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特許7190449銀ナノ微粒子の製造方法および銀ナノ微粒子を含む銀ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】銀ナノ微粒子の製造方法および銀ナノ微粒子を含む銀ペースト
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/30 20060101AFI20221208BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20221208BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221208BHJP
【FI】
B22F9/30 Z
B22F9/00 A
B22F1/00 K
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019564625
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047866
(87)【国際公開番号】W WO2019138882
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018001514
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】菊川 結希子
(72)【発明者】
【氏名】隅田 佐保子
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132649(WO,A1)
【文献】特表2015-531022(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163076(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024721(WO,A1)
【文献】特開2016-164864(JP,A)
【文献】特開2013-142173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/30
B22F 9/00
B22F 1/00
B22F 1/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ微粒子の製造方法であって、以下の工程:
熱分解性の銀化合物と、炭素数が5以下のアミン化合物と、オクタノール/水分配係数LogPOWが2.0~4.0の有機溶剤を含む溶媒とを、前記銀化合物と前記アミン化合物とが化学反応しない温度で混合する、混合工程;
前記混合工程で得られた混合液を、前記銀化合物の分解温度よりも低い第1の温度まで加熱して、前記混合液中に前記銀ナノ微粒子の核を生成させる、第1加熱工程;
前記銀ナノ微粒子の核を含んだ前記混合液を、前記銀化合物の分解温度以上である第2の温度まで加熱して、前記混合液中に前記銀ナノ微粒子を生成させる、第2加熱工程;
を包含する、銀ナノ微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1加熱工程において、前記第1の温度を前記銀化合物の分解温度よりも15~30℃低い温度とする、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1加熱工程において、前記加熱の時間を20分以下とする、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程において、前記加熱の時間を20分以下とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記銀化合物のモル数に対する前記アミン化合物のモル数の比を1以下とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において、前記溶媒が水分を含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒の全体を100質量%としたときに、前記水分が2質量%以下である、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒の全体を100質量%としたときに、前記水分が1質量%以下である、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された銀ナノ微粒子と、有機溶剤と、を含む銀ペーストを基材上に付与する工程を包含する、
導電層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ微粒子の製造方法および銀ナノ微粒子を含む銀ペーストに関する。
なお、本出願は、2018年1月9日に出願された日本国特許出願2018-001514号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
銀(Ag)は、電子伝導率、熱伝導率、可視光線の光反射率等に優れる。また、銀(Ag)は、触媒作用や殺菌作用を有する。このような特性から、銀(Ag)は、従来、電子部品等の電子配線や、導電性接着剤、プリンテッドエレクトロニクス、反射材、抗菌剤、触媒、装飾等に広く利用されている。特許文献1~3には、このような用途に使用し得る銀ナノ微粒子の製造方法が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1には、シュウ酸銀とオレイルアミンとを反応させて、銀とオレイルアミンとシュウ酸イオンとを含む錯化合物を生成し、次いで生成した錯化合物を加熱分解させて、平均粒径が5~20nm程度の銀超微粒子を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許出願公開2008-214695号公報
【文献】日本国特許出願公開2015-4123号公報
【文献】日本国特許出願公開2013-142173号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、上記製造方法では、これよりも平均粒径の大きな銀ナノ微粒子、例えば50nm~数百nm程度の平均粒径の銀ナノ微粒子を製造しようとすると、粒径の制御が難しく、製造ロット間で粒径のバラつきが大きくなる問題があった。このような粒径のバラつきは、最終的な製品の質的なバラつきへと直結する。したがって、製造ロット間で粒径のバラつきが低減され、安定した平均粒径の銀ナノ微粒子を再現性良く得ることのできる製造方法が求められていた。
【0006】
加えて、特許文献1では、分子式C1837Nで表される長鎖状のアミン(オレイルアミン)で銀を被覆することにより、銀超微粒子を安定に保っている。このため、特許文献1に開示される製造方法で得られた銀超微粒子は、実用に適する優れた導電性を実現するために、焼成温度を高くしたり焼成時間を長くしたりする必要がある。しかし、エネルギーやコスト、生産効率の観点からは、焼成温度をより低く、焼成時間をより短くすることが望まれている。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造ロット間でのバラつきを低減して、粒径の制御された銀ナノ微粒子を再現性良く得ることのできる製造方法を提供することにある。関連する他の目的は、低温かつ短時間での焼結が可能な銀ナノ微粒子を含む銀ペーストを提供することにある。
【0008】
本発明により、銀ナノ微粒子の製造方法が提供される。かかる製造方法は、熱分解性の銀化合物と、炭素数が5以下のアミン化合物と、オクタノール/水分配係数LogPOWが2.0~4.0の有機溶剤を含む溶媒とを、上記銀化合物と上記アミン化合物とが化学反応しない温度で混合する、混合工程;上記混合工程で得られた混合液を、上記銀化合物の分解温度よりも低い第1の温度まで加熱して、上記混合液中に上記銀ナノ微粒子の核を生成させる、第1加熱工程;上記銀ナノ微粒子の核を含んだ上記混合液を、上記銀化合物の分解温度以上である第2の温度まで加熱して、上記混合液中に上記銀ナノ微粒子を生成させる、第2加熱工程;を包含する。
【0009】
上記製造方法によれば、銀ナノ微粒子の核の生成および成長を安定して制御することができる。このことにより、製造ロット間でのバラつきを低減して、所望の粒径の銀ナノ微粒子を再現性良く得ることができる。また、低温かつ短時間での焼結が可能な銀ナノ微粒子を安定的に得ることができる。
【0010】
ここに開示される好適な一態様では、上記第1加熱工程において、上記第1の温度を上記銀化合物の分解温度よりも15~30℃低い温度とする。これにより、混合液中で核生成をより安定的に生じさせることができる。また、生産効率を向上することができる。
【0011】
ここに開示される好適な一態様では、上記第1加熱工程において、上記加熱の時間を20分以下とする。ここに開示される他の好適な一態様では、上記第2加熱工程において、上記加熱の時間を20分以下とする。これにより、混合液中で核同士の溶融や融合を抑制して、より高い均質性の銀ナノ微粒子を得ることができる。また、生産効率を向上することができる。
【0012】
ここに開示される好適な一態様では、上記混合工程において、上記銀化合物のモル数に対する上記アミン化合物のモル数の比を1以下とする。これにより、低温焼結性と長期保存性とをより高いレベルで兼ね備えた銀ナノ微粒子を得ることができる。
【0013】
また、本発明の他の側面として、銀ナノ微粒子と、有機溶剤と、を含む銀ペーストが提供される。上記銀ナノ微粒子は、コアとなる銀と、その表面に付着している炭素数が5以下のアミン化合物と、を有する。上記コアとなる銀のモル数に対する上記アミン化合物のモル数の比(MNH2/MAg)は、1以下である。25℃の環境下に10ヶ月間放置した後においても、グラインドゲージを用いた測定で1μm以上の凝集体が確認されない。
【0014】
すなわち、ここに開示される銀ペーストは、アミン化合物の炭素数が5以下と小さく、かつ、銀に対するアミン化合物のモル量が抑えられている。上記銀ペーストによれば、焼結温度の低温化や時間短縮を実現することができ、エネルギーやコストを低減すると共に、生産効率を改善することができる。また、ここに開示される銀ペーストの銀ナノ微粒子は、表面に付着しているアミン化合物の炭素数が5以下と小さく、かつ、コアとなる銀に対するアミン化合物のモル量が抑えられているにもかかわらず、優れた保存安定性を兼ね備えたものである。このため、長期保存後も、均質な焼成膜(導電層)を安定して形成することができる。
【0015】
ここに開示される好適な一態様では、上記銀ナノ微粒子は、電界放出型走査電子顕微鏡の観察画像に基づく個数基準の粒度分布において、平均粒径が50~200nmである。これにより、低温焼結性と長期保存性とをより高いレベルで兼ね備えることができる。
【0016】
ここに開示される好適な一態様では、上記銀ナノ微粒子は、個数基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積10個数%に相当するD10粒径と、粒径の小さい方から累積50個数%に相当するD50粒径と、粒径の小さい方から累積90個数%に相当するD90粒径と、から計算される粒度分布の広がりW:W=(D90粒径-D10粒径)/D50粒径;が、0.5以上1以下である。これにより、平滑性、均質性、緻密性、充填性、のうちの少なくとも1つが向上した焼成膜(導電層)を好適に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係る製造方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、比較例1に係る製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、例1の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像の一例である。
図4図4は、比較例1の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像の一例である。
図5図5は、例1の銀ナノ微粒子のロット間のバラつきを示すグラフである。
図6図6は、比較例1の銀ナノ微粒子のロット間のバラつきを示すグラフである。
図7図7は、例2の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像である。
図8図8は、例3の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像である。
図9図9は、例4の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像である。
図10図10は、比較例3の銀ナノ微粒子のFE-SEM観察画像である。
図11図11は、例1の銀ペーストの焼成条件と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図12図12は、グラインドゲージを用いた凝集体の評価方法を説明する模式的な説明図であり、(a)は断面図を、(b)は平面図をそれぞれ表している。
図13図13は、例3の銀ペーストの焼成温度と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
なお、本明細書において「銀ナノ微粒子」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM;Field Emission-Scanning Electron Microscope)の観察画像から計測されるフェレー径の算術平均値(言い換えれば、個数基準の平均粒径)が、1nm~数百nmのものをいう。より狭義には、特許文献1に記載されるような銀超微粒子と区別して、概ね50nm以上、例えば50~300nmのものをいう。また、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下を意味する。
【0020】
≪銀ナノ微粒子の製造方法≫
図1は、一実施形態に係る製造方法を説明するためのフローチャートである。図1に示す製造方法は、液相法である。図1に示す製造方法は、以下の工程:(ステップ1)混合工程;(ステップ2)第1加熱工程;(ステップ3)第2加熱工程;を包含する。図1に示す製造方法は、還元剤を使用しない、所謂、加熱分解法である。詳しくは、混合工程で得られた混合液を2段階で加熱することによって、銀ナノ微粒子を得る方法である。以下、図1を参照しつつ各工程について説明する。
【0021】
(ステップ1)混合工程
本工程では、溶媒中で、銀化合物とアミン化合物とを混合して、混合液を調製する。混合液の調製は、銀化合物とアミン化合物とが化学反応しない温度で行う。混合液の調製は、概ね40℃以下、典型的には室温(例えば25±10℃、好ましくは25±5℃)で行うとよい。混合液の調製は、典型的には、大気雰囲気下で行われる。ただし、本工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0022】
銀化合物とアミン化合物と溶媒とを混合する順序は特に限定されない。例えば全てを同時に添加して混合してもよく、銀化合物およびアミン化合物のうちの一方を予め溶媒中に溶解または分散させた後、もう一方を添加して混合してもよい。図1に示す態様では、混合工程が、溶媒中にアミン化合物を添加して予備混合液を調製する第1混合工程と、第1混合工程で調製された予備混合液に銀化合物を添加して混合液を調製する第2混合工程と、を含んでいる。銀化合物を添加する前に、溶媒中に予めアミン化合物を添加しておくことで、より均質な銀ナノ微粒子を得ることができる。
【0023】
第1混合工程では、まず、溶媒とアミン化合物とを用意する。溶媒としては、少なくとも、オクタノール/水分配係数LogPOWが2.0~4.0の有機溶剤を用いる。オクタノール/水分配係数は、親水性・疎水性を示す指標であり、数値が小さいほど親水性が高く、数値が大きいほど疎水性が高いことを表している。LogPOWが所定値以下の有機溶剤を用いることで、後述する第1加熱工程において安定的に核生成を生じさせると共に、第2加熱工程において適切に核を成長させることができる。また、LogPOWが所定値以上の有機溶剤を用いることで、溶媒の疎水性をある程度高くすることができる。そのため、後述する第2混合工程において、銀化合物の表面で溶媒とアミン化合物との配位競争が生じることを抑制して、銀化合物の表面にアミン化合物を好適に配位させることができる。さらに、後述する第1加熱工程において、銀ナノ微粒子の核となる銀クラスターや銀ナノコロイドを緩やかに生成させることができる。かかる観点からは、LogPOWが3.0以上、例えば3.4以上、特には3.5以上の、より疎水性の高い有機溶剤が好ましい。なお、本明細書において「オクタノール/水分配係数」とは、JIS Z7260-107:2000年に規定される「フラスコ振とう法」に従って測定される値をいう。
【0024】
LogPOWが2.0~4.0の有機溶剤としては、従来公知のものを特に限定なく用いることができる。このような有機溶剤の具体例(およびそのLogPOW値)としては、例えば、ヘキサノール(2.03)、1-オクタノール(2.81)、テキサノール(3.47)、1-デカノール(3.79)、イソデカノール(3.94)等のアルコール系溶剤;ブチルアクリレート(2.38)、ブチルメタクリレート(2.26~3.01)、ノルマルヘキシルアクリレート(3.3)、2-エチルヘキシルアクリレート(3.67)等の(メタ)アクリル系溶剤;トルエン(2.73)、スチレン(2.95)、α-メチルスチレン(3.48)等の炭化水素系溶剤;等が挙げられる。なかでも、テキサノールやイソデカノール等のアルコール系溶剤が好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルとを包含する用語である。
【0025】
溶媒は、上記したようなLogPOWが2.0~4.0である有機溶剤のみで構成されていてもよく、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、さらにこの種の用途に使用し得ることが知られている各種の溶媒を含んでもよい。また、LogPOWが2.0~4.0である有機溶剤は、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、不可避的な不純物を含んでいてもよい。意図的にあるいは不可避的に溶媒に含まれ得る成分として、例えば、上記以外のアルコール系溶剤、アミド系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミン系溶剤、エーテル系溶剤、ニトリル系溶剤、炭化水素系溶剤等の有機溶剤や、水が挙げられる。
【0026】
ここに開示される技術の効果をより良く発揮させる観点からは、LogPOWが2.0~4.0である有機溶剤が、溶媒全体の概ね50質量%以上、典型的には80質量%以上、好ましくは90質量%以上、例えば95質量%以上の割合を占めているとよい。また、意図的にあるいは不可避的に含まれ得る溶媒は、溶媒全体の概ね20質量%以下、典型的には10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、例えば1質量%以下であるとよい。また、溶媒全体のLogPOWは、概ね4.0以下、例えば2.0~4.0であることが好ましい。また、溶媒は、LogPOWが1.0を下回るような親水性の高い有機溶剤、および/または、LogPOWが5.0を超えるような疎水性の高い有機溶剤を含まないことが好ましい。
【0027】
なお、特許文献2には、次の工程:熱分解性の銀化合物とアミン化合物とを混合して前駆体である銀-アミン錯体を製造すること;上記前駆体を含む反応系に、銀化合物100質量部に対して30~100質量部の水分を添加すること;水分を添加した後に、上記銀-アミン錯体の分解温度以上まで加熱すること;によって、ナノメートルオーダーの銀ナノ微粒子を製造する方法が開示されている。しかし、本発明者らの検討によれば、銀化合物100質量部に対して30質量部もの水分を添加すると、使用用途等によっては後工程で水分を除去する洗浄が必要となり、煩雑である。また、水分を除去するために銀ナノ微粒子を繰り返し洗浄することで、銀ナノ微粒子の表面を保護しているアミン化合物が脱離して、銀同士が融着したり銀ナノ微粒子が凝集したりすることも懸念される。
このため、意図的にあるいは不可避的に含まれ得る水分は、溶媒全体の概ね10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、例えば1質量%以下に抑えることが望ましい。
【0028】
アミン化合物は、1つまたは2つ以上のアミノ基を有し、かつ、炭素数が5以下のものであればよい。炭素数が5以下のアミン化合物は、炭素数が5を超えるアミン化合物に比べて極性が高い。そのため、後述する第2混合工程において、銀化合物の表面で溶媒とアミン化合物との配位競争が生じることを抑制して、銀化合物の表面にアミン化合物を好適に配位させることができる。
【0029】
炭素数が5以下のアミン化合物としては、従来公知のものを特に限定なく用いることができる。アミン化合物は、1つのアミノ基を有するモノアミンと、2つ以上のアミノ基を有するポリアミンと、を包含する。モノアミンは、アンモニアと、アンモニアの1つの水素原子を炭化水素残基で置換した第1級アミンと、アンモニアの2つの水素原子を炭化水素残基で置換した第2級アミンと、アンモニアの3つの水素原子を全て炭化水素残基で置換した第3級アミンと、を包含する。炭素数が5以下のモノアミンの具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ペンチルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン等の第2級脂肪族アミン;トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン等の第3級脂肪族アミン;等が例示される。
【0030】
アミン化合物は、炭素数が3以上、例えば4~5であるとよい。これにより、高い極性によって銀化合物に配位する性質を有しながらも、銀ナノ微粒子の表面を保護する性質が向上して、銀ナノ微粒子の保存安定性をより良く向上することができる。アミン化合物は、第1級アミンであるとよい。アミン化合物は、大気圧での沸点が150℃以下、例えば70~150℃であるとよい。これにより、後述する第1・第2加熱工程において、銀化合物との反応性を高めることができ、後述する第1加熱工程の第1の温度T1、および/または、第2加熱工程の第2の温度T2を低めに設定することができる。
【0031】
第1混合工程では、次に、上記溶媒中に上記アミン化合物を添加して、予備混合液を調製する。予備混合液の調製に際しては、必要に応じて攪拌を行ってもよい。攪拌操作によれば、比較的短時間で均質な予備混合液を得ることができる。かかる攪拌操作は、例えばマグネチックスターラーや超音波等の攪拌手段を用いて行うことができる。
【0032】
予備混合液において、上記アミン化合物と上記溶媒との混合比率は特に限定されないが、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮する観点からは、上記アミン化合物と上記溶媒とを体積比で、概ね1:1~1:100、典型的には1:2~1:50、例えば1:5~1:10とするとよい。
【0033】
第2混合工程では、まず、銀化合物を用意する。銀化合物としては、熱分解性の化合物を用いる。銀化合物としては、例えば、概ね90℃以上、一例では100℃以上であって、概ね200℃以下、例えば150℃以下の加熱によって、分解する化合物を用いてもよい。熱分解性を有する銀化合物の具体例として、シュウ酸銀、ギ酸銀、酢酸銀、マロン酸銀、安息香酸銀、フタル酸銀等の有機酸銀;フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀;硫酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、炭酸銀等が挙げられる。なかでも、不純物が生じ難いことから、有機酸銀や炭酸銀、特にはシュウ酸銀を好ましく用いることができる。
【0034】
第2混合工程では、次に、第1混合工程で調整した予備混合液に対して、上記銀化合物を添加し、混合液を調製する。上述の通り、本実施形態では、LogPOWが2.0~4.0である有機溶剤を使用している。このことにより、混合液中において、銀化合物の銀イオンの周囲にアミン化合物を好適に配位させることができる。言い換えれば、例えば特許文献2に記載されるような銀-アミンの錯化合物の生成を抑制して、銀化合物の表面にアミンが吸着した状態にとどめることができる。その結果、後述する第1加熱工程において、安定的に核生成を生じさせることができる。なお、撹拌操作は、上記第1混合工程と同様に適宜行うことができる。
【0035】
混合液において、上記銀化合物に対する上記アミン化合物のモル比(アミン化合物/銀化合物)は、銀ナノ微粒子の均質性、具体的には平均粒径や形状を調整するための1つの重要なパラメータとなり得る。本実施形態では、上記モル比を所定値以下とするとよい。上記モル比を所定値以下とする、言い換えれば、上記銀化合物に対する上記アミン化合物の使用を必要最小限に抑えることで、後述する第1加熱工程において、銀ナノ微粒子の核となる銀クラスターや銀ナノコロイドを緩やかに生成させることができる。また、銀ナノ微粒子中の銀の割合を高めることができ、低温焼結性を一層向上することができる。かかる観点からは、上記モル比を、概ね1以下、典型的には0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、例えば0.5以下とするとよい。上記モル比は、銀ナノ微粒子の保存安定性を向上する観点から、上記銀化合物に対する上記アミン化合物のモル比を、概ね0.1以上、好ましくは0.2以上、例えば0.3以上としてもよい。
【0036】
なお、従来の方法では、銀化合物に対するアミン化合物の添加量を増やすことで、粒径を小さく制御することがなされていた。実際、特許文献1の実施例では銀化合物(シュウ酸銀)に対するアミン化合物(オレイルアミン)のモル比を、2.5~8としている。また、特許文献2には、銀イオンに対するアミノ基のモル比を1.6以上とすることが推奨されている。しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1,2に記載される通りに上記モル比を増大させると、加熱工程での銀化合物の熱分解速度が速くなる。そのため、例えば50nm~数百nm程度の平均粒径を有する銀ナノ微粒子が安定して得られにくくなったり、アミノ基の表面保護が追い付かずに銀ナノ微粒子の核同士が融合して、粗大粒子が生成され易くなったりする傾向がある。これに対して、ここに開示される技術では、所定の溶媒と所定のアミン化合物とを用いて2段階加熱する方法により、アミン化合物の使用量を従来よりも低く抑えることが可能となる。その結果、より均質な銀ナノ微粒子を得ることができる。ひいては、緻密性が高く、電気伝導性や熱伝導性等に優れた焼成膜を好適に実現することができる。
【0037】
混合液は、上記した溶媒とアミン化合物と銀化合物との3成分で構成されていてもよく、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、必要に応じてその他の任意成分を含んでもよい。任意成分としては、従来公知のもののなかから1種を単独で、または2種以上を組み合せて用いることができる。任意成分の一例として、例えば、銀ナノ微粒子の反応性の調整や分散安定性の向上等を目的とした添加剤が挙げられる。具体的には、反応触媒、反応調整剤、粘度調整剤、分散剤等が挙げられる。
【0038】
(ステップ2)第1加熱工程
本工程では、上記ステップ1で得られた混合液を、第1の温度T1まで加熱する。混合液中には、アミンが配位している銀化合物が含まれる。混合液を第1の温度T1まで加熱することにより、アミンが配位している銀化合物の表面から、銀ナノ微粒子の核(前駆体)となる銀クラスターや、銀クラスターの成長した銀ナノコロイドが部分的に生成する。第1の温度T1は、上記ステップ1の温度よりも高い温度であって、銀化合物の分解温度よりも低い温度である。第1の温度T1は、混合液の組成、例えば、溶媒の種類、アミン化合物の種類や配合比率、銀化合物の種類や配合比率によっても異なり得る。第1の温度T1は、銀ナノ微粒子の均質性をより高める観点から、銀化合物の分解温度よりも、概ね5~50℃低い温度、典型的には10~40℃低い温度、好ましくは15~30℃低い温度であるとよい。例えば銀化合物の分解温度が95℃前後の場合は、第1の温度T1が概ね45~90℃、典型的には55~85℃、例えば65~80℃であってもよい。第1の温度T1までは、生産効率を向上する観点から、一気に昇温してもよいし、昇温速度ΔT1で徐々に昇温してもよい。昇温速度ΔT1は、概ね0.1~50℃/分、例えば1~30℃/分としてもよい。
【0039】
好ましい一態様では、核生成を飽和させない程度に、第1の温度T1を保持する。第1の温度T1を保持する保持時間H1は、例えば、第1の温度T1や上記した混合液の組成等によっても異なり得るため、特に限定されない。保持時間H1は、混合液中での核の飽和濃度を超えないように設定するとよい。これにより、混合液中で核同士が融合することを抑えることができる。例えば、有機溶剤としてイソデカノールを使用し、かつアミン化合物としてn-ブチルアミンを使用して、第1の温度T1を80℃とする場合等では、保持時間H1を、概ね20分以下、例えば10~15分とするとよい。また、撹拌操作は、上記ステップ1と同様に適宜行うことができる。
【0040】
なお、核が飽和濃度となる時間は、以下のような予備実験で把握することができる。すなわち、まず、保持時間H1のみを異ならせた複数の混合液を準備する。次に、各混合液を、回転数10000rpmで5分間遠心分離して、上澄み液を、細孔径0.1μmのメンブレンフィルターでろ過する。このようにして0.1μm以上の粒子を除去した後の溶液について、紫外可視吸光を測定する。一般に、銀ナノコロイドの濃度は吸光度に比例する。このため、保持時間H1の変化に対して吸光度の変化が見られなくなった、あるいは鈍化したところで、核が飽和濃度に達していることを確認することができる。
【0041】
以上のように、本工程では、上記混合液の温度が第1の温度T1に抑えられ、反応に寄与する銀イオンが銀化合物の表面のみに限られている。また、混合液中では、銀化合物の表面にアミンが吸着した状態にとどめられている。そのため、銀化合物に対するアミン化合物のモル比が小さくても、銀化合物の表面から徐々に反応を生じさせて、安定して核を生成することできる。核の生成は、例えば、混合液の色味が黄~小豆色(ただし、第1の温度T1や、第1の温度T1を保持する保持時間H1によっても異なり得る。)に変化することで確認することができる。銀ナノ微粒子の核は、後述する第2加熱工程で得られる銀ナノ微粒子よりも平均粒径が小さく、例えば10nm以下である。なお、本工程は、典型的には、大気雰囲気下で行われる。ただし、本工程は、不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0042】
本工程における核の生成量は、銀ナノ微粒子の粒径を決定する1つの重要なパラメータとなり得る。核の生成量は、例えば、第1の温度T1や、第1の温度T1を保持する保持時間H1によって調整することができる。言い換えれば、ここに開示される技術では、上記パラメータを可変することによって、銀ナノ微粒子の粒径を例えば10~20nmレベルで微調整することが可能である。一般には、第1の温度T1を高く設定するほど核の生成量が多くなり、平均粒径が小さな銀ナノ微粒子が得られやすい。ここに開示される技術によれば、平均粒径が50~200nmの範囲では、特に均質性の高い銀ナノ微粒子を得られやすい。
【0043】
(ステップ3)第2加熱工程
本工程では、第1の温度T1の混合液を、第2の温度T2まで加熱する。これにより、銀化合物の分解で新たに生成されるゼロ価の銀が、第1加熱工程で生成された核に融合される。このことにより、核は均質に成長して、混合液中に所望の粒径からのずれが少ない銀ナノ微粒子が安定的に生成される。本工程は、典型的には気体(例えば二酸化炭素)の発生を伴う。第2の温度T2は、銀化合物の分解温度以上の温度である。第2の温度T2は、混合液の組成、例えば、銀化合物の種類、溶媒の種類によっても異なり得る。第2の温度T2は、少なくとも1種の溶媒の沸点よりも低い温度であるとよい。第2の温度T2は、銀化合物の分解温度よりも5~40℃高い温度、例えば10~30℃高い温度であるとよい。例えば銀化合物の分解温度が95℃前後の場合は、第2の温度T2が、概ね100~135℃、例えば105~125℃であってもよい。第1の温度T1から第2の温度T2までの昇温速度ΔT2は、核成長を緩やかに生じさせる観点から、昇温速度ΔT1よりも小さいことが好ましく、生産効率とのバランスからは、概ね0.1~10℃/分、例えば2~5℃/分であるとよい。
【0044】
好ましい一態様では、銀化合物の分解が完了するまで、第2の温度T2を保持する。第2の温度T2を保持する保持時間H2は、例えば、昇温速度ΔT2や上記した混合液の組成等によっても異なり得るため、特に限定されない。保持時間H2は、例えば銀化合物の分解に伴う気体の発生が認められなくなる時間に設定するとよい。保持時間H2は、成長した核同士の連結を抑える観点や生産効率を向上する観点から、概ね20分以下、例えば、10~15分とするとよい。また、保持時間H1と保持時間H2との合計は、概ね40分以下、典型的には30分以下、例えば20~25分とするとよい。また、撹拌操作は、上記ステップ1と同様に適宜行うことができる。
【0045】
銀ナノ微粒子の生成は、気体の発生によって確認することができる。あるいは、混合液の色味が第1加熱工程よりも濃い茶色や灰色(ただし、生成した銀ナノ微粒子の粒径や形状等によっても異なり得る。)に変化することで確認することができる。なお、本工程は、典型的には、大気雰囲気下で行われる。ただし、本工程は、不活性雰囲気下で行ってもよい。また、本工程は、上記した第1加熱工程に引き続いて連続的に行ってもよいし、例えば混合液を一旦室温(例えば25±10℃)まで冷却した後、第2の温度T2まで加熱してもよい。
【0046】
以上のようにして、本実施形態の製造方法では、混合液中に銀ナノ微粒子を生成させることができる。かかる製造方法によれば、所望の粒径からのバラつきが少ない銀ナノ微粒子を、高い再現性で得ることができる。例えば、複数の製造ロット間での平均粒径の標準誤差を、概ね10nm以下、典型的には5nm以下、例えば3nm以下に抑えることができる。なお、混合液中に生成した銀ナノ微粒子は、例えば自然冷却し、遠心分離で上澄みを除去した後、湿潤状態のままで銀ペーストの調製に用いることができる。好ましい一態様では、特許文献2に記載されるような「洗浄」の操作を行うことなく、そのまま銀ペーストの調製に用いることができる。
【0047】
≪銀ペースト≫
ここに開示される銀ペーストは、銀ナノ微粒子と、有機溶剤と、を含む。銀ペーストは、例えば、基材上に付与して膜状体を形成し、これを焼成することによって、銀ナノ微粒子を焼結させて、基材上に銀製の焼成膜を形成する場合に、広く利用することができる。特には、高温(概ね200℃以上、例えば150℃以上)に曝されると性能が低下してしまうような基材上に焼成膜を形成する場合に好適に利用することができる。
【0048】
ここに開示される銀ペーストの銀ナノ微粒子は、低温かつ短時間で焼結が可能であると共に、優れた保存安定性を兼ね備える。すなわち、銀ナノ微粒子は、コアとなる銀(Ag)と、その表面に付着しているアミン化合物と、を有する。コアとなる銀の表面にアミン化合物を有することで、銀の酸化や凝集を効率的に抑制することができ、長期保存性を向上することができる。
【0049】
コアとなる銀の表面に付着しているアミン化合物は、炭素数が5以下である。これにより、焼結温度の低温化や焼結時間の短縮を実現することができる。アミン化合物は、自身のアミノ基を介して、銀粒子の表面に物理的および/または化学的に結合されている。炭素数が5以下のアミン化合物の具体例としては、製造方法のセクションで上記したアミン化合物が挙げられる。アミン化合物は、例えば1種または2種以上のアルキルアミンであってもよい。アミン化合物は、炭素数が3以上、例えば4~5であるとよい。これにより、保存安定性を一層高めることができる。
【0050】
銀ナノ微粒子は、コアとなる銀のモル数に対するアミン化合物のモル数の比(MNH2/MAg)が1以下である。なお、MNH2/MAgの比は、銀イオン(Ag)のモル数に対するアミノ基(NH)のモル数の比と同義である。上記モル比を所定値以下とすることで、アミノ基を必要最小限に抑えて、コアとなる銀の割合を高めることができる。これにより、銀ナノ微粒子の焼結性を向上することができる。その結果、例えば150℃以下、さらには100℃以下のように焼成温度が低い場合にも、銀ナノ微粒子を短時間で焼結させることができる。また、熱収縮を小さく抑えて、緻密性の高い焼成膜を実現することができる。かかる観点からは、上記モル比が概ね0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、例えば0.5以下であってもよい。上記モル比は、銀ナノ微粒子の保存安定性を高める観点から、概ね0.1以上、好ましくは0.2以上、例えば0.3以上であってもよい。
【0051】
銀ナノ微粒子は、低温焼結に適した大きさ(粒径)であるとよい。好ましい一態様では、FE-SEMの観察画像に基づく個数基準の粒度分布において、平均粒径が概ね300nm以下、例えば200nm以下、一例では100nm以下である。平均粒径が所定値以下であると、低温焼結が容易となり、焼成時間を一層短縮することができる。また、例えば線幅が1μm以下、好ましくは500nm以下の細線状の電極(ファインライン)をも安定して形成することができる。平均粒径の下限は特に限定されないが、典型的には特許文献1に記載されるような銀超微粒子よりも大きく、概ね30nm以上、例えば50nm以上であるとよい。平均粒径が所定値以上であると、アミン化合物の使用量を低減しても、銀ナノ微粒子の安定状態を高いレベルで維持することができる。また、銀ペースト中における銀ナノ微粒子の分散性を向上して、一層優れた保存安定性を実現することができる。
【0052】
好ましい他の一態様では、銀ナノ微粒子は、上記個数基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積10個数%に相当するD10粒径が、概ね30nm以上、典型的には40nm以上、例えば50nm以上であって、概ね100nm以下、例えば70nm以下である。このことにより、表面安定性の低い超微粒子の割合を低減して、銀ナノ微粒子全体の保存安定性をより良く高めると共に、低温焼結性を一層向上することができる。また、好ましい他の一態様では、銀ナノ微粒子は、上記個数基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積90個数%に相当するD90粒径が、概ね50nm以上、典型的には70nm以上であって、概ね500nm以下、典型的には300nm以下、例えば150nm以下である。このことにより、銀ナノ微粒子の低温焼結性を一層向上することができる。また、精密なファインラインの形成を可能とすることができる。
【0053】
好ましい他の一態様では、銀ナノ微粒子は、上記個数基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積10個数%に相当するD10粒径と、粒径の小さい方から累積50個数%に相当するD50粒径と、粒径の小さい方から累積90個数%に相当するD90粒径と、から計算される粒度分布の広がりW:W=(D90粒径-D10粒径)/D50粒径;が、概ね1.2以下、好ましくは1以下であるとよい。粒度分布の広がりWが所定値以下であることは、銀ナノ微粒子がある程度の均質性を保持していることを示している。このことにより、平滑性や均質性が高く、電気伝導性や熱伝導性等に優れた焼成膜を安定的に実現することができる。粒度分布の広がりWの下限値は特に限定されないが、典型的には0.4以上、好ましくは0.5以上である。粒度分布の広がりWが所定値以上であることは、銀ナノ微粒子の粒度分布がブロードで、粒径が所定の広がりを持つことを示している。このことにより、緻密性や充填性の高い焼成膜を安定的に実現することができる。
【0054】
好ましい他の一態様では、銀ナノ微粒子は、上記個数基準の粒度分布において、平均粒径に対する標準偏差σの比(標準偏差σ/平均粒径)、すなわち変動係数(CV)が、概ね0.5以下、好ましくは0.3以下、例えば0.25以下である。このことにより、平滑性や均質性が高く、電気伝導性や熱伝導性等に優れた焼成膜を安定的に実現することができる。
【0055】
銀ナノ微粒子を構成する微粒子の形状は、典型的には略球状、例えば平均アスペクト比(長径/短径比)が概ね1~2、例えば1~1.5である。かかる形状によれば、平滑性や均質性に優れた焼成膜を好適に形成することができる。なお、本明細書において「球状」とは、全体として概ね球体(ボール)と見なせる形態であることを示し、楕円状、多角体状、円盤球状等を含み得る用語である。
【0056】
ここに開示される銀ナノ微粒子は、有機溶剤に中に分散した状態で、25℃の環境下に10ヶ月間放置した後においても1μm以上の凝集体が確認されない。言い換えれば、ここに開示される銀ナノ微粒子は、表面に付着しているアミン化合物の炭素数が5以下と小さく、かつ、コアとなる銀に対するアミン化合物のモル量が抑えられているにもかかわらず、優れた保存安定性を兼ね備えたものである。なお、凝集体の有無の確認は、グラインドゲージを用いた測定で行う。詳しい測定方法については、後述する試験例に示す。
【0057】
ここに開示される銀ペーストの有機溶剤については特に限定されず、この種の用途に使用し得ることが知られている各種の有機溶剤の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。有機溶剤は、銀ナノ微粒子の製造工程に起因して、LogPOWが2.0~4.0の有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤は、銀ペーストの保存安定性や銀ペースト使用時の作業性を向上する観点から、沸点が概ね200℃以上、例えば200~300℃の高沸点有機溶剤を主成分(50体積%以上を占める成分。)とするとよい。高沸点有機溶剤の具体例としては、例えば、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット等が挙げられる。
【0058】
銀ペーストにおける銀ナノ微粒子の含有割合は特に限定されないが、銀ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね30質量%以上、典型的には50~95質量%、例えば80~90質量%であるとよい。また、銀ペーストにおける有機溶剤の含有割合は特に限定されないが、銀ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね70質量%以下、典型的には5~50質量%、例えば10~20質量%であるとよい。上記範囲を満たすことで、銀ペーストの保存安定性をより良く高めると共に、成膜時の作業性を向上することができる。また、緻密性が高く、電気伝導性や熱伝導性等に優れた焼成膜を好適に実現することができる。さらに、熱収縮を小さく抑えて、例えば100μm以上のような厚めの焼成膜をも好適に形成することができる。
【0059】
銀ペーストは、銀ナノ微粒子と有機溶剤とで構成されていてもよく、銀ナノ微粒子と有機溶剤とに加えて、必要に応じて種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分としては、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、一般的な銀ペーストに使用し得ることが知られているものを適宜用いることができる。添加成分の一例として、バインダ、分散剤、界面活性剤、乳化剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)、焼結助剤、無機フィラー等が挙げられる。バインダとしては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0060】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
≪試験例I≫
〔例1〕例1では、上記した図1のフローチャートにしたがって銀ナノ微粒子を作製した。すなわち、まず、25℃の環境下において、フラスコに、アミン化合物としてのn-ブチルアミン(炭素数:4)を1.65mL秤量し、これを有機溶剤としてのイソデカノール(LogPOW:3.94)10mLと混合して、予備混合液を調製した(第1混合工程)。そこに銀化合物としてのシュウ酸銀5.06gを添加して、マグネチックスターラーで撹拌することにより、混合液を調製した(第2混合工程)。次に、混合液の入ったフラスコを、予め第1の温度T1である80℃に調整してあるオイルバスに漬けて、撹拌しながら10分間加熱した(第1加熱工程)。これにより、混合液が小豆色となった。次に、小豆色の混合液を、第2の温度T2である108℃まで昇温した。このとき、昇温速度ΔT2は、4~5℃/分とした。そして、この混合液を、撹拌しながら20分間加熱した(第2加熱工程)。すると、混合液が95℃となったあたりでシュウ酸銀が分解して気体が発生した。そして、混合液は徐々に茶色の懸濁液へと変化した。20分後にオイルバスからフラスコを取り出し、放冷した後、遠心分離によって上澄みを除去して湿潤状態の銀ナノ微粒子を作製した。例1では、これを計6回行い、6つのロットの銀ナノ微粒子(例1)を得た。
【0062】
〔比較例1〕比較例1では、図2のフローチャートにしたがって銀ナノ微粒子を作製した。すなわち、第1加熱工程、第2加熱工程にかえて、混合液の入ったフラスコを、予め100℃に調整してあるオイルバスに漬けて、撹拌しながら30分間加熱した(すなわち、加熱を1段階で行い、段階的な加熱を行わなかった)こと以外、上記例1と同様にして、銀ナノ微粒子を作製した。比較例1では、これを計17回行い、17つのロットの銀ナノ微粒子(比較例1)を得た。
【0063】
〔評価項目〕得られた銀ナノ微粒子について、以下の項目について評価を行った。
(A)FE-SEM観察
FE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S-4700)を用いて、銀ナノ微粒子の形状を観察した。例1に係る銀ナノ微粒子の観察画像の一例を図3に示し、比較例1に係る銀ナノ微粒子の観察画像の一例を図4に示す。
(B)粒度分布
FE-SEMの観察画像を元に、銀ナノ微粒子の粒度分布を測定した。粒径は、重なった粒子が少ない部分を探して10kの倍率で撮影した計3枚の画像から、計200~300個の重なっていない銀ナノ微粒子を任意に抽出し、フェレー径を計測した。そして、個数基準の算術平均値を平均粒径として算出した。また、あわせて平均粒径の標準誤差を算出した。例1に係る結果を図5に示し、比較例1に係る結果を図6に示す。
【0064】
〔評価結果〕図3、4に示すように、比較例1の銀ナノ微粒子(図4)に比べて、例1の銀ナノ微粒子(図3)は形状やサイズのバラつきが抑えられていた。また、図5、6に示すように、比較例1の銀ナノ微粒子(図6)は、平均粒径が70~140nmの範囲に拡散し、平均粒径の標準誤差が17.5nmだった。すなわち、ロット間での平均粒径のバラつきが大きかった。これに対して、例1の銀ナノ微粒子(図5)は、平均粒径が60~70nmの範囲に制御され、平均粒径の標準誤差が1.05nmと大幅に小さく抑えられていた。すなわち、ロット間での平均粒径のバラつきが小さかった。以上の結果から、2段階の加熱によって、核生成と核成長とを段階的に生じさせることで、ロット間のバラつきを低減して、所望の粒径の銀ナノ微粒子を再現性良く得ることができるとわかった。
【0065】
≪試験例II:銀ナノ微粒子作製時の溶媒の検討≫
本試験例では、有機溶剤の種類について検討を行った。すなわち、例2~4および比較例2,3では、下表1に示すLogPOWの有機溶剤を使用したこと以外、上記例1と同様にして、銀ナノ微粒子を作製した。そして、銀ナノ微粒子の得られたものについては、上記例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。表1には、粒子形状や平均粒径とあわせて、粒度分布から算出した個数基準のD10粒径、D50粒径、D90粒径、粒度分布の広がりW:W=(D90粒径-D10粒径)/D50粒径、ならびに変動係数CVを示す。また、図7~10には、例2~4、比較例3に係る銀ナノ微粒子のFE-SEMの観察画像を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、比較例2では、銀ナノ微粒子の生成が確認できなかった。この理由としては、溶媒のLogPOWが大きすぎたために、言い換えれば、溶媒の疎水性が高すぎたために、核生成および/または核成長が阻害され、銀-アミン錯体が形成されなかったことが考えられる。一方、表1および図10に示すように、比較例3では、銀ナノ微粒子の外観(形状やサイズ)のバラつきが相対的に大きかった。この理由としては、溶媒のLogPOWが小さすぎたために、言い換えれば、溶媒の親水性が高すぎたために、第1・第2焼成工程において反応速度が速くなり過ぎたことが考えられる。これら比較例に対して、表1および図7~9に示すように、例2~4では、平均粒径が60~75nm、D10粒径が45~60nm、D90粒径が75~100nm、粒度分布の広がりWが0.4~0.7、CVが0.15~0.25であり、かつ、比較例3に比べて形状やサイズのバラつきが小さく抑えられていた。
【0068】
≪試験例III:導電性と分散安定性の検討≫
本試験例では、特許文献2のTestNo.2に準じて、新たに、比較例4の銀ナノ微粒子を作製し、例1の銀ナノ微粒子と共に、安定性を評価した。すなわち、比較例4では、n-ブチルアミンのモル数をシュウ酸銀のモル数に対して6.0倍とし、また、溶媒として、シュウ酸銀100質量部に対して80質量部の水を使用し、昇温速度5℃/分で加熱温度110℃まで加熱し、気体の発生が止まるまで加熱を継続したこと以外は、上記比較例1と同様にして、銀ナノ微粒子を作製した。次に、特許文献2の段落0034に準じて、銀ナノ微粒子の生成された後の混合液にメタノールを添加して洗浄し、遠心分離によって上澄みを除去する操作を2回行った。そして、例1と比較例4の銀ナノ微粒子について、それぞれプロピレングリコールモノフェニルエーテル(PhFG)に溶媒置換し、遠心分離によって上澄みを除去する操作を2回行った。これにより、PhFGで湿潤された状態の銀ナノ微粒子を得た。
【0069】
〔銀ペーストの調製〕例1と比較例4の銀ナノ微粒子を用いて、下表2に示す組成の銀ペーストをそれぞれ調製した。具体的には、下記材料を秤量し、スパチュラで混合した後、自転公転ミキサー泡とり練太郎(登録商標、株式会社シンキー製)を用いて、回転数1200rpmで2分間の混練を計2回行った。
【0070】
【表2】
【0071】
〔導電性の評価〕例1の銀ペーストについて、焼成条件を異ならせて低温焼結性を評価した。具体的には、まず、スクリーン印刷(♯400)の手法で、市販のPETフィルム(東レ株式会社製のルミラー(商標)S10)の上に例1の銀ペーストを塗布し、15mm×30mmの長方形パターン(膜厚2.7~3.0μm)を形成した。これを送風乾燥オーブンへ入れて、60℃で10分間乾燥させた。次に、大気中において、90~120℃の低温で5~60分間焼成し、焼成条件のみを異ならせた焼成膜をそれぞれ形成した。次に、各焼成膜について、シート抵抗値(μΩ)と膜厚(cm)とを測定した。なお、シート抵抗値の測定には、三菱化学アナリテック製の抵抗率計(ロレスタGP MCP-T610)を使用した。また、膜厚の測定には、株式会社東京精密製の表面粗さ測定機(Surfcom 480A)を使用した。そして、シート抵抗値と膜厚との積から、体積抵抗率を算出した。結果を、図11に示す。
【0072】
図11は、例1の銀ペーストの焼成条件(焼成温度・焼成時間)と体積抵抗率との関係を示すグラフである。図11に示すように、例1の銀ペーストは、例えば90℃・30分間の焼成、あるいは、100℃・10分間の焼成によって、体積抵抗率が10μm・cm以下の焼成膜を実現することができた。さらには、120℃・30分間の焼成によって、体積抵抗率が5μm・cm以下の焼成膜を実現することができた。このように、例1の銀ペーストによれば、低温および/または短時間の焼成で、導電性に優れた焼成膜を実現することができた。
【0073】
〔凝集体の有無の評価〕グラインドゲージ(太佑機材株式会社製、GW-2392)を用いて、例1と比較例4の銀ペースト中の凝集体を評価した。図12は、グラインドゲージを用いた凝集体の評価方法を説明する模式的な説明図であり、(a)は断面図を、(b)は平面図をそれぞれ表している。具体的には、図12(a)に示すように、グラインドゲージ上に設けられた溝部に銀ペースト(Agペースト)を流し入れ、矢印の方向にスクレーパーを動かして、膜状に広げた。グラインドゲージの溝部は傾斜状で徐々に溝が浅くなっている。そのため、溝の深さよりも粒径の大きな粒子が存在すると、形成膜に線状の痕跡が残ることとなる。したがって、形成膜の痕跡をグラインドゲージ上の目盛りと照らし合わせて確認することで、凝集体の有無と、そのサイズを確認することができる。なお、このグラインドゲージでは、1μm以上の凝集体の有無を確認することができる。
【0074】
その結果、比較例4の銀ペーストは、調製直後において、既に100μmの凝集体を含んでいた。この理由としては、洗浄と遠心分離の繰り返しによって銀ナノ微粒子表面のアミン化合物が脱離して、銀同士が融着したり銀ナノ微粒子が凝集したりしたことが考えられる。一方、例1の銀ペーストでは、調製直後において、1μm以上の凝集体は確認されなかった。すなわち、例1の銀ペーストは、比較例4の銀ペーストに比べて分散安定性に優れていた。
【0075】
そこで、例1の銀ペーストについては、追加試験として、25℃の環境下で10ヶ月間保存した後、再び凝集体の有無を確認した。その結果、例1の銀ペーストでは、10ヶ月間保存した後も、1μm以上の凝集体は確認されなかった。また、銀ペーストの分離等の外観の変化も認められなかった。すなわち、例1の銀ペーストは、長期間の保存安定性にも優れていた。以上の結果から、ここに開示される銀ペーストは、低温焼結性と長期保存性とを兼ね備えることがわかった。
【0076】
なお、特に限定されるものではないが、比較例4の銀ペーストに比べて、例1の銀ペーストが分散安定性に優れている理由として、本発明者らは、以下のことを考えている。すなわち、湿潤状態の銀ナノ微粒子において、アミン分子は、銀ナノ微粒子表面への吸着状態と、溶媒中への脱離との吸着(配位)平衡状態にある。ここで、溶媒が、アルキル鎖の短いアルコールやケトン、アミド、エステル等の高極性溶媒であると、高極性の溶媒分子が銀ナノ微粒子表面に吸着しやすくなる。このことにより、銀ナノ微粒子表面で溶媒分子とアミン分子との配位競争が生じて、アミン分子の吸着平衡が脱離側に偏りやすくなる。加えて、アミン化合物の炭素数が5以下であると、炭素数がそれ以上のものに比べて高極性となる。そのため、アミン分子と高極性溶媒との親和性が高くなり、アミン分子は銀ナノ微粒子表面から脱離し易くなる。その結果、比較例4のように、高極性溶媒中で銀ナノ微粒子を作製し、洗浄工程を経てペースト溶媒(有機溶剤)に置換する場合は、高極性溶媒中で脱離しやすい状態となっているアミン分子が洗浄工程で除去されてしまい、銀ナノ微粒子の分散安定性が低下すると考えられる。
【0077】
一方で、例1のように、LogPOWが2.0~4.0の低極性溶媒中で銀ナノ微粒子を作製すると、溶媒分子が銀ナノ微粒子表面に吸着しにくくなる。このことにより、銀ナノ微粒子表面で溶媒分子とアミン分子との配位競争が生じることを抑制することができる。また、低極性溶媒を用いることで、溶媒分子とアミン分子との親和性を低下させることができる。これらの効果が相俟って、アミン分子の吸着平衡が吸着側に偏りやすくなり、銀ナノ微粒子表面にアミン分子が吸着した状態を安定的に維持することができる。その結果、洗浄工程でペースト溶媒への置換を行っても、銀ナノ微粒子表面からアミン分子が除去され過ぎることがなく、優れた分散安定性を実現できると考えられる。
【0078】
≪試験例IV:銀ペーストの有機溶剤およびバインダ種の検討≫
本試験例では、上記例3の銀ナノ微粒子、すなわち、有機溶剤としてテキサノールを使用して作製した湿潤状態の銀ナノ微粒子を用いて、上記例1と同様にして、下表3に示す組成の銀ペーストを調製した。そして、上記例1と同様に長方形パターンを形成した後、大気中において、150~210℃で10分間焼成し、焼成膜を形成した。次いで、シート抵抗値と膜厚とを測定し、体積抵抗率を算出した。結果を、図13に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
図13は、例3の銀ペーストの焼成温度と体積抵抗率との関係を示すグラフである。図13に示すように、例3の銀ペーストは、例えば150℃・10分間の焼成で、体積抵抗率が15μm・cm以下の焼成膜を実現することができた。さらには、180℃・10分間の焼成で、体積抵抗率が10μm・cm以下の焼成膜を実現することができた。このように、ここに開示される技術によれば、有機溶剤やバインダの種類を変更した場合にも、低温および/または短時間の焼成によって、優れた導電性を実現することができた。
【0081】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形形態に置き換えたり、上記した実施形態に他の形態を追加したりすることも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13