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特許7190663レーダ装置及びレンジサイドローブ判定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレンジサイドローブ判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20221209BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
G01S7/292 200
G01S7/02 216
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019059166
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159848
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 健太
(72)【発明者】
【氏名】四方 英邦
(72)【発明者】
【氏名】由比 智裕
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-221916(JP,A)
【文献】特開2016-180721(JP,A)
【文献】特開2012-220449(JP,A)
【文献】特開2018-159552(JP,A)
【文献】特開2011-191141(JP,A)
【文献】特開2016-121970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 7/52-7/64
G01S 13/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置が送信したレーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、前記目標に対する距離および方向を推定した情報および前記レーダ装置に対する相対速度に関する情報を含む複数のデータを出力する推定回路と、
前記複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された前記距離前記方向および前記相対速度に基づいて、前記目標におけるレンジサイドローブ成分を判定する処理回路と、
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記選択された1つ以上のデータの前記推定された前記方向の差及び前記推定された前記距離の差がそれぞれ第1の閾値以内である他のデータを前記レンジサイドローブ成分と判定する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記複数のデータのそれぞれは、電力に関する情報を含み、
前記処理回路は、前記電力が第2の閾値以上の1つ以上のデータを、前記推定された前記距離との差及び前記推定された前記方向との差がそれぞれ第3の閾値以内となる1つ以上のグループにグループ化し、
前記グループに含まれるデータの何れか一つを前記選択された1つ以上のデータとする、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記処理回路は、前記複数のデータのうち、前記レンジサイドローブ成分と判定されたデータとは異なるデータに関する情報を出力する、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記処理回路は、前記複数のデータの各々が前記レンジサイドローブ成分であるか否かを示す情報を出力する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
推定された前記方向は、方位角及び仰角の何れか一方又は双方である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記レーダ信号の送信に用いる送信アンテナ、及び、前記反射波の受信に用いる受信アンテナの何れか一方又は双方は、複数のアンテナ素子を有する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記複数のアンテナ素子は、2次元平面に配置されている、
請求項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
レーダ装置が送信したレーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、前記目標に対する距離および方向を推定した情報および前記レーダ装置に対する相対速度に関する情報を含む複数のデータを出力し、
前記複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された前記距離前記方向および前記相対速度に基づいて、前記目標におけるレンジサイドローブ成分を判定する、
レンジサイドローブ判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置及びレンジサイドローブ判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。また、屋外での安全性を向上させるために、車両以外にも、歩行者を含む目標(例えば、物体、ターゲット又は物標とも呼ぶ)をより広角な範囲で検知するレーダ装置(以下、「広角レーダ装置」と呼ぶ)の開発が求められている。
【0003】
従来のレーダ装置は、送信アンテナからレーダ送信信号を所定の送信周期において送信し、レーダ送信信号が目標に反射した反射波信号を受信アンテナによって受信し、受信信号を処理することにより、目標までのレンジ(換言すると、距離)、レーダ装置との相対速度、及び、方向等を推定する。
【0004】
レーダ装置の受信信号には、目標に対応するメインローブと、レンジ軸(換言すると、距離軸)方向において目標の前後(換言すると、近傍)に発生するサイドローブ(又は、レンジサイドローブとも呼ぶ)とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-534881号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】テイラー分布、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.134-135(1996)
【文献】Kiyotaka K, et. al., “Advanced Code Sequences Design for Pedestrian Detection in Millimeter-Wave Pulse-Compression Radar System”, Asia Pacific Microwave Conference Proceedings, pp.682-683, 2012
【文献】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling, Cadzow.J.A., Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992, Page(s): 64-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レンジサイドローブは、レーダ装置において目標を誤検出する要因となり得る。
【0008】
本開示の非限定的な実施例は、目標の検出性能を向上するレーダ装置及びレンジサイドローブ判定方法の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、レーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、前記目標に対する距離および方向を推定した情報を含む複数のデータを出力する推定回路と、前記複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された前記距離および前記方向に基づいて、前記目標におけるレンジサイドローブ成分を判定する処理回路と、を具備する。
【0010】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置における目標の検出性能を向上できる。
【0012】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】レーダ装置の構成例を示すブロック図
図2】レーダ装置の構成例を示すブロック図
図3】レーダ送信信号の一例を示す図
図4】送信アンテナの切替制御の一例を示す図
図5】レーダ送信信号生成部の他の構成例を示すブロック図
図6】レーダ送信信号の送信タイミング、及び、測定範囲の一例を示す図
図7】方向推定部の動作説明に用いる3次元座標系を示す図
図8】レンジサイドローブ処理部の動作例を示すフローチャート
図9】レンジサイドローブ処理部のパラメータの一例を示す図
図10A】レンジサイドローブ処理部の動作説明に用いる2次元座標系を示す図
図10B】レンジサイドローブ処理部の動作説明に用いる2次元座標系を示す図
図10C】レンジサイドローブ処理部の動作説明に用いる3次元座標系を示す図
図11A】レンジサイドローブ処理部のレンジサイドローブ判定結果の一例を示す図
図11B】レンジサイドローブ処理部のレンジサイドローブ判定結果の一例を示す図
図12A】レンジサイドローブの除去処理の一例を示す図
図12B】レンジサイドローブの除去処理の一例を示す図
図13】バリエーション2に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
図14】バリエーション3に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図
図15】チャープパルスを用いた場合の送信信号及び反射波信号の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
レーダ装置には、例えば、位相変調、振幅変調、又は、周波数変調したパルス波を繰り返し送信(換言すると発信)するパルスレーダ装置がある。また、より広角な範囲において車両又は歩行者を検知するパルスレーダ装置の受信信号ほど、近距離(例えば、所定距離未満)に存在する目標(例えば車両)と、遠距離(例えば、所定距離以上)に存在する目標(例えば歩行者)からの複数の反射波が混合された信号になりやすい。
【0015】
パルスレーダ装置は、例えば、受信信号に含まれる変調パルス波の復調により得られる反射波の遅延時間信号に基づいて、目標までの距離を推定する。また、パルスレーダ装置は、例えば、反射波のドップラ解析により、目標におけるパルスレーダ装置との相対速度を推定する。
【0016】
また、方位及び仰角の何れか一方又は双方を推定可能な広角レーダ装置では、目標の2次元測位又は3次元測位が可能である。広角レーダ装置の構成例に、以下の2つの構成が挙げられる。
【0017】
一つ目は、検出対象の角度よりも狭角(例えば、数度程度のビーム幅)の指向性ビームを用いて、パルス波又は変調波を機械的又は電子的に走査してレーダ波を送信し、狭角の指向性ビームを用いて反射波を受信する構成である。この構成では、分解能を向上するにはより多くの走査を行うことになるので、例えば、より高速に移動するターゲットに対する追従性が劣化しやすくなる。
【0018】
二つ目は、複数のアンテナ(アンテナ素子)を用いて構成されるアレーアンテナによって反射波を受信し、素子間隔(アンテナ間隔)に対する受信位相差に基づく信号処理アルゴリズムによって反射波の到来角を推定する手法(Direction of Arrival (DOA) estimation)を用いる構成である。この構成では、送信ブランチでの送信ビームの走査間隔を間引いたとしても、受信ブランチにおいて到来角を推定できるので、走査時間の短縮化が図れ、1つ目の構成と比較して、目標の追従性が向上する。例えば、到来方向推定方法には、行列演算に基づくフーリエ変換、逆行列演算に基づくCapon法及びLP(Linear Prediction)法、又は、固有値演算に基づくMUSIC(Multiple Signal Classification)及びESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)が挙げられる。
【0019】
また、レーダ装置には、受信ブランチに加え、送信ブランチにも複数のアンテナ素子(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)がある。MIMOレーダは、例えば、時分割、周波数分割又は符号分割を用いて多重した信号を複数の送信アンテナから送信し、周辺物体で反射された信号を複数の受信アンテナで受信し、受信信号の各々から、多重された送信信号を分離して受信する。
【0020】
また、MIMOレーダでは、送受信アレーアンテナにおけるアンテナ素子の配置を工夫することにより、最大で送信アンテナ素子数と受信アンテナ素子数との積に等しい仮想的な受信アレーアンテナ(以下、仮想受信アレーと呼ぶ)を構成できる。MIMOレーダにおいて、送信アンテナ数と受信アンテナ数との積により示される伝搬路応答を取り出すことができる。MIMOレーダにおいて、送受信アンテナ間隔を適切に配置することにより、少ない素子数によってアレーアンテナの実効的な開口長を拡大し、角度分解能を向上できる。
【0021】
ここで、レンジ軸方向において目標の前後にレンジサイドローブが発生する場合、レーダ装置は、目標前後の領域においてレンジサイドローブを目標と誤って検出する場合がある。
【0022】
また、目標の前後のレンジサイドローブ領域に別の目標が存在する場合、レンジサイドローブによって、当該別の目標に対する受信品質(例えば、Signal to Interference Ratio(SIR))が劣化し得る。例えば、別の目標が、車両等の反射物と比較して反射レベルが低い反射物(例えば、歩行者)である場合、レーダ装置は、目標の前後のレンジサイドローブによって、別の目標の検出が困難である可能性がある。また、レーダ装置において別の目標が正しく検出されたとしても、レンジサイドローブの影響を受けて、目標検出処理の後処理(例えば、クラスタリング、トラッキング又は物体識別等)において、誤った目標であると判定されるといった誤検出の確率が増加しやすくなる。
【0023】
これに対して、レンジサイドローブを低減する方法に、例えば、以下の方法が提案されている。
【0024】
例えば、周波数チャープ信号を用いるレーダ装置において、レーダ受信部において変調信号をパルス圧縮する際に窓関数を用いてレンジサイドローブを低減する方法がある(例えば、非特許文献1を参照)。窓関数は、例えば、レンジサイドローブレベルに応じて選択される。また、例えば、位相変調又は振幅変調した符号化パルスを用いるレーダ装置において、相補符号を用いてレンジサイドローブを低減する方法(低レンジサイドローブ特性)がある(例えば、非特許文献2を参照)。
【0025】
しかし、窓関数を用いることにより、メインローブ幅の拡大による距離分解能の劣化、又は、メインローブレベルの低減(換言すると、損失)が発生し得る(メインローブ特性)。これらの窓関数によるメインローブ特性と低レンジサイドローブ特性とはトレードオフの関係にある。また、窓関数又は相補符号を用いて変復調時にレンジサイドローブを低減する方法では、レーダ装置の送受信部において非線形の信号が発生する環境においてレンジサイドローブの低減効果が劣化する可能性がある。
【0026】
このように、パルス圧縮を行うレーダ装置において、パルス圧縮時の変復調においてレンジサイドローブを低減する方法では、レンジサイドローブが十分に低減されず、レーダ装置において目標を誤検出する可能性がある。
【0027】
そこで、本開示の一実施例では、例えば、レーダ装置の変復調に依らずにレンジサイドローブを低減し、目標の検出性能を向上する方法について説明する。例えば、本開示の一実施例では、レーダ装置の目標検出結果(換言すると、目標推定結果)におけるレンジサイドローブ成分を判定し、除去する。
【0028】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0029】
レンジサイドローブ成分の判定及び除去処理の説明の前に、レーダ装置の構成について説明する。
【0030】
以下では、例えば、周波数変調したパルス圧縮波を用いて、複数の送信アンテナを時分割に切り替えて、時分割多重された異なるレーダ送信信号を送出し、受信アンテナにおいて、各レーダ送信信号を分離して受信処理を行うMIMOレーダの構成について説明する。なお、レーダ装置の構成は、これに限定されない。例えば、レーダ装置は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダ方式にも適応可能である。また、レーダ装置は、複数の送信アンテナから周波数分割多重又は符号分割多重された異なるレーダ送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各レーダ送信信号を分離して受信処理を行う構成でもよい。また、レーダ装置は、広角レーダ装置として角度推定可能な構成であれば、MIMOレーダ方式に限定しない。
【0031】
また、送信アンテナ及び受信アンテナの何れか一方又は双方は複数のアンテナを有してよく、複数のアンテナは、例えば、2次元平面に配置されてよい。
【0032】
なお、以下に説明する実施の形態は一例であり、本開示は以下の実施の形態により限定されるものではない。
【0033】
[レーダ装置の構成]
図1は、本実施の形態に係るレーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【0034】
図1に示すレーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、基準信号生成部300と、を有する。
【0035】
また、図1に示すレーダ受信部200は、例えば、目標の位置、相対速度及び反射波強度等の検出結果を出力する目標検出部215(例えば、推定回路に相当)、及び、レンジサイドローブに関する処理(例えば、判定処理又は除去処理)を行うレンジサイドローブ処理部216(例えば、処理回路に相当)を含む。
【0036】
図2は、図1に示すレーダ装置10のより詳細な構成例を示すブロック図である。
【0037】
レーダ送信部100は、基準信号生成部300から出力されるリファレンス信号に基づいて高周波(無線周波数:Radio Frequency)のレーダ信号(又は、レーダ送信信号と呼ぶ)を生成する。そして、レーダ送信部100は、複数の送信アンテナ108-1~108-Ntによって構成される送信アレーアンテナを用いて、レーダ送信信号を所定の送信周期にて送信する。
【0038】
レーダ受信部200は、レーダ送信信号が目標(図示せず)に反射した反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アレーアンテナを用いて受信する。レーダ受信部200は、基準信号生成部300から出力されるリファレンス信号を用いて、下記の処理動作を行うことで、レーダ送信部100と同期した処理を行う。また、レーダ受信部200は、各受信アンテナ202において受信した反射波信号を信号処理し、例えば、目標の有無検出又は反射波信号の到来方向の推定を行う。
【0039】
なお、目標はレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。
【0040】
基準信号生成部300は、レーダ送信部100及びレーダ受信部200のそれぞれに接続されている。基準信号生成部300は、基準信号としてのリファレンス信号をレーダ送信部100及びレーダ受信部200に供給し、レーダ送信部100及びレーダ受信部200の処理を同期させる。
【0041】
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、切替制御部105と、送信切替部106と、送信無線部107-1~107-Ntと、送信アンテナ108-1~108-Ntと、を有する。すなわち、レーダ送信部100は、Nt個の送信アンテナ108を有し、各送信アンテナ108は、それぞれ個別の送信無線部107に接続されている。
【0042】
レーダ送信信号生成部101は、基準信号生成部300から出力されるリファレンス信号を所定数倍したタイミングクロックを生成し、生成したタイミングクロックに基づいてレーダ送信信号を生成する。そして、レーダ送信信号生成部101は、所定のレーダ送信周期(Tr)にてレーダ送信信号を繰り返し出力する。レーダ送信信号は、例えば、y(k, M)=I(k, M)+j Q(k, M)で表される。ここで、jは虚数単位を表し、kは離散時刻を表し、Mはレーダ送信周期の序数を表す。また、I(k, M)及びQ(k, M)は、第M番目のレーダ送信周期における離散時刻kにおけるレーダ送信信号(k M)の同相成分(In-Phase成分)、及び、直交成分(Quadrature成分)をそれぞれ表す。
【0043】
レーダ送信信号生成部101は、符号生成部102と、変調部103と、LPF(Low Pass Filter)104とを含む。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0044】
符号生成部102は、レーダ送信周期Tr毎に、符号長Lの符号系列の符号an(M)(n=1,…,L)(パルス符号)を生成する。符号生成部102において生成される符号an(M)には、例えば、低レンジサイドローブ特性が得られる符号が用いられる。符号系列としては、例えば、Barker符号、M系列符号、又は、Gold符号などが挙げられる。
【0045】
変調部103は、符号生成部102から出力されるパルス符号系列(例えば、符号an(M))に対してパルス変調(例えば、振幅変調、ASK(Amplitude Shift Keying)、パルスシフトキーイング)又は位相変調(Phase Shift Keying)を行い、変調信号をLPF104へ出力する。
【0046】
LPF104は、変調部103から出力される変調信号のうち、所定の制限帯域以下の信号成分を、ベースバンドのレーダ送信信号として送信切替部106へ出力する。
【0047】
図3は、レーダ送信信号生成部101によって生成されるレーダ送信信号の一例を示す。図3に示すように、レーダ送信周期Trのうち、符号送信区間Twの間に符号長Lのパルス符号系列が含まれる。各レーダ送信周期Trのうち、符号送信区間Twの間にパルス符号系列が送信され、残りの区間(Tr-Tw)は無信号区間となる。1つの符号には、L個のサブパルスが含まれる。また、1つのサブパルスあたり、No個のサンプルを用いたパルス変調が施されることにより、各符号送信区間Tw内には、Nr(=No×L)個のサンプルの信号が含まれる。また、レーダ送信周期Trにおける無信号区間(Tr-Tw)には、Nu個のサンプルが含まれる。
【0048】
図2において、切替制御部105は、レーダ送信部100における送信切替部106、及び、レーダ受信部200における出力切替部211を制御する。なお、切替制御部105における、レーダ受信部200の出力切替部211に対する制御動作についてはレーダ受信部200の動作の説明において後述する。以下では、切替制御部105における、レーダ送信部100の送信切替部106に対する制御動作について説明する。
【0049】
切替制御部105は、例えば、レーダ送信周期Tr毎に、送信アンテナ108(換言すると、送信無線部107)を切り替える制御信号(以下、「切替制御信号」と呼ぶ)を送信切替部106に出力する。
【0050】
送信切替部106は、レーダ送信信号生成部101から出力されるレーダ送信信号を、切替制御部105から出力される切替制御信号によって指示される送信無線部107へ出力する切替動作を行う。例えば、送信切替部106は、切替制御信号に基づいて、複数の送信無線部107-1~107-Ntのうち一つを選択して切り替えて、選択した送信無線部107へレーダ送信信号を出力する。
【0051】
第z(z=1,…,Nt)番目の送信無線部107は、送信切替部106から出力されるベースバンドのレーダ送信信号に対して、周波数変換を行いキャリア周波数(Radio Frequency:RF)帯のレーダ送信信号を生成し、送信増幅器により所定の送信電力P[dB]に増幅して第z番目の送信アンテナ108へ出力する。
【0052】
第z(z=1,…,Nt)番目の送信アンテナ108は、第z番目の送信無線部107から出力されるレーダ送信信号を空間に放射する。
【0053】
図4は、本実施の形態に係る送信アンテナ108の切替動作の一例を示す。なお、本実施の形態に係る送信アンテナ108の切替動作は、図4に示す例に限定されるものではない。
【0054】
図4では、切替制御部105は、レーダ送信周期Tr毎に、第1の送信アンテナ108(又は送信無線部107-1)から第Ntの送信アンテナ108(又は送信無線部107-Nt)までを順に切り替える指示を示す切替制御信号を、送信切替部106に出力する。よって、第1の送信アンテナ108から第Ntの送信アンテナ108の各々において、レーダ送信信号はNp(=Nt×Tr)周期の送信間隔で送信される。
【0055】
切替制御部105は、アンテナ切替周期Npでの送信無線部107の切替動作をNc回繰り返す制御を行う。
【0056】
なお、各送信無線部107における送信信号の送信開始時刻は、周期Trに同期させなくてもよい。例えば、各送信無線部107では、送信開始時刻に異なる送信遅延Δ1, Δ2,…,ΔNtを設けて、レーダ送信信号の送信を開始してもよい。このような送信遅延Δ1, Δ2,…,ΔNtを設ける場合、後述するレーダ受信部200の処理において、送信遅延Δ1, Δ2,…,ΔNtを考慮した送信位相補正係数を導入してよい。これにより、受信信号において、ドップラ周波数による異なる位相回転の影響を抑制できる。このような送信遅延Δ1, Δ2,…,ΔNtを測定毎に可変することで、他のレーダ装置(図示せず)からの干渉がある場合又は他のレーダ装置に干渉を与える場合に、他レーダ間で干渉の影響を相互にランダマイズ化する効果が得られる。
【0057】
また、レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101の代わりに、図5に示すレーダ送信信号生成部101aを備えてもよい。レーダ送信信号生成部101aは、図2に示す符号生成部102、変調部103及びLPF104を有さず、代わりに符号記憶部111及びDA変換部112を備える。符号記憶部111は、符号生成部102(図2)において生成される符号系列を予め記憶し、記憶している符号系列を巡回的に順次読み出す。DA変換部112は、符号記憶部111から出力される符号系列(デジタル信号)をアナログ信号(ベースバンド信号)に変換する。
【0058】
[レーダ受信部200の構成]
図2において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナ202を備え、アレーアンテナを構成する。レーダ受信部200において、目標検出部215は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、Constant False Alarm Rate(CFAR)部213と、方向推定部214と、を有する。
【0059】
目標検出部215は、例えば、目標からの反射波信号を含む受信信号に対する信号処理後、目標の位置、相対速度又は反射波強度等などの検出結果を示す情報(例えば、目標情報又は点群データと呼ぶ)をレンジサイドローブ処理部216へ出力する。
【0060】
レンジサイドローブ処理部216は、目標検出部215から出力される情報に基づいて、目標に対する検出点群の中から、目標に対するレンジサイドローブの可能性がある検出点を判別し、例えば、レンジサイドローブと判別した検出点にフラグ(例えば、レンジサイドローブフラグとも呼ぶ)を立てる。レンジサイドローブ処理部216は、例えば、レンジサイドローブと判別した検出点に関する情報を、目標情報から除去して、除去後の目標情報を出力してよい。又は、レンジサイドローブ処理部216は、目標に対する検出点群のそれぞれがレンジサイドローブと判定されたか否かを示すフラグを含む目標情報を出力してよい。
【0061】
なお、レンジサイドローブ処理部216から出力される目標情報は、例えば、レーダ受信部200の後段のソフトウェア処理部(例えば、クラスタリング、トラッキング又は物体識別等を行う処理部。図示せず)に出力されてよい。
【0062】
図2において、各受信アンテナ202は、レーダ送信信号が目標(ターゲット)に反射した反射波信号を受信し、受信した反射波信号(又は、受信信号と呼ぶ)を、対応するアンテナ系統処理部201へ出力する。
【0063】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部207とを有する。
【0064】
受信無線部203は、増幅器204と、周波数変換器205と、直交検波器206と、を有する。受信無線部203は、基準信号生成部300から出力されるリファレンス信号を所定数倍したタイミングクロックを生成し、生成したタイミングクロックに基づいて動作する。具体的には、増幅器204は、受信アンテナ202から出力される受信信号を所定レベルに増幅し、周波数変換器205は、高周波帯域の受信信号をベースバンド帯域に周波数変換し、直交検波器206は、直交検波により、ベースバンド帯域の受信信号を、I信号及びQ信号を含むベースバンド帯域の受信信号に変換する。
【0065】
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部207は、AD変換部208、209と、相関演算部210と、出力切替部211と、ドップラ解析部212-1~212-Nt(以下、単にドップラ解析部212と呼ぶこともある)と、を有する。
【0066】
AD変換部208には、直交検波器206からI信号が入力され、AD変換部209には、直交検波器206からQ信号が入力される。AD変換部208は、I信号を含むベースバンド信号に対して、離散時刻でのサンプリングを行うことにより、I信号をデジタルデータに変換する。AD変換部209は、Q信号を含むベースバンド信号に対して、離散時刻でのサンプリングを行うことにより、Q信号をデジタルデータに変換する。
【0067】
ここで、AD変換部208,209のサンプリングでは、例えば、レーダ送信信号における1つのサブパルスの時間Tp(=Tw/L)あたり、Ns個の離散サンプルが行われる。すなわち、1サブパルスあたりのオーバーサンプル数はNsとなる。
【0068】
以下の説明では、I信号Iz(k, M)及びQ信号Qz(k, M)を用いて、AD変換部208,209の出力としての第M番目のレーダ送信周期Tr[M]の離散時刻kにおけるベースバンドの受信信号を複素数信号xz(k, M)=Iz(k, M)+j Qz(k, M)と表す(ただし、z=1~Naの何れか)。また、以下では、離散時刻kは、レーダ送信周期(Tr)の開始するタイミングを基準(k=1)とし、信号処理部207は、レーダ送信周期Trが終了する前までのサンプル点であるk=(Nr+Nu)Ns/Noまで周期的に動作する。すなわち、k=1,…,(Nr+Nu)Ns/Noとなる。ここで、jは虚数単位である。
【0069】
第z(z=1,…,Na)番目の信号処理部207における相関演算部210は、レーダ送信周期Tr毎に、AD変換部208,209から受け取る離散サンプル値Iz(k, M)及びQz(k, M)を含む離散サンプル値xz(k, M)と、レーダ送信部100において送信される符号長Lのパルス符号an(M)(ただし、z=1,…,Na、n=1,…,L)との相関演算を行う。例えば、相関演算部210は、離散サンプル値xz(k, M)と、パルス符号an(M)とのスライディング相関演算を行う。例えば、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]における離散時刻kのスライディング相関演算の相関演算値ACz(k, M)は、次式に基づき算出される。
【数1】
【0070】
式(1)において、アスタリスク(*)は複素共役演算子を表す。
【0071】
相関演算部210は、例えば、式(1)に従って、k=1,…,(Nr+Nu)Ns/Noの期間に渡って相関演算を行う。
【0072】
なお、相関演算部210は、k=1,…,(Nr+Nu)Ns/Noに対して相関演算を行う場合に限定されず、レーダ装置10の測定対象となるターゲットの存在範囲に応じて、測定レンジ(すなわち、kの範囲)を限定してもよい。これにより、レーダ装置10では、相関演算部210の演算処理量の低減が可能となる。例えば、相関演算部210は、k=Ns(L+1),…,(Nr+Nu)Ns /No-NsLに測定レンジを限定してもよい。この場合、図6に示すように、レーダ装置10は、符号送信区間Twに相当する時間区間では測定を行わない。
【0073】
これにより、レーダ装置10は、レーダ送信信号がレーダ受信部200に直接的に回り込むような場合でも、レーダ送信信号が回り込む期間(少なくともτ1未満の期間)では相関演算部210による処理が行われないので、回り込みの影響を排除した測定が可能となる。また、測定レンジ(kの範囲)を限定する場合、以下で説明する出力切替部211、ドップラ解析部212、CFAR部213及び方向推定部214の処理に対しても、同様に測定レンジ(kの範囲)を限定した処理を適用すればよい。これにより、各構成部での処理量を削減でき、レーダ受信部200における消費電力を低減できる。
【0074】
図2において、出力切替部211は、切替制御部105から入力される切替制御信号に基づいて、レーダ送信周期Tr毎の相関演算部210の出力を、Nt個のドップラ解析部212のうちの一つに選択的に切り替えて出力する。以下、一例として、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]における切替制御信号をNtビットの情報[bit1(M), bit2(M), … ,bitNt(M)]で表す。例えば、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]の切替制御信号において、第NDビット(ただし、ND=1~Ntの何れか)が‘1’である場合、出力切替部211は、第ND番目のドップラ解析部212を選択(換言するとON)する。一方、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]の切替制御信号において、第NDビットが‘0’である場合、出力切替部211は、第ND番目のドップラ解析部212を非選択(換言するとOFF)とする。出力切替部211は、選択したドップラ解析部212に対して、相関演算部210から入力される相関演算値ACz(k, M)を出力する。
【0075】
例えば、図4に示す送信無線部107(又は送信アンテナ108)の切替動作に対応するNtビットの切替制御信号を以下に示す。
[bit1(1), bit2(1), … ,bitNt(1)] = [1, 0, …, 0]
[bit1(2), bit2(2), … ,bitNt(2)] = [0, 1, …, 0]

[bit1(Nt), bit2(Nt), … ,bitNt(Nt)] = [0, 0, …, 1]
【0076】
上記のように、各ドップラ解析部212は、Np(=Nt×Tr)周期で順次選択される(換言すると、ONとなる)。例えば、切替制御信号は、上記内容をNc回繰り返す。
【0077】
第z(z=1,…,Na)番目の信号処理部207は、Nt個のドップラ解析部212を有する。
【0078】
ドップラ解析部212は、出力切替部211からの出力(例えば、相関演算値ACz(k, M))に対して、離散時刻k毎にドップラ解析を行う。例えば、Ncが2のべき乗値である場合、ドップラ解析において高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を適用できる。
【0079】
第z番目の信号処理部207の第ND番目のドップラ解析部212における第w番目の出力は、次式に示すように、離散時刻kにおけるドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数応答FT_CIz (ND)(k, fs, w) を示す。なお、ND=1~Ntであり、k=1,…, (Nr+Nu)Ns/Noであり、wは1以上の整数である。また、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数2】
【0080】
なお、FFT処理の際、ドップラ解析部212は、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0081】
以上、信号処理部207の各構成部における処理について説明した。
【0082】
図2において、CFAR部213は、ドップラ解析部212からの出力を用いて、CFAR処理(換言すると、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与える離散時刻のインデックスk_cfar及びドップラ周波数のインデックスfs_cfarを抽出し、方向推定部214に出力する。
【0083】
なお、レーダ装置10は、CFAR処理を行わずに、方向推定部214において方向推定処理を行ってもよい。
【0084】
図2において、方向推定部214は、CFAR部213から出力される情報(例えば、時間インデックスk_cfar、及び、ドップラ周波数インデックスfs_cfar)に基づいて、各ドップラ解析部212からの出力を用いて目標の方向推定処理を行う。
【0085】
例えば、方向推定部214は、式(3)に示すような仮想受信アレー相関ベクトルh(k, fs, w)を生成し、方向推定処理を行う。
【0086】
以下では、アンテナ系統処理部201-1~201-Naの各信号処理部207で同様な処理を施して得られたドップラ解析部212-1~212-Ntからのw番目の出力をまとめたものを、式(3)(式(4))に示すような送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む、仮想受信アレー相関ベクトルh(k,f,w)として表記する。仮想受信アレー相関ベクトルh(k,fs,w)は、ターゲットからの反射波信号に対して各受信アンテナ202間の位相差に基づく方向推定を行う処理に用いる。ここで、z=1,…,Naであり、ND=1,…,Ntである。
【数3】
【数4】
【0087】
ここで、CFAR処理が行われる場合、仮想受信アレー相関ベクトルh(k,f,w)はCFAR処理によって抽出したピーク信号のインデックスを用いてh(k_cfar,fs_cfar,w)となる。仮想受信アレー相関ベクトルh(k_cfar, fs_cfar, w)は、Na×Nt個の要素から構成される列ベクトルである。
【0088】
また、レーダ装置10では、送信アンテナ108を時分割で切り替えているため、異なるドップラ周波数fにおいて異なる位相回転が発生する。式(3)及び式(4)において、TxCAL(1)(f),…,TxCAL(Nt)(f)は、その位相回転を補正し、基準送信アンテナの位相に一致させるための送信位相補正係数である。
【0089】
例えば、図4に示す送信無線部107(又は送信アンテナ108)の切替動作に対応する、第1の送信アンテナ108(ND=1)を基準送信アンテナとした場合、送信位相補正係数は、次式で表される。
【数5】
【0090】
なお、各送信無線部107の送信信号の送信開始時刻に異なる送信遅延Δ,Δ,…,ΔNtを設けた場合、式(5)に示す送信位相補正係数TxCAL(ND)(f)に式(6)の補正係数ΔTxCAL (ND)(f)を乗算し、新たな送信位相補正係数TxCAL(ND)(f)としてよい。これにより、受信信号において、ドップラ周波数によって異なる位相回転の影響を抑制できる。ここで、ΔTxCAL (ND)(f)のNDは、位相基準とする基準送信アンテナ番号である。
【数6】
【0091】
図2において、方向推定部214は、第1の信号処理部207~第Naの信号処理部207から出力されるw番目のドップラ解析部212の仮想受信アレー相関ベクトルh(k,fs,w)に対して、送信アンテナ間及び受信アレーアンテナ間の移相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値hcal[b]を乗算することで、アンテナ間偏差を補正した仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k,fs,w)を算出する。仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k,fs,w)は式(7)で表される。なお、b=1,…,(Nt×Na)である。
【数7】
【0092】
アンテナ間偏差を補正した仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k,fs,w)は、Na×Nt個の要素からなる列ベクトルである。以下では、仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k,fs,w)の各要素をh1(k,fs,w),…,hNa×Nt(k,fs,w)と表記して、方向推定処理の説明に用いる。
【0093】
方向推定部214は、仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k,fs,w)を用いて、受信アンテナ202間の反射波信号の位相差に基づいて方向推定処理を行う。
【0094】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θ,k,fs,w)における方位方向θを所定の角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出し、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値とする。
【0095】
なお、評価関数値PH(θ,k,fs,w)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種のものがある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。例えばビームフォーマ法は式(8)及び式(9)のように表すことができる。他にも、Capon, MUSIC等の手法も同様に適用可能である。
【数8】
【数9】
【0096】
ここで、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。また、aHu)は、方位方向θuの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルを示す。また、θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたものである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、u=0,…, NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0097】
上述した方向推定部214の処理を図7に示す3次元座標系に適応し、2次元方向に推定処理を行う場合について説明する。
【0098】
図7は、原点Oを基準とした目標(ターゲット)PTの位置ベクトルをrPTと定義する。また、図7では、目標PTの位置ベクトルrPTをXZ平面に射影した射影点をPT’とする。この場合、方位角θは、直線O-PT’とZ軸とのなす角度と定義される(目標PTのX座標が正の場合、θ>0)。また、仰角φは、目標PT、原点O及び射影点PT’を含む平面内での、目標PT、原点O及び射影点PT’を結ぶ線の角度と定義される(目標PTのY座標が正の場合、φ>0)。なお、以下では、XY平面内に送信アンテナ108及び受信アンテナ202を配置する場合を一例として説明を行う。
【0099】
原点Oを基準とした、仮想受信アレーにおける第nva番目のアンテナ素子の位置ベクトルをSnvaと表記する。ここで、nva=1,…, Nt×Naである。
【0100】
また、仮想受信アレーにおける第1番目(nva=1)のアンテナ素子の位置ベクトルSは、第1番目の受信アンテナ202の物理的な位置と原点Oとの位置関係に基づいて決定される。仮想受信アレーにおける他のアンテナ素子の位置ベクトルS,…,Snvaは、第1番目のアンテナ素子の位置ベクトルSを基準に、XY平面内に存在する送信アンテナ108及び受信アンテナ202の素子間隔から決定される仮想受信アレーの相対的な配置を保持した状態で決定される。なお、原点Oを第1番目の受信アンテナ202の物理的な位置と一致させてもよい。
【0101】
レーダ受信部200が遠方界に存在する目標PTからの反射波を受信する場合、仮想受信アレーの第1番目のアンテナ素子での受信信号を基準とした、第2番目のアンテナ素子での受信信号の位相差d(rPT,2,1)は、式(10)で示される。ここで、<x,y>はベクトルx及びベクトルyの内積演算子である。
【数10】
【0102】
なお、仮想受信アレーの第1番目のアンテナ素子の位置ベクトルを基準とした、第2番目のアンテナ素子の位置ベクトルを、素子間ベクトルD(2,1)として式(11)で表す。
【数11】
【0103】
同様に、レーダ受信部200が遠方界に存在する目標PTからの反射波を受信する場合、仮想受信アレーの第nva (r)番目のアンテナ素子での受信信号を基準とした、第nva (t)番目のアンテナ素子での受信信号の位相差d(rPT, nva (t),nva (r))は、式(12)で示される。ここで、nva (r)=1,…, Nt×Na、nva (t)=1,…, Nt×Naである。
【数12】
【0104】
なお、仮想受信アレーの第nva (r)番目のアンテナ素子の位置ベクトルを基準とした、第nva (t)番目のアンテナ素子の位置ベクトルを、素子間ベクトルD(nva (t),nva (r))として式(13)で表す。
【数13】
【0105】
式(12)及び式(13)に示すように、仮想受信アレーの第nva (r)番目のアンテナ素子での受信信号を基準とした、第nva (t)番目のアンテナ素子での受信信号の位相差d(rPT,nva (t), nva (r))は、遠方界に存在する目標PTの方向を示す単位ベクトル(rPT/|rPT|)及び素子間ベクトルD(nva (t), nva (r))に依存する。
【0106】
また、仮想受信アレーが同一平面内に存在する場合、素子間ベクトルD(nva (t),nva (r))は同一平面上に存在する。方向推定部214は、このような素子間ベクトルの全て又は一部を用いて、素子間ベクトルが示す位置に仮想的にアンテナ素子が存在するとして、仮想面配置アレーアンテナを構成し、2次元における方向推定処理を行う。すなわち、方向推定部214は、仮想受信アレーを構成するアンテナ素子に対する補間処理によって補間された複数の仮想的なアンテナ素子を用いて到来方向推定処理を行う。
【0107】
なお、方向推定部214は、仮想的なアンテナ素子が重複する場合、重複するアンテナ素子のうちの一つのアンテナ素子を予め固定的に選択してもよい。または、方向推定部214は、重複する全ての仮想的なアンテナ素子での受信信号を用いて加算平均処理を施してもよい。
【0108】
以下、Nq個の素子間ベクトル群を用いて、仮想面配置アレーアンテナを構成した場合における、ビームフォーマ法を用いた2次元における方向推定処理について説明する。
【0109】
ここで、仮想面配置アレーアンテナを構成する第nq番目の素子間ベクトルをD(nva(nq) (t),nva(nq) (r))と表す。ここで、nq=1,…,Nqである。
【0110】
例えば、方向推定部214は、仮想受信アレー相関ベクトルh_after_cal(k, fs, w)の各要素であるh1(k, fs, w),…,hNa×N(k, fs, w)を用いて、式(14)に示す仮想面配置アレーアンテナ相関ベクトルhVA(k, fs, w)を生成する。
【数14】
【0111】
仮想面配置アレー方向ベクトルaVA(θu, φv)を式(15)に示す。
【数15】
【0112】
仮想受信アレーがXY平面内に存在する場合、目標PTの方向を示す単位ベクトル(rPT/|rPT|)と、方位角θ及び仰角φとの関係を式(16)に示す。
【数16】
【0113】
方向推定部214は、垂直方向及び水平方向の2次元空間プロファイルを算出する各角度方向θu,φvに対して、式(16)を用いて単位ベクトル(rPT/|rPT|)を算出する。
【0114】
さらに、方向推定部214は、仮想面配置アレーアンテナ相関ベクトルhVA(k,fs,w)、及び、仮想面配置アレー方向ベクトルaVA(θu,φv)を用いて、水平方向及び垂直方向の2次元方向推定処理を行う。
【0115】
ビームフォーマ法を用いた2次元における方向推定処理では、方向推定部214は、仮想面配置アレーアンテナ相関ベクトルhVA(k,fs,w)及び仮想面配置アレー方向ベクトルaVA(θu,φv)を用いて、式(17)で示される2次元における方向推定評価関数を用いて垂直方向及び水平方向の2次元空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した2次元空間プロファイルの最大値又は極大値となる方位角及び仰角方向を到来方向推定値とする。
【数17】
【0116】
なお、方向推定部214は、ビームフォーマ法以外にも、仮想面配置アレーアンテナ相関ベクトルhVA(k, fs, w)及び仮想面配置アレー方向ベクトルaVA(θu, φv)を用いて、Capon法又はMUSIC法などの高分解能到来方向推定アルゴリズムを適用してもよい。これにより、演算量は増加するが、角度分解能を向上できる。
【0117】
また、方向推定部214では、図7の3次元座標系に示すように2次元方向に推定処理を行う場合について説明したが、これに限らず、2次元座標系に対応した1次元方向に推定処理を行う場合にも適応可能である。
【0118】
また、ここでは、レーダ送信部100及びレーダ受信部200における複数のアンテナを用いるMIMOレーダの方向推定処理について説明したが、レーダ送信部100及びレーダ受信部200のいずれか一方が複数のアンテナを有する場合についても同様に適応可能である。
【0119】
以上、方向推定部214の動作について説明した。
【0120】
なお、上述した時刻情報kは、距離情報に変換して出力されてもよい。時刻情報kを距離情報R(k)に変換する際には式(18)を用いられてよい。ここで、Twは符号送信区間を表し、Lはパルス符号長を表し、C0は光速度を表す。
【数18】
【0121】
また、ドップラ周波数情報は相対速度成分に変換して出力されてもよい。ドップラ周波数fsΔφを相対速度成分vd(fs)に変換する際には式(19)が用いられてよい。ここで、λはRF信号のキャリア周波数の波長である。
【数19】
【0122】
[レーダ装置10におけるレンジサイドローブ処理例]
以上の構成を有するレーダ装置10のレンジサイドローブ処理部216の動作例について説明する。
【0123】
以下では、一例として、レンジサイドローブ処理部216は、目標検出部215から出力された目標データ(または、反射波のN個の点群(以下、プリターゲット点群とも呼ぶ)Pnt(nt=1~N)データとも呼ぶ)に基づいて、プリターゲット点群の中から、レンジサイドローブの可能性のあるプリターゲット点を判別する。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、プリターゲット点群の各々に対して、レンジサイドローブ成分であるか否かを判定する。
【0124】
なお、目標検出部215から入力される目標情報(又は点群データと呼ぶ)のうち、nt(nt=1~N)番目のプリターゲット点に対する点データには、例えば、プリターゲット点のそれぞれの推定された位置(例えば、距離Rnt、方位角θnt及び仰角φnt)、推定された相対速度vnt、及び、推定された電力Pwntに関する情報が含まれる。距離Rntは、例えば、式(18)に示す距離情報(又は時刻情報k)に対応する。方位角θnt及び仰角φntは、例えば、方向推定部214において得られる到来方向推定値に対応する。相対速度vntは、例えば、式(19)に示す相対速度成分に対応する。電力Pwntは、例えば、仮想受信アレー相関ベクトルh(k,f,w)又は仮想面配置アレーアンテナ相関ベクトルhVA(k, fs, w)から算出される。
【0125】
図8は、レンジサイドローブ処理部216における動作例を示すフローチャートである。
【0126】
レンジサイドローブ処理部216は、例えば、目標検出部215(例えば、図1又は図2を参照)から目標情報が出力された後(換言すると、目標の推定処理後)に図8に示す動作を開始してよい。
【0127】
<プリターゲット点のサーチ>
図8において、レンジサイドローブ処理部216は、N個のプリターゲット点群の中から、電力Pwnt(nt=1~N)が閾値電力Pwth以上(換言すると、Pwnt≧Pwth)のプリターゲット点を抽出(換言すると、サーチ)する(S101)。
【0128】
ここで、閾値電力Pwthは、例えば、仮想受信アレーの全てのノイズフロアレベルの合計に対して、計算上理想的なレンジサイドローブレベルを加算したレベルと同程度又は以下に設定されてよい。閾値電力Pwthが小さいほど、閾値電力Pwth以上のプリターゲット点の数が増加しやすく、レンジサイドローブ処理部216においてレンジサイドローブであるか否かを判定する対象のプリターゲット点が多くなる。
【0129】
閾値電力Pwthは、仮想受信アレーの全てのノイズフロアレベルの合計に対して、計算上理想的なレンジサイドローブレベルを加算したレベルとすることで、明らかに、レンジサイドローブレベルであるプリターゲット点を排除することができる。
【0130】
<プリターゲット点のグループ化>
レンジサイドローブ処理部216は、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点に対してグループ化を行う(S102)。
【0131】
図10Aは、2次元の座標系におけるレンジサイドローブ処理部216におけるプリターゲット点のグループ化処理の一例を示す図である。図10Aは、FFT処理後の距離-方位の2次元マップであり、横軸xが方位方向、縦軸zが距離方向である。
【0132】
例えば、レンジサイドローブ処理部216は、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点のうち1つを、グループの代表点Pgに設定する。図10Aでは、3つのグループ(グループ1,2及び3)が設定され、各グループの電力Pwntが最大のプリターゲット点を代表点Pgとして設定してもよい。
【0133】
レンジサイドローブ処理部216は、各グループの代表点Pgの距離Rngと他のプリターゲット点Pnt(例えば、N-1個のプリターゲット点)の距離Rntとの差分が閾値距離「Rg」以内(換言すると、|Rng-Rnt|≦Rg)であるか否かを判定する。
【0134】
次に、レンジサイドローブ処理部216は、図示しない相対速度v、方位角θ、及び、仰角φについても、代表点Pgと他のプリターゲット点Pntとの間の差分が閾値速度vg、閾値方位角θg、及び、閾値仰角φg以内(|vng-vnt|≦vg、|θng-θnt|≦θg及び|φng-φnt|≦φg)であるか否かを判定する。
【0135】
レンジサイドローブ処理部216は、例えば、|Rng-Rnt|≦Rg、|vng-vnt|≦vg、|θng-θnt|≦θg、及び、|φng-φnt|≦φgの全てを満たす場合、代表点Pgのグループにプリターゲット点Pntを含める。一方、レンジサイドローブ処理部216は、例えば、|Rng-Rnt|≦Rg、|vng-vnt|≦vg、|θng-θnt|≦θg、及び、|φng-φnt|≦φgの何れかを満たさない場合、代表点Pgのグループにプリターゲット点Pntを含めない。
【0136】
ここで、グループ化に用いるパラメータ(例えば、閾値)は、例えば、距離方向又は速度方向のメインローブ幅に応じて設定されてよい。なお、速度方向又は速度方向とは、
プリターゲット点をFFT処理した後に得られる、距離-速度の2次元マップでの距離方向、速度方向である。なお、距離、速度を求める際に、信号処理のパラメータ(窓関数、FFTポイント数など)でメインローブ幅は一意に求めることができる。
【0137】
グループ化に用いる閾値距離Rgは、例えば、図9に示すように、2Rgの値が距離方向のメインローブの幅と同程度に設定されてよい。同様に、グループ化に用いる閾値速度vgは、2vgが速度方向のメインローブの幅と同程度に設定されてよい(図示せず)。なお、図9に示す特性は、予め、信号処理部297bにおけるFFTポイント数と窓関数によって決定される。
【0138】
また、同一グループ内のプリターゲット点群の到来方向は同様であると仮定する。そこで、グループ化に用いる閾値方位角θg及び閾値仰角φgは、例えば、仮想受信アレーに対するビームフォーマ法によって形成されるビーム幅の1/10程度の値に設定されてよい。なお、閾値方位角θg及び閾値仰角φgの値は、ビーム幅の1/10の値に限定されない。
【0139】
このように、レンジサイドローブ処理部216は、例えば、目標検出部215において検出されたプリターゲット点群(換言すると、点群データ)のうち、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点(換言すると、点データ)と、少なくとも、代表点の推定された距離Rngとの差が閾値Rg以内であり、かつ、代表点の推定された方向(例えば、θng及びφngの少なくとも一方)との差が閾値(例えば、θg及びφgの少なくとも一方)以内であるプリターゲット点(換言すると、点データ)とを1つのグループにグループ化する。
【0140】
換言すると、距離方向及び速度方向のメインローブ内に含まれるプリターゲット点が同一グループにグループ化される。各グループの代表点(例えば、電力Pwが最大のプリターゲット点)は、例えば、目標(換言すると、メインローブ)に対応する。なお、各グループの代表点は、電力Pwが最大のプリターゲット点に限らず、他のプリターゲット点でもよい。
【0141】
なお、プリターゲット点群のグループ化処理は、これに限らず、距離方向及び速度方向のメインローブ内のプリターゲット点群をグループ化できればよい。
【0142】
また、レンジサイドローブ処理部216は、1つのグループにグループ化されたプリターゲット点群のうち、例えば、電力Pwntが最大のプリターゲット点をグループの代表点Pgに設定してよい。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、電力がグループの代表点Pgよりも大きいプリターゲット点がグループ化された場合、当該プリターゲット点をグループの新たな代表点に設定(換言すると、代表点の更新)してよい。なお、レンジサイドローブ処理部216は、グループ内に含まれるプリターゲット点が一つの場合、当該プリターゲット点をグループの代表点に設定する。
【0143】
レンジサイドローブ処理部216は、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点に対するグループ化が全て完了したか否かを判断する(S103)。レンジサイドローブ処理部216は、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点に対するグループ化が全て完了していない場合(S103:No)にはS102の処理を再び行い、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点に対するグループ化が全て完了した場合(S103:Yes)にはS104の処理を行う。
【0144】
以上により、レンジサイドローブ処理部216は、例えば、Ng個のグループng(ng=1~Ng)を設定する。
【0145】
なお、レンジサイドローブ処理部216は、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点のうち、残りののプリターゲット点に対するグループ化処理において、最初のグループに含まれたプリターゲット点に対するグループ化処理を行わなくてよい。
【0146】
レンジサイドローブ処理部216は、グループに含まれるプリターゲット点(換言すると、点データ)の何れか一つに対してレンジサイドローブ成分の判定を行う。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、グループng(ng=1~Ng)内の代表点Pgng(例えば、電力Pwが最大のプリターゲット点)に対してレンジサイドローブ判定を行う(S104)。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、グループng内に含まれる、代表点Pgngと異なる他のプリターゲット点に対してレンジサイドローブ判定を行わない。
【0147】
これにより、レンジサイドローブ処理部216では、レンジサイドローブ判定の対象になるプリターゲット点の数を低減できる。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、同一のメインローブに含まれる複数のプリターゲット点群に対してレンジサイドローブ判定を重複して行うことを防止できる。よって、レンジサイドローブ処理部216におけるレンジサイドローブ判定の処理量を低減できる。
【0148】
<レンジサイドローブ判定>
レンジサイドローブ処理部216は、例えば、プリターゲット点群(換言すると、点群データ)Pntにおいて、各グループの代表点Pg(換言すると、目標)の推定された方向について、代表点Pgの距離Rgとの差が閾値Rrsl以内のプリターゲット点(換言すると、点データ)を、代表点Pgに対するレンジサイドローブ成分と判定する。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、例えば、各グループの代表点Pgの推定された方向の差、及び、代表点Pgの推定された距離Rgの差が閾値Rrsl以内である他のプリターゲット点を、代表点Pgに対するレンジサイドローブ成分と判定する。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、推定された方向が目標と同じであり、かつ、距離が目標と異なるプリターゲット点を、当該目標のレンジサイドローブと判定する。
【0149】
例えば、レンジサイドローブ処理部216は、各グループの代表点Pgngの情報(例えば、距離Rng、相対速度vngsl、方位角θng及び仰角φngと他のプリターゲット点群Pnt(例えば、N-1個)の情報(例えば、距離Rnt、相対速度vnt、方位角θnt及び仰角φng)とを比較する。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、代表点Pgngのパラメータと、他のプリターゲット点群Pntのパラメータとの差分が閾値(例えば、距離Rrsl、相対速度vrsl、方位角θrsl及び仰角φrsl)の範囲内(例えば、|Rng-Rnt|≦Rrsl、|vng-vnt|≦vrsl、|θng-θnt|≦θrsl及び|φng-φnt|≦φrsl)であるか否かを判定する。
【0150】
レンジサイドローブ処理部216は、例えば、|Rng-Rnt|≦Rrsl、|vng-vnt|≦vrsl、|θng-θnt|≦θrsl、及び|φng-φnt|≦φrslを全て満たすプリターゲット点Pntを、代表点Pgng(換言すると、目標)に対するレンジサイドローブ成分と判定する。なお、図10Aのグループ2は、グループ1のレンジサイドローブ成分とは判断しない。
【0151】
なお、グループの代表点が、他のグループの代表点のレンジサイドローブと判定された場合、レンジサイドローブ処理部216は、電力が小さい点を電力が大きい代表点のレンジサイドローブ成分と判定する。ここで、図10A(又は、後述する図10B)では、グループ3の代表点が、グループ1のレンジサイドローブと判断される。また、例えば、、グループ2の代表点の電力が、グループ1の代表点の電力より小さい場合、グループ2はレンジサイドローブと判断される。
【0152】
例えば、レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブと判定したプリターゲット点Pntに対して、レンジサイドローブであることを示すフラグ(以下、レンジサイドローブフラグ)を立ててよい。
【0153】
ここで、レンジサイドローブ判定に用いられる閾値(例えば、Rrsl、vrsl、θrsl、及び、φrsl)のうち、距離Rrlsは、例えば、距離軸方向のレンジサイドローブが生じ得る距離に設定されてよい。例えば、図9のように、Rrlsの値は、第1サイドローブまでがレンジサイドローブと判定される範囲に設定されてよい。なお、レンジサイドローブと判定される範囲は、第1サイドローブに限定されず、他の範囲(例えば、第2以降のサイドローブ)でもよい。また、距離軸方向においてレンジサイドローブが現れる位置は、例えば、レーダ装置10における信号処理の方法に依存して定まってよい。
【0154】
また、速度vrslは、例えば、グループの代表点Pgngの相対速度vgと同程度としてよい。これにより、レンジサイドローブ処理部216は、速度方向においてグループの代表点Pgngの相対速度に対応するメインローブに対して、レンジサイドローブを判定できる。
【0155】
同様に、方位角θrls及び仰角φrslは、例えば、グループの代表点Pgngの方位角θg及び仰角φgと同程度、又は、仮想受信アレーが形成するビーム幅程度としてよい。これより、レンジサイドローブ処理部216では、グループの代表点Pgngの到来方向においてレンジサイドローブを判定できる。
【0156】
図8において、レンジサイドローブ処理部216は、全てのグループの代表点Pgngに対するレンジサイドローブ判定が完了したか否かを判断する(S105)。レンジサイドローブ処理部216は、全てのグループの代表点Pgngに対するレンジサイドローブ判定が完了していない場合(S105:No)にはS104の処理を再び行い、全てのグループの代表点Pgngに対するレンジサイドローブ判定が完了した場合(S105:Yes)には処理を終了する。
【0157】
以上、図8に示すレンジサイドローブ処理部216における動作例について説明した。
【0158】
次に、図10Bは、2次元(方位-距離)の座標系におけるレンジサイドローブ処理部216におけるレンジサイドローブ判定処理の一例を示す。図10Bは、簡略化のため、一例として、X-Z平面の2次元表示とし、Y平面については省略する。また、図10Cは、3次元(方位-仰角-距離)の座標系におけるレンジサイドローブ処理部216におけるレンジサイドローブ判定処理の一例を示す。
【0159】
図10B及び図10Cは、目標検出部215において検出された反射波の点群データ(換言すると、プリターゲット点群)の一例を示す。例えば、点群データには、点群データを成す個々の点データ(換言すると、プリターゲット点)についての推定された距離、方向、及び電力に関する情報が含まれてよい。また、点群データには、推定された距離、方向、及び電力に加え、個々の点データについてのレーダ装置10に対する相対速度に関する情報が含まれてもよい。
【0160】
図10B及び図10Cに示すように、レンジサイドローブ処理部216は、まず、電力Pwntが閾値電力Pwth以上のプリターゲット点に対してグループ化する。図10B及び図10Cでは、グループの代表点と、2つのプリターゲット点とが1つのグループにグループ化されている。
【0161】
図10B及び図10Cに示すように、電力Pwntが閾値以上のプリターゲット点が複数個存在する場合でも、レンジサイドローブ処理部216は、同一グループに含まれるこれらのプリターゲット点を同一メインローブに対応するプリターゲット点群と判断する。そして、レンジサイドローブ処理部216は、グループ化されたプリターゲット点のうち、代表点に対してレンジサイドローブ判定を行う。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、グループに含まれる代表点と異なる他のプリターゲット点に対してレンジサイドローブ判定を行わない。
【0162】
次に、図10B及び図10Cに示すように、レンジサイドローブ処理部216は、グループの代表点(換言するとメインローブ)に対するレンジサイドローブの判定範囲にプリターゲット点が存在するか否かを判定する。図10Bに示す例では、グループの代表点に対するレンジサイドローブの判定範囲は、|Rng-Rnt|≦Rrsl及び|θng-θnt|≦θrslの範囲である。また、図10Cに示す例では、グループの代表点に対するレンジサイドローブの判定範囲は、|Rng-Rnt|≦Rrsl、|θng-θnt|≦θrsl、及び|φng-φnt|≦φrslの範囲である。なお、レンジサードローブ判定範囲Rrslは計算値、若しくは事前に実測した値から図9のように設定され、レンジサイドローブが発生しうる範囲に決定される。図9では、第1レンジサイドローブまでを範囲としているが、SNRとレンジサイドローブのレベルに依存して決定してもよい。
【0163】
そして、図11A及び図11Bに示すように、レンジサイドローブ処理部216は、グループの代表点に対するレンジサイドローブの判定範囲に含まれるプリターゲット点を、レンジサイドローブと判定する。
【0164】
例えば、レンジサイドローブ処理部216は、図11A及び図11Bにおいてレンジサイドローブと判定したプリターゲット点を、図12A及び図12Bに示すように、除去してよい。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブに判定されたプリターゲット点とは異なるプリターゲット点(例えば、代表点)の目標情報を、レーダ装置10の後段の処理部(例えば、クラスタリング、トラッキング又は物体識別などを行うソフトウェア処理部)へ出力する。
【0165】
または、レンジサイドローブ処理部216は、N個のプリターゲット点群の各々がレンジサイドローブ成分であるか否かを示す情報(例えば、レンジサイドローブフラグ)を目標情報に含めてもよい。レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブフラグを含む目標情報をレーダ装置10の後段の処理部(例えば、クラスタリング、トラッキング又は物体識別などを行うソフトウェア処理部)へ出力してよい。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブと判定したプリターゲット点を除去しなくてもよい。
【0166】
ここで、2次元測位では、距離に加え、方位角及び仰角の何れか一方の測位が可能である。このため、2次元測位では、例えば、目標(又はメインローブ)及びレンジサイドローブの到来方向の判定に関して、方位角及び仰角のうち、測位可能な角度が同一であっても、測位困難な角度が異なる場合があり得る。一方、3次元測位では、距離、方位角及び仰角の全ての方向の測位が可能である。このため、3次元測位では、目標(又はメインローブ)及びレンジサイドローブの到来方向の判定精度は2次元測位よりも高い。よって、3次元測位は、2次元測位と比較して、レンジサイドローブの判定精度が高い。
【0167】
そこで、レーダ装置10において、例えば、図10Bに示すように3次元測位をサポートする場合、レンジサイドローブ処理部216は、図12Bに示すようにレンジサイドローブを除去した後の目標情報を後段の処理部に出力してよい。これにより、例えば、レーダ装置10の後段の処理部は、レンジサイドローブが除去された目標情報を用いた処理を行うことができる。換言すると、レーダ装置10の後段の処理部は、レンジサイドローブの影響を低減して、目標に対する処理を行うことができる。
【0168】
一方、レーダ装置10において、例えば、図10Aに示すように2次元測位をサポートする場合(換言すると、3次元測位をサポートしない場合)、レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブフラグを含む目標情報を、レーダ装置10の後段の処理部に出力してよい。レーダ装置10の後段の処理部は、例えば、レンジサイドローブフラグに基づいて、例レンジサイドローブの可能性のあるプリターゲット点に基づいて、クラスタリング、トラッキング又は物体識別等の処理を行うことができる。
【0169】
なお、レーダ装置10において2次元測位をサポートする場合に限らず、例えば、3次元測位をサポートするが、方位角及び仰角の何れか一方又は両方の測位精度が劣化している場合にも、レンジサイドローブ処理部216は、レンジサイドローブフラグを含む目標情報を後段の処理部に出力してよい。
【0170】
以上、レンジサイドローブ処理部216における動作例について説明した。
【0171】
以上のように、本実施の形態によれば、レーダ装置10において、目標検出部215は、レーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、目標に対する距離及び方向を推定した情報を含む複数のデータを出力する。また、レンジサイドローブ処理部216は、複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された距離及び到来方向に基づいて、目標に対するレンジサイドローブ成分を判定する。
【0172】
このように、レーダ装置10は、目標に対する到来方向推定処理(換言すると、パルス圧縮時の変復調)の後に、到来方向推定結果に基づいて、目標に対するレンジサイドローブ判定を行う。
【0173】
ここで、例えば、レーダ装置10のレーダ送信部100又はレーダ受信部200において非線形の信号が発生しても、到来方向推定結果における目標(例えば、メインローブ)とレンジサイドローブとの対応関係は影響を受けにくい。したがって、本実施の形態では、レーダ装置10において非線形の信号が発生する環境でも、非線形の信号発生に対するロバスト性を向上でき、レンジサイドローブの判定精度を向上できる。換言すると、レーダ装置10は、レーダ装置10の変復調又は窓関数に依らずにレンジサイドローブを低減できる。例えば、レーダ装置10は、信号の変復調において窓関数を使用してもよい。
【0174】
よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10は、レンジサイドローブによる目標の誤検出を低減できる。
【0175】
なお、レンジサイドローブ処理部216におけるレンジサイドローブの判定処理は上述した処理に限定されない。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、図8に示すようなプリターゲット点に対するグループ化を行わなくてもよい。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、閾値電力Pwth以上の電力Pwを有する全てのプリターゲット点の周辺(換言すると、レンジサイドローブの判定範囲)について、レンジサイドローブ判定を行ってもよい。この場合、レンジサイドローブ処理部216は、例えば、レンジサイドローブ判定範囲に含まれるプリターゲット点のうち、所定の電力(例えば閾値電力Pwth)以下のプリターゲット点をレンジサイドローブと判定してよい。
【0176】
また、上述した説明では、レンジサイドローブ処理部216が相対速度情報に基づいてレンジサイドローブ判定を行う場合について説明した。しかし、レンジサイドローブ処理部216は、相対速度情報を用いずにレンジサイドローブ判定処理を行ってもよい。換言すると、レンジサイドローブ処理部216は、少なくとも、目標(換言すると、検出点群)の距離、到来方向及び電力の情報に基づいて、レンジサイドローブ判定を行ってよい。
【0177】
また、各グループの代表点(換言すると、判定対象の目標)に対するレンジサイドローブが存在する距離領域に別の目標が存在する場合がある(例えば、自動車の前方に存在する歩行者)。判定対象の目標のレンジサイドローブは、目標の到来方向推定の結果(例えば、方位角θrsl及び仰角φrslの少なくとも一つ)に作用する。よって、この場合、別の目標は、判定対象の目標のレンジサイドローブと合成された位置に検出され得る(例えば、図10A図10Bのグループ2、図12A図12Bにおけるその他のプリターゲット点)。
【0178】
このため、レンジサイドローブ処理部216では、別の目標点は、判定対象の目標のレンジサイドローブ判定範囲外(例えば、方位角θrsl、仰角φrsl以外)のプリターゲットとなり得るため、判定対象の目標のレンジサイドローブと誤って判定されにくい。これは、レンジサイドローブと別の目標の反射波成分との合成成分を信号処理する場合、別の目標の反射波成分を含まないレンジサイドローブ成分が発生する点とは異なる方位角、仰角に推定される。そのため、判定範囲(方位角θrsl、仰角φrsl)外になる確率が上がるためである。例えば、レンジサイドローブ処理部216は、別の目標に対する目標情報を、後段の処理部へ出力してよい。
【0179】
(バリエーション1)
本開示の一態様に係るレーダ装置の構成は、図2に示す構成に限定されない。例えば、図13に示すレーダ装置10aの構成を用いてもよい。なお、図13において、レーダ受信部200の構成は、図2と同様であるので詳細な構成を省略している。
【0180】
図2に示すレーダ装置10では、レーダ送信部100において、送信切替部106によって、レーダ送信信号生成部101からの出力を複数の送信無線部107の何れか一つに選択的に切り替える。これに対して、図13に示すレーダ装置10aでは、レーダ送信部100aにおいて、レーダ送信信号生成部101からの出力(レーダ送信信号)は、送信無線部107aによって送信無線処理を施され、送信切替部106aによって、送信無線部107aの出力を複数の送信アンテナ108の何れか一つに選択的に切り替える。
【0181】
図13に示すレーダ装置10aの構成でも、上述した一実施の形態と同様の効果が得られる。また、バリエーション1では、図1の構成と比較して、送信無線部107の個数を低減できるので、例えば、レーダ装置10aのサイズを小さくできる。
【0182】
(バリエーション2)
レーダ送信部100(又はレーダ送信部100a)において、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いる場合について説明したが、変調方式はこれに限定されない。例えば、本開示は、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0183】
図14は、チャープパルス(例えば、fast chirp modulation)を用いたレーダ方式を適用した場合のレーダ装置10bの構成図の一例を示す。なお、図14において、図2と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0184】
まず、レーダ送信部100bにおける送信処理について説明する。
【0185】
レーダ送信部100bにおいて、レーダ送信信号生成部401は、変調信号発生部402及びVCO(Voltage Controlled Oscillator)403を有する。
【0186】
変調信号発生部402は、例えば、図15に示すように、のこぎり歯形状の変調信号を周期的に発生させる。ここで、レーダ送信周期をTrとする。
【0187】
VCO403は、変調信号発生部402から出力されるレーダ送信信号に基づいて、周波数変調信号(換言すると、周波数チャープ信号)を送信無線部107へ出力する。周波数変調信号は、送信無線部107において増幅され、送信切替部106において切り替えられた送信アンテナ108から空間に放射される。例えば、第1の送信アンテナ108から第Ntの送信アンテナ108の各々において、レーダ送信信号はNp(=Nt×Tr)周期の送信間隔で送信される。
【0188】
方向性結合部404は、周波数変調信号の一部の信号を取り出して、レーダ受信部200bの各受信無線部501(ミキサ部502)に出力する。
【0189】
次に、レーダ受信部200bにおける受信処理について説明する。
【0190】
レーダ受信部200bの受信無線部501は、ミキサ部502において、受信した反射波信号に対して、送信信号である周波数変調信号(方向性結合部404から入力される信号)をミキシングし、LPF503を通過させる。これにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が取り出される。例えば、図15に示すように、送信信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数として得られる。
【0191】
LPF503から出力された信号は、信号処理部207bにおいて、A/D変換部208bによって離散サンプルデータに変換される。
【0192】
R-FFT部504は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。これにより、信号処理部207bでは、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。なお、FFT処理の際、R-FFT部504は、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0193】
ここで、第M番目のチャープパルス送信によって得られる、第z番目の信号処理部207bのR-FFT部504から出力されるビート周波数スペクトラム応答をAC_RFT(fb, M)で表す。ここで、fbはFFTのインデックス番号(ビン番号)であり、fb=0,…, Ndata/2である。周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(換言すると、目標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0194】
第z番目の信号処理部207bにおける出力切替部211は、例えば、上記一実施の形態と同様、切替制御部105から入力される切替制御信号に基づいて、レーダ送信周期Tr毎のR-FFT部504の出力を、Nt個のドップラ解析部212のうちの一つに選択的に切り替えて出力する。
【0195】
以下、一例として、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]における切替制御信号をNtビットの情報[bit1(M), bit2(M), … ,bitNt(M)]で表す。例えば、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]の切替制御信号において、第ND番目のビットbitND(M)(ただし、ND=1~Ntの何れか)が‘1’である場合、出力切替部211は、第ND番目のドップラ解析部212を選択(換言するとON)する。一方、第M番目のレーダ送信周期Tr[M]の切替制御信号において、第ND番目のビットbitND(M)が‘0’である場合、出力切替部211は、第ND番目のドップラ解析部212を非選択(換言するとOFF)とする。出力切替部211は、選択したドップラ解析部212に対して、R-FFT部504から入力される信号を出力する。
【0196】
上記のように、各ドップラ解析部212の選択は、Np(=Nt×Tr)周期で順次ONとなる。切替制御信号は、上記内容をNc回繰り返す。
【0197】
なお、各送信無線部107における送信信号の送信開始時刻は、周期Trに同期させなくてもよい。例えば、各送信無線部107では、送信開始時刻に異なる送信遅延Δ1, Δ2,…,ΔNtを設けて、レーダ送信信号の送信を開始してもよい。
【0198】
第z(z=1,…,Na)番目の信号処理部207bは、Nt個のドップラ解析部212を有する。
【0199】
ドップラ解析部212は、出力切替部211からの出力に対して、ビート周波数インデックスfb毎にドップラ解析を行う。
【0200】
例えば、Ncが2のべき乗値である場合、ドップラ解析において高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を適用できる。
【0201】
第z番目の信号処理部207bの第ND番目のドップラ解析部212における第w番目の出力は、次式に示すように、ビート周波数インデックスfbにおけるドップラ周波数インデックスfuのドップラ周波数応答FT_CIz (ND)(fb, fu, w)を示す。なお、ND=1~Ntであり、ND=1~Ntであり、wは1以上の整数である。また、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数20】
【0202】
信号処理部207b以降のCFAR部213及び方向推定部214の処理は、例えば、実施の形態1で説明した離散時刻kをビート周波数インデックスfbで置き換えた動作となるので、詳細な説明を省略する。
【0203】
以上の構成及び動作により、バリエーション2の構成でも、一実施の形態と同様の効果が得られる。
【0204】
また、上述したビート周波数インデックスfbは、距離情報に変換して出力されてもよい。ビート周波数インデックスfbを距離情報R(fb)に変換するには次式が用いられてよい。ここで、Bwは周波数変調して生成される周波数チャープ信号の周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。
【数21】
【0205】
以上、本開示の一実施例に係る実施の形態について説明した。
【0206】
なお、上記実施の形態、及び、各バリエーションに係る動作を適宜組み合わせて実施してもよい。
【0207】
また、レーダ装置10,10a,10b(例えば、図2図13図14を参照)において、レーダ送信部100及びレーダ受信部200は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、レーダ受信部200(例えば、図2図13図14を参照)において、方向推定部214と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0208】
レーダ装置10,10a,10bは、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記録媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置10のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置10,10a,10bの各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0209】
上述の実施の形態においては、各構成要素に用いる「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュ-ル」といった他の表記に置換されてもよい。
【0210】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0211】
本開示はソフトウェア、ハ-ドウェア、又は、ハ-ドウェアと連携したソフトウェアで実現することが可能である。上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、部分的に又は全体的に、集積回路であるLSIとして実現され、上記実施の形態で説明した各プロセスは、部分的に又は全体的に、一つのLSI又はLSIの組み合わせによって制御されてもよい。LSIは個々のチップから構成されてもよいし、機能ブロックの一部または全てを含むように一つのチップから構成されてもよい。LSIはデータの入力と出力を備えてもよい。LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、ス-パ-LSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、汎用プロセッサ又は専用プロセッサで実現してもよい。また、LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。本開示は、デジタル処理又はアナログ処理として実現されてもよい。さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0212】
本開示は、通信機能を持つあらゆる種類の装置、デバイス、システム(通信装置と総称)において実施可能である。通信装置の、非限定的な例としては、電話機(携帯電話、スマ-トフォン等)、タブレット、パ-ソナル・コンピュ-タ-(PC)(ラップトップ、デスクトップ、ノ-トブック等)、カメラ(デジタル・スチル/ビデオ・カメラ等)、デジタル・プレ-ヤ-(デジタル・オ-ディオ/ビデオ・プレ-ヤ-等)、着用可能なデバイス(ウェアラブル・カメラ、スマ-トウオッチ、トラッキングデバイス等)、ゲ-ム・コンソ-ル、デジタル・ブック・リ-ダ-、テレヘルス・テレメディシン(遠隔ヘルスケア・メディシン処方)デバイス、通信機能付きの乗り物又は移動輸送機関(自動車、飛行機、船等)、及び上述の各種装置の組み合わせがあげられる。
【0213】
通信装置は、持ち運び可能又は移動可能なものに限定されず、持ち運びできない又は固定されている、あらゆる種類の装置、デバイス、システム、例えば、スマ-ト・ホ-ム・デバイス(家電機器、照明機器、スマ-トメ-タ-又は計測機器、コントロ-ル・パネル等)、自動販売機、その他IoT(Internet of Things)ネットワ-ク上に存在し得るあらゆる「モノ(Things)」をも含む。
【0214】
通信には、セルラ-システム、無線LANシステム、通信衛星システム等によるデータ通信に加え、これらの組み合わせによるデータ通信も含まれる。また、通信装置には、本開示に記載される通信機能を実行する通信デバイスに接続又は連結される、コントロ-ラやセンサ等のデバイスも含まれる。例えば、通信装置の通信機能を実行する通信デバイスが使用する制御信号やデータ信号を生成するような、コントロ-ラやセンサが含まれる。
【0215】
また、通信装置には、上記の非限定的な各種装置と通信を行う、あるいはこれら各種装置を制御する、インフラストラクチャ設備、例えば、基地局、アクセスポイント、その他あらゆる装置、デバイス、システムが含まれる。
【0216】
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、レーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、前記目標に対する距離および方向を推定した情報を含む複数のデータを出力する推定回路と、前記複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された前記距離および前記方向に基づいて、前記目標におけるレンジサイドローブ成分を判定する処理回路と、を具備する。
【0217】
本開示の一実施例において、前記処理回路は、前記選択された1つ以上のデータの前記推定された前記方向の差及び前記推定された前記距離の差がそれぞれ第1の閾値以内である他のデータを前記レンジサイドローブ成分と判定する。
【0218】
本開示の一実施例において、前記複数のデータのそれぞれは、電力に関する情報を含み、前記処理回路は、前記電力が第2の閾値以上の1つ以上のデータを、前記推定された前記距離との差及び前記推定された前記方向との差がそれぞれ第3の閾値以内となる1つ以上のグループにグループ化し、前記グループに含まれるデータの何れか一つを前記選択された1つ以上のデータとする。
【0219】
本開示の一実施例において、前記複数のデータのそれぞれは、前記レーダ装置に対する相対速度に関する情報を含み、前記処理回路は、前記推定された前記距離および前記方向に加えて、前記相対速度に基づき前記レンジサイドローブ成分を判定する。
【0220】
本開示の一実施例において、前記処理回路は、前記複数のデータのうち、前記レンジサイドローブ成分と判定されたデータとは異なるデータに関する情報を出力する。
【0221】
本開示の一実施例において、前記処理回路は、前記複数のデータの各々が前記レンジサイドローブ成分であるか否かを示す情報を出力する。
【0222】
本開示の一実施例において、推定された前記方向は、方位角及び仰角の何れか一方又は双方である。
【0223】
本開示の一実施例において、前記レーダ信号の送信に用いる送信アンテナ、及び、前記反射波の受信に用いる受信アンテナの何れか一方又は双方は、複数のアンテナ素子を有する。
【0224】
本開示の一実施例において、前記複数のアンテナ素子は、2次元平面に配置されている。
【0225】
本開示の一実施例に係るレンジサイドローブ判定方法は、レーダ信号が目標において反射した反射波を含む受信信号に基づいて、前記目標に対する距離および方向を推定した情報を含む複数のデータを出力し、前記複数のデータから選択された1つ以上のデータの推定された前記距離および前記方向に基づいて、前記目標におけるレンジサイドローブ成分を判定する。
【産業上の利用可能性】
【0226】
本開示は、目標を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0227】
10,10b,10c レーダ装置
100,100a,100b レーダ送信部
200,200b レーダ受信部
300 基準信号生成部
101,101a,401 レーダ送信信号生成部
102 符号生成部
103 変調部
104,503 LPF
105 切替制御部
106,106a 送信切替部
107,107a 送信無線部
108 送信アンテナ
111 符号記憶部
112 DA変換部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ
203,501 受信無線部
204 増幅器
205 周波数変換器
206 直交検波器
207,207b 信号処理部
208,209 AD変換部
210 相関演算部
211 出力切替部
212 ドップラ解析部
213 CFAR部
214 方向推定部
402 変調信号発生部
403 VCO
404 方向性結合部
502 ミキサ部
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図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
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