(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電子デバイス製造用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/03 20140101AFI20221208BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20221208BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20221208BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221208BHJP
H05K 3/32 20060101ALN20221208BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
C09D11/03
H05K1/09 A
H01M8/1213
H01M4/88 T
H05K3/32 B
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2020510705
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011216
(87)【国際公開番号】W WO2019188512
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2018069677
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-8199(JP,A)
【文献】特開2012-180425(JP,A)
【文献】特開2000-63718(JP,A)
【文献】特開2005-54245(JP,A)
【文献】特開2003-89586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
H05K 1/09
H01M 8/1213
H01M 4/88
H05K 3/32
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である)
で表される化合物と流動性有機物質との相溶物を含む、電子デバイス製造用インク。
【請求項2】
流動性有機物質が、炭化水素油、エーテル、ハロゲン化炭化水素、石油成分、動植物油、シリコーン油、エステル、芳香族カルボン酸、ピリジン、及びアルコールから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の電子デバイス製造用インク。
【請求項3】
更に、電気特性付与材を含む、請求項1又は2に記載の電子デバイス製造用インク。
【請求項4】
下記式(1)
【化2】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である)
で表される化合物と流動性有機物質とを相溶させる工程を経て、請求項1~3の何れか1項に記載の電子デバイス製造用インクを得る、電子デバイス製造用インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造において、印刷法を用いて配線及び/又は電極等を形成するためのインクに関する。本願は、2018年3月30日に日本に出願した、特願2018-069677号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
印刷法を用いて製造する電子デバイスにはコンデンサ、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、トランジスタ、スピーカ、アクチュエータ、アンテナ、固体酸化物燃料電池等がある。
【0003】
例えば積層セラミックコンデンサは、一般的に、次のような工程を経て製造される。
1.セラミックスの粉末、ポリビニルアセタール樹脂等のバインダー樹脂、及び溶剤を含むスラリーをシート状に成形してグリーンシートを得る。
2.電気特性付与材(例えば、ニッケル、パラジウム等)、バインダー樹脂(例えば、エチルセルロース等)、及び流動性有機物質(例えば、ターピネオール等)を含むインクを、グリーンシート上に印刷法により塗布し導電回路の配線や電極等(以後、「配線等」と称する場合がある)を形成する(塗布工程)。
3.塗布されたインクを乾燥させる(乾燥工程)。
4.配線等が形成されたグリーンシートを所定寸法に切断し、複数枚積み重ねて圧着する。
5.焼成させる(焼成工程)。
【0004】
インクに含まれるバインダー樹脂は電気特性付与材をグリーンシート上に固定する働きや、適度な粘度を付与して微細な印刷パターンの形成を可能とする働きを有する。バインダー樹脂としては、従来、エチルセルロースが主に用いられてきた。しかし、エチルセルロースは熱分解性が低いため高温で焼成する必要があり、長時間高温に曝されることにより被塗布体が軟化、変形する場合があること、また、焼成後にカーボン成分が灰分として残留し、それにより導電性の低下が引き起こされることが問題であった。
【0005】
上記問題を解決するため、バインダー樹脂の改善が種々検討された。例えば、特許文献1には、エチルセルロースに代えてポリビニルアセタール樹脂を用いることで灰分の生成量を低減できることが開示されている。しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂を使用しても、これらの問題について十分満足できる結果は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、印刷法によって電子デバイスの配線や電極を形成するためのインクであって、印字精度に優れ、低温で焼成することができ、焼成後に生じる灰分量が極めて少ないインク、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物は、流動性有機物質と相溶させることにより、流動性有機物質を増粘することができ、組成物が均一に安定化(組成物の沈降、局所的な凝集、又は濃縮を防ぎ、均一状態を安定的に維持すること)された相溶物が得られること、下記式(1)で表される化合物の炭素数を調整することにより、得られる相溶物の粘度をコントロールすることができること、エチルセルロース等のバインダー樹脂に比べ低温で焼成可能であること、焼成後の灰分の残留量が極めて少ないこと、を見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である)
で表される化合物と流動性有機物質との相溶物を含む、電子デバイス製造用インクを提供する。
【0010】
本発明は、また、流動性有機物質が、炭化水素油、エーテル、ハロゲン化炭化水素、石油成分、動植物油、シリコーン油、エステル、芳香族カルボン酸、ピリジン、及びアルコールから選択される少なくとも1種である、前記の電子デバイス製造用インクを提供する。
【0011】
本発明は、また、更に、電気特性付与材を含む、前記の電子デバイス製造用インクを提供する。
【0012】
本発明は、また、下記式(1)
【化2】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である)
で表される化合物と流動性有機物質とを相溶させる工程を経て、前記の電子デバイス製造用インクを得る、電子デバイス製造用インクの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクは、適度な粘度とシェアシニング性とを有する。そのため、液ダレしにくく、良好な塗布性(若しくは、吐出性)を有する。また、描画部のエッジをシャープに形成することができ、印字精度を向上することができる。更に、本発明のインクは、組成の均一性を安定的に保持することができる。例えば、本発明のインクが電気特性付与材を含有する場合、電気特性付与材の沈降や、局所的な凝集を防止して、均一に高分散した状態を安定的に維持することができる。
更に、エチルセルロースにより流動性有機物質を増粘して得られるインクに比べて、本発明のインクは低温で焼成することができ、インクが塗布された被塗布体が長時間高温に曝されることにより軟化、変形することを防止できる。その上、焼成後の灰分の残留量を著しく低減することができ、残留灰分により引き起こされていた種々の問題(例えば、導電性インクに使用した場合の電気特性の低下等)の発生を抑制することができる。
従って、本発明のインクは電子デバイス製造用に好適に使用することができる。そして、本発明のインクを使用すれば、印刷法により電気特性に優れた配線等を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】調製例で得られた化合物(2-3)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図2】調製例で得られた化合物(1-3)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図3】調製例で得られた化合物(2-4)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図4】調製例で得られた化合物(1-4)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図5】調製例で得られた化合物(2-1)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【
図6】調製例で得られた化合物(1-1)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[電子デバイス製造用インク]
本発明のインクは、電子デバイス製造用に好適に使用できるインクであって、印刷法によって塗布することにより電子デバイスの配線や電極等を形成するのに好適なインクである。本発明のインクは、化合物(1)と流動性有機物質との相溶物を含む組成物であり、前記化合物(1)によって流動性有機物質が増粘され、組成が均一に安定化された組成物である。
【0016】
(化合物(1))
前記化合物(1)は、下記式(1)で表される。
【化3】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である)
【0017】
R1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基であり、例えば、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、ステアリル基、パルミチル基、ノナデシル基、エイコシル基、ベヘニル基等の直鎖状アルキル基;デセニル基、ペンタデセニル基、オレイル基、エイコセニル基等の直鎖状アルケニル基;ペンタデシニル基、オクタデシニル基、ノナデシニル基等の直鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0018】
R1としては、なかでも、流動性有機物質の増粘効果に優れ、且つ、低い温度で焼成しても灰分の残存を極めて低く抑制することができる点で、炭素数14~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、炭素数14~25のアルキル基)が好ましく、特に好ましくは炭素数18~21の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、炭素数18~21のアルキル基)である。
【0019】
R2、R3における炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基、n-オクチレン基が挙げられる。
【0020】
R2、R3における炭素数6の2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,4-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,2-シクロヘキシレン基が挙げられる。
【0021】
R2、R3における2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,2-フェニレン基等の炭素数6~10のアリーレン基が挙げられる。
【0022】
R2、R3としては、なかでも、流動性有機物質の増粘効果に優れる点で、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、直鎖状アルキレン基)が好ましく、より好ましくは炭素数2、4、若しくは6の2価の脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、直鎖状アルキレン基)、特に好ましくは炭素数2若しくは4の2価の脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、直鎖状アルキレン基)、最も好ましくは炭素数2の2価の脂肪族炭化水素基(とりわけ好ましくは、直鎖状アルキレン基)である。
【0023】
R4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、なかでも、流動性有機物質の増粘効果に優れる点で、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましく、特に好ましくは直鎖状アルキレン基である。
【0024】
また、R4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、なかでも、流動性有機物質の増粘効果に優れる点で、より好ましくは炭素数1~7の2価の脂肪族炭化水素基、特に好ましくは炭素数3~7の2価の脂肪族炭化水素基、最も好ましくは炭素数3~6の2価の脂肪族炭化水素基、とりわけ好ましくは炭素数3~5の2価の脂肪族炭化水素基である。
【0025】
従って、R4としては、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましく、より好ましくは炭素数1~7の直鎖状アルキレン基、特に好ましくは炭素数3~7の直鎖状アルキレン基、最も好ましくは炭素数3~6の直鎖状アルキレン基、とりわけ好ましくは炭素数3~5の直鎖状アルキレン基である。
【0026】
R5、R6における炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル基、1-メチルビニル基、2-プロペニル基等の炭素数2~3の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~3の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基等が挙げられる。
【0027】
R5、R6におけるヒドロキシアルキルエーテル基としては、例えば、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシプロポキシ基、2,3-ジヒドロキシプロポキシ基等の、モノ又はジ(ヒドロキシ)C1-3アルキルエーテル基が挙げられる。
【0028】
R5、R6としては、なかでも、同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、特に好ましくは炭素数1~3の直鎖状アルキル基、とりわけ好ましくはメチル基である。
【0029】
式(1)で表される化合物としては、なかでも、下記式(1-1)~(1-9)で表される化合物が、流動性有機物質の溶解性に優れる点で好ましい。また前記化合物は流動性有機物質に、前記流動性有機物質が透明の場合はその透明性を維持しつつ、増粘安定化することができる点でも好ましい。
【化4】
【0030】
(化合物(1)の製造方法)
化合物(1)は、下記式(3)で表される化合物(以後、「化合物(3)」と称する場合がある)と、下記式(4)で表される化合物(以後、「化合物(4)」と称する場合がある)を反応させて、若しくは下記式(3’)で表される化合物(以後、「化合物(3’)」と称する場合がある)と、下記式(4’)で表される化合物(以後、「化合物(4’)」と称する場合がある)を反応させることで、下記式(2)で表される化合物(以後、「化合物(2)」と称する場合がある)を得、得られた化合物(2)を酸化することにより製造することができる。
【化5】
(式中、R
1は炭素数10~25の1価の直鎖状脂肪族炭化水素基、R
2、R
3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基、又は2価の芳香族炭化水素基を示し、R
4は炭素数1~8の2価の脂肪族炭化水素基を示し、R
5、R
6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基、又はヒドロキシアルキルエーテル基を示す。L
1~L
3はアミド結合を示し、L
1とL
3が-CONH-である場合、L
2は-NHCO-であり、L
1とL
3が-NHCO-である場合、L
2は-CONH-である。R
7は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。尚、式(3)において、OR
7はL
2を構成する水素原子と脱水縮合又は脱アルコール縮合して、環を形成していてもよい)
【0031】
上記式中のR1~R6、L1~L2は上記に同じ。
【0032】
上記式(3)、(4’)中のR7における炭素数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0033】
式(3)中のOR7がL2を構成する水素原子と脱水縮合又は脱アルコール縮合して、形成する環としては、例えば、ピロリジン-2,5-ジオン環、ピペリジン-2,6-ジオン環等が挙げられる。
【0034】
化合物(4)の使用量は、化合物(3)1molに対して1mol以上であれば良く、過剰量使用することもできる。
【0035】
化合物(4’)の使用量は、化合物(3’)1molに対して1mol以上であれば良く、過剰量使用することもできる。
【0036】
化合物(3)と化合物(4)、若しくは化合物(3’)と化合物(4’)の反応は、例えば100~120℃の温度で10~20時間撹拌することにより行うことができる。
【0037】
反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0038】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0039】
このようにして得られる化合物(2)としては、なかでも、下記式(2-1)~(2-9)で表される化合物が好ましい。
【化6】
【0040】
前記化合物(3)として、例えば下記式(3-1)で表される化合物は、下記方法で製造することができる。尚、下記式中のR
1、R
2、R
3、R
7は上記に同じ。また、式(3a)中のR
7と式(3d)中の2つのR
7は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。更に、式(3d)で表される化合物は、当該式中の2つのCOOR
7が脱水縮合して酸無水物を形成していてもよい。
【化7】
【0041】
また、前記化合物(3’)として、例えば下記式(3’-1)で表される化合物は、下記方法で製造することができる。尚、下記式中のR
1、R
2、R
3、R
7は上記に同じ。式(3b’)中の2つのR
7は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、式(3b’)で表される化合物は、当該式中の2つのCOOR
7が脱水縮合して酸無水物を形成していてもよい。
【化8】
【0042】
[1]の工程は、式(3a)で表される化合物と式(3b)で表される化合物を反応させて、式(3c)で表される化合物を得る工程である。式(3b)で表される化合物の使用量は、式(3a)で表される化合物1molに対して1mol以上であれば良く、過剰量使用することもできる。この反応の反応温度は、例えば80~150℃であり、反応時間は、例えば1~24時間程度である。
【0043】
[2]の工程は、式(3c)で表される化合物と式(3d)で表される化合物を反応させて、式(3-1)で表される化合物を得る工程である。式(3d)で表される化合物の使用量は、式(3c)で表される化合物1molに対して1mol以上であれば良く、好ましくは1~3molである。この反応の反応温度は、例えば80~150℃であり、反応時間は、例えば0.5~10時間程度である。この反応が進行すると、水が生成する。そのため、脱水剤(例えば、無水酢酸等)を使用して水を除去しつつ反応を行うことが、反応の進行を促進する上で好ましい。
【0044】
[2]の反応は溶媒の存在下で反応を行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、ペンタフルオロフェノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、o-ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
また、[2]の反応は、必要に応じてトリエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等の塩基の存在下で行うことができる。
【0046】
[3]の工程は、式(3a’)で表される化合物と式(3b’)で表される化合物を反応させて、式(3c’)で表される化合物を得る工程である。[3]の反応は、上記[2]の反応に準じた条件で行うことができる。
【0047】
[4]の工程は、式(3c’)で表される化合物と式(3d’)で表される化合物を反応させて、式(3’-1)で表される化合物を得る工程である。[4]の反応は、上記[1]の反応に準じた条件で行うことができる。
【0048】
各工程の反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0049】
上記方法で得られた化合物(2)の酸化に使用する酸化剤としては、例えば、過酸化水素を使用することができる。前記過酸化水素としては、純粋な過酸化水素を用いてもよいが、取扱性の点から、通常、適当な溶媒(例えば、水)に希釈して用いられる(例えば、5~70重量%過酸化水素水)。過酸化水素の使用量は、化合物(2)1molに対して、例えば0.1~10mol程度である。
【0050】
酸化反応は、例えば30~70℃の温度で3~20時間撹拌することにより行うことができる。
【0051】
化合物(2)の酸化反応は、溶媒の存在下又は無溶媒下で行われる。前記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0053】
(流動性有機物質)
原料としての流動性有機物質は、レオメーターによる粘度[25℃、ずり速度1s-1における粘度(η)]が例えば0.5Pa・s未満の有機物質である。このような流動性有機物質としては、例えば、炭化水素油(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、イソドデカン、ベンゼン、トルエン、ポリαオレフィン、流動パラフィン等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、四塩化炭素、クロロベンゼン等)、石油成分(例えば、ケロシン、ガソリン、軽油、重油等)、動植物油(例えば、ヒマワリ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマシ油、牛脂、ホホバ油、スクワラン等)、シリコーン油(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等)、エステル類(例えば、オレイン酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、エチルヘキサン酸セチル、グリセリルトリイソオクタネート、ネオペンチルグリコールジイソオクタネート等)、芳香族カルボン酸、ピリジン、アルコール類(例えば、α-ターピネオール、ジヒドロターピネオール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール)等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
[電子デバイス製造用インクの製造方法]
本発明のインクは、化合物(1)と流動性有機物質を相溶させる工程を経て製造することができる。より詳細には、流動性有機物質の全量と化合物(1)を混合して加温し、相溶させた後、冷却することにより製造することができる。また、流動性有機物質の一部に化合物(1)を混合して、加温、相溶させた後、冷却して、インクを製造し、これを残りの流動性有機物質に混合する方法でも製造することができる。
【0055】
相溶の際の温度は、化合物(1)と流動性有機物質の種類によって適宜選択されるものであり、化合物(1)と流動性有機物質が相溶する温度であれば特に制限されないが、100℃を超えないことが好ましく、流動性有機物質の沸点が100℃以下の場合には沸点程度が好ましい。
【0056】
相溶後の冷却は、室温(例えば、25℃)以下にまで冷却することができればよく、室温で徐々に冷却してもよいし、氷冷等により急速に冷却してもよい。
【0057】
化合物(1)の使用量は、流動性有機物質の種類にもよるが、流動性有機物質1000重量部に対して、例えば0.1~100重量部、好ましくは0.5~80重量部、特に好ましくは1~60重量部、最も好ましくは1~30重量部である。化合物(1)を上記範囲で使用することにより、流動性有機物質が増粘され、組成が均一に安定化された相溶物が得られる。
【0058】
本発明のインクは、化合物(1)と流動性有機物質との相溶物以外にも本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分を含有していてもよいが、電子デバイス製造用インク全量における、前記相溶物の含有量(若しくは、化合物(1)と流動性有機物質の総量)は、例えば30重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、最も好ましくは70重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上、更に好ましくは97重量%以上である。上限は、例えば、99.9重量%である。
【0059】
本発明のインクは、他の成分として、電気特性付与材(例えば、導電性金属材料、半導体材料、磁性材料、誘電材料、及びは絶縁材料から選択される少なくとも1種)を含有することが好ましい。
【0060】
前記導電性金属材料、磁性材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、鉄、白金、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉛、コバルト、酸化鉄・酸化クロム、フェライト、及びこれらの合金等を挙げることができる。半導体材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、ペンタセン、フラーレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、金属(銅、インジウム、ガリウム、セレン、砒素、カドミウム、テルル、及びこれらの合金)、シリコン微粒子等を挙げることができる。誘電材料、絶縁材料としては周知慣用のものを使用することができ、例えば、シクロオレフィンポリマー、フッ素樹脂、ブチラール樹脂、ガラス、紙、テフロン(登録商標)等を挙げることができる。
【0061】
前記電気特性付与材の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、電子デバイス製造用インク全量(100重量%)の例えば0.1~30重量%程度、好ましくは0.1~20重量%、特に好ましくは0.1~10重量%、最も好ましくは0.1~5重量%、とりわけ好ましくは0.1~3重量%である。
【0062】
そして、本発明のインクのレオメーターによる粘度[25℃、ずり速度0.3s-1における粘度(η)]は、10Pa・s以上(例えば10~100Pa・s)の範囲であることが、塗布された組成物がダレる若しくは流れるのを抑制することができ、塗布精度を向上することができる点で好ましい。また、組成の均一性を安定的に保持することができ、本発明の電子デバイス製造用インクが電気特性付与材を含有する場合、電気特性付与材の沈降や、局所的な凝集を防止して、均一に高分散した状態を安定的に維持することができる点で好ましい。
【0063】
また、本発明のインクのレオメーターによる粘度[25℃、ずり速度0.1s-1における粘度(η)]は、10Pa・s以上(例えば10~100Pa・s)の範囲であることが、塗布された組成物がダレる若しくは流れるのを抑制することができ、塗布精度を向上することができる点で好ましい。また、組成の均一性を安定的に保持することができ、本発明の電子デバイス製造用インクが電気特性付与材を含有する場合、電気特性付与材の沈降や、局所的な凝集を防止して、均一に高分散した状態を安定的に維持することができる点で好ましい。
【0064】
本発明のインクはシェアシニング性を有し、粘度比[レオメーターによる25℃、ずり速度1s-1の時の粘度/レオメーターによるずり速度10s-1の時の粘度の比]は、例えば1.5超、好ましくは2以上、特に好ましくは3以上である。尚、上限は例えば10、好ましくは8である。そのため、塗布時は粘度を低下させることができ、例えば、印刷機等を利用して塗布する場合は吐出性に優れる。その上、塗布後は急激に粘度を増すことにより、塗布された組成物がダレるのを抑制することができ、塗布精度を向上することができる。
【0065】
本発明のインクは上記の通りの適度な粘度及びシェアシニング性を有するため、バインダー樹脂(例えば、エチルセルロース樹脂、アルキルセルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂等の分子量10000以上の高分子化合物)を添加する必要がなく、添加する場合であっても、添加量は、インク全量(100重量%)の例えば10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。バインダー樹脂の添加量が上記範囲を上回ると、焼成によって生じるバインダー樹脂由来の灰分によって、電気特性の低下が引き起こされるため好ましくない。
【0066】
更に、本発明のインクに含まれる上記相溶物は、熱分解性に優れ容易に低分子量化する。そのため、本発明のインクはエチルセルロース等のバインダー樹脂により粘度が付与されたインクに比べて低温(例えば100~350℃、好ましくは150~300℃、特に好ましくは150~250℃)で焼成することができ、焼成工程における被塗布体の軟化、変形を防止することができる。
【0067】
本発明のインクは、上記特性を兼ね備えるため、例えばスクリーン印刷等により基材(例えば、セラミック基板、グリーンシート等)表面に良好に吐出することができ、且つ、描画部のエッジをよりシャープにして印字精度を向上することができる。また、本発明のインクが電気特性付与材を含有する場合、電気特性付与材の沈降や、局所的な凝集を防止して、均一に高分散した状態を安定的に維持しつつ吐出し、印字することができ、吐出されたインクを乾燥し、焼成することにより、電気特性(例えば、導電性又は絶縁性)に優れた配線等を精度良く形成することができる。
【0068】
従って、本発明のインクは、例えば、コンデンサ、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、スピーカ、アクチュエータ、アンテナ、固体酸化物燃料電池(SOFC)等(特に、積層セラミックコンデンサ)の配線及び/又は電極製造用インクとして特に有用である。
【0069】
また、本発明のインクが電気特性付与材を含有する場合、これを例えばスクリーン印刷等により電極、回路等を設けた基板表面の所望の位置に選択的に吐出し、その後、電子部品等を貼り合わせて焼成することで、基板と電子部品等とを電気的に接続することができる。また、低温で焼成可能であるため、はんだによる実装より低温で実装することができ、耐熱性に乏しい電子部品等の実装に用いることができる。
【0070】
従って、本発明のインクは、例えば、コンデンサ、インダクタ、バリスタ、サーミスタ、スピーカ、アクチュエータ、アンテナ、固体酸化物燃料電池(SOFC)等(特に、積層セラミックコンデンサ)を製造する際に使用する接着剤(例えば、導電性接着剤)等として特に有用である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
調製例1<化合物(1-3)の製造>
ドコサン酸メチル(20.0g、56.4mmol)およびエチレンジアミン(16.9g、281mmol)を110℃で18時間撹拌し、反応物をメタノールで洗浄後、濾過した。濾液を溶媒留去し、得られた残渣に対しヘキサンを用いて再結晶により精製した。N-ドコサノイルエチレンジアミンを白色結晶として得た(収率65%、14.0g、36.7mmol)。
【0073】
N-ジメチルホルムアミド(40ml)溶液に、N-ドコサノイルエチレンジアミン(12.0g、31.4mmol)およびトリエチルアミン(6.35g、62.8mmol)を無水コハク酸(3.45g、34.5mmol)に10分かけて加え、100℃で15分間撹拌した。無水コハク酸を溶解後、反応粗液に酢酸無水物(4.81g、47.1mmol)を10分かけて滴下し、100℃で1時間撹拌した。反応混合物を水(200ml)に注ぎ、沈殿物を濾過し、水で洗浄した。沈殿物を精製し2-プロパノールを用いた再結晶により精製した。N-ドコサノイルアミノエチルスクシンイミドを白色結晶性粉末として得た(収率92%、13.4g、28.9mmol)。
【0074】
N-ドコサノイルアミノエチルスクシンイミド(4.00g、8.60mmol)およびN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(2.63g、25.8mmol)を120℃で18時間撹拌した。反応混合物をメタノールに注ぎ、沈殿物を濾過し、メタノールで洗浄した。得られた固形物をアセトン、メタノールを用いて再結晶により精製した。下記式(2-3)で表される、N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン(化合物(2-3))を白色結晶性粉末として得た(収率94%、4.58g、8.08mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図1に示す。
【0075】
【0076】
N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン(4.00g、7.06mmol)、35%過酸化水素水(2.06ml)および、2-プロパノール(10ml)を60℃で5時間撹拌した。反応液に、パラジウムカーボン(約10mg)加え室温で18時間撹拌した。反応液を濾過し、溶媒を留去させた後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、2-プロパノール/メタノール)で精製した。下記式(1-3)で表される、N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミンオキシド(化合物(1-3))を白色固体として得た(収率69%、2.84g、4.87mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図2に示す。
【0077】
【0078】
調製例2<化合物(1-4)の製造>
調製例1と同様の方法でN-ドコサノイルアミノエチルスクシンイミドを得た。
【0079】
得られたN-ドコサノイルアミノエチルスクシンイミド(8.00g、17.2mmol)およびヘキサメチレンジアミン(10.0g、86.1mmol)を120℃で18時間撹拌した。反応混合物をメタノールに注ぎ、沈殿物を濾過し、メタノールで洗浄した。得られた固形物をアセトニトリル、メタノールを用いて再結晶により精製した。N-(ドコサノイルアミノエチル)アミノスクシナモイルアミノヘキシルアミンを白色結晶性粉末として得た(収率69%6.91g、11.9mmol)。
【0080】
N-(ドコサノイルアミノエチル)アミノスクシナモイルアミノヘキシルアミン(3.25g、5.59mmol)、37%ホルムアルデヒド水溶液(2.73ml)およびギ酸(1.55g、33.7mmol)を2-プロパノール(15ml)に溶解し、100℃で4時間撹拌した。反応混合物を1M水酸化ナトリウム水溶液(20ml)に注ぎ結晶を濾過した。得られた結晶をメタノール、アセトンで再結晶し、下記式(2-4)で表される、N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノヘキシル)-N,N-ジメチルアミン(化合物(2-4))を白色固体として得た(収率89%、3.03g、4.98mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図3に示す。
【0081】
【0082】
N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノヘキシル)-N,N-ジメチルアミン(2.80g、4.60mmol)、35%過酸化水素水(1.30ml)および、2-プロパノール(10ml)を60℃で5時間撹拌した。反応液に、パラジウムカーボン(約10mg)加え室温で18時間撹拌した。反応液を濾過し、溶媒を留去させた後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、2-プロパノール/メタノール)で精製した。下記式(1-4)で表される、N-(ドコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノヘキシル)-N,N-ジメチルアミンオキシド(化合物(1-4))を白色固体として得た(収率74%、2.13g、3.40mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図4に示す。
【0083】
【0084】
調製例3<化合物(1-1)の製造>
エイコサン酸メチル(18.0g、55.1mmol)およびエチレンジアミン(16.5g、276mmol)を110℃で18時間撹拌し、反応物をメタノールで洗浄後、濾過した。濾液を溶媒留去し、得られた残渣に対しヘキサンを用いて再結晶により精製した。N-エイコサノイルエチレンジアミンを白色結晶として得た(収率68%、13.3g、37.5mmol)。
【0085】
N-ジメチルホルムアミド(30ml)溶液に、N-エイコサノイルエチレンジアミン(10.0g、28.2mmol)およびトリエチルアミン(5.71g、56.4mmol)を無水コハク酸(3.10g、31.0mmol)に10分かけて加え、100℃で15分間撹拌した。無水コハク酸を溶解後、反応粗液に酢酸無水物(4.32g、42.3mmol)を10分かけて滴下し、100℃で1時間撹拌した。反応混合物を水(150ml)に注ぎ、沈殿物を濾過し、水で洗浄した。沈殿物を精製し2-プロパノールを用いた再結晶により精製した。N-エイコサノイルアミノエチルスクシンイミドを91%白色結晶性粉末として収量(11.2g、25.7mmol)を得た。
【0086】
N-エイコサノイルアミノエチルスクシンイミド(4.00g、9.16mmol)およびN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(2.81g、27.5mmol)を120℃で18時間撹拌した。反応混合物をメタノールに注ぎ、沈殿物を濾過し、メタノールで洗浄した。得られた固形物をアセトン、メタノールを用いて再結晶により精製した。下記式(2-1)で表される、N-(エイコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン(化合物(2-1))を白色結晶性粉末として得た(収率91%、4.49g、8.34mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図5に示す。
【0087】
【0088】
N-(エイコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミン(4.00g、7.42mmol)、35%過酸化水素水(2.16ml)および、2-プロパノール(10ml)を60℃で5時間撹拌した。反応液に、パラジウムカーボン(約10mg)加え室温で18時間撹拌した。反応液を濾過し、溶媒を留去させた後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、2-プロパノール/メタノール)で精製した。下記式(1-1)で表される、N-(エイコサノイルアミノエチルアミノスクシナモイルアミノプロピル)-N,N-ジメチルアミンオキシド(化合物(1-1))を白色固体として得た(収率58%、2.39g、4.30mmol)。得られた化合物の
1H-NMR(CDCl
3)測定結果を
図6に示す。
【0089】
【0090】
調製例4<化合物(1-5)の製造>
ドコサン酸メチルに代えてオクタデカン酸メチルを使用した以外は調製例2と同様にして、下記式(2-5)で表される化合物を得、下記式(1-5)で表される化合物を得た。
【0091】
【0092】
調製例5<化合物(1-6)の製造>
ドコサン酸メチルに代えてオクタデカン酸メチルを使用した以外は調製例1と同様にして、下記式(2-6)で表される化合物を得、下記式(1-6)で表される化合物を得た。
【0093】
【0094】
調製例6<化合物(1-7)の製造>
ドコサン酸メチルに代えてパルミチン酸メチルを使用した以外は調製例2と同様にして、下記式(2-7)で表される化合物を得、下記式(1-7)で表される化合物を得た。
【0095】
【0096】
調製例7<化合物(1-8)の製造>
ドコサン酸メチルに代えてパルミチン酸メチルを使用した以外は調製例1と同様にして、下記式(2-8)で表される化合物を得、下記式(1-8)で表される化合物を得た。
【0097】
【0098】
調製例8<化合物(1-9)の製造>
ドコサン酸メチルに代えてミリスチン酸メチルを使用した以外は調製例2と同様にして、下記式(2-9)で表される化合物を得、下記式(1-9)で表される化合物を得た。
【0099】
【0100】
実施例1~8、比較例1~2<インクの製造>
表1に示す各種流動性有機物質(1,3-ブタンジオール(1,3-BG)、α-ターピネオール(TPO))を試験管に1cm3ずつはかりとり、ここに上記調製例1~8で得られた化合物をそれぞれ10mg加えて混合し、100℃で加熱撹拌して流動性有機物質と前記化合物を相溶させ、25℃まで冷却してインクを得た。尚、比較例では、調製例で得られた化合物に代えてエチルセルロース(EC:商品名「エトセルSTD200」、日新化成(株)製)を使用し、液温80℃で24時間加熱溶解し、25℃まで冷却してインクを得た。
【0101】
得られたインクの粘度はコーンプレートセンサー(直径60mmでコーン角1°、直径35mmでコーン角1°、2°、4°を使用)とペルチェ温度コントローラーを装着した粘度・粘弾性測定装置(レオメータ)(商品名「RheoStress600」、HAAKE社製)を用い、25℃条件下、定常流粘度測定モードにより、ずり速度を対数きざみで0.1~100s-1まで変化させて粘度を測定し、増粘効果(シェアシニング性、及び増粘性)を評価した。
【0102】
<シェアシニング性評価>
得られたインクの[ずり速度1s-1の時の粘度/ずり速度10s-1の時の粘度]から、下記基準に従ってシェアシニング性を評価した。
1: 1.5以下
2: 1.5を超え、3.0以下
3: 3.0を超え、4.5以下
4: 4.5超
【0103】
<増粘性評価>
得られたインクのずり速度0.1s-1の時の粘度から、下記基準に従って増粘性を評価した。
1: 5Pa・s以下
2: 5Pa・sを超え、10Pa・s以下
3: 10Pa・sを超え、50Pa・s以下
4: 50Pa・s超え
【0104】
また、実施例及び比較例で得られたインクの250℃における灰分残存率を下記方法で測定した。
TG-DTAを用い、インク各20mgを20℃から400℃まで10℃/分で昇温し、250℃における残留灰分量を測定して、インク全量に対する残留灰分量の割合(=灰分残存率)を算出した。
【0105】
【0106】
上記表1より、本発明のインクは、適度な粘度とシェアシニング性を有しており、灰分残存率が非常に低いことが確認できた。一方、比較例のインクは、粘度が低く、シェアシニング性に乏しく、灰分残存率が高かった。
【0107】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 式(1)で表される化合物と流動性有機物質との相溶物を含むインク。
[2] 式(1)中のR2、R3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の2価の脂肪族炭化水素基である、[1]に記載のインク。
[3] 式(1)中のR2、R3は同一又は異なって、炭素数2、4、6、若しくは8の直鎖状アルキレン基である、[1]に記載のインク。
[4] 式(1)中のR2、R3は同一又は異なって、炭素数2若しくは4の2価の脂肪族炭化水素基である、[1]に記載のインク。
[5] 式(1)中のR2、R3は同一又は異なって、炭素数2若しくは4の直鎖状アルキレン基である、[1]に記載のインク。
[6] 式(1)中のR2、R3は同一又は異なって、炭素数2の2価の脂肪族炭化水素基である、[1]に記載のインク。
[7] 式(1)中のR2、R3は同一に、炭素数2の直鎖状アルキレン基である、[1]に記載のインク。
[8] 式(1)中のR4は炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基である、[1]~[7]の何れか1つに記載のインク。
[9] 式(1)中のR4は炭素数1~7の直鎖状アルキレン基である、[1]~[7]の何れか1つに記載のインク。
[10] 式(1)中のR4は炭素数3~7の直鎖状アルキレン基である、[1]~[7]の何れか1つに記載のインク。
[11] 式(1)中のR4は炭素数3~6の直鎖状アルキレン基である、[1]~[7]の何れか1つに記載のインク。
[12] 式(1)中のR4は炭素数3~5の直鎖状アルキレン基である、[1]~[7]の何れか1つに記載のインク。
[13] 式(1)中のR5、R6は同一又は異なって、炭素数1~3の1価の脂肪族炭化水素基である、[1]~[12]の何れか1つに記載のインク。
[14] 式(1)中のR5、R6は同一又は異なって、炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である、[1]~[12]の何れか1つに記載のインク。
[15] 式(1)中のR5、R6は同一又は異なって、炭素数1~3の直鎖状アルキル基である、[1]~[12]の何れか1つに記載のインク。
[16] 式(1)中のR5、R6は同一にメチル基である、[1]~[12]の何れか1つに記載のインク。
[17] 式(1)で表される化合物が、式(1-1)~(1-9)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である、[1]に記載のインク。
[18] 流動性有機物質が、レオメーターによる、25℃、ずり速度1s-1における粘度(η)が0.5Pa・s未満の有機物質である、[1]~[17]の何れか1つに記載のインク。
[19] 流動性有機物質が、炭化水素油、エーテル、ハロゲン化炭化水素、石油成分、動植物油、シリコーン油、エステル、芳香族カルボン酸、ピリジン、及びアルコールから選択される少なくとも1種である、[1]~[18]の何れか1つに記載のインク。
[20] 流動性有機物質1000重量部に対して式(1)で表される化合物を0.1~100重量部含有する、[1]~[19]の何れか1つに記載のインク。
[21] 更に、電気特性付与材を含む、[1]~[20]の何れか1つに記載のインク。
[22] 電気特性付与材の含有量が相溶物全量の0.1~30重量%である、[21]に記載の相溶物。
[23] レオメーターによる、25℃、ずり速度0.3s-1における粘度が10Pa・s以上である、[1]~[22]の何れか1つに記載のインク。
[24] レオメーターによる、25℃、ずり速度0.1s-1における粘度が10Pa・s以上である、[1]~[23]の何れか1つに記載のインク。
[25] 粘度比[レオメーターによる25℃、ずり速度1s-1の時の粘度/レオメーターによるずり速度10s-1の時の粘度]が1.5超である、[1]~[24]の何れか1つに記載のインク。
[26] エチルセルロース樹脂、アルキルセルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の高得分子化合物の含有量が、相溶物全量の10重量%以下である、[1]~[25]の何れか1つに記載のインク。
[27] 高分子化合物が、分子量10000以上の高分子化合物である、[26]に記載のインク。
[28] 分子量10000以上の高分子化合物の含有量が、相溶物全量の10重量%以下である、[1]~[25]の何れか1つに記載のインク。
[29] 電子デバイス製造用インクである、[1]~[28]の何れか1つに記載のインク。
[30] 配線又は電極製造用インクである、[1]~[28]の何れか1つに記載のインク。
[31] 積層セラミックコンデンサ製造用接着剤である、[1]~[28]の何れか1つに記載のインク。
[32] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクの電子デバイス製造用インクとしての使用。
[33] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクの配線及び/又は電極製造用インクとしての使用。
[34] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクの積層セラミックコンデンサ製造用接着剤としての使用。
[35] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクを使用する、電子デバイスの製造方法。
[36] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクを使用する、電子デバイスの配線及び/又は電極の製造方法。
[37] [1]~[28]の何れか1つに記載のインクを使用する、積層セラミックコンデンサの製造方法。
[38] 式(1)で表される化合物と流動性有機物質とを相溶させる工程を経て、[1]~[28]の何れか1つに記載のインクを得る、インクの製造方法。
[36] インクが電子デバイス製造用インクである、[38]に記載のインクの製造方法。
[40] インクが電子デバイスの配線及び/又は電極製造用インクである、[38]に記載のインクの製造方法。
[41] インクが積層セラミックコンデンサ製造用接着剤である、[38]に記載のインクの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のインクは、適度な粘度とシェアシニング性を有する。そのため、良好な塗布性を有する。また、印字精度を向上することができる。更に、低温で焼成することができ、焼成後の灰分の残留量を著しく低減することができる。従って、本発明のインクは電子デバイス製造用に好適に使用することができる。