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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】ヘアケア装置
(51)【国際特許分類】
   A45D 20/12 20060101AFI20221209BHJP
   B05B 5/08 20060101ALI20221209BHJP
   B05B 5/057 20060101ALI20221209BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20221209BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20221209BHJP
【FI】
A45D20/12 101
B05B5/08
B05B5/057
H01T19/04
H01T23/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021075198
(22)【出願日】2021-04-27
(62)【分割の表示】P 2018160761の分割
【原出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2021119995
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏之
(72)【発明者】
【氏名】石上 陽平
(72)【発明者】
【氏名】木下 雅登
(72)【発明者】
【氏名】石原 綾
(72)【発明者】
【氏名】松井 康訓
(72)【発明者】
【氏名】菊池 勇人
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-213739(JP,A)
【文献】特開2014-231047(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 20/12
B05B 5/08
B05B 5/057
H01T 19/04
H01T 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極と、
第1方向において前記放電電極と対向する対向電極と、
前記放電電極と前記対向電極との間に印加電圧を印加することにより、放電を生じさせる電圧印加部と、を含む放電装置と、
前記放電装置に対して気流を発生させる気流発生装置と、を備え、
前記対向電極は、
開口部と、
前記開口部の開口端縁から前記第1方向と交差する第2方向に突出する複数の突起電極と、を含み、
前記複数の突起電極は、前記気流発生装置が発生させる前記気流の流路の途中に配置されており、
前記複数の突起電極の各々が配置されている位置における前記気流の流速は、互いに同じである、
ヘアケア装置。
【請求項2】
前記複数の突起電極は、前記開口部の周方向に沿って等間隔に配置される、
請求項1に記載のヘアケア装置。
【請求項3】
前記複数の突起電極は、一対の突起電極である、
請求項2に記載のヘアケア装置。
【請求項4】
前記第1方向から見た前記突起電極の形状は三角形である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のヘアケア装置。
【請求項5】
前記三角形の頂角は60度以上である、
請求項4に記載のヘアケア装置。
【請求項6】
前記三角形の底辺は、前記底辺と対向する頂点から前記底辺への垂線よりも長い、
請求項4又は5に記載のヘアケア装置。
【請求項7】
前記第1方向から見た前記開口部の形状は円形であり、
前記垂線の長さは、前記開口部の半径の1/2以下である、
請求項6に記載のヘアケア装置。
【請求項8】
前記三角形は、二等辺三角形である、
請求項4~7のいずれか1項に記載のヘアケア装置。
【請求項9】
前記突起電極の先端部における前記放電電極との対向面は曲面を含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載のヘアケア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘアケア装置に関する。より詳細には、本開示は、放電電極と対向電極とを備えるヘアケア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯電微粒子水を生成する静電霧化装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の静電霧化装置は、先端部を有する放電電極と、該先端部に対向して位置する対向電極とを備える。この放電電極に水を供給して電圧を印加することで、放電電極に供給した水を基にして、帯電微粒子水が生成される。帯電微粒子水は、ラジカル等の有効成分を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-231047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような静電霧化装置(放電装置)を、例えば、ヘアドライヤー等に適用する場合には、対向電極における電食の偏りを低減することが望まれている。
【0005】
本開示の目的は、対向電極における電食の偏りを低減することができるヘアケア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るヘアケア装置は、放電装置と、気流発生装置と、を備える。前記放電装置は、放電電極と、対向電極と、電圧印加部と、を含む。前記対向電極は、第1方向において前記放電電極と対向する。前記電圧印加部は、前記放電電極と前記対向電極との間に印加電圧を印加することにより、放電を生じさせる。前記気流発生装置は、前記放電装置に対して気流を発生させる。前記対向電極は、開口部と、複数の突起電極と、を含む。前記複数の突起電極は、前記開口部の開口端縁から前記第1方向と交差する第2方向に突出する。前記複数の突起電極は、前記気流発生装置が発生させる前記気流の流路の途中に配置されており、前記複数の突起電極の各々が配置されている位置における前記気流の流速は、互いに同じである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、対向電極における電食の偏りを低減することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る放電装置の断面図である。
図2図2Aは、一実施形態に係るヘアケア装置の斜視図である。図2Bは、同上のヘアケア装置の要部を示す斜視図である。
図3図3は、同上の放電装置の概略回路図である。
図4図4Aは、同上の放電装置に用いられる対向電極の平面図である。図4Bは、図4AのX1-X1断面図である。
図5図5は、同上の放電装置に用いられる対向電極の要部を示す平面図である。
図6図6A及び図6Bは、同上の放電装置で発生する部分破壊放電を説明するための概念図である。
図7図7Aは、放電電極と対向電極との間を流れる放電電流の大きさ、及び突起電極の有無と酸性成分量との関係を示すグラフである。図7Bは、放電電極と対向電極との間を流れる放電電流の大きさ、及び突起電極の有無とオゾン量との関係を示すグラフである。
図8図8は、突起電極の有無と帯電微粒子水の成分量比との関係を示すグラフである。
図9図9は、一実施形態の変形例1に係る放電装置の要部を示す断面図である。
図10図10Aは、一実施形態の変形例2に係る放電装置に用いられる対向電極の平面図である。図10Bは、一実施形態の変形例3に係る放電装置に用いられる対向電極の平面図である。図10Cは、一実施形態の変形例4に係る放電装置に用いられる対向電極の平面図である。図10Dは、一実施形態の変形例5に係る放電装置に用いられる対向電極の平面図である。
図11図11は、一実施形態の変形例2に係る放電装置を備えるヘアケア装置の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に説明する実施形態及び変形例は、本開示の一例に過ぎない。本開示は、実施形態及び変形例に限定されることなく、この実施形態及び変形例以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。下記の実施形態及び変形例において説明する各図は模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
(実施形態)
(1)概要
以下、本実施形態に係る放電装置10、及びヘアケア装置100の概要について、図1図2A、及び図2Bを参照して説明する。
【0011】
以下の説明では、放電装置10の左右方向がX軸方向、前後方向がY軸方向、上下方向がZ軸方向と規定する。また、放電装置10の右方がX軸の正の向き、左方がX軸の負の向きと規定する。また、放電装置10の前方がY軸の正の向き、後方がY軸の負の向きと規定する。また、放電装置10の上方がZ軸の正の向き、下方がZ軸の負の向きと規定する。
【0012】
本実施形態に係る放電装置10は、図1に示すように、放電電極1と、対向電極2と、電圧印加部3(図3参照)と、液体供給部4(図3参照)と、を備えている。対向電極2は、第1方向において放電電極1と対向する。本実施形態では、第1方向は前後方向(Y軸方向)である。電圧印加部3は、放電電極1と対向電極2との間に印加電圧を印加することにより、放電を生じさせる。液体供給部4は、放電電極1に液体40(図6A参照)を供給する機能を有する。対向電極2は、ドーム状電極22と、突起電極23と、を含んでいる。本実施形態では、対向電極2は、図1及び図2Bに示すように、一対の突起電極23を含んでいる。つまり、対向電極2は、複数の突起電極23を含んでおり、複数の突起電極23は、一対の突起電極23である。ドーム状電極22は、図1に示すように、第1方向において放電電極1と反対側に凹む凹状の内面221を有している。突起電極23は、ドーム状電極22における放電電極1と反対側の端部に設けられた開口部222の開口端縁から第2方向に突出している。第2方向は、第1方向と交差する方向であって、本実施形態では左右方向(X軸方向)である。なお、放電装置10は、放電電極1、対向電極2、及び電圧印加部3を最低限の構成要素として含んでいればよく、液体供給部4は放電装置10の構成要素に含まれていなくてもよい。
【0013】
本実施形態に係るヘアケア装置100は、図2Aに示すように、放電装置10と、気流発生装置20と、を備えている。気流発生装置20は、放電装置10に対して気流を発生させる。ここで、本実施形態のように、対向電極2が複数の突起電極23を含んでいる場合には、複数の突起電極23は、図2Bに示すように、気流発生装置20が発生させる気流の流路300の途中で、かつ気流の流速が同じ位置に配置されていることが好ましい。本開示でいう「流速が同じ位置」とは、流速が完全に一致する位置だけでなく、複数の突起電極23における放電の頻度に影響を与えない程度に流速が異なっている位置も含む。
【0014】
本実施形態に係る放電装置10は、例えば、放電電極1の表面に液体40が付着することで放電電極1に液体40が保持されている状態において、放電電極1と対向電極2との間に電圧印加部3から電圧を印加する。これにより、放電電極1と対向電極2との間で放電が生じ、放電電極1に保持されている液体40が、放電によって静電霧化される。すなわち、本実施形態に係る放電装置10は、いわゆる静電霧化装置を構成する。本開示において、放電電極1に保持されている液体40、つまり静電霧化の対象となる液体40を、単に「液体40」とも呼ぶ。
【0015】
電圧印加部3は、放電電極1と対向電極2との間に印加電圧を印加することにより、放電電極1と対向電極2との間に放電を生じさせる。特に、本実施形態では、電圧印加部3は、印加電圧の大きさが周期的に変動することにより、放電を間欠的に生じさせる。印加電圧が周期的に変動することで、液体40には機械的な振動が生じる。本開示でいう「印加電圧」は、放電を生じさせるために、電圧印加部3が放電電極1と対向電極2との間に印加する電圧を意味する。
【0016】
詳しくは後述するが、放電電極1と対向電極2との間に電圧(印加電圧)が印加されることにより、放電電極1に保持されている液体40は、図6Aに示すように、電界による力を受けてテイラーコーン(Taylor cone)と呼ばれる円錐状の形状を成す。そして、テイラーコーンの先端部(頂点部)に電界が集中することで、放電が発生する。このとき、テイラーコーンの先端部が尖っている程、つまり円錐の頂角が小さく(鋭角に)なる程に、絶縁破壊に必要な電界強度が小さくなり、放電が生じやすくなる。放電電極1に保持されている液体40は、機械的な振動に伴って、第1形状と第2形状とに、交互に変形する。第1形状は、図6Aに示すようなテイラーコーンの形状である。第2形状は、テイラーコーンの先端部(前端部)がつぶれた形状である。その結果、上述したようなテイラーコーンが周期的に形成されるため、図6Aに示すようなテイラーコーンが形成されるタイミングに合わせて、放電が間欠的に発生することになる。
【0017】
ところで、本実施形態に係る放電装置10では、電圧印加部3は、第1方向において隙間を空けて互いに対向する放電電極1と対向電極2の突起電極23との間に印加電圧を印加することにより、放電を生じさせる。放電装置10は、放電の発生時には、放電電極1と突起電極23との間に、少なくとも一部において絶縁破壊された放電経路200(図6A参照)を形成する。本実施形態では、放電経路200は、部分的に絶縁破壊されている。放電経路200は、第1絶縁破壊領域201と、第2絶縁破壊領域202と、を含む。第1絶縁破壊領域201は、放電電極1の周囲に生成される。第2絶縁破壊領域202は、突起電極23の周囲に生成される。
【0018】
すなわち、放電電極1と対向電極2の突起電極23との間には、全体的にではなく部分的(局所的)に、絶縁破壊された放電経路200が形成される。本開示でいう「絶縁破壊」は、導体間を隔離している絶縁体(気体を含む)の電気絶縁性が破壊され、絶縁状態が保てなくなることを意味する。気体の絶縁破壊は、例えば、イオン化された分子が電場により加速されて他の気体分子に衝突してイオン化し、イオン濃度が急増して気体放電を起こすために生じる。要するに、本実施形態に係る放電装置10による放電の発生時には、放電電極1と突起電極23とを結ぶ経路上に存在する気体(空気)において、部分的に、つまり一部でのみ、絶縁破壊が生じることになる。このように、放電電極1と突起電極23との間に形成される放電経路200は、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された経路である。
【0019】
そして、放電経路200は、放電電極1の周囲に生成される第1絶縁破壊領域201と、対向電極2の突起電極23の周囲に生成される第2絶縁破壊領域202と、を含んでいる。つまり、第1絶縁破壊領域201は、放電電極1の周囲の絶縁破壊された領域であって、第2絶縁破壊領域202は、突起電極23の周囲の絶縁破壊された領域である。これら第1絶縁破壊領域201及び第2絶縁破壊領域202は、互いに接触しないように離れて存在している。言い換えると、放電経路200において、第1絶縁破壊領域201と第2絶縁破壊領域202とが離れている。そのため、放電経路200は、少なくとも第1絶縁破壊領域201と第2絶縁破壊領域202との間において、絶縁破壊されていない領域(絶縁領域)を含んでいる。よって、放電電極1と突起電極23との間の放電経路200は、少なくとも一部に絶縁領域を残しつつ、部分的に絶縁破壊が生じることで電気的な絶縁性が低下した状態になる。
【0020】
以上説明したような放電装置10によれば、放電電極1と対向電極2の突起電極23との間に、全体的にではなく部分的に、絶縁破壊された放電経路200が形成される。このように、部分的な絶縁破壊が生じた放電経路200、言い換えると、一部は絶縁破壊されていない放電経路200であっても、放電電極1と突起電極23との間には、放電経路200を通して電流が流れ、放電が生じる。このように、部分的に絶縁破壊された放電経路200が形成される形態の放電を、以下では「部分破壊放電」と称する。部分破壊放電について詳しくは、「(2.4)部分破壊放電」の欄で説明する。
【0021】
このような部分破壊放電においては、コロナ放電と比較して大きなエネルギーによって、空気中の酸素と窒素とが反応することで窒素酸化物等の酸性成分が生成される。このようにして生成される酸性成分は、肌を弱酸性にし、天然保湿分子、細胞間脂質等の保湿成分を生成促進させて、肌の保湿力を向上させる効果がある。また、酸性成分によって毛髪表面を覆うキューティクルが引き締まり、毛髪内部からの水分、栄養分等が流出しにくくなるという効果もある。ここで、部分破壊放電によって酸性成分が生成される際には、オゾンも発生するが、本実施形態の突起電極23のように、突起電極23の先端部分に電界を集中させることによって、コロナ放電の場合と同程度にオゾンの発生量を抑えることができる。さらに、部分破壊放電においては、コロナ放電と比較して2~10倍程度の大量のラジカルが生成される。このようにして生成されるラジカルは、除菌、脱臭、保湿、保鮮、ウイルスの不活化にとどまらず、様々な場面で有用な効果を奏する基となる。
【0022】
また、部分破壊放電とは別に、コロナ放電から進展して絶縁破壊(全路破壊)に至る、という現象が間欠的に繰り返される形態の放電がある。このような形態の放電を、以下では「全路破壊放電」と称する。全路破壊放電では、コロナ放電から進展して絶縁破壊(全路破壊)に至ると比較的大きな放電電流が瞬間的に流れ、その直後に印加電圧が低下して放電電流が遮断され、また印加電圧が上昇して絶縁破壊に至る、という現象が繰り返される。全路破壊放電においては、部分破壊放電と同様に、コロナ放電と比較して大きなエネルギーによって窒素酸化物等の酸性成分が生成される。ただし、全路破壊放電のエネルギーは、部分破壊放電のエネルギーに比べても更に大きい。そのため、部分破壊放電と比較して、電極(放電電極1、突起電極23)の電食が大きくなる。
【0023】
本実施形態に係る放電装置10では、第1方向において隙間を空けて互いに対向する放電電極1と対向電極2の突起電極23との間に、部分破壊放電、又は全路破壊放電を生じさせることで、コロナ放電の場合と比較して酸性成分の生成量を増加させることができる。また、突起電極23の先端部分に電界を集中させることで、コロナ放電と同程度にオゾンの発生量を抑えることもできる。
【0024】
(2)詳細
以下、本実施形態に係る放電装置10、及びヘアケア装置100の詳細について、図1図5を参照して説明する。
【0025】
(2.1)ヘアケア装置
本実施形態に係るヘアケア装置100は、図2Aに示すように、放電装置10と、気流発生装置20と、を備えている。さらに、ヘアケア装置100は、筐体101と、把持部102と、電源コード103と、を備えている。ヘアケア装置100は、例えば、ヘアドライヤーである。なお、ヘアケア装置100は、ヘアドライヤーに限らず、ヘアアイロン等であってもよい。
【0026】
気流発生装置20は、例えば、小型の送風ファンを含み、この送風ファンによって取り込まれた外気にて気流を発生させる。本実施形態に係るヘアケア装置100では、図2Bに示すように、気流発生装置20が発生させる気流の一部が放電装置10の対向電極2を通過するように構成されている。
【0027】
筐体101は、例えば、合成樹脂による成形品であって、前後方向に長い筒状に形成されている。筐体101の前面には、前後方向に貫通する通風孔104が形成されている。筐体101の内部には、放電装置10、及び気流発生装置20等が収納されている。放電装置10にて生成される有効成分(酸性成分、ラジカル、帯電微粒子水等)は、気流発生装置20からの気流によって、通風孔104を通って外部へと放出される。筐体101の下端部には、把持部102が連結されている。
【0028】
把持部102は、筐体101と同様、合成樹脂による成形品であって、上下方向に長い筒状に形成されている。把持部102は、第1位置と第2位置との間で移動可能な状態で筐体101に連結されている。第1位置は、図2Aに示すように、把持部102の長手方向が上下方向(筐体101の長手方向と交差する方向)となる位置である。第2位置は、把持部102の長手方向が前後方向(筐体101の長手方向と略平行になる方向)となる位置である。
【0029】
本実施形態に係るヘアケア装置100では、把持部102の下端部から下方に伸びる電源コード103を介して外部から供給される交流電力によって、放電装置10、及び気流発生装置20等が動作するように構成されている。
【0030】
(2.2)放電装置
放電装置10は、図1、及び図3に示すように、放電電極1と、対向電極2と、電圧印加部3と、液体供給部4と、を備えている。これらの放電電極1、対向電極2、電圧印加部3、及び液体供給部4は、電気絶縁性を有する合成樹脂製のハウジング5に保持される。
【0031】
放電電極1は、棒状の電極である。放電電極1は、長手方向(上下方向)の一端部(上端部)に先端部11を有し、長手方向の他端部(先端部とは反対側の端部、下端部)に基端部12を有している。放電電極1は、少なくとも先端部11が先細り形状に形成された針電極である。ここでいう「先細り形状」とは、先端が鋭く尖っている形状に限らず、図1等に示すように、先端が丸みを帯びた形状を含む。先端部11は、例えば、直径が0.5mmの球状に形成されている。
【0032】
対向電極2は、第1方向(前後方向)において放電電極1の先端部11と対向するように配置されている。対向電極2は、例えば、チタンからなる。対向電極2は、図4A及び図4Bに示すように、左右方向に長い板状の電極本体21を有している。電極本体21の中央には、前方に突出するドーム状電極22が一体に形成されている。ドーム状電極22は、例えば、絞り金型によって電極本体21の一部を前方に凹ませることで、前後方向に扁平な半球殻状に形成されている。ドーム状電極22は、図4Bに示すように、前方に凹む内面221を有している。言い換えると、ドーム状電極22は、第1方向において放電電極1と反対側に凹む凹状の内面221を有している。内面221は、図4Bに示すように、第1方向(前後方向)における第1端縁(前端縁)の内径D1が第2端縁(後端縁)の内径D2よりも小さくなるような形状に形成されている。
【0033】
ハウジング5に放電電極1と対向電極2とを保持させた状態では、放電電極1の中心軸と対向電極2のドーム状電極22の中心軸とが一致するように、放電電極1と対向電極2とが配置される。このとき、第1方向(前後方向)において、放電電極1の先端部11と対向電極2のドーム状電極22の内面221とが対向する。そのため、放電電極1と対向電極2との間に印加電圧を印加した場合には、放電電極1の先端部11での電界を均一に高めることができる。その結果、放電電極1の先端部11に形成されるテイラーコーンの形状の偏りを低減することができる。
【0034】
ドーム状電極22の前端部、つまりドーム状電極22における放電電極1と反対側の端部には、開口部222が設けられている。本実施形態では、前後方向(第1方向)から見た開口部222の形状は円形である。開口部222の開口端縁(内周縁)には、複数(図示例では2つ)の突起電極23が一体に形成されている。複数の突起電極23の各々は、開口部222の開口端縁から左右方向(第2方向)に突出している。言い換えると、複数の突起電極23の各々は、開口部222の開口端縁から開口部222の中心に向かって突出している。複数の突起電極23は、開口部222の周方向に沿って等間隔に配置されている。本実施形態では、複数の突起電極23は一対の突起電極23であるため、複数の突起電極23は、開口部222の周方向において180度回転させた位置に設けられている。つまり、複数の突起電極23は、開口部222の中心を対称点(対称中心)とする点対称な位置に設けられている。このような開口部222及び複数の突起電極23は、例えば、抜き金型によって形成(成形)される。なお、突起電極23の具体的な形状については、「(2.3)突起電極の形状」の欄で説明する。
【0035】
電極本体21におけるドーム状電極22の左右両側には、前後方向に貫通する一対のかしめ孔211が設けられている。本実施形態では、対向電極2は、ハウジング5に設けられた一対のかしめ突起51を一対のかしめ孔211に通した後、熱かしめを行うことにより、ハウジング5にかしめ固定される(図2B参照)。また、電極本体21における右下の角部には、接地用の端子片24が一体に形成されている。
【0036】
液体供給部4は、放電電極1に対して静電霧化用の液体40を供給する。液体供給部4は、一例として、放電電極1を冷却して、放電電極1に結露水を発生させる冷却装置41を用いて実現される。具体的には、冷却装置41は、一例として、図1に示すように、複数(図示例では4つ)のペルチェ素子411と、放熱板412と、絶縁板413と、を備えている。複数のペルチェ素子411は、放熱板412に保持されている。複数のペルチェ素子411は、上側が吸熱側、下側が放熱側となるように向きが設定されている。つまり、複数のペルチェ素子411は、放熱側にて放熱板412に保持されている。冷却装置41は、複数のペルチェ素子411への通電によって放電電極1を冷却する。
【0037】
複数のペルチェ素子411は、絶縁板413を介して放電電極1に機械的に接続されている。言い換えると、放電電極1は、基端部12にて絶縁板413に機械的に接続され、複数のペルチェ素子411は、吸熱側(上側)にて絶縁板413に機械的に接続されている。つまり、放電電極1と複数のペルチェ素子411とは、絶縁板413等によって電気的に絶縁されている。この冷却装置41では、複数のペルチェ素子411に通電することによって、吸熱側にてペルチェ素子411に機械的に接続されている放電電極1を冷却することができる。このとき、冷却装置41は、基端部12を通じて放電電極1の全体を冷却する。これにより、空気中の水分が凝結して放電電極1の表面に結露水として付着する。すなわち、液体供給部4は、放電電極1を冷却して放電電極1の表面に液体40としての結露水を生成するように構成されている。この構成では、液体供給部4は、空気中の水分を利用して、放電電極1に液体40(結露水)を供給できるため、放電装置10への液体の供給、及び補給が不要になる。
【0038】
電圧印加部3は、一例として、図3に示すように、絶縁型のAC/DCコンバータである。電圧印加部3は、交流電源ACからの交流電力を直流電力に変換し、この直流電力を放電電極1、及び対向電極2間に印加する。電圧印加部3は、ダイオードブリッジ31と、絶縁トランス32と、コンデンサ33と、抵抗34,35と、一対の入力端子361,362と、一対の出力端子371,372と、を有している。
【0039】
ダイオードブリッジ31は、例えば、4つのダイオードがブリッジ接続された素子である。ダイオードブリッジ31の一対の入力端は、一対の入力端子361,362に電気的に接続されている。ダイオードブリッジ31の一対の出力端は、絶縁トランス32の一次巻線321の両端間に電気的に接続されている。ダイオードブリッジ31は、一対の入力端子361,362を介して入力される交流電源ACからの交流電力を整流する。
【0040】
絶縁トランス32は、一次巻線321と、二次巻線322と、を含む。一次巻線321は、二次巻線322に対して電気的に絶縁されており、かつ磁気的に結合されている。二次巻線322の一端は、一対の出力端子371,372のうち一方の出力端子371に電気的に接続され、二次巻線322の他端は、抵抗35を介して他方の出力端子372に電気的に接続されている。また、二次巻線322の両端間には、平滑用のコンデンサ33と抵抗34とが並列かつ電気的に接続されている。
【0041】
一対の入力端子361,362間には、交流電源ACが電気的に接続されている。一対の出力端子371,372のうち一方の出力端子371には、対向電極2が電気的に接続され、他方の出力端子372には、放電電極1が電気的に接続されている。
【0042】
電圧印加部3は、放電電極1及び対向電極2に対して高電圧を印加する。ここでいう「高電圧」とは、放電電極1と対向電極2との間に部分破壊放電が生じるように設定される電圧である。電圧印加部3は、一例として、対向電極2を接地し、放電電極1に対して-4kV程度の直流電圧を印加する。言い換えると、電圧印加部3から放電電極1及び対向電極2に高電圧が印加されている状態では、放電電極1と対向電極2との間に、対向電極2側を高電位、放電電極1側を低電位とする電位差が生じることになる。なお、電圧印加部3から放電電極1及び対向電極2に印加される高電圧は、例えば、放電電極1及び対向電極2の形状、又は放電電極1と対向電極2との間の距離等に応じて適宜設定される。
【0043】
上述のような電圧印加部3によれば、出力端子371,372間に印加される印加電圧が所定電圧(放電を開始する電圧)に達すると、放電電極1と対向電極2との間で放電が生じ、これにより比較的大きな放電電流が流れる。放電電流が抵抗34,35を流れることにより印加電圧が所定電圧よりも小さくなり、これにより放電電流が遮断される。その後、印加電圧が再び所定電圧に達すると、放電電極1と対向電極2との間で放電が生じ、これにより放電電流が流れる。以下、上述の動作が繰り返し行われる。
【0044】
(2.3)突起電極の形状
本実施形態に係る放電装置10では、酸性成分の生成量を増加させることを目的として、放電電極1と対向電極2の突起電極23との間に、部分破壊放電を生じさせるように構成されている。この場合において、オゾンの発生量を低減するためには、突起電極23の先端部分に電界を集中させる必要がある。そのため、図5に示すように、突起電極23の形状は三角形であることが好ましい。言い換えると、第1方向(前後方向)から見た突起電極23の形状は三角形であることが好ましい。本開示でいう「三角形」とは、3つの頂点を有する、いわゆる一般的な三角形に限らず、図5に示す突起電極23のように、先端にR面取りが行われているような形状も含む。
【0045】
さらに、三角形状に形成された突起電極23の先端部230に電界を集中させるためには、突起電極23の先端部230の角度が鋭角であることが好ましい。しかしながら、突起電極23は、上述のように、抜き金型によって形成(成形)されるため、突起電極23の先端部230の角度が小さすぎると、抜き金型が破損する可能性が高くなる。そのため、抜き金型の破損を抑えながらも突起電極23の先端部230に電界を集中させるためには、突起電極23の先端部230の角度は60度以上であることが好ましい。言い換えると、図5に示すように、上記三角形の頂角θ1は60度以上であることが好ましい。より好ましくは、上記三角形の頂角θ1は90度であるのがよい。さらに、上記三角形は、二等辺三角形であることが好ましい。
【0046】
この場合、上記三角形の底辺231の長さをL1、底辺231と対向する頂点232から底辺231への垂線233の長さをL2とすると、式(1)が成立する。
【0047】
【数1】
【0048】
つまり、上記三角形の頂角θ1が60度以上の場合には、底辺231の長さL1は垂線233の長さL2よりも長くなる。言い換えると、上記三角形の底辺231は、底辺231と対向する頂点232から底辺231への垂線233よりも長い。また、上記三角形の垂線233の長さL2は、図5に示すように、開口部222の半径r1の1/2以下であることが好ましい。突起電極23の形状が上述のような三角形であれば、抜き金型の破損を抑えながらも突起電極23の先端部230に電界を集中させることができる。その結果、放電電極1と突起電極23との間の部分破壊放電が安定するという利点がある。本実施形態では、底辺231の長さL1は1mm以下である。
【0049】
ところで、突起電極23の先端部230が尖っている場合には、この部分に電界が集中することで電食が生じやすく、放電状態が経時的に変化する可能性がある。そのため、放電状態が経時的に変化しないように、突起電極23の先端部230が曲面を含んでいることが好ましい。本実施形態では、突起電極23は、図4B及び図5に示すように、先端部230の先端面(左端面、又は右端面)に形成された第1曲面と、先端部230における放電電極1との対向面に形成された第2曲面と、を含んでいる。言い換えると、突起電極23の先端部230における放電電極1との対向面は曲面を含んでいる。本実施形態では、第1曲面及び第2曲面の曲率半径は0.1mm程度である。この構成によれば、突起電極23の先端部230に形成された曲面(第1曲面、及び第2曲面)に電界が集中することになるため、先端部230が尖っている場合と比較して電食を抑えることができ、その結果、放電状態が経時的に変化しにくくなる。
【0050】
(2.4)部分破壊放電
以下、放電電極1と対向電極2との間に印加電圧を印加した場合に発生する部分破壊放電について、図6A及び図6Bを参照して説明する。図6Aは、放電電極1に液体40が保持されている場合の部分破壊放電を説明するための概念図である。図6Bは、放電電極1に液体40が保持されていない場合の部分破壊放電を説明するための概念図である。なお、図6A図6Bとでは、「放電電極1に保持された液体40」を、「放電電極1の先端部11」に読み替えるだけでよく、以下では、図6Aについてのみ説明し、図6Bについては説明を省略する。
【0051】
放電装置10は、まず放電電極1に保持された液体40で局所的なコロナ放電を生じさせる。本実施形態では、放電電極1は負極側であるから、放電電極1に保持された液体40に生じるコロナ放電は負極性コロナである。放電装置10は、放電電極1に保持された液体40に生じたコロナ放電を、更に高エネルギーの放電にまで進展させる。この高エネルギーの放電により、放電電極1と対向電極2との間には、部分的に絶縁破壊された放電経路200が形成される。
【0052】
また、部分破壊放電は、放電電極1と対向電極2との間で部分的な絶縁破壊を伴うものの、絶縁破壊が継続的に生じるのではなく、絶縁破壊が間欠的に発生する放電である。そのため、放電電極1と対向電極2との間に生じる放電電流についても、間欠的に発生する。すなわち、放電経路200を維持するのに必要な電流容量を電源(電圧印加部3)が有さない場合等においては、コロナ放電から部分破壊放電に進展した途端に、放電電極1と対向電極2との間に印加される電圧が低下し、放電経路200が途切れて放電が停止する。ここでいう「電流容量」は、単位時間に放出可能な電流の容量である。このような放電の発生、及び停止が繰り返されることにより、放電電流が間欠的に流れることになる。このように、部分破壊放電は、放電エネルギーの高い状態と放電エネルギーの低い状態とを繰り返す点において、絶縁破壊が継続的に発生する(つまり放電電流が継続的に発生する)グロー放電及びアーク放電とは相違する。
【0053】
より詳細には、電圧印加部3は、互いに隙間を介して対向するように配置される放電電極1と対向電極2との間に印加電圧を印加することにより、放電電極1に保持された液体40と対向電極2との間に放電を生じさせる。そして、放電の発生時には、放電電極1と対向電極2との間には、部分的に絶縁破壊された放電経路200が形成される。このとき形成される放電経路200には、図6Aに示すように、放電電極1の周囲に生成される第1絶縁破壊領域201と、対向電極2の周囲に生成される第2絶縁破壊領域202と、が含まれている。
【0054】
すなわち、放電電極1と対向電極2との間には、全体的にではなく部分的(局所的)に、絶縁破壊された放電経路200が形成される。このように、部分破壊放電においては、放電電極1と対向電極2との間に形成される放電経路200は、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された経路である。
【0055】
ここで、放電経路200は、放電電極1の周囲に生成される第1絶縁破壊領域201と、対向電極2の周囲に生成される第2絶縁破壊領域202と、を含んでいる。つまり、第1絶縁破壊領域201は、放電電極1の周囲の絶縁破壊された領域であって、第2絶縁破壊領域202は、対向電極2の周囲の絶縁破壊された領域である。図6Aに示すように、放電電極1に液体40が保持されており、液体40と対向電極2との間に印加電圧が印加されている場合には、第1絶縁破壊領域201は、放電電極1の周囲のうち特に液体40の周囲に生成される。
【0056】
これら第1絶縁破壊領域201及び第2絶縁破壊領域202は、互いに接触しないように離れて存在している。言い換えると、放電経路200は、少なくとも第1絶縁破壊領域201と第2絶縁破壊領域202との間において、絶縁破壊されていない領域(絶縁領域)を含んでいる。そのため、部分破壊放電においては、放電電極1に保持された液体40と対向電極2との間の空間について、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された状態で、放電経路200を通して放電電流が流れることになる。要するに、部分的な絶縁破壊が生じた放電経路200、言い換えると、一部は絶縁破壊されていない放電経路200であっても、放電電極1と対向電極2との間には、放電経路200を通して放電電流が流れ、放電が生じる。
【0057】
ここにおいて、第2絶縁破壊領域202は、基本的には、対向電極2のうち、放電電極1までの距離(空間距離)が最短となる部位の周囲に生じる。本実施形態では、図6Aに示すように、放電電極1の中心軸P1と突起電極23の突出方向とがなす角度θ2が90度であり、対向電極2は、突起電極23の先端部230において、放電電極1までの距離D3(図6A参照)が最短となる。したがって、第2絶縁破壊領域202は、突起電極23の先端部230の周囲に生成される。
【0058】
また、本実施形態では、上述したように、対向電極2は、複数(ここでは2つ)の突起電極23を有しており、各突起電極23から放電電極1までの距離D3は、複数の突起電極23において均等である。そのため、第2絶縁破壊領域202は、複数の突起電極23のうち、いずれか1つの突起電極23の先端部230の周囲に生成されることになる。ここで、第2絶縁破壊領域202が生成される突起電極23は、特定の突起電極23には限定されず、複数の突起電極23の中でランダムに決まることになる。
【0059】
ところで、部分破壊放電においては、図6Aに示すように、放電電極1の周囲の第1絶縁破壊領域201は、放電電極1から相手方となる対向電極2に向けて延びている。対向電極2の周囲の第2絶縁破壊領域202は、対向電極2から相手方となる放電電極1に向けて延びている。言い換えると、第1絶縁破壊領域201及び第2絶縁破壊領域202は、それぞれ放電電極1及び対向電極2から、互いに引き合う向きに延びている。そのため、第1絶縁破壊領域201及び第2絶縁破壊領域202の各々は、放電経路200に沿った長さを有することになる。このように、部分破壊放電においては、部分的に絶縁破壊された領域(第1絶縁破壊領域201及び第2絶縁破壊領域202の各々)は、特定の方向に長く延びた形状を有する。
【0060】
そして、部分破壊放電においては、コロナ放電と比較して大きなエネルギーによって、空気中の酸素と窒素とが反応することで窒素酸化物等の酸性成分が生成される。このようにして生成される酸性成分は、肌を弱酸性にし、天然保湿分子、細胞間脂質等の保湿成分を生成促進させて、肌の保湿力を向上させる効果がある。また、酸性成分によって毛髪表面を覆うキューティクルが引き締まり、毛髪内部からの水分、栄養分等が流出しにくくなるという効果もある。ここで、部分破壊放電によって酸性成分が生成される際には、オゾンも発生するが、本実施形態に係る放電装置10のように、突起電極23の先端部230に電界を集中させることによって、コロナ放電の場合と同程度にオゾンの発生量を抑えることができる。さらに、部分破壊放電においては、コロナ放電と比較して2~10倍程度の大量のラジカルが生成される。このようにして生成されるラジカルは、除菌、脱臭、保湿、保鮮、ウイルスの不活化にとどまらず、様々な場面で有用な効果を奏する基となる。
【0061】
(3)生成物
以下、本実施形態に係る放電装置10の生成物について、図7A図7B、及び図8を参照して説明する。図7Aは、放電電極1と対向電極2との間を流れる放電電流の大きさ、及び突起電極23の有無と酸性成分量との関係を示すグラフである。図7Bは、放電電極1と対向電極2との間を流れる放電電流の大きさ、及び突起電極23の有無とオゾン量との関係を示すグラフである。図8は、突起電極23の有無と帯電微粒子水の成分量比との関係を示すグラフである。
【0062】
(3.1)酸性成分
放電電極1と対向電極2との間に生じる放電によって生成される酸性成分の成分量について、図7Aを参照して説明する。図7Aでは、部分破壊放電に比べて放電電流の小さいコロナ放電を比較対象としている。つまり、図7Aにおいて、放電電流が小さい場合がコロナ放電であり、放電電流が大きい場合が部分破壊放電である。また、図7Aでは、コロナ放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられていない場合を基準値とし、この基準値に対する倍率で表している。
【0063】
図7Aによれば、コロナ放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられている場合、又は、部分破壊放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられていない場合には、基準値の1.2倍の酸性成分が生成される。これに対して、部分破壊放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられている場合には、基準値の1.6倍の酸性成分が生成される。つまり、本実施形態に係る放電装置10のように、放電電極1と対向電極2との間に部分破壊放電を生じさせ、かつ対向電極2に突起電極23を設けることによって、酸性成分の生成量を増加させることができる。
【0064】
(3.2)オゾン
放電電極1と対向電極2との間に生じる放電によって生成されるオゾンの発生量について、図7Bを参照して説明する。図7Bでは、部分破壊放電に比べて放電電流の小さいコロナ放電を比較対象としている。つまり、図7Bにおいて、放電電流が小さい場合がコロナ放電であり、放電電流が大きい場合が部分破壊放電である。また、図7Bでは、コロナ放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられていない場合を基準値とし、この基準値に対する倍率で表している。
【0065】
図7Bによれば、コロナ放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられている場合には、基準値の0.7倍のオゾンが発生する。部分破壊放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられていない場合には、基準値の1.2倍のオゾンが発生する。また、部分破壊放電で、かつ対向電極2に突起電極23が設けられている場合には、基準値の0.9倍のオゾンが発生する。ここで、対向電極2に突起電極23が設けられている場合には、コロナ放電でも部分破壊放電でもオゾンの発生量が減少している。これは、放電電極1と対向電極2(の突起電極23)との間の放電によって、オゾンが窒素、もしくは窒素酸化物と反応が進むことで、オゾンが消失していると推定される。
【0066】
また、対向電極2に突起電極23が設けられている場合には、オゾンの減少量については、コロナ放電の方が部分破壊放電よりも大きくなっている。しかしながら、上述の酸性成分の生成量については、部分破壊放電の方がコロナ放電よりも増加している。以上のことから、両者を考慮した場合、部分破壊放電で、かつ対向電極2に突起電極23を設けることが最も好ましい。この構成によれば、放電電極1と対向電極2との間に部分破壊放電を生じさせ、かつ対向電極2に突起電極23を設けることによって、酸性成分の生成量を増加させながらオゾンの発生量を減少させることができる。
【0067】
(3.3)帯電微粒子水
放電電極1と対向電極2との間に生じる部分破壊放電によって生成される帯電微粒子水の成分量について、図8を参照して説明する。図8では、対向電極2に突起電極23が設けられていない場合の生成量を基準値とし、この基準値に対する倍率で表している。
【0068】
図8によれば、対向電極2に突起電極23を設け、放電電極1に保持させた液体40と突起電極23との間に部分破壊放電を生じさせることによって、基準値の5倍の帯電微粒子水が生成される。つまり、対向電極2に突起電極23を設けることによって、突起電極23がない場合と比較して、帯電微粒子水の生成量を増加させることができる。
【0069】
(4)変形例
上述の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上述の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、上述の実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0070】
(4.1)変形例1
上述の実施形態では、図6Aに示すように、放電電極1の中心軸P1と突起電極23の突出方向とがなす角度θ2が90度であったが、図9に示すように、角度θ2は鋭角であってもよい。言い換えると、突起電極23は、第1方向(前後方向)において放電電極1から離れる向きに傾斜していてもよい。ただし、この場合において、放電電極1と突起電極23の先端部230との間の距離が最短であることが必要である。この構成によれば、突起電極23の傾斜角度θ2を調節することによって、放電電極1、及び液体40に作用する力の方向を制御することができる。また、突起電極23において電界が集中する箇所を調節することができる。
【0071】
(4.2)変形例2~5
上述の実施形態では、複数の突起電極23が左右方向(X軸方向)に並んでいるが、図10Aに示すように、複数の突起電極23Aが上下方向(Z軸方向)に並んでいてもよい。
【0072】
また、上述の実施形態及び変形例2では、突起電極23,23Aの個数が2つであったが、図10B又は図10Cに示すように、突起電極23B,23Cの個数は4つであってもよい。図10B及び図10Cでは、右方が0度の方向であり、左方が180度の方向である。変形例3では、図10Bに示すように、対向電極2Bを前方から見た場合に、4つの突起電極23Bが、45度、135度、225度、315度の位置にそれぞれ設けられている。また、変形例4では、図10Cに示すように、対向電極2Cを前方から見た場合に、4つの突起電極23Cが、0度、90度、180度、270度の位置にそれぞれ設けられている。
【0073】
さらに、上述の実施形態、及び変形例2~4では、突起電極23,23A~23Cが対向電極2,2A~2Cの電極本体21と一体であったが、図10Dに示すように、突起電極23Dが電極本体21と別体であってもよい。この場合、突起電極23Dは、適宜の固定方法(ねじ固定、かしめ固定等)によって電極本体21に固定される。
【0074】
変形例2~5によれば、対向電極2A~2Dに突起電極23A~23Dを設け、かつ放電電極1と突起電極23A~23Dとの間に部分破壊放電を生じさせることによって、酸性成分の生成量を増加させながらオゾンの発生量を減少させることができる。
【0075】
ここで、図2Bは、上述の実施形態に係る対向電極2を用いた放電装置10を、ヘアケア装置100に組み込んだ状態の斜視図である。また、図11は、変形例2に係る対向電極2Aを用いた放電装置10Aを、ヘアケア装置100Aに組み込んだ状態の斜視図である。図2B及び図11における「300」は、気流発生装置20から放電装置10,10Aへの気流の流路を表している。なお、図2A及び図11における下側の矢印は、ヘアケア装置100から放出される温風又は冷風用の気流の流路を表している。
【0076】
図11に示す例では、上下方向に並ぶ2つの突起電極23Aのうち、上側の突起電極23Aは、気流の流速が相対的に遅い位置に配置されており、下側の突起電極23Aは、気流の流速が相対的に速い位置に配置されている。そのため、放電電極1と対向電極2Aとの間に放電を生じさせた場合、下側の突起電極23Aでの放電の頻度が高くなる。つまり、上側の突起電極23Aと下側の突起電極23Aとで放電の頻度が異なり、その結果、両者間で電食差が生じてしまう。
【0077】
一方、図2Bに示す例では、左右方向に並ぶ2つの突起電極23は、流速が略同じ位置に配置されている。そのため、放電電極1と対向電極2との間に放電を生じさせた場合、2つの突起電極23において略均等に放電が行われることになる。つまり、2つの突起電極23間で放電の頻度は略等しく、その結果、両者間で摩耗差が生じにくい。
【0078】
以上のことから、複数の突起電極23は、気流発生装置20が発生させる気流の流路300の途中で、かつ気流の流速が同じ位置に配置されていることが好ましい。
【0079】
(4.3)その他の変形例
放電装置10が採用する放電形態は、上述の実施形態で説明した形態に限らない。例えば、放電装置10は、コロナ放電から進展して絶縁破壊に至る、という現象が間欠的に繰り返される形態の放電、つまり「全路破壊放電」を採用してもよい。この場合、放電装置10においては、コロナ放電から進展して絶縁破壊に至ると比較的大きな放電電流が瞬間的に流れ、その直後に印加電圧が低下して放電電流が遮断され、また印加電圧が上昇して絶縁破壊に至る、という現象が繰り返されることになる。
【0080】
また、突起電極23の個数は2つ、又は4つに限らず、例えば、1つ、3つ、又は5つ以上であってもよい。さらに、複数の突起電極23が開口部222の周方向において等間隔に配置されることは必須の構成ではなく、複数の突起電極23は開口部222の周方向において適宜の間隔で配置されてもよい。
【0081】
放電装置10は、帯電微粒子水を生成するための液体供給部4が省略されていてもよい。この場合、放電装置10は、放電電極1と対向電極2との間に生じる部分破壊放電によって、空気イオンを生成する。
【0082】
また、閾値等の二値間の比較において、「以上」としているところは、二値が等しい場合、及び二値の一方が他方を超えている場合の両方を含む。ただし、これに限らず、ここでいう「以上」は、二値の一方が他方を超えている場合のみを含む「より大きい」と同義であってもよい。つまり、二値が等しい場合を含むか否かは、閾値等の設定次第で任意に変更できるので、「以上」か「より大きい」かに技術上の差異はない。同様に、「未満」においても「以下」と同義であってもよい。
【0083】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る放電装置(10;10A)は、放電電極(1)と、対向電極(2;2A~2D)と、電圧印加部(3)と、を備える。対向電極(2;2A~2D)は、第1方向(一例として、前後方向)において放電電極(1)と対向する。電圧印加部(3)は、放電電極(1)と対向電極(2;2A~2D)との間に印加電圧を印加することにより、放電を生じさせる。対向電極(2;2A~2D)は、ドーム状電極(22)と、突起電極(23;23A~23D)と、を含む。ドーム状電極(22)は、第1方向において放電電極(1)と反対側に凹む凹状の内面(221)を有する。突起電極(23;23A~23D)は、ドーム状電極(22)における放電電極(1)と反対側の端部に設けられた開口部(222)の開口端縁から第1方向と交差する第2方向(一例として、左右方向)に突出する。放電装置(10)は、放電の発生時には、放電電極(1)と突起電極(23;23A~23D)との間に、少なくとも一部において絶縁破壊された放電経路(200)を形成する。放電経路(200)は、第1絶縁破壊領域(201)と、第2絶縁破壊領域(202)と、を含む。第1絶縁破壊領域(201)は、放電電極(1)の周囲に生成される。第2絶縁破壊領域(202)は、突起電極(23;23A~23D)の周囲に生成される。
【0084】
この態様によれば、放電電極(1)と突起電極(23;23A~23D)との間に、第1絶縁破壊領域(201)及び第2絶縁破壊領域(202)を含む放電経路(200)を形成するので、コロナ放電の場合と比較して酸性成分の生成量を増加させることができる。また、突起電極(23;23A~23D)の先端部分に電界を集中させることで、コロナ放電と同程度にオゾンの発生量を抑えることができる。
【0085】
第2の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1の態様において、対向電極(2;2A~2D)は、複数の突起電極(23;23A~23D)を含む。複数の突起電極(23;23A~23D)は、開口部(222)の周方向に沿って等間隔に配置される。
【0086】
この態様によれば、放電電極(1)の先端部(11)にテイラーコーンを形成する場合にはテイラーコーンの形状の偏りを低減することができ、その結果、突起電極(23;23A~23D)での絶縁破壊状態が安定するという利点がある。
【0087】
第3の態様に係る放電装置(10;10A)では、第2の態様において、複数の突起電極(23;23A;23D)は、一対の突起電極(23;23A;23D)である。
【0088】
この態様によれば、突起電極(23;23A;23D)に電界を集中させることができ、その結果、放電電極(1)と突起電極(23;23A;23D)との間の放電が安定するという利点がある。
【0089】
第4の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1~3のいずれかの態様において、第1方向から見た突起電極(23;23A~23D)の形状は三角形である。
【0090】
この態様によれば、突起電極(23;23A~23D)の先端部(230)に電界を集中させることができ、その結果、放電電極(1)と突起電極(23;23A~23D)との間の放電が安定するという利点がある。
【0091】
第5の態様に係る放電装置(10;10A)では、第4の態様において、三角形の頂角(θ1)は60度以上である。
【0092】
この態様によれば、例えば、抜き金型を用いて突起電極(23;23A~23C)の形状を抜く場合には、頂角(θ1)が60度未満の場合と比較して金型の破損を低減することができる。
【0093】
第6の態様に係る放電装置(10;10A)では、第4又は5の態様において、三角形の底辺(231)は垂線(233)よりも長い。垂線(233)は、底辺(231)と対向する頂点(232)から底辺(231)への直線である。
【0094】
この態様によれば、例えば、抜き金型を用いて突起電極(23;23A~23C)の形状を抜く場合には、底辺(231)が垂線(233)よりも短い場合と比較して金型の破損を低減することができる。
【0095】
第7の態様に係る放電装置(10;10A)では、第6の態様において、第1方向から見た開口部(222)の形状は円形である。垂線(233)の長さ(L2)は、開口部(222)の半径(r1)の1/2以下である。
【0096】
この態様によれば、例えば、抜き金型を用いて突起電極(23;23A~23C)の形状を抜く場合には、垂線(233)の長さ(L2)が開口部(222)の半径(r1)の1/2よりも長い場合と比較して金型の破損を低減することができる。
【0097】
第8の態様に係る放電装置(10;10A)では、第4~7のいずれかの態様において、三角形は、二等辺三角形である。
【0098】
この態様によれば、放電電極(1)の先端部(11)にテイラーコーンを形成する場合にはテイラーコーンの形状の偏りを微調整することなく安定させることができる。その結果、放電電極(1)と突起電極(23;23A~23D)との間の放電が安定するという利点がある。
【0099】
第9の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1~8のいずれかの態様において、放電経路(200)において、第1絶縁破壊領域(201)と第2絶縁破壊領域(202)とが離れている。
【0100】
この態様によれば、放電電路(200)を全体的に絶縁破壊する場合と比較して放電電流を低減することができ、その結果、突起電極(23;23A~23D)の電食摩耗を低減することができる。
【0101】
第10の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1~9のいずれかの態様において、突起電極(23;23A~23D)は、第1方向において放電電極(1)から離れる向きに傾斜している。
【0102】
この態様によれば、突起電極(23;23A~23D)の傾斜角度(θ2)を調節することによって、放電電極(1)、及び放電電極(1)に保持させた液体(40)に作用する力の方向を制御することができる。また、突起電極(23;23A~23D)において、電界が集中する箇所を調節することができる。
【0103】
第11の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1~10のいずれかの態様において、突起電極(23;23A~23D)の先端部(230)における放電電極(1)との対向面は曲面を含む。
【0104】
この態様によれば、突起電極(23;23A~23D)において電界が集中する箇所を先端部(230)の曲面にすることで電食摩耗を低減することができ、その結果、所望の放電状態を継続することができる。
【0105】
第12の態様に係る放電装置(10;10A)では、第1~11のいずれかの態様において、対向電極(2;2A)は、複数の突起電極(23;23A)を含む。複数の突起電極(23;23A)は、気流発生装置(20)が発生させる気流の流路(300)の途中で、かつ気流の流速が同じ位置に配置される。
【0106】
この態様によれば、複数の突起電極(23;23A)間の電食の偏りを低減することができる。
【0107】
第13の態様に係るヘアケア装置(100;100A)は、第1~12のいずれかの態様に係る放電装置(10;10A)と、気流発生装置(20)と、を備える。気流発生装置(20)は、放電装置(10;10A)に対して気流を発生させる。
【0108】
この態様によれば、上述の放電装置(10;10A)を用いることによって、酸性成分の生成量を増加させることができるヘアケア装置(100;100A)を実現可能である。
【0109】
第2~12の態様に係る構成については、放電装置(10;10A)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
放電装置は、冷蔵庫、洗濯機、ヘアドライヤー、空気調和機、扇風機、空気清浄機、加湿器、美顔器、自動車等の多様な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 放電電極
2,2A~2D 対向電極
3 電圧印加部
10,10A 放電装置
20 気流発生装置
22 ドーム状電極
23,23A~23D 突起電極
100,100A ヘアケア装置
200 放電経路
201 第1絶縁破壊領域
202 第2絶縁破壊領域
221 内面
222 開口部
230 先端部
231 底辺
232 頂点
233 垂線
300 流路
L2 垂線の長さ
r1 開口部の半径
θ1 頂角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11