(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-08
(45)【発行日】2022-12-16
(54)【発明の名称】熱膨張性耐火シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20221209BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20221209BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20221209BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20221209BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221209BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221209BHJP
C08J 9/02 20060101ALN20221209BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B5/02 B
B32B5/18
B32B17/10
B32B27/18 B
E04B1/94 V
C08J9/02 CER
(21)【出願番号】P 2021561175
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034064
(87)【国際公開番号】W WO2021106313
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019216862
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守屋 覚
(72)【発明者】
【氏名】坂本 顕士
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-007357(JP,A)
【文献】特開2019-148164(JP,A)
【文献】特開2001-121638(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198706(WO,A1)
【文献】特開2003-096945(JP,A)
【文献】特開昭51-086294(JP,A)
【文献】特開2015-134498(JP,A)
【文献】特開2009-215721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
C08J 9/00-9/42
D21H 11/00-27/00
D04H 1/00-18/04
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱発泡性を有する樹脂層と、前記樹脂層の両面に接着されたガラス繊維紙と、を備え、
前記ガラス繊維紙の第1方向の引張強度、及び前記第1方向に直交する第2方向の引張強度が、50N/50mm以上350N/50mm以下の範囲内である、
熱膨張性耐火シート。
【請求項2】
前記ガラス繊維紙の目付量が、20g/m
2以上60g/m
2以下の範囲内である、
請求項1に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項3】
前記樹脂層の発泡倍率が、8倍以上30倍以下の範囲内である、
請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項4】
前記樹脂層が、ビニル樹脂と、含窒素発泡剤と、リン系難燃剤と、多価アルコールと、二酸化チタンと、を含有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱膨張性耐火シート。
【請求項5】
前記ガラス繊維紙に接着されたラミネートフィルムを更に備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱膨張性耐火シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に熱膨張性耐火シートに関し、より詳細には加熱発泡性を有する樹脂層を備える熱膨張性耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、耐火被覆シートが開示されている。この耐火被覆シートは、耐火被覆材上に保護膜を一体に積層して形成されている。耐火被覆材は、不燃性シート材である芯材に含浸又は積層されている。
【0003】
一方、特許文献2には、発泡性耐火シートが開示されている。この発泡性耐火シートは、軟化温度が80~200℃の範囲である熱可塑性樹脂、多価アルコール、及び難燃性発泡剤を含有する。さらにこの発泡性耐火シートは、片面又は両面に防水層を有する。
【0004】
特許文献1の耐火被覆シートでは、芯材の不燃性シート材が、耐火被覆材の発泡を抑制するおそれがあり、耐火発泡性及び形状保持性に問題がある。さらに上記の耐火被覆シートで建築物等の躯体の垂直面を被覆する場合、上記の耐火被覆シートは、保護膜の強度が低いため自重で垂れ下がるおそれがあり、長期保持性にも問題がある。
【0005】
一方、特許文献2の発泡性耐火シートでは、火災時において、発泡した発泡性耐火シートを防水層等で保持できないおそれがあり、耐火発泡性及び形状保持性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-226045号公報
【文献】特開2011-094350号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的は、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を向上させることができる熱膨張性耐火シートを提供することにある。
【0008】
本開示の一態様に係る熱膨張性耐火シートは、加熱発泡性を有する樹脂層と、前記樹脂層の両面に接着されたガラス繊維紙と、を備える。前記ガラス繊維紙の第1方向の引張強度、及び前記第1方向に直交する第2方向の引張強度が、50N/50mm以上350N/50mm以下の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、本実施形態に係る熱膨張性耐火シートを示す概略断面図である。
図1Bは、同上の熱膨張性耐火シートの使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)概要
図1Aに本実施形態に係る熱膨張性耐火シート1を示す。熱膨張性耐火シート1は、樹脂層2と、ガラス繊維紙3と、を備える。
【0011】
樹脂層2は、加熱発泡性を有する。すなわち、樹脂層2は、火災加熱等の熱を受けると、発泡を開始し、発泡断熱層を形成する。発泡断熱層は、多くの微小な気泡を含む。これにより、熱膨張性耐火シート1は、耐火性能を発揮し得る。なお、火災加熱の温度は、例えば600℃以上である。
【0012】
ガラス繊維紙3は、樹脂層2の両面に接着されている。ガラス繊維紙3は、樹脂層2を支持する役割を担う。火災時等において、ガラス繊維紙3は、樹脂層2の発泡による膨張を阻害しないように伸びる。しかし、ガラス繊維紙3は、樹脂層2が必要以上に膨張しないように、ある程度までしか伸びない。すなわち、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が、50N/50mm以上350N/50mm以下の範囲内である。第2方向は、第1方向に直交する。
【0013】
ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が50N/50mm以上であることで、火災時等において、樹脂層2が必要以上に膨張しないようにすることができる。
【0014】
一方、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が350N/50mm以下であることで、火災時等において、樹脂層2の発泡による膨張を阻害しないようにすることができる。
【0015】
このように、本実施形態によれば、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を向上させることができる。
【0016】
(2)詳細
[熱膨張性耐火シート]
図1Aに本実施形態に係る熱膨張性耐火シート1を示す。熱膨張性耐火シート1は、樹脂層2と、ガラス繊維紙3と、を備える。好ましくは、熱膨張性耐火シート1は、ラミネートフィルム4を更に備える。
【0017】
(樹脂層)
樹脂層2は、加熱発泡性を有する。すなわち、樹脂層2は、火災加熱等の熱を受けると、発泡を開始し、発泡断熱層を形成する。発泡断熱層は、多くの微小な気泡を含む。これにより、熱膨張性耐火シート1は、耐火性能を発揮し得る。なお、火災加熱の温度は、例えば600℃以上である。
【0018】
樹脂層2の発泡倍率は、8倍以上30倍以下の範囲内である。樹脂層2の発泡倍率が8倍以上であることで、熱膨張性耐火シート1は、十分な耐火性を有し得る。樹脂層2の発泡倍率が30倍以下であることで、発泡後の樹脂層2(発泡断熱層)の形状の崩壊を抑制することができる。このようにして、耐火発泡性、及び形状保持性を更に向上させることができる。なお、発泡倍率は、例えば、発泡前の樹脂層2(ソリッド)の密度に対する、発泡後の発泡断熱層の見掛け密度の割合として求められる。また、発泡前の樹脂層2の厚さに対する、発泡後の樹脂層2(発泡断熱層)の厚さの割合として発泡倍率を求めてもよい。
【0019】
樹脂層2の厚さは、特に限定されないが、例えば下地材等の建築構造部分へ施工する際の、建築構造部分への追随性の観点から、好ましくは0.1mm以上5mm以下、より好ましくは0.3mm以上3mm以下の範囲内である。
【0020】
好ましくは、樹脂層2は、以下の熱膨張性耐火樹脂組成物から形成される。
【0021】
<熱膨張性耐火樹脂組成物>
熱膨張性耐火樹脂組成物は、ビニル樹脂と、含窒素発泡剤と、リン系難燃剤と、多価アルコールと、二酸化チタンと、を含有する。すなわち、好ましくは、樹脂層2が、ビニル樹脂と、含窒素発泡剤と、リン系難燃剤と、多価アルコールと、二酸化チタンと、を含有する。これにより、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性を更に向上させることができる。以下、熱膨張性耐火樹脂組成物に含有される各成分について説明する。
【0022】
≪ビニル樹脂≫
ビニル樹脂は、ポリビニル化合物である。ポリビニル化合物は、ビニル基をもつモノマーが重合した樹脂である。好ましくは、ビニル樹脂は、特に限定されないが、好ましくはEVA樹脂及び/又はポリオレフィン樹脂を含む。これにより、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性を更に向上させることができる。
【0023】
〔EVA樹脂〕
EVA樹脂は、エチレン酢酸ビニル共重合体である。EVA樹脂は、高圧重合法により製造される。EVA樹脂は、ゴム弾性と、優れた低温特性及び耐候性とをもつ樹脂である。EVA樹脂において、酢酸ビニル含有率は、特に限定されないが、例えば5%以上35%以下の範囲内である。酢酸ビニル含有率を変えることで、柔軟性、接着性、及びヒートシール性などを広い範囲でコントロールすることができる。なお、酢酸ビニル含有率は、JIS K6924-1に準拠した方法で測定することができる。
【0024】
EVA樹脂は、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2が加熱された際に、樹脂層2を優れた発泡断熱層とすることができる。また、熱膨張性耐火シート1を下地材等の建築構造部分へ固定するにあたって、熱膨張性耐火シート1に追随性を付与できる。
【0025】
上述のように、EVA樹脂は、ゴム弾性と、優れた低温特性及び耐候性とをもつ樹脂である。そのため、これらの特性を熱膨張性耐火シート1の樹脂層2に付与することができる。
【0026】
EVA樹脂の具体的な製品の例としては、三井・ダウポリケミカル株式会社製のエバフレックス(登録商標)、及び東ソー株式会社製のウルトラセン(登録商標)等が挙げられる。
【0027】
EVA樹脂のメルトマスフローレイト(MFR:Meltmass-Flow Rate)は、0.4g/10min以上75g/10min以下の範囲内であることが好ましい。メルトマスフローレイトが0.4g/10min以上であれば、熱膨張性耐火シート1を下地材等の建築構造部分に配置した場合の追随性を良好に維持することができる。また、凍結融解時に、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2が脆くなりにくく、凍結融解に対する長期耐久性を良好に確保することができる。また、メルトマスフローレイトが75g/10min以下であれば、火炎等により形成される発泡断熱層の形状保持性を良好に維持することができる。なお、メルトマスフローレイトは、JIS K6924-1に準拠した方法で測定することができる。
【0028】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する、EVA樹脂の含有量は、好ましくは15質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上30質量部以下の範囲内である。EVA樹脂の含有量が15質量部以上であると、熱膨張性耐火樹脂組成物から樹脂層2を形成した際の、熱膨張性耐火シート1の靱性を向上させることができる。一方、EVA樹脂の含有量が40質量部以下であると、熱膨張性耐火シート1が火災加熱を受けた際の発泡断熱層の形状を良好に保持することができる。
【0029】
〔ポリオレフィン樹脂〕
ポリオレフィン樹脂は、オレフィンの重合体である。ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、及びポリブタジエンなどが挙げられる。好ましくは、ポリオレフィン樹脂は、メタロセンプラストマーを含む。これにより、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性を更に向上させることができる。
【0030】
メタロセンプラストマーは、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2が加熱された際に、樹脂層2を優れた発泡断熱層とすることができる。また、熱膨張性耐火シート1にガスバリア性を付与できる。さらに、熱膨張性耐火シート1を下地材等の建築構造部分へ固定するにあたって、熱膨張性耐火シート1に追随性を付与できる。なお、「プラストマー」とは、加熱により容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味する。プラストマーは、エラストマー(外力を加えたときに、その外力に応じて変形し、かつ外力を除いたときに、短時間で元の形状を回復する性質を有するもの)に対する用語であり、エラストマーのような弾性変形を示さず、容易に塑性変形する特性を有する。本実施形態では、メタロセンプラストマーは、エチレン及びαーオレフィン等のオレフィンを、メタロセンを触媒とする触媒存在下で重合させた重合物である。
【0031】
メタロセンプラストマーは、高い透明性、柔軟性、及び耐熱性、並びに優れた衝撃強度を有する。そのため、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2に耐衝撃性及び柔軟性を付与することができる。
【0032】
メタロセンプラストマーの製造方法は、特に限定されないが、上記のとおり、メタロセン触媒の存在下でエチレン及びα-オレフィン等のオレフィンを適宜の方法で、重合させることで得られる。メタロセンプラストマーの具体的な製品の例としては、住友化学株式会社製のエクセレン(登録商標)FXシリーズのC6系エクセレンFX(FX201、FX301、FX307、及びFX402)、C4系エクセレンFX(FX352,FX555、FX551、及びFX558)、及び日本ポリエチレン株式会社製のカーネル(KF260T)等が挙げられる。もちろん、メタロセンプラストマーは、上記の具体的な例に限られず、既に述べたとおり、オレフィンをメタロセン触媒存在下で重合して得られる共重合物であればよい。
【0033】
メタロセンプラストマーのメルトマスフローレイトは、2g/10min以上40g/10min以下の範囲内であることが好ましい。メルトマスフローレイトが2g/10min以上であれば、熱膨張性耐火シート1を下地材等の建築構造部分に配置した場合の追随性を良好に維持することができる。また、凍結融解時に、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2が脆くなりにくく、凍結融解に対する長期耐久性を良好に確保することができる。また、メルトマスフローレイトが40g/10min以下であれば、火炎等により形成される発泡断熱層の形状保持性を良好に維持することができる。さらに、この場合、熱膨張性耐火シート1のガスバリア性をより低下しにくくすることができ、高温多湿雰囲気下での長期耐久性を良好に確保することができる。メルトマスフローレイトは、4g/10min以上30g/10min以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する、メタロセンプラストマーの含有量は、15質量部以上40質量部以下の範囲内であることが好ましい。メタロセンプラストマーの含有量が15質量部以上であると、熱膨張性耐火樹脂組成物から樹脂層2を形成した際の、熱膨張性耐火シート1の靱性を向上させることができる。また、この場合、熱膨張性耐火シート1の良好なガスバリア性を確保することができ、高温多湿条件下での長期耐久性を良好に維持することができる。一方、メタロセンプラストマーの含有量が40質量部以下であると、熱膨張性耐火シート1が火災加熱を受けた際の発泡断熱層の形状を良好に保持することができる。熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する、メタロセンプラストマーの含有量は、18質量部超35質量部未満の範囲内であればより好ましく、18質量部超28質量部未満の範囲内であれば更に好ましい。
【0035】
≪含窒素発泡剤≫
含窒素発泡剤は、窒素原子を含む発泡剤である。含窒素発泡剤は、火災加熱を受けて分解し、窒素及びアンモニアといった不燃性ガスを発生する。また、火災加熱により炭化していくビニル樹脂及び多価アルコールを膨張、発泡させ、発泡断熱層を形成する役割を有する。さらに、含窒素発泡剤は、熱膨張性耐火シート1に靱性を付与することができる。これにより、熱膨張性耐火シート1の、建築構造部分への良好な追随性を発揮させることができる。
【0036】
含窒素発泡剤は、特に限定されないが、例えばメラミン、メラミン誘導体、ジシアンジアミド、アゾジカルボンアミド、尿素、及びグアニジン等が挙げられる。すなわち、含窒素発泡剤は、これらからなる群から選択される少なくとも一種を含む。不燃性ガスの発生効率、建築構造部分への追随性、及び耐火性の観点から、含窒素発泡剤は、少なくともメラミンとジシアンジアミドとのうちいずれかを含むことが好ましく、少なくともメラミンを含むことがより好ましい。
【0037】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する含窒素発泡剤の含有量は、5質量部以上25質量部以下の範囲内であることが好ましい。含窒素発泡剤の含有量が5質量部以上であることで、火災加熱を受けた場合に十分な発泡断熱層を形成することができる。しかも、熱膨張性耐火シート1の靱性も確保することができる。一方、含窒素発泡剤の含有量が25質量部以下であることで、火災加熱を受けて形成された発泡断熱層の形状保持性を確保することができる。しかも、凍結融解を繰り返しても、熱膨張性耐火シート1は硬くなりにくくなり、耐火性が損なわれるのを抑制することもできる。熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する含窒素発泡剤の含有量は、8質量部以上23質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
≪リン系難燃剤≫
リン系難燃剤は、リン単体及びリン化合物の少なくともいずれかを含む難燃剤である。リン系難燃剤は、火災加熱を受けたときに多価アルコールを脱水し、チャーと呼ばれる薄膜を、発泡断面層の表面に形成する作用を有する。さらに、リン系難燃剤は、600℃以上の高温で加熱された際に、二酸化チタンと反応しピロリン酸チタニウムを生成する、ピロリン酸チタニウムは、灰化成分として発泡断熱層に残存することで発泡断熱層の形状保持性を向上させることができる。
【0039】
リン系難燃剤としては、特に限定されないが、例えば赤リン、リン酸エステル、リン酸金属塩、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸アミド及びポリリン酸アンモニウム類が挙げられる。リン酸エステルには、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェート等が含まれる。リン酸金属塩には、リン酸ナトリウム及びリン酸マグネシウム等が含まれる。ポリリン酸アンモニウム類には、ポリリン酸アンモニウム、及びメラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が含まれる。これらのうち、特に、発泡断熱層の十分な形成、発泡断熱層の形状保持性及び長期耐久性の観点から、リン系難燃剤は、ポリリン酸アンモニウム類を含むことが好ましい。リン系難燃剤は、上記からなる群の一種のみであってもよく、二種以上であってもよい。ポリリン酸アンモニウム類は、火災加熱を受けて分解温度に達すると、アンモニアを脱離して、リン酸及び縮合リン酸を生成する。このリン酸及び縮合リン酸が多価アルコールを脱水させ、炭化させると、チャーの形成につながる。また、ポリリン酸アンモニウム類が分解して発生するアンモニアガス、含窒素発泡剤が分解して発生するアンモニアガス及び窒素ガスなどは、樹脂層2の全体を膨張、発泡させることになる。アンモニアガス及び窒素ガスなどの不燃性ガスが発生することで、酸素濃度が減少し、更なる燃焼を抑えることができる。さらに、ポリリン酸アンモニウム類も、600℃以上の高温で加熱された際に分解して、二酸化チタンと反応し、ピロリン酸チタニウムを生成する。このピロリン酸チタニウムは、灰化成分として発泡断熱層に残存することで、発泡断熱層の形状保持性を向上させることができる。
【0040】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する、リン系難燃剤の含有量は、20質量部以上50質量部以下の範囲内であることが好ましい。リン系難燃剤の含有量が20質量部以上であることで、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2を効果的に炭化、発泡させることができる。さらに形成された発泡断熱層の形状保持性を確保することができる。一方、リン系難燃剤の含有量が50質量部以下であることで、高温多湿時の耐火性を確保することができる。熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する、リン系難燃剤の含有量は、30質量部以上50質量部以下であればより好ましい。
【0041】
≪多価アルコール≫
多価アルコールは、火災加熱を受けたときに、リン系難燃剤により脱水して炭化され、樹脂層2から発泡断熱層が形成されるのに寄与する。多価アルコールの分解温度は、180℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましい。多価アルコールとしては、例えばモノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスルトール、でんぷん及びセルロース等の多糖類、並びにグルコース及びフルクトース等の少糖類が挙げられる。多価アルコールは、上記の成分のうち、単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。特に、多価アルコールは、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスルトールからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。この場合、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2の発泡性が特に向上しうる。
【0042】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する多価アルコールの含有量は、5質量部以上25質量部以下の範囲内であることが好ましい。多価アルコールの含有量が5質量部以上であることで、樹脂層2から発泡断熱層を十分に形成することができる。さらに、発泡断熱層の形状保持性を確保することもできる。一方、多価アルコールの含有量が25質量部以下であると、高温多湿条件下であっても、熱膨張性耐火シート1の樹脂層2のガスバリア性を維持することができ、良好な耐火性を維持することができる。さらに、建築構造部分に対する熱膨張性耐火シート1の追随性を確保することもできる。
【0043】
ここで、多価アルコールに対する含窒素発泡剤の質量比が0.2以上4.0未満の範囲内であることが好ましい。これにより、高温多湿条件下及び凍結融解条件下でのガスバリア性を確保することができ、かつ火災時においては、耐火性と、建築構造部分に対する追随性を確保することができる。すなわち、この場合、熱膨張性耐火シート1は、耐火性及び追随性を確保したまま、形状保持性に優れた発泡断熱層を形成することができる。そのため、火炎により、樹脂層2から形成された発泡断熱層は建築構造部分から脱落しにくく、火炎による建築物の延焼、及び崩落を抑制することができる。なお、凍結融解条件とは、凍結融解を繰り返す条件を意味する。
【0044】
≪二酸化チタン≫
二酸化チタンは、600℃以上の高温で加熱された際に、リン系難燃剤と反応し、ピロリン酸チタニウムを生成する。ピロリン酸チタニウムは、灰化成分として発泡断熱層に残存することで、発泡断熱層の形状保持性を向上させることができる。
【0045】
二酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型であってもよく、ルチル型であってもよく、これに限定されない。二酸化チタンの平均粒径は、0.01μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましく、0.1μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。なお、平均粒径は、体積基準で求めた粒度分布の、全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(D50)を意味する、平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定して得られる。
【0046】
熱膨張性耐火樹脂組成物100質量部に対する二酸化チタンの含有量は、5質量部以上30質量部以下の範囲内であることが好ましい。二酸化チタンの含有量が、5質量部以上であることで、600℃以上の高温で加熱された際に、十分なピロリン酸チタニウムを生成させることができる。これにより、灰化成分としてのピロリン酸チタニウムが発泡断熱層に十分に残存するので、発泡断熱層の形状保持性を更に向上させることができる。一方、二酸化チタンの含有量が、30質量部以下であることで、発泡倍率の低下を抑制し、凍結融解時の耐火性及び建築構造部分に対する追随性を更に向上させることができる。
【0047】
≪樹脂層の形成方法≫
樹脂層2は、例えば次のようにして形成することができる。
【0048】
まず上述のビニル樹脂、含窒素発泡剤、リン系難燃剤、多価アルコール、及び二酸化チタンを適宜の混練装置で混練することにより、混合物を調製する。混練装置としては、特に限定されないが、加熱ロール、加圧式ニーダ、押出機、バンバリーミキサー、ニーダミキサー及び二本ロール等が挙げられる。混練温度は、熱膨張性耐火樹脂組成物が適度に溶融する温度であり、かつ、多価アルコールが分解しない温度であればよく、例えば80℃以上200℃以下の範囲内である。混練等によって調製した混合物を、熱プレス成形、押出成形、カレンダー成形等の成形方法によりシート状に成形することで、樹脂層2が形成される。このように、シート状に形成された樹脂層2は、熱膨張性耐火シート1の製造に用いることができる。
【0049】
(ガラス繊維紙)
図1Aに示すように、ガラス繊維紙3は、樹脂層2の両面に接着されている。本実施形態では、2枚のガラス繊維紙3の一方は、樹脂層2の一方の面の全面を被覆し、2枚のガラス繊維紙3の他方は、樹脂層2の他方の面の全面を被覆している。2枚のガラス繊維紙3は、樹脂層2を支持する役割を担う。
【0050】
ガラス繊維紙3は、シート状をなす不織布であり、ガラス繊維間がバインダー(結合剤)によって結合されたものである。ガラス繊維は、チョップドストランドと呼ばれる。ガラス繊維紙3の製造方法は、ウェブ製造工程と、ウェブ間結合工程と、を含む。ウェブ製造工程では、例えば、湿式法によりウェブを製造する。湿式法では、ガラス繊維紙3の目付量を調整しやすい。ウェブ間結合工程では、例えば、ケミカルボンド法によりウェブのガラス繊維間をバインダーによって結合する。このようにして、ガラス繊維紙3を製造することができる。なお、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、及び酢酸ビニル等が挙げられる。
【0051】
本実施形態では、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が、50N/50mm以上350N/50mm以下の範囲内である。これにより、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を向上させることができる。
【0052】
ここで、第1方向は、より厳密には、ガラス繊維紙3の厚み方向に垂直な方向である。すなわち、第1方向は、ガラス繊維紙3の面に沿う方向である。例えば、第1方向は、ガラス繊維紙3の縦方向(機械方向、流れ方向)である。
【0053】
一方、第2方向は、より厳密には、ガラス繊維紙3の厚み方向及び第1方向の両方に垂直な方向である。すなわち、第2方向は、ガラス繊維紙3の面に沿う方向であり、第1方向に直交する方向である。例えば、第2方向は、ガラス繊維紙3の横方向(幅方向)である。
【0054】
引張強度は、例えば、JIS L1913、及びISO 9073-3に準拠した引張試験により測定することができる。
【0055】
上述のように、本実施形態では、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が50N/50mm以上であることで、火災時等において、樹脂層2が必要以上に膨張しないようにすることができる。逆に言えば、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の少なくともいずれかの引張強度が50N/50mm未満であると、ガラス繊維がほどけやすい。特に熱膨張性耐火シート1を鉛直方向(上下方向)に設置したり、鉛直方向に対して傾斜させて設置すると、熱膨張性耐火シート1の自重により、ガラス繊維がほどけるなどして、垂れたり弛んだりするおそれがある。火災時等になると、樹脂層2が必要以上に膨張し得る。樹脂層2が膨張し過ぎると、この膨張によってガラス繊維紙3のガラス繊維が更にほどけやすくなる。ガラス繊維がほどけると、そのほどけた箇所を起点として、熱膨張性耐火シート1が裂けて分離し、厚みが薄くなることで耐火性が低下する。このように、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の少なくともいずれかの引張強度が50N/50mm未満であると、非火災時でも火災時でも、熱膨張性耐火シート1の形状保持性、及び長期保持性を向上させることが難しい。
【0056】
一方、本実施形態では、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が350N/50mm以下であることで、火災時等において、樹脂層2の発泡による膨張を阻害しないようにすることができる。逆に言えば、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の少なくともいずれかの引張強度が350N/50mmを超えると、ガラス繊維の絡み合いが強すぎて、火災時等において、樹脂層2の発泡による膨張が阻害されやすくなる。そのため、耐火性能を発揮し得る程度にまで樹脂層2の発泡倍率を上げることができなくなるおそれがある。このように、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の少なくともいずれかの引張強度が350N/50mmを超えると、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性を向上させることが難しい。
【0057】
好ましくは、ガラス繊維紙3の目付量は、20g/m2以上60g/m2以下の範囲内である。これにより、以下のようにして、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を更に向上させることができる。なお、目付量は、単位面積当たりの質量を表す。
【0058】
ガラス繊維紙3の目付量が20g/m2以上であることで、ガラス繊維紙3の引張強度を低くなり過ぎないようにすることができる。これにより、火災時等において、樹脂層2が必要以上に膨張しないようにすることができる。
【0059】
一方、ガラス繊維紙3の目付量が60g/m2以下であることで、ガラス繊維紙3の引張強度を高くなり過ぎないようにすることができる。火災時等において、樹脂層2の発泡による膨張を阻害しないようにすることができる。
【0060】
ガラス繊維紙3の厚さは、特に限定されないが、例えば0.2mm以上1mm以下の範囲内である。
【0061】
(ラミネートフィルム)
図1Aに示すように、ラミネートフィルム4は、ガラス繊維紙3に接着されている。本実施形態では、2枚のガラス繊維紙3の各々の表面全体にラミネートフィルム4が接着されている。好ましくは、ラミネートフィルム4は、防水防湿性を有する。
【0062】
ラミネートフィルム4は、ベースフィルム(基材)と、接着層と、を備える。ベースフィルムは、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルム、及びPP(ポリプロピレン)のフィルムである。接着層は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂系接着剤の層、及びPE(ポリエチレン)の層である。接着層は、ベースフィルムをガラス繊維紙3に接着する層である。
【0063】
熱膨張性耐火シート1がラミネートフィルム4を更に備えることで、樹脂層2の劣化を抑制することができる。例えば、ラミネートフィルム4が防水性を有する場合には、熱膨張性耐火シート1の外部から水分が樹脂層2へ浸入することをラミネートフィルム4で抑制することができる。これにより、水分による樹脂層2の劣化を抑制することができる。
【0064】
ラミネートフィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば10μm以上100μm以下の範囲内である。
【0065】
[熱膨張性耐火シートの製造方法]
本実施形態に係る熱膨張性耐火シート1は、特に限定されないが、例えば、連続プレス法及び平板プレス法により製造することができる。
【0066】
連続プレス法の場合には、シート状に形成した樹脂層2の両面にガラス繊維紙3を重ねて積層シートとし、加熱した一対のロール間に上記積層シートを通過させ、樹脂層2とガラス繊維紙3とを圧着して一体化することによって、熱膨張性耐火シート1を製造することができる。
【0067】
一方、平板プレス法の場合には、シート状に形成した樹脂層2の両面にガラス繊維紙3を重ねて積層シートとし、この積層シートを平板プレスにより加圧し、樹脂層2とガラス繊維紙3とを圧着して一体化することによって、熱膨張性耐火シート1を製造することができる。
【0068】
ラミネートフィルム4は、樹脂層2及びガラス繊維紙3と共に、連続プレス法及び平板プレス法などにより、圧着して一体化させることができる。ラミネートフィルム4は、先にガラス繊維紙3と一体化されていてもよい。
【0069】
この場合、熱膨張性耐火シート1は、樹脂層2と、樹脂層2の両面に接着された2枚のガラス繊維紙3とからなる3層構造のシートである。
【0070】
[熱膨張性耐火シートの使用例]
図1Bに本実施形態に係る熱膨張性耐火シート1の使用例を示す。熱膨張性耐火シート1は、タッカーの針6で建築構造部分の壁面5に固定される。壁面5は、鉛直方向に平行な面である。壁面5は、鉛直方向に平行な面に対して傾斜した面でもよい。なお、熱膨張性耐火シート1は、天井面に固定されてもよく、柱に巻き付けられて固定されてもよい。
【0071】
本実施形態では、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が50N/50mm以上であることで、ガラス繊維がほどけにくい。したがって、
図1Bに示すように、熱膨張性耐火シート1を鉛直方向に設置したり、鉛直方向に対して傾斜させて設置したりしても、熱膨張性耐火シート1は、垂れたり弛んだりしにくくなる。また火災時等においても、樹脂層2は必要以上に膨張しない。このように、本実施形態では、非火災時でも火災時でも、熱膨張性耐火シート1の形状保持性、及び長期保持性を向上させることができる。
【0072】
一方、本実施形態では、ガラス繊維紙3の第1方向及び第2方向の引張強度が350N/50mm以下であることで、ガラス繊維の絡み合いは強すぎないので、火災時等において、樹脂層2の発泡による膨張が阻害されにくい。そのため、耐火性能を発揮し得る程度にまで樹脂層2の発泡倍率を上げることができる。このように、本実施形態では、熱膨張性耐火シート1の耐火発泡性を向上させることができる。
【0073】
(3)態様
第1の態様は、熱膨張性耐火シート(1)であって、加熱発泡性を有する樹脂層(2)と、前記樹脂層(2)の両面に接着されたガラス繊維紙(3)と、を備える。前記ガラス繊維紙(3)の第1方向の引張強度、及び前記第1方向に直交する第2方向の引張強度が、50N/50mm以上350N/50mm以下の範囲内である。
【0074】
この態様によれば、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を向上させることができる。
【0075】
第2の態様は、第1の態様に基づく熱膨張性耐火シート(1)である。第2の態様では、前記ガラス繊維紙(3)の目付量が、20g/m2以上60g/m2以下の範囲内である。
【0076】
この態様によれば、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性を更に向上させることができる。
【0077】
第3の態様は、第1又は第2の態様に基づく熱膨張性耐火シート(1)である。第3の態様では、前記樹脂層(2)の発泡倍率が、8倍以上30倍以下の範囲内である。
【0078】
この態様によれば、耐火発泡性、及び形状保持性を更に向上させることができる。
【0079】
第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか一つに基づく熱膨張性耐火シート(1)である。第4の態様では、前記樹脂層(2)が、ビニル樹脂と、含窒素発泡剤と、リン系難燃剤と、多価アルコールと、二酸化チタンと、を含有する。
【0080】
この態様によれば、耐火発泡性を更に向上させることができる。
【0081】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか一つに基づく熱膨張性耐火シート(1)である。第5の態様では、前記ガラス繊維紙(3)に接着されたラミネートフィルム(4)を更に備える。
【0082】
この態様によれば、樹脂層(2)の劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0084】
(1)熱膨張性耐火シートの製造
まず、表1及び表2に示す含有量となるように、ビニル樹脂、含窒素発泡剤、リン系難燃剤、多価アルコール、及び二酸化チタンを、加熱ロールを用いて、130℃で混練することにより、熱膨張性耐火樹脂組成物を調製した。
【0085】
次に、上記の熱膨張性耐火樹脂組成物をシート状に形成して樹脂層(厚さ0.6mm)を得、この樹脂層に、表3に示すガラス繊維紙(オリベスト株式会社製、及び阿波製紙株式会社製)を、100℃に設定した加熱プレス機で積層することにより、熱膨張性耐火シートを得た。
【0086】
表1及び表2に示す各成分の詳細は、次のとおりである。
【0087】
・メタロセンプラストマー:C6系、MFR:8.0g/10min(住友化学株式会社製品名:エクセレンFX402)
・EVA樹脂:エチレン酢酸ビニル共重合体、MFR:30g/10min、密度960kg/m3、酢酸ビニル含有率33%(三井・ダウポリケミカル株式会社製品名:エバフレックスEV150)
・含窒素発泡剤:メラミン(日産化学株式会社製)
・リン系難燃剤:ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン株式会社製品名:AP422)
・多価アルコール:ペンタエリスリトール(広栄化学株式会社製品名:ジペンタリット)
・二酸化チタン:平均粒径0.24μm(ハンツマン株式会社製品名TR92)。
【0088】
(2)評価試験
(2.1)耐火発泡性
JIS A1304の標準加熱曲線に準拠して、ケイカル板にタッカーで固定した熱膨張性耐火シートを電気炉にて加熱し、発泡倍率を測定した。発泡倍率は、発泡前の樹脂層の厚さに対する発泡後の発泡断熱層の厚さの割合として求めた。
【0089】
A:発泡倍率が10倍以上
B:発泡倍率が5倍以上10倍未満
C:発泡倍率が1倍以上5倍未満。
【0090】
(2.2)形状保持性
JIS A1304に準拠した耐火試験を1時間行った後の熱膨張性耐火シートの燃焼残渣の状態を目視により観察した。
【0091】
A:燃焼残渣がケイカル板から脱落せず形状が保持される
B:燃焼残渣の一部がケイカル板から脱落又は形状崩壊
C:燃焼残渣の全てがケイカル板から脱落又は形状崩壊。
【0092】
(2.3)長期保持性
熱膨張性耐火シートをタッカーで壁面に固定し、(a)温度40℃、湿度90%の雰囲気に60日間放置した場合、及び(b)温度70℃の雰囲気に60日間放置した場合の熱膨張性耐火シートの自重による垂れの有無を観察した。
【0093】
A:(a)及び(b)のいずれの場合においても自重による垂れが生じない
B:(a)及び(b)の少なくとも一方の場合に自重による垂れが生じる。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表3に示すように、比較例1、2では、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性の少なくとも一つの特性について、満足な結果が得られなかった。比較例1では、ガラス繊維紙の横方向の引張強度が弱すぎるため、形状保持性、及び長期保持性が悪くなったと考えられる。比較例2では、ガラス繊維紙の縦方向の引張強度が強すぎるため、耐火発泡性が悪くなったと考えられる。
【0098】
これに対して、実施例1~5では、耐火発泡性、形状保持性、及び長期保持性の全てについて、満足な結果が得られた。なお、実施例5の形状保持性は、許容範囲内の結果である。
【符号の説明】
【0099】
1 熱膨張性耐火シート
2 樹脂層
3 ガラス繊維紙
4 ラミネートフィルム