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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】試料支持体及び試料支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221208BHJP
【FI】
G01N27/62 F
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019570623
(86)(22)【出願日】2019-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2019000223
(87)【国際公開番号】W WO2019155803
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018021900
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康秀
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0203291(US,A1)
【文献】国際公開第2017/038710(WO,A1)
【文献】岩岡直樹,大腸NBI内視鏡画像のポリープ領域分割のための計算コストと認識率の評価,第17回画像センシングシンポジウム講演論文集,日本,2011年06月08日,p. IS1-09-1 - IS1-09-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、
少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、
を備え、
前記基板及び前記導電層には、前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面と前記第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されており、
前記第2表面、前記第3表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に、前記基板よりも水に対する親和性が高い保護膜が設けられている、
試料支持体。
【請求項2】
前記保護膜は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成されている、
請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている、
請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記貫通孔の幅は、1nm~700nmである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記導電層の材料は、白金又は金である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項6】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板と、
前記第1表面、前記第2表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に設けられた保護膜と、
を備え、
前記保護膜は、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛の成膜により形成されている、
試料支持体。
【請求項7】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備え、
前記第1表面、前記第2表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に、前記基板よりも水に対する親和性が高い保護膜が設けられている、
試料支持体。
【請求項8】
試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、
互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも前記第1表面に設けられた導電層と、を用意する第1工程であって、前記基板及び前記導電層には、前記導電層の前記基板とは反対側の第3表面と前記第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている、該第1工程と、
前記第2表面、前記第3表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に、前記基板よりも水に対する親和性が高い保護膜を設ける第2工程と、
を含む、試料支持体の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜は、原子層堆積法によって酸化チタン又は酸化亜鉛を成膜することにより形成される、
請求項8に記載の試料支持体の製造方法。
【請求項10】
試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、
互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を用意する第1工程と、
前記第1表面、前記第2表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛を成膜することにより保護膜を設ける第2工程と、
を含む、試料支持体の製造方法。
【請求項11】
試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、
導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を用意する第1工程と、
前記第1表面、前記第2表面、及び前記複数の貫通孔の各々の内面に、前記基板よりも水に対する親和性が高い保護膜を設ける第2工程と、
を含む、試料支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体及び試料支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体試料等の試料の質量分析において、試料をイオン化するための試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような試料支持体は、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6093492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような質量分析においては、イオン化された試料(試料イオン)が検出され、その検出結果に基づいて試料の質量分析が実施される。このような質量分析においては、信号強度(感度)の向上が望まれている。
【0005】
そこで、本開示は、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を備え、基板及び導電層には、導電層の基板とは反対側の第3表面と第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されており、第2表面、第3表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、基板よりも水に対する親和性が高い保護膜が設けられている。
【0007】
第1側面に係る試料支持体は、第2表面及び第3表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備える。例えば、毛細管現象によって基板の複数の貫通孔内に測定対象の試料の成分が進入した状態において、基板の第1表面に対してレーザ光が照射されることにより、導電層を介して当該レーザ光のエネルギーが試料の成分に伝達され、試料の成分がイオン化される。ここで、本発明者らの鋭意研究により、なるべく試料の成分を貫通孔内に留めておくことによってイオン化された試料(試料イオン)の信号強度が増大するという知見が得られた。そこで、第1側面に係る試料支持体では、基板の第2表面、導電層の第3表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、基板よりも水に対する親和性が高い保護膜が設けられている。このような保護膜が設けられていることにより、貫通孔の第2表面側の開口及び第3表面側の開口からの貫通孔内への試料の成分の流通を促進でき、試料の成分を貫通孔内に進入し易くすることができる。その結果、試料の成分を貫通孔内に留め易くすることができ、試料イオンの信号強度を向上させることができる。
【0008】
保護膜は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成されていてもよい。この場合、貫通孔内への試料の成分の流通を促進可能な親水性の保護膜が適切に実現される。
【0009】
基板は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されていてもよい。この場合、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板により、毛細管現象による試料の成分の移動を適切に実現することができる。
【0010】
貫通孔の幅は、1nm~700nmであってもよい。この場合、上述した毛細管現象による試料の成分の移動を適切に実現することができる。
【0011】
導電層の材料は、白金又は金であってもよい。この場合、導電層に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0012】
本開示の第2側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板と、第1表面、第2表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に設けられた保護膜と、を備え、保護膜は、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛の成膜により形成されている。
【0013】
第2側面に係る試料支持体では、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛により形成された保護膜が、上述した第1側面に係る試料支持体における導電層及び保護膜の両方の機能を発揮する。従って、第2側面に係る試料支持体によれば、上述した第1側面に係る試料支持体と同様の効果を奏すると共に、導電層の省略によって試料支持体の構成を簡素化することができる。
【0014】
本開示の第3側面に係る試料支持体は、試料のイオン化用の試料支持体であって、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を備え、第1表面、第2表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、基板よりも水に対する親和性が高い保護膜が設けられている。
【0015】
第3側面に係る試料支持体では、導電性を有する基板が採用されることにより、第1側面に係る試料支持体の導電層が省略されている。従って、第3側面に係る試料支持体によれば、上述した第1側面に係る試料支持体と同様の効果を奏すると共に、導電層の省略によって試料支持体の構成を簡素化することができる。
【0016】
本開示の第1側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、互いに対向する第1表面及び第2表面を有する基板と、少なくとも第1表面に設けられた導電層と、を用意する第1工程であって、基板及び導電層には、導電層の基板とは反対側の第3表面と第2表面とに開口する複数の貫通孔が形成されている、該第1工程と、第2表面、第3表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、基板よりも水に対する親和性が高い保護膜を設ける第2工程と、を含む。
【0017】
上記製造方法によれば、上述した第1側面に係る試料支持体を得ることができる。
【0018】
保護膜は、原子層堆積法によって酸化チタン又は酸化亜鉛を成膜することにより形成されてもよい。この場合、貫通孔内への試料の成分の流通を促進可能な親水性の保護膜を適切かつ容易に形成することができる。
【0019】
本開示の第2側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を用意する第1工程と、第1表面、第2表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛を成膜することにより保護膜を設ける第2工程と、を含む。
【0020】
上記製造方法によれば、上述した第2側面に係る試料支持体を得ることができる。
【0021】
本開示の第3側面に係る試料支持体の製造方法は、試料のイオン化用の試料支持体を製造する方法であって、導電性を有し、互いに対向する第1表面及び第2表面に開口する複数の貫通孔が形成された基板を用意する第1工程と、第1表面、第2表面、及び複数の貫通孔の各々の内面に、基板よりも水に対する親和性が高い保護膜を設ける第2工程と、を含む。
【0022】
上記製造方法によれば、上述した第3側面に係る試料支持体を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、試料イオンの信号強度を向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第1実施形態に係る試料支持体の平面図である。
図2図2は、図1に示されるII-II線に沿った試料支持体の断面図である。
図3図3は、図1に示される試料支持体の基板の拡大像を示す図である。
図4図4は、図1に示される試料支持体の製造方法の工程を示す図である。
図5図5は、図1に示される試料支持体の製造方法の工程を示す図である。
図6図6は、図1に示される試料支持体の製造方法の工程を示す図である。
図7図7は、滴下方式の質量分析方法の工程を示す図である。
図8図8は、滴下方式の質量分析方法の工程を示す図である。
図9図9は、吸い上げ方式の質量分析方法の工程を示す図である。
図10図10は、吸い上げ方式の質量分析方法の工程を示す図である。
図11図11は、吸い上げ方式の質量分析方法の工程を示す図である。
図12図12は、第2実施形態及び第3実施形態に係る試料支持体の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面に示される各部材(又は部位)の寸法又は寸法の比率は、説明をわかり易くするために、実際の寸法又は寸法の比率とは異なることがある。
【0026】
[第1実施形態に係る試料支持体の構成]
図1及び図2に示されるように、第1実施形態に係る試料支持体1は、基板2と、フレーム3と、導電層4と、を備えている。試料支持体1は、試料のイオン化用の試料支持体である。試料支持体1は、例えば質量分析を行う際に、測定対象の試料の成分をイオン化するために用いられる。基板2は、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bを有している。基板2には、複数の貫通孔2cが一様に(均一な分布で)形成されている。各貫通孔2cは、基板2の厚さ方向(第1表面2a及び第2表面2bに垂直な方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bに開口している。
【0027】
基板2は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、基板2の厚さは、例えば1μm~50μm程度である。基板2の厚さ方向から見た場合における貫通孔2cの形状は、例えば略円形である。貫通孔2cの幅は、例えば1nm~700nm程度である。貫通孔2cの幅とは、基板2の厚さ方向から見た場合における貫通孔2cの形状が略円形である場合には、貫通孔2cの直径を意味し、当該形状が略円形以外である場合には、貫通孔2cに収まる仮想的な最大円柱の直径(有効径)を意味する。
【0028】
フレーム3は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、フレーム3は、接着層5によって基板2の第1表面2aに固定されている。接着層5の材料としては、放出ガスの少ない接着材料(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)が用いられることが好ましい。フレーム3は、基板2の厚さ方向から見た場合に基板2と略同一の外形を有している。フレーム3には、開口3aが形成されている。基板2のうち開口3aに対応する部分は、後述する毛細管現象によって試料の成分を第1表面2a側に移動させるための実効領域Rとして機能する。
【0029】
フレーム3は、例えば、絶縁性材料によって長方形板状に形成されている。基板2の厚さ方向から見た場合におけるフレーム3の一辺の長さは、例えば数cm程度であり、フレーム3の厚さは、例えば1mm以下である。基板2の厚さ方向から見た場合における開口3aの形状は、例えば円形であり、その場合における開口3aの直径は、例えば数mm~数十mm程度である。このようなフレーム3によって、試料支持体1のハンドリングが容易化すると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
【0030】
導電層4は、基板2の第1表面2aに設けられている。具体的には、導電層4は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに一続きに(一体的に)形成されている。導電層4は、実効領域Rにおいて、基板2の第1表面2aのうち貫通孔2cが形成されていない部分を覆っている。すなわち、各貫通孔2cの導電層4側の開口は、導電層4によって塞がれていない。つまり、各貫通孔2cは、導電層4の基板2とは反対側の第3表面4aと第2表面2bとに開口しており、実効領域Rにおいては、各貫通孔2cが開口3aに露出している。
【0031】
導電層4は、導電性材料によって形成されている。ただし、導電層4の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
【0032】
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層4が形成されていると、後述する試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付着した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付着した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層4の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
【0033】
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、実効領域Rにおいて基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層4が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光のエネルギーを、導電層4を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層4の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
【0034】
以上の観点から、導電層4の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層4は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層4の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0035】
実効領域Rに対応する領域において、基板2の第2表面2b、導電層4の第3表面4a、及び複数の貫通孔2cの各々の内面(すなわち、隣り合う貫通孔2c間の隔壁部2dの側面)に、基板2よりも水に対する親和性が高い保護膜6が設けられている。保護膜6は、基板2の第2表面2b、導電層4の第3表面4a、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に一続きに(一体的に)形成されている。本実施形態では、実効領域Rに対応しない領域(すなわち、基板2の厚み方向から見てフレーム3と重なる領域)において、保護膜6は、第2表面2b、複数の貫通孔2cの各々の内面、及び接着層5のフレーム3とは反対側の表面に一続きに(一体的に)形成されている。ただし、保護膜6は、実効領域Rに対応する領域にのみ設けられていてもよい。或いは、保護膜6は、基板2及びフレーム3の全面(導電層4が設けられている部分については導電層4の表面)を覆うように設けられてもよい。
【0036】
保護膜6は、例えば、酸化チタン(TiO2)又は酸化亜鉛(ZnO)の成膜により形成されている。保護膜6は、例えば、原子層堆積法によって形成されている。保護膜6の厚さは、例えば1nm~50nmである。
【0037】
図3は、基板2の厚さ方向から見た場合における基板2の拡大像を示す図である。図3において、黒色の部分は貫通孔2cであり、白色の部分は隔壁部2dである。図3に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の貫通孔2cが一様に形成されている。実効領域Rにおける貫通孔2cの開口率(基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域Rに対して全ての貫通孔2cが占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に60~80%であることが好ましい。複数の貫通孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の貫通孔2c同士が互いに連結していてもよい。
【0038】
図3に示される基板2は、Al(アルミニウム)を陽極酸化することにより形成されたアルミナポーラス皮膜である。例えば、Al基板に対して陽極酸化処理が施されることにより、Al基板の表面部分が酸化されると共に、Al基板の表面部分に複数の細孔(貫通孔2cになる予定の部分)が形成される。続いて、酸化された表面部分(陽極酸化皮膜)がAl基板から剥離され、剥離された陽極酸化皮膜に対して上記細孔を拡幅するポアワイドニング処理が施されることにより、上述した基板2が得られる。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。
【0039】
[第1実施形態に係る試料支持体の製造方法]
次に、図2及び図4図6を参照して、試料支持体1の製造方法について説明する。図4図6の各々は、実効領域Rに対応する部分の拡大断面図である。まず、図4に示されるように、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2が用意される。基板2は、例えば、上述したようなバルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られる。
【0040】
続いて、図5に示されるように、基板2及び導電層4(すなわち、基板2の第1表面2aに導電層4が設けられた構造体)が用意される(第1工程)。本実施形態では、基板2の第1表面2aに接着層5を介してフレーム3が固定された後に、導電層4が、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)、開口3aの内面、及びフレーム3における基板2とは反対側の表面3bに一続きに形成される。
【0041】
続いて、図6に示されるように、第2表面2b、第3表面4a、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に、基板2よりも水に対する親和性が高い保護膜6が設けられる(第2工程)。本実施形態では、保護膜6は、原子層堆積法によって酸化チタン又は酸化亜鉛を成膜することにより形成される。以上により、図2に示した試料支持体1が得られる。
【0042】
[滴下方式の試料のイオン化方法]
次に、図7及び図8を参照して、試料支持体1を用いた滴下方式の試料のイオン化方法について説明する。滴下方式とは、試料支持体1の第3表面4aに対して試料Sを含む溶液を滴下する測定方式である。試料支持体1は、このような滴下方式の試料のイオン化方法に用いることができる。ここでは一例として、試料のイオン化のために照射されるエネルギー線としてレーザ光を用いたレーザ脱離イオン化法(質量分析装置20による質量分析方法の一部)について説明する。図7及び図8においては、基板2に形成された複数の貫通孔2cのうち、実効領域Rに対応する貫通孔2cのみを模式的に示している。また、試料支持体1における導電層4、接着層5及び保護膜6については、図示を省略している。また、図1及び図2に示される試料支持体1と図7及び図8に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
【0043】
まず、上述した試料支持体1が用意される(第1工程)。試料支持体1は、レーザ脱離イオン化法及び質量分析方法を実施する者によって製造されることで用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から取得されることで用意されてもよい。
【0044】
続いて、図7の(a)に示されるように、スライドグラス(載置部)8の載置面8aに第2表面2bが対向するように載置面8aに試料支持体1が載置される(第2工程)。スライドグラス8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面8aとなっている。なお、スライドグラス8に限定されず、導電性を確保し得る部材(例えば、ステンレス等の金属材料等からなる基板等)を載置部として用いることができる。本実施形態では一例として、試料支持体1は、第2表面2bとスライドグラス8の載置面8aとの間に隙間が設けられるように、導電性のテープ9(例えば、カーボンテープ等)によってスライドグラス8に固定される。当該隙間は、例えば、後述する試料Sを含む溶液のうち第2表面2b側から流出した溶液を逃すための領域として機能し得る。すなわち、当該溶液が基板2の第1表面2a上(導電層4の第3表面4a上)に溢れ出て試料のイオン化を阻害してしまうことを防止する役割を果たす。また、テープ9は、フレーム3の表面3b上の導電層4に接触し、且つ、スライドグラス8の載置面8aに接触することにより、試料支持体1をスライドグラス8に対して固定する。テープ9は、試料支持体1の一部であってもよいし、試料支持体1とは別に用意されてもよい。テープ9が試料支持体1の一部である場合(すなわち、試料支持体1がテープ9を備える場合)には、例えば、テープ9は、予め、基板2の周縁部において第1表面2a側に固定されていてもよい。本実施形態では、テープ9は、フレーム3の表面3b上に形成された導電層4上に固定されていてもよい。
【0045】
続いて、図7の(a)に示されるように、第3表面4a側から複数の貫通孔2c(実効領域Rに対応する複数の貫通孔2c)に対して、ピペット10によって、試料Sを含む溶液が滴下される(第3工程)。これにより、図7の(b)に示されるように、試料Sを含む溶液が、各貫通孔2cの第3表面4a側の開口から各貫通孔2c内に進入し、試料Sを含む溶液の一部が各貫通孔2c内に留まる。
【0046】
ここで、試料支持体1では、保護膜6(図2及び図6参照)が設けられていることにより、貫通孔2cの第3表面4a側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通が促進されている。すなわち、第3表面4a上(保護膜6上)に滴下された試料Sを含む溶液が、親水性の保護膜6を伝って、各貫通孔2cの内部に進入し易くなっている。つまり、保護膜6は、第3表面4a側の溶液を各貫通孔2c内へと適切に導く役割を果たす。これにより、試料Sの成分S1を各貫通孔2c内に適切に進入させることができる。
【0047】
続いて、図8に示されるように、各貫通孔2c内に試料Sの成分S1が留まっている試料支持体1がスライドグラス8に固定された状態で、スライドグラス8、試料支持体1及び試料Sが、質量分析装置20の支持部21(例えば、ステージ)上に載置される。続いて、質量分析装置20の電圧印加部22によって、スライドグラス8の載置面8a及びテープ9を介して試料支持体1の導電層4(図2参照)に電圧が印加される。本実施形態では、保護膜6が設けられていない部分(フレーム3上に設けられた導電層4の部分)において、導電層4とテープ9とが導通している。ただし、フレーム3が設けられない場合等において、導電層4とテープ9とが保護膜6を介して接触させられてもよい。保護膜6は、非常に薄い膜であり、導電層4とテープ9との間の導通の大きな妨げとはならないからである。
【0048】
続いて、質量分析装置20のレーザ光照射部23によって、フレーム3の開口3aを介して、基板2の第1表面2a(導電層4の第3表面4a)に対してレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)に対して照射される。本実施形態では、レーザ光照射部23は、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。なお、実効領域Rに対応する領域に対するレーザ光Lの走査は、支持部21及びレーザ光照射部23の少なくとも1つが動作させられることにより、実施可能である。
【0049】
このように、導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、基板2の貫通孔2c内(特に第1表面2a側)に留まっている試料Sの成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される(第4工程)。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層4(図2参照)から、貫通孔2c内に留まっている試料Sの成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した試料Sの成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の第1工程~第4工程が、試料支持体1を用いた試料Sのイオン化方法(ここでは、レーザ脱離イオン化法)に相当する。なお、導電層4の第3表面4aには保護膜6が設けられているが、上述した通り、当該保護膜6は非常に薄い膜であり、レーザ光Lを導電層4に照射する上で大きな妨げとはならない。
【0050】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1と質量分析装置20のイオン検出部24との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層4とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部24によって試料イオンS2が検出される(第5工程)。本実施形態では、質量分析装置20は、飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の第1工程~第5工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0051】
[吸い上げ方式の試料のイオン化方法]
次に、図9図11を参照して、試料支持体1を用いた吸い上げ方式の試料のイオン化方法について説明する。吸い上げ方式とは、試料支持体1の第2表面2bが試料Sに対向するように試料支持体1を試料S上に配置する測定方式である。試料支持体1は、このような吸い上げ方式の試料のイオン化方法に用いることができる。ここでは一例として、試料のイオン化のために照射されるエネルギー線としてレーザ光を用いたレーザ脱離イオン化法(質量分析装置20による質量分析方法の一部)について説明する。図9図11においては、試料支持体1における貫通孔2c、導電層4、接着層5及び保護膜6の図示が省略されている。また、図1及び図2に示される試料支持体1と図9図11に示される試料支持体1とでは、図示の便宜上、寸法の比率等が異なっている。
【0052】
まず、滴下方式と同様に、上述した試料支持体1が用意される(第1工程)。続いて、図9の(a)に示されるように、試料Sがスライドグラス8の載置面8aに載置される。続いて、図9の(b)に示されるように、試料Sに基板2の第2表面2bが対向するように、試料支持体1が試料S上に配置される(第2工程)。すなわち、第2表面2bが保護膜6を介して試料Sの表面(上面)に接触するように、試料支持体1が配置される。この状態で、図10の(a)に示されるように、スライドグラス8に対して試料支持体1が固定される。このとき、試料Sは、基板2の厚さ方向から見た場合に実効領域R内に配置される。また、試料支持体1は、テープ9によって、スライドグラス8に対して固定される。ここで、試料Sは、例えば組織切片等の薄膜状の生体試料(含水試料)である。
【0053】
続いて、図10の(b)に示されるように、スライドグラス8と試料支持体1との間に試料Sが配置された状態で、試料Sの成分S1が、毛細管現象によって複数の貫通孔2c(図2及び図6参照)を介して基板2の第1表面2a側(導電層4の第3表面4a側)に移動する。基板2の第1表面2a側に移動した成分S1は、表面張力によって第1表面2a側に留まる。なお、試料Sが乾燥試料である場合には、試料Sの粘性を低くするための溶液(例えばアセトニトリル、メタノール、アセトン等の有機溶媒)が試料Sに加えられる。これにより、毛細管現象によって複数の貫通孔2cを介して基板2の第1表面2a側に試料Sの成分S1を移動させることができる。
【0054】
ここで、試料支持体1では、保護膜6(図2及び図6参照)が設けられていることにより、貫通孔2cの第2表面2b側の開口から貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通が促進されている。すなわち、試料Sの成分S1が、保護膜6を伝って、各貫通孔2cの第2表面2b側の開口から各貫通孔2c内に進入し易くなっている。つまり、保護膜6は、第2表面2b側の試料Sの成分S1を各貫通孔2c内へと適切に導く役割を果たす。これにより、試料Sの成分S1を各貫通孔2c内に適切に進入させることができる。
【0055】
続いて、図11に示されるように、各貫通孔2c内に試料Sの成分S1が留まっている試料支持体1がスライドグラス8に固定された状態で、スライドグラス8、試料支持体1及び試料Sが、質量分析装置20の支持部21上に載置される。続いて、質量分析装置20の電圧印加部22によって、スライドグラス8の載置面8a及びテープ9を介して試料支持体1の導電層4(図2参照)に電圧が印加される。本実施形態では、保護膜6が設けられていない部分(フレーム3上に設けられた導電層4の部分)において、導電層4とテープ9とが導通している。
【0056】
続いて、質量分析装置20のレーザ光照射部23によって、フレーム3の開口3aを介して、基板2の第1表面2a(導電層4の第3表面4a)に対してレーザ光Lが照射される。つまり、レーザ光Lは、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口3aに対応する領域(すなわち、実効領域Rに対応する領域)に対して照射される。本実施形態では、レーザ光照射部23は、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを走査する。
【0057】
このように、導電層4に電圧が印加されつつ基板2の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、基板2の貫通孔2c内(特に第1表面2a側)に留まっている試料Sの成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される(第3工程)。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層4(図2参照)から、貫通孔2c内に留まっている試料Sの成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した試料Sの成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の第1工程~第4工程が、試料支持体1を用いた試料Sのイオン化方法(ここでは、レーザ脱離イオン化法)に相当する。
【0058】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1と質量分析装置20のイオン検出部24との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層4とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部24によって試料イオンS2が検出される(第5工程)。本実施形態では、質量分析装置20は、飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の第1工程~第5工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0059】
[第1実施形態の作用効果]
以上述べたように、試料支持体1は、第2表面2b及び第3表面4aに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2を備えている。例えば、毛細管現象によって基板2の複数の貫通孔2c内に測定対象の試料Sの成分S1が進入した状態において、基板2の第1表面2aに対してレーザ光が照射されることにより、導電層4を介して当該レーザ光のエネルギーが試料Sの成分S1に伝達され、試料Sの成分S1がイオン化される。ここで、本発明者らの鋭意研究により、なるべく試料Sの成分S1を貫通孔2c内に留めておくことによってイオン化された試料(試料イオンS2)の信号強度が増大するという知見が得られた。そこで、試料支持体1では、基板2の第2表面2b、導電層4の第3表面4a、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に、基板2よりも水に対する親和性が高い保護膜6が設けられている。このような保護膜6が設けられていることにより、貫通孔2cの第2表面2b側の開口及び第3表面4a側の開口からの貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進でき、試料Sの成分S1を貫通孔2c内に進入し易くすることができる。その結果、試料Sの成分S1を貫通孔2c内に留め易くすることができ、試料イオンS2の信号強度を向上させることができる。
【0060】
また、保護膜6は、酸化チタン又は酸化亜鉛の成膜により形成されている。この場合、貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進可能な親水性の保護膜6が適切に実現される。
【0061】
また、基板2は、バルブ金属又はシリコンを陽極酸化することにより形成されている。この場合、バルブ金属又はシリコンの陽極酸化によって得られた基板2により、毛細管現象による試料Sの成分S1の移動を適切に実現することができる。
【0062】
また、貫通孔2cの幅は、1nm~700nmである。この場合、上述した毛細管現象による試料Sの成分S1の移動を適切に実現することができる。
【0063】
また、導電層4の材料は、白金又は金である。この場合、導電層4に一定の電圧を容易に且つ安定して付与することができる。
【0064】
また、上述した試料支持体1の製造方法によれば、試料支持体1を適切に得ることができる。また、試料支持体1の製造方法における第2工程では、保護膜6は、原子層堆積法によって酸化チタン又は酸化亜鉛を成膜することにより形成される。これにより、貫通孔2c内への試料Sの成分S1の流通を促進可能な親水性の保護膜6を適切かつ容易に形成することができる。
【0065】
[第2実施形態]
図12の(a)は、第2実施形態に係る試料支持体1Aの実効領域Rに対応する部分の拡大断面図である。図12の(a)に示されるように、試料支持体1Aは、導電層4が省略されると共に、第1表面2a、第2表面2b、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に設けられた保護膜6Aを備える点で、試料支持体1と相違する。保護膜6Aは、導電性を有する材料によって形成されている。具体的には、保護膜6Aは、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛の成膜により形成されている。保護膜6Aは、上述した試料支持体1における導電層4及び保護膜6の両方の機能を兼ね備えている。
【0066】
次に、試料支持体1Aの製造方法について説明する。まず、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2が用意される(第1工程)。続いて、基板2の第1表面2aに接着層5を介してフレーム3が固定される。続いて、図12の(a)に示されるように、第1表面2a、第2表面2b、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に、例えば原子層堆積法によって導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛を成膜することにより、保護膜6Aが設けられる(第2工程)。以上により、上述した試料支持体1Aが得られる。
【0067】
試料支持体1Aでは、導電性酸化チタン又は導電性酸化亜鉛により形成された保護膜6Aが、上述した試料支持体1における導電層4及び保護膜6の両方の機能を発揮する。従って、試料支持体1Aによれば、上述した試料支持体1と同様の効果を奏すると共に、導電層4の省略によって試料支持体の構成を簡素化することができる。
【0068】
[第3実施形態]
図12の(b)は、第3実施形態に係る試料支持体1Bの実効領域Rに対応する部分の拡大断面図である。図12の(b)に示されるように、試料支持体1Bは、導電性を有する基板2Aを備えると共に導電層4が省略されている点(導電層4が省略されたことにより、保護膜6とは設けられる位置が一部異なる保護膜6Bを備える点)で、試料支持体1と相違する。基板2Aは、導電性を有する点で基板2と相違しており、その他の構成については基板2と同様である。基板2Aは、例えばシリコンを陽極酸化することによって形成されている。また、保護膜6Bは、第1表面2a、第2表面2b、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に設けられている点で、保護膜6と相違している。保護膜6Bの材料としては、保護膜6と同一の材料を用いることができる。
【0069】
次に、試料支持体1Bの製造方法について説明する。まず、導電性を有し、互いに対向する第1表面2a及び第2表面2bに開口する複数の貫通孔2cが形成された基板2Aが用意される(第1工程)。続いて、基板2の第1表面2aに接着層5を介してフレーム3が固定される。続いて、図12の(b)に示されるように、第1表面2a、第2表面2b、及び複数の貫通孔2cの各々の内面に、例えば原子層堆積法によって酸化チタン又は酸化亜鉛を成膜することにより、保護膜6Bが設けられる(第2工程)。以上により、上述した試料支持体1Bが得られる。
【0070】
試料支持体1Bでは、導電性を有する基板2Aが採用されることにより、試料支持体1の導電層4が省略されている。従って、試料支持体1Bによれば、上述した試料支持体1と同様の効果を奏すると共に、導電層4の省略によって試料支持体の構成を簡素化することができる。
【0071】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0072】
例えば、導電層4は、少なくとも基板2の第1表面2aに設けられていれば、基板2の第2表面2b及び貫通孔2cの内面に設けられていなくてもよいし、基板2の第2表面2b及び貫通孔2cの内面に設けられていてもよい。導電層4が貫通孔2cの内面にも設けられる場合、上述した保護膜6は、貫通孔2cの内面に設けられた導電層4を覆うように設けられてもよい。また、上述した試料支持体1を用いた試料のイオン化方法においては、テープ9以外の手段(例えば、接着剤、固定具等を用いる手段)で、スライドグラス8に対して試料支持体1が固定されてもよい。
【0073】
また、質量分析装置20においては、レーザ光照射部23が、実効領域Rに対応する領域に対してレーザ光Lを一括で照射し、イオン検出部24が、当該領域の二次元情報を維持しながら、試料イオンS2を検出してもよい。つまり、質量分析装置20は、投影型質量分析装置であってもよい。また、上述した試料のイオン化法は、試料Sを構成する分子の質量分析(イメージング質量分析を含む)だけでなく、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
【0074】
また、試料支持体1,1A,1Bの用途は、レーザ光Lの照射による試料Sのイオン化に限定されない。試料支持体1,1A,1Bは、レーザ光L以外のエネルギー線(例えば、イオンビーム、電子線等)の照射による試料Sのイオン化に用いられてもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、基板2に1つの実効領域Rが設けられていたが、基板2に複数の実効領域Rが設けられていてもよい。また、複数の貫通孔2cは、実効領域Rのみに形成されている必要はなく、上述した実施形態のように、例えば、基板2の全体に形成されていてもよい。つまり、複数の貫通孔2cは、少なくとも実効領域Rに形成されていればよい。また、上述した実施形態では、1つの実効領域Rに1つの試料Sが対応するように試料Sが配置されたが、1つの実効領域Rに複数の試料Sが対応するように試料Sが配置されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1,1A,1B…試料支持体、2,2A…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、2c…貫通孔、4…導電層、4a…第3表面、6,6A,6B…保護膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12