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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】動的安全装置
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/36 20140101AFI20221208BHJP
【FI】
B42D25/36
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020181160
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2017534707の分割
【原出願日】2015-12-23
(65)【公開番号】P2021021957
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】62/096,695
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/096,700
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595006223
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(73)【特許権者】
【識別番号】509332028
【氏名又は名称】バンク オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マクファーソン, チャールズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ブラサード, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】マリク, リディヤ
(72)【発明者】
【氏名】モートン, キース ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヴェレス, テオドール
(72)【発明者】
【氏名】ガランソティス, テオドロス
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534088(JP,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第02714639(CA,A1)
【文献】特開2004-325738(JP,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第02707728(CA,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0032596(US,A1)
【文献】国際公開第2007/074681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
25/00 - 25/485
G02F 1/15 - 1/19
G09F 1/00 - 5/04
B41M 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を示す安全装置であって、
前記安全装置が、1以上の微細要素を含む流体で完全に充填された1以上のマイクロ流体チャンバを備えており、
前記動的応答は、
a.前記重力に対する向きの変化の停止後にも継続され、
b.前記1以上の微細要素の遷移であって、
前記1以上の微細要素が、
(i)前記重力に対する向きの変化の作用を受けて実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へ移り、
(ii)前記重力に対する向きの変化の停止後、実質的に機械的に平衡な状態へ戻る遷移を含んでなり、且つ
前記1以上の微細要素が、前記遷移の間に、前記流体に対し相対的に回転運動及び並進運動のうちの少なくとも1つを受け、且つ、前記流体と前記1以上の微細要素とによって共同で占められる体積的空間が、前記動的応答を通じて、前記安全装置の前記流体及び前記1以上の微細要素以外の部分である当該安全装置の残りの部分に対して相対的に変化せず
前記動的応答は、前記安全装置の向きの変化中及び向きの変化後の両方で生じる視覚的な動的変化を含む、安全装置。
【請求項2】
前記遷移が1つ以上の巨視的効果の発生をもたらすように構成されてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項3】
前記1つ以上の巨視的効果のうちの少なくとも1つが光学的な巨視的効果である、請求項2に記載の安全装置。
【請求項4】
前記光学的な巨視的効果が人間の肉眼により視覚的に観察可能である、請求項3に記載の安全装置。
【請求項5】
少なくとも1つの巨視的効果が機械的に読取可能である、請求項2に記載の安全装置。
【請求項6】
前記1以上の微細要素が、約0.01秒~約100秒、好ましくは約0.01秒から約10秒、更に好ましくは約1秒から約10秒の時間間隔で実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へと遷移し、そして、実質的に機械的に平衡な状態へ戻るように構成されてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項7】
前記1以上の微細要素が0.01~100ミクロンの間、好ましくは0.01~10ミクロンの間のサイズを有してなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項8】
前記1以上の微細要素が複数の独立したマイクロチャンネルの中へ組み入れられてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項9】
前記1以上の微細要素が流体内に分散され、前記1以上の微細要素の一部または全部が前記流体の密度とは等しくない平均密度を有し、前記1以上の微細要素が沈降または浮揚により遷移するように構成されてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項10】
前記1以上の微細要素が液体マトリックス内に分散され、前記液体マトリックスが凝固され、凝固された前記液体マトリックスが複数のマイクロ流体チャンバを提供し、前記複数のマイクロ流体チャンバが膨張剤に露出され、このことにより、前記1以上の微細要素のまわりに液状のシェルが形成されるように構成されてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項11】
前記液体マトリックスが硬化によりまたは溶媒の蒸発により凝固されるように構成されてなる、請求項10に記載の安全装置。
【請求項12】
前記1以上の微細要素が、各々が前記流体の密度より大きな平均密度を有し、沈降により遷移する第一の組の微細要素と、各々が前記流体の密度未満の平均密度を有し、浮揚により遷移する第二の組の微細要素とを備えてなる、請求項9に記載の安全装置。
【請求項13】
前記流体は、前記1以上の微細要素が沈降または浮揚により遷移する際に前記1以上の微細要素と対比される染料を有してなる、請求項9に記載の安全装置。
【請求項14】
前記1以上の微細要素の各々が、前記安全装置の向きの変化の作用時に重力場と実質的に一直線に並ぶ状態から並ばない状態へと遷移し、前記安全装置の向きの変化の停止後、前記1以上の微細要素の各々は、前記重力場と実質的に一直線に並ぶ状態へと戻るように構成されてなる、請求項1に記載の安全装置。
【請求項15】
前記1以上の微細要素が流体内で分散され、前記1以上の微細要素の一部または全部がそれぞれ体積中心とは異なる質量中心を有しており、前記1以上の微細要素が回転により遷移するように構成されてなる、請求項14に記載の安全装置。
【請求項16】
前記微細要素がヤヌス微粒子であり、前記ヤヌス微粒子が、i)内側コアと、ii)前記ヤヌス粒子の表面部分にあるコーティングとを有し、前記内側コアが前記コーティングの密度とは異なる密度を有してなる、請求項14に記載の安全装置。
【請求項17】
前記内側コアが0.1~100ミクロンの直径を有し、前記コーティングが10nm~500nmの厚みを有し、前記コーティングの厚みが前記直径の20%未満である、請求項16に記載の安全装置。
【請求項18】
前記動的応答は、外部装置を必要とせずに生成される、請求項1に記載の安全装置。
【請求項19】
重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を示す安全装置であって、
前記安全装置が、1以上の微細要素を含む流体で完全に充填された第1のマイクロ流体チャンバを備えており、
前記動的応答は、
a.前記重力に対する向きの変化の停止後にも継続され、
b.前記1以上の微細要素の遷移であって、
前記1以上の微細要素が、
(i)前記重力に対する向きの変化の作用を受けて実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へ移り、
(ii)前記重力に対する向きの変化の停止後、実質的に機械的に平衡な状態へ戻る遷移を含んでなり、且つ
前記1以上の微細要素が、前記遷移の間に、前記流体に対し相対的に回転運動及び並進運動のうちの少なくとも1つを受け、且つ、前記第1のマイクロ流体チャンバが、前記動的応答を通じて、同じ体積を占める、安全装置。
【請求項20】
前記安全装置が、1以上の微細要素を含む流体で完全に充填された少なくとも1つの第2のマイクロ流体チャンバを備えている、請求項19に記載の安全装置。
【請求項21】
重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を示す安全装置であって、
前記安全装置が、1以上の微細要素を含む流体で完全に充填された中空のカプセルを備えており、
前記動的応答は、
a.前記重力に対する向きの変化の停止後にも継続され、
b.前記1以上の微細要素の遷移であって、
前記1以上の微細要素が、
(i)前記重力に対する向きの変化の作用を受けて実質的に機械的に平衡な状態から非平
衡な状態へ移り、
(ii)前記重力に対する向きの変化の停止後、実質的に機械的に平衡な状態へ戻る遷移を含んでなり、且つ
前記1以上の微細要素が、前記遷移の間に、前記流体に対し相対的に回転運動及び並進運動のうちの少なくとも1つを受
前記動的応答は、前記安全装置の向きの変化中及び向きの変化後の両方で生じる視覚的な動的変化を含む、安全装置。
【請求項22】
前記中空のカプセルが、0.1~200ミクロンの直径を有するマイクロカプセルを備えている、請求項21に記載の安全装置。
【請求項23】
前記中空のカプセルが、前記動的応答を通じて、同じ体積を占める、請求項21に記載の安全装置。
【請求項24】
前記流体と前記1以上の微細要素とによって共同で占められる体積的空間が、前記動的応答を通じて、前記安全装置の前記流体及び前記1以上の微細要素以外の部分である当該安全装置の残りの部分に対して相対的に変化しない、請求項21に記載の安全装置。
【請求項25】
前記1以上の微細要素のそれぞれの少なくとも一部が前記流体の密度とは等しくない平均密度を有し、前記1以上の微細要素が沈降または浮揚により遷移するように構成されてなる、請求項21に記載の安全装置。
【請求項26】
前記流体は、前記1以上の微細要素が沈降または浮揚により遷移する際に前記1以上の微細要素と対比される染料を有してなる、請求項25に記載の安全装置。
【請求項27】
前記中空のカプセルは、基板に固定される、請求項21に記載の安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全装置の技術分野に関するものである。とくに、本発明は加速に対する応答に基づく動的安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金融取引または個人認証に用いられる安全ドキュメントの認証において確実性を確保するにあたって偽造に対して高度の保護を提供する安全装置(または機構)が不可欠である。様々なタイプの安全装置が、開発され、銀行券、コイン、パスポート、本人確認書類、身分証明書およびクレジットカードの如き安全ドキュメントに組み入れられている。いくつかの安全装置は秘密にされたままであるかまたは適切に識別されるためには機械を用いることが必要とされる。関係当局による公式な認証にとっては有効であるものの、一般大衆は、ドキュメントの有効性を評価するにあたってこのようなハイレベルな安全装置を容易に用いることはできない。したがって、個人と個人との間の取引の際に偽造ドキュメントの使用を防止するために、一般大衆により用いられるように設計された安全装置(すなわち「レベル1」安全装置)も安全ドキュメントの中に組み入れられる。一般大衆に高い信頼度を提供し、関係当局により試験されて流通機構から取り除かれるようになる前に偽造されたドキュメントの広範囲の分配を防止するためのレベル1安全装置が不可欠となっている。
【0003】
銀行券および他の安全ドキュメントはレベル1安全装置を組み入れて一般大衆による安全な認証を提供するようになっていることが多い。たとえば、銀行券に利用可能な最も基本的なレベル1安全装置は、基材特定の触感と、凹版印刷に伴うインクレリーフと、透かしと、透明窓の存在と、透けて見えるレジスタマークと、ミクロの印刷とを備えている。しかしながら通常、これらは現代の銀行券の如き高度の安全性ドキュメント用の高度の偽造防止策を提供するには不十分であると考えられている。今日、多くの銀行券、パスポートおよび安全対策がなされた身分証明書は光学可変安全装置を組み入れるようになっている。光学可変装置(OVD)はマイクロ印刷または凹版印刷の如き従来の安全対策印刷技術と比較して安全に関する処理をなす層をさらに提供している。というのは、従来のスキャナおよび印刷技術により光学可変装置が提供する光学的効果を再現することはできないからである。当該技術分野において知られているOVDは、回折格子、ホログラム、色が変わる箔、光学可変インク、プラスモンベースデバイスおよび回折光学素子を含んでいる。
【0004】
OVDを安全ドキュメントの中へ組み入れることは、低コストのコピー技術、イメージング技術および印刷技術の利用が本格的に増大したことにより動機づけされている。従来の偽造防止印刷と比較してOVDはレベル1安全装置として多くの利点を提供することができるが、当該技術分野において知られている多くのOVDの偽造防止策は一見簡単そうに見える悪巧みにしばしば見舞われている。たとえば、回折格子、ホログラム、色を変える箔などの如き装置の偽造は、一部の包装紙および商業包装材料に見られる低コストの金属化回折格子の利用の増大により容易になっている。これらの簡単な回折格子を用いて製作される偽造装置は現在の安全ドキュメントに利用可能な装置と同じ程度の複雑さを達成することは可能ではないものの、これらの偽造装置は元の安全ドキュメントの回折色および光学可変効果に十分に近い回折色および光学可変効果を提供して潜在的に一般大衆をだましてしまう恐れがある。もっと正確にいえば、安全装置の詳細事項に対する一般大衆の知識が限られたものであるため、レベル1安全装置の有効性および偽造対策は、視覚的に同様の効果が偽造者に広く利用可能となるとすぐに劣化してしまう。
【0005】
他の欠点は、当該技術分野において知られている多くのOVDが、光学的変化が観測角度または照明条件を変えることにより得られるという同様のタイプの視覚的効果を共有しているという事実に起因するものである。多くのOVDがこのように類似しているので、大衆が偽造ドキュメントをだまされて受け入れてしまう恐れがある。というのは、光学的効果が観測角度の変化によりもたらされるだけであるからである。また、このことは大衆が新規のOVDと従来のOVDとを識別することをより困難なものとするため、潜在的に、新規の安全装置の有効性が低減してしまう恐れがある。
【0006】
当該技術分野において知られている他のタイプの安全装置も欠点を有しうる。たとえば、回折光学素子とは、銀行券に一般的に用いられる安全装置のことであって、アレイ状に配置された微細装置をパターン形成して透過型の回折イメージまたはホログラムを含む、レベル1安全装置ことである。このような回折光学素子は、目に見えるようにするためには特定の照明条件、たとえば暗い背景に小さな点光源を必要とする。このような照明条件は安全装置の有効性を評価する際に必ずしも利用可能であるとは限らない。また、安全装置の有効性を試験する方法が一般大衆にとって必ずしも明らかではない場合もあり、レベル1安全装置として安全装置の有効性を確認するための教育活動が必要となる。
【0007】
安全ドキュメントにさらに高度な視覚的効果を組み入れることが、一般大衆のレベル1安全装置に対する知識を高めて偽造対策を向上させうる重要な要素である。銀行券の如き安全ドキュメントに本当に動的な視覚効果またはアクティブな視覚効果(すなわち、外力による作用中およびその後で観察可能な効果)を導入するのは困難な課題である。
【0008】
WO 2013/040703A1には、基材を備える安全ドキュメントに取り付けられる光学に基づく認証装置が開示されている。この認証装置は機械的ストレスに応じて電場を生成するための圧電材料層とこの圧電材料層に直接取り付けられる光学的応答層とを備えている。圧電材料層により生成された電場に応じて、光学的応答層が眼による感じ方の異なる第一の状態と第二の状態との間を変化する。
【0009】
WO 2013/040704A1には、安全ドキュメントが正当かまたは偽造されたコピーか否かをチェックするための技術を提供する安全装置が開示されている。
【0010】
DE 102011108477A1には、窓部と、安全機能を有する充填剤で充填された中空室とを有する基材を備えた安全要素が開示されている。充填材は埋め込みマトリックスを含んでいる。それに加えて、窓部はスペーサーを有している。
【0011】
CA 2,714,639(2009年8月20日に公開)には、多数の粒子を含む基板を備える安全要素が開示されている。これらの粒子は少なくとも2つの識別可能な情報状態を表わすようになっている。安全要素は少なくとも2つの情報状態の間を可逆的に変化し、粒子は重力と完全に一直線に並んだままであるので、小型のジャイロスコープのように働く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
動的な視覚効果またはアクティブな視覚効果をもたらす1つの可能性のあるアプローチはヤヌス微粒子を用いることである。ヤヌス微粒子の例として、表面に少なくとも2つの異なるタイプの物理的性質を有する微細粒子が挙げられる。ヤヌス微粒子は、電子ペーパー表示装置、バイオ医学用途、自力推進の分野や自己組織化構造の開発において用いられてきている。安全装置の分野においてとくに興味があるのは、表示装置および電子ペーパーにおいてヤヌス微粒子を用いることである。たとえば、米国特許の第8,068,271号、B、第26,980,3526号,第197,2285号,第808,7836号
,第445,490 B1号および第5,389,945号には、電場または磁場を作用させてヤヌス微粒子を回転させることによりアクティブな表示装置を提供するにあたってバイクロミック(bichromic)球状粒子を用いる方法が教示されている。重力または加速による影響は、表示装置および電子ペーパーの用途では有害であると一般的には考えられている。というのは、重力または加速による影響は電気または磁気の力により最初に形成されたイメージの質を劣化させうるからである。また、開示されたGyricon表示装置の製作に用いられるバイクロミックボールが通常白色ワックスと黒色ワックスとからなっているため、このようなヤヌス微粒子の密度がかなり均一なものとなり、重力または加速により向きの変化が引き起こされる可能性が制限されたものとなってしまう。最後に、このような表示装置に用いられるヤヌス微粒子のサイズ(通常30~300μm)は、安全装置が薄いプロフィール、好ましくは10μm未満を有していなければならない多くの安全関連の用途に対応することができない。
【0013】
一般的に、偽造者に利用可能な技術革新に遅れを取らずに進んで行くためにレベル1安全装置を改善、開発を継続する必要性が存在している。特に興味があるのは、偽造防止のためだけでなく一般大衆が前世紀の安全装置とはっきりと識別することができる装置である。また、薄い設計プロフィールを備え、丈夫であり、安全装置の電力を供給する必要がなく、生産方法の拡大収縮が可能であり、既存の機械で安全ドキュメントに取り付けることができ、非常にはっきりと分かり、直観的に認識することができ、大衆によりほとんど相互作用することなく動作状態にすることができるアクティブな安全装置または動的な安全装置を開発することによりドキュメントの安全性に大躍進をもたらすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
まず、一般的な形態を有する安全装置が説明されている。次いで、安全装置の発明をどのように実現するのかについて実施形態を用いて詳細に説明されている。これらの実施形態は、安全装置の原理および実現方法を説明することを意図したものである。次いで、本明細書の締めくくりである各請求項において、最も広くかつより具体的に安全装置についてさらに記載、定義されている。
【0015】
本明細書に開示されている発明は加速に基づいてまたは向きの変化に基づいて動的効果をもたらすことができる安全装置である。具体的にいえば、重力場に対する安全ドキュメントの相対的な向きにより引き起こされる動的効果を発生させることができる安全装置が作製されている。1つの実施形態にかかる開示の安全装置を用いることにより、安全ドキュメントが(重力場と一直線に並んでいない軸線を中心に)回転する時に動的な視覚的変化をもたらすことにより一般大衆に容易に認識可能なレベル1安全装置を提供することができる。安全ドキュメントの操作後にも暫くの間持続するように動的視覚効果の速度を調節することもできる。
【0016】
当該技術分野において知られているほとんどのレベル1OVDとは対照的に、かかる安全装置を用いると、相対的な観測角度に変化がない場合であっても操作後も持続するはっきりと分かる(overt、公然性とも呼ばれる)動的視覚的変化をもたらすことができる。開示の安全装置によりもたらすことができるはっきりと分かる動的視覚効果は、当該技術分野において知られている従来のOVDを用いて通常もたらされる効果とは異なっている。これらの公然性の点における違いは、従来の広範囲のOVDにとって問題となりうるいくつかのタイプの偽造を防止することができる。
【0017】
以上に加え、動的視覚的効果の提供にあたって、かかる安全装置を外部装置を必要としないように作製することができる。というのは、かかる安全装置の動的視覚的効果が回析に依存するものではなく、ほとんどの照明条件の下で(すなわち、正反射光および点光源を必要としないで)見えるようにすることが可能であるからである。さらに、安全ドキュ
メントの正常な操作の中には通常向きの変化が含まれているため、当然、安全ドキュメントの取り扱い中に動的効果がもたらされてしまう恐れがある。したがって、開発された安全装置は、エンドユーザに特別な操作や試験の実行を要求することなくドキュメントの有効性を評価するためのツールを提供することができる。
【0018】
たとえば、ドキュメントの認証にあたって、ドキュメントを上下逆さまにしている間およびその後の数秒間の両方で発生する動的視覚的変化を観察することによりのみドキュメントの認証が達成されるようになっていてもよい。このように、動力が重力または加速力により供給され、電源または電極を銀行券に設ける必要のないレベル1動的安全装置が提供されている。
【0019】
本発明の1つの態様によれば、加速時または重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を発生する安全装置であって、上述の少なくとも1つの動的応答が加速または向きの変化の停止後にも継続するようになっている安全装置が開示されている。動的応答は約0.01秒~約100秒の持続時間を有していてもよいしまたは約1秒~約10秒の持続時間を有していてもよい。加速には、安全装置の振動および/または揺れを含みうる。1つの実施形態では、かかる安全装置は1を超える数の動的応答を発生するようになっている。
【0020】
かかる安全装置は複数の微細要素を備えうる。動的応答には、微細要素が加速または向きの変化の作用時に実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へと移り、そして、その加速または向きの変化の停止後に実質的に機械的に平衡な状態へと戻る遷移が含まれうる。微細要素の遷移により1つ以上の巨視的効果がもたらされ、1つ以上の巨視的効果の少なくとも1つが光学的なものまたは機械的に読取可能なものである。巨視的効果が光学的なものである場合、この巨視的効果は人間の肉眼により視覚的に観察することができる。それに加えて、微細要素は、微細要素の回転、沈降作用または浮揚により、微細要素内の変位により、または、それらを任意に組み合わせたものにより遷移することもできる。複数の微細要素は約0.01秒~約100秒、約1秒~約10秒、0.01秒~約10秒または0.01秒~約5秒の時間間隔で遷移してもよい。
【0021】
状況によっては、微細要素の並進ブラウン運動または回転ブラウン運動が微細要素に作用する重力によりもたらされる対流性の力と比較して無視できる程度である場合もある。また状況によっては、微細要素の並進ブラウン運動または回転ブラウン運動が重力(1G)と比較して大きい場合もある。この場合、微細要素の整列、沈降または浮揚の程度を一時的に増大させるためにたとえば重力場よりも大きな加速度場を加えることにより応答を生じさせることができる。加速度場を加えることを停止させると、微細要素の並進ブラウン運動または回転ブラウン運動が再び優性となり、加えられた加速度場によりもたらされた微細要素の整列、沈降または浮揚の中断を受けて動的応答がもたらされる。
【0022】
安全装置の一部を構成する微細要素は複数の特性を有している。たとえば、微細要素は、そのサイズが0.01~100ミクロンの間の範囲にあってもよいしまたは0.01~10ミクロンの間の範囲にあってもよい。
【0023】
さらに、微細要素は、独立していてもよいまたは独立していなくてもよい1つ以上のマイクロチャンネルの中に組み入れることもできる。各マイクロチャンネルは0.1~1000ミクロンの間の高さを有しうる。
【0024】
1つの実施形態では、複数の微細要素が流体内に分散されるようになっている。さらに、複数の微細要素の一部または全部がそれぞれ体積中心とは異なる質量中心を有している。このような実施形態では、微細要素は回転により遷移するようになっている。一例とし
ては、微細要素はヤヌス微粒子であってもよい。このヤヌス微粒子は、内側コアと、ヤヌス微粒子の表面部分にあるコーティングとを備え、内側コアはコーティングの密度とは異なる密度を有している。内側コアは0.1~100ミクロン(μm)の直径を有してもよく、コーティングは10nm~500nmの厚みを有してもよい。コーティングの厚みは直径の20%未満である。内側コアは固体であってもよい。コーティングは反射防止面を有していてもよく、反射防止面はたとえばクロミウム、金および二酸化ケイ素からなるコーティングである。このような反射防止用のコーティングの一例としては内側コアの表面部分に形成される第一のクロミウム層、第二の金層、第三のクロミウム層、 第四の二酸
化ケイ素層、第五のクロミウム層および第六の二酸化ケイ素層が挙げられる。コーティングの他の例は、薄膜、染料または着色剤からなるものである。薄膜は1つ以上の金属膜からなる第一の層と、第一の誘電性の膜からなる第二の層と、1つ以上の金属膜からなる第三の層と、第二の誘電体膜からなる第四の層とを有している。
【0025】
他の実施形態では、複数の微細要素が流体の中で分散されるようになっている。さらに、複数の微細要素の一部または全部が流体の密度とは等しくない平均密度を有している。このような実施形態では、微細要素は沈降または浮揚により遷移するようになっている。この実施形態では、流体は微細要素が遷移する際に当該微細要素と対比される染料を含むようになっていてもよい。
【0026】
上述の実施形態では、微細要素の回転、沈降または浮揚により、光が曲げられ、微細要素に付与される1つ以上の静的印刷特徴(static printed features)が変化させられる、見えるようにされるまたは拡大されるようになっている。さらに、微細要素および流体は0.1~200ミクロンの直径を有する1つ以上のマイクロカプセルの中に組み入れることができる。
【0027】
さらに他の実施形態では、微細要素は密度の異なる2つ以上の非混合性流体が封入されているマイクロカプセルから構成されるようになっていてもよい。このような実施形態では、微細要素は要素内の流体の変位により遷移するようになっている。マイクロカプセルはそのサイズが0.1~200ミクロンの間の範囲でありうる。一例として、各マイクロカプセルは2つの液体を含んでいてもよい。2つの液体の変位を促進する1つの方法は、一方の液体がマイクロカプセルに対して140°を超える接触角を有し、他方の液体がマイクロカプセルに対して40°未満の接触角を有するようにすることである。他の例としては、第一の流体、第二の液体および第三の流体を有し、第一の流体がマイクロカプセルの内表面を濡らし、第二の流体および第三の流体が第一の流体により覆われるようになっているマイクロカプセルが挙げられる。
【0028】
上述の様々な実施形態では、マイクロカプセルおよび/または流体は光を曲げてレンズ効果をもたらすことができるようになっている。
【0029】
安全装置内で用いられる微細要素は基板にもしくは基板の中に設けられてもよいし、印刷されてもよいし、取り付けられてもよいしまたは加えられてもよい。
【0030】
また、微細要素を液体マトリックス内に分散させ、液体マトリックスを凝固させ、凝固された液体マトリックスを膨張剤に晒し、微細要素のまわりに液状のシェルを形成させるようにしてもよい。液体マトリックスは、硬化によりまたは溶媒の蒸発により凝固させることができる。
【0031】
安全装置では、1つ以上の動的応答を提供するために異なるタイプの微細要素を用いることができる。
【0032】
本発明の他の態様によれば、流体内に分散される複数の微細要素を含み、加速時または重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を発生する安全装置であって、各微細要素の平均密度が粒体の平均密度とは異なり、上述の少なくとも1つの動的応答は、複数の微細要素が沈降または浮揚により加速時または向きの変化時に実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へ移り、加速または向きの変化の停止後、実質的に機械的に平衡な状態へと戻る遷移を含む、安全装置が提供されている。
【0033】
この微細要素の遷移により1つ以上の巨視的効果の発生がもたらされ、この1つ以上の巨視的効果のうちの少なくとも1つが光学的なものまたは機械的に読取可能なものである。巨視的効果が光学的なものである場合、その巨視的効果は人間の肉眼により視覚的に観察可能でありうる。複数の微細要素は約0.01秒~約100秒、約1秒~約10秒または約0.01秒~約10秒の時間間隔で遷移しうる。1例では、安全装置が揺れおよび/または振動を受けると、複数の微細要素の一部または全部が沈降または浮揚により安全装置の壁に付着している状態から流体内で分散する状態へと遷移する。さらなる実施形態では、安全装置は、各々が流体密度より大きな平均密度を有し、沈降により遷移する第一の組の微細要素と、各々が流体密度未満の平均密度を有し、浮揚により遷移する第二の組の微細要素とを備えるようになっていてもよい。安全装置内の流体は、微細要素が沈降または浮揚により遷移する際に当該微細要素と対比される染料を含んでもよい。
【0034】
本発明のさらなる他の態様によれば、流体内に分散される複数の微細要素を含み、重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を発生する安全装置であって、各微細要素がマイクロカプセル内に封入される2つ以上の非混合性流体から構成され、上述の少なくとも1つの動的応答は、マイクロカプセル内の2つの非混合性流体の変位により複数の微細要素が向きの変化時に実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へと移り、そして、向きの変化の停止後に実質的に機械的に平衡な状態へと戻る遷移を含んでいる、安全装置が提示されている。
【0035】
この微細要素の遷移により1つ以上の巨視的効果の発生がもたらされ、この1つ以上の巨視的効果のうちの少なくとも1つが光学的なものまたは機械的に読取可能なものである。巨視的効果が光学的なものである場合、当該巨視的効果は人間の肉眼により視覚的に観察可能でありうる。複数の微細要素は約0.01秒~約100秒、約1秒~約10秒または約0.01秒~約10秒の時間間隔で遷移しうる。マイクロカプセルは0.1~200ミクロンの直径を有している。1例では、各マイクロカプセルは2つの液体を含むようになっていてもよい。2つの液体の変位を促進するために、一方の液体がマイクロカプセルに対して140°を超える接触角を有し、他方の液体がマイクロカプセルに対して40°未満の接触角を有するようになっていてもよい。他の一例では、各マイクロカプセルが第一の流体、第二の液体および第三の流体を含み、第一の流体がマイクロカプセルの内表面を濡らし、第二の流体および第三の流体が第一の流体により覆われ、第二の流体および第三の流体が動的応答の間変位されるようになっている。
【0036】
本発明のさらなる他の態様によれば、複数の微細要素を備え、当該複数の微細要素が加速または向きの変化の作用時に重力場と実質的に一直線に並んでいる状態から並んでいない状態へと遷移し、加速作用または向きの変化の停止後に重力場と一直線に並ぶ状態へと戻るように構成されている、安全装置が提供されている。この遷移は1つ以上の巨視的効果をもたらす。これらの巨視的効果の少なくとも1つは光学的なものでありうる。
【0037】
本発明のさらなる他の態様によれば、複数の微細要素を備え、加速時または重力に対する向きの変化時に少なくとも1つの動的応答を発生する安全装置であって、この少なくとも1つの動的応答は、複数の微細要素が沈降または浮揚により加速時または向きの変化時に実質的に機械的に平衡な状態から非平衡な状態へと移り、そして、加速時または向きの
変化の停止後に実質的に機械的に平衡な状態へと戻る遷移を含んでいる、安全装置が開示されている。
【0038】
上述の記載は、安全装置の主要な特徴および安全装置のいくつかの選択的な態様を要約したものである。また、以下の実施形態の説明により安全装置をさらに理解することが可能である。
【0039】
数値の範囲が本明細書において言及されている場合、特に別段のことわりがない限り、本明細書に記載のサブ範囲も安全装置の技術範囲内に含まれることが意図されている。安全装置のいずれかの変形例によりもたらされる特性については、特に別段のことわりがない限り、このような特性が適切なまたはこのような特性を用いることができる他のすべての変形例にも適用することが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】安全装置の加速の変化に応じた安全装置の動的遷移の一般的な概念を示す図である。
図2】振動作用および/または揺動作用を生じさせるための安全装置の加速度の急激な変化に応じた安全装置の動的遷移を示す図である。
図3】外部重力場の存在下での安全装置の反転に応じた安全装置の動的遷移を示す他の図である。
図4】安全装置の反転/回転から生じる視覚効果の一例を示す他の図である。
図5】ある実施形態にかかる安全装置の製作に用いられる重力ヤヌス微粒子の一例を示す図である。
図6】ある実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図7】他の実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図8】他の実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図9】微細要素の沈降による動的視覚効果の発生に基づく他の実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図10】カプセルの中に組み入れられる微細要素の浮揚による動的視覚効果の発生に基づく他の実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図11】他の実施形態にかかる安全装置を示す図である。
図12図11に記載の実施形態で用いられる2つの非混合性液体の変位を促進させるためのさまざまな戦略を示す図である。
図13】ヤヌス微粒子を調製するためのプロセスを示す図である。
図14図13に記載のプロセスを用いて調製された3μmの直径を有するヤヌス微粒子の電子顕微鏡検査(SEM)写真を示す図である。ヤヌス微粒子の電子顕微鏡検査(SEM)写真を示す他の図である。
図15図13に記載のプロセスを用いて調製され、流体内に分散された5μmの直径を有するヤヌス微粒子の一連の光学式顕微鏡写真うちの1つを示す図であって、流体の摂動を受けて粒子が回転し、重力と一直線に並ぶ、図である。
図16図13に記載のプロセスを用いて調製されたヤヌス微粒子を含む溶液の巨視的効果を示す図である。
図17】ヤヌス微粒子の水溶液で満たされたチャンネルを有するある実施形態にかかる安全装置を反転させることにより得られた動的応答を示す図である。
図18】ヤヌス微粒子の水溶液で満たされたコンテナを有する他の実施形態にかかる安全装置を反転させることにより得られた動的応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
定義
微粒子
マイクロメートル範囲、典型的には0.01~500ミクロン(μm)の範囲の特徴的な寸法を有する粒子。微粒子は、たとえば次の非限定的な例を含む種々様々な1つ以上の材料から調製することができる:ポリマー、金属、セラミックス、ガラス、多孔性物質、発泡材、組成物、磁性材。微粒子はたとえば次の非限定的な例を含む様々な形状を有することができる:球体形状、卵形状、疑似球体形状、円板形状、円筒/円柱形状、立方体形状、角柱形状、角錐形状、薄片形状、中空形状、多孔性形状、凸凹形状、複雑形状。
ヤヌス微粒子
少なくとも2つの区別可能な物理的性質および/または化学的性質を有する微粒子。
微細要素
マイクロメートル範囲、典型的には0.01~500ミクロンの範囲の寸法を有する安全装置の要素。非限定的な微細要素の例としては微粒子、マイクロカプセル、中空形状のマイクロカプセル、ヤヌス微粒子、薄片などが挙げられる。
基板
安全装置を支えるための部材。たとえば典型的には、基板とは、安全装置を支えるために用いられる安全ドキュメントの材料(たとえばプラスチック、紙)のことを指している。
【0042】
また、基板は、安全装置の製作中に用いられる安全装置へ移動する前のキャリア材料(たとえばPET箔)のことを指す場合もある。
加速度
物体の速度が時間とともに変化する割合。加速度はニュートンの第二の法則に従って物体に作用するすべての力の合計により得られる。加速度は、大きさと方向との両方を有するベクトル量であり、時間を2乗したもので長さを除算した単位(たとえば、m/s)で表される。加速度という用語は、次の非限定的なリスト内の項目のうちの何れのことを指していてもよい:減速度、線形加速度、非線形加速度、等加速度、非等加速度、重力加速度、慣性加速度、遠心加速度、求心加速度、接線加速度および角加速度。安全装置に関し、外部の事象、作用、影響もしくは力が、加速度を生成する場合または加速度の大きさもしくは向きを変化させる場合に加速度に対する事象が生じたという。ここでいう外部の事象、作用もしくは力は次の非限定的な例を含みうる:揺れ動作、振動動作、投げ動作、傾斜動作、回転動作、遠心動作、操作動作、引き動作、押し動作、ジャンプ動作または落下動作。加速が停止するとは、加速度を生じさせる外部の事象、作用もしくは力の終了または加速度の大きさもしくは向きの変化の終了を意味する。特筆すべき点は、これに関しては、重力、他のタイプの等加速度または無視できる程度の加速度が依然として存在している場合であっても加速が停止したといえることである。
重力加速度、重力加速度場
重力により引き起こされる物体の加速。重力加速度は、ベクトル量であり、長さを時間を2乗したもので除算した単位(たとえば、m/s)で表される。地球では、重力加速度は約9.8m/sの値を有している。
流体
剪断力を加えることにより連続的に変形して流れる物質のことである。典型的には、流体とは液体、気体、混合物、溶液、分散、懸濁液、コロイド、乳液またはゲルのことを指す。流体の例としては次のものが挙げられる:水溶液、フッ素油剤、ハイドロフルオロエーテル、グリコール誘導体、イオン液体、シリコーン油、パーフルオロカーボン流体、ペルフルオロポリエーテル流体、二臭化メチレン、ポリタングステン酸ナトリウム、ヨウ化メチレン、アイソパー、フェロ流体、未硬化の紫外線硬化樹脂およびそれらの混合物。
【0043】
以上に加えて、流体の例としては、界面活性剤、安定剤、分散剤、乳化剤、電荷制御剤、静電防止剤、染料、着色剤または顔料が挙げられる。界面活性剤の例としては、ポロキサマー、ポリソルベート洗剤、ドデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸ソルビタン、ペルフルオロポリエーテル潤滑剤およびそれらを任意に組み合わせた物が挙げられる。一例とし
て、安全装置内に用いられる微細要素の変位速度、回転速度および沈降速度/浮揚速度を制御するために流体の粘度を用いることができる。
沈降
微細要素が当該微細要素に作用する力に応じて下方に向けて変位または落下すること。本明細書では、沈降とは、微細要素の沈下、落下または下方運動を指しうる。本明細書では、沈降という用語は、(i)流体内において分散している粒子が固体表面に沈下すること、(ii)流体内において固体表面に以前から堆積している粒子が運動を始めることに対して用いられる。
浮揚
流体内の微細要素が当該微細要素に作用する力に応じて上方に向けて変位または上昇すること。本明細書では、浮揚という用語は,(i)流体内において分散している粒子が固
体表面に向けて上昇すること、(ii)流体内において固体表面に以前から堆積している粒子が運動を始めることに対して用いられる。
機械的に平衡、実質的に機械的に平衡
微細要素に対する力が時間の経過とともに知覚可能な変化を生じない、すなわち定常状態の形態、動的平衡または疑似動的平衡に到達した物質の安定状態または疑似安定状態のこと。この文脈により、ブラウン運動、定常状態拡散、重力または無視可能な力が存在する状態であってもシステムが機械的に平衡な状態にありうることが理解されよう。
機械的に非平衡、非平衡
時間の経過とともに知覚可能な変化、変位、回転または沈降が生じさせるような状態に力がある物質の状態のこと。たとえば、機械的に非平衡は、大きな機械的な力を加えている間およびその後に生じうる。ブラウン運動、定常状態拡散、重力または無視可能な力が存在していたとしてもシステムが必ずしも機械的に非平衡な状態にあるとは限らない。
動的応答
時間の経過とともに連続的に生じる少なくとも1つの検出可能な変化を誘発する応答のこと。たとえば、動的応答は隠そうとせずにはっきりと分かるもの(overt)であってもよいしまたは隠されたもの(covert)であってもよい。動的応答には、人間の肉眼により観察可能な光学的な連続的変化が含まれうる。
安全装置、安全機能または安全要素
偽造を防ぐまたはドキュメントのコピーもしくは複製をより困難にするためにドキュメントに組み入れ可能なあらゆる装置、機能または要素のこと。1つの実施形態では、ドキュメントから著しく突出しないように安全装置、安全機能または安全要素を薄いプロフィールを有するように製作することができる。たとえば、安全装置、安全機能または安全要素の厚みは、0.1~20μmの範囲であってもよいしまたは1~10μmの範囲であってもよい。
巨視的効果
複数の微細要素の個々の変化、応答、変位または回転を組み合わせることにより生成される集合的な変化または応答のこと。巨視的効果とは、1つ以上の時間スケールで生じる複数の同一の微視的な応答、同様の微視的な応答または異なる微視的な応答の効果のことでありうる。
安全ドキュメント(秘密記録物)
偽造コピーされる恐れのある重要なまたは価値のあるドキュメント、物品または製品のこと。安全ドキュメントには、ドキュメント、物品または製品の偽造コピーではなく正真正銘の正当なバージョンであることをはっきりさせる機能または装置が含まれうる。たとえば、このような安全ドキュメントには以下に記載の安全機能が含まれうる。このような安全ドキュメントには、たとえばパスポート、市民権証明書または住所証明書の如き身分証明書、運転免許書、銀行券、コイン、小切手、クレジットカード、バンクカード、その他のドキュメントに加えて、偽造コピーと比較して製品の確実性または正当性を示すまたは証明することが望まれる有名デザイナーの衣類、アクセサリまたはその他のブランド製品の如き金銭的価値を有する物品に対するラベルまたは他の安全機能も含まれる。このよ
うな安全機能は、ドキュメント、物品または製品の特性および意図されるエンドユーザに応じて対称物品に恒久的に組み入れられるようになっていてもよいしまたは取り外し可能に組み入れられるようになっていてもよい。
【0044】
図1には、安全装置(100)の加速(3)に応じて安全装置(100)が動的に遷移していく一般的な概念が例示されている。
【0045】
微細要素(図示せず)を有する安全装置(100)が基板(1)の側面Aに配置されている。微細要素は、安全装置(100)の加速(3)の前には、安全装置(100)の初期状態(2A)に示される実質的に機械的に平衡な状態に置かれている。
【0046】
時間T=0で、安全装置(100)は加速(3)を引き起こす作用を受ける。たとえば、この作用には、安全装置(100)を揺らす、振動させる、投げる、傾斜させるまたは回転させることが含まれうる。重力に対して安全装置の向きを変化させるために重力加速度場に対して一直線に並んでいない軸線を中心として安全装置(100)を回転させてもよい。
【0047】
加速(3)の瞬間においては(すなわち、T=0では)、安全装置(100)により示され状態は実質的に変化しない。しかしながら、安全装置(100)が加速を受けるにつれて(すなわち、T>0)実質的に機械的に平衡な微細要素の状態が崩れ去っていく。すなわち、微細要素は機械的に非平衡な状態になる。その後、安全装置(100)の状態は遷移状態(2B)により表わされるように動的に連続して遷移していく。
【0048】
T=T1において加速(3)が終了しても、安全装置(100)は遷移状態(2C)を示し続ける。というのは、微細要素が実質的に機械的に平衡な状態にまだ到達していないからである。
【0049】
加速の停止後のいずれかの時点で微細要素は実質的に機械的に平衡な状態に再び到達する。安全装置(100)が加速を引き起こす他の作用を受けなければ安全装置(100)は元の状態(2A)または新たな状態(2D)のいずれかの状態を示す。これらはいずれも感知できるほどに変化することはない。
【0050】
図1に示されている一連の事象の間、微細要素は、実質的に機械的に平衡な状態から、機械的に非平衡な状態へ、そして、実質的に機械的に平衡な状態(加速の停止後のいずれかの時点)へと遷移していく。たとえば、1つの実施形態では、微細要素は、安全装置が作用を受けている間中ずっと重力場に対して一直線に並んだままでいるわけではなく、どちらかといえば、重力に対して実質的に一直線に並んだ状態から、一直線に並んでない状態へと遷移し、そして加速の停止後、実質的に一直線に並んだ状態へと再び戻っていくようになっている。
【0051】
安全装置(100)の2A状態から2B状態そして2C状態そして2A状態/2D状態への動的変化は、視認可能な光学的な変化、機械的に読取可能な変化、さらには完全に隠された変化(すなわち、安全ドキュメントのメーカーにより秘密にされたままの変化)をもたらすことができる。たとえば、機械による読取可能な安全装置の状態は、磁場、電場、紫外線、赤外線、可視光線、電気計、回折パターン、透過光の偏光、反射光の偏光などを用いることにより検出することができる。加速の停止後も暫くの間にわたって動的変化を継続して提供するように、安全装置(100)が2A状態から2B状態、2C状態、そして、2A状態/2D状態まで変化していく速度をチューニングすることができる。安全装置を様々な速度において様々なタイプの動的効果を示す複数の独立した副要素(図示せず)に細分化することができる。これらの様々な副要素が変化する速度をたとえば偽造対
策の向上または安全装置の公然性の向上などの優れた特徴を提供するために用いることができる。
【0052】
このような動的な視覚的変化の時間スケールがたとえば約0.01秒~約100秒、約1秒~約10秒、または約5秒なので、動的効果を迅速かつはっきりと分かるよう可視化することが可能となる。しかしながら、このような動的な視覚的変化の時間スケールを個々の用途の必要性に応じてチューニングすることができることが理解されよう。
【0053】
図2図4には、安全装置の加速に応じて安全装置に対してもたらされる様々なタイプの変化の具体例が示されている。
【0054】
図2には、初期状態(2A)から遷移状態2B/2Cそして状態2Aまたは状態2Dへと変化していく安全装置(100)の状態変化をたとえば安全装置を振ることによりまたは振動させることにより達成しうる加速度(3)の急激な変化により引き起こすことができることが示されている。それに代えて、安全装置を機械により、たとえば音波刺激または超音波刺激を与えることにより活性化するように設計することもできる。他の例では、銀行券の高速自動分別中に必然的に生じる高加速度により安全装置を活性化させるようになっていてもよい。たとえば、センサーが安全装置の輸送中に安全装置に変化が生じたか否かを検出することにより認証手段を提供するようになっていてもよいしまたは安全装置が依然として機能しているか否かを検証するようになっていてもよい(適合性試験)。
【0055】
図2では、安全装置(100)が揺れ/振動の開始時(T=0)において初期状態(2A)と実質的に同じ状態を示している。しかしながら、いったん揺れ/振動が進行すると(T>0)、微細要素がもはや実質的に機械的に平衡な状態にはないため、安全装置(100)は遷移状態(2B)を示す。揺れ/振動が停止した時点(T=T1)では、微細要素は依然として実質的に機械的に平衡な状態にはなく、安全装置(100)は遷移状態(2C)を示し続ける。ある時間が経過すると(すなわち、T>>T1)、微細要素は実質的に機械的に平衡な状態へと再び戻り、安全装置(100)は状態(2A)をもう一度示すかまたは新たな状態(2D)を示す。
【0056】
図3A図3Dには、重力場に対して直角な軸線を中心として安全装置を反転させる(3)、安全装置を回転させる(3)または、安全装置の向きを変える(3)ことにより、安全装置(100)が2A状態から2B状態、2C状態、そして2A状態/2D状態へと動的に遷移する例が示されている。図3Bに記載の安全装置(100)の向きが変化している間、微細要素は、機械的に非平衡な状態(2B)にあり、実質的に機械的に平衡な状態へと戻り始める。反転/回転が終了した後であっても、微細要素は依然として(図3Cに示されているように)遷移状態2Cにより表わされる非平衡な状態にある。ある時間が経過すると(すなわち、T>>T1)、微細要素は、(図3Dに示されたように)状態2A/2Dにより表わされる実質的に機械的に平衡な状態へと戻る。
【0057】
基板が微細要素の応答時間と比較して急速に反転された場合、遷移状態2Cは初めのうちは初期状態2Aとほとんど同じでありうる。このことについては図4において実施例を用いてさらに説明されている。
【0058】
図4A図4Dには、図3A図3Dに示されている動的応答からもたらされる視覚効果の一例が概略的に説明されており、この例では、基板が微細要素の応答時間と比較して急速に反転されるようになっている。図4Aでは、図絵(5)(たとえば、カエデの葉)が安全装置(100)の上方にいる観察者(7)によりはっきりと目視可能である。それに対して、安全装置(100)が透明な窓に置かれた場合であっても、安全装置(100)の下方にいる観察者(8)には図絵(5)とは見た目が異なる図絵(6)が見える。た
とえば、安全装置(100)により形成される図絵(5)は図絵(6)とは異なる色彩またはコントラストを有しうる。それに代えて、図絵(6)の色彩およびコントラストを周囲に印刷された背景の色彩およびコントラストと一致させることにより、観察者(8)による図絵(6)の目視が難しいようにすることもできる。
【0059】
安全装置(100)の重力(3)に対する向きが変わると、観察者(7)および観察者(8)の両者は自分が観察しているイメージが動的に変化するのが分かる。
【0060】
図4Bには、微細要素の応答時間と比較して短い時間で安全装置が急激に反転されたまたは向きが変化させられた後の安全装置が示されている。反転直後、すなわちT~0では
、観察者(8)には初めのうちは反転された図絵(6)が見えるが、観察者(7)には初めのうちは反転された図絵5が見える。
【0061】
図4Cでは、それから少し時間が経過した後、すなわちT>0において、側面Aにある反転された図絵(5)は、消え始め、一時的な形態(5A)を有しており、また、側面Bにある反転された図絵(6)も、消え始め、一時的な形態(6A)を有している。各イメージを生じさせている微細要素は重力下において遷移していくので非平衡な状態にある。
【0062】
図4Dでは、微細要素が実質的に機械的に平衡な状態に再び戻ると(T>>0)、観察者(7)には図絵(5)が側面Bに現われるのが見える。観察者(8)には図絵(6)が見える。
安全装置の製作
本明細書には、加速に応じておよび/または重力に対する向きの変化に応じて動的効果をもたらす実施形態にかかる安全装置を製作する方法が複数開示されている。
【0063】
図5Aには、流体(16)内に分散されているヤヌス(Janus)微粒子(18)に対する加えられる様々な力が例示されている。ヤヌス微粒子(18)は、体積中心(12)とは異なる位置に位置する重心(13)を有している。このことは、たとえばヤヌス微粒子(18)が非均一な密度を有している場合に達成することができ、また、非均一な密度は、たとえば2つの異なる材料からヤヌス微粒子を製作することにより、異なる密度を有する薄いフィルムでヤヌス微粒子をコーティングすることにより、または、孔隙率が部位によって異なるヤヌス微粒子を製作することにより達成することができる。
【0064】
重力中心(13)と体積中心(12)とが異なると、重力および加速力(14)(これらは重心(13)に加えられる)は、一般的に、浮力および粘性力(15)(これらは体積中心(12)に加えられる)と一直線に並ばない。このことは、体積中心(12)および重力中心(13)が重心(g)と一直線に並ぶまでヤヌス微粒子(18)を回転させるトルク(11)を生じる。図5Aには時計の回転方向の回転が示されているが、時計の回転方向とは逆の回転も可能であることが分かる。ヤヌス微粒子(18)の回転速度は、安全装置の特徴、たとえばヤヌス微粒子内の密度分布、微細粒子のコーティングの密度および厚み、微細粒子の密度、液体粘性、微細粒子のサイズ、カプセルまたはマイクロ流体チャンネルのサイズ、ならびに、安全装置の側壁との相互作用を調節することによりチューニングすることができる。複数のヤヌス微粒子(18)を回転させ重力と一直線に並べることにより、人間の肉眼により直接観察することができるまたは機械を用いて検出することができる巨視的効果をもたらすことができる。
【0065】
図5Bには、流体(16)内に分散され、重力ヤヌス微粒子(18)の形態を有する1つの実施形態にかかるほぼ球状の微細要素が例示されている。このヤヌス微粒子(18)は異なる特性を有する少なくとも2つの異なるタイプの表面(9)および表面(10)を有している。たとえば、それぞれの表面は異なる光学的特性(色彩、吸収性、蛍光性、プ
ラズモニック特徴、反射率、屈折率など)、粗さ、磁気特性、電気的特性、化学組成などを有するようになっていてもよい。このヤヌス微粒子(18)は、体積中心(12)とは異なる位置に位置する重心中心(13)を有している。このことは、たとえばこのヤヌス微粒子(18)が非均一な密度を有する場合に達成することができる。非均一な密度は、たとえば2つの異なる材料からヤヌス微粒子を製作することによりまたはヤヌス微粒子(18)の一部を薄いフィルムでコーティングすることにより達成することができる。それに代えて、孔隙率が非均一なヤヌス微粒子(18)も体積中心(12)とは異なる位置に位置する重心中心(13)を有する。
【0066】
重力中心(13)および体積中心(12)が異なると、一般的に、重力および加速力(14)(これらは重心(13)に加えられる)は、浮力および粘性力(15)(これらは体積中心(12)に加えられる)と一直線に並ばない。このことは、体積中心(12)および重力中心(13)が重心(g)と一直線に並ぶまでヤヌス微粒子(18)を回転させるトルク(11)を生じる。図5Aには時計の回転方向の回転が示されているが、時計の回転方向とは逆の回転も可能であることが分かる。ヤヌス微粒子の回転速度は、安全装置の特徴、たとえばヤヌス微粒子内の密度分布、微細粒子のコーティングの密度および厚み、微細粒子の密度、液体粘性、微細粒子のサイズ、カプセルまたはマイクロ流体チャンネルのサイズ、ならびに、安全装置の側壁との相互作用を調節することによりチューニングすることができる。複数のヤヌス微粒子を回転させ重力と一直線に並べることにより、人間の肉眼により直接観察することができるまたは機械を用いて検出することができる巨視的効果をもたらすことができる。
【0067】
図6A図6Dには、微細要素(88)が基板(1)に一体化されているある実施形態にかかる安全装置の断面図が示されている。安全装置(100)が基板(1)に配置されている。安全装置(100)と基板(1)と組み合わせたものをドキュメント(11)と呼ぶ。安全装置(100)は初期状態(2A)を有している。
【0068】
安全装置(100)は、流体(16)と微細要素(88)とで満たされた1つ以上のチャンバまたはチャンネル(17)からなっている。流体(16)は安全装置の耐久性を延ばすためにゆっくりと蒸発する不揮発性の液体であってもよい。チャンバおよびチャンネル(17)は特定のイメージ、たとえば図4Aに記載のようなカエデの葉を提供するように設計することができる。チャンバまたはチャンネル(17)はそれぞれ1つ以上の微細要素(88)を有していてもよい。さらに、チャンバおよびチャンネル(17)は相互に連結するようになっていてもよいし、または、複数の独立したセクションからなっていてもよい。それに加えて、たとえば、1つ以上の異なるタイプの微細要素(88)をチャンネルおよびチャンバ(17)の中に組み入れ、チャンネルおよびチャンバ(17)を1つ以上の流体で満たし、様々な動的効果を提供するようにしてもよい。
【0069】
この実施形態では、微細要素(88)は上述の特性を有する重力ヤヌス粒子であってもよい。たとえば以下に示すような他のタイプの微細要素が用いられてもよい。
【0070】
図6Aには、反転/回転する前、安全装置(100)が状態2Aに置かれていることが示されている。状態2Aでは、微細要素(88)は実質的に機械的に平衡な状態にあるので、図示されているような位置関係に配置されている(たとえば、陰影部(30)が上方、すなわち基板(1)の方向とは反対の方向を指しており、非陰影部(23)が下方、すなわち基板(1)の方向を指している)。
【0071】
図6Bに示されているようにドキュメント(11)が反転(3)されると(T=0)、初めのうちは微細要素(88)も反転して機械的に非平衡な状態に置かれる。すなわちこの時点では、微細要素は安定していない状態に配置される(陰影部(30)が下側になり
、非陰影部(23)が上側になる)。微細要素の応答時間と比較して向きの変化が速ければ、ドキュメントの下方にいる観察者は依然として安全装置の状態(2A)に類似する状態2Bを観察することになる。というのは、微細要素の陰影部を下方から目視することができるからである。
【0072】
向きの変化の終了後(T>T1)、すなわち図6Cでは、微細要素は、依然として機械的に非平衡な状態にあるため、実質的に機械的に平衡な状態に最終的に到達するように重力の存在下で回転または再配置させられる。微細要素は、異なる速度または同様の速度で回転し、過渡状態2Cを生じる。重力による微細要素(88)の回転および再配置により先に記載の動的効果がもたらされる。
【0073】
図6Dでは、微細要素(88)は実質的に機械的に平衡な状態へと戻るため、陰影部(31)は上方に整列され、非陰影部(30)は下方に整列されている。微細要素(88)がヤヌス微粒子である場合、微細要素は陰影部が非陰影部の上方になるように回転/再配置される。この時点で、安全装置(100)は、微細要素の陰影部(30)が上方、すなわち基板(1)の方向を指し、非陰影部(23)が下方、すなわち基板(1)の方向とは反対の方向を指している状態(2D)を示している。
【0074】
1つの実施形態では、微細要素(88)の回転により人間の肉眼で直接観察可能な色彩またはコントラストの変化がもたらされる。この実施形態では、図6Aの側面Aのドキュメントを見おろす観察者は微細要素の陰影部から発せられるイメージを観察する(状態2A)。安全装置(100)が反転されると、ドキュメントを下方から見る観察者は、状態(2A)に類似する状態2Bを観察することができる。しかしながら、このイメージは一時的なものである。というのは、微細要素(88)は動的に回転/再配置されて非陰影部を陰影部の下方に移動させるからである。機械的に平衡な状態に到達後、側面Aの下方に位置する観察者は微細要素の非陰影部から発せられるイメージを観察することになる(状態2D)。
【0075】
さらに他の実施形態では、ドキュメント(11)の両側からの安全装置の観察を可能とするために基板(1)が少なくとも部分的に透明となっている。図4A図4Dに示されているように、観察者はドキュメント(11)のいずれの側からでも動的なイメージの変化を観察することができる。
【0076】
微細要素(88)は、印刷された静止デバイスを変化させるように、見えるように、拡大させるように光を曲げるレンズとして働くようになっていてもよい。それに代えて、微細要素(88)の回転、再配置または変位(たとえば沈降または浮揚)により引き起こされる効果を増強するための複合デバイスが直接微細要素(88)に形成されるようになっていてもよい。光が微細要素(88)により曲げられる現象を用いて微細要素(88)に印刷されているデバイスの小さなセクションを拡大させることにより、微細粒子の回転および観測角度により生じる複雑な動的効果をもたらすことができる可能性もある。また、安全装置(100)の効果を増強または変えるために微細要素(88)が従来の染料、光変色性染料、熱変色性染料または電界変色性染料のいずれを含んでいてもよい。それに加えて、様々な効果をもたらすように微細要素(88)と安全装置の側壁との間の相互作用をチューニングすることもできる。たとえば、このような相互作用は、強い加速(たとえば、強く揺らすことにより生じる加速)のみが側壁から微細要素(88)を引き離して微細要素(88)を回転させることにより安全装置(100)の動的効果をもたらすようにすることを可能とすることができる。
【0077】
図7A図7Dには他の実施形態にかかる安全装置(100)が例示されている。図7Aに記載の実施形態では、まず、微細要素(88)がたとえばUV樹脂または熱硬化性ポ
リマーの如き液状硬化性材料(19)内に分散される。その後、この液状硬化性材料(19)が従来の印刷技術を用いて基板(1)に配置され、硬化され、固体状の層を形成する。最後に、凝固された層は液状膨張剤に晒される。液状膨張剤は凝固された層に進入して凝固された層を拡張させる。このことにより、各微細要素(88)のまわりに薄い液体の層(16)を形成することができる。その後、微細要素(88)が安全要素に対して回転することにより先に記載の動的効果をもたらすことが可能となる。
【0078】
図7Bでは、ドキュメント(11)が急速に反転/回転(3)させられると(T>0)、初めのうちは微細要素(88)がドキュメントの回転についていくため、先に記載の動的効果をもたらすことができる。
【0079】
図8A図8Dには、他の実施形態にかかる安全装置(100)が例示されている。この実施形態では、不揮発性または低揮発性を有する液体(16)で満たされた大きなカプセル(20)の中に微細要素(88)を封入し、次いで、このカプセル(20)を従来の印刷技術を用いて直接基板(1)に配置することができるようになっている。印刷後、各カプセル(20)の中の液体(16)により微細要素(88)がドキュメントに対して回転することにより確実に先に記載の動的効果をもたらすことができるようになっている。カプセル(20)が湾曲しているため、光が曲げられ、微細要素(88)の回転により引き起こされる動的変化の視覚的なコントラストを向上させることができるレンズ効果がもたらされる。各カプセルの中に1を超える数の粒子が組み入れられてもよい(図示せず)。
【0080】
図9A図9Dには、微細要素(21)の回転ではなく沈降作用により動的視覚的効果を生じさせる方法が例示されている。この実施形態では、各微細要素(21)が周囲の流体(16b)の密度とは著しく異なる平均密度を有するようになっている。図9A図9Dに記載のように、各微細要素の平均密度が周囲の流体(16b)の密度より大きければ、微細要素(21)はチャンバ(17)の底に沈降し、各微細要素の平均密度が周囲の流体(16b)の密度未満であれば、微細要素(21)はチャンバ(17)の頂部に向けて浮揚する。微細要素(21)のチャンバ(17)の頂部または底への滞積により視覚効果がもたらされるように、周囲の液体(16b)が部分的に光を遮蔽する染料を含むようになっていてもよい。
【0081】
それに代えて、同じチャンバ(17)内に2つのタイプの微細要素が同時に含まれるようになっていてもよい。この場合、2つのタイプの微細要素がそれぞれ周囲の液体(16b)よりも高い密度および低い密度を有することに加えて、たとえば異なる色も有するようになっている。周囲の液体(16b)よりも密度が高い微細要素はチャンバ(17)の底に沈降し、周囲の液体(16b)よりも密度が低い微細要素はチャンバ(17)の頂部に浮揚することにより、視認可能な動的効果がもたらされる。この実施形態では微細要素(21)の回転を必要としないので、容易に様々な粒子形状を用いることができる。
【0082】
図9Aには、反転/回転の前、安全装置(100)が状態2Aに置かれていることが示されている。状態2Aでは、微細要素(21)は周囲の流体(16b)よりも高い密度を有し、実質的に機械的に平衡な状態にあるため、微細要素(21)はたとえば基板(1)に接近してチャンバ17の底に沈降している。
【0083】
図9Bに記載のようにドキュメント(11)が反転(3)されると(T=0)、初めのうちは、微細要素(21)も反転して機械的に非平衡な状態になる。すなわち、微細要素は、もはやチャンバ(17)の底にないため、安定していない状態に置かれる。向きの変化が微細要素の応答時間に比べて速い場合、ドキュメントの下方に位置する観察者は依然として安全装置の状態(2A)に類似する状態2Bを観察することになる。というのは、
下から見た場合、染められた周囲の液体(16b)が依然として微細要素(21)を覆っているからである。
【0084】
向きの変化の終了後(T>T1)、図9Cでは、微細要素は依然として機械的に非平衡な状態にあるため、重力の存在下で沈降または沈んでいき、最終的には実質的に機械的に平衡な状態に再び到達する。複数の微細要素は異なる速度または同様の速度で沈降して過渡状態2Cをもたらす。重力による微細要素(21)の沈降は、当該微細要素とチャンバ(17)の壁との間の染められた液体の厚みを変え、それにより、先に記載の動的効果がもたらされる。
【0085】
図9Dでは、微細要素(21)は実質的に機械的に平衡な状態に戻っており、この時点で、安全装置(100)は微細要素が基板(1)から離れてチャンバ(17)の底へ沈降した状態(2D)を示している。
【0086】
図10A図10Dには、液体(16b)で満たされた中空カプセル(20)に組み入れられる微細要素(21)の浮揚に基づく他の実施形態にかかる安全装置が例示されている。この実施形態では、微細要素(21)は周囲の流体(16b)よりも低い密度を有している。またこの実施形態では、中空カプセル(20)が取り付けられている基板(1)が反転/回転(3)させられることにより図9A図9Dに記載の動的効果に類似する動的効果がもたらされるようになっている。ただし、微細要素(21)は沈降するのではなく浮揚(または上昇)するようになっている。
【0087】
図11A図11Dには他の実施形態にかかる安全装置が例示されている。かかる安全装置では、微細要素(100)が2つの異なるタイプの密度が異なる非混合性の液体(16c)および液体(16d)で満たされている中空カプセル(20)から構成されている。図11Aでは、液体(16c)は液体(16d)の密度よりも低い密度を有しており、また、微細要素(100)の向きは図示されている通りである。
【0088】
図11Bでは、ドキュメント(11)が反転/回転(3)され、2つの液体(16c、16d)の配置が逆になっている。すなわち、密度の高い液体(16d)が密度の低い液体(16c)の上にきている。このことにより、2つの液体(16c、16d)の相対的な位置が非平衡な状態に置かれることになる。2つの液体(16c)および(16d)の密度に差があるため、図11Cに示されているように、2つの液体(16c)および(16d)は連続的に変位する。図11Dに示されているように、これらの液体(16c、16d)は実質的に機械的に平衡な状態へと戻る(すなわち、密度の低い液体(16c)が密度の高い液体(16d))の上にくる)。
【0089】
このような実施形態にかかる安全装置では、2つの液体(16c)および(16d)が図11Dに記載の平衡位置に戻ろうとする際に、接触角ヒステリシスの如き様々な摩擦力が2つの液体(16c)および(16d)の変位を遅らせるまたは阻止する場合がある。たとえば、当該技術分野において、微細チャンネルに入れられた液体を移動させるにあたって重力では十分ではない可能性があることが知られている。図12には、このような液体の変位を促進するために用いることができる様々な戦略が例示されている。たとえば、2つの液体(16c)および(16d)のカプセル(20)に対する接触角(22a)、(22b)、(22c)を変えてこのような摩擦力を最小限に抑えることができる。接触角ヒステリシスによる摩擦力を最小限に抑えるにあたって(22c)のような構成が好ましい(カプセルに対して2つの液体のうちの一方が非常に高い接触角を有し、他の液体が非常に低い接触角を有している)。それに代えて、カプセル(20)の材料を完全に濡らす第三の非混合性の液体(16e)を用いてさらに接触角ヒステリシスによる摩擦力を最小限に抑えることもできる。
【0090】
安全装置の製作にあたって、異なるタイプの微細要素を組み合わせたものを用いることができることも分かっている。たとえば、密度が異なる2つの液体を含んでいるチャンネルの中に重力ヤヌス微粒子を組み入れることができる。たとえば、これらのヤヌス微粒子は、好ましくは一方の側が第一の液体により濡らされるとともに他方の側が第二の液体により濡らされるようコーティングされるようになっていてもよい。加速度の変化を受けて2つの流体が変位すると、ヤヌス微粒子が回転し、動的効果がもたらされる。
【0091】
上述の安全装置は、当該技術分野において知られている技術を用いて安全ドキュメントに組み入れることができる。たとえば、安全装置は、印刷されてもよいし、パッチ、箔または積層体として設けられてもよいし、または、ネジ止めされてもよい。それに代えて、安全装置は、たとえば安全ドキュメントのバルク内に組み入れることもできるし、または、銀行券の基材に埋め込むこともできる。
【0092】
図5および図6A図6Dを参照すると、微細要素のサイズが安全装置の厚み未満である限り、0.1μm~100μm、0.1μm~50μmまたは0.1μm~10μmの間の平均直径または平均サイズを有する微細要素を用いることができる。たとえば、安全装置の厚みは典型的には0.1~20μmの間である場合もあればまたは1~10μmの間である場合もある。
【0093】
一例として、10μm未満の直径を有するヤヌス微粒子を10μmの厚みを有する安全装置の一部として用いることができる。
【0094】
図13には、ヤヌス微粒子を製作するためのプロセスが例示されている。製作プロセスは、市販のミクロンサイズの粒子(直径が0.7~10μmの範囲)から開始される。一例として、従来の染料または蛍光染料が添加されたポリスチレン製の微粒子を用いることにより最終版であるヤヌス微粒子の回転により生成される視覚的コントラストを増強することができる。ポリスチレン製の微粒子は、まず水溶液(200)内に分散され、基板(210)に載置され、そのまま乾される。当該技術分野において知られているように、この乾燥プロセスにより、基板(210)上に自己組織化された微粒子(220)の単分子層を形成することができる。乾燥後、物理気相蒸着法(たとえば、電子ビーム蒸発)を用いて微粒子(220)に薄膜(230)がコーティングされる。微粒子(220)を基板(210)上に高密度にパッキングすることにより、微粒子表面の一方側に薄膜(230)を確実に優先的に形成させて複数の実施形態にかかる安全装置に必要とされる非均一な密度および光学的コントラストを同時にもたらすことができるようになる。
【0095】
複数のタイプのコーティングを用いることができる。最も基本的な形態では、約100nmの厚みを有する高密度フィルムから薄膜(230)(またはコーティング)を形成することができる。薄膜の密度は、微粒子のコアの密度よりも高くなっている。金属類の如き材料をコーティングとして用いることができる。たとえば、金またはタングステンの薄膜が用いられてもよい。それに加えて、複数のヤヌス微粒子からの光の反射を阻止する薄膜をコーティングすることにより、重力および加速に応答してヤヌス微粒子が回転することにより生じる視覚的なコントラストを向上させるようにしてもよい。このようにして、(i)重力によるヤヌス微粒子の向きの変化に必要な密度差の提供と(ii)反射防止暗色層の生成とを同時にもたらすことができる薄膜コーティングが開発されている。このようなコーティングの一例としては、クロミウム(2nm)、金(100nm)、クロミウム(2nm)、二酸化ケイ素(80nm)、クロミウム(10nm)および二酸化ケイ素(80nm)が連続して形成される層からなる薄膜が挙げられる。2nmの厚みのクロミウムの膜は接着層として働き、金の層はヤヌス微粒子の迅速な回転を確保するのに必要な高密度のコーティングを形成し、Si0層、Cr層、Si0層は反射防止用の暗色コ
ーティングを形成する。
【0096】
コーティングの後、これらのヤヌス微粒子(220)は超音波処理により液体(240)の中に分散される。これらのヤヌス微粒子はたとえば水溶液、油、有機溶媒、熱硬化性プレポリマー、UV硬化性ラッカーなどの如き複数の溶剤の中に分散させることができる。いくつかの実施形態にかかる安全装置には、蒸発しにくく、蒸気圧が低く、粘度が低く、毒性が低く、沸点が高く、融点が低い液体を用いることができる。任意選択的な最終ステップとして、ヤヌス微粒子の濃度を遠心分離または当該技術分野において知られている他の技術を用いて調節することもできる。
【0097】
図14A図14Bには、上述のプロセスで製作された直径が3μmのヤヌス微粒子(300)の走査電子顕微鏡(SEM)写真が示されている。図14Aには分散前のヤヌス微粒子(300)が例示され、図14Bには分散後のヤヌス微粒子(300)が例示されている。これらのSEMイメージでは、100nmの厚みの金のコーティングは、対比すると明るいので図14Bにおいて目視することができる。図14Aには、乾燥ステップおよび被膜ステップの後のヤヌス微粒子(300)の空間的な配置が示されている。図14Bには、ヤヌス微粒子(300)のおよそ半分をコーティング(310)が覆っていることが示されている。ヤヌス微粒子(300)の形状はコーティングされた後でさえほとんど球状のままである。
【0098】
図15A図15Cには、上述のプロセスを用いて製作され、水溶液中に分散され、ガラス板上に載置された直径が5μmのヤヌス微粒子(400)の光学顕微鏡写真が示されている。ヤヌス微粒子(400)は赤色染料が添加されたポリスチレンのコアを有している。その表面の一部は上述の反射防止用のコーティングで覆われている。図15A図15Cには上から観察されたヤヌス微粒子が示されている。図15A図15Cは、濃淡画像で粒子の回転をうまく強調するようにカラー画像の赤色成分のみを抽出することにより得られた。この変換を受けて、粒子の赤色側が白色または薄灰色として現れ、粒子の反射防止用暗色コーティング側が黒色またはネズミ色として現われている。
【0099】
図15Aでは、ヤヌス微粒子(400)のほとんどすべてが重力場と一直線に並ぶことにより上から赤色(420)のみが目視でき、反射防止用暗色コーティングを隠すようになっている。図15Bには、液体とヤヌス微粒子(400)との集合体を混合することにより得られた局所的な摂動(すなわち、加速または向きの変化)直後のヤヌス微粒子(400)が示されている。ヤヌス微粒子(400)の暗色(430)側と赤色(420)側とを目視することができる。図15Cには、摂動から約5秒後の状況が示され、摂動からわずか数秒後にヤヌス微粒子(400)が回転して元の向きに戻っていることが実証されている。すなわち、上から赤色(420)のみが目視できる。このことは、製作された直径が5μmのヤヌス微粒子(400)を目標とする安全用途にとって適切な時間スケールで重力場により向きを変更することに成功したことを実証している。
【0100】
図15A図15Cに記載の結果により、摂動後にヤヌス微粒子が比較的に均一な単一層として再配置されることが示されている。このことは、重力によるヤヌス微粒子の沈降とブラウン運動により引き起こさせられる無作為な変位とが組み合わさって生じたものである。ヤヌス微粒子の平均密度が周囲の液体よりも高い約2g/cmであるので沈降が生じる。ぎっしり詰まった粒子の層を形成することにより、粒子の回転により生じる視覚的コントラストを向上させることができる。
【0101】
図16には、約1%の体積濃度の図15A図15Cに記載のヤヌス微粒子を含む溶液(500)がガラス製のキュベット(520)に入れて鏡(510)の上方に配置された場合に得られる巨視的な視覚的効果が示されている。図16図15A図15Cの場合
と同じカラー変換プロセスで得られたものである。このイメージでは重力場は下方に向いている。鏡に写ったガラス製のキュベット(520)のイメージ(530)は、液体溶液(500)の底および頂部について同時に観察するための手段を提供する。液体溶液(500)の頂部と底の間には赤色(540)と黒色(550)とのコントラストがはっきりと視認可能である。得られた色の対比により、ヤヌス粒子の重力による向きの変化により人間の肉眼によりはっきりと見える巨視的効果がもたらされることが実証されている。
【0102】
図17A図17Dには、図15A図15Cに記載の赤黒のヤヌス微粒子を含んでいる水溶液(610)で満たされたチャンネル(605)からなるプロトタイプの安全装置(600)を反転させることにより得られた巨視的な動的応答が示されている。図17A図17Dは、図15A図15Cおよび図16の場合の同じカラー変換プロセスで得られたものである。チャンネル(605)内に入れられたヤヌス微粒子の量は、平均厚みで表現すると、1.5個の粒子から形成される単層の平均厚み(すなわち、7.5ミクロン)に相当する。初期状態(17Aに記載の)では、安全装置(600)のチャンネル領域(605)はヤヌス微粒子の有効厚みが小さいにもかかわらず鮮やかな赤色(615)を示している。安全装置を反転した直後(図17Bに記載)、チャンネル(605)は、初期の赤色(図17Aの615)とは非常に異なる黒色(620)を示している。図17Cでは、図17Bから約2秒後、チャンネル(605)は、チャネルの色が初期の赤色(615)へと徐々にかつ動的に戻っていくのが分かる動的応答(625)を示している。図17Dでは、図17Bから5秒後に初期の赤色(615)に戻っているという事実により重力により誘発される動的な視覚的効果が実証されている。動的な視覚的効果は、ほとんどの照明状態で数フィート離れたところから人間の肉眼でもはっきりと見ることができる。また、当該技術分野において知られているほとんどのOVDと比べても、得られた赤および黒の色彩は観測角度に対してほとんど一定である。製作から数か月後であっても、安全装置はその側壁に粒子が著しく付着することもなくその機能を維持している。
【0103】
図18A図18Dには、流体を含むコンテナ内のヤヌス微粒子の沈降中に複雑な流れプロファイルが発生する動的応答の時間的な経過が例示されている。この例では、動的応答は沈降と回転との両方を含んでいる(すなわち、重力場に対して一直線に並んで配置される)。ヤヌス微粒子は、ほぼ球状で、黒色の表面部分と赤色の表面部分とを有している。ヤヌス微粒子の黒色の表面部分は、重力による整列後下方を指している。図18Aには、流体コンテナの反転直後の黒色が観察される流体コンテナが示されている。図18Bには2秒後の同じコンテナが示されている。図18Bでは、ヤヌス微粒子の重力により誘発される回転、整列を受けて黒色は迅速に赤色(図18Bの薄い陰影)に戻っている。図18Cには図18Aの6秒後の同じコンテナが示されている。図18Cでは、ヤヌス微粒子は沈降中に寄せ集まって樹木状のフィラメントを形成している(図3c)。沈降は回転を乱してしまうため、赤色と黒色との両方が観察されている。このような複雑なパターンの形成は、沈降中の多体相互作用(multi-body interaction)により発生する複雑な流れプロファイルにより引き起こされている。図18Dには図8Aから20秒後の動的応答が示されている。図18Dでは沈降は終了しており、赤色のみが観察され、流体のコンテナの底のヤヌス微粒子が重力により誘発されて整列していることを確認することができる。
【0104】
<追加の実施形態>
(実施形態1)
安全装置であって、複数の微細要素を備えており、前記複数の微細要素が、加速または向きの変化の作用時に重力場と実質的に一直線に並んでいる状態から並んでいない状態へと遷移し、前記加速作用または向きの変化の停止後、前記重力場と一直線に並ぶ状態へと戻るように構成されてなる、安全装置。
(実施形態2)
前記加速作用または向きの変化を受けて重力場と実質的に一直線に並んでいる状態から並んでいない状態へと遷移することが1つ以上の巨視的効果を発生するように構成されてなる、追加の実施形態1に記載の安全装置。
(実施形態3)
前記1つ以上の巨視的効果のうちの少なくとも1つが光学的な巨視的効果である、追加の実施形態2に記載の安全装置。
(実施形態4)
前記光学的な巨視的効果が人間の肉眼により視覚的に観察可能である、追加の実施形態3に記載の安全装置。
(実施形態5)
前記光学的な巨視的効果が機械的に読取可能である、追加の実施形態4に記載の安全装置。
(実施形態6)
前記複数の微細要素が、約0.01秒~約100秒、0.01~10秒または1秒~約10秒の時間間隔で実質的に一直線に並んでいる状態から一直線に並んでいない状態へ遷移し、そして、一直線に並んだ状態へと戻るように構成されてなる、追加の実施形態1乃至5のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態7)
前記加速が前記安全装置の振動および/または揺れである、追加の実施形態1乃至6のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態8)
前記複数の微細要素が0.01~100ミクロンの間でサイズが異なる、追加の実施形態1乃至7のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態9)
前記複数の微細要素が0.01~10ミクロンの間でサイズが異なる、追加の実施形態8に記載の安全装置。
(実施形態10)
前記複数の微細要素が1つ以上のマイクロチャンネルの中に組み入れられてなる、追加の実施形態1乃至9のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態11)
複数の独立したマイクロチャンネルを備えてなる、追加の実施形態10に記載の安全装置。
(実施形態12)
各マイクロチャンネルが0.1~1000ミクロンの高さを有してなる、追加の実施形態10または11に記載の安全装置。
(実施形態13)
前記複数の微細要素が流体の中に分散され、前記複数の微細要素のうちの一部または全部がそれぞれ体積中心とは異なる質量中心を有し、前記複数の微細要素が回転により遷移するように構成されてなる、追加の実施形態1乃至12のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態14)
前記複数の微細要素の回転が、該複数の微細要素に付与される1つ以上の静的印刷特徴を変化させるよう、見えるよう、拡大させるよう光を曲げるように構成されてなる、追加の実施形態13に記載の安全装置。
(実施形態15)
前記複数の微細要素および流体が、0.1~200ミクロン(μm)の直径を有する1つ以上のマイクロカプセルの中に組み入れられてなる、追加の実施形態13または14に記載の安全装置。
(実施形態16)
前記複数の微細要素が異なる密度を有する2つ以上の非混合性流体を含み、前記複数の
微細要素が前記微細要素内の流体の変位により遷移するように構成されてなる、追加の実施形態1乃至12のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態17)
前記複数の微細要素が、0.1~200ミクロン(μm)の直径を有する1つ以上のマイクロカプセルの中に組み入れられる前記2つ以上の非混合性流体から構成されてなる、追加の実施形態16に記載の安全装置。
(実施形態18)
各マイクロカプセルが第一の液体と、第二の液体とを含んでなる、追加の実施形態17に記載の安全装置。
(実施形態19)
前記第一の液体が前記マイクロカプセルに対して140°を超える接触角を有し、前記第二の液体が前記マイクロカプセルに対して40°未満の接触角を有してなる、追加の実施形態18に記載の安全装置。
(実施形態20)
各マイクロカプセルが第一の流体と、第二の流体と、第三の流体とを含み、前記第一の流体が前記マイクロカプセルの内表面を濡らし、前記第二の流体および前記第三の流体が前記第一の流体により包まれるように構成されてなる、追加の実施形態17に記載の安全装置。
(実施形態21)
前記複数の微細要素または前記1つ以上のマイクロカプセルが基板にまたは基板の中に設けられて、印刷されて、取り付けられてまたは加えられてなる、追加の実施形態17乃至20のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態22)
前記マイクロカプセルおよび/または前記流体が光を曲げてレンズ効果をもたらすように構成されてなる、追加の実施形態17乃至24のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態23)
前記複数の微細要素が液体マトリックス内に分散され、前記液体マトリックスが凝固され、凝固された前記液体マトリックスが膨張剤に露出され、このことにより、前記複数の微細要素のまわりに液状のシェルが形成されるように構成されてなる、追加の実施形態1に記載の安全装置。
(実施形態24)
前記液体マトリックスが硬化によりまたは溶媒の蒸発により凝固されるように構成されてなる、追加の実施形態23に記載の安全装置。
(実施形態25)
1つ以上の応答をもたらすために異なるタイプの微細要素が用いられてなる、追加の実施形態1に記載の安全装置。
(実施形態26)
前記微細要素がヤヌス微粒子であり、前記ヤヌス微粒子が、i)内側コアと、ii)前記ヤヌス粒子の表面部分のコーティングとを有し、前記内側コアが前記コーティングの密度とは異なる密度を有してなる、追加の実施形態1乃至24のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態27)
前記内側コアが0.1~100ミクロン(μm)の直径を有し、前記コーティングが10nm~500nmの厚みを有し、前記コーティングの厚みが前記直径の20%未満である、追加の実施形態26に記載の安全装置。
(実施形態28)
前記内側コアが固体である、追加の実施形態27に記載の安全装置。
(実施形態29)
前記コーティングが反射防止面を有してなる、追加の実施形態26乃至28のうちのい
ずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態30)
前記コーティングがクロミウム、金および二酸化ケイ素を含有してなる、追加の実施形態29に記載の安全装置。
(実施形態31)
前記コーティングが前記内側コアの前記の表面部分上に第一のクロミウム層と、第二の金層と、第三のクロミウム層と、第四の二酸化ケイ素層と、第五のクロミウム層と、第六の二酸化ケイ素層とを有してなる、追加の実施形態30に記載の安全装置。
(実施形態32)
前記コーティングが薄膜、染料または着色剤からなる、追加の実施形態26乃至28のうちのいずれか一項に記載の安全装置。
(実施形態33)
前記薄膜が、1つ以上の金属膜からなる第一の層と、第一の誘電性の膜からなる第二の層と、1つ以上の金属膜からなる第三の層と、第二の誘電体膜からなる第四の層とを有してなる、追加の実施形態32に記載の安全装置。
【0105】
当業者にとって明らかなように、上述の開示内容は安全装置の設置方法および安全装置の実用化を示す特定の実施形態を説明している。これらの実施形態は、例示のみを意図したものであり、本明細書に具体的に記載・説明された内容に本発明を限定することを意図したものではない。本発明の技術範囲から逸脱することなく上述の教示内容に様々な修正および変形を加えることも可能である。添付の特許請求の範囲では、安全装置がさらに説明され、定義されている。
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