(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】エンジンのポペットバルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 3/24 20060101AFI20221208BHJP
F01L 3/20 20060101ALI20221208BHJP
F01L 3/14 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F01L3/24 D
F01L3/20 C
F01L3/14 A
(21)【出願番号】P 2020556473
(86)(22)【出願日】2018-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2018041807
(87)【国際公開番号】W WO2020100185
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000227157
【氏名又は名称】株式会社NITTAN
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【氏名又は名称】太田 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】国武 浩史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】笹川 裕樹
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特公平6-96177(JP,B2)
【文献】特開2012-197718(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015220891(DE,A1)
【文献】特開2003-305524(JP,A)
【文献】国際公開第2014/155665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法において、
首部を介して中間軸部と傘部を一体化した金属製の中間部材を形成する鍛造工程と、
軸材の圧縮面及び軸材圧縮面から先端側に徐々に離間するよう形成された軸材導入面を有するように形成されると共に中間軸部の外周に対して周方向等分複数箇所に配置された複数の縮径工具間に中間部材の中間軸部を挿入し、その中心軸線に沿った方向に相対変位させつつ回転させた中間軸部の一部に接触させた各縮径工具の圧縮面から半径方向内向きの圧縮力を中間軸部に基端部から付加することで中間軸部の一部を基端部から縮径させて第1軸部の本体部を中間部材に形成すると共に
前記軸材導入面によって本体部に連続する段差部を形成し、中間軸部の残部の未縮径によって段差部を介して本体部に連続すると共に首部にも連続する、本体部よりも太軸の第2軸部を形成する縮径工程と、
本体部と同じ外径の軸端部材を本体部の基端部に接合する接合工程と、
を備えることを特徴とする、エンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項2】
前記複数の縮径工具は、それぞれ中間部材の中間軸部の半径方向に同期して往復揺動可能に構成された複数のダイスであり、
前記縮径工程において、前記中心軸線回りに中間部材と各ダイスを互いに相対回転させ、往復揺動する各ダイスにより前記中間軸部への圧縮力の付加及び開放を交互に繰り返しつつ中間軸部の一部を縮径することを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項3】
前記複数の縮径工具は、中間軸部の外径よりも小さな外周間隔で互いに平行な回転軸を有するように配置され、円柱外周面からなる前記圧縮面及び基端側から先端側に先窄まりとなる前記軸材導入面を備える複数の同期回転する転造ローラであり、
前記縮径工程において、同方向に同期回転する複数の転造ローラが中間部材の中間軸部に転がり接触しつつ圧縮力を付加して中間軸部の一部を縮径することを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項4】
中間部材の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側にかけて中間中空部を形成する孔あけ工程を前記鍛造工程後かつ縮径工程前に行い、
前記縮径工程において、軸材の前記圧縮面によって中間軸部の一部を縮径させて第1軸部の本体部の形成と同時に本体部の内側に第1中空部を形成し、軸材導入面によって前記段差部の形成と同時に段差部の内側に第1中空部に連続する縮径部を形成し、中間軸部の残部の未縮径によって太軸の第2軸部の内側に縮径部を介して第1中空部に連続する大内径の第2中空部を形成し、
前記接合工程において、前記第1中空部及び第2中空部に冷媒を装填した後で軸端部材を本体部の基端部に接合することを特徴とする、請求項1から3のうちいずれかに記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項5】
前記縮径工程において、第1軸部を第2軸部よりも薄肉に形成する特徴とする、請求項4に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項6】
前記鍛造工程において、弁閉時にシリンダヘッドのシート部に当接するフェース部を傘部に形成し、
前記縮径工程において、前記段差部の基端部からフェース部の先端部までの軸方向長さが、シリンダヘッドのバルブガイド開口部の最先端部からシート部の先端部までの軸方向長さよりも短くなるように前記段差部及び第1軸部を形成することを特徴とする、請求項4または5に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【請求項7】
中間部材の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側にかけて中間中空部を形成する孔あけ工程を前記縮径工程後かつ接合工程前に行い、
前記接合工程において、前記中空部に冷媒を装填した後で軸端部材を本体部の基端部に接合することを特徴とする請求項2または3に記載のエンジンのポペットバルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法に関する技術。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンのポペットバルブは、先端に向かって増径する首部を介して傘部と軸部を一体化した形状を有し、ポペットバルブには、軸端部側の軸部の外径を首部側の軸部の外径よりも小さくして軸部を段差状に形成した段付きポペットバルブがある。
【0003】
また、ポペットバルブの製造方法には、特許文献1の
図1に示すように傘部、首部、軸部を成形するための成形孔M1、M2’、Mm、Mnの形状を少しずつ変えた金型に順に押しこんで鍛造する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のエンジンバルブの製造方法は、1形態のエンジンバルブを形成するために専用の複数の金型を必要とするため、段付きエンジンバルブの段差の相対的な高さや軸方向長さを変更した新たな形状の段付きエンジンバルブを製造する場合、複数の専用金型群も新たに製造しなければならない。金型は高価であるため、形状の異なる新たな段付きエンジンバルブを形成する毎に新たな金型群を製造することは、エンジンバルブの製造コストを格段に高くする点で問題があった。
【0006】
上記課題に鑑み、本願発明は、低コストで多種多様な製造を可能にしたエンジンのポペットバルブの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
先端に向かって増径する首部を介して一体化される軸部と傘部を有するエンジンのポペットバルブの製造方法において、首部を介して中間軸部と傘部を一体化した金属製の中間部材を形成する鍛造工程と、軸材の圧縮面及び軸材圧縮面から先端側に徐々に離間するよう形成された軸材導入面を有するように形成されると共に中間軸部の外周に対して周方向等分複数箇所に配置された複数の縮径工具間に中間部材の中間軸部を挿入し、中心軸線に沿った方向に相対変位させつつ回転させた中間軸部の一部に接触させた各縮径工具の圧縮面から半径方向内向きの圧縮力を付加することで中間軸部の一部を縮径させて第1軸部の本体部を中間部材に形成すると共に圧縮面によって本体部に連続する段差部を形成し、中間軸部の残部の未縮径によって段差部を介して本体部に連続する、本体部よりも太軸の第2軸部を形成する縮径工程と、本体部と同じ外径の軸端部材を本体部の基端部に接合する接合工程と、を備えるようにした。
【0008】
(作用)エンジンバルブの中間部材に形成した中間軸部の周囲に等分配置された複数の縮径工具が、各縮径工具に対して相対回転しつつ軸方向に沿って相対変位する中間軸部の一部を任意の位置から半径方向内向きに圧縮して軸方向に引き延ばすことにより、中間軸部に任意の軸方向長さを有する第2軸部と、第2軸部よりも外径の小さな第1軸部の本体部を形成する。
【0009】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法において、前記複数の縮径工具は、それぞれ中間部材の中間軸部の半径方向に同期して往復揺動可能に構成された複数のダイスであり、前記縮径工程において、前記中心軸線回りに中間部材と各ダイスを互いに相対回転させ、往復揺動する各ダイスにより前記中間軸部への圧縮力の付加及び解放を交互に繰り返しつつ中間軸部の一部を縮径することが望ましい。
【0010】
(作用)中間部材の中間軸部の半径方向に同期して往復揺動可能しつつ中間軸部の中心軸線回りに同期回転可能に構成され、エンジンバルブの中間部材に形成した中間軸部の周囲に等分配置された複数のダイスが、ダイスに対して相対回転しつつ軸方向に沿って相対変位する中間軸部の一部を任意の位置から半径方向内向きに圧縮して軸方向に引き延ばすことにより、中間軸部に任意の軸方向長さを有する第2軸部と、第2軸部よりも外径の小さな第1軸部の本体部を形成する。
【0011】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法において、前記複数の縮径工具は、中間軸部の外径よりも小さな外周間隔で互いに平行な回転軸を有するように配置され、円柱外周面からなる前記圧縮面及び基端側から先端側に先窄まりとなる前記軸材導入面を備える複数の同期回転する転造ローラであり、前記縮径工程において、同方向に同期回転する複数の転造ローラが中間部材の中間軸部に転がり接触しつつ圧縮力を付加して中間軸部の一部を縮径することが望ましい。
【0012】
(作用)円柱外周面からなる前記圧縮面及び基端側から先端側に先窄まりとなる前記軸材導入面を備えるように形成され、中間軸部の外径よりも小さな外周間隔で互いに平行な回転軸を有するようにエンジンバルブの中間部材に形成した中間軸部の周囲に等分配置されて同期回転する複数の転造ローラが、転造ローラに対して相対回転しつつ軸方向に沿って相対変位する中間軸部の一部と任意の位置で転がり接触しつつ、半径方向内向きに圧縮して軸方向に引き延ばすことにより、中間軸部に任意の軸方向長さを有する第2軸部と、第2軸部よりも外径の小さな第1軸部の本体部を形成する。
【0013】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法において、中間部材の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側にかけて中間中空部を形成する孔あけ工程を前記鍛造工程後かつ縮径工程前に行い、前記縮径工程において、軸材の前記圧縮面によって中間軸部の一部を縮径させて第1軸部の本体部の形成と同時に本体部の内側に第1中空部を形成し、軸材導入面によって前記段差部の形成と同時に段差部の内側に第1中空部に連続する縮径部を形成し、中間軸部の残部の未縮径によって太軸の第2軸部の内側に縮径部を介して第1中空部に連続する大内径の第2中空部を形成し、前記接合工程において、前記第1中空部または第2中空部の少なくとも一方に冷媒を装填した後で軸端部材を本体部の基端部に接合することが望ましい。
【0014】
(作用)孔あけ工程において、冷媒の装填に必要な中空部の形成に必要な孔あけ作業が、傘部の底面側からではなく軸部の基端部から行われると共に孔あけ回数が複数回から1回に減少する。縮径工程において、予め外径と内径を大きく形成した中間軸部の一部を複数のダイス、または転造ローラの円柱外周面が基端側から中心軸線方向に縮径することにより、傘部の底面に孔を空けることなく大外径の第2軸部とその内側の大内径の第2中空部を残しつつ、それらの基端部側に連続する小外径の第1軸部の本体部と内側の小内径の第1中空部を同時に形成し、更にダイス、または基端側から先端側に先窄まりに形成された各転造ローラの軸材導入面が第2軸部と第1軸部の外周を接続する段差部とその内側の縮径部を同時に形成する。また、縮径部は、塑性変形によって凹型円弧面として形成されて、第1中空部及び第2中空部にそれぞれ接続される。
【0015】
また、エンジンのポペットバルブの製造方法は、前記縮径工程において、第1軸部を第2軸部よりも薄肉に形成することが望ましい。
【0016】
(作用)形成されたエンジンのポペットバルブの第2軸部そのものの熱伝達の許容量が増加することで燃焼室から冷媒への熱伝達性が更に向上する。
【0017】
エンジンのポペットバルブの製造方法は、前記鍛造工程において、弁閉時にシリンダヘッドのシート部に当接するフェース部を傘部に形成し、前記縮径工程において、前記段差部の基端部からフェース部の先端部までの軸方向長さが、シリンダヘッドのバルブガイド開口部の最先端部からシート部の先端部までの軸方向長さよりも短くなるように前記段差部及び第1軸部を形成することが望ましい。
【0018】
(作用)ポペットバルブの開閉動作時に段差部及び第2軸部がシリンダヘッドのバルブガイド開口部に干渉しない。
【0019】
エンジンのポペットバルブの製造方法は、中間部材の中間軸部の基端部から、中間軸部、首部及び傘部の内側にかけて中空部を形成する孔あけ工程を前記縮径工程後かつ接合工程前に行い、前記接合工程において、中空部に冷媒を装填した後で軸端部材を本体部の基端部に接合することが望ましい。
【0020】
(作用)使用時に流動する冷媒を内側に有する冷媒入り段付き中空ポペットバルブが製造される。
【発明の効果】
【0021】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、一組の複数の専用金型から形成した傘部、首部及び軸部を有するエンジンバルブの中間部材の一形態から第2軸部と第1軸部の本体部の相対的な高さや第2軸部の軸方向長さが異なる形状の段付きエンジンバルブを自在に製造出来、段付きエンジンバルブの形状毎に専用金型群を複数組用意する必要が無く、首部と第2軸部を鍛造成形して第1軸部のみを縮径するため、首部と第2軸部も含めた中間部材の全体を棒材から縮径することに比べて中間部材を安価に形成出来、エンジンの多種多様なポペットバルブを低コストで製造することができる。
【0022】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、傘部底面の孔あけ作業とキャップの接合による封止作業が不要になり、高コストで精度の高いキャップの接合作業やバルブ底面のキャップ接合部の仕上がり精度を高める切削作業が不要になることでエンジンの中空ポペットバルブを低コストで製造出来る。また、複数の転造ローラが小外径の細軸部と小内径の第1中空部を同時に形成することで、長軸のエンジンの中空ポペットバルブを少ない工程で低コストに製造出来る。また、従来のように傘部側から複数回の穴開けすることで内径の異なる第1の中空部と第2中空部を連続して形成すると接続部分に段差が出来て応力集中が発生するが、本願の製造方法によれば、塑性変形によって形成される縮径部が凹型湾曲面となり、第1中空部及び第2中空部を滑らかに接続するため、接続部分に発生する応力集中が緩和される。
【0023】
この製造方法で製造されたエンジンのポペットバルブによれば、高温の燃焼室にさらされるバルブの第2軸部の強度が太軸に形成されて保持された状態で、第2軸部、首部及び傘部の内側に設けた第2中空部の容積が拡大して高温にさらされる部位の冷媒装填量が増加して熱伝達の許容量が増加することで燃焼室から冷媒への熱伝達が円滑に行われ、バルブの高速振動時に一定内径を有する第2中空部内でバルブの軸方向に振られることで冷媒が第2中空部の内壁に残留しにくくなり、縮径部を介して第1中空部との間の円滑な移動を促進される。
【0024】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、軸部を長軸化しつつ高温にさらされる部位を厚肉に維持することで第2軸部そのものの熱伝達の許容量が増えて燃焼室から冷媒への熱伝達性が向上することで製造されたエンジンの中空ポペットバルブによる冷却効果が更に向上する。
【0025】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、バルブの開閉動作時に段差部及び第2軸部をシリンダヘッドのバルブガイド開口部に干渉させることなく第2中空部の容積及び第2軸部の肉厚を大きく出来るため、燃焼室から冷媒への熱伝達性が更に向上したエンジンの中空ポペットバルブを製造出来る。
【0026】
エンジンのポペットバルブの製造方法によれば、冷媒により段付きポペットバルブにおける冷却効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】転造工程を含むエンジンのポペットバルブの製造方法の第1実施例に関する製造工程の説明図で、(a)は、バルブの素材となる中実丸棒を示し、(b)は、バルブの第1軸部、第2軸部、首部及び傘部を形成するための中間部材を形成する鍛造工程を示し、(c)は、中間部材に中間中空部を形成する孔あけ工程を示し、(d)は、中間中空部に超硬金属
棒を挿入する挿入工程を示し、(e)は、中間軸部
の基端部側から縮径して第1及び第2軸部を形成する転造工程を示し、(f)は、超硬金属棒を抜き取った中間部材に冷媒を装填して軸端部を接合する接合工程を示す。
【
図2】第1実施例の製造方法で製造したエンジンのポペットバルブの軸方向断面図。
【
図2A】ロータリースウェージング工程を含むエンジンのポペットバルブの製造方法の第2実施例に関する製造工程の説明図で、(a)は、バルブの素材となる中実丸棒を示し、(b)は、バルブの第1軸部、第2軸部、首部及び傘部を形成するための中間部材を形成する鍛造工程を示し、(c)は、中間軸部
の基端部側から縮径して第1及び第2軸部を形成するロータリースウェージング工程を示し、(d)は、(c)図をI-I部分で切断した断面図を示し、(e)は、中間部材に中間中空部を形成する孔あけ工程を示し、(f)は、中間部材に冷媒を装填して軸端部を接合する接合工程を示す。
【
図3】シリンダヘッドに設置された第1実施例の製造方法によるエンジンのポペットバルブの縦方向断面図。
【
図4】第1実施例の排気用中空ポペットバルブ測温結果を示すグラフであり、(a)は、バルブ底面中央に関するグラフ、(b)は、バルブ首部に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1により縮径工程に転造工程を採用したエンジンの冷媒入り中空ポペットバルブの製造方法の第1実施例を説明する。
図1においては、エンジンの中空ポペットバルブの傘部24側を先端側とし、第1軸部25側を基端側として説明する。
【0029】
図1(a)の金属丸棒1は、高い耐熱性を有するSUH35(クロムとシリコン、炭素をベースにしたマルテンサイト系の高耐熱鋼)のような耐熱合金等からなる棒材から形成される。金属丸棒1は、鍛造工程によって
図1(b)に示す中間軸部3、首部23及び傘部24を一体化した形状の中間部材2に形成される。中間部材2は、徐々に形状が変化する複数の金型(図示せず)から金属丸棒1を順に押し出す押出鍛造または据込鍛造によって形成される。
【0030】
図1(b)の中間部材2は、外径D4の円柱形状の中間軸部3と、中間軸部3の先端3aに滑らかに連続すると共に外径が先端に向かって徐々に増径する凹型の湾曲形状を有する首部23と、首部23の先端部23aに連続すると共に基端側から先端側に末広がりとなるテーパー状のフェース部28を外周に有する傘部24を有するように形成される。また、中間軸部3は、必要に応じて寸切加工によって短くされ、中間軸部3と首部23の各外周面には、粗研削処理が施される。
【0031】
中間部材2は、孔あけ工程によって
図1(c)に示す内径d4の中間中空部6を形成される。中間中空部6は、ガンドリル7のような切削工具を中間軸部3の基端部3bから打ち込むことで形成され、中間軸部3は、肉厚t4の円筒部位として形成される。中間中空部6は、中間部材2と同軸になるよう形成され、かつ中間軸部3、首部23及び傘部24の内側にかけて有底円孔形状を有するように形成される。
【0032】
中間中空部6には、挿入工程によって
図1(d)に示すように中間中空部6の内径d4よりも小さな外径D0を有する超硬金属棒8が底部6aまで挿入される。超硬金属棒8は、後述する縮径工程(転造工程)において複数の転造ローラから中間部材2の中心軸線Oに向かう方向の力を受けても縮径しない中間部材2よりも硬度の高い金属で形成される。
【0033】
尚、本実施例においては、
図1(c)に示す孔あけ工程と、
図1(d)に示す超硬金属棒8の挿入工程を省略して
図1(e)の転造工程を行うことによって、中実ポペットバルブを製造してもよいし、
図1(d)に示す超硬金属棒8の挿入工程のみを省略して
図1(e)の転造工程を行うことで冷媒入りの中空ポペットバルブを製造しても良い。
【0034】
図1(d)に示すように超硬金属棒8を挿入された中間部材2は、縮径工程である転造工程において、
図1(e)に示すように中間軸部3を縮径される。転造加工機9は、複数の同形状の転造ローラ(9a、9a)とモーター(9b、9b)を有し、転造ローラ(9a,9a)は、それぞれモーター(9b、9b)によって互いに平行となる回転軸(O1,O1)周りに回動する。転造ローラ(9a、9a)は、軸材の圧縮面である円柱外周面(9c、9c)と、軸材導入面(9d,9d)をそれぞれ有する。軸材導入面(9d,9d)は、基端部(9f、9f)から先端部(9e、9e)方向に先細りとなる先窄まりの凹型湾曲面形状をそれぞれ有し、基端部(9f、9f)は、円柱外周面(9c、9c)の先端に連続する。尚、本実施例において、軸材導入面(9d、9d)は、凹型湾曲面形状の替わりに先窄まりのテーパー形状を有するように形成されても良い。また、転造加工機9の複数の転造ローラ9aとモーター9bは、2組設けられているが、転造ローラ9aとモーター9bは、中心軸線Oに直行する方向に中間部材2を抜け止めして振動の少ない縮径を行う観点から少なくとも3組設けられることがより望ましい。
【0035】
図1(e)に示す複数の転造ローラ(9a,9a)は、円柱外周面(9c、9c)の外周間隔をD3とした場合、超硬金属棒8の外径D0と中間軸部3の肉厚t4との関係において、D3≦D0+2×t4となるように配置される。外周間隔D3がD3=D0+2×t4である場合、中間軸部3は、複数の転造ローラ(9a,9a)に押し込まれることにより、肉厚t4を保ちつつ超硬金属棒8の全周に接するまで縮径され、外周間隔D3がD3<D0+2×t4である場合、中間軸部3は、複数の転造ローラ(9a,9a)に押しこまれて超硬金属棒8に押し付けられることにより、肉厚t4よりも薄い肉厚t3に縮径されるとともに中心軸線Oに沿って基端部方向に引き延ばされて、より軸長の長いバルブに形成される。本実施例においては、一例としてD3<D0+2×t4となるように転造ローラ(9a,9a)を配置している。
【0036】
本実施例の転造工程において、
図1(d)の中間部材2は、
図1(e)の符号de1方向に回転しつつ超硬金属棒8と共に中間軸部3の基端部3bを軸材導入面(9d、9d)側から符号de2方向(中間部材2に対して逆回転となる方向)に回転する転造ローラ(9a,9a)の間に押し込まれる。
図1(d)及び(e)に示すように、押し込まれた中間軸部3の基端部3b側は、転造ローラ(9a,9a)の円柱外周面(9c、9c)と超硬金属棒8との間で中心軸線Oに直交する方向の圧縮力を受けて外径をD4からD3まで縮径され、中間中空部6の内径をd4からD0まで縮径され、肉厚をt4からt3まで薄くされ、かつ軸長を基端部側に引き延ばされる。
【0037】
その結果、
図1(e)に示すように中間軸部3の基端部3b側の部位は、外径D3、肉厚t3に形成されて内側に内径D0の第1中空部30を備える(後述する第1軸部25の)本体部25aとして形成される。本体部25aの先端側には、転造ローラ(9a,9a)の軸材導入面(9d、9d)により、内側に縮径部31を備える段差部26が連続して形成される。
【0038】
転造ローラ(9a,9a)の軸材導入面(9d、9d)が
図1(e)に示すような凹型の湾曲面として形成された場合、段差部26は、先端側から基端側に縮径する凸型の湾曲部として形成され、縮径部31は、先端側から基端側に縮径する凹型の湾曲部として形成される。転造ローラ(9a,9a)によって縮径されない中間軸部3の残部は、内側に内径d4の第2中空部32を形成された第2軸部27として形成される。このようにして中間軸部3は、転造工程によって第1軸部25の本体部25a、段差部26及び第2軸部27として形成される。
【0039】
本実施例によれば、本体部25aと第2軸部27は、凸型湾曲形状の段差部26を介して湾曲状に滑らかに接続され、その内側の第1中空部30と第2中空部32もまた、凹側湾曲形状の縮径部31を介して湾曲状に滑らかに接続されることにより、接続部分に発生する応力集中が緩和され、後述する冷媒の滑らかな流動が促進される。
【0040】
図1(e)に示すように厚肉かつ大外径を有するように形成された第2軸部27は、先端側から基端側に先細りの凸型湾曲形状を有する段差部26を介して薄肉かつ小外径を有する第1軸部25の本体部25aに一体化される。第2軸部27の先端部27aは、首部23に滑らかに接続する。中間中空部6は、転造工程によって第1中空部30,縮径部31及び第2中空部32を有する中空部29として形成される。第2中空部32は、第2軸部27,首部23及び傘部24の内側にかけて底部32aを有する有底円筒形状に形成され、大内径の第2中空部32は、先端側から基端側に先細りとなる縮径部31を介して小内径の第1中空部30に滑らかに連続する。
【0041】
図1(f)に示すように、接合工程においては、超硬金属棒8が中空部29から引き抜かれ、本体部25aの基端部25cには、中空部29の一部領域に金属ナトリウム等の冷媒34が装填された状態で軸端部材25bが接合される。軸端部材25bは、SUH11(クロムとシリコン、炭素をベースにしたマルテンサイト系の耐熱鋼であって、SUH35より耐熱性の低いもの)等の耐熱合金等からなる外径D3の中実棒材によって形成され、抵抗溶接等によって先端部25dを本体部25aに軸接合される。本体部25aは、軸端部材25bと共に第1軸部25を形成し、エンジンの中空ポペットバルブ21の軸部22は、第1軸部25,段差部26及び第2軸部27によって構成される。
図2に示す中空ポペットバルブ21は、接合工程において、首部23及び傘部24に一体に形成された本体部25aに軸端部材25bを接合することで形成される。接合工程後の中空ポペットバルブ21は、軸端部材25bにコッタ溝25eを設けられた上で必要な焼鈍処理、研削処理、窒化処理などを施される。
【0042】
次に、
図2Aにより縮径工程にロータリースウェージング工程を採用した冷媒入り中空ポペットバルブの製造方法の第2実施例を説明する。
図2Aにおいては、エンジンの中空ポペットバルブの傘部54側を先端側とし、軸部52側を基端側として説明する。
【0043】
図2A(a)の金属丸棒41は、高い耐熱性を有するSUH35(クロムとシリコン、炭素をベースにしたマルテンサイト系の高耐熱鋼)のような耐熱合金等からなる棒材から形成される。金属丸棒41は、鍛造工程によって
図2A(b)に示す中間軸部43、首部53及び傘部54を一体化した形状の中間部材42に形成される。中間部材42は、徐々に形状が変化する複数の金型(図示せず)から金属丸棒41を順に押し出す押出鍛造または据込鍛造によって形成される。
【0044】
図2A(b)の中間部材
42は、外径D6の円柱形状の中間軸部43と、中間軸部43の先端43aに滑らかに連続すると共に外径が先端に向かって徐々に増径する凹型の湾曲形状を有する首部53と、首部53の先端部53aに連続すると共に基端側から先端側に末広がりとなるテーパー状のフェース部58を外周に有する傘部54を有するように形成される。また、中間軸部
43は、必要に応じて寸切加工によって短くされ、中間軸部
43と首部
53の各外周面には、粗研削処理が施される。
【0045】
図2A(b)の中間部材42は、縮径工程であるロータリースウェージング工程において、図
2A(c)及び(d)に示すように中間軸部43を縮径される。ロータリースウェージング加工機49は、挿入される中間軸部43の中心軸線O2の周囲において、等分複数箇所に配置される同形状のダイス44aを有する。各ダイス44aは、
図2A(d)に示すように丸棒形状の中間軸部43の半径方向内側に凹型となる凹曲外周面44b(軸材の圧縮面)と、基端部44eから先端部44d方向に末広がりとなる凹型湾曲面からなる軸材導入面44cをそれぞれ有する。各軸材導入面44cの基端部44eは、凹曲外周面44bの先端に連続する。尚、第2実施例の各軸材導入面44cは、先端に向かって末広がりのテーパー状に形成されても良い。また、第2実施例において一例として4つ設けられているダイス44aは、複数であれば2つでも良いが、中間部材
42の半径方向に偏りの無い力を与えるという観点から、3つ以上設けられることが望ましい。
【0046】
図2A(c)(
d)に示すように複数のダイス44aは、挿入される中間軸部43の中心軸線O2から半径方向に沿って内外に同期して往復揺動するように構成され、接触する中間軸部43に半径方向内向きの圧縮力を付加する。
【0047】
第2実施例のロータリースウェージング工程において、
図2A(b)の中間部材
42は、
図2A(c)(d)の符号de3方向に回転しつつ、中間軸部43の基端部43bを軸材導入面44c側から複数のダイス44aの間に押し込まれる。
図2A(c)及び(d)に示すように、押し込まれた中間軸部43の基端部43b側は、符号de4、de5方向に往復揺動する4つのダイス44aの間で中心軸線O2に直交する方向の圧縮力を受けて外径をD6からD5まで縮径されて軸長を基端部側に引き延ばされる。尚、ロータリースウェージング工程においては、中間部材42を回転させずに4つのダイス44aを中心軸線O2周りに同期回転させても良いし、de3方向に回転する中間部材よりも高速でde3と同方向(de3’方向)に4つのダイス44aを同期回転させてもよい。
【0048】
その結果、
図2A(c)に示すように中間軸部43の基端部53b側の部位は、外径D5を有する第1軸部55の本体部55aとして形成される。本体部55aの先端側には、各ダイス44aの軸材導入面44cにより、凸型湾曲部からなる段差部56が連続して形成される。本体部55aと第2軸部57は、凸型湾曲形状の段差部56を介して湾曲状に滑らかに接続されることにより、接続部分に発生する応力集中が緩和される。
【0049】
各ダイス44aの軸材導入面44cが
図2A(c)に示すような凹型の湾曲面として形成された場合、段差部56は、先端側から基端側に縮径する凸型の湾曲部として形成され、湾曲面状の接続部を介して本体部55aに滑らかに接続される。各ダイス44aによって縮径されない中間軸部43の残部は、第2軸部57として形成され、第2軸部57は、湾曲面状の接続部を介して段差部56に滑らかに接続される。このようにして中間軸部43は、ロータリースウェージング工程によって第1軸部55の本体部55a、段差部56及び第2軸部57として形成される。
【0050】
図2A(c)に示すように第1軸部55、段差部56及び第2軸部57を形成された中間部材42は、孔あけ工程によって
図2A(e)に示す内径d5の中空部46を形成される。中空部46は、ガンドリル47のような切削工具を本体部55aの基端部55cから打ち込むことで中間部材42と同軸になるように形成され、かつ本体部55a、首部53及び傘部54の内側にかけて底部54aを有する有底円孔形状を有するように形成される。
【0051】
図2A(f)に示すように、接合工程において、本体部55aの基端部55cには、中空部46の一部領域に金属ナトリウム等の冷媒34が装填された状態で軸端部55bが接合される。軸端部55bは、SUH11(クロムとシリコン、炭素をベースにしたマルテンサイト系の耐熱鋼であって、SUH35より耐熱性の低いもの)等の耐熱合金等からなる外径D5の中実棒材によって形成され、抵抗溶接等によって先端部55dを本体部55aに軸接合される。本体部55aは、軸端部55bと共に第1軸部55を形成し、エンジンのポペットバルブ51の軸部52は、第1軸部55,段差部56及び第2軸部57によって構成される。エンジンのポペットバルブ51は、接合工程において、首部53及び傘部54に一体に形成された本体部55aに軸端部55bを接合することで形成される。接合工程後のエンジンのポペットバルブ51は、軸端部55bにコッタ溝55eを設けられた上で必要な焼鈍処理、研削処理、窒化処理などを施される。
【0052】
尚、第1実施例の製造方法においては、
図1(e)に示す転造工程の代わりに
図2A(c)
に示す第2実施例のロータリースウェージング工程を採用しても良いし、第2実施例の製造方法においては、
図2A(c)に示すロータリースウェージング工程の代わりに
図1(d)に示す第1実施例の転造方法を採用しても良い。また、第2実施例においては、
図2A(e)に示す穴あけ工程を省略することで中実のポペットバルブを形成しても良い。
【0053】
尚、
図3は、シリンダヘッド60に設置され、排気に基づく開閉時に燃焼室61と排気通路62の間を進退する、第1実施例の製造方法で製造されたエンジンの中空のポペットバルブ21を示している。無論シリンダヘッド60には、第2実施例の中空のポペットバルブ51を採用しても良いし、ポペットバルブ(21、
51
)は、吸気バルブとして使用してもよい
。シリンダヘッド60には、バルブガイド60aと燃焼室61に向かって開口する排気通路62が設けられている。バルブガイド60aには、中空ポペットバルブ21の軸部22が摺接するバルブ挿通孔60bが設けられ、バルブ挿通孔60bの先端は、排気通路62に開口する。バルブ挿通孔60bには、バルブスプリング63によって閉弁方向(バルブの先端から基端方向)に付勢された中空ポペットバルブ21の軸部22が保持されて先後に進退する。中空ポペットバルブ21は、開弁時において中心軸線Oに沿って先端方向にスライドし、閉弁時において傘部24のフェース部28がバルブスプリング63の付勢力によって排気通路62の開口周縁部に形成されたシリンダヘッド60のシート部64のシート面64aに当接するように形成される。
【0054】
第1実施例のエンジンのポペットバルブの製造方法によれば、
図1(c)の孔あけ工程において、冷媒34を装填する中空部29の形成に必要な孔あけ作業を傘部の底面側から行わないことで孔あけ回数が複数回から1回に減少する。また、第1及び第2実施例の製造方法によれば、傘部(24、54)の底部(24a、54a)の孔あけ作業とキャップの接合による封止作業が不要になるため、高コストで精度の高いキャップの接合作業やバルブ底面のキャップ接合部の仕上がり精度を高める切削作業によって底部24aの強度を維持する作業が不要になることでエンジンのポペットバルブを低コストで製造出来る。
【0055】
また、第1実施例の製造方法によれば、複数の転造ローラ(29a,29a)が、小外径D3を有する細軸の第1軸部25と小内径D0を有する第1中空部30を同時に形成し、細軸化で余分になった素材を伸ばして軸長を長くすることにより、素材の無駄がなく、細軸である第1軸部25の研磨回数が減ることにより、長軸のポペットバルブを少ない工程で低コストに製造出来る。
【0056】
一方、第1及び第2実施例の製造方法によれば、第2軸部(27,57)や、首部(23,53)を鍛造で形成し、転造加工またはロータリースウェージング加工を第1軸部(25,55)の本体部(25a,55a)のみに施し、第2軸部(27,57)や首部(23,53)まで施さないため、首部(23,53)と第2軸部(27,57)も含めた中間部材(2,42)の全体を外径の大きな棒材から縮径して形成することに比べて中間部材(2,42)を安価に形成出来、ポペットバルブを低コストに製造出来る。
【0057】
また、第1実施例の製造方法によれば、
図1(e)の転造工程において、中間軸部3の一部を基端部3b側から縮径することにより、傘部24の底部24aに孔を空けることなく、冷媒34を装填するための内径の大きな第2中空部32を燃焼室内で高温にさらされる第2軸部27、首部23及び傘部24の内側にかけて形成できると共に、先細りの縮径部31を介して細軸で軽量な第1軸部25の内側に形成された第1中空部30に滑らかに一体化した中空ポペットバルブ21を製造出来る。
【0058】
更に第1実施例のエンジンのポペットバルブの製造方法によれば、
図2に示すようにエンジンの燃焼室及び排気通路の高温の排気ガスにさらされる第2軸部27、首部23及び傘部24の内側に設けた第2中空部32の内径d4を第1中空部30の内径D0よりも大きくし、高温にさらされる第2軸部27の熱伝達の許容量を拡大しつつ第2中空部32の容積を拡大して冷媒34の装填量を増加させたことで
図3の燃焼室61及び排気通路62の排気ガスから冷媒34への熱伝達が円滑に行われるエンジンの中空ポペットバルブ21を製造できる。また、第2中空部32の内側で熱伝達を受けた冷媒34は、バルブの中心軸線Oに沿って先後に振られる際に第1及び第2中空部(30,32)を滑らかに接続するテーパー形状または凹側湾曲面形状に形成された縮径部31によって第1中空部30との間の円滑な移動を促進されるため、冷媒34から軸部22への熱伝達性が向上した中空ポペットバルブ21を製造出来る。中空ポペットバルブ21によれば、傘部24と軸部22との間の冷媒34の移動効率が向上することにより、エンジンの低中速回転時においても従来の傘中空バルブと同等以上の冷却効果を発揮する。
【0059】
更に、第1実施例のエンジンの中空ポペットバルブの製造方法によれば、第2軸部27の肉厚t4が、第1軸部25の肉厚t3よりも厚肉に(つまりt4>t3となるように)形成されるため、第2軸部27のそのものの熱伝達の許容量が増加することで燃焼室及び排気通路の排気ガスから冷媒34への熱伝達性が更に向上することでバルブによる冷却効果が向上する中空ポペットバルブ21を製造出来る。
【0060】
尚、第1実施例のエンジンのポペットバルブの製造方法においては、第2軸部を別途縮径しつつ基端部方向に引き延ばすこと等で薄肉化することで第2軸部27を第1軸部25よりも薄肉に形成(t4<t3とする)しても良いし、第1軸部25と第2軸部27の肉厚を一致(t4=t3とする)させてもよい。
【0061】
尚、第1実施例の転造工程(第2実施例のロータリースウェージング工程においても同様)においては、
図3に示すように段差部26の基端部26a(第2実施例においては、
図2A(e)に示す段差部56の基端部56a)からフェース部28の先端部28aまでの中心軸線Oに沿った方向の長さL1が、シリンダヘッド60のバルブガイド開口部60cの最先端部60dからシート部64の先端部64bまでの軸方向長さL2よりも短くなるように中間部材2を加工することが望ましい。
【0062】
ポペットバルブ21(及びポペットバルブ51)がこのように形成された場合、
図3に示すように段差部26の基端部26aは、弁閉時においてシリンダヘッドのバルブガイド開口部の最先端部60dよりも下に位置するため、排気時におけるポペットバルブ21の開閉動作時に段差部26及び第2軸部27がシリンダヘッド60のバルブガイド開口部60cに干渉しない。その結果、ポペットバルブ21においては、第2中空部32の容積及び第2軸部27の肉厚t4を更に大きく出来るため、燃焼室から冷媒への熱伝達性が更に向上する。
【0063】
図4(a)(b)により、熱電対法によって測定した第1実施例の製造方法で製造した冷媒入り中空ポペットバルブ21(
図2を参照)を使用したエンジンの回転数に対するバルブの傘部24の底面24bの中央と首部23の温度を説明する。
図4(a)は、バルブの底面24bの中央に関するグラフであり、
図4(b)は、バルブの首部23に関するグラフである。各図の横軸はバルブの回転数(rpm)、縦軸は温度(℃)を示し、三角のラインが特許文献
1のような従来の冷媒入り傘中空バルブの温度を示し、四角のラインが本実施例による冷媒入り中空バルブの温度を示すものである。
【0064】
図4(a)によると本実施例における冷媒入り中空バルブの傘部の底面温度は、エンジンの回転数が約3500rpmのときに従来の冷媒入り傘中空バルブと同等の温度となる。また、本実施例による中空バルブ底面温度は、エンジンが約3500rpmを越えて高速回転すると、従来の傘中空バルブよりもやや高温になるが、エンジンが3500rpm以下の回転数で低中速回転をすると、従来の傘中空バルブよりも低く抑えられる。
【0065】
また、
図4(b)によると本実施例によるエンジンバルブの首部温度は、エンジンの回転数が3000rpmのときに従来の傘中空バルブと同等の温度となる。また、本実施例によるエンジンバルブの首部温度は、エンジンの回転数が約3000rpmを越えて高速回転すると従来の傘中空バルブよりもやや高温になるが、エンジンが3000rpm以下の回転数で低中速回転をすると、本実施例による中空バルブの
首部温度は、従来の傘中空バルブよりも低く抑えられる。
【0066】
このように、
図4(a)(b)の測定結果から従来の冷媒入り傘中空バルブは、エンジンの高速回転時に優れた冷却効果を発揮するが、本実施例の製造方法によって製造されたエンジンのポペットバルブは、エンジンの低中速回転時に傘中空バルブと同等以上の優れた冷却効果を発揮することで耐ノック性が向上し、燃費改善に繋がるものと言える。
【0067】
中空バルブの冷媒として一般的に使用される金属ナトリウムは、融点が98℃である。エンジンが低中速回転する際の燃焼室から熱を受ける冷媒入り中空バルブは、高速回転時ほど高温にならないため、従来の中空バルブの中空部内に冷媒として装填された金属ナトリウムは、燃焼室にさらされる高温の傘部や首部の内側領域から燃焼室にさらされないために温度の低い軸端部の近傍領域に移動した際に融点以下に冷却されて軸端部の近傍領域に固着することで移動を阻害され、傘部及び首部から軸部へのバルブの熱引性を悪化させるおそれがある。しかし、本実施例で製造された冷媒入り中空バルブによれば、軸端部材25bに近い第1中空部30の内径が第2中空部32の内径よりも小さく、仮に第1中空部30内の軸端部材25bの近傍領域に固着しても固着する冷媒34の量が少なくなって熱引性の悪化が低減されるため、エンジンが低中速回転量域で動作していてもバルブの温度が低減されるものと考えられる。
【0068】
そのため、第1実施例の製造方法で製造されたエンジンのポペットバルブは、電気自動車の駆動用モーターに使用される発電専用エンジンのような低中速回転領域でのみ動作するエンジンに使用されることで最も優れた冷却効果を発揮するものと言える。
【符号の説明】
【0069】
2 中間部材
3 中間軸部
3b 基端部
6 中間中空部
9a 転造ローラ(縮径工具)
9c 円柱外周面(軸材の圧縮面)
9d 軸材導入面
21 ポペットバルブ
22 軸部
23 首部
24 傘部
25 第1軸部
25a 本体部
25b 軸端部材
25c 本体部の基端部
26 段差部
26a 基端部
27 第2軸部
28 フェース部
28a 先端部
30 第1中空部
31 縮径部
32 第2中空部
34 冷媒
42 中間部材
43 中間軸部
43b 基端部
44a ダイス(縮径工具)
44b 凹曲外周面(軸材の圧縮面)
44c 軸材導入面
46 中空部
48 冷媒
51 中空ポペットバルブ
52 軸部
53 首部
54 傘部
55 第1軸部
55a 本体部
55b 軸端部
55c 本体部の基端部
56 段差部
56a 基端部
57 第2軸部
60 シリンダヘッド
60c バルブガイド開口部
60d 最先端部
64 シート部
64b 先端部
D0 超硬金属棒の外径及び第1軸部の内径
D3 円柱外周面の外周間隔及び第1軸部の外径
d4 中間中空部の内径
L1 段差部の基端部からフェース部の先端部までの軸方向長さ
L2 バルブガイド開口部の最先端部からフェース部の先端部までの軸方向長さ
O、O2 中間部材及びポペットバルブの中心軸線