(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20221208BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20221208BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221208BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221208BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20221208BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221208BHJP
C12Q 1/28 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12Q1/6813 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/02
C12N5/0775
G01N33/53 M
C12Q1/28
(21)【出願番号】P 2021525205
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 KR2019014959
(87)【国際公開番号】W WO2020096339
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0137579
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520493429
【氏名又は名称】コアステム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CORESTEM CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ギム ギョンスク
(72)【発明者】
【氏名】イ テヨン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106370855(CN,A)
【文献】特開2009-165394(JP,A)
【文献】Lei Huang et al.,Stem Cell Research & Therapy,2015年,Vol. 6, No. 77,p. 1-18
【文献】So Yong Kim et al.,The Journal of Biological Chemistry,2008年11月28日,Vol. 283, No. 48,p. 33563-33568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマーカーとしてのペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6
を測定するための製剤を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用
組成物。
【請求項2】
前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6は、間葉系幹細胞のインテグリンβ3を調節することを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用
組成物。
【請求項3】
前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が過発現する場合、細胞増殖および移動能力が増加することを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用
組成物。
【請求項4】
前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤は、前記バイオマーカーに特異的に結合するプライマーペア、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項
1に記載の間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物。
【請求項5】
請求項
1に記載の組成物を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キット。
【請求項6】
前記キットは、RT-PCRキット、競争的RP-PCRキット、リアルタイムRT-PCRキット、定量的RT-PCRキットまたはDNAチップキットであることを特徴とする請求項
5に記載の間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キット。
【請求項7】
対象の生物学的試料か
らバイオマーカー
としてのペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6の発現水準を測定した後、比較対照群試料の当該バイオマーカーの発現水準と比較する段階を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法。
【請求項8】
前記バイオマーカー発現水準を測定する方法は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競争的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(real time quantitative RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative RT-PCR)、RNase保護分析法(RNase protection method)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)またはDNAチップ方法(DNA chip technology)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)、免疫組織化学染色法(immunohistochemical staining)、免疫沈降分析法(immunoprecipitation assay)、補体固定分析法(complement Fixation Assay)または免疫蛍光法(immunofluorescence)であることを特徴とする請求項
7に記載の間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法。
【請求項9】
バイオマーカーとしてのペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6の発現量を測定して、細胞増殖および移動能力に優れた間葉系幹細胞をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年11月9日に出願された韓国特許出願第10-2018-0137579号を優先権として主張し、前記明細書の全体は、本出願の参考文献である。
【0002】
本発明は、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーおよびその用途に関し、より詳細には、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6を含む間葉系幹細胞の増殖または移動能力予測用バイオマーカーとその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞(stem cell)とは、組織を構成する各細胞に分化(differentiation)する前段階の未分化細胞を総称して言う言葉であり、特定の分化刺激(環境)によって特定の細胞への分化が進行される。幹細胞は、細胞分裂が停止した分化した細胞とは異なって、細胞分裂により自分と同じ細胞を生産(self-renewal)することができて、増殖(proliferation;expansion)する特性があり、また、分化刺激が加えられると、特定の細胞に分化するが、他の環境または他の分化刺激により他の細胞にも分化することができて、分化に柔軟性(plasticity)を有していることが特徴である。
【0004】
このような幹細胞の多分化性は、ヒトの発生過程の研究のための良い実験モデル(in vitro model)を提供する。幹細胞から得られた均質なヒトの組織や、細胞を対象に薬物検査、毒性検査を行うと、新薬の開発が容易になりえる。ひいては、損傷された組織を代替できる細胞や組織を多量で得ることができるようになって、難治性疾病の治療に利用することができる。
【0005】
間葉系幹細胞は、幹細胞能(stemness)と自己再生能(self renewal)を維持し、多様な間葉組織に分化できる能力(plasticity)を有する細胞である。骨髄(bone marrow)、脂肪組織(adipose tissue)、臍帯血(umbilical cord blood)、滑膜(synovial membrane)、骨組織(trabecular bone)、膝蓋下脂肪体(infrapatellar fat pad)等から抽出することができる。間葉系幹細胞は、Tリンパ球、Bリンパ球の活性、増殖を抑制し、ナチュラルキラー細胞(natural killer cell,NK cell)の活性を抑制し、樹状細胞(dendritic cell)とマクロファージ(macrophage)の機能を調節する免疫調節能力を有しているので、同種移植(allotransplantation)と異種移植(xenotransplantation)が可能な細胞である。また、間葉系幹細胞は、軟骨、骨組織、靭帯、骨髄基質など多様な結合組織に分化できる能力を有する。特に脂肪組織に由来する脂肪由来の間葉系幹細胞は、ASC(adipose-derived stem/stromal cell)やADAS(adipose-derived adult stem cell)等の名前で細分化され、外傷や、腫瘍除去手術、火傷などによってできた軟部組織欠損を治療する生体材料の生産に応用され得る。
【0006】
一方、ペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin、PRDX)は、過酸化物を還元する過酸化酵素(peroxidase)であり、PRDXは、多くの組織に発現しており、多量存在していて、生体内で重要な役割を担当していることが予想される。哺乳動物のPRDXは、シトソール(cytosol)内総タンパク質の0.2~0.4%になるほど多量存在している。哺乳動物は、12種類のアイソフォーム(isoform)が報告され、代表的に6つの類型(PRDX1~6)に分離している。PRDX1~5は、2-システイン(2-cysteine)を有する構造であり、還元剤としてチオレドキシン(thioredoxin)を使用し、PRDX6は、1-システイン(1-cystein)を有する構造であり、グルタチオン(glutathione)を還元剤として使用する。
【0007】
現在までペルオキシレドキシン1を肺癌診断用タンパク質マーカーとしてまたは乳癌診断用マーカーとして利用したり、ペルオキシレドキシン2を癌の診断および治療に利用する技術およびペルオキシレドキシン6の癌の浸潤または転移標的としての用途(韓国公開特許第10-2009-0095304号)等については知られているが、間葉系幹細胞の増殖および移動能力を予測するためのバイオマーカーとしてのペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6の用途については報告されたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国特許公開第10-2009-0095304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6を含む間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記組成物を含む間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キットを提供する。
【0012】
また、本発明は、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法を提供する。
【0013】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーを提供する。
【0015】
前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6は、間葉系幹細胞のインテグリンβ3を調節することができる。
【0016】
前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が過発現する場合、細胞増殖および移動能力が増加することができる。
【0017】
また、本発明は、前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物を提供する。
【0018】
前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤は、前記バイオマーカーに特異的に結合するプライマーペア、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを含むことを特徴とする、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記組成物を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キットを提供する。
【0020】
前記キットは、RT-PCRキット、競争的RP-PCRキット、リアルタイムRT-PCRキット、定量的RT-PCRキットまたはDNAチップキットでありうる。
【0021】
また、本発明は、対象の生物学的試料から請求項1に記載のバイオマーカーの発現水準を測定した後、比較対照群試料の当該バイオマーカーの発現水準と比較する段階を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法を提供する。
【0022】
前記バイオマーカー発現水準を測定する方法は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競争的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(real time quantitative RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative RT-PCR)、RNase保護分析法(RNase protection method)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)またはDNAチップ方法(DNA chip technology)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)、免疫組織化学染色法(immunohistochemical staining)、免疫沈降分析法(immunoprecipitation assay)、補体固定分析法(complement Fixation Assay)または免疫蛍光法(immunofluorescence)でありうる。
【0023】
また、本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6の発現量を測定して、細胞増殖および移動能力に優れた間葉系幹細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーに関し、前記バイオマーカーの発現水準を測定することによって、間葉系幹細胞の増殖および移動能力を予測することができる。また、間葉系幹細胞の増殖および移動能力を予測することによって、治療用に投与された幹細胞が標的組織や部位に到達して治療効能を従来よりさらに高めることができるので、これに対する観点から細胞治療効能を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】MRL/lprマウスの脾臓と腎臓内PRDX6発現度を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図2】MSCでのPRDX6発現程度を分析したものである。
【
図3】PRDX6-KD(knockdown)hMSCが細胞増殖および細胞死に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図4】PRDX6-KD hMSCが過酸化水素に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図5】PRDX6-KD hMSCが細胞付着(adhesion)および拡張(spreading)に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図6】PRDX6-KD hMSCが運動性(motility)および浸潤性(invasion)に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図7】PRDX6-KD hMSCが移動(migration)に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図8】PRDX6-KD hMSCと、インテグリンおよびMMPとの関連性を分析したものである。
【
図9】PRDX6-KD hMSCが免疫抑制能に及ぼす影響を分析したものである。
【
図10】PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCの特徴を分析したものである。
【
図11】PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが細胞増殖に及ぼす影響を分析したものである。
【
図12】PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが運動性(motility)および浸潤性(invasion)に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図13】PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが免疫抑制能に及ぼす影響を分析したものである(
*p<0.01)。
【
図14】PRDX6-KD hMSCとPGE2との関連性を分析したものである(
*p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0027】
(間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカー)
本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用バイオマーカーを提供する。前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6は、間葉系幹細胞のインテグリンβ3を調節することができる。前記ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が過発現する場合、細胞増殖および移動能力が増加することができ、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が低発現する場合、細胞増殖および移動能力が減少することができる。
【0028】
本明細書で使用される用語「過発現」は、調査対象の試料(例えば、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞)での対象となるヌクレオチド配列の発現程度が野生型間葉系幹細胞の平均発現値と比較して高い場合(好ましくは、1.5倍以上)を意味する。
【0029】
前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、臍帯血、胎盤、臍帯血、または血液由来の幹細胞でありうる。
【0030】
(間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物)
本発明は、前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用組成物を提供する。
【0031】
具体的に前記バイオマーカーの発現水準を測定する製剤は、前記バイオマーカーに特異的に結合するプライマーペア、プローブまたはアンチセンスヌクレオチドを含むことができる。本発明による組成物は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6のポリヌクレオチドのセンスおよびアンチセンスプライマーを利用してPCR増幅を実施して、所望の生成物の生成有無を通じて間葉系幹細胞の増殖および移動能力を予測することができ、PCR条件、センスおよびアンチセンスプライマーの長さは、当業界に公知となったものを基礎として変形することができる。また、本発明のプライマーは、ホスホロアミダイト固体支持体方法またはその他広く公知された方法を使用して化学的に合成することができ、このような核酸配列は、また、当該分野に公知となった多くの手段を利用して変形させることができる。このような変形の非制限的例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチド1つ以上の同族体への置換、およびヌクレオチド間の変形、例えば、荷電しない連結体(例:メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、カルバメートなど)または荷電した連結体(例:ホスホロチオエート、ホスホロジチオアートなど)への変形がある。
【0032】
(間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キット)
本発明は、前記組成物を含む間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用キットを提供する。前記キットは、RT-PCRキット、競争的RP-PCRキット、リアルタイムRT-PCRキット、定量的RT-PCRキットまたはDNAチップキットでありうる。
【0033】
具体的に、前記バイオマーカーの発現水準を測定するためのキットは、RT-PCRを行うために必要な必須要素を含むキットでありうる。RT-PCRキットは、マーカー遺伝子に対する特異的なそれぞれのプライマーペアの他にも、テストチューブまたは他の適切なコンテナ、反応緩衝液、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼおよび逆転写酵素、DNase、RNase抑制剤、DEPC-水(DEPC-water)、滅菌水などを含むことができる。
【0034】
また、本発明のキットは、DNAチップを行うために必要な必須要素を含む間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測用遺伝子を検出するためのキットでありうる。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に該当するcDNAがプローブに付着している基板を含み、基板は、定量対照群遺伝子またはその断片に該当するcDNAを含むことができる。
【0035】
(間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法)
本発明は、対象の生物学的試料から前記バイオマーカーの発現水準を測定した後、比較対照群試料の当該バイオマーカーの発現水準と比較する段階を含む、間葉系幹細胞の増殖および移動能力予測のための情報提供方法を提供する。
【0036】
前記バイオマーカー発現水準を測定する方法は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競争的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(real time quantitative RT-PCR)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative RT-PCR)、RNase保護分析法(RNase protection method)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)またはDNAチップ方法(DNA chip technology)、ノーザンブロッティング(Nothern blotting)、免疫組織化学染色法(immunohistochemical staining)、免疫沈降分析法(immunoprecipitation assay)、補体固定分析法(complement Fixation Assay)または免疫蛍光法(immunofluorescence)でありうる。
【0037】
本明細書で使用される用語「生物学的試料」とは、本発明のバイオマーカーの発現が検出され得る個体から得られるすべての試料を意味する。例えば、骨髄、脂肪組織または末梢血液などから得られるが、これに制限されるものではなく、本発明の技術分野における通常的に使用される方法で処理して準備され得る。
【0038】
(細胞増殖および移動能力に優れた間葉系幹細胞をスクリーニングする方法)
本発明は、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6の発現量を測定して、細胞増殖および移動能力に優れた間葉系幹細胞をスクリーニングする方法を提供する。ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が過発現する場合、間葉系幹細胞の増殖、移動、付着能力が増加し、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)6が低発現する場合は、間葉系幹細胞の増殖、移動、付着能力が減少する。
【0039】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。本発明の目的、特徴、長所は、以下の実施例を通じて容易に理解され得る。本発明は、ここで説明する実施例に限定されず、他の形態で具体化されることもできる。ここで紹介される実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想が十分に伝達され得るようにするために提供されるものである。したがって、以下の実施例によって本発明が制限されてはならない。
【実施例】
【0040】
<材料および実験方法>
(材料)
Female MRL/MpJ-Faslpr/J(以下、MRL/lprと命名する)マウスは、米国Jackson Laboratoryから購入した。マウスの飼育環境は、温度21~24℃、湿度40~60%、明暗周期は12時間(点灯:08時、消灯:20時)であり、SPF(specific pathogen-free)状態を維持した。固形飼料と飲水は滅菌して自由給餌させ、すべての実験動物は、1週間動物室で適応させた後、実験に使用した。
【0041】
Human MSC(mesenchymal stem cell、以下hMSCと命名する)とmouse MSC(以下mMSCと命名する)は、ヒトまたはマウスの脛骨(tibiae)および大腿骨(femurs)のBM(Bone marrow)細胞から収得した。hMSCは、BM細胞は、CSBM-A06 medium(コアステム(株)、Korea)に10%ウシ胎児血清(FBS,fetal bovine serum)および1%ペニシリンストレプトマイシン(Penicillin streptomycin)を含む培地で37℃、7%CO2条件で培養した。
【0042】
PRDX6-ノックダウン(knockdown)hMSCは、siRNA(small interfering RNA)(Bioneer社製、Korea)と呼ばれる12-21 merのdsRNAにより配列特異的に遺伝子発現が抑制される現象を利用して、48時間の間培養してPRDX6-ノックダウン(knockdown)反応を誘導した。
【0043】
(IFN-γELISA)
IFN-γの測定は、R&D(#DY285-05)で提供された試験方法によって進めた。ELISA用96 wellに捕捉抗体(capture antibody)とコーティングバッファー(coating buffer)を1:250の割合で希釈して4℃で18時間コーティングした。200μlの洗浄溶液(wash solution)を利用して2回洗浄し、ブロッキングバッファー(blocking buffer)250μlをウェル(well)に入れた後、室温で2時間反応させた。その後、200μlの洗浄溶液(wash solution)を利用して2回洗浄し、試料をアッセイバッファー(assay buffer)(1X)に希釈してサンプルを準備した。各ウェル(well)にアッセイバッファー(1x)90μl、検出抗体(detection-antibody)50μlおよびスタンダード(standard)またはサンプル(sample)10μlを入れて室温で3時間反応させた。反応が終わると、洗浄溶液(wash solution)を利用して洗浄した。基質溶液(Substrate solution)100μlを各wellに入れた後、5分間反応させ、停止液(stop solution)100μlを入れて反応を中止させた。最後に450nm~570nmで値を測定した。
【0044】
(トリゾール方法(Trizol method)を利用したRNA分離)
細胞(Cell)が70~80%のコンフルエンス(confluency)となった時点でTrypsin-EDTA(Gibco)0.125%で処理した後、5%CO2、37℃の条件下に培養した。物質処理24時間後、細胞を回収して、TRIZOL reagent(Invitrogen,MD,USA)を利用してtotal RNAをcellから分離し、260nmで吸光度の測定を通じてトータルRNA(total RNA)を定量した。
【0045】
(ウェスタンブロット(western blot))
細胞溶解バッファー(Cell lysis buffer;Cell signaling technology,Danvers,MA,USA)を利用して細胞をiceに載置した状態で溶解した。4℃で12000rpmで15分間遠心分離してタンパク質を得た。ブラッドフォード(Bradford)試薬を利用してタンパク質を定量して20μgのタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel)を利用して75Vで電気泳動を実施した。SDS-ポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel)を95Vで90分間PVDFメンブレン(membrane)に移した後、0.5%ツイン(Tween)20が含まれたTBS(TTBS)に5% nonfat dry milkを添加して1時間ブロッキング(blocking)した。ブロッキング(blocking)後、1次抗体が含まれた5%BSA/TTBSにメンブレンを入れ、4℃で1日間シェイキング(shaking)した。翌日、TTBSでメンブレンを洗浄した後、2次抗体が入っている5%BSA/TTBSにメンブレンを入れて、常温で90分間2次抗体を付着した。TTBSでメンブレンを洗浄し、ECL(Enhanced Chemiluminescence,Amersham Pharmacia Biotech,Piscataway,NJ,USA)とmembraneを反応させた後、Chemi Doc XRS+machine(Bio-Rad,CA,USA)を利用してタンパク質発現程度を測定した。
【0046】
(逆転写酵素(Reverse transcriptase)-PCR)
トータル(total)RNA 0.3μgの濃度を利用し、42℃で1時間、95℃で5分間合成した。合成されたcDNA 3μlとprimer 10pMを利用してポリメラーゼ連鎖反応を行った。この反応の基本過程は、pre-denaturing phase、94℃、5分を行い、denaturing phase、94℃で30秒、annealing phase、56℃で30秒、elongation phase、72℃で1分を行い、post-elongation phaseを72℃で5分の条件で実施した。1%アガロースゲル(agarose gel)を作って電気泳動を実施した。
【0047】
(RT-PCR)
PRDX6、COX-2、iNOS、IDO、TGF-β、CCL2、CCL4、CCL5、CXCL10、CXCL12に対するmRNAの発現水準をquantitative real-time PCR(qPCR)を通じて分析した。各サンプルの相対的なmRNA量は、ハウスキーピング遺伝子(housekeeping gene)であるβ-actinのCt(threshold cycle)と比較した臨界周期(threshold cycle,Ct)を基準として計算された。
【0048】
(プライマー(primer)配列情報)
使用されたプライマー情報は、次の通りである。CCL2 forward primer 5’-ATG AAA GTC TCT GCC GCC CTT CTG T-3’、CCL2 reverse primer 5’-AGT CTT CGG AGT TTG GGT TTG CTT G-3’、CCL3 forward primer 5’-ATG CAG GTC TCC ACT GCT GCC CTT-3’、CCL3 reverse primer 5’-GCA CTC AGC TCC AGG TCG CTG ACA T-3’、CCL4 forward primer 5’-CCA AAC CAA AAG AAG CAA GC-3’、CCL4 reverse primer 5’-AGA AAC AGT GAC AGT GGA CC-3’、CCL5 forward primer 5’-GAG TAT TTC TAC ACC AGT GGC AAG-3’、CCL5 reverse primer 5’-TCC CGA ACC CAT TTC TTC TCT-3’、CXCL10 forward primer 5’-CCT GCT TCA AAT ATT TCC CT-3’、CXCL10 reverse primer 5’-CCT TCC TGT ATG TGT TTG GA-3’、CXCL12 forward primer 5’-ATG AAC GCC AAG GTC GTG GTC G-3’、CXCL12 reverse primer 5’-TGT TGT TGT TCT TCA GCC G-3’、PRDX6 forward primer 5’-GTC GCC ATG CCC GGA GGT CTG CTT C-3’、PRDX6 reverse primer 5’-AAT TGG CAG CTG ACA TCC TCT GGC TC-3’、COX-2 forward primer 5’-TCC TTG CTG TTC CCA CCC AT-3’、COX-2 reverse primer 5’-CAT CAT CAG ACC AGG CAC CA-3’、iNOS forward primer 5’-ACG TGC GTT ACT CCA CCA AC-3’、iNOS reverse primer 5’-CAT AGC GGA TGA GCT GAG CA-3’、IDO forward primer 5’-AGCC TGA TCT CAT AGA GTC TG-3’、IDO reverse primer 5’-TTA CTG CAG TCT CCA TCA CG-3’、TGF-β forward primer 5’-CAG ATC CTG TCC AAG CTG-3’、TGF-β reverse primer 5’-TCG GAG CTC TGA TGT GTT-3’、β-actin forward primer 5’-GTG GGG CGC CCC AGG CAC CA-3’、β-actin reverse primer 5’-CTC CTT AAT GTC ACG CAC GA-3’。
【0049】
(アネキシンV染色(annexin V staining))
冷たいPBSで2回細胞を洗浄(wash)した後にバインディングバッファー(Binding buffer)に1×106 cell/mlの濃度で細胞を溶解した。その後、5ml培養チューブ(culture tube)に100μlの量を移した後、5μlの量のAnnexin V Apoptosis Detection Kit(BD Pharmingen,USA)を利用して25℃、常温、暗い条件で15分間インキュベーション(incubation)過程を経て細胞を染色した。その後、400μlバインディングバッファー(Binding Buffer)溶液を添加した後に、flow cytometry(CantoII、BD Bioscience)を利用して測定した。
【0050】
([3H]-Thymidine uptake分析)
5%CO2が供給される37℃培養器で54時間の間培養した後、[3H]-Thymidine(Perkin Elmer,MA,USA)を1μCi/wellになるように処理した。18時間培養後、cell harvester(Inotech,Dottikonm,Switzerland)を利用して細胞中の[3H]-Thymidineの量をWallac Microbeta scintillation counter(Wallac,Turky,Finland)で測定した。
【0051】
(タイム-ラプスイメージング(Time-lapse imaging))
細胞移動を確認するためのイメージ撮影のためにμ-dish35mm culture dishes(ibidi GmbH,Martinsried,Germany)を利用して、MSC 3×105 cells/wellを24時間の間分注した。細胞が安定化すると、insertを除去した後、Biostation IM-Q(Nikon,Toyko,Japan)を利用して撮影した。この実験は、12時間の間2分間隔で撮影を実施し、データ分析は、Imaris 7.2 software(Bitplane Inc,South Windor,CT USA)を利用した。
【0052】
(ケモタキシスアッセイ(Chemotaxis assay))
MSCの移動は、5μm insert upper wellがある24-transwell plates(Costar,Corning,NY,USA)を利用した。下部チャンバー(lower chamber)には、特定のケモカインが入った培地を分注し、上部チャンバー(upper chamber)には、1×105 cells/wellのMSCを分注した。5%CO2が供給される37℃培養器に1.5時間の間培養した後、flow cytometryを利用して下部チャンバー(lower chamber)に移動したMSCの細胞数をカウント(counting)して値を表現した。
【0053】
(MSC運動性(motility)および浸潤性(invasion)測定)
MSC運動性(motility)の測定は、hMSC(1×104 cells/well)にsiRNAを処理した後、トランスウェルプレート(transwell plate)に24時間の間分注して培養した。その後、クリスタルバイオレット(crystal violet;Sigma,USA)染色を実施して分析した。MSC浸潤性(invasion)の測定は、トランスウェルプレート(transwell plate)に15%マトリゲル(matrigel)を24時間の間コーティングした後、hMSC(1×104 cells/well)を24時間の間分注して培養した。その後、クリスタルバイオレット(crystal violet)染色を実施して分析した。
【0054】
(MSC付着性(adhesion)および拡張性(spreading)の測定)
MSC拡張性(spreading)の測定は、対照群とPRDX6発現が抑制されたhMSCをそれぞれCMFDA(Invitrogen、緑色)とCMTMR(Invitrogen、赤色)で染色した。その後、それぞれの細胞をculture-Dish35mmにhMSC(0.2×105 cells/well)を分注して培養した後、タイム-ラプスイメージング(time-lapse imaging)を2分間隔で4時間の間撮影した。ムービを時間帯別にスナップショット(snapshot)をとってhMSCの付着性(adhesion)および拡張性(spreading)を観察した。
【0055】
(統計分析)
実験データ統計分析は、GraphPad Prism 5.0(GraphPad,San Diego,CA,USA)ソフトウェアを利用して分析を実施した。
【0056】
(実施例1.MRL/lprマウスの脾臓と腎臓内のPRDX6分析)
8週齢と22週齢のMRL/lprマウスの脾臓と腎臓を分離して、トリゾール(Trizol)を利用してトータルRNA(total RNA)を分離した後、qPCRを行った。8週齢と22週齢のMRL/lprマウスの脾臓と腎臓を分離してタンパク質を獲得した後、ウェスタンブロット(western blot)を行った。
【0057】
MRL/lprマウスは、10~12週齢から病症が始まって20週齢以内に死ぬことになるので、8週齢のマウスを病症初期と判断して、22週齢に病症末期と判断してそれぞれ8週齢と22週齢マウスの腎臓と脾臓を分離してPRDX6の発現度を分析した。MRL/lprマウスの脾臓では、8週齢の発現度と22週齢の発現度の差異がなく(
図1のAおよびC)、腎臓では、かえって病症がひどい場合、PRDX6の発現が減少した(
図1のBおよびD)。これを通じて、結論的にPRDX6は、ループス疾病の診断および予測バイオマーカー(biomarker)として適切でないことを確認した。
【0058】
(実施例2.MSCで発現するPRDX6分析)
Human MSCとmouse MSCで、トリゾール(trizol)を利用してトータルRNA(total RNA)を分離した後、RT-PCR(
図2のA)とqPCR(
図2のB)を通じて遺伝子発現を確認した(
図2)。PRDX6は、組織に多量で存在しており、また、human MSCとmouse MSCでも発現していることをRT-PCR(
図2のA)とqPCR(
図2のB)を通じて確認した。その後、MSCのPRDX6の機能的な側面を確認するために、追加実験を進めた。
【0059】
(実施例3.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが細胞増殖および細胞死に及ぼす影響)
タイムコース(time course)でhMSCにsiRNAを処理した後、ウェスタンブロット(western blot)を行った(
図3のA)。hMSCを96ウェルプレート(well plate)に添加した後、72時間培養した。チミジン取り込み(thymidine uptake)(
図3のB)と細胞カウント(cell count)(
図3のC)を通じて細胞増殖を測定し、トリパンブルー染色(trypan blue staining)を通じて細胞生存能(cell viability)を測定し(
図3のD)、hMSCを添加して72時間後、アネキシン(annexin)Vで細胞を染色し、FACS(Fluorescence activated cell sorter)を通じて分析した(
図3のE)。
【0060】
hMSCのPRDX6の機能を確認するために、siRNAを処理してノックダウン(knockdown,KD)させた後、実験を進めた結果、siRNAを24時間処理した後からPRDX6の発現が減少することを確認し、以後の実験は、siRNAを48時間処理したことで進めた(
図3のA)。hMSCのPRDX6をsiRNAでノックダウンさせた後、チミジン取り込み(thymidine uptake)と細胞カウント(cell count)を通じて増殖を測定した結果、対照群に比べてPRDX6をノックダウン(KD)させたhMSCの増殖が抑制されることを確認した(
図3のBおよびC)。また、トリパンブルー染色(trypan blue staining)を通じて細胞生存能(cell viability)を測定した結果、PRDX6がhMSCの生存能(viability)に影響を及ぼさないことが確認された(
図3のD)。活性酸素は、細胞の細胞死を誘導することが知られており、活性酸素のうち過酸化水素をPRDX6が中和することが知られている。これにより、hMSCのPRDX6をノックダウン(KD)させた後、細胞死が観察されるか実験を進めた。アネキシンV染色(annexin V staining)を通した分析結果、PRDX6がノックダウン(KD)されたhMSCでは、細胞死が誘導されないことが確認され、陽性対照群として使用したシクロホスファミド(cyclophosphamide,CP)は、hMSCの細胞死を誘導することが確認された(
図3のE)。結論的に、本実験を通じて、hMSCのPRDX6は、細胞増殖に影響があることを確認した。
【0061】
(実施例4.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが過酸化水素に及ぼす影響分析)
hMSCにsiRNAを処理した後、72時間の間培養した後、DCF-DA(dichlorodihydrofluorescein-diacetate)を30分間処理した後、FACS分析を実施した(
図4のA)。また、hMSCを添加した後、過酸化水素を処理して72時間後に、チミジン取り込み(thymidine uptake)を通じて細胞増殖を分析した(
図4のB)。
【0062】
PRDX6がhMSC増殖を調節する機序を解明するために、細胞内過酸化水素の量を測定した。DCF-DAは、細胞内でDCFに転換され、細胞内過酸化水素により蛍光を帯びる物質に変わり、これをFACSを利用して測定することができる。hMSCにDCF-DAを処理した後、細胞内蛍光値をFACSを利用して確認した結果、PRDX6がノックダウン(KD)されたhMSCは、対照群に比べて蛍光値が約2倍増加した(
図4のA)。また、hMSCに直接的に過酸化水素を処理した後、細胞増殖程度を測定した結果、過酸化水素は、PRDX6がノックダウンされたhMSCと対照群hMSCの増殖を減少させることが確認された(
図4のB)。結論的に、本実験を通じて、PRDX6が過酸化水素を除去してhMSCの増殖を増加させることを確認することができる。
【0063】
(実施例5.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが付着(adhesion)および拡張(spreading)に及ぼす影響分析)
hMSC(2×10
4 cells/well)にsiRNAを処理した後、1時間の間添加した後、PBS(phosphate buffer saline)でウォシング(washing)した後、顕微鏡を通じて細胞数を分析した(
図5のA)。また、hMSC(2×10
4 cells/well)にsiRNAを処理した後、4時間の間添加した後、PBSでウォシング(washing)した後、クリスタルバイオレット(crystal violet)で染色し、顕微鏡を通じて細胞数を分析した(
図5のB)。対照群(control)、PRDX6-KD hMSCをそれぞれCMFDA(green)とCMTMR(red)で染色した。培養皿(Culture-Dish
35mm)にhMSC(0.2×10
5 cells/well)を添加し、タイム-ラプスイメージング(time-lapse imaging)を2分間隔で4時間の間撮影した。ムービを時間帯別にスナップショット(snapshot)をとってhMSCの付着(adhesion)および拡張(spreading)を観察した(
図5のC)。
【0064】
hMSCは、付着(adhesion)後、拡張(spreading)され、増殖が行われる。このような特性を考慮してhMSCの付着(adhesion)および拡張(spreading)アッセイ(assay)を行った。hMSCを添加した後、1時間後に細胞付着(cell adhesion)を確認し、4時間後にクリスタルバイオレット(crystal violet)染色を通じて細胞拡張(cell spreading)を観察した結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCと過酸化水素を処理したhMSCは、対照群に比べて細胞の付着(
図5のA)と拡張(
図5のB)が減少することが確認された。また、対照群hMSCとPRDX6がノックダウンされたhMSCをそれぞれCMFDA(green)とCMTPX(red)で染色して4時間の間イメージ撮影を実施した結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて付着(adhesion)および拡張(spreading)が減少することが確認された(
図5のC)。結論的に、本実験を通じて、hMSCの付着(adhesion)後、拡張(spreading)にPRDX6が影響を及ぼすことが確認された。
【0065】
(実施例6.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが運動性(motility)および浸潤性(invasion)に及ぼす影響分析)
hMSC(1×10
4 cells/well)にsiRNAを処理した後、トランスウェルプレート(transwell plate)に24時間の間添加し、クリスタルバイオレット(crystal violet)染色を実施して運動性(motility)を分析した(
図6のA)。また、トランスウェルプレート(Transwell plate)に15%matrigelを24時間の間コーティングした後、hMSC(1×10
4 cells/well)を24時間の間シーディングした後、クリスタルバイオレット染色を実施して浸潤性(invasion)を分析した(
図6のB)。その後、Culture-insert m-Dish
35mm culture dishを利用してhMSC(70μl of 3×10
5 cells/ml)をシーディングし、タイム-ラプスイメージング(time-lapse imaging)を12時間の間撮影し、それぞれムービを時間帯別にスナップショット(snapshot)をとってボックスの範囲を測定し、hMSCの移動を確認した(
図6のC)。
【0066】
トランスウェル(Transwell)の上部ウェル(upper well)にhMSCを24時間の間添加し、下部ウェル(lower well)に10%FBSが添加された培地(media)を入れた。実験結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞の運動性(motility)が減少することが確認された(
図6のA)。また、浸潤(invasion)環境を作るために、実験前に15%マトリゲル(matrigel)を24時間の間上部ウェル(upper well)にコーティングした後、実験を進めた。PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞の浸潤(invasion)が減少することが確認された(
図6のB)。hMSCの動きをイメージを通じて確認した結果、RDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞の動きが減少することが確認された(
図6のC)。
【0067】
(実施例7.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが移動(migration)に及ぼす影響分析)
hMSCの移動(migration)にもPRDX6が影響を及ぼしたかを調べてみるために実験を進めた。hMSC(1×104 cells/well)にsiRNAを処理した後、トランスウェルプレート(transwell plate)の上部ウェル(upper well)にhMSCを添加し、下部ウェル(lower well)には、CXCL10を入れた。24時間後にクリスタルバイオレット(crystal violet)染色を実施して分析した。
【0068】
ケモカイン(chemokine)は、細胞の移動(migration)を調節するタンパク質であるところ、hMSCで発現するCXCR3にマッチングするCXCL10に対する移動アッセイ(migration assay)を行った。トランスウェル(Transwell)の上部ウェル(upper well)にhMSCを24時間の間添加した後、下部ウェル(lower well)に組み換え(recombinant)CXCL10を入れた。実験結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞の移動(migration)が減少することが確認された(
図7)。
【0069】
(実施例8.PRDX6-KD(knockdown)hMSCの機序研究)
hMSCにsiRNAを処理した後、48時間の間添加し、hMSCのmRNA水準とタンパク質水準をそれぞれRT-PCRおよびウェスタンブロット(western blot)を通じて分析した。hMSCのインテグリン(integrin)とMMPのmRNA水準をRT-PCRを通じて分析し(
図8のA)、hMSCのインテグリンβ3とRac1の発現度をウェスタンブロットを通じて分析した(
図8のBおよびC)。また、hMSCのERK、p38そしてJNKの発現度をウェスタンブロットを通じて分析した(
図8のD)。
【0070】
細胞のインテグリン(integrin)は、細胞の付着、移動および増殖に重要な役割をすることか知られた細胞膜受容体群である。インテグリンは、α4β1、α5β3等2つの単位体で構成される二量体であり、細胞外基質につくと、様々な種類の生化学的信号伝達が誘導される。また、細胞のMMP(Matrix Metalloproteinase)は、亜鉛依存性中性タンパク質分解酵素であり、コラーゲン(collagen)の分解に関与する役割をして、癌の転移に重要な役割をすることが知られているところ、PRDX6がノックダウンされたhMSCの移動性がインテグリンとMMPに関連しているかを調べてみるために実験を進めた。
【0071】
RT-PCR(
図8のA)とウェスタンブロット(
図8のB)の分析結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞のインテグリンβ3が減少することが確認された。しかしながら、MMPの発現度の変化はなかった(
図8のA)。インテグリンに付着すると、刺激を通じてRac1タンパク質が活性化して、細胞の前方に膜突出を誘導して細胞移動を誘導する。ウェスタンブロット分析結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞のRac1タンパク質が減少することが確認された(
図8のC)。また、インテグリンは、細胞質内にMAPK(mitogen-activated protein kinase)信号伝達体系にも関連して、細胞成長、増殖に影響を及ぼすことが知られている。ウェスタンブロット分析結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞のMAPK中ERKのリン酸化が減少することが確認された(
図8のD)。結論的に、本実験を通じて、PRDX6がhMSCのインテグリンβ3を調節して、Rac1-ERK信号伝達に影響を与えることによって、細胞の移動性と、ひいては細胞の増殖にも関与することが分かる。
【0072】
(実施例9.PRDX6-KD(knockdown)hMSCが免疫抑制能に及ぼす影響分析)
hMSCは、T細胞の機能を抑制することが知られているが、PRDX6がhMSCの免疫抑制能にも影響を及ぼすかを調べてみるために実験を進めた。hMSCにsiRNAを処理した後、hMSCとPBMC(peripheral blood mononuclear cell)をPHA(phytohemagglutinin、5ug/ml)と共に72時間共培養後、上澄み液中にあるIFN-γのタンパク質(protein)水準をELISAで分析した(
図9のA)。また、hMSCをトリゾール(trizol)を利用してトータルRNA(total RNA)を分離した後、RT-PCRを通じて遺伝子発現を確認した(
図9のB)。
【0073】
実験結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群hMSCと同様に、T細胞のIFN-λの分泌を抑制することが確認された(
図9のA)。また、hMSCで免疫調節に関与する可溶性因子(soluble factor)であるCOX-2、NO、IDOとケモカイン(chemokine)タンパク質であるCCL2、CCL4、CCL5、CXCL12の発現度を確認してみた結果、2つの細胞群の差異がないことを確認した(
図14のB)。すなわち、本実験を通じて、PRDX6は、hMSCの免疫抑制機能に関与しないことが確認された。
【0074】
(実施例10.PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCの特徴分析)
PRDX6が過発現したmMSC(mouse MSC)を利用してPRDX6の機能を検証した。PRDX6過発現トランスジェニック(transgenic,Tg)マウスから骨髄(bone marrow)を分離して16日間培養した後、細胞表現型をFACSを通じて分析した(
図10のA)。mMSCをトリゾール(trizol)を利用してトータル(total)RNAを分離した後RT-PCRを通じて遺伝子発現を確認した(
図9のB)。分析結果、ワイルドタイプ(Wild type,WT)-mMSCとPRDX6-Tg mMSCの表現型は、差異がなかった(
図10のA)。また、RT-PCR分析により、PRDX6-Tg mMSCが対照群のmMSCに比べてPRDX6が過発現することが確認された(
図10のB)。
【0075】
(実施例11.PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが細胞増殖に及ぼす影響分析)
mMSCを96ウェルプレート(well plate)に添加した後、72時間培養し、チミジン取り込み(thymidine uptake)(
図11のA)と細胞カウント(cell count)(
図11のB)を通じて細胞増殖を測定した。測定結果、PRDX6-Tg mMSCが対照群に比べて細胞増殖が増加することを確認した(
図11のAおよびB)。すなわち、mMSCのPRDX6が細胞増殖に影響があることを実験を通じて確認した。
【0076】
(実施例12.PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが運動性(motility)および浸潤性(invasion)に及ぼす影響分析)
PRDX6がmMSCの運動性(motility)、浸潤性(invasion)および移動性(migration)にも影響があるかを調べてみるために実験を進めた。
【0077】
mMSC(5×10
4 cells/well)をトランスウェルプレート(transwell plate)に24時間の間添加した後、クリスタルバイオレット(crystal violet)染色を実施して分析した(
図12のA)。トランスウェルプレート(transwell plate)に15%マトリゲル(matrigel)を24時間コーティングした後、mMSC(5×10
4 cells/well)を24時間の間添加し、クリスタルバイオレット(crystal violet)染色を実施して分析した(
図12のB)。Culture-insert m-Dish
35mm culture dishを利用してmMSC(70μl of 3×10
5 cells/ml)をシーディングし、タイム-ラプスイメージング(time-lapse imaging)を12時間の間撮影し、それぞれのムービを時間帯別にスナップショット(snapshot)をとってボックスの範囲を測定し、mMSCの移動を確認した(
図12のC)。
【0078】
運動性(motility)測定のために、トランスウェル(transwell)の上部ウェル(upper well)にmMSCを24時間の間添加し、下部ウェル(lower well)に10%FBSが添加された培地(media)を入れた。測定結果、PRDX6-Tg mMSCは、対照群に比べて細胞の運動性(motility)が増加することが確認された(
図12のA)。また、15%マトリゲル(matrigel)を24時間の間上部ウェル(upper well)にコーティングした後、浸潤アッセイ(invasion assay)を行った。PRDX6-Tg mMSCは、対照群に比べて浸潤性(invasion)が増加することが確認された(
図12のB)。その後、mMSCの動きをイメージを通じて確認した結果、PRDX6-Tg mMSCは、対照群に比べて細胞の動きが増加することが確認された(
図12のC)。すなわち、本実験を通じて、PRDX6過発現がmMSCの動きを増加させることが確認された。
【0079】
(実施例13.PRDX6-トランスジェニック(transgenic)mMSCが免疫抑制能に及ぼす影響分析)
PRDX6がmMSCの免疫抑制能にも影響を及ぼすかを調べてみるために実験を進めた。mMSCにマウス脾臓細胞(mouse spleen cell)をコンカナバリンA(concanavalinA,ConA)と共に72時間共培養後、上澄み液中にあるIFN-γのタンパク質水準をELISAで分析した(
図13のA)。mMSCをトリゾール(trizol)を利用してトータルRNA(total RNA)を分離した後、RT-PCRを通じて遺伝子発現を確認した(
図13のB)。実験結果、PRDX6-Tg mMSCは、対照群hMSCと同様に、T細胞のIFN-λの分泌を抑制することが確認された(
図13のA)。また、mMSCで免疫調節に関与する可溶性因子(soluble factor)であるCOX-2、NO、IDOとケモカイン(chemokine)タンパク質であるCCL2、CCL4、CCL5、CXCL10、CXCL12の発現度を確認してみた結果、2つの細胞群の差異がないことが確認された(
図13のB)。すなわち、PRDX6は、mMSCの免疫抑制能に影響を与えないことが確認された。
【0080】
(実施例14.PRDX6-ノックダウン(knockdown)hMSCとPGE2と関連性分析)
PRDX6は、二官能性タンパク質(bifunctional protein)と知られている。PRDX6は、過酸化水素を除去する機能と共に、アラキドネート(arachidonate)でPGE2(prostaglandin E2)を生成させるiPLA2(Calcium-independent phospholipase A2)を活性化させる機能も有している。PRDX6-ノックダウン(knockdown)hMSCとPGE2との関連性を確認するために、hMSCにsiRNAを処理した後、上澄み液中にあるPGE2のタンパク質水準をELISAで分析し(
図14のA)、トリゾール(trizol)を利用してhMSCでトータルRNA(total RNA)を分離した後、RT-PCRを通じて遺伝子発現を確認した(
図14のB)。その後、hMSCを添加した後、PGE2を処理してから72時間後にチミジン取り込み(thymidine uptake)を通じて細胞増殖を分析した(
図14のC)。
【0081】
ELISAを利用した分析結果、PRDX6がノックダウンされたhMSCは、対照群に比べて細胞のPGE2が減少することが確認された(
図14のA)。また、RT-PCR分析結果、hMSCは、PGE2受容体であるプロスタグランジンE2受容体(Prostaglandin E2 receptor,EP)中でEP1、EP2、EP4を発現することが確認された(
図14のB)。また、hMSCにPGE2を直接処理した後、細胞増殖を測定したが、PGE2は、hMSCの増殖に影響を与えないことが確認された(
図14のC)。結論的に、PRDX6は、iPLA2活性を通じてPGE2を生成させるが、細胞増殖とは直接的な関連がないことが確認された。
【0082】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【配列表】