(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】正極活物質およびそれを備えた電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20221209BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221209BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221209BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221209BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20221209BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0565
(21)【出願番号】P 2019114780
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018165570
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
(72)【発明者】
【氏名】夏井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】内田 修平
(72)【発明者】
【氏名】辻田 卓司
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116927(JP,A)
【文献】特開2013-025887(JP,A)
【文献】特開2018-098161(JP,A)
【文献】特開2018-116784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物、および
前記リチウム複合酸化物の表面を被覆する被覆材
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第三の相
を含む多相混合物であり、
以下の数式(I)が充足され、
0.05≦積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)≦0.99 (I)
ここで、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、積分強度I
(43°-46°)に対する積分強度I
(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I
(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第一ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I
(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第二ピークの積分強度であり、かつ
前記被覆材は、10
6S/m以下の電子伝導率を有する、
正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、無機材料である、
正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物に対する前記被覆材の質量比が、0.2以下である、
正極活物質。
【請求項4】
請求項3に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物に対する前記被覆材の質量比が、0.01以上、かつ、0.1以下である、
正極活物質。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記被覆材が、0.1ナノメートル以上、かつ、10.0ナノメートル以下の厚みを有する、
正極活物質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、前記リチウム複合酸化物の前記表面の少なくとも一部と固溶体を形成している、
正極活物質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、酸化物または酸窒化物から形成される、
正極活物質。
【請求項8】
請求項7に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、組成式Li
aA
bO
cN
dで表される、
正極活物質。
ここで、
Aは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Si、Eu、Sm、Ce、及びHからなる群より選択される少なくとも一つであり、
0≦a≦3、
0.5≦b≦4、
1≦c≦4、かつ、
0≦d≦1。
【請求項9】
請求項8に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、NiO
2、CoO
2、MnO
2、Al
2O
3、MgO、SiO
2、ZrO
2、LiNbO
3、LiBO
2、およびLi
3-ePO
4-fN
g(ここで、0≦e≦3、0≦f≦3、かつ0≦g≦1)からなる群より選択される少なくとも一つから形成される、
正極活物質。
【請求項10】
請求項9に記載の正極活物質であって、
前記被覆材は、Al
2O
3、MgO、SiO
2、及びZrO
2からなる群より選択される少なくとも一つから形成される、
正極活物質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記単斜晶は、空間群C2/mである、
正極活物質。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記六方晶は、空間群R-3mである、
正極活物質。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記立方晶は、空間群Fm-3m又は空間群Fd-3mからなる群から選択される少なくとも一つである、
正極活物質。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、0.11以上0.95以下である、
正極活物質。
【請求項15】
請求項14に記載の正極活物質であって、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、0.35以上0.95以下である、
正極活物質。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Mnを含有する、
正極活物質。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一つを含有する、
正極活物質。
【請求項18】
請求項17に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Fを含有する、
正極活物質。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物の平均組成は、組成式Li
xMe
yO
αQ
βで表される、
正極活物質。
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一つであり、
1.05≦x≦1.5、
0.6≦y≦1.0、
1.2≦α≦2.0、かつ、
0≦β≦0.8。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物を、主成分として含む、
正極活物質。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記多相混合物は、前記第一の相、前記第二の相、および前記第三の相から構成される三相混合物である、
正極活物質。
【請求項22】
電池であって、
請求項1から21のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極、
負極、および
電解質、
を備える、
電池。
【請求項23】
請求項22に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、非水電解質である、
電池。
【請求項24】
請求項22に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、固体電解質である、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質およびそれを備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一般式LiaMOx(ここで、MはNi元素、Co元素およびMn元素から選ばれる少なくとも一種を含む元素)で表される化学組成を有するリチウム複合遷移金属酸化物が開示されている。当該リチウム複合遷移金属酸化物のX線回折パターンにおける、空間群R-3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I020)の比(I020/I003)が0.02~0.3である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、高い容量および高いサイクル特性を有する電池のために用いられる正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示による正極活物質は、
リチウム複合酸化物、および
前記リチウム複合酸化物の表面を被覆する被覆材
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第三の相
を含む多相混合物であり、
以下の数式(I)が充足され、
0.05≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦0.99 (I)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第一ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第二ピークの積分強度であり、かつ
前記被覆材は、106S/m以下の電子伝導率を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、高い容量および高いサイクル特性を実現するための正極活物質を提供する。本開示はまた、当該正極活物質を含む正極、負極、および電解質を具備する電池を提供する。当該電池は、高い容量および高いサイクル特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施の形態2における電池の一例である電池10の断面図を示す。
【
図2】
図2は、実施例1および比較例1の正極活物質のX線回析パターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1~2および参考例1の電池の充放電サイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態が、説明される。
【0009】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極活物質は、
リチウム複合酸化物、および
前記リチウム複合酸化物の表面を被覆する被覆材
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、
六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および
立方晶に属する結晶構造を有する第三の相
を含む多相混合物であり、
以下の数式(I)が充足され、
0.05≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦0.99 (I)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第一ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第二ピークの積分強度であり、かつ
前記被覆材は、106S/m以下の電子伝導率を有する。
【0010】
当該正極活物質は、高容量かつ高いサイクルを有する電池を提供するために用いられる。
【0011】
用語「サイクル特性が高い電池」とは、充放電サイクルを複数回繰り返した後でも、容量維持率が高い電池を意味する。言い換えれば、用語「サイクル特性が高い電池」とは、充放電サイクルを複数回繰り返した後でも、容量が大きく低下しない電池を意味する。
【0012】
実施の形態1における正極活物質を具備するリチウムイオン電池は、3.4V程度の酸化還元電位(Li/Li+基準)を有する。当該リチウムイオン電池は、概ね、260mAh/g以上の容量を有する。当該リチウムイオン電池は、充放電試験を20サイクル行った後であっても、概ね、90%以上の容量維持率を有する。
【0013】
従来の正極活物質を高電位で使用した場合、電解質の分解(例えば、副反応)が促進され、抵抗層が生成される。さらに、従来の正極活物質を高電位で使用した場合、当該正極活物質に含まれるアニオンがガスとして脱離する。このため、サイクル特性が低下する恐れがある。
【0014】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物に加えて、さらに被覆材を含む。被覆材は、リチウム複合酸化物の表面を被覆している。被覆材は、電子伝導率が106S/m以下であって、リチウム複合酸化物と同一ではない材料である。当該被覆材が、上述のリチウム複合酸化物の表面を被覆することで、上述のリチウム複合酸化物と電解質との接触が抑制される。被覆材の電子伝導率が低いことにより、リチウム複合酸化物と電解質との間の電子の授受が抑制される。さらに、当該電子の授受に起因する副反応を抑止できる。これにより、抵抗層の生成またはガスの脱離が抑制される。このため、サイクル特性が高い電池を実現できる。
【0015】
すなわち、実施の形態1における正極活物質を具備する電池は、高電位で使用された場合でも、サイクル特性に優れる。
【0016】
本開示において、「表面を被覆している」とは、表面を完全に被覆していることと、表面を部分的に被覆していることとを包含する。
【0017】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物に対する被覆材の質量比は、0.2以下であってもよい。
【0018】
質量比が0.2以下であれば、実施の形態1における正極活物質の表面が電気化学的に不活性化することを抑制できる。その結果、抵抗の増加を抑制できる。このため、より高容量かつサイクル特性が高い電池を実現できる。
【0019】
高容量かつサイクル特性が高い電池を実現するために、質量比は、0.01以上、かつ、0.1以下であってもよい。
【0020】
高容量かつサイクル特性が高い電池を実現するために、実施の形態1において、被覆材は膜状であってもよい。被覆材は、0.1ナノメートル以上10.0ナノメートル以下の厚さを有していてもよい。
【0021】
被覆材の厚みが0.1ナノメートル以上の場合、厚みの均一性を高めることができる。被覆材の厚みが0.1ナノメートル以上の場合、絶縁破壊を抑制できる。
【0022】
被覆材の厚みが10.0ナノメートル以下の場合、被覆材が十分に薄いので、Li伝導性が損なわれない。
【0023】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、5.0ナノメートル以上かつ10.0ナノメートル以下の厚みを有していてもよい。
【0024】
実施の形態1において、被覆材は、リチウム複合酸化物の表面を化学的に修飾していてもよい。
【0025】
実施の形態1における被覆材は、リチウム複合酸化物の表面の少なくとも一部と、固溶体を形成していてもよい。
【0026】
化学的修飾および固溶体により、金属元素の溶出(例えば、脱離)をさらに抑制できる。その結果、電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0027】
実施の形態1において、被覆材は、例えば、無機材料である。
【0028】
実施の形態1において、被覆材は、グラファイト、カーボンブラック、およびフッ化黒鉛からなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、またはサーマルブラックが挙げられる。
【0029】
実施の形態1において、被覆材は、絶縁性化合物から形成されていてもよい。当該被覆材は、電気化学反応に寄与しなくてもよい。
【0030】
実施の形態1において、被覆材は、酸化物、酸窒化物、ハロゲン化合物、硫化物、リン化合物からなる群より選択される少なくとも一つであってもよい。
【0031】
例えば、ハロゲン化合物として、AlF3が用いられてもよい。
【0032】
実施の形態1において、被覆材は、リチウムイオン伝導体であってもよい。
【0033】
リチウムイオン伝導体の例は、
(i) LiBO2、Li3PO4、LiNbO3、LiNbO2、LiAlO2、Li2SO4、Li2MoO4、Li4SiO4、Li4FeO4、Li4ZrO4、Li2CO3、LiW2O7、Li3VO4、LiCl、LiBr、LiI、またはLi2Seのようなリチウム化合物、
(ii) Li2O-B2O3、Li2O-Al2O3、Li2O-SiO4、Li2O-P2O5、またはLiF-BF3、LiF-AlF3、LiF-VF3のようなリチウムイオン伝導ガラス、または
(iii) 酸素の一部を窒素に置換した上述のリチウムイオン伝導体
である。2種類以上のリチウムイオン伝導体が用いられ得る。
【0034】
リチウムイオン伝導体の被覆材を具備する正極活物質は、電池のサイクル特性を向上させる。
【0035】
実施の形態1において、被覆材は、Li伝導性の高いLi含有酸化物、あるいは酸素の一部を窒素に置換したLi含有酸化物であってもよい。
【0036】
Li含有酸化物の例は、ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、コバルト酸リチウム、チタン酸リチウム、またはリチウムアルミネートである。2種類以上のLi含有酸化物が用いられ得る。
【0037】
Li含有酸化物は、Liイオンの拡散性を向上し、電池の容量をさらに向上させる。
【0038】
実施の形態1において、被覆材が充放電反応時にLiを吸蔵可能である場合、電池の容量はさらに向上する。この場合、被覆材は充放電容量を有する。このため、正極活物質全体に対するリチウム複合酸化物の質量比が低下しても、電池の容量は高く保たれる。
【0039】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、酸化物または酸窒化物であってもよい。
【0040】
酸化物および酸窒化物は、化学的に安定であり、電解質との反応性が低い。このため、酸化物および酸窒化物は、電気化学反応において結晶構造を維持しやすいと考えられる。
【0041】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、下記の組成式(1)で表される酸化物または酸窒化物であってもよい。
LiaAbOcNd ・・・式(1)
ここで、
Aは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Si、Eu、Sm、Ce、及びHからなる群より選択される少なくとも一つであり、
0≦a≦3、
0.5≦b≦4、
1≦c≦4、かつ
0≦d≦1。
【0042】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、例えば、NiO2、CoO2、MnO2、Al2O3、MgO、SiO2、ZrO2、ZnO、TiO2、H3BO3、Mn2O3、Fe2O3、CuO、NiO、Co3O4、Eu2O3、Sm2O3、およびCeO2からなる群より選択される少なくとも一種の酸化物から形成されていてもよい。
【0043】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、例えば、NiO2、CoO2、MnO2、Al2O3、MgO、SiO2、ZrO2、LiNbO3、LiBO2、およびLi3-ePO4-fNg(ここで、0≦e≦3、0≦f≦3、かつ0≦g≦1)からなる群より選択される少なくとも一つから形成されていてもよい。
【0044】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、例えば、LiNbO3、LiBO2、及びLi3-ePO4-fNg(0≦e≦3、0≦f≦3、0≦g≦1)からなる群より選択される少なくとも一つから形成されていてもよい。
【0045】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、例えば、Al2O3、MgO、SiO2、及びZrO2からなる群より選択される少なくとも一つから形成されていてもよい。
【0046】
電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、Al2O3から形成されていてもよい。
【0047】
サイクル特性をさらに向上させるために、実施の形態1において、被覆材は、遷移金属酸化物から形成されていてもよい。
【0048】
実施の形態1において、被覆材は、リチウム複合酸化物に含まれる金属元素と同じ金属元素を有していてもよい。
【0049】
被覆材がリチウム複合酸化物に含まれる金属元素と同じ金属元素を有している場合、リチウム複合酸化物および被覆材の界面において、当該金属元素が固溶体を形成し、リチウム複合酸化物および被覆材が互いに強固に結合する。このため、当該金属元素の溶出(例えば、脱離)が抑制される。これにより、電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0050】
実施の形態1において、被覆材は、リチウム複合酸化物の他に、正極に含まれる集電体、電子伝導助剤、又は結着材を被覆してもよい。
【0051】
実施の形態1における正極活物質は、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第三の相を含む多相混合物であるリチウム複合酸化物を含む。
【0052】
単斜晶(例えば、空間群C2/m)に属する結晶構造は、Li層と遷移金属層とが交互に積層した構造を有する。遷移金属層には、遷移金属だけでなく、Liが含有されていてもよい。そのため、単斜晶に属する結晶構造には、一般的に用いられる従来材料であるLiCoO2よりも、より多くの量のLiが結晶構造の内部に吸蔵される。しかし、単斜晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、遷移金属層におけるLiの移動に伴い、原子の再配列が起こる。当該原子の再配列が電池のサイクル特性を低下させると考えられる。
【0053】
六方晶(例えば、空間群R-3m)に属する結晶構造は、Li層と遷移金属層とが交互に積層した構造を有する。六方晶に属する結晶構造では、充放電時のLiの脱離および挿入がLi層の二次元平面で起こるため、Liの拡散性が高い。そのため、レート特性に優れた電池を実現できると考えられる。しかし、単斜晶に属する結晶構造と比較して、六方晶に属する結晶構造に含まれる遷移金属層におけるLi量が少ない。そのため、六方晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、電池の容量が低くなると考えられる。
【0054】
立方晶(例えば、空間群Fm-3m又は空間群Fd-3m)に属する結晶構造においては、充放電時のLiの脱離および挿入に伴う結晶構造の変化が少ない。このように、立方晶に属する結晶構造は、強固である。そのため、立方晶に属する結晶構造は、サイクル特性に優れる。しかし、立方晶に属する結晶構造のみが用いられる場合、結晶構造内に含有され得るLi量が少なくなるため、電池の容量が低くなると考えられる。
【0055】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第三の相を含み、これら3つの結晶構造の特徴の相乗効果によって電池の容量が向上する。
【0056】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物において、単斜晶は、空間群C2/mであってもよい。
【0057】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物において、六方晶は、空間群R-3mであってもよい。
【0058】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物において、立方晶は、空間群Fm-3mおよび空間群Fd-3mからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。すなわち、第三の相は、空間群Fm-3m又は空間群Fd-3mに属する結晶構造を有してもよい。第三の相は、空間群Fm-3mに属する結晶構造と空間群Fd-3mに属する結晶構造とを、両方、有してもよい。
【0059】
実施の形態1では、以下の数式(I)が充足される。
0.05≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦0.99 (I)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(43°-46°)は、リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第一ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(18°-20°)は、リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第二ピークの積分強度である。
【0060】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、リチウム複合酸化物における、第一の相と第二の相との総量と、第三の相との存在割合の指標として用いられ得るパラメータである。第一の相と第二の相との総量の存在割合が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は大きくなると考えられる。また、第三の相の存在割合が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は小さくなると考えられる。
【0061】
言い換えれば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、リチウム複合酸化物における、カチオンミキシングの指標として用いられ得るパラメータである。本開示における「カチオンミキシング」とは、リチウム複合酸化物の結晶構造において、リチウム原子と遷移金属等のカチオン原子とが互いに置換されている状態を示す。カチオンミキシングが少なくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きくなる。また、カチオンミキシングが多くなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さくなる。
【0062】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さい場合、第一の相と第二の相との総量の存在割合が小さくなるため、Liの拡散性と、充放電時のLiの挿入量および脱離量とが、不足すると考えられる。これにより、電池の容量が不十分となる。
【0063】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.99よりも大きい場合、第三の相の存在割合が小さくなるため、結晶構造の安定性が低下すると考えられる。これにより、Liを引き抜いた際に、原子の再配列が促進され、リチウムの三次元的な拡散経路が減少すると考えられる。これにより、電池の容量が不十分となる。
【0064】
従来技術(言い換えれば、比較例)として、特許文献1は、リチウム複合遷移金属酸化物を開示している。特許文献1に開示されたリチウム複合遷移金属酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造と空間群C2/mに属する結晶構造とを両方有し、かつ、一般式LiaMOx(ここで、MはNi元素、Co元素およびMn元素から選ばれる少なくとも一つを含む元素である)で表される化学組成を有する。
【0065】
しかし、特許文献1のような従来技術においては、実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物のように、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相と、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相と、立方晶に属する結晶構造を有する第三の相と、を全て含み、かつ、0.05以上0.99以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するリチウム複合酸化物は、開示されておらず示唆もされていない。
【0066】
実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物では、Li脱離時の原子の再配列を抑制していると考えられる。これにより、Liの拡散性を高く保ちつつ、多くのLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、結晶構造の安定性が高い状態を実現できると考えられる。すなわち、このようなリチウム複合酸化物は、従来技術からは容易に想到できない。当該リチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0067】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物は、0.11以上0.95以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していてもよい。
【0068】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物は、0.35以上0.95以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していてもよい。
【0069】
実施の形態1においては、以下の数式(II)が充足されてもよい。
0.08≦積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)≦0.25 (II)
ここで、
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、積分強度I(18°-20°)に対する積分強度I(20°-23°)の比であり、かつ
積分強度I(20°-23°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、20°以上23°以下の回折角2θの範囲に存在する第三最大ピークの積分強度である。
【0070】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、リチウム複合酸化物における、第一の相と第二の相との存在割合の指標として用いられ得るパラメータである。第一の相の存在割合が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は大きくなると考えられる。一方、第二の相の存在割合が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は小さくなると考えられる。
【0071】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が、0.08以上の場合、第一の相の存在割合が大きくなるため、充放電時のLiの挿入量および脱離量が増加し、電池の容量が向上すると考えられる。
【0072】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が、0.25以下の場合、第二の相の存在割合が大きくなるため、Liの拡散性が向上し、電池の容量が向上すると考えられる。
【0073】
X線回折ピークの積分強度は、例えば、X線回析装置に付属のソフトウエア(例えば、株式会社リガク社製、粉末X線回折装置に付属のPDXL)を用いて算出することができる。その場合、X線回折ピークの積分強度は、例えば、各回折ピークの高さと半値幅から面積を算出することで得られる。
【0074】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群C2/mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(001)面を反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲に存在する最大ピークは、(020)面を反映している。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(114)面を反映している。
【0075】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群R-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(003)面を反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(104)面を反映している。
【0076】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群Fm-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(200)面を反映している。
【0077】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、立方晶、例えば、空間群Fd-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは、(111)面を反映している。回折角2θが20°以上23°以下の範囲には、回折ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークは、(400)面を反映している。
【0078】
一例として、実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する結晶構造を有する第一の相、空間群R-3mに属する結晶構造を有する第二の相、および空間群Fm-3m又はFd-3mに属する結晶構造を有する第三の相を有する。
【0079】
実施の形態1においては、リチウム複合酸化物は、これらの3つの相を有するため、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピーク及び回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークがそれぞれ反映している空間群および面指数を完全に特定することは、必ずしも容易ではないという問題がある。
【0080】
この問題を解決するため、上述のX線回折測定に加えて、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」)を用いた電子線回折測定が行われてもよい。公知の手法により電子線回折パターンを観察することで、リチウム複合酸化物が有する空間群を特定することが可能である。このようにして、リチウム複合酸化物が、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第三の相を有することを確認できる。
【0081】
リチウム複合酸化物において、第一の相からなる複数の領域、第二の相からなる複数の領域、および第三の相からなる複数の領域が3次元的にランダムに配列されていてもよい。
【0082】
このようなランダム配列によって、Liの三次元的な拡散経路が増大するため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となり、電池の容量がさらに向上する。
【0083】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、多相混合物である。例えば、バルク層と、それを被覆するコート層とからなる層構造は、本開示における多相混合物に該当しない。多相混合物は、複数の相を含んだ物質を意味する。リチウム複合酸化物の製造時にそれらの相に対応する複数の材料が混合されてもよい。
【0084】
リチウム複合酸化物が多相混合物であるかどうかは、後述するように、X線回折測定法および電子線回折測定法によって判定されうる。具体的には、X線回折測定法および電子線回折測定法によって取得されたリチウム複合酸化物のスペクトルに複数の相の特徴を示すピークが含まれるならば、そのリチウム複合酸化物は多相混合物であると判定される。
【0085】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、第一の相、第二の相、および第三の相から構成される三相混合物であってもよい。
【0086】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、リチウム原子だけでなく、リチウム原子以外の原子をも含む。リチウム原子以外の原子の例は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、またはAlである。リチウム複合酸化物は、1種類のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。これに代えて、リチウム複合酸化物は、2種類以上のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。
【0087】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、リチウム原子以外の原子として、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも1種の3d遷移金属元素を、含んでもよい。
【0088】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、リチウム原子以外の原子として、Mn、Co、Ni、Mg、及びAlからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0089】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、リチウム原子以外の原子として、Mn、Co、Ni、Mg、及びAlからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0090】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Mnを含んでもよい。
【0091】
Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。上述のように第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0092】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Mnだけでなく、CoおよびNiをも含んでもよい。
【0093】
Mnの酸素との混成軌道は容易に形成される。結晶構造は、Coにより安定化する。Liの脱離は、Niにより促進される。これら3つの理由により、MnだけでなくCoおよびNiを含むリチウム複合酸化物は、さらに安定な結晶構造を有する。そのため、MnだけでなくCoおよびNiを含むリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0094】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。当該少なくとも1種の元素により、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。
【0095】
電気化学的に不活性なアニオンによって、リチウム複合酸化物の酸素原子の一部を置換してもよい。言い換えれば、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンによって酸素原子の一部を置換してもよい。この置換により、実施の形態1において、リチウム複合酸化物の結晶構造はさらに安定化すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンの例は、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンである。上述のように、第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このようにして、電池の容量が向上する。
【0096】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Fを含んでもよい。
【0097】
フッ素原子は電気陰性度が高いため、酸素の一部をフッ素原子で置換することにより、カチオンとアニオンとの相互作用が大きくなり、放電容量または動作電圧が向上する。同様の理由により、Fが含まれない場合と比較して、Fの固溶により電子が局在化する。このため、充電時の酸素脱離が抑制され、結晶構造が安定する。以上のように、第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造では、結晶構造がさらに安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離することが可能となる。これらの効果が総合的に作用することで、電池の容量がさらに向上する。
【0098】
次に、リチウム複合酸化物の化学組成の一例を説明する。
【0099】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物の平均組成は、下記の組成式(2)で表されてもよい。
LixMeyOαQβ ・・・式(2)
ここで、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つであり、かつ
Qは、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一つである。
さらに、組成式(2)において、以下の4つの数式が充足される。
1.05≦x≦1.5、
0.6≦y≦1.0、
1.2≦α≦2.0、かつ
0≦β≦0.8。
上記のリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0100】
Meが化学式Me’y1Me’’y2(ここで、Me’およびMe’’は、それぞれ独立して、Meのために選択される当該少なくとも1つである)によって表される場合、「y=y1+y2」が充足される。例えば、MeがMn0.6Co0.2であれば、「y=0.6+0.2=0.8」が充足される。Qが2以上の元素からなる場合であっても、Meの場合と同様に計算できる。
【0101】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0102】
xの値が1.5以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0103】
yの値が0.6以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0104】
yの値が1.0以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0105】
αの値が1.2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0106】
αの値が2.0以下である場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0107】
βの値が0.8以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0108】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物の「平均組成」とは、リチウム複合酸化物の各相の組成の違いを考慮せずにリチウム複合酸化物の元素を分析することによって得られる組成である。典型的には、リチウム複合酸化物の一次粒子のサイズと同程度、または、それよりも大きな試料を用いて元素分析を行なうことによって得られる組成を意味する。第一の相、第二の相、および第三の相は、互いに同一の化学組成を有してもよい。もしくは、第一の相、第二の相、および第三の相は、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0109】
上述の平均組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより決定することができる。
【0110】
電池の容量をさらに向上させるために、組成式(2)において、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも一つ(すなわち、少なくとも一つの3d遷移金属元素)を含んでもよい。
【0111】
電池の容量をさらに向上させるために、組成式(2)において、Meは、Mn、Co、Ni、Mg及びAlからなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0112】
電池の容量をさらに向上させるために、組成式(2)において、Meは、Mn、Co、およびNiからなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0113】
組成式(2)において、Meは、Mnを含んでもよい。すなわち、Meは、Mnであってもよい。
【0114】
もしくは、Meは、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一つと、Mnとを、含んでもよい。
【0115】
すでに説明したように、Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0116】
組成式(2)において、Meに対するMnのモル比は、60%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.6以上1.0以下であってもよい。
【0117】
すでに説明したように、Mnおよび酸素の軌道混成は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このため、電池の容量を向上できる。
【0118】
組成式(2)において、Meは、Mnだけでなく、CoおよびNiをも含んでもよい。
【0119】
すでに説明したように、Mnの酸素との混成軌道は容易に形成される。結晶構造は、Coにより安定化する。Liの脱離は、Niにより促進される。これら3つの理由により、MnだけでなくCoおよびNiを含むリチウム複合酸化物は、さらに安定な結晶構造を有する。そのため、MnだけでなくCoおよびNiを含むリチウム複合酸化物は、電池の容量をさらに向上させる。
【0120】
組成式(2)において、Meは、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素を、Meに対する当該少なくとも一種の元素のモル比が20%以下となるように、含んでもよい。
【0121】
B、Si、P、及びAlは、高い共有結合性を有するので、実施の形態1において、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。その結果、サイクル特性が向上し、電池の寿命をさらに伸ばすことができる。
【0122】
以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.166≦x≦1.33、かつ
0.67≦y≦0.834。
【0123】
上記の2つの数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0124】
以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.2≦α<2.0、かつ
0<β≦0.8。
【0125】
上記の2つの数式が充足されると、電池の容量をさらに向上できる。
【0126】
以上のように、組成式(2)で表されるリチウム複合酸化物は、Q(すなわち、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種)を含んでもよい。
【0127】
電気化学的に不活性なアニオンによって、リチウム複合酸化物の酸素原子の一部を置換してもよい。言い換えれば、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンによって酸素原子の一部を置換してもよい。この置換により、組成式(2)で表されるリチウム複合酸化物の結晶構造はさらに安定化すると考えられる。酸素アニオンの半径よりも大きなイオン半径を有するアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。上述のように、第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造内において、さらに結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。このようにして、電池の容量が向上する。
【0128】
Qは、Fを含んでもよい。すなわち、Qは、Fであってもよい。
【0129】
もしくは、Qは、Fだけでなく、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでもよい。
【0130】
フッ素原子は電気陰性度が高いため、酸素の一部をフッ素原子で置換することにより、カチオンとアニオンとの相互作用が大きくなり、放電容量または動作電圧が向上する。同様の理由により、Fが含まれない場合と比較して、Fの固溶により電子が局在化する。このため、充電時の酸素脱離が抑制され、結晶構造が安定化する。以上のように、第一の相、第二の相、および第三の相を有する結晶構造では、結晶構造がさらに安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離することが可能となる。これらの効果が総合的に作用することで、電池の容量がさらに向上する。
【0131】
以下2つの数式が充足されてもよい。
1.33≦α≦1.9、かつ
0.1≦β≦0.67。
【0132】
上記2つの数式が充足されると、酸素の酸化還元によって容量が過剰となることを防ぐことができる。その結果、電気化学的に不活性なQの影響が十分に発揮されることにより、Liが脱離した際でも、結晶構造は安定なままである。このようにして、電池の容量をさらに向上できる。
【0133】
LiのMeに対するモル比は、数式(x/y)で示される。
【0134】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.4以上2.0以下であってもよい。
【0135】
モル比(x/y)が1よりも大きい場合では、例えば、組成式LiMnO2で示される従来のリチウム複合酸化物におけるLi原子数の比よりも、リチウム複合酸化物におけるLi原子数の比が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0136】
モル比(x/y)が1.4以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、モル比(x/y)が1.4以上の場合、電池の容量がさらに向上する。
【0137】
モル比(x/y)が2.0以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0138】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.4以上1.5以下であってもよい。
【0139】
OのQに対するモル比は、数式(α/β)で示される。
【0140】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、2以上19以下でもよい。
【0141】
モル比(α/β)が2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0142】
モル比(α/β)が19以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0143】
上述されたように、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、組成式LixMeyOαQβで表される平均組成を有していてもよい。したがって、リチウム複合酸化物は、カチオン部分およびアニオン部分から構成される。カチオン部分は、LiおよびMeから構成される。アニオン部分は、OおよびQから構成される。LiおよびMeから構成されるカチオン部分の、OおよびQから構成されるアニオン部分に対するモル比は、数式((x+y)/(α+β))で示される。
【0144】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.2以下であってもよい。
【0145】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。
【0146】
モル比((x+y)/(α+β))が1.2以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。
【0147】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、1.0以上1.2以下であってもよい。
【0148】
リチウム複合酸化物において、Liの一部は、NaあるいはKのようなアルカリ金属で置換されていてもよい。
【0149】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を主成分として含んでもよい。言い換えれば、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する上述のリチウム複合酸化物の質量比が50%以上となるように、含んでもよい。このような正極活物質は、電池の容量をさらに向上させる。
【0150】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は70%以上であってもよい。
【0151】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は90%以上であってもよい。
【0152】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物だけでなく不可避的な不純物をも含んでもよい。
【0153】
実施の形態1における正極活物質は、未反応物質として、その出発物質を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の合成時に発生する副生成物を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の分解により発生する分解生成物を含んでいてもよい。
【0154】
実施の形態1における正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、不可避的な不純物を除いて、上述のリチウム複合酸化物のみから形成されていてもよい。
【0155】
このような正極活物質は、電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させる。
【0156】
<リチウム複合酸化物の作製方法>
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の製造方法の一例が、説明される。
【0157】
リチウム複合酸化物は、例えば、次の方法により、作製されうる。
【0158】
Liを含む原料、Meを含む原料、および、Qを含む原料を用意する。
【0159】
Liを含む原料としては、例えば、Li2OまたはLi2O2のようなリチウム酸化物、LiF、Li2CO3、またはLiOHのようなリチウム塩、あるいはLiMeO2またはLiMe2O4のようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0160】
Meを含む原料としては、例えば、Me2O3のような金属酸化物、MeCO3またはMe(NO3)2のような金属塩、Me(OH)2またはMeOOHのような金属水酸化物、あるいはLiMeO2またはLiMe2O4のようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0161】
例えば、MeがMnの場合には、Mnを含む原料としては、例えば、MnO2またはMn2O3のような酸化マンガン、MnCO3またはMn(NO3)2のようなマンガン塩、Mn(OH)2またはMnOOHのような水酸化マンガン、あるいはLiMnO2またはLiMn2O4のようなリチウムマンガン複合酸化物、が挙げられる。
【0162】
Qを含む原料としては、例えば、ハロゲン化リチウム、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属硫化物、または遷移金属窒化物が挙げられる。
【0163】
QがFの場合には、Fを含む原料としては、例えば、LiFまたは遷移金属フッ化物が挙げられる。
【0164】
これらの原料が、例えば、Liの遷移金属に対するモル比が0.5から2.0の範囲となるように用意される。用意された原料を、例えば、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で30時間以上メカノケミカルに互いに反応させることで、リチウム複合酸化物の第一前駆体が得られる。
【0165】
これとは別に、第一の前駆体とは異なるモル比を有するように、Liを含む原料、Meを含む原料、およびQを含む原料が容易される。用意された原料を、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で30時間以上メカノケミカルに反応させることで、第一の前駆体とは異なる組成比を有する第二の前駆体が得られる。
【0166】
さらに、第一の前駆体および第二の前駆体を、組成式(2)に示したモル比を有するように用意する。用意された第一の前駆体および第二の前駆体を、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で1時間以上メカノケミカルに反応させることで、最終的な前駆体が得られる。
【0167】
最終的な前駆体を得るための方法は、上述の作製方法に限られない。例えば、当該方法は、第一の前駆体および第二の前駆体とは異なるモル比を有する第三の前駆体を得る工程をさらに含んでもよい。この場合、組成式(2)に示したモル比を有するように用意された第一の前駆体、第二の前駆体、および第三の前駆体を、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で1時間以上メカノケミカルに反応させることで、最終的な前駆体を得てもよい。
【0168】
このようにして、x、y、α、およびβの値を、組成式(2)において示された範囲内で変化させることができる。
【0169】
得られた最終的な前駆体を熱処理する。熱処理の条件は、実施の形態1において、リチウム複合酸化物が得られるように適宜設定される。熱処理の最適な条件は、他の製造条件および目標とする組成に依存して異なる。
【0170】
熱処理の温度および時間は、例えば、200~900℃の範囲、及び、1分~20時間の範囲からそれぞれ選択されてもよい。熱処理の雰囲気の例は、大気雰囲気、酸素雰囲気、または不活性雰囲気(例えば、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気)である。
【0171】
本発明者らは、熱処理温度が低いほど、または熱処理時間が短いほど、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)の値が小さくなる傾向を見出している。製造者は、この傾向を指針として、熱処理条件を定めることができる。
【0172】
以上のように、原料、原料の混合条件、および熱処理条件を調整することにより、実施の形態1においてリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0173】
得られたリチウム複合酸化物が有する結晶構造の空間群は、例えば、X線回折測定または電子線回折測定により、特定することができる。これにより、得られたリチウム複合酸化物が、例えば、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第三の相を含むことを確認できる。
【0174】
得られたリチウム複合酸化物の平均組成は、例えば、ICP発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより、決定され得る。
【0175】
原料としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、元素のミキシングのエネルギーを低下させることができる。これにより、実施の形態1において、リチウム複合酸化物の純度を高められる。
【0176】
以上のように、実施の形態1において、リチウム複合酸化物の製造方法は、原料を用意する工程(a)、原料をメカノケミカルに反応させることによりリチウム複合酸化物の前駆体を得る工程(b)、および前駆体を熱処理することによりリチウム複合酸化物を得る工程(c)を具備する。
【0177】
原料は、混合原料であってもよく、当該混合原料では、LiのMeに対する比は1.4以上2.0以下であってもよい。
【0178】
原料として用いられるリチウム化合物は、公知の方法で作製されてもよい。
【0179】
上述の工程(b)では、ボールミルを用いてメカノケミカルに原料を反応させることを2回または3回繰り返してもよい。
【0180】
以上のように、実施の形態1において、リチウム複合酸化物を得るためには、原料(例えば、LiF、Li2O、酸化遷移金属、またはリチウム複合遷移金属)を、遊星型ボールミルを用いて、メカノケミカル反応により混合して前駆体を得て、次いで得られた前駆体を熱処理してもよい。
【0181】
以下、被覆材でリチウム複合酸化物の表面を被覆する方法の一例が、説明される。
【0182】
上述のように得られたリチウム複合酸化物を被覆材で被覆する方法は、限定されない。当該方法では、原子層堆積、中和反応、シランカップリング反応、ゾル-ゲル法、または遊星型ボールミルを用いてもよい。
【0183】
被覆材の例は、金属酸化物である。金属酸化物でリチウム複合酸化物を被覆する方法では、中和反応を用いてもよい。例えば、リチウム複合酸化物を溶かしたアルカリ性の水溶液中に、酸性の金属酸化物の塩を加えてもよい。この添加により中和反応が生じ、リチウム複合酸化物の表面に金属酸化物の皮膜を形成できる。酸性の金属酸化物の塩の例は、例えば、硝酸マンガン、硝酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、または硫酸チタンである。
【0184】
被覆材でリチウム複合酸化物を被覆する方法として、例えば、原子層堆積法を用いてもよい。これにより、リチウム複合酸化物の表面を被覆材で被覆できる。被覆材の例は、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、または酸化タンタルである。
【0185】
実施の形態1における正極活物質がリチウム複合酸化物と被覆材を含む(具体的には、リチウム複合酸化物の表面を被覆材が被覆している)状態は、例えば、X線電子分光法で、あるいは走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて観察することができる。
【0186】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。実施の形態1において説明された事項は、適宜、省略され得る。
【0187】
実施の形態2における電池は、実施の形態1における正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える。
【0188】
実施の形態2における電池は、高い容量および高いサイクル特性を有する。
【0189】
実施の形態2における電池において、正極は、正極活物質層を備えてもよい。正極活物質層は、実施の形態1における正極活物質を主成分として含んでいてもよい。すなわち、正極活物質層の全体に対する正極活物質の質量比は50%以上である。
【0190】
このような正極活物質層は、電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させる。
【0191】
当該質量比は、70%以上であってもよい。
【0192】
このような正極活物質層は、電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させる。
【0193】
当該質量比は、90%以上であってもよい。
【0194】
このような正極活物質層は、電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させる。
【0195】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、または全固体電池である。
【0196】
実施の形態2における電池において、負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有していてもよい。あるいは、負極は、材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料を含有していてもよい。
【0197】
実施の形態2における電池において、電解質は、非水電解質(例えば、非水電解液)であってもよい。
【0198】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0199】
図1は、実施の形態2における電池10の断面図を示す。
【0200】
図1に示されるように、電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。
【0201】
セパレータ14は、正極21と負極22との間に、配置されている。
【0202】
正極21と負極22とセパレータ14とには、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)が含浸されている。
【0203】
正極21と負極22とセパレータ14とによって、電極群が形成されている。
【0204】
電極群は、ケース11の中に収められている。
【0205】
ガスケット18と封口板15とにより、ケース11が閉じられている。
【0206】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を備えている。
【0207】
正極集電体12は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金で作られている。
【0208】
正極集電体12は設けられないことがある。この場合、ケース11を正極集電体として使用する。
【0209】
正極活物質層13は、実施の形態1における正極活物質を含む。
【0210】
正極活物質層13は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0211】
負極22は、負極集電体16と、負極集電体16の上に配置された負極活物質層17と、を備えている。
【0212】
負極集電体16は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金で作られている。
【0213】
負極集電体16は設けられないことがある。この場合、封口板15を負極集電体として使用する。
【0214】
負極活物質層17は、負極活物質を含んでいる。
【0215】
負極活物質層17は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0216】
負極活物質の材料の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。
【0217】
金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属またはリチウム合金が挙げられる。
【0218】
炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素が挙げられる。
【0219】
容量密度の観点から、負極活物質として、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物を使用できる。珪素化合物および錫化合物は、合金または固溶体であってもよい。
【0220】
珪素化合物の例として、SiOx(ここで、0.05<x<1.95)が挙げられる。SiOxの一部の珪素原子を他の元素で置換することによって得られた化合物も使用できる。当該化合物は、合金又は固溶体である。他の元素とは、ホウ素、マグネシウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、ニオブ、タンタル、バナジウム、タングステン、亜鉛、炭素、窒素、及び錫からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
【0221】
錫化合物の例として、Ni2Sn4、Mg2Sn、SnOx(ここで、0<x<2)、SnO2、またはSnSiO3が挙げられる。これらから選択される1種の錫化合物が、単独で使用されてもよい。もしくは、これらから選択される2種以上の錫化合物の組み合わせが、使用されてもよい。
【0222】
負極活物質の形状は限定されない。負極活物質としては、公知の形状(例えば、粒子状または繊維状)を有する負極活物質が使用されうる。
【0223】
リチウムを負極活物質層17に補填する(すなわち、吸蔵させる)ための方法は、限定されない。この方法の例は、具体的には、(a)真空蒸着法のような気相法によってリチウムを負極活物質層17に堆積させる方法、または(b)リチウム金属箔と負極活物質層17とを接触させて両者を加熱する方法である。いずれの方法においても、熱によってリチウムは負極活物質層17に拡散する。リチウムを電気化学的に負極活物質層17に吸蔵させる方法も用いられ得る。具体的には、リチウムを有さない負極22およびリチウム金属箔(負極)を用いて電池を組み立てる。その後、負極22にリチウムが吸蔵されるように、その電池を充電する。
【0224】
正極21および負極22の結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。
【0225】
結着剤の他の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン、からなる群より選択される2種以上の材料の共重合体である。上述の材料から選択される2種以上の結着剤の混合物が用いられてもよい。
【0226】
正極21および負極22の導電剤の例は、グラファイト、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化黒鉛、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、または有機導電性材料である。
【0227】
グラファイトの例としては、天然黒鉛または人造黒鉛が挙げられる。
【0228】
カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、またはサーマルブラックが挙げられる。
【0229】
金属粉末の例としては、アルミニウム粉末が挙げられる。
【0230】
導電性ウィスカーの例としては、酸化亜鉛ウィスカーまたはチタン酸カリウムウィスカーが挙げられる。
【0231】
導電性金属酸化物の例としては、酸化チタンが挙げられる。
【0232】
有機導電性材料の例としては、フェニレン誘導体が挙げられる。
【0233】
導電剤を用いて、結着剤の表面の少なくとも一部を被覆してもよい。例えば、結着剤の表面は、カーボンブラックにより被覆されてもよい。これにより、電池の容量を向上させることができる。
【0234】
セパレータ14の材料は、大きいイオン透過度および十分な機械的強度を有する材料である。セパレータ14の材料の例は、微多孔性薄膜、織布、または不織布が挙げられる。具体的には、セパレータ14は、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィンで作られていることが望ましい。ポリオレフィンで作られたセパレータ14は、優れた耐久性を有するだけでなく、過度に加熱されたときにシャットダウン機能を発揮できる。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μm(又は10~40μm)の範囲にある。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよい。もしくは、セパレータ14は、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%(又は35~60%)の範囲にある。用語「空孔率」とは、セパレータ14の全体の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。空孔率は、例えば、水銀圧入法によって測定される。
【0235】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。
【0236】
非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。
【0237】
環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。
【0238】
鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。
【0239】
環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、または1、3-ジオキソランである。
【0240】
鎖状エーテル溶媒の例としては、1、2-ジメトキシエタンまたは1、2-ジエトキシエタンである。
【0241】
環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。
【0242】
鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。
【0243】
フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。
【0244】
非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。
【0245】
非水電解液は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、およびフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒を含んでいてもよい。
【0246】
当該少なくとも1種のフッ素溶媒が非水電解液に含まれていると、非水電解液の耐酸化性が向上する。
【0247】
その結果、高い電圧で電池10を充電する場合にも、電池10を安定して動作させることが可能となる。
【0248】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0249】
固体電解質の例は、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、または硫化物固体電解質である。
【0250】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物と、リチウム塩との化合物である。このような化合物の例は、ポリスチレンスルホン酸リチウムである。
【0251】
高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。高分子化合物がエチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができる。その結果、イオン導電率をより高めることができる。
【0252】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi2(PO4)3またはその置換体のようなNASICON固体電解質、
(ii) (LaLi)TiO3のようなペロブスカイト固体電解質、
(iii) Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4、またはその置換体のようなLISICON固体電解質、
(iv) Li7La3Zr2O12またはその置換体のようなガーネット固体電解質、
(v) Li3NまたはそのH置換体、もしくは
(vi) Li3PO4またはそのN置換体
である。
【0253】
硫化物固体電解質の例は、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、またはLi10GeP2S12である。硫化物固体電解質に、LiX(XはF、Cl、Br、またはIである)、MOy、またはLixMOy(Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、またはInのいずれかであり、かつxおよびyはそれぞれ独立して自然数である)が添加されてもよい。
【0254】
これらの中でも、硫化物固体電解質は、成形性に富み、かつ高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として硫化物固体電解質を用いることで、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0255】
硫化物固体電解質の中でも、Li2S-P2S5は、高い電気化学的安定性および高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として、Li2S-P2S5を用いると、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0256】
固体電解質が含まれる固体電解質層には、さらに上述の非水電解液が含まれてもよい。
【0257】
固体電解質層が非水電解液を含むので、活物質と固体電解質との間でのリチウムイオンの移動が容易になる。その結果、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0258】
固体電解質層は、ゲル電解質またはイオン液体を含んでもよい。
【0259】
ゲル電解質の例は、非水電解液が含浸したポリマー材料である。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、またはポリメチルメタクリレートである。ポリマー材料の他の例は、エチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0260】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムのような脂肪族鎖状第4級アンモニウム塩のカチオン、
(ii) テトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状第4級ホスホニウム塩のカチオン、
(iii) ピロリジニウム、モルホリニウム、イミダゾリニウム、テトラヒドロピリミジニウム、ピペラジニウム、またはピペリジニウムのような脂肪族環状アンモニウム、または
(iv)ピリジニウムまたはイミダゾリウムのような窒素含有ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0261】
イオン液体を構成するアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、またはC(SO2CF3)3
-である。イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0262】
リチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3である。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0263】
実施の形態2における電池の形状について、電池は、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、シート型電池、ボタン型電池(すなわち、ボタン型セル)、扁平型電池、または積層型電池である。
【0264】
(実施例)
<実施例1>
[正極活物質の作製]
1.25/0.56/0.12/0.12/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、LiMnO2、LiCoO2、およびLiNiO2の混合物を得た。
【0265】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0266】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、第一の前駆体を作製した。
【0267】
得られた第一の前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。その結果、第一の前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0268】
これとは別に、1.0/1.5/0.5/3.8/0.2のLi/Mn/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、LiMnO2、MnO2、およびNiOの混合物を得た。
【0269】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0270】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで5時間処理することで、第二の前駆体を作製した。
【0271】
得られた第二の前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。その結果、第二の前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0272】
第三の前駆体を以下のようにして得た。1.0/0.15/0.5/0.35/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、LiMnO2、LiCoO2、およびLiNiO2の混合物を得た。
【0273】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0274】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで5時間処理することで、第三の前駆体を作製した。
【0275】
得られた第三の前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。その結果、得られた第三の前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0276】
次に、1.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、第一の前駆体、第二の前駆体、および第三の前駆体の混合物を得た。
【0277】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0278】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、450rpmで5時間処理することで、最終の前駆体を作製した。
【0279】
最終的な前駆体を、700℃で1時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、リチウム複合酸化物を得た。
【0280】
リチウム複合酸化物に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0281】
【0282】
リチウム複合酸化物に対して、電子回折測定も行った。粉末X線回折測定および電子回折測定の結果に基づいて、リチウム複合酸化物の結晶構造を解析した。
【0283】
その結果、リチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する相、空間群R-3mに属する相、および空間群Fm-3mに属する相を含む多相混合物であると判定された。
【0284】
X線回析装置(株式会社リガク社製)を用いて得られた粉末X線回折測定の結果から、X線回析ピークの積分強度を、当該X線回析装置に付属のソフトウェア(商品名:PDXL)を用いて算出した。リチウム複合酸化物における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.91であった。
【0285】
次に、リチウム複合酸化物の表面に、原子層堆積法により表面処理を実施した。表面処理においては、摂氏120度の真空雰囲気中において、トリメチルアルミニウムおよび水(すなわち、水蒸気)を交互に積層することにより、リチウム複合酸化物の表面にアルミナ(すなわち、Al2O3)の被膜を形成した。このようにして、実施例1による正極活物質を得た。
【0286】
実施例1による正極活物質に対して、X線光電分光測定を実施した。X線光電分光測定の結果、リチウム複合酸化物の表面にAl2O3が存在することが確認された。Al2O3の被膜の厚さは、5ナノメートルであった。
【0287】
X線光電分光測定において、Al2O3の被膜に関するピークはほとんど確認されなかった。この理由としては、Al2O3の被膜が薄く、かつ、アモルファス状態であったことが考えられる。
【0288】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0289】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0290】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60マイクロメートルの正極板を得た。
【0291】
本発明者らは、Al2O3の被覆を有さない正極活物質を用いて正極板を得た後に、上述の原子堆積法を用いて正極活物質層全体にAl2O3の被膜を形成した場合においても、サイクル特性向上の効果が得られることを確認した。
【0292】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0293】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0294】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0295】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0296】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0297】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0298】
<実施例2>
実施例2では、以下の(i)の事項を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質及びそれを用いたコイン型電池を得た。
(i)Al2O3被膜の厚みが5ナノメートルではなく10ナノメートルであったこと。
【0299】
<実施例3~5>
実施例3~5では、以下の(i)の事項を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質及びそれを用いたコイン型電池を得た。
(i)実施例3、実施例4、および実施例5において、被覆材の材料が、それぞれ、MgO、SiO2、およびZrO2であったこと。
【0300】
<実施例6~14>
実施例6~実施例14では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質及びそれを用いたコイン型電池が作製された。
(i) 各前駆体の作製条件および混合比を変化させたこと。
(ii) 加熱条件を、500~900℃かつ10分~5時間の範囲内で変えたこと。
【0301】
表1は、実施例6~14のリチウム複合酸化物の平均組成を示す。
【0302】
実施例6~14の各リチウム複合酸化物は、空間群C2/mに属する第一の相、空間群R-3mに属する第二の相、および空間群Fd-3m又はFm-3mに属する第三の相を含む多相混合物であると特定された。
【0303】
<比較例1>
比較例1では、公知の手法を用いて、化学式LiCoO2(すなわち、コバルト酸リチウム)で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0304】
実施例1とは異なり、比較例1では、Al2O3の被膜を形成しなかった。
【0305】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0306】
【0307】
粉末X線回折測定の結果から、得られた正極活物質の空間群は、R-3mであると特定された。
【0308】
比較例1による正極活物質における積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、1.27であった。
【0309】
比較例1による正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、比較例1のコイン型電池を作製した。
【0310】
<参考例1>
参考例1では、Al2O3の被膜を形成しなかったこと以外は、実施例1の場合と同様に正極活物質及びそれを用いたコイン型電池が作製された。
【0311】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.7ボルトの電圧に達するまで、実施例1~14および参考例1の電池を充電した。
【0312】
その後、2.5ボルトの電圧に達するまで、0.5mA/cm2の電流密度で、実施例1~14および参考例1の電池を放電させた。
【0313】
0.5mA/cm2の電流密度で、4.3ボルトの電圧に達するまで、比較例1の電池を充電した。
【0314】
その後、2.5ボルトの電圧に達するまで、0.5mA/cm2の電流密度で、比較例1の電池を放電させた。
【0315】
さらに、上述の充放電試験を20回(すなわち、20サイクル)繰り返し、次いで、実施例1~14、比較例1、および参考例1の電池の容量維持率を測定した。
【0316】
図3は、実施例1~2および参考例1の電池の充放電サイクル試験の結果を示すグラフである。
【0317】
実施例1、実施例2、および参考例1の電池の初回放電容量は、それぞれ、280mAh/g、276mAh/g、および282mAh/gであった。
【0318】
実施例1および実施例21の電池の20サイクル後の容量維持率は、それぞれ、96.4%および97.2%であった。
【0319】
一方、比較例1の電池の初回放電容量は、150mAh/gであった。比較例1の電池の20サイクル後容量維持率は、80.0%であった。参考例1の電池の20サイクル後の容量維持率は、86.8%であった。
【0320】
表1~表3は、実施例1~14、比較例1、および参考例1の結果が、表1に示される。
【0321】
【0322】
【0323】
【0324】
表1~表3に示されるように、実施例1~14および参考例1の電池は、260~282mAh/gの初回放電容量を有する。
【0325】
すなわち、実施例1~14および参考例1の電池の初回放電容量は、比較例1の電池の初回放電容量よりも、極めて大きい。
【0326】
この理由としては、実施例1~14および参考例1の電池では、正極活物質に含有されるリチウム複合酸化物が、単斜晶に属する結晶構造を有する第一の相、六方晶に属する結晶構造を有する第二の相、および立方晶に属する結晶構造を有する第三の相を含む多相混合物であること、および0.05以上0.99以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有することが考えられる。このため、多くのLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、Liの拡散性および結晶構造の安定性が高いと考えられる。このため、初回放電容量が大きく向上したと考えられる。
【0327】
比較例1では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.99よりも大きい。さらに、比較例1では、結晶構造は、空間群R-3mの単相である。このため、充放電時のLiの挿入量および脱離量と、結晶構造の安定性とが低下したと考えられる。x/yの値が1という比較的小さい値である。このため、反応に関与できるLiの量が少なくなり、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。このため、初回放電容量が大きく低下したと考えられる。
【0328】
表1~表3に示されるように、実施例6および実施例7の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0329】
この理由としては、実施例6および実施例7では、実施例1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。このため、カチオンミキシングの量が大きくなることで、充放電時のLiの拡散性が低下したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0330】
表1~表3に示されるように、実施例8および実施例9の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0331】
この理由としては、実施例8および実施例9では、実施例1と比較して、x/yの値が1.4という小さい値であることが考えられる。このため、充放電に関与できるLiの量が減少したことが考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0332】
表1~表3に示されるように、実施例10の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0333】
この理由としては、実施例10では、実施例1と比較して、F含有量が多い(すなわち、α/β=9)ことが考えられる。このため、実施例1と比較して電子伝導性が低下したと考えられる。さらに、結晶構造内でFと結合したLiの拡散性が低下した可能性が考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0334】
表1~表3に示されるように、実施例11および実施例12の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0335】
この理由としては、実施例11および実施例12では、実施例1と比較して、CoおよびNiの含有量が小さいことが考えられる。このため、結晶構造が不安定化したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0336】
表1~表3に示されるように、実施例13および実施例14の電池の初回放電容量は、実施例1の電池の初回放電容量よりも、小さい。
【0337】
この理由としては、実施例13および実施例14では、実施例1と比較して、x/yの値が2.0という大きい値であることが考えられる。このため、Li脱離後の結晶構造が不安定化したと考えられる。実施例13および実施例14では、実施例1と比較して、F含有量が多い(すなわち、α/β=2)ことが考えられる。このため、電子伝導性が低下したと考えられる。さらに、結晶構造内でFと結合したLiの拡散性が低下した可能性が考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0338】
表1~表3に示されるように、実施例1~14の電池の20サイクル後容量維持率は、比較例1および参考例1の電池の20サイクル後容量維持率よりも、高い。
【0339】
この理由としては、実施例1~14の電池では、リチウム複合酸化物の表面に被覆材を含むことが考えられる。すなわち、被覆材によって、リチウム複合酸化物の表面と電解液との直接の接触を抑制したことが考えられる。これにより、例えば、リチウム複合酸化物および電解液の間の副反応に伴うガス発生、および、酸素の脱離、および、正極活物質表面への副反応生成物の発生が抑制されたことが考えられる。このため、20サイクル後容量維持率が向上したと考えられる。
【0340】
表1~表3に示されるように、実施例2の電池は、実施例1の電池よりも、初回放電容量が低く、20サイクル後容量維持率が高い。
【0341】
この理由としては、実施例2の電池では、実施例1の電池と比較して、被覆材として機能するAl2O3の厚みが大きいことが考えられる。これにより、リチウム複合酸化物および電解液の間の副反応が抑制された一方で、Li伝導に関する抵抗が増加したと考えられる。
【0342】
表1~表3に示されるように、実施例1および実施例3~5の電池の20サイクル後容量維持率は、参考例1の電池の20サイクル後容量維持率よりも、高い。実施例1および実施例3~5の電池において、被覆材はそれぞれ、Al2O3、MgO、SiO2、およびZrO2であった。このことから、本開示において、被覆材の材料は、Al2O3に限られず、様々な酸化物が被覆材の材料として用いられることが分かる。Al2O3は、より高容量かつサイクル特性の高い電池を実現するために、本開示において用いられる被覆材として適している。
【産業上の利用可能性】
【0343】
本開示の正極活物質は、二次電池のような電池のために用いられ得る。
【符号の説明】
【0344】
10 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極