドロキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基、又は水素原子を表す。)
【請求項10】
請求項1~8の何れか1項に記載の被覆無機微粒子を透明な有機化合物に分散させてなるナノコンポジット材料。
【請求項11】
前記有機化合物が、重合性のモノマー及び/又はオリゴマーであり、前記モノマー及び/又はオリゴマーを重合させたときの重合体の波長400nmの光の分光透過率が65%以上である、請求項10に記載のナノコンポジット材料。
【請求項12】
前記有機化合物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、及び電子線硬化性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、波長400nmの光の分光透過率が65%以上である、請求項10に記載のナノコンポジット材料。
【請求項13】
前記被覆無機微粒子の含有量が、10重量%以上85重量%以下である、請求項10~12の何れか1項に記載のナノコンポジット材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子の表面に特定の化合物を反応させて得られる被覆層を有する被覆無機微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明性が求められるコンポジット材料を得るには、ナノサイズの無機微粒子を有機溶剤等の液中に分散させた分散液を先ず製造し、次に分散液と樹脂等とを混合した後で有機溶剤を除去する方法が一般的である(例えば特許文献1~8参照)。
しかし、従来の方法では、分散液の製造や有機溶剤の除去の工程において、エネルギー的に負荷が掛かり、余分な工程を含むため作業効率も悪い。
【0003】
また、透明ナノコンポジット材料が求められている用途の中には、フラットパネルディスプレイの1つである有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と略す場合がある。)に使用される接着剤、発光ダイオード(以下、「LED」と略す場合がある。)に使用される封止材などがあり、接着剤や封止材を紫外線や加熱により硬化する際に、発熱によりアウトガスが発生すると、発光素子の寿命に悪影響を与えてしまうことが知られている(例えば特許文献9及び10参照)。
【0004】
透明ナノコンポジット材料において、無溶剤系のモノマー、オリゴマー、樹脂にビーズミル等の分散機を用いて直接、粒子径20nm以下のナノサイズの無機微粒子を分散させる方法があるが、ナノサイズの無機微粒子は比表面積が大きいため、粒子間のファンデルワールス力が強く、均一に分散することが困難であり、装置的にも粘度上昇が生じると負荷が掛かり、ビーズを攪拌することができない。また、無機微粒子を樹脂中に高濃度に分散させた場合、透明性が得られず、コンポジット材料の粘度も極めて高くなり、混合割合が制限されるうえ、成型時のハンドリング性に悪影響を与える問題が生じる。
【0005】
特許文献11及び12では、ナノ粒子分散によるコンポジット材料での高粘度の課題を解決するため、1次粒子径が15nm以下の粒子を数十μm程度の球状又は板状に造粒し、その造粒物をシランカップリング剤にて表面被覆した後、エポキシ又はシリコーン樹脂に混合・攪拌して透明な複合体を得る方法を提案している。
しかし、これらの製造方法では、結晶子径が15nm以下でも粒子サイズが数十μm程度となるため、薄膜用途への適用が困難であり、樹脂中に高濃度でジルコニア球状粒子を分散させた場合では複合体の透明性や硬度に悪影響を与える問題がある。
【0006】
特許文献13では、炭素数4以上のカルボン酸により表面被覆して疎水化したZrO2等の無機酸化物微粒子の粉末をポリスチレン樹脂に混合して高い透明度のポリスチレン複合体を得ている。その表面被覆方法は、まず、無機酸化物微粒子の水系分散液にて疎水化し、トルエン等の非水溶性有機溶媒とメタノール等の両溶性有機溶媒とを混合した後、水と両溶性有機溶媒を蒸発除去して、非水溶性有機溶媒の無機酸化物微粒子分散液としてから、非水溶性有機溶媒を蒸発除去する。
しかし、この製造方法では、非水溶性有機溶媒と両溶性有機溶媒とを混合して蒸発除去する操作を5~6回繰り返し行うため、操作が煩雑なうえ、疎水化処理の際に有機溶媒を使用するため、蒸発除去を行っても完全に有機溶媒を除去することは困難である。また、表面被覆する有機化合物として、炭素原子数4以上のカルボン酸と限定されるため、様々なモノマー及び樹脂の単体又は数種類を含む混合物の場合には相溶性を合わせることが困難である。
【0007】
特許文献14では、特許文献13と同様の製造方法にてジルコニア含有エポキシ樹脂組成物を得ているため、特許文献13と同様の課題がある。また、特許文献14記載のように湿式法により合成されたジルコニア粒子では、結晶性が低く、塩化物イオンや硫酸イオン等の不純物が多い。さらに、加熱処理によりジルコニア前駆体からジルコニアを合成しているため粒子間が結合又は凝集した粒子となり、ジルコニア含有エポキシ樹脂組成物としての透明性や耐候性等に悪影響を与える問題がある。
【0008】
特許文献15では、SiO2ナノ粒子を、モノマー液中で攪拌しながら加熱処理し、表面に膜厚1nm以下のモノマー由来の分子膜を形成した後で、別のモノマーと触媒を添加して加熱により架橋させてシリコーン系ポリマーからなる透明コンポジット材料を提案している。
しかし、この製造方法では、シリコーン系ポリマーとの相溶性が重要であり、無機微粒子としてSiO2ナノ粒子を使用することが限定される。他の無機微粒子を使用する場合には、粒子表面に表面被覆を施す必要が生じるため適用できない。また、SiO2ナノ粒子の屈折率がシリコーン系ポリマーの屈折率と近い値を示すため、樹脂中に粒子が均一に分散していなくても透明性が得られている。SiO2ナノ粒子を高濃度に分散した場合や他の無機微粒子の場合では、透明性を維持することは困難である。
【0009】
その他、特許文献16~19において、シランカップリング剤やメタクリレート等で表面被覆した無機微粒子の粉末を直接樹脂に分散させたコンポジット材料及びその製造方法を提供しているが、有機溶媒中で無機微粒子を分散させてから表面被覆を施し、有機溶媒を蒸発除去しているため、完全に有機溶媒を除去することは困難である。また、無機微粒子のビーズミル等の分散機による分散工程や有機溶媒の除去工程が必要となるため、エネルギー的負荷や有機溶媒の廃液処理など工業化規模の生産が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-73558号公報
【文献】特開2006-299126号公報
【文献】特開2008-156390号公報
【文献】特開2009-185185号公報
【文献】特開2010-209186号公報
【文献】特開2011-79927号公報
【文献】特開2014-28873号公報
【文献】特開2016-28998号公報
【文献】特開2005-251631号公報
【文献】特開2014-201617号公報
【文献】特開2007-308345号公報
【文献】特開2010-6647号公報
【文献】特開2011-105553号公報
【文献】特開2014-221866号公報
【文献】特開2012-251110号公報
【文献】特開2008-280443号公報
【文献】特開2009-40938号公報
【文献】特開2009-74023号公報
【文献】特開2011-524444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような事情に鑑みなされたものであり、光学部材、電子部材、コーティング材料及び歯科材料などに使用される透明ナノコンポジット材料の用途に適した被覆無機微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、無機微粒子の表面に特定の化合物を反応させて得られる被覆層を有する被覆無機微粒子(以下、「被覆無機微粒子」と略す場合がある。)であって、特定の条件を満たし、揮発性有機化合物の含有量を抑制した被覆無機微粒子が、量産性に優れ、高濃度でも凝集せず、無機微粒子が均一に分散した透明なナノコンポジット材料を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明によれば、以下の実施態様が提供される。
[1] 無機微粒子の表面に下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物及びその塩の少なくとも1種を反応させて得られる、被覆層を有する被覆無機微粒子であって、
前記無機微粒子の平均粒子径が1nm以上100nm未満で、かつ比表面積が1m
2/g以上3,000m
2/g未満であり、
揮発性有機化合物の含有量が100ppm未満であることを特徴とする、被覆無機微粒子。
【化1】
(式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)中、R
1はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基、又はケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基を、R
3及びR
4はそれぞれ独立して下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造を、R
5はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基を、R
6はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、水素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、X
2及びX
3はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、hは1~4の整数を、iはそれぞれ独立して1~3の整数を、jは2~10の整数を、kは1~4の整数を、lは1~3の整数を、mは1~3の整数を、nは2~10の整数を表す。但し、X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成していてもよい。)
【化2】
(式(bc-1)~(bc-6)中、R
7はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
8はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
9はそれぞれ独立してヒドロキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基、又は水素原子を表す。)
[2] 前記揮発性有機化合物の含有量が、1ppm以上80ppm未満である、[1]に記載の被覆無機微粒子。
[3] 屈折率が1.5以上である、[1]又は[2]に記載の被覆無機微粒子。
[4] 前記無機微粒子が、屈折率1.5以上の金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]の何れかに記載の被覆無機微粒子。
[5] 前記無機微粒子が、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)及び二酸化チタン(TiO
2)からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[4]の何れかに記載の被覆無機微粒子。
[6] 前記被覆層が、前記式(A-1)で表される化合物又は前記式(A-2)で表される化合物を反応させて形成される層である、[1]~[5]の何れかに記載の被覆無機微粒子。
[7] 前記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物が、前記無機微粒子100重量部に対して、3重量部以上100重量部以下添加されて反応させられる、[1]~[6]の何れかに記載の被覆無機微粒子。
[8] 前記被覆層の含有量が、1重量%以上45重量%以下である、[1]~[7]の何れかに記載の被覆無機微粒子。
[9] 金属水酸化物及び/又は金属水酸化物の縮合物が溶解及び/又は分散する水溶液を準備する準備工程、(2)前記準備工程で準備した前記水溶液を温度200℃以上、圧力20MPa以上、反応時間0.1分以上で水熱反応させて無機微粒子を生成する水熱反応工程、(3)前記水熱反応工程で生成した前記無機微粒子を単離する単離工程、(4)前記単離工程で単離した前記無機微粒子と下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物の少なくとも1種を水溶媒中で反応させる被覆工程、を含むことを特徴とする被覆無機微粒子の製造方法。
【化3】
(式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)中、R
1はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基、又はケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基を、R
3及びR
4はそれぞれ独立して下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造を、R
5はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基を、R
6はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、水素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、X
2及びX
3はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、hは1~4の整数を、iはそれぞれ独立して1~3の整数を、jは2~10の整数を、kは1~4の整数を、lは1~3の整数を、mは1~3の整数を、nは2~10の整数を表す。但し、X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成していてもよい。)
【化4】
(式(bc-1)~(bc-6)中、R
7はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
8はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
9はそれぞれ独立してヒドロキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基、又は水素原子を表す。)
[10] [1]~[8]の何れかに記載の被覆無機微粒子を透明な有機化合物に分散させてなるナノコンポジット材料。
[11] 前記有機化合物が、前記有機化合物が、重合性のモノマー及び/又はオリゴマーであり、前記モノマー及び/又はオリゴマーを重合させたときの重合体の波長400nmの光の分光透過率が65%以上である、[10]に記載のナノコンポジット材料。
[12] 前記有機化合物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、及び電子線硬化性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、波長400nmの光の分光透過率が65%以上である、[10]のナノコンポジット材料。
[13] 前記被覆無機微粒子の含有量が、10重量%以上85重量%以下である、[10]~[12]の何れかに記載のナノコンポジット材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、量産性に優れ、高濃度でも凝集せず、無機微粒子が均一に分散した透明なナノコンポジット材料を実現することができる被覆無機微粒子を提供することができる。また、本発明の当該材料の製造方法は、エネルギー的負荷が高く作業効率が悪い、有機溶剤中での分散や有機溶剤除去の工程を省けるため、製造コストが比較的低減されており、工業化規模の生産に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は製造例1に示したジルコニア微粒子10nmの粒子形態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(20万倍)である。
【
図2】
図2は製造例2に示したチタニア微粒子10nmの粒子形態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(20万倍)である。
【
図3】
図3は実施例1で得られた被覆層を有するジルコニア微粒子10nmの粒子形態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(20万倍)である。
【
図4】
図4は実施例10で得られた被覆層を有するチタニア微粒子10nmの粒子形態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(20万倍)である。
【発明の実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき記述するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
【0016】
<被覆無機微粒子>
本発明の一態様である被覆無機微粒子(以下、「本発明の被覆無機微粒子」と略す場合がある。)は、無機微粒子(以下、「無機微粒子」と略す場合がある。)の表面に下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物及びその塩の少なくとも1種(以下、「被覆剤」と略す場合がある。)を反応させて得られる、被覆層を有する被覆無機微粒子である。そして、無機微粒子の平均粒子径が1nm以上100nm未満で、かつ比表面積が1m
2/g以上3,000m
2/g未満であり、揮発性有機化合物の含有量が100ppm未満であることを特徴とする。
【化5】
(式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)中、R
1はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基を、R
2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基、又はケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基を、R
3及びR
4はそれぞれ独立して下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造を、R
5はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基を、R
6はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基を、X
1はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、水素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、X
2及びX
3はそれぞれ独立して炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を、hは1~4の整数を、iはそれぞれ独立して1~3の整数を、jは2~10の整数を、kは1~4の整数を、lは1~3の整数を、mは1~3の整数を、nは2~10の整数を表す。但し、X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成していてもよい。)
【化6】
(式(bc-1)~(bc-6)中、R
7はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
8はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を、R
9はそれぞれ独立してヒドロキシル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基、又は水素原子を表す。)
本発明者らは、揮発性有機化合物の含有量を抑制した前述の被覆無機微粒子が、量産性に優れ、高濃度でも凝集せず、無機微粒子が均一に分散した透明なナノコンポジット材料を実現できることを見出したのである。
なお、本発明における「無機微粒子」は、例えば高温高圧条件下の水熱反応によって調製することができる。高温高圧条件下の水熱反応によって調製した無機微粒子は、従来の固相反応法、湿式反応法、気相法、低温低圧条件下の水熱反応法と比較して、どのような溶媒に対しても分散性に優れ、粒子形状が均一で比表面積が大きくなる特長を有する。また、粒子表面の反応性が高く、「被覆剤」と均一に反応するため、揮発有機化合物が残存しにくくなるものと考えられる。その結果、モノマー、オリゴマー、樹脂等の有機化合物との相溶性に優れ、無機微粒子の粉末を無溶剤系の有機化合物に直接分散することが可能になり、揮発性有機化合物の含有量が少なく、透明ナノコンポジットにおいても硬化の際に揮発性有機化合物を殆ど生じないものと考えられる。
また、本発明における「無機微粒子」の表面と「被覆剤」との反応は、例えば水溶媒中で行うことができる。従来の無機微粒子の表面処理方法として、ビーズミル等の湿式分散機により、無機微粒子の粉末を有機溶剤中に均一分散してから、又は分散しながらシランカップリング剤等により表面被覆を行っているが、無機微粒子が粉砕されたり、二次凝集したりした状態での表面処理となるため、粒子表面に有機化合物を均一に被覆することが困難である。また、ビーズミルの場合では使用する数十μm程度のビーズに有機化合物が多く付着してしまうため、精密な制御が困難であり、製造コストの増加を招く。さらに表面処理の際に有機溶剤を使用すると、その後乾燥処理を行っても完全に有機溶剤を取り除くことができず、無機微粒子の被覆層由来の揮発性有機化合物を多く含んでしまうのである。
即ち、本発明の被覆無機微粒子は、どのような溶媒に対しても分散性に優れ、粒子形状が均一で比表面積が高く、さらに揮発性有機化合物の含有量を抑制するように調製された被覆無機微粒子なのである。
なお、式(bc-1)~(bc-6)中の波線は、その先でチタン原子(Ti)やアルミニウム原子(Al)に結合していることを意味し、式(bc-4)はリン原子(P)の孤立電子対等でチタン原子(Ti)やアルミニウム原子(Al)に配位していることを意味するものとする。
以下、「無機微粒子」、「被覆剤」、「被覆層」、「揮発性有機化合物」等について詳細に説明する。
【0017】
無機微粒子は、「平均粒子径が1nm以上100nm未満で、かつ比表面積が1m2/g以上3,000m2/g未満」であれば、材質、粒子形状等は特に限定されないが、材質としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属等が、粒子形状としては、球状、立方状、板状、薄片状、針状、棒状、繊維状等が挙げられる。
金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属の金属元素は、1種類に限られず、2種類以上の金属元素を含む複合金属酸化物、複合金属窒化物、複合金属炭化物、合金等であってもよい。
金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属等の金属元素としては、
リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等の周期表第1族元素(アルカリ金属元素);
ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等の周期表第2族元素(アルカリ土類金属元素);
スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、アクチノイド等の周期表第3族元素;
チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等の周期表第4族元素;
バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の周期表第5族元素;
クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の周期表第6族元素;
マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)等の周期表第7族元素;
鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の周期表第8族元素;
コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の周期表第9族元素;
ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等の周期表第10族元素;
銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の周期表第11族元素;
亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)等の周期表第12族元素;
アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等の周期表第13族元素;
ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等の周期表第14族元素が挙げられる。
無機微粒子の材質としては、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、二酸化チタン(TiO2)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酸化マンガン(II,III)(Mn3O4)、酸化鉄(II,III)(Fe3O4)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、水酸化鉄(FeO(OH))、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化亜鉛(II)(ZnO)、酸化イットリウム(III)(Y2O3)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化カルシウム安定化二酸化ジルコニウム、酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウムの方がよいか、タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)、酸化タングステン(VI)(WO3)、酸化セリウム(IV)(CeO2)、ITO等が挙げられる。この中でも、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)が特に好ましい。
【0018】
無機微粒子の「平均粒子径」は、「1nm以上100nm未満」であるが、好ましくは5nm以上であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは35nm以下である。無機微粒子の平均粒子径が1nm以上であると、粒子形態を均一で、高分散性であり、平均粒子径が100nmを超えるとナノコンポジット材料の透明性が著しく低下する。
なお、無機微粒子の「平均粒子径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)による倍率3万~20万倍のTEM像から、200個以上の任意の粒子の粒子径長径を計測し、その平均値より求めた数値を意味するものとする。
【0019】
無機微粒子の「比表面積」は、1m2/g以上3,000m2/g未満であるが、好ましくは15m2/g以上、より好ましくは20m2/g以上であり、好ましくは500m2/g以下である。比表面積が1m2/gより小さい場合、粒子径が大きな粒子となるため、無溶剤系の有機化合物中に分散させたときの透明性が悪く、また、比表面積が3,000m2/gより大きい場合、粒子径が小さく、凝集により分散性が悪く、無溶剤系の有機化合物中に分散させたときの充填性が悪い。
なお、無機微粒子の「比表面積」は、液体窒素温度における窒素ガス吸着を行った場合のBET法による測定結果の数値を意味するものとする。
【0020】
無機微粒子は、屈折率1.5以上の金属酸化物であることが好ましい。無機微粒子の屈折率は、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは2.0以上である。
【0021】
被覆剤は、下記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物及びその塩の少なくとも1種であるが、具体的種類は特に限定されず、目的とする被覆無機微粒子に応じて適宜選択することができる。以下、「式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物」について詳細に説明する。
【化7】
式(A-1)で表される化合物及び式(A-2)で表される化合物は、加水分解等の反応性を有する反応性官能基を含む、いわゆる「シランカップリング剤」であり、式(A-1)で表される化合物は1つのシリル基を、式(A-2)で表される化合物は2~10のシリル基を有する化合物である。
また、式(A-1)で表される化合物は、下記式(A-1-1)~(A-1-4)の何れかで表される化合物をまとめた記載である。
【化8】
また、式(A-2)で表される化合物は、下記式(A-2-1-1)で表される化合物、下記式(A-2-2-1)で表される化合物等をまとめた記載である。
【化9】
【0022】
式(B-1)で表される化合物及び式(B-2)で表される化合物は、加水分解等の反応性を有する反応性官能基を含む、いわゆる「チタネートカップリング剤」であり、式(B-1)で表される化合物は1つのチタネート構造を、式(B-2)で表される化合物は2つのチタネート構造を有する化合物である。
式(C)で表される化合物は、加水分解等の反応性を有する反応性官能基を含む、いわゆる「アルミネートカップリング剤」である。
【0023】
式(D-1)で表される化合物及び式(D-2)で表される化合物は、カルボキシル基を有する「有機酸」であり、式(D-1)で表される化合物は1つのカルボキシル基を、式(D-2)で表される化合物は2~10のカルボキシル基を有する化合物である。
また、式(D-2)で表される化合物は、下記式(D-2-1)で表される化合物、下記式(D-2-2)で表される化合物等をまとめた記載である。
【化10】
【0024】
式(A-1)及び(A-2)中のR1は、それぞれ独立して「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基」を表しているが、「炭化水素基」は、分岐構造、環状構造、及び炭素-炭素不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。
また、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」とは、炭化水素基の水素原子がヘテロ原子、即ち、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味する。
R1の炭化水素基の炭素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、R1が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R1に含まれる官能基や連結基としては、アミノ基(-N<)、イソシアネート基(-NCO)、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、エポキシ基、メルカプト基(チオール基、-SH)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R1としては、メチル基(-CH3,-Me)、エチル基(-C2H5,-Et)、n-プロピル基(-nC3H7,-nPr)、i-プロピル基(-iC3H7,-iPr)、n-ブチル基(-nC4H9,-nBu)、t-ブチル基(-tC4H9,-tBu)、n-ペンチル基(-nC5H11)、n-ヘキシル基(-nC6H13,-nHex)、シクロヘキシル基(-cC6H11,-Cy)、アリル基(-CH2CH=CH2)、ビニル基(-CH=CH2)、フェニル基(-C6H5,-Ph)、3-グリシドキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基、3-アクリロキシプロピル基、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基等が挙げられる。
【0025】
式(A-2)中の「R2はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のj価の炭化水素基」、又は「ケイ素原子数1~20のj価の(ポリ)シロキシ基」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義であり、「j価の炭化水素基」とはj個の結合部位を有する炭化水素基であることを意味する。また、「(ポリ)シロキシ基」とは、ケイ素原子数1のシロキシ基又はケイ素原子数2~20のポリシロキシ基であることを意味し、式(A-2)のケイ素原子に対して-OSiとして結合している(ポリ)シロキシ基を意味する。なお、「j価の(ポリ)シロキシ基」は、j個の結合部位を有する(ポリ)シロキシ基であることを意味する。
R2の炭化水素基の炭素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、R2が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R2の(ポリ)シロキシ基のケイ素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。また、(ポリ)シロキシ基に含まれる炭化水素基の炭素原子数は、1つの炭化水素基の炭素原子数として、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R2に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、エポキシ基、メルカプト基(チオール基、-SH)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R2としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-C2H4-)、n-プロピレン基(-nC3H6-)、i-プロピレン基(-iC3H6-)、n-ブチレン基(-nC4H8-)、n-ペンチレン基(-nC5H10-)、n-ヘキシレン基(-nC6H12-)、フェニレン基(-C6H4-)、メチン基(-CH<)、ジメチルシロキシ基(-OSi(CH3)2O-)、テトラメチルジシロキシ基(-OSi(CH3)2OSi(CH3)2O-)等が挙げられる。
【0026】
式(B-1)及び(B-2)中のR
3、並びに式(C)中のR
4は、それぞれ独立して「下記式(bc-1)~(bc-6)の何れかで表される構造」を表し、式(bc-1)及び(bc-2)中のR
7は、それぞれ独立して「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数11~30の炭化水素基」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義である。
【化11】
R
7の炭化水素基の炭素原子数は、通常11以上であり、通常25以下、好ましくは20以下である。
R
7に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、メルカプト基(チオール基、-SH)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R
7としては、n-ウンデシル基(-
nC
11H
23)、n-ドデシル基(-
nC
12H
25)、n-トリデシル基(-
nC
13H
27)、n-テトラデシル基(-
nC
14H
29)、n-ペンタデシル基(-
nC
15H
31)、n-ヘキサデシル基(-
nC
16H
33)等が挙げられる。
【0027】
式(bc-3)中のR8は、それぞれ独立して「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義である。
R8の炭化水素基の炭素原子数は、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下であり、R8が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R8に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、メルカプト基(チオール基、-SH)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R8としては、メチル基(-CH3,-Me)、エチル基(-C2H5,-Et)、n-プロピル基(-nC3H7,-nPr)、i-プロピル基(-iC3H7,-iPr)、n-ブチル基(-nC4H9,-nBu)、t-ブチル基(-tC4H9,-tBu)、n-ペンチル基(-nC5H11)、n-ヘキシル基(-nC6H13,-nHex)、シクロヘキシル基(-cC6H11,-Cy)、フェニル基(-C6H5,-Ph)等が挙げられる。
【0028】
式(bc-4)~(bc-6)中のR9は、それぞれ独立して「ヒドロキシル基」、「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基」、「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基」、又は「水素原子」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義である。また「アルコキシ基」中の炭化水素基は、分岐構造、環状構造、及び炭素-炭素不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。
R9のアルコキシ基の炭素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下であり、R9のアルコキシ基の炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R9の炭化水素基の炭素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下であり、R9の炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R9としては、ヒドロキシル基(-OH)、メトキシ基(-OCH3,-OMe)、エトキシ基(-OC2H5,-OEt)、n-プロポキシ基(-OnC3H7,-OnPr)、i-プロポキシ基(-OiC3H7,-OiPr)、n-ブトキシ基(-OnC4H9,-OnBu)、t-ブトキシ基(-OtC4H9,-OtBu)、フェノキシ基(-OC6H5,-OPh)、メチル基(-CH3,-Me)、エチル基(-C2H5,-Et)、n-プロピル基(-nC3H7,-nPr)、i-プロピル基(-iC3H7,-iPr)、n-ブチル基(-nC4H9,-nBu)、t-ブチル基(-tC4H9,-tBu)、n-ペンチル基(-nC5H11)、n-ヘキシル基(-nC6H13,-nHex)、シクロヘキシル基(-cC6H11,-Cy)、フェニル基(-C6H5,-Ph)、水素原子等が挙げられる。
【0029】
式(D-1)中のR5は、それぞれ独立して「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数4~30の炭化水素基」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義である。
R5の炭化水素基の炭素原子数は、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下であり、R5が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R5に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、メルカプト基(チオール基、-SH)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R5としては、n-ブチル基(-nC4H9,-nBu)、t-ブチル基(-tC4H9,-tBu)、n-ペンチル基(-nC5H11)、n-ヘキシル基(-nC6H13,-nHex)、シクロヘキシル基(-cC6H11,-Cy)、フェニル基(-C6H5,-Ph)等が挙げられる。
【0030】
式(D-2)中のR6は、「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20のn価の炭化水素基」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「炭化水素基」は前述のものと同義であり、「n価の炭化水素基」とはn個の結合部位を有する炭化水素基であることを意味する。
R6の炭化水素基の炭素原子数は、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下であり、R6が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R6に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
R6としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-C2H4-)、n-プロピレン基(-nC3H6-)、i-プロピレン基(-iC3H6-)、n-ブチレン基(-nC4H8-)、n-ペンチレン基(-nC5H10-)、n-ヘキシレン基(-nC6H12-)、フェニレン基(-C6H4-)等が挙げられる。
【0031】
式(A-1)及び(A-2)中のX1は、それぞれ独立して「炭素原子数1~10のアルコキシ基」、「水素原子」、「塩素原子」、「臭素原子」、又は「ヨウ素原子」を表しているが、「アルコキシ基」は前述のものと同義である。
X1のアルコキシ基の炭素原子数は、通常8以下、好ましくは6以下、より好ましくは3以下であり、X1のアルコキシ基の炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
X1としては、メトキシ基(-OCH3,-OMe)、エトキシ基(-OC2H5,-OEt)、n-プロポキシ基(-OnC3H7,-OnPr)、i-プロポキシ基(-OiC3H7,-OiPr)、n-ブトキシ基(-OnC4H9,-OnBu)、t-ブトキシ基(-OtC4H9,-OtBu)、フェノキシ基(-OC6H5,-OPh)、水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。この中でも、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が好ましい。X1がアルコキシ基であると、反応させることによってメタノール、エタノール等の揮発性有機化合物が生成することになり、本発明の効果をより有効に活用することができる。
【0032】
式(B-1)、(B-2)、及び(C)中のX
2及びX
3は、それぞれ独立して「炭素原子数1~10のアルコキシ基」、「ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアシロキシ基」、「塩素原子」、「臭素原子」、又は「ヨウ素原子」を表しているが、「ヘテロ原子を含んでいてもよい」と「アルコキシ基」は前述のものと同義である。また「アシロキシ基」は、-OC(=O)Rで表される構造を意味し、アシロキシ基中の炭化水素基は、分岐構造、環状構造、及び炭素-炭素不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。さらに「X
2及びX
3のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基は、それぞれX
2及びX
3の他のアルコキシ基及び/又はアシロキシ基と結合して環状構造を形成」している構造とは、アルコキシ基やアシロキシ基の炭化水素基同士が結合して環状構造を形成していることを意味する(下記参照。)。なお、環状構造を形成しているときの炭化水素基の炭素原子数は、総炭素原子数が1~10になるものとする。
【化12】
X
2及びX
3のアルコキシ基とアシロキシ基の炭素原子数は、通常8以下、好ましくは6以下、より好ましくは3以下であり、X
2及びX
3のアルコキシ基とアシロキシ基の炭化水素基が芳香族炭化水素基の場合の炭素原子数は、通常6以上である。
X
2及びX
3に含まれる官能基や連結基としては、オキサ基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、チア基(-S-)、フルオロ基(フッ素原子,-F)、クロロ基(塩素原子,-Cl)、ブロモ基(臭素原子,-Br)、ヨード基(ヨウ素原子,-I)等が挙げられる。
X
2及びX
3としては、メトキシ基(-OCH
3,-OMe)、エトキシ基(-OC
2H
5,-OEt)、n-プロポキシ基(-O
nC
3H
7,-O
nPr)、i-プロポキシ基(-O
iC
3H
7,-O
iPr)、n-ブトキシ基(-O
nC
4H
9,-O
nBu)、t-ブトキシ基(-O
tC
4H
9,-O
tBu)、フェノキシ基(-OC
6H
5,-OPh)、アセチル基、アセチルアセトナート基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。この中でも、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アセチル基、アセチルアセトナート基等のアシロキシ基が好ましい。X
1がアルコキシ基やアシロキシ基であると、反応させることによってメタノール、エタノール、アセチルアセトン等の揮発性有機化合物が生成することになり、本発明の効果をより有効に活用することができる。
【0033】
被覆剤は、式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物及びその塩の少なくとも1種であるが、「その塩」とは式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物によって形成される塩を意味する。例えば式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物がアミノ基のような塩基性の官能基を有する場合、塩化水素(HCl)と結びついて塩酸塩を形成する場合があり、式(D-1)で表される化合物等の有機酸はアルカリ金属等の陽イオンと金属塩を形成する場合がある。被覆剤はこのような塩であってもよい。
【0034】
式(A-1)で表される化合物及び式(A-2)で表される化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0035】
式(B-1)で表される化合物及び式(B-2)で表される化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、チタンブトキシドダイマー、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、チタニウムジ-2-エチルヘキソキシビス(2-エチル-3-ヒドロキシヘキソキシド)、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジオクチルパイロホスフェートチタネート、イソプロピルトリス(ドデシルベンゼンスルフォニル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート等が挙げられる。
【0036】
式(C)で表される化合物としては、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート等が挙げられる。
【0037】
式(D-1)で表される化合物及び式(D-2)で表される化合物としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0038】
本発明の被覆無機微粒子は、無機微粒子の表面に被覆剤を反応させて得られる、被覆層を有する被覆無機微粒子であるが、反応の際の被覆剤の添加量は、無機微粒子100重量部に対して、通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上であり、通常100重量部以下、好ましくは55重量部以下である。被覆剤の添加量が3重量部より少ない場合、被覆無機微粒子が無溶剤系の有機化合物中に均一に分散しにくく、二次凝集粒子を含む。有機化合物の被覆量が100重量部より大きな場合、均一に分散することは可能であるが、無機微粒子に比べて被覆剤の割合が多くなり、無機微粒子本来の機能を低下させてしまう。
【0039】
本発明の被覆無機微粒子の被覆層は、無機微粒子の表面に被覆剤が反応(表面修飾)したり、被覆剤同士が反応して無機微粒子の表面に吸着したりして形成した層を意味し、その組成は被覆剤の種類に由来するものである。
本発明の被覆無機微粒子における被覆層の含有量(被覆無機微粒子全体を100重量%とした場合)は、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上であり、通常45重量%以下、好ましくは30重量%以下である。被覆層が1重量%より少ない場合、被覆無機微粒子が無溶剤系の有機化合物中に均一に分散しにくく、二次凝集粒子を含む。被覆層が45重量%より大きな場合、均一に分散することは可能であるが、無機微粒子に比べて被覆層の割合が多くなり、無機微粒子本来の機能を低下させてしまう。
なお、被覆層の含有量は、被覆層に含まれるケイ素元素、チタン元素、アルミニウム元素、有機基等の量を種々の元素分析等で定量することにより決定することができる。
【0040】
本発明の被覆無機微粒子における揮発性有機化合物の含有量は、100ppm未満であるが、「揮発性有機化合物」とは、環境省が示す主なVOC100種をはじめとする、120℃で10分間加熱した際に揮発する全ての有機化合物を意味し、被覆無機微粒子を120℃で10分間加熱した際に生じる全揮発性有機化合物を、トルエン換算の体積濃度として測定した量である。
揮発性有機化合物としては、被覆剤の分解等によって生じるメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール等のアルコール;ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカン等の炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒、被覆剤の縮合等によって生じるデカメチルシクロペンタシロキサン等のシロキサン化合物等が挙げられる。
【0041】
揮発性有機化合物の含有量は、通常1ppm以上であり、好ましくは80ppm未満、より好ましくは50ppm未満である。揮発性有機化合物が100ppm以上であると、ナノコンポジット材料を硬化する際にアウトガスが生じ、有機ELやLED等の用途においては、発光素子の寿命に悪影響を与えてしまう。また、成型加工時に揮発性有機化合物の除去のため乾燥工程などが必要となり、製造コストの増加を招く。
なお、揮発性有機化合物の含有量は、市販の揮発性有機化合物測定装置を用いて測定することができる。
【0042】
本発明の被覆無機微粒子は、屈折率1.5以上の金属酸化物であることが好ましい。本発明の被覆無機微粒子の屈折率は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは2.0以上である。液晶ディスプレイ、有機EL、LED、レンズ等の光学部材などの透明ナノコンポジット材料に使用する場合、SiO2のように屈折率が1.5未満であると樹脂等の有機化合物の屈折率と同等もしくは低くなるため、屈折率調整することが困難である。
【0043】
<被覆無機微粒子の製造方法>
本発明の被覆無機微粒子の製造方法は、特に限定されないが、好ましい製造方法として、下記(1)~(4)の工程を含む方法が挙げられる。なお、(1)~(4)の工程を含むことを特徴とする被覆無機微粒子の製造方法も本発明の一態様である。
(1)金属水酸化物及び/又は金属水酸化物の縮合物が溶解及び/又は分散する水溶液を準備する準備工程(以下、「準備工程」と略す場合がある。)
(2)準備工程で準備した前記水溶液を温度200℃以上、圧力20MPa以上、反応時間0.1分以上で水熱反応させて無機微粒子を生成する水熱反応工程(以下、「水熱反応工程」と略す場合がある。)
(3)水熱反応工程で生成した前記無機微粒子を単離する単離工程(以下、「単離工程」と略す場合がある。)
(4)単離工程で単離した前記無機微粒子と前記式(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)、(C)、(D-1)、及び(D-2)の何れかで表される化合物の少なくとも1種を水溶媒中で反応させる被覆工程(以下、「被覆工程」と略す場合がある。)
以下、「準備工程」、「水熱反応工程」、「単離工程」、「被覆工程」等について詳細に説明する。
【0044】
(準備工程)
準備工程は、「金属水酸化物」及び/又は「金属水酸化物の縮合物」(以下、「金属水酸化物等」と略す場合がある。)が溶解及び/又は分散する水溶液(以下、「金属水酸化物等の水溶液」と略す場合がある。)を準備する工程であるが、「金属水酸化物」は無機微粒子に粒成長する金属水酸化物質の前駆体を、「金属水酸化物の縮合物」は金属水酸化物同士が縮合し、M-O-M(金属原子-酸素原子-金属原子)結合が形成している状態の前駆体を意味する。また、「水溶液」とは、金属水酸化物等が分子レベルで均一に分散(溶解)している状態に限られず、懸濁液(スラリー)の状態も含むものとする。
即ち、無機微粒子の前駆体は、水溶液中において、金属水酸化物が単量体の状態で溶解していても、金属水酸化物が凝集した状態(以下、「金属水酸化物の凝集体」と略す場合がある。)で分散(懸濁)していても、金属水酸化物の縮合物が分散(懸濁)していても、さらにこれらが混ざり合った状態であってもよいことを意味する。
金属水酸化物等の金属元素の種類は、目的とする無機微粒子の種類に応じて選択されるべきであり、目的とする無機微粒子が複合金属酸化物や合金等である場合には、2種類以上の金属元素が選択されるべきである。
金属水酸化物の凝集体及び金属水酸化物の縮合物は、結晶性を有するものであっても、非晶質(無定形物質)であってもよいが、均一な状態で核生成及び粒成長を行える観点から非晶質であることが好ましい。なお、金属水酸化物の凝集体及び金属水酸化物の縮合物が結晶性を有するものである場合、その平均粒子径は0.1μm以下であることが好ましい。粒子径が0.1μm以下を超えると、金属水酸化物等を均一に分散させることが困難であり、水熱反応工程において沈降し、不均一な反応となるため、粒子径及び粒子形状が均一で、高分散性、高結晶性の無機微粒子が得られにくい。また、金属水酸化物等が沈降する場合、反応器での詰りが生じ易い。
【0045】
金属水酸化物等の水溶液中の金属酸化物等の濃度は、金属元素(主成分元素)の物質量として、通常0.01mol/L以上、好ましくは0.05mol/L以上、0.1mol/L以上であり、通常1.0mol/L以下、好ましくは0.5mol/L以下である。金属水酸化物及び/又は金属水酸化物の縮合物の濃度は、水溶液の粘度に大きく影響を与え、1.0mol/Lを超える場合では、高粘度により反応器内で生成物が詰り易く、歩留の低下及びコンタミネーションを招く。
【0046】
金属水酸化物等の水溶液の準備方法は、特に限定されないが、調製方法として目的の金属元素を含む原料化合物を酸性又は塩基性の水溶液中で加水分解する方法が挙げられる。特に原料化合物が溶解及び/分散する水溶液(以下、「原料化合物の水溶液」と略す場合がある。)に塩基を添加して加水分解する方法が好ましい。なお、原料化合物がルイス酸性等を有する酸性化合物である場合、通常水溶液中に塩基を添加することによって、「中和」することになる。
原料化合物は、目的の金属元素を含み、加水分解によって金属水酸化物等が生じる物であれば、特に限定されないが、目的の金属元素を含む、金属塩化物、金属硫酸化物、金属硝酸化物等の金属塩、金属アルコキシド、金属水酸化物等とは異なる組成の金属水酸化物、金属酸化物等が挙げられる。
水溶液中の原料化合物の濃度は、金属元素の種類等に応じて適宜選択することができるが、通常0.05mol/L以上、好ましくは0.1mol/L以上であり、通常3.0mol/L以下、好ましくは0.5mol/L以下である。
塩基としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、アンモニア(NH3)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)等が挙げられ、2種類以上組み合わせて使用することも可能である。なお、塩基は、水に溶解して塩基性水溶液(アルカリ水溶液)の状態で原料化合物の水溶液に添加することが好ましい。
塩基性水溶液の添加量は、添加終了時のpHが3.0~14.0となるように添加することが好ましく、6.0~13.0となるように添加することがより好ましい。また、塩基性水溶液と原料化合物の水溶液との好ましい添加量の重量比率(前者:後者)は、100:1~1:100であり、特に10:1~1:10が好ましい。
【0047】
原料化合物の水溶液及び/又は塩基性水溶液には、均一な状態にするため、液相中に分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば、界面活性剤、クエン酸、アミン、有機溶媒、ポリエチレングリコール(PEG)、又はポリビニルアルコール(PVA)等の有機化合物が挙げられる。これらの分散剤を添加すると、無機微粒子での分散性の向上と共に粒子形態の制御及び高結晶化という効果も奏される。このような分散剤の中でも、特に界面活性剤が分散性をより向上させることが可能で、且つ粒子形態への均一性への効果が大きいので好ましい。界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸及びその塩類、アルキル硫酸エステル塩類、脂肪酸アミン系化合物、アルキルスルホコハク酸塩類等を使用することができる。
分散剤の添加量は、目的とする無機微粒子の理論生成量に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、通常10.0重量%以下、好ましくは5.0重量%以下である。分散剤の添加量が0.01重量%未満では分散剤による無機アルカリ塩水溶液又はスラリーの均一化、及び生成した無機微粒子の高分散性、高結晶性、高均一化に対して効果が少なく、10.0重量%を超えると、生成した無機微粒子が凝集し易くなる。
【0048】
(水熱反応工程)
水熱反応工程は、準備工程で準備した水溶液を温度200℃以上、圧力20MPa以上、反応時間0.1分以上で水熱反応させて無機微粒子を生成する工程であるが、「温度200℃以上、圧力20MPa以上、反応時間0.1分以上」という条件を満たすことにより、生成する無機微粒子が、従来の固相反応法、湿式反応法、気相法、低温低圧条件下の水熱反応法と比較して、どのような溶媒に対しても分散性に優れ、粒子形状が均一で比表面積が大きく、さらに粒子表面の反応性が高くなる特長を有する。
水熱反応の温度は、200℃以上であるが、好ましくは250℃以上であり、通常450℃以下、好ましくは400℃以下である。水熱反応の温度は、製造する微粒子により異なるが、圧力と同様に200℃未満の場合、粒子形成が困難であり、結晶性が悪く、原料由来の不純物が取り込まれ易い。温度の上限については特に制限がなく、装置の仕様に制限されるが、圧力と同様に500℃を超える場合では、反応管内で生成物が付着し易くなり、歩留の低下及びコンタミネーションを招く。
【0049】
水熱反応の圧力は、20MPa以上であるが、通常50MPa以下、好ましくは40MPa以下である。水熱反応の圧力は、製造する微粒子により異なるが、20MPa未満の場合、粒子形成が困難であり、結晶性が悪く、原料由来の不純物が取り込まれ易い。圧力の上限については特に制限がなく、装置の仕様に制限されるが、50MPaを超える場合では、反応管内で生成物が付着し易くなり、歩留の低下及びコンタミネーションを招く。
【0050】
水熱反応の反応時間(反応器での滞留時間)は、0.1分以上であるが、通常60分以下、好ましくは30分以下である。反応時間は、製造する微粒子により異なるが、0.1分未満の場合、粒子形成が困難であり、結晶性が悪く、原料由来の不純物が取り込まれ易い。
【0051】
水熱反応工程は、前述の条件を満たすものであれば、その他については特に限定されないが、無機微粒子として金属微粒子を生成する場合、例えば、水素ガス等の還元剤の存在下で反応させて、還元反応を進めることが挙げられる。この他にも、水熱反応工程の条件を適宜制御することにより、様々な種類の無機微粒子を生成することができる。また、条件によって、球状、立方状、板状、薄片状、針状、棒状、繊維状等の粒子形状の制御が可能である。
【0052】
(単離工程)
単離工程は、水熱反応工程で生成した無機微粒子を単離する工程であるが、単離方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。通常、水熱工程を終えた水溶液を冷却し、減圧して回収した生成物をろ過、水洗、乾燥する操作が行われる。
【0053】
(被覆工程)
被覆工程は、単離工程で単離した無機微粒子と被覆剤を水溶媒中で反応させる工程であるが、「水溶媒中」で行われることにより、有機溶剤を使用する場合と比較して、揮発性有機化合物が残存しにくく、さらに被覆剤を無機微粒子の表面に均一に被覆し易くなる特長を有する。
被覆工程の操作方法は、特に限定されないが、通常、水溶媒中に無機微粒子を均一に分散させた後、被覆剤を添加し、反応温度に加熱して反応させる方法が挙げられる。
【0054】
被覆工程における水溶媒の使用量は、無機微粒子の濃度が通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、通常45重量%以下、好ましくは35重量%以下、より好ましくは25重量%以下となる量使用される。
無機微粒子を水溶媒中に均一に分散させるために、通常酸又は塩基を添加してpH調整を行うことが好ましい。酸又は塩基は、添加時のpH1.0~14.0となるように添加することが好ましく、3.0~10.0となるように添加することがより好ましい。
無機微粒子を水溶媒中に均一に分散させるために、超音波ホモジナイザー、遊星ボールミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、湿式ジェットミル、湿式ビーズミル等の分散機によって撹拌を行うことが好ましい。
【0055】
被覆剤の添加量は、無機微粒子100重量部に対して、通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上であり、通常100重量部以下、好ましくは55重量部以下である。
【0056】
被覆工程の反応の温度は、通常室温以上、好ましくは25℃以上であり、通常80℃以下、好ましくは60℃以下である。
被覆工程の反応時間(反応器での滞留時間)は、5分以上であるが、通常24時間以下、好ましくは8時間以下である。
【0057】
本発明の被覆無機微粒子の製造方法は、前述の準備工程等以外を含むものであってもよく、通常、被覆工程を終えた懸濁液を200℃以下の温度範囲にて乾燥、解砕して被覆無機微粒子が得られる。
【0058】
<ナノコンポジット材料>
本発明の被覆無機微粒子は、透明なナノコンポジット材料を実現するために有用であることを前述したが、本発明の被覆無機微粒子を透明な有機化合物に分散させてなるナノコンポジット材料(以下、「本発明のナノコンポジット材料」と略す場合がある。)も本発明の一態様である。
以下、「透明な有機化合物」等について詳細に説明する。
【0059】
本発明のナノコンポジット材料は、本発明の被覆無機微粒子を透明な有機化合物に分散させてなる材料であるが、有機化合物としては、有機溶剤;重合性のモノマー、オリゴマー;例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ナイロン、ウレタン、PBT、PET、ABS等の熱可塑性樹脂、メラミン、フェノール、エポキシ、ウレタン、ポリイミド、ジアリルフタレート、不飽和ポリエステル、フラン、シリコーン等の熱硬化性樹脂、エラストマー、ゴム、ラジカル重合型又はカチオン重合型の紫外線硬化性樹脂、可視光線、赤外線、電子線等の硬化性樹脂などが挙げられる。単独で又は併用して使用してもよく、ナノコンポジット材料を用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0060】
本発明のナノコンポジット材料は、「透明」であることが好ましい。なお、「透明」とは、可視光線、近赤外線、近紫外線等の所定の波長帯域の光が透過するものであればよいが、具体的には波長400nmの光の分光透過率が65%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。光学部材等の用途においては、分光透過率が65%未満であると、光学デバイスの性能低下に直接影響するため好ましくない。また、光学部材等の用途以外においても透過率が65%以上となる、均一な無機微粒子の分散状態が求められている。
【0061】
本発明のナノコンポジット材料における被覆無機微粒子の含有量は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上であり、通常85重量%以下、好ましくは75重量%以下である。被覆無機微粒子の含有量が10重量%より少ない場合、無機微粒子の機能性を発現することが困難である。被覆無機微粒子の含有量が85重量%より大きな場合、有機化合物本来の機能性を発揮することができず、コンポジット材料の粘度も極めて高くなり、成型時のハンドリング性に悪影響を与える。
【0062】
本発明の被覆無機微粒子を有機化合物中に均一に分散させるためには、リボンミキサー、コニーダ、押出し機、インターナルミキサー、ニーダー、パグミル、ギャコンパウンダ、オーガ、ピンミキサー、ロッドミキサー、サンドミル、クラッチャ、高速流動型ミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギーミキサー、シンプソンミル、ワールミックス、アイリッヒミル、万能ミキサー、らいかい機、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、テーパロールミル等の混錬機、湿式ビーズミル、湿式ジェットミル、超音波ホモジナイザー等の分散機、高速攪拌式や圧力式の乳化機、撹拌機、混合機により行うことが望ましい。分散処理の際に加熱又は真空にして、粘度を下げたり、脱泡したりして、より均一に分散させることができる。
【0063】
本発明のナノコンポジット材料には、必要に応じて様々な種類の添加剤を単独で又は併用して使用してもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収及び近赤外線吸収等の安定剤、滑剤、可塑剤、白濁防止剤、分散剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、離型剤、硬化剤、開始剤等が挙げられる。
本発明のナノコンポジット材料の形状は、液体状、バルク状、フィルム状、シート状、薄膜状など用途に応じて適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明の被覆無機微粒子及びその製造方法について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[製造例1(ジルコニア微粒子)]
ジルコニウム塩水溶液としてオキシ塩化ジルコニウム水溶液を、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて、Zr量が0.40mol、アルカリ量が0.8mol[中和度=アルカリ量/(2×Zr量)=1.0]となるように原料を準備した。次に原料タンク内で、室温、大気下にてジルコニウム塩水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、反応前駆体である無定形のジルコニウム水酸化物含有水溶液を調製した。調製後の反応前駆体のpH値は12.5であった。調製した反応前駆体を水熱反応装置により温度300℃、圧力20MPa、滞留時間0.25分にて水熱反応を行い、その後、ろ過、水洗、乾燥してジルコニア微粒子を得た。
得られたジルコニア微粒子は、平均粒子径、比表面積を評価した。また、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を(20万倍)を
図1に示す。平均粒子径が10nm、平均粒子径の相対標準偏差は0.20であり、比表面積は140m
2/gであった。TEMによる観察から粒子形態の均一性がよい。
【0066】
[製造例2(チタニア微粒子)]
チタン塩水溶液として四塩化チタン水溶液を、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて、Ti量が0.40mol、アルカリ量が1.2mol[中和度=アルカリ量/(4×Ti量)=1.0]となるように原料を準備した。次に原料タンク内で、室温、大気下にてチタン塩水溶液に硝酸水溶液を添加して、反応前駆体である無定形のチタン水酸化物含有水溶液を調製した。調製後の反応前駆体のpH値は5.0であった。調製した反応前駆体を水熱反応装置により温度350℃、圧力20MPa、滞留時間0.25分にて水熱反応を行い、その後、ろ過、水洗、乾燥して10nmのチタニア微粒子を得た。
得られたチタニア微粒子は、平均粒子径、比表面積を評価した。また、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を(20万倍)を
図2に示す。平均粒子径が10nm、平均粒子径の相対標準偏差は0.24であり、比表面積は160m
2/gであった。TEMによる観察から粒子形態の均一性がよい。
【0067】
[被覆無機微粒子の調製]
<実施例1~9>
製造例1のジルコニア微粒子300gを、水2700g中に分散させ、酢酸を24g添加し、均一分散させた。この水分散液を攪拌しながら、表1に従って有機ケイ素化合物を添加し、50℃で4時間撹拌した。その後、混合分散液を80℃にて乾燥を行って、有機ケイ素化合物で被覆されたジルコニア微粒子を得た。
【0068】
<実施例10>
製造例2のチタニア微粒子300gを、水2700g中に分散させ、酢酸を24g添加し、均一分散させた。この水分散液を攪拌しながら、表1に従って有機ケイ素化合物を添加し、50℃で4時間撹拌した。その後、混合分散液を80℃にて乾燥を行って、有機ケイ素化合物で被覆されたチタニア微粒子を得た。
【0069】
<比較例1>
製造例1のジルコニア微粒子300gを、エタノール2700g中に均一分散させた。このエタノール分散液を攪拌しながら、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A-174」)を66.9g添加し、50℃で4時間撹拌した。その後、混合分散液を60℃にて減圧乾燥することにより、有機ケイ素化合物で被覆されたジルコニア微粒子を得た。
【0070】
<比較例2>
平均粒子径が15nm、比表面積が90m2/gである湿式法にて合成された市販品のジルコニア微粒子300gを、水2700g中に分散させ、酢酸を24g添加し、均一分散させた。この水分散液を攪拌しながら、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A-174」)を66.9g添加し、50℃で4時間撹拌した。その後、混合分散液を80℃にて乾燥を行って、有機ケイ素化合物で被覆されたジルコニア微粒子を得た。
【0071】
<比較例3>
平均粒子径が15nm、比表面積が90m2/gである湿式法にて合成された市販品のジルコニア微粒子300gを、エタノール2700g中に均一分散させた。このエタノール分散液を攪拌しながら、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A-174」)を66.9g添加し、50℃で4時間撹拌した。その後、混合分散液を60℃にて減圧乾燥することにより、有機ケイ素化合物で被覆されたジルコニア微粒子を得た。
【0072】
上記実施例1~10及び比較例1~3で得られた被覆無機微粒子について、下記の特性評価(3)~(5)を行い、その結果を表1に示した。
<評価手法>
(1)平均粒子径の測定、粒子形状及び均一性評価
日立ハイテクノロジーズ製透過型電子顕微鏡(H-7600)を用いて倍率3万~20万倍で粒子の画像を取得し、200個以上の粒子の長径を計測し、その平均値を求めることにより平均粒子径を測定した。粒子形状はTEM像の観察より評価し、均一性は平均粒子径の測定値の相対標準偏差より評価した。
【0073】
(2)比表面積の測定
150℃にて脱気した被覆無機微粒子を使用し、マウンテック社製全自動BET比表面積測定装置(Macsorb HM Model-1210)を用いて、窒素ガスの吸脱着よりBET法で比表面積を測定した。
【0074】
(3)揮発性有機化合物量の測定
揮発性有機化合物量の評価は、O.S.P.Inc.社製揮発性有機化合物測定装置(VOC-401P)を用いて、被覆無機微粒子0.500gを120℃で10分間加熱した際に容積140mLの測定器内に放出された揮発性有機化合物の体積濃度(トルエン換算ppm)を測定した。環境省が示す主なVOC100種をはじめとする、加熱温度で揮発するすべての揮発性有機化合物を測定した。
【0075】
(4)被覆無機微粒子中における被覆層量の測定
ブルカー・エイエックスエス社製蛍光エックス線分析装置(S8 TIGER)を用いて、被覆無機微粒子中の各元素量を定量した。得られた定量値より、被覆無機微粒子に対する被覆層の重量分率Xは下記式1に基づいて算出した。
【数1】
((式1)中、W
Cは被覆剤の添加量を、W
Pは無機微粒子量を、M
Cは被覆剤の分子量を、M
C’は被覆剤が反応した後の構造の分子量を、pは下記式2で示される被覆剤の反応率を表す。)
【数2】
((式2)中、C”
XRFは被覆剤に含まれるSi又はTi又はAl元素のXRFにおける定量値を、P
XRFは原料となる無機微粒子を構成する金属もしくは金属酸化物のXRFにおける定量値を、W
Cは被覆剤の添加量を、W
Pは無機微粒子量を、M
Cは被覆剤の分子量を、M
C”は被覆剤に含まれるSi又はTi又はAl元素原子量を表す。)
【0076】
(5)透明ナノコンポジット材料及び被覆無機微粒子の屈折率の測定
被覆無機微粒子を含有する透明ナノコンポジット材料を容積15mm×30mm×0.5mmのPTFE製の型枠に流し込んだ後に、セン特殊光源社製高圧水銀ランプ(ハンディキュア100)を用いて硬化させた試験片を作製した。透明ナノコンポジット材料の屈折率は、この試験片の温度25℃、波長589nmにおける屈折率を、アタゴ社製多波長アッベ屈折率計(DR-M4)を用いて測定することで評価した。さらに、得られた透明ナノコンポジット材料の屈折率及び、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート単独で作成した試験片の屈折率より、被覆無機微粒子の屈折率を算出した。
【0077】
実施例1~10の結果より、本発明では、高温高圧条件下の水熱反応によって合成した無機微粒子を水溶媒中にて被覆剤で表面被覆することで、揮発性有機化合物が100ppm以下の被覆無機微粒子を得ることができた。
比較例1及び3の被覆無機微粒子は、無機微粒子を有機溶剤中に分散させて表面被覆を行い、その後有機溶剤を除去する方法で製造しているため、分散媒由来の揮発性有機化合物を含む被覆無機微粒子となった。また、比較例2の被覆無機微粒子は、水溶媒中にて表面被覆した被覆無機微粒子であるが、湿式法により合成された市販品のジルコニア微粒子を使用しており、製法の違いにより粒子表面における被覆剤の反応性が低いため、揮発性有機化合物が100ppm以上の被覆無機微粒子となった。
【0078】
【0079】
[透明ナノコンポジット材料の作製]
<実施例11>
上記実施例1記載の被覆無機微粒子100gに、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学社製「NKエステルA-LEN-10」)を100g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製「IRGACURE184」)を6g添加し、高速撹拌機を用いて16,000rpmで1時間分散処理することで、被覆ジルコニア微粒子を50重量%含有するナノコンポジット材料を得た。被覆無機微粒子を含有する透明ナノコンポジット材料をPETフィルム(東レ社製「ルミラーT60」、12mm×80mm×100μm)上に膜厚40μmで塗布した後に、セン特殊光源社製高圧水銀ランプ(ハンディキュア100)を用いて硬化させた試験片を作製した。この試験片の波長400nmにおける透過率を、リファレンスをPETフィルムとして、日立ハイテクサイエンス社製レシオビーム式紫外可視分光光度計(U-5100)を用いて測定したところ、83.4%Tであった。また、得られたナノコンポジット材料を容積15mm×30mm×0.5mmのPTFE製の型枠に流し込んだ後に、セン特殊光源社製高圧水銀ランプ(ハンディキュア100)を用いて硬化させた試験片を作製した。この試験片の温度25℃、波長589nmにおける屈折率を、アタゴ社製多波長アッベ屈折率計(DR-M4)を用いて測定したところ1.649であった。
【0080】
<比較例4>
上記比較例1記載の被覆無機微粒子100gに、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学社製「NKエステルA-LEN-10」)を100g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製「IRGACURE184」)を6g添加し、高速撹拌機を用いて16,000rpmで1時間分散処理することで、被覆ジルコニア微粒子を50重量%含有するナノコンポジット材料を得た。得られたナノコンポジットは、上記実施例11と同様に透明性及び屈折率の評価を行ったところ、波長400nmにおける透過率は29.3%Tであり、屈折率は1.652であった。
【0081】
実施例11の結果より、本発明の被覆無機微粒子は、有機化合物への分散性が良いため、無溶剤系で透明性が高いナノコンポジット材料を得ることができる。
比較例4のナノコンポジット材料は、湿式法により合成された市販品のジルコニア微粒子を用いた被覆無機微粒子を使用しているが、無機微粒子の製法の違いにより、有機化合物への分散性が低く、透明性が低いナノコンポジット材料となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の被覆無機微粒子は、液晶ディスプレイ、有機EL、LED、レンズ等の光学部材、電子部材、コーティング材料、歯科材料などに使用される透明ナノコンポジット材料に好適に使用することができる。