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特許7190638ヒドロクロロフルオロオレフィンと鉱油をベースにした組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ヒドロクロロフルオロオレフィンと鉱油をベースにした組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20221209BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20221209BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20221209BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221209BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20221209BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
C09K5/04 C
C10M101/02
F25B1/00 396Z
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020511444
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 FR2018052188
(87)【国際公開番号】W WO2019053355
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】1758429
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド,ウィザム
(72)【発明者】
【氏名】キンドレール,パスカル
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/112363(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171264(WO,A1)
【文献】特開2015-117923(JP,A)
【文献】特表2014-523928(JP,A)
【文献】特表2010-531926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C10M 101/02
F25B 1/00
C10N 30/00
C10N 30/08
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、空気とを含み、この空気の比率が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を越え(0重量%は含まない)かつ1重量未満(1重量%は含まない)である組成物の熱伝達での使用であって、上記組成物が100℃で以上の高い平均温度で少なくとも1回の状態変更を受けたものであることを特徴とする使用。
【請求項2】
上記組成物が200ら100℃の平均温度で少なくとも1回の状態変更を受けたものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記組成物が安定剤を含まない請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が基本的に少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも1種のミネラルオイルと、空気みで構成され、空気の重量割合が少なくとも1種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を越え(0重量%は含まない)かつ1重量未満(1重量%は含まない)である請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
組成物中の空気の重量割合が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0.05重量%~1重量%(1重量%は含まない)である請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
組成物中の空気の重量割合が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0重量%(0重量%は含まない)~0.6重量である請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
用。
【請求項7】
組成物中の空気の重量割合が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0.05重量%~0.4重量%である請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3,2-テトラフルオロクロロ-1-プロペン、ジクロトリフルオロプロペンまたはこれらの組み合の中から選択される請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンがトランス形の重量割合が高く、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの総重量に対して90重量%以上である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
ミネラルオイルの重量割合が組成物の総重量に対して2重量%~70重量%である請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
蒸気圧縮システムまたは機械的または電気的エネルギーの生産機械における請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
蒸気圧縮システムが空調システム、冷蔵ステム、冷凍システムまたはヒートポンプシステムである請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達組成物として使用するのに適したヒドロクロロフルオロオレフィンと鉱油と空気とをベースにした安定な組成物に関するものである。
【0002】
ヒドロクロロフルオロオレフィンは地球温暖化係数(GWP)が低い化合物(製品)である。例えば、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)は冷却、エアコン、空調機器(特に遠心圧縮機)、発電(有機ランキンサイクル)および高温ヒートポンプの用途における熱伝達流体として使用するのに非常に好ましい熱力学特性と熱物理特性とを有している。
【0003】
空調用途では多くの場合、HCFO-1233zdEの蒸発器中での圧力は大気圧より低い。そのため空気、特に酸素の設備中への進入が促進される。ヒートポンプの場合には空気の進入はシステム停止中に起こる。さらに、空気の進入は設備への充填時またはメンテナンス時に熱伝達流体を使用している任意の設備で生じる。
【0004】
空気がHCFO-1233zdE中に混合されて存在していると、HCFO-1233zdEの異性化反応が促進されて、異性体HCFO-1233zdZ(シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)の形成が促進さる。このシス異性体はHCFO-1233zdEとは極めて異なる熱力学特性を有し、設備の性能品質にマイナスの影響を与える。
【0005】
HCFO-1233zdEのHCFO-1233zdZへの異性化を防止するためにHCFO-1233zdEに安定剤を添加することができる。
【0006】
例えば[特許文献1](フランス特許第FR3033791号公報)にはトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンへの異性化を防止するためにアルケン化合物、特に2-メチルブテ-2-エン(2-methylbut-2-ene)と3-メチルブテ-1-エン(3-methylbut-1-ene)の使用を開示している。
【0007】
工業的に最も一般的に使用されている冷凍機械は液体の冷媒流体の蒸発による冷却をベースにしている。この流体は蒸発後に圧縮され、凝縮され、最後に膨張されてサイクルが完了する。
【0008】
冷凍圧縮機としては往復型、スクロール型、遠心型またはスクリュー型が使用できる。一般には可動部品の摩耗や発熱を減し、シール(密封)を完成し、可動部品を腐食から保護するために圧縮機を内部潤滑することが必須である。
【0009】
潤滑剤としてはポリオールエステルのような酸素化オイルよりも安価な鉱物油が使用できる。
【0010】
[特許文献2](米国特許第US8454853号明細書)には1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと鉱物油の混和性と、対応混合物の冷媒組成物としての使用とが記載されている。
【0011】
冷凍設備では圧縮機およびシステム全体でオイルが冷却剤(例えばヒドロクロロフルオロオレフィン)と直接接触する。この冷媒/オイルの組み合わせは設備の熱応力とは無関係に安定でなければならず、さらに、不純物の存在、進入した空気および水の存在に対しても安定でなければならない。
【0012】
上記オイルはコンプレッサの使用条件とは無関係にコンプレッサの軸受を潤滑する必要がある。この場合、冷媒/オイル混合物の粘度が潤滑性能の指標になる。冷媒はオイル中に溶解して粘度が低下する。従って、オイルの選択に当たってはオイル/冷媒対の溶解度と粘度を測定して使用条件の関数で混合物の粘度の変化を決定する。この測定によって運転温度に応じて使用する最適なオイルの粘度を選択できる。
【0013】
しかし、化合物は設備の運転中に分解・劣化し、別の化合物が生じるため、溶解度および粘度の測定はもはや有効ではなくなり、オイルは潤滑の役割を失うリスクがある。すなわち、冷媒およびオイルの異性化または分解が起きると、設備の性能品質が劣化し、潤滑剤の粘度が規定範囲外に変化し、潤滑剤の性能品質も同様に劣化する。例えば、オイルの劣化とその結果生じる小さな粒子が圧縮機に有害なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】フランス特許第FR3033791号公報
【文献】米国特許第US8454853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、長時間安定、特に高温で安定で経済的な低GWPの冷媒/潤滑油混合物を提供するという真のニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイル(鉱油)と、空気とを含む組成物であって、空気の重量比率が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して1重量%以下である組成物に関するものである。
【0017】
本発明の一つの実施形態では上記組成物は安定化剤を含まない。
【0018】
本発明の一つの実施形態では、上記組成物は基本的に少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、空気とから成り、好ましくは、少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、空気のみから成り、空気の重量割合は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ1重量%以下である。
【0019】
本発明の一つの実施形態では、組成物中の空気の重量割合は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0.05重量%以上且つ1重量%未満(1重量%は含まない)、好ましくは0.1重量%以上且つ1重量%未満(1重量%は含まない)である。
【0020】
本発明の一つの実施形態では、組成物中の空気の重量割合は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ0.6重量%以下、好ましくは0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ0.4重量%以下である。
【0021】
本発明の一つの実施形態では、組成物中の空気の重量割合は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気の混合物の重量に対して0.05重量%以上且つ0.4重量%以下、好ましくは0.1重量%以上且つ0.4重量%以下である。
【0022】
本発明の一つの実施形態では、少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、特にトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3,2-テトラフルオロクロロ-1-プロペン、ジクロロトリフルオロプロペンまたはこれらの組み合わせの中から選択される。
【0023】
本発明の一つの実施形態では、少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0024】
本発明の一つの実施形態では、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの重量割合は1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの総重量に対して90重量%以上がトランス形であり、好ましくは、95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、より好ましくは99.9重量%以上がトランス形である。
【0025】
本発明の一つの実施形態では、鉱油の重量割合は組成物の総重量に対して2重量%~70重量%である。
【0026】
本発明はさらに、上記組成物の熱伝達での使用にも関するものであり、この場合、上記組成物は約100以上の高い平均温度での状態変化(changement d'etat)を少なくとも一回受ける(状態変化に曝らされる)。
【0027】
本発明の一つの実施形態では、上記組成物は約100℃~約200℃の平均温度で少なくとも1回の状態変更を受ける。
【0028】
本発明の一つの実施形態では、本発明は、蒸気圧縮システムまたは機械的または電気的エネルギーの生産機械、好ましくは発電機械での上記使用にも関するものである。
【0029】
本発明の一つの実施形態では、上記の蒸気圧縮システムは空調システム、冷蔵システム、冷凍システムまたはヒートポンプシステムである。
【0030】
本発明はさらに、伝熱組成物として上記組成物を含む回路を有する設備(installation)にも関するものである。
【0031】
本発明の一つの実施形態では、上記設備はヒートポンプによる加熱を行う可動または据置き形の設備、空調設備、冷蔵設備、冷凍設備および機械的または電気的エネルギーを生成するための設備、好ましくは発電設備の中から選択される。
【0032】
本発明はさらに、熱伝達組成物を含む蒸気圧縮システムによって流体または物体を加熱または冷却する方法にも関し、この方法は熱伝達組成物の蒸発、熱伝達組成物の圧縮、熱伝達組成物の凝縮および熱伝達組成物の膨張を順次含み、熱伝達組成物は上記組成物である。
【0033】
本発明はさらに、伝熱組成物を含む回路を有する機械を用いて機械的または電気的エネルギーを生成するための方法、好ましくは発電方法にも関するものであり、この方法は熱伝達組成物の蒸発、機械的または電気的エネルギー、好ましくは電気的エネルギーを発生させるための熱伝達組成物のタービン中での膨張、熱伝達組成物の凝縮および熱伝達組成物の圧縮を連続的に有し、熱伝達組成物は上記組成物である。
【0034】
本発明は上記ニーズを満足させることができる。特に、本発明は100℃~200℃の温度で実質的に長期にわたって優れた熱安定性を有するヒドロクロロフルオロオレフィンと、鉱油と、空気とを含む組成物を提供する。
【0035】
これは、ヒドロクロロフルオロオレフィンの劣化、特に異性化を減らし、さらには防止する鉱油を使用することと、鉱物油の劣化を制限または防止するための特定重量割合の空気の存在との両方によって達成される。
【0036】
本発明の特定のいくつかの実施形態では、本発明は下記の有利な特徴を一つ、好ましくは複数有する:
1)本発明組成物は安定剤を添加せずに保存し、使用できる。
2)本発明組成物は複雑でなく、従って、酸素を含む合成オイルよりも安価に製造できる。
3)本発明組成物は潤滑剤として鉱油を用いて運転されている既存の施設で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明が以下の説明に限定されるものではない。
【0038】
本発明において「HCFO-1233zd」は、シス形態またはトランス形態であるかに関係なしに、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを示す。「HCFO-1233zdZ」および「HCFO-1233zdE」という用語はそれぞれシスおよびトランスの1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを示す。従って、「HCFO-1233zd」という用語はHCFO-1233zdZ、HCFO-1233zdEおよびこれら2つの異性体形態の任意割合の全ての混合物をカバーする。
【0039】
空気は約78体積%の窒素と、約21体積%の酸素と、1体積%以下のアルゴンおよび二酸化炭素を含む他の種々の成分とを含む。上記含有量は乾燥空気を参照して説明される。空気は全空気量に対して0.001体積%~5体積%で変化する水蒸気をさらに含むことができる。
【0040】
特に明記しない限り、本明細書で化合物の比率重量パーセントで与えられる。
【0041】
特に断らない限り、本明細書で範囲の末端値はその範囲に含まれる。
【0042】
ヒドロクロロフルオロオレフィン
本発明では少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンを使用する。
【0043】
「ヒドロクロロフルオロオレフィン」という用語は、一つまたは複数の塩素原子と一つまたは複数のフッ素原子とで置換され、ただし、少なくとも1つの水素原子は置換されない不飽和炭化水素化合物を意味する。
【0044】
ヒドロクロロフルオロオレフィンは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3,2-テトラフルオロクロロ-1-プロペン、ジクロトリフルオロプロペンまたはこれらの組み合わせであるのが有利である。
【0045】
ヒドロクロロフルオロオレフィンは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであるのが好ましい。
【0046】
ヒドロクロロフルオロオレフィンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである場合、それはトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンまたはこれらの混合物にすることができる。
【0047】
本発明の有利な実施形態では、ヒドロクロロフルオロオレフィンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンで、この1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンはトランス形の重量割合が高いもの、すなわち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの総重量(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとシス-1-クロロ3,3,3-トリフルオロプロペンとの和)に対してトランス形の重量割合が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、好ましくは98重量%以上、好ましくは99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、よりさらに好ましくは99.9重量%以上である。
【0048】
ミネラルオイル(鉱油)
本発明では鉱油も使用する。
この鉱油は石油精製の副産物であるのが好ましい。
鉱油はパラフィン(直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素)、ナフテン(環状パラフィン)、芳香族化合物(単結合を二重結合に変えたことによって特徴付けられる1つまたは複数のの環を含む不飽和環状炭化水素)および非炭化水素化合物を含むことができる。
【0049】
この鉱油化合物は鉱油中に必ずしも遊離状態で存在する必要はない。多くの場合、パラフィン鎖がナフテンまたは芳香族構造に取り付けられている。同様に、パラフィン鎖が結合しているナフテン環は芳香族構造に結合することができる。
【0050】
こうした特性のため、多くの場合、鉱油は炭素の種類を分析することによって記述される。この分析ではパラフィン鎖、ナフテン構造および芳香族環構造中の炭素原子数が決定され、合計の割合として表される。従って、パラフィン形態を有する炭素原子の割合%CPは遊離パラフィンだけでなく、芳香族環またはナフテン構造に取り付けられたパラフィン鎖を含む。同様に、ナフテン構造中の炭素原子の割合%CNは遊離ナフテンの炭素原子数と芳香環に結合したナフテン環の炭素原子数とを含む。%CAは芳香族環の炭素を表す。この炭素分析は潤滑剤(またはオイル)の基本的構造を記述し、それから潤滑剤の一定数の物理的性質を予測できる。
【0051】
ナフテン油またはパラフィン油としての鉱油の従来の分類ではオイル中のパラフィン系またはナフテン系分子の数が参照される。パラフィン油はパラフィンワックスを大きな割合で含むので、ナフテン系オイルよりも高い粘度指数と流動点とを有する。
【0052】
本発明の有利な実施形態では、本発明で使用される鉱油はISO規格3104に従って測定した40℃での平均動粘度が1~1000cSt(センチストーク)、好ましくは10~300cStである。ISO規格3448は粘度に基づいた工業用液体潤滑油の分類システムを提供するものである。
【0053】
本発明の特定実施形態では、鉱油はナフテン系オイルで、その%CPは50%以下であるのが好ましい。このオイルのナフテン油留分のナフテン環は主C5~C7ナフテン環中にあるのが有利である。
【0054】
組成物
本発明は、少なくとも1種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、空気とを含む組成物に関するものである。本発明では空気が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ1重量%未満(1重量%は含まない)の割合で組成物中に存在する。
【0055】
空気の割合は使用中、例えば組成物が循環する回路中での組成物を意味すると理解される。
【0056】
いくつかの実施形態では、1種のみのヒドロクロロフルオロオレフィンが組成物中、好ましくは上記組成物中に存在する。従って、ヒドロクロロフルオロオレフィンとして(不純物として存在する可能性のある他のヒドロクロロフルオロオレフィンを含まない)(上記のトランス形を主とする)HCFO-1233zdのみを含む組成物が好ましい(総質量中の不純物は全組成物に対して1重量%以下または0.5重量%以下または0.1重量%以下)。
【0057】
あるいは、組成物中で互いに異なったヒドロクロロフルオロオレフィンの混合物を使用することができる。
【0058】
本発明組成物は鉱油以外の安定剤を含まないのが有利である。
【0059】
「安定剤」という用語は組成物中の成分、特にヒドロクロロフルオロオレフィンまたは鉱油の分解を制限または無くす、例えばヒドロクロロフルオロオレフィンの異性化を制限または無くす全ての化合物を意味する。
【0060】
本発明の一つの実施形態では、組成物は基本的に少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気と混合物の重量に対して重量割合が0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ1重量%未満(1重量%は含まない)である空気とから成る。
【0061】
本発明の別の実施形態では、本発明組成物は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、ヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)且つ1重量%未満(1重量%は含まない)の重量割合の空気とのみから成る。
【0062】
本発明のいくつかの有利な実施形態では、本発明組成物中の空気の重量比は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0.05重量%以上かつ1重量%未満(1重量%は含まない)、好ましくは0.1重量%以上かつ1重量%未満(1重量%は含まない)、より好ましくは0.2重量%以上かつ1重量%未満(1重量%は含まない)である。
【0063】
他の有利な実施形態では、組成物中の空気の重量比は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)かつ0.6重量%以下、特に0重量%を超え(0重量%は含まない)かつ0.4重量%以下、特に0.05重量%以上かつ0.4重量%以下、好ましくは0.1重量%以上かつ0.4重量%以下である。
【0064】
他の実施形態では、組成物中に存在する空気の比率は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)かつ0.05重量%以下、または、0.05重量%以上かつ0.1重量%以下、または、0.1重量%以上かつ0.15重量%以下、または、0.15重量%以上かつ0.2重量%以下、または、0.2重量%以上かつ0.25重量%以下、または、0.25重量%以上かつ0.3重量%以下、または、0.3重量%以上かつ0.35重量%以下、または0.35重量%以上かつ0.4重量%以下、または、0.4重量%以上かつ0.45重量%以下、または、0.45重量%以上かつ0.5重量%以下、または0.5重量%以上かつ0.55重量%以下、または、0.55重量%以上かつ0.6重量%以下、または、0.6重量%以上かつ0.7重量%以下、0.7重量%以上かつ0.8重量%以下、または、0.8重量%以上かつ0.9重量%以下、または、0.9重量%以上かつ1重量%未満(0重量%は含まない)である。
【0065】
空気の重量割合はガスクロマトグラフィーによって決定される。運転中のシステム中を流れる組成物の空気の質量分率の測定は設備中の組成物の気相サンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーでサンプルを分析することで行われる。
【0066】
本発明の一つの実施形態では、組成物中の鉱油の重量割合は組成物の総重量に対して2重量%~70重量%である。他の実施形態では、鉱油の重量割合は組成物の総重量に対して1~5重量%、または、5~10重量%、または、10~15重量%、または、15~20重量%、または、20~25重量%、または、25~30重量%、または、30~35重量%、または、35~40重量%、または、40~45重量%、または、45~50重量%、または、50~55重量%、または、55~60重量%、または、60~65重量%、65~70重量%、または、70~75重量%、または、75~80重量%、または、80~85重量%、または、85~90重量%、または90~95重量%、または、95~99重量%である。
【0067】
ヒドロクロロフルオロオレフィンの重量割合は組成物の総重量に対して1~5重量%、または、5~10重量%、または、10~15重量%、または、15~20重量%、または、20~25重量%、または、25~30重量%、または、30~35重量%、または、35~40重量%、または、40~45重量%、または、45~50重量%、または、50~55重量%、または、55~60重量%、または、60~65重量%、または、65~70%重量%、または、70~75重量%、または、75~80重量%、または、80~85重量%、または、85~90重量%、または、90%~95%重量%、または、95から99重量%である。
【0068】
本発明の実施形態では、組成物を少なくとも1種の添加剤、好ましくはナノ粒子、界面活性剤、トレーサー剤、蛍光剤、臭化剤および可溶化剤から選択される添加剤をさらに含む。
【0069】
本発明の特定実施形態では、本発明組成物は基本的に少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと、少なくとも一種のミネラルオイルと、空気と、ナノ粒子、界面活性剤、トレーサー剤、蛍光剤、臭化剤および可溶化剤から選択される1種または複数の以上の添加剤とから成り、好ましくはこれらのみから成り、空気の重量割合は少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンと空気との混合物の重量に対して0重量%を超え(0重量%は含まない)かつ1重量%以下である。
【0070】
ナノ粒子としては、特にカーボンナノ粒子、金属酸化物、好ましくは銅またはアルミニウムの酸化物、二酸化チタンΤiΟ2、アルミナAl23、二硫化モリブデンMoS2またはこれらの組み合わせを使用できる。
【0071】
(検出可能な)トレーサー剤としては、重水素化ハイドロフルオロカーボン、重水素化炭化水素、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭素化物、ヨウ素化物、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、亜酸化窒素およびそれらの組み合わせが挙げさる。トレーサー剤は本発明のヒドロクロロフルオロオレフィンとは異なるものである。
【0072】
可溶化剤としては炭化水素、ジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、アミド、ケトン、ニトリル、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリールエーテル、フルオロエーテルおよび1,1,1-トリフルオロアルカンを挙げることができる。可溶化剤は本発明のヒドロクロロフルオロオレフィンとは異なるものである。
【0073】
蛍光剤としては、ナフタルイミド、ペリレン、クマリン、アントラセン、フォナントラセン、キサンテン、チオキサンテン、ナフトキサンテン、フルオレセインおよびこれらの誘導体および組み合わせを挙げることができる。
【0074】
臭化剤としては、アルキルアクリレート、アリールアクリレート、アクリル酸、アクリルエステル、アルキルエーテル、アルキルエステル類、アルキン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、アリールイソシアネート、アルカン酸、アミン類、ノルボルネン誘導体、ノルボルネン、シクロヘキセン、芳香族複素環化合物、アスカリドール、o-メトキシ(メチル)フェノールおよびこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0075】
使用
本発明の一つの対象は上記組成物の熱伝達のための使用であって、上記組成物が100度以上の高い平均温度、好ましくは約100℃~約200℃の平均温度で少なくとも1回の状態変化を受けたものである使用にある。本発明の特定実施形態では、上記組成物は約100℃~約110℃、または、約110℃~約120℃、または、約120℃~約130℃、または、約130℃から約140℃、または、約140℃~約150℃、または、約150℃~約160℃、または、約160℃~約170℃、または、約170℃~約180℃、または、約180℃~約200℃の平均温度で少なくとも1回の状態変更を受ける。
【0076】
「状態変化(changement d'etat)」という用語は凝縮すなわち組成物のガス状態から液体状態への通過か、蒸発すなわち組成物の液体状態から気体状態への通路を意味する。
【0077】
「状態変化の平均温度」という用語は、温度が一定である場合には状態変化の温度を意味し、状態変化の温度が一定でない場合には状態変化の開始温度と状態変化の終わりの温度との算術平均を意味する。
【0078】
本発明の一つの実施形態では、上記組成物が蒸気圧縮システムで使用される。
【0079】
本発明はさらに、本発明組成物を熱伝達組成物としての含む蒸気圧縮システムを有する設備の使用に基づく熱伝達方法にも関するものである。この熱伝達方法は流体または物体の加熱または冷却方法にすることができる。
【0080】
「熱伝達組成物」という用語は熱伝達流体と、意図する用途において熱伝達流体ではない1種または複数の任意に添加剤を含む組成物を意味する。
【0081】
「伝熱流体」という用語は蒸気圧回路内での低温、低圧で蒸発することによって熱を吸収し、高温、高圧で凝縮することによって熱を放出する流体を意味する。一般に、熱伝達流体は単一の熱伝達化合物であるか、2つまたは3つ以上の熱伝達化合物を含むことができる。
【0082】
「熱伝達化合物」とは蒸気圧縮回路内で低温、低圧で蒸発することによって熱を吸収し、高温高圧で凝縮によって熱を放出できる化合物を意味する。
【0083】
本発明の一つの実施形態では、蒸気圧縮システムは下記である:
-空調システム、または
-冷蔵システム、または
-冷凍システム、または
-ヒートポンプシステム
【0084】
本発明の別の実施形態では、上記組成物が機械的または電気的エネルギーの製造装置で使用される。すなわち、本発明組成物は機械的仕事または電気の生成プロセス、特に有機ランキンサイクルによる発電プロセスで使用することができる。
【0085】
上記組成物が受ける状態変化の平均温度が高くなる程、許容空気の最大閾値量が低くなるということが発見された。従って、使用中に上記組成物が受ける少なくとも1回の状態変更の平均温度が相対的に高い時には、上記組成物中の空気の存在をさらに制限するのが有利である。
【0086】
設備およびプロセス
本発明の一つの対象は伝熱組成物として上記組成物を含む回路を有する熱伝達設備にある。上記伝熱組成物を含む回路は例えば蒸気圧縮回路である。
【0087】
本発明の一つの実施形態では、上記設備は可動式または据付け式の冷蔵、加熱(ヒートポンプ)、エアコン、冷凍および機械的または電気的エネルギーを生成するための機械の中から選択される。
【0088】
特に、ヒートポンプの場合には加熱される物体または流体(一般には空気であり、場合によっては1つまたは複数の任意に製品、物体または有機体)が室内または車内(可動設備の場合)にある。好ましい実施形態は空調設備であり、この場合には冷却される流体または物体(一般には空気であり、場合によっては1つまたは複数の任意に製品、物体または有機体)が室内または車内(可動設備の場合)にある。上記設備は冷蔵または冷凍設備(凍結プラン)にすることもできる。この場合には冷却される流体または物体は一般には室内またはコンテナー中の空気およびにその中に配置された1つまたは複数の製品、物体または有機体である。
【0089】
本発明のさらに別の対象は上記熱伝達組成物を含む蒸気圧縮システムによって流体または物体を加熱または冷却する方法にあり、この方法は上記熱伝達組成物の蒸発、上記熱伝達組成物の圧縮、上記熱伝達組成物の凝縮および上記熱伝達組成物の膨張を連続的に有する。
【0090】
本発明のさらに別の対象は上記熱伝達組成物を含む回路を有する機械によっての機械的作業を行うか、電気を生産する方法にあり、この方法は上記熱伝達組成物の蒸発、機械的または電気的エネルギーを生成する、好ましくは発電のためにタービン中での上記熱伝達組成物の膨張、上記熱伝達組成物の凝縮および上記熱伝達組成物の圧縮を連続的に有する。
【0091】
伝熱組成物を含む蒸気圧縮回路は少なくとも一回の蒸発、一回の圧縮、一回の凝縮および一回の膨張と、これら要素間で熱伝達流体を輸送するラインとを有している。蒸発および凝縮には熱交換器を有し、この熱交換器を熱伝達組成物と他の流体または物体との間で熱交換を可能にする。
【0092】
圧縮機としては特に1段または多段の遠心圧縮機またはミニ遠心圧縮機を使用することができる。ロータリー圧縮機、ピストン圧縮機またはスクリュー圧縮機を用いることもできる。圧縮機は電動機またはガスタービン(例えば、モバイル車両の用途では排気ガスが供給される)または伝動装置によって駆動することができる。
【0093】
遠心圧縮機の特徴は熱伝達組成物を半径方向に加速させる回転要素を使用する点にあり、典型的にはエンクロージャ内に収容された少なくとも一つのローターとディフューザとを有する。伝熱組成物はローターの中心に導入され、ロータの周囲に流れる間に加速される。従って、ロータ中で静圧が上昇し、ディフューザの所で速度が静圧の増加に変換される。各ロータ/ディフューザ組立体が圧縮機の1ステージを構成する。遠心圧縮機は被処理流体の所望する最終圧力および容積に応じて1~12段を含むことができる。
【0094】
圧縮比は入口における上記組成物の絶対圧に対する出口における上記伝熱組成物の絶対圧の比として定義される。
【0095】
大型遠心圧縮機用の回転速度は3000~7000回転/毎分の範囲にある。小型遠心圧縮機(ミニ遠心圧縮機)は一般に40000~70000回転/毎分の回転速度で運転され、小型のローター(一般に0.15m以下)を有する。
【0096】
圧縮機の効率を改善し、エネルギーコストを削減する(1段ロータと比較して)ために多段ロータを使用することができる。二段システムではローターの第一段の出力が第2ロータの入力に供給される。これら2つのロータは単一の軸に取り付けることができる。各ステージで流体の圧縮率を約1対4、すなわち出力の絶対圧力を入口の絶対圧力の約4倍にすることができる。2段遠心圧縮機の例、特に自動車用の例は米国特許第US5065990号明細書および米国特許第US5363674号明細書に記載されている。
【0097】
遠心圧縮機は電動機またはガスタービン(例えば、モバイル用途では自動車の排気ガス)によって駆動され、また伝動装置によって駆動することもできる。
【0098】
上記設備は電気を生成するためのタービンと膨張弁とのカップリングを含むことができる(ランキンサイクル)。
【0099】
上記設備は必要に応じてさらに、熱伝達組成物の回路と加熱または冷却される流体または物体との間で熱を伝熱するのに使用する少なくとも一つの流体回路を含むことができる。
【0100】
上記設備は必要に応じてさらに、同一または異なる熱伝達組成物を含む2つ(またはそれ以上)の蒸気圧縮回路を含むことができる。これらの蒸気圧縮回路は例えば一緒に結合することができる。
【0101】
上記蒸気圧縮回路は従来の蒸気圧縮サイクルに従って運転される。このサイクルは相対的に低圧力での液相(または液体/蒸気二相)から気相への上記熱伝達組成物の状態変化と、その後の相対的に高い圧力に達するまでの上記熱伝達組成物の圧縮と、相対的に高い圧力での気相から液相への上記熱伝達組成物の状態変化(凝縮)と、減圧とを有し、これらサイクルが繰返さる。
【0102】
冷房モードの場合には冷却される流体または物体からの熱は(直接または熱交換流体を介して間接的に)熱伝達組成物の蒸発時に周囲環境に比べて相対的に低い温度で熱伝達組成物によって吸収される。この冷却プロセスには空調プロセス(モバイル設備、例えば車両または固定設備)、冷蔵プロセス、冷凍プロセスまたは極低温プロセスが含まれる。
【0103】
加熱処理の場合には熱伝達組成物からの熱が熱伝達組成物の凝縮時に(直接または熱伝達流体を介して間接的に)加熱される流体または物体に周囲環境よりも相対的に高い温度で伝達される。この場合、熱の伝達を行うための設備は「ヒートポンプ」とよばれる。
【0104】
本発明の熱伝達組成物で使用するための熱交換器は任意タイプのものを使用でき、特に並流式の熱交換器、好ましくは向流式の熱交換器にすることができる。
【0105】
好ましい実施形態では、本発明の冷却プロセスおよび加熱プロセスとそれに対応する設備が凝縮器または蒸発器に対して向流式の熱交換器を含む。すなわち、本発明の熱伝達組成物は向流式の熱交換器に特に有効である。蒸発器と凝縮器の両方が向流式の熱交換器を備えているのが好ましい。
【0106】
本発明で「向流式の熱交換器」とは第1流体と第2流体との間で熱が交換される熱交換器であって、第1流体は熱交換器の入口で第2流体と交換器の出口で熱交換し、第1流体は熱交換器の出口で熱交換器の入口で第2流体と熱交換する熱交換器を意味する。
【0107】
例えば、向流式の熱交換器には第1流体の流れと第2流体の流れが反対方向であるか、ほぼ反対である装置が含まれる。本発明の意味では、向流傾向を有する交差モードで運転される熱交換器も向流式熱交換器に含まれる。
【0108】
「低温冷蔵」プロセスでは、伝熱組成物の蒸発器の入口温度は-45℃~-15℃、特に-40℃~-20℃、より好ましくは-35℃~-25C°、例えば約-30℃であるのが好ましく、凝縮器での熱伝達組成物の凝縮開始温度は25℃~80℃、特に30℃~60℃、より好ましくは35℃~55℃、例えば約40℃であるのが好ましい。
【0109】
「中温冷蔵」プロセスでは、伝熱組成物の蒸発器の入口温度は-20℃~10℃、特に-15℃~5℃、より好ましくは-10℃~0℃、例えば約-5℃であるのか好ましく、熱伝達組成物の凝縮器での凝縮開始温度は25℃~80℃、特に30℃~60℃、より好ましくは35℃~55℃、例えば約50℃でしるのが好ましい。このプロセスは冷蔵プロセスまたは空調プロセスにすることができる。
【0110】
「中温度加熱」プロセスでは、伝熱組成物の蒸発器の入口温度は-20℃~10℃、特に-15℃~5℃、より好ましくは0℃~-10℃、例えば約-5℃であるのが好ましく、熱伝達組成物の凝縮器の凝縮開始温度は25℃~80℃、特に30℃~60℃、より好ましくは35℃~55℃、例えば約50℃であるのが好ましい。
【0111】
「高温加熱」プロセスでは、伝熱組成物の蒸発器の入口温度は-20~90℃、特に10℃~90℃、より好ましくは50℃~90℃、例えば約80℃であるのが好ましく、熱伝達組成物の凝縮器での凝縮開始温度は70℃~160℃、特に90℃~150℃、より好ましくは110℃~140℃、例えば約135℃であるのが好ましい。
【0112】
本発明組成物は冷蔵輸送に特に有利である。
「冷蔵輸送」とは冷蔵スペース内に収容した生鮮食料品の任意の運動を意味する。生鮮食品の重要な部分は食品と医薬品である。
【0113】
冷蔵輸送はトラック、鉄道および船によって行うことができ、オプションとしてトラック、鉄道または船舶に適したマルチプラットフォームのコンテナーを使用することができる。
【0114】
冷蔵輸送での冷蔵空間の温度は-30℃~16℃の間である。トラック、鉄道またはコンテナーによる輸送時の冷媒の量は4~8kgで変化する。船舶設備では100~500kgの冷媒を収容できる。
【0115】
この用途で現在最も広く使用されている冷媒はR404Aである。
【0116】
冷蔵設備の運転温度は要求される冷蔵温度と外界の気候条件の関数である。同じ冷蔵設備で-30℃~16℃の間の広範囲の温度をカバーし、寒冷地でも熱帯でも運転できなければならない。
【0117】
蒸発温度の最も厳しい条件は-30℃である。
【実施例
【0118】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
種々の組成物の熱安定性を試験した。この熱安定性試験は「冷媒システム内で使用するための材料の化学的安定性を試験するために密封ガラスチューブ法」と題するASHRAE規格97-2007に従って行った。
組成物は下記のようにして調製した。
全てのチューブに真空下で下記の量をロードした:
5gのSuniso3GSオイルと、2gのHCFO-1233zdE
最後に、HCFO-1233zdEと空気との混合物に対する重量百分率で以下の組成比で空気を加えた。
【0119】
【0120】
調製直後の各組成物は元のオイの色に対応する着色をしていた。
各組成物を180℃で14日間放置した。
その後、ISO規格4630:2015に従ったガードナーカラースケール従って分光比色計で各組成物の色分析を行った。
観察された色の強度はオイルの劣化に比例する。事実、空気質量百分率が1%以上になるとこの劣化は黒色粒子の形成の原因にもなる。
結果を下記の表にまとめた。
【0121】
【0122】
ガードナースケール
ガードナー1: 淡黄色、
ガードナー2-5: 淡黄色、
ガードナー6~10: 濃い黄色、
ガードナー11~14: オレンジ、
ガードナー15-17: 非常に濃いオレンジ/ライトブラウン、
ガードナー18: ブラウン(茶色)。
【0123】
180℃で運転した場合、オイルの劣化は低く、HCFO-1233zdと、鉱油と、0.2重量%または0.4重量%の空気とを含む組成物は安定であることが分かった。
それとは対照的に、空気の重量割合が1重量%を超えた場合には、180℃の温度でのオイルの劣化が比較的大きい。