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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】収縮補償付き両面印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20221208BHJP
   B41J 21/00 20060101ALI20221208BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20221208BHJP
   B41J 3/60 20060101ALI20221208BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B41J2/01 103
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J21/00 Z
B41J29/38 302
B41J3/60
G03G21/00 370
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020551910
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057391
(87)【国際公開番号】W WO2019192867
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】18165699.2
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518238104
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング べー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ファン ブリューゲル,レオン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ハネケンス,ヘンリ ペー.イェー.
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-121237(JP,A)
【文献】特開2002-314800(JP,A)
【文献】特開2002-169422(JP,A)
【文献】特開2009-237121(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0206530(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 21/00
B41J 29/38
B41J 3/60
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷される各両面コピーのための両面印刷方法であって:
a)
前面画像が印刷された媒体シートの収縮の量を決定するステップ;
b)
前記媒体シートの期待収縮に依存するスケーリング関数を用いて、前記媒体シートの裏面に印刷されるべき画像をスケーリングするステップ;及び
c)
前記媒体シートの裏面に前記のスケーリングされた画像を印刷するステップ;
を含み、
前記ステップa)が、
a1)
前面画像を印刷するプロセスを特徴付けるプロセスパラメータ(P)に基づいて、及び一組のモデルパラメータ(M、M')によって定義され、前記プロセスパラメータ(P)に対する収縮の依存性を記述するモデルに基づいて、前記媒体シートの期待収縮を予測するステップであり、前記プロセスパラメータが印刷中に前記媒体シートの前面に適用されるべきマーキング材料の量を少なくとも含む、予測するステップ;

a2)
前記媒体シートの実際の収縮(A)を測定するステップ;及び
a3)
後続の媒体シートの期待収縮の予測を改善するために、前記の予測された収縮(S)と前記の実際の収縮(A)との比較に基づいて、モデルパラメータ(M、M')を調整するステップであり、先に処理された複数の媒体シートの予測収縮と実際の収縮(S、A)との統計解析を含む調整ステップ;
を含む、ことを特徴とする両面印刷方法。
【請求項2】
前記ステップc)は、インクジェット印刷のステップである、請求項1に記載の両面印刷方法。
【請求項3】
前記プロセスパラメータ(P)は、前記媒体シートの物理的特性を規定する少なくとも1つのパラメータを含む、請求項1又は2に記載の両面印刷方法。
【請求項4】
前記ステップa3)が、前記の予測された収縮と前記の実際の収縮(S, A)とに基づいたモデルパラメータ(M, M')の最小二乗最適化を含む、請求項1に記載の両面印刷方法。
【請求項5】
両面プリンタであって、
印刷ステーションと、前面画像を有するシートを裏側画像を印刷するため前記印刷ステーションへと再循環させる二重ループと、前記二重ループから戻ったシートの収縮を測定するセンサと、前記二重ループから戻ったシートの収縮を測定するセンサと、当該両面プリンタの動作を制御するコントローラとを有し、
前記コントローラは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されていることを特徴とする両面プリンタ。
【請求項6】
前記センサは、前記印刷ステーションのすぐ上流に配置されることを特徴とする請求項5に記載の両面プリンタ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の両面プリンタの前記コントローラにロードされると、前記コントローラに請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法を実行させるプログラムコードを含む、機械読取可能な非一時的媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷される各両面コピーに対して、以下のステップを含む両面印刷方法に関する。
a) 前面画像が印刷された媒体シート(用紙)の収縮量を決定するステップ;
b) 前記シートの裏面に印刷されるべき画像を、前記媒体シートの期待収縮(値)に依存するスケーリング関数を用いてスケーリングするステップ;及び
c) シートの裏面に前記のスケーリングされた画像を印刷するステップ。
【背景技術】
【0002】
両面印刷では、通常、前面と裏面の画像が互いにレジストリ(registry)内にあることが望ましい。しかしながら、前面画像が印刷された場合、シート(用紙)は一定の収縮を受けることがあり、その収縮の量は印刷プロセスに依存する。例えば、インクジェットプロセスでは、シートはインクで湿らされ、シートを加熱するか、或いはUV光を照射することによってインクを硬化させる後続の工程は、通常、媒体の物理的特性に応じて、等方性又は異方性のいずれかで、シートをある程度まで収縮させる。収縮量はまた、正面画像を形成するためにシートに適用されたインクの量に決定的に依存する。同様に、静電印刷プロセスでは、トナー像を融着させる工程は、加えられたトナーの量、融着温度又はヒューズ温度(fuse temperature)などに依存する収縮をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、裏面画像を印刷するために、プリンタの両面ループを通してシートを再循環させ、再度印刷ステーションに送ると、前面画像は媒体シートと共に収縮し、前面画像と後面画像の寸法が最初に同じであったとしても、前面/後面レジストレーション(registration)が失われる。
【0004】
この効果を補償するために、日本特許出願JP2007/79262に記載されているように、前面印刷ステップ後の収縮量を推定又は測定し、次に、その収縮に応じて裏面に印刷されるべき画像をスケーリング(scaling)することが知られている。また、収縮量は、米国特許出願US2011/0134178に記載されているように、印刷プロセス中に媒体シートの前面に付着されるインクの量とともに変化することも知られている。欧州特許出願EP2693731号には、第1の記録媒体に関して決定された収縮又は膨張比を用いて第2の記録媒体の画像データを補正することが記載されている。
【0005】
しかしながら、収縮量が、媒体シートの既知の特性に基づいて、また、おそらく適用されるインクの既知の量に基づいて推定される場合、達成可能な精度は、一般に、不十分である。さらに、期待収縮(値)を決定するためのアルゴリズムを、印刷プロセスが実行される様々な条件に適合させることは煩雑である。
【0006】
一方、実際の収縮量を測定する場合には、裏面画像を印刷するステップの直前に測定を行うべきである。そうでなければ、測定した収縮量は、シートが最終的に印刷ステーションに到達するまでに測定後に生じた更なる収縮量を、反映しないからである。しかしながら、画像のスケーリングは、時間のかかるラスタ画像処理動作を必要とするので、測定時刻と印刷プロセスの開始との間には、避けられない遅延があり、その結果、生産性が低下する。
【0007】
従って、本発明の目的は、収縮補償の高精度と高生産性の両方を可能にする両面印刷の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明の方法において、上記ステップ(a)は以下のステップを含む。
【0009】
a1)
前面画像を印刷するプロセスを特徴付けるプロセスパラメータに基づいて、及び一組のモデルパラメータによって定義され、前記プロセスパラメータに対する収縮の依存性を記述するモデルに基づいて、前記媒体シートの期待収縮を予測するステップであり、前記プロセスパラメータが印刷中に前記媒体シートの前面に適用されるべきマーキング材料の量を少なくとも含む、予測するステップ;

a2)
前記媒体シートの実際の収縮を測定するステップ;及び
a3)
後続の媒体シートの期待収縮の予測を改善するために、前記の予測された収縮(S)と前記の実際の収縮(A)との比較に基づいて、モデルパラメータ(M、M')を調整するステップであり、先に処理された複数の媒体シートの予測収縮と実際の収縮(S、A)との統計解析を含む調整ステップ。
【0010】
この方法において、裏面画像のスケーリングを予測収縮に基づいて行うことができ、それによりスケーリングとラスタ画像処理を早期に開始することができるため、高い生産性を達成することができる。それにもかかわらず、実際の収縮を測定し、モデルパラメータを適合させるステップが、モデルを継続的に改善し、それによって収縮を予測する精度を改善することができるので、高い精度を達成することができる。
【0011】
この方法は、収縮を予測するためのモデルが、周囲温度及び周囲湿度のような変化するプロセスパラメータに、また、処理される媒体シートの変化する特性にも、自動的に適応することができるというさらなる利点を有する。
【0012】
本発明のより具体的な任意選択的特徴は、従属クレームにおいて示される。
【0013】
予測収縮と測定収縮との間の過去の偏差(偏倚(deviations))に基づいてモデルパラメータを調整するためにいくつかのアルゴリズムが利用可能である。例えば、「進化的」アプローチを用いることができ、モデルパラメータをランダムに変化させ、変化したパラメータが改良された予測をもたらした場合には、変化したパラメータを維持し、予測精度が低下した場合には、変化を拒否し、以前のパラメータを復元することができる。
【0014】
パラメータの調整は、連続する媒体シートの予測及び測定ステップの一定数の反復の統計分析を含むことができる。例えば、統計分析は、(加重)移動平均、又は最小二乗最適化などを含み得る。
【0015】
モデルは、異なる媒体タイプの異なる特性に自動的に適応することができるが、媒体タイプが変化するときはいつでも、媒体タイプを考慮して特別に選択された最初のモデルから始めることが有利であろう。混合媒体を伴う印刷ジョブの場合、各媒体タイプに対して1つずつの複数のモデルを並列に使用することができ、各媒体タイプに対する別々の統計に基づいてモデルを最適化することができる。
【0016】
一般に、反復最適化プロセスは、プロセスパラメータ(少なくともインクの量以外のパラメータ)が比較的安定である限り、モデルパラメータの最適モデルパラメータへの緩やかな収束を導く。反復シーケンスの開始時でも高精度が要求される場合には、最初のビューシートでは収縮が測定されて、裏面画像のスケーリングが測定された収縮に基づくというハイブリッド印刷法を採用することも考えられるが、これはもちろん生産性を低下させるものであり、自己学習プロセスがモデルパラメータのある程度の改善をもたらした場合に、スケーリングは一定時間後にのみ予測された収縮に基づくものである。
【0017】
以下、実施例を図面に関連させて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用可能なプリンタの概略図である。
図2】印刷された画像の前面/裏面レジストレーションに対するメディア収縮の影響を説明する図である。
図3】媒体収縮を予測するモデルを示す図である。
図4図3に示すモデルを改善するための反復的な自己学習プロセスを示す図である。
図5図4に示す最適化ステップのいくつかの反復にわたる予測収縮と測定収縮の漸進的収束を示すグラフである。
図6】本発明に係る方法の実質的な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、プリンタは、入力部10と、本体12と、出力部14とを備えている。本体12は、印刷ステーション16と、シート(用紙)搬送経路18を含むシート供給システムと、電子コントローラ20と、ユーザインターフェース22とを備える。
【0020】
コントローラ20は、コンピュータ、サーバ又はワークステーションによって形成されてもよく、プリンタのすべての機能部品に接続されて、これらを制御し、さらに、ユーザインターフェース22及びネットワーク24に接続される。ネットワーク24を介して、コントローラは、ユーザ又はオペレータの遠隔ワークステーション26と通信することができる。代替的な実施形態では、コントローラ20はまた、ネットワーク24を介して種々のシステム構成要素を制御するために、本体12の外側に設置されてもよい。
【0021】
コントローラ20のハードウェア及び/又はソフトウェアは、とりわけ、印刷ジョブ受信部28、スケジューラ30、フィード制御部32、印刷制御部34、出力制御部36、及びシートマネージャ38を含む。印刷ジョブ受信部28は、例えば、ネットワーク24を介して、印刷ジョブを受信するように構成され、各印刷ジョブは、印刷されるべき1つ以上のページのための画像データと、種々のジョブ設定とを含む。オプションとして、画像データをローカルスキャナから受信することもできるが、ジョブ設定はユーザインターフェース22で入力される。ジョブ設定には、印刷される各画像に対して、画像が印刷されるべき記録媒体の特性又はタイプを指定する指示が含まれる。
【0022】
入力部10は、複数のホルダ40を含み、その各々は、特定の媒体タイプの媒体シートの供給、例えば、スタックを収容する。異なるホルダ40内の媒体のタイプは、シートの厚さ、シート材料、シートの表面特性、切断方向等が異なる。さらに、入力部10は、フィード制御部32の制御下で、個々のシートをホルダ40のうちの選択された1つから分離し、シート搬送路18に1枚ずつ供給するように構成された給紙機構42を有する。
【0023】
ジョブ受信部28が印刷ジョブを受信した場合、スケジューラ30は、この印刷ジョブの画像を印刷すべきシーケンスを決定する。スケジューラ30はさらに、種々のホルダ40に収容されたシートの媒体タイプ及び特性を記憶するデータベース31へのアクセスを有する。媒体特性に関するジョブ設定に基づいて、スケジューラ30は、所望の特性を有するシートを取るべきホルダ40を選択し、シートのシーケンスが印刷されるべき画像のシーケンスと一致するように、異なる媒体タイプのシートをシート搬送経路18に供給すべきシーケンスを決定する。
【0024】
印刷処理が開始されたら、フィード制御部32は、給紙機構42を制御して、スケジュール通りに、シート搬送路18に順次給紙し、印刷制御部34は、各シートの上面に対応する画像を印刷するように印刷ステーション16を制御する。
【0025】
図示の例では、出力部14は、複数のホルダ44を有しており、シートは、印刷ステーション16を離れた後に積み重ねられてもよい。スタックは、例えば、マルチページ文書の完全なコピーを形成するシートのセットを含むことができるが、スタックが完成すると、ホルダ44は、スタックを関連する出力トレイ46へと送る。別の実施形態では、ステープル仕上げ、パンチング等の仕上げ作業を行うために、完成したスタックをフィニッシャ(finisher)(図示せず)に転送してもよい。
【0026】
出力部14はさらに、各シートをホルダ44の指定された1つに向けるために出力制御部36によって制御されるスイッチ48を含む。
【0027】
印刷部の本体12は二重通路50を含む。二重通路50は、印刷ステーション16の下流で、シート搬送経路18から分岐し、シート反転機構52内でシートの向きを反転させ、次いでシートをシート搬送経路18の入口側に反転させて戻す。
【0028】
さらに、この例では、印刷ステーション16は、印刷エンジンとして、シート搬送経路18の上方に配置されたインクジェット印刷ヘッド54を含むと仮定する。例えば、硬化用ランプによって構成される硬化ステーション56が、印刷ステーション16の下流に配置される。二重ループ50は、硬化ステーション56の下流で、シート搬送経路18から分岐しており、印刷ステーション16内で前面画像が印刷されたシート58は、硬化プロセスを受けた後に、二重ループ50を通って再循環される。
【0029】
前面画像を形成するためにシート58に適用されるインクの量に依存して、シートはある程度湿潤され、硬化ステーション56で印加される放射及び熱は、シートの一定の収縮を引き起こし得る。前面画像の、後にシートの裏面に形成される裏面画像に対する正確な前面/後面レジストレーションを保証するために、裏面画像に対するラスタ画像処理のステップにおいて裏面画像を適切にスケーリングすることにより収縮を考慮する必要がある。スキャナ60が、印刷ステーション16のすぐ上流に配置され、二重ループから戻る各シートの寸法を測定し、それによってシートの収縮を測定する。
【0030】
前面画像と裏面画像の前面/裏面レジストレーションに対するメディア収縮の影響を図2に示す。図2は、前面画像62が印刷された媒体シートの前面ビュー58aを示す。図2はさらに、同じ媒体シートの裏面図58b、すなわち、裏面画像64を印刷するために、二重ループ50から戻り再度印刷ステーション16に供給された状態のシートの裏面図を示す。
【0031】
図2に誇張して示されているように、媒体シートは、前面画像62を印刷し硬化するプロセスにおいて、ある程度の収縮(異方性もあり得る)を受けている。この収縮は、媒体シートの外側の輪郭だけでなく、裏面図58b内のファントム線(phantom lines)で示されている前面画像62にも影響を及ぼしている。収縮した前面画像62の輪郭が裏面画像64の輪郭から偏倚しており、前面/裏面レジストレーション(位置合わせ)が失われていることが分かる。
【0032】
この影響を補償するために、印刷制御部34は、裏面画像64をラスタ画像処理する際に、裏面画像64の輪郭が、印刷時に前面画像62の収縮輪郭と一致するように、各方向に対するスケーリング係数を用いて裏面画像をスケーリングしなければならない。
【0033】
裏面画像64に適用されるスケーリング係数は、スキャナ60から得られた測定結果に基づいてもよい。しかしながら、(ラスタ画像処理に埋め込まれた)スケーリング動作は、しばらく時間を要するので、ステーション16における印刷処理は、ラスタ画像処理が完了したときにのみ開始することができるので、印刷処理が遅延することになる。原則として、この遅延は、スキャナ62を印刷ステーション16のさらに上流に配置することによって回避することができる。しかし、スキャナ62から印刷ステーション16に向かう途中のシートのさらなる収縮が考慮されず、正確な補償は可能ではない。
【0034】
このため、本発明の方法においては、数学モデルを用いて、前面画像62の印刷後の媒体シートの収縮を予測し、スキャナ62は、そのモデルによって提供される予測が正しいかどうかをチェックするためにのみ使用される。もし正しくないと、モデルパラメータを適切に適合させることによってモデルを改善するために使用される。改善されたモデルは、現在印刷ステーション16に供給されているシートには利用できないが、後に印刷されるであろう他の更なるシートには利用でき使用することができるので、長期的には、正確な収縮補正を達成することができる。
【0035】
収縮s1~s4を予測するためのモデル66(この例では線形モデル)の単純化された例を図3に示す。モデル66は、モデルパラメータMによって定義され、プロセスパラメータPを受信する。モデルパラメータMは、モデルの構造を定義し、この単純化された例では、要素m1及びm2を有する二次元ベクトル(1×2行列)の形式をとる。プロセスパラメータPは、媒体収縮をもたらす印刷プロセスの物理的特性、すなわち、前面画像62を印刷し硬化するプロセスの物理的特性を表す。プロセスパラメータPは、いずれの場合も、前面画像62を形成するために媒体シートに適用されたインク量を含み、印刷プロセスの以下の特性及び条件の1つ以上を指定する他のパラメータをさらに含んでもよい。
- 媒体のタイプ(媒体のサイズ、ブランド名、材質、面積当たりの重量などによって区別される);
- シートの乾燥(硬化)温度;
- シートの搬送速度(シートが硬化ステーション56内に存在する時間、及び前面画像を印刷してから裏面画像を印刷するまでの時間に影響する);
- 周囲温度・湿度;
- 入力部10の内部温度・湿度;及び
- 繊維配向及び異方性収縮に影響を及ぼすシート配向(LEF又はSEF)。
【0036】
これらのプロセスパラメータのうち、インクの量は、一般に、最も動的に変化するパラメータ(典型的には、シートからシートへ)であるが、他のプロセスパラメータは(おそらく、混合媒体印刷の場合の媒体タイプを除いて)、有意に遅い速度で変化する。
【0037】
一般に、媒体シートの収縮は、1つは長辺方向、もう1つは短辺方向の2つの収縮係数によって定義される。しかしながら、簡単のために、図3では1つの収縮係数のみが考慮されている。図3に示す4つの異なる収縮係数s1~s4は、同じ収縮方向に関係するが、4つの連続した媒体シートの予測収縮を示す。これらの4つの収縮係数は、4次元ベクトルSとして考えることができる。
【0038】
従って、プロセスパラメータPは、収縮s1~s4を生じる4つの印刷動作の各々についてのパラメータの対(p11、p12); (p21、p22); ...を含む。従って、この例では、プロセスパラメータPは、2×4行列を形成する。
【0039】
ここで考察した線形モデルに従って、収縮ベクトルSが行列積P×Mで与えられる。より一般的な場合では、プロセスパラメータはk×n行列を形成し、モデルパラメータはk次元ベクトルを形成する。
【0040】
収縮ベクトルSの次元n(この例では4)は、いわゆる最適化ホライズン(optimization horizon)であり、これは、図4に示された反復ステップのための入力として、何枚のシートが取られるかを決定し、モデルパラメータMを最適化するのに役立つ。
【0041】
図4に示すように、反復ステップ68は、その入力として、モデルパラメータM、最後のnシートに対するプロセスパラメータP、収縮ベクトルS、すなわち予測収縮値s1......sn、及び最後のnシートについてのスキャナ60によって測定された実際の収縮を表す別のn次元ベクトルAを有する。反復ステップ68の出力は、モデルパラメータM'の調整されたセットである。
【0042】
この例では、反復ステップ68は、最小二乗最適化のステップである。かくして、M'は、和M + ΔMによって与えられ、ここで、ΔMは、k×k行列(PT
P)-1にk次元ベクトルPT Eを乗算したk次元ベクトルであり、Eは、n次元ベクトルAからSを減算したものである。PT は、k×n行列Pの転置行列、すなわち、n×k行列であり、(PT P)-1は、行列積PT Pを反転することによって得られる行列である。
【0043】
図4にさらに示されるように、修正されたモデルパラメータM'は、次いで、更なるシートの収縮s5を予測するために利用される。図3の収縮s1~s4と同様に、予測される収縮s5は、行列Pの線と、モデルパラメータによって形成されるベクトルとのスケーラ積であり、調整されたモデルパラメータM'が以前のモデルパラメータMの代わりに用いられることが唯一の相違点である。
【0044】
モデルパラメータM'を伴うモデル66が予測収縮s5を生成した後続のシートが、二重ループ50を通して搬送され、そのシートの実際の収縮を得るためにスキャナ60で測定されたとき、図4に対応するさらなる反復ステップが実行され得る。反復ステップ実行に際し、入力として、更新された収縮ベクトルS(s2 ~s5を有する)と、実際の収縮に対応するベクトルAと、一対のプロセスパラメータ(p21、p22)~(p51、p52)と、調整されたモデルパラメータM'とが利用され得る。(p51、p52)は、現在のシートの前面画像を印刷するプロセスに適用されるプロセスパラメータであることが理解されよう(結果として収縮s5)。
【0045】
この反復ステップにより、モデルパラメータの別の調整セットが作成される。このようにして、各反復ステップにおいて、モデルパラメータM、M'、...の新しいセットが得られ、モデルパラメータの各新しいセットは、予測収縮と測定収縮との間の最新の偏倚を考慮に入れる。モデルパラメータは、予測した収縮を実際の測定収縮に本質的に等しくするモデルパラメータの最適セットに徐々に近づく。そのような最適化プロセスの一例が図5に示されており、インデックスiは反復ステップ(図4に対応する)の数をカウントし、曲線70は各反復ステップにおける各々の最終シートの測定された実際の収縮を示し、曲線72は対応する予測収縮を示す。
【0046】
収縮は反復から反復まで変動するが(主にシートに適用されるインクの量が異なるため)、予測された収縮は一般に実際の収縮に向かって収束する傾向があることが分かる。このことは、収縮補償の精度が継続的に改善されることを意味する。
【0047】
図6において、本発明の方法の本質的なステップ群をフローチャートに要約した。
【0048】
ステップS1において、新鮮な媒体シート58が印刷ステーション16に供給される。ステップS2において、そのシートに前面画像が印刷される。次に、ステップS3において、図3及び図4で説明したようなモデル66に基づいて、収縮(2つのエッジ方向に対する2つの収縮係数があり得る)が予測される。ステップS4において、予測された収縮に従って裏面画像64がスケーリングされる。ステップS4は、しばらく時間を要するかもしれないが、シートが二重ループ50を通過し、再び印刷ステーション16に到達したときに、結果が利用可能となるよう早期に開始することができることが理解されるであろう。
【0049】
一方、前面画像62を適用したシートは硬化ステーション56内で硬化される(ステップS5)。同様に、印刷プロセスがインクジェットプロセスではなく静電又は静磁印刷プロセスである場合には、ステップS5で前面トナー画像が融着(fuse)され、プロセスパラメータPは、トナー量、及びヒューズ温度などの静電又は静磁プロセスの他のパラメータを表す。
【0050】
ステップS6において、シートは、二重ループ50を通って印刷エンジン16へと再循環され、次いで、スキャナ60は、ステップS7でそのシートの実際の収縮を測定するために使用される。そして、ステップS8において、ステップS4で取得したスケーリング画像データを用いて、裏面画像64が印刷される。
【0051】
また、測定された収縮量は、統計量、すなわち、図3に示す収縮ベクトルSの更新にも使用され(ステップS9)、モデルパラメータMは、図4に示したように調整される。次に、この方法は、ステップS1へとループバックし、印刷されるべき新しい各両面印刷シートに、このプロセスが繰り返される。
【0052】
このように本発明を記述してきたが、本発明を多くの点で変形し得ることは明らかであろう。このような変形は、本発明の範囲からの逸脱とはみなされず、当業者に自明であるようなすべての変更は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6