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特許7190437光線力学療法用化合物および光線力学的治療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】光線力学療法用化合物および光線力学的治療法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20221208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20221208BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C07D487/22 CSP
A61P35/00
A61K41/00
A61P35/02
A61K31/409
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019549612
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 AU2017000257
(87)【国際公開番号】W WO2018102849
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】2016905000
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2017903924
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519201215
【氏名又は名称】ソルト アンド ライト ファーマシューティカルズ プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゼン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】タン シンユー
(72)【発明者】
【氏名】パルマー ジェームス ティー
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】Daiana K. Deda et al.,Journal of Porphyrins and Phthalocyanines,2012年,Vol.16, No.1,p.55-63
【文献】Fabio M. Engelmann et al.,Journal of Bioenergetics and Biomembranes,2007年,Vol.39, No.2,p.175-185
【文献】Kim Andrews et al.,Biochemistry,2008年,Vol.47, No.4,p.1117-1125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)の化合物またはその薬学的許容塩から成る群より選ばれる化合物であって、
【化1】

構造式(I)
式中、R1、R2、R3、およびR4が以下の化合物である
R1が、CH=CH-CH、R2が、CH=CH-CH、R3が、N-メチルピリジニウム-4-イル、R4が、N-メチルピリジニウム-4-イルである化合物6、
R1が、OH、R2が、OH、R3が、N-メチルピリジニウム-4-イル、R4が、N-メチルピリジニウム-4-イルである化合物7、
R1が、H、R2が、フェニル、R3が、フェニル、R4が、N-メチルピリジニウム-4-イルである化合物8、
R1が、CH、R2が、フェニル、R3が、フェニル、R4が、N-メチルピリジニウム-4-イルである化合物9、
R1が、H、R2が、フェニル、R3が、フェニル、R4が、N-メチルピリジニウム-3-イルである化合物10、
R1が、CH、R2が、フェニル、R3が、フェニル、R4が、N-メチルピリジニウム-3-イルである化合物11
R1が、H、R2が、フェニル、R3が、フェニル、R4が、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルである化合物16、
ことを特徴とする化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、構造式(I)の前記化合物が、皮膚を通して腫瘍細胞まで透過する遠赤外光を吸収するために、遠赤外を吸収する分光学的特性を持つことを特徴とする化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、構造式(I)の前記化合物が、Ras-Raf相互作用を阻害することを特徴とする化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物であって、構造式(I)の前記化合物が、Ras-Raf依存型(dependent)シグナル伝達を妨害することを特徴とする化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、構造式(I)の前記化合物が、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることを特徴とする化合物。
【請求項6】
有効量の、請求項1に記載の化合物と、薬学的に許容可能なキャリヤ、希釈剤、および/または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療用化合物および治療法に関する。より詳しくは、本発明は、癌、疾患、障害、または症状の治療のための、光線力学療法用化合物および光線力学的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)は、光感受性物質(Photosensitizer:PS)の全身的または局所的な投与と、それに続く可視光の照射を含むものである(Huang Zほか, Technol. Cancer Res. Treatment, 2008, 7:309-320)。PSは光を吸収し、酸素存在下でエネルギーを移動させて、癌細胞や他の疾患の治療に使用可能な細胞障害性酸素種を発生する。
【0003】
化学療法および放射線療法と異なり、PDTには2つの作用因子、光とPSの組み合わせが必要である。従来の化学療法および放射線療法に比べ、PDTは毒性が低いという長所がある。PSの有効性には、1)光の波長と、2)標的に対する特異性の2つの重要な要素が関与している。現在市販されている光感受性物質は、750nmまでの波長に吸収を持つ(Castano AP ほか, Photodiagnosis Photodyn. Ther. 2004 1:279-93)。更に、その適用は、皮膚癌、肺癌など、皮膚に近い癌の治療だけに使用可能であるなど、人体の表面に限られている。また、癌細胞治療のためのPSの特異性に関する点についてはあまり取り組まれていなかった。その結果、患者は、治療後かなりの期間、日光を避けなければならない。
【0004】
一般的な癌型の治療の進展には、長波長での活性化と、特定の癌に関わる特定のタンパク質標的に対する選択性の両方を備えた、新世代のPSが必要である。
【0005】
最近の進展では、組織透過性を高め、暗所毒性を低くするため、最大700から800nmまでの長波長で活性化されるPSが供給されるようになったが、細胞毒性が強く、水溶性で、体からすぐに排除されてしまう(Castano AP ほか, Photodiagnosis Photodyn. Ther. 2004 1:279-93; Caetano AP ほか, Photodiagn. Photodyn. Ther. 2005, 2:91)。
【0006】
これまで、癌細胞に対するPSの特異性については取り組まれていなかった。ヒト癌で確認されている共通する標的のひとつが発癌Rasタンパク質である(Fernandez-Medarde A. Santos E., Gene and Cancer, 2(3) 344, 2011)。small GTPase の Rasスーパーファミリーのメンバーは、タンパク質輸送、細胞骨格調節、細胞増殖の制御など、多くの細胞機能を調節する(McCormick F. & Wittinghofer A., Curr. Opin. Biotech. 1996, 7:449)。Rasタンパク質はいくつものシグナル伝達径路を活性化し、Rasタンパク質の発癌突然変異体が多くのヒト癌のおよそ30%で検出される(Barbacid M, Annu. Rev. Biochem. 1987, 56:779)。Raf-1は、Rasのすぐ下流の標的のひとつであり、細胞増殖と分化を誘発するMAPキナーゼ(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)径路の、Ras依存型活性化を促進する。Ras とRaf の相互作用には、Rasの2つのドメイン(RasのN-末端にある Ras結合ドメインなど)が介在し、これはGTP(グアノシン三リン酸)結合型のRasに直接結合する(Barbacid M, Annu. Rev. Biochem. 1987, 56:779)。GDP(グアノシン二リン酸)結合型の、または、“オフ”状態のRasは、Rasに結合しない。発癌Rasは活性型でのみ存在し、Ras介在型シグナル伝達事象の構成的活性化(constitutive activation)を生じ、ヒト腫瘍の異常増殖を促進する。Ras-Raf相互作用の拮抗薬は、Ras刺激型シグナル変換径路を阻害する可能性がある。
【0007】
Ras-Raf相互作用を妨害するための、Rasタンパク質を標的とする阻害剤の開発は、創薬において非常に大きな課題であった。少なくとも一部は、RafのRas結合ドメイン(RBD)が、Rasタンパク質のあまり明確でない(less-defined)表面領域(スイッチI:残基30~40)に結合するためである。従来、Rasタンパク質を標的とする薬剤開発は、活性化したRasが原形質膜へ到達するのを妨げる薬剤に注目していた。このような薬剤の一例が Salirasibである。Salirasibは、原形質膜上の、癌タンパク質のドッキングタンパク、ガレクチンへの結合で、活性Rasと競合し、活性細胞質Rasの分解に至る、ファルネシルミミックである。Salirasibは、膵臓癌の臨床試験において有望な結果を示している(Baker NM and Der CJ, Nature 2013, 497:577-578)。Ras-Raf結合の理解において、また、Ras-Raf結合を妨害する阻害剤の開発において、大きな発展が成されてきたが、現在使用できる、Ras-Raf相互作用の最良の阻害剤は、およそ10~30μMのIC50(阻害活性)を示すだけである(Shima Fほか, PNAS, 2013, 110:8182)。
【0008】
本明細書内での任意の先行技術への言及は、その先行技術が一般的知識の一部を成していることの承認または何らかの形の示唆ではなく、またそのように受け取られるべきではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Huang Zほか, Technol. Cancer Res. Treatment, 2008, 7:309-320
【文献】Castano AP ほか, Photodiagnosis Photodyn. Ther. 2004 1:279-93
【文献】Caetano AP ほか, Photodiagn. Photodyn. Ther. 2005, 2:91
【文献】Fernandez-Medarde A. Santos E., Gene and Cancer, 2(3) 344, 2011
【文献】McCormick F. & Wittinghofer A., Curr. Opin. Biotech. 1996, 7:449
【文献】Barbacid M, Annu. Rev. Biochem. 1987, 56:779
【文献】Baker NM and Der CJ, Nature 2013, 497:577-578
【文献】Shima Fほか, PNAS, 2013, 110:8182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
概して、本発明の実施形態は、光線力学療法用化合物および光線力学的治療法に関する。
【0011】
広い形で、本発明は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状のための、光線力学療法用化合物および光線力学的治療法に関する。この光線力学療法用化合物は、長波長光で活性化することができる。長波長光による光活性化は、組織透過性を改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
唯一の、または実際に最も広い態様である必要はないが、1つの態様において、本発明は、構造式(i)の化合物から成る群より選ばれる化合物またはその薬学的許容塩に属する。
【0013】
【化1】
構造式(i)
式中、PDCは、光線力学的コア(photodynamic core)であり、
R1は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルであり、
R2は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルであり、
R3は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルであり、
R4は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルであり、
R1、R2、R3、およびR4のいずれか1つ以上は、必要に応じて置換されていても良い。
【0014】
第1の態様の1つの実施形態において、PDCは、光を当てると活性化または光化学的に励起する、任意の適切な分子構造または発色団を含む。分子構造または発色団は、光を吸収し、エネルギーを移動させ、癌細胞や他の疾患の治療に使用可能な細胞傷害性酸素種を発生することができる。分子構造または発色団は、R1、R2、R3、およびR4を収容可能な、任意の適切な骨格構造(scaffold)を含むことができる。分子構造または発色団は、R1、R2、R3、およびR4の1つ以上またはそれぞれと共有結合することができる。PDCは、ヒドロカルビルまたはヘテロヒドロカルビル骨格構造を含むことができる。
【0015】
PDCは、420から520nmの間の可視光を吸収することができる。
【0016】
PDCは、環状テトラピロールを含むことができる。環状テトラピロールは、ポルフィン、ポルフィリン、クロリン、またはコリンを含むことができる。
【0017】
1つの実施形態において、構造式(i)の化合物の特徴は、620から700nmの吸収帯であると言える。吸収帯は620nm以上であっても良い。
【0018】
第1の態様の1つの詳細な実施形態において、PDCは、構造式(I)の化合物を含み、式中、R1、R2、R3、およびR4はHを含む。
【0019】
第1の態様の別の実施形態において、R1、R2、R3、およびR4は、表1に定義のとおりである。
【0020】
第1の態様の更に別の実施形態において、構造式(i)の化合物は対称でなく、または非対称である。
【0021】
第1の態様のまた別の実施形態において、任意の2つまたは3つの隣り合うR基は同一であっても良い。R基は、2対の隣り合う同一のR基を含んでいても良い。
【0022】
第1の態様の別の実施形態において、本化合物は、
R1からR4のそれぞれがHでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがフェニルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、

R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、または、
R1およびR2が両方共にはN-メチルピリジニウム-4-イルでなく、R3およびR4が両方共にはHでないという条件で、構造式(i)の化合物である。
【0023】
第1の態様の別の実施形態において、構造式(i)の化合物は正に荷電する。
【0024】
第1の態様の更に別の実施形態において、構造式(i)の化合物は、皮膚を通して腫瘍細胞まで透過する遠赤外光を吸収するために、遠赤外を吸収する分光学的特性を持つ。
【0025】
第1の態様のまた別の実施形態において、構造式(i)の化合物は、Ras-Raf相互作用を阻害することができる。
【0026】
第1の態様の別の実施形態において、構造式(i)の化合物は、Ras-Raf依存型シグナル伝達を妨害することができる。
【0027】
第1の態様の更に別の実施形態において、構造式(i)の化合物は、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることができる。
【0028】
唯一の、または実際に最も広い態様である必要はないが、第2の態様において、本発明は、構造式(I)の化合物から成る群より選ばれる化合物またはその薬学的許容塩に属する。
【化2】
構造式(I)
式中、
R1は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R2は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R3は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R4は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R1、R2、R3、およびR4の任意の1つ以上は、必要に応じて置換されていても良い。
【0029】
第2の態様の1つの実施形態において、R1、R2、R3、およびR4は、表1に定義のとおりである。
【0030】
第2の態様の別の実施形態において、構造式(I)の化合物は対称でなく、または非対称である。
【0031】
第2の態様の更に別の実施形態において、任意の2つまたは3つの隣り合うR基は同一であっても良い。R基は、2対の隣り合う同一のR基を含んでいても良い。
【0032】
第2の態様のまた別の実施形態において、本化合物は、
R1からR4のそれぞれがHでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがフェニルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、または、
R1およびR2が両方共にはN-メチルピリジニウム-4-イルでなく、R3およびR4が両方共にはHでないという条件で、構造式(I)の化合物である。
【0033】
第2の態様の別の実施形態において、構造式(I)の化合物は正に荷電する。
【0034】
第2の態様の更に別の実施形態において、構造式(I)の化合物は、皮膚を通して腫瘍細胞まで透過する遠赤外光を吸収するために、遠赤外を吸収する分光学的特性を持つ。
【0035】
第2の態様のまた別の実施形態において、構造式(I)の化合物は、Ras-Raf相互作用を阻害することができる。
【0036】
第2の態様の別の実施形態において、構造式(I)の化合物は、Ras-Raf依存型シグナル伝達を妨害することができる。
【0037】
第2の態様の更に別の実施形態において、構造式(I)の化合物は、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることができる。
【0038】
本発明の第3の態様に従って、有効量の第1または第2の態様の化合物またはその薬学的許容塩と、薬学的に許容可能なキャリヤ、希釈剤、および/または賦形剤とを含む医薬組成物を提示する。
【0039】
適切には、本医薬組成物は、癌、もしくは関連する疾患、障害、もしくは症状の治療または予防のためのものである。
【0040】
本発明の第4の態様は、有効量の第1もしくは第2の態様の化合物もしくはその薬学的に有効な塩、または第3の態様の医薬組成物を患者に投与し、これにより、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状を治療するステップを含む、患者における癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療法に属する。
【0041】
第4の態様の方法は、投与した化合物を光活性化し、細胞毒性を持つ活性酸素種を放出するステップを更に含むことができる。
【0042】
光活性化は、長波長光を含むことができる。長波長光は、600から850nmの間の波長を含むことができる。長波長光は620nm以上であっても良い。詳細な実施形態において、光活性化は、約660nmおよび/または約637nmの波長の長波長光を含むことができる。
【0043】
本発明の第5の態様は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療に使用するための、第1もしくは第2の態様の化合物もしくはその薬学的有効塩、または第3の態様の医薬組成物を提示する。
【0044】
本発明の第6の態様は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療のための薬剤の製造における、第1の態様の化合物またはその薬学的有効塩の使用を提示する。
【0045】
本発明の第7の態様は、長波長光によって光活性化される、有効量の光感受性物質を投与するステップと、光感受性物質を長波長光で活性化するステップとを含む、患者における癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療法を提示する。長波長光は、600から850nmの間の波長を含むことができる。詳細な実施形態において、光活性化は、約660nmおよび/または約637nmの波長の長波長光を含むことができる。
【0046】
第7の態様の1つの実施形態において、光感受性物質は、第1もしくは第2の態様の化合物もしくはその薬学的有効塩、または第3の態様の医薬組成物を含む。
【0047】
第7の態様の別の実施形態において、治療される癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状は、組織透過性が必要なものである。透過性は、最大3cmまでとすることができる。透過性は、最大1から5cm、2から4cm、または2.5から3.5cmまでとすることができる。透過性は、最大1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0cmまでとすることができる。
【0048】
本発明の第8の態様は、1つ以上の発癌タンパク質を調節する、および/または、癌、もしくは関連する疾患、障害、もしくは症状を治療する方法を提示し、この方法は、それを必要とする患者に、1つ以上の荷電部分を含む、1つ以上の光線力学的活性化合物を投与し、これにより、1つ以上の発癌タンパク質を調節する、および/または、癌、もしく関連する疾患、障害、もしくは症状を治療するステップを含む。
【0049】
調節は、Rasの調節を含むことができる。調節は、Ras-Raf相互作用の阻害を含むことができる。調節は、Ras-Raf依存型シグナル伝達の妨害であっても良い。光線力学的活性化合物の1つ以上の荷電部分は、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることができる。
【0050】
光線力学的活性化合物は、光線力学的コアを含むことができる。
【0051】
光線力学的活性化合物の1つ以上の荷電部分は、構造式(i)または(I)の化合物を含むことができ、式中、R1、R2、R3、およびR4はHである。1つ以上の荷電部分は、ベンゼンフェニル、4-ピリジン-4-イル、4-メチルピリジニウム、3N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-4N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-4N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-4N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-3N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-3N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-3N-メチルピリジニウム-3-イルの1つ以上を含むことができる。
【0052】
第8の態様の1つの実施形態において、光線力学的活性化合物は、長波長光で活性化することができる。長波長光による光活性化は、組織透過性を改善することができる。
【0053】
第4、第5、第6、または第7の態様の1つの実施形態において、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状は、皮膚癌、肺癌、膵臓癌、結腸癌、卵巣癌、腺癌、白血病(AML)、およびリンパ腫の1つ以上である。
【0054】
望ましくは、患者は、コンパニオンアニマル、家畜(domestic animal)、パフォーマンスアニマル、家畜動物(livestock animal)、またはヒトである。
【0055】
上記の各々の段落で言及した本発明の様々な特徴および実施形態は必要に応じ、変更すべきところは変更して他の段落にも適用される。従って、必要に応じて、ある段落で述べた特徴を別の段落で述べた特徴と組み合わせることができる。
【0056】
本発明の更にその他の特徴および長所は、後の詳細な記述より明らかとなろう。
【0057】
本発明を分かり易くし、実用的効果を示すため、添付図を参照しながら、本発明の実施形態について論じることとする。図中、類似の参照番号は同じ要素を指している。図は例として示されているだけである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A】Rasタンパク質の3次元構造を示すリボンダイヤグラムである。
図1B】Rasタンパク質の3次元構造を示す空間充填ダイヤグラムである。
図2】本発明の1つの実施形態による、光線力学的コアの構造を示す図である。本発明の実施形態に従って、R1は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、R2は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、R3は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、R4は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルである。
図3A】R3がHまたはフェニル、R4=Hまたはフェニルである、シリーズI化合物の一般構造を示す図である。
図3B】R4がHまたはフェニルである、シリーズII化合物の一般構造を示す図である。
図3C】代表的化合物4の構造を示す図である。
図3D】代表的化合物10の構造を示す図である。
図4A】代表的化合物4の吸収スペクトルを示す図である。
図4B】代表的化合物10の吸収スペクトルを示す図である。
図5A】代表的化合物4を製造するための合成径路を示す図である。
図5B】代表的化合物10を製造するための合成径路を示す図である。
図6A】代表的化合物4から得られたHPLCスペクトルを示す図である。
図6B】代表的化合物4から得られたNMRスペクトルを表す図である。
図7A】代表的化合物10から得られた、UPLCスペクトルを示す図である。
図7B】代表的化合物10から得られた、UV-Visスペクトルを示す図である。
図7C】代表的化合物10から得られた、MSスペクトルを示す図である。
図7D】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図7E】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図7F】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図7G】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図7H】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図7I】代表的化合物10から得られたNMRスペクトルを示す図である。
図8】HCT-116細胞の増殖に対する、溶媒中での阻害作用を示す折れ線グラフである。
図9】HCT-116細胞の増殖に対する、Kobe0065(対照)および化合物12の、溶媒中での阻害作用を示す折れ線グラフである。
図10】HCT-116の増殖に対する、化合物4、10、および12の阻害性を示す折れ線グラフである。
図11】Avci P, Guta A, ほか, Low-Level Laser (Light) Therapy (LLLT) in Skin: Stimulating, Healing, Restoring (2013) Seminars in Cutaneous Medicine and Surgery, 32(1):41-52 からの図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
当業者ならば、図中の要素が簡略および明確になるよう描かれており、必ずしも完全に正確ではないことは理解されよう。
【0060】
本発明は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状を治療するための化合物および方法に関する。有益なことに、本化合物は、光線力学的活性を持つことができ、また、光線力学的に活性化して細胞傷害性を誘発することができる。
【0061】
本発明は、少なくとも部分的に、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療のための新規化合物の予想外の発見に基づくものである。更なる予想外の発見は、これらの化合物が、光線力学療法の光感受性物質と成り得ることであった。
【0062】
本発明は、例えば、皮膚癌、肺癌、膵臓癌、結腸癌、卵巣癌、腺癌、白血病 (AML)、およびリンパ腫の1つ以上を含む、任意の適切な癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療における用途を見出すことができる。
【0063】
ある実施形態において、発明者は、発癌Rasタンパク質を標的とする新たな化合物を利用した手法に基づく、癌疾患、障害および症状の新たな治療法を、また、必要に応じて光線力学療法を、設計および開発した。発明者は、Rasタンパク質を標的とし、これによってRas-Raf相互作用を阻害する、新たな化合物を発見した。本化合物は、多くの癌種に関与する、Ras-Raf依存型シグナル伝達径路を妨害することができる。更に、本化合物は、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とする。また、本化合物は、光線力学療法(PDT)の光感受性物質として使用することができる。
【0064】
本発明の化合物は、体内へ透過する遠赤外光を吸収するよう、長波長に吸収を持つため、特に有益である。このより大きな組織透過性は、本発明の化合物が、体外から与えられる光刺激によって光活性化され、更に、肺、膵臓、結腸、卵巣内にある癌、または、腺癌、白血病、およびリンパ腫型の癌を標的にできることを意味する。
【0065】
メカニズムの全体的概要は、2つのステップを含むことができる。
1)1つ以上の化合物を投与するステップ。化合物は腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質に集まり、Ras-Raf依存型シグナル伝達径路を部分的に阻害すると考えられる。
2)特定の光を使用するステップ。光線力学療法で行われるように、1つ以上の化合物(光感受性物質)が活性化され、細胞毒性を持つ活性酸素種が発生して、腫瘍を死滅させると考えられる。
【0066】
光活性化は、長波長光を含むことができる。光活性化は、600nmから850nmの間の波長を含む光によるものであっても良い。詳細な実施形態において、長波長光は、約660nmおよび/または約637nmの波長を含むことができる。
【0067】
本発明の化合物は、光線力学的コア(photodynamic core:PDC)と、官能基R1、R2、R3、およびR4とを含む、新世代の光感受性物質と一般的に言うことができる。光線力学的療法で光を当てると、PDCは活性化することができる。官能基(R1、R2、R3、R4)の1つ以上は、疾病に関与する標的タンパク質、例えば、腫瘍種の約30%に関与している発癌Rasタンパク質に特異的に結合することができる。
【0068】
ある実施形態において、本発明は、構造式(i)の化合物から成る群より選ばれる化合物またはその薬学的許容塩に属する。
【0069】
【化3】
構造式(i)
式中、PDCは、光線力学的コアであり、
R1は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R2は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R3は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R4は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、N-メチルピリジニウム-4-イル、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R1、R2、R3、およびR4の任意の1つ以上は、必要に応じて置換されていても良い。
【0070】
PDCは、光を当てると活性化または光化学的に励起する、任意の適切な分子構造または発色団を含むことができる。分子構造または発色団は、R1、R2、R3、およびR4を収容可能な、任意の適切な骨格構造を含むことができる。PDCは、ヒドロカルビルまたはヘテロヒドロカルビル骨格構造を含むことができる。
【0071】
PDCは、420nmから520nmの間の可視光を吸収することができる。
【0072】
PDCは、環状テトラピロールを含むことができる。環状テトラピロールは、ポルフィン、ポルフィリン、クロリン、またはコリンを含むことができる。
【0073】
1つの実施形態において、構造式(i)の化合物の特徴は、620から700nmの吸収帯であると言える。吸収帯は620nm以上であっても良い。
【0074】
PDCは、構造式(I)の化合物を含むことができ、式中、R1、R2、R3、およびR4はHを含む。構造式(i)の化合物は対称でなくても良く、または非対称であっても良い。
【0075】
本発明の化合物は、
R1からR4のそれぞれがHでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがフェニルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件で、または、
R1およびR2が両方共にはN-メチルピリジニウム-4-イルでなく、R3およびR4が両方共にはHでないという条件で、構造式(i)の化合物を含むことができる。
【0076】
構造式(i)の化合物は正に荷電することができる。構造式(i)の化合物は、PDT治療を受ける対象の内部に存在する時に、皮膚を通して腫瘍細胞まで透過する遠赤外光を吸収するよう、遠赤外を吸収する分光学的特性を示すことができる。構造式(i)の化合物は、Ras-Raf相互作用を阻害することができる。構造式(i)の化合物は、Ras-Raf依存型シグナル伝達を妨害することができる。構造式(i)の化合物は、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることができる。
【0077】
別の実施形態において、本発明の化合物は、構造式(I)の化合物から成る群より選ぶことができ、またはその薬学的許容塩である。
【化4】
構造式(I)
式中、R1は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R2は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R3は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R4は、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルである。
【0078】
重要なことには、R1、R2、R3、およびR4の1つ以上は、後に論じる置換の例に従い、必要に応じて置換されていても良い。
【0079】
ある実施形態において、構造式(I)の化合物は、
R1からR4のそれぞれがHでないという条件、
R1からR4のそれぞれがフェニルでないという条件、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれがN-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルでないという条件、および、
R1およびR2が両方共にはN-メチルピリジニウム-4-イルでなく、R3およびR4が両方共にはHでないという条件の1つ以上で、前述の通りである。
【0080】
化合物(i)および(I)の両方について、R1、R2、R3、およびR4の例を表1に示す。
【0081】
詳細な実施形態において、構造式(I)の化合物は対称でなくても良く、言い換えれば、非対称であっても良い。任意の2つまたは3つの隣り合うR基は同一であっても良い。R基は、2対の隣り合う同一のR基を含んでいても良い。
【0082】
1つの実施形態において、構造式(I)の化合物は、R1とR2がN-メチルピリジニウム-4-イルであり、R3とR4が両方共にHである化合物ではない。
【0083】
詳細な実施形態において、構造式(I)の化合物は正に荷電する。
【0084】
文中で使用されている“有効量”とは、治療すべき、癌、疾患、障害、もしくは状態の症状が表れるのを防ぐために、または、症状の悪化を止めるために、または、症状の重症度を治療および緩和、もしくは少なくとも軽減するために十分な量の、本件に関する活性薬剤を投与することを指す。有効量は、患者の年齢、性別、体重など(考慮すべき因子の一例に過ぎない)に応じて、当業者に理解されている方法で変わることがある。適切な用量または用法は定期検査によって確認することができる。
【0085】
文中で用いられている用語“薬学的許容塩”は、薬学的に許容可能な無毒の塩基または酸(無機または有機塩基および無機または有機酸など)から調製した塩など、全身投与または局所投与に関して毒性学的に安全な塩を指す。薬学的許容塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属、アンモニウム、アルミニウム、鉄、アミン、グルコサミン、ハロゲン化物(塩化物など)、硫酸塩、スルホン酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、酸性酒石酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、ナプシラート(napsylate)、フマル酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、テレフタル酸塩、パルモアート(palmoate)、ピペラジン、ペクチン酸塩(pectinate)、S-メチルメチオニン塩などを含む群から選ぶことができる。
【0086】
置換基に関する“置換された”または“必要に応じて置換された”は、必要に応じて1つ以上の部分で置換された置換基を指し、この1つ以上の部分は、例えば、必要に応じて置換されたC1~10アルキル(例えば、必要に応じて置換されたC1~6アルキル)、必要に応じて置換されたC1~10アルコキシ(例えば、必要に応じて置換されたC1~6アルコキシ)、必要に応じて置換されたC2~10アルケニル、必要に応じて置換されたC2~10アルキニル、必要に応じて置換されたC~C12アリール、アリールオキシ、必要に応じて置換されたヘテロアリール、必要に応じて置換された複素環、ハロ(例えば、Cl、F、Br、およびI)、ヒドロキシル、ハロゲン化アルキル(例えば、CF、2-Br-エチル、CHF、CFH、CHCF、およびCFCF)、アミノ(例えば、NH、NR12H、およびNR12R13)、アルキルアミノ、アリールアミノ、アシル、アミド、CN、NO、N、CHOH、CONH、CONR12R13、COR12、CHOR12、NHCOR12、NHCO2R12、C1~3アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、スルファート、スルホン酸、スルホン酸エステル(メタンスルホニルなどの、アルキルまたはアラルキルスルホニル等)、ホスホン酸、ホスファート、およびホスホナートから成る群より選ばれるものであり、式中、R12およびR13はそれぞれ独立して、H、または必要に応じて置換されたC1~10アルキルより選ばれる。
【0087】
用語“アルキル”は、例えば、1から約12個の炭素原子、望ましくは1から約9個の炭素原子、より望ましくは1から約6個の炭素原子、更に望ましくは1から約4個の炭素原子、また更に望ましくは1から2個の炭素原子を含む、直鎖または分枝アルキル置換基を指す。このような置換基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソアミル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、ヘキシル、ヘプチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、2-エチルブチル、3-エチルブチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどから成る群より選ぶことができる。しかし、言及されている炭素の数は炭素骨格および炭素分枝(carbon branching)についてであり、必要に応じて存在する任意の置換基に属する炭素原子、例えば、主炭素鎖から枝分かれしているアルコキシ置換基の炭素原子は含まない。置換アルキルとしては、ハロ(例えば、Cl、F、Br、およびI)、ハロゲン化アルキル(例えば、CF、2-Br-エチル、CHF、CFH、CHCl、CHCF、またはCFCF)、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシラート、カルボキサミド、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、アジド、シアノ、チオ、スルホニル、スルホンアミド、スルホン酸、スルファート、ホスホン酸、ホスファート、およびホスホナートから成る群より選ばれる、1つ以上の部分で置換されたアルキルが挙げられる。
【0088】
用語“アルケニル”は、2から12個の炭素原子、望ましくは2から9個の炭素原子、より望ましくは2から6個の炭素原子を含み、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を持つ、必要に応じて置換された不飽和の直鎖または分枝炭化水素基を指す。必要に応じて、アルケニル基は特定の数の炭素原子を含んでいても良く、例えば、C2~C6アルケニルは、2、3、4、5、または6個の炭素原子を直線状または分枝状に含むアルケニル基を含む。しかし、言及されている炭素の数は炭素骨格および炭素分枝についてであり、必要に応じて存在する任意の置換基に属する炭素原子は含まない。このような置換基の例は、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、s-およびt-ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプタ-1,3-ジエン、ヘキサ-1,3-ジエン、ノナ-1,3,5-トリエンなどから成る群より選ぶことができる。置換アルキルとしては、ハロ(例えば、Cl、F、Br、およびI)、ハロゲン化アルキル(例えば、CF、2-Br-エチル、CHF、CFH、CHCl、CHCF、またはCFCF)、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシラート、カルボキサミド、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、アジド、シアノ、チオ、スルホニル、スルホンアミド、スルホン酸、スルファート、ホスホン酸、ホスファート、およびホスホナートから成る群より選ばれる、1つ以上の部分で置換されたアルキルが挙げられる。
【0089】
用語“カルボアルコキシ”は、カルボン酸のアルキルエステルを指し、このときアルキルは先に定義したものと同じである。例としては、カルボメトキシ、カルボエトキシ、カルボイソプロポキシなどが挙げられる。
【0090】
文中で使用されている用語“アルコキシ”は、酸素原子で結合した直鎖または分枝アルキル基(即ち、-O-アルキル)を意味し、このときアルキルは先に述べたものと同じである。詳細な実施形態において、アルコキシは、1から10個の炭素原子を含む、酸素で結合した基(“C1~10アルコキシ”)を指す。更に別の実施形態において、アルコキシは、1から8個の炭素原子(“C1~8アルコキシ”)、1から6個の炭素原子(“C1~6アルコキシ”)、1から4個の炭素原子(“C1~4アルコキシ”)、または1から3個の炭素原子(“C1~3アルコキシ”)を含む、酸素で結合した基を指す。
【0091】
用語“シクロアルキル”および“シクロアルケニル”は、必要に応じて置換された、飽和および不飽和の単環、二環、または三環式炭素基を指す。必要に応じて、シクロアルキルまたはシクロアルケニル基は、特定の数の炭素原子を含んでいても良く、例えば、C3~C6シクロアルキルまたはシクロアルケニルは、その範囲内で、3、4、5、または6個の炭素原子を持つ炭素環基を含む。ある実施形態では、C4~C7シクロアルキルまたはシクロアルケニルが望ましいことがある。ある実施形態では、C5~C6シクロアルキルまたはシクロアルケニルが望ましいことがある。このような置換基の例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニルなどから成る群より選ぶことができる。置換シクロアルキルまたはシクロアルケニルは、ハロ(例えば、Cl、F、Br、およびI)、ハロゲン化アルキル(例えば、CF、2-Br-エチル、CHF、CHCl、CHCF、またはCFCF)、ヒドロキシル、スルホニル、スルホンアミド、アミノ、カルボキシラート、カルボキサミド、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アリールオキシ、ニトロ、アジド、シアノ、チオ、スルホン酸、スルファート、ホスホン酸、ホスファート、およびホスホナートから成る群より選ばれる、1つ以上の部分での置換を含む。
【0092】
用語“フェニル”または“アリール”は、当該技術で一般的に理解されているように、非置換の、または置換された芳香族炭素環置換基を指す。当然のことながら、フェニルまたはアリールの語は、ヒュッケル則に従って4n+2個のπ電子を持つ平面型の環状置換基に当てはまる。
【0093】
用語“ヘテロアリール”は、1つ以上(特に、1から4)の非炭素原子(特に、N、O、またはS)またはその組み合わせを含むアリール基を指し、このヘテロアリール基は、必要に応じて1つ以上の炭素または窒素原子上に置換基を持つ。ヘテロアリールは、4、5、6、または7員環であっても良く、望ましくは5または6員環である。ヘテロアリール環は、1つ以上の環状炭化水素、複素環、アリール、またはヘテロアリール環と縮合していても良い。ヘテロアリールとしては、1つのヘテロ原子を持つ5員ヘテロアリール(例えば、チオフェン類、ピロール類、フラン類)、1,2または1,3位置に2つのヘテロ原子を持つ5員ヘテロアリール(例えば、オキサゾール類、ピラゾール類、イミダゾール類、チアゾール類、プリン類)、3つのヘテロ原子を持つ5員ヘテロアリール(例えば、トリアゾール類、チアジアゾール類)、3つのヘテロ原子を持つ5員ヘテロアリール、1つのヘテロ原子を持つ6員ヘテロアリール(例えば、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フェナントリン(phenanthrine)、5,6-シクロヘプテノピリジン)、2つのヘテロ原子を持つ6員ヘテロアリール(例えば、ピリダジン類、シンノリン類、フタラジン類、ピラジン類、ピリミジン類、キナゾリン類)、3つのヘテロ原子を持つ6員ヘテロアリール(例えば、1,3,5-トリアジン)、4つのヘテロ原子を持つ6員ヘテロアリールが挙げられる(但し、これらに限定しない)。“置換ヘテロアリール”は、1つ以上の置換基を持つヘテロアリールを意味する。
【0094】
特に、ある‘R’基に関して、文中で使用されている“複素環(Heterocyclyl)”は、環内に5から7個の原子を持ち、その原子の1から4個がヘテロ原子である非芳香環を指し、前記環は、第2の環とは離れており、または縮合していて、前記ヘテロ原子は独立して、O、N、およびSから選ばれる。5から6個の環原子が望ましいことがある。複素環には、部分的または完全に飽和した複素環基が含まれる。複素環系は、任意の数の炭素原子またはヘテロ原子を経て他の部分に結合していても良く、いずれも飽和および不飽和であって良い。複素環基の非制限的な例としては、ピロリジニル、ピロリニル、ピラニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ピラゾリニル、ジチオリル、オキサチオリル、ジオキサニル、ジオキシニル、オキサジニル、アゼピニル、ジアゼピニル、チアゼピニル、オキセピニルおよびチアピニル(thiapinyl)、イミダゾリニル、チオモルホリニルなどが挙げられる。
【0095】
構造中の原子の数の範囲が示されている場合(例えば、C~C12、C~C10、C~C、C~C、C~C、またはC~C20、C~C12、C~C10、C~C、C~C、C~C、C~Cアルキル、アルケニルなど)には、炭素原子の数の、示された範囲内にある任意のサブレンジまたは個別の数も使用できることが、特に意図されている。従って、例えば、文中で言及している任意の化学基(例えば、アルキルなど)に対して使用されている、1~12個の炭素原子(例えば、C~C12)、1~9個の炭素原子(例えば、C~C)、1~6個の炭素原子(例えば、C~C)、1~4個の炭素原子(例えば、C~C)、1~3個の炭素原子(例えば、C~C)、または2~8個の炭素原子(例えば、C~C)という範囲の列挙は、必要に応じて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および/または12個の炭素原子を、更に、その任意のサブレンジ(必要に応じて、例えば、1~2個の炭素原子、1~3個の炭素原子、1~4個の炭素原子、1~5個の炭素原子、1~6個の炭素原子、1~7個の炭素原子、1~8個の炭素原子、1~9個の炭素原子、1~10個の炭素原子、1~11個の炭素原子、1~12個の炭素原子、2~3個の炭素原子、2~4個の炭素原子、2~5個の炭素原子、2~6個の炭素原子、2~7個の炭素原子、2~8個の炭素原子、2~9個の炭素原子、2~10個の炭素原子、2~11個の炭素原子、2~12個の炭素原子、3~4個の炭素原子、3~5個の炭素原子、3~6個の炭素原子、3~7個の炭素原子、3~8個の炭素原子、3~9個の炭素原子、3~10個の炭素原子、3~11個の炭素原子、3~12個の炭素原子、4~5個の炭素原子、4~6個の炭素原子、4~7個の炭素原子、4~8個の炭素原子、4~9個の炭素原子、4~10個の炭素原子、4~11個の炭素原子、および/または4~12個の炭素原子など)を包含し、また明確に述べている。
【0096】
文中で使用されている用語“対象”または“個体(individual)”または“患者”は、治療を望んでいる任意の対象、詳細には、脊椎動物である対象、更に詳細には、哺乳類である対象を指すことができる。適切な脊椎動物としては、霊長類、鳥類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、実験動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、コンパニオンアニマル(例えば、ネコ、イヌ)、パフォーマンスアニマル(ウマおよびイヌ)、捕獲した野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)が挙げられる(但し、これらに限定しない)。望ましい対象は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療を必要としているヒトである。しかし、当然のことながら、先に述べた用語は、症状が必ずしも現れていることを意味するものではない。
【0097】
本化合物は、当該技術で知られている手法により合成可能である。このような手法は、次のような参考文献および学術論文に見出すことができる。Eriiks, J.; Vandergoot, H.; Sterk, G.; Timmerman, H. J. Med. Chem, 1992, 35, 3239-3246; Walczynski, K.; Timmerman, H.; Zuiderveld, O.; Zhang, M.; Glinka, R. II Farmaco, 1999, 54, 533-541 ; Ahangar, N.; Ayatti, A.; Alipour, E.; Pashapour, A.; Formadi, A.; Emmami, S. Chem Biol Drug Des. 2011, 78, 844-852; Caddick. S,; Judd. D.; Lewis. A,; Reich. M,; Williams.; M. Tetrahedron, 2003, 59, 5417-5423; Han, M.; Nam, K,; Shin, D.; Jeong, N.; Hahn, H. J. Comb. Chem.; 2010, 12, 518-530; Song, H; Wang, W.; Qin, Y. Synthetic Communications, 2005, 35, 2735-2748;および、Duspara, P. A.,ほか, JOCS. 2012. 77, 10362-10368。合成法の例は、後の実施例にも挙げられている。
【0098】
本発明の第3の態様に従って、有効量の第1の態様の化合物またはその薬学的許容塩と、薬学的に許容可能なキャリヤ、希釈剤、および/または賦形剤とを含む医薬組成物を提示する。
【0099】
適切には、本医薬組成物は、癌、もしくは関連する疾患、障害、もしくは症状の治療または予防のためのものである。
【0100】
本医薬組成物は、第1または第2の態様の化合物を2つ以上含むことができる。組成物が2つ以上の化合物を含む場合、化合物はどのような比であっても良い。本組成物は、既知の共活性化剤(co-actives)、送達ビヒクル、またはアジュバントを更に含むことができる。
【0101】
第1または第2の態様の化合物は、治療の対象である疾患、障害、または症状を抑制または改善するために十分な量で、医薬組成物中に存在する。化合物およびこれを含む医薬組成物の適切な投薬形態および速度は、当業者により容易に決定することができる。
【0102】
投薬形態としては、錠剤、散布剤(dispersion)、懸濁剤、注射剤、液剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤、座剤、エアロゾル剤、経皮貼布剤などが挙げられる。これらの投与形態には、結合組織劣化部位に確実に置かれるよう特に設計した、または改造した注入装置または埋め込み装置が含まれていても良い。望ましい投与形態はヒドロゲルである。
【0103】
本発明の第4の態様は、有効量の第1もしくは第2の態様の化合物もしくはその薬学的有効塩、または第3の態様の医薬組成物を患者に投与し、これにより、疾患、障害、または症状を治療するステップを含む、患者における癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療法に属する。
【0104】
本発明の第5の態様は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療に使用するための、第1もしくは第2の態様の化合物もしくはその薬学的有効塩、または第3の態様の医薬組成物を提示する。
【0105】
本発明の第6の態様は、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状を治療するための薬剤の製造における、第1もしくは第2の態様の化合物またはその薬学的有効塩の使用を提示する。
【0106】
本発明の第7の態様は、有効量の、長波長光で活性化される光感受性物質を投与するステップと、光感受性物質を長波長光で活性化するステップとを含む、患者における癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療法である。長波長光は、600から850nmの間の波長を含むことができる。詳細な実施形態において、光活性化は、約660nmおよび/または約637nmの波長の長波長光を含むことができる。
【0107】
第7の態様の1つの実施形態において、光感受性物質は、構造式(i)もしくは構造式(I)の化合物もしくはその薬学的有効塩、または第3の態様の医薬組成物を含むことができる。
【0108】
図11は、先行技術で得られた、様々な波長の光の典型的な組織透過性を示す図である。
【0109】
第7の態様の別の実施形態において、治療される癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状は、組織透過性が必要なものである。透過性は、最大1から5cm、2から4cm、または2.5から3.5cmまでとすることができる。透過性は、最大1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0cmまでとすることができる。
【0110】
患者は、コンパニオンアニマル、家畜(domestic animal)、家畜動物(livestock animal)、パフォーマンスアニマル、またはヒトであっても良い。
【0111】
第4、第5、または第6の態様の1つの実施形態において、第1または第2の態様の化合物は、表1中の任意の1つ以上の化合物、または、一般構造または正確な化学構造で文中に開示されている任意の化合物から選ぶことができる。
【0112】
薬学的用途および組成物のための投薬形態および速度は、当業者により容易に決定することができる。
【0113】
この投薬形態には、医薬組成物を制御放出するよう特別に設計した、または改造した、注入または埋め込み装置も含むことができる。
【0114】
治療薬の制御放出は、例えば、アクリル樹脂、ワックス、高級脂肪族アルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ある種のセルロース誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)などの疎水性ポリマーで治療薬をコーティングすることで行うことができる。更に、制御放出は、別のポリマーマトリックス、リポソーム、および/または、ミクロスフィアを用いることで、影響を与えることができる。
【0115】
全身投与のための、薬学的に許容可能なキャリヤを、本発明の組成物に組み込むこともできる。
【0116】
適切には、本医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含む。“薬学的に許容可能な賦形剤”は、全身投与において安全に使用できる、固体または液体の増量剤(filler)、希釈剤、またはカプセル化物質を意味する。個々の投与経路に応じて、当該技術で知られている様々なキャリヤが使用できる。これらのキャリヤまたは賦形剤は、糖類、でんぷん類、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、ポリオール類、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張食塩水、および発熱物質を含まない水などの群から選ぶことができる。
【0117】
本発明の医薬組成物を患者に投与するには、任意の適切な投与経路が使用できる。例えば、経口(舌下、口腔内など)、直腸内、非経口(静脈内など)、関節内、筋肉内、皮下、腹腔内、脳室内、皮内、吸入、眼球内、経皮などが使用できる。
【0118】
投与に適した本発明の医薬組成物は、所定の量の、薬学的に活性な1つ以上の本発明の化合物を、粉末または顆粒として、または、溶液または懸濁液(水性液体、非水液体、水中油型エマルション、または油中水型エマルション中の)として各々含む、バイアル剤、カプセル剤、サシェ剤(sachets)、または錠剤などの個別の単位となっていても良い。このような組成物は、どのような調剤法で調製しても良いが、全ての方法に、薬学的に活性な1つ以上の本発明の化合物を、1つ以上の必須材料を構成するキャリヤと併せるステップが含まれる。一般に、本組成物は、本発明の作用物質を液体キャリヤもしくは微粉砕した固体キャリヤまたはその両方と均一に良く混ぜ合わせ、次に、必要ならば、その生成物を所望の形に成型して調製する。
【0119】
粉剤では、キャリヤは微粉砕した固体であり、微粉砕した本発明の薬学活性化合物と共に混合物となっている。
【0120】
錠剤では、本発明の薬学活性化合物を、必要な結合能力を持つキャリヤと適切な割合で混合し、所望の形と大きさに圧縮する。粉剤および錠剤は、望ましくは5または10から約70パーセントの薬学活性化合物を含んでいる。適切なキャリヤは、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバターなどである。
【0121】
用語“製剤(preparation)”は、薬学活性化合物と、キャリヤとしてのカプセル化材料とが、活性成分(キャリヤを含むまたは含まない)をキャリヤで包んだカプセルとなるよう両者が関わっている処方も含むものである。同様に、サシェ剤および舐剤も含まれる。経口投与に適した固体剤形として、錠剤、粉剤、カプセル剤、丸剤、サシェ剤、および舐剤が使用できる。
【0122】
座剤の調製では、脂肪酸グリセリドまたはココアバターの混合剤などの低融点ワックスを最初に融解し、その中に活性成分を、例えば撹拌して均一に分散する。均一な溶融混合物を、次に、使い易い大きさの型に注ぎ込み、放冷して固化する。
【0123】
液状の製剤には、液剤、懸濁剤、および乳剤、例えば、水または水-プロピレングリコール溶液が含まれる。例えば、静脈注射用液体製剤は、水性ポリエチレングリコール溶液中の液剤として処方することができる。
【0124】
本発明の化合物は、このように非経口投与(例えば、注入、例えば、ボーラス注入または連続注入による)用に処方することができ、アンプル、充填済み注射器、小容量の輸液とした単位用量体に、または、保存料を加えた複数回用量の容器の形としても良い。本組成物は、油性または水性ビヒクルに加えた、懸濁剤、液剤、または乳剤などの形としても良く、懸濁化剤、安定剤、および/または、分散剤などの処方用試剤を含んでいても良い。または、薬学活性化合物は、使用前に適切なビヒクル、例えば、滅菌した、発熱物質を含まない水を用いて構成するための、滅菌固体の無菌単離で、もしくは溶液からの凍結乾燥で得られた粉末体であっても良い。
【0125】
経口使用に適した水性液剤は、薬学活性化合物を水に溶解し、適切な着色剤、香味剤、安定剤、および増粘剤を、要望通りに加えて調製することができる。
【0126】
経口使用に適した水性懸濁剤は、微粉砕した活性化合物を、天然または合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、その他の良く知られている懸濁化剤などの粘着性物質と共に、水に分散させることで製造可能である。
【0127】
経口投与のため、使用直前に液状製剤に変化させることを目的とした固形製剤も含まれる。このような液状物としては、液剤、懸濁剤、および乳剤が挙げられる。これらの製剤は、活性成分に加えて、着色剤、香味剤、安定剤、緩衝剤、人工および天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含んでいても良い。
【0128】
表皮への局所投与のため、本発明の化合物を、軟膏、クリーム、もしくはローションとして、または経皮貼布剤として処方しても良い。軟膏およびクリームは、例えば、水性または油性基剤を用い、適切な増粘剤および/またはゲル化剤を加えて処方することができる。ローションは、水性または油性基剤を用いて処方でき、一般に、乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、または着色剤の1つ以上を更に含むと考えられる。
【0129】
口内への局所投与に適した剤形としては、香り付けした基剤(通常、ショ糖およびアカシアまたはトラガカント)に薬学活性化合物を加えた舐剤、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアカシアなどの不活性基剤に薬学活性化合物を加えた香錠、適切な液体キャリヤに薬学活性化合物を加えたマウスウォッシュが挙げられる。
【0130】
液剤または懸濁剤は、従来の手段、例えば、点滴器、ピペット、またはスプレーを用いて鼻腔に直接適用される。製剤は、単回または複数回投与の形とすることができる。点滴器またはピペットで後者の場合、適切な所定量の液剤または懸濁剤を、患者が投与しても良い。スプレーの場合、例えば、定量噴霧スプレーポンプを用いて、これを行っても良い。鼻への送達性と保持力を改善するために、本発明の化合物を、シクロデキストリンでカプセル化し、または、鼻粘膜への送達性と保持力を高めると期待される物質と共に処方することができる。
【0131】
呼吸管への投与も、活性成分を、クロロフルオロカーボン(CFC)(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、またはジクロロテトラフルオロエタン)、二酸化炭素、その他適切なガスなど、適切な高圧ガスで加圧した容器に入れた、エアロゾル製剤を用いて達成することができる。エアロゾルは、レシチンなどの界面活性剤も含んでいると都合良いことがある。薬剤の用量は、定量バルブを設けることで制御しても良い。
【0132】
または、薬学活性化合物を乾燥粉末の形、例えば、乳糖、澱粉、澱粉誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、ポリビニルピロリドン(PVP)などの適切な粉末基剤に化合物を加えた粉末混合物としても良い。
【0133】
都合の良いことに、粉末キャリヤは鼻腔内でゲルとなると考えられる。粉末組成物は、例えば、ゼラチンから成る、例えば、カプセルまたはカートリッジに入れた、または、吸入器を用いて粉末を投与する、ブリスターパックに入れた単位用量体としても良い。
【0134】
経鼻投与製剤など、呼吸管への投与を目的とした処方において、薬学活性化合物は、一般に、小さな、例えば、1から10ミクロン、またはそれ以下のオーダーの粒径を持つと考えられる。このような粒径は、当該技術で知られている手段、例えば、微粉化によって得ることができる。
【0135】
本発明を分かり易くし、実用的効果を示すため、以下の非制限的な実施例を提示する。
【実施例1】
【0136】
1.材料および方法
1.1 Rasタンパク質上の化学骨格構造:光線力学療法において、ポルフィリンは毒性が低く、光物理的および光化学的性質が良好であるため、PSの骨格構造としてこれを用いることができる。使用可能なRasタンパク質およびRas-RBD複合体には、多くの結晶構造とNMR構造がある。Rasの構造は、複合体(3KUD)の結晶構造から得られる。多重コピー同時検索法(Multiple Copy Simultaneous Search Method:MCSS)(Caflisch A, Karplus M., J Comput.-Aided Mol. Des. 1996, 10:372, Zeng J. Comb. Chem. High Throughput Screen. 3:355)を用いて、Ras上の骨格構造(ポルフィリン)の最適位置をマッピングした。ここは、骨格構造が最も強い相互作用エネルギーで、Rasタンパク質と結合する場所である。この結合構造を、結合特性および分光学的特性に優れた化合物の設計のためのテンプレートとして用いた。RasのスイッチI上の最も適したポルフィリン結合場所を、3個の荷電残基(Asp33、Glu37、およびAsp38)と共に、間隙を介して強調表示して示す(図1)。実際、これらの残基は、図1に示すように、Rasタンパク質のスイッチI領域表面の浅い窪みの周囲にある。
【0137】
1.2 化合物の設計:骨格構造と、Rasタンパク質の近隣の重要な残基に基づいて、Rasタンパク質のスイッチI領域の荷電残基(図1)と、静電気的相互作用を形成できるように、R1からR4基を備えた一連の化合物を設計し、これを表1に示した(図2にも図示)。本化合物は、皮膚を通して体内の腫瘍細胞まで透過可能な遠赤外光を吸収するよう、遠赤外を吸収する分光学的特性を持つように、正に荷電する。
【0138】
1.3 代表的化合物の合成:化合物のシリーズIおよびIIの群から、代表例として2つの化合物を選び、合成した。シリーズIおよびIIの化合物を図3に示す。シリーズIの化合物とシリーズIIの化合物の違いは、R1~R4の荷電基である。シリーズIの化合物は2つの荷電基を持つが、シリーズIIの化合物は荷電基を1つしか持たない。更に、シリーズIの化合物とシリーズIIの化合物は合成径路が異なる。
【0139】
1.3.1 代表的化合物4:シリーズIに属し、式中、R3およびR4=H(図3A参照)。代表的化合物4の合成は、Synthesis Med Chem(オーストラリア国)が行った。後の1.6に合成径路を示す。代表的化合物4の構造を図3Cに示す。
【0140】
1.3.2 代表的化合物10:シリーズIIに属し、式中、R3およびR4=フェニル(図3B)。代表的化合物10の合成は、Jubilant CHEMSYS(インド国)が行った。後の1.7に合成径路を示す。代表的化合物10の構造を図3Dに示す。
【0141】
1.4 吸収スペクトル:代表的化合物の吸収スペクトルを測定した。化合物の濃度は10μMであった。図4Aに代表的化合物4の吸収スペクトルを示し、図4Bに代表的化合物10の吸収スペクトルを示す。
【0142】
代表的化合物4および10はそれぞれ、660nmおよび637nm(長波長範囲内)に吸収帯を持つ。溶液中の代表的化合物の濃度を変え、タンパク質と混ぜても、得られる吸収スペクトルは変化しなかった。
【0143】
1.5 代表的化合物の生物学的試験:代表的化合物の活性を調べるため、in vitro試験を行った。
【0144】
1.5.1 阻害剤の妨害によるRasプルダウン:最初に、活性Rasプルダウンおよび検出キット(Thermofisher Scientific、カタログ番号16117)を用いて、Raf1のRas結合ドメイン(RBD)とRasとの結合に対する化合物の阻害性を分析した。手順は、キット添付のマニュアルに従った。ウエスタンブロット分析を用いて阻害性を測定した。既知の阻害剤Kobe0065を、オーストラリア国、Focus Biosciences (www.focusbio.com.au)から購入し、陽性対照として用いた。
【0145】
1.5.2 ELIZA:代表的化合物の阻害性を測るもうひとつの方法として、Ras活性化ELIZAキット(Merck Millipore, カタログ番号17-497)を用いた。手順は、キット添付のマニュアルに従った。阻害性は、化学発光撮像システムを用いて測定した。既知の阻害剤Kobe0065を、オーストラリア国、Focus Biosciences (www.focusbio.com.au)から購入し、陽性対照として用いた。
【0146】
1.6 代表的化合物4の合成:代表的化合物4の合成径路を図5Aに示す。
【0147】
文中に示されている収率は、精製した生成物についてであり(指定のない限り)、最適化されていない。分析用TLCは、Merckシリカゲル60 F254アルミシート上で行った。化合物をUV光で可視化し、および/または、Iまたは過マンガン酸カリウム溶液で着色後、加熱した。シリカゲル上でフラッシュカラムクロマトグラフィを行った。H NMRスペクトルは、BBO(Broad Band Observe:広域帯測定)およびBBFO(Broad Band Fluorine Observe:広域帯フッ素測定)プローブを備えた、Bruker Avance-400 MHz 分光計で記録した。化学シフト(δ)は、内部標準としてテトラメチルシランを参照とし、百万分率(ppm)低磁場で表す。分裂パターンは、s(一重線)、d(二重線)、m(多重線)、およびbr s(幅の広い一重線)として示す。結合定数(J)はヘルツ(Hz)で与えられる。LCMS分析は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)技術を用い、Acquity BEH Hillic(2.10×100mm、1.70μm)で行った。
【0148】
中間体3の合成:25mLの3つ口フラスコに、ピリジン-3-チオール(2.0g、18.0mmol、1.0当量)と、イソニコチノイルクロリド塩酸塩(3.2g、18.0mmol、1.0当量)と、THF(40.0mL)を加えた。得られた混合物を周囲温度で一晩撹拌した。出発物質が消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。反応混合物を濾過し、ケークをヘキサンで洗った。次に、ケークを、EtOと飽和NaHCOの二相溶液で、泡が認められなくなるまで処理した。得られた混合物をEtOで繰り返し抽出した。合わせた有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗生成物をTHF(2.0mL)に溶解後、20mLのヘキサンを溶媒に加えて沈殿物を生じさせた。粗生成物をTHFおよびヘキサンで再結晶化させた。濾過後、1.55gの淡黄色固体が得られた。LC-MSおよびH NMRスペクトルを測定した。
【0149】
中間体4の合成:凝縮器と内部温度計を取り付けた100mLの三つ口フラスコに、ピロール(30.0mL、432mmol)と、パラホルムアルデヒド(1.5g、50.0mmol、1.0当量)を加えた。得られた混合物を60℃で0.1時間撹拌した。次に、InCl(1.1g、5.0mmol、0.1当量)を加え、反応系を60℃で更に3時間撹拌した。次に、反応系を周囲温度まで冷やし、NaOH粉末(2.0g)を加えて4時間撹拌した。開始物質が消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。反応混合物を濾過し、ケークをピロールで繰り返し洗った。合わせた有機相を減圧下で濃縮した。粗生成物を、シリカゲル上、EtOAc/石油エーテル(Pet.ether)で、開始時の1/100の比から、1/10の比まで徐々に上げながら溶離して精製した。2.4gの白色固体が33%の収率で得られた。H NMRスペクトルを測定した。
【0150】
中間体5の合成:50mLの三つ口フラスコに、DMF(16.0mL)を加え、フラスコを0℃まで冷やした。次に、0℃で、反応系にPOCl(0.6mL、3.02mmol)を滴下して加え、5分間撹拌して、フィルスマイヤー試薬を作成した。次に、化合物4(1.0g、6.8mmol、1.0当量)をDMF(3.0mL)に加えた冷(0℃)溶液を、反応系に滴下して加えた。添加終了後、最終的な混合物を0℃で2時間撹拌した。次に、酢酸エチルと酢酸ナトリウム飽和水溶液の二相溶液を加え、一晩撹拌した。開始物質が消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。反応混合物から酢酸エチルを分離し、水溶液をEtOAc(10mL×3)で抽出した。合わせた有機相を塩水で洗い、無水NaSO上で乾燥した。減圧下で濃縮後、粗生成物を、シリカゲル上、EtOAc/石油エーテルで、開始時の1/40の比から、3/2の比まで徐々に上げながら溶離して精製した。272mgの暗褐色固体が23%の収率で得られた。LC-MSおよびH NMRスペクトルを測定した。
【0151】
中間体6の合成:20mLのガラス管に、ピロール(10.0mL)とイソニコチンアルデヒド(10.0mL)を加えた。管を密閉して150℃まで加熱し、マイクロ波を当てながら20分間撹拌した。イソニコチンアルデヒドが消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。反応混合物を周囲温度まで冷やし、減圧下で濃縮した。褐色固体の粗生成物を、シリカゲル上、EtOAc/石油エーテルで、開始時の1/50の比から、1/2の比まで徐々に上げながら溶離して精製した。2.4gの褐色固体が50%の収率で生成した。LC-MSおよびH NMRスペクトルを測定した。
【0152】
中間体7の合成:100mLの三つ口フラスコに、中間体6(300.0mg、1.4mmol、1.0当量)とTHF(5.4mL)を加えた。次に、EtMgBr(3.5mL、1.0mol/L)を、室温で反応系に加え、10分間撹拌した。次に、クライオポンプを用いて、反応混合物を-70℃まで冷却した。中間体3(324.0mg、1.4mmol、1.0当量)をTHF(5.4mL)に加えた溶液を滴下しながら反応系に加え、更に10分間撹拌後、ゆっくりと周囲温度まで温めた。反応系を一晩撹拌した。開始物質が消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。NHCl飽和水溶液を加えて反応を止め、15分間撹拌した。混合物をEtOAc(20mL×3)で抽出した。合わせた有機相を塩水(30mL×2)で洗い、NaSO上で乾燥した。減圧下で濃縮後、粗生成物を、シリカゲル上、EtOAc/石油エーテルで、開始時の1/20の比から、1/2の比まで徐々に上げながら溶離して精製した。320mgの黒色固体が70%の収率で生成した。LC-MSおよびH NMRスペクトルを測定した。
【0153】
中間体8の合成:250mLの三つ口フラスコに、化合物5(250.0mg、1.4mmol、1.0当量)、中間体7(471.3mg、1.4mmol、1.0当量)、トルエン(33.3mL)、およびDBU(4.7mL)を加えた。混合物を周囲温度で5分間撹拌後、MgBr(1.85g、10.0mL、7.0当量)を加え、次に、雰囲気中でこれに蓋をし、撹拌しながら一晩、115℃に加熱した。開始物質が消費されたことを示すTLCおよびLCMSで、反応を監視した。THFを用いて、反応混合物を250mLの1つ口のフラスコに移し、減圧下で濃縮した。粗生成物をDCMに溶解して、脱イオン水で洗い、続いて塩水で洗った。次に、有機相をTFAで酸性化し、TEAで中和した。次に、脱イオン水と塩水で洗った。有機相をNaSO上で乾燥し、減圧下で濃縮して、分取用(pre-)TLCプレート上で精製した。約10mgの純粋な生成物と、40mgの理想的でない純度のものが得られた。LC-MSスペクトルを測定した。
【0154】
50mLの丸底フラスコ中で、中間体8(40.0mg、粗生成物、1.0当量)をDMF(5.0mL)に加えた混合物に、周囲温度で、CHI(1.0mL)を加え、反応混合物を周囲温度で一晩撹拌した。開始物質が消費されたことを示すLCMSで、反応を監視した。反応混合物を減圧下で濃縮し、分取用HPLC上、ACN/水で、開始時の45/55の比から、85/15の比まで徐々に上げながら精製した。21mgの暗褐色固体が得られた。LC-MSおよびH NMRスペクトルを測定し、これをそれぞれ、図7Aおよび7Bに示す。
【0155】
1.7 代表的化合物10の合成:代表的化合物10の合成径路を図5Bに示す。
【0156】
5,15-ジフェニルポルフィリン(γ)の調製:氷冷したジピロールメタン(α)(2.0g、13.70mmol)のDCM溶液に、ベンズアルデヒド(β)(1.41mL、13.96mmol)を加え、次に、0℃で、TFA(0.23mL、3.15mmol)を滴下して加えた。得られた反応混合物を0℃で3時間撹拌後、DDQ(3.72g、16.44mmol)を加えた。得られた混合物を室温で4時間撹拌した。反応終了後(TLCで確認)、EtN(10.0mL)で反応を止め、室温で5分間撹拌した。有機相を減圧下で濃縮し、粗生成物を、シリカゲル(100~200M)カラムクロマトグラフィ上、30%DCM/ヘキサンで溶離して精製し、所望の生成物γ(0.78g、収率12%)を紫色固体として得た。H NMRスペクトルを測定した。
【0157】
10-ブロモ-5,15-ジフェニルポルフィリン(δ)の調製:氷冷した5,15-ジフェニルポルフィリン(γ)(500mg、1.08mmol)のDCM(500mL)溶液に、NBS(153mg、0.85mmol)を加えた。次に、混合物を室温で16時間撹拌した。反応終了後(TLCで確認)、反応混合物を水(3×500mL)で洗い、有機層をNaSO上で乾燥濾過し、減圧下で濃縮した。こうして得られた粗生成物を、シリカゲル(100~200M)カラムクロマトグラフィ上、10%DCM/ヘキサンで溶離して精製し、所望の生成物(δ)(400mg、収率68%)を紫色固体として得た。H NMRを測定した。
【0158】
5,15-ジフェニル-10-(ピリジン-3-イル)ポルフィリン(ζ)の調製:10-ブロモ-5,15-ジフェニルポルフィリン(δ)(75mg、0.14mmol)のDMF(10mL)溶液に、撹拌しながら室温でピリジン-3-イルボロン酸(ε)(49mg、0.40mmol)およびリン酸カリウム(96mg、0.41mmol)を加えた。得られた反応混合物をNで15分間脱気後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(θ)(16mg、0.014mmol)を加え、90℃で6時間加熱した。反応終了後(TLCで確認)、反応混合物を氷水(100mL)で急冷した後、粗化合物をEtOAc(3×100mL)で抽出した。合わせた有機相を、水、ブライン溶液で洗った後、NaSO上で乾燥濾過した。有機相を減圧下で蒸発させ、粗化合物(ζ)(90mg)を紫色固体として得た。これを更に精製せずに、次のステップで使用した。H NMRスペクトルを測定した。
【0159】
3-(10,20-ジフェニルポルフィリン-5-イル)-1-メチルピリジン-1-イウム=ヨージド(代表的化合物10)の調製:DMF:CHCl(20:80mL)混合物に加えた、5,15-ジフェニル-10-(ピリジン-3-イル)ポルフィリン(ζ)(90mg、0.17mmol)の溶液に、撹拌しながら室温でヨウ化メチル(8.0mL)を加えた。得られた混合物を室温で8時間撹拌した。反応終了後(TLCで確認)、粗反応混合物の残留量が約10.0mLとなるまで、溶媒を低温(reduced temperature)で蒸発させた。ジエチルエーテル(100mL)を加えて沈殿させ、溶媒を容器からデカンテーションした。粗生成物を、エタノールおよびジエチルエーテルで更に再結晶化して、所望の代表的化合物10(30.0mg、2ステップで32%)を得た。H NMRスペクトルを測定した。UPLCおよびH NMRスペクトルを測定して、図に示す。
【0160】
1.8 細胞:ヒト細胞株をNIH細胞培養から得て、供給者の推奨する培地で培養した。
【0161】
1.9 細胞増殖試験:化合物の1つの存在下、細胞(2~3000)を96ウェルプレートに播種し、10%(vol/vol)FBSを含む、マッコイ5培地で培養した。生存細胞数を、蛍光分析キット(“Cell Titre-Blue Cell Viability Assay”:米国、Promega Inc.)を用いて測定した。生存細胞は、37度、5%COで培養後、青色染料を赤/ピンクに変える。
【0162】
2.結果
2.1 Ras-Raf結合の阻害:表2に掲げたいくつかの化合物について、Ras-Raf結合の阻害性を測定した。陽性対照として、Kobe0065を使用した。表2は、Rasプルダウン試験によるIC50(10から50μM)と、Ras活性化ELIZAによるIC50(<10μM)の阻害性を示しており、これは、これまでの結果(Shima F ほか, PNAS, 2013, 110, 8182)と一致する。Kobe0065による阻害性を確認して、この試験キットを検証した。
【0163】
代表的化合物1は市販されており、フランス国、PorphyChem SAS (www.porphychem.com)より購入した。分析により、Rasプルダウン試験で、Kobe0065の活性と同様の、10~50μMの阻害性(IC50)が示された。しかし、Ras活性化ELIZAでの阻害性はずっと弱かった。何らかの理論にとらわれようとするものではないが、発明者は、本発明の化合物が中性のポルフィリン化合物であり、その活性化が、異なる試験キットで使用する条件に影響を受け易いのではないかという仮説を立てている。
【0164】
代表的化合物12も市販されており、フランス国、PorphyChem SAS (www.porphychem.com)より購入した。分析により、Rasプルダウン試験で、<10μMの阻害性(IC50)が示された。代表的化合物12は、ELIZAにおいて、50μMで、55%の阻害性を持つ。しかし、より低い濃度(10μM)では、ELIZAは、著しく暗いバックグラウンドとなった。更に、Rasプルダウン試験では、濃度が上がるにつれて阻害性が低下した。阻害性は、50μMでの68%から、100μMでの20%へ低下した。何らかの理論にとらわれようとするものではないが、発明者は、この化合物が、+4の正味電荷で強く荷電しているため、ELIZAと強い静電気的相互作用が生じているのではないかという仮説を立てている。再び、何らかの理論にとらわれようとするものではないが、代表的化合物12は、スイッチIに近いRasの領域に結合し、濃度が高まると、Ras-Raf結合のエンハンサとして働く可能性も考えられる。
【0165】
代表的化合物4および5の2つを合成したが、代表的化合物4だけが、合成およびELIZAでの試験が可能である。阻害性は、10μMで70.54%、50μMで62.74%であった。濃度と相関する低下は、代表的化合物12の場合と同様である。再び、何らかの理論にとらわれようとするものではないが、発明者は、この化合物が、+2の正味電荷で正に荷電するため、静電気的相互作用の影響も表れているのではないかという仮説を立てている。しかし、代表的化合物4は比較的小さく、疎水性も低い。
【0166】
代表的化合物10を設計および合成した。ELIZA試験だけを行った。阻害性は、10μMで35.2%であった。代表的化合物10も、+1の正味電荷で正に荷電する。
【0167】
2.2 細胞死亡率:発癌Rasは、先行技術の表3(Alberto Fernendez-Medarde and Eugenio Santos Genes & Cancer, 2011, 2(3) 344-358)に掲げられているように、ヒト癌種の30%に関与している。今後の動物実験および臨床的適応を目的として、2つの細胞株を試験した。結腸癌細胞株(HCT-116)を試験した。
【0168】
DMSOとクロロホルムを用いた、細胞試験の結果を図8に示す。細胞増殖に対する溶媒の影響は最小であることがわかる。
【0169】
Kobe0065は、0.5から2μMのIC50で、H-rasG12V形質転換NIH 3T3細胞に阻害性を持つことが分かっている(Shimaほか, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2013, 110(20):8182)。図9に示すように、この化合物は、20から30μMのIC50を持つ、HCT-116の阻害剤であることが確認された。IC50の違いは、使用したプロトコルと細胞株の違いによるものと考えられる。更に、代表的化合物12も、Kobe0065に匹敵するIC50を持つ、HCT-116の阻害剤である。この化合物は、ヒト卵巣癌細胞株(A2780)の細胞増殖を抑えることも分かっているが、光誘導によるものだけである (Liuほか, Oncology Letters,2014, 8:409)。
【0170】
図10は、代表的化合物10が、Kobe0065および化合物12に匹敵する、20から25μMのIC50で、HCT-116の細胞増殖を阻害することを示している。
3.結論
【0171】
発明者は、光線力学療法のための、一連の新世代の光感受性物質を開発した。この新世代の光感受性物質は620nm以上の吸収帯を持ち、正に荷電する。
【0172】
この新世代の光感受性物質は、発癌RasのスイッチI領域を標的とする。この化合物は、スイッチIの、負に荷電した残基Asp33、Glu37、およびAsp38と特異的に相互作用する官能基を持ち、これらの荷電残基と無極性残基Leu19、Val29、およびThr35が作る、浅い窪みにはまり込むことができる。
【0173】
この新世代の光感受性物質は、腫瘍細胞中のRas-Raf結合を妨害することが実証された。高濃度では、これらの光感受性物質はRas-Raf結合エンハンサとして働くため、この化合物の有効濃度は、低マイクロモルレベルである。
【0174】
何らかの理論にとらわれようとするものではないが、発明者は、2つのステップ:i)腫瘍成長を鈍化および/または低減するため、新世代の光感受性物質を化学療法剤として使用するステップと、ii)光感受性物質を活性化して癌細胞を効果的に死滅させるため、光線力学療法を使用するステップと、を含む癌治療戦略を提案する。
【0175】
発明者は、新しい光感受性化合物を生成するための新たな合成径路も提示している。
【0176】
本願では、複雑な癌を治療するための、新世代の光線力学治療薬を開示する。これらの化合物は、Ras-Raf相互作用を妨害するよう設計および合成されている。
【0177】
in vitro試験(RasプルダウンおよびEliza)は、選択した供試化合物の阻害活性を実証した。細胞試験により、選択した化合物の細胞死亡率を調べ、これを明らかにした。
【0178】
本明細書において、用語“含む(comprises)”、“含んでいる(comprising)”または同様の語は、非排他的な包含を意味するものであり、リストに挙げた要素を含む機構(apparatus)は、これらの要素のみを含むのではなく、挙げられていない他の要素を含んでいても良い。
【0179】
明細書全体を通して、任意の1つの実施形態、または特徴の特定の集合に本発明を限定することなく、本発明を記述することが狙いである。当業者ならば、特定の実施形態を変化させたものにも気付くと考えられるが、これらも本発明の範囲内にあるものとする。
(1)構造式(i)の化合物から成る群より選ばれる化合物またはその薬学的許容塩であって、
【化5】

構造式(i)
式中、PDCが、光線力学的コア(photodynamic core)であり、
R1が、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R2が、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R3が、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R4が、H、フェニル、ピリジン-4-イル、メチルピリジニウム、N-メチルピリジニウム-3-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、4-フェニル-N-メチルピリジニウム-4-イル、2-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、3-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イル、または4-フェニル-N-メチルピリジニウム-3-イルであり、
R1、R2、R3、およびR4のいずれか1つ以上が、必要に応じて置換されていても良いことを特徴とする化合物。
(2)(1)に記載の化合物であって、前記PDCが、光を当てると活性化または光化学的に励起する、任意の適切な分子構造または発色団を含むことを特徴とする化合物。
(3)(1)または(2)に記載の化合物であって、前記PDCが、420nmから520nmの間の可視光を吸収することを特徴とする化合物。
(4)(1)から(3)のいずれか1つに記載の化合物であって、前記PDCが、環状テトラピロールを含むことを特徴とする化合物。
(5)(4)に記載の化合物であって、前記環状テトラピロールが、ポルフィン、ポルフィリン、クロリン、またはコリンを含むことを特徴とする化合物。
(6)(1)から(5)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)の前記化合物が、620から700nmに吸収帯を含むことを特徴とする化合物。
(7)(1)から(6)のいずれか1つに記載の化合物であって、前記PDCが、構造式(I)の化合物を含み、
【化6】

構造式(I)
式中、R1、R2、R3、およびR4がHを含むことを特徴とする化合物。
(8)構造式(I)の化合物またはその薬学的許容塩であって、
【化7】

構造式(I)
式中、
R1が、H、フェニル、4-ピリジン、4-メチルピリジニウム、3-メチルピリジニウム、2-フェニル-4-メチルピリジニウム、3-フェニル-4-メチルピリジニウム、4-フェニル-4-メチルピリジニウム、2-フェニル-3-メチルピリジニウム、3-フェニル-3-メチルピリジニウム、または4-フェニル-3-メチルピリジニウムであり、
R2が、H、フェニル、4-ピリジン、4-メチルピリジニウム、3-メチルピリジニウム、2-フェニル-4-メチルピリジニウム、3-フェニル-4-メチルピリジニウム、4-フェニル-4-メチルピリジニウム、2-フェニル-3-メチルピリジニウム、3-フェニル-3-メチルピリジニウム、または4-フェニル-3-メチルピリジニウムであり、
R3が、H、フェニル、4-ピリジン、4-メチルピリジニウム、3-メチルピリジニウム、2-フェニル-4-メチルピリジニウム、3-フェニル-4-メチルピリジニウム、4-フェニル-4-メチルピリジニウム、2-フェニル-3-メチルピリジニウム、3-フェニル-3-メチルピリジニウム、または4-フェニル-3-メチルピリジニウムであり、
R4が、H、フェニル、4-ピリジン、4-メチルピリジニウム、3-メチルピリジニウム、2-フェニル-4-メチルピリジニウム、3-フェニル-4-メチルピリジニウム、4-フェニル-4-メチルピリジニウム、2-フェニル-3-メチルピリジニウム、3-フェニル-3-メチルピリジニウム、または4-フェニル-3-メチルピリジニウムであり、
R1、R2、R3、およびR4のいずれか1つ以上が、必要に応じて置換されていても良いことを特徴とする化合物。
(9)(1)から(7)または(8)のいずれか1つに記載の化合物であって、R1、R2、R3、およびR4が、表1に定義のとおりであることを特徴とする化合物。
(10)(1)から(7)または(8)もしくは(9)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が対称でないことを特徴とする化合物。
(11)(1)から(7)のいずれか1つまたは(8)から(10)のいずれか1つに記載の化合物であって、任意の2つまたは3つの隣り合うR基が同一であることを特徴とする化合物。
(12)(11)に記載の化合物であって、前記R基が、2対の隣り合う同一のR基を含むことを特徴とする化合物。
(13)(1)から(7)のいずれか1つまたは(8)から(12)のいずれか1つに記載の化合物であって、前記化合物が、
R1からR4のそれぞれがHでないという条件、
R1からR4のそれぞれがフェニルでないという条件、
R1からR4のそれぞれが4-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが3-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-4-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-4-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-4-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが2-フェニル-3-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが3-フェニル-3-メチルピリジニウムでないという条件、
R1からR4のそれぞれが4-フェニル-3-メチルピリジニウムでないという条件、および、
R1およびR2が両方共には4-メチルピリジニウムでなく、R3およびR4が両方共にはHでないという条件、
の1つ以上で、構造式(i)または(I)の化合物であることを特徴とする化合物。
(14)(1)から(13)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が正に荷電することを特徴とする化合物。
(15)(1)から(14)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が、皮膚を通して腫瘍細胞まで透過する遠赤外光を吸収するために、遠赤外を吸収する分光学的特性を持つことを特徴とする化合物。
(16)(1)から(15)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が、Ras-Raf相互作用を阻害することを特徴とする化合物。
(17)(1)から(16)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が、Ras依存型(dependent)シグナル伝達を妨害することを特徴とする化合物。
(18)(1)から(17)のいずれか1つに記載の化合物であって、構造式(i)または(I)の前記化合物が、ヒト腫瘍細胞中の発癌Rasタンパク質を特異的に標的とすることを特徴とする化合物。
(19)有効量の、(1)から(18)のいずれか1つに記載の化合物またはその薬学的許容塩と、薬学的に許容可能なキャリヤ、希釈剤、および/または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
(20)癌、もしくは関連する疾患、障害、もしくは症状の治療または予防のための、(19)に記載の医薬組成物。
(21)患者における癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状を治療する方法であって、有効量の、(1)から(18)のいずれか1つに記載の化合物もしくはその薬学的有効塩、または(19)もしくは(20)に記載の医薬組成物を前記患者に投与し、これにより、癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状を治療するステップを含むことを特徴とする方法。
(22)(21)に記載の方法であって、投与した前記化合物を光活性化し、細胞毒性を持つ活性酸素種を放出するステップを更に含むことを特徴とする方法。
(23)(22)に記載の方法であって、前記光活性化が、長波長光を含むことを特徴とする方法。
(24)(23)に記載の方法であって、前記長波長光が、600nmから850nmの間の波長を含むことを特徴とする方法。
(25)(21)から(24)のいずれか1つに記載の方法であって、前記光活性化が、約660nmおよび/または約637nmの波長の長波長光を含むことを特徴とする方法。
(26)癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療に使用するための、(1)から(18)のいずれか1つに記載の化合物もしくはその薬学的有効塩、または(19)もしくは(20)に記載の医薬組成物。
(27)癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状の治療のための薬剤の製造における、(1)から(18)のいずれか1つに記載の化合物またはその薬学的有効塩の使用。
(28)(1)から(27)のいずれか1つに記載の化合物、方法、または使用であって、前記の癌、または関連する疾患、障害、もしくは症状が、皮膚癌、肺癌、膵臓癌、結腸癌、卵巣癌、腺癌、白血病(AML)、およびリンパ腫の1つ以上であることを特徴とする、化合物、方法、または使用。
(29)(1)から(28)のいずれか1つに記載の化合物、方法、または使用であって、前記患者が、家畜(domestic animal)、パフォーマンスアニマル、もしくは家畜動物(livestock animal)、またはヒトであることを特徴とする、化合物、方法、または使用。
【0180】
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【表1】
【0182】
【表2】
【0183】
【表3】
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
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図4A
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図5A
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