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7190598多価不飽和脂肪酸が結合したリン脂質を含む魚卵脂質組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】多価不飽和脂肪酸が結合したリン脂質を含む魚卵脂質組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/30 20160101AFI20221208BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20221208BHJP
   A23L 33/115 20160101ALN20221208BHJP
   A23D 9/013 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
A23L17/30 Z
A61K35/60
A61P17/16
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P25/28
A61K31/661
A61P3/00
A61Q19/00
A61K8/98
A61K8/55
A23L33/115
A23D9/013
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022006285
(22)【出願日】2022-01-19
(62)【分割の表示】P 2021516511の分割
【原出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022062077
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019236979
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】多田 元比古
(72)【発明者】
【氏名】河原▲崎▼ 正貴
(72)【発明者】
【氏名】坂東 正樹
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/112412(WO,A1)
【文献】特開2000-239168(JP,A)
【文献】特開2006-306866(JP,A)
【文献】特開2006-304792(JP,A)
【文献】国際公開第2013/033618(WO,A1)
【文献】SHIRAI, Nobuya et al.,Analysis of lipid classes and the fatty acid composition of the salted fish roe food products, Ikura,Food Chemistry,2006年,Vol.94,pp.61-67
【文献】LIANG, Peng et al.,Phospholipids composition and molecular species of large yellow croaker(Pseudosciaena crocea) roe,Food Chemistry,2018年,Vol.245,pp.806-811
【文献】MORIYA, H et al.,Combination Effect of Herring Roe Lipids and Proteins on Plasma Lipids and Abdominal Fat Weight of M,JOURNAL OF FOOD SCIENCE,2007年,Vol.72, Nr.5,pp.C231-C234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
A61K 6/00-51/12
A61P 1/00-43/00
A61Q 1/00-19/10
C11B 11/00
A23D 9/00-9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドコサヘキサエン酸(DHA)結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物であって、
リン脂質を26%以上含み、
脂質の構成脂肪酸に占めるドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が15%以上であり、
100g中、パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンを3500mg以上含み、α-グリセロホスホコリン、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含む、魚卵脂質組成物。
【請求項2】
ドコサヘキサエン酸(DHA)結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物であって、
リン脂質を40%以上含み、リン脂質が、ホスファチジルコリンを74%以上含み、
脂質の構成脂肪酸に占めるドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が15%以上であり、α-グリセロホスホコリン、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含む、サケ科、ニシン科、またはタラ科の魚卵脂質組成物。
【請求項3】
タボリックシンドロームの改善、脂質代謝の改善、糖代謝の改善、および認知機能の向上からなる群より選択されるいずれかのための、請求項1または2に記載の魚卵脂質組成物。
【請求項4】
タボリックシンドロームの改善、脂質代謝の改善、糖代謝の改善、および認知機能の向上からなる群より選択されるいずれかのための組成物の製造における、請求項1または2に記載の魚卵脂質組成物の使用。
【請求項5】
スフィンゴミエリンまたはジヒドロスフィンゴミエリンを含み、皮膚の保湿機能の向上のための、請求項1または2に記載の魚卵脂質組成物。
【請求項6】
皮膚の保湿機能の向上のための組成物の製造における、請求項1または2に記載の魚卵脂質組成物であって、スフィンゴミエリンまたはジヒドロスフィンゴミエリンを含む魚卵脂質組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価不飽和脂肪酸が結合したリン脂質を含む、魚卵から得られる脂質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)などの多価不飽和脂肪酸が結合したリン脂質は、トリグリセリド(TG)型である場合とは異なる優れた機能を有していることが解明されつつある。また、多価不飽和脂肪酸が結合したリン脂質は、化学的に大量に合成することが難しく、天然物原料から抽出することが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、オキアミ由来のリン脂質の分取方法として、生オキアミを真空凍結乾燥法により脱水したうえ、エタノールで総脂質を抽出し、得られた総脂質を、エタノール系溶媒、アセトン系溶媒、またはヘキサン系溶媒のいずれかを溶離液となし、シリカゲルを充填剤として、吸着カラムクロマトグラフィーを用いてホスファチジルコリン(PC)とホスファチジルエタノールアミン(PE)を分画し、これをフラクションコレクターにより単離するようにしたことを特徴とするオキアミリン脂質の分取方法が記載されている。ここでは乾燥オキアミ由来の脂質には、PCが31.1%、PEが7.5%、TGが43.2%、遊離脂肪酸が6.5%、その他が5.7%と分析されている。また特許文献2には、海洋または水生バイオマス源(marine or aquatic biomass sources)の抽出物、好ましくはオキアミ(Krill)の抽出物には、種々のリン脂質が存在しているであろうこと、そのようなリン脂質には、PE、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、PC、およびスフィンゴミエリンが含まれることが記載されている。また、オキアミ抽出物に関し、リン脂質中の構成脂肪酸において、EPAが27.35%、DHAが24.9%であったこと、また総脂質中の構成脂肪酸はEPAが≧25.00%、DHAが≧10.00%であったことが記載されている。
【0004】
また特許文献3-5は、イカの皮から抽出したリン脂質に関するものであり、これらの文献には、イカの皮から得られた脂質分のヘキサンに溶解しアセトン不溶分として得られる画分において、PCは45%、PEは11%であり、また構成脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーで求めたところ、DHAが38%、EPAが12%、パルミチン酸が29%であったこと、あるいはイカの皮から抽出したリン脂質の主な組成はPC63.1%、PE21.2%、PS9.1%であり、また各々の構成脂肪酸に占めるDHAはPCが44.4%、PEが18.0%、PSが24.5%であり、総リン脂質の構成脂肪酸に占めるDHAは33.4%であったことが記載されている。また特許文献6には、イカの肉質から得たミールを溶剤抽出して、高度不飽和脂肪酸を多量に含有する高品質リン脂質を製造する方法が記載されており、実施例として得たイカミール抽出物を分析したところ、DHA含有量33.0%、EPA含有量14.4%、リン脂質含有量65%であり、さらにリン脂質を分析したところ、DHA含有量40.0%、EPA含有量13.0%、PC65%、PE20%であったことが記載されており、また比較例としてイクラ凍結乾燥品からの抽出物は、DHA含有量19.0%、EPA含有量15.1%、リン脂質含有量25%であり、リン脂質を分析したところ、DHA含有量25.0%、EPA含有量13.0%、PC80%、PE10%であったことが記載されている。
【0005】
さらに非特許文献1は、DHA結合リン脂質の製造とその生理活性に関するものであり、工業的生産のための原料として可能性のあるイカ皮、鰹卵、および鮪卵に含まれるDHA結合リン脂質について検討されている。ここでは、各種素材の80%エタノール抽出物の分析結果として、イカ皮について、DHA40.3%、EPA16.6%、PL23.5%、鰹卵について、DHA36.4%、EPA5.9%、PL35.5%、鮪卵について、DHA32.8%、EPA4.6%、PL52.7%であったことが記載されている。また特許文献7には、高純度のリン脂質を製造する方法として、(a)油脂成分と極性の低い有機溶媒を混合する工程;(b)該混合物をシリカゲルに添加する工程;および(c)該極性の低い有機溶媒を該シリカゲルに添加して、シリカゲルからリン脂質を溶出する工程、を包含する、方法が記載されている。ここでは、リン脂質の好ましい供給源として、魚介類が挙げられており、その具体例として、カツオ、マグロ、イワシ等の魚類の組織が挙げられ、魚類の組織の例として、精巣および卵巣が挙げられている。また実施例では、生の鰹の卵巣から、高純度のリン脂質(8%、95%、または100%)を得たことが記載されている。
【0006】
さらに特許文献8には、DHA、DHAの塩、DHAのエステル、DHAのグリセリド、DHAから誘導されるリン脂質、およびDHAから誘導されるコリン化合物からなる群より選択される1以上の化合物を有効成分とする動体視力改善剤が記載されている。ここでは、DHA摂取群においては、DHA服用後において、静止視力には殆ど変化がないにもかかわらず、動体視力に改善が認められ、特に両眼での動体視力は、有意に改善されたことが報告されている。また特許文献9には、第1の成分として、長鎖高度不飽和脂肪酸(LCPUFA)を構造中に含んでおり、加水分解によりLCPUFAを分離可能とするLCPUFA供給化合物と、第2の成分としてリン脂質とを含有する油脂組成物であって、上記LCPUFA供給化合物が、脂肪酸アルコールエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、グリセロ糖脂質、スフィンゴ脂質、糖エステル、およびカロテノイドエステルから選択される少なくとも1種であり、上記LCPUFA供給化合物から供給されるLCPUFAは、(a)アラキドン酸(AA)およびDHAを含むか、あるいは(b)AAのみを含み、上記第1の成分と上記第2の成分との配合比は、第2の成分であるリン脂質の全重量に対して供給されるLCPUFAの全重量の比が0.5以上となるように決定されており、第1の成分の全量から供給可能となっている全ての脂肪酸のうち、AAの比率は20.5重量%以上で、かつ、上記LCPUFA供給化合物から供給されるLCPUFAがDHAを含む場合、第1の成分の全量から供給可能となっている全ての脂肪酸のうち、DHAの比率は22.5重量%以上であることを特徴とする油脂組成物が記載されている。また特許文献10には、スキゾキトリウム属F26-b株の微生物(FERM AP-20727)が生産する、PCのグリセロールの1位にC15:0の脂肪酸が、2位にC22:6の脂肪酸がそれぞれエステル結合した、新規なDHA結合リン脂質が記載されている。さらに特許文献11には、構成脂肪酸中にドコサヘキサエン酸を15質量% 以上含むリン脂質を有効成分とする筋タンパク質増強剤が記載されている。ここでは、イクラから抽出した脂質含有魚卵油(商品名:サンオメガPC-DHA(日油株式会社製))が用いられ、その組成として、リン脂質含量27.8%、リン脂質を構成する脂肪酸組成のうちDHAの割合は28.1%、C22:5の脂肪酸の割合は12%であり、リン脂質を構成する極性基の種類は、73.7%がPCであったことが記載されている。
【0007】
一方、エーテル型リン脂質の一種であるプラズマローゲンは、生体内においては脳の髄鞘、心臓、骨格筋に存在していることが知られ、近年は疾患との関連等について着目されている。親鶏がプラズマローゲンの有用な供給源であることが報告され(非特許文献2)、またオキアミから1-アルキルエーテル型リン脂質含有画分を得たことが報告されている(特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-215351号公報(特許第2909508号)
【文献】国際公開WO03/011873号公報(米国特許8030348号公報)
【文献】特開平6-321970号公報(特許第3531876号)
【文献】特開平9-77782号公報(特許第3558423号)
【文献】特開平10-17475号公報(特許第3664814号)
【文献】特開2000-60432号公報
【文献】特開2008-38011号公報
【文献】特開平10-287563号公報(特許第4028020号)
【文献】国際公開WO2005/054415号公報(特許第4773827号)
【文献】特開2007-143479号公報(特許第4344827号)
【文献】特開2010-105946号公報
【文献】特開2017-155025号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】オレオサイエンス 第2巻 第2号、67-74頁
【文献】日本畜産学会報, 2014, 85(2), 153-161.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高度不飽和脂肪酸のうち、DHAは特に多くの生理活性が知られている。そのため、リン脂質含量が高く、かつDHAが結合したリン脂質が多く含まれる組成物があれば、有効な成分を、組成物としてはより少ない量で摂取することができ、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下を提供する。
[1]ドコサヘキサエン酸(DHA)結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物であって、
リン脂質を26%以上含み、
脂質の構成脂肪酸に占めるドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が15%以上である、魚卵脂質組成物。
[2]α-グリセロホスホコリン、スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、1に記載の魚卵脂質組成物。
[3]リン脂質が、ホスファチジルコリンを74%以上含む、1または2に記載の組成物。
[4]脂質の構成脂肪酸に占めるDHA組成比が15%以上であり、エイコサペンタエン酸(EPA)の組成比が5~25%である、1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]100g中、パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンを3500mg以上含む、1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]100g中、エーテル型リン脂質を250mg含み、かつDHA結合エーテル型リン脂質、およびEPA結合エーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含む、1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]α-グリセロホスホコリン、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を機能性成分として利用するための、1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]皮膚の保湿機能の向上、メタボリックシンドロームの改善、脂質代謝の改善、糖代謝の改善、および認知機能の向上からなる群より選択されるいずれかのための、1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[9]以下の工程を含む、α-グリセロホスホコリン、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含有する食品素材、医薬品素材、または化粧品素材の製造方法:
魚卵またはその加工品である原材料から、α-グリセロホスホコリン、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含む画分を得る工程。
[10]原材料が、筋子、イクラ、数の子、助子、筋子抽出物、イクラ抽出物、数の子抽出物、助子抽出物、魚卵油、または魚卵油精製物である、9に記載の製造方法。
[11]食品素材、医薬品素材、または化粧品素材が、リン脂質を26%以上含む、9または10に記載の製造方法。
[12]食品素材、医薬品素材、または化粧品素材が、DHA結合リン脂質を含み、
脂質の構成脂肪酸に占める、DHAの組成比が15%以上、およびEPAの組成比が5%以上である、9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
本発明はまた、以下を提供する。
[1]ドコサヘキサエン酸(DHA)結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物であって、
リン脂質を30%以上含み、
脂質の構成脂肪酸に占めるドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比が15%以上である、魚卵脂質組成物。
[2]スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、1または2に記載の魚卵脂質組成物。
[3]リン脂質が、ホスファチジルコリン(PC)を74%以上含む、1または2に記載の組成物。
[4]脂質の構成脂肪酸に占めるDHA組成比が15%以上であり、エイコサペンタエン酸(EPA)の組成比が6~25%である、1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]100g中、パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンを700~1500mg含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を機能性成分として利用するための、1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]皮膚の保湿機能の向上、メタボリックシンドロームの改善、脂質代謝の改善、糖代謝の改善、および認知機能の向上からなる群より選択されるいずれかのための、1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[8]以下の工程を含む、スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を含有する食品素材、医薬品素材、または化粧品素材の製造方法:
魚卵またはその加工品である原材料から、スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を含む画分を得る工程。
[9]原材料が、筋子、イクラ、筋子抽出物、イクラ抽出物、魚卵油、または魚卵油精製物である、8に記載の製造方法
[10]食品素材、医薬品素材、または化粧品素材が、リン脂質を30%以上含む、8または9に記載の製造方法。
[11]食品素材、医薬品素材、または化粧品素材が、DHA結合リン脂質を含み、
脂質の構成脂肪酸に占める、DHAの組成比が15%以上、およびEPAの組成比が6%以上である、8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により提供される組成物は、脂質中の有効成分の量が多いので、有効な成分を、組成物としてはより少ない量で摂取することができる。
【0014】
本発明の組成物には、スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種が含有される。
【0015】
本発明により、スフィンゴミエリンおよびジヒドロスフィンゴミエリンからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、新規な食品素材、化粧品素材、または医薬品素材の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<組成物>
本発明は、リン脂質の含量を高め、かつリン脂質中のDHAの組成比を高めた、DHA結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物に関する。
【0017】
(リン脂質)
リン脂質とはリン酸の形でリンをもつ脂質をいい、グリセロリン脂質とスフィンゴシンリン脂質とがある。グリセロリン脂質の代表的なものは、ホスファチジルコリン(PC)、α-グリセロホスホコリン(α-GPC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、1-リゾホスファチジルコリン(LPC-1)、2-リゾホスファチジルコリン(LPC-2)、2-リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE-2)であり、スフィンゴシンリン脂質の代表的なものは、スフィンゴミエリン(SM)、ジヒドロスフィンゴミエリン(DHSM)である。
【0018】
DHA結合リン脂質とは、構成脂肪酸(結合脂肪酸ということもある。)の少なくとも一つがDHAであるリン脂質をいう。
【0019】
本発明の組成物においてはリン脂質の含量が高められている。本発明の組成物のリン脂質の含量は、例えば26%以上であり、30%以上であってもよく、好ましくは35%以上であり、より好ましくは37.5%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。本発明の組成物におけるリン脂質含量の上限は特に限定されないが、リン脂質含量が高くなると粘度が高くなり、粘度が一定以上となると製造上、扱いにくくなるため、例えば50%以下であり、好ましくは48%以下であり、より好ましくは46%以下であり、さらに好ましくは45%以下である。
なお、本発明において組成物に含まれる成分の含量に関して%で表示するときは、特に記載した場合を除き、重量に基づく。
【0020】
本発明の組成物は、α-GPC、SMおよびDHSMからなる群より選択される少なくとも一種を含み、好ましい態様においては、SMおよびDHSMを含む。α-GPC、SMおよびDHSMの含量は、特に限定されない。組成物中のα-GPCの含量は、例えば0.050%以上であり、好ましくは0.070%以上であり、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。また組成物中のα-GPCの含量は、例えば0.60%以下であり、0.40%以下であってもよく、好ましくは0.38%以下であり、より好ましくは0.35%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。組成物中のSMの含量は、例えば0.8%以上であり、好ましくは0.9%以上であり、より好ましくは1.0%以上であり、さらに好ましくは1.1%以上である。また組成物中のSMの含量は、例えば2.3%以下であり、好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.1%以下であり、さらに好ましくは2.0%以下である。組成物中のDHSMの含量は、例えば0.050%以上であり、好ましくは0.070%以上であり、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。また組成物中のDHSMの含量は、例えば0.40%以下であり、好ましくは0.38%以下であり、より好ましくは0.35%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0021】
従来、魚卵を原料とする脂質で構成される組成物に関する検討がされたことはあったが(前掲特許文献11、および非特許文献1等)、魚卵脂質組成物中に、α-GPC、SMやDHSMが含まれることを開示するのは本願が初めてである。
【0022】
α-GPC、SMおよびDHSM以外の本発明の組成物に含まれるリン脂質は、特に限定されず、PC、PE、PI、LPC-2等が多いことが好ましい。組成物中のPCの含量は、例えば24~45%であり、好ましくは26~43%であり、より好ましくは28~41%であり、さらに好ましくは30~39%である。組成物中のPEの含量は、例えば0.90~2.3%であり、好ましくは1.1~2.2%であり、より好ましくは1.3~2.1%であり、さらに好ましくは1.5~2.0%である。組成物中のPIの含量は、例えば0.80~1.8%であり、好ましくは0.90~1.7%であり、より好ましくは1.0~1.6%であり、さらに好ましくは1.1~1.5%である。組成物中のLPC-2の含量は、例えば0.60~1.8%であり、好ましくは0.70~1.7%であり、より好ましくは0.8~1.6%であり、さらに好ましくは1.0~1.5%である。
【0023】
本発明の組成物においてPCは、リン脂質中の含量としても比較的多く含まれる。リン脂質中のPCの含量は、例えば74%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。また95%以下であり、好ましくは94%以下であり、より好ましくは93%以下であり、さらに好ましくは92%以下である。リン脂質含量を高めた組成物においては、リン脂質中のPCの含量はより多い。したがって、好ましい態様においては、組成物中のリン脂質の含量は35%以上であり、このときリン脂質中のPCの含量は、83%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは87%である。
【0024】
(脂肪酸組成)
本発明の組成物においては脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比が比較的高い。魚卵は、リン脂質の形態で、またTGの形態で、DHAを含むことが知られている。具体的には、本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比は、例えば15%以上であり、好ましくは18%以上であり、より好ましくは22%以上であり、さらに好ましくは24%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比の上限は特に限定されないが、例えば46%以下であり、好ましくは40%以下であり、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。
なお、本発明において脂質の構成脂肪酸に占める、特定の脂肪酸の組成比に関して%で表示するときは、特に記載した場合を除き、脂肪酸組成をガスクロマトグラフ法で分析した際のチャートの面積に基づく。
【0025】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸に占めるEPAの組成比は比較的低く、例えば25%以下であり、好ましくは23%以下であり、より好ましくは21%以下であり、さらに好ましくは19%以下である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるEPAの組成比の下限は特に限定されないが、例えば5.0%以上であり、6.0%以上であってもよく、好ましくは8.0%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは12%以上である。
【0026】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはミリスチン酸(C14:0)が含まれる。その組成比は、例えば1.2%以上であり、1.5%以上であってもよく、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.5%以上であり、さらに好ましくは3.0%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるミリスチン酸の組成比の上限は特に限定されないが、例えば10%以下であり、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下であり、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0027】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはパルミチン酸(C16:0)が含まれる。その組成比は比較的低く、例えば25%以下であり、好ましくは22%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは18%以下である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるパルミチン酸の組成比の下限は特に限定されないが、例えば8.0%以上であり、好ましくは10%以上であり、より好ましくは12%以上であり、さらに好ましくは14%以上である。
【0028】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはステアリン酸(C18:0)が含まれる。その組成比は、例えば1.3%以上であり、好ましくは2.2%以上であり、より好ましくは3.0%以上であり、さらに好ましくは3.5%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるステアリン酸の組成比の上限は特に限定されないが、例えば10%以下であり、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下であり、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0029】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはオレイン酸(C18:1、n9c)が含まれる。その組成比は、例えば9.0%以上であり、12%以上であってもよく、好ましくは13%以上であり、より好ましくは14%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるオレイン酸の組成比の上限は特に限定されないが、例えば28%以下であり、25%以下であってもよく、好ましくは23%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは19%以下である。
【0030】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはエイコセン酸(C20:1)が含まれる。その組成比は、例えば1.3%以上であり、1.5%以上であってもよく、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.5%以上であり、さらに好ましくは3.3%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるエイコセン酸の組成比の上限は特に限定されないが、例えば10%以下であり、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下であり、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0031】
本発明の組成物の脂質の構成脂肪酸にはドコサペンタエン酸(DPA)(C22:5)が含まれる。その組成比は、例えば0.50%以上であり、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.5%以上であり、さらに好ましくは3.5%以上である。本発明の組成物における脂質の構成脂肪酸に占めるDPAの組成比の上限は特に限定されないが、例えば10%以下であり、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは6.0%以下であり、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0032】
好ましい態様においては、組成物はDHA結合リン脂質を含む脂質組成物であって、リン脂質を30%以上含み、脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比が15%以上、EPAの組成比が6%~25%、およびパルミチン酸の組成比が20%以下である。より好ましい態様においては、さらにミリスチン酸の組成比が3.7%以下であるか、またはDPAの組成比が5.5%以下である。DPAの組成比は、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0033】
別の好ましい態様においては、組成物は、DHA結合リン脂質を含む脂質組成物であって、リン脂質を30%以上含み、脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比がEPAの組成比より大きい。より好ましい態様においては、脂質の構成脂肪酸に占めるDHA組成比が15%以上であり、EPAの組成比が6~25%である。より好ましい態様においては、さらにミリスチン酸の組成比が3.7%以下であるか、またはDPAの組成比が5.5%以下である。DPAの組成比は、さらに好ましくは5.0%以下である。
【0034】
本発明の組成物には、他の構成脂肪酸として、C14:1(ミリストレイン酸)、C15:1(ペンタデセン酸)、C17:1(ヘプタデセン酸)、C22:1(ドコセン酸)、C24:1(テトラコセン酸)、C18:2 n-6(リノール酸)、C18:3 n-3(α‐リノレン酸)、C18:3 n-6(γ‐リノレン酸)、C20:2 n-6(エイコサジエン酸)、C20:3 n-6(エイコサトリエン酸)、C20:4 n-6(アラキドン酸)、C22:2(ドコサジエン酸)等が含まれていてもよい。
【0035】
(DHA結合リン脂質)
本発明の組成物には、DHAが結合したリン脂質が多く含まれる。詳細には、本発明の組成物におけるリン脂質100g当たりのDHAの重量は、例えば10g以上であり、好ましくは12g以上であり、より好ましくは14g以上であり、さらに好ましくは16g以上である。本発明の組成物におけるリン脂質100g当たりのDHAの重量の上限は特に限定されないが、例えば30g以下であり、好ましくは25g以下であり、より好ましくは22g以下であり、さらに好ましくは20g以下である。一方、本発明の組成物における中性脂質100g当たりのDHAの重量は、例えば8.0g以上であり、好ましくは10g以上であり、より好ましくは12g以上であり、さらに好ましくは14g以上である。本発明の組成物における中性脂質100g当たりのDHAの重量の上限は特に限定されないが、例えば20g以下であり、好ましくは18g以下であり、より好ましくは17g以下であり、さらに好ましくは16g以下である。
なお、脂質に含まれる中性脂質またはリン脂質100g当たりの構成脂肪酸の重量は、対象となる脂質からシリカゲルカラムを用いて中性脂質画分、極性リン脂質画分を得て、得られた画分について常法に従って構成脂肪酸量を測定することにより、求めることができる。
【0036】
好ましい態様においては、組成物中のリン脂質100g当たりのDHAの重量が中性脂質100g当たりのDHAの重量よりも大きい。
【0037】
本発明の組成物におけるリン脂質100g当たりのEPAの重量は、例えば5.0g以上であり、好ましくは6.0g以上であり、より好ましくは7.0g以上であり、さらに好ましくは8.0g以上である。本発明の組成物におけるリン脂質100g当たりのEPAの重量の上限は特に限定されないが、例えば12g以下であり、好ましくは12g以下であり、より好ましくは11g以下であり、さらに好ましくは10g以下である。一方、本発明の組成物における中性脂質100g当たりのEPAの重量は、例えば10g以上であり、好ましくは11g以上であり、より好ましくは12g以上であり、さらに好ましくは13g以上である。本発明の組成物における中性脂質100g当たりのEPAの重量の上限は特に限定されないが、例えば18g以下であり、好ましくは16g以下であり、より好ましくは15g以下であり、さらに好ましくは14g以下である。
【0038】
好ましい態様においては、組成物中のリン脂質100g当たりのEPAの重量が中性脂質100g当たりのEPAの重量よりも小さい。
【0039】
(パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリン等)
本発明の組成物に含まれるDHA結合リン脂質の一つは、パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリン(PDPC)である。PDPCは、ホスファチジルコリン(38:6)において、C-1およびC-2のアシル基のいずれか一方がヘキサデカノイル(16:0)であり、他方がドコサヘキサエノイル(22:6)であるものをいう。本発明の組成物100g中の含量は、例えば550mg以上であり、好ましくは700mg以上であり、より好ましくは800mg以上であり、さらに好ましくは1,000mg以上であり、さらに好ましくは3,500mg以上であり、さらに好ましくは3,800mg以上であり、さらに好ましくは6,000mg以上であり、さらに好ましくは10,000mg以上である。本発明の組成物100g中のPDPCの上限は特に限定されないが、例えば50,000mg以下であり、好ましくは30,000mg以下であり、より好ましくは12,000mg以下であり、1500mg以下であり、好ましくは1400mg以下であり、より好ましくは1300mg以下であり、さらに好ましくは1200mg以下である。
【0040】
本発明の組成物に含まれるリン脂質中でのPDPCの組成比は、例えば12.0%以上であり、好ましくは16.0%以上であり、より好ましくは19.0%以上であり、さらに好ましくは22.0%以上である。本発明の組成物に含まれるリン脂質中でのPDPCの組成比の上限は特に限定されないが、例えば45.0%以下であり、好ましくは40.0%以下であり、より好ましくは35.0%以下であり、さらに好ましくは30.0%以下である。
【0041】
本発明の組成物に含まれるDHA結合リン脂質の他の一つは、ステアロイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリン(SDPC)である。SDPCは、ホスファチジルコリン(40:6)において、C-1およびC-2のアシル基のいずれか一方がステアロイル(18:0)であり、他方がドコサヘキサエノイル(22:6)であるものをいう。本発明の組成物100g中の含量は、例えば700mg以上であり、好ましくは1000mg以上であり、より好ましくは2000mg以上であり、さらに好ましくは2500mg以上である。本発明の組成物100g中のSDPCの上限は特に限定されないが、例えば6000mg以下であり、好ましくは5000mg以下であり、より好ましくは4000mg以下であり、さらに好ましくは3000mg以下である。
【0042】
本発明の組成物に含まれるリン脂質中でのSDPCの組成比は、例えば3.0%以上であり、好ましくは6.0%以上であり、より好ましくは7.0%以上であり、さらに好ましくは8.0%以上である。本発明の組成物に含まれるリン脂質中でのSDPCの組成比の上限は特に限定されないが、例えば20.0%以下であり、好ましくは17.0%以下であり、より好ましくは13.0%以下であり、さらに好ましくは10.0%以下である。
【0043】
なお、組成物100g当たりのPDPC及びSDPCの含量は、必要に応じ市販の標準品で検量線を作成し、液体クロマトグラフィー質量分析(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry:LC/MS/MS)法により、求めることができる。また本発明の組成物に関し、リン脂質中での特定のリン脂質の組成比を示すときは、特に記載した場合を除き、PC(16:0,16:0)、PC(16:0,18:0)、PC(18:1,16:0)、PC(18:0,18:0)、PC(18:1,18:0)、PC(18:1,18:1)、PC(16:0,20:4)、PC(20:5,16:0)、PC(18:0,20:4)、PC(20:4,18:1)、PC(20:5,18:0)、PC(20:5,18:1)、PC(22:6,16:0)、PC(20:5,20:5)、PC(22:6,18:0)、PC(22:6,18:1)、PC(20:5,20:4)、PC(20:4,22:6)、PC(20:5,22:6)、およびPC(22:6,22:6)の総量をリン脂質全体として計算した値である。
【0044】
(エーテル型リン脂質)
本発明の組成物に含まれるリン脂質の一つは、エーテル型リン脂質である。エーテル型リン脂質とは、エーテル結合による炭化水素鎖を有するリン脂質をいい、特に、sn-1位にビニルエーテル結合による炭化水素鎖を有し、sn-2位に脂肪酸が結合しているグリセロリン脂質を、プラズマローゲンという。プラズマローゲンは、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンが加齢と共に減少すること、アルツハイマー病患者では脳のプラスマローゲンが減少していること、プラスマローゲンがLDLコレステロールの酸化を抑制すること等、プラスマローゲンが加齢や酸化ストレスが関与する疾病と関係していることが知られている(Oleoscience, 2, 27-36(2002) 、Oleoscience, 5, 405-415(2005))。
【0045】
本発明の組成物には、より特定するとDHA結合エーテル型リン脂質、およびEPA結合エーテル型リン脂質からなる群より選択されるいずれかが含まれる。
【0046】
本発明の組成物100g中のエーテル型リン脂質、の含量(複数のエーテル型リン脂質が含まれる場合はその総量)は、例えば50mg以上であり、好ましくは100mg以上であり、より好ましくは250mg以上であり、さらに好ましくは300mg以上である。本発明の組成物100g中のエーテル型リン脂質の含量(複数のエーテル型リン脂質が含まれる場合はその総量)の上限は特に限定されないが、例えば1300mg以下であり、好ましくは1200mg以下であり、より好ましくは1100mg以下であり、さらに好ましくは1000mg以下である。
【0047】
なお、組成物100g当たりのエーテル型リン脂質、の含量(複数のエーテル型リン脂質が含まれる場合はその総量)は、必要に応じ市販の標準品で検量線を作成し、液体クロマトグラフィー質量分析(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry:LC/MS/MS)法により、求めることができる。このとき、リン脂質のsn-1位のエステル結合を選択的に分解できる酵素(例えば、ホスホリパーゼA1)で前処理することにより、PCやPEを分解し、エーテル型リン脂質を測定することができる(非特許文献2参照)。
【0048】
魚卵脂質組成物中にエーテル型リン脂質が含まれることを開示するのは本願が初めてである。また魚卵脂質組成物中にDHA結合エーテル型リン脂質、およびEPA結合エーテル型リン脂質からなる群より選択されるいずれかが含まれることを開示するのは本願が初めてである。
【0049】
(脂質以外の成分)
本発明の組成物は脂質以外の成分を含んでいてもよい。脂質以外の成分としては、たんぱく質、アスタキサンチン、ナトリウム、カリウム、リン等の無機物である。なお脂質とは、非極性溶媒に可溶である、生物由来の物質をいい、これには単純脂質、複合脂質、誘導脂質(脂肪酸、テルペノイド、ステロイド、カロテノイド等)が含まれる。
【0050】
本発明の組成物における脂質以外の成分の含量は、例えば10.0%以下であり、好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは7.5%以下であり、さらに好ましくは7.0%以下である。
【0051】
本発明の組成物はアスタキサンチンを含んでいてもよい。本発明の組成物100g中のその含量は、例えば0.7mg以上であり、好ましくは1.0mg以上であり、より好ましくは1.2mg以上であり、さらに好ましくは1.5mg以上である。本発明の組成物100g中のアスタキサンチンの含量の上限は特に限定されないが、例えば23mg以下であり、好ましくは20mg以下であり、より好ましくは10mg%以下であり、さらに好ましくは5.0mg以下である。
【0052】
(原料)
脂質により構成された本発明の組成物は、魚卵から調製される。魚の種類は特に限定されないが、サケ科、ニシン科、またはタラ科の魚であることが好ましい。サケ科には、タイヘイヨウサケ属、タイセイヨウサケ属、イワナ属、イトウ属が含まれるが、タイヘイヨウサケ属またはタイセイヨウサケ属の魚であることがより好ましい。タイヘイヨウサケ属の魚の例として、シロザケ、ギンザケ(コーホーサーモン、シルバーサーモン)、カラフトマス(ピンクサーモン)、サクラマス、ヤマメ、タイワンマス、サツキマス、アマゴ、ビワマス(アメノウオ)、ニジマス(スチールヘッド)、マスノスケ(キングサーモン)、ベニザケ、ヒメマス、クニマスが挙げられる。タイセイヨウサケ属の魚の例として、タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)、ブラウントラウトが挙げられる。ニシン科には、ニシン亜科、ニシンダマシ亜科、コノシロ亜科、Ehiravinae亜科が含まれるが、ニシン亜科、ニシン属の魚であることが好ましい。ニシン属の魚の例として、ニシン、タイセイヨウニシンが挙げられる。タラ科には、Gadus(マダラ)属、Micromesistius(ミナミダラ)属、Gadiculus属、Trisopterus属、Microgadus属、Eleginusコマイ属、Merlangius属、Melanogrammus属、Pollachius属、Boreogadus属、Arctogadus属が含まれるが、マダラ属の魚であることが好ましい。マダラ属の魚の例として、スケソウダラ、マダラ、タイヘイヨウダラ、グリーンランドダラが挙げられる。魚卵は、天然のものであってもよく、養殖のものであってもよい。
【0053】
本発明で魚卵というときは、特に記載した場合を除き、加工の程度は問わない。したがって、本発明に関し、魚卵脂質組成物というときは、魚卵抽出物、魚卵油、魚卵油精製物、それらのいずれかの乾燥物等を原料とする脂質組成物も含まれる。
【0054】
特に好ましい態様においては、本発明の組成物は、筋子、イクラ、数の子、助子、またはそれらのいずれかの加工品から調製される。
【0055】
本発明の組成物は魚卵を原料とするため、イカの皮、イカの肉、オキアミ等を原料とする脂質組成物とは脂質組成が異なることは明らかである。
【0056】
<製造方法>
前述のとおり、魚卵脂質組成物中に、α-GPC、SM、DHSM、およびエーテル型リン脂質が含まれることを開示するのは本願が初めてである。したがって、本発明はSMおよびDHSMからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、食品素材、医薬品素材、または化粧品素材の製造方法を提供するものでもある。この製造方法は、下記の工程を含む。
魚卵またはその加工品である原材料から、α-GPC、SM、DHSM、およびエーテル型リン脂質からなる群より選択される少なくとも一種を含む画分を得る工程。
【0057】
また本発明はPDPCを豊富に含有する、食品素材、医薬品素材、または化粧品素材の製造方法を提供するものでもある。この製造方法は、下記の工程を含む。
魚卵またはその加工品である原材料から、PDPCを含む画分を得る工程。
豊富に含有するとは、素材100gあたり、PDPCを少なくとも550mg以上、好ましくは700mg以上、より好ましくは800mg以上、さらに好ましくは1000mg以上含むことをいう。
【0058】
原材料となる魚卵については、上で説明したとおりである。好ましい態様においては、原材料は、筋子、イクラ、数の子、助子、筋子抽出物、イクラ抽出物、数の子抽出物、助子抽出物、魚卵油、または魚卵油精製物である。この方法により製造される食品素材は、上で説明したリン脂質の含量を高め、かつリン脂質中のDHAの組成比を高めた、DHA結合リン脂質を含む魚卵脂質組成物であり得る。好ましい態様においては、食品素材は、DHA結合リン脂質を含み、脂質の構成脂肪酸に占めるDHAの組成比が15%以上であり、およびEPAの組成比が5%以上である。
【0059】
本発明の製造方法における、魚卵またはその加工品である原材料からSMおよびDHSMからなる群より選択される少なくとも一種を含む画分を得る工程は、天然物からリン脂質を抽出する従来技術が利用できる。従来技術としては、前掲特許文献1~11および非特許文献1に記載された方法のほか、特開昭64-50890号公報、特開平1-199588号公報、特開平7-95875号公報、特公平7-595869号公報、特開平11-123052号公報、特開2006-96674号公報に記載された方法等が挙げられる。当業者であれば、これらの公知の方法を、原材料に応じて適宜改変して本発明のために適用できる。
【0060】
魚卵またはその加工品である原材料からのリン脂質の抽出は、具体的には、原材料と極性の低い有機溶媒を混合することにより実施できる。極性の低い溶媒の例は、60~99%含水エタノール、エタノール、ヘキサン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、アセトン、エーテル、クロロホルム、メタノールからなる群より選択される1種または2種以上の有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。有機溶剤による抽出温度は0~90℃、好ましくは30~70℃である。含水エタノールの水分含量を操作することで、得られる抽出物におけるリン脂質の含量を増やすことができることが知られている(前掲非特許文献1参照)。また、魚卵またはその加工品である原材料からのリン脂質の抽出は、二酸化炭素を用いた超臨界流体抽出法によっても実施できる。
【0061】
<用途>
本発明の組成物は、DHA結合リン脂質の機能に基づく様々な用途に、使用することができる。DHA結合リン脂質の機能としては、アレルギー抑制、肝機能向上、赤血球変形機能向上、脳卒中抑制、美白、認知機能の向上等が知られている。また、PDPCに代表されるDHA結合リン脂質が、HL-60ヒト前骨髄性白血病細胞の分化と増殖に影響を及ぼすとの報告がある(J. Jpn. Oil Chem. Soc. 46(4), 1997)。
【0062】
本発明の組成物は、DHAの機能に基づく様々な用途にも使用することができる。DHAの機能としては、血小板凝集抑制、血中中性脂肪値低下、血中コレステロール低下、脳機能向上、記憶力の維持、睡眠の質改善等が知られている。
【0063】
好ましい態様においては、本発明の組成物は、メタボリックシンドロームの改善のため、脂質代謝の改善ため、糖代謝の改善のため、および認知機能の向上のために用いることができる。メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧、高血糖、または脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態をいい、ウエスト周囲径が男性の場合は85cm以上であり、女性の場合は90cm以上であり、かつ血圧、血糖、および脂質の3つのうち2つ以上が基準値から外れる場合にこの病態であると診断される。基準値から外れるとは、血圧については、収縮期(最大)血圧が≧130mmHg、かつ/または拡張期(最小)血圧が≧85mmHgであること、血糖については、空腹時血糖が≧110mg/dLであること、脂質については、高トリグリセリド血症、すなわち血液中のトリグリセリドが≧150mg/dL、かつ/または低HDLコレステロール血症、すなわち血中のHDLが<40mg/dLであることをいう。認知機能の向上の対象には、アルツハイマー病の患者が含まれる。
【0064】
本発明の組成物はまた、SMまたはDHSMの機能に基づく様々な用途にも使用することができる。SM等のスフィンゴ脂質の骨格部分であるセラミドは表皮層の細胞間脂質の主要な成分であり、皮膚のバリア機能や保湿機能において重要である。したがって、本発明の組成物は、皮膚のバリア機能や保湿機能のために用いることができる。
【0065】
<その他>
(形態)
本発明の組成物は、一般食品、保健機能食品、医薬品、医薬部外品の形態とすることができる。これらは、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。保健機能食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、およびスープを含む。食品は、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、カプセル、錠剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含する。
【0066】
(対象)
本発明の組成物は、リン脂質やDHAを、対象に摂取させる、または投与するのに適している。このような対象には、乳幼児、子ども、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。
【0067】
(投与経路等)
本発明の組成物は、経口的に摂取させ、または投与するのに適している。
【0068】
(用量)
本発明の組成物の摂取量・投与量は、一日当たり、100mg~10000mgとすることができ、好ましくは300mg~5000mgであり、より好ましくは500mg~2500mgである。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、n-3系脂肪酸の食事摂取基準は、15歳以上の男性では2.1~2.4g/日、15歳以上の女性では1.6~2.0g/日、妊婦および授乳婦では1.8g/日が目安量とされている。本発明の組成物もこの範囲で用いることができる。
【0069】
本発明の組成物は、一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。組成物は、食経験豊富な魚卵由来の有効成分を用いているため、長期間の摂取に適している。そのため繰り返し、または長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。
【0070】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、魚卵由来の脂質以外に、食品または医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸およびニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0071】
また組成物は、食品または医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、酸化防止剤、安定剤、安定化剤、着色剤、保存剤、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、甘味料、香料、酸味料、天然物である。
【0072】
(その他)
本発明の組成物には、リン脂質、DHA、およびDHA結合リン脂質が含まれていること、またそれらの成分の機能や、それらの成分の摂取のために用いることができる旨を表示することができ、また摂取を勧める特定の対象(例えば、中性脂肪が気になる方、DHAを摂りたい方、等)を表示することができる。表示は、直接的にまたは間接的にすることができる。直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、チラシ、パンフレット、展示会、店頭、ウェブサイト、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0074】
<筋子、数の子、助子からの組成物の製造>
凍結粉砕した生筋子(15 kg)に含水エタノール(150 L) を加えて 抽出し、ろ過により残渣を濾別した。また、残渣を抽出器に戻し、再度エタノール (75 L)を加えて抽出した。得られたろ液を減圧下、溶媒を留去し、赤色油状物質の約30%のリン脂質を含む組成物(30PL)(実施例1)、約40%のリン脂質を含む組成物(40PL)(実施例2-1、および実施例2-2)を製造した。また同様に、数の子、養殖サケからの筋子、助子を原料とし、リン脂質を含む組成物を製造した。
【0075】
<組成物の分析>
1.材料・方法
以下の方法で、得られた組成物について分析した。
【0076】
(リン脂質含量測定のためのJFRL法)
試料濃度が1.5%となるように、試料(200 mg)を0.5% EDTA2Na含有10%コール酸ナトリウム水溶液(pH6.9)に希釈して、測定溶液とした。また内部標準にはホスホセリン(traceable reference material)を用いた。NMRの測定条件は、下記の通り。
NMR装置: JNM-ECA 500(日本電子株式会社)
31P共鳴周波数: 202 MHz、待ち時間: 20秒、取り込み時間: 4.0秒、パルス核90°
積算回数: 2048回、 測定温度:30℃
【0077】
(脂肪酸測定のためのガスクロマトグラフ法)
試料100 mgをねじ口試験管に精秤し、0.5 M水酸化ナトリウム溶液を1.5 mL加え、窒素封入した後、100℃のブロックヒーターで9分間加熱した。ブロックヒーターから試験管を取り出し、放冷した後、三フッ化ホウ素メタノール錯体溶液(Sigma,B1252-100ML)(2 mL)加え、窒素封入した後、100℃のブロックヒーターで7分間加熱した。ブロックヒーターから試験管を取り出し、放冷した後、ヘキサンを3 mL加え、3分間ボルテックスした。蒸留水を3 mL加え、30秒間手で激しく撹拌した後、試験管立てに静置し、水層とヘキサン層に分離した。硫酸ナトリウムで脱水した後、ガスクロマトグラフィー(Plus/GC-2010:島津製作所)に供した。
【0078】
【表1】
【0079】
(比較品)
また比較のため、以下の従来品を用いた。
市販品A(クリルオイル、AkerBiomarine製 Lot.160512)
市販品B(クリルオイル AkerBiomarine製 Lot.170818)
市販品C(サンオメガDHA-PC 日油製 Lot. 160512)
【0080】
2.結果
(組成)
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
(リン脂質クラスの分析)
【0085】
【表5】
【0086】
(脂肪酸組成(全体) 組成比%)
組成比を、自動積分で取得された面積値のうち、溶媒ピークのみを除外し、算出した面積の割合として求めた。結果を下表に示した。
【0087】
【表6】
【0088】
<DHAが結合している脂質の分析>
試料を(約700mg)クロロホルム(4mL)に溶解し、シリカゲルカラム(SepPakVac12cc(2g)SilicaCartridge(MERCK))にアプライした。クロロホルム(30mL)、クロロホルム-メタノール(9:1)(50mL)を順次通液し、溶出した溶液を中性脂質画分(NL画分)とした。つぎに、メタノール(60mL)を通液して溶出した溶液を極性リン脂質画分(PL画分)とした。NL画分、PL画分それぞれを濃縮し、定法に従いDHA、EPA含量(100g当たりの重量)を測定した。
【0089】
結果を下表に示した。
【0090】
【表7】
【0091】
<パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリンの分析>
DHA結合リン脂質のうち、パルミトイルドコサヘキサエノイルホスファチジルコリン(PC38:6(PC-16:0-22:6))をLC-MS/MSで定量した。
【0092】
(標準溶液の調製)
Avanti社製1-Palmitoyl-2-docosahexaenoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(25mg/2.5 mL Chloroform Solution, Lot:850461C-25MG-J-053)を用いた。原液(104.0 mg)を秤量し、そこに0.1%ギ酸+5mMギ酸アンモニウム含有メタノール(900 uL)を加えた(1000ppm溶液)。次に、1000ppm溶液(100 uL)に0.1%ギ酸+5mMギ酸アンモニウム含有メタノール(900 uL)を加え、100ppm溶液を調製した。同様の操作を繰り返し、10000ppb, 1000ppb, 100ppb溶液をそれぞれ調製した。得られた希釈液を外部標準サンプルとした。
【0093】
(分析サンプル調製)
サンプル(5-10 mg)を精秤し、クロロホルム(5-10 mL)をホールピペットにて加えた(1000ppm溶液)。次に、1000ppm溶液(0.1 g)を精秤し、0.1%ギ酸+5mMギ酸アンモニウム含有メタノール(900 uL)を加えた(100ppm溶液)。さらに、100ppm溶液(100 uL)に対し0.1%ギ酸+5mMギ酸アンモニウム含有メタノール(900 uL)を加えた(10ppm溶液)。得られた希釈液を分析サンプルとした。
【0094】
(LC基本条件)
流速:0.35ml/min
Column Oven Temp:50℃
Injection Volume:1uL
Column:Triart C18 (2.1×150mm, 粒径3μm) YMC社
【0095】
(グラジエント条件)
・移動相A:0.1%ギ酸+10mMギ酸アンモニウム含有60%アセトニトリル
・移動相B:0.1%ギ酸+10mMギ酸アンモニウム含有2-プロパノール:アセトニトリル=9:1
【0096】
【表8】
【0097】
(MS条件)
質量分析装置: QTRAP6500+ (SCIEX)
Polarity: Negative、Curtain Gas:20.0[psi]、IonSpray Voltage:-5500.0[V]
Temperature:350.0℃、Ion Source Gas 1:40.0、Ion Source Gas 2:50.0
CAD: 11.0、EP:-10.0
Q1: 850.56, Q3:255.233, 327.233, DP voltage: -50, CE voltage:-46, CXP voltage:-13
定量には、保持時間9.78 分、Q1: 850.56、Q3 327.233を用いた。
【0098】
定量結果を下表に示した。
【0099】
【表9】
【0100】
<エーテルリン脂質画分の分析>
エーテルリン脂質画分の定量分析
(分析サンプルの前処理)
試料を(約150 mg)クロロホルム-メタノール(9 : 1)(500 μL)に溶解し、シリカゲルカラム(Bond Elut(5 g)(Agilent))にアプライした。溶出した溶液を中性脂質画分(NL画分)とした。つぎに、クロロホルム:メタノール:水(65:25:4)(100 mL)を通液して溶出した溶液を極性リン脂質画分(PL画分)とした。PL画分それぞれを濃縮、凍結乾燥した。
【0101】
PL画分(約10 mg)をエタノール(150μL)に溶解し、次いでホスホリパーゼA1水溶液(三菱ケミカルフーズ, 9000U, 0.1 mol/L クエン酸ナトリウム/塩酸緩衝液,pH 4.4, 3 mL)中で加水分解した(反応温度50℃, 30時間)。反応液に対しクロロホルム-メタノール(1:1)(6.66 mL)を加え、攪拌した後に遠心分離(3500rpm×15min)し、下層を採取した。無水硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮乾固および真空乾固により抽出油を得た。なお、本酵素分解条件は三明らの方法を参考に実施した(非特許文献2)。
【0102】
(分析サンプルの調製)
PL画分の前処理は前項の方法に従って実施した。表1の抽出油に対してメタノール(1.4~3.9g)を加えて希釈し、1000ppmメタノール溶液を得た。その溶液(100 μL)に対してメタノール(900 μL)を加えた。当該希釈液をメンブレンフィルター(0.20 μm, DISMIC-13HP)に通液させ、測定サンプルとした。
【0103】
(検量線用標準液の調製)
Avanti社製1-(1Z-octadecenyl)-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(1 mg/mL Chloroform Solution, Lot: 852467C-5MG-D-021)を用いた。原液(100 μL)にメタノール(900 μL)を加えた(100ppm溶液)。次に、100ppm溶液(500 μL)にメタノール(500 μL)を加えて50ppm溶液を調製した。さらに、100ppm溶液(150 μL)にメタノール(1350 μL)を加えて10ppm溶液を調製した。50ppm溶液(100 μL)にメタノール(900 μL)を加えて5ppm溶液を調製した。10ppm溶液(200 μL)にメタノール(800 μL)を加えて2ppm溶液を調製した。得られた希釈液を外部標準サンプルとした。
【0104】
(LC基本条件)
流速:0.30ml/min
Column Oven Temp:50℃
Injection Volume:10μL
Column:ACQUITY UPLC BEH Amide 1.7um 2.1 x 100mm Column(Waters社)
【0105】
(グラジエント条件)
・移動相A:2mM 酢酸アンモニウム含有 水:アセトニトリル=5:95
・移動相B:2mM 酢酸アンモニウム含有 水:アセトニトリル=50:50
【0106】
【表10】
【0107】
(荷電化粒子検出器の設定条件)
・荷電化粒子検出器:Corona Veo RS(ThermoFisher)
・フィルター定数:5.0 sec
・パワーファンクション:1.00
・電流範囲:100 pA
・ドライングチューブ温度:35℃
【0108】
(定量結果)
定量結果を下表に示す。
【0109】
【表11】
【0110】
エーテルリン脂質画分の定性分析
LC-MS測定により、当該エーテルリン脂質画分中に含まれる化合物を定性した。
【0111】
(分析サンプルの調製)
酵素分解後の抽出油1重量あたりに対してメタノール1000倍容を加えて希釈し、1000 ppmメタノール溶液を得た。その溶液(100 μL)に対して0.1 %ギ酸および5 mMギ酸アンモニウム含有メタノール(900 μL)を加えた。当該希釈液をメンブレンフィルター(0.20 μm, DISMIC-13HP)に通液し、測定サンプルとした。
【0112】
(LC基本条件)
流速:0.30 mL/min
Column Oven Temp:50℃
Injection Volume:10μL
Column:ACQUITY UPLC BEH Amide 1.7um 2.1 x 100mm Column(Waters社)
【0113】
(グラジエント条件)
・移動相A:2 mM 酢酸アンモニウム含有 水:アセトニトリル=5:95
・移動相B:2 mM 酢酸アンモニウム含有 水:アセトニトリル=50:50
【0114】
【表12】
【0115】
(MSの設定条件)
質量分析装置: Q-Exactive (Thermo Fisher)
<General>
Polarity: Negative
Default charge state: 2
<Full MS>
Resolution: 70,000
AGC target: 3e6
Maximum IT: 100 ms
Scan Range: 200 to 2000 m/z
<dd-MS2 / dd-SIM>
Resolution: 17,500
AGC target: 1e5
Maximum IT: 50 ms
Loop count: 5
TopN: 5
Isolation window: 4.0 m/z
Stepped NCE: 25, 35, 45
【0116】
(定性方法)
上記質量分析装置で得たデータの専用解析ソフトウェアであるFree Style(Thermo Fisher)およびLipid Search (Ver 4.2.23, 三井情報株式会社)により解析した。
【0117】
(Lipid Searchの設定パラメーター)
・Search type: product
・Precursor Tolerance: 5.0ppm
・Product Tolerance: 8.0ppm
・m-Score threshold: 2.0
・Adducts: -H, +COOH
【0118】
(定性結果)
代表例として、筋子オイル40PLの解析について記載する。
Lipid Searchの解析結果より、主として、PC(14:0e_20:5) 、PC(14:0e_22:6)、PC(14:1e_22:6)、PC(16:1e_22:6)、PC(18:1e_22:6)を含むことを認めた。すなわち、DHA、EPAが結合したことを特徴とするエーテルリン脂質をであった。これらエーテルリン脂質(プラズマローゲン等)には、一般に認知機能改善に効果があることが知られている。