(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ゾーン分割された回折格子を備えた固定焦点画像光ガイド
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20221208BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2019563071
(86)(22)【出願日】2018-05-03
(86)【国際出願番号】 US2018030821
(87)【国際公開番号】W WO2018213009
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-05-11
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516201548
【氏名又は名称】ビュージックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Vuzix Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ, ロバート, ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】コワーツ, マレック, ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】トラバース,ポール, ジェイ.
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0108697(US,A1)
【文献】国際公開第2017/039820(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0346490(US,A1)
【文献】米国特許第09372347(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーチャル像を形成するための画像光ガイドであって、
導波路と、
画像担持光ビームを前記導波路内へ方向付けるために配置されたインカップリング回折光学要素と、
前記画像担持光ビームを前記導波路から観察者のアイボックスへと方向付けるために配置されたアウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記アウトカップリング回折光学要素は
複数次元のゾーンのアレイを含み、各ゾーンが回折フィーチャの集合を有し、
各集合内の前記回折フィーチャは共通のピッチを有し、
前記アレイの
第1次元に沿う一連のゾーンのそれぞれの回折フィーチャの集合は、アイボックスから近焦点距離で見えるバーチャル像を形成するために、一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する異なる共通ピッチを有
し、
前記第1次元に沿う一連のゾーンにおける前記回折フィーチャの集合は同じ方向に配向され、前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンのそれぞれは、前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化するように異なる方向に配向された回折フィーチャの集合を有する、画像光ガイド。
【請求項2】
前記アレイの前記
第2次元に沿う前記一連のゾーンにおける前記回折フィーチャの集合が、共通の形状を有する、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項3】
前記共通の形状が直線形状または曲線形状である、請求項2に記載の画像光ガイド。
【請求項4】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン内のそれぞれの回折フィーチャの集合は、異なる共通ピッチを有する、請求項
1に記載の画像光ガイド。
【請求項5】
前記回折フィーチャのピッチが、前記アレイの前記第2次元に沿
って一定である、請求項
1に記載の画像光ガイド。
【請求項6】
前記アレイの第2次元に沿って隣接するゾーンの回折フィーチャは、それぞれ直線状の回折フィーチャを有し、これら直線状の回折フィーチャが互いに当接して、
連続した弦セグメントを形成する、請求項
1に記載の画像光ガイド。
【請求項7】
前記画像担持光ビームのそれぞれが、前記バーチャル像内のピクセルに関連する角度的にエンコードされた情報を含み、複数次元のゾーンのアレイは、アイボックス内で見たときに導波路の反対側において近焦点距離でバーチャル像を生成するように、前記アイボックス内で前記画像担持光ビームの各々をオーバーラップさせる、請求項
1に記載の画像光ガイド。
【請求項8】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン間の回折フィーチャの配向
は、バーチャル像内の
前記画像担持光ビームのフォーカススポット間の重なり合いを避ける
ように構成される、請求項
7に記載の画像光ガイド。
【請求項9】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン間の配向の段階的変化が0.05°以下である、請求項
8に記載の画像光ガイド。
【請求項10】
前記アウトカップリング回折光学要素は、前記画像担持光ビームが導波路に沿って内部反射しながら伝播する過程で、前記画像
担持光ビームに複数回遭遇し、遭遇する度に各画像担持光ビームの少なくとも一部を反射し、少なくとも別の部分を回折するように構成される、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項11】
さらに、前記アウトカップリング回折光学要素に先立って前記画像担持光ビームのそれぞれの1つの次元を拡大する中間回転格子を備え、そのように拡大された画像担持光ビームの各々は、前記画像
担持光ビームが前記アウトカップリング回折光学要素と遭遇するたびに、前記アレイの第2次元に沿う複数のゾーンと遭遇する請求項10に記載の画像光ガ
イド。
【請求項12】
前記近焦点
距離は、前記導波路の2メートル以内である、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項13】
前記導波路は、前記画像担持光ビームを、角度的に関連したコリメートビームの集合として、前記インカップリング回折光学要素から前記アウトカップリング回折光学要素まで伝播させるように構成され、前記アウトカップリング回折光学要素における
前記ゾーンのアレイが、コリメートされたビームの各々を発散ビームに変換する、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項14】
バーチャル像を形成するための画像光ガイドであって、
導波路と、
画像担持光ビームを前記導波路内へ方向付けるために配置されたインカップリング回折光学要素と、
前記画像担持光ビームを前記導波路から観察者のアイボックスへと方向付けるために配置されたアウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記アウトカップリング回折光学要素は
複数次元のゾーンのアレイを含み、各ゾーンが回折フィーチャの集合を有し、
各集合内の前記回折フィーチャは共通の配向を有し、
前記アレイの
第1次元に沿う一連のゾーンのそれぞれの回折フィーチャの集合は、アイボックスから近焦点距離で見えるバーチャル像を形成するために、一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する異なる配向を有
し、
前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンにおける前記回折フィーチャの集合は同じ方向に配向され、前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンにおける回折フィーチャの集合のピッチが漸進的に変化する、画像光ガイド。
【請求項15】
前記アレイの前記
第1次元に沿う前記一連のゾーンの回折フィーチャの集合が、共通の形状を有し、前記共通の形状が、直線形状または曲線形状である、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項16】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン内の回折フィーチャは、異なるピッチを有する、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項17】
前記回折フィーチャのピッチが、前記アレイの前記
第1次元に沿って一定である、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項18】
前記アレイの前記第2次元に沿って隣接するゾーンの回折フィーチャは、それぞれ直線状の回折フィーチャを有し、これら直線状の回折フィーチャが互いに当接して、
連続した弦セグメントを形成する、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項19】
前記画像担持光ビームのそれぞれが、前記バーチャル像内のピクセルに関連する角度的にエンコードされた情報を含み、前記アウトカップリング回折光学要素は、アイボックス内で見たときに前記導波路の反対側において近焦点距離でバーチャル像を生成するように、前記アイボックス内で前記画像担持光ビームの各々をオーバーラップさせる、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項20】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン間の回折フィーチャの配向
が、バーチャル像内の
前記画像担持光ビームのフォーカススポット間の重なり合いを避ける
ように構成される、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項21】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン間の配向の段階的変化が0.05°以下である、請求項
20に記載の画像光ガイド。
【請求項22】
前記アウトカップリング回折光学要素は、前記画像担持光ビームが導波路に沿って内部反射しながら伝播する過程で、前記画像
担持光ビームに複数回遭遇し、遭遇する度に各画像担持光ビームの少なくとも一部を反射し、少なくとも別の部分を回折するように構成される、請求項14に記載の画像光ガイド。
【請求項23】
さらに、前記アウトカップリング回折光学要素に先立って前記画像担持光ビームのそれぞれの1つの次元を拡大する、前記導波路に沿った中間回転格子を備え、そのように拡大された画像担持光ビームの各々は、前記画像
担持光ビームが前記アウトカップリング回折光学要素と遭遇するたびに、前記アレイの第2次元に沿う複数のゾーンと遭遇する請求項
22に記載の画像光ガイド。
【請求項24】
前記近焦点
距離は、前記導波路の2メートル以内である、請求項14に記載の画像光ガイド。
【請求項25】
前記導波路は、前記画像担持光ビームを、角度的に関連したコリメートビームの集合として、前記インカップリング回折光学要素から前記アウトカップリング回折光学要素まで伝播させるように構成され、前記アウトカップリング回折光学
要素が、コリメートされたビームの各々を発散ビームに変換する、請求項14に記載の画像光ガイド。
【請求項26】
バーチャル像を形成するための
イメージング装置であって、
平行な第1、第2の表面を有する平面導波路と、
画像担持光ビームを前記
平面導波路内に方向付けるために配置されたインカップリング回折光学要素と、
前記画像担持光ビームを前記
平面導波路から観察者のアイボックスへと方向付けるために配置されたアウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記
平面導波路は、前記インカップリング回折光学要素からの前記画像担持光ビームを、角度的に関連付けられコリメートされたビームの集合として、前記アウトカップリング回折光学要素に伝播するように構成され、
前記アウトカップリング回折光学要素は、連続した回折ゾーンの2次元のアレイを有し、
前記回折ゾーンの各々は、
(i)対向する第1対の側辺と、対向する第2対の側辺とを有し、
(ii)前記第2対の対向する側辺間に延びる回折フィーチャの集合を有し、
各集合における前記回折フィーチャは、共通の
配向と共通のピッチを有し、
前記アレイの第1次元に沿う一連のゾーンは、前記第1対の側辺間で連なる側辺を有するとともに、ピッチが段階的に漸進的に変化する回折フィーチャの集合をそれぞれ有し、
前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンは、前記第2対の側辺間で連なる側辺を有するとともに、配向が段階的に漸進的に変化する回折フィーチャの集合をそれぞれ有し、
前記アレイの前記第1、第2次元に沿うゾーンの連なりは、コリメートされた各ビームを、アイボックス内で見たときに前記平面導波路の反対側の近焦点スポットから発散するように見える発散ビームに変換するように構成される、
イメージング装置。
【請求項27】
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーン間の回折フィーチャの配向
は、バーチャル像内の
前記画像担持光ビームのフォーカススポット間の重なり合いを避ける
ように構成される、請求項
26に記載の
イメージング装置。
【請求項28】
前記アウトカップリング回折光学要素は、前記画像担持光ビームが平面導波路に沿って内部反射しながら伝播する過程で、前記画像
担持光ビームに複数回遭遇し、遭遇する度に各画像担持光ビームの少なくとも一部を反射し、少なくとも別の部分を、回折するように構成され、
さらに中間回転格子を備え、前記中間回転格子は、前記アウトカップリング回折光学要素に先立って、前記画像担持光ビームが平面導波路に沿って内部反射しながら伝播する過程で、前記画像
担持光ビームに複数回遭遇し、遭遇する度に各画像担持光ビームの少なくとも一部を反射し、少なくとも別の部分を回折するように構成され、前記中間回転格子によって回折され、前記アウトカップリング回折光学要素に入射する画像担持光ビームは、前記アレイの前記第2次元に沿う複数のゾーンと遭遇する、請求項26に記載のイメージング装置。
【請求項29】
二重バーチャル像を形成するためのイメージング装置であって、
第1、第2の平行な表面を有する平面導波路と、
第1画像担持光ビームの集合を、前記平面導波路内に方向付ける第1インカップリング回折光学要素と、
前記平面導波路からの前記第1画像担持光ビームの集合を観察者のアイボックスへと方向付ける第1アウトカップリング回折光学要素と、
第2画像担持光ビームの集合を、前記平面導波路内に方向付ける第2インカップリング回折光学要素と、
前記平面導波路からの前記第2画像担持光ビームの集合を観察者のアイボックスへと方向付ける第2アウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記第2アウトカップリング回折光学要素は、連続する回折ゾーンのアレイを有し、
前記回折ゾーンの各々は、少なくとも一対の側辺と、少なくとも共通の配向を有する回折フィーチャの集合を有し、
前記アレイの第1次元に沿う一連のゾーンは、前記一対の側辺間で連なる側辺を有するとともに、ピッチが段階的に漸進的に変化する回折フィーチャの集合をそれぞれ有し、
前記第1アウトカップリング
回折光学要素は、第1の焦点距離でアイボックスから見えるバーチャル像を形成するように構成され、
前記第2アウトカップリング
回折光学要素は、より近い第2の焦点距離でアイボックスから見えるバーチャル像を形成するために、前記連続した回折ゾーンのアレイを伴って構成され、
前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンの回折フィーチャの集合は、前記第2次元に沿う一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化するような異なる共通の配向を有する、イメージング装置。
【請求項30】
前記
平面導波路は、前記第2インカップリング回折光学要素からの前記第2画像担持光ビームの集合を、角度的に関連付けられコリメートされたビームの集合として、前記第2アウトカップリング回折光学要素へ伝搬するように構成され、
前記連続する回折ゾーンのアレイは、コリメートされた各ビームを、アイボックス内で見たときに前記平面導波路の反対側の近焦点スポットから発散するように見える発散ビームに変換するように構成される、請求項
29に記載のイメージング装置。
【請求項31】
前記回折フィーチャの集合の各々における前記回折フィーチャが、共通の
ピッチを有し、前記アレイの前記第1次元に沿う一連のゾーンの前記回折フィーチャの集合は、それぞれ一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化するように異なる共通ピッチを有する、請求項
29に記載のイメージング装置。
【請求項32】
バーチャル像を形成するための画像光ガイドであって、
導波路と、
画像担持光ビームを前記導波路内へ方向付けるために配置されたインカップリング回折光学要素と、
前記画像担持光ビームを前記導波路から観察者のアイボックスへと方向付けるために配置されたアウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記アウトカップリング回折光学要素は複数次元のゾーンのアレイを含み、各ゾーンが回折フィーチャの集合を有し、
各集合内の前記回折フィーチャは共通の配向を有し、
前記アレイの第1次元に沿う一連のゾーンのそれぞれの回折フィーチャの集合は、アイボックスから近焦点距離で見えるバーチャル像を形成するために、一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する異なる配向を有し、
前記集合の各々における前記回折フィーチャが、等しいピッチを有し、
前記アレイの第2次元に沿う一連のゾーンにおける前記回折フィーチャの集合は同じ方向に配向され、前記アレイの第1次元に沿う一連のゾーンにおける回折フィーチャの集合のピッチが等しく、
前記アレイの前記第2次元に沿う一連のゾーンにおける前記回折フィーチャの集合は、前記一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する異なるピッチを有する、画像光ガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ディスプレイに関し、特に、画像光ガイドを用いて観察者にバーチャル像コンテンツを表示するディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、軍事、商業、工業、消防、および娯楽分野への適用を含め、様々な用途に向けて開発されている。これら適用の多くにおいて、HMDユーザーの視野にある現実世界の像に重ね合わせ可能なバーチャル像を形成することは、非常に価値がある。画像光ガイドは、狭い空間内で画像担持光を観察者に伝送し、バーチャル像を観察者の瞳に向け、上記重ね合わせ機能を可能にする。
【0003】
このような従来の画像光ガイドでは、コリメートされ相対的に角度的にエンコードされた、イメージソースからの光ビームは、インカップリング回折光学要素のようなインプットカップリングによって結合され、平面導波路内に入る。このインプットカップリングは、平面導波路の表面に設けたり形成したり、導波路内に埋め込むことができる。このような回折光学要素は、回析格子やホログラフィック光学要素として、又はその他の公知の方法で形成することができる。例えば、回折格子は、表面レリーフによって形成することができる。導波路に沿って伝搬した後、回折光は同様のアウトプット格子によって、導波路外へ向けられる。このアウトプット格子は、バーチャル像の1つの次元に沿って瞳拡大を提供するように構成することができる。加えて、導波路に沿いインプット格子とアウトプット格子との間に回転格子を配置して、バーチャル像の直交する次元で瞳拡大を提供することができる。導波路からの画像担持光アウトプットは、観察者に拡大されたアイボックスを提供する。
【0004】
通常の画像光ガイドは、コリメートされた光のみを観察者のアイボックスに伝達して、光学的無限遠にバーチャル像を形成する。しかし、より近距離、例えば1~1.5メートルの範囲で集束したように見えるようにバーチャル像を形成することには利点がある。短焦点の手段を用いることによって、観察者は、現実のシーンの内容を近距離で知ることが便利であるような適用において、拡張現実イメージングの利点を享受できる。
【0005】
無限遠に通常のバーチャル像を形成するとともに観察者から近距離に別のバーチャル像を形成する画像光ガイドを備えたヘッドマウント光学イメージング装置には、さらなる利点がある。同時に、本装置は、観察者の視野内の現実のシーンについて、良好な可視性を提供する。この特徴を提供するために提案されてきた解決手段は、複数の画像形成部品を必要とするため嵩張る設計となり、近焦点画像と無限焦点画像の両方を提示するため複雑なタイミングスキームを用いている。
【0006】
したがって、近焦点位置でバーチャル像コンテンツを形成するディスプレイ装置には利点があることが理解されよう。
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的は、コンパクトなヘッドマウンテッド装置および同様のイメージング装置を使用する場合に、バーチャル像提示の技術を進歩させることである。有利なことに、本開示の実施形態は、近距離の固定焦点にあるように見えるバーチャル像を形成する光学イメージング装置を提供する。これにより、バーチャル像を、観察者の視野内の現実のシーンのコンテンツと同時に見ることが可能になる。
【0008】
本発明の態様、目的、特徴および利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲を検討し、添付の図面を参照することにより、より明確に理解され、認識されるであろう。
【0009】
本開示の一態様によれば、バーチャル像形成のための画像光ガイドが提供される。画像光ガイドは、導波路、インカップリング回折光学要素、及びアウトカップリング回折光学要素を含む。インカップリング回折光学要素は、画像担持光ビームを導波路内に方向付け、アウトカップリング回折光学要素は、導波路からの画像担持光ビームを観察者のアイボックスへと方向付ける。加えて、アウトカップリング回折素子はゾーンのアレイを含み、各ゾーンは回折フィーチャの集合を含む。各集合内の回折フィーチャは、共通のピッチを有する。アレイの1つの次元に沿う一連のゾーンは、それぞれ異なる共通ピッチを有する回折フィーチャの集合を有し、この共通ピッチは、アイボックスから短焦点距離で見ることのできるバーチャル像を形成するために、一連のゾーンの間で段階的に漸進的に変化する。
【0010】
アレイの1つの次元に沿った一連のゾーンにおける回折フィーチャの集合は、直線形状、曲線形状といった共通の形状を共有することができる。ゾーンのアレイは、ゾーンの複数次元アレイであってよく、上記アレイの1つの次元がアレイの第1次元であり、この第1次元に沿って、一連のゾーンの回折フィーチャの集合が同一方向に配向される。アレイの第2次元に沿った一連のゾーンはそれぞれ、異なる方向に配向された回折フィーチャの集合を有していてもよい。この配向は、第2次元に沿う一連のゾーンの間で段階的に漸進的に変化する。
【0011】
アレイの第2次元に沿う一連のゾーン内の回折フィーチャの集合は、それぞれ異なる共通ピッチを有することができる。しかし、アレイの第1次元に沿う回折フィーチャ間の変位は、アレイの第2次元に沿う一連のゾーン間で等しく維持することができる。アレイの第2次元に沿う隣接するゾーンの回折フィーチャは、互いに当接する直線状の回折フィーチャを有することができ、曲線の連続する弦セグメントを形成する。
【0012】
各画像担持光ビームは、バーチャル像内のピクセルに関する角度的にエンコードされた情報を含む。ゾーンの複数次元のアレイは、好ましくは、各画像担持光ビームをアイボックス内でオーバーラップさせ、アイボックス内で見たとき、導波路の反対側に短焦点距離でバーチャル像を生成する。ゾーンの複数次元アレイは、好ましくは、バーチャル像内の各画像担持光ビームを異なる焦点スポットに集束させる。バーチャル像内での異なる焦点スポット間での重なり合いを避けるために、アレイの第1次元に沿う一連のゾーン間でのピッチの段階的変化、及びアレイの第2次元に沿う一連のゾーン間での回折フィーチャの配向の段階的変化は、好ましくは制限される。
【0013】
アウトカップリング回折光学要素は、好ましくは、各画像担持光ビームのある部分を反射し、別の部分を各画像担持光ビームとの多数の遭遇を介して回折するように構成されている。中間回転格子は、好ましくは、アウトカップリング回折光学要素に先立ち、各画像担持光ビームを1つの次元において拡大させる。そのように拡大された各画像担持光ビームの各々は、好ましくは、各画像担持光ビームがアウトカップリング回折光学要素と遭遇するたびに、アレイの第2次元に沿う複数のゾーンと遭遇する。
【0014】
本開示の別の一態様によれば、バーチャル像形成のための別の画像光ガイドが提供される。この画像光ガイドは、導波路、インカップリング回折光学要素、及びアウトカップリング回折光学要素を含む、インカップリング回折光学要素は、画像担持光ビームを導波路内に方向付け、アウトカップリング回折光学要素は、導波路からの画像担持光ビームを観察者のアイボックスへと方向付ける。アウトカップリング回折光学要素はゾーンのアレイを含み、各ゾーンは回折フィーチャの集合を含む。各集合内の回折フィーチャは、共通の配向を有する。アレイの1つの次元に沿う一連のゾーンは、それぞれ異なる配向を有する回折フィーチャの集合を有し、この配向は、アイボックスから短焦点距離で見ることのできるバーチャル像を形成するために、一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する。
【0015】
ゾーンのアレイは、ゾーンの複数次元アレイであり、上記アレイの1つの次元がアレイの第2次元であり、アレイの第1次元に沿った回折フィーチャの集合が同一方向に配向される。アレイの第1次元に沿った回折フィーチャのピッチは漸進的に変化することができる。あるいは、各集合の回折フィーチャは等しいピッチを有し、アレイの第1次元に沿う一連のゾーンが、それぞれ異なるピッチを有する回折フィーチャの集合を有していてよい。ピッチは、一連のゾーン間でアレイの第1次元に沿って段階的に漸進的に変化する。アレイの第2次元に沿う一連のゾーン内の回折フィーチャもまた、異なるピッチを有することができる。しかし、アレイの第1次元に沿う回折フィーチャ間の変位は、アレイの第2次元に沿う一連のゾーン間で同一に維持することができる。
【0016】
本開示の別の態様によれば、バーチャル像形成のためのイメージング装置が提供される。このイメージング装置は、平面導波路、画像担持光ビームを導波路内に方向づけるインカップリング回折光学要素、及び、画像担持光ビームを導波路から観察者のアイボックスへと方向づけるアウトカップリング回折光学要素を有する。導波路は、インカップリング回折光学要素からの画像担持光ビームを、角度的に関連付けられコリメートされたビームの集合として、アウトカップリング回折光学に伝搬するように構成されている。アウトカップリング回折光学要素は、連続する回折ゾーンの2次元アレイを含む。各回折ゾーンは、(i)対向する第1対の側辺と及び対向する第2対の側辺を有し、(ii)第2対の対向側辺間に延びる回折フィーチャの集合を有している。各集合の回折フィーチャは共通の配向と共通のピッチを有する。アレイの第1次元に沿う一連のゾーンは、第1対の側辺間で連続した側辺を有するとともに、段階的に漸進的に変化するピッチを有する回折フィーチャの集合をそれぞれ有する。アレイの第2次元に沿う一連のゾーンは、第2対の側辺間で連続する側辺を有するとともに、段階的に漸進的に変化する配向を有する回折フィーチャの集合をそれぞれ有する。アレイの第1次元及び第2次元に沿って連なるゾーンは、コリメートされた各ビームを、アイボックス内で見たときに平面導波路の反対側の近焦点から現われたように見える発散ビームに変換する。
【0017】
好ましくは、アウトカップリング回折光学要素は、バーチャル像内の各画像担持光ビームを異なる焦点スポットに集束させる。好ましくは、バーチャル像内での異なる焦点スポット間での重なり合いを避けるために、アレイの第1次元に沿う一連のゾーン間でのピッチの段階的変化、及びアレイの第2次元に沿う一連のゾーン間での回折フィーチャの配向の段階的変化は、限定される。
【0018】
本開示のさらに別の態様によれば、2つのバーチャル像形成のためのイメージング装置が提供される。このイメージング装置は、平面導波路と、第1の画像担持光ビームの集合を導波路内に方向付ける第1インカップリング回折光学要素と、第1の画像担持光ビームの集合を導波路から観察者のアイボックスへと方向付ける第1アウトカップリング回折光学要素と、第2の画像担持光ビームの集合を導波路内に方向付ける第2インカップリング回折光学要素と、第2の画像担持光ビームの集合を導波路から観察者のアイボックスへと方向付ける第2アウトカップリング回折光学要素と、を有する。第2アウトカップリング回折光学要素は、連続する回折ゾーンのアレイを含む。各回折ゾーンは、少なくとも1対の側辺を有するとともに、共通の配向と共通のピッチの少なくとも一方を有する回折フィーチャの集合を有する。アレイの1つの次元に沿う一連のゾーンは、前記一対の側辺間で連続する側辺を有するとともに、それぞれ段階的に漸進的に変化する配向とピッチの少なくとも一方を有する回折フィーチャの集合を有する。第1アウトカップリング回折光学要素は、アイボックスから第1焦点距離で見ることのできるバーチャル像を形成するように構成され、第2アウトカップリング回折光学要素は、アイボックスからより近い第2焦点距離で見ることのできるバーチャル像を形成するように、連続する回折ゾーンのアレイを伴って構成されている。
【0019】
導波路は、好ましくは、第2インカップリング回折光学要素からの第2の画像担持光ビームの集合を、角度的に関連付けられたコリメートビームの集合として、第2アウトカップリング回折光学に伝搬するように構成されている。連続するゾーンのアレイは、好ましくは、コリメートされた各ビームを、アイボックス内で見たとき、平面導波路の反対側の近い焦点から現われたように見える発散ビームに変換する。
【0020】
好ましくは、回折フィーチャの集合の各々において、回折フィーチャは共通のピッチを有する。アレイの1つの次元はアレイの第1次元であり、アレイの第1次元に沿う一連のゾーンは、異なる共通ピッチを有する回折フィーチャの集合を有する。この共通ピッチは、一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する。加えて、回折フィーチャの集合の各々において、回折フィーチャは、好ましくは共通の配向を有する。アレイの第2次元に沿う一連のゾーンは、異なる共通配向を有する回折フィーチャの集合をそれぞれ有する。この共通配向は、第2次元に沿う一連のゾーン間で段階的に漸進的に変化する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本明細書は、本発明の主題を特に指摘し明確に主張する特許請求の範囲で結論づけているが、本発明は、添付の図面と以下の説明からより良く理解できるであろう。
【0022】
【
図1】バーチャル像を伝送するための画像光ガイドの簡略化した断面を示す概略図である。この画像光ガイドは、バーチャル像の1次元に沿う瞳拡大を提供するアウトカップリング回折光学要素を有している。
【0023】
【
図2】バーチャル像を伝送するための画像光ガイドの概略斜視図であり、この画像光ガイドは、アウトカップリング回折光学要素に加えて回転格子を有し、バーチャル像の2次元に沿う瞳拡大を提供する。
【0024】
【
図3A】無限焦点にバーチャル像を形成するための画像光ガイドを有するイメージング装置の側面図である。
【0025】
【
図4A】本開示の一実施形態による、近焦点にバーチャル像を形成するための画像光ガイドを有するイメージング装置の側面図である。
【0026】
【
図5】回折光学要素の一部分の側断面図であり、この回折光学要素は、画像の1次元のバーチャル焦点を生成するために、回折光学要素の第1次元に沿ってピッチが漸進的に変化する特徴を有する。
【0027】
【
図6A】回折光学要素の一部分の斜視図であり、この回折光学要素は、回折光学要素の第2次元に沿って回折フィーチャの配向角度が段階的に変化する特徴を有している。
【0028】
【
図7A】アウトカップリング回折光学要素の一部分の正面図であり、等ピッチの平行回折フィーチャによって形成されるゾーン分割パターン内の1つのゾーンを、輪郭で示す。
【0029】
【
図7B】アウトカップリング回折光学要素の同じ部分の正面図であり、輪郭で囲われたゾーンのアレイを示す。輪郭で囲われた各ゾーンは、等ピッチの平行回折フィーチャを有しているが、それぞれのゾーンは、アレイの1次元に沿ってピッチが変化し、アレイの他の次元に沿って配向角度が変化する。
【0030】
【
図7C】アウトカップリング回折光学要素の同じ部分の正面図であり、配向が漸進的に変化する隣接ゾーンの回折フィーチャ間のアライメントを示す。
【0031】
【
図7D】アウトカップリング回折光学要素の一部分の正面図であり、このアウトカップリング回折光学要素は、等ピッチのゾーンに配置された弧状の格子を有する。
【0032】
【
図7E】アウトカップリング回折光学要素の一部分の正面図であり、このアウトカップリング回折光学要素は、回折フィーチャが共通の配向を有するゾーンに配置された直線状の回折フィーチャを有する。
【0033】
【
図8】類似の回折光学要素の正面図であり、この回折光学要素は、2次元のゾーンのアレイによって形成されている。2次元のゾーンのアレイに対するアウトカップリング回折光学要素の可能な配向を示すために、輪郭を重ね合わせている。
【0034】
【
図9】二重焦点イメージング装置の概略上面図である。この装置では、1つの画像光ガイドが無限遠でバーチャル像をフォーカスするように構成され、もう1つの画像光ガイドが、上述の図に示すゾーンのアレイを用いて、同じアイボックス内に近焦点でバーチャル像をフォーカスするように構成されている。
【0035】
【
図10】上記2つの画像光ガイドに別々に入力する二重焦点イメージング装置の分解斜視図である。
【0036】
【
図11】二重焦点構成をなす同じ画像光ガイドを用いた二重焦点イメージング装置の分解斜視図である。
【0037】
【
図12】拡張現実を見るための両眼ディスプレイシステムの斜視図であり、このシステムは、少なくとも1つの本開示の近焦点画像光ガイドを用いている。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書は特に、本発明の実施形態に係る装置の一部を構成する要素、または本発明に係る装置と直接的に協働する要素に向けられている。具体的に記載されていない要素は、当業者に周知の様々な形態を取ることができることを理解されたい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「第1」、「第2」等の用語は必ずしも順序、順次または優先関係を示すものではなく、特に明記しない限り、単に1つの要素または要素の集合を他と明確に区別するために用いられる。
【0040】
「例示的」とは、「一例」であることを意味し、好ましいまたは理想的な実施形態を示唆することを意図していない。
【0041】
本開示の文脈において、「見る人」、「操作者」、「観察者」、および「ユーザー」という用語は均等とみなされ、画像光ガイド、特にHMD表示装置に配置された画像光ガイドによって伝送されたバーチャル像を見る人を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「励起可能(energizable)」は、電力を受け取ったとき、およびオプションで許可信号を受け取った時に指示された機能を実行する装置または構成要素の集合に関する。
【0043】
用語「作動可能」は、通常の意味を有し、刺激への応答、例えば電気信号に対する応答として作動することができる装置または構成要素に関する。
【0044】
ここで使われる「集合(セット;set)」という用語は非空集合を指し、集合の要素の集まりという概念として初等数学で広く理解されている非空集合である。「部分集合(subset)」という用語は、特に明記されない限り、非空の真部分集合、すなわち、1以上の要素を持つ、より大きな集合のうちの部分集合を指す。部分集合が全体集合Sであってもよい。しかし、集合Sの「真部分集合(proper subset)」は、集合Sに完全に含まれ、しかも集合Sの少なくとも1つの要素を含まないものを指す。
【0045】
実像投射の代わりに、光学システムは、見る者の目に見えるバーチャル像を生成することができる。実像を結ぶ方法とは対照的に、バーチャル像がディスプレイ面に結ばれることはない。つまり、ディスプレイ面がバーチャル像を知覚する位置にあるとしたら、ディスプレイ面に像は結ばれない。拡張現実表示において、バーチャル像表示には固有の利点が数多くある。例えば、バーチャル像の見かけの大きさはディスプレイ面の寸法や位置によって制限されない。しかも、バーチャル像のソースオブジェクト(source object)は小さくてもよい。簡単な例として、拡大鏡はそのオブジェクトのバーチャル像を提供する。実像を投影するシステムに比べて、ある程度離れたところにあるように見えるバーチャル像を結ぶことによって、より現実的な視覚体験を提供することができる。また、バーチャル像を提供すれば、実像投影の場合には必要となるスクリーンアーチファクトの補正の必要が無くなる。
【0046】
ここで使われる「光学的無限遠(optical infinity)」と「無限遠に(at infinity)」というフレーズは、カメラ及びイメージング技術の分野における通常の用法に対応し、焦点距離が少なくとも約4メートルを超えるように、実質的にコリメートされた光の1以上の束を用いた画像形成を指す。
【0047】
光学の文脈における「結合(coupled)」及び「カプラー(結合器;coupler)」という用語は結合(接続;connection)を指し、その結合により、光は、結合を促進する中間構成要素を介して、1つの光学的媒体又は装置から別の光学的媒体又は装置へと移る。
【0048】
「ビーム拡大器(beam expander)」と「瞳拡大器(pupil expander)」という用語は同義であると見なされ、ここでは交換可能に用いられる。これらの用語はここでは通常、バーチャル像伝送のために、角度的に関連づけられたビームの重なり合う領域を拡大することを指す。
【0049】
複合プリズムは、定義された関係性を有する2以上のコンポーネントプリズム要素から形成され、直接的に光学的に接合されたもの、及び、光学的媒体を介して接合されたものを含む。
【0050】
図1は、単眼型の画像光ガイド10の従来構造の一つを簡略化した断面で示す概略図であり、この画像光ガイド10は、平行な平面からなる表面を有する平面導波路22(導波路;planer waveguide)と、インカップリング回折光学要素IDO(in-coupling diffractive optic)と、アウトカップリング回折光学要素ODO(out-coupling diffractive optic)と、を備えている。これら回折光学要素IDO,ODOは平面導波路22の透明な基板Sに配置されている。この例では、インカップリング回折光学要素IDOは、平面導波路22の内側表面14に配置される反射型回折格子として示されている。この内側表面14は平面導波路22の外側表面12と反対側にある。画像担持光WIはこの外側表面12を通って平面導波路22に入る。しかしながら、インカップリング回折光学要素IDOは、透過型回折格子、体積ホログラムまたは他のホログラフィック回折素子、または入光する画像担持光WIを回折する他のタイプの光学要素であってもよい。インカップリング回折光学要素IDOは平面導波路22の外側表面12に配置されても、内側表面14に配置されてもよく、画像担持光WIが平面導波路22に入り込む方向に応じて、透過型であっても、反射型であってもよい。
【0051】
バーチャルディスプレイシステムの一部として使用される場合、インカップリング回折光学要素IDOは、実像、バーチャル像、またはハイブリッド像のソース(図示せず)からの画像担持光WIを結合して、基板Sの導波路22に入り込ませる。実際の画像又は画像の次元を最初に変換する。すなわち、インカップリング回折光学要素IDOに呈示するために、バーチャル像と同様に、画像内の異なる位置をエンコードして、重なり合う角度的に関連付けられたビームのアレイに変換する(例えば、焦点に向かって集束させる)。画像担持光WIは、インカップリング回折光学要素IDOにより、回折され(一般的に一次回折され)、それにより、画像担持光WGとして平面導波路22内に再度方向付けられ、全内部反射(Total Internal Reflection:TIR)によって導波路22に沿ってさらに伝送される。画像担持光WGは、TIRに定められた境界に合わせて、概ね角度的に関連付けられたビームのより凝縮された範囲内に回折されるが、エンコードされた形で画像情報を保持する。アウトカップリング回折光学要素ODOは、エンコード画像担持光WGを受け取り、画像担持光WGを画像担持光WOとして、平面導波路22の外へ、観察者の目の意図された位置に向かって回折する(これも概ね一次回折する)。概ね、アウトカップリング回折光学要素ODOはインカップリング回折光学要素IDOに対して対称に設計され、これにより、出力された画像担持光WOの角度的に関連付けられたビームにおいて、画像担持光WIの元々の角度的関係を復元するようになっている。しかし、バーチャル像を見ることができる、いわゆるアイボックスEにおいて、角度的に関連付けられたビームの重なり合いの1つの次元を増大するために、アウトカップリング回折光学要素ODOは、画像担持光WGと多数の回折遭遇(multiple diffractive encounter)し、各遭遇において画像担持光WGの一部のみを回折するように構成されている。アウトカップリング回折光学要素ODOの長さ方向に沿う多数の遭遇は、画像担持光WOの角度的に関連付けられた各ビームの1つの次元を拡大する効果を有し、それにより、その中でビームが重なり合うアイボックスEの1つの次元を拡大する。拡大されたアイボックスEは、バーチャル像を見るための観察者の目の位置に対する感受性を低下させる。
【0052】
アウトカップリング回折光学要素ODOは、平面導波路22の内側表面14に配置された透過型の回折格子として示されている。しかし、インカップリング回折光学要素IDOと同様に、アウトカップリング回折光学要素ODOは平面導波路22の外側表面12に配置されても、内側表面14に配置されてもよく、画像担持光WGが平面導波路22を出る方向に応じて、透過型であっても、反射型であってもよい。
【0053】
図2の斜視図は、2次元において、すなわち画像のx軸及びy軸に沿ってアイボックス74を拡大するように構成された画像光ガイド20を示している。第2の次元のビーム拡大を達成するために、インカップリング回折光学要素IDOは、画像担持光WGを格子ベクトル(grating vector)k0に沿い中間回転格子TGに向けて回折するように方向づけられている。この中間回転格子TGの格子ベクトルk1は、画像担持光WGを反射モードでアウトカップリング回折光学要素ODOに向けて回折するように方向づけられている。画像担持光WGの一部のみが、中間回転格子TGとの多数の遭遇のうちの各遭遇により回折され、それにより、アウトカップリング回折光学要素ODOに向かって進む画像担持光WGの角度的に関連付けられた各ビームを、横方向に拡大する。中間回転格子TGは画像担持光WGを、アウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk2と少なくとも概ねアライメントする方向へと、再方向付けする。画像担持光WGの角度的に関連付けられたビームを、画像担持光WOとして平面導波路22から出る前に、第2次元で縦方向に拡大するためである。描かれた格子ベクトルk0、k1、k2等の格子ベクトルは、回折光学要素の回折フィーチャ(例えば、溝、線、又は罫線(ルーリング;ruling))に垂直な方向に延び、回折光学要素IDO、TG、及びODOの周期又はピッチd(すなわち、溝間の中心距離)に反比例する大きさを有する。
【0054】
図2の画像光ガイド20において、インカップリング回折光学要素IDOは、入力画像担持光WIを受け取る。この画像担持光W1は、イメージソース16によって生成された画像内における個々のピクセル又は等価な位置に対応する、角度的に関連付けられたビームの集合を含む。バーチャル像を作成するために、角度的にエンコードされたビームの全範囲を、実際のディスプレイ及び集束光学系によって、又は、ビームの角度をより直接的に設定するためのビームスキャナーによって、又は、スキャナーと共に用いられる一次元の実際のディスプレイ等の組合せによって、生成することができる。画像光ガイド20は、画像担持光WGと、配向の異なる中間回転格子TG及びアウトカップリング回折光学要素ODOとの多数の遭遇を提供することによって、画像の2次元に拡大された角度的に関連付けられたビームの集合を出力する。平面導波路22の所定の配向において、中間回転格子TGはy軸方向のビーム拡大を提供し、アウトカップリング回折光学要素ODOはx軸方向に同様のビーム拡大を提供する。2つの回折光学要素IDO、ODO、中間回転格子TGの反射率特性、それぞれの周期d、およびそれぞれの格子ベクトルの配向は、画像光ガイド20から画像担持光WOとして出力される画像担持光WIの、角度的に関連付けられたビーム間の意図された関係を保持しながら、2次元のビーム拡大を提供する。
【0055】
すなわち、画像担持光WIの画像光ガイド20への入力は、インカップリング回折光学要素IDOによって角度的に関連付けられたビームの異なる集合にエンコードされるが、画像を再構築するために必要な情報は、インカップリング回折光学要素IDOの系統的な効果を把握することにより、保持される。回転格子TGはインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの間の中間に位置し、通常、画像担持光WGのエンコーディングに大きな変化を引き起こさないように構成される。アウトカップリング回折光学要素ODOは、通常、インカップリング回折光学要素IDOに対して釣り合い(対称性;symmetric)が取れた態様で構成される。例えば同じ周期を共有する回折フィーチャを含む。同様に、回転格子TGの周期も、通常、インカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの共通の周期と一致する。回転格子TGの格子ベクトルk1は、他の格子ベクトルに対して45度を向くように図示されている。この配向は可能ではあるが、好ましくは、回転格子TGの格子ベクトルk1はインカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk0、k2に対して60度に配向し、画像担持光WGを120回転させる。中間回転格子の格子ベクトルk1をインカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk0、k2に対して60度に配向することによって、インカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk0、k2もまた、互いに対して60度に配向される。格子ベクトルの大きさは、回転格子TGとインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの共通のピッチに基づくため、3つの格子ベクトルk0、k1、k2が正三角形を形成すると、その合計はゼロとなる。これにより、色分散を含む望ましくない収差を引き起こしかねない非対称の効果が避けられる。
【0056】
平面導波路22内へと回析された画像担持光WIは、インカップリング光学要素が格子、ホログラム、プリズム、ミラー、その他の何らかの機構を用いるかに関わらず、インカップリング光学要素によって有効にエンコードされる。入力時に実行される光の反射、屈折、及び/又は回折は、観察者に提示されるバーチャル像を再形成するために、アウトプットによってデコードをされる必要がある。好ましくは、インカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの間の中間に位置する回転格子TGは、通常、エンコードされた光にいかなる変更も引き起こさないように設計され、配向される。アウトカップリング回折光学要素ODOは画像担持光WGを、アイボックス74を満たすように拡大された角度的に関連付けられたビームに、元の又は所望の形で、デコードする。広い意味では、回転格子TGとインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOとの間で対称性(釣り合い;symmetric)が維持されると否とに関わらず、また、画像担持光WIの角度的に関連付けられたビームのエンコーディングに、平面導波路22沿いに何らかの変化が起こると否とに関わらず、回転格子TGおよびインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOは、平面導波路22から出力される画像担持光WOが、画像担持光WIの元の形、又は意図されるバーチャル像を生成するための望ましい形を保持し、又は他の形で維持するように、関連付けられている。
【0057】
文字「R」は、目がアイボックス74内にある観察者に見えるバーチャル像の向きを表わしている。図示のとおり、表示されたバーチャル像の中の文字「R」の向きは、画像担持光WIにエンコードされた文字「R」の向きと一致している。x-y平面における入射画像担持光WIのz軸周りの回転又は角度的配向の変化は、アウトカップリング回折光学要素(ODO)から出射する光の回転又は角度的配向に、対応する対称の変化を引き起こす。画像の配向という面においては、回転格子TGは単にある種の光学リレーとして働き、画像担持光WGの角度的にエンコードされたビームを、画像の1つの軸に沿って(例えば、y軸に沿って)拡大する。アウトカップリング回折光学要素ODOは、画像担持光WIによってエンコードされたバーチャル像の元の配向を維持しながら、画像担持光WGの角度的にエンコードされたビームを、画像の別の軸に沿って(例えば、x軸に沿って)拡大する。回転格子TGは、通常、傾斜又は四角形の回折格子であり、或いはブレーズド回折格子であってよく、通常、平面導波路22の前面又は背面に配置される。
【0058】
図1及び
図2に示される画像光ガイド10、20は、画像コンテンツを観察者に提供するための多くの既存のヘッドマウント型装置(HMD)で用いることができる。このタイプの画像光ガイドは、特に、透明な平面導波路22を通して見える現実世界の視野にバーチャル像コンテンツを重ね合わせることのできる、拡張現実のアプリケーションに適している。
【0059】
従来のバーチャル像イメージングシステムは、オフセットされたイメージソースから拡大されたアイボックスへバーチャル像を伝送する画像光ガイドに基づくものであり、光学的無限焦点にバーチャル像を提示する。すなわち、アイボックス内で画像担持光を構成する角度的に関連付けられたビームの各々は、実質的にコリメートされた形を維持する。
図3A,
図3B及び
図3Cに概略的に示すように、プロジェクタ40によって生成され、画像光ガイド30によって、インカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOを介して伝送される画像コンテンツが、画像光ガイド30のかなり前方の無限焦点に位置するバーチャル像V1として、観察者の目の前に現れる。観察者の視野内のバーチャル像の見かけの寸法は、角度的に関連付けられたビームが画像をエンコードする角度範囲に関連する。アウトカップリング回折光学要素ODOを出る実線は、画像担持光WOのコリメートされたビームの1つを表わし、破線は、上記コリメートされたビームの1つの、画像光ガイド30の前方における仮想延長を表わす。この仮想延長は、無限遠に位置するソースから生じるように見えるバーチャル像のピクセルに対応する。
【0060】
図4A~
図4Cでは画像光ガイド30の構成が改造されている。この改造例においては、バーチャル像V2内の点からの主たる光線が、画像光ガイド30前方の有限な近焦点距離Qにある位置から出てくるように見える。したがって、画像担持光の角度的に関連付けられたビームの各々は、もはやコリメートされておらず、すなわち無限遠にある点から発散しておらず、画像光ガイド30にかなり近い位置にある点から発散しているように見えるビームである。画像光ガイド30から出る光線によって近焦点の発散する主光線が形成され、これを実線で示す。破線は主光線の延長であり、観察者の目に映るバーチャル像における対象点の見かけのソースを示す。
【0061】
従来の無限焦点より短い焦点距離にあるように見えるバーチャル像のコンテンツは、観察者の視野内の他の対象より手前の知覚される距離にある対象の画像を提供すること等によって、バーチャル像を観察者に提供し得る方法における更なるコントロールを提供する。近焦点距離又は有限焦点距離は約1~2メートルのいかなる距離でもよく、例えば、画像光ガイド30から約0.6メートルである。有限の焦点距離を有するように見えるバーチャル像を形成するため、アウトカップリング回折光学要素ODOから出射される画像担持光の角度的に関連付けられたビームの各々は、近焦点距離Qに位置するバーチャル像内の見かけの位置から発散する主光線を有する。角度的に関連付けられたビームの集合の中で、コリメートされるはずであったビームの各々を近焦点化しても、ビームがバーチャル像内で集束するように見える相対的位置が変わることはない。バーチャル像全体が観察者の近くに見える。
【0062】
図5には、反射モードで動作する、段階的に周期が変化する(段階的チャープ;stepped-chirp)回折格子80としての機構が示されている。この機構は、平面導波路22に沿って伝搬するコリメートされたビームの次元を、バーチャル像の近焦点位置を表す発散ビームに変換する。格子ベクトルk2はx軸に平行に延びるが、その方向は、コリメートされたビームが伝搬される方向とは反対である。アウトカップリング格子80の格子周期dは、伝搬方向と同じ方向に段階的に増加する。所与のビームが回折される角度は格子周期と反比例するため、コリメートされたビームが回折される角度は、コリメートされたビームが段階的チャープ回折格子80に沿って連続的に遭遇するにつれて、減少する。アウトカップリング格子ODOがコリメートされたビームに最初に遭遇される開始点では、周期dは比較的短く、回折角度が増大し、格子ODOの終点では、周期dが比較的長く、回折角度が減少する。
【0063】
x-z平面で考えると、アウトカップリング格子80のx軸の長さに沿って周期dを段階的に調整することにより、代表的なコリメートされたビームを、漸進的に変化する回折角度で回折する。これにより、光が近焦点fから発するように見える。画像担持光WGの他の角度的に関連付けられたビームも、アウトカップリング格子80との連続的遭遇の度に漸進的に異なる回折角度で回折され、これにより、これらのビームの各々からの光が、異なる角度成分に応じて、距離Qにおける共通の焦点面の他の場所にある異なる近焦点から発するように見える。
【0064】
図6A及び
図6Bには、導波路22に沿って伝搬するコリメートされたビームの異なる次元を、バーチャル像において近焦点位置を表す発散ビームに変換する別の機構が示されている。これら図は、反射型回折光学要素の一部を示す。この回折光学要素は、そのy軸に概ね沿うゾーン間において角度の変化を有するゾーン分割パターンを特徴とする。単純化するために、x軸方向に沿う格子周期dは一定とし、回折フィーチャの角度配向の段階的変化の効果を強調する。なお、回折フィーチャは、本明細書において、格子フィーチャとも称する。
図6Aを参照すると、y-z平面における角度的に関連付けられたビームの漸進的再方向付けは、平面導波路22のx-y平面内において格子フィーチャ82の角度φを変えることによって成し得る。y軸に対して測定すると、格子フィーチャ82の角度φは、連続曲線を成す畝(コード;cord)のように、y軸に沿って段階的に変化する。格子フィーチャ82は、x軸に沿う格子の中心線からの距離にしたがって、段階的にy軸方向から角度的に逸脱するが、この角度的逸脱は、上記中心線の両側で符号が変わる。アウトカップリング格子80との連続的遭遇に関連して、漸進的に異なる角度を介して個々のビームを回折する代わりに、回転格子TGからのy方向にすでに拡大されたビームが、y-z平面における角度βの漸進を通して、y軸に沿った位置の関数として回折される。このように、y-z平面で考えると、画像担持光WGの角度的に関連付けられたビームの各々が、画像光ガイドから距離Qにある唯一の近焦点fから発しているように見える。
【0065】
図6Bは、バーチャル像の1つのピクセルをエンコードする、コリメートされた所与のビームの2つの光線を示している。所与のビームの中心光線R1は、回折光学要素のx軸次元に概ね沿って延びるゾーンの格子ベクトルk1と、ほぼアライメントして伝搬する。格子フィーチャ82の1つとの各遭遇により、この方向に進む光の一部は格子ベクトルk1に従って、概ねx-z平面内の方向で、z軸と傾斜角度を成して回折される。中心光線R1が所望の傾斜角度に達するために回折される角度量(ここではz軸と一致するものとして示されている)は、初めの角度配向、波長及び格子周期dによって、大きく左右される。同じビームの別の光線R1’は、光線R1と同じ方向に伝搬するが、y軸方向にオフセットされている。この光線R1’は、格子ベクトルk1’によって定義される方向に配向されている格子要素の異なるゾーンに遭遇する。この格子ベクトルk1’は、x-y平面において、光線R1及びR2、並びにベクトルk1に対して、角度φだけ角度的に配向されている。概ね光線R1’の方向に伝搬するビームの部分の、ゾーンの相対的に傾斜した格子フィーチャ82との連続的な各遭遇は、光の少なくとも一部をy-z平面に回折する。傾斜角度βは、y-z平面における回折された光の角度成分を表す。段階的ではあるが傾斜角度φは漸進的に変化し、これにより、y-z平面において、角度的にエンコードされた各ビームの異なる回折をされた部分が、短焦点面の焦点から発しているように見える。様々な角度的に関連付けられたビームが回折される成分及び角度は、円錐回折の法則に従って計算することができる。
【0066】
図7A、
図7B、及び
図7Cは、単純化された概略的な形で、ゾーンZの2次元アレイに分割されたアウトカップリング回折光学要素の一部を示している。この二次元アレイは、アレイのx軸次元に沿うピッチの段階的変化と、アレイのy軸次元に沿う格子フィーチャの配向における段階的変化が組み合わされている。各ゾーンは、互いに平行に延び、等しいピッチを有する直線状(線形;linear)の格子フィーチャの集合を含んでいる。したがって、各ゾーンは、従来の線形格子の形態を有する。しかし、アレイのx軸次元に沿い、アレイ中で行と称される一連のゾーンは、それぞれ平行格子フィーチャの集合を有しており、これら平行格子フィーチャは、同一方向に延びるが周期dが異なる(すなわち、ピッチが異なる)。アレイのy軸次元に沿い、アレイ中で列と称される一連のゾーンは、それぞれが、漸進的に角度φだけ異なる方向に延びる平行格子フィーチャの集合を有している。
【0067】
図7BにおいてZ1~Z12で示される各ゾーンZは、平行な上辺と下辺、及び平行な左辺と右辺を有する平行四辺形の形状を有している。上辺と下辺は、直線状の格子フィーチャ82の長さに対応する距離だけ離間している。右辺と左辺は、格子フィーチャ82の数と等間隔に離間した格子フィーチャ82の周期dとの積に対応する距離だけ離間している。
【0068】
各ゾーンZn内の直線状格子フィーチャ82は平行に延び、ゾーンの各行における直線状格子フィーチャ82も平行に延びている。したがって、各行のゾーンの格子ベクトルkは平行に延びている。しかし、各行内において、各行のゾーン間で、格子ピッチ(周期d)は段階的に漸進的に変化する。そのため、格子ベクトルkの大きさは、各行に沿って漸進的に変化する。例えば、
図7Bに示すように、同じ行にある連続するゾーンZ1、Z2、Z3の格子ベクトルk1、k2、k3は、全て同一方向に延びるが、長さが異なる。同様に、連続するゾーンZ4、Z5、Z6の格子ベクトルk4、k5、k6は、同一方向に延びるが、長さが異なる。他の描写された行のゾーンZ7、Z8、Z9、及びゾーンZ10、Z11、Z12の格子ベクトルにおいても同様のことが観察される。
【0069】
各列のゾーン間では、格子ベクトルの角度配向が、段階的に漸進的に角度φだけ変化する。x軸方向の格子フィーチャ82間の変位は各列内のゾーン間で一定であるが、ピッチ自体は、x軸の変位と角度φのコサイン(cosign)の積として変化する。このため、格子ベクトルk1、k4、k7、k10の角度配向は、列の連続するゾーンZ1、Z4、Z7、Z10の間で段階的に角度φだけ変化し、これら格子ベクトルk1、k4、k7、k10の大きさは、列内の格子フィーチャの一定のx軸変位と、角度φのコサインの関数として変化する。他の描写された列のゾーンZ2、Z5、Z8、Z11及びゾーンZ3、Z6、Z9、Z12の格子ベクトルにおいても同様のことが観察される。
【0070】
各行のゾーンは、共通の軸、すなわちx軸に平行にアライメント(位置合わせ)された上境界と下境界を含むが、各列のゾーンはそれぞれの円弧に沿ってアライメントされている。例えば、
図7Cのアウトカップリング回折光学要素の2つの列に沿うゾーンは、円弧A1及び円弧A2とアライメントされて示されている。
図7Cの2つの代表円弧A1及びA2に示されているように、ゾーンの上下の境界間に延びる各直線状格子フィーチャセグメントは、円弧に沿った弦と見なすことができる。回折光学要素内の異なる列の円弧、例えばA1及びA2は同じ曲率を共有し、x軸方向に沿う異なるオフセットによって区別される。各列内の隣接するゾーン間の平行な直線状格子フィーチャ82は異なる方向に配向されているが、各列内の隣接するゾーンにおける回折フィーチャの共有されるx軸方向の変位により、隣接するゾーンの平行の格子フィーチャは、正確に当接ことができる。したがって、列の各ゾーン内の格子フィーチャの有効な前方の面は、同一の列内の隣接するゾーンの格子フィーチャの有効な前方の面と交じわる。また、列の各ゾーン内の格子フィーチャの有効な後方の面は、同一の列内の隣接するゾーンの格子フィーチャの有効な後方の面と交じわる。各交点における格子フィーチャ間の挟角αは、列の隣接するゾーンの格子フィーチャの角度配向間の角度差の補角である。このように、各列の格子フィーチャは円弧の弦を表す。これらの弦を有する円弧は、ゾーンの列間ではオフセットされているが、同一の曲率を共有している(ただし同心ではない)。
【0071】
格子製作分野の当業者には認識されるように、
図7A~
図7Cに示すODO回折格子のゾーン分割された構成は、e-ビーム等の処理システムに計算負荷の高い要求を課すことなく、実際に製作できる連続パターンを提供する。ゾーンは互いにピッチと配向の少なくとも一方が異なるが、ゾーン内のピッチ及び配向は一定である。したがって、各ゾーンは容易に複製することができ、ピッチ及び配向のみが異なる隣接するゾーンと容易に適合させることができる。各行のゾーンは同じ配向を共有し、各列のゾーンは格子フィーチャの間で同じx軸変位を共有する。
【0072】
図7Dに示す代替アプローチにおいては、複数のゾーンにわたって共通の曲率を有する弧状の格子フィーチャを作成する。上述のゾーンと同様に、各ゾーン内の弧状の格子フィーチャは同一のピッチ及び配向を共有する。しかし、全てのゾーンの弧状の格子フィーチャは、共通の直線形状すなわち無限曲率ではなく、共通の有限曲率を共有する。単一の弧状の格子フィーチャは、各行のゾーン間の格子フィーチャのピッチが異なるだけなので、製作が容易である。各列において、格子セグメントが共通の曲率を有してアライメントされており、配向が異なっているため、各列の格子フィーチャは真の円弧を形成する。列内及び列間において、格子フィーチャによって形成されたこれら真の円弧は、同じ曲率を共有する。円弧は、列内の格子フィーチャであろうと列間の格子フィーチャであろうと、x軸方向のオフセットのみが異なる。格子フィーチャ間のx軸の変位は、各列のゾーン間で一定である。
【0073】
ゾーンのアレイは各行及び各列に沿いに複数のゾーンを有することができるが、
図7Dに示すような格子フィーチャは、単一の行で複数の列をなすように作ることができる。各列内において、格子フィーチャは、x軸沿いに同じ量だけオフセットされた同一の円弧によって描くことができる。列は、隣接する格子フィーチャ間のオフセットが互いに異なり、異なる各列は、x軸沿いに異なるオフセットを呈するようになっている。弧状の格子フィーチャ間のオフセットは、列間で段階的に変化する。
【0074】
逆に、ゾーンのアレイは、
図7Eに示すように、単一の列と複数の行で作ることができる。ここで、各行は、配向が同一でピッチが漸進的に変化する、一連の直線状の格子フィーチャを含む。異なる各行は配向の異なる格子線によって描かれ、各行に沿ってピッチ間隔は漸進的に変化するが、異なる行の配向の異なる格子線の間隔は、x軸に沿って同一量だけ漸進的に変化する。したがって、各行の格子フィーチャは、同じx軸方向に漸進的なインデックスパターンによって描くことができ、異なる行間の格子フィーチャの配向のみが異なる。
【0075】
製造上の便宜を強調するため、ゾーンのアレイを簡略化した対称的な形状で提示してきたが、より高次の変化を含むその他のバリエーションを重ね合わせて、様々な性能目標を達成することができる。回折光学要素の技術分野で公知のこれらのバリエーションは、格子フィーチャの形状または材料のバリエーション、及びゾーン内及びゾーン間におけるそれらの分布を含むことができる。
【0076】
解像度の高い画像コンテンツを提供するため、アレイ内における段階的に変化するゾーンの寸法及び数は、角度的に関連付けられたビームの各々を、バーチャルの一定の近焦点スポット(近集束スポット;near focus spot)に集束させるように設定される。そのスポットは、アイボックス内において角度的に関連付けられた他のビームのバーチャルの焦点スポット(集束スポット)と重なり合うことを大きく制限又は回避するような寸法にされている。好ましくは、各焦点スポットは約0.5ピクセルの寸法より小さい領域に広がる。例えば、視野(FOV)が100°であって、ディスプレイがFOVに1000ピクセルを生成する場合、各ピクセルは0.1°離間している。したがって、例えば、隣接する行のゾーン間の配向角度φの変化に関連した角度ステップは、好ましくは0.05°未満に制限される。隣接する列のゾーン間の格子フィーチャのx軸方向変位の変化に関連した角度ステップも、好ましくは、同様に制限される。
【0077】
例えば
図8に示されるように、アレイの全体形状を、ゾーンのアレイの配向のより規則的なx-y軸に対して、傾斜させることができる。
図8の平面図はアウトライン84を示し、このアウトライン84は、1つのタイプのゾーン分割される(zoned)格子配置のために製作されたODOの外周を画成する。アウトライン84の外側に描かれたフィーチャは、参考のために示すだけであり、製作する必要はない。好ましくは、ODOの格子領域は、角度的に関連付けられたビーム(画像光ガイドを越えたバーチャルの近焦点位置への回析を意図されたビーム)の分布に適合する形状にされている。
【0078】
二重イメージング装置
図9の概略図及び
図10の分解図には、第1画像光ガイド30a、第2画像光ガイド30bを用いた二重イメージング装置200が示されている。この二重イメージング装置200は、本開示の実施形態に係る段階的チャープ回折格子として構成されたODOを用いて、無限焦点でのバーチャル像V1と、近焦点位置でのバーチャル像V2の両方を形成する。無限焦点及び近焦点の画像のための適切なシーンコンテンツを方向づけるために、ビームセパレータ50を用いることができる。ビームセパレータ50には、各画像光ガイド30a、30bに適した光を選択するために、偏光、シャッタリングその他の特性が用いられる。
【0079】
二重イメージング装置200によって形成された2つのバーチャル像は、異なる焦点距離に位置している。本開示の代替の実施例は、2つのゾーン分割化されたODO格子を用いて、2つの焦点距離(いずれも光学的無限遠ではない)を提供することができる。
【0080】
図11の斜視図は、二重焦点構成を有する、二重イメージング装置300の代替の実施例を示す。アウトカップリング回折光学要素ODO1は、無限焦点にバーチャル像V1を形成するためのイメージングを提供する。アウトカップリング回折光学要素ODO2は、本開示で述べるゾーン分割された段階的チャープ構成を用いるように構成され、バーチャル像V2を形成するための近焦点イメージングを提供する。プロジェクタ40は、対応するインカップリング回折光学要素IDO1又はIDO2に、別の画像コンテンツを提供するように構成されている。
図11はインカップリング回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素ODOの対を示しているが、イメージング装置300の構成は、1つのインカップリング回折光学要素と、1つのほぼ連続的なアウトカップリング回折光学要素によって構成することもできる。アウトカップリング回折光学要素は、無限焦点のセクションと近焦点のセクションに分割されている。ODOを形成する複数のセクションを有し、各セクションが異なる焦点を有する、漸進的焦点構成を提供することもできる。プロジェクタ40からの入力信号は、それぞれの焦点特性を有するODOの各セクション用に、画像コンテンツを選択的にIDOに方向づけることができる。
【0081】
図12の斜視図は、本開示の画像光ガイドを一対用いた、3次元(3D)の拡張現実を見るためのディスプレイシステム60を示す。ディスプレイシステム60は、左眼用の画像光ガイド140lを有する左眼光学システム64lと、右眼用の画像光ガイド140rを有する、対応する右眼光学システム64rとを備えたHMDとして示されている。プロジェクタ又は同様の装置等からなる画像ソース152が装備される。画像ソース152は、各眼に別の画像を生成することができる。各画像は、画像を正しく表示するために必要な配向を有するバーチャル像として形成される。生成された画像は、3次元で見るための双眼像の対にすることができる。光学システムによって形成されるバーチャル像は、観察者が見る現実世界のシーンに重ね合わせられて見ることができる。拡張現実の視覚化という技術分野の当業者には馴染みのある付加的構成要素、例えば、シーンコンテンツを見るため又は観察者の視線追跡のためにHMDのフレームに搭載される1又は複数のカメラ等、を装備することもできる。画像を1つの眼に提供するためのディプレイ装置を含む、代替の構成が可能である。
【0082】
画像光ガイドの製造
インカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOは回折光学要素とすることができ、又は体積ホログラムとして形成することができ、又は例えば、ホログラフィックポリマーが分散された液晶から形成することもできる。画像光ガイドの導波路基板Sは、通常、ガラスその他の光学材料からなり、インカップリング回折光学要素、分配格子、及びアウトカップリング回折光学要素間のTIR伝送を支持するのに十分な屈折率を有する。
【0083】
インカップリング回折光学要素IDO、分配格子または回転格子、およびアウトカップリング回折光学要素ODOは、その機能に適した異なる格子周期を持つこともできる。ガラス基板のブランクの適切な表面処理の後、例えばナノインプリンティング法を用いて、瞳拡大器の一方または両方の外面に回折要素を形成することができる。インカップリングとアウトカップリングの少なくとも一方は、表面レリーフ回折格子とすることができる。
【0084】
実際には、特に高解像度が提供される場合には、ODOの各ゾーンZを定義する一連の角度変化を測定することは困難である。ODOの境界部分を比較して、格子パターンのそれぞれの角度の変化を示すことができる。
【0085】
本発明は、現在の好ましい実施形態を特に参照して詳細に説明されているが、本発明の精神および範囲内で変形および修正が可能であることが理解されるであろう。したがって、ここに開示された実施形態は、すべての点で例示的であり、限定的ではないとみなされる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、その均等物の意味および範囲内に入るすべての変更は、本発明に包含されることが意図される。