(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】亜鉛めっき鋼板の重ね溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20221208BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20221208BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B23K9/23 K
B23K9/16 J
B23K9/073 525
(21)【出願番号】P 2021518922
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 KR2019013207
(87)【国際公開番号】W WO2020091254
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129810
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ギュ-ヨル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ホ-ス
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0074826(KR,A)
【文献】特開2014-061526(JP,A)
【文献】特開2005-028383(JP,A)
【文献】特開2010-264487(JP,A)
【文献】特開平11-138265(JP,A)
【文献】特開2003-334657(JP,A)
【文献】特開平07-009150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/16
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接材料を用いて亜鉛めっき鋼板を重ね溶接する方法において、溶接の際、溶接電流150~300A、保護ガスAr
に体積比で10~30%
のCO
2
を含む混合ガス
を供給し、及び下記関係式1により定義される溶接
時間に依存する極性分率が0.25~0.35の範囲を満たすように溶接の極性を交互に変更
し、溶接部の気孔面積率が0.97%以下、引張強度が700MPa以上であることを特徴とする亜鉛めっき鋼板の溶接方法。
[関係式1]
EN
R,%/(EP
R,%+EN
R,%)
ここで、EN
R,%は
直流負極溶接の極性分率を、EP
R,%は
直流正極溶接の極性分率を示す。
【請求項2】
前記重ね溶接により形成される溶接継手部の間隙が0mmであることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板の溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電流が200~270Aであることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車シャーシ部品などに適用される引張強度780MPa以上及び厚さ6mm以下の亜鉛めっき(Hot-dip Gavanizing)鋼板の重ね溶接方法に関し、溶接の際にアーク電流の極性を適正分率に制御して、重ね継手部の間隙付与及びアーク位置の変更など、従来の制約条件を導入することなく溶接速度100cm/minまで溶接部の気孔欠陥を効果的に低減することで、溶接金属の強度を向上させることができる亜鉛めっき鋼板の重ね溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野では、地球温暖化の問題など、環境保護による燃費規制の政策として、車体及び部品類の軽量化が課題となっている。自動車の走行性能に重要なシャーシ部品類においても、このような基調に伴い、軽量化のための高強度鋼材の適用が求められている。部品の軽量化には、素材の高強度化が必須であり、反復的な疲労荷重が加えられる環境において、高強度鋼材で作製された部品の耐久性能の保証は重要な要素といえる。自動車シャーシ部品の組立時に、主に用いられるアーク溶接の場合、溶接ワイヤの溶着により部品間の重ね継手溶接が行われるため、特に高強度鋼の場合には、溶接金属の強度の確保が重要である。また、上述のように部品類の高強度及び軽量化による素材の薄物化により、貫通腐食防止のための防錆性に対する要求が増加し、めっき鋼材の採用が増加している傾向にあるが、アーク溶接時のピットまたはブローホールといった気孔欠陥の発生に敏感であり、溶接部の強度を低下させる要因となっている。特に、高強度鋼であるほど溶接金属部の気孔欠陥による強度の不足により、溶接金属の破損が発生する恐れが大きい。
【0003】
従来は、特許文献1によると、Zn系亜鉛めっき鋼板のアーク溶接部の気孔欠陥の発生を抑制するために、重ね継手部の間隔を0.2~1.5mmの範囲に設定することを提案している。しかしながら、実際の部品に適用する際しては、間隔のない継手部構造に対する溶接特性が保証できないという限界を有する。また、特許文献2によると、この問題を解決すべく、ArにCO2とO2を混合した三元系保護ガスとSi及びMnなどの含量を制限した低粘性ソリッドワイヤを適用すること、並びに、これに加えてアーク位置を溶接重ね継手部の先端から1mm隔てることを提案しているが、保護ガスと溶接材料の制限が不可避であり、実際部品への適用時にアーク位置を一定に保持しなければならないという制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-101593号公報
【文献】特開2015-167981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、亜鉛めっき鋼板の重ね溶接の際、溶接部の気孔欠陥が効果的に低減できるようにアーク溶接電流の極性分率を最適化することにより、従来の溶接重ね継手部への隙間付与、継手幅の調整、及びアーク位置の変更などの溶接の制約条件がなく、部品溶接部を含めて引張強度が780MPa以上及び厚さ6mm以下の亜鉛めっき鋼板を可能とする亜鉛めっき鋼板の重ね溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明による亜鉛めっき鋼板の溶接方法は、溶接材料を用いて亜鉛めっき鋼板を重ね溶接する方法において、溶接の際、溶接電流150~300A、保護ガスAr+10~30%のCO2の混合ガス、及び下記関係式1により定義される溶接の極性分率が0.25~0.35の範囲を満たすように溶接の極性を交互に変更することを特徴とする。
【0007】
[関係式1]
ENR,%/(EPR,%+ENR,%)
ここで、ENR,%は負極溶接の極性分率を、EPR,%は正極溶接の極性分率を示す。
【0008】
前記溶接材料は、E70C-GS Φ1.0 metal cored wireであることを特徴とする。
【0009】
前記溶接継手部の間隙は0mmであることを特徴とする。
【0010】
前記溶接電流は200~270Aであることを特徴とする。
【0011】
前記亜鉛めっき鋼板はHGI 780HB鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、アーク溶接電流の極性分率を最適化することにより、継手部の間隙のない重ね継手溶接部における効果的な気孔欠陥が低減できる。これにより製造された引張強度780MPa以上の亜鉛めっき鋼板部品の溶接部の強度を効果的に向上させることができる。したがって、自動車シャーシ部材などのような部品類の高強度、薄物化による防錆性を確保するための亜鉛めっき鋼板の採用を拡大可能な産業的意義を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例によるアーク溶接電流の極性分率を示す模式図である。
【
図2】亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化する前・後の溶接ビードの断面写真である(使用した溶接母材は、HGI 780Hyber Burring鋼の2.0mmtであって、引張強度が810MPaであり、そのめっき付着量は片面100g/m
2である)。
【
図3】亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の外観及び溶接部のX-線透過結果を示す写真である(溶接速度100cm/min)。
【
図4】亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の硬度測定結果を示すグラフである。
【
図5】亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の引張曲線結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
亜鉛めっき鋼板の重ね溶接の際、アーク溶接電流の極性分率を最適に制御することで、溶接により形成される溶融池を振動させて亜鉛蒸気を外部に効果的に排出させることが可能であり、これにより、究極的に溶接金属の気孔欠陥を低減できることを確認したので、本発明を提示する。
【0015】
すなわち、本発明の亜鉛めっき鋼板の溶接方法は、溶接材料を用いて亜鉛めっき鋼板を重ね溶接する方法において、溶接の際、溶接電流150~300A、保護ガスAr+10~30%CO2の混合ガス、及び下記関係式1により定義される溶接の極性分率が0.25~0.35の範囲を満たすように溶接の極性を交互に変更させることを特徴とする。
【0016】
まず、本発明は、亜鉛めっき鋼板の重ね溶接方法に関するものである。
【0017】
重ね溶接方法とは、第1亜鉛めっき鋼板及び第1めっき鋼板上に一部が重なるように積層された第2亜鉛めっき鋼板を重ねアーク溶接により溶接金属を形成しながら溶接する方法をいう。
【0018】
本発明において、亜鉛めっき鋼板は、一般の亜鉛めっきされた熱延ないし冷延鋼板を含み、さらに、めっき鋼板は、Zn-Mg-Al系合金めっき鋼板であってもよい。
【0019】
本発明では、第1亜鉛めっき鋼板及び第1めっき鋼板上に一部が重なるように積層された第2亜鉛めっき鋼板をアーク溶接によって接合させて溶接金属を形成する。すなわち、第1亜鉛めっき鋼板と第2亜鉛めっき鋼板とを用意した後、第1めっき鋼板上に第2めっき鋼板を少なくとも一部が重なるように積層して溶接ライン(welding line)を形成し、その後、形成された溶接ラインに沿ってシールドガスを提供しつつ溶接材料に溶接電流を供給すると、アークが発生してアーク溶接を行うことができる。
【0020】
本発明では、このとき、溶接継手部の重なり幅は、約25mm程度に適用できるが、これに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明において、溶接材料はE70C-GS Φ1.0 metal cored wireを用いることができ、特に溶接材料の種類及び成分に制限されない。
【0022】
そして、溶接時の溶接電流は、150A以上及び300A以下に制限することが好ましく、200A以上及び270A以下に制限することがさらに好ましい。電流が低すぎると、アーク力の減少によりめっき蒸気の排出効果が低下し、逆に電流が高すぎると、溶融溶接金属部が不安定となり、気孔欠陥の発生が増加する。
【0023】
また、本発明において、溶接時の保護ガスとして、Arに10~30%CO2を混合することが必要である。すなわち、シールドガスはArガスであって、10乃至30%のCO2ガスを含むが、CO2ガスを10%未満含む場合は、アーク拡大によるアーク熱のピンチ力の効果が減少し、めっき蒸気の排出効果を低下させるようになり、CO2ガスを30%を超えて含む場合には、アーク収縮によるアーク熱のピンチ力の効果が過剰となって、めっき蒸気の排出効果を低下させる。
【0024】
また、本発明では、アーク溶接の際、溶接のトーチ角度を30~45°、進行角を0~25°の範囲に管理することが好ましい。
【0025】
なお、本発明では、溶接継手部の間隙を0mmで適用することができるが、これに特に制限されるものではない。
【0026】
一方、亜鉛めっき鋼板の重ね溶接の場合、アーク溶接の際、アーク熱により沸点の低い亜鉛めっき層が亜鉛ガスとなって溶融池の上部に浮上するが、これらのほとんどは放出され、一部が溶融池に残留して凝固時に球状の空洞であるブローホールが形成される。したがって、溶接により製造された溶接金属の内部に気孔欠陥を有するようになり、優れた引張強度を有する溶接金属が得られないという問題があった。
【0027】
したがって、本発明は、このような問題点を解消するためのものであって、下記関係式1により定義される溶接の極性分率が0.25~0.35の範囲を満たすように溶接の極性を交互に変更させることを特徴とする。これにより、溶接により形成される溶融池を振動させて亜鉛蒸気を排出することで、溶接金属の気孔欠陥を減らすことができる。
【0028】
[関係式1]
ENR,%/(EPR,%+ENR,%)
ここで、ENR,%は負極溶接の極性分率を、EPR,%は正極溶接の極性分率を示す。
【0029】
図1は、本発明の一実施例によるアーク溶接電流の極性分率を示す模式図である。
図1のように、溶接の極性分率を適切に混合して可変させることで、アーク圧力及び容積移行周波数の増大により溶融池の振動が増加し、亜鉛蒸気の排出増大を促進することができる。
【0030】
本発明では、このように亜鉛めっき鋼板の重ね溶接の際、溶融池から亜鉛蒸気を効果的に排出させるために、溶接材料の正極の極性分率(EPR,%)と溶接母材の負極の極性分率(ENR,%)を、関係式1の値が適正値となるように制御することを特徴とし、このような概念の導入は、以下のような技術思想に起因する。
【0031】
一般のDCEP(Direct Current Electrode Positive)Pulseの場合、アーク収縮による入熱増加により溶融池の体積が増加して、溶接時に発生した亜鉛蒸気による気孔排出が低減するという限界点がある。これに対し、DCEPとDCEN(Direct Current Electrode Negative)極性を適正分率で混合して可変する場合、アーク収縮及び酸素雰囲気の増加によりDCEN周期におけるワイヤの負極性の活性化を増大させることができる。すなわち、DCEN周期中にワイヤの上端で負極点の発生及びアークの集中が頻繁となってワイヤが加熱され、続くDCEP周期において電流パスが保持されることで、ワイヤの上端でアークが発生するようになる。このとき、globular及びspray容積移行モードが発生して容積移行周波数が増加するとともに、アーク圧力の加圧周波数が同時に増加して溶融池内に発生した気孔の排出を極大化することができる。
【0032】
したがって、可変極性アークの場合、アーク圧力及び容積移行が不規則かつ高周波であるため、気孔の排出効果に優れている。但し、DCEN極性分率が適正値未満と低い場合、関係式1により定義される値が0.25未満であると、その効果が減少する。
【0033】
一方、HGIのような亜鉛めっき鋼板の場合、亜鉛めっき層の影響によりDCEN極性においてアークが偏心される現象が発生し、母材の表面に負極点が広い領域にかけて分布することでアークの有効半径が減少したり、あるいは負極点が特定の領域に集中する現象が発生し、溶接入熱の効率が低下する。また、DCEN極性分率が高いほど、粗大で不安定なglobular移行及びアークが発生し、容積において負極点の露出時間が増加することで、容積表面のcathode jetの発生により極めて不安定かつ過度なスパッタが発生するため、アークの不安定及び気孔排出の低減が現れる。すなわち、DCEN極性分率が適正値(関係式1により定義される値が0.35を超える)を超える場合、むしろ溶接部の気孔欠陥の発生を抑制する上で逆効果となる。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
(実施例)
片面のめっき付着量が100g/m2である2.0mmtのHGI 780Hyber Burring鋼板2枚を25mmが重なり合うようにした後、その連結部を溶接した。具体的には、表1-2にそれぞれ示すような溶接材料及び溶接条件を用いて、HGI 780HB鋼を重ね溶接した。そして、そのときのピット発生の有無及び気孔面積率を測定して下記表1に示し、溶接部の引張強度及び破断位値を測定して表2に示した。
【0036】
【0037】
【0038】
表1-2に示すように、溶接電流などの溶接条件のみならず、関係式1により定義される極性分率値が0.25~0.35の範囲を満たす本発明例1-3は、そうでない比較例1-8に比べて亜鉛蒸気の排出効果が減少して、溶接部内の気孔欠陥が低減した。これにより溶接部の引張強度が改善することが分かる。
【0039】
一方、
図2は、亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化する前(比較例8)・後(発明例2)の溶接ビードの断面写真であり、
図3は、本発明例2の亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の外観及び溶接部のX線透過結果を示す写真であり(溶接速度100cm/min)、
図4は、本発明例2の亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の硬度測定結果を示すグラフであり、そして、
図5は、本発明例2の亜鉛めっき鋼板のアーク溶接電流の極性分率を最適化した後の溶接部の引張曲線結果を示すグラフである。
【0040】
図4及び
図5に示すように、溶接速度100cm/minにおいても、溶接金属部の硬度値は、気孔欠陥による大幅の下落がなく、かなり一定であることが分かり、また溶接部の引張試験においても、溶接金属部が破損することなく溶接熱影響部で破断され、溶接金属内の気孔欠陥の発生が抑制された結果が得られる。