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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-07
(45)【発行日】2022-12-15
(54)【発明の名称】材料特性予測方法及びモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20221208BHJP
   G01N 33/20 20190101ALI20221208BHJP
【FI】
G06F30/27
G01N33/20 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022544832
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011453
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021043191
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(72)【発明者】
【氏名】金下 武士
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-349883(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062398(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -33/28
G01N 33/20 -33/44
G16C 20/00 -60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測方法であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを設定するモデル設定ステップと、
前記モデル設定ステップにて設定された前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測ステップと、
を含み、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測方法。
【請求項2】
前記学習済みモデルがニューラルネットワークである、
請求項1に記載の材料特性予測方法。
【請求項3】
前記予測ステップにおいて予測される前記材料特性は、金属材料、ポリマー材料、またはガラス材料における、前記材料特性評価温度または前記評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性であり、
前記ニューラルネットワークの活性化関数に、双曲線正接関数またはシグモイド関数を含むS字形関数が用いられる、
請求項2に記載の材料特性予測方法。
【請求項4】
前記学習済みモデルの機械学習手法としてカーネル法を適用した手法が用いられる、
請求項1に記載の材料特性予測方法。
【請求項5】
前記予測ステップにおいて予測される前記材料特性は、金属材料、ポリマー材料、またはガラス材料における、前記材料特性評価温度または前記評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性であり、
前記カーネル法のカーネル関数に逆正弦関数が用いられる、
請求項4に記載の材料特性予測方法。
【請求項6】
対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測プログラムであって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを設定するモデル設定機能と、
前記モデル設定機能により設定された前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測プログラム。
【請求項7】
対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測装置であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルと、
前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数の情報を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測部と、
を備え、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測装置。
【請求項8】
対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成方法であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを取得する教師データ作成ステップと、
前記教師データ作成ステップにて作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習ステップと、
を含み、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成方法。
【請求項9】
対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成プログラムであって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを取得する教師データ作成機能と、
前記教師データ作成機能により作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成プログラム。
【請求項10】
対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成装置であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを作成する教師データ作成部と、
前記教師データ作成部により作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習部と、
を備え、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料特性予測方法、材料特性予測プログラム、材料特性予測装置、モデル生成方法、モデル生成プログラム、及びモデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の組成からなる材料、または、複数の製造条件の組合せにより製造される材料を設計する際には、材料開発者の経験に基づき材料の組成や製造条件を調整しながら試作を繰り返すことによって、所望の材料特性を実現し得る最適解が求められる。しかし材料開発者の経験に基づいた試作は、多くの場合最適設計を得るまで試作を繰り返す必要があり、時間と手間を要する。また、材料開発者が過去に行った設計条件の近傍で局所的に条件探索が行われることが多く、大域的な最適設計条件の探索には向かない。
【0003】
そこで、近年では、過去の試作・評価データベースを使用した材料の設計や、データベースに機械学習を適用した材料特性の予測を行うことがある。
【0004】
また、自動車における軽量化ニーズの高まりなどに起因して、例えば150℃以上の高温においても高強度を示すアルミニウム合金などの開発が求められている。一般に、材料特性は、その特性を測定するときの周囲の温度によって変動する傾向がある。このため、機械学習による予測モデルを用いて、室温より高い高温下や、室温より低い低温下など、室温以外の温度条件下における材料特性も予測できるのが望ましい。
【0005】
しかし、機械学習による材料特性の予測精度は、測定データ数に大きく依存している。一般に測定に手間のかかる高温における材料特性の測定データ数は、室温における材料特性の測定データ数に比べて少なく、高温特性予測モデルの予測精度を高めることは困難である。すなわち、高温で高強度の材料を設計するための信頼性の高い予測モデルを構築することは困難である。低温の場合も同様である。
【0006】
このような予測モデル生成のためのデータ数が少ない場合でも予測精度を高めるための手法としては、例えば出力特性が異なる複数の条件ごとに別個に予測モデルを構築する方法や、多くのデータ数を有する代理の出力特性によって訓練されて構築された訓練済みモデルを、データ数の不足する目的の出力特性によって再訓練する、転移学習によって予測モデルを構築する方法や、ニューラルネットワークやガウス過程によって、異なる複数の条件の出力特性を同時に学習する、マルチタスク学習によって予測モデルを構築する方法などがある(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-95310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来のデータ数が少ない場合に予測精度を高めるための手法では、室温下で測定された多数のデータと、室温以外の高温や低温の条件下で測定された少数のデータとを用いる場合には、充分な予測精度を得られない場合がある。
【0009】
本開示は、温度に応じて変動する材料特性を精度良く予測できる材料特性予測方法、材料特性予測プログラム、材料特性予測装置、モデル生成方法、モデル生成プログラム、及びモデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下に示す構成を備える。
【0011】
[1] 対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測方法であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを設定するモデル設定ステップと、
前記モデル設定ステップにて設定された前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測ステップと、
を含み、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測方法。
【0012】
[2] 前記学習済みモデルがニューラルネットワークである、
[1]に記載の材料特性予測方法。
【0013】
[3] 前記予測ステップにおいて予測される前記材料特性は、金属材料、ポリマー材料、またはガラス材料における、前記材料特性評価温度または前記評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性であり、
前記ニューラルネットワークの活性化関数に、双曲線正接関数またはシグモイド関数を含むS字形関数が用いられる、
[2]に記載の材料特性予測方法。
【0014】
[4] 前記学習済みモデルの機械学習手法としてカーネル法を適用した手法が用いられる、
[1]に記載の材料特性予測方法。
【0015】
[5] 前記予測ステップにおいて予測される前記材料特性は、金属材料、ポリマー材料、またはガラス材料における、前記材料特性評価温度または前記評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性であり、
前記カーネル法のカーネル関数に逆正弦関数が用いられる、
[4]に記載の材料特性予測方法。
【0016】
[6] 対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測プログラムであって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを設定するモデル設定機能と、
前記モデル設定機能により設定された前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測プログラム。
【0017】
[7] 対象材料の材料特性を予測するための材料特性予測装置であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、前記対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルと、
前記学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、前記説明変数の情報に係る目的変数の情報を出力して、前記目的変数に基づき前記予測したい対象材料の前記材料特性を予測する予測部と、
を備え、
前記説明変数は、前記目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方に係る情報をさらに含む、
材料特性予測装置。
【0018】
[8] 対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成方法であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを取得する教師データ作成ステップと、
前記教師データ作成ステップにて作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習ステップと、
を含み、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成方法。
【0019】
[9] 対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成プログラムであって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを取得する教師データ作成機能と、
前記教師データ作成機能により作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成プログラム。
【0020】
[10] 対象材料の材料特性を予測するためのモデルを生成するためのモデル生成装置であって、
前記対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、前記材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを作成する教師データ作成部と、
前記教師データ作成部により作成された前記教師データセットを用いて、前記材料組成または製造条件、及び前記測定条件に係る情報を前記モデルの入力とし、前記材料特性に係る情報を前記モデルの出力として、前記モデルの入出力関係が前記教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデルを生成するモデル学習部と、を備え、
前記測定条件は、前記モデルの出力に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、前記材料特性の測定までに前記材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間と、の少なくとも一方を含む、
モデル生成装置。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、温度に応じて変動する材料特性を精度良く予測できる材料特性予測方法、材料特性予測プログラム、材料特性予測装置、モデル生成方法、モデル生成プログラム、及びモデル生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る材料特性予測装置の機能ブロック図である。
図2】実施形態に係るモデル生成装置の機能ブロック図である。
図3】材料特性予測装置及びモデル生成装置のハードウェア構成図である。
図4】アルミニウム合金における引張強度の評価温度依存性を示す図である。
図5】アルミニウム合金における引張強度の保持時間依存性を示す図である。
図6】公開データベースから取得したアルミニウム合金の材料特性の測定データ群に関する、材料特性評価温度ごとのデータ数を示す図である。
図7】実施形態に係る材料特性予測処理のフローチャートである。
図8】実施形態に係るモデル生成処理のフローチャートである。
図9】予測モデルの学習と予測に用いた検証用データセットを示す図である。
図10】実施例1において用いた予測モデルの構成を示す図である。
図11】比較例1において用いた予測モデルの構成を示す図である。
図12】実施例1及び比較例1の予測結果を示す図である。
図13】実施例4、5の内挿予測結果を示す図である。
図14】実施例2、3の内挿予測結果を示す図である。
図15】実施例4、5の外挿予測結果を示す図である。
図16】実施例2、3の外挿予測結果を示す図である。
図17図15の各図のプロット位置近傍の拡大図である。
図18図16の各図のプロット位置近傍の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0024】
図1は、実施形態に係る材料特性予測装置10の機能ブロック図である。材料特性予測装置10は、複数の組成からなる材料、または、複数の製造条件の組合せにより製造される材料を含む対象材料の材料特性を予測するための装置である。
【0025】
図1に示すように、材料特性予測装置10は、学習済みモデル11と、予測部12とを備える。
【0026】
学習済みモデル11は、対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を、機械学習により取得したモデルである。学習済みモデル11は、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数の入力に基づいて、入力された説明変数に係る目的変数を出力する。なお、学習済みモデルは、ニューラルネットワークであることが好ましい。
【0027】
本実施形態では、学習済みモデル11は図1に示すように入力層と、中間層と、出力層とを有する三層のニューラルネットワークである。学習済みモデル11の入力層の各ノードは、説明変数の各項目と同数設けられ、各項目の数値が入力される。図1では、材料組成に係る情報として、Si、Feなどの添加元素の重量百分率(wt%)に対応する数値が、入力層の対応するノードに入力される。また、製造条件に係る情報として、人工時効の実施の有無などに対応する数値(例えば0または1)が、入力層の対応するノードに入力される。また、学習済みモデル11の出力層の各ノードは、目的変数の各項目と同数設けられ、各項目の数値が出力される。図1では、材料特性に係る情報として、引張強度や0.2%耐力などに対応する数値が、出力層の対応するノードから出力される。
【0028】
また、図1に示すように、学習済みモデル11は、中間層の各ノードと出力層の各ノードにバイアスノードが結合される構成でもよい。また、中間層を2層以上備えるディープニューラルネットワークを用いてもよい。ただし、中間層を2層以上に増やすと、パラメータ数、すなわちネットワーク数が多くなり、学習用データを過学習してテスト用データに対する予測精度が下がる傾向がある。そのため、中間層は1層である方がより好ましい。
【0029】
なお、図1には図示されていないが、アルミニウム合金の材料特性を予測する場合には、説明変数の材料組成としては、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Ni、Zn、Ti、V、Pb、Sn、B、Bi、Zr、Li、B、Ga、Pなどの添加元素を含めることができる。また、説明変数の製造条件としては、焼鈍、溶体化、人工時効、自然時効、安定化、高温加工、冷間加工などの各熱処理温度、熱処理時間と、押出、鍛造、引抜、圧延に関わる加工条件などを含めることができる。また、目的変数の材料特性としては、引張強度、0.2%耐力、伸び、線膨張係数、ヤング率、疲労強度、硬さ、ポワソン比、クリープ特性、せん断強度、比熱、熱伝導率、電気伝導度、密度、などを含めることができる。
【0030】
そして特に本実施形態では、説明変数は、目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である「材料特性評価温度」と、材料特性の測定までに材料特性評価温度が保持された時間である「評価温度保持時間」と、に係る情報をさらに含む。つまり、学習済みモデル11の入力情報には、材料特性評価温度と評価温度保持時間に係る情報が含まれ、材料特性評価温度と評価温度保持時間に対応する数値が、入力層の対応するノードに入力される。
【0031】
なお、「材料特性評価温度」と「評価温度保持時間」の少なくとも一方を説明変数に含める構成であればよく、「材料特性評価温度」のみを説明変数に含める構成としてもよいし、「評価温度保持時間」のみを説明変数に含める構成としてもよい。
【0032】
予測部12は、学習済みモデル11に、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、入力された説明変数に係る目的変数を出力して、出力された目的変数に基づき、予測したい対象材料の材料特性を予測する。
【0033】
材料特性予測装置10に用いられる学習済みモデル11は、図2に示すモデル生成装置20により生成することができる。図2は、実施形態に係るモデル生成装置20の機能ブロック図である。
【0034】
図2に示すように、モデル生成装置20は、教師データ作成部21と、モデル学習部22と、予測モデル11Aとを含む。予測モデル11Aは、図1に示した学習済みモデル11の機械学習完了前のモデルであり、対象材料の材料特性を予測するためのモデルである。予測モデル11Aの構成は、図1を参照して説明した学習済みモデル11のものと同様である。
【0035】
教師データ作成部21は、対象材料の材料組成または製造条件と、材料特性と、材料特性を測定したときの測定条件と、に係る情報を含む教師データセットを作成する。
【0036】
モデル学習部22は、教師データ作成部21により作成された教師データセットを用いて、予測モデル11Aの学習を実施して学習済みモデルを生成する。モデル学習部22は、教師データのうち材料組成または製造条件、及び測定条件に係る情報を予測モデル11Aの入力とし、材料特性に係る情報を予測モデル11Aの出力として、予測モデル11Aの入出力関係が教師データセットの入出力関係に近づくように機械学習を行い、学習済みモデル11を生成する。
【0037】
モデル学習部22は、予測モデル11Aがニューラルネットワークの場合には、逆誤差伝播法、バッチ勾配降下法、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法、変分ベイズ法などの周知の機械学習手法を用いて予測モデル11Aの学習を行うことができる。
【0038】
図3は、材料特性予測装置10及びモデル生成装置20のハードウェア構成図である。図3に示すように、材料特性予測装置10及びモデル生成装置20は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)101、GPU(Graphics Processing Unit)108、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102およびROM(Read Only Memory)103、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置104、ディスプレイ等の出力装置105、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュール106、ハードディスク等の補助記憶装置107、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。
【0039】
図1に示す材料特性予測装置10の各機能は、CPU101、RAM102等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェア(材料特性予測プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで通信モジュール106、入力装置104、出力装置105を動作させるとともに、RAM102や補助記憶装置107におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態の材料特性予測プログラムをコンピュータ上で実行させることで、材料特性予測装置10は、図1の学習済みモデル11と、予測部12として機能する。
【0040】
同様に、図2に示すモデル生成装置20の各機能は、CPU101、RAM102等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェア(モデル生成プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで通信モジュール106、入力装置104、出力装置105を動作させるとともに、RAM102や補助記憶装置107におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態のモデル生成プログラムをコンピュータ上で実行させることで、モデル生成装置20は、図2の教師データ作成部21と、モデル学習部22と、予測モデル11Aとして機能する。
【0041】
本実施形態に係る材料特性予測プログラム及びモデル生成プログラムは、例えばコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、材料特性予測プログラム及びモデル生成プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信モジュール106等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、材料特性予測プログラム及びモデル生成プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM、DVD-ROM、フラッシュメモリなどの持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0042】
同様に、モデル生成装置20により生成された学習済みモデル11が、単体で記憶媒体に格納されて持ち運ばれたり、伝送媒体を介して伝送されたり、コンピュータ内に記録される構成でもよい。
【0043】
ここで、学習済みモデル11の中間層のノードに用いられる活性化関数は、目的関数の材料特性の評価温度依存性や保持時間依存性と共通の特性のものを用いるのが好ましい。ここで、対象材料としてアルミニウム合金を挙げ、目的関数の材料特性として引張強度を例示して説明する。図4は、アルミニウム合金における引張強度の評価温度依存性を示す図である。図5は、アルミニウム合金における引張強度の保持時間依存性を示す図である。
【0044】
図4では、横軸が材料特性評価温度(℃)を示し、縦軸が引張強度(MPa)を示す。図4では、複数の材料特性評価温度において同一の保持時間(10000時間)経過後に測定された引張強度の値がプロットされ、材料特性評価温度に応じて引張強度が変動する特性(評価温度依存性)が図示されている。図4に示すように、引張強度は、全温度範囲で高温側に進むほど減少する傾向があり、この減少傾向の変化率は、約100℃以上かつ、約250℃以下の範囲では相対的に大きく急激に低下する急傾斜となる。また、この減少傾向の曲線は約200℃の位置に変曲点をもつ。つまり、引張強度は、図4に示すように、材料特性評価温度に応じてS字形に変動する特性である。
【0045】
図5では、横軸が評価温度保持時間(hr(時間))を示し、縦軸が引張強度(MPa)を示す。図5の横軸は対数スケールで示している。図5では、同一の評価温度(205℃)において複数の評価温度保持時間の経過後に測定された引張強度の値がプロットされ、評価温度保持時間に応じて引張強度が変動する特性(保持時間依存性)が図示されている。図5に示すように、引張強度は、全体的に長時間側に進むほど減少する傾向があり、この減少傾向の曲線は1000~10000時間の間の位置に変曲点をもつ。つまり、引張強度は、図5に示すように、評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性である。
【0046】
このように、予測部12により予測される対象材料の材料特性が、材料特性評価温度または評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性である場合には、学習済みモデル11のニューラルネットワークの活性化関数に、双曲線正接関数またはシグモイド関数を含むS字形関数が用いられるのが好ましい。
【0047】
なお、ニューラルネットワークの中間層の活性化関数には、線形(恒等関数)の活性化関数を用いてもよい。また、出力層の活性化関数には線形(恒等関数)の活性化関数を用いるのが好ましい。
【0048】
ここで、本実施形態の効果について説明する。図4図5に示す引張強度のように、材料特性は、室温(15~40℃程度)ではほぼ一定の値で安定するが、評価温度が高温側に遷移するほど、また、評価温度保持時間が長時間側に遷移するほど、大きく変動する傾向がある。近年、自動車における軽量化ニーズの高まりなどに起因して、例えば150℃以上の高温においても高強度を示すアルミニウム合金などの開発が求められており、材料特性が大きく変動する高温の条件下でも材料特性を精度良く予測できることが望ましい。
【0049】
しかし、機械学習による材料特性の予測精度は、測定データ数に大きく依存している。一般に測定に手間のかかる高温における材料特性の測定データ数は、室温における材料特性の測定データ数に比べて少ない。図6にその実例を示す。
【0050】
図6は、公開データベースから取得したアルミニウム合金の材料特性の測定データ群に関する、材料特性評価温度ごとのデータ数を示す図である。図6では、6000系アルミ合金の、材料特性評価温度が-80℃~371℃の範囲にわたる246データについて、評価温度を50℃ごとに区分したときの各温度範囲に含まれるデータ数を棒グラフで示している。図6に示すデータ群は、公開データベースである、米国MatWebデータベース(http://www.matweb.com/index.aspx)、日本アルミニウム協会データベース(http://metal.matdb.jp/JAA-DB/)から収集した材料データを用いた。図6に示す実例でも、上述のとおり、0~50℃の室温が含まれる温度範囲のデータ数が極端に多く、室温より高温側及び低温側のデータ数は軒並み少ないことがわかる。
【0051】
このように材料特性評価温度の温度範囲によって取得可能なデータ数に差異があると、すなわち、機械学習の教師データに利用できるデータ数に差異があると、従来の機械学習手法では、材料特性評価温度の全域にわたって高精度な予測モデルを得ることは難しく、特に高温側や低温側の特性予測モデルの予測精度を高めることは困難である。
【0052】
そこで本実施形態では、図1に示すように学習済みモデル11の入力情報である説明変数として、予測した材料特性に係る材料特性評価温度と、評価温度保持時間とに係る情報を追加する構成をとる。
【0053】
材料特性評価温度や評価温度保持時間は、材料特性を目的変数とする本実施形態の構成では、本来ならばモデルの出力に含まれる情報といえる。しかし本実施形態では、そのような材料特性評価温度や評価温度保持時間の情報を敢えてモデルの入力情報として用いる。これにより、教師データにおける材料特性評価温度及び評価温度保持時間と、材料特性との対応関係をモデルに取得させることが可能となり、学習済みモデル11における材料特性評価温度及び評価温度保持時間に対応する材料特性の予測を精度良く行うことが可能となる。この結果、本実施形態に係る材料特性予測装置10は、温度に応じて変動する材料特性を精度良く予測できる。
【0054】
このように材料特性の予測精度を向上できると、所望の特性を持つ材料を設計するための、試作の回数を低減することができる。また、予測モデルの汎化能力を利用することによって、データベースに記載のない設計条件においても、材料特性を予測することができる。
【0055】
また、本実施形態では、学習済みモデル11がニューラルネットワークであり、予測部12により予測される対象材料の材料特性が、材料特性評価温度または評価温度保持時間に応じてS字形に変動する特性である場合には、学習済みモデル11のニューラルネットワークの活性化関数に、双曲線正接関数またはシグモイド関数を含むS字形関数が用いられる。
【0056】
この構成により、活性化関数が、目的関数の材料特性の評価温度依存性や保持時間依存性と共通の特性を有するものとなるので、学習済みモデル11の関数近似能力を改善でき、温度に応じて変動する材料特性をより一層高精度に予測できる。図4に示したように、金属材料では一般に、ある温度で急激に強度が低下する挙動を示すことが知られている。そのため、この挙動を再現する双曲線正接関数、シグモイド関数を始め、誤差関数、逆正接関数などのS字型の活性化関数を用いることが、高温での予測精度の向上に寄与すると考えられる。このため、活性化関数をS字形関数にすることの予測精度向上の効果は、特に一般に測定データ数が少なかったり測定データが存在しなかったりする高温での材料特性の予測において特に顕著である。
【0057】
なお、活性化関数をS字形関数にする構成は、ガラス転移温度において特性が急激に変化するポリマー材料やガラス材料の特性を予測する場合にも適用することが可能であり、これにより本実施形態と同様の予測精度向上の効果を奏することができる。つまり、本実施形態で材料特性を予測する対象材料は、金属以外にポリマー材料及びガラス材料としてもよい。
【0058】
図7は、実施形態に係る材料特性予測処理のフローチャートである。図7に示すフローチャートの各処理は、材料特性予測装置10により実施される。
【0059】
ステップS11(モデル設定ステップ)では、学習済みモデル11が設定される。学習済みモデル11は、例えばモデル生成装置20により予め生成されたものを用いることもできるし、他の手法により取得したものを用いることもできる。
【0060】
ステップS12では、予測に用いる説明変数が設定される。
【0061】
ステップS13(予測ステップ)では、予測部12により、ステップS12にて設定された説明変数が、ステップS11にて設定された学習済みモデル11へ入力され、この説明変数に応じた目的変数が出力される。
【0062】
ステップS14では、予測部12により、ステップS13にて出力された目的変数から、ステップS12にて設定された説明変数に応じた材料特性が算出される。
【0063】
図8は、実施形態に係るモデル生成処理のフローチャートである。図8に示すフローチャートの各処理は、モデル生成装置20により実施される。
【0064】
ステップS21(教師データ作成ステップ)では、教師データ作成部21により、モデル学習に用いる教師データが作成される。教師データは、例えば図6に例示した既存の公開データベースから所望の情報を取得して作成してもよいし、実際に測定したデータを用いてもよい。
【0065】
ステップS22(モデル学習ステップ)では、モデル学習部22により、ステップS21にて作成した教師データを用いて予測モデル11Aの学習が行われる。
【0066】
ステップS23では、モデル学習部22による予測モデル11Aの学習が完了して、学習済みモデル11が完成する。
【0067】
なお、本実施形態では材料特性を予測するモデルの一例としてニューラルネットワークを例示したが、説明変数と目的変数との入出力関係を機械学習により獲得できるモデルであればニューラルネットワーク以外でもよい。例えばガウス過程によって高温の材料特性の予測を行う構成でもよい。この場合、カーネル関数に逆正弦関数を用いることが好ましい。カーネル法を適用した機械学習手法としては、ガウス過程の他に、カーネルリッジ、サポートベクターマシンなどを用いても良い。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0069】
<モデル入力情報の影響>
下記のように実施例1、比較例1を設定し、予測モデルの入力情報への材料特性評価温度と評価温度保持時間の追加有無による材料特性の予測精度への影響を検証した。
【0070】
[実施例1]
図9は、予測モデルの学習と予測に用いた検証用データセットを示す図である。図9に示すように、検証用データセットして、図6に示した公開データベースから取得したデータを用いて、材料組成(Si、Feなど)、製造条件(焼鈍、人工時効など)、測定条件(材料特性評価温度及び評価温度保持時間)、材料特性(引張強度、0.2%耐力)が関連付けられるデータセットを1組として、246組の検証用データセットを作成した。図9に示すように、検証用データセットには、室温、-80℃、-28℃、100℃、149℃、204℃、260℃、316℃、371℃の9種類の材料特性評価温度のデータなどが含まれる。
【0071】
図10は、実施例1において用いた予測モデル11Aの構成を示す図である。図10に示すように、図2を参照して説明した本実施形態の予測モデル11A、すなわち三層ニューラルネットワークの入力情報に材料特性評価温度及び評価温度保持時間が含まれるモデルを作成した。モデルの入力層に入力される説明変数としては、図9に示した検証用データセットの「材料組成」、「製造条件」、「測定条件」を含む。予測モデル11Aの入力層のノード数は21ノードである。モデルの出力層から出力される目的変数としては、図9に示した検証用データセットの「材料特性」の2つ(引張強度、0.2%耐力)を含む。予測モデル11Aの出力層のノード数は2ノードである。予測モデル11Aの中間層の活性化関数には双曲線正接関数を適用し、出力層の活性化関数には線形関数を適用した。
【0072】
図9に示した検証用データセットを用いて、図10に示した予測モデル11Aの材料特性評価温度に対する予測を行った。246組の検証用データセットのうち、63組のカテゴリー1データでは、室温、-80℃、-28℃、100℃、149℃、204℃、260℃、316℃、371℃の9種類の材料特性評価温度すべてにおいて評価温度保持時間10000時間で材料特性が測定されている。残りの183組のカテゴリー2データでは、材料特性評価温度が前記9種類以外であったり、前記9種類の材料特性評価温度の一部でのみ材料特性が測定されていたり、評価温度保持時間が10000時間以外であったりする。このうち、カテゴリー1データの27組を予測用データ、カテゴリー1データ(残り36組)及びカテゴリー2データ(183組)の計219組を学習用データとして用いる。そして、学習用データを用いて予測モデル11Aの学習を行い、予測用データの「材料組成」、「製造条件」、「測定条件」を用いて学習完了後の学習済みモデル11での予測を行った。予測モデル11Aの学習には、Pythonのscikit-learnライブラリに実装されているバッチ勾配降下法(L-BFGS法)を用いた。学習済みモデル11により予測された材料特性(予測値)と、予測用データの「材料特性」欄の値(測定値)とを比較して、予測精度を検証した。予測精度は、平方平均二乗誤差と平均絶対誤差の2つの指標を用いて評価した。
【0073】
[比較例1]
図11は、比較例1において用いた予測モデル30の構成を示す図である。図11に示すように、図2を参照して説明した本実施形態の予測モデル11A、すなわち三層ニューラルネットワークの入力情報から、材料特性評価温度及び評価温度保持時間を除外するモデルを作成した。すなわち、予測モデル30の入力層に入力される説明変数としては、図9に示した検証用データセットの「材料組成」、及び「製造条件」のみを含み、「測定条件」は含まれない。すなわち、予測モデル30の入力層のノード数は19ノードである。予測モデル30の出力層から出力される目的変数としては、図9に示した検証用データセットの「材料特性」の2つ(引張強度、0.2%耐力)を、9種類の材料特性評価温度別に含む。すなわち、予測モデル30の出力層のノード数は2×9=18ノードである。中間層の活性化関数には双曲線正接関数を適用し、出力層の活性化関数には線形関数を適用した。比較例1のニューラルネットワークの構造では、入力の値1組に対して、出力ノードの値の全て(9組)が揃っている場合にしか学習・予測に使用することができないので、カテゴリー1のデータのみ学習と予測に用いることができる。ここでは、予測用データは実施例1で用いたものと同一の27組のカテゴリー1データを用い、学習用データは残り36組のカテゴリー1データを用いる。
【0074】
その他の条件は実施例1と同様の条件で、図9に示した検証用データセットを用いて、図11に示した予測モデル30の材料特性評価温度に対する予測を行った。なお、予測精度の検証には、予測用データの「材料特性評価温度」を参照して、予測モデル30の18個の出力のうち該当する材料特性評価温度に対応する2つのノードの出力値(予測値)と、予測用データの「材料特性」欄の値(測定値)とを比較した。
【0075】
図12は、実施例1及び比較例1の予測結果を示す図である。図12(A)、(B)は、それぞれ実施例1における引張強度と0.2%耐力の予測結果である。図12(C)、(D)は、それぞれ比較例1における引張強度と0.2%耐力の予測結果である。図12の(A)~(D)の各図の横軸は予測用データの「材料特性」欄の値(測定値)を示し、縦軸は学習済みモデルにより予測された材料特性(予測値)を示す。図12の(A)~(D)の各図では、予測用データのそれぞれについて、測定値に対応する予測値がプロットされている。各図に示す直線xは、測定値と予測値が同一の場合の特性を示し、プロットがこの直線xに近づくほど予測精度が高いことを意味する。
【0076】
図12の(A)と(C)を比較すると、材料特性のうち引張強度については、実施例1の方が比較例1よりプロットのばらつきが少なく、直線xに近い位置に集約していることがわかる。平方平均二乗誤差(RMSE)は、比較例1では45.3なのに対して実施例1では24.5と小さくなった。平均絶対誤差(MAE)は、比較例1では29.6なのに対して実施例1では17.3と小さくなった。
【0077】
同様に、図12の(B)と(D)を比較すると、材料特性のうち0.2%耐力についても、実施例1の方が比較例1よりプロットのばらつきが少なく、直線xに近い位置に集約していることがわかる。平方平均二乗誤差(RMSE)は、比較例1では47.6なのに対して実施例1では29.3と小さくなった。平均絶対誤差(MAE)は、比較例1では33.7なのに対して実施例1では20.8と小さくなった。
【0078】
図12に示す結果より、予測モデルの入力情報(説明変数)に材料特性評価温度及び評価温度保持時間を追加することによって、材料特性の予測精度が向上することが示された。
【0079】
<活性化関数の影響>
下記のように実施例2、3及び実施例4、5を設定し、予測モデルの活性化関数の変更による材料特性の予測精度への影響を検証した。
【0080】
[実施例2]
図9に示した検証用データセットを用いて、図10に示した予測モデル11Aの材料特性評価温度に対する内挿予測を行った。具体的には、246組の検証用データセットを、75%(185組)の学習用データと、25%(61組)の予測用データとにランダムに分割した。活性化関数には双曲線正接関数を適用した。
【0081】
さらに、図9に示した検証用データセットを用いて、図10に示した予測モデル11Aの材料特性評価温度に対する外挿予測を行った。具体的には、246組の検証用データセットのうち、材料特性評価温度が150℃以下となる185組(75%)のデータを学習用データとし、材料特性評価温度が150℃より高くなる61組(25%)のデータを予測用データとした。なお、本明細書においては、ランダムに学習用データと予測用データに分割したものを「内挿予測」、150℃以下を学習用データ、150℃超を予測用データとしたものを「外挿予測」としている。
【0082】
[実施例3]
活性化関数にシグモイド関数を適用したこと以外は、実施例2と同様に内挿予測と外挿予測を行った。
【0083】
[実施例4]
活性化関数に線形関数を適用したこと以外は、実施例2と同様に内挿予測と外挿予測を行った。
【0084】
[実施例5]
活性化関数に正規化線形ユニット関数を適用したこと以外は、実施例2と同様に内挿予測と外挿予測を行った。
【0085】
図13は、実施例4、5の内挿予測結果を示す図である。図14は、実施例2、3の内挿予測結果を示す図である。図13図14の概要は、図12と同様である。図13図14より、材料特性のうち引張強度については、平方平均二乗誤差(RMSE)は、実施例4では49.5であり、実施例5では26.8であり、実施例2では24.3であり、実施例3では24.8であった。また、平均絶対誤差(MAE)は、実施例4では36.4であり、実施例5では18.5であり、実施例2では15.8であり、実施例3では16.6であった。
【0086】
また、材料特性のうち0.2%耐力については、平方平均二乗誤差(RMSE)は、実施例4では46.4であり、実施例5では28.2であり、実施例2では26.4であり、実施例3では26.2であった。また、平均絶対誤差(MAE)は、実施例4では38.4であり、実施例5では18.5であり、実施例2では17.1であり、実施例3では17.7であった。
【0087】
図13図14に示す結果より、内挿予測に関しては、引張強度及び0.2%耐力の両方において、実施例4が他に比べてプロットのばらつきが大きく、直線xから離れており、予測精度が比較的劣ることがわかる。
【0088】
図15は、実施例4、5の外挿予測結果を示す図である。図16は、実施例2、3の外挿予測結果を示す図である。図17は、図15の各図のプロット位置近傍の拡大図である。図18は、図16の各図のプロット位置近傍の拡大図である。図15図18の概要は、図12と同様である。
【0089】
図15図18より、材料特性のうち引張強度については、平方平均二乗誤差(RMSE)は、実施例4では131.5であり、実施例5では41.3であり、実施例2では26.9であり、実施例3では27.1であった。また、平均絶対誤差(MAE)は、実施例4では117.0であり、実施例5では35.3であり、実施例2では21.8であり、実施例3では20.8であった。
【0090】
また、材料特性のうち0.2%耐力については、平方平均二乗誤差(RMSE)は、実施例4では133.3であり、実施例5では44.1であり、実施例2では25.3であり、実施例3では24.6であった。また、平均絶対誤差(MAE)は、実施例4では117.6であり、実施例5では37.9であり、実施例2では20.9であり、実施例3では20.4であった。
【0091】
図15図18に示す結果より、外挿予測に関しては、引張強度及び0.2%耐力の両方において、実施例2、3が実施例4、5と比べてプロットのばらつきが小さく、直線xの近くに存在しており、予測精度が良いことがわかる。したがって、内挿予測と外挿予測の両方の結果を考慮すると、実施例2、3は実施例4、5より予測精度が比較的高いといえる。
【0092】
このように、図13図18に示す結果より、予測モデルの活性化関数として、双曲線正接関数またはシグモイド関数を含むS字形関数を適用することによって、材料特性の予測精度が向上することが示された。
【0093】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0094】
本国際出願は2021年3月17日に出願された日本国特許出願2021-043191号に基づく優先権を主張するものであり、2021-043191号の全内容をここに本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0095】
10 材料特性予測装置
11 学習済みモデル
11A 予測モデル
12 予測部
20 モデル生成装置
21 教師データ作成部
22 モデル学習部
【要約】
対象材料の材料組成または製造条件に係る情報を含む説明変数と、対象材料の材料特性に係る情報を含む目的変数との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを設定するモデル設定ステップと、モデル設定ステップにて設定された学習済みモデルに、材料特性を予測したい対象材料に関する説明変数を入力して、説明変数の情報に係る目的変数を出力して、目的変数に基づき予測したい対象材料の材料特性を予測する予測ステップと、を含む。説明変数は、目的変数に含まれる材料特性の測定時の温度である材料特性評価温度と、材料特性の測定までに材料特性評価温度が保持された時間である評価温度保持時間とをさらに含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18