(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】水蒸気電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20221208BHJP
H01M 8/04007 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/043 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20221208BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221208BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20221208BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20221208BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C25B9/00 A
H01M8/04007
H01M8/04701
H01M8/04746
H01M8/043
H01M8/0656
H01M8/18
H01M8/12 101
H01M8/00 Z
C25B1/042
C25B9/23
C01B3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020031426
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】土肥 康俊
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-537815(JP,A)
【文献】特開平06-163064(JP,A)
【文献】特表2019-534940(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03609006(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気電解システムであって、
高温の水蒸気を電気分解する固体酸化物形水電解セルと、
水を蒸発させて前記固体酸化物形水電解セルにより電気分解される水蒸気を生成する蒸発凝縮器と、
前記固体酸化物形水電解セルの燃料側から排出される燃料側オフガスを昇圧する第1昇圧器と、
前記蒸発凝縮器により生成された水蒸気と、前記第1昇圧器により昇圧された昇圧後の燃料側オフガスとが供給される燃料側熱交換器であって、供給された燃料側オフガスから水蒸気への熱交換を行い、昇温させた水蒸気を前記固体酸化物形水電解セルの前記燃料側に供給する燃料側熱交換器と、
を備える、水蒸気電解システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水蒸気電解システムであって、
前記第1昇圧器は、前記燃料側熱交換器から排出される燃料側オフガスを、水蒸気が凝縮しない範囲で断熱圧縮する、水蒸気電解システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水蒸気電解システムであって、さらに、
前記蒸発凝縮器内で昇圧後の燃料側オフガスと、水および水蒸気との少なくとも一方と熱交換を行う第1蓄熱材を備え、
前記第1昇圧器は、
前記水蒸気電解システムに対
して要求される水蒸気の生成量である要求負荷が
所定量よりも小さい低負荷の場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度が前記第1蓄熱材の融解温度よりも高くなるように、燃料オフガスを昇圧し、
前記要求負荷が
前記所定量よりも高い高負荷の場合に、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度が前記第1蓄熱材の凝固温度よりも低くなる範囲で、燃料オフガスを昇圧する、水蒸気電解システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水蒸気電解システムであって、さらに、
水を蒸発させて前記固体酸化物形水電解セルにより電気分解される水蒸気を生成する蒸発器と、
水を貯蔵する水タンクと、
前記水タンクから、前記蒸発器と前記蒸発凝縮器とのそれぞれに水を供給する水分配器と、
前記水分配器により前記蒸発器に供給された水を加熱する外部熱源と、
を備え、
前記第1蓄熱材は、蓄熱後に融解して放熱後に凝固する性質を有し、
前記水分配器は、
前記要求負荷が
前記低負荷の場合に、前記蒸発凝縮器に供給する水の量を第1供給量とし、
前記要求負荷が
前記高負荷の場合に、前記蒸発凝縮器に供給する水の量を前記第1供給量よりも多い第2供給量とし、
前記要求負荷が
前記低負荷から
前記高負荷に変化した場合に、前記第2供給量に加えて、一時的に増加させた水を供給し、
前記要求負荷が
前記高負荷から
前記低負荷に変化した場合に、水の供給を一時的に停止する、水蒸気電解システム。
【請求項5】
前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池としても機能する請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の水蒸気電解システムであって、さらに、
前記蒸発凝縮器内で昇圧後の燃料側オフガスと、水および水蒸気との少なくとも一方と熱交換を行う第2蓄熱材
であって、吸熱を伴う脱水反応および発熱を伴う水和反応を生じさせる第2蓄熱材と、
前記第2蓄熱材の圧力を調整する圧力調整部と、
を備え、
前記第2蓄熱材は、前記圧力制御部による圧力の調整により、前記脱水反応と前記水和反応とのそれぞれが生じた際の反応前後の温度が制御され、
前記第1昇圧器は、
前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度が前記第2蓄熱材の
前記脱水反応による吸熱時の蓄熱温度よりも高くなるように、燃料オフガスを昇圧し、
前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している場合に、昇圧後の燃料オフガスの蒸発温度が前記第2蓄熱材の
前記水和反応による発熱時の放熱温度よりも低くなる範囲で、燃料オフガスを昇圧し、
前記圧力調整部は、前記蓄熱温度が前記放熱温度よりも高くなるように、前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している状態から水蒸気電解として機能する状態に変化した場合の前記第2蓄熱材の圧力を、前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している状態から燃料電池として機能する状態に変化した場合の前記第2蓄熱材の圧力をよりも低くする、水蒸気電解システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水蒸気電解システムであって、
水を貯蔵する蓄熱用水タンクと、
前記蓄熱用水タンクから水が供給され、前記固体酸化物形水電解セルの空気側から排出される空気側オフガスが供給される蓄熱用蒸発器であって、供給された空気側オフガスから水への熱交換を行い、熱交換後の水蒸気を前記第2蓄熱材に供給する蓄熱用蒸発器と、
水蒸気を水へと凝縮して、凝縮後の水を前記蓄熱用水タンクに供給する蓄熱用凝縮器と、
を備え、
前記第2蓄熱材は、
前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している状態から水蒸気電解として機能する状態に変化した場合に、前記蓄熱用蒸発器から供給された水蒸気と
水和して前記水和反応
を生じさせて発熱し、
前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している状態から燃料電池として機能する状態に変化した場合に、水和した水および水蒸気を脱水
する前記脱水反応を生じさせ、
前記蓄熱用蒸発器には、蓄熱時に前記第2蓄熱材から脱水された水および水蒸気が供給される、水蒸気電解システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の水蒸気電解システムであって、さらに、
前記蒸発凝縮器から排出された燃料側オフガスに含まれる水と水素とを分離する気液分離器と、
水素を昇圧する第2昇圧器と、
前記第2昇圧器により昇圧された水素を貯蔵する水素タンクと、
前記固体酸化物形水電解セルに供給する水素を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している場合に、前記気液分離器により分離された水素と、前記水素タンク内の水素と、を前記固体酸化物形水電解セルの前記燃料側に供給させ、
前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している場合に、前記気液分離器により分離された水素を、前記第2昇圧器へと供給させる、水蒸気電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)を備えるシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された固体酸化物形燃料電池システムは、固体酸化物形燃料電池の発電によって排出される排燃料と排空気とを混合して燃焼する燃焼器と、燃焼器内に配置されて水蒸気または温水を生成する蒸発器とを備えている。排燃料と排空気とによって生成される熱が水蒸気または温水の生成に利用されるため、システム効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたシステムでは、固体酸化物形燃料電池の発電時における燃料側オフガスの水蒸気が利用されていない。また、燃焼器によって水を蒸発させるために熱量が必要になり、結果としてシステム効率の向上が小さい。また、水の凝縮温熱と、蒸発冷熱とがほぼ同じであるため、熱交換温度差が確保できず、燃料側オフガスの熱を利用できない。すなわち、固体酸化物形燃料電池を用いたシステムでは、効率化の余地がある。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、固体酸化物形燃料電池または固体酸化物形水電解セルを備えるシステムの効率化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水蒸気電解システムが提供される。この水蒸気電解システムは、高温の水蒸気を電気分解する固体酸化物形水電解セルと、水を蒸発させて固体酸化物形水電解セルにより電気分解される水蒸気を生成する蒸発凝縮器と、前記固体酸化物形水電解セルの燃料側から排出される燃料側オフガスを昇圧する第1昇圧器と、前記蒸発凝縮器により生成された水蒸気と、前記第1昇圧器により昇圧された昇圧後の燃料側オフガスとが供給される燃料側熱交換器であって、供給された燃料側オフガスから水蒸気への熱交換を行い、昇温させた水蒸気を前記固体酸化物形水電解セルの前記燃料側に供給する燃料側熱交換器と、を備える。
【0008】
水蒸気電解システムは、燃料の水を蒸発させる熱エネルギー(蒸発潜熱)と、電解反応に必要な電気エネルギー(電力)とを投入エネルギーとし、生成される水素の化学エネルギー(標準生成エネルギー)を出力とする。高効率システム実現のためには、少ない投入エネルギーで多くの出力が得られることが好ましい。一方で、低い燃料利用率における電解作動では、電解用の水蒸気は、電解反応により燃料側で全て利用されずに、燃料側オフガス中に多く含まれている。燃料側オフガスに含まれる水蒸気に含まれる凝縮熱は、システムから排熱されるため、この凝縮熱が多いほど、システム効率が下がる。この構成によれば、電解作動中の燃料側オフガスは、第1昇圧器によって昇圧されることにより、温度が上昇する。燃料側熱交換器では、温度が上昇した昇圧後の燃料側オフガスから、蒸発凝縮器により生成された水蒸気へと、熱交換温度差が大きくなることにより熱が移動する。すなわち、本構成のシステムでは、第1昇圧器により燃料側オフガスを昇圧させることで、燃料側オフガスの温度と、熱交換する燃料の温度との温度差をより大きくできる。これにより、燃料側オフガスから燃料への熱移動が促進され、燃料側オフガスの熱回収が可能となる。また、燃料側オフガスの凝縮潜熱が、燃料の蒸発熱の一部として利用される。すなわち、燃料側オフガスの凝縮潜熱を系外に放出させなくて済むため、システムの水素製造効率を低下させずにシステムが向上する。
【0009】
(2)上記形態の水蒸気電解システムにおいて、前記第1昇圧器は、前記燃料側熱交換器から排出される燃料側オフガスを、水蒸気が凝縮しない範囲で断熱圧縮してもよい。
この構成によれば、第1昇圧器では断熱圧縮によって燃料側オフガスが昇圧させられるため、昇圧時に必要なエネルギーが抑制されて、昇圧後の燃料側オフガスの温度が上昇する。また、昇圧後の燃料側オフガスが凝縮しない範囲の圧力および温度が選択されるため、燃料側オフガスの凝縮潜熱をより効率的に利用できる。
【0010】
(3)上記形態の水蒸気電解システムにおいて、さらに、前記蒸発凝縮器内で昇圧後の燃料側オフガスと、水および水蒸気との少なくとも一方と熱交換を行う第1蓄熱材を備え、前記第1昇圧器は、前記水蒸気電解システムに対する要求負荷が低負荷の場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度が前記第1蓄熱材の融解温度よりも高くなるように、燃料オフガスを昇圧し、前記要求負荷が高負荷の場合に、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度が前記第1蓄熱材の凝固温度よりも低くなる範囲で、燃料オフガスを昇圧してもよい。
水蒸気電解システムでは、再生エネルギー等からの供給電力の変動に伴い、電解燃料である蒸気の増加および減少が求められる。すなわち、蒸発凝縮器は、要求負荷の変動に応じて生成する水蒸気の量を増減させる必要がある。本構成によれば、要求負荷が低負荷の場合、すなわち生成する蒸気量が少なくて済む場合には、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度は、第1蓄熱材の融解温度よりも高くなる。これにより、昇圧後の燃料オフガスから第1蓄熱材への熱交換による蓄熱が行われる。一方で、要求負荷が高負荷の場合、すなわち生成する蒸気量が多い場合には、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度は、第1蓄熱材の凝固温度よりも低くなる。これにより、第1蓄熱材から昇圧後の燃料オフガスへの熱交換による放熱が行われる。そのため、要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合、第1蓄熱材の放熱が原料の水蒸気の生成に用いられる。これにより、昇圧後の燃料オフガスを用いた熱交換による水蒸気の生成よりも、速い速度で水蒸気を生成できる。この結果、要求負荷の高負荷化に伴う蒸気量増加の応答時間が短縮される。一方で、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合、第1蓄熱材が昇圧後の燃料側オフガスとの熱交換によって蓄熱することにより、原料の水蒸気の生成に利用される昇圧後の燃料側オフガスの熱が減少する。この結果、要求負荷の低負荷化に伴う蒸気量減少の応答時間が短縮される。すなわち、要求負荷に対する蒸気量変化の追従性が向上し、固体酸化物形水電解セルの温度の不安定化による電解性能の低下が抑制される。
【0011】
(4)上記形態の水蒸気電解システムにおいて、さらに、水を蒸発させて前記固体酸化物形水電解セルにより電気分解される水蒸気を生成する蒸発器と、水を貯蔵する水タンクと、前記水タンクから、前記蒸発器と前記蒸発凝縮器とのそれぞれに水を供給する水分配器と、前記水分配器により前記蒸発器に供給された水を加熱する外部熱源と、を備え、前記第1蓄熱材は、蓄熱後に融解して放熱後に凝固する性質を有し、前記水分配器は、前記要求負荷が低負荷の場合に、前記蒸発凝縮器に供給する水の量を第1供給量とし、前記要求負荷が高負荷の場合に、前記蒸発凝縮器に供給する水の量を前記第1供給量よりも多い第2供給量とし、前記要求負荷が低負荷から高負荷に変化した場合に、前記第2供給量に加えて、一時的に増加させた水を供給し、前記要求負荷が高負荷から低負荷に変化した場合に、水の供給を一時的に停止してもよい。
この構成によれば、要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合に、高負荷時に必要となる燃料が一時的に水分配器によって過剰に供給される。さらに、目標圧力が低下することにより蒸発凝縮器に流入する昇圧後の燃料オフガスの温度が下がる。これにより、熱を蓄熱していた第1蓄熱材からの放熱が水蒸気の生成に利用されるため、生成される水蒸気の応答遅れを抑制できる。一方で、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合に、水分配器から蒸発凝縮器への燃料の供給が一時的に停止される。さらに、目標圧力が上昇することにより蒸発凝縮器に流入する昇圧後の燃料オフガスの温度が上がる。これにより、一時的に、蒸発凝縮器における水蒸気の生成を停止し、かつ、燃料オフガスの熱を第1蓄熱材に蓄熱できる。そのため、要求変化による水蒸気の生成低減要求への追従性が向上する。
【0012】
(5)前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池としても機能する上記記載の水蒸気電解システムであって、さらに、前記蒸発凝縮器内で昇圧後の燃料側オフガスと、水および水蒸気との少なくとも一方と熱交換を行う第2蓄熱材と、前記第2蓄熱材の圧力を調整する圧力調整部と、を備え、前記第1昇圧器は、前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度が前記第2蓄熱材の蓄熱温度よりも高くなるように、燃料オフガスを昇圧し、前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している場合に、昇圧後の燃料オフガスの蒸発温度が前記第2蓄熱材の放熱温度よりも低くなる範囲で、燃料オフガスを昇圧し、前記圧力調整部は、前記蓄熱温度が前記放熱温度よりも高くなるように、前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している状態から水蒸気電解として機能する状態に変化した場合の前記第2蓄熱材の圧力を、前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している状態から燃料電池として機能する状態に変化した場合の前記第2蓄熱材の圧力をよりも低くてもよい。
この構成によれば、固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能しているSOFCモードと、水蒸気電解として機能しているSOECモードとにおいて、蒸発凝縮器に供給される昇圧後の燃料側オフガスの圧力と、圧力調整部によって調整される第2蓄熱材の圧力とが異なる。第1昇圧器による燃料側オフガスの圧力制御と、圧力調整部による第2蓄熱材の圧力制御とによって、SOECモードからSOFCモードへと変化した場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度は、第2蓄熱材が蓄熱する蓄熱温度よりも高くなる。そのため、第2蓄熱材は、昇圧後の燃料側オフガスからの熱交換により蓄熱する。一方で、SOFCモードからSOECモードへと変化した場合に、昇圧後の燃料側オフガスの蒸発温度は、第2蓄熱材が放熱する放熱温度よりも低くなる。そのため、第2蓄熱材は、昇圧後の燃料側オフガスからの熱交換により放熱する。SOFCモードで第2蓄熱材が蓄熱した熱が、SOECモードでの水蒸気の生成に用いられることにより、SOECモードでの蒸発凝縮器への温熱熱原料を抑制できる。
【0013】
(6)上記形態の水蒸気電解システムにおいて、水を貯蔵する蓄熱用水タンクと、前記蓄熱用水タンクから水が供給され、前記固体酸化物形水電解セルの空気側から排出される空気側オフガスが供給される蓄熱用蒸発器であって、供給された空気側オフガスから水への熱交換を行い、熱交換後の水蒸気を前記第2蓄熱材に供給する蓄熱用蒸発器と、水蒸気を水へと凝縮して、凝縮後の水を前記蓄熱用水タンクに供給する蓄熱用凝縮器と、を備え、前記第2蓄熱材は、前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している状態から水蒸気電解として機能する状態に変化した場合に、前記蓄熱用蒸発器から供給された水蒸気と水和反応して発熱し、前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している状態から燃料電池として機能する状態に変化した場合に、水和した水および水蒸気を脱水し、前記蓄熱用蒸発器には、蓄熱時に前記第2蓄熱材から脱水された水および水蒸気が供給されてもよい。
この構成によれば、第2蓄熱材は、発熱を伴う水和反応と、吸熱を伴う脱水反応を生じさせる蓄熱材である。そのため、SOECモードの場合に、第2蓄熱材の水和反応による発熱が水蒸気の生成に利用される。一方で、SOFCモードの場合に、第2蓄熱材の脱水反応による吸熱が第2蓄熱材の蓄熱に利用される。これにより、第2蓄熱材の放熱時と蓄熱時との熱量の差が大きくなり、SOECモードでの蒸発凝縮器への温熱熱原料をより抑制できる。
【0014】
(7)上記形態の水蒸気電解システムにおいて、さらに、前記蒸発凝縮器から排出された燃料側オフガスに含まれる水と水素とを分離する気液分離器と、水素を昇圧する第2昇圧器と、前記第2昇圧器により昇圧された水素を貯蔵する水素タンクと、前記固体酸化物形水電解セルに供給する水素を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記固体酸化物形水電解セルが燃料電池として機能している場合に、前記気液分離器により分離された水素と、前記水素タンク内の水素と、を前記固体酸化物形水電解セルの前記燃料側に供給させ、前記固体酸化物形水電解セルが水蒸気電解として機能している場合に、前記気液分離器により分離された水素を、前記第2昇圧器へと供給させてもよい。
SOFCモードでは、高い発電効率を確保するために高い燃料利用率が求められる。SOFCモードにおける燃料側出口の電極は、高濃度水蒸気の雰囲気下に存在するため、高い酸素雰囲気にさらされる。例えば、Ni(ニッケル)電極の場合だと、電極の表面がNiO(一酸化ニッケル)に変化するおそれがある。さらに、SOFCモードおよびSOECモードとして機能するリバーシブルSOFC/SOEC作動により、燃料側の電極における出入口は、強い酸化/還元雰囲気に曝される。そのため、燃料側の電極では、電気化学特性および機械的強度が低下し、長期信頼性が低下するおそれがある。この構成では、SOFCモードでは、燃料側オフガスに含まれる水素が、第1昇圧器によって昇圧された後に、水素タンクに貯蔵されずに、再び燃料として固体酸化物形水電解セルに供給される。これによりSOFCモードでの燃料利用率を低く運転しても、利用されなかった水素をシステム内で再利用することでシステムの燃料率を高く維持することができる。この結果、高濃度または低濃度の水蒸気濃度に起因する、酸化還元雰囲気下の燃料側の電極の電気化学的性能および機械強度的性能の低下が抑制される。よって、リバーシブル作動における本構成のシステム効率が向上し、低燃料利用率運転による長期信頼性が確保される。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水蒸気電解装置、水蒸気電解システム、燃料電池、燃料電池システム、リバーシブルSOFC/SOEC、水素製造装置、水素製造システム、水蒸気電解方法、水素製造方法、これら装置及びシステムの制御方法、これら装置や方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態としての水電解システムのブロック図である。
【
図2】昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度についての説明図である。
【
図3】加熱される水の蒸発熱伝達率と、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率との距離に対する変化の説明図である。
【
図4】隔壁面通過熱流束の距離に対する変化の説明図である。
【
図5】凝縮温度,隔壁温度,および蒸発温度の距離に対する変化の説明図である。
【
図6】第2実施形態のSOECシステムのブロック図である。
【
図10】第1蓄熱材の性質についての説明図である。
【
図11】SOECシステムに対する負荷変動の説明図である。
【
図12】要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の加熱される水の蒸発熱伝達率と、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率との距離に対する変化の説明図である。
【
図13】要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束の距離に対する変化の説明図である。
【
図14】要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の凝縮温度の距離に対する変化の説明図である。
【
図15】要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の加熱される水の蒸発熱伝達率と、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率との距離に対する変化の説明図である。
【
図16】要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束の距離に対する変化の説明図である。
【
図17】要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の凝縮温度,隔壁温度,および蒸発温度の距離に対する変化の説明図である。
【
図18】第2実施形態のSOECシステムの制御方法のフローチャートである。
【
図19】第3実施形態のSOECシステムのブロック図である。
【
図20】第3実施形態の蒸発凝縮器の説明図である。
【
図21】第3実施形態の蒸発凝縮器の説明図である。
【
図22】第3実施形態の蒸発凝縮器の説明図である。
【
図23】第2蓄熱材としてのCaBr
2/H
2O系蓄熱材の性質についての説明図である。
【
図24】SOEC放熱モードにおけるSOECシステムのブロック図である。
【
図25】SOEC放熱モードにおける加熱される水の蒸発熱伝達率と、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率との距離に対する変化の説明図である。
【
図26】SOEC放熱モードにおける隔壁面通過熱流束の距離に対する変化の説明図である。
【
図27】SOEC放熱モードにおける凝縮温度,隔壁温度,および蒸発温度の距離に対する変化の説明図である。
【
図28】SOFC蓄熱モードにおけるSOECシステムのブロック図である。
【
図29】SOFC蓄熱モードにおける加熱される水の蒸発熱伝達率と、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率との距離に対する変化の説明図である。
【
図30】SOFC蓄熱モードにおける隔壁面通過熱流束の距離に対する変化の説明図である。
【
図31】SOFC放熱モードにおける凝縮温度の距離に対する変化の説明図である。
【
図32】第3実施形態のSOECシステムの制御方法のフローチャートである。
【
図33】第4実施形態のSOECシステムのブロック図である。
【
図34】第4実施形態のSOECシステムが燃料電池システムとして機能している場合のブロック図である。
【
図35】第4実施形態のSOECシステムが水電解として機能している場合のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての水電解システム500のブロック図である。水電解システム500は、固体酸化物形水電解セル(SOEC:Solid Xxide Electrolyser Cell)10を用いて、燃料である水蒸気から水素を生成するシステムである。水電解システム(SOECシステム)500は、水素を含む燃料側オフガスを凝縮分離することにより、生成された高純度の水素ガスを高圧の水素貯蔵タンク140に化学エネルギーとして貯蔵できる。
【0018】
図1に示されるように、SOECシステム500は、高温の水蒸気を電気分解して水素を生成するSOEC10と、SOEC10の空気側11から排出される空気側オフガスの熱を熱交換するための酸素側熱交換器20と、SOEC10の燃料側12から排出される燃料側オフガスの熱を熱交換するための燃料側熱交換器30と、燃料側熱交換器30の排気側32を介してSOEC10の燃料側12から排出される燃料側オフガスを昇圧する第1昇圧器40と、燃料としての水蒸気の元となる水を貯蔵する水貯蔵タンク(水タンク)50と、水を蒸発させてSOEC10により電気分解される水蒸気を生成する蒸発器60と、蒸発器60内の水を加熱して水蒸気を生成する外部熱源70と、水を蒸発させて前SOEC10により電気分解される水蒸気を生成する蒸発凝縮器80と、水貯蔵タンク50から蒸発器60と蒸発凝縮器80とのそれぞれに水を供給する水分配器90と、蒸発器60および蒸発凝縮器80から供給された水蒸気を酸素側熱交換器20と燃料側熱交換器30とのそれぞれに分配して供給する流量分配器100と、蒸発凝縮器80の凝縮側82から排出された燃料側オフガスを放熱する放熱器110と、放熱器110を介して蒸発凝縮器80から排出された燃料側オフガスに含まれる水と水素とを分離する気液分離器120と、気液分離器120により分離された水素を昇圧する第2昇圧器130と、第2昇圧器130により昇圧された水素を貯蔵する水素貯蔵タンク(水素タンク)140と、第1昇圧器40や水分配器90などの各構成を制御する制御部150と、を備えている。
【0019】
制御部150以外の各部は、
図1中に実線で示される配管で接続されている。各配管中には、各種気体および液体が流れる。また、
図1には示されていないが、SOEC10,酸素側熱交換器20,燃料側熱交換器30、蒸発器60,および蒸発凝縮器80の入口には、配管中の流量を検出するマスフローセンサが配置されている。また、SOEC10,酸素側熱交換器20,燃料側熱交換器30、蒸発器60,および蒸発凝縮器80の出入口には、温度を検出する温度センサが配置されている。さらに、SOEC10の入口には、配管中の圧力を検出する圧力センサが配置されている。制御部150は、各センサの検出値を取得し、各部を制御する。
【0020】
SOECシステム500が水蒸気電解(なお、以降で単に「水電解」とも言う)を行う際に、制御部150の制御によって、水分配器90は、水貯蔵タンク50から、蒸発器60と蒸発凝縮器80の蒸発側81とのそれぞれに水を分配する。水貯蔵タンク50は、大気圧下で常温の水を貯蔵している。制御部150は、2台の液マスフローコントローラーを用いて、蒸発器60と蒸発凝縮器80とへの液供給量が要求された分配比と全液流量とになるように制御する。本実施形態では、水分配器90は、蒸発器60に供給する水の量と、蒸発凝縮器80に供給する水の量とを、約9:1の比としている。
【0021】
蒸発器60に供給された水は、外部熱源70によって加熱されて水蒸気に変化する。外部熱源70は、およそ摂氏150度(℃)の熱媒としてAir(空気)を蒸発器60に供給する。Air(空気)との熱交換によって、蒸発器60からはおよそ150℃まで加熱された水蒸気が、流量分配器100に供給される。
【0022】
蒸発凝縮器80の蒸発側81に供給された入口温度Tin81の水は、第1昇圧器40により昇圧された昇圧後の燃料側オフガスから熱が供給されることにより、加熱されて出口温度Tout81の水蒸気に変化する。第1昇圧器40の機能の詳細については後述するが、蒸発凝縮器80には、昇圧後の燃料側オフガスとして、約0.92MPa,300℃(入口温度Tin82)以上の燃料側オフガスが供給される。昇圧後の燃料側オフガスとの熱交換によって、蒸発凝縮器80からは200℃(出口温度Tout81)近くまで加熱された水蒸気が、流量分配器100に供給される。
【0023】
流量分配器100は、マスフローコントローラーである。流量分配器100は、制御部150の制御によって、酸素側熱交換器20の燃料側21と、燃料側熱交換器30の燃料側31とのそれぞれに、水蒸気を供給させる。流量分配器100は、分岐後の酸素側熱交換器20側の配管に、マスフローセンサと流量制御バルブとを備えている。マスフローセンサの検出流量に応じて流量制御バルブが制御されることにより、酸素側熱交換器20および燃料側熱交換器30に所定の流量が供給される。本実施形態では、酸素側熱交換器20および燃料側熱交換器30に供給される水蒸気の温度は、約145℃である。酸素側熱交換器20の燃料側21に供給される水蒸気の流量は、SOEC10から排気側22に供給される空気側オフガスのおよそ半分である。燃料側熱交換器30の燃料側31に供給される水蒸気の流量は、酸素側熱交換器20の燃料側21に供給される水蒸気のおよそ4.5倍である。すなわち、本実施形態では、酸素側熱交換器20の燃料側21に供給する水蒸気の量と、燃料側熱交換器30の燃料側31に供給する水蒸気の量との比を、約1:4.5とされている。
【0024】
SOEC10は、外部から電力が加えられることにより、酸素側熱交換器20および燃料側熱交換器30から混合されて供給される高温の水蒸気を電気分解する。本実施形態では、SOEC10の燃料側12の電極として、Ni-YSZが用いられ、空気側11の電極として、ペロブスカイト型酸化物(例えば、(La,Sr)CoO3、(La,Sr)(Co,Fe)O3、LaSrMnO3など)が用いられる。また、燃料側12と空気側11とを隔てている電解質としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)が用いられている。なお、他の実施形態では、電極および電解質に、周知の材料が用いられてもよい。本実施形態のSOEC10は、圧力0.1MPa,温度約摂氏650度(℃)の雰囲気下で水電解を行う。
【0025】
SOEC10の空気側11から排出される、酸素を含む空気側オフガスは、酸素側熱交換器20の排気側22に供給される。本実施形態の酸素側熱交換器20では、燃料側21に流量分配器100から供給された水蒸気は、500℃以上まで加熱される。一方で、排気側22に供給された空気側オフガスは、360℃程度まで冷却された後、酸素として貯蔵される。
【0026】
SOEC10の燃料側12から排出される、水素を含む燃料側オフガスは、燃料側熱交換器30の排気側32に供給される。燃料側熱交換器30は、蒸発凝縮器80により生成された水蒸気と、第1昇圧器40により昇圧された昇圧後の燃料側オフガスとが供給される。燃料側熱交換器30は、供給された燃料側オフガスから水蒸気への熱交換を行い、昇温させた水蒸気をSOEC10の燃料側12に供給する。本実施形態の燃料側熱交換器30では、燃料側31に供給された水蒸気は、600℃以上まで加熱される。一方で、排気側32に供給された空気側オフガスは、250℃程度まで冷却される。
【0027】
第1昇圧器40は、燃料側熱交換器30の排気側32から供給された燃料側オフガスを断熱圧縮するコンプレッサーである。制御部150の制御により、第1昇圧器40は、燃料側オフガスに含まれる水蒸気が凝縮しない範囲で、燃料側オフガスを断熱圧縮する。断熱圧縮された昇圧後の燃料側オフガスは、燃料側熱交換器30の凝縮側82の入口温度Tin82まで加熱されて、凝縮側82に供給される。なお、本明細書でいう「断熱圧縮」とは、圧縮前後で温度変化を伴わない「等温圧縮」と異なり、燃料側オフガスの温度を上昇させるように昇圧する圧縮を意味する。そのため、外部との熱のやり取りが多少含む圧縮も「断熱圧縮」としてみなす。
【0028】
図2は、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度についての説明図である。
図2には、圧力変化(MPa)に対して変化する水の飽和温度(℃)の曲線C1が示されている。また、
図2には、大気圧(約0.1MPa)下で蒸発する蒸発凝縮器80の蒸発側81の蒸発温度(100℃)が破線の直線L1で示されている。
図2には、昇圧後の燃料側オフガスが0.92MPaまで加圧された場合に、燃料側オフガスに含まれる水蒸気が凝縮する凝縮温度(175℃)が一点鎖線の直線L2で示されている。すなわち、第1昇圧器40は、0.92MPaまで圧縮した燃料側オフガスの温度が175℃以上になるように断熱圧縮する。第1昇圧器40に供給された250℃前後の燃料側オフガスは、第1昇圧器40によって、0.92MPa,310℃以上まで断熱圧縮される。
【0029】
図3は、加熱される水の蒸発熱伝達率α
eと、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cとの距離に対する変化の説明図である。
図3の横軸は、蒸発凝縮器80の凝縮側82の入口側を基点とした場合の、入口からの距離(Distance)を、最も離れた出口までの位置までの長さ(Length)で除した無次元数である。そのため、横軸のゼロは、凝縮側82の入口位置を表し、横軸の1は、凝縮側82の出口を表す。逆に言うと、横軸のゼロは、蒸発側81の出口を表し、横軸の1は、蒸発側81の入口を表している。蒸発熱伝達率α
eは、液相熱伝達率α
L0との比をBo(ボイリング数)およびCo(コンベクション数)で整理した下記関係式(1)から導出された値である。
【0030】
【数1】
Δh
v(kJ/kg):蒸発潜熱
G(kg/m2・s):質量速度
χ:クオリティ(蒸気量/全量)
ρ(kg/m3):密度
C
i:実験定数
【0031】
なお、関係式(1)における添え字の「g」は気体(gas)を表し、「l」は液体(liquid)を表す。凝縮熱伝達率αcは、下記式(2)のように表される。
【0032】
【数2】
J
i:実験定数
R(kg/kg):水蒸気/不凝縮性ガスの質量流量比
【0033】
図3に示されるように、蒸発熱伝達率α
eは、凝縮側82の入口から離れるにつれて上昇する。一方で、凝縮熱伝達率α
cは、入口から離れるにつれて減少する。
【0034】
図4は、隔壁面通過熱流束q
fの距離に対する変化の説明図である。
図4の横軸は、
図3の横軸と同じである。そのため、
図4には、凝縮側82の入口からの距離に対する隔壁面熱流束q
fの変化が示されている。熱流束q
fは、下記式(3)のように表される。
図4に示されるように、隔壁面通過熱流束q
fは、入口から離れるにつれて減少する。
【0035】
【数3】
q
f(W/m2):隔壁面通過熱流束
δ
w(m):熱交換隔壁厚み
λ
w(W/m・K):隔壁熱伝導率
ΔT
e(K):蒸発流路の飽和温度と壁面温度との差
ΔT
c(K):凝縮流路の飽和温度と壁面温度との差
ΔT
w(K):隔壁厚み方向の温度差
【0036】
関係式(1)に示されるように、流動を伴う蒸発熱伝達率α
eは、沸騰現象(Boにより整理)と、強制対流(Coにより整理)とに大きく影響される。沸騰現象は、蒸発側81の入口(
図3におけるDistance=1)近傍で高くなる。この理由は、蒸発側81の入口近傍における水の流動様式が核沸騰であり、かつ、伝熱面の過熱度と熱流束とはほぼ線形的に比例する領域であるため、隔壁面通過熱流束q
fを無次元化したBoで整理される。一方、蒸発側81における水の蒸発の進行に伴い、クオリティχは増大する。クオリティχの増大に伴い、流動様式は、核沸騰流、プラグ流、スラグ流、環状流、ミスト流(χ=1)の順に変化し、蒸発側81における熱移動は、核沸騰支配から液膜蒸発支配へと変化する。このため、流動を伴う蒸発熱伝達率α
eは、Boに加えてクオリティχと密度比(ρ
g/ρ
l)を無次元数とするCoをパラメータとして複合化した熱伝導率整理式として、蒸発熱伝達率α
eおよび凝縮熱伝達率α
cは、上記関係式(1),(2)のように表される。
【0037】
図5は、凝縮温度T
c,隔壁温度T
w,および蒸発温度T
eの距離に対する変化の説明図である。
図5の横軸は、
図3および
図4の横軸と同じである。また、
図5には、凝縮側82の入口温度Tin82および出口温度Tout82と、蒸発側81の入口温度Tin81および出口温度Tout81とが示されている。凝縮温度T
c,隔壁温度T
w,および蒸発温度T
eは、下記関係式(4)~(6)のように表される。
図5に示されるように、凝縮側82の入口から離れるほど、凝縮温度T
cおよび隔壁温度T
wは、低下する。隔壁温度T
wと蒸発温度T
eとに温度差が生じるため、凝縮側82から蒸発側81への熱交換が発生する。この熱交換により、蒸発側81で原料が水蒸気に変化する。
【0038】
【数4】
【数5】
【数6】
T
e(=100(℃)):蒸発流路飽和温度
【0039】
蒸発凝縮器80で熱交換後の燃料側オフガスは、放熱器110へと排出される。本実施形態の制御部150は、蒸発凝縮器80の凝縮側82へと供給させる昇圧後の燃料側オフガスの温度および流量に応じて、水分配器90から蒸発凝縮器80へと供給される水の量を決定する。放熱器110は、蒸発凝縮器80の凝縮側82から排出された燃料オフガスを常温まで冷却し、冷却後の燃料オフガスを気液分離器120へと排出する。
【0040】
気液分離器120は、冷却後の燃料オフガスから分離した水を水貯蔵タンク50へと排出する。また、気液分離器120は、燃料側オフガスから分離した水素を第2昇圧器130へと排出する。第2昇圧器130は、コンプレッサーである。本実施形態の第2昇圧器130は、供給された水素を20MPaまで加圧して、水素貯蔵タンク140へと送り出す。水素貯蔵タンク140は、20MPaまで加圧された水素を貯蔵する。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のSOECシステム500では、第1昇圧器40がSOEC10の燃料側から排出される燃料側オフガスを昇圧して、昇圧後の燃料側オフガスを燃料側熱交換器30へと供給する。燃料側熱交換器30では、昇圧後の燃料側オフガスから、蒸発凝縮器80により生成された水蒸気へと熱が交換される。この熱交換によって昇温した水蒸気がSOEC10の燃料側12へと供給される。そのため、本実施形態のSOECシステム500では、SOEC10から排出される燃料側オフガスは、第1昇圧器40によって昇圧されることにより、温度が上昇する。第1昇圧器40による燃料側オフガスの昇圧により、燃料側熱交換器30において、
図3に示されるように、燃料側オフガスの入口温度Tin82と、燃料である水蒸気の出口温度Tout81との温度差をより大きくできる。この結果、燃料側オフガスから水蒸気への熱交換が促進され、燃料側熱交換器30内での燃料側オフガスの熱回収が可能となる。そのため、SOECシステム500の水素製造効率を低下させずにシステム効率が向上する。
【0042】
また、本実施形態の第1昇圧器40は、SOEC10から排出される燃料側オフガスを、水蒸気が凝縮しない範囲で断熱圧縮する。すなわち、第1昇圧器40は、燃料側オフガスに含まれる水蒸気を凝縮させない範囲で、燃料側オフガスを加熱する。これにより、燃料側オフガスの凝縮潜熱が、燃料の蒸発熱の一部として利用される。すなわち、第1昇圧器40を備えない従来のシステムでは、系外へと放出していた燃料側オフガスの凝縮潜熱を、本実施形態のSOECシステム500では系外に放出させなくて済む。
【0043】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態のSOECシステム500aのブロック図である。第2実施形態のSOECシステム500aでは、第1実施形態のSOECシステム500と比較して、蒸発凝縮器80aが第1蓄熱材83を備えること、および、SOECシステム500aに対する負荷の変動に応じて制御部150aが行う制御が異なる。そのため、第2実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と同じ構成等についての説明を省略する。
【0044】
図7ないし
図9は、第2実施形態の蒸発凝縮器80aの説明図である。
図7には、蒸発凝縮器80aの概略斜視図が示されている。
図7に示されるように、蒸発凝縮器80aは、直方体形状の中に、原料としての水および水蒸気が流れる原料配管81Pと、昇圧後の燃料側オフガスが流れるオフガス配管82Pとを備えている。オフガス配管82Pは、原料配管81Pを挟むように一対の配管から構成されている。
【0045】
図8には、燃料側オフガスの流れ方向に沿った蒸発凝縮器80aの断面の概略図が示されている。
図9には、燃料側オフガスの流れ方向に直交する蒸発凝縮器80aの断面の概略図が示されている。
図8および
図9に示されるように、蒸発凝縮器80aの内部には、第1蓄熱材83が封止された蓄熱材空間83Pが形成されている、第1蓄熱材83は、一対のオフガス配管82Pを挟み込むような一対の蓄熱材空間83Pから構成されている。そのため、第1蓄熱材83は、蒸発凝縮器80a内でオフガス配管82Pを通る昇圧後の燃料側オフガスと、原料配管81Pを通過する水および水蒸気の少なくとも一方との熱交換が可能である。
図9に示されるように、原料配管81P,オフガス配管82P,および蓄熱材空間83Pのいずれも、熱交換性を高めるための複数の伝熱フィンFNが形成されている。第2実施形態の第1蓄熱材83は、マンニトール(mannitol,C
6H
14O
6)である。
【0046】
図10は、第1蓄熱材83の性質についての説明図である。
図10には、大気圧における第1蓄熱材83として使用されるマンニトールの温度変化に対する熱容量Cmが示されている。
図10に示されるように、マンニトールについて、融点は167℃であり、融解温度は177℃であり、凝固温度は157℃である。そのため、マンニトールの固体から液体への変化は、157℃~177℃の間で生じる。第2実施形態の制御部150aは、157℃~177℃の間で状態が変化するマンニトールの性質を利用して、SOECシステム500aに対する負荷変動に応じた第1蓄熱材83の蓄熱と放熱とを行う。
【0047】
図11は、SOECシステム500aに対する負荷変動の説明図である。
図11には、時間と共に変動して要求される燃料の負荷変動L3が実線で示されている。一方で、時間と共に変化する負荷変動L3に対して、実際のSOECシステム500aで遅れて生成される燃料変動C3が破線で示されている。
図11に示されるように、要求負荷が低負荷から高負荷に変化すると、蒸気供給遅れによって領域D1で示される蒸気量が不足する。一方で、要求負荷が高負荷から低負荷に変化すると、蒸気供給遅れによって領域D2で示される蒸気量が過剰になる。
【0048】
第2実施形態の制御部150aは、要求負荷が低負荷(高負荷の50%の負荷)の場合、第1昇圧器40aを制御して、燃料側熱交換器30の排気側32から排出される燃料側オフガスの昇圧後の目標圧力を、約4.63MPaとする。昇圧後の燃料側オフガスの温度は、大気圧(約0.1MPa)から約4.63MPaまでの断熱圧縮により、250℃前後から約365℃(入口温度Tin82)にまで上昇する。昇圧後の燃料側オフガスが第1蓄熱材83の凝縮側82aに流入すると、熱交換によって蒸発側81を流れる燃料と、第1蓄熱材83とが加熱されている。
【0049】
第2実施形態の昇圧後の燃料側オフガスは、凝縮側82aから排出されるまでに、熱交換によって約150℃(出口温度Tout82)前後まで冷却される。一方で、蒸発側81を流れる燃料は、加熱されて、約240℃前後(Tout81)の水蒸気として蒸発凝縮器80aから排出される。また、第1蓄熱材83は、約170℃前後まで加熱されて、融解して液体の状態である。なお、要求負荷が低負荷の場合に、制御部150aは、水分配器90から蒸発凝縮器80aへと供給される水の量と、水分配器90から蒸発器60へと供給される水の量との比を、およそ1:9としている。また、制御部150aは、蒸発凝縮器80aの凝縮側82aに供給される流量を、蒸発側81に供給される流量の約10倍としている。なお、この場合に蒸発凝縮器80aに供給される水の量は、第1供給量に相当する。
【0050】
要求負荷が低負荷から高負荷へと変化する場合、制御部150aは、第1昇圧器40aの目標圧力を約0.57MPaとする。大気圧(約0.1MPa)から約0.57MPaまでの断熱圧縮により、昇圧後の燃料側オフガスの温度は、250℃前後から約300℃(Tin82)にまで上昇する。制御部150aは、第1昇圧器40aの目標圧力の変更に加え、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80aへと供給する水の量を増加させる。具体的には、要求負荷が高負荷の場合には、要求負荷が低負荷の場合と比較して、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80aへの水の供給量は、約2倍になる。すなわち、水分配器90は、要求負荷が高負荷の場合に、蒸発凝縮器80aに供給する水の量を、要求負荷が低負荷の場合の水の量よりも多い量とする。要求負荷が高負荷の場合の水の量は、第2供給量に相当する。
【0051】
水分配器90は、要求負荷が低負荷から高負荷へと変化してから所定の時間(例えば、60s(秒))では、蒸発凝縮器80aへの水の供給量を、要求負荷が高負荷の場合よりもさらに増やす。第2実施形態の水分配器90は、一時的に増やした水の供給量を、要求負荷が高負荷の場合の供給量の約3.7倍とする。すなわち、水分配器90は、要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合に、蒸発凝縮器80aに供給する水の量を、第2供給量から一時的に増加させる。
【0052】
要求負荷が低負荷から高負荷へと変化する場合、蒸発凝縮器80aでは、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスから、蒸発側81を通過する燃料へと熱が移動する。さらに、第1蓄熱材83から、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスへと熱が移動する。換言すると、第1蓄熱材83は、要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合に熱交換により放熱している。放熱後の第1蓄熱材83は、温度が157℃以下になることで、液体から固体へと変化する。そのため、第1蓄熱材83の放熱では、マンニトールが液体から固体へと変化する際の潜熱が昇圧後の燃料側オフガスの昇温に利用される。
【0053】
図12は、要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の加熱される水の蒸発熱伝達率α
eと、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cとの距離に対する変化の説明図である。
図12の横軸は、
図3の横軸と同じである。
図12に示されるように、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cは、凝縮側82aの入口から離れるにつれて増加する。蒸発熱伝達率α
eは、凝縮側82aの入口から離れるにつれて減少する。なお、
図2に示される凝縮温度と圧力との関係から、4.63MPaの水蒸気の凝縮温度は、250℃である。そのため、凝縮側82aから排出される燃料側オフガスに含まれる水蒸気は、凝縮されている。
【0054】
図13は、要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束q
fLの距離に対する変化の説明図である。
図13の横軸は、
図12の横軸と同じである。
図13に示されるように、要求負荷が低負荷の場合の隔壁面通過熱流束q
fLは、入口から離れるにつれて減少する。
【0055】
図14は、要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合の凝縮温度T
cの距離に対する変化の説明図である。
図14の横軸は、
図12および
図13の横軸と同じである。また、
図14には、凝縮側82aの入口温度Tin82および出口温度Tout82と、第1蓄熱材83であるマンニトールの融点T1(破線)および融解温度T2(一点鎖線)とが示されている。
【0056】
図14に示されるように、凝縮温度T
cは、マンニトールの融点T1および融解温度T2よりも高く、凝縮側82の入口から離れるほど低下する。この場合に、凝縮温度T
cがマンニトールの融解温度T2よりも高いため、蒸発凝縮器80aの蒸発側81に供給される昇圧後の燃料側オフガスからマンニトールへの熱交換が発生する。この熱交換により、マンニトールは、蓄熱するため、固体から液体へと変化する。すなわち、SOECシステム500aの要求負荷が低負荷の場合に、第1昇圧器40aが、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度T
cが第1蓄熱材83のマンニトールの融解温度T2よりも高くなるように、目標圧力を約4.63MPaとしている。
【0057】
蒸発熱伝達率αeと凝縮熱伝達率αcとによって、熱の移動のし易さを表す隔壁熱通過率(qfL/ΔTe)が決定する。要求負荷における低負荷から高負荷への変化によって水供給量が増加するものの、配管等の遅れ要因によって凝縮熱量が不足する。これにより凝縮温度が低下し、凝縮-蒸発温度差Teが減少するため、隔壁面通過熱流束qfLも減少し、蒸気応答性が悪化する。これに対し、マンニトールが液流量増加に対して必要な熱量を遅れなく補完するように放熱するため、蒸気応答性が改善する。
【0058】
要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した後に所定の時間が経過すると、制御部150aは、第1昇圧器40aの目標圧力を約0.57MPaに維持したまま、増やしていた水分配器90から蒸発凝縮器80aへの水の供給量を減らす。水分配器90から蒸発器60への水の供給量は低負荷時の2倍に維持されたまま、水分配器90から蒸発凝縮器80aへの水の供給量は、低負荷時の2倍にまで減らされる。要求負荷が高負荷の場合、蒸発凝縮器80aでは、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスから、蒸発側81を通過する燃料へと熱が移動する。放熱後の第1蓄熱材83の状態は、157℃以下の固体のままである。
【0059】
要求負荷が高負荷から低負荷へと変化する場合、制御部150aは、第1昇圧器40aの目標圧力を、約4.63MPaとし、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80aへの水の供給量を減らす。大気圧(約0.1MPa)から約0.57MPaまで断熱圧縮により、昇圧後の燃料側オフガスの温度は、250℃前後から約300℃(Tin82)にまで上昇する。水分配器90は、要求負荷が高負荷から低負荷へと変化してから所定の時間(例えば、60s)では、蒸発凝縮器80aへの水の供給量をゼロとする。すなわち、水分配器90は、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合に、蒸発凝縮器80aへの水の供給を一時的に停止する。なお、水の供給量を一時的に停止する所定の時間と、要求負荷が低負荷から高負荷へと変化した場合に、水の供給量を一時的に増加させる所定の時間とは、異なる時間であってもよい。
【0060】
要求負荷が高負荷から低負荷へと変化する場合、蒸発凝縮器80aでは、蒸発側81に燃料が供給されないため、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスの熱交換によって、第1蓄熱材83は加熱される。この場合に、燃料側オフガスから熱が供給される第1蓄熱材83の状態は、177℃以上になり、固体から液体へと変化する。換言すると、第1蓄熱材83は、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合に熱交換により蓄熱している。放熱後の第1蓄熱材83は液体から固体へと変化するため、第1蓄熱材83では、マンニトールが液体から固体へと変化する際の潜熱が蓄熱される。
【0061】
図15は、要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の加熱される水の蒸発熱伝達率α
eと、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cとの距離に対する変化の説明図である。
図15の横軸は、
図12の横軸と同じである。
図15に示されるように、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cは、凝縮側82aの入口から離れるにつれて増加する。蒸発熱伝達率α
eは、凝縮側82aの入口から離れるにつれて減少する。
【0062】
図16は、要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束q
fHの距離に対する変化の説明図である。
図16の横軸は、
図15の横軸と同じである。
図16に示されるように、要求負荷が低負荷の場合の隔壁面通過熱流束q
fHは、入口から離れるにつれて減少する。
図13と
図16とを比較すると、要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束q
fH(
図16)は、低負荷から高負荷へと変化した場合の隔壁面通過熱流束q
fL(
図13)よりもかなり低くなる。
【0063】
図17は、要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合の凝縮温度T
c,隔壁温度T
w,および蒸発温度T
eの距離に対する変化の説明図である。
図17の横軸は、
図15および
図16の横軸と同じである。また、
図17には、凝縮側82aの入口温度Tin82および出口温度Tout82と、蒸発側81の入口温度Tin81および出口温度Tout81と、第1蓄熱材83であるマンニトールの融点T1(破線)および凝固温度T3(一点鎖線)とが示されている。
【0064】
図17に示されるように、マンニトールの凝固温度T3は、蒸発凝縮器80aの蒸発側81の蒸発温度T
eよりも高いため、マンニトールから原料への熱交換が発生する。この熱交換によりマンニトールは、放熱して凝固温度T3よりも温度が低くなるため、液体から固体へと変化する。すなわち、SOECシステム500aの要求負荷が高負荷の場合に、第1昇圧器40aが、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度T
cが第1蓄熱材83のマンニトールの凝固温度T3よりも低くなる範囲で、目標圧力を0.57MPaとしている。
【0065】
要求負荷が高負荷から低負荷へと変化した場合に水供給量が減少すると、配管等の遅れ要因によって凝縮熱量に対して水供給量が不足する。これにより、蒸発側81は、沸騰から蒸気対流熱伝達となるための熱の移動(隔壁熱通過率)が低下し、蒸気応答性が悪化する。これに対し、マンニトールが液流量減少に対して必要な熱量を遅れなく補完するように蓄熱するため、蒸気応答性が改善する。
【0066】
図18は、第2実施形態のSOECシステム500aの制御方法のフローチャートである。
図18には、
図11に示されるように要求負荷が変化した場合の制御フローの変化が示されている。
図18の制御フローでは、初めに、制御部150aは、要求が低負荷制御であるか否かを判定する(ステップS1)。制御部150aは、要求が低負荷制御でないと判定した場合(ステップS1:NO)、すなわち要求負荷が高負荷である場合には、後述のステップS6の処理を行う。制御部150aは、要求が低負荷制御であると判定した場合には(ステップS1:YES)、低負荷制御を行う(ステップS2)。低負荷制御では、第1昇圧器40aは、燃料側熱交換器30の排気側32から排出される燃料側オフガスを、目標圧力の約4.63MPaまで昇圧する。これにより、昇圧後の燃料側オフガスの温度は、250℃前後から約365℃にまで上昇する。低負荷制御では、第1蓄熱材83は、約170℃前後まで加熱されて、融解して液体の状態である。
【0067】
制御部150aは、要求負荷が低負荷から高負荷に変化したか否かを判定する(ステップS3)。制御部150aは、要求負荷が変化していないと判定した場合には(ステップS3:NO)、引き続き、低負荷制御を続行する。制御部150aは、要求負荷が高負荷に変化したと判定した場合には(ステップS3:YES)、低負荷から高負荷への変化時における放熱制御を行う(ステップS4)。
【0068】
放熱制御では、第1昇圧器40aは、目標圧力を、低負荷制御の約4.63MPaから約0.57MPaまで下げる。また、水分配器90から蒸発器60への水の供給量は、低負荷制御の約2倍に変化する。所定の時間、水分配器90から蒸発器60への水の供給量は、低負荷制御の約7.4倍になる。放熱制御では、第1蓄熱材83は、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスへと放熱し、約157℃以下まで下がり、液体から固体へと変化する。
【0069】
制御部150aは、放熱制御を行ってから所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS5)。制御部150aは、所定の時間が経過していないと判定した場合には(ステップS5:NO)、引き続き放熱制御を行う。制御部150aは、所定の時間が経過したと判定した場合には(ステップS5:YES)、放熱制御から高負荷制御へと切り替える(ステップS6)。高負荷制御では、放熱制御時に増加していた蒸発凝縮器80aへの水の供給量が、低負荷制御時の約2倍まで減少する。蒸発器60への水の供給量と、第1昇圧器40aの目標圧力とは、放熱制御時と同じ設定である。高負荷制御では、第1蓄熱材83は、約157℃以下で固体の状態である。
【0070】
制御部150aは、要求負荷が高負荷から低負荷に変化したか否かを判定する(ステップS7)。制御部150aは、要求負荷が変化していないと判定した場合には(ステップS7:NO)、引き続き高負荷制御を行う。制御部150aは、要求負荷が低負荷に変化したと判定した場合には(ステップS7:YES)、高負荷から低負荷への変化時における蓄熱制御を行う(ステップS8)。
【0071】
蓄熱制御では、第1昇圧器40aは、目標圧力を低負荷制御の約0.57MPaから約4.63MPaまで上昇させる。また、水分配器90から蒸発器60への水の供給量は、高負荷制御の約半分に変化する。所定の時間、水分配器90から蒸発器60への水の供給量は、ゼロになる。蓄熱制御では、第1蓄熱材83は、凝縮側82aを流れる燃料側オフガスからの熱を蓄熱し、約177℃以上まで昇温し、固体から液体へと変化する。
【0072】
制御部150aは、蓄熱制御を行ってから所定の時間が経過したか否かを判定する(ステップS9)。制御部150aは、所定の時間が経過していないと判定した場合には(ステップS9:NO)、引き続き蓄熱制御を行う。制御部150aは、所定の時間が経過したと判定した場合には(ステップS9:YES)、蓄熱制御から低負荷制御へと切り替える(ステップS2)。低負荷制御では、蓄熱制御時に供給を停止していた蒸発凝縮器80aへの水の供給量が、高負荷制御時の約半分になる。蒸発器60への水の供給量と、第1昇圧器40aの目標圧力とは、蓄熱制御時と同じ設定である。低負荷制御では、第1蓄熱材83は、約170℃以上の液体の状態である。なお、
図18に示されるフローチャートでは、終了について明示されていないが、SOECシステム500aがいずれの制御を行っている状態でも、制御フローの終了は可能である。
【0073】
以上説明したように、第2実施形態のSOECシステム500aでは、蒸発凝縮器80aは、熱交換可能な第1蓄熱材83を備えている。第1蓄熱材83は、SOECシステム500aに対する要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合に放熱する。一方で、第1蓄熱材83は、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合に蓄熱する。そのため、第2実施形態のSOECシステム500aでは、放熱制御時に、第1蓄熱材83から放出される熱は、燃料側オフガスを介して蒸発側81の水蒸気の生成に用いられる。第1蓄熱材83は、昇圧後の燃料側オフガスによる熱交換よりも速い速度で、蒸発側81の燃料に蒸発潜熱を供給できる。この結果、要求負荷の高負荷化に伴う蒸気量増加の応答時間が短縮される。一方で、第1蓄熱材83は、蓄熱制御時に、昇圧後の燃料側オフガスの熱を奪って蓄熱できる。この結果、蒸発側81に供給される熱は、第1蓄熱材83の蓄熱によって減少するため、要求負荷の低負荷化に伴う蒸気量減少の応答時間が短縮される。すなわち、要求負荷に対する蒸気量変化の追従性が向上し、SOEC10の温度の不安定化による電解性能の低下が抑制される。
【0074】
また、第2実施形態の第1蓄熱材83として用いられるマンニトールは、蓄熱制御時に固体から液体へと変化し、放熱制御時に液体から固体へと変化する。制御部150aは、放熱制御時に、第1昇圧器40aの目標圧力を増加させ、かつ、高負荷制御時の水分配器90から蒸発凝縮器80aへの水の供給量よりも多い量を、所定の時間だけ供給する。一方で、制御部150aは、蓄熱制御時に、第1昇圧器40aの目標圧力を減少させ、かつ、所定の時間、水分配器90から蒸発凝縮器80aへの水の供給を停止する。そのため、放熱制御時に、高負荷制御時に必要となる燃料が一時的に水分配器90によって蒸発凝縮器80aへと過剰に供給される。さらに、目標圧力が低下することにより蒸発凝縮器80aに流入する昇圧後の燃料オフガスの温度が下がる。これにより、熱を蓄熱していた第1蓄熱材83からの放熱が蒸発側81の水蒸気の生成に利用されるため、生成される水蒸気の応答遅れを抑制できる。一方で、蓄熱制御時に、水分配器90から蒸発凝縮器80aへの燃料の供給が一時的に停止される。さらに、目標圧力が上昇することにより蒸発凝縮器80aに流入する昇圧後の燃料オフガスの温度が上がる。これにより、一時的に、蒸発凝縮器80aにおける水蒸気の生成を停止し、かつ、燃料オフガスの熱を第1蓄熱材83に蓄熱できる。そのため、要求負荷の変化による水蒸気の生成低減の要求への追従性が向上する。
【0075】
<第3実施形態>
図19は、第3実施形態のSOECシステム500bのブロック図である。第3実施形態のSOECシステム500bは、水電解によって水素を生成するSOECとして機能すると共に、水素と酸素とが供給されることによって固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)としても機能する、いわゆるリバーシブルSOFC/SOECシステムである。
【0076】
第3実施形態のSOECシステム500bは、第2実施形態のSOECシステム500aと比較して、蒸発凝縮器80bが第1蓄熱材83の代わりに第2蓄熱材83bを備えること、第2蓄熱材83bの蓄熱・放熱に応じて水和する水を貯蔵する蓄熱用水タンク180を備えること、第2蓄熱材83bの圧力を調整するバルブ(圧力調整部)V1~V4を備えること、第2蓄熱材83bの蓄熱・放熱に応じて使用される蓄熱用凝縮器160および蓄熱用蒸発器170を備えること、SOEC10bがリバーシブルSOFC/SOEC10として機能すること、SOEC10bが燃料電池として機能する場合に水素貯蔵タンク140からの供給水素の圧力を調整する調整弁190を備えること、SOEC10bのリバーシブル機能に合わせて酸素側熱交換器20bの構成が変化していること、およびSOEC10bのリバーシブル機能に合わせて制御部150bが行う制御が異なる。そのため、第3実施形態では、第2実施形態と異なる点について説明し、第2実施形態と同じ構成等についての説明を省略する。
【0077】
図20ないし
図22は、第3実施形態の蒸発凝縮器80bの説明図である。
図20には、第2実施形態の
図7のように、蒸発凝縮器80bの概略斜視図が示されている。
図20に示されるように、蒸発凝縮器80bでは、第2実施形態の蒸発凝縮器80aと比較して、第2蓄熱材83bが、原料と同じ方向に蓄熱材配管83Pb内を流れていることが異なる。第2蓄熱材83bは、減圧された密閉系内を循環している。第3実施形態の第2蓄熱材83bは、CaBr
2/H
2O系の蓄熱材である。第2蓄熱材83bは、蒸発凝縮器80b内で凝縮側82bを通る昇圧後の燃料側オフガスと、蒸発側81を通る水および水蒸気との少なくとも一方と熱交換を行う。詳細については後述するが、CaBr
2は、昇圧後の燃料側オフガスの温度と、バルブV1~V4による圧力制御とによって、吸熱を伴う脱水反応および発熱を伴う水和反応を生じさせる。
【0078】
図21には、第2実施形態の
図8のように、燃料側オフガスの流れ方向に沿った蒸発凝縮器80bの断面の概略図が示されている。
図22には、第2実施形態の
図9のように、燃料側オフガスの流れ方向に直交する蒸発凝縮器80bの断面の概略図が示されている。
図22に示されるように、第2実施形態と同じように(
図9)、原料配管81P,オフガス配管82P,および蓄熱材配管83Pbのいずれも、熱交換性を高めるための複数の伝熱フィンFNが形成されている。
【0079】
図23は、第2蓄熱材83bとしてのCaBr
2/H
2O系蓄熱材の性質についての説明図である。
図23には、温度変化に対するCaBr
2およびH
2Oの圧力変化を表す作動線図が示されている。
図23に示されるように、CaBr
2は、温度と圧力との関係に応じて、水和反応および脱水反応を生じさせる。CaBr
2は、下記式(7),(8)に示される、発熱を伴う水和反応と、吸熱を伴う脱水反応とを生じさせる。
CaBr
2+H
2O→CaBr
2・H
2O+75.1kJ/mol・・・(7)
CaBr
2・H
2O+75.1kJ/mol→CaBr
2+H
2O・・・(8)
第3実施形態の制御部150bは、
図23に示される作動線図に基づいて、第1昇圧器40bとバルブV1~V4とを制御することにより、第2蓄熱材83bの蓄熱と放熱とを制御する。
【0080】
SOECシステム500aがSOFCとして機能している状態からSOECとして機能する状態へと切り替わったSOEC放熱モードでは、制御部150bは、第1昇圧器40bの目標圧力を約0.92MPaとし、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80bへと水を供給させ始める。水分配器90は、蒸発器60に供給する水の量と、蒸発凝縮器80bに供給する水の量との比を、およそ3:1とする。第1昇圧器40bによって、大気圧(約0.1MPa)から約0.92MPaまで断熱圧縮された昇圧後の燃料側オフガスの温度は、250℃前後から310℃以上まで上昇する。そのため、310℃以上(Tin82)の昇圧後の燃料側オフガスが蒸発凝縮器80bの凝縮側82bに流入する。
【0081】
制御部150bは、SOEC放熱モードに切り替わる前に、
図19に示されるバルブV1~V4を閉じた状態で、第2蓄熱材83bの圧力を18kPaに制御している。この場合の第2蓄熱材83bの温度は、SOEC放熱モードに切り替わる前のSOFCとして機能している昇圧後の燃料側オフガスによって、約200℃に制御されている。
【0082】
制御部150bは、SOEC放熱モードに切り替わると、バルブV1,V3を閉じた状態で、バルブV2,V4を開く。
図24は、SOEC放熱モードにおけるSOECシステム500bのブロック図である。
図24の太線で示されるように、バルブV2,V4が開くと、蓄熱用水タンク180から蓄熱用蒸発器170の蒸発側171へと水が供給される。また、蓄熱用蒸発器170の媒体側172には、酸素側熱交換器20bの排気側22から排出された約360℃の空気側オフガスが供給される。制御部150bは、バルブV2,V4を制御することにより、蓄熱用蒸発器170の蒸発側171の圧力が約47.3kPaになるように制御する。蓄熱用蒸発器170は、媒体側172に供給された空気側オフガスから、蒸発側171に供給された水への熱交換を行う。熱交換により生成された約80℃の水蒸気は、第2蓄熱材83bへと供給される。
【0083】
SOEC放熱モードにおいて、第2蓄熱材83bは、蓄熱用蒸発器170からの水蒸気が供給されると、
図23に示されるように、蒸気圧力差ΔP(=29.4kPa)が形成され、上記式(7)に示されるCaBr
2の水和反応を生じさせて発熱する。この発熱により、第2蓄熱材83bは、蒸発凝縮器80b内で凝縮側82bを流れる昇圧後の燃料側オフガスを介して、蒸発側81を流れる原料を加熱する。
【0084】
図25は、SOEC放熱モードにおける加熱される水の蒸発熱伝達率α
eと、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cとの距離に対する変化の説明図である。
図25の横軸は、
図12の横軸と同じである。
図25に示されるように、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cは、凝縮側82bの入口から離れるにつれて増加する。蒸発熱伝達率α
eは、凝縮側82bの入口から離れるにつれて減少する。
【0085】
図26は、SOEC放熱モードにおける隔壁面通過熱流束q
fEの距離に対する変化の説明図である。
図26の横軸は、
図25の横軸と同じである。
図26に示されるように、SOEC放熱モードにおける隔壁面通過熱流束q
fEは、入口から離れるにつれて減少する。
【0086】
図27は、SOEC放熱モードにおける凝縮温度T
c,隔壁温度T
w,および蒸発温度T
eの距離に対する変化の説明図である。
図27の横軸は、
図25および
図26の横軸と同じである。また、
図27には、凝縮側82bの入口温度Tin82および出口温度Tout82と、蒸発側81の入口温度Tin81および出口温度Tout81と、放熱後の第2蓄熱材83bであるCaBr
2・H
2Oの温度T4(破線)とが示されている。
図27に示されるように、第1昇圧器40bは、SOEC10bが水電解として機能している場合に、昇圧後の燃料側オフガスの蒸発温度T
eが第2蓄熱材83bの放熱温度(200℃)よりも低くなるように、燃料側オフガスを約0.92MPaに昇圧している。これにより、第2蓄熱材83bから原料への熱交換が発生する。熱交換により、蒸発側81で原料が水蒸気に変化する。
【0087】
SOEC放熱モードにおいて、第2蓄熱材83bの水和反応が完了して第2蓄熱材83bの放熱が終了すると、制御部150bは、SOECシステム500bをSOEC運転モードに切り替える。制御部150bは、SOEC運転モードに移行すると、第1昇圧器40bの目標圧力を0.92MPaに維持したまま、開いていたバルブV2,V4を閉じ、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80bへと供給する水の量を変更する。水分配器90は、蒸発凝縮器80bへと供給する水の量を減らす。変更後に蒸発器60に供給される水の量と、蒸発凝縮器80bに供給される水の量との比は、約9:1である。SOEC運転モードでは、放熱後の第2蓄熱材83bとしてのCaBr2・H2Oは、約6.2kPa,約175℃の状態を維持する。
【0088】
SOECシステム500aがSOEC運転モードからSOFCとして機能している状態へと切り替わったSOFC蓄熱モードでは、制御部150bは、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80bへの水の供給を停止し、水素貯蔵タンク140からSOFCとして機能するSOEC10b(以降、「SOFC10b」とも呼ぶ)の燃料側12に水素を供給する。なお、一部の水素は、燃料側熱交換器30を介さずに常温のまま、燃料側熱交換器30によって加熱された水素と混合してSOFC10bに供給される。制御部150bは、水素の供給と同時に、SOFC10bの空気側11に酸素側熱交換器20bの空気側23を介して空気を流入させる。SOFC10bは、燃料側12に供給された水素と、空気側11に供給された空気中の酸素とを反応させることにより、電力を生成する。
【0089】
SOFC蓄熱モードでは、制御部150aは、第1昇圧器40bの目標圧力を約2.67MPaとし、バルブV2,V4を閉じた状態で、バルブV1,V3を開く。第1昇圧器40bによって、大気圧(約0.1MPa)から約2.67MPaまで断熱圧縮された昇圧後の燃料側オフガスの温度は、115℃前後から約225℃まで上昇する。約225℃(Tin82)の昇圧後の燃料側オフガスが蒸発凝縮器80bの凝縮側82bに流入する。
【0090】
図28は、SOFC蓄熱モードにおけるSOECシステム500bのブロック図である。
図28に示されるように、制御部150bは、SOFC蓄熱モードにおいて、バルブV1,V3の開閉制御をすることにより、蓄熱用凝縮器160の圧力を5.5kPaとする。蓄熱用凝縮器160の温度は常温の約25℃とされている。バルブV1,V3が開くことにより、蒸発凝縮器80bの第2蓄熱材83bは、蓄熱用凝縮器160の凝縮側161に接続する。第2蓄熱材83bは、蒸発凝縮器80bの凝縮側82bを通る燃料側オフガスによって昇温される。燃料側オフガスからの熱交換に加え、SOEC放熱モード時に、
図23に示されるように、第2蓄熱材83bと蓄熱用凝縮器160の凝縮側161との蒸気圧力差ΔP(=2.2kPa)の発生により、第2蓄熱材83bは、上記式(8)に示される脱水反応を生じさせる。脱水反応によって生じた水蒸気は、蓄熱用凝縮器160の媒体側162を流れる常温の水によって冷却されて凝縮する。凝縮された水は、蓄熱用水タンク180に供給されて貯蔵される。すなわち、第2蓄熱材83bは、SOEC運転モードからSOFC蓄熱モードへと変化した場合に、燃料側オフガスの熱交換によって脱水反応を生じさせてCaBr
2に変化して、吸熱によって得た熱を蓄熱する。なお、蒸発凝縮器80bの凝縮側82bから排出された燃料側オフガスは、放熱器110によって除熱された気液分離器120へと送られる。
【0091】
図29は、SOFC蓄熱モードにおける加熱される水の蒸発熱伝達率α
eと、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cとの距離に対する変化の説明図である。
図29の横軸は、
図25の横軸と同じである。
図29に示されるように、燃料側オフガスの凝縮熱伝達率α
cは、凝縮側82bの入口から離れるにつれて増加する。蒸発熱伝達率α
eは、凝縮側82bの入口から離れるにつれて減少する。
【0092】
図30は、SOFC蓄熱モードにおける隔壁面通過熱流束q
fFの距離に対する変化の説明図である。
図30の横軸は、
図29の横軸と同じである。
図30に示されるように、SOFC蓄熱モードにおける隔壁面通過熱流束q
fHは、入口から離れるにつれて減少する。
【0093】
図31は、SOFC放熱モードにおける凝縮温度T
cの距離に対する変化の説明図である。
図31の横軸は、
図29および
図30の横軸と同じである。また、
図31には、凝縮側82bの入口温度Tin82および出口温度Tout82と、蓄熱時の第2蓄熱材83bであるCaBr
2・H
2Oの温度T5(破線)とが示されている。
図31に示されるように、第1昇圧器40bは、SOFC10bが燃料電池として機能している場合に、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度T
cが第2蓄熱材83bの蓄熱温度(180℃)よりも高くなるように、燃料側オフガスを約2.57MPaに昇圧している。また、バルブV1~V4は、SOFC蓄熱モードにおける蓄熱温度(200℃)がSOEC放熱モードにおける放熱温度(180℃)よりも高くなるように、第2蓄熱材のSOEC放熱モードにおける圧力(7.7kPa)を、SOFC蓄熱モードの圧力(47.3kPa)よりも低くなるように制御している。これにより、昇圧後の燃料側オフガスから第2蓄熱材83bへの熱交換が発生する。この熱交換により、第2蓄熱材83bは、吸熱を伴う脱水反応を生じさせ、蓄熱する。
【0094】
SOFC蓄熱モードにおいて、第2蓄熱材83bの脱水反応が完了して第2蓄熱材83bの蓄熱が終了すると、制御部150bは、SOECシステム500bをSOFC運転モードに切り替える。制御部150bは、SOFC運転モードに移行すると、第1昇圧器40bの目標圧力を約2.67MPaに維持したまま、開いていたバルブV1,V3を閉じる。SOFC運転モードでは、蓄熱後の第2蓄熱材83bとしてのCaBr2は、凝縮側82bの燃料側オフガスからの熱交換により、昇圧後の燃料側オフガスと同温の約225℃,30kPaの状態で維持される。
【0095】
図32は、第3実施形態のSOECシステム500bの制御方法のフローチャートである。
図32に示されるように、初めに、制御部150bは、SOECシステム500bに対する要求に応じて、SOECシステム500bをSOECとして機能させるか否かを判定する(ステップS11)。制御部150bは、SOECシステム500bをSOECとして機能させないと判定した場合(ステップS11:NO)、すなわちSOECシステム500bをSOFCとして機能させる場合、SOFC10bの第2蓄熱材83bが蓄電済みであるか否かを判定する(ステップS12)。制御部150bは、第2蓄熱材83bが蓄電済みではないと判定した場合には(ステップS12:NO)、SOECシステム500bを後述するSOFC蓄熱モードで機能させる(ステップS18)。制御部150bは、第2蓄熱材83bが蓄電済みだと判定した場合には(ステップS12:YES)、SOECシステム500bを後述するSOFC運転モードで機能させる(ステップS20)。
【0096】
ステップS11の処理において、制御部150bは、SOECシステム500bをSOECとして機能させると判定した場合(ステップS11:YES)、SOEC10bの第2蓄熱材83bが放熱済みであるか否かを判定する(ステップS13)。制御部150bは、第2蓄熱材83bが放熱済みだと判定した場合には(ステップS13:YES)、SOECシステム500bを後述するSOEC運転モードで機能させる(ステップS16)。
【0097】
制御部150bは、第2蓄熱材83bが放熱済みではないと判定した場合には(ステップS13:NO)、SOECシステム500bをSOEC放熱モードとして機能させる(ステップS14)。SOEC放熱モードでは、制御部150bは、第1昇圧器40bの目標圧力を約0.92MPaとし、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80bへと水を供給させ始める。また、制御部150bは、バルブV1,V3を閉じた状態で、バルブV2,V4を開いて、蓄熱用蒸発器170で生成された水蒸気を第2蓄熱材83bに供給させる。第2蓄熱材83bは、供給された水蒸気と水和反応を生じさせる。水和反応に伴う第2蓄熱材83bの放熱により、蒸発凝縮器80bの蒸発側81を流れる原料が加熱される。
【0098】
制御部150bは、第2蓄熱材83bの放熱が完了したか否かを判定する(ステップS15)。制御部150bは、放熱が完了していないと判定した場合には(ステップS15:NO)、引き続き放熱の完了を待機する。制御部150bは、放熱が完了したと判定した場合には(ステップS15:YES)、SOECシステム500bをSOEC放熱モードからSOEC運転モードへと切り替える(ステップS16)。SOEC運転モードにおいて、制御部150bは、第1昇圧器40bの目標圧力を0.92MPaに維持したまま、開いていたバルブV2,V4を閉じ、水分配器90から蒸発凝縮器80bへと供給する水の量を減らす。
【0099】
制御部150bは、SOECシステム500bをSOEC運転モードからSOFC蓄熱モードへと切り替えの要求があったか否かを判定する(ステップS17)。制御部150bは、切替要求がないと判定した場合には(ステップS17:NO)、引き続き切り替えの要求を待機する。制御部150bは、切替要求があると判定した場合には(ステップS17:YES)、SOECシステム500bをSOEC運転モードからSOFC蓄熱モードへと切り替える(ステップS18)。
【0100】
SOFC蓄熱モードにおいて、制御部150bは、水分配器90から蒸発器60および蒸発凝縮器80bへの水の供給を停止する。制御部150bは、SOFC10bの燃料側12に水素を供給し、SOFC10bの空気側11に空気を供給する。制御部150aは、第1昇圧器40bの目標圧力を約2.67MPaとし、バルブV2,V4を閉じた状態で、バルブV1,V3を開く。バルブV1,V3が開くことにより、第2蓄熱材83bは、蒸発凝縮器80bの凝縮側82bを通る燃料側オフガスとの熱交換により昇温する。また、第2蓄熱材83bは、蓄熱用凝縮器160の凝縮側161との蒸気圧力差ΔPの発生により、脱水反応を生じさせる。第2蓄熱材83bは、脱水反応に伴う吸熱によって得た熱を蓄熱する。
【0101】
制御部150bは、第2蓄熱材83bの蓄熱が完了したか否かを判定する(ステップS19)。制御部150bは、蓄熱が完了していないと判定した場合には(ステップS19:NO)、引き続き蓄熱の完了を待機する。制御部150bは、蓄熱が完了したと判定した場合には(ステップS19:YES)、SOECシステム500bをSOFC蓄熱モードからSOFC運転モードへと切り替える(ステップS20)。制御部150bは、SOFC運転モードに切り替えると、第1昇圧器40bの目標圧力を約2.67MPaに維持したまま、開いていたバルブV1,V3を閉じる。
【0102】
制御部150bは、SOECシステム500bをSOFC運転モードからSOEC放熱モードへと切り替えの要求があったか否かを判定する(ステップS21)。制御部150bは、切替要求がないと判定した場合には(ステップS21:NO)、引き続き切り替えの要求を待機する。制御部150bは、切替要求があると判定した場合には(ステップS21:YES)、ステップS14以降の処理を繰り返す。なお、
図32に示されるフローチャートでは、第2実施形態の制御フロー(
図18)と同じように、終了について明示されていないが、SOECシステム500bがいずれの制御を行っている状態でも、制御フローの終了は可能である。
【0103】
以上説明したように、リバーシブルSOFC/SOEC10として機能する第3実施形態のSOECシステム500bは、第2蓄熱材83bとしてのCaBr2と、第2蓄熱材83bの圧力を調整するバルブV1~V4とを備えている。バルブV1~V4は、SOFC蓄熱モードにおける蓄熱温度(200℃)がSOEC放熱モードにおける放熱温度(180℃)よりも高くなるように、第2蓄熱材のSOEC放熱モードにおける圧力(7.7kPa)を、SOFC蓄熱モードの圧力(47.3kPa)よりも低くなるように制御している。そのため、第3実施形態のSOECシステム500bでは、SOFC蓄熱モードとSOEC放熱モードとにおいて、蒸発凝縮器80bに供給される昇圧後の燃料側オフガスの圧力と、バルブV1~V4によって調整される第2蓄熱材83bの圧力とが異なる。第1昇圧器40bの圧力制御と、バルブV1~V4の圧力制御とによって、SOFC蓄熱モードでは、昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度は、第2蓄熱材83bが蓄熱する蓄熱温度よりも高くなる。これにより、SOFC蓄熱モード時の第2蓄熱材83bは、昇圧後の燃料側オフガスからの熱交換により蓄熱する。一方で、SOEC放熱モードでは、昇圧後の燃料側オフガスの蒸発温度は、第2蓄熱材83bが放熱する放熱温度よりも低くなる。これにより、SOEC放熱モード時の第2蓄熱材83bは、昇圧後の燃料側オフガスからの熱交換により放熱する。SOFC蓄熱モードで第2蓄熱材83bが蓄熱した熱が、SOEC放熱モードでの水蒸気の生成に用いられることにより、SOEC放熱モードでの蒸発凝縮器80bへの温熱熱原料を抑制できる。
【0104】
また、第3実施形態の第2蓄熱材83bは、発熱を伴う水和反応および吸熱を伴う脱水反応を生じさせるCaBr2である。第2蓄熱材83bは、SOEC放熱モード時に、蓄熱用蒸発器170からの水蒸気が供給されると、上記式(7)に示されるCaBr2の水和反応を生じさせて発熱する。第2蓄熱材83bは、一方で、SOEC放熱モード時に、上記式(8)に示される脱水反応を生じさせる。そのため、第3実施形態のSOECシステム500bは、SOEC放熱モード時に、第2蓄熱材83bの水和反応による発熱が水蒸気の生成に利用される。一方で、SOFC蓄熱モード時に、第2蓄熱材83bの脱水反応による吸熱が第2蓄熱材83bの蓄熱に利用される。これにより、第2蓄熱材83bの放熱時と蓄熱時との熱量の差が大きくなり、SOEC放熱モードでの蒸発凝縮器80bへの温熱熱原料をより抑制できる。
【0105】
<第4実施形態>
図33は、第4実施形態のSOECシステム500cのブロック図である。第4実施形態のSOECシステム500cは、第3実施形態のSOECシステム500cと同じように、SOFCとしても機能するバーシブルSOFC/SOECシステムである。第4実施形態のSOECシステム500cでは、第3実施形態のSOECシステム500bと比較して、気液分離器120により分離された水素の供給先を設定する三方弁200と、制御部150cによる三方弁200の制御とが異なる。そのため、第4実施形態では、第3実施形態と異なる点について説明し、第3実施形態と同じ構成等についての説明を省略する。
【0106】
図34は、第4実施形態のSOECシステム500cが燃料電池システムとして機能している場合のブロック図である。
図34の太線で示されるように、制御部150cは、SOFC10bが燃料電池として機能している場合(第3実施形態のSOFC蓄熱モードおよびSOFC運転モードに相当)に、水素貯蔵タンク140から供給される水素を、調整弁190で圧力を調整した後に、SOFC10bへと供給させる。さらに、制御部150cは、三方弁200を制御することにより、気液分離器120により分離された水素を、第2昇圧器130を介さずに、SOFC10bへと供給させる。すなわち、気液分離器120により分離された水素は、水素貯蔵タンク140には貯蔵されない。制御部150cは、気液分離器120により分離された水素流量をマスフローセンサで検出する。制御部150cは、必要流量から検出された水素流量を差し引いた量の水素を、マスフローコントローラーにより水素貯蔵タンク140から流量分配器100へと供給する。
【0107】
図35は、第4実施形態のSOECシステム500cが水電解として機能している場合のブロック図である。
図35の太線で示されるように、制御部150cは、SOEC10bが水電解として機能している場合(第3実施形態のSOEC放熱モードおよびSOEC運転モードに相当)には、三方弁200を制御することにより、気液分離器120により分離された水素を、第2昇圧器130へと供給させる。すなわち、気液分離器120により分離された水素の全ては、水素貯蔵タンク140に貯蔵される。
【0108】
ここで、SOFC10bが燃料電池として機能している場合、高い発電効率を確保するために高い燃料利用率が求められる。燃料電池として機能している場合の燃料側出口の電極は、高濃度水蒸気の雰囲気下に存在するため、高い酸素雰囲気にさらされる。例えば、Ni電極の場合だと、電極の表面がNiOに変化するおそれがある。さらに、SOECシステム500cは、燃料電池と水電解との両方で機能するリバーシブルSOFC/SOECであるため、SOEC10bの燃料側12の電極における出入口は、強い酸化/還元雰囲気に曝される。これにより、燃料側12の電極では、電気化学特性および機械的強度が低下し、長期信頼性が低下するおそれがある。それに対して、第4実施形態の制御部150cは、SOFC10bが燃料電池として機能している場合に、水素貯蔵タンク140から供給される水素と、気液分離器120により分離された水素とを、SOFC10bへと供給させる。一方で、制御部150cは、SOEC10bが水電解として機能している場合には、気液分離器120により分離された水素を、第2昇圧器130へと供給させる。第4実施形態のSOECシステム500cでは、燃料電池として機能している場合に、燃料側オフガスに含まれる水素が、第1昇圧器40bによって昇圧された後に、水素貯蔵タンク140に貯蔵されずに、再び燃料としてSOFC10bに供給される。これにより、SOECシステム500cの燃料利用率が高くなり、SOFC10bが燃料電池として機能している場合に、水素貯蔵タンク140から消費される水素の燃料利用率が抑制される。この結果、高濃度または低濃度の水蒸気濃度に起因する、酸化還元雰囲気下の燃料側12の電極の電気化学的性能および機械強度的性能の低下が抑制される。よって、リバーシブル作動する第4実施形態のSOECシステム500cにおけるシステム効率が向上し、低燃料利用率運転による長期信頼性が確保される。
【0109】
<変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0110】
<変形例1>
上記第1実施形態ないし第4実施形態では、SOECシステムの一例としてのSOECシステム500~500cについて説明したが、SOECシステムの各種構成および各種制御等については種々変形可能である。SOECシステム500は、SOEC10の燃料側12から排出される燃料オフガスの温度を上昇させるように昇圧する第1昇圧器40と、昇圧後の燃料側オフガスの熱交換によって蒸発凝縮器80によって生成された水蒸気を昇温させる燃料側熱交換器30とを備えていればよい。そのため、例えば、蒸発器60に供給された水を加熱する外部熱源70は、Air(空気)以外の熱交換以外の方法を用いてもよいし、Air(空気)の温度について150℃以外の温度であってもよい。また、第1昇圧器40および第2昇圧器130の各性能についても種々変化可能である。水素貯蔵タンク140が貯蔵する水素の圧力は、流量分配器100に供給する水素の圧力よりも高ければよく、20MPa未満であってもよい。
【0111】
<変形例2>
上記第2実施形態のSOECシステム500aが備える第1蓄熱材83は、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度よりも低い融解温度を有し、かつ、昇圧後の燃料オフガスの凝縮温度よりも高い凝固温度を有する範囲の材料で種々変形可能である。例えば、第1蓄熱材83は、マンニトール以外の材料である水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)との混合体であってもよい。この混合体は、例えば、180℃の融解温度と、160℃の凝固温度とを有する。第1蓄熱材83は、マンニトールとNaOH-KOHとのいずれとも異なる材料で形成されていてもよい。
【0112】
また、第2実施形態の水分配器90は、SOECシステム500aに対する要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合と、要求負荷が高負荷から低負荷に変化する場合とにおいて、蒸発凝縮器80aに供給する水の量を一時的に変化されているが、蒸発凝縮器80aに供給する水の量については種々変形可能である。例えば、水分配器90は、要求負荷が低負荷の場合に蒸発凝縮器80aに第1供給量の水を常時供給し、要求負荷が高負荷の場合に蒸発凝縮器80aに第2供給量の水を常時供給してもよい。すなわち、要求負荷の変化直後の所定の時間内に、水分配器90から蒸発凝縮器80aへの水の供給量が変化しなくてもよい。
【0113】
第2実施形態では、
図11に示されるように、SOECシステム500aに対する要求負荷が低負荷から高負荷に変化する場合、および、高負荷から低負荷に変化する場合としてステップ関数状の変化を例に挙げて説明したが、要求負荷の変化については種々変形可能である。また、第2実施形態では、低負荷を、高負荷の50%の負荷として定義したが、この定義は一例である。そのため、SOECシステム500aは、低負荷および高負荷以外の中負荷の制御を備えていてもよいし、閾値によって各種負荷を分けてもよい。また、制御部150aは、各制御に応じて必要な燃料の生成のために、水分配器90の供給量や要求負荷における時間的変化が各種設定してもよい。
【0114】
<変形例3>
上記第3実施形態のSOECシステム500bが備える第2蓄熱材83bは、第1昇圧器40bの圧力制御と、バルブV1~V4の圧力制御とによって、SOFC蓄熱モード時に蓄熱し、SOEC放熱モード時に放熱可能な材料の範囲で種々変形可能である。例えば、第2蓄熱材83bは、CaBr2以外の材料であってもよく、第2実施形態のSOECシステム500aで利用可能なマンニトールやNaOH-KOHであってもよい。第2蓄熱材83bは、水和反応および脱水反応を生じさせる材料でなくてもよい。
【0115】
第3実施形態の第1昇圧器40bは、SOFC10bが燃料電池として機能している場合に、第2蓄熱材83bに応じて、昇圧後の燃料オフガスの蒸発温度が第2蓄熱材83bの放熱温度よりも低くなる範囲で、燃料オフガスを昇圧すればよい。バルブV1~V4は、SOEC10bが水電解として機能している場合に、第2蓄熱材83bの蓄熱温度が放熱温度よりも高くなるように、第2蓄熱材83bの圧力を、SOFC10bが燃料電池として機能している場合よりも低くなればよい。
【0116】
<変形例4>
第4実施形態のSOECシステム500cでは、SOFC10bが燃料電池として機能している場合に、気液分離器120により分離された水素が、水素貯蔵タンク140を介さずにSOFC10bに供給される範囲で、各構成等を種々変形可能である。制御部150cは、燃料電池として機能しているSOFC10bおよび水電解として機能しているSOEC10bの要求に応じて、SOFC10b(SOEC10b)に供給する水素(水蒸気)を適宜設定すればよい。同様に、制御部150cは、第1昇圧器40bの圧力制御や水分配器90の供給量の制御等を適宜行えばよい。
【0117】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0118】
10,10b…SOEC(固体酸化物形水電解セル),SOFC(固体酸化物形燃料電池)
11…SOECの酸素側
12…SOECの燃料側
20,20b…酸素側熱交換器
21…酸素側熱交換の燃料側
22…酸素側熱交換の排気側
23…酸素側熱交換の空気側
30…燃料側熱交換器
31…燃料側熱交換器の燃料側
32…燃料側熱交換器の排気側
40,40a,40b…第1昇圧器
50…水貯蔵タンク
60…蒸発器
70…外部熱源
80,80a,80b…蒸発凝縮器
81…蒸発凝縮器の蒸発側
81P…原料配管
82…蒸発凝縮器の凝縮側
82P…オフガス配管
82a,82b…蒸発凝縮器の凝縮側
83…第1蓄熱材
83P…蓄熱材空間
83Pb…蓄熱材配管
83b…第2蓄熱材
90…水分配器
100…流量分配器
110…放熱器
120…気液分離器
130…第2昇圧器
140…水素貯蔵タンク(水素タンク)
150,150a,150b,150c…制御部
160…蓄熱用凝縮器
161…蓄熱用凝縮器の凝縮側
162…蓄熱用凝縮器の媒体側
170…蓄熱用蒸発器
171…蓄熱用蒸発器の蒸発側
172…蓄熱用蒸発器の媒体側
180…蓄熱用水タンク
190…調整弁
200…三方弁
500,500,500a,500b,500c…SOECシステム(水電解システム)
V1~V4…バルブ(圧力制御部)
T1…第1蓄熱材の融点
T2…第1蓄熱材の融解温度
T3…第1蓄熱材の凝固温度
T4,T5…第2蓄熱材の温度
Tc…昇圧後の燃料側オフガスの凝縮温度
Te…昇圧後の燃料側オフガスの蒸発温度
Tw…隔壁温度
ΔP…蒸気圧力差