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特許7190454移動体の運動による位置変化量を検出する方法及び装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】移動体の運動による位置変化量を検出する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20221208BHJP
   G01D 5/347 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01D5/244 F
G01D5/347 110M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019569608
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2019003623
(87)【国際公開番号】W WO2019151479
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2018017543
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006585
【氏名又は名称】株式会社三共製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝又 一久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直幸
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-108774(JP,A)
【文献】特開2016-166741(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2602594(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0225598(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/38
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の運動による位置変化量を、前記運動の方向に沿って配置された複数の目盛をセンサで読み取ることによって検出する方法であって、
a)前記複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、前記位置変化量に応じた擬似正弦波信号を前記センサから取得するステップと、
b)少なくとも1目盛の範囲における前記擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、前記フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップと、
c)前記少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を前記基本波成分の信号強度で除算することによって、前記少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップと、
d)前記擬似正弦波信号を、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出するステップと
を含み、
前記ステップd)は、
d1)各高調波成分について、前記複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる前記基本波成分に対する複数の仮の位相差を設定するステップと、
d2)前記擬似正弦波信号を、前記複数の仮の位相差のうちの1つを含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出するステップと、
d3)前記理想的な正弦波信号の理想位置変化量を算出するステップと、
d4)前記仮の位置変化量を、前記理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出するステップと、
d5)前記位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、前記最大位置誤差を前記最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出するステップと、
d6)前記複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定するステップと、
d7)前記擬似正弦波信号を、前記真の位相差を含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステップb)は、各1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換をそれぞれ実行し、各1目盛の範囲における前記基本波成分の信号強度及び前記少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップであって、前記ステップc)は、各1目盛の範囲における前記少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップであって、前記ステップd)は、各1目盛の範囲における前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、各1目盛の範囲における前記位置変化量を検出するステップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップb)は、所定の少なくとも1目盛の範囲における前記擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、前記所定の少なくとも1目盛の範囲における前記基本波成分の信号強度及び前記少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップであって、前記ステップc)は、前記所定の少なくとも1目盛の範囲における前記少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップであって、前記ステップd)は、前記所定の少なくとも1目盛の範囲における各ゲインを、前記複数の目盛の全ての範囲における各ゲインとし、前記所定の少なくとも1目盛の範囲における対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記複数の目盛の全ての範囲における前記位置変化量を検出するステップである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップd2)~d7)は、前記複数の目盛の各1目盛の範囲において実行される、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップd2)~d6)は、前記複数の目盛のうちの少なくとも1目盛において実行され、前記ステップd7)は、前記ステップd2)~d6)に基づいて決定された前記真の位相差を、前記複数の目盛の全ての範囲における真の位相差として実行される、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップd2)~d7)は、前記少なくとも1つの高調波成分のうちの次数の小さい高調波成分から逐次的に繰り返される、請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップd2)~d7)は、前記少なくとも1つの高調波成分のうちの前記ゲインの大きい高調波成分から逐次的に繰り返される、請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の仮の位相差は、前記1周期の範囲において任意の間隔で大きくなる位相差の群である、請求項の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記擬似正弦波信号は90°位相が異なる2つの擬似正弦波信号であって、前記ステップd)は、前記2つの擬似正弦波信号の各々を、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算し、前記減算された2つの擬似正弦波信号のうちの位相が90°遅れた一方の擬似正弦波信号を他方の擬似正弦波信号で除算したものを逆正接演算することによって、前記位置変化量を検出するステップである、請求項1~の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップd)は、前記算出されたゲインから予め設定された大きさ以上のゲインを抽出し、前記擬似正弦波信号を、対応する予め設定された大きさ以上のゲインで乗算された高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出するステップである、請求項1~の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
移動体と、前記移動体の運動の方向に沿って配置された複数の目盛を有する目盛スケールと、前記複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、前記移動体の運動による位置変化量に応じた擬似正弦波信号を出力するセンサと、前記センサに接続され、信号処理部及び記憶部を備える制御部とを備える位置検出装置であって、
前記信号処理部は、
少なくとも1目盛の範囲における前記擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、前記フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出し、
前記少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を前記基本波成分の信号強度で除算することによって、前記少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出し、
前記擬似正弦波信号を、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出する
ことができるようになっており、
前記信号処理部は、更に、
各高調波成分について、前記複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる前記基本波成分に対する、設定された複数の仮の位相差を前記記憶部から読み出し、
前記擬似正弦波信号を、前記複数の仮の位相差のうちの1つを含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出し、
前記理想的な正弦波信号の理想位置変化量を前記記憶部から読み出し、
前記仮の位置変化量を、前記理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出し、
前記位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、前記最大位置誤差を前記最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出し、
前記複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定し、
前記擬似正弦波信号を、前記真の位相差を含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出する
ことができるようになっている、位置検出装置。
【請求項12】
エンコーダ、レゾルバ、又はインダクトシンである、請求項11に記載の位置検出装置。
【請求項13】
移動体の運動の方向に沿って配置された複数の目盛を読み取るセンサによって出力される擬似正弦波信号であって、前記複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、前記移動体の運動による位置変化量に応じた擬似正弦波信号を取得する信号処理部に、
a)少なくとも1目盛の範囲における前記擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、前記フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップと、
b)前記少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を前記基本波成分の信号強度で除算することによって、前記少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップと、
c)前記擬似正弦波信号を、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出するステップと
を実行させるプログラムであって、
前記ステップc)において、
c1)各高調波成分について、前記複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる前記基本波成分に対する、設定された複数の仮の位相差を読み出すステップと、
c2)前記擬似正弦波信号を、前記複数の仮の位相差のうちの1つを含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出するステップと、
c3)前記理想的な正弦波信号の理想位置変化量を読み出すステップと、
c4)前記仮の位置変化量を、前記理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出するステップと、
c5)前記位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、前記最大位置誤差を前記最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出するステップと、
c6)前記複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定するステップと、
c7)前記擬似正弦波信号を、前記真の位相差を含む、前記対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、前記位置変化量を検出するステップと
を実行させる、プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の回転運動、直線運動、等による位置変化量を検出するための方法、装置、及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体の回転運動、直線運動、等による位置変化量を検出するために、エンコーダ、レゾルバ、インダクトシン、等の位置検出装置が使用される。この位置検出装置は、複数の目盛が配置された目盛スケールと、その複数の目盛を読み取るセンサと、センサからの読み取り情報を移動体の位置変化量に変換する制御部とを備える。目盛スケール若しくはセンサの何れか一方が移動体に取り付けられている。移動体の位置変化をより高分解能に読み取るためには目盛スケールの1目盛の間隔を狭めればよいが、目盛は、例えば加工により刻まれるために、無限に細かくすることはできない。より詳細に移動体の位置変化量を測定するために、センサの読み取り情報に基づく出力信号を制御部で数値演算し、1目盛を細かく分割する方法がある。位置検出装置に使用されるセンサの出力信号は、通常、矩形波若しくは正弦波の形であって、1目盛を1周期360°とし、位相が90°異なる2相の信号である場合が多い。センサの出力信号が正弦波信号の場合には、2相信号は1目盛を1周期としたcosθ、sinθの形状となる。1目盛を分割する方法として、例えば2相信号を逆正接演算する手法が上げられる(すなわち、θ=tan―1(sinθ/cosθ))。この手法ではセンサの出力信号の振幅の検出分解能に応じ、位置分解能を向上させることができる。しかし、センサの出力信号には、理想的な1目盛1周期の正弦波信号とは別に、高調波成分の歪が含まれているために、移動体の真の位置変化量だけでなく、高調波成分の歪に応じて、実際の位置変化量とは無関係な量も含まれて測定される。すなわち指令した移動量に対する移動体の理想位置と位置検出装置により測定された測定位置との間の誤差(位置誤差)を算出した場合、高調波成分の影響が実際の位置変化量とは無関係な誤差として現れる。真の位置変化量及び位置誤差を測定するためには、センサの出力信号から、高調波成分の歪を除去する必要がある。
【0003】
このような問題により、特許文献1には、位相が90°異なる2相正弦波状信号に含まれる3次の高調波成分の歪を検出して除去する方法が開示され、特許文献2には、位相が90°異なる2相正弦波状信号に含まれる3次及び5次の高調波成分の歪を検出して除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-112862号公報
【文献】特開2008-304249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2においては、特定の高調波成分の歪を検出して除去することができる。しかし、センサの出力信号には、目盛の精度、センサの特性や方式、等によって様々な高調波成分の歪が含まれ、特定の高調波成分の歪を検出することができるだけでは、様々なセンサに対して統一的に高調波成分の歪を除去することはできない。例えば、センサの読み取り方式が光学式と磁気式とでは歪の特性が全く異なり、磁気式でも読み取る目盛が着磁リングと歯車とでは歪の特性が全く異なる。また、センサの出力信号を増幅するアンプ等の機器を用いる場合、それらの特性による高調波成分の歪も発生する。よって、ある場合では高調波成分の歪を除去することができたとしも、別の場合では高調波成分の歪を除去することができないこともある。
【0006】
従って、本発明の目的は、移動体の回転運動、直線運動、等による位置変化量を高精度に検出するために、様々な場合においても、統一的に高調波成分の歪を除去することができる方法、装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点によれば、移動体の運動による位置変化量を、運動の方向に沿って配置された複数の目盛をセンサで読み取ることによって検出する方法が、複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、位置変化量に応じた擬似正弦波信号をセンサから取得するステップa)と、少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップb)と、少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を基本波成分の信号強度で除算することによって、少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップc)と、擬似正弦波信号を、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出するステップd)とを含む。
【0008】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップb)は、各1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換をそれぞれ実行し、各1目盛の範囲における基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップであって、ステップc)は、各1目盛の範囲における少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップであって、ステップd)は、各1目盛の範囲における対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、各1目盛の範囲における位置変化量を検出するステップである。
【0009】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップb)は、所定の少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、所定の少なくとも1目盛の範囲における基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップであって、ステップc)は、所定の少なくとも1目盛の範囲における少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップであって、ステップd)は、所定の少なくとも1目盛の範囲における各ゲインを、複数の目盛の全ての範囲における各ゲインとし、所定の少なくとも1目盛の範囲における対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、複数の目盛の全ての範囲における位置変化量を検出するステップである。
【0010】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd)は、各高調波成分について、複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる基本波成分に対する複数の仮の位相差を設定するステップd1)と、擬似正弦波信号を、複数の仮の位相差のうちの1つを含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出するステップd2)と、理想的な正弦波信号の理想位置変化量を算出するステップd3)と、仮の位置変化量を、理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出するステップd4)と、位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、最大位置誤差を最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出するステップd5)と、複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定するステップd6)と、擬似正弦波信号を、真の位相差を含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出するステップd7)とを含む。
【0011】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd2)~d7)は、複数の目盛の各1目盛の範囲において実行される。
【0012】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd2)~d6)は、複数の目盛のうちの少なくとも1目盛において実行され、ステップd7)は、ステップd2)~d6)に基づいて決定された真の位相差を、複数の目盛の全ての範囲における真の位相差として実行される。
【0013】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd2)~d7)は、少なくとも1つの高調波成分のうちの次数の小さい高調波成分から逐次的に繰り返される。
【0014】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd2)~d7)は、少なくとも1つの高調波成分のうちのゲインの大きい高調波成分から逐次的に繰り返される。
【0015】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、複数の仮の位相差は、1周期の範囲において任意の間隔で大きくなる位相差の群である。
【0016】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、擬似正弦波信号は90°位相が異なる2つの擬似正弦波信号であって、ステップd)は、2つの擬似正弦波信号の各々を、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算し、減算された2つの擬似正弦波信号のうちの位相が90°遅れた一方の擬似正弦波信号を他方の擬似正弦波信号で除算したものを逆正接演算することによって、位置変化量を検出するステップである。
【0017】
本発明の一具体例によれば、上記方法において、ステップd)は、算出されたゲインから予め設定された大きさ以上のゲインを抽出し、擬似正弦波信号を、対応する予め設定された大きさ以上のゲインで乗算された高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出するステップである。
【0018】
本発明の別の観点によれば、位置検出装置は、移動体と、移動体の運動の方向に沿って配置された複数の目盛を有する目盛スケールと、複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、移動体の運動による位置変化量に応じた擬似正弦波信号を出力するセンサと、センサに接続され、信号処理部及び記憶部を備える制御部とを備え、信号処理部は、少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出し、少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を基本波成分の信号強度で除算することによって、少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出し、擬似正弦波信号を、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出することができるようになっている。
【0019】
本発明の一具体例によれば、位置検出装置において、信号処理部は、更に、各高調波成分について、前記複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる基本波成分に対する、設定された複数の仮の位相差を記憶部から読み出し、擬似正弦波信号を、複数の仮の位相差のうちの1つを含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出し、理想的な正弦波信号の理想位置変化量を記憶部から読み出し、仮の位置変化量を、理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出し、位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、最大位置誤差を最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出し、複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定し、擬似正弦波信号を、真の位相差を含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出することができるようになっている、
【0020】
本発明の一具体例によれば、位置検出装置は、エンコーダ、レゾルバ、又はインダクトシンである。
【0021】
本発明の別の観点によれば、移動体の運動の方向に沿って配置された複数の目盛を読み取るセンサによって出力される擬似正弦波信号であって、複数の目盛のうちの1目盛分を1周期とする、移動体の運動による位置変化量に応じた擬似正弦波信号を取得する信号処理部に、プログラムが、少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行し、フーリエ変換によって得られた各周波数成分のスペクトル強度から、基本波成分の信号強度及び少なくとも1つの高調波成分の信号強度を算出するステップa)と、少なくとも1つの高調波成分の信号強度の各々を基本波成分の信号強度で除算することによって、少なくとも1つの高調波成分の各々に対応するゲインを算出するステップb)と、擬似正弦波信号を、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出するステップc)とを実行させる。
【0022】
本発明の一具体例によれば、上記プログラムは、ステップc)において、各高調波成分について、複数の目盛のうちの1つを原点とし、1目盛分を1周期とする理想的な正弦波信号となる基本波成分に対する、設定された複数の仮の位相差を読み出すステップc1)と、擬似正弦波信号を、複数の仮の位相差のうちの1つを含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、仮の位置変化量を算出するステップc2)と、理想的な正弦波信号の理想位置変化量を読み出すステップc3)と、仮の位置変化量を、理想位置変化量で減算することによって、位置誤差を算出するステップc4)と、位置誤差のうちの最大である最大位置誤差及び最小である最小位置誤差を抽出し、最大位置誤差を最小位置誤差で減算することによって、各仮の位相差における位置誤差振幅を算出するステップc5)と、複数の仮の位相差について算出された各位置誤差振幅のうちの最も小さい位置誤差振幅を有する仮の位相差を、真の位相差として決定するステップc6)と、擬似正弦波信号を、真の位相差を含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量を検出するステップc7)とを実行させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、センサが目盛スケールの1目盛を検出した際に出力する正弦波信号に含まれる高調波成分の歪を除去することができ、移動体の位置変化量を高精度に検出することができる。
【0024】
なお、本発明の他の目的、特徴及び利点は、添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の一実施形態としての、目盛スケールが取り付けられた、回転運動する移動体の位置変化量を検出する位置検出装置を示す概略図である。
図1B】本発明の別の実施形態としての、センサが取り付けられた、回転運動する移動体の位置変化量を検出する位置検出装置を示す概略図である。
図2A】本発明の別の実施形態としての、目盛スケールが取り付けられた、直線運動する移動体の位置変化量を検出する位置検出装置を示す概略図である。
図2B】本発明の別の実施形態としての、センサが取り付けられた、直線運動する移動体の位置変化量を検出する位置検出装置を示す概略図である。
図3】制御部の概略図である。
図4A】センサが1目盛を検出した際に出力する擬似正弦波信号を示す。
図4B図4Aの擬似正弦波信号により算出した、移動体の位置変化に対する測定位置と理想位置とを示す。
図4C図4Aの擬似正弦波信号により算出した、移動体の位置変化に対する測定位置と理想位置との間の位置誤差を示す。
図5】本発明の一実施形態としてのフローチャートである。
図6図4Aの擬似正弦波信号に対してフーリエ変換を実行することによって得られたスペクトル強度を示す。
図7】移動体の位置変化量に対する位置誤差を示す。
図8】16条件の仮の位相差に対する位置誤差振幅を示す。
図9A図4Aの擬似正弦波信号による、高調波成分の歪が除去される前の移動体の指令位置に対する位置誤差を示す。
図9B】移動体の指令位置を目盛に換算した場合の図9Aの一部の拡大図である。
図9C図4Aの擬似正弦波信号による、高調波成分の歪が除去される前の1目盛を1周期1次とした位置誤差に対してフーリエ変換を実行することによって得られたスペクトル強度を示す。
図10A図4Aの擬似正弦波信号による、高調波成分の歪が除去された後の移動体の指令位置に対する位置誤差を示す。
図10B】移動体の指令位置を目盛に換算した場合の図10Aの一部の拡大図である。
図10C図4Aの擬似正弦波信号による、高調波成分の歪が除去された後の1目盛を1周期1次とした位置誤差に対してフーリエ変換を実行することによって得られたスペクトル強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
図1A図2Bは、複数の目盛103を有する目盛スケール102と、移動体105と、センサ201と、移動体105の運動による位置変化量Xを検出する位置検出装置101との関係を示す。位置検出装置101は、移動体105の運動による位置変化量Xを、運動の方向106に沿って配置された複数の目盛103を使用することによって検出する。ここで、目盛103とは、例えば加工により目盛スケール102に実際に刻まれたような視覚的に認識できるものだけではなく、目盛スケール102における所定の位置間隔を1目盛分の間隔としてセンサ201に対して読み取らせることができるものであればよく、目盛スケール102は、そのような目盛103が複数配置された部材である。また、隣接する2つの目盛103間の距離を表す1目盛の間隔104の大きさはXで示され、Xは、図1A及び図1Bのように回転運動する場合は角度、図2A及び図2Bのように直線運動する場合は距離を示す。図1Aの位置検出装置101は、目盛スケール102が取り付けられた、運動の方向106に沿って回転する移動体105の位置変化量Xを検出するロータリ型位置検出装置であって、図1Bの位置検出装置101は、センサ201が取り付けられた、運動の方向106に沿って回転する移動体105の位置変化量Xを検出するロータリ型位置検出装置であって、図2Aの位置検出装置101は、目盛スケール102が取り付けられた、運動の方向106に沿って直進する移動体105の位置変化量Xを検出するリニア型位置検出装置であって、図2Bの位置検出装置101は、センサ201が取り付けられた、運動の方向106に沿って直進する移動体105の位置変化量Xを検出するリニア型位置検出装置である。図3に示すように、位置検出装置101は、目盛103と1目盛の間隔104に対する位置変化を擬似正弦波信号として読み取るセンサ201、及びセンサ201に接続され、センサ201の読み取り情報を移動体105の位置変化量Xに変換する制御部202を備える。なお、位置検出装置101の代表例としては、エンコーダ、レゾルバ、インダクトシン、等があるが、本発明を適用することができれば特に原理は問われない。また、センサ201は、目盛スケール102の目盛103を読み取ることができれば特に原理は問われない。センサ201としては、例えば、光学式センサ、磁気式センサ、コイル、等がある。また、目盛スケール102はセンサ201が目盛103を読み取るための条件を満すものであればよく、材質、目盛103の配置の方法、等は問われない。変換された位置変化量Xは、表示装置210、等に出力され、又は、移動体105を駆動するモータ、移動体105の制御装置、等にフィードバックされてもよい。
【0028】
センサ201は、一般的に、目盛スケール102との相対運動が生じたとき、読み取られた目盛103と1目盛の間隔104に基づいて、複数の目盛103のうちの1目盛を1周期とし位置変化に応じて振幅が変化する擬似正弦波信号204を出力することができる。また、制御部202は、センサ201から出力された擬似正弦波信号204と、ある時間までに数えた目盛検出数Mから、移動体105の位置変化量Xに変換することができる。図1A図2Bに示すように、目盛スケール102とセンサ201との間の相対運動によって、図3に示すように、センサ201から図4Aに示すような位相が90°異なる2つの擬似正弦波信号204(A相信号(A(0))及びB相信号(B(0)))が出力される。制御部202は、センサ201によって測定された擬似正弦波信号204を取得し、2つの擬似正弦波信号204のうちの位相が90°遅れた一方の擬似正弦波信号(B相信号(B(0)))を他方の擬似正弦波信号(A相信号(A(0)))で除算したものを逆正接演算することによって1目盛を分割して、以下のように移動体105の仮の位置変化量X (0)を算出する。
【数1】

ここで、θ(0)=tan-1(B(0)/A(0))は0~2πの範囲となるように数値処理されている。また目盛検出数Mは、θ(0)=tan-1(B(0)/A(0))が0と2πの境界を超えるタイミングで、そのカウント値を増減させる等の処理で検出可能であって、その方法については問われない。図1A図1Bのようにそれぞれ、目盛スケール102、センサ201を回転運動させる場合には、制御部202は、移動体105の位置変化量Xを角度変位量として算出でき、また図2A図2Bのようにそれぞれ、目盛スケール102、センサ201を直線運動させる場合には、移動体105の位置変化量Xを直線変位量として算出できる。
【0029】
しかし、この算出された仮の位置変化量X (0)と理想とされる位置検出装置101より得られるべき移動体105の位置変化量Xpidealとの間には誤差が生じる(理想的には、X=Xpidealになるのがよい)。図1A及び図1Bの移動体105が等速に回転運動して、又は、図2A及び図2Bの移動体105が直線運動して移動体105の位置が変化するように移動指令した場合、図4Bに示すように、理想的には、移動体105が指令値に対して誤差なく回転運動又は直線運動が可能と仮定した場合、移動体105の回転運動又は直線運動によって移動体105の位置が増加するに従って、センサ201によって測定された擬似正弦波信号204から算出された位置変化量Xは線形的に増加し、移動体105の位置と理想的な位置変化量Xpidealとの間に位置誤差は無い。しかし、図4Cに示すように、実際には移動体105の位置が増加するに従って、センサ201によって測定された擬似正弦波信号204から算出された位置変化量Xと理想的な位置変化量Xpidealとの間には位置誤差が生じる。位置誤差には移動体105の移動機構の真の位置誤差だけでなく、センサ201の特性に起因する歪が余分な位置誤差として現れる。このセンサ201による位置誤差の原因は、センサ201によって測定された2つの擬似正弦波信号204が、1目盛分を1周期とする理想波となる基本波成分cos(θ)、sin(θ)に対し、次のように高調波成分(次数kが2以上の整数の場合の成分)を含んでいるためであって、このセンサ201の特性が、上記[数1]のように逆正接演算する際に位置変化量Xに影響を及ぼす。
【数2】

【数3】

ここで、a及びbは、1目盛を1周期とする1次の基本波成分の振幅を1とした場合の次数kの高調波成分のゲインであって、φa及びφbは、次数kの高調波成分の基本波成分に対する位相差である。なお、a、b、φa、φbは、一般的には、異なる目盛103であっても変化しないか、又は変化したとしても小さい相違である。
【0030】
このようなセンサ201による整数の次数kを有する高調波成分の歪を除去するために、制御部202は、図5に示すフローチャートの処理を実行することができる信号処理部203を備える。なお、制御部202は、信号処理部203による擬似正弦波信号204の処理に先立って、擬似正弦波信号204を取得するための入力部205、擬似正弦波信号204のノイズを除去するノイズフィルタ206、擬似正弦波信号204を増幅する増幅器207、及び擬似正弦波信号204をアナログ値からデジタル値に変換するA/D変換器208を備えていてもよい。デジタル値に変換された擬似正弦波信号204が、信号処理部203に出力される。また、制御部202は、信号処理部203によるデータの書き込み/読み出しを行う記憶部209を備えていてもよい。
【0031】
図5のフローチャートに示す処理を実行する際、移動体105は等速運動している、或いは、速度変化が少ない状態で移動していることが望ましい。信号処理部203は、図5のフローチャートに示す処理を開始すると、STEP101にて、センサ201によって出力された擬似正弦波信号204を取得する。次にSTEP102にて、取得した擬似正弦波信号204に基づいて、移動体105の仮の位置変化量X (0)を算出する。そして、STEP103にて、取得した擬似正弦波信号204に対してフーリエ変換を実行し、各次数kのスペクトル強度を得る。フーリエ変換は、複数の目盛103のうちの1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行されてもよいし、複数の目盛103のうちの幾つかの目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行されてもよい。少ない数の目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対してフーリエ変換を実行すれば高速にスペクトル強度を得ることができ、多い数の目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対してフーリエ変換を実行すれば高精度にスペクトル強度を得ることができる。また、フーリエ変換は、複数の目盛103の各々の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行されてもよい。この場合には各1目盛の範囲における、下記に説明されるゲインa、bが算出され、各1目盛の範囲におけるゲインa、bを使用して、各1目盛の範囲に応じた、下記に説明される位置変化量X (N)を算出することができる。また、測定される目盛が異なっても擬似正弦波信号204の波形がほとんど変化しない場合には、複数の目盛103から予めフーリエ変換が実行される目盛の範囲を決定しておき、その決定された所定の少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対してフーリエ変換が実行されてもよい。この場合、その所定の少なくとも1目盛の範囲におけるフーリエ変換を実行することによって得られた、下記に説明されるゲインa、bが、測定されていない目盛も含めた複数の目盛の全ての範囲に対して適用されて、下記に説明される位置変化量X (N)を算出することができる。算出されたゲインa、bは、記憶部209に保存されてもよく、位置変化量X (N)を算出する際に、記憶部209から読み出されてもよい。所定の少なくとも1目盛の範囲におけるゲインa、bを適用するとすれば、記憶部209の記憶容量を小さくすることができる。
【0032】
STEP104にて、STEP103にて実行されたフーリエ変換に応じたスペクトル強度によって、基本波成分の信号強度及び高調波成分の信号強度が算出される。図6に、擬似正弦波信号204のフーリエ変換によって得られたスペクトル強度の例を示す。次数kが1である基本波成分の他に、次数kが3及び5である高調波成分おいて信号強度が大きくなっており、センサ201が出力した擬似正弦波信号204には3次及び5次の高調波成分が含まれていることを図6は示している。
【0033】
STEP105にて、このスペクトル強度を使用して、表1のように、擬似正弦波信号204に含まれている各次数kの高調波成分の信号強度Ea、Ebを、(次数1の)基本波成分Ea、Ebの信号強度でそれぞれ除算することによって、擬似正弦波信号204に含まれている各次数kの高調波成分に対応するゲインa、bが算出される。
【表1】

フーリエ変換が、複数の目盛103の各1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行される場合には、各目盛103のゲインが算出され、複数の目盛103のうちの少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行される場合には、その目盛において算出されたゲインが、測定されていない目盛も含めた複数の目盛103の全ての範囲におけるゲインとされる。なお、図4Aのように位相が異なる2つの擬似正弦波信号204が出力される場合には、2つの擬似正弦波信号204の信号強度は大よそ同じであるために、2つの擬似正弦波信号204のうちの一方のみに対してフーリエ変換を実行することによって得られた高調波成分のゲインが2つの擬似正弦波信号204に含まれる高調波成分のゲインとして適用されてもよいし、2つの擬似正弦波信号204に対してフーリエ変換を実行することによって得られた2つの高調波成分のゲインを平均したものが2つの擬似正弦波信号204に含まれる高調波成分のゲインとして適用されてもよい。
【0034】
ステップ106にて、除去されるべき高調波成分の歪の次数kを決定し、その次数kの個数である除去回数Nを決定してもよい。例えば、ステップ105にて算出されたゲインのうち、予め設定された大きさ以上のゲインa、bを有する高調波成分の歪を、除去されるべき高調波成分の歪の次数kとして決定する。このように除去されるべき高調波成分の歪の次数kを決定することによって、擬似正弦波信号204から高効率に高調波成分の歪を除去することができる。例えば、図6に示されるスペクトル強度の場合においては、擬似正弦波信号204には3次及び5次の高調波成分が含まれており、3次及び5次の信号強度Ea、Eb、Ea、Ebを、基本波成分の信号強度Ea、Ebで除算することによって、擬似正弦波信号204に含まれている3次及び5次の高調波成分に対応するゲインa、b、a、bを算出し、除去されるべき高調波成分の歪の次数kは3次及び5次のため、除去されるべき高調波成分の歪の次数kの個数Nを2として決定してもよい。
【0035】
次にステップ107、ステップ108にて、各高調波成分について、複数の目盛103の1目盛分を1周期とし、複数の目盛103のうちの1つの目盛を原点とする基本波成分に対する複数の仮の位相差を設定する。なお、基本波成分は、センサ201によって出力される擬似正弦波信号204に高調波成分が含まれていない理想的な正弦波信号に相当する。図4Aに示すような位相が90°異なる2つの擬似正弦波信号204(A相信号(A(0))及びB相信号(B(0)))の場合には、A相信号の各高調波成分の複数の仮の位相差φaを設定し(個数をmとする)、B相信号の各高調波成分の複数の仮の位相差φbを設定してもよい(個数をnとする)。なお、m、nは任意の正の整数である。複数の仮の位相差φa、φbは、各高調波成分の次数kで異なっていてもよいし、全ての高調波成分の次数kで同じであってもよい。また、複数の仮の位相差φa、φbは、1周期の範囲において任意の間隔で大きくなる位相差の群である、すなわち2つの隣り合う仮の位相差の間隔が同じの群であってもよいし、異なっている群でもよい。例えば、擬似正弦波信号(基本波成分)の1周期の範囲は2πであるので、m=4、n=4とし、2つの隣り合う仮の位相差の間隔が同じの群にすれば、表2のように、各4個の仮の位相差φa、φbについて、2つの隣り合う仮の位相差の間隔がπ/2である、16個の仮の位相差の組合せ条件が設定されることとなる。ステップ107にて、4個の仮の位相差φaのうちの何れか1個が選択され、ステップ108にて、4個の仮の位相差φbのうちの何れか1個が選択される。すなわち、表2の16個の仮の位相差の組合せ条件の1つが設定される。なお、以下では、擬似正弦波信号204が、位相が90°異なるA相信号(A(0))及びB相信号(B(0))の場合について説明するが、擬似正弦波信号204が1つの信号の場合、擬似正弦波信号204が3つ以上の信号の場合についても同様であることは、容易に理解される。
【表2】
【0036】
なお、複数の仮の位相差は、図5に示すフローチャートの処理の実行している間に、各高調波成分について設定されてもよい。また、図5に示すフローチャートの処理の実行を開始する前に、各高調波成分について複数の仮の位相差を予め設定して記憶部209に保存しておき、ステップ107、ステップ108が開始される際に、複数の仮の位相差は、記憶部209から読み出されてもよい。
【0037】
ステップ109にて、ステップ107、ステップ108にて選択された仮の位相差を使用して、以下のように対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、移動体105の仮の位置変化量X (L) ij(又はθ(L) ij)を算出する。
【数4】

【数5】

【数6】

ここで、L=1~Nである。A(L-1)及びB(L-1)は、現在算出しようとしている次数kの1つ前までの高調波成分の歪が除去された2つの擬似正弦波信号204であって、A(L) 及びB(L) は、仮の位相差φa、φbを含む、現在算出しようとしている次数kまでの高調波成分の歪が除去された2つの擬似正弦波信号204である。次数kまでの高調波成分の歪が除去された2つの擬似正弦波信号204を使用して逆正接演算することによって、移動体105の仮の位置変化量X (L) ij(又はθ(L) ij)が算出される。例えば、図6のスペクトル強度のように3次及び5次の高調波成分の歪を除去する場合、まず3次の高調波成分の歪を除去するには、以下のようにして仮の位置変化量X (1) ij(又はθ(1) ij)を算出する。
【数7】

【数8】

【数9】

ここで、A(0)、B(0)、θ(0)は、上記のようにセンサ201によって測定された擬似正弦波信号204による歪除去の前のものである。
【0038】
ステップ110にて、まずは理想的な正弦波信号の理想位置変化量Xpidealを算出する。算出される位置変化量Xは、理想的には理想位置変化量Xpidealに一致している、又はそれらの誤差をできるだけ小さくすることが望ましい。なお、理想位置変化量Xpidealは、X・(M+θideal/2π)より算出され、θidealは、A相信号及びB相信号が理想的な正弦波信号である場合の値である。次に、ステップ109で算出された仮の位置変化量X (L) ij(又はθ(L) ij)を、理想位置変化量Xpideal(又はθideal)で減算することによって位置誤差ΔX (L) ij(又はδ(L) ij)を算出する。
【数10】

なお、理想位置変化量Xpideal(又はθideal)は、位置誤差ΔX (L) ij(又はδ(L) ij)を算出する毎に算出されてもよい。また、図5に示すフローチャートの処理の実行を開始する前に、理想位置変化量Xpideal(又はθideal)を予め設定して記憶部209に保存しておき、ステップ110が開始される際に、理想位置変化量Xpideal(又はθideal)は、記憶部209から読み出されてもよい。
【0039】
ステップ111にて、1周期における位置誤差ΔX (L) ij(又はδ(L) ij)のうちの最大である最大位置誤差ΔX (L) ijmax(又はδ(L) ijmax)及び最小である最小位置誤差ΔX (L) ijmin(又はδ(L) ijmin)を抽出し、以下のように最大位置誤差ΔX (L) ijmax(又はδ(L) ijmax)を最小位置誤差ΔX (L) ijmin(又はδ(L) ijmin)で減算することによって、各仮の位相差φa、φbにおける位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)を算出する。
【数11】

例えば、図7に示すように、複数の仮の位相差φa、φbのうちの1つについて、位置変化量Xに対する位置誤差ΔX (L)(又はδ(L))を算出し、その中から最大位置誤差ΔX (L) max(又はδ(L) max)及び最小位置誤差ΔX (L) min(又はδ(L) min)を抽出して、それらの差である位置誤差振幅AΔX (L)(又はAδ(L))を算出する。
【0040】
ステップ112にて、B相信号のn個の仮の位相差φbの全部についての位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)の算出が完了したか否かを判断し、完了していないならばステップ108に戻って仮の位相差φbを変更して、ステップ109~ステップ112を繰り返す。n個の仮の位相差φbの全部についての位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)の算出が完了したならば、ステップ113にて、A相信号のm個の仮の位相差φaの全部についての位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)の算出が完了したか否かを判断し、完了していないならばステップ107に戻って仮の位相差φaを変更して、ステップ108~ステップ113を繰り返す。例えば、表2のように設定された16個の仮の位相差φa、φbの組合せ条件の各々について位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)を算出する。
【0041】
ステップ114にて、複数の仮の位相差に基づいて算出された各位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)のうちの最も小さい位置誤差振幅AΔX (L) min(又はAδ(L) min)を有する仮の位相差φa、φbを、対応するk次の高調波成分の歪による真の位相差φa、φbとして決定する。例えば、図8に、表2のA相信号及びB相信号の仮の位相差φa、φbの16個の組合せ条件に対する、それぞれの位置誤差振幅AΔX (L) ij(又はAδ(L) ij)を示す。図8の場合には、No.3が最小の位置誤差振幅AΔX (L) minを有するので、表2より、仮の位相差φa=-π、φb=0が真の位相差φa、φbとして決定されることとなる。
【0042】
ステップ115にて、ステップ105にて算出されたゲインa、b、ステップ114にて決定された真の位相差φa、φbを使用して、以下のように、真の位相差φa、φbを含む、対応するゲインa、bで乗算された次数kの高調波成分で減算することによって、次数kの高調波成分の歪が除去された位置変化量X (L)(又はθ(L))を算出する。
【数12】

【数13】

【数14】

(L)及びB(L)は、真の位相差φa、φbを含む、現在算出しようとしている次数kまでの高調波成分の歪が除去された2つの擬似正弦波信号204である。次数kまでの高調波成分の歪が除去された2つの擬似正弦波信号204を使用して逆正接演算することによって、移動体105の位置変化量X (L)(又はθ(L))が算出される。例えば、図6のスペクトル強度で、特に顕著な3次及び5次の高調波成分の歪を除去する場合、まず3次の高調波成分の歪を除去するには、以下のようにして、ステップ105にて算出されたゲインa、b、ステップ114にて決定された真の位相差φa=-π、φb=0を使用して、位置変化量X (1)(又はθ(1))を算出する。
【数15】

【数16】

【数17】
【0043】
ステップ116にて、擬似正弦波信号204から、除去されるべき高調波成分の歪の次数kの全部についての減算が完了したか否かを判断し、完了していないならばステップ106に戻って除去されるべき高調波成分の歪の次数kを変更して、ステップ107~ステップ116を繰り返し実行することによって、除去回数Lに相当する次数kまでの高調波成分の歪が除去された位置変化量X (L)(又はθ(L))を算出する。
【数18】

【数19】

【数20】

例えば、図6のスペクトル強度で、特に顕著な3次及び5次の高調波成分の歪を除去する場合、上記のように3次の高調波成分の歪を除去した後、引き続いて5次の高調波成分の歪を除去するには、以下のようにして、ステップ105にて算出されたゲインa、b、ステップ114にて決定された真の位相差φa、φbを使用して、次数5まで(次数3及び5)の高調波成分の歪が除去された位置変化量X (2)(又はθ(2))を算出する。
【数21】

【数22】

【数23】
【0044】
除去されるべき高調波成分の歪の次数kの全部についての減算が完了したならば(ステップ106にて決定された除去回数Nまで完了したならば(L=N))、擬似正弦波信号204が、真の位相差φa、φbを含む、対応するゲインa、bで乗算された各高調波成分で減算され、それによって、ステップ117にて、除去されるべき高調波成分の歪の全てが除去された、位置変化量X (N)が検出されることとなる。例えば、図6のスペクトル強度で、特に顕著な3次及び5次の高調波成分の歪を除去する場合には、擬似正弦波信号204が、真の位相差φa、φbを含む、対応するゲインφa、φbで乗算された3次の高調波成分、及び、真の位相差φa、φbを含む、対応するゲインφa、φbで乗算された5次の高調波成分で減算され、それによって、ステップ117にて、除去されるべき3次及び5次の高調波成分の歪が除去された、位置変化量X (2)が検出されることとなる。
【0045】
ステップ107~ステップ114は任意のステップであって、図5に示すフローチャートの処理の実行を開始する前に、擬似正弦波信号204の各高調波成分の位相差を予め設定して記憶部209に保存しておき、ステップ115にて、この予め設定された位相差を記憶部209から読み出して真の位相差とし、擬似正弦波信号204を、この予め設定された位相差を含む、対応するゲインで乗算された各高調波成分で減算することによって、位置変化量X (N)を検出してもよい。これによって、高速に位置変化量X (N)は検出されることができる。
【0046】
ステップ106~ステップ115は、複数の目盛103の各1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行されてもよい。その場合には、各目盛103において真の位相差が決定されて、除去されるべき高調波成分の歪の全てが除去された、位置変化量X (N)が検出されることとなる。また、ステップ106~ステップ114は、複数の目盛103のうちの所定の少なくとも1目盛の範囲における擬似正弦波信号204に対して実行されてもよい。その場合には、そのステップ106~ステップ114にて決定されたその所定の少なくとも1目盛の範囲における真の位相差を、ステップ115にて、測定されていない目盛の範囲も含めた複数の目盛103の全ての範囲における真の位相差として決定し、その真の位相差を含む、対応するゲインが乗算された高調波成分で減算することによって、高調波成分の歪が除去された位置変化量X (L)(又はθ(L))を算出して、位置変化量X (N)が検出されることとなる。
【0047】
またステップ106~ステップ116は、ステップ106にて決定された除去されるべき高調波成分の歪の次数kについて、除去されるべき高調波成分のうちの次数kの小さい高調波成分から逐次的に繰り返されてもよいし、除去されるべき高調波成分のうちのステップ105にて算出されたゲインの大きい高調波成分から逐次的に繰り返されてもよい。
【0048】
なお、一度図5のフローチャートを実行して算出された各高調波成分のゲインa、b、真の位相差φa、φbは、記憶部209に保存されていてもよい。記憶部209にゲインa、bが保存されていれば、その後の移動体105の位置変化の測定においては、図5のフローチャートのように、ステップ103~ステップ105を省略して、ゲインa、bを再度算出しなくてもよい。また、記憶部209に真の位相差φa、φbが保存されていれば、その後の移動体105の位置変化の測定においては、図5のフローチャートのように、ステップ107~ステップ114を省略して、真の位相差φa、φbを再度算出しなくてもよい。つまり、センサ201が擬似正弦波信号204を検出する都度にゲインa、b、真の位相差φa、φbを記憶部209から読み出し、擬似正弦波信号204であるA相信号(A(0))及びB相信号(B(0))に対して上記[数18]~[数20]を除去回数Nに達する(L=Nになる)まで繰り返し演算して、高調波成分が除去された位置変化量Xを検出することができる。なお、図5のフローチャートに示す処理を実行する際は、移動体105は等速運動している、或いは、速度変化が少ない状態で移動していることが必要であったが、記憶部209から各高調波成分のゲインa、b、真の位相差φa、φbを読み出す場合には、移動体105は等速運動している、或いは、速度変化が少ない状態で移動していることは必要ではない。
【0049】
図9A図9Cにそれぞれ、図1Aのロータリ型位置検出装置のセンサ201によって出力された擬似正弦波信号204に基づく、制御部202によって高調波成分の歪を除去される前における、移動体105の指令位置に対する位置誤差、その一部を拡大した移動体105の1目盛中の指令位置に対する位置誤差、1目盛を1周期1次とした位置誤差に対してフーリエ変換を実行することによって得られたスペクトル強度を示す。図9A図9Bに示すように、測定された2つの擬似正弦波信号204によって測定された位置と移動体105の指令位置との間には位置誤差が生じており、図9Bによれば、その位置誤差の振幅は約20arcsecである。また、図9Cに示すように、測定された2つの擬似正弦波信号204による1目盛を1周期1次とした位置誤差に対するスペクトル強度によれば、高調波成分の次数のうち、4次で特に大きくなっている。
【0050】
次に、図10A図10Cにそれぞれ、図1Aのロータリ型位置検出装置のセンサ201によって出力された擬似正弦波信号204に基づく、制御部202によって高調波成分の歪を除去された後における、移動体105の指令位置に対する位置誤差、その一部を拡大した移動体105の1目盛中の指令位置に対する位置誤差、1目盛を1周期1次とした位置誤差に対してフーリエ変換を実行することによって得られたスペクトル強度を示す。信号処理部203において図5のフローチャートの処理を行うことによって、測定された2つの擬似正弦波信号204から高調波成分の歪が除去され、図10Bによれば、その位置誤差の振幅は約5arcsecとなって、歪除去の前後で誤差は約1/4に減少する。また、図10Cに示すように、測定された2つの擬似正弦波信号204から高調波成分の歪が除去されることによって、4次の高調波成分が格段に減少している。このように、制御部202によって、擬似正弦波信号204に含まれているセンサ201による高調波成分の歪を除去することができる。
【0051】
上記記載は特定の実施例についてなされたが、本発明はそれに限らず、本発明の原理と添付の特許請求の範囲の範囲内で種々の変更及び修正をすることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0052】
101 位置検出装置
102 目盛スケール
103 目盛
104 1目盛の間隔
105 移動体
106 運動の方向
201 センサ
202 制御部
203 信号処理部
204 擬似正弦波信号
205 入力部
206 ノイズフィルタ
207 増幅器
208 A/D変換器
209 記憶部
210 表示装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C