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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電気化学セルおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/073 20210101AFI20221208BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20221208BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221208BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221208BHJP
   C25B 11/037 20210101ALI20221208BHJP
   C25B 11/047 20210101ALI20221208BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221208BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
C25B11/073
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/037
C25B11/047
H01M4/86 T
H01M8/12 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022059723
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-219710(JP,A)
【文献】特開2006-040612(JP,A)
【文献】特開2008-098069(JP,A)
【文献】特開2009-064641(JP,A)
【文献】特表2010-541177(JP,A)
【文献】特開2017-076520(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196236(WO,A1)
【文献】米国特許第05656387(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0087869(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0045099(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0076974(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0052662(KR,A)
【文献】A. Hauch, et al.,Ni/YSZ electrodes structures optimized for increased electrolysis performance and durability,Solid State Ionics,2016年,Vol.293,p.27-36,http://dx.doi.org/10.1016/j.ssi.2016.06.003
【文献】Aligul Buyukaksoy, et al.,Highly active nanoscale Ni - Yttria stabilized zirconia anodes for micro-solid oxide fuel cell applications,Journal of Power Sources,2016年,Vol.307,p.449-453,http://dx.doi.org/10.1016/j.jpowsour.2015.12.022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/042
H01M 4/86
C25B 11/047
C25B 1/042
C25B 9/00
C25B 9/23
C25B 11/037
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された酸化物イオンを伝導する固体電解質層と、を備える電気化学セルであって、
前記水素極は、ニッケル粒子と、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が0.1μm~2μmの酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでおり、
ここで、電子顕微鏡観察に基づく前記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmであり、
前記水素極では、
前記ニッケル粒子と前記セラミック粒子とが相互に分散した状態で存在しており、
前記ニッケル粒子と前記セラミック粒子との混合比(ニッケル粒子:セラミック粒子)が30:70~70:30である、電気化学セル。
【請求項2】
水素極と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された酸化物イオンを伝導する固体電解質層と、を備える電気化学セルであって、
前記水素極は、ニッケル粒子と、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が0.1μm~2μmの酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでおり、
ここで、電子顕微鏡観察に基づく前記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmであり、
前記水素極では、前記ニッケル粒子と前記セラミック粒子とが相互に分散した状態で存在しており、該水素極の断面について無作為に抽出した10以上の視野における電子顕微鏡画像において、前記ニッケル粒子が20個以上凝集したニッケル粒子の凝集体と、前記セラミック粒子が20個以上凝集したセラミック粒子の凝集体とがいずれも観察されない、電気化学セル。
【請求項3】
水素極と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された酸化物イオンを伝導する固体電解質層と、を備える電気化学セルであって、
前記水素極は、ニッケル粒子と、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が0.1μm~2μmの酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでおり、
ここで、電子顕微鏡観察に基づく前記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmであり、
前記水素極では、前記ニッケル粒子と前記セラミック粒子とが相互に分散した状態で存在しており、
前記セラミック粒子は、セリウム酸化物、あるいは、Y 、Yb 、Gd 、CaO、MgO、または、CeO が固溶されたジルコニアであるジルコニウム酸化物である、電気化学セル。
【請求項4】
前記セラミック粒子は、ジルコニウム酸化物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記ジルコニウム酸化物は、イットリア安定化ジルコニアである、請求項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~50nmである、請求項1~のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記水素極がカソードであり、前記空気極がアノードである、請求項1~6のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
請求項7に記載の電気化学セルを備える、水素製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水素製造装置を用いて水素を製造する、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セルおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの一例として、固体酸化物形電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)が挙げられる。SOECは、例えば、水素極(燃料極)と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された固体電解質層と、を有している。水素極、固体電解質層、および、空気極は、電気化学反応を奏する積層構造を構成している。SOECでは、例えば、水素極がカソード、空気極がアノードとして機能し得る。SOECによれば、例えば、水(水蒸気)から水素ガスを生成することができる。例えば、上述した電気化学反応を奏する積層構造の水素極に水蒸気を供給し、この状態で通電すると、供給された水蒸気が分解される。このとき、空気極において酸素ガスが生成され、水素極において水素ガスが生成され得る。なお、SOECの逆反応は、例えば、発電に用いられ得る。SOECの逆反応は、例えば、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に用いられ得る。
【0003】
SOECに関して、特許文献1,2では、ニッケル粒子を含む水素極が開示されている。特許文献1で開示された水素極(燃料極)は、電極層と、該電極層の表層部に形成された網目状の配線と、集電体と、を備えている。電極層は、混合導電性酸化物と、表面部にニッケル粒子を担持するアルミニウム系酸化物と、の混合層により形成されることが提案されている。同文献によれば、かかる水素極の触媒活性および耐久性が向上されており、電気化学セルの出力性能が向上し得るとされている。一方、特許文献2で開示された水素極は、相互に構造が異なる集電層と、触媒層とを備えている。同文献では、触媒層に関して、電子-イオン混合伝導性酸化物の多孔体にNi含有粒子が分散され、かつ、担持された構成が提案されている。かかる構成によると、水素極の劣化が抑制されることが記載されている。
【0004】
ニッケル粒子を製造する方法としては、例えば、気相法および液相法(例えば、湿式還元法)が用いられ得る。液相法を用いてニッケル粒子を製造する方法の一例として、特許文献3の製造方法が挙げられる。この方法を用いると、粒子径のばらつきが低減された金属ナノ粒子(例えば、ニッケルナノ粒子)を製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-64640号公報
【文献】国際公開2020/196236号
【文献】特開2021-155836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水素極と、空気極と、固体電解質層とを備える電気化学セルでは、通電による水素極の耐久性を向上させることが求められている。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニッケル粒子を含む水素極を備えた電気化学セルにおける水素極の劣化を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示される電気化学セルは、水素極と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された固体電解質層と、を備える。上記水素極は、ニッケル粒子と、酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでいる。ここで、電子顕微鏡観察に基づく上記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmである。上記水素極では、上記ニッケル粒子と上記セラミック粒子とが相互に分散した状態で存在している。
【0009】
かかる構成の電気化学セルでは、ニッケル粒子の平均粒子径が30nm~80nmに設定されている。かかる範囲の平均粒子径を有することで、通電時におけるニッケル粒子の凝集が抑制され得る。また、かかる電気セルの水素極では、ニッケル粒子とセラミック粒子とが相互に分散した状態で存在している。換言すれば、水素極では、ニッケル粒子の凝集が抑制された状態である。ここで開示される電気化学セルでは、水素極の劣化が抑制されている。
【0010】
ここで開示される電気化学セルの好ましい一態様では、上記ニッケル粒子と上記セラミック粒子との混合比(ニッケル粒子:セラミック粒子)は、30:70~70:30である。かかる構成によると、両粒子が相互に分散しやすくなる。このため、水素極の劣化抑制効果を向上させることができる。
【0011】
ここで開示される電気化学セルの好ましい他の一態様では、上記セラミック粒子は、ジルコニウム酸化物である。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果は、水素極にセラミック粒子としてジルコニウム酸化物を含む電気化学セルにおいて好適に発揮され得る。この場合、上記ジルコニウム酸化物は、イットリア安定化ジルコニアであってもよい。
【0012】
ここで開示される電気化学セルの好ましい他の一態様では、上記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~50nmである。かかる構成によると、水素極の劣化抑制効果をよりよく実現することができる。上記ニッケル粒子は、液相法を用いて作製されたニッケル粒子であってもよい。
【0013】
ここで開示される電気化学セルの好ましい他の一態様では、上記水素極がカソードであり、上記空気極がアノードである。この場合、電気化学セルはSOECとして作動し得る。このため、かかる構成によると、水素極の劣化が抑制されたSOECが提供され得る。
【0014】
また、ここには、水素製造装置が提供される。ここで開示される水素製造装置は、上述の電気化学セルを備えている。電気化学セルでは、水素極の劣化が抑制されている。このため、水素の製造効率が向上した水素製造装置が提供され得る。
【0015】
また、ここには、水素の製造方法が提供される。ここで開示される製造方法では、上述の水素製造装置を用いて水素を製造する。上記水素製造装置を用いることで、効率よく水素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電気化学セル1の断面図である。
図2】水素極10の断面模式図である。
図3】水素製造装置100の模式図である。
図4】試験例における水素極の断面SEM観察画像である。
図5】試験例における水素極の断面SEM観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、本明細書において数値範囲を「A~B(A、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下(Aを上回るがBを下回る範囲を含む)」を意味するものとする。
【0018】
本明細書において「電気化学セル」とは、化学エネルギーを電気エネルギーに変換できる装置、および、電気エネルギーを化学エネルギーに変換できる装置をいい、アノード、カソード、および、電解質を有するものをいう。本明細書において「アノード」とは、外部回路に電子が流れ出す電極いう。本明細書において、「カソード」とは、外部回路から電子が流れ込む電極をいう。電気化学セルの一例として、電解セルが挙げられる。電解セルでは、例えば、水(例えば、水蒸気)に電気エネルギーを適用することで、水から水素と酸素とを生成する化学反応を起こすことができる。電解質は、例えば、電解質として固体電解質を有するSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)を包含する。ここで開示される技術がSOECに適用される場合を例にして、以下の実施形態を説明する。
【0019】
1.電気化学セル
図1は、電気化学セル1の断面図である。図1には、電気化学セル1の積層構造が示されている。図1に示されているように、電気化学セル1は、水素極10と、空気極14と、固体電解質層12と、を備えている。この実施形態では、電気化学セル1は、SOECである。ここでは、水素極10がカソードであり、空気極14がアノードである。
【0020】
<水素極10>
水素極10は、固体電解質層12の一方の表面に、酸化物イオンを相対的に高濃度に供給する機能を有し得る。水素極10は、例えば、高温の水蒸気から酸化物イオンおよび水素ガスを生成するとともに、酸化物イオンを固体電解質層12に向けて伝導することができる。このため、電気化学セル1では、水素極10に、酸化物イオンの原料たるガス(例えば、水蒸気等)が供給される。かかるガスの供給を効率よく行うことを考慮すると、水素極10は、多孔質体であるとよい。水素極10の気孔率は、例えば5体積%~40体積%(好ましくは、20体積%~30体積%)に設定されているとよい。この実施形態では、水素極10は、気孔率が均一な単層構造であるが、他の実施形態において、相互に異なる気孔率を有する2以上の層の多層構造であってもよい。水素極10の厚みは、特に限定されないが、1μm~100μm(例えば、5μm~50μm)であるとよい。
【0021】
水素極10は、ニッケル粒子と、酸素イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでいる。ニッケル粒子は、例えば、少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上のニッケル元素を含む粒子である。ニッケル粒子に含まれ得るニッケル以外の元素は、ニッケル粒子の生成等において混入し得る不可避的不純物であり、特に限定されない。
【0022】
ところで、ニッケルは、他の金属に比べて安価であり、かつ、高い反応活性を示し得るため、電気化学セルの水素極の構成材料として好ましく用いられ得る。本発明者は、ニッケル粒子を含む水素極を備えた電気化学セルにおける、水素極の劣化を抑制したいと考えた。例えばSOECでは、通電時間の経過によって、ニッケル粒子が凝集して偏在したり、固体電解質層と反対方向に移動したりする傾向がある。本発明者は、かかる傾向を抑制する水素極の構成を検討し、水素極の劣化を抑制したい、と考えた。
【0023】
ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmである。これによって、ニッケル粒子において好ましい反応面積を実現することができるとともに、通電による粒子の凝集を抑制することができる。このため、水素極10の劣化抑制効果を実現することができる。ニッケル粒子の平均粒子径が小さいほど、通電時の反応面積を大きくすることができる。ただし、平均粒子径が小さすぎると、ニッケル粒子の製造が難しくなる傾向がある。この観点からも、平均粒子径が上記範囲に設定されることが好ましい。一方で、平均粒径が大きくなるほど、通電時にニッケル粒子が凝集しやすくなる。かかる観点から、ニッケル粒子の平均粒子径は、70nm以下がより好ましく、60nm以下がさらに好ましい。ここで開示される技術の効果をよりよく実現する観点からは、ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~50nmであることが、特に好ましい。
【0024】
本明細書において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径(SEM径)をいう。例えば、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM;field emission-scanning electron microscope)を用いて、測定対象の粒子(例えば、ニッケル粒子)に含まれる所定個数(例えば、50個以上)の粒子を観察し、各々の粒子画像に外接する、面積が最小となる長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形の長辺の長さを取得し、その算術平均値を、粒子の平均粒子径とする。なお、平均粒子径の取得には、市販の画像解析ソフトを用いることができる。
【0025】
ニッケル粒子としては、30nm~80nmの平均粒子径を有するニッケル粒子を使用すればよく、その製造方法は特に限定されない。特に限定するものではないが、ここで開示される技術の効果を好適に実現する観点から、ニッケル粒子は、液相法(湿式還元法)を用いて作製されたものを使用することが好ましい。液相法を用いて作製されたニッケル粒子は、その他の製造方法(例えば、気相法等)を用いて作製されたニッケル粒子よりも、平均粒子径のばらつきが小さくなり得るため、好ましい。なお、ニッケル粒子としては、上記平均粒子径を有するニッケル粒子の市販品を使用してもよい。
【0026】
セラミック粒子は、例えば、この種の用途に用いられる金属酸化物であり得る。かかる金属酸化物としては、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物等が挙げられる。ジルコニウム酸化物は、例えば、ジルコニアおよび安定化ジルコニアを含み得る。安定化ジルコニアとしては、Y、Sc、Yb、Gd、CaO、MgO、および、CeOからなる群から選ばれた1または2以上の安定化剤が固溶されたジルコニアが挙げられる。なかでも、Yが固溶されたイットリア安定化ジルコニアが好ましく用いられ得る。セリウム酸化物は、例えば、セリアおよびドープセリアを含み得る。ドープセリアとしては、Sm、Gd、および、Y等からなる群から選ばれた1または2以上の酸化物が固溶されたセリアが挙げられる。セラミック粒子の平均粒子径は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。平均粒子径は、例えば、0.1μm~5μm(好ましくは0.2μm~2μm程度)とすることができる。
【0027】
ニッケル粒子とセラミック粒子との混合比は、水素極の機能、水素極におけるニッケル粒子の分散性に影響する一要素となり得る。ここでは、混合比(ニッケル粒子:セラミック粒子)は、30:70~70:30であることが好ましい。これによって、両粒子が相互に分散しやすくなる。このため、水素極の劣化抑制効果を向上させることができる。ニッケル粒子の混合量が大きすぎると、例えば、ニッケル粒子が十分に分散できず、通電時にニッケル粒子同士が凝集しやすくなる。一方、ニッケル粒子の混合量が少なすぎると、例えば、導電性が低下し、水素極の機能が低下し得る。かかる観点から、混合比(ニッケル粒子:セラミック粒子)は、上記範囲に設定されることが好ましく、あるいは、35:65~65:35(例えば、60:40程度)に設定されるとよい。
【0028】
図2は、水素極10の断面模式図である。図2には、水素極10の断面構造と、固体電解質層12の一部とが示されている。図2に示されているように、水素極10では、ニッケル粒子10aとセラミック粒子10bとが相互に分散した状態で存在している。本明細書において、「ニッケル粒子とセラミック粒子とが相互に分散した状態」とは、例えば、ニッケル粒子とセラミック粒子とが凝集していないことをいう。ニッケル粒子およびセラミック粒子の分散状態は、例えば、水素極10の厚み方向(図1および図2では、矢印Yで示された方向)に沿った断面を、電子顕微鏡(SEM;Scanning electron microscope)で観察して得られた画像を用いて評価され得る。例えば、無作為に抽出した、水素極の上記断面における複数(例えば10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上)の視野において、SEM観察画像を取得する。かかる断面SEM観察画像を二値化してニッケル粒子とセラミック粒子とを区別し、それぞれの粒子数をカウントする。各断面SEM観察画像において、ニッケル粒子の凝集体と、セラミック粒子の凝集体とが、いずれも観察されなかったときに、ニッケル粒子とセラミック粒子とが相互に分散している、と評価する。凝集体は、例えば、ニッケル粒子またはセラミック粒子が20個以上(好ましくは10個以上、より好ましくは5個以上)凝集した凝集体であり得る。
【0029】
<固体電解質層12>
固体電解質層12は、酸化物イオンを伝導する機能を有し得る。図1に示されているように、固体電解質層12は、水素極10の上面に形成されている。固体電解質層12は、例えば、水素極10で生成した酸化物イオンを空気極14に伝導することができる。また、固体電解質層12は、水素極10と空気極14とを相互に離隔するセパレータとして機能し得る。かかる観点から、固体電解質層12は、緻密層であることが好ましい。固体電解質層12の厚みは、特に限定されず、1μm~30μmであるとよい。
【0030】
固体電解質層12は、固体電解質で構成され得る。固体電解質は、例えば、酸化物イオン伝導性を有するセラミック材料であり得る。かかる固体電解質としては、この種の用途に用いられる固体電解質を特に制限なく使用することができる。例えば、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)等の元素を含む酸化物が挙げられる。なかでも、ジルコニア、安定化ジルコニア等のジルコニウム酸化物;セリア、ドープセリア等のセリウム酸化物;が好ましく用いられ得る。固体電解質は、1種または2種以上の固体電解質で構成され得る。なお、安定化ジルコニアおよびドープセリアに関しては、上で説明したとおりである。
【0031】
<空気極14>
空気極14は、酸化物イオンを酸化する機能を有し得る。空気極14は、例えば、水素極10で生成した酸化物イオンを、固体電解質層12を介して受け取る。この酸化物イオンは、空気極14で酸化されて、酸素ガスとなり得る。かかるガスの放出を効率よく行うことを考慮すると、空気極14は、多孔質体であるとよい。空気極14の気孔率は、例えば5体積%~40体積%(好ましくは、20体積%~30体積%)に設定されているとよい。空気極14の厚みは、特に限定されないが、5μm~100μmであるとよい。
【0032】
空気極14の構成材料としては、この種の用途に用いられる材料を特に制限なく使用することができる。例えば、(La,Sr)MnO(例えば、La0.8Sr0.2MnO;以下、適宜LSMという)等のLa,Sr,Mnを含むペロブスカイト型酸化物;(La,Sr)CoO(例えば、La0.6Sr0.4CoO;以下、適宜LSCという)、(La,Sr)(Co,Fe)O(例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8;以下、適 宜LSCFという)等のLa,Sr,Coを含むペロブスカイト型酸化物;が挙げられる。空気極14は、1種または2種以上の材料を含み得る。
【0033】
[他の形態]
上記実施形態における電気化学セル1は、水素極10と、空気極14と、固体電解質層12を備えるSOECであった。しかし、これに限定されない。ここで開示される技術は、電気化学セル1が複数スタックされた態様にも適用され得る。また、必要に応じて、固体電解質層12と空気極14との間に、反応抑止層を設けてもよい。なお、反応抑止層を構成する材料としては、従来公知のSOECの反応抑止層と同様なものを特に制限なく用いることができる。
【0034】
<電気化学セル1の製造方法>
電気化学セル1の製造方法は、例えば、グリーンシート作製工程(ステップ1)と、グリーンシート積層工程(ステップ2)と、焼成工程(ステップ3)とを包含し得る。
【0035】
グリーンシート作製工程(ステップ1)では、例えば、電気化学セル1を構成する各層(水素極10、固体電解質層12、空気極14)のグリーンシートを作製する。以下、水素極10のグリーンシートを作製する場合を例に挙げて、本工程を説明する。水素極10以外の層のグリーンシートの作製方法としては、この種の電気化学セルの製造で用いられるものを特に制限なく用いることができる。このため、説明を省略することがある。
【0036】
水素極10のグリーンシートの作製では、まず、例えば、上述のようなニッケル粒子およびセラミック粒子と、必要に応じて、バインダと、分散媒と、を含むスラリー状(インク状、ペースト状を包含する。)の水素極形成用組成物を用意する。ニッケル粒子およびセラミック粒子を合わせた配合量は、例えば、組成物全体を100質量%としたとき、50質量%~70質量%であるとよい。
【0037】
分散媒は、特に限定されない。この種の用途で用いられる分散媒を、適宜選択して用いることができる。分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、m-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール等のアルコール系分散媒;トルエン、コール、キシレン等の石油系分散媒;ターピネオール(α-ターピネオール等);カルビトール類;メチルエチルケトン;水;等が挙げられる。これらの混合分散媒が用いられてもよい。上記分散媒の配合量は、例えば、組成物の全体を100質量%としたとき、20質量%~50質量%であるとよい。
【0038】
バインダは、特に限定されないが、例えば熱可塑性を有し、かつ、焼成工程(例えば、200℃以上の加熱焼成)によって焼失する樹脂材料であるとよい。バインダを添加することによって、グリーンシートの成形性を向上させることができる。バインダとしては、例えば、ポリビニルブチラール、カラギーナン、キサンタンガム等の天然高分子化合物;エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物;アクリル系樹脂;エポキシ系樹脂;フェノール系樹脂;アミン系樹脂;アルキル系樹脂;等が挙げられる。バインダの配合量は、例えば、組成物の全体を100質量%としたとき、1質量%~20質量%であるとよい。
【0039】
ここで開示される技術の効果を損なわない限りにおいて、この種の用途で用いられる添加剤を組成物に添加してもよい。添加剤としては、分散剤、可塑剤、消泡剤、離型剤、酸化防止剤、増粘剤、造孔材(気孔形成材)等が挙げられる。添加剤の配合量は、例えば、組成物の全体を100質量%としたとき、1質量%~10質量%であるとよい。
【0040】
組成物の調製には、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等の攪拌混合装置を使用してもよい。例えば、ニッケル粒子と、セラミック粒子と、バインダと、分散媒と、添加剤と、を任意の撹拌混合装置に投入し、所定の時間(例えば、1時間~2時間)、撹拌混合することによって均質な組成物を調製することができる。特に限定するものではないが、組成物の粘度は、後述するブレードコーティング法を考慮すると、例えば、5Pa・s~100Pa・s(25℃-20rpm)であり、10Pa・s~50Pa・sが好ましい。粘度は、例えば市販の粘度計を用いて測定することができる。
【0041】
次いで、例えば、上述のように用意した組成物を用いて、水素極グリーンシートを作製する。水素極グリーンシートは、例えば、ブレードコーティング法、スクリーン印刷法、ロールコンパクション成形法、射出成形法、浸漬コーティング法等の従来公知の方法によって作製され得る。
【0042】
グリーンシート積層工程(ステップ2)では、例えば、各層のグリーンシートを積層する。例えば、水素極10、固体電解質層12、および、空気極14の各々のグリーンシートをこの順に積層させることによって、電気化学セル1の前駆体となる積層体を作製する。積層する方法は、特に限定されない。例えば、各層のグリーンシートを予め作製しておき、それぞれを積層させることができる。
【0043】
あるいは、水素極グリーンシート上に、固体電解質層形成用の組成物からなるペーストを、スクリーン印刷法等で塗布し、乾燥させることによって、水素極グリーンシートと固体電解質層グリーンシートとの積層体(第1積層体)を作製する。次いで、第1積層体の固体電解質層グリーンシート上に、空気極形成用の組成物を塗布し、乾燥させることによって、水素極グリーンシートと固体電解質層グリーンシートと空気極グリーンシートとの第2積層体(すなわち、上記前駆体となる積層体)を作製してもよい。この場合において、空気極形成用の組成物を塗布する前に、第1積層体を焼成してもよい。かかる焼成は、例えば、1000℃~1500℃の温度条件下、還元雰囲気にて行うとよい。また、焼成時間は、例えば1時間~5時間とすることができる。
【0044】
焼成工程(ステップ3)では、例えば、電気化学セル1の前駆体となる積層体を焼成する。例えば、グリーンシート積層工程(ステップ2)で作製した第2積層体を焼成する。かかる焼成は、例えば、1000℃~1500℃の温度条件下、還元雰囲気にて行うとよい。また、焼成時間は、例えば1時間~5時間とすることができる。
【0045】
<水素製造装置100>
上記のとおり作製した電気化学セル1は、水素製造装置に用いることができる。図3は、水素製造装置100の模式図である。図示するように、水素製造装置100は、電源30と、本体部40とを備えている。この実施形態では、本体部40は、電気化学セル1と、水素極側流路42と、空気極側流路44とを備えている。電源30は、直流電源であり得る。図3に示されているように、電源30のプラス側端子は、水素極10(カソード)に電気的に接続されている。電源30のマイナス側端子が空気極14(アノード)に電気的に接続されている。なお、水素製造装置100は、従来の水素製造装置の構築方法によって作製することが可能である。かかる製造方法に関しては、ここで開示される技術を特徴づけるものではないため、ここでの説明を省略する。
【0046】
[他の形態]
上記実施形態では、電気化学セル1を1組備えた水素製造装置について説明した。しかし、これに限定されない。他の実施形態において、例えば、水素製造装置は、複数の電気化学セル1を備えたスタックとした態様で備えていてもよい。また、必要に応じて、適宜セパレータを設けてもよい。
【0047】
<水素の製造方法>
図3に示された水素製造装置100を用いて、水素を製造することができる。かかる水素の製造方法は、例えば、電気分解工程(ステップ11)と、水素回収工程(ステップ12)とを包含し得る。電気分解工程(ステップ11)では、例えば、原料ガスを電気分解する。原料ガスは、高温の水蒸気であり得る。この実施形態では、まず、電源30をオンにし、水素製造装置100を起動する。これによって、空気極14から水素極10に向かう方向に電流が流れる。次いで、水素極側流路42における導入口41から、原料ガスを注入する。この原料ガスは、水素極10において電気分解され、水素(H)と酸化物イオン(O2-)と、になる。水素回収工程(ステップ12)では、例えば、水素を回収する。水素は、電気分解工程(ステップ11)における原料ガスの分解産物であり得る。この実施形態では、水素は、図3に示された回収口43で回収される。なお、上記酸化物イオンは、固体電解質層12を通過し、空気極14において酸化されることで、酸素(O)と電子(e)と、になる。この酸素は、空気極側流路44における排出口45から外部に排出され得る。
【0048】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の試験例は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。以下の試験例について、特に断りがない限り、「%」は質量基準である。
【0049】
《水素極の作製》
-例1~例5-
25℃の環境下において、原料化合物としての酢酸ニッケル四水和物10kg~20kgと、還元剤としてのオレイルアミン40L~60Lとを、製造装置(日本電熱株式会社製のIH反応釜)に投入し、300rpmの撹拌速度で撹拌して溶液を得た。各例において相互に異なる平均粒子径を有するニッケル粒子を得るため、酢酸ニッケル四水和物の配合量とオレイルアミンの配合量とを、上記範囲内で適宜変更した。溶液に窒素ガスを吹き込みながら、該溶液の加熱を行った。溶液の温度が約140℃に達したら、この温度を約120分間保持した。次いで、溶液を、温度が約200℃になるまで加熱した。かかる加熱の昇温速度は、3℃/分~10℃/分であった。溶液が約200℃に達したら、この温度を30分間~120分間維持した。次いで、溶液をさらに加熱し、温度が230℃~250℃になるまで加熱した。かかる加熱の昇温速度は、3℃/分~5℃/分であった。溶液が所望する温度に達したら、この温度を約10分間維持した。この温度を維持した状態で窒素ガスの吹き込みを停止し、溶液に酸素ガスを約10分間吹き込んだ。
【0050】
酸素ガスの吹き込みを停止し、溶液に窒素ガスの吹き込みを開始した。このときの窒素ガスの流量は、40L/分~60L/分であった。次いで、溶液の加熱を停止し、製造装置の冷却管に冷却用水を供給した。溶液の温度が約50℃に達したら、溶液を回収した。平均急冷速度は、2℃/分~7℃/分であった。なお、各例において相互に異なる平均粒子径を有するニッケル粒子を得るため、上述の温度条件、時間条件、速度条件等の諸条件を、上記範囲内で適宜変更した。そして、回収した溶液を静置して、沈殿物を回収した。沈殿物をヘキサンで洗浄し、乾燥させて、例1~例5のニッケル粒子を得た。得られた粒子が金属ニッケルであることは、X線回折により確認した。FE-SEMを用いて、得られたニッケル粒子の平均粒子径をそれぞれ測定した。結果を表1の該当欄に示す。
【0051】
上述のとおり得られたニッケル粒子と、8%イットリア安定化ジルコニア粒子(8%YSZ,平均粒子径:0.5μm)とを、60:40の質量比で混合した。次いで、当該混合物と、造孔材(炭素成分)と、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)と、可塑剤と、分散媒(コールおよびトルエンの混合物)とを、順に100:10:15:5:1の質量比で混練することにより、ペースト状の水素極形成用組成物を調製した。次いで、この組成物を、ドクターブレード法によりキャリアシート上に塗布(図1中のX方向参照)、および乾燥することを繰り返し、厚み0.3mm~0.5mmの水素極グリーンシートを作製した。
【0052】
次いで、固体電解質層を形成した。ここでは、8%YSZ粒子と、バインダ(エチルセルロース;EC)と、分散媒(ターピネオール;TE)とを、100:5:50の質量比で混練することで、固体電解質層形成用組成物を得た。そして、この組成物を上記水素極グリーンシート上にスクリーン印刷し、乾燥させることで、厚み約10μmの固体電解質層を形成した。
【0053】
次いで、反応抑止層を形成した。ここでは、まず、反応抑止材料としての10%ガドリニウムドープセリア粒子(10%GDC,平均粒子径:0.5μm)と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、100:5:60の質量比で混練することにより、反応抑止層形成用組成物を調製した。この組成物を上記固体電解質層上にスクリーン印刷し、乾燥させることで、厚み約10μmの反応抑止層を形成した。
【0054】
このようにして用意した積層グリーンシートを円形に切り抜き、1350℃程度の温度条件下、窒素97%および水素3%の還元雰囲気で焼成した。
【0055】
次いで、上述のようにして得た焼成体に、空気極を形成した。ここでは、まず、空気極材料としてのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8粒子(LSCF,平均粒子径:0.5μm)と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、100:5:50の質量比で混練することで、ペースト状の空気極形成用組成物を調製した。次いで、この組成物を、焼成体の反応抑止層上にスクリーン印刷し、乾燥させて乾燥膜を形成した。そして、乾燥膜を、焼成体ごと上記還元雰囲気にて、1000℃の温度条件下で焼成することで、例1の電気化学セルを得た。
【0056】
-例6-
8%YSZ粒子(平均粒子径:0.5μm)を、1200~1300℃の温度条件下、空気中で2時間焼成した。これによって、ジルコニア多孔質体を作製した。次いで、ジルコニア多孔質体に硝酸ニッケル水溶液を含浸させた。次いで、このジルコニア多孔質体を、800℃の温度条件下、空気中で1時間焼成することで、酸化ニッケルをジルコニア多孔質体に担持させた。次いで、酸化ニッケルを担持したジルコニア多孔質体を800℃の温度条件下、上記還元雰囲気で1時間焼成することで、酸化ニッケルを還元し、ニッケル粒子をジルコニア多孔質体に担持させて、水素極を得た。上記のように作製した水素極を使用したこと以外は例1と同様にして、本例の電気化学セルを得た。なお、ジルコニア多孔質体に担持されたニッケル粒子の平均粒子径は、表1の該当欄に示されている。この平均粒子径は、ニッケル粒子を担持したジルコニア多孔質体をSEM観察して測定したものである。
【0057】
-例7-
ニッケル粒子を、ジルコニア多孔質体に担持させることで、水素極を得た。まず、ニッケル粒子と、アルコールと、分散剤とを混合してスラリーを作製した。このスラリーを、ジルコニア多孔質体に含浸させた。この後、ジルコニア多孔体を乾燥させて、乾燥後、900℃で1時間焼成することで担持させた。この水素極を使用したこと以外は例1と同様にして、本例の電気化学セルを得た。なお、本例のニッケル粒子は、例1と同じ材料および手順を用いて作製したものである。本例のジルコニア多孔質体は、例6と同じ材料および手順を用いて作製したものである。
【0058】
-例8-
ニッケル粒子として、気相法を用いて作製されたニッケル粒子(平均粒子径:120nm)を使用した。それ以外は例1と同様にして、本例の電気化学セルを得た。
【0059】
-例9-
ニッケル粒子の代わりに、酸化ニッケル粒子(平均粒子径:200nm)を用いた。それ以外は例1と同様にして、本例の電気化学セルを得た。本例では、還元雰囲気での焼成によって、酸化ニッケル粒子がニッケル粒子に還元された。
【0060】
《ニッケル粒子との分散評価》
ここでは、各例の電気化学セルの水素極におけるニッケル粒子との分散状態を評価した。まず、各例の電気化学セルについて、水素極の厚み方向に沿った断面のSEM観察画像(観察倍率:2万倍)を取得した。図4図5に、水素極の断面SEM観察画像の一例を示す。図4は、例3の水素極の断面SEM観察画像である。図5は、例4の水素極の断面SEM観察画像である。なお、同図中のスケールバーは、2μmを示している。
【0061】
次いで、上記断面SEM観察画像について、イメージソフトを用いてニッケル粒子を抽出し、水素極における分散状態を評価した。結果を表1の該当欄に示す。分散状態を評価は、以下のとおりである。
「Y(分散状態である(凝集体がない))」…20個以上のニッケル粒子(一次粒子)の凝集体、および、20個以上のセラミック粒子(一次粒子)の凝集体が、いずれも観察されなかった。
「N(分散状態ではない(凝集体がある))」…20個以上のニッケル粒子(一次粒子)の凝集体、または、20個以上のセラミック粒子(一次粒子)の凝集体が観察された。なお、例6および例7では、上記のとおり、ジルコニア多孔体を使用した。このため、ここでの評価を実施しなかった。表1の該当欄における「-」は、評価の不実施を示している。
【0062】
《劣化度評価》
ここでは、各例の電気化学セルを下記条件で運転し、水素極の劣化度を評価した。
カソード:水素極
アノード:空気極
水素極供給ガス:水蒸気
動作温度:700℃
動作時間:1000時間
運転後、電流密度0.5A/cmにおける電圧V1(V)を測定した。電圧V1(V)と、運転前に予め取得した電気化学セルの電圧V0(V)と、に基づいて、電気化学セルの抵抗増加率(%)を取得した。かかる抵抗増加率(%)を、電気化学セルの水素極の劣化度の指標とした。評価結果を表1の該当欄に示す。
【0063】
水素極の劣化度の評価は、以下のとおりである。
「E(劣化抑制能に優れる)」…0.3%以下の抵抗増加率
「G(劣化抑制能が良好である)」…0.3%超過0.5%以下の抵抗増加率
「P(劣化抑制能に乏しい)」…0.5%超過の抵抗増加率
この評価試験では、電気化学セルの抵抗増加率が0.5%以下であるときに、水素極の劣化が抑制されている、と評価されている。抵抗増加率が0.5%よりも大きいときに、水素極が劣化している、と評価されている。
【0064】
【表1】
【0065】
上記のとおり、例1~例9の電気化学セルの水素極は、ニッケル粒子と、酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでいる。このうち、例1~例3の電気化学セルでは、電子顕微鏡観察に基づくニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmである。これらの電気化学セルの水素極では、ニッケル粒子とセラミック粒子とが相互に分散した状態で存在している。代表として図4,5に示されているように、例3では、ニッケル粒子とセラミック粒子とが相互に分散した状態が観察されているが、例4では、ニッケル粒子の凝集が観察されている。表1に示されているように、例1~例3の電気化学セルでは、ニッケル粒子を含む水素極の劣化が抑制されていることがわかった。
【0066】
以上、ここに開示される技術の具体例を説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 電気化学セル
10 水素極
12 固体電解質層
14 空気極
30 電源
40 本体部
41 導入口
42 水素極側流路
43 回収口
44 空気極側流路
45 排出口
100 水素製造装置
【要約】
【課題】ニッケル粒子を含む水素極を備えた電気化学セルにおける水素極の劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】ここに開示される電気化学セルは、水素極と、空気極と、該水素極と該空気極との間に配置された固体電解質層と、を備える。上記水素極は、ニッケル粒子と、酸化物イオン伝導性のセラミック粒子とを含んでいる。ここで、電子顕微鏡観察に基づく上記ニッケル粒子の平均粒子径は、30nm~80nmである。上記水素極では、上記ニッケル粒子と上記セラミック粒子とが相互に分散した状態で存在している。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5