(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221208BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2021513967
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 KR2019010718
(87)【国際公開番号】W WO2020054999
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】10-2018-0109790
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン ソク
(72)【発明者】
【氏名】アン,ドク チャン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミ-ナム
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ヒョン ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン ミン
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-310155(JP,A)
【文献】特開平08-283915(JP,A)
【文献】特開2009-299171(JP,A)
【文献】特開平08-120419(JP,A)
【文献】特表2020-532645(JP,A)
【文献】特開2003-129188(JP,A)
【文献】特表平08-501352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01~
0.056%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:16
.0~20
.0%、Ni:6
.0~10
.0%、Cu:0.1~2.0%、Mo:0.2%以下、N:0.035~0.07%、残りFe及び不可避な不純物からなり、
C+N
は、0.06~0.1%の範囲を満足し、
下記式(1)で表示されるMd30値は、-10℃以下であり、
平均結晶粒サイズは、42μm以上であり、
下記式(1)で表示される前記Md30(℃)値と
前記平均結晶粒サイズ(μm)の積が-500未満を満足することを特徴とする拡管加工性と耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
(1)Md30(℃)=551-462*(C+N)-9.2*Si-8.1*Mn-13.7*Cr-29*(Ni+Cu)-18.5*Mo
(ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cu、Moは、各元素の含量(重量%)を意味する)
【請求項2】
真ひずみ0.3~0.4範囲での加工硬化指数n値が0.45~0.5の範囲を満足す
ることを特徴とする請求項1に記載の拡管加工性と耐時効割れ性に優れたオーステナイト
系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記ステンレス鋼の時効割れ限界絞り比(Limited Drawing Ratio)は、2.97以上であることを特徴とする請求項1に記載の拡管加工性と耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
下記式(2)で表示されるホール拡管率(HER)が72%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれか一項に記載の拡管加工性と耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
(2)HER=(D
h-D
0)/D
0×100
(ここで、D
hは、破断後の内径、D
0は、初期内径を意味する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼に係り、より詳しくは、5段階以上の拡管及びカーリング工程後にも時効割れ又は遅延破断などの欠陥が発生しない拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車の燃料注入管は、軽量化及び高機能化のために、炭素鋼に比べて耐食性に優れ、強度が高いステンレス鋼に転換されている。一般的に、炭素鋼1.2mmのチューブを製作した後、発錆防止のために塗装及びコーティング工程を経由するが、ステンレス鋼は、優れた耐食性により塗装及びコーティング工程を省略できる長所を有する。
【0003】
しかし、自動車の燃料注入管は、5~6段階の拡管工程及び最終カーリング工程など複雑な加工段階を経るため、加工性が劣位であるフェライト系ステンレス鋼又は二相系ステンレス鋼の適用は容易ではないので、加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の適用が検討されている。特に、自動車の製造会社では、304成分規格(KS、JIS、ASTM)を満足する範囲内で燃料注入管用ステンレス鋼の開発を希望しているため、304材質規格(EN、KS)である降伏強度230MPa以上及び引張強度550MPa以上を満足すると同時に燃料注入管の複雑な加工でもクラックが発生しないオーステナイト系ステンレス鋼の開発が要求される。
【0004】
特許文献1には、加工硬化指数(n値)0.49以下のオーステナイト系ステンレス鋼を素材とする管からなることを特徴とする給油管について記述されている。しかし、特許文献1で提示する加工硬化指数(n値)0.49以下という冷燃製品の材質特性では、多様で且つ複雑になる自動車の燃料注入管の成形に単純適用することには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2003-0026330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点を解決するためになされた本発明の課題は、304鋼種の成分規格範囲内で多様で且つ複雑な形状の加工及び多段階拡管加工でも時効割れの発生を防止できる拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施例による拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01~0.04%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:16~20%、Ni:6~10%、Cu:0.1~2.0%、Mo:0.2%以下、N:0.035~0.07%、残りFe及び不可避な不純物からなり、C+N:0.1%以下を満足し、下記式(1)で表示されるMd30(℃)値と平均結晶粒サイズ(μm)の積が-500未満を満足することを特徴とする。
(1)Md30(℃)=551-462*(C+N)-9.2*Si-8.1*Mn-13.7*Cr-29*(Ni+Cu)-18.5*Mo
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cu、Moは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0008】
前記C+Nは、0.06~0.1%の範囲を満足することができる。
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、真ひずみ0.3~0.4範囲での加工硬化指数n値が0.45~0.5範囲を満足することがよい。
【0009】
前記式(1)のMd30値は、-10℃以下であることがよい。
前記平均結晶粒サイズは、45μm以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のステンレス鋼の時効割れ限界絞り比(Limited Drawing Ratio)は、2.97以上であることがよい。
【0011】
また、本発明の一実施例によると、下記式(2)で表示されるホール拡管率(HER)が72%以上であることが好ましい。
(2)HER=(Dh-D0)/D0×100
ここで、Dhは、破断後の内径、D0は、初期内径を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のによると、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、ホール拡管率が70%以上で拡管加工性に優れ、時効割れ限界絞り比が2.9以上で耐時効割れ性に優れ、自動車の燃料注入管の成形時に円周方向のクラックが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】チューブ(Tube)造管品を用いて自動車の燃料注入管の成形過程を順に示す図である。
【
図2】Md30(℃)× Grain Size(μm)による燃料注入管の円周方向のクラック数の相関関係を示すグラフである。
【
図3】ホール拡管率の測定方法に対する模式図である。
【
図4】本発明の実施例による時効割れ限界絞り比とホール拡管率の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施例による拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01~0.04%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:16~20%、Ni:6~10%、Cu:0.1~2.0%、Mo:0.2%以下、N:0.035~0.07%、残りFe及び不可避な不純物からなり、C+N:0.1%以下を満足し、下記式(1)で表示されるMd30(℃)値と平均結晶粒サイズ(μm)の積が-500未満を満足する。
(1)Md30(℃)=551-462*(C+N)-9.2*Si-8.1*Mn-13.7*Cr-29*(Ni+Cu)-18.5*Mo
ここで、C、N、Si、Mn、Cr、Ni、Cu、Moは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0015】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者に本発明の思想を充分に伝達するために提示するものであり、ここに提示した実施例に限定されず、他の形態で具体化することができる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを誇張して表現することがある。
【0016】
最近、自動車の燃料注入管は、耐食性に優れ且つ強度が高いステンレス鋼に転換されている。しかし、自動車の燃料注入管は、5~6段階の複雑な加工段階を経るため、拡管工程及び最終カーリング工程で円周方向のクラックが発生する問題がある。よって、本発明者らは、オーステナイトステンレス鋼板を自動車の燃料注入管用として冷燃製品を製造可能にすることで、拡管性に優れ、耐時効割れ性に優れたステンレス鋼を提供する事を目標とした。
本発明では、304材質規格の範囲を満足する材料強度(降伏強度230MPa以上、引張強度550MPa以上)の確保と同時に優れたホール拡管加工性と耐時効割れ特性を有する鋼材の開発を目標とした。304成分規格及び材質規格を満足する範囲内で、自動車の燃料注入管の成形工程で要求されるホール(Hole)拡散性と耐時効割れ性を同時に確保することは容易ではない。一般的に、304鋼は、TRIP(Transformation Induced Plasticity)特徴を有する鋼であって、0.5以上の高い加工硬化指数(n)を活用してシンク、洋食器などに用いられる鋼種である。しかし、304鋼は、TRIPにより発生する多量のマルテンサイトの生成によって燃料注入管の成形時に時効割れが引き起こされる問題がある。
【0017】
図1は、チューブ(Tube)造管品を用いて自動車の燃料注入管の成形過程を順に示す図である。
図1に示したとおり、自動車の燃料注入管の成形は、直径28.6mmのチューブの一側端部を4~5段階にわたって直径約50mmまで拡管加工し、そのために、70%以上の拡管率が要求される。また、最終拡管された燃料注入口は、カーリング工程を通じて直径59mmまで成形されて拡管率100%を超過することになる。
このように、一般の304鋼をそのまま燃料注入管で成形すると、要求される高い拡管率を満たすことができずに燃料注入管の注入口の円周方向に多数のクラック(時効割れ)が発生することになる。このため、耐時効割れ性の確保のために、一般的にMd30(℃)値のみを低めて加工硬化指数n値を0.5以下に管理する方法があるが、これは、低いホール拡管率により
図1のような5~6段階の拡管/カーリング加工段階でクラックが発生する問題が発生する。したがって、本発明では、高いホール拡管加工性と耐時効割れ性を同時に満足する具体的な冷燃製品の成分系組成範囲とパラメータを追求した。
【0018】
本発明の一実施例による拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.01~0.04%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:16~20%、Ni:6~10%、Cu:0.1~2.0%、Mo:0.2%以下、N:0.035~0.07%、残りFe及び不可避な不純物からなる。
以下、本発明の実施例での合金元素含量の数値限定理由について説明する。以下では、特に言及がない限り、単位は、重量%である。
【0019】
Cの含量は、0.01~0.04%である。
鋼中のCは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量添加するほどオーステナイト相が安定化する効果があるので、0.01%以上添加する必要はあるが、0.04%以上含有すると、変形誘起マルテンサイトを硬質化して成形中にひどく変形された部位で時効割れ(season crack)を発生させる。
【0020】
Siの含量は、0.1~1.0%である。
鋼中のSiは、製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であり、一定量を添加するとき、光輝焼鈍(Bright Annealing)工程を経る場合、不働態皮膜にSi-Oxideを形成して鋼の耐食性を向上させる効果がある。しかし、1.0%を超過して含有するとき、鋼の軟性を低下させる問題がある。
【0021】
Mnの含量は、0.1~2.0%である。
鋼中のMnは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量含有するほどオーステナイト相が安定化するので、0.1%以上添加するが、過度に添加すると、耐食性を阻害するので、2%以下に制限する。
【0022】
Crの含量は、16.0~20.0%である。
鋼中のCrは、耐食性の改善のための必須元素であって、耐食性の確保のために16.0%以上添加する必要があるが、過度に添加するときには、素材を硬質化して拡管加工性などの成形性を不利に低下させるので、20.0%に制限する。
【0023】
Niの含量は、6.0~10.0%である。
鋼中のニッケルは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量添加するほどオーステナイト相が安定化して素材を軟質化し、変形誘起マルテンサイトの発生に起因する加工硬化の抑制のために6.0%以上添加する必要がある。しかし、高価なNiを過度に添加すると、費用上昇の問題が発生するので、10.0%に制限する。
【0024】
Cuの含量は、0.1~2.0%である。
鋼中のCuは、オーステナイト相の安定化元素であって、添加するほどオーステナイト相が安定化して変形誘起マルテンサイトの発生に起因する加工硬化を抑制する効果があるので、0.1%以上を添加する。しかし、2.0%を超過して添加すると、耐食性が低下する問題及び費用上昇の問題がある。
【0025】
Moの含量は、0.2%以下である。
鋼中のMoは、添加するとき耐食性と加工性を向上させる効果があるが、過度な添加は、費用上昇を伴うので、0.2%以下に制限する。
【0026】
Nの含量は、0.035~0.07%である。
鋼中のNは、オーステナイト相の安定化元素であって、多量添加するほどオーステナイト相を安定化する効果及び材料の強度向上のために0.035%以上添加する必要はあるが、0.07%を超過して含有すると、変形誘起マルテンサイトを硬質化して成形中にひどく変形された部位で時効割れを発生させる。
【0027】
また、本発明の一実施例によると、C+Nは、0.06~0.1%の範囲を満足することがよい。
C+Nの含量を0.06%以上に制御することで、本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度(YS)230MPa以上及び引張強度(TS)550MPa以上を示すことができ、304材質規格を満足する。C+Nが0.1%を超過する場合には、Md30値と加工硬化指数n値は低くなるが、強度が過度に高くなって素材が軽くなるので、むしろ時効割れの発生可能性が高くなる。
また、本発明の一実施例による拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、Md30(℃)値と平均結晶粒サイズ(Grain Size、μm)の積が-500未満を満足する。
【0028】
すなわち、[Md30(℃)× Grain Size(μm)<-500]を満足し、Md30は、下式(1)のように表現される。
(1)Md30(℃)=551-462*(C+N)-9.2*Si-8.1*Mn-13.7*Cr-29*(Ni+Cu)-18.5*Mo
例えば、本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼のMd30値は、-10℃以下、平均結晶粒サイズ(GS)は、45μm以上であることがよい。
【0029】
準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイトの変態開始温度(Ms)以上の温度で塑性加工によってマルテンサイト変態が発生する。このような加工によって相変態を起こす上限温度は、Md値で示し、特に、30%の変形を付与するとき、マルテンサイトへの相変態が50%起きる温度(℃)をMd30と称する。Md30値が高いと、加工誘起マルテンサイト相の生成が容易であることに比べて、Md30値が低いと、加工誘起マルテンサイト相の生成が相対的に難しい鋼種と判断できる。このようなMd30値を通じて通常の準安定オーステナイト系ステンレス鋼のオーステナイト安定化度を判断できる指標として用いられる。
Md30値は、加工誘起マルテンサイトの生成量だけではなく、加工硬化指数にも影響を及ぼす。これによって、本発明の一実施例による拡管加工性及び耐時効割れ性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼は、真ひずみ0.3~0.4範囲での加工硬化指数n値が0.45~0.5の範囲を満足することができる。大部分の300系オーステナイトステンレス鋼素材は、変形初盤である真ひずみ10~20%で0.3~0.4範囲の加工硬化指数(n)を有するが、オーステナイト安定化度(Md30)によって変形後半である真ひずみ30%以上では、0.55以上の加工硬化指数を有する。
【0030】
加工硬化指数n値が0.45未満である場合、十分な加工硬化が行われず、むしろ延伸率が低下され、0.5超過の場合、過度な加工硬化が発生して加工誘起マルテンサイト相変態によって時効割れが引き起こされる虞がある。
これによって、本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼の時効割れ限界絞り比(Limited Drawing Ratio)は、2.97以上であってもよい。時効割れ限界絞り比は、時効割れが発生しない限界絞り比を意味し、絞り加工時の素材の最大直径(D)とパンチ直径(D’)の比(D/D’)を意味する。
本発明では、Md30値、最終冷燃製品の平均結晶粒サイズ及びC+N含量範囲を調和させることで、優れた拡管加工性及び耐時効割れ性を確保することができ、自動車の燃料注入管用拡管/カーリング成形時にもクラックの発生を防止することができる。
【0031】
また、本発明の一実施例によると、下式(2)で表示されるホール拡管率(HoleExpansion Rate、HER)が72%以上であることがよい。
(2)HER=(Dh-D0)/D0×100
ここで、Dhは、破断後の内径、D0は、初期内径を意味する。
【0032】
以下、本発明の好ましい実施例を通じてより詳しく説明する。
【0033】
燃料注入管の成形-クラック評価
表1に示した成分系のオーステナイト系ステンレス鋼を、一部は、Lab.真空溶解を行ってインゴット(Ingot)を製造し、一部は、電気炉-VOD-連続工程を経てスラブ(Slab)を製造した。製造されたインゴットとスラブは、1,240℃で1~2時間再加熱した後、粗圧延機と連続仕上げ圧延機により熱延剤で製造し、1,000~1,100℃の温度で熱延焼鈍を行った後に冷間圧延及び冷延焼鈍を行った。
【0034】
【表1】
表1に記載した実施例及び比較例の鋼種を用い、
図1に示したように、1~5段階の拡管加工及び6段階のカーリング加工を行った。
【0035】
【表2】
表1及び表2に示したとおり、本発明によるC+N:0.06~0.1%の範囲、Md30(℃)× Grain Size(μm)値が-500未満では、5段階の拡管加工及び6段階のカーリング加工後にも燃料注入管の先端のカーリング部に円周方向のクラックが発生しないことが確認された。
【0036】
図2は、Md30(℃)× Grain Size(μm)による燃料注入管の円周方向のクラック数の相関関係を示すグラフである。Md30(℃)× Grain Size(μm)とチューブ先端の円周方向のクラック数の相関性は、
図2に示したとうり、非常に強い相関関係を示す。Md30(℃)× Grain Size(μm)パラメータ値が-500~0の範囲では、円周方向に多くは4ヶ所、少なくは1ヶ所で加工クラック又は時効割れクラックが発生した。また、Md30(℃)× Grain Size(μm)パラメータ値が0~500範囲の+値を示すときには、円周方向のクラック数が5ヶ所以上に増加することが確認できた。
実施例1~7は、Md30値を-10℃以下に管理し、平均結晶粒サイズを45μm以上に製造して、Md30(℃)× Grain Size(μm)パラメータ値を-500以下に制御することで、一軸引張試験で真ひずみ(true strain)0.3~0.4区間での加工硬化指数(n)が0.45~0.5の範囲を有し、チューブ拡管加工及びカーリング加工でクラックが発生しないことが確認された。
【0037】
比較例1、2、3、10は、C+N範囲が0.1%を超過して、Md30値は-10℃以下と低かったが、真ひずみ0.3~0.4区間での加工硬化指数(n)が0.45以下と低かったので、チューブ拡管加工及びカーリング加工後にクラックが発生した。
比較例6、7、11、12、15、16、17、18、21、23は、-5℃以下の低いMd30値を有するが、45μm未満の微細な結晶粒サイズによって真ひずみ0.3~0.4区間で加工硬化指数(n)が0.45以下の区間を含むので、チューブ拡管加工及びカーリング加工後にクラックが発生した。
比較例4、5、8、9、13、14、19、20は、0℃以上の高いMd30値によって真ひずみ0.3~0.4区間で加工硬化指数(n)が0.5以上の範囲を含み、これによって、チューブ拡管加工及びカーリング加工後に多くの加工誘起マルテンサイトを生成して、時効割れによるクラックが発生した。
【0038】
限界絞り比及び拡管率の評価
表1に記載した実施例と比較例の鋼種のうちその一部に対して時効割れ限界絞り比とホール拡管率(Hole Expansion Rate、HER)を測定した。
時効割れ限界絞り比は、時効割れが発生しない限界絞り比であって、絞り加工時の素材の最大直径(D)とパンチ直径(D’)の比(D/D’)を意味する。
【0039】
図3は、ホール拡管率の評価方法を示す模式図である。
図3の評価方法を用いて上記の式(2)によってホール拡管率を測定した。
【0040】
【0041】
図4は、本発明の実施例による事項割れ限界搾り比とホール拡管率の範囲を示すグラフである。燃料注入管チューブの5段階拡管加工及びカーリング加工後にもクラックが発生しない健全な成形性を確保するためには、材料の十分なホール拡管性及び耐時効割れ抵抗性が要求される。実施例1~7は、Md30値を-10℃以下に管理し、平均結晶粒サイズを45μm以上に製造して、Md30(℃)×Grain Size(μm)パラメータ値を-500以下に制御することで、2.97以上の時効割れ限界絞り比と72%以上のホール拡管率(HER)を同時に満足した。
図4の四角形ボックス内の実施例は、本発明の時効割れ限界絞り比及びホール拡管率を全て満足することが分かる。
比較例2、6、7、12、15、23は、-5℃以下の低いMd30値を有するが、30μm以下の微細な結晶粒サイズにより70%以下の拡管率を示した。
比較例4、5、8、9、14、19、20は、0℃以上の高いMd30値により2.97未満の時効割れ限界絞り比を示した。
【0042】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、拡管加工性と耐時効割れ性に優れるため、自動車の燃料注入管への成形時にクラックを防止することができるので、炭素鋼を代替して複雑な形状の自動車の燃料注入管への適用が可能である。