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特許7190631マルチビームフェムト秒レーザによって材料を切断する方法及び器具
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】マルチビームフェムト秒レーザによって材料を切断する方法及び器具
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221209BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20221209BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20221209BHJP
   C03B 33/09 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/067
B23K26/53
C03B33/09
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019504823
(86)(22)【出願日】2017-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 FR2017052072
(87)【国際公開番号】W WO2018020145
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】1657138
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1657139
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】318008705
【氏名又は名称】アンプリテュード システム
(73)【特許権者】
【識別番号】505252333
【氏名又は名称】サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】519026087
【氏名又は名称】アルファノフ
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ミシシク,コンスタンチン
(72)【発明者】
【氏名】ロペ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クリング,レネ
(72)【発明者】
【氏名】ジァボ-レジェ,クレマンタン
(72)【発明者】
【氏名】デュシャテオ,グィローム
(72)【発明者】
【氏名】デマテオ-コリエ,オフェリ
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056544(JP,A)
【文献】特開2014-104484(JP,A)
【文献】特表2015-520938(JP,A)
【文献】特表2014-523117(JP,A)
【文献】特開2010-284669(JP,A)
【文献】特開2011-025304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/067
B23K 26/53
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体又は半導体の材料をレーザ切断する方法において、
- 前記材料の透過スペクトルバンドに含まれる波長のレーザビーム(100)を発するステップであって、前記レーザビーム(100)は、N個のレーザパルスの少なくとも1つのバーストを含み、ここで、Nは、2以上の自然数であり、前記レーザパルスは、10~900フェムト秒に含まれる持続時間を有し、1つのバーストの前記N個のレーザパルスは、900ナノ秒~1ピコ秒に含まれる時間間隔だけ相互に時間的に分離される、ステップと、
- 前記レーザビーム(100)を、第一の光軸に沿って分散される第一のエネルギーを有する第一の分割ビーム(101、181)と、また前記第一の光軸と異なる第二の光軸に沿って分散される第二のエネルギーを有する第二の分割ビーム(102、182)とに空間的に分割するステップであって、前記第一のエネルギー及び前記第二のエネルギーは、材料改質閾値より高い、ステップと、
- 前記第一の分割ビーム(101、181)の前記第一のエネルギーを前記材料の第一の領域(31)に、且つまた前記第二の分割ビーム(102、182)の前記第二のエネルギーを前記材料の第二の領域(32)に、前記第一の領域(31)及び前記第二の領域(32)において局所的改質を生成するために空間的に集中させるステップであって、前記第一の領域(31)及び前記第二の領域(32)は、相互に分離され且つ距離dxだけ離間される、ステップと、
- 前記第一の領域(31)と前記第二の領域(32)との間の前記距離(dx)を、1マイクロメートル~10マイクロメートルに含まれる距離閾値より小さく調整して、方向付けられた直線的微小破壊(45)を開始させるステップであって、前記直線的微小破壊(45)は、前記第一の領域(31)と前記第二の領域(32)との間に延びる所定の方向に沿って方向付けられる、ステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記バースト中のレーザパルスの数Nは、20以下であり、レーザ源(1)は、1kHz~1GHzに含まれる周波数を有し、前記レーザビーム(100)の波長は、250nm~2.2μmに含まれ、前記第一のエネルギー及び前記第二のエネルギーは、1mJより低く且つ1nJより高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ源によって発せられる前記レーザビーム(100)は、ガウス空間分布を有し、前記第一の分割ビーム(181)及び前記第二の分割ビーム(182)は、それぞれベッセルビーム空間分布を有するように空間的に成形される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の分割ビーム(181)の前記ベッセルビーム空間分布は、前記第一の領域(31)において前記第一の分割ビームの前記第一の光軸に沿って横方向及び/若しくは縦方向に変調され、且つ/又はまた前記第二の分割ビーム(182)の前記ベッセルビーム空間分布は、前記第二の領域(32)において前記第二の分割ビームの前記第二の光軸に沿って横方向及び/若しくは縦方向に変調される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザビーム(100)を空間的に分割する前記ステップは、複数のM個の空間分割ビームを生成するように適合され、ここで、Mは、3以上の自然数であり、前記複数のM個の空間分割ビームは、2つずつ相互に対して横方向のオフセットを有し、
各分割ビームは材料改質閾値より高いエネルギーを有し、エネルギーを空間的に集中させる前記ステップは、前記複数のM個の分割ビームのエネルギーを前記材料の複数のM個の分離領域に空間的に集中させて前記材料の前記複数のM個の分離領域において複数の局所的改質を生成し、
- 前記複数のM個の分離領域のうちの任意の2つの領域間の前記距離(dx)を、1マイクロメートル~10マイクロメートルに含まれる距離閾値より小さく調整して、前記複数のM個の分離領域のうちの前記任意の2つの領域間で方向付けられた直線的微小破壊(45)を開始させる
請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記の第一の分割ビーム、第二の分割ビームと前記材料との間の相対的変位のステップをさらに含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
誘電体又は半導体の材料をレーザ切断する器具であって、
- 前記材料の透過スペクトルバンドに含まれる波長のレーザビーム(100)を発するように適合されたレーザ源(1)
含む器具において、
- 前記レーザ源(1)は、N個のレーザパルスの少なくとも1つのバーストを含む前記レーザビーム(100)を発するように適合され、ここで、Nは、2以上の自然数であり、前記レーザパルスは、10~900フェムト秒に含まれる持続時間を有し、1つのバーストの前記N個のレーザパルスは、900ナノ秒~1ピコ秒に含まれる時間間隔だけ相互に時間的に分離されることと、
前記器具は、
- 前記レーザビーム(100)を受け取り、且つ第一の光軸に沿った第一の分割ビーム(101、181)と、前記第一の光軸と異なる第二の光軸に沿った少なくとも1つの第二の分割ビーム(102、182)とを生成するように配置された光学空間分割装置(11、12、21、22、90)であって、
- 前記第一の分割ビーム(101、181)は、第一のエネルギーを有し、及びまた前記第二の分割ビーム(102、182)は、第二のエネルギーを有し、前記第一のエネルギー及び前記第二のエネルギーは、相互に別々に、制御されないマイクロクラックの開始を可能にするようにそれぞれ適合される、光学空間分割装置(11、12、21、22、90)と、
- 前記第一の分割ビーム(101、181)の前記第一のエネルギーを前記材料(3)の第一の領域(31)に、且つまた前記第二の分割ビーム(102、182)の前記第二のエネルギーを前記材料(3)の第二の領域(32)に空間的に集中させるように配置された光学空間エネルギー集中装置(4、18、74)であって、前記第一の領域(31)及び前記第二の領域(32)は、相互に分離され且つ距離dxだけ離間され、
- 前記第一の領域(31)内の前記第一の分割ビームの前記第一の光軸と、前記第二の領域(32)内の前記第二の分割ビームの前記第二の光軸との間の前記距離(dx)は、距離閾値より小さく、前記距離閾値は、1マイクロメートル~10マイクロメートルに調整して、方向付けられた直線的微小破壊(45)を開始させるために、前記微小破壊(45)は、前記第一の領域(31)と前記第二の領域(32)との間に延びる所定の方向に沿って方向付けられる、光学空間エネルギー集中装置(4、18、74)と
をさらに含むこととを特徴とする器具。
【請求項8】
前記第一の分割ビームは、前記第一の領域(31)においてDに等しい横方向の空間範囲を有し、前記第二の分割ビームは、前記第二の領域(32)においてDに等しい横方向の空間範囲を有し、ここで、Dは、2マイクロメートル以下であり、前記距離dxは、1マイクロメートル以上であり且つ10マイクロメートル以下である、請求項7に記載の器具。
【請求項9】
一方で前記材料と、他方で前記第一の分割ビーム(101、181)及び前記第二の分割ビーム(102、182)との間の相対的変位のためのシステムをさらに含む、請求項7又は8に記載の器具。
【請求項10】
前記レーザ源は、250nm~2.2μmに含まれる波長及び1kHz~10GHzの周波数でパルスを供給するように構成され、ここで、前記バースト中のレーザパルスの数Nは、20以下である、請求項7に記載の器具。
【請求項11】
前記光学空間エネルギー集中装置は、前記第一の領域内の前記第一の光軸に沿った前記第一の分割ビームの複数の焦点と、また前記第二の領域内の前記第二の光軸に沿った前記第二の分割ビームの別の複数の焦点とを生成するように構成される、請求項7~10の何れか一項に記載の器具。
【請求項12】
前記光学空間分割装置及び/又は前記光学空間エネルギー集中装置は、前記第一の光軸(181)に沿って、且つまた前記第二の光軸(182)に沿ってベッセルビーム空間強度分布を生成するように構成される、請求項7~11の何れか一項に記載の器具。
【請求項13】
前記光学空間分割装置及び/又は前記光学空間エネルギー集中装置は、前記第一の領域において前記第一の分割ビームの空間強度分布を前記第一の光軸に対して横方向に変調し、且つまた前記第二の領域において前記第二の分割ビームの空間強度分布を前記第二の光軸に対して横方向に変調するように構成された空間位相及び/若しくは振幅変調器又は位相及び/若しくは振幅マスクを含む、請求項7~12の何れか一項に記載の器具。
【請求項14】
前記光学空間エネルギー集中装置は、前記第一の領域において前記第一の分割ビームの空間強度分布を前記第一の分割ビームの前記光軸に沿って変調し、且つまた前記第二の領域において前記第二の分割ビームの空間強度分布を前記第二の分割ビームの前記光軸に沿って変調するように構成された別の位相及び/又は振幅マスクを含む、請求項7~13の何れか一項に記載の器具。
【請求項15】
前記材料は、100マイクロメートル~ミリメートルに含まれる厚さを有するガラスの中から選択され、前記レーザビーム(100)の波長は、250nm~2.2μmに含まれ、前記第一のエネルギー及び前記第二のエネルギーは、1mJより低く且つ1nJより高い、請求項7~14の何れか一項に記載の器具。
【請求項16】
前記微小破壊に対して1ミリメートルより短い距離だけ横方向にオフセットされた別のレーザビームを当てる追加のステップをさらに含み、前記別のレーザビームは、誘電又は半導体材料に追加の直線的微小破壊(45)を生じさせることなく熱応力を発生させるために、材料アブレーション閾値より低いエネルギーを有する、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、誘電又は半導体材料をレーザ加工する方法及び機器の分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、10分の数ミリメートル~数ミリメートルに含まれる厚さを有する透明誘電又は半導体材料を切断する方法に関する。
【0003】
本発明は、特に、チッピング及び材料損失がない、クリーンな切断縁を形成する高速切断方法に関する。
【背景技術】
【0004】
例えば、ガラス、石英若しくはサファイア等の透明誘電無機材料、又はシリコン若しくはゲルマニウム等の半導体材料は、光学、光電子工学又は時計製造業界において電子機器のフラットパネルディスプレイに一層使用されている。これらの材料の機械加工、特に精密カットでは、特定の技術的及び工業的問題が生じる。切断技術は、高い切断速度という工業的要求を満たしながら、材料の残留応力の出現を最小化し、且つチッピング及びマイクロクラックがない良好なカット品質、すなわちクリーンな切断縁を保証し、それにより、研磨又は精密研削等の後加工ステップが回避され得るようにしなければならない。
【0005】
様々な長さ及び厚さにわたり、直線だけでなく、湾曲カットが望まれる。
【0006】
透明材料を切断するための各種の技術がある。機械的な技術は、ダイヤモンド粒子でコーティングされた工具、例えばダイヤモンドソーの使用、又はダイヤモンド若しくは焼き入れ鋼のローラによってプレカット加工してから、機械的強度を付与することによって得られる部品を分離することに基づく。他の切断技術は、数千のバーの加圧ウォータージェットを適用してガラスをその厚さ全体にわたって腐食させることを含み、ここで、水には研磨粒子が充填され得る。
【0007】
より最近では、レーザ切断の異なる技術が開発されている。
【0008】
破断開始によるレーザ切断は、レーザアブレーションにより切断可能な材料の表面内にノッチを生成して破断を開始させることを含む。
【0009】
ガラス、サファイア又は透明セラミックの溶断は、材料を溶融状態までレーザで加熱し、その後、加圧ガス(窒素又は空気)によりカーフを通じて融材料を噴出させることによって得られる。遠赤外範囲で発せられるレーザ、例えばCO2レーザは、表面からの吸収及び加熱を起こし、熱は、材料の表面から深部へ伝導により拡散される。これに対して、近赤外範囲で発せられるレーザ、例えばディスク又はファイバYAGレーザは、ボリューム吸収を直接誘導する。溶融切断は、一般に、材料の粘性がきわめて低いガラス転移温度Tgよりはるかに高い温度で行われる。このように高い温度は、広い領域に熱の影響を与えることにつながり、これは、切断軌跡に沿ったマイクロクラック及びチッピングを出現させやすい。この理由から、溶断後、一般に研磨又は研削の後加工ステップが必要となる。
【0010】
スクライブ及びブレーク方式は、レーザアブレーションによって被切断材の表面に溝を作り、その後、機械的強度を加えて両方の部分を分離することを含む。破断は、溝により画定される軌道に沿って起こる。溝の深さは、10~20マイクロメートル(μm)のオーダーである。切断速度は、重要であり、少なくとも10mm/sである。しかしながら、この方式では、アブレーションダスト及び切断縁の欠陥が後面付近で生じ得る。
【0011】
文献欧州特許出願公開第2476505_A1号明細書の文献は、超短パルスレーザビームを相互に接触する2つのレーザスポットに分割して集光させ、材料に長円のスポットを形成し、2つのスポットを結合する軸に沿って破断を生成することに基づくレーザ加工の方法及びシステムを記載している。
【0012】
文献米国特許出願公開第2015/0158120 A1号明細書は、半導体又はガラスタイプの材料を穿孔する技術を記載しており、これは、空間的に成形された第一のレーザパルスを発して材料中にプラズマチャネルを生成することと、プラズマチャネルに空間的に重ねられる第二の電磁波を発して材料を加熱し且つ穿孔を生成することとを含む。
【0013】
短又は超短パルスによるフルレーザアブレーション切断によれば、いかなる機械的支援もなしにガラスの自発分離を得ることができる。本明細書では、短パルスは、持続時間が1ナノ秒(ns)~1マイクロ秒(μs)に含まれるパルスであり、超短パルスは、持続時間が10フェムト秒(fs)~1ナノ秒(ns)に含まれるパルスであると理解される。
【0014】
フルレーザアブレーショ切断技術は、異なる切断軌道及びパターン:閉じた幾何学図形、小さい曲率半径、面取り部に沿った直線又は曲線に合わせて調整可能である。透明材料の使用により、この方法は、不透明材料の場合のように、レーザビームが入射する上面に集光させることによってアブレーションを開始するだけでなく、下面に集光させてアブレーションを開始し、上面まで変位させることによっても適用され得る(ボトムアップ法)。しかしながら、フルレーザアブレーション切断は、厚い材料の場合、上述の他の方法よりも低速な方法であり、これは、それによって大量の材料が除去されることによる。さらに、レーザアブレーションにより生成される切断縁は、一般に粗い。最後に、この方法は、大量のダスト及び材料中の広いノッチを生じさせる。チッピングは、特定の条件で出現し得る。
【0015】
制御された破断伝播によるレーザ切断は、YAG又はCO2レーザを用いてガラス板の縁にノッチを生成し、その後、ガラス板とレーザビームとを相対的に移動させながらパワーレーザビームを当てることに基づく。レーザビームは、CO2について表面に、又はYAGレーザについて体積内に吸収される。レーザビームにより生成される大きい温度勾配は、レーザビーム後の急速冷却によって増大される。この大きい温度勾配は、過渡引張応力を誘導し、それは、最初のピッチから破断を開始させる。その後、この破断は、レーザビームの軌道に沿って伝播する。切断部品は、機械的支援なしに切り離され、直線軌道の場合には高い切断品質、すなわち直線であり、スムーズであり、且つ傷のない縁を呈する。このような多くの利点にもかかわらず、制御された破断伝播には、切断経路の逸脱並びに大量の破壊部品による切断の不確実性及び不正確さ等の欠点がある。さらに、小さい部品又は小さい曲率半径(<1mm)の湾曲軌道の切断は、ほとんど不可能である。最後に、切断速度は、破断の伝播により限定される(数十mm/s)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、透明な誘電無機又は半導体材料、特にガラス、石英又はサファイア板を切断するための、平坦な切断面を画定する案内ラインに従った直線軌道に沿って、又は円柱形若しくは円錐形の切断面を画定する案内ラインに従った湾曲軌道に従って、シャープでスムーズな縁の切断部を高い切断速度で得ることを可能にする技術を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従来技術の上述のような欠陥に対処するため、本発明は、誘電又は半導体材料をレーザ切断する方法を提案する。
【0018】
より詳細には、本発明によれば、誘電又は半導体材料をレーザ切断する方法であって、
- 材料の透過スペクトルバンドに含まれる波長のレーザビームを発するステップであって、レーザビームは、N個のレーザパルスの少なくとも1つのバーストを含み、ここで、Nは、2以上の自然数であり、前記レーザパルスは、フェムト秒の持続時間を有し、1つのバーストのN個のレーザパルスは、数百ナノ秒~1ピコ秒に含まれる時間間隔だけ相互に時間的に分離される、ステップと、
- レーザビームを、第一の光軸に沿って分散される第一のエネルギーを有する第一の分割ビームと、また第一の光軸と異なる第二の光軸に沿って分散される第二のエネルギーを有する第二の分割ビームとに空間的に分割するステップであって、第二の光軸は、好ましくは、第一の光軸と平行であり、第一のエネルギー及び第二のエネルギーは、材料改質閾値より高い、ステップと、
- 第一の分割ビームのエネルギーを材料の第一の領域に、且つまた第二の分割ビームのエネルギーを材料の第二の領域に、第一の領域及び第二の領域において局所的改質を生成するために空間的に集中させるステップであって、第一の領域及び第二の領域は、相互に分離され且つ距離dxだけ離間される、ステップと、
- 第一の領域と第二の領域との間の距離(dx)を、1マイクロメートル~約10マイクロメートルに含まれる距離閾値より小さく調整して、第一の領域と第二の領域との間に延びる所定の微小破壊方向に沿って方向付けられた直線的微小破壊を開始させるステップと
を含む方法が提案される。
【0019】
個別に又は技術的に可能なあらゆる組合せにより得られる、本発明による誘電又は半導体材料をレーザ切断する方法の他の非限定的且つ有利な特徴は、以下のとおりである。
- パルスは、10~900フェムト秒に含まれる持続時間を有し、前記バースト中のフェムト秒パルスの数Nは、20以下であり、前記レーザ源は、1kHz~1GHzに含まれる周波数を有し、レーザビームの波長は、250nm~2.2μmに含まれ、第一のエネルギー及び第二のエネルギーは、1mJより低く且つ1nJより高く、
- レーザ源によって発せられるレーザビームは、ガウス空間分布を有し、第一の分割ビーム及び第二の分割ビームは、それぞれベッセルビーム空間分布を有するように空間的に成形され、
- 第一の分割ビームのベッセルビーム空間分布は、第一の領域において第一の分割ビームの光軸に沿って横方向及び/若しくは縦方向に変調され、且つ/又はまた第二の分割ビームのベッセルビーム空間分布は、第二の領域において第二の分割ビームの光軸に沿って横方向及び/若しくは縦方向に変調され、
- レーザビームを空間的に分割するステップは、複数のM個の空間分割ビームを生成するように適合され、M個の分割ビームは、好ましくは、軸Zに平行であり、及びM個の分割ビームは、切断面の一部を画定し、ここで、Mは、3以上の自然数であり、複数のM個の空間分割ビームは、2つずつ相互に対して横方向にオフセットを有し、
- エネルギーを空間的に集中させるステップは、複数のM個の分割ビームのエネルギーを材料の複数のM個の分離領域に、材料の複数のM個の分離領域において複数の局所的改質を開始させるために空間的に集中させることであって、M個の分離領域は、案内ラインによって生成される表面上に配置され、前記表面は、平坦、円柱又は円錐形であり、各分割ビームは、材料改質閾値より高いエネルギーを有する、集中させることと、
- 複数のM個の分離領域のうちの任意の2つの領域間の距離(dx)を、1マイクロメートル~約10マイクロメートルに含まれる距離閾値より小さく調整して、方向付けられた直線的微小破壊を開始させることであって、この微小破壊は、複数のM個の分離領域のうちの前記任意の2つの領域間に延びる微小破壊方向に沿って方向付けられる、開始させることと
を含み、
- 方法は、前記分割ビームと材料との間の相対的変位のステップをさらに含む。
【0020】
有利には、この方法は、前記微小破壊に対して1ミリメートルより短い距離だけ横方向にオフセットされた別のレーザビームを当てる追加のステップをさらに含み、この別のレーザビームは、誘電又は半導体材料の追加の微小破壊を生じさせることなく熱応力を発生させるために、材料アブレーション閾値より低いエネルギーを有する。
【0021】
本発明は、材料の透過スペクトルバンドに含まれる波長のレーザビームを発するように適合されたレーザ源を含む、誘電又は半導体材料をレーザ切断する器具も提案する。
【0022】
より詳細には、本発明によれば、レーザ源は、N個のレーザパルスの少なくとも1つのバーストを含む前記レーザビームを発するように適合され、ここで、Nは、2以上の自然数であり、前記レーザパルスは、フェムト秒の持続時間を有し、1つのバーストのN個のレーザパルスは、数百ナノ秒~1ピコ秒に含まれる時間間隔だけ相互に時間的に分離される器具が提案され、器具は、レーザビームを受け取り、且つ第一の光軸に沿った第一の分割ビームと、第一の光軸と異なる第二の光軸に沿った少なくとも1つの第二の分割ビームとを生成するように配置された光学空間分割装置であって、第二の光軸は、好ましくは、第一の光軸に平行であり、第一の分割ビームは、第一のエネルギーを有し、及びまた第二の分割ビームは、第二のエネルギーを有し、第一のエネルギー及び第二のエネルギーは、相互に別々に、制御されないマイクロクラックの開始を可能にするように適合される、光学空間分割装置と、第一の分割ビームの第一のエネルギーを材料の第一の領域に、且つまた第二の分割ビームの第二のエネルギーを材料の第二の領域に空間的に集中させるように配置された光学空間エネルギー集中装置であって、第一の領域及び第二の領域は、相互に分離され且つ距離dxだけ離間され、第一の領域内の第一のビームの光軸と、第二の領域内の第二のビームの光軸との間の距離(dx)は、距離閾値より小さく、距離閾値は、数十マイクロメートルより小さく、方向付けられた直線的微小破壊を開始させるために、この微小破壊は、第一の領域と第二の領域との間に延びる所定の微小破壊方向に沿って方向付けられる、光学空間エネルギー集中装置とをさらに含む。
【0023】
個別に又は技術的に可能なあらゆる組合せにより得られる、本発明による誘電又は半導体材料をレーザ切断する器具の他の非限定的且つ有利な特徴は、以下のとおりである。
- 第一の分割ビームは、第一の領域においてDに等しい横方向の空間範囲を有し、第二の分割ビームは、第二の領域においてDに等しい横方向の空間範囲を有し、ここで、Dは、2マイクロメートル以下であり、距離dxは、1マイクロメートル以上であり且つ約10マイクロメートル以下であり、
- 装置は、一方で固体材料と、他方で第一の分割ビーム及び第二の分割ビームとの間の相対的変位のためのシステムをさらに含み、
- レーザ源は、10~900フェムト秒に含まれる持続時間を有するパルスを、250nm~2.2μmに含まれる波長及び1kHz~10GHz、好ましくは1GHz~10Ghzの周波数で供給するように構成され、ここで、前記バースト中のフェムト秒パルスの数Nは、20以下であり、
- 光学空間エネルギー集中装置は、第一の領域内の第一の光軸に沿った第一の分割ビームの複数の焦点と、また第二の領域内の第二の光軸に沿った第二の分割ビームの別の複数の焦点とを生成するように構成され、
- 光学空間分割装置及び/又は光学空間エネルギー集中装置は、第一の光軸に沿って、且つまた第二の光軸に沿ってベッセルビーム空間強度分布を生成するように構成され、
- 光学空間分割装置及び/又は光学空間エネルギー集中装置は、第一の領域において第一の分割ビームの空間強度分布を第一の光軸に対して横方向に変調し、且つまた第二の領域において第二の分割ビームの空間強度分布を第二の光軸に対して横方向に変調するように構成された空間位相及び/若しくは振幅変調器又は位相及び/若しくは振幅マスクを含み、
- 光学空間エネルギー集中装置は、第一の領域において第一の分割ビームの空間強度分布を第一の分割ビームの光軸に沿って変調し、且つまた第二の領域において第二の分割ビームの空間強度分布を第二の分割ビームの光軸に沿って変調するように構成された別の位相及び/又は振幅マスクを含み、
- 誘電材料は、100マイクロメートル~数ミリメートルに含まれる厚さを有するガラスの中から選択され、レーザ波長は、250nm~2.2μmに含まれ、第一のエネルギー及び第二のエネルギーは、1mJより低く且つ1nJより高い。
【0024】
非限定的な例として提示される添付の図面に関する以下の説明により、本発明がどのようなものを含むか、及びそれがどのように実施され得るかをよく理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ある例示的な実施形態による、複数のレーザビームを用いて誘電又は半導体材料を切断する方法のブロック図を示す。
図2】シングルフェムト秒レーザパルスモード(図2A)及びフェムト秒パルスバースト(図2B)において生成するためのパルスの選択を概略的に示す。
図3A】サンプル内にマイクロクラックを生じさせるインパクトを生成するように構成されたレーザを概略的に示す。
図3B】レーザビームの相互作用領域内の横方向の空間強度分布と、生成された微小破壊の一例とを概略的に示す。
図4A】レーザビームを2つの同時ビームに分割するように構成されたレーザを概略的に示す。
図4B】2つのレーザビームの相互作用領域内の横方向の空間強度分布と、方向付けられた微小破壊の生成とを示す。
図5】1つの実施形態による複数のフェムト秒レーザビームを使用する切断器具を概略的に示す。
図6A】1つのフェムト秒レーザパルスにより材料中に誘導される効果を示す。
図6B】パルスバーストの効果を示し、このパルスバーストは、図6Aで使用される1つのパルスと同じ総エネルギーを有する。
図7】本開示の方法及び器具により生成される方向付けられた破壊の開始の一例を示す。
図8】レーザビームを複数のドットに集光するための多焦点光学系の使用を示す。
図9】横方向のベッセル空間分布を有するビーム生成するアキシコン光学系の一例を示す。
図10】横方向のベッセル空間分布を有するビームを生成するための環状ビームの使用を示す。
図11】アキシコンと、ベッセル空間分布を変調するための光学系との組合せの一例を示す。
図12】頂角α及びビーム径Dを有するアキシコンの使用の一例を示す。
図13】頂角2*α及びビーム径2*Dを有する別のアキシコンの使用の別の例を示す。
図14】堆積させるエネルギーの横方向の空間位置の制御を示す。
図15】空間成形が行われる及び/又はバーストパルスモードにおける、異なる種類のレーザビームによるソーダ石灰ガラスの表面に作られたトレースの顕微鏡画像の一例を示す。
図16】ダブルベッセルビームを生成するために光学系と位相マスクとを組み合わせた別の実施形態を概略的に示す。
図17】ベッセルビームを空間的に分割するための位相マスクの一例を示す。
図18】ベッセルビームを空間的に分割するための位相マスクの別の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
方法及び装置
本明細書及び図面において、同じ参照番号は、同じ又は類似の要素を示す。
【0027】
図1は、複数のレーザビームを用いて誘電又は半導体材料を切断する方法の空間的態様のブロック図を示す。
【0028】
サンプル3は、サンプルホルダ上に配置される。サンプル3は、強化若しくは非強化ガラス等の透明な誘電材料又は半導体材料から製作される。サンプル3は、10分の数ミリメートル~数ミリメートル、好ましくは100マイクロメートル~1ミリメートルに含まれる概して均一な厚さの板の形状である。
【0029】
システムは、図1に関して説明されるように、フェムト秒パルスを含むビーム100を生成するレーザ源1を含む。より正確には、レーザ源1は、フェムト秒パルス、すなわち1ピコ秒の持続時間のパルスからなるレーザビーム100を生成する。レーザ源1の周波数は、2つのハルス間の持続時間を画定する。レーザ源1の周波数は、一般に1kHz~10MHzに含まれる。その結果、連続して発せられる2つのパルス間の持続時間は、約1ミリ秒(ms)~10マイクロ秒(μs)で変化する。レーザ源は、一般に0.5W~500Wに含まれるハイパワーのレーザビーム100を生成する。
【0030】
光分割板21、例えば半透明な板は、ビーム100を第一のレーザビーム101と第二のレーザビーム102とに分割する。ミラー22は、第二のレーザビーム102を、第一のレーザビームに平行であり、それから距離dxに位置付けられた光軸に沿って反射させる。この系により、サンプルの第一の相互作用領域31への第一のレーザビーム101と、サンプルの第二の相互作用領域32への第二のレーザビーム102との同時照射が可能となる。例えば、サンプルホルダは、ステージ上で直線変位可能に取り付けられ、サンプル3を、固定されているレーザビーム101、102に対して変位させることができる。
【0031】
サンプルの第一の領域31における第一のビーム101の光軸と、第二の領域32における第二のビーム102の光軸との間のdxで示される間隔は、マイクロメートル以下の精度で調整される。
【0032】
図1の器具は、3つ以上のビームを含むマルチビームの生成に容易に一般化できる。その目的のために、当業者は、相互に空間的に分離された複数のレーザビームを生成するために、光分割板21の代わりにレーザビームの光路上に直列に配置された複数の光分割板を容易に使用するであろう。有利には、各分割ビームは、隣接する別の分割ビームから同じ間隔dxだけ分離される。この系により、サンプルの隣接する領域に同時に当てられるフェムト秒レーザパルスの数を倍増させることが可能となる。この系は、特に平坦な切断面を画定する案内ラインに沿った直線的な切断に適応される。円柱又は円錐形の切断面を画定する案内ラインに沿った曲線的な切断の場合、2つのビームに分割されたレーザビームが使用され得る。特に有利には、分割ビームの向きを被切断サンプルと切断器具との間の相対的移動と組み合わせることにより、XY平面内の所望の軌道に沿った切断を生成できる。したがって、約1mm~無限に含まれる切断面の曲率半径が得られる。代替案として、マルチビームは、構成により、曲線の所定の部分にわたって分散され、それにより1mm~無限に含まれる切断面の曲率半径への到達が可能となる。
【0033】
図1は、2つの同時パルス間の間隔dxの、サンプル3とレーザビーム101及び102との間の相対的変位の方向MXYに対する向きも示す。光分割板21及び/又はまたミラー22の位置及び向きの調整により、サンプル3上の第一の相互作用領域31の位置及び第一のビーム101の入射角、並びに/又はまたサンプル3上の第二の相互作用領域32の位置及び第二のビーム102の入射角を調整することが可能となる。有利には、第二のビーム102の光軸は、第一のビーム101の光軸に平行である。連続するパルスの発生間に適用される変位の方向MXYは、例えば、第一のレーザビーム101と第二のレーザビーム102との間の間隔dxに平行であるか又はそうではない。変位は、平面XY内で行われる。変形形態として、ビームの光軸と、平面XY内のサンプルの表面に垂直な軸との間に角度が導入され、連続するパルスの発生間に適用される変位は、サンプル3の表面に対して10度以下の頂角を有するわずかに円錐形の切断面を生成するように適合される。わずかに円錐形の切断面により、材料板に対する切断部分の容易且つ概して自発的な解離が可能となる。
【0034】
パルス持続時間及び2つのインパクト領域間の空間的間隔dxの特別な条件において、この系によれば、驚くべきことに、方向付けられた微小破壊を生成させることが可能となり、この微小破壊は、サンプルの第一の領域31と第二の領域32との間に延びる所定の方向に沿って方向付けられる。さらに、この構成により、材料のアブレーション又は材料中のマイクロバブルを発生させない利点が提供される。このようにして得られた切断面の表面粗さは、0.2μm~5μmに含まれる。その結果、この切断方法により、研磨又は精密研削の追加のステップを回避できる。
【0035】
本開示から、したがって、同じ初期分割ビームにより衝撃を受けた2つの隣接領域間の間隔dxの調整は、方向付けられた直線的微小破壊45の生成にとって重要であることが確認され、この微小破壊45は、これらの2つの隣接領域間に延びる所定の方向に沿って方向付けられる。
【0036】
図2は、本開示による複数のレーザビームを用いて誘電又は半導体材料を切断する方法の時間的態様を示す。
【0037】
図2は、本開示の特定の態様を示す。図2Aは、時間に関する、シングルパルスモードで選択され、増幅されたフェムト秒レーザパルス110のシーケンスのエネルギーを示す。このシングルパルスモードにおいて、連続する2つのパルス110間の時間間隔T0は、パルスセレクタ(又はパルスピッカ)によって選択され、それにより、これらのパルスは、光学増幅系内で増幅され得る。時間間隔T0は、レーザの周波数、すなわち繰返し周波数(frep)にfrep=1/T0の関係で関連付けられる。一般に、frepは、数百kHz~数MHzで変化する可能性がある。繰返し周波数は、一般にレーザ源1のインジェクタの周波数(fosc)よりはるかに低い。
【0038】
特に有利には、図2Bに示されるバーストモードと呼ばれるフェムト秒パルスのシーケンスが使用される。図2Bは、3つのフェムト秒パルス111、112、113からなるバーストを概略的に示す。別に知られているように、レーザ源1のパルスセレクタは、フェムト秒パルス111、112、113のバースト120を選択するように構成され得る。パルスバースト120のフェムト秒パルス111、112、113の総エネルギーEpは、ここで、その繰返し周波数での増幅されたシングルパルス110のエネルギーに等しい。バーストのパルスレートは、例えば、使用されるレーザ源の周波数(fosc=1/Tosc)により定められる。一般に、foscは、レーザ系のインジェクタにより固定される(例えば、図2Bの例では40MHzのオーダー)。重要なデータ要素は、バースト中のパルスの数(「PBB」と呼ぶ)である。バーストの2つのパルス間の間隔T1は、900ナノ秒~1ピコ秒で様々であり得る。間隔の値は、レーザ源1の具体的な構成によって得られないが、レーザ源1の外部にある、別に知られている複屈折性結晶を使用する光学装置によって得ることができる。
【0039】
本開示によれば、バーストモードをビームの空間分割と組み合わせることにより、方向付けられた直線的微小破壊が生成され、この微小破壊は、相互にdxだけ離れた2つの相互作用領域間に延びる。レーザビームの空間分割と、フェムト秒パルスのフェムト秒パルスバーストへの時間的分割との組合せは、フェムト秒パルスにより作られるエネルギー堆積の局所化を最大限にする効果を有する。フェムト秒パルスの使用により、材料中で利用可能なエネルギーの吸収を最大にすることができる。しかしながら、フェムト秒パルスにより誘導される空間的に局所化された吸収は、ピコ秒パルスより少ない。それでもなお、バーストの使用により、堆積したエネルギーの再配置が可能となる。堆積したエネルギーのこのような集中により、微小破壊と、その後の材料の直接切断とが可能となる。さらに、空間的分割及び時間的分割により、材料への非線形の光学的効果の生成を制御することが可能となる。
【0040】
図3は、サンプルに直接、すなわちビームの空間的分割を行わずに当てられる1つのフェムト秒レーザビーム100の効果を示す。図3Aは、直交参照系XYZのZ軸と整列する光軸に沿って向けられたレーザビーム100を示す。レンズ4は、レーザビーム100をサンプル3の領域30に集光する。レーザビーム100は、微小破壊の生成を可能にするように調整されたエネルギーを有する。図3Bは、レーザビーム100のXY平面内及び相互作用領域30内の空間的強度分布を概略的に示す。レーザビーム100の強度分布は、ここで、光軸の周囲で回転対称を有すると仮定される。X軸に沿った強度曲線200は、例えば、ガウス型の分布を有する。XY平面内において、強度は、相互作用領域30に中心を置く同心リングによって概略的に表されている。サンプル内のレーザビーム100の吸収は、微小破壊40、例えばここでは4つを生成させ、これは、レーザビームの光軸Xから半径方向に方向付けられ、Z軸の周囲でランダムに方向付けられ得る。一般に、微小破壊40の方向を所定の方法で方向付けることは、非常に困難である。
【0041】
図4は、サンプルに同時に当てられる第一のレーザビーム101及び第二のレーザビーム102の効果を示す。図4Aは、直交参照系XYZのZ軸に平行な光軸に沿って向けられた第一のフェムト秒レーザビーム101と、Z軸に平行な別の光軸に沿って向けられた第二のフェムト秒レーザビーム102とを示す。レンズ4は、第一のレーザビーム101をサンプル3の第一の領域31に、且つ第二のレーザビーム102を第二の領域に集光する。第一の領域31及び第二の領域32は、間隔dxだけ相互に横方向に分離される。X軸に関する第一の領域31の第一のビームの強度曲線201と、またX軸に関する第二の領域32の第二のビームの強度曲線202とが示されている。領域31は、領域32から分離されている。換言すれば、サンプル内部の集光領域において、第一のフェムト秒レーザビーム101と第二のレーザビーム102との間に空間的重複がない。驚くべきことに、第一のレーザビーム101及び第二のレーザビーム102の吸収により、一般に、第一の領域31と第二の領域32との間に少なくとも1つの方向付けられた微小破壊45が生成される。
【0042】
理論に拘束されることなく、ダブルビーム以上の概してマルチビームを使用することにより、材料内に誘導された応力を制御し、したがってマイクロクラック又は微小破壊を方向付けることが可能となる。
【0043】
それに対して、間隔dxは、ビームの吸収条件が隣接ビームの吸収によって変調されすぎないように十分に大きくなるように調整される。反対に、dxは、破壊開始の向きの効果が十分なものとなるように大きすぎてはならない。非限定的な例として、間隔dxは、それぞれ2μm未満の領域31及び32の大きさの場合、1μm~10μmで選択される。
【0044】
それに対して、第一のレーザビーム101のエネルギー及び第二のレーザビーム102のエネルギーの合計は、ここで、図3のレーザビーム100のエネルギーに等しい。図4Bは、XY平面及び相互作用領域31、32におけるレーザビーム101、102の空間的強度分布を概略的に示す。
【0045】
方向付けられた微小破壊45は、材料の有意な内部改質に必要なエネルギーより低いエネルギーで生成される。被切断材料ごとに、各材料によって異なる最適なエネルギードメインが存在する。このドメインは、材料改質閾値によってエネルギーにおいて下方に限定される。この閾値は、裸眼で又は光学顕微鏡を用いて光学的に見ることができる損傷(融着、ボイドとも呼ばれる気泡の生成)の閾値より低い。それに対して、このより低いエネルギー閾値は、偏光又は位相差顕微鏡等の機器を用いて見ることができる。エネルギードメインの上限は、裸眼で又は光学顕微鏡を用いて光学的に見ることができる損傷の閾値により固定される。
【0046】
図5は、別の実施形態による、透明な材料をレーザ切断する器具の一例を概略的に示す。
【0047】
切断器具は、レーザ源1と、ミラーM1、M2、M3を含む光学系と、ビームスプリッタ11と、別のビームスプリッタ12と、集光レンズ4とを含む。
【0048】
レーザ源1は、図1に関して説明したような、フェムト秒パルスからなるレーザビーム100を生成する。
【0049】
非限定的な例として、源1から発せられるレーザビーム100は、線形に偏向される。平面ミラー10は、レーザビーム100をビームスプリッタ11に向かって反射させる。ビームスプリッタ11は、レーザビーム100を、第一の光軸に沿って向けられる第一のビーム101と、第二の光軸に沿って向けられる第二のビーム102とに空間的に分割する。好ましくは、ビームスプリッタ11の出口において、第一のビーム101のエネルギーは、第二のビーム102のエネルギーに等しい。ミラーM1と、またM2とは、第一のビーム101と、また第二のビーム102とを別のビーム分離器12に向かって反射させる。ビーム分離器12は、第一のビーム101及び第二のビーム102を再結合する一方、第一の光軸と第二の光軸との間のγとして示される角度オフセットを保持する。ミラーM3は、第一のビーム101及び第二のビーム102を光学系4、例えば顕微鏡レンズに向かって反射させる。光学系4は、第一のビーム101をサンプル3の第一の領域31に、且つ同時に第二のビーム102をサンプル3の第二の領域32に集光する。
【0050】
図5の系は、したがって、サンプル3の第一の領域31及び第二の領域32に同時に送達される2つのフェムト秒パルスを生成する。第一の領域31及び第二の領域32は、相互に空間的に分離される。好ましくは、領域31及び32は、光軸に対して横方向の平面内で2μm未満の直径を有するディスクに適合する形状を有する。
【0051】
ミラーM1及び/又はミラーM2の向きにより、角度γで第二の領域32の位置に対する第一の領域31の位置を調節することが可能となる。
【0052】
図5の系は、サンプルの第一の領域31における第一のビーム101の光軸と、第二の領域32における第二のビーム102の光軸との間のdxで示される間隔をマイクロメートル未満の単位で正確に調整することが可能となるように構成される。
【0053】
図6Aは、ビームの光軸(Z)(横軸)に沿った、及びこの軸Zに対する半径方向の距離R(縦軸)の関数としてのシングルパルスのフェムト秒レーザビームにより誘導される温度のマッピングを示す。図6Aにおいて、レーザビームのエネルギーは、1μJであり、周波数は、500kHzであり、時間間隔は、2μsである。
【0054】
図6Bは、横軸における光軸(Z)に沿った、及びこの軸Zに対する半径方向の距離R(縦軸)の関数としての、5つのフェムト秒パルスを含むバーストモードのレーザビームにより誘導される温度上昇のマッピングを示す。図6Bにおいて、レーザビームの総エネルギーは、1μJであり、2つのパルス間の持続時間T1は、約25nsであり、周波数は、500kHzであり、2つのパルスバースト間の時間間隔は、2μsである。図6Bでは、同じ総エネルギーの、増幅された1つのフェムト秒パルスにより堆積するエネルギーに対応する図6Aと比較して、5つのパルスのバーストにより堆積するエネルギーの局所化がより強いことがわかる。図6A~6Bは、複雑な効果を示し、それにより、バーストモードは、パルス110の強度をより低い強度の複数のパルス111、112、113に分散させ、それによって非線形の効果が低減する一方、エネルギーの堆積をシングルパルスより小さい円柱形の体積(直径~2マイクロメートル)に空間的に集中させることができる。
【0055】
図7は、図1に関して説明したシステムにより、ソーダ石灰ガラス板の表面で得られるトレースの一例を示す光学顕微鏡画像である。レーザ源は、エネルギーのガウス分布を有する。システムは、ダブルレーザビームを生成し、分割ビーム間の間隔は、dx=3.6μmである。この例において、レーザビームの総エネルギーは、2.5マイクロジュール(μJ)である。このパルスは、バーストモードで生成され、パルスバーストは、25nsだけ分離される4つのフェムト秒パルスを含む。線形変位の速度は、90mm/sであり、レーザ周波数は、5kHzであり、したがって2つのダブルインパクト間の距離は、d=18μmである。図7では、X軸に沿った線形変位の方向において生成される直線的微小破壊45の開始の整列が見られる。
【0056】
本開示の方法は、高いレーザ周波数(>200kHz)で動作し、それによって切断速度を1秒当たり数メートルまで増大させることができ、これは、材料中の熱の蓄積の現象による不利益を受けないからである。その目的のために、レーザビームは、サンプルに対して変位され、2つの連続するパルス(又はバースト)間の空間的重複が回避され、10kHzで100mm/s、100kHzで1m/s、又は1MHzで10m/sの切断速度が得られる。
【0057】
図8は、空間ビーム分割とバーストモードとの組合せで使用される本開示のある実施形態の特定の態様を示す。この特定の態様によれば、光学集光系64が使用され、これは、縦方向の光軸60上の複数の焦点を有するように構成される。その目的のために、光学集光系64は、例えば、縁部より光軸60上でより大きい曲率半径を有する非球面レンズを使用する。光学集光系64は、レーザビーム101を受け取り、光軸60に沿って縦方向に延びる領域80上に複数の焦点を生成する。このような光学集光系64により、1ミリメートルを超える傾向のある、例えば2mmの材料の厚さに関するレーザビームの集光領域を調整することが可能となる。
【0058】
図9~18は、空間ビーム分割とバーストモードとの組合せで使用される本開示のある実施形態の別の特定の態様を示す。この別の特定の態様によれば、レーザビームの縦の光軸に対して横方向のベッセルビーム強度分布を有するビームを生成するように構成された光学装置である。
【0059】
図9に示される第一の例示的な実施形態において、アキシコンと呼ばれる光学素子74を用いてベッセルビームが形成される。アキシコンは、角度α及び頂角θを有する。アキシコン74の頂点は、ガウス分布を有するレーザビーム100の光軸上に配置される。したがって、アキシコンは、光軸70の横方向の平面内の最大強度の中央領域81と、光軸70の半径方向の距離に応じて強度が減少する幾つかの同心円リング82、83とを含むベッセルビーム80を形成する。このベッセルビームは、光軸70に沿って長さLにわたって延びる。
【0060】
図10Bに示される別の例示的な実施形態において、環状のレーザビーム10が形成される。従来のレンズ式光学系4は、環状のレーザビーム100を受け取り、光学干渉により、光軸の付近に長さLのベッセル-ガウス型(「ベッセル」と呼ばれる)のビームを形成する。図10Aは、レンズ4から上流の光軸に対して横方向の平面内の環状のレーザビーム100の強度分布を示す。図10Cは、横軸における光軸に沿った距離の関数としての、及び縦軸における光軸までの半径方向の距離の関数としての集光領域内のベッセルビーム80の強度分布を示す。図10Cでは、縦方向に延びるが、光軸70に対して横方向に集中するエネルギーの空間分布がわかる。ベッセルビームの非線形の中央フリンジは、非線形の吸収により、その放射を透過させる誘電材料中の内部改質を生成するのに十分な強度であり得る。そのように生成された改質は、長く、円対称である。
【0061】
図11に示される別の例示的な実施形態によれば、ベッセルビームの長さは、アキシコン74と、テレスコープを形成するレンズ型光学系75、76とを組み合わせることによって調整される。アキシコン74は、長さLのベッセルビーム80を形成する。レンズ型光学系75、76は、光軸70に沿って長さlのベッセルビームの像180を形成する。このような光学装置は、単純であり、それによってベッセルビームの長さと、したがってエネルギーがその中に堆積される体積とを最適化することができる。実際には、ベッセルビーム80は、空気中に生成され、ベッセルビーム180は、材料、例えばガラスの厚さ中に倍率1未満のテレスコープ75、76によって投射され、これによって長さlを短縮して、ベッセルビーム180の強度を増大させることができる。このように得られたベッセルビーム180の長さlは、アキシコン74の頂角とレンズ75、76により形成されるテレスコープの倍率とを変化させることにより、0.2~2.0mmで調整できる。ベッセルビーム180により、ガラスにその厚さ全体にわたって均一に影響を与えるための長い体積内改質を得ることができる。
【0062】
図12Aは、ベッセルビームを形成する光学装置の一例を示す。この例において、アキシコンは、鋭角αを提示する。レンズ75は、焦点距離f1を有し、対物レンズ76は、焦点距離f2を有する。この例において、レンズ75は、アキシコンから距離d1にd1≒Lとなるように配置される。対物レンズ76は、焦点距離f2を有し、レンズ75から距離d2にd2≒f1+f2となるように配置される。そのように結像されるベッセルビーム180の長さlは、l=L/Mに等しく、ここで、Mは、倍率であり、本明細書ではM=f1/f2である。f2=200mmであり、対物レンズが×20でf2=10mmである場合、屈折率n=1.5の材料の塊内で長さl=0.9mmが得られる(又は空気中では0.6mm)。入射ビームの直径は、Dで示される。装置により生成される放射が光軸を横切る際の角度は、βで示される。
【0063】
図12Bは、縦軸におけるZ軸に沿った距離の関数としての、及びまた横軸における光軸70に対する半径方向の距離Rの関数としての、図12Aの装置により得られる結像ビーム180の空間的な強度分布を示す。
【0064】
図13Aは、ベッセルビームを形成する光学装置の別の例を示し、アキシコンの角度は、結像ベッセルビームの長さを調整するために変更されている。この例において、アキシコンは、2*αに等しい角度を提示する。入射ビームの直径は、ここで、2*Dである。したがって、角度βが得られ、これは、値βMIN~別の値βMAXに含まれる値を有する。図12Bと同様に、図13Bは、縦軸におけるZ軸に沿った距離の関数としての、及びまた横軸における光軸70に対する半径方向の距離Rの関数としての、図13Aの装置で得られる結像ビーム180の強度分布を示す。図13Bでは、図12Bと比較して光軸に横方向により集中した空間分布がわかる。
【0065】
図12B及び13Bに示されるシミュレーションサンプルでは、フェムト秒パルスは、10μJのエネルギーを有し、焦点距離は、f1=200mm、f2=10mmである。図12Aの装置の場合、α=1度、D=3.6mmである。図13A~13Bの場合、α=2度、D=7.2mmである。
【0066】
図14は、フェムト秒パルスバーストにより堆積されるエネルギー密度F(J/cm2)の、図14Aでは横方向の(すなわち図14において定義されるX軸に沿った半径方向の)増幅と、また図14Bでは縦方向の(Z軸に沿った)増幅とを可視化するために、図12B及び13Bに示される像の断面の表現を示す。
【0067】
図13Bで得られたベッセルビーム184は、図12Bで得られたベッセルビーム183と比較して光軸に対して半径方向により狭く見える。それに対して、2つのビームの縦方向の範囲及びエネルギー密度は、図14Bと同様に見える。
【0068】
図15は、ビーム成形の異なる条件で得られる異なる顕微鏡画像を示す。
【0069】
図15において見られるすべての場合において、フェムト秒パルス(200~800fsのパルス持続時間)は、60μJのエネルギーを有し、同じ材料(ソーダ石灰ガラス)が使用されている。サンプルに対する相対的変位の速度及びレーザ周波数により、2つの連続するパルス間の間隔は、10μmとなる。図15に示される3つの視覚化方法は、それぞれ以下に対応する。
段1):従来の光学顕微鏡。この方法では、材料の亀裂、欠陥及び色のついた中心の視覚化が可能となる。
段2):位相差顕微鏡。この方法では、屈折率の変更に関連付けられる材料の改質の可視化(光学顕微鏡では見えない)が可能となる。
段3):交差偏光顕微鏡。この方法では、改質領域の周囲に誘導された応力の分布の可視化が可能となる。
【0070】
異なる例示的な実施形態が可視化される。
列a):標準的ベッセルビーム。このビームは、図9に示される装置により得られ、角度β=6.7°である。
列b):バーストモードの標準的ベッセルビームであり、1バースト当たり4パルス、バースト中の各パルスは、同じバーストの別のパルスから25nsの時間間隔だけ分離される。
列c):図13に示される装置により得られる狭いベッセルビームであり、角度β=13°であり、b)の場合と同じバーストモード。
【0071】
a)及びb)の場合、光学顕微鏡で観察可能な改質が非常にわずかであり、c)の場合のみマイクロクラックが見え、したがって、この場合にはエネルギーの局所化が十分である。位相差顕微鏡により、a)の場合は、材料の屈折率の変化も生じさせていないことが明らかとなる。それに対して、バーストモードの使用により、屈折率の強い変化を得るのに十分にエネルギーを局所化することが可能となる。c)の場合、破壊の存在によって光が散乱し、鮮鋭な画像を得ることができない。交差偏光顕微鏡も、c)の場合には改質がわからず、b)の場合には、ビームにより影響を受ける領域の周囲に局所的に誘導される応力の存在と、c)の場合には、誘導された破壊の周囲のより広い領域の存在とが確認される。
【0072】
したがって、ビームの空間分割、バーストモード及びベッセルビーム空間成形の最適な調整により、誘導される応力領域を最小限にしながら破壊の開始を可能にするエネルギー堆積の条件を規定することが可能となる。
【0073】
図16は、空間分割装置の別の実施形態を示す。この装置は、アクティブ又はパッシブ回折光学素子90と、アキシコン74とを使用する。回折光学素子90は、少なくとも2つ又は幾つかのスポットを直接生成することができる。回折光学素子90は、例えば、位相マスクを含み、それによってレーザビーム100の空間分割を得ることができる。回折光学素子90は、アキシコン74の下流に設置される。アキシコン74により、ベッセルビームを生成することが可能となる。図16のシステムは、したがって、相互に間隔dxだけ分離され、相互に平行に延びる2つのベッセルビーム101、102を生成できる。有利には、位相マスクは、回転ステージ上に設置され、これによって位相マスクを所定の切断軌道に応じて自動的に方向付けることができる。位相マスク90の向きにより、分割ビーム101、102の向きを変更し、したがって材料中の微小破壊の向きを決定することが可能となる。したがって、マイロクラックは、所望の切断方向に整列される。このアクティブ装置により、非結晶質及び結晶質又は複屈折結晶材料の両方とも湾曲した軌道(曲率半径は、1mm~無限に含まれる)に沿った切断が可能となる。
【0074】
位相マスク90の一例が図17に正面図で示されている。この位相マスク90は、2つの部分に分割される。例えば、位相マスクは、0に等しい均一な位相を有する半分、πに等しい均一な位相を有する残りの半分を含む。位相マスクの2つの部分を分離する線は、レーザビーム100の光軸70に対して横方向に配置される。図17Bは、縦軸ではZ軸の関数として、また横軸では光軸70に対する半径方向の距離Rの関数として、図16のような装置及び図17Aの位相マスクを用いて得られた2つのビーム181、182の強度分布を示す。
【0075】
回折光学素子90の別の例が図18に正面図で示されている。この回折光学素子90は、パッシブ位相マスク又は空間光変調器(SLM)型のアクティブ素子によって製作され得る。図18Bは、縦軸では光軸Zの関数として、また横軸では光軸70に対する半径方向の距離Rの関数として、図16のような装置及び図18Aの位相マスクを用いて得られた2つのビーム181、182の強度分布を示す。
【0076】
この方法は、所望の切断線に接しながら、次々に配置される微小破壊を生成することができる。一般に、分離は、自発的である。分離が直接的又は自発的でない場合、この方法の変形形態は、部品の保持されることが望まれない側に、微小破壊に対して横方向にオフセットされた別のレーザビームを切断軌道に対して1ミリメートル未満の距離にわたって当てることを含む。この別のレーザビームは、材料の微小破壊及び追加の切断なしにわずかな熱応力をもたらすように異なるレーザ特性を有する。その目的のために、別のレーザビームは、アブレーション閾値より低いエネルギーを有し、シングルパルスモードであり、バーストモードではなく、より高い周波数で動作できる。この追加のステップにより、切断部を誘電又は半導体材料の板から接触せずに分離できる。
【0077】
本開示の方法は、特に透明な非結晶質又は結晶質の鉱物誘電材料、例えば化学強化されたガラス、標準的なガラス若しくはサファイアの切断、又は半導体材料、例えばシリコン若しくはゲルマニウムの切断に適用される。透明とは、レーザ波長に対して透過性を有することを意味する。鉱物とは、非有機及び非金属を意味する。被切断材料は、補強/強化されたもの(圧縮応力又は厚さの可変応力プロファイルを有する)又は通常のもの(圧縮応力なし)であり得る。以下の材料が非網羅的且つ非限定的に挙げられる。
- 携帯電話又は電子タブレットスクリーンの保護(例えば、Coring社のGorillaガラス、旭硝子のドラゴントレイル、又はSchott社のXensation)又は高解像度フラットディスプレイスクリーンの分野で使用される強化ソーダ石灰ガラス。幾つかのGorillaの相違は、化学強化のための厚さ(30~50μmのDOL(圧縮応力層の厚さ))、ガラスの厚さ並びにその機械的強度及び傷つき耐性の関数として存在する。
- 家電用強化ソーダ石灰ガラス(Schott社のFlat Glass、厚さ1mm超)
- 建物及び建築分野で使用するソーダ石灰ガラス
- 眼科用光学ガラスのためのほうけい酸ガラス
- UV光学ガラスのための溶融シリカ、石英、フッ化ガラス
- 中赤外線光学ガラス用カルコゲン化物ガラス
- LED基板、スマートエレクトロニクスのCCDセンサ用保護ガラス、時計の可動部品又はケーシング用保護ガラスとして使用されるサファイア
- ガラスの2層間に設けられたプラスチック又は接着フィルムを含む多層ラミネートガラス。
【0078】
より詳細には、本発明は、以下の分野で使用される。
- タッチスクリーンの有無を問わない携帯用電子機器(携帯電話、スマートフォン、電子タブレット)のための保護ガラスとして使用される強化ソーダ石灰ガラスの曲線切断
- 高解像度フラットディスプレイスクリーン(TV、ディスプレイ、コンピュータ)のための強化ソーダガラスの直線切断
- 軍事用地上表示システムにおける保護ガラスとして使用される強化ガラスの曲線切断
- 高電子機器又は電子機器で使用されるCCDセンサ用保護ガラス又はサファイア、例えば携帯電話の写真/ビデオレンズの保護ガラスの曲線切断
- ほうけい酸ガラス又は溶融シリカ性の光学コンポーネントの曲線切断
- 厚さ30~40μmの超薄型ガラスの切断
- 医療用ガラス管の切断
- 高電子機器の青色LED用基板として使用されるサファイアのダイシング
- ドープ若しくは非ドープYAG結晶又はフォトニックコンポーネント用ダイヤモンドの切断
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A-6B】
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B