(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20221208BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221208BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221208BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20221208BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20221208BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M4/86 B
H01M4/90 B
H01M4/92
B01J23/42 M
H01M8/10 101
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020058071
(22)【出願日】2020-03-27
(62)【分割の表示】P 2016567903の分割
【原出願日】2015-05-20
【審査請求日】2020-04-23
(32)【優先日】2014-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オマリー, レイチェル ルイーズ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-045694(JP,A)
【文献】特表2013-502682(JP,A)
【文献】特表2014-505330(JP,A)
【文献】特開2006-269133(JP,A)
【文献】特表2013-532895(JP,A)
【文献】特表2009-505364(JP,A)
【文献】特表2002-528867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒膜であって、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含む第1の電極触媒成分を含み;
アノード触媒層の幾何学的電極単位面積に対する電気化学的白金表面積が5~100cm
2
Pt/cm
2
である、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分と、
第2の酸素発生反応電極触媒とを含
み、カソード触媒層における第2の酸素発生反応電極触媒の第2の電極触媒成分(第2の白金含有電極触媒+第2の炭素担体)に対する比(重量による)が、0.1:1から0.5:1である、
カソード触媒層と、
を備えた触媒膜。
【請求項2】
アノード触媒層が第1の酸素発生反応電極触媒を含む、請求項1に記載の触媒膜。
【請求項3】
アノード触媒層が第1の過酸化水素分解触媒を含む、請求項1又は2に記載の触媒膜。
【請求項4】
カソード触媒層が第2の過酸化水素分解触媒を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項5】
イオン伝導性膜構成要素が第3の過酸化水素分解触媒を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項6】
イオン伝導性膜構成要素が水素/酸素再結合触媒を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項7】
膜電極接合体であって、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含む第1の電極触媒成分を含み;
アノード触媒層の幾何学的電極単位面積に対する電気化学的白金表面積が5~100cm
2
Pt/cm
2
である、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分と、
第2の酸素発生反応電極触媒とを含
み、カソード触媒層における第2の酸素発生反応電極触媒の第2の電極触媒成分(第2の白金含有電極触媒+第2の炭素担体)に対する比(重量による)が、0.1:1から0.5:1である、
カソード触媒層と;
(iv)イオン伝導性膜の第1の面と接触していない、アノード触媒層の表面上のアノードガス拡散層と;
(v)イオン伝導性膜の第2の面と接触していない、カソード触媒層の表面上のカソードガス拡散層と、
を備えた膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に使用するための触媒膜及び膜電極接合体に関し、特に、スタートアップ/シャットダウン状態の発生の繰り返しによって生じる性能低下に対して耐性である触媒膜及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を備える電気化学電池である。水素若しくは、メタノール又はエタノール等のアルコールといった燃料はアノードに供給され、酸素又は空気などの酸化剤はカソードに供給される。電気化学反応は電極で起こり、燃料及び酸化剤の化学エネルギーは、電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化とカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
水素を燃料とした又はアルコールを燃料としたプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では、電解質は、電子的に絶縁し、かつ、プロトンを伝導する固体高分子膜である。アノードで発生したプロトンは、膜を横切ってカソードへと輸送され、そこでプロトンは酸素と結合して水を形成する。最も幅広く使用されるアルコール燃料はメタノールであり、このPEMFCの変形はしばしば直接メタノール燃料電池(DMFC)と称される。
【0004】
PEMFCの主要な構成要素は膜電極接合体(MEA)として知られており、本質的に5層からなる。中心層は、高分子イオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のどちらかの面には、特定の電気的触媒反応用に設計された電極触媒を備えた電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接してガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に到達できるようにしなければならず、かつ、電気化学反応によって生成する電流を伝導しなければならない。従って、ガス拡散層は、多孔性かつ電気伝導性でなければならない。
【0005】
電極触媒層は、一般に、微細に分散した金属粉末(金属ブラック)の形態をした担持されていない、又は高表面積炭素材料などの電気伝導性担体上に担持された、金属(白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、金又は銀、又は卑金属など)で構成される。適切な炭素としては、典型的には、カーボンブラックの仲間に由来するもの、例えばオイルファーネス・ブラック、エクストラコンダクティブ・ブラック、アセチレン・ブラック及びそれらのグラファイト化されたものなどが挙げられる。例示的な炭素としては、Akzo Nobel Ketjen EC300J及びCabot Vulcan XC72Rが挙げられる。電解触媒層は、適切には、層内のイオン伝導性を改善するために含まれる、イオン伝導性ポリマーなどの他の成分を含む。電極触媒層はまた、反応物の侵入及び生成物の放出を可能にする、ある特定の体積分率の空隙率も含む。
【0006】
通常、MEAは以下に概略が説明される多くの方法によって構築することができる:
(i)電極触媒層はガス拡散層に塗布されて、ガス拡散電極を形成しうる。2つのガス拡散電極は、イオン伝導性膜のいずれかの側に配置され、一緒に積層化されて、5層のMEAを形成しうる。
(ii)電極触媒層は、直接適用することによって、又は予めコーティングされたデカール転写シートからの転写によって間接的にイオン伝導性膜の両面に適用されて、触媒化イオン伝導性膜を形成しうる。その後、ガス拡散層は、触媒化イオン伝導性膜の両面に適用される。
(iii)MEAは、一方の面が電極触媒層でコーティングされたイオン伝導性膜、電極触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜の他方の面上のガス拡散電極から形成することができる。
【0007】
典型的には、大抵の用途にとって十分な電力を供給するためには数十の又は数百ものMEAが必要とされ、そのため、燃料電池スタックを作り上げるために多数のMEAが接合される。流動場プレートは、MEAを分離するために使用される。該プレートは、幾つかの機能、すなわち、MEAへの反応物質の供給、生成物の取り出し、電気的接続の提供、及び物理的な支持体の提供の役割を果たす。
【発明の概要】
【0008】
高い電気化学的電位は幾つかの実際の動作状態において生じることがあり、このような状況においては、層内に存在する炭素(触媒の担体材料など)の腐食及び高電位エクスカーションの間に生じるさまざまな金属焼結分解機構に起因するナノ粒子電極触媒金属の損失に起因して、触媒層/電極構造への不可逆的な損傷を引き起こしうる。このような状態は十分に文書化されているが、次のものが挙げられる:
(i)電池反転:燃料電池は、時折、アノードへの燃料供給の一時的な減少によってしばしば引き起こされる電圧反転(セルが反対の極性に付勢される)を被る。これは、その後、カソードにおける酸素還元反応よりも高い電位を生じる、アノードにおける炭素の電気的酸化など、電流の発生を維持するために生じる一時的な望ましくない電気化学反応を引き起こす。このような電池反転状態では、反転時間が非常に短かったとしても、炭素の酸化に起因して、アノード構造は不可逆的に損傷を受ける場合があり、ひいてはアノード触媒層構造の永久劣化を生じうる。
(ii)スタートアップ/シャットダウン:燃料電池がしばらくの間アイドリングしている場合、空気に由来する酸素がカソード側から膜を通って拡散し、アノード側にまだ存在する任意の残留水素を移動させる可能性は十分にある。電池が再起動され、水素がアノード内に再導入されるときに、空気がアノードから完全にパージされるまで、水素/空気の混合組成が、電池を通って移動するフロントとして、短時間の間、アノードに存在する。入口側で水素に富み、出口側で空気に富んだフロントの存在は、炭素の電気的酸化をカソード側に高電位で生じさせるように、燃料電池内の内部の電気化学電池を設定することができる。このようなスタートアップ状態では、カソード構造は、炭素の酸化に起因して、不可逆的に損傷を受ける場合があり、ひいてはカソード触媒層構造の永久劣化を生じうる。同様に損傷を与える電気化学電池は、シャットダウンにおいても設定されうる。例えばシャットダウンの間に窒素などの不活性ガスを用いたアノードガス空間のパージによって、これらのプロセスが生じることを制限することも可能でありうるが、燃料電池車両にこのような追加のガスを搭載して運ぶことは、明らかに、実際的な又は経済的に実行可能な提案ではない。
【0009】
高い電気化学的電位の発生に関連した問題に対処するために提案される解決策は、通常の電極触媒担体よりも酸化性の腐食に対してさらに耐性である電極触媒担体の採用、及び、酸素発生反応(水の電気分解)などの損傷を与える炭素の電気的酸化反応の存在下、高い電気化学的電位で生じうる代替的な酸化反応に活性を有する追加的な電極触媒組成物の取り込みを含む。これらの軽減対策は、電極触媒層の特性においてなされた妥協に起因して、しばしば燃料電池の全般的な性能の低下を生じる。
【0010】
80℃の通常動作温度を上回る間欠動作は、自動車用PEMFCシステムで生じやすい;しかしながら、高温は炭素腐食プロセスを促進し、したがって、記載される減衰機構のいずれかを加速しやすい。
【0011】
スタートアップ/シャットダウン機構によって生じた劣化に対する耐性の向上をもたらし、好適には性能について妥協することのない、触媒膜及び膜電極接合体を提供することが本発明の目的である。本発明者らは、驚くべきことに、実際の動作状態においてカソード炭素担体の酸化性腐食の低減を提供し、よって、より耐久性のある、より寿命の長い触媒膜又は膜電極接合体を提供する、特定のアノード電極触媒層を備えた触媒膜及び膜電極接合体を実現した。
【0012】
本発明の触媒膜は、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含む第1の電極触媒成分を含み;
アノード触媒層の電気化学的白金表面積がアノード触媒層の幾何学的電極面積の5~100cm2Pt/cm2である、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分を含む、
カソード触媒層と、
を備える。
【0013】
本発明の膜電極接合体は、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含む第1の電極触媒成分を含み;
アノード触媒層の電気化学的白金表面積がアノード触媒層の幾何学的電極面積の5~100cm2Pt/cm2である、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分を含む、
カソード触媒層と;
(iv)イオン伝導性膜の第1の面と接触していない、アノード触媒層の表面上のアノードガス拡散層と;
(v)イオン伝導性膜の第2の面と接触していない、カソード触媒層の表面上のカソードガス拡散層と
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】繰り返されるスタートアップ/シャットダウンサイクルの関数としての燃料電池の電圧劣化。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴がこれから提示される。文脈上別異に解することを必要としない限り、本発明の任意の態様を、本発明の任意の他の態様と組み合わせてもよい。文脈上別異に解することを必要としない限り、任意の態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせで、本発明の任意の態様と組み合わせてもよい。
【0016】
本発明は、触媒膜であって、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含む第1の電極触媒成分を含み;
アノード触媒層の電気化学的白金表面積がアノード触媒層の幾何学的電極面積の5~100cm2Pt/cm2である、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分を含む、
カソード触媒層と
を備えた、触媒膜を提供する。
【0017】
アノード触媒層は任意選択的に第1の酸素発生反応電極触媒を含む。
【0018】
カソード触媒層は任意選択的に第2の酸素発生反応電極触媒を含む。
【0019】
アノード触媒層は任意選択的に第1の過酸化水素分解触媒を含む。
【0020】
カソード触媒層は任意選択的に第2の過酸化水素分解触媒を含む。
【0021】
イオン伝導性膜構成要素は任意選択的に第3の過酸化水素分解触媒を含む。
【0022】
イオン伝導性膜構成要素は任意選択的に水素/酸素再結合触媒を含む。
【0023】
アノード触媒層
アノード触媒層はイオン伝導性膜構成要素の第1の面上に存在する。
【0024】
アノード触媒層は、第1の白金含有電極触媒を含む第1の電極触媒成分を含む。第1の白金含有電極触媒は白金を含む。
【0025】
本発明の1つの態様では、第1の白金含有電極触媒は白金からなる。
【0026】
第2の態様では、白金は、1種類以上の他の白金族金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム又はイリジウム)、金、銀又は卑金属、若しくは1種類以上の他の白金族金属、金、銀又は卑金属の酸化物と合金化又は混合される。白金は、任意選択的に、オスミウム、ルテニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、イリジウム、スズ、チタン又はロジウムのうちの1種類以上と合金化又は混合される。
【0027】
第1の白金含有電極触媒は、第1の炭素担体上に担持される。第1の炭素担体は、グラファイト、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノグラフェンプレートレット、高表面積カーボンブラック(Akzo Nobel Ketjen EC300Jなど)、低表面積カーボンブラック(アセチレン・ブラックなど)、加熱処理又はグラファイト化された(2000℃超)カーボンブラック又は他の高黒鉛性炭素担体からなる群より選択される1種類以上の炭素質材料など、粒子状物質又は繊維材料でありうる。
【0028】
1つの態様では、第1の炭素担体は、高電位において、腐食に対して高い耐性を示す。このことが意味するのは、第1の炭素担体材料が、24時間にわたり、80℃での1.2Vの電位ホールドを含む加速試験において、質量を15%以下で失うということである。炭素の損失は、当業者に用いられる次の一般に受け入れられている試験によって、及び、Journal of Power Sources、171(1)19 September 2007、pages 18-25にさらに詳細に記載されるように決定することができる:選択された触媒又は炭素の電極は、可逆水素電極(RHE)を対照とし、かつ80℃で、1MのH2SO4液体電解質中で1.2Vで保持され、腐食電流は24時間にわたりモニタリングされる。次いで、実験の間に通過する電荷を集積し、炭素をCO2ガスに変換する4電子過程と仮定して、移動した炭素の算出に使用する;試験の最初の1分間に通過する電荷は電気化学的二重層の帯電に寄与し、したがって腐食プロセスには起因しないことから、この時間は含めない。24時間の試験の間の炭素損失の質量は、電極の初期炭素含量のパーセンテージとして表される。適切には、第1の炭素担体は、200m2/g未満、好適には150m2/g未満、及び好ましくは100m2/g未満の比表面積(BET)を有する。BET法による比表面積の決定は文献に明確に記録されている;例えば、詳細は‘Analytical Methods in Fine Particle Technology’, by Paul A. Webb and Clyde Orr, Micromeritics Instruments Corporation 1997に見出すことができる。このタイプの炭素担体は、アノード触媒層が第1の酸素発生反応電極触媒を含む場合に特に有益である。
【0029】
第1の白金含有電極触媒のナノ粒子は、第1の電極触媒成分(第1の白金含有電極触媒及び第1の炭素担体)の総量に基づいて、10~75重量%の量で第1の炭素担体上に担持される。実際の量は第1の炭素担体の性質に応じて決まる。
【0030】
電気化学的な白金の表面積(EPSA)とは、幾何学的電極面積(cm2)あたりの白金の表面積(cm2)である。アノード触媒層のEPSAは、アノード触媒層の5~100cm2Pt/cm2である。
【0031】
適切には、EPSAは80cm2Pt/cm2の上限値、好ましくは75cm2Pt/cm2の上限値を有する。
【0032】
適切には、EPSAは、10cm2Pt/cm2の下限値、好ましくは15cm2Pt/cm2の下限値を有する。
【0033】
EPSAは、第1の電極触媒成分における白金金属表面積(cm2Pt/gPt)と、アノード触媒層における幾何学面積あたりの第1の電極触媒成分のローディング(gPt/cm2アノード触媒層)との組み合わせによって決まり、一酸化炭素(CO)の除去を伴うサイクリックボルタンメトリーのプロトコルを使用して、本発明の触媒膜を取り込んだMEA上で測定される。測定は、燃料電池におけるMEAの正常動作条件で行われる。さらなる詳細は、J. Power Sources、242(2013)、244-255から入手可能である。
【0034】
第1の電極触媒成分における白金の金属表面積は、25から115m2/gPtの範囲内にある。金属表面積は、一酸化炭素の気相吸着を使用して決定される。電極触媒は、水素が低減し、次いで、取り込みがなくなるまで、一定分量の一酸化炭素ガスを滴定する。次に、吸着された一酸化炭素のモル数は、‘Catalysis - Science and Technology, Vol. 6, p257, Eds J. R. Anderson and M. Boudartに規定されるように、Ptについて1.25×1019原子/m2と仮定することにより、金属表面積に変換することができる。この方法を使用して決定された金属表面積が、燃料電池の試験条件下で電気化学的表面積に変換可能であることは、よく知られている。
【0035】
アノード触媒層における第1の電極触媒成分のローディングは、0.02から0.3mgPt/cm2の範囲であり、適切には0.02から0.2mgPt/cm2、好ましくは0.02から0.15mgPt/cm2の範囲である。
【0036】
第1の電極触媒成分における白金の金属表面積及びアノード触媒層における第1の電極触媒成分のローディングは、アノード触媒層におけるEPSAがアノード触媒層の5~100cm2Pt/cm2をもたらすように選択されることは、当業者にとって明らかである。
【0037】
アノード触媒層は、任意選択的に、以下にさらに詳細に説明される第1の酸素発生反応電極触媒を含みうる。
【0038】
適切には、アノード触媒層における第1の酸素発生電極触媒の第1の電極触媒成分(第1の白金含有電極触媒+第1の炭素担体)に対する比(重量による)は、20:0.5から1:20、好ましくは1:0.5から1:10である。
【0039】
アノード触媒層は、適切にはイオン伝導性ポリマーを含み、好適にはプロトン伝導性ポリマーを含む。プロトン伝導性ポリマーとは、プロトンを伝導することができる任意のポリマーである。このようなポリマーの例としては、ペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーをベースとしたポリマーの分散系(例えば、Nafion(登録商標)(E.I. DuPont de Nemours and Co.)、Aquivion(登録商標)(Solvay Plastics)、Aciplex(登録商標)(旭化成株式会社)及びFlemion(登録商標)(旭硝子株式会社)の商品名で市販されているものなど)が挙げられる。このようなPFSAをベースとしたイオン伝導性ポリマーは、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ化スルホン酸誘導体との共重合から形成される。
【0040】
PFSAイオン伝導性ポリマーの代替として、ポリ芳香族に分類されるポリマーなど、スルホン酸化又はリン酸化した炭化水素ポリマーをベースとしたイオン伝導性ポリマーの分散系を使用することが可能である。
【0041】
アノード触媒層は任意選択的に、以下にさらに詳細に説明される第1の過酸化水素分解触媒を含む。
【0042】
アノード触媒層は追加の成分を含みうる。このような成分としては、疎水性(PTFEなどのポリマー、あるいは表面処理された又はされていない無機固体)の、もしくは、親水性(ポリマー又は酸化物などの無機固体)の、水の輸送を制御するための添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
アノード触媒層を調製するため、第1の電極触媒成分、第1の酸素発生反応電極触媒、任意選択的な第1の過酸化水素分解触媒及び任意の追加的な成分は、水性溶媒及び/又は有機溶媒中に分散されて、触媒インクが調製される。必要な場合は、粒径の均一性を達成するために、高剪断混合、ミリング加工、ボールミル粉砕、マイクロフルイダイザー等に通すこと又はそれらの組み合わせなどの当技術分野で既知の方法で、粒子の破壊が行われる。
【0044】
触媒インクの調製後、インクは基材(例えばイオン伝導性膜又は転写基材)上に堆積されてアノード触媒層を形成する。インクは、当業者に知られる標準的な方法で堆積されうる。このような技法としては、グラビアコーティング、スロットダイ(スロット、押出成形)コーティング(それによって、コーティングが、圧力下、スロットを介して基材上へと絞り出される)、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェット印刷、噴霧、塗装、バーコーティング、パッドコーティング、ギャップコーティングの技法、例えばロール式ナイフ又はロール式ドクターブレード(それによってコーティングが基材に適用され、その後、ナイフと支持ローラの間のスプリットを通過する)、及びマイヤーバーなどの測定棒塗布などが挙げられる。
【0045】
触媒層は、適切には≧1μm;さらに好適には≧2μmの厚さであり;好ましくは≧5μmの厚さである。
【0046】
触媒層は、適切には≦15μm;さらに好適には≦10μmの厚さである。
【0047】
カソード触媒層
カソード触媒層はイオン伝導性膜構成要素の第2の面上に存在する。
【0048】
カソード触媒層は、第2の白金含有電極触媒を含む第2の電極触媒成分を含む。第2の白金含有電極触媒は白金を含む。
【0049】
本発明の1つの態様では、第2の白金含有電極触媒は白金からなる。
【0050】
第2の態様では、白金は、1種類以上の他の白金族金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム又はイリジウム)、金、銀又は卑金属、もしくは1種類以上の他の白金族金属、金、銀又は卑金属の酸化物と合金化又は混合される。白金は、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、イリジウム、銅、鉄又は亜鉛のうちの1種類以上と任意選択的に合金化又は混合される。電極触媒を含む合金化した金属は、合金化成分が粒子全体に均一に分散されているナノ粒子、又は、一般に“コアシェル”又は“脱合金”電極触媒材料と称されうる、表面に白金成分が豊富なナノ粒子の形態をとりうる。
【0051】
適切には、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定して、第2の白金含有電極触媒ナノ粒子の平均粒径は≧3nmであり、適切には≧4nmである。
【0052】
第2の白金含有電極触媒は第2の炭素担体上に担持される。第2の炭素担体は、低表面積のカーボンブラック又は、加熱処理カーボンブラックからなる群より選択される1種類以上の炭素質材料など、凝集した粒子構造を有しうる。
【0053】
第2の炭素担体は、高電位において、腐食に高い耐性を示す。このことが意味するのは、第2の炭素担体材料が、24時間にわたる80℃での1.2Vの電位ホールドを含む加速試験において、質量を20%以下で失うということである。炭素の損失は、第1の炭素担体に関して先に説明されるとおりに定義されうる。
【0054】
第2の炭素担体は、適切には、100~600m2/g(好適には300~500m2/g)の比表面積(BET)及び10~90m2/g(適切には10~60m2/g)の微小孔面積を有する。
【0055】
BET法に使用する比表面積は、先に説明したように決定されうる。
【0056】
微小孔面積とは微小孔に関する表面積のことを指し、この微小孔は、内部の幅が2nm未満の細孔として定義される。微小孔面積は、上述のBET表面積決定法から生成される窒素の吸着等温式から生成されるt-プロットを使用することによって決定される。t-プロットは、多層の標準的な厚さtの関数としてプロットされた吸着したガスの容積を有し、ここでt値は、圧力値を使用して、厚さの方程式;この事例ではハーキンス‐ユラの方程式における、吸着等温式から算出される。0.35から0.5nmの間のt-プロットの厚さの値の直線部の傾きは、外表面積、すなわち、微小孔を除くすべての細孔に関連する表面積の算出に用いられる。次に、微小孔表面は、BET表面積から外表面積を減算することによって算出される。さらなる詳細は、‘Analytical Methods in Fine Particle Technology’, by Paul A. Webb and Clyde Orr, Micromeritics Instruments Corporation 1997に見出すことができる。
【0057】
第2の炭素担体材料は、以前から存在する炭素材料の機能化(functionlisation)によってもたらされうる。炭素の機能化又は活性化は文献に記載されており、物理的活性化の場合には、酸素又は空気、二酸化炭素、蒸気、オゾン、又は一酸化窒素のようなガスを使用した炭素の後処理として、あるいは、化学的活性化の場合には、高温における、炭素前駆体と、KOH、ZnCl2又はH3PO4のような固体又は液体試薬との反応として、理解される。このような機能化又は活性化の例は、H. Marsch and F. Rodriquez-Reinoso in ‘Activated Carbon’, Elsevier Chapter 5 (2006)に記載されている。活性化プロセスの間に、炭素の一部は焼失の化学反応によって失われる。第2の炭素担体としての使用に適した材料の特定の例として、国際公開第2013/045894号に開示されているものが挙げられる。
【0058】
第2の白金含有電極触媒のナノ粒子は、第2の電極触媒成分(第2の白金含有電極触媒及び第2の炭素担体)の総量に基づいて、30~70重量%、適切には40~60重量%、好ましくは45~55重量%の量で、第2の炭素担体上に担持される。
【0059】
カソード触媒層は、任意選択的に、以下にさらに詳細に説明される第2の酸素発生反応電極触媒を含む。適切には、カソード触媒層における第2の酸素発生電極触媒の第2の電極触媒成分(第2の白金含有電極触媒+第2の炭素担体)に対する比(重量による)は、0.1:1から0.5:1、好適には0.125:1から0.4:1である。
【0060】
カソード触媒層は、イオン伝導性ポリマー、好適にはプロトン伝導性ポリマーを含むことが好適である。プロトン伝導性ポリマーとは、プロトンを伝導することができるいずれかのポリマーである。このようなポリマーの例としては、ペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーをベースとしたポリマーの分散系(例えば、Nafion(登録商標)(E.I. DuPont de Nemours and Co.)、Aquivion(登録商標)(Solvay Plastics)、Aciplex(登録商標)(旭化成株式会社)及びFlemion(登録商標)(旭硝子株式会社)の商品名で市販されているものなど)が挙げられる。このようなPFSAをベースとしたイオン伝導性ポリマーは、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ化スルホン酸誘導体との共重合から形成される。
【0061】
PFSAイオン伝導性ポリマーに代わる手段として、ポリ芳香族に分類されるポリマーなど、スルホン化又はリン酸化した炭化水素ポリマーに基づいたイオン伝導性ポリマーの分散系を使用することが可能である。
【0062】
カソード触媒層は任意選択的に、以下にさらに詳細に説明される第2の過酸化水素分解触媒を含む。
【0063】
カソード触媒層は追加の成分を含みうる。このような成分としては、疎水性(PTFEなどのポリマー、あるいは表面処理された又はされていない無機固体)の、もしくは、親水性(ポリマー又は酸化物などの無機固体)の、水の輸送を制御するための添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
カソード触媒層を調製するために、第2の電極触媒成分、任意選択的な第2の酸素発生反応電極触媒及び任意選択的な第2の過酸化水素分解触媒、及び任意の追加的な成分、水性溶媒及び/又は有機溶媒中に分散されて、触媒インクが調製される。必要な場合は、粒径の均一化を達成するために、高剪断混合、ミリング加工、ボールミル粉砕、マイクロフルイダイザー等に通すこと又はそれらの組み合わせなどの当技術分野で既知の方法で、粒子の破壊が行われる。
【0065】
触媒インクの調製後、インクは基材(例えばイオン伝導性膜、又は転写基材)上に堆積されてカソード触媒層を形成する。インクは、印刷、噴霧、ロール式ナイフ、パウダーコーティング、電気泳動等の標準的な方法によって堆積されうる。
【0066】
触媒層は適切には≧2μmであり;さらに好適には≧5μmの厚さである。
【0067】
触媒層は適切には≦20μmであり;さらに好適には≦15μmの厚さである。
【0068】
触媒層における白金のローディングは≦0.4mg/cm2である。
【0069】
触媒層における白金のローディングは≧0.05mg/cm2である。
【0070】
イオン伝導性膜
イオン伝導性膜構成要素はイオン伝導性膜を含む。イオン伝導性膜はPEMFCにおける使用に適したいずれかの膜であって差し支えなく、例えば膜は、Nafion(登録商標)(DuPont)、Aquivion(登録商標)(Solvay-Plastics)、Flemion(登録商標)(旭硝子株式会社)及びAciplex(登録商標)(旭化成株式会社)などのペルフルオロ化スルホン酸材料に基づいたものであってもよい。あるいは、膜は、fumapem(登録商標)P、E又はKシリーズ製品としてFuMA-Tech GmbHから、JSR社、東洋紡社等から入手可能なものなど、スルホン化炭化水素膜に基づくものであってもよい。あるいは、膜は、120℃から180℃の範囲で動作する、リン酸をドープしたポリベンゾイミダゾールに基づくものであってもよい。
【0071】
イオン伝導性膜構成要素は、膜の厚み内に包埋されて、耐引き裂き性の増加及び水和及び脱水和における寸法変化の低減など、膜の機械的強度の改善をもたらし、ひいては燃料電池のMEAの耐性及び寿命の増加をもたらす、平坦な多孔質材料(例えば米国再発行特許第37307号に記載される延伸ポリテトラフルオロエチレン)などの補強材を含みうる。強化された膜を形成するための他のアプローチには、米国特許第7807063号及び米国特許第7867669号に開示されるものが挙げられ、ここで補強材は、幾つかの細孔が内部に形成され、その後にPFSAアイオノマーが充填される、ポリイミドなどの剛性のポリマー膜である。
【0072】
イオン伝導性膜構成要素は、任意選択的に、以下にさらに詳細に説明される第3の過酸化水素分解触媒を含む。
【0073】
第3の過酸化水素分解触媒は、イオン伝導性膜の一方又は両方の面に層として存在しうる。
【0074】
あるいは、第3の過酸化水素分解触媒は、イオン伝導性物質全体に分散されうる。分散は、均一であっても不均一であってもよい。
【0075】
イオン伝導性膜構成要素は、任意選択的に、再結合触媒、特に、それぞれアノード及びカソードからクロスオーバーして水を生成する、H2及びO2の再結合触媒を含みうる。-適切な再結合触媒は、高表面積の酸化物担体材料(シリカ、チタニア、ジルコニアなど)上に金属(白金など)を含む。再結合触媒のさらなる例は、欧州特許第0631337号及び国際公開第00/24074号に開示されている。
【0076】
第1及び第2の酸素発生反応電極触媒
存在する場合、第1及び第2の酸素発生反応電極触媒は同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
第1及び/又は第2の酸素発生反応電極触媒は、ルテニウム又は酸化ルテニウム若しくはイリジウム又は酸化イリジウム若しくはそれらの混合物を含みうる。
【0078】
第1及び/又は第2の酸素発生反応電極触媒は、イリジウム又は酸化イリジウムと、1種類以上の金属M又はそれらの酸化物を含みうる。Mは遷移金属(イリジウム又はルテニウム以外)又はスズである。
【0079】
Mは、第4族の金属:チタン、ジルコニウム又はハフニウムでありうる。
【0080】
Mは、第5族の金属:バナジウム、ニオブ又はタンタルでありうる。
【0081】
Mは、第6族の金属:クロム、モリブデン又はタングステンでありうる。
【0082】
Mはスズであってもよい。
【0083】
Mは、タンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びスズからなる群より選択されて差し支えなく、好ましくはタンタル、チタン及びスズ、最も好ましくはタンタルである。
【0084】
イリジウム又はそれらの酸化物及び1種類以上の金属(M)又はそれらの酸化物は、混合金属又は混合酸化物として、又は部分的に又は完全に合金化した材料として、又はそれらの組み合わせとしてのいずれかで存在しうる。合金化の程度は、X線回折(XRD)によって示されうる。
【0085】
第2の酸素発生電極触媒におけるイリジウムの(合計の)金属Mに対する原子比は、20:80から99:1、適切には30:70から99:1、好ましくは60:40から99:1である。
【0086】
このような第1及び/又は第2の酸素発生電極触媒は、例えば湿式化学法によってなど、当業者に既知の方法で作製されうる。
【0087】
あるいは、第1及び/又は第2の酸素発生反応電極触媒は、結晶性の混合金属酸化物を含みうる。
【0088】
適切な混合金属酸化物の例は、式
(AA’)a(BB’)bOc
のものであり、式中、A及びA’は同一であるか異なっており、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、カリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛、アンチモン及びビスマスからなる群より選択され;BはRu、Ir、Os、及びRhからなる群より選択され;B’はRu、Ir、Os、Rh、Ca、Mg又はRE(REは希土類金属である)からなる群より選択され;cは3から11であり;(a+b):cの原子比は1:1から1:2であり;a:bの原子比は1:1.5から1.5:1である。これらの結晶性の混合金属酸化物は、参照することによって本明細書に取り込まれる国際公開第2012/080726号に記載されるような当技術分野で既知の方法によって調製されうる。
【0089】
第1及び/又は第2の酸素発生電極触媒は担持されていなくてもよい。あるいは、第1及び/又は第2の酸素発生電極触媒は、グラファイト、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノグラフェンプレートレット及び低表面積の加熱処理されたカーボンブラック又は非炭素性担体からなる群より選択される1種類以上の炭素質材料上に担持されうる。
【0090】
第1、第2及び第3の過酸化水素分解触媒
存在する場合、使用に適した第1、第2及び第3の過酸化水素分解触媒は当業者に知られており、セリウム酸化物、マンガン酸化物、チタン酸化物、ベリリウム酸化物、ビスマス酸化物、タンタル酸化物、ニオブ酸化物、ハフニウム酸化物、バナジウム酸化物及びランタン酸化物などの金属酸化物からなる群から独立して選択されて差し支えなく;好適にはセリウム酸化物、マンガン酸化物又はチタン酸化物からなる群から独立して選択され;好ましくは二酸化セリウム(セリア)である。
【0091】
本発明の触媒膜は、アノード触媒層をイオン伝導性膜構成要素の第1の面に適用し、カソード触媒層をイオン伝導性膜構成要素の第2の面に適用して、触媒膜を生成することによって接合される。それによって触媒層と膜とが一緒になって当業者に周知の触媒膜を形成する、さまざまな動作順序を包含した多くのプロセスが存在する。
【0092】
方法は、単一の又は個別の触媒膜の製造に適用することができるか、又は触媒膜の連続ロールの製造に適用することができることは、当業者に認識されよう。
【0093】
本発明はさらに、膜電極接合体であって、
(i)第1の面と第2の面を有する、イオン伝導性膜を含むイオン伝導性膜構成要素と;
(ii)イオン伝導性膜構成要素の第1の面上のアノード触媒層であって、
(a)第1の白金含有電極触媒と、第1の白金含有電極触媒を担持する第1の炭素担体とを含み;
アノード触媒層の電気化学的白金表面積がアノード触媒層の幾何学的電極面積の5~100cm2Pt/cm2である、第1の電極触媒成分を含む、
アノード触媒層と;
(iii)イオン伝導性膜構成要素の第2の面上のカソード触媒層であって、
(a)第2の白金含有電極触媒と、第2の白金含有電極触媒成分を担持する第2の炭素担体とを含む第2の電極触媒成分を含む、
カソード触媒層と;
(iv)イオン伝導性膜の第1の面と接触していない、アノード触媒層の表面上のアノードガス拡散層と;
(v)イオン伝導性膜の第2の面と接触していない、カソード触媒層の表面上のカソードガス拡散層と
を備えた膜電極接合体を提供する。
【0094】
イオン伝導性成分、アノード触媒層及びカソード触媒層は、本発明の触媒膜について上述した通りである。
【0095】
ガス拡散層
アノードのガス拡散層とカソードのガス拡散層は同一であっても異なっていてもよい。
【0096】
ガス拡散層は、適切には通常のガス拡散基材をベースとしている。典型的な基材としては、炭素繊維ネットワーク及び熱硬化樹脂結合剤(例えば、日本国の東レ株式会社から入手可能なTGP-H系、又はドイツ国のFreudenberg FCCT KGから入手可能なH2315系、又はドイツ国のSGL Technologies GmbHから入手可能なSigracet(登録商標)系の炭素繊維紙、又はBallard Power Systems Inc.からのAvCarb(登録商標)系の炭素繊維紙)、又は炭素織布を含む、不織紙又はウェブが挙げられる。カーボン紙、ウェブ又は布は、MEAに取り込む前に、より可湿性(親水性)にするため、又はより耐湿性(疎水性)にするためにさらなる処理を施されてもよい。処理の性質は、用いられる燃料電池のタイプ及び動作条件に応じて決まる。基材は、懸濁液からの含浸による非晶質のカーボンブラックなどの材料の取り込みによって、より可湿性にすることができ、あるいは、基材の細孔構造にPTFE又はポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)などのポリマーのコロイド懸濁液を含浸し、その後、乾燥し、ポリマーの融点を上回って加熱することによって、より疎水性にすることができる。PEMFCなどの用途では、微細孔層もまた、ガス拡散基材の電極触媒層と接触する面に適用されうる。微細孔層は、典型的には、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物を含む。ガス拡散層は通常の技法によって付着される。
【0097】
膜電極接合体は、例えば国際公開第2005/020356号に開示されるように、膜電極接合体のエッジ領域の封止及び/又は強化として作用するポリマー性成分をさらに含みうる。封止成分は、イオン伝導性膜構成要素と触媒層の間、又は触媒層とガス拡散層の間に配置することが必要とされるか否かに応じて、膜電極接合体の作製プロセスのいずれかの段階で取り込まれうる。
【0098】
本発明の膜電極接合体は、2つの基本的なアプローチのうちの1つによって接合される。
【0099】
第1の方法では、アノード触媒層がイオン伝導性膜構成要素の第1の面に適用され、カソード触媒層がイオン伝導性膜構成要素の第2の面に適用されて、触媒膜が生成される。その後、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層は、それぞれアノード触媒層及びカソード触媒層のいずれかの側に付着されて、完全な膜電極接合体を形成する。それによって触媒層と膜とが一緒になって当業者に周知の触媒膜を形成する、さまざまな動作順序を包含した多くのプロセスが存在する。
【0100】
第2の方法では、アノード触媒層がアノードガス拡散層に適用され、カソード触媒層がカソードガス拡散層に適用される。その後、イオン伝導性膜はアノード触媒層とカソード触媒層の間に配置されて、一体化したMEAが接合される。それによって一体化した完全なMEAが生成されうる、さまざまな動作順序を包含した多くのプロセスもまた存在する。
【0101】
あるいは、アノード触媒層とカソード触媒層のうち一方がガス拡散層に適用され、他方がイオン伝導性膜の1つの面に適用される、第1の方法と第2の方法の組み合わせが用いられうる。イオン伝導性膜の無触媒の面はガス拡散層上の触媒層と共にもたらされ、第2のガス拡散層はイオン伝導性膜上の他の触媒層に適用される。
【0102】
本発明の触媒膜及び膜電極接合体は、触媒膜又は膜電極接合体を必要とする燃料電池などの電気化学電池において有用性を有する。よって、さらなる態様は、燃料電池などの電気化学電池における本発明の触媒膜の使用を提供する
【0103】
本発明は燃料電池におけるその使用に関して説明されるが、本発明の膜電極接合体には応用性があり、再生型燃料電池又は電解槽などの他の電気化学的装置に使用してもよいことが理解されうる。
【0104】
本発明の例示であって本発明の限定ではない以下の実施例に関して、本発明をさらに説明する。
【0105】
電極触媒インクの調製
アノード及びカソードの電極触媒インクを当業者に既知の方法によって調製した。簡潔に述べると、触媒材料(使用する場合には酸素発生反応触媒を含む)を、1100 EW Nafion(登録商標)(DuPont de Nemoursから市販される)の水性懸濁液に攪拌しながら添加し、炭素担体の重量に対して所要の重量%のアイオノマー固体を含む分散液を提供した(下記表1に示す)。この分散液を剪断ミキサを使用して混合して、ビーズミルで処理する前に成分が均等に分散されることを確実にし、電極触媒の粒径を低下させて、インクを生成する。
【0106】
MEAの調製
触媒層は、PTFEデカール転写基材上にそれぞれアノード及びカソード触媒インクを堆積させ、表1に示されるローディングを有する触媒層を達成するために乾燥させることによって調製した。アノード及びカソード触媒層デカールを、延伸ポリテトラフルオロエチレンで強化した17μmの900 EW ペルフルオロスルホン酸膜(旭硝子株式会社から市販されるFlemion
TMFSS-2アイオノマーで作製)のいずれかの面に配置し、熱間プレスしてCCMを生成する。適切な封止及びGDLを加えて、燃料電池単電池ハードウェアと適合可能にした。表1に示されるカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層を用いてMEAを調製した。
【0107】
EPSAの測定及びスタートアップ/シャットダウン耐性試験
MEAを単一の燃料電池へと接合して、標準的な電流密度-ホールド方法及び寿命初期の分極データを使用して、初めに、70℃において調整した。次に、電池が開回路電圧に移動するように負荷を取り除いた。
【0108】
EPSAの測定のため、水素をMEAのカソード側に流し、窒素をアノードに流した。アノード側で残留水素を完全にパージした後、流れを、10分間、窒素中10%v/vのCOに切り替え、その後、切り替えを元に戻して、さらに10分間、純粋な窒素を流した。依然としてカソード側に水素を流しつつ、0.125~0.8Vの間で20mV/秒で、3回のボルタンメトリーサイクルを行った。次に、第2/第3のサイクルからの安定なベースラインに対する、第1のサイクルで記録されたCOの除去ピーク下での電荷を集積し、変換係数420μC/cm2を使用して白金表面積の測定値を得た。表面積の測定値をアノード電極の幾何学面積に対して正規化して、EPSA値を得た。EPSAの測定値を表1に示す。
【0109】
電池を、水素をアノードに供給し、空気をカソードに供給する、通常の動作に戻した。スタートアップ/シャットダウン(SU/SD)耐久試験のため、アノードのガス供給を水素から合成空気(79:21 N2:O2)に切り替えた。したがって、その後にモニタリングされるCO2は、バックグラウンドレベルの「標準空気」を含まず、もっぱら炭素腐食に由来する;カソードも合成空気に切り替えた。MEAを正常なH2/空気条件に戻す前に、即時に負荷を再導入しつつ、アノードの空気流れを4分間維持した。セル電圧(性能)を中程度及び高い電流密度点でモニタリングし、スタートアップ/シャットダウン(SU/SD)サイクルを繰り返した。10SU/SDサイクルの各セットの後、MEAの適切な水和を確実にするために、相対湿度100%、1A/cm2の条件下で、MEAを再調整した。MEAからの大幅な電圧損失が観察されるまでプロセスを持続的に繰り返し、サイクルの数を記録した。
【0110】
結果を
図1に示す。アノードにおいて低いEPSAを有する本発明の実施例は、アノードにおいて通常のEPSAを有する比較実施例1と比較して、大幅なセル電圧(性能)の損失が生じる前に、回数が大幅に増加したSU/SDサイクルに耐えられるMEAを生じることがわかる。